(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、2つのステップを経ることで完成するに至った。始めに、この2つのステップを説明する。
第1ステップにおいては、以下の方策を犠牲材に施すことで、ろう付性や融点を満足しつつ高強度な合金を得ることができた。
[第1ステップ]
(a)犠牲材のMg量を1.0〜2.5%と、特許文献1の2.0〜5.0%よりも低く設定することでろう付性を確保した。
(b)犠牲材のSi量を0.1〜0.4%と低くすることで融点の向上を図って、ろう付時に犠牲材が局部溶融するのを阻止するとともに、ろう付後(製品製造後)の時効硬化性を向上させた。
(c)犠牲材のMg量、Si量を特許文献1よりも少なくしたことで、ろう付直後の強度が不足する懸念がある。これを補うため、芯材の結晶粒径を微細にすることで結晶粒界を介した犠牲材から芯材へのMgの拡散を促進させ、ろう付後に芯材に供給されるMg量を増加させることで強度および時効硬化性を向上させた。
(d)犠牲材のZn量を増加させるとともにMg含有量に対するZn含有量をZn/Mg≧3とすることでろう付後の室温時効硬化性が高まり、ろう付後すぐから高強度が得られるようにした。
【0008】
以上の第1ステップの方策により、ろう付性、犠牲材の融点を満足しつつ、ろう付直後の強度が高く、かつ、ろう付後(製品製造後)の時効硬化性に優れ熱交換器として使用中にも高強度が得られるブレージングシートを得た。
しかしながら、犠牲材へ多量に添加したMg及びZnが製造工程中の焼鈍後にMgZn
2として析出して犠牲材の強度が必要以上に高くなってしまい、犠牲材と芯材の強度差が大きくなることで、造管性(成形性)が低下してしまう。また、そもそも薄肉材では成形性が低下してしまうことに加え、第1ステップによる材料では添加成分の増加によって犠牲材そのものの成形性も低下してしまう。このように第1ステップの方策のみでは、ろう付後の高強度は得られるものの成形性をも兼ね備えることが困難であった。そこで、第2ステップとして以下に示す方策を実施することで、成形性の向上を図りつつろう付後の高強度と素材の成形性を両立し、本発明にかかるプレージングシートを得るに至った。
【0009】
[第2ステップ]
(A)本発明材のように犠牲材のMg及びZnが多い合金は素材製造時の焼鈍後に時効硬化しやすく、犠牲材が芯材よりも高強度となりやすいが、焼鈍温度を300℃以下とすることで犠牲材の時効硬化を抑制することができる。
(B)芯材及び犠牲材の組織は特許文献1では再結晶組織であるが、これを繊維状組織とすることで薄肉材であっても成形性を向上させることができる。さらに、繊維状組織とするためには、最終圧延前の焼鈍温度を250℃以下にすればよい。
(C)本発明では焼鈍後の時効硬化抑制のための焼鈍温度条件と、繊維状組織とするための焼鈍温度条件とに重なっている温度域が存在する。そこで、焼鈍温度を300℃以下かつ、芯材および犠牲材が繊維状組織となる温度で焼鈍することで成形性を向上させられる。
以上の第2ステップの方策により、ろう付性、犠牲材の融点を満足しつつ、ろう付後の強度が高く、かつ素材の成形性に優れるブレージングシートが得られた。
【0010】
次に、本発明における成分限定理由を説明する。
[芯材]
[Mn:1.0〜1.8%]
Mnはマトリックス中にAl-Mn-Si系、Al-Mn-Fe系、Al-Mn-Fe-Si系金属間化合物を微細に形成し、材料の強度を高める効果がある。
しかし、その含有量が1.0%未満ではその効果が十分発揮されず、1.8%を超えると鋳造時に巨大な金属間化合物を生成するため材料の成形性が低下してしまう。
より好ましいMnの範囲は1.1〜1.8%であり、さらに好ましいMnの範囲は1.2〜1.7%である。
【0011】
[Si:0.5〜1.2%]
Siはろう付時に犠牲材から拡散したMgと微細なMg-Si化合物を形成することで強度を高める効果に加え、時効硬化性を高める効果がある。ここでいう時効硬化性とは、熱交換器として使用している最中の強度の上昇しやすさをいう。またSiは、マトリックス中にAl-Mn-Si系、Al-Mn-Fe-Si系金属間化合物を微細に形成し、材料の強度を高める効果がある。
しかし、その含有量が0.5%未満ではその効果が十分発揮されず、1.2%を超えると材料の融点が低下してしまう。
より好ましいSiの範囲は0.5〜1.1%であり、さらに好ましいSiの範囲は0.6〜1.1%である。
【0012】
