特許第5840935号(P5840935)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5840935トンネルバリアの形成方法および磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5840935
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】トンネルバリアの形成方法および磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 43/12 20060101AFI20151210BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20151210BHJP
   H01L 43/10 20060101ALI20151210BHJP
   H01L 21/8246 20060101ALI20151210BHJP
   H01L 27/105 20060101ALI20151210BHJP
   G11B 5/39 20060101ALI20151210BHJP
【FI】
   H01L43/12
   H01L43/08 Z
   H01L43/10
   H01L27/10 447
   G11B5/39
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-255187(P2011-255187)
(22)【出願日】2011年11月22日
(65)【公開番号】特開2012-114442(P2012-114442A)
(43)【公開日】2012年6月14日
【審査請求日】2012年9月3日
(31)【優先権主張番号】12/927,698
(32)【優先日】2010年11月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500475649
【氏名又は名称】ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲赴▼ ▲丹▼
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲恵▼娟
(72)【発明者】
【氏名】李 民
(72)【発明者】
【氏名】張 坤亮
【審査官】 小山 満
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−300840(JP,A)
【文献】 特開2010−166051(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0299679(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0268351(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0177449(US,A1)
【文献】 特開2010−097980(JP,A)
【文献】 特開2006−253562(JP,A)
【文献】 特開2008−172247(JP,A)
【文献】 特開2005−129908(JP,A)
【文献】 特開2009−278130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 43/12
G11B 5/39
H01L 21/8246
H01L 27/105
H01L 43/08
H01L 43/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気トンネル接合(MTJ)に用いられるトンネルバリアを形成する方法であって、
(a)基体を用意し、前記基体に対して界面性を向上させるための第1の自然酸化(NOX)処理を施す工程と、
(b)前記基体の上に、Zn,HfおよびZrのうちの少なくとも1種を用いて、前記基体と連続すると共に第1の厚さを有する第1の金属層を形成する工程と、
(c)第2の自然酸化処理を行い、前記第1の金属層を第1の金属酸化物層に変換する工程と、
(d)Zn,HfおよびZrのうちの少なくとも1種を用いた前記第1の厚さよりも薄い他の金属層の蒸着と第3の自然酸化処理とを1回ずつ、もしくはそれらを繰り返すことで、前記第1の金属酸化物層の上に1または2以上の他の金属酸化物層を含むスタックを形成する工程と、
(e)前記スタックの上に、前記第1の金属層および前記他の金属層よりも薄い最上部金属層を形成する工程と、
(f)アニール処理を施すことにより、前記第1の金属酸化物層および前記他の金属酸化物層の酸素を拡散させて前記最上部金属層を酸化することで、少なくとも3つの金属酸化物層を含むトンネルバリアを形成する工程と
を含む
トンネルバリアの形成方法。
【請求項2】
前記磁気トンネル接合は、磁気記録ヘッドまたはMRAMデバイスの一部を構成するものである
請求項1記載のトンネルバリアの形成方法。
【請求項3】
前記磁気トンネル接合はボトムスピンバルブ構造を有し、
前記基体として、
CoFe,CoFeB,CoNiFeおよびCoNiFeBのうちの少なくとも1種、またはこれらとTa,Ru,Mg,Hf,Zr,Zn,W,Cu,AgおよびAuから選択される他の元素との合金のうちの少なくとも1種、からなるピンド層を用いる
請求項1記載のトンネルバリアの形成方法。
【請求項4】
前記第1の金属層における前記第1の厚さを0.4nm以上0.8nm以下とし、
前記他の金属層の厚さを0.2nm以上0.4nm以下とし、
前記最上部金属層の厚さを0.05nm以上0.3nm以下とする
請求項1記載のトンネルバリアの形成方法。
【請求項5】
前記アニール処理を行う前に、
前記最上部金属層の上に、フリー層とキャップ層とを順に形成する
請求項3記載のトンネルバリアの形成方法。
【請求項6】
前記アニール処理を行う前に、
前記最上部金属層に対し、不活性ガスを用いたプラズマ処理を行う
請求項1記載のトンネルバリアの形成方法。
【請求項7】
前記アニール処理を行う前に、
前記最上部金属層に対し、第4の自然酸化処理を行うことで、前記最上部金属層を部分的に酸化させる
請求項1記載のトンネルバリアの形成方法。
【請求項8】
前記アニール処理を、
250℃以上350℃以下の温度下において5×106 /(4π)[A/m]の磁界を付与しつつ2時間以上10時間以下に亘って行う
請求項1記載のトンネルバリアの形成方法。
【請求項9】
(a)基体を用意し、前記基体に対して界面性を向上させるための自然酸化(NOX)処理を施す工程と、
前記基体の上に、Zn,HfおよびZrのうちの少なくとも1種を用いて、前記基体と連続すると共に第1の厚さを有する第1の金属層を形成する工程と、
