(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1〜
図16を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の実施形態に係る軸受の潤滑構造を備える電動機枠体及びシャフトの断面図である。
シャフト1は、図示しないギア、車軸を介して主電動機の動力を車輪に伝える部材である。電動機枠体2は、主電動機の固定子を固定し支持するとともにこの主電動機の回転子を回転自在に支持する枠体(ハウジング)であり、フレーム3と、ブラケット4・5と、給脂栓6・7と、カラー8〜11と、軸受12・13と軸受蓋(端蓋)14〜17などを備えている。
【0012】
フレーム3は、電動機の固定子を固定し支持する部材であり、両端部にフランジ部3a、3bが形成されている、ブラケット4は、フレーム3と軸受蓋16とを連結する部材であり、フランジ部3aと接合するフランジ部4aと、作動用グリースG
Hを充填するときにこの作動用グリースG
H が流入する流路4bなどを備えている。ブラケット5は、フレーム3と軸受蓋17とを連結する部材であり、フランジ部3bと接合するフランジ部5aなどを備えている。給脂栓6・7は、流路4b、17dの流入口にそれぞれねじ込まれてこれらの流入口を開閉自在に塞ぐ部材であり、給脂栓6・7にはこれらの流入口の内側に形成された雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部が形成されている。カラー8〜11は、シャフト1の両端部に嵌め込まれた円環状の部材である。軸受12・13は、シャフト1を回転自在に支持する転がり軸受であり、軸受12は玉軸受であり、軸受13はころ軸受である。
軸受12・13は、転動体12a・13aと、この転動体12a・13aを等間隔に保持する保持器12b・13bと、この保持器12b・13bの外側で回転する外輪12c・13cと、この保持器12b・13bの内側で回転する内輪12d・13dなどを備えている。軸受12・13は、内部にグリースGが過剰に詰め込まれると、このグリースGの撹拌熱によって発熱するため、初期状態時には一般に空間容積の1/3程度のグリースGが詰め込まれている。
【0013】
図2は、この発明の実施形態に係る軸受の潤滑構造を備える軸受蓋の平面図であり、
図2(A)は
図1のIIA方向から見た平面図であり、
図2(B)は
図1のIIB方向から見た平面図であり、
図2(C)は
図1のIIC方向から見た平面図であり、
図2(D)は
図1のIID方向から見た平面図である。
図3は、この発明の実施形態に係る軸受の潤滑構造を備える軸受蓋の外観図であり、
図3(A)は平面図であり、
図3(B)(C)は
図3(A)のIII−IIIB線で切断した状態を示す断面図である。
図4は、
図3(B)(C)のIV部分を拡大して示す断面図であり、
図4(A)は初期状態の断面図であり、
図4(B)は入替給脂後の断面図である。
図5及び
図6は、
図4のV部分を拡大して示す断面図であり、(A)は初期状態の断面図であり、(B)は入替給脂後の断面図である。
図7は、
図3(A)のVI−VI線で切断した状態を示す断面図である。
図8は、
図1のVII−VII線で切断した状態を示す断面図である。
図9は潤滑構造の作動流体の流路を模式的に示す斜視図である。
【0014】
図1に示す軸受蓋14・16は、軸受12を固定する部材であり、軸受蓋15・17は軸受13を固定する部材である。軸受蓋14・15は、アルミニウムまたは鉄などからなる鋳造品や機械加工部品であり、軸受蓋14・15は電動機枠体2の外側に、軸受蓋16・17は電動機枠体2の内側に装着されている。軸受蓋14は、軸受蓋16との間で軸受12を挟み込むようにボルトによって軸受蓋16に固定されており、軸受蓋15は軸受13を挟み込むようにボルトによって軸受蓋17に固定されている。軸受蓋14〜17は、共通構造の潤滑構造18を備えている。軸受蓋14・15は、
図2(A)(D)に示すようにいずれも略同一構造であり、軸受蓋16・17は
図2(B)(C)に示すように、いずれも略同一構造である。軸受蓋14は、
図1及び
図3(B)(C)に示す充填室14aと、
図2(A)及び
