(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の複合粒子の製造方法について詳説する。
【0018】
<複合粒子の製造方法>
当該複合粒子の製造方法は、
(1)珪酸アルカリ塩及び鉱酸により無機粒子にシリカを複合し、シリカ複合粒子を得るシリカ複合工程、並びに
(2)アルミニウム塩により上記シリカ複合粒子にアルミニウムを含有させ、アルミ処理シリカ複合粒子を得るアルミニウム処理工程
を有する。
【0019】
当該複合粒子の製造方法は、上記シリカ複合工程前に、凝結剤により無機粒子の凝結体を得る無機粒子凝結工程をさらに備えることが好ましい。
【0020】
当該複合粒子の製造方法に用いられる
図1の装置は、凝結反応槽1、第一シリカ複合反応槽2、第二シリカ複合反応槽3、アルミニウム処理反応槽4、及び貯槽5をこの順に備える。
【0021】
複合粒子の原料となる無機粒子X1は、市販あるいは予め微粒子状に粉砕された無機粒子が使用される。無機粒子X1は、そのままシリカを複合してもよいが、凝結反応槽1において凝結剤Gによって凝結されて無機粒子凝結体X2とすることが好ましい。この無機粒子凝結体X2は、第一シリカ複合反応槽2及び第二シリカ複合反応槽3において珪酸アルカリ溶液Lと鉱酸Nとによるシリカ複合反応によってシリカ複合粒子X3となる。最後に、シリカ複合粒子X3は、アルミニウム塩反応槽4においてアルミニウム塩Aにより処理されてアルミ処理シリカ複合粒子X4となり、貯槽5に貯留された後、填料や顔料として抄紙工程へ供給される。
【0022】
(無機粒子X1)
当該複合粒子の製造方法で用いる無機粒子X1は特に限定されるものではなく、例えば、炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、クレー、焼成クレー、合成ゼオライト等を用いることができる。これらの中でも白色度及び不透明度が高く、コストも比較的低い炭酸カルシウムが好ましく、中でも重質炭酸カルシウムが特に好ましい。
【0023】
上記炭酸カルシウムとしては、天然石灰石を乾式あるいは湿式で機械粉砕して得られる重質炭酸カルシウム、もしくは生石灰又は消石灰に二酸化炭素を吹き込み、中和反応により製造される軽質炭酸カルシウム(沈降性炭酸カルシウム)を用いることができる。軽質炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムに比べて均一な結晶構造を有するため、抄紙工程におけるワイヤーの摩耗を低減することができるほか、より高い白色度及び不透明度を紙に付与することができる。一方で、重質炭酸カルシウムは、生産コストが安価であるが、物理的な粉砕によって製造されるため不定型でブロードな粒度分布の構成を呈することからワイヤーの摩耗性が高く、内添用の填料として用いられることが少なかったが、当該製造方法において複合粒子とすることで抄紙工程におけるワイヤーの摩耗を低減することが可能となるため、複合粒子の原料として好適に用いることができる。
【0024】
<粒径調節工程>
当該製造方法においては、無機粒子X1の体積平均粒子径を凝結やシリカ複合に好適な範囲とするための粒径調節工程を行うことが好ましい。この粒径調節工程においては、無機粒子X1の体積平均粒子径が好適な範囲となるように粉砕、分級等を行う。無機粒子X1の粉砕手段として用いられる粉砕機としては、例えば、ジェットミル、高速回転式ミル等の乾式粉砕機、又はアトライター、サンドグラインダー、ボールミル等の湿式粉砕機等を用いることができる。
【0025】
上記無機粒子X1の体積平均粒子径は、特に限定されるものではないが、その下限としては、0.2μmが好ましく、1.0μmがさらに好ましい。一方、無機粒子X1の体積平均粒子径の上限としては、10.0μmが好ましく、5.0μmがさらに好ましい。無機粒子X1の体積平均粒子径が上記下限未満の場合は、十分な粒子径の凝結体を得るのに多数の粒子による凝結が必要となって凝結体が脆くなるため、抄紙工程において凝結体が崩れて複合粒子の歩留りが十分に得られないおそれがある。逆に、無機粒子X1の体積平均粒子径が上記上限を超える場合は、無機粒子X1の粒度分布がブロードになって、凝結を行ってもシャープな粒度分布が得られず、結果としてシリカ複合効果やアルミニウム塩によるシリカ複合粒子の表面改質効果が不十分となるおそれがあるほか、粗大な粒径の無機粒子の存在により当該製造方法で得られる複合粒子を添加した紙の品質が劣化するおそれがある。