)前記第1の金属層に対して自然酸化処理を施すことにより、第1の金属酸化物層に変換する工程と、
)Zn,HfおよびZrのうちの少なくとも1種を用いた他の金属層の形成と、その自然酸化処理とを1回ずつ、もしくはそれらを繰り返すことで、前記第1の厚さよりも薄い他の金属酸化物層を含むスタックを形成する工程と、
)前記スタックの上に、前記第1の金属層および前記他の金属層よりも薄い最上部金属層を形成する工程と、
)少なくとも一の強磁性層を含む1以上の追加層を形成することで、磁気トンネル接合スタックを形成する工程と、
)アニール処理を施すことにより、前記第1の金属酸化物層および前記他の金属酸化物層の酸素を拡散させて前記最上部金属層を酸化することで、少なくとも3つの金属酸化物層を含むトンネルバリアを形成する工程と
を含む
磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法。
【請求項10】
前記磁気トンネル接合は、磁気記録ヘッドまたはMRAMデバイスの一部を構成するものである
請求項記載の磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法。
【請求項11】
ボトムスピンバルブ構造を有し、
前記基体として、
CoFe,CoFeB,CoNiFeおよびCoNiFeBのうちの少なくとも1種、またはこれらとTa,Ru,Mg,Hf,Zr,Zn,W,Cu,AgおよびAuから選択される他の元素との合金のうちの少なくとも1種、からなるピンド層を用いる
請求項記載の磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法。
【請求項12】
前記第1の金属層における前記第1の厚さを0.4nm以上0.8nm以下とし、
前記他の金属層の厚さを0.2nm以上0.4nm以下とし、
前記最上部金属層の厚さを0.05nm以上0.3nm以下とする
請求項記載の磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法。
【請求項13】
前記第1の金属層、他の金属層および最上部金属層の合計の厚さを、1nm未満とする
請求項12記載の磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法。
【請求項14】
前記追加層を、フリー層およびキャップ層を含むものとする
請求項11記載の磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法。
【請求項15】
前記追加層の形成を行う前に、前記最上部金属層に対して不活性ガスを用いたプラズマ処理を施す工程をさらに含む
請求項記載の磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法。
【請求項16】
前記追加層の形成を行う前に、
前記最上部金属層に対し、自然酸化処理を行うことで、前記最上金属層を部分的に酸化させる
請求項記載の磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法。
【請求項17】
前記アニール処理を、
250℃以上350℃以下の温度下において5×106 /(4π)[A/m]の磁界を付与しつつ2時間以上10時間以下に亘って行う
請求項記載の磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドにおける高性能トンネル磁気抵抗効果(TMR:tunneling magnetoresistive)センサおよびその製造方法に関し、特に、信頼性を向上させ、高いMR(magnetoresistive)比を維持しながら、RA値(抵抗値と面積との積)を1Ω×cm2以下程度に減少させる、ピンド層とフリー層との間のトンネルバリアの形成方法および磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法に関する。
【0002】
TMRセンサは、MRAMデバイスや磁気再生ヘッドにおけるメモリ素子として用いられ、1つの薄い非磁性誘電体層によって隔てられた一対の強磁性層を含む構造の積層体を有している。磁気再生ヘッドでは、TMRセンサは下部シールドと上部シールドとの間に形成される。そのTMRセンサにおけるトンネルバリアは均一の厚さを有し、かつ、均一の酸化状態であることが必要である。厚さおよび酸化状態のわずかな違いによって、抵抗値が大きく変化し、素子の性能が低下するからである。MRAMデバイスに用いる場合、TMRセンサは、下部電極と上部電極との間に形成される。
【0003】
TMRセンサは、磁気トンネル接合(MTJ)としても好適であり、例えばボトムスピンバルブ構造(シード層、反強磁性(AFM)層、ピンド層、トンネルバリア、フリー層、キャップ層が連続して基体上に形成された構造)を有している。ピンド層は、隣接する、面内方向に磁化されたAFM層との交換結合により固定された磁気モーメントを有している。フリー層は、面内方向において、通常、ピンド層の磁化と直交する方向の磁化を有している。しかし、フリー層の磁化は、下部シールドと上部シールドとの間を、MTJの積層面に垂直な電流が通過した際に生じる外部磁界の影響が及ぶと、180°回転することが可能である。薄いトンネルバリアを用いることで、伝導電子の量子力学的トンネル効果によって、電流がトンネルバリア層を通ることが可能となっている。フリー層とピンド層との、磁気モーメントの相対的な方向はトンネル電流によって決まる。よって、磁気トンネル接合の抵抗も決まる。ピンド層とフリー層との磁気モーメントの向きの相対的関係によって、センス電流は低抵抗値(“0”記憶状態)または高抵抗値(“1”記憶状態)のいずれかを検出する。
【0004】
TMRセンサは、次世代の磁気記録ヘッドにおいて、現在のところ、GMRセンサの代替品として最も有望なものである。最先端のTMRセンサは、再生ヘッドのエアベアリング面(ABS:air bearing surface)において、0.1μm×0.1μm程度の断面積を有する。TMRセンサの利点は、高いMR比と、高い記録密度に有利なCPP(current perpendicular to plane)構造とにある。高性能のTMRセンサに求められるのは、RA値(抵抗値×面積)が低いこと、MR比が高いこと、軟磁性フリー層の磁歪(λ)が低いこと、ピンド層が外部磁場に対して強いこと、およびトンネルバリア層を通じた層間結合が弱いことがある。MR比はdR/Rで表される。ここで、RはTMRセンサの抵抗値の最小値であり、dRはフリー層の磁気的状態を変化させることによって観察される抵抗値の変化量である。dR/Rが大きければ、再生速度が向上する。極めて高い記録密度または高い周波数用途においては、RA値は1Ω×μm2 以下程度まで減少させる必要がある。その結果、MR比は大幅に低下する。適当な信号対雑音比(SNR:signal-to-noise ratio)を維持し、信頼性を向上させる(長寿命化する)ために、高MR比および超低RA値(1Ω×μm2以下)の双方を満たすMTJ素子が望まれている。