図3(A)に示す押さえ部14dと、貫通孔14e・14fと、
図4に示す壁部14gと、逃げ部14hなどを備えている。以下では、軸受蓋14・16側について説明し、軸受蓋15・17側の部分については軸受蓋14・16側の部分と対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0015】
図3(B)(C)に示す充填室14aは、軸受12を潤滑するためのグリースGが充填された部分であり、環状充填室14bと外側充填室14cなどを有する。充填室14aは、
図3(B)(C)に示すように、軸受蓋14の径方向で切断したときの断面形状が四角形に形成されている。
【0016】
環状充填室14bは、軸受12を潤滑するためのグリースGを充填する部分である。環状充填室14bは、
図1に示す外輪12cと内輪12dとの間の間隙部(軸受開ロ部)に沿って形成されており、
図2(A)及び
図3(A)に示すように充填室14 a のうち貫通孔14eを囲むように円環状に形成された凹状の溝部分である。環状充填室14bは、
図4に示すように、劣化後のグリース(使用後のグリース)Goと未劣化のグリース(未使用のグリース)G
N とを入れ替え可能なピストン方式のグリース充填室である。環状充填室14bは、
図3(B)(C)に示すように、軸受12の端面側に開ロ部を有する。
外側充填室14cは、
図3(A)に示すように、環状充填室14bに沿ってこの環状充填室14bの外側に拡大して形成されており、この環状充填室14bの一部と結合するU状の溝である。外側充填室14cは、
図3(B)(C)に示すように、環状充填室14bと同様に軸受12の端面側に開口部を有する。
図2(A)及び
図3(A)に示す押さえ部14dは、外輪12cの端面を抑える部分であり、環状充填室14bの周方向に沿ってこの環状充填室14bの外周部に間隔をあけて4つ形成されている。
図2(A)及び
図3(A)に示す貫通孔14eは、
図1に示すカラー8を挿入する挿入孔であり、貫通孔14fは軸受蓋14を軸受蓋16に固定するためのボルトを挿入する挿入孔である。
図4に示す壁部14gは、環状充填室14bと外側充填室14cとを区画するとともに、可動部19を移動自在にガイドする。逃げ部14hは、壁部14gと補強部19gとが干渉するのを防止する部分であり、壁部14gの端部を切り欠くように、延長部19eとが対応して2つ形成されている。
なお、
図2(D)に示される軸受蓋15も、軸受蓋14と同じ構成要素であり、充填室14a〜14c、押さえ部14d、貫通孔14e・14fと同様の充填室15a〜15c、押さえ部15d、貫通孔15e・15fを備えている。
【0017】
軸受蓋16は、
図2(B)に示す環状充填室16aと、押さえ部16bと、貫通孔16cと、給脂口16dと、流路16fなどを備えている。環状充填室16aは、軸受12を潤滑するためのグリースGを充填する部分である。環状充填室16aは、外輪12cと内輪12dとの間の間隙部に沿って形成されており、貫通孔16cを囲むように円環状に形成された凹部である。
図2(B)に示す押さえ部16bは、軸受12の外輪12cの端面を抑える部分であり、貫通孔16cは、
図1に示すカラー9を挿入する挿入孔である。流路16fは、作動用グリースG
Hを充填するときにこの作動用グリースG
Hが流入する部分であり、一方の端部(上流側)がブラケット4の流路4bと接続し、他方の端部(下流側)が流路22に接続している。
【0018】
図1に示す潤滑構造18は、グリースGによって軸受12・13を潤滑する構造である。潤滑構造18は、環状充填室14b・15b内に封入されたグリースGを軸受12・13に供給してこの軸受12・13を潤滑するとともに、
図4に示すように環状充填室14b・15b内の劣化後のグリースGoを未劣化のグリースG
N と入れ替えてこの未劣化のグリースG
N によって潤滑する。潤滑構造18は、
図4に示す可動部19と、排出部20と、流体圧シリンダ部21と、
図8及び
図9に示す流路22などを備えている。
【0019】
前記流体圧シリンダ部21は、
図4〜
図6の(B)に示すように、流路22を通じて供給された作動用グリースG