[Fe:0.1〜0.4%]
Feはマトリックス中に粗大なAl-Mn-Fe系、Al-Mn-Fe-Si系金属間化合物を形成して、ろう付熱処理後の結晶粒径を小さくすることにより、ろう付時の犠牲材から芯材へのMg拡散を促進させることで強度を高める効果がある。
しかし、その含有量が0.1%未満ではその効果が十分発揮されず、0.4%を超えると耐ろう侵食性が低下してしまう。
好ましいFeの範囲は0.15〜0.40%であり、さらに好ましいFeの範囲は0.20〜0.38%である。
【0013】
[Cu:0.5〜1.5%]
Cuはマトリックス中に固溶し、材料の強度を高める効果に加え、芯材の電位を貴として犠牲材との電位差が大きくなるため耐食性を向上させる効果がある。
しかし、その含有量が0.5%未満ではその効果が十分発揮されず、1.5%を超えると材料の融点が低下してしまう。
好ましいCuの範囲は0.6〜1.2%、さらに好ましいCuの範囲は0.7〜1.1%である。
【0014】
[結晶粒径]
ろう付熱処理後の芯材の結晶粒径が微細なほど、犠牲材から芯材へのMg拡散が促進されるため材料の強度が向上する効果がある。しかし、結晶粒径が微細すぎるとMg拡散が促進されすぎてろう付性が低下し、また、ろう材側の耐ろう侵食性が低下してしまう。また、上限を超えるとMg拡散を促進する効果が十分に得られない。そこで、芯材のろう付後の平均結晶粒径を30〜200μmの範囲にする。
【0015】
[犠牲材]
[Zn:4.1〜7.0%]
Znはろう付後のごく短時間のうちにMgと微細なMg-Zn化合物を形成してろう付後の強度を高める効果がある。また、Znは電位を卑にすることで芯材との電位差を大きくし、ブレージングシートの耐食性を向上させる効果、つまり腐食深さを低減する効果がある。
しかし、その含有量が4.1%未満ではその効果が十分発揮されず、7.0%を超えると融点が低下し、また、腐食速度が速くなりすぎて犠牲材層が早期に消失する結果、腐食深さが増加、換言すると耐孔食性が低下してしまう。好ましいZnの範囲は4.5〜7.0%、さらに好ましいZnの範囲は4.8〜6.8%である。
【0016】
[Mg:1.2〜2.5%]
Mgはろう付時に芯材へ拡散して、MgとSiが共存する領域において、Siと微細なMg-Si化合物を形成して材料の強度を向上させる効果がある。
しかし、その含有量が1.2%未満ではその効果が十分発揮されず、2.5%を超えるとろう付性が低下してしまう。好ましいMgの範囲は1.2〜2.2%、さらに好ましい範囲は1.3〜2.0%である。
【0017】
[Si:0.1〜0.4%]
SiはMgと微細なMg-Si化合物を形成することで材料の強度を向上させる効果がある。
しかしその含有量が0.1%未満ではその効果が十分発揮されず、0.4%を超えると犠牲材の融点が低下してろう付時に犠牲材が溶融してしまう。
好ましいSiの範囲は0.13〜0.35%、さらに好ましい範囲は0.15〜0.32%である。
【0018】
[Zn/Mg≧3]
Si量が0.4%以下、Mg量が1.2%以上の範囲にある合金においてZn/Mgの比を3以上とすると、ろう付後のごく短時間にMgとZnがMg-Zn化合物を形成しやすくろう付直後の強度を向上させる効果がある。
【0019】
[実施例]
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
[材料の製造工程]
以下の要領でクラッド材を作製した。
半連続鋳造により芯材用アルミニウム合金、犠牲材用アルミニウム合金、およびろう材用合金(JIS A4045合金)を鋳造した。得られた芯材、犠牲材およびろう材は各々、600℃、450℃、450℃で均質化処理を行った。なお、ろう材は上記合金に限定されるわけではなく、4343合金、4047合金、また4045合金、4343合金、4047合金等にZnを含有する合金、またMg、Cu、Li等を含有する合金を用いることもできる。
芯材の鋳塊の片面に犠牲材を、他の片面にろう材を組み合わせて熱間圧延し、クラッド材とした。さらに所定の厚さまで冷間圧延を行った。その後、中間焼鈍を行い、最終の冷間圧延により厚さ0.20mmのH14調質のクラッド材を作製した。なお、中間焼鈍は上記条件に限定されるものではない。クラッド材の構成は、犠牲材:芯材:ろう材=20%:70%:10%とした。ただし、上記クラッド率はこれに限定されるものではなく、例えば、犠牲材のクラッド率を15%や17%にしてもよい。
【0020】
