【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ビニルアセタール基率が20モル%以上、ビニルエステル基率が30モル%以上であり、アルデヒド残渣が50ppm以下
であるポリビニルアセタール樹脂を製造する方法であって、ビニルエステル基率が30モル%以上であるビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を、温度100〜400℃、圧力0.5〜100MPaの高温高圧水中で、アルデヒドと反応させるポリビニルアセタール樹脂
の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、ビニルアセタール基率が20モル%以上である。ビニルアセタール基率が20モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂を用いると、衝撃強度や引張強度等の機械的強度に優れる樹脂膜を製造することができ、合わせガラス用中間膜等の幅広い用途に好適に用いることができる。本発明のポリビニルアセタール樹脂のビニルアセタール基率のより好ましい下限は25モル%である。本発明のポリビニルアセタール樹脂のビニルアセタール基率の上限は特に限定されないが、実質的には56モル%程度が上限である。
【0011】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、ビニルエステル基率が30モル%以上である。ビニルエステル基率が30モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が相対的に低くなる。このようなポリビニルアセタール樹脂を用いると、例えば、遮音性に特に優れた合わせガラス用中間膜を製造することができる。本発明のポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル基率のより好ましい下限は35モル%である。本発明のポリビニルアセタール樹脂のビニルエステル基率の上限は特に限定されないが、実質的には80モル%程度が上限である。
【0012】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。本発明のポリビニルアセタール樹脂の重合度が500未満であると、フィルムに成形した際の強度が低下することがあり、5000を超えると、熱溶融粘度が高くなりすぎて成形性が悪くなることがある。本発明のポリビニルアセタール樹脂の重合度のより好ましい下限は800、より好ましい上限は3000である。
【0013】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、アルデヒド残渣が50ppm以下である。アルデヒド残渣が50ppmを超えると、加熱等を行ったときに樹脂が劣化して着色してしまう。本発明のポリビニルアセタール樹脂は、アルデヒド残渣が30ppm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、触媒残渣が全くない。触媒残渣があると、加熱等を行ったときに樹脂が劣化して着色してしまうことがある。
【0015】
本発明のポリビニルアセタール樹脂は、炭素数が4のn−ブチルアルデヒドを用いてブチラール化されたポリビニルブチラール樹脂であることが好ましい。ポリビニルブチラール樹脂を用いると、例えば、遮音性に特に優れた合わせガラス用中間膜を製造することができる。
【0016】
従来のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率を両立し、かつ、アルデヒドや触媒が残存しない本発明のポリビニルアセタール樹脂を製造することはできなかった。
これに対して本発明者は、鋭意検討の結果、ビニルエステル基率が30モル%以上であるビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を、温度100〜400℃、圧力0.5〜100MPaの高温高圧水中で、アルデヒドと反応させる方法により、本発明のポリビニルアセタール樹脂を製造できることを見出した。
このような本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0017】
高ビニルエステル基率を有するビニルエステル−ビニルアルコール共重合体をアルデヒドと反応させてアセタール化しようとしても、ビニルエステル基の水との親和性が悪いことから溶媒である水への溶解性が低下し、アセタール化反応の進行が妨げられる。ビニルエステル基率が30%以上になると、ほとんどアセタール化は進行しないというのが技術常識であった。しかし、本発明者は、鋭意検討の結果、高ビニルエステル基率を有するビニルエステル−ビニルアルコール共重合体とアルデヒドとを、耐圧性の反応容器内で高温高圧水と接触させることにより、本来水に溶解せずアセタール化が不可能である高ビニルエステル基率を有するビニルエステル−ビニルアルコール共重合体であってもアセタール化反応を進行できることを見出した。これは、加熱、加圧することにより、水の樹脂溶解性が向上し、構造内部にまでアルデヒドが浸入できるようになることから、常温、常圧では不可能な反応を起こすことができるためと考えられる。
【0018】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、原料としてビニルエステル基率が30モル%以上であるビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を用いる(以下、これを「原料ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体」ともいう)。