【0026】
<(1)無機粒子凝結工程>
(1)無機粒子凝結工程においては、凝結反応槽2にて上記無機粒子X1を凝結剤Gによって凝結することによって、無機粒子凝結体X2を得る。
【0027】
(凝結剤G)
上記無機粒子凝結工程において用いる凝結剤Gとしては、特に限定されるものではなく、公知の合成系凝結剤を用いることができるが、無機粒子X1を適度な粒子径へ凝結させ易いカチオン性の凝結剤が好ましい。このカチオン性凝結剤としては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、カチオン性ポリアクリルアミド等を用いることができる。
【0028】
上記凝結剤Gの質量平均分子量の下限としては、10万が好ましく、20万がさらに好ましい。一方、凝結剤Gの質量平均分子量の上限としては、150万が好ましく、80万がさらに好ましい。凝結剤Gの分子量を上記範囲とすることで、無機粒子X1を好適に凝結させることができる。凝結剤Gの質量平均分子量が上記下限未満の場合は、十分な凝結力が得られないおそれがある。逆に、凝結剤Gの質量平均分子量が上記上限を超える場合は、過度に粒径が大きい無機粒子凝結体X2が形成され、粒度分布がブロードになって歩留まりが低下するおそれや、無機粒子凝結体X2のスラリーに凝結剤Gを添加した場合に、粘度が高くなりすぎて作業性や歩留りが低下するおそれがある。特に、無機粒子凝結体X2のスラリーの粘度が500cpsを超えると、無機粒子凝結体X2のスラリーを移送するポンプの負荷が大きくなるおそれや、複合粒子のパルプ原料との混合性が低下するおそれがある。また、抄紙系内の汚れが顕在化する不都合が生じるおそれがある。なお、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)を用いて測定した数値である。
【0029】
また、上記凝結剤Gのカチオン電荷密度の下限としては、3meq/gが好ましく、5meq/gがさらに好ましい。一方、このカチオン電荷密度の上限としては、25meq/gが好ましく、20meq/gがさらに好ましい。凝結剤Gのカチオン電荷密度を上記範囲とすることで、無機粒子X1を好適に凝結させることができる。凝結剤Gのカチオン電荷密度が上記下限未満の場合は、十分な凝結力が得られないおそれがある。逆に、凝結剤Gのカチオン電荷密度が上記上限を超える場合は、無機粒子X1の表面全体がカチオン電荷を帯びることによって、電荷による反発で凝結が生じにくくなる場合があるほか、過度に粒径が大きい無機粒子凝結体X2が形成され、粒度分布がブロードになって歩留まりが低下するおそれがある。なお、このカチオン電荷密度は、凝結剤として複数の成分を用いる場合は、その凝結剤全体としてのカチオン電荷密度をいう。
【0030】
本発明において、上記カチオン電荷密度は以下の方法で測定した値である。まず、試料をpH4.0の水溶液に調整した後、流動電位法に基づく粒子荷電測定装置(Muteck PCD−03)にて、1/1000規定のポリビニル硫酸カリウム水溶液を用いた滴定によって、アニオン要求量を測定する。得られたアニオン要求量を用いて下記式(1)によって、試料1gあたりのカチオン電荷密度(meq/g)を計算する。
カチオン電荷密度=A/B×1000 (1)
A:pH4.0に調整した凝結剤水溶液のアニオン要求量(μeq/l)
B:凝結剤水溶液の固形分濃度(g/l)
【0031】
なお、このように無機粒子X1の凝結においては、質量平均分子量とカチオン電荷密度との両方において上述の好ましい範囲を有する凝結剤Gを用いることが、無機粒子X1の凝結性とスラリーの増粘抑制との両方を好適に達成することができるため好ましい。この理由は定かではないが、例えば、凝結に係る理由としては、無機粒子X1の表面の電荷分布にバラツキがあるため、所定範囲の分子量及びカチオン電荷密度を有するカチオン性合成高分子を用いることで電気的な凝結作用が発揮できるためであると考えられる。
【0032】
(無機粒子スラリー)