Hの圧力によって前方(矢印(イ)方向)へ押し出された状態において、該押し出されたピストン部21cがなす円柱の重心(符号Oで示す)が、該シリンダ部21b内または該シリンダ部21bの入り口部21b1付近に位置するように全体の重量が設定されていることを特徴としている。
【0020】
また、前記ピストン部21cは、
図4〜
図6の(A)(B)に示すように、シリンダ部21bから前方(矢印(イ)方向)側に押し出された状態において、該押し出されたピストン部21cがなす円柱の重心Oが、後方(矢印(ロ)方向)側へ変位した形状である。
【0021】
そして、このような流体圧シリンダ部21の構成により、流路22を通じて供給された作動用グリースG
Hの流体圧力によって、ピストン部21cが、前方(矢印(イ)方向)側へ移動しかつシリンダ部21bから押し出された場合、該押し出されたピストン部21cがなす円柱の重心Oが、該シリンダ部21b内または該シリンダ部21bの入り口部21b1付近に位置し、かつ後方(矢印(ロ)方向)側にあるので、押し出されたピストン部21cをシリンダ部21bが安定して保持することができる。これによって、ピストン部21cの先端部が振れて、シリンダ部21bの入り口部21b1とピストン部21cの周面とが当たることによる摩耗発生を確実に防止することができ、軸受12・13に対する安定したグリースGの交換を行うことができる。
【0022】
図4〜
図7に示す可動部19は、グリースGが充填される充填室14a内で移動する部分である。可動部19は、充填室14a内で移動することによって、軸受12に近い側の劣化後のグリースGoをこの軸受12から離し、軸受12から遠い側の未劣化のグリースG
Hをこの軸受12に近づけて、劣化後のグリースGoと未劣化のグリースG
N とを充填室14a内で入れ替える。可動部19は、この可動部19の中心軸が軸受12の中心軸と同一である円環状の部材である。可動部19は、
図4(A)及び
図7(A)に示す初期状態では軸受12に近い側と遠い側との2つの領域に環状充填室14bを区画し、
図4(B)及び
図7(B)(C)に示す入替給脂時には環状充填室14h内で移動する仕切板である。可動部19は、
図4に示すように、環状充填室14bの外側内周面と内側内周面との間に嵌め込まれており、これらによって移動自在にガイドされている。可動部19は、
図4(A)及び
図7(A)に示す初期状態では、劣化後のグリースGoを収容する領域と、未劣化のグリースG
N を収容する領域とに環状充填室14bを区画している。可動部19は、例えば、耐熱性及び耐油性を有するポリアミド系樹脂、繊維強化プラスチックなどの合成樹脂製または金属製の材料によって円環状に形成されており、この可動部19を径方向で切断したときの断面形状が凹状の溝付き可動部である。可動部19は、
図4(B)及び
図7(B)(C)に示すように、軸受12から離れる方向に移動することによって、軸受12側とは反対側の表面(背面)によって未劣化のグリースG
H を加圧して、保持部19aの先端面と軸受12の端部との間に未劣化のグリースG
H を押し出し入替給脂する。可動部19は、
図4及び
図7に示す保持部19aと、
図3に示す通路部19bと、
図4及び
図7に示すガイド部19c・19dと、
図4に示す延長部19eと、
図4〜
図6に示す可動部作用部19fと、
図4に示す補強部19gなどを備えている。
【0023】
図4及び
図7に示す保持部19aは、劣化後のグリースGoを保持する部分である。保持部19aは、ガイド部19cの内周面とガイド部19dの外周面との間に劣化後のグリースGoを挟み込むように保持しており、
図4(B)及び
図7(B)(C)に示すようにこの劣化後のグリースGoを保持した状態で軸受12から離れる方向に移動する。保持部19aは、軸受12側に開口部を有し、可動部19を径方向で切断したときの断面形状が略U字状に形成されている。
【0024】
図3に示す通路部19bは、外側充填室14cと環状充填室14bとを接続する部分である。通路部19bは、外側充填室14cから環状充填室14bにグリースGまたはグリースGから滲み出た潤滑油が移動可能なように、このグリースGまたはこの潤滑油を通過させる。通路部19bは、
図3(A)に示すように、ガイド部20bの周方向に外側充填室14cと対応して4箇所に形成されており、