【0005】
Yuasa等による非特許文献1では、非常に高いMR比が報告されており、これはコヒーレントトンネルに起因するとされている。Parkin等による非特許文献2では、エピタキシャルFe(001)/MgO(001)/Fe(001)を用いたMTJ素子および多結晶FeCo(001)/MgO(001)/(Fe70Co308020を用いたMTJ素子によれば、室温下において、約200%のMR比が達成可能であることが論証されている。さらに、非特許文献3において、Djayaprawira等は、よりよい柔軟性と均一性とを利点として、230%という高いMR比について説明している。しかしながら、上記のMTJ素子におけるRA値は、240Ω×μm2 以上10000Ω×μm2 以下であり、再生ヘッドに用いるには大きすぎる。Tsunekawa等による非特許文献4では、下部CoFeB層と高周波(RF:radio frequency)スパッタリングを施したMgOとの間にDCスパッタリングを施した金属性Mg層を挿入することによって、RA値を低下させることができることが発見されている。MgO(001)層が薄い場合、Mg層によって、MgO(001)層の結晶方位が向上する。CoFeB/Mg/MgO/CoFeBを用いたMTJ素子において、RA値が2.4Ω×μm2 であるとき、MR比138%が達成可能である。金属性Mg層を挿入するという発想を最初に開示したのは、Linnによる特許文献1であり、CoFe/MgO(反応性スパッタリング)/NiFeによって表される構造における下部電極(CoFe)の酸化防止を目的としていた。
【0006】
MgOからなるトンネルバリアを有するMTJ素子における高MR比および低RA値が実証されてきたが、そのような構成を再生ヘッドのTMRセンサに適用可能にするためには、解決すべき課題が多く残されている。例えば、再生ヘッドの製造過程において、アニール温度は300℃未満である必要がある。また、RFスパッタリングを施したMgOからなるトンネルバリアでは、従来のDCスパッタリングに続いて自然酸化を施すことで得たAlOxからなるトンネルバリアよりも、RAの平均値および均一性を制御することが困難である。さらに、低λおよび軟磁性特性の観点からは、CoFeBよりもCoFe/NiFeからなるフリー層が好ましい。しかし、CoFe/NiFeからなるフリー層を、MgOからなるトンネルバリアとともに用いると、MR比が従来のAlOxからなるトンネルバリアを含むMTJ素子のMR比と同程度の値まで低下する場合がある。よって、高MR比、低RA値、低磁歪等の望ましい特性を損なうことなく、MgOまたは他の金属酸化物からなるトンネルバリアを含むTMRセンサが必要とされている。
【0007】
なお、特許文献2には、TiOXYおよびMgOからなるバリアが開示されている。また、特許文献3には、低RA値を有するトンネルバリアとして、MgO/Al23/MgOおよびAl23/MgO/Al23なる構造が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献4には、MgOに対し反応性スパッタリングを施すことにより、または、Mg層に対し自然酸化処理を施すことにより個別に形成された複数のMgO層を用いた多層構造のトンネルバリアが説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6841395号明細書
【特許文献2】米国特許第6756128号明細書
【特許文献3】米国特許第6347049号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/0268351号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】S.Yuasa等著、「Giant room-temperature magnetoresistance in single crystal Fe/MgO/Fe magnetic tunnel junctions」、Nature Materials、2004年、第3版、p.868−p.871
【非特許文献2】S.Parkin 等著、「Giant tunneling magnetoresistance at room temperature with MgO (100) tunnel barriers」、Nature Materials、2004年、第3号、p.862−p.867
【非特許文献3】D.Djayaprawira等著、「230% room temperature magnetoresistance in CoFeB/MgO/CoFeB magnetic tunnel junctions」、Physics Letters、2005年、第86巻、092502
【非特許文献4】K.Tsunekawa等著、「Giant tunnel magnetoresistance effect in low resistance CoFeB/MgO(001)/CoFeB magnetic tunnel junctions for read head applications」、Applied Physics Letters、2005年、第87巻、072503
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の第1の目的は、MgOからなる単層のトンネルバリア層の特性である高いMR比を維持しながら、1Ω×μm2 以下程度の低いRA値を可能とする多層構造のトンネルバリアおよびその形成方法、ならびにそのトンネルバリアを備えたTMRセンサ(MTJ)の形成方法を提供することにある。
【0012】
本発明の第2の目的は、デバイスのスループットを制限することなしに、第1の目的にしたがったTMRセンサの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のトンネルバリアの形成方法は、磁気トンネル接合(MTJ)に用いられるトンネルバリアを形成する方法であって、以下の各工程を含むものである。
(a)基体を用意し、その基体に対して界面性を向上させるための第1の自然酸化処理を施す工程。