上記原料ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体は、ポリビニルエステルを塩基性触媒にてケン化又はアルコールとエステル交換反応させる従来公知の方法により製造することができる。ケン化又はエステル交換でのビニルアルコール基の生成率を低くすることで、30モル%以上の高ビニルエステル基率の原料ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体を得ることができる。なかでも、樹脂の性質、重合や加水分解反応の容易さから、ポリ酢酸ビニルから得られる酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体を原料ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体として用いることが好ましい。
【0019】
上記ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体の重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。上記ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体の重合度が500未満であると、最終合成品のポリビニルアセタール樹脂をフィルムに成形した際の強度が低下することがあり、5000を超えると、最終合成品のポリビニルアセタール樹脂の熱溶融粘度が高くなりすぎて成形性が悪くなることがある。上記ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体の重合度のより好ましい下限は800、より好ましい上限は3000である。
【0020】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、上記原料ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体をアルデヒドと反応させる。
上記アルデヒドは特に限定されず、例えば、炭素数1〜19の直鎖状、分枝状、環状飽和、環状不飽和、又は、芳香族のアルデヒドが挙げられる。具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。また、上記アルデヒドは、例えば、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。上記アルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
上記原料ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体に対する上記アルデヒドの配合量は特に限定されないが、原料ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体に対して理論反応量の等倍以上、10倍以下のアルデヒドを配合することが好ましい。アルデヒドの配合量が等倍未満であると、アセタール化反応が進まず、得られるポリビニルアセタール樹脂のビニルアセタール基率が低くなることがあり、10倍を超えて配合しても、それ以上はアセタール化度の向上に寄与せずコストアップにつながるおそれがある。また、アルデヒドの配合量が多すぎると、得られるポリビニルアセタール樹脂に匂いが残ったり、樹脂の着色の原因となったりすることがある。上記アルデヒドの配合量のより好ましい上限は5倍、更に好ましい上限は1.5倍である。
【0022】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、上記ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体とアルデヒドとを耐圧性の反応容器内で高温高圧水と接触させる。上記接触させる方法としては特に限定されないが、例えば、攪拌機付きの耐圧容器に原料ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体、アルデヒド及び水を投入しヒーターにて加熱し、必要であれば液送ポンプにて水を投入し加圧する方法が好適である。
【0023】
上記高温高圧水は、カルボン酸を含有することが好ましい。カルボン酸を含有することにより、高温高圧水の酸性度が高くなり、アセタール化反応速度を速めることができる。
上記カルボン酸としては特に限定されず、例えば、酢酸、酪酸等が挙げられる。
【0024】
上記高温高圧水は、更に、窒素、酸素、窒素酸化物、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、水、アルコール及び空気からなる群より選択される少なくとも1種を含有してもよい。この場合、原料ポリビニルアセタール樹脂とカルボン酸又はカルボン酸無水物とを投入した攪拌機付きの耐圧容器に、ポンプ等を用いて二酸化炭素等を投入して加圧することが考えられる。
【0025】
上記高温高圧水の圧力の下限は0.5MPaである。上記高温高圧流体の圧力が0.5MPa未満であると、エステル化反応が進みにくく、高ビニルアセタール基率を有するポリビニルアセタール樹脂が得られない。上記高温高圧水の圧力の好ましい下限は1.0MPa、より好ましい下限は10MPa以上である。
【0026】
上記高温高圧水の温度の下限は100℃、上限は400℃である。上記高温高圧流体の温度が100℃未満であると、高ビニルエステル基率の原料ビニルエステル−ビニルアルコール共重合体の水への溶解性が不充分となり、反応が充分に進まず、高ビニルアセタール基率を有するポリビニルアセタール樹脂を得られず、400℃を超えると、ポリビニルアセタール樹脂の主鎖の切断が起こる等、樹脂が劣化して着色したりすることがある。上記高温高圧流体の温度の好ましい上限は300℃、より好ましい上限は250℃である。
【0027】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法によれば、触媒を用いた反応を行うことなく高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率とを達成できることから、得られた樹脂に触媒が残存することもない。また、アセタール化反応時に過剰なアルデヒドを用いなくとも高ビニルエステル基率と高ビニルアセタール基率とを達成できることから、容易に樹脂中のアルデヒド残渣を低減することができる。