図3(B)(C)に示すようにガイド部20bの端部に形成された切欠部である。
【0025】
図4に示すガイド部19c、19dは、可動部19を移動自在にガイドする部分である。ガイド部19cは、環状充填室14bの外側内周部と壁部14gの内周部とに移動自在にガイドされており、ガイド部19dは、環状充填室14bの内側内周部に移動自在にガイドされている。ガイド部19c・19dは、可動部19が環状充填室14b内を移動するように、この軸受蓋14の中心軸を中心とする円筒面状のガイド面である。ガイド部19c・19dは、可動部19が環状充填室14b内を移動するときに、この可動部19の傾斜を防止する。ガイド部19cは、環状充填室14bの外側内周面と常に面接触するように形成されており、ガイド部19dは環状充填室14bの内側内周面と常に面接触するようにガイド部19cと同じ長さで形成されている。ガイド部19cの外周面は、環状充填室14bの外側内周面と密着するようにこの環状充填室14bの外周面に嵌合しており、ガイド部19dの内周面は環状充填室14bの外側内周面と密着するようにこの環状充填室14bの外周面に嵌合している。
【0026】
延長部19eは、可動部19の外周部から外側に延びる部分である。延長部19 eの厚さは、外側充填室14c内のグリース量が低下しないように、延長部19の強度を確保可能な範囲内で可能な限り薄くすることが好ましい。延長部19eは、例えば、
図3(A)に示すように、充填室14aの周方向に等間隔(可動部19の中心軸に対して点対称)に2つ配置されており、外側充填室14c内に伸びている。延長部19eは、
図4に示すように、壁部14gと可能な限り干渉しないように.保持部19aの軸受12寄り(保持部19aの略U宇状の開口部付近)の外周部に接続されている。
【0027】
図4に示す補強部19gは、保持部19aと延長部19eとの接続部を補強する部分である。補強部19gは、保持部19aの外側外周部と延長部19eの基部との接続部を補強するリブなどであり、流体圧シリンダ部21が延長部19eを駆動するときに延長部19eが撓まないように延長部19eの基部に剛性を付与している。補強部19gは、
図4(A)に示すように、壁部14gの端部と対向して形成されており、
図4(B)に示すように環状充填室14bの底部に可動部19が移動したときに逃げ部14hと接触する。
【0028】
図4及び
図7に示す排出部20は、可動部19が軸受12から離れる方向に移動したときに、未劣化のグリースG
N を軸受12に向かって排出する部分であり、可動部19と環状充填室14bとの間で加圧された未劣化のグリースG
N を排出する。排出部20は、
図7(B)に示すように、未劣化のグリースG
N が流れる流路であり、劣化後のグリースGoと軸受12との間に未劣化のグリースG
N を排出する。排出部20は、軸受12から離れる方向に可動部19が移動したときに、可動部19の背面と環状充填室14bの底面との間で加圧された未劣化のグリースG
N を軸受12に向かって二点鎖線で示すように排出する。排出部20は、
図3(A)に示すように、可動部19の内周部に配置されており、
図7(B)に示すように軸受12の内輪12dと保持器12bとの間の間隙部S
11に向かって未劣化のグリースG
N を排出する。排出部20は、例えば、
図3(A)に示すように、可動部19の内周側に円環状に配置されている。排出部20は、
図4及び
図7に示すように、流入ロ20aと、ガイド部20bと、排出口20cなどを備えている。
【0029】
図4〜
図6に示す流体圧シリンダ部21は、作動用グリースG
Hの流体圧によって駆動力を発生し、可動部19にこの駆動力を伝達してこの可動部19を駆動する部分である。流体圧シリンダ部21は、この流体圧シリンダ部21から充填室14aに作動用グリースG
Hが漏出するのを防止するとともに、充填室14aから流体圧シリンダ部21にグリースGが漏出するのを防止するために、
図4に示すように充填室14a外で駆動力を発生しこの充填室14a外から可動部19にこの駆動力を伝達する。流体圧シリンダ部21は、
図4〜
図6に示すシリンダ本体部21aと、シリンダ室21bと、ピストン部21cと、受圧部21dなどを備えている。
【0030】