(b)基体の上に、Zn,HfおよびZrのうちの少なくとも1種を用いて、基体と連続すると共に第1の厚さを有する第1の金属層を形成する工程。
(c)第2の自然酸化(NOX)処理を行い、第1の金属層を第1の金属酸化物層に変換する工程。
(d)Zn,HfおよびZrのうちの少なくとも1種を用いた第1の厚さよりも薄い他の金属層の蒸着と第3の自然酸化処理とを1回ずつ、もしくはそれらを繰り返すことで、第1の金属酸化物層の上に1または2以上の他の金属酸化物層を含むスタックを形成する工程。
(e)スタックの上に、第1の金属層および他の金属層よりも薄い最上部金属層を形成する工程。
(f)アニール処理を施すことにより、第1の金属酸化物層および他の金属酸化物層の酸素を拡散させて最上部金属層を酸化することで、少なくとも3つの金属酸化物層を含むトンネルバリアを形成する工程。
【0014】
本発明の磁気トンネル接合(MTJ)の形成方法は、以下の各工程を含むものである。
(a)基体を用意し、その基体に対して界面性を向上させるための自然酸化(NOX)処理を施す工程。
)基体の上に、Zn,HfおよびZrのうちの少なくとも1種を用いて、基体と連続すると共に第1の厚さを有する第1の金属層を形成する工程。
)第1の金属層に対して自然酸化処理を施すことにより、第1の金属酸化物層に変換する工程。
)Zn,HfおよびZrのうちの少なくとも1種を用いた他の金属層の形成と、その自然酸化処理とを1回ずつ、もしくはそれらを繰り返すことで、第1の厚さよりも薄い他の金属酸化物層を含むスタックを形成する工程。
)スタックの上に、第1の金属層および他の金属層よりも薄い最上部金属層を形成する工程。
)少なくとも一の強磁性層を含む1以上の追加層を形成することで、磁気トンネル接合スタックを形成する工程。
)アニール処理を施すことにより、第1の金属酸化物層および他の金属酸化物層の酸素を拡散させて最上部金属層を酸化することで、少なくとも3つの金属酸化物層を含むトンネルバリアを形成する工程。
【0015】
第1の実施の形態によれば、上記の目的は、フリー層と、ピンド層と、それらの間に形成され、かつ、複数の金属酸化物層を有する多層構造のトンネルバリアとを少なくとも含むTMRセンサを形成することによって達成される。ピンド層とトンネルバリアとフリー層とを順に備えたボトム型スピンバルブ構造では、トンネルバリアが、ピンド層と隣接する第1の金属酸化物(MOX1 )層と、第2の金属酸化物(MOX2 )層と、第3の金属酸化物(MOX3 )層とが順に積層されたMOX1 /MOX2 /MOX3 なる3層構造とすることが好ましい。第1の金属酸化物(MOX1 )層の厚さは第2の金属酸化物(MOX2 )層の厚さよりも大きく、第2の金属酸化物(MOX2 )層の厚さは第3の金属酸化物(MOX3 )層の厚さよりも大きい。ここで、Mは、Z,HおよびZrのうちの少なくとも1種である。第1から第3の金属酸化物層は、第1から第3の金属(M1〜M3)層をそれぞれ形成したのち、次の金属層を堆積する前に(M1〜M3層を)自然酸化(NOX)処理によって酸化することで得る。しかしながら、最上部金属層に対してはNOXを施さない。最上部金属層は、主にアニール処理の間、その下に形成された層からの酸素拡散によって酸化物に変換される。第1の金属(M1)層は、0.4nmよりも大きい厚さとなるように形成され、実質的にピンホールのない連続層とすることが好ましい。最上部金属酸化物層は、最も薄くし、隣接するフリー層への酸素拡散を生じ得る過酸化を避けることが好ましい。あるいは、MOX3 層の上に第4の金属酸化物(MOX4 )層を形成し、MOX1 /MOX2 /MOX3 /MOX4 なるトンネルバリア構造とする。ここで、MOX1 層は、M1層を自然酸化したものであり、MOX2 層は、M1層よりも薄いM2層を自然酸化したものである。MOX3 層およびMOX4 層は、それぞれ、厚さがM1層およびM2層よりも小さい第3および第4の金属(M3,M4)層を酸化してなるものである。したがって、MOX1 〜MOX4 の厚さの相対関係は、MOX1 >MOX2 >MOX3 ,MOX4 という順番である。なお、本発明において、金属酸化物層の積層数はこれに限定されるものではなく、例えば5以上の金属酸化物層を用いてもよい。
【0016】
本発明の第2の実施の形態としてのTMRセンサは、シード層/AFM層/ピンド層/トンネルバリア/フリー層/キャップ層によって表される構成を有する。ここで、ピンド層は、AP2層と、Ruなどからなる結合層と、AP1層とが積層されてなるシンセティック反強磁性(SyAF:synthetic anti-ferromagnetic)構造を有する。一般に、TMR積層体に含まれる複数の金属層は、スパッタ蒸着装置によって堆積される。重要な特徴は、最後に堆積する金属層を除く全ての金属層は、自然酸化(NOX)法によって酸化することである。さらに、ボトム型スピンバルブ構造のピンド層は、M1層を堆積する前に、自然酸化によって処理してもよい。それにより、ピンド層とM1層との界面状態が改善される。また、フリー層をスパッタリングによって堆積する前に、最上金属層を、アルゴンプラズマ、少量の酸素、Ar/O2混合物、または他の不活性ガス混合物を用いて処理してもよい。これらの処理の1つの目的は、フリー層とトンネルバリアとの界面における金属の相互拡散を最小化することである。もう1つの目的は、フリー層の堆積前に、Mgと酸素との結合を向上させることである。これに続くアニール工程によって実質的に均質な金属酸化物層を形成する。上記のプラズマ処理またはガス処理は、トンネルバリアをより平滑に、かつ、より均質に形成し、界面をより明確化する点で有利である。これによって、dR/R、他のデバイス性能、またはその双方が向上し得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明のトンネルバリアの形成方法によれば、金属層に対して自然酸化処理を行うことで金属酸化物層を形成する操作を繰り返したのち、アニール処理を行うようにした。これにより、例えばフリー層との界面における金属の相互拡散を抑制できるうえ、実質的に均質な金属酸化物層を形成することができる。その結果、このトンネルバリアを含む磁気トンネル接合は、高いMR比を有するなど、優れた動作性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態としてのTMRセンサの要部を表す拡大断面図である。
図2】本発明の第2の実施の形態としてのTMRセンサの要部を表す拡大断面図である。
図3図1および図2に示したTMRセンサに含まれるトンネルバリアを形成する方法を説明するためのフロー図である。