得られたクラッド材(芯材、犠牲材)の化学組成は表1〜3に示すとおりである。
これらクラッド材について、以下の評価を行った。評価結果を表1〜3に併せて示す。
[素材の状態の芯材、犠牲材組織]
作製したクラッド材について、板厚方向と垂直な断面を研磨してミクロ組織を顕微鏡で観察することにより芯材、犠牲材の組織を調査(倍率:100,視野数:20)した。なお、本発明における素材の状態とは、ろう付け熱処理が施される前の状態をいう。
[ろう付熱処理後の結晶粒径]
作製したクラッド材を高純度窒素ガス雰囲気中、ドロップ形式で600℃×3minのろう付相当熱処理(室温から595℃まで昇温時間は5〜7分)を施した。ろう付相当熱処理を実施したサンプルは圧延方向平行断面を樹脂埋め後、鏡面に研磨した後、エッチング液で結晶粒を現出させ、試料の3箇所について光学顕微鏡で100倍、結晶粒径が微細で観察が困難なものについては200倍で写真撮影した。撮影した写真から圧延方向について切断法で結晶粒径を測定した。
【0021】
[ろう付後強度、時効硬化後の強度]
作製したクラッド材を高純度窒素ガス雰囲気中でドロップ形式で600℃×3minのろう付相当熱処理(室温から595℃まで昇温時間は5〜7分)を施した。ろう付直後の強度を測定するための試料として25℃で1日放置後、また、時効硬化後の強度を測定するための試料としてさらに80℃で7日時効処理を施した後に圧延方向と平行にサンプルを切り出し、JIS13号B試験片を作製し、引張試験を実施して引張強さを測定した。
【0022】
[フィンの接合率]
作製した材料を板厚0.06mmのAl-Mn-Zn系ベアフィン材と組み合わせてミニコア試験片を作製し、浸漬塗布でフラックスを5g/m
2相当塗布した後、高純度窒素ガス雰囲気中で600℃×3minのろう付熱処理(室温から595℃まで昇温時間は5〜7分)を施した。ろう付後のフィン接合長さをろう付前のフィンとチューブの接触長さで割って接合率を求めた。
【0023】
[耐ろう侵食性(エロージョン深さ)]
作製した材料を高純度窒素ガス雰囲気中でドロップ形式で600℃×3minのろう付相当熱処理(室温から595℃まで昇温時間は5〜7分)を施した。ろう付相当熱処理を実施したサンプルを樹脂埋めし、圧延方向平行断面を鏡面研磨し、バーカー氏液で組織を現出後、光学顕微鏡で観察してろう侵食深さを測定した。
【0024】
[犠牲材の溶融]
作製した材料を高純度窒素ガス雰囲気中でドロップ形式で600℃×3minのろう付相当熱処理(室温から595℃まで昇温時間は5〜7分)を施した。ろう付相当熱処理を実施したサンプルを樹脂埋めし、圧延方向平行断面を鏡面研磨し、バーカー氏液で組織を現出後、犠牲材の溶融の有無を観察した。
[内部耐食性(腐食深さ)]
ろう付熱処理後のサンプルから30×50mmのサンプルを切り出し、犠牲材側について、Cl
-:195ppm、SO
42-:60ppm、Cu
2+:1ppm、Fe
3+:30ppmを含む水溶液中で80℃×8hr→室温×16hrのサイクルで浸漬試験を8週間実施した。腐食試験後のサンプルを沸騰させたリン酸クロム酸混合溶液に浸漬して腐食生成物を除去した後、最大腐食部の断面観察を実施して腐食深さを測定した。
[成形性]
作製した材料を犠牲材が内側となるようにして、電縫チューブ形状に加工した。加工したチューブの断面を樹脂に埋め込んで、光学顕微鏡で寸法を測定し目的とした形状(寸法)からのズレを測定した。
【0025】
以上の評価項目における基準は以下の通りである。
[ろう付直後の強度] ×:180MPa未満、○:180〜184MPa、◎:185MPa以上
[時効後の強度] ×:210MPa未満、○:210〜229MPa、◎:230MPa以上
[フィン接合率] ×:89%以下、○:90〜94%、◎:95〜100%
[耐ろう侵食性] ×:侵食深さ60μm以上、○:侵食深さ60μm未満
[犠牲材の溶融] ×:ろう付相当熱処理時に溶融したもの、○:未溶融のもの
[耐食性] ×:腐食深さが板厚の半分以上、○:腐食深さが板厚の半分未満
[成形性] ×:狙い寸法からのズレが0.1mmを超えたもの、○:狙い寸法からのズレが0.1mm以下のもの
[総合評価]
◎:ろう付直後の強度が◎、時効後の強度が◎、フィン接合率が◎、ろう侵食が○、
犠牲材の溶融が○、耐食性が○、成形性が○
○:ろう付直後の強度が○以上、時効後の強度が○以上、フィン接合率が◎、ろう侵食が○、
犠牲材の溶融が○、耐食性が○、成形性が○
×:いずれかの項目に×があるもの