流体圧シリンダ部21は、ピストン部21cを通じて可動部19に駆動力を伝達しており、延長部19eを駆動することによって可動部19を駆動する。流体圧シリンダ部21は、
図4に示すように、充填室14aの外側にこの充填室14aと分離して配置されている。
図9に示すように可動部19に駆動力が複数箇所で作用するように複数配置されており、流体圧シリンダ部21は、
図8及び
図9に示すように、流路16fと流路22との接続部からそれぞれの流体圧シリンダ部21までの距離が等しくなるように配置されており、可動部19に駆動力が2箇所で均等に作用するように可動部19を駆動する。流体圧シリンダ部21は、入替給脂時に軸受蓋14の中心軸に対して可動部19の中心軸が傾くのを防止するために、可動部19の周方向に等間隔に駆動力が作用するようにこの可動部19を駆動する。流体圧シリンダ部21は、この流体圧シリンダ部21の設置個数が偶数であるときには、可動部19の中心軸に対して点対称の複数箇所でこの可動部19に駆動力が作用するようにこの可動部19を駆動する。流体圧シリンダ部21は、充填室14a内のグリースGと同一種類の作動用グリースG
Hの流体圧によって可動部19を駆動する。流体圧シリンダ部21は、例えば、
図9に示すように、一方のピストン部21cの受圧部21dと他方のピストン部21cの受圧部21dとがこのピストン部21cの軸方向において略同一位置になるように、シリンダ本体部21aの中心軸に対して点対称に二つのピストン部21cを配置している。
【0031】
また、前記ピストン部21cの後方(矢印(ロ)方向)側に位置するシリンダ室21b内には、該ピストン部21cの後方(矢印(ロ)方向)側の移動を規制する規制部材23が設けられている。この規制部材23は、ピストン部21cの後方(矢印(ロ)方向)側への移動を規制するとともに、該ピストン部21cとシリンダ室21bとの間に一定の間隔を形成して、作動用グリースG
Hの流体圧を、該ピストン部21cの後方(矢印(ロ)方向)側の端面に至らせる役目をする。
また、作動用グリースG
Hの流体圧により、ピストン部21cが前方(矢印(イ)方向)側に移動した場合には、該ピストン部21cがシリンダ室21bの先端部から押し出されることになるが、このとき、ピストン部21cが前方側へ突き出している長さ(
図6(B)に符号lで示す)は、該ピストン部21cがなす円柱の全長(
図6(A)に符号Lで示す)の2分の1以下となるように設定されている。これにより、押し出されたピストン部21cがなす円柱の重心を、該シリンダ室21b内に位置させることができる。
【0032】
図4〜
図6に示すシリンダ本体部21aは、流体圧シリンダ部21の本体を構成する部分である。シリンダ本体部21aは、例えば、耐熱性及び耐油性を有するポリアミド系樹脂、繊維強化プラスチックなどの合成樹脂製または金属製の材料によって円環状に形成されている。シリンダ本体部21aは、
図4に示すように、軸受12の外輪12cと嵌合しこの軸受12を収容する貫通孔21fなどを備えている。シリンダ本体部21aは、
図4に示すように、軸受12の厚さと略同一の厚さに形成されており、
図1に示すようにシリンダ本体部21aの両端面は軸受蓋14の端面と軸受蓋16の端面との間に挟み込まれており、シリンダ本体部21aの外周面は軸受蓋16の内周面に嵌合している。
【0033】
図4〜
図6に示すシリンダ室21bは、ピストン部21cを移動自在に収容する部分である。シリンダ室21bは、
図8に示すように、シリンダ本体部21aの中心軸に対して点対称に配置されており、
図4〜
図6に示すようにシリンダ本体部21aの軸受12側の端面に所定の深さで形成された凹部である。シリンダ室21bは、ピストン部21cの受圧部21dとの間の空間(ヘッド側室)に作動用グリースG
Hが流入する流体圧作用室を形成している。
【0034】
ピストン部21cは、作動用グリースG
Hの流体圧を受けてシリンダ室21b内で移動する部材である。ピストン部21cは、シリンダ室21b内を移動するときに、このピストン部21cの可動範囲内でシリンダ室21bの内周面と常に面接触するように所定の長さで形成されている。ピストン部21cの外周面は、シリンダ室21bの内側面とスライド自在に密着しており、シリンダ室21bから充填室14aに作動用グリースG