図4図1または図2に示したTMRセンサを備えた磁気ヘッドの全体構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の目的、特徴および利点は、以下に記載の好適な実施の形態の説明に照らして理解される。
【0020】
(第1の実施の形態)
本実施の形態では、複数の金属酸化物層を含むトンネルバリアを有する高性能TMRセンサおよびその製造方法について説明する。ここに説明するTMRセンサは、磁気記録ヘッド、MRAMデバイス、または金属層の酸化または窒化を含む他の層構造に適用可能である。すなわち、酸窒化物もしくは窒化物の組成物によって構成されたトンネルバリア、または他の層において、本発明のトンネルバリアの製造工程と同様に複数の金属層を堆積し、窒化または酸窒化することができる。実施の形態例においては、ボトム型のスピンバルブ構造を示すが、当業者であれば理解できるように、本発明は、トップ型スピンバルブ構造、および多層スピンバルブ構造に対しても適用可能である。図は、例示を目的として用いており、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0021】
米国特許出願公開第2007/0111332号において、本出願人は、低抵抗TMRセンサの形成方法を開示した。その方法は、第1のMg層を堆積する工程と、自然酸化を施す工程と、それから酸化した第1のMg層の上に第2のMg層を堆積することによってMgO/Mgなる2層構造を形成する工程とを含む。これに続くアニール工程によって、さらにMgO層からMg層へと酸素が拡散し、実質的に均質なMgOからなるトンネルバリアが形成される。その結果、MR比を低下させることなく、2Ω×μm2程度の低いRA値が得られる。より高密度の記録および記憶素子が望まれつつあることから、その性能要件を満たすために、RA値は1Ω×μm2 以下程度にまでさらに低下させる必要がある。上記のMgO/Mgなる2層構造の形成工程において、RA値をより低くするためにはトンネルバリアの厚さを減少させるか、自然酸化(NOX)量を低下させるか、またはそれらの双方を実施すればよい。NOX量を低下させるとは、すなわち、酸化時間、酸化圧、もしくはその双方を減少させることである。しかしながら、2層構造において、RA値を低下させるには限界がある。例えば、Mg層の厚さを調整せずに、単にNOX量を減少させると、酸化の不足(underoxidation)によってdR/R(MR比)が低下し、素子の安定性が低下する。さらに、Mg層の合計の厚さを減少させると、破壊電圧が低下し、素子の寿命が短くなると考えられる。したがって、単層のMgO層またはMgO/Mgなる構成の2層構造を用いて、超低RA値および高MR比を備えたTMRセンサを形成する十分な方法は見出されていない。
【0022】
そこで、本出願人は、MR比を低下させることなく1Ω×μm2 以下程度の超低RA値を達成するためには、トンネルバリア全体の厚さを、従来の2層構造と同等に維持しつつ、トンネルバリアを構成する金属酸化物層の数を増加させればよいことを見出した。アニール工程を施す前に、上部Mg層(または他の金属層)の下に、少なくとも2つまたは3つのMgO層または他の金属酸化物層を形成すると、トンネルバリアの均質性および性能が実質的に向上することがわかった。一形態として、MgO1/MgO2/MgO3/Mgの4層構造またはMgO1/MgO2/Mgの3層構造からなる積層体を一旦形成したのち、アニール工程によってこの積層体を、MgO1/MgO2/MgO3/MgO4またはMgO1/MgO2/MgO3によって表される、最終的な酸化状態に変換する。ここで、「MgO」に続けて記載した数字は、積層体内での形成される順番を表す。さらに、金属層の堆積前に、基板に対してプラズマ処理または自然酸化処理を施してもよく、あるいは、フリー層およびピンド層を堆積し、アニーリングを施す前に、上部に位置する酸化前の金属層に対してプラズマ処理または自然酸化処理を施してもよい。または、この双方を行なってもよい。これらによって、トンネルバリアの平滑さと界面の明確さとがさらに向上する。あるいは、後述のようにMgを他の金属または金属合金によって置き換え、MOX1 /MOX2 /MOX3 またはMOX1 /MOX2 /MOX3 /MOX4 なる構成としてもよい。
【0023】
図1は、本実施の形態の磁気トンネル接合素子(TMRセンサ)40Aの一部における、エアベアリング面(ABS)と平行な断面を表した図である。基板21は、磁気記録ヘッドに適用される場合には下部シールドとも呼ばれる下部リードであり、例えばNiFe層である。下部シールドとしての基板21は、下部構造(図示せず)の上に従来の方法を用いて形成する。当然ながら、下部構造は、一般に、例えばAlTiCからなるウェハの上に形成された第1のギャップ層によって構成されている。MRAMに適用される場合、基板21は下部電極である。
【0024】
基板21の上にTMR積層体32を形成する。本実施の形態例はボトム型スピンバルブ構造を有する。よって、まず、TMR積層体32の下部として、基板21の上にシード層22、AFM層23、およびピンド層24をこの順に形成する。シード層22は、Ta/Ru,Ta,Ta/NiCr,Ta/Cu,Ta/Cr,または従来から用いられている他の材料等によって構成する。シード層22は、上を覆う層の粒構造(grain structure)を、より平滑に、かつ、より均質にするように機能する。シード層22の上にはAFM層23を設けることで、その上を覆うピンド層24の磁化方向を固定する。AFM層23は、IrMn,MnPt,NiMn,OsMn,RuMn,RhMn,PdMn,RuRhMn,またはMnPtPdのうちの1つであることが好ましい。
【0025】
ピンド層24は、AP2/Ru/AP1によって表されるシンセティック反平行(SyAP:synthetic anti-parallel)構造(図示せず)であってもよい。AP2層(外側ピンド層)は、AFM層23の上に形成され、CoFeまたは他の強磁性材料からなるものである。AP2層の磁気モーメントは、AP1層の磁気モーメントに対して反平行の方向に固定される。AP2層の厚さとAP1層の厚さとのわずかな違いによって、のちの工程においてパターニングされるTMRセンサの磁化容易軸方向に沿って、SyAP型のピンド層24にネット磁気モーメントがわずかに生じる。AP2層とAP1層との交換結合を、結合層によって促進する。結合層は、厚さが0.3nm以上0.9nm以下であるRu(ルテニウム)によって構成することが好ましい。なお、Ruの代わりにRh(ロジウム)またはIr(イリジウム)を用いてもよい。好適な態様として、AP1層(内側ピンド層)は、CoFe,CoFeB,CoNiFe,CoNiFeB,またはこれらとTa,Ru,Mg,Hf,Zr,Zn,W,Cu,Ag,もしくはAu等の他の元素との合金のうちの1または複数の材料によって形成する。AP1層は、厚さが約0.75nmであるRuからなる結合層の上に形成する。なお、「内側ピンド層」はピンド層のうちバリア層に最も近い部分を示し、「外側ピンド層」はピンド層のうちバリア層から最も遠い部分を示す。