Hが漏出するのを防止するとともに、充填室14aからシリンダ室21bにグリースGが漏出するのを防止する。ピストン部21cは、このピストン部21cの外周面とシリンダ室21bの内周面との間が広範囲で密封されるように、通常のシリンダ機構のピストンロッドに相当する部分の外径がピストン部21cの外径と同じになるように、ピストンロッドと一体に形成されている。
【0035】
受圧部21dは、作動用グリースG
H の流体圧を受ける部分である。受圧部21dは、作動用グリースG
H の流体圧が作用したときに、ピストン部21cが前進するように、ピストン部21cの後端部(底部)に形成されている。
【0036】
図5の符号21eは、ピストン部21cの先端部であり、作動用グリースG
H の流体圧が受圧部21dに作用するとこの延長部19eを押圧して可動部19を移動させる。
【0037】
図8及び
図9に示す流路22は、流体圧シリンダ部21に外部から作動用グリースG
H を供給する部分である。流路22は、
図8に示すように、シリンダ本体部21aの外周面に周方向に沿って形成されて開ロ部が軸受蓋16の内周面によって塞がれる円弧状の溝と、この溝の下流側からシリンダ室21bまで形成された直線状の貫通孔とを備えている。
流路22は、
図1及び
図9に示すように、一方の端部(上流側)が軸受蓋16の流路16fと接続し、
図8及び
図9に示すように他方の端部(下流側)が流体圧シリンダ部21と接続しており、この流体圧シリンダ部21のシリンダ室21bに開口している。流路22は、2つの流体圧シリンダ部21の受圧部21dに作動用グリースG
H の流体圧が均等に作用するように、流路16fと流路22との接続部から2つの流体圧シリンダ部21の受圧部21dまでの距離が等しく、かつ、2つの流体圧シリンダ部21に流入する作動用グリースG
H の流量が等しくなるように形成されている。
なお、上述した構成において、給脂栓6・7、流路4b、流路16f、流路17d、流路22によって、供給機構40が構成される。
【0038】
次に、この発明の実施形態に係る軸受の潤滑構造の作用を説明する。
図2(A)に示すように、初期状態では環状充填室14bにはグリースGが隙間なく充填されている。また、
図4(A)及び
図7(A)に示すように、可動部19と軸受12との間、環状充填室14bと可動部19との間及び外側充填室14cにもグリースGが充填されている。
図4〜
図6に示す流体圧シリンダ部21及び
図1に示す流路4b・16f・17d・22に空気が封入されていると、入替給脂時(メンテナンス時)に作動用グリースG
H の移動が阻害されるおそれがある。このため、
図4(A)及び
図7(A)に示すように、初期状態では流体圧シリンダ部21は作動用グリースG
H が隙間なく充填されており、この流体圧シリンダ部21から
図1に示す給脂栓6・7の先端部までの流路4b・16f・17d・22内にも作動用グリースG
Hが隙間なく充填されている。この状態で軸受12が回転すると、軸受12の端面付近のグリースGが徐々に劣化して、
図4(A)及び
図7(A)に示すように軸受12の端面付近のグリースGに摩耗粉などが混入する。
図4(B)及び
図7(B)に示すように、入替給脂時には、軸受12から離れる方向に可動部19が移動するように、
図1に示す給脂栓6を取り外し流入口から流路4bに作動用グリースG
Hを注入する。その結果、流路4b・16f・22を作動用グリースG
Hが通過して、
図4〜
図6の(A)に示すように流体圧シリンダ部21に作動用グリースG
Hが流入する。
【0039】
流体圧シリンダ部21に作動用グリースG
H が流入すると、作動用グリースG
H の注入量が増加するに従ってシリンダ室21b内の内圧が上昇し、ピストン部21cの受圧部21dに加わる流体圧も上昇する。このため、シリンダ室21b内をピストン部21cが前方(矢印(イ)方向)側に移動を開始すると、ピストン部21cが延長部19eを押圧して駆動力を伝達し、軸受12から離れる方向に可動部19が移動を開始する。
ここで、作動用グリースG