【0026】
図1に示したTMRセンサ40Aは、ボトム型スピンバルブ構造を備えたものである。ここで、トンネルバリア29は、ピンド層24の上面24sの上に形成した層25〜27の3層構造からなる積層体である。また、トンネルバリア29の上に、フリー層30およびキャップ層31を順に形成する。トップ型スピンバルブ構造(図示せず)の場合は、本発明に係るTMR積層体32は、基板21の上に、シード層22、フリー層30、トンネルバリア29、ピンド層24、AFM層23、およびキャップ層31を順に堆積して形成する。トップ型スピンバルブ構造では、AP1層(内側ピンド層)は、トンネルバリア29の最も上に位置するMox3層27の上に堆積する。
【0027】
本実施の形態の重要な特徴は、ピンド層24のAP1層の上に、複数の金属酸化物層を有するトンネルバリア29を形成することにある。少なくとも3つの金属または合金からなる一連の層(以下、M層という。)を堆積し、最も上になる最後のM層を除く全てのM層をそれぞれ堆積したのち、自然酸化処理を施すことによって、M層を金属酸化物層(以下、Mox層という。)に変換することが好ましい。ここで、(OX)は酸化した状態を表す。なお、トンネルバリア29の形成に用いる金属層の数は、3または4より多くてもよい。Mは、Mg,MgZn,Zn,Al,Ti,AlTi,Hf,Zrまたはこれらの組み合わせの中から選択する。堆積する第1の金属(M1)層の厚さは第2の金属(M2)層の厚さよりも大きく、第3の金属層以降の金属(M3,M4,…Ms)層の厚さはM2層の厚さよりも薄い。一実施の形態によれば、M1層の厚さは0.4nm以上0.8nm以下であり、M2層の厚さは0.2nm以上0.4nm以下であり、M3〜Ms層の厚さは0.05nm以上0.3nm以下である。ここで、sは4より大きい整数である。RA値を1Ω×μm2 未満にするためには、全てのM層の厚さの合計は、1nm未満であることが好ましい。
【0028】
第1の金属酸化物層(Mox1層)を形成する前に、ピンホールのない連続金属層を形成するために、M1層の厚さは、他のM層の厚さよりも大きく、例えば0.4nmよりも厚いことが好ましい。少なくとも3つのMox層を形成することによって、2層構造よりも、トンネルバリアをより均質化することが可能であるという利点が得られる。当然ながら、金属層の厚さが増加すると、その層を酸化するために必要なNOX量が大きくなる(酸化時間の増加、酸素圧の増加、またはその双方)。したがって、本実施の形態においては、層の厚さの相対関係はM1層>M2層>M3層という順番であり、M3層はアニール工程の間に完全酸化され、M1層に対するNOX量はM2層に対するよりも大きい。他の形態では、層の厚さの相対関係はM1層>M2層>M3層,M4層という順番であり、M4層は、のちに続くアニール工程の間に完全に酸化され、M1層に対するNOX量はM2層に対するよりも大きく、M2層に対するNOX量はM3層に対するよりも大きい。関連する特許出願公開第11/280523号に開示されているように、MgO/Mgからなる2層構造におけるMg層は、TMR積層体の形成後、アニール処理の間に完全酸化してもよい。同様に、本実施の形態において最上層となるM3層,M4層,またはMs層(sは4より大きい整数)は、TMRセンサ積層体内の全ての層を形成したのち、アニール処理の間に酸化する。この酸化過程によって、最上Mox層が過酸化されるおそれを最小化することができる。最も上位に位置するM層を自然酸化させることによって、その結果形成されるMox層内に酸素が過剰に吸収され、その酸素がフリー層内へと拡散し、フリー層内で酸化が生じ得るからである。TMRセンサ、特にMoxからなるサブ層内には十分な酸素があるため、アニール工程の間に、その酸素は最上M層内に拡散し、最上M層内で基本的に完全酸化が起こると考えられる。
【0029】
また、トンネルバリアの均質性は、M1層の堆積前に、Ar等の不活性ガスを用いたプラズマ処理、または上面24sに対する自然酸化(NOX)を行うことによって、さらに向上することを発見した。その仕組みは完全には解明されていないが、Ar等を用いたプラズマ処理を行うと、それに続くMg層(または他の金属層)の成長のばらつきが低減され、それによってトンネルバリアがより均質化されることを発見した。一般的なArプラズマ処理では、RFパワーは10ワット以上50ワット以下であり、圧力は0.0001Torr以上1Torr以下である。自然酸化は、例えば、スパッタ蒸着メインフレームの酸化チャンバ内で、10秒以上600秒以下の間、0.001mTorr以上0.01mTorr以下の圧力で、上面24sを酸素に曝露する。酸化時間の増加または減少は好ましくない。処理の制御が不能になるか、あるいは、スループットが低下する(遅くなる)からである。このように、ピンド層24がより平滑になると、M1層はより均質になり、全てのM層の均質性が向上する。その結果、酸化されたトンネルバリア構造の各MOX層の均質性は大幅に向上し、MR比を低下させることなく、RA値を低下させることができる。
【0030】
図1に示したTMRセンサ40Aを形成する方法では、M1層を酸化してMox1層25とし、続いて、M2層を堆積したのちそれを酸化してMox2層26とし、それから、M3層を堆積する。ここで全ての酸化は、NOX処理による。なお、これに続くアニール工程において、Mox1層25およびMox2層26からの酸素が最上層であるM3層に拡散すると、M3層は酸化されてMox3層27となる。厚さが0.5μm以上8μm以下である金属層に対しては、通常、NOX処理は、スパッタ蒸着メインフレームの酸化チャンバ内で、約15秒以上300秒以下の間、0.1mTorr以上1Torr以下の酸素圧下で行う。さらに、ガスの組成としては、酸素に加えて、Ar,XeまたはNe等の不活性ガスを含んでもよい。
【0031】