Hの圧力によって、ピストン部21cが前方(矢印(イ)方向)側に移動して、シリンダ部21bの入り口部21b1から押し出された状態において、該押し出されたピストン部21cがなす円柱の重心Oが、該シリンダ部21b内または該シリンダ部21bの入り口部21b1付近に位置しかつ後方(矢印(ロ)方向)側にあるので、前方に押し出されたピストン部21cをシリンダ部21bが安定して保持することができる。
【0040】
そして、上述したように、ピストン部21cが前方(矢印(イ)方向)側に移動すると、劣化後のグリースGoが保持部19aに保持された状態で可動部19とともに移動し、可動部19の底部と環状充填室14bの底部との間の末劣化のグリースG
N が押圧される。このため、
図7(B)の二点鎖線で示すように、未劣化のグリースG
N が流入口20aからガイド部20bによって案内されながら排出口20cから噴き出し、保持部19aの先端面と軸受12の前面との間にこの未劣化のグリースG
N が徐々に充填される。
図4(B)及び
図7(C)に示すように、環状充填室14bの底部と接触するまで可動部19が移動すると、劣化後のグリースGoと軸受12との間に未劣化のグリースG
N が完全に入替給脂されて、この未劣化のグリースG
N によって軸受12が新たに潤滑される。軸受蓋15側の環状充填室15bにも同様の方法によって入替給脂される。
【0041】
以上詳細に説明したように本実施形態に係る軸受の潤滑構造では.流路22を通じて供給された作動用グリースG
Hの圧力によって前方(矢印(イ)方向)側へ押し出されるピストン部21cを、シリンダ部21bから押し出された状態において、該押し出されたピストン部21cがなす円柱の重心Oが、該シリンダ部21b内または該シリンダ部21bの入り口部21b1付近に位置しかつ後方(矢印(ロ)方向)側にあるので、前方に押し出されたピストン部21cをシリンダ部21bが安定して保持することができる。これによって、ピストン部21cの先端部が振れて、シリンダ部21bの入り口部21b1とピストン部21cの周面とが当たることによる摩耗発生を確実に防止することができ、軸受12・13に対する安定したグリースGの交換が可能となる効果を奏する。
【0042】
なお、上記実施形態は以下のように変形させても良い。
(変形例1)
上記実施形態ではピストン部21cの径は一様であるが、
図10にあるように、流体圧シリンダ部21のピストン部21cが、前方(矢印(イ)方向)側に、シリンダ部21bの内径に対応する大径部21c1が配置され、かつ後方(矢印(ロ)方向)側に、外径が小さい小径部21c2が配置され、これら大径部21c1と小径部21c2とが一体化された構成でもよい。
すなわち、前記流体圧シリンダ部21では、
図10に示すように、流体圧シリンダ部21のシリンダ部21bへ引き込まれた状態において、シリンダ部21bへ作動用グリースG
Hを供給する流路22の開口部22aより所定長さ前方(矢印(イ)方向)側の位置に、ピストン部21cの大径部21c1の基端が配置されている。
さらに、
図10(B)に示すように、ピストンの小径部21c2に対応するシリンダ部21bの内径を小さくし、ピストン部21cの大径部21c1の基端と接触することにより、ピストン部21cの初期位置を決定できる構造としてもよい。
【0043】
(変形例2)
また、上記実施形態では、流体圧シリンダ部21のピストン部21cを、大径部21c1と小径部21c2とを一体に連結することで構成したが、このとき、
図11及び
図12に示すように、流体圧シリンダ部21のピストン部21c全体を同一径の円柱状に形成し、該ピストン部21cの前方(矢印(イ)方向)側に位置する端面に、空間部をなす中空部51を形成しても良い。
このような中空部51は、ピストン部21cの重心Oを後方(矢印(ロ)方向)側へ変位させる役割があるもので、流路22を通じて供給された作動用グリースG
Hの圧力によって、ピストン部21cが前方(矢印(イ)方向)へ押し出された場合に、ピストン部21cの先端部が振れて、シリンダ部21bの入り口部21b1とピストン部21cの周面とが当たることによる摩耗を防止することができる。
【0044】
また、
図12で示す中空部51では、中ほどに段部51Aを介することで、中空部51の内径を2段階としたものであって、段部51Aを介して複数の種の径を設けることで、ピストン部21cの重心Oの位置調整を多段階に行うことが可能となる。