図3に、トンネルバリア29の形成方法の流れ図を示す。ステップ50(S50)において、スパッタリング装置のDCスパッタチャンバ内で、基体(ピンド層24)に対して不活性ガスを用いたプラズマ処理を施す。スパッタリング装置としては、超高真空DCマグネトロンスパッタチャンバーを備えるアネルバ(Anelva)製C−7100型のスパッタ蒸着装置等を用いることができる。プラズマ処理を施すことによって、M1層の成長がより均一になり、それによって、トンネルバリア29がより均質となる。あるいは、ステップ50において、基体(ピンド層24)を自然酸化し、後続の工程において堆積するM1層と基体(ピンド層24)との界面性を向上させてもよい。ステップ50における酸素は、基体(ピンド層24)の表面において吸収され、続いて堆積するM1層の下部と反応する。ここでは、「自然」酸化は、基板(ピンド層24)の酸化を引き起こさない状態を示す。ボトム型スピンバルブ構造および図1,2に関連する態様において、ステップ50における基板はピンド層24である。あるいは、ステップ50を省略し、ステップ51(S51)からトンネルバリアの形成を始めてもよい。ステップ51において、基板の上にM1層を堆積する。通常、スパッタ蒸着処理では、アルゴンスパッタガスを用い、低面圧は5×10-8torr以上5×10-9torr以下である。各スパッタチャンバは、複数のターゲットを有する。それらのターゲットは、低圧放電陰極である。圧力が低ければ、より均質な膜が堆積可能である。
【0032】
トンネルバリア形成工程における次の工程は、前述した自然酸化(NOX)処理である(ステップ(S)52)。ステップ52では、ステップ51において堆積したM1層をMox1層25に変換する。通常、NOX処理の間、酸化チャンバに対しては加熱も冷却も行わない。なお、NOX処理の間、酸素圧を0.1mTorr未満とすることは好ましくない。手段が制限されるからである。他方、酸素圧が1Torrを超えて増加すると、1Ω×μm2以下程度の超低RA値は達成困難となる。
【0033】
ステップ53(S53)では、ステップ51,52に示した金属の堆積とそれに続く自然酸化という一連の工程を1回以上繰り返す。図1に示した実施の形態によれば、ステップ53において、第2の金属(M2)層を堆積したのち、そのM2層に対して自然酸化を施すことでMOX1 層25の上にMOX2 層26を形成する。MOX2 層26は、MOX1 層25よりも薄いことが好ましい。そののち、ステップ54(S54)において、MOX2 層26の上に、最上部金属層として第3の金属(M3)層を形成する。M3層は、任意のステップ55(S55)の間、実質的に未酸化状態のままである。ステップ55では、不活性プラズマ処理または自然酸化処理を行う。ここでも、最上部金属層(M3層)の上面に対して不活性ガス/酸素を用いた処理を施すことによって、続いて堆積するフリー層との界面性が向上する。
【0034】
最上部金属層(M3層)の上にフリー層30およびキャップ層31を堆積した後、アニール工程を行う。アニール工程によって、最上部金属層(M3層)を第3の金属酸化物層(Mox3層)27に変換する。最上部金属層(M3層)の厚さは、酸化前において、0.05nm以上0.3nm以下である。また、最上部金属層(M3層)は、次に堆積するフリー層が酸化されないように保護する機能も有している。前回のNOX処理の結果、過剰な酸素がMox1層25およびMox2層26のうち1以上の層内に蓄積され、この酸素はフリー層30の内部へ拡散し、フリー層30を酸化させる可能性があると考えられる。フリー層30は金属酸化物の上に直接形成し、金属酸化物はNOX(またはラジカル酸化)処理によって生成する。実際には、最上部金属層は酸素と反応し、トンネルバリア29の積層体内部に、実質的に酸化された最上部金属酸化物層を形成することによって、酸素が各金属酸化物層の外へ拡散しないようにしている。
【0035】
なお、TMRセンサ積層体32のRA値およびMR比は、最上部金属層(のちのMox3層27)の厚さを変化させることによって、および、各NOX工程の自然酸化処理時間と圧力とを変化させることによって調整可能である。トンネルバリア29の酸化は過不足なく行う必要がある。過酸化であると、RA値が望ましくない値にまで増加し、酸化不足であるとdR/R値が低下し、素子の安定性が低下する。酸化不足は、いずれかの金属酸化物層内部における大部分の金属原子が未酸化または低酸化状態のままである状態をいう。他方、過酸化は、金属酸化物層内部における基本的に全ての金属原子が酸素結合した完全酸化状態であり、または、少なくとも1つの金属酸化物層内部に含まれる酸素がさらに存在し、隣接層に拡散可能であることを意味する。
【0036】
図2は、第2の実施の形態としてのTMRセンサ40Bを表す。図2に示したトンネルバリア29は、第1の実施の形態(図1)について説明したのと同じ一連の工程によって形成する。しかしながら、本実施の形態では、ステップ51およびそれに続くステップ52という一連の工程を少なくとも3回行い、それによって、3つの金属酸化物層(Mox1層25,Mox2層26,Mox3層27)からなる積層体を形成する。第1の実施の形態と同様に、Mox2層26は、Mox1層25よりも薄いことが好ましい。さらに、通常、Mox3層の厚さは、Mox2層の厚さよりも小さい。より弱いNOXに適応し、過酸化状態を避けるためである。過酸化状態では、後に続くアニール工程の際、形成したMox3層27内の過剰な酸素が、その上を覆うフリー層30内に拡散するおそれがある。よって、本発明においては、Mox3層27は、Mox1層25およびMox2層26の酸化と比較して、より低いNOX量、すなわち、より低い酸素圧、より少ない酸化時間、またはその双方によって酸化を行なってもよいと考えられる。本実施の形態において、ステップ54では、Mox3層27の上に第4の金属(M4)層を堆積する。これに続くアニール工程の際、最上部金属層としてのM4層は完全酸化され、Mox4層28となる。Mox4層28は上面28sを有する。
【0037】
少なくとも1つのM層としてMgZnまたはAlTiなる合金を選択する実施の形態において、その合金は、MgZnターゲットまたはAlTiターゲットを用いて、または、別々のMgおよびZn(またはAlおよびTi)ターゲットを用いてスパッタ蒸着してもよい。
【0038】
第1および第2の実施の形態に係るTMR素子の製造工程の中間段階において、それぞれ、Mox1/Mox2/M3またはMox1/Mox2/Mox3/M4なるトンネルバリア構造を形成した後、最上部金属層の上にフリー層30を形成する。フリー層30は、ピンド層24のAP1部分について前述した材料のうち1以上の材料によって構成する。フリー層30の上にキャップ層31を形成する。キャップ層31は、例えば、Ru/Ta/RuまたはRu/Taなる構成を有する。これらフリー層30およびキャップ層31の形成を行う前に、最上部金属層に対して不活性ガスを用いたプラズマ処理を施す工程をさらに含むようにしてもよい。あるいは、最上部金属層に対し、自然酸化処理を行うことで、最上金属層を部分的に酸化させるようにしてもよい。一実施の形態において、フリー層30およびキャップ層31は、シード層22、AFM層23およびピンド層24と同じスパッタリングチャンバ内で堆積する。TMR積層体32の各層を堆積する際、必要に応じて、1以上のスパッタ蒸着チャンバを用いてもよい。
【0039】
TMR積層体32を完成させたのち、部分的に形成されたTMRセンサ40(40A,40B)を、真空にされたオーブンに入れ、250℃以上350℃以下の温度で、少なくとも5×106/(4π)[A/m]の磁界を印加し、2時間以上10時間以下の時間に亘ってアニールし、ピンド層24およびフリー層30の磁化方向を設定する。当然ながら、アニール処理の時間および温度によって、下に形成したMox層の内部にある未反応の酸素が最上部金属層へ拡散し、最上部金属層において(完全ではないとしても)実質的な酸化反応が起こる。一定数の金属原子は未酸化のままである可能性があるが、トンネルバリア29の最上層は完全酸化(Mox)状態であると考える。
【0040】
次に、TMR積層体32を従来の処理工程にしたがってパターニングすることで、側壁32sを形成する(図4参照)。パターニングの際には、例えば、キャップ層31の上にフォトレジスト層(図示せず)を形成してもよい。フォトレジスト層をパターニングしてキャップ層31の一定領域を露出させる開口部を形成したのち、イオンビームエッチング(IBE:ion beam etch)または反応性イオンエッチング(RIE:reactive ion etch)工程を施し、開口部に露出した部分のTMR積層体を取り除く。本実施の形態では、エッチング処理を基板21上で終え、TMRセンサ32に上面31tと側壁32sとを形成するようにする。そののち、TMR積層体32の側壁32sおよび基板21の上面を覆うように絶縁層33を堆積する。フォトレジスト層をよく知られたリフトオフ処理によって除去する。あるいは、磁気記録ヘッドを用いた実施の形態の場合には、絶縁層33内に、側壁32sに隣接してバイアス構造(図示せず)を形成することによって、フリー層30の磁化方向を面内方向に向けたまま維持するようにしてもよい。
【0041】
磁気記録ヘッドに搭載されるTMRセンサ40においては、上部シールド34とも呼ばれる上部リード線を、絶縁層33およびTMR積層体32の上に堆積する。下部シールド21と同様に、上部シールド34についても、厚さが約2μmのNiFe層としてもよい。TMRセンサ40は、上部シールド34の上に堆積した第2のギャップ層(図示せず)をさらに含んでもよい。
【0042】
また、MRAMに搭載されるTMRセンサ40の場合には、TMR素子32の上面31tの上に、ビット線等の上部導体34を形成する。
【実施例】
【0043】
本発明に関する実験を行い、TMRセンサの内部に、本発明の実施の形態に従って形成したトンネルバリアを設けることによって、その性能が向上することを実証した。
【0044】
比較例として、米国特許出願公開第2007/0111332号において既に開示されているMgO/Mgなる2層構造の形成工程にしたがって、実験例Aによって示すTMR積層体を準備した。
【0045】
実験例Bおよび実験例Dによって示すサンプルは、それぞれ、上記第1および第2の実施の形態にしたがって作製したものである。全ての実験例のTMR積層体は、トンネルバリアの構成が相互に異なることを除き、他は同様の構造を有する。各実験例におけるトンネルバリアは、表1に記載した構造をそれぞれ有している。具体的には、全ての実験例は、「Ta/Ru/IrMn/CoFe/Ru/FeCoB/トンネルバリア/CoFe/CoFeB/CoFeBTa/NiFe/Ru/Ta」なる積層構造を有している。すなわち、Ta/Ruからなるシード層と、IrMnからなるAFM層と、CoFe(2.4nm厚)/Ru(0.75nm厚)/CoFe(2.3nm厚)からなるピンド層と、CoFe(0.3nm厚)/CoFeB(2nm厚)/CoFeBTa(0.8nm厚)/NiFe(4nm厚)からなるフリー層と、Ru(1nm厚)/Ta(6nm厚)からなるキャップ層とを有する。ここでは各層の厚さを、その層の組成の後に示す。TMR積層体32をNiFeからなる基板21の上に形成し、真空状態下において、280℃の温度で、5時間に亘って8×106/(4π)[A/m]の磁界を印加することでアニールした。
【0046】
本発明の利点は、トンネルバリアが2層構造(実験例A)であるMTJ素子と同様に60%程度の高MR比を維持し、フリー層の磁気特性に影響することなく、1Ω×μm2程度の超低RA値を実現可能な点である。実験例Dでは、アニール工程ののちに、トンネルバリア内に4つのMgO層が形成されるようにし、0.6μmの直径を有する円形の平面形状のTMRセンサにおいて、RA値1.0Ω×μm2、MR比62%を達成した。各実験例におけるNOX処理としては、酸化対象とするMg層の厚さに応じて、酸素圧が0.001mTorr以上1mTorr以下の雰囲気に5秒以上100秒以下の時間に亘ってそのMg層を曝すようにした。
【0047】
【表1】
【0048】
実験例Aと実験例Bとの比較により、あるいは実験例Cと実験例Dとの比較により、同じRA値であれば、トンネルバリアの積層数が多いほどdR/Rは向上し、トンネルバリアの品質が全体として向上することを実証している。また、実験例Aと実験例Dとの比較により、4つの金属酸化物層を含むトンネルバリアを用いることによって、従来の2層構造よりも、RA値を低下させるとともにdR/Rを向上させることが可能であることを実証している。本発明に係る多層金属酸化物トンネルバリア積層体を用いることによって、バリア品質が向上する結果、素子の安定性、寿命、および信号対雑音比(SNR)の全てが向上する。トンネルバリア層全体の厚さを以前のレベルのまま維持し、トンネルバリアを薄くすることによる破壊電圧の低下を避けてもよい。当然ながら、ここに説明する利点を実現する際、スループットに対して大きく悪影響を及ぼすことはない。金属の堆積工程および自然酸化工程を増加させることは、製造工程全体においては、わずかな調整にすぎないからである。
【0049】
本発明を、好適な実施の形態を参照して具体的に示し、説明したが、当業者であれば理解できるように、本発明の精神と範囲から逸脱しなければ、形式や詳細において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
21…基板、22…シード層、23…AFM層、24…ピンド層、24s…上面、25…第1の金属酸化物(Mox1)層、26…第2の金属酸化物(Mox2)層、27…第3の金属酸化物(Mox3)層、29…トンネルバリア、30…フリー層、31…キャップ層、32…TMR積層体、34…上部シールド、40A…TMRセンサ。
図1
図2
図3
図4