【0045】
(変形例3)
また、上記実施形態では、大径部21c1と小径部21c2とが一体に連結された流体圧シリンダ部21のピストン部21cについて、大径部21c1を前方(矢印(イ)方向)側に配置し、小径部21c2を後方(矢印(ロ)方向)側に配置したが、シリンダ部21bから押し出されたピストン部21cの重心位置が、該シリンダ部21b内または該シリンダ部21bの入り口部21b1付近に位置するのであれば、上述した例に限定されず、
図13に示すように、小径部21c2を前方(矢印(イ)方向)側に配置し、大径部21c1を後方(矢印(ロ)方向)側に配置しても良い。
そして、このような構成により、これら大径部21c1及び小径部21c2の軸線に沿った長さを調整することで、ピストン部21の重心Oを、該シリンダ部21b内または該シリンダ部21bの入り口部21b1付近でかつより後方(矢印(ロ)方向)側に移動させることができ、ピストン部21cの先端部が振れて、シリンダ部21bの入り口部21b1とピストン部21cの周面とが当たることによる摩耗を防止することができる。
【0046】
(変形例4)
また、上記実施形態では、流体圧シリンダ部21のピストン部21cを単一の部材で形成するのではなく、複数の部材を組み合わせることで、ピストン部21cの重心Oを後方(矢印(ロ)方向)側へ変位させるための調整を行っても良い。例えば、
図14のように、ピストン部21cの前方側(矢印(イ)方向)を低密度の材料(符号21c3で示す)、後方側(矢印(ロ)方向)を前部より高密度の材料(符号21c4で示す)で構成したピストン部21cを用いてもよい。
【0047】
(変形例5)
また、上記実施形態では、
図15に示すように、ピストン部21cの本体部の長さを短くしかつその前側に、可動部19に接触かつ押圧しかつ該可動部19を前方(矢印(イ)方向)側に移動させるための中間部材52を該ピストン21cと一体に設けても良い。
なお、
図15の中間部材52は、可動部19の延長部19eを押圧するためにT字状に形成されているが、この形状については限定されるものではない。また、前方(矢印(イ)方向)側に移動させるための中間部材52は、後方(矢印(ロ)方向)側のピストン部21cの構成材料より軽量な部材、例えば、プラスチック、軽金属により形成し、これによってピストン部21cの重心Oを、より後方(矢印(ロ)方向)側へ変位させ、ピストン部21cの先端部が振れることを効果的に防止するようにしても良い。
また、中間部材52は、ピストン部21cの本体に対して螺合することで連結し、重心位置を調整するために、適宜、長さ・重量を変更しても良い。また、中間部材52が、可動部19の延長部19eに接触する箇所は、互いに部材が傷つかないように角部を面取り(
図15に符号52´で示す)しても良い。
【0048】
(変形例6)
また、上記実施形態では、シリンダ部21bからピストン部21cが押し出された場合に、該ピストン部21cの先端部が振れて、ピストン部21cの周面と、シリンダ部21bの入り口部21b1とが当たる不具合を防止するための構成について説明したが、ここで、このような不具合の発生に備えて、
図16(A)(B)に示すようにピストン部21cが前方(矢印(イ)方向)に押し出された状態において、シリンダ部21bと接触するピストン部21cの外周部に、緩衝部材となるOリング53を1つまたは複数個設け、該Oリング53により、ピストン部21cの先端部の振れ及び衝突を緩和するようにしても良い。
また、
図16(C)に示すように、シリンダ部21bの内周部の入り口部21b1付近に、緩衝部材となるOリング53を1つまたは複数個設け、該Oリング53により、ピストン部21cの先端部の振れ及び衝突を緩和するようにしても良い。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上記実施形態及びその変形例1〜6について、ピストン部21cの重心Oが、シリンダ部21b内または該シリンダ部21bの入り口部21b1付近に位置するように全体の重量を設定することにより、ピストン部21cの先端部が振れることを効果的に防止できるのであれば、それぞれの例を適宜、組み合わせることにより構成しても良い。