上記凝結剤Gによって無機粒子X1を凝結させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、無機粒子X1を水に分散させて無機粒子スラリーとし、この無機粒子スラリーに凝結剤Gを添加し、攪拌する方法を用いることができる。このとき使用する攪拌装置としては、例えば、プロペラ羽根、タービン羽根、パドル翼等を用いることができる。
【0033】
上述の無機粒子スラリーに凝結剤Gを添加する方法を用いる場合は、無機粒子スラリーにおける無機粒子X1の固形分濃度としては、特に限定されるものではないが、10質量%以上30質量%以下が好ましい。無機粒子スラリーの濃度を上記範囲とすることで、無機粒子X1の凝結性の効率化とスラリー粘度の上昇の抑制との両立を図ることができる。無機粒子スラリーの濃度が上記下限未満の場合は、凝結剤Gを添加しても、無機粒子X1が好適なサイズにまで凝結しないおそれがある。逆に、無機粒子スラリーの濃度が上記上限を超える場合は、粘度が高すぎて作業性が低下したり、また、無機粒子凝結体X2の粒度分布がブロードになって、歩留まりが低下したりするおそれがある。
【0034】
凝結剤Gは水溶液として無機粒子スラリーに添加することが好ましい。また、凝結剤Gの添加量としては、無機粒子X1の固形分に対して、固形分換算で100ppm以上3000ppm以下が好ましい。凝結剤Gの添加量が上記下限未満の場合は、無機粒子X1を十分に凝集させることができず、歩留まりの向上効果が発揮されない場合がある。逆に、凝結剤Gの添加量が上記上限を超える場合は、スラリーの増粘が顕著に生じるおそれや、三次、四次凝集が生じ、当該製造方法で得られる複合粒子を添加した紙の紙力が低下するおそれがある。
【0035】
(無機粒子凝結体X2)
無機粒子凝結工程を経て得られる無機粒子凝結体X2の体積平均粒子径としては、無機粒子X1の体積平均粒子径の1.1倍以上10.0倍以下が好ましく、1.2倍以上8.0倍以下がさらに好ましく、1.3倍以上6.0倍以下が特に好ましい。また、無機粒子凝結体X2の体積平均粒子径の下限としては、0.45μmが好ましく、1.0μmがさらに好ましく、1.2μmが特に好ましい。一方、無機粒子凝結体X2の体積平均粒子径の上限としては、10.5μmが好ましく、8.4μmがさらに好ましく、6.2μmが特に好ましい。無機粒子凝結体X2の体積平均粒子径を上記範囲とすることで、抄紙工程における複合粒子の歩留まりを効率的に向上させることができる。無機粒子凝結体X2の体積平均粒子径が無機粒子X1の体積平均粒子径の1.1倍未満又は0.45μm未満の場合は、当該製造方法によって得られる複合粒子の歩留りの向上効果が発揮されないおそれがある。逆に、無機粒子凝結体X2の体積平均粒子径が無機粒子X1の体積平均粒子径の10.0倍を超える場合は、凝結体が脆くなるため、抄紙工程において凝結体が崩れて複合粒子の歩留りが十分に得られないおそれがある。また、無機粒子凝結体X2の体積平均粒子径が10.5μmを超える場合は、無機粒子凝結体X2により得られる複合粒子を添加した紙に紙面劣化等が生じるおそれがある。なお、無機粒子凝結体X2の体積平均粒子径は、凝結剤Gの添加量、無機粒子X1の体積平均粒子径等によって調節することができる。
【0036】
<(2)シリカ複合工程>
(2)シリカ複合工程においては、上記工程で得られた無機粒子凝結体X2にシリカを複合させて、シリカ複合粒子X3を得る。
【0037】
本発明において、無機粒子凝結体X2にシリカを複合させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の方法が好適に用いられる。まず、無機粒子凝結体X2を珪酸アルカリ溶液Lに添加して分散させスラリーを調製する。その後、このスラリーの液温が70〜100℃となるように加熱攪拌しながら、密閉容器内で所定の圧力に保持して鉱酸Nを添加し、シリカゾルを生成させ、最終反応液のpHを8.0〜11.0の範囲に調整することによって、無機粒子凝結体X2の表面にシリカを析出させることができる。この無機粒子凝結体X2の表面に析出されるシリカは、珪酸アルカリを原料として、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸の希釈液と高温下で反応させ、加水分解反応と珪酸の重合化により得られるシリカゾル微粒子からなる。なお、シリカゾル微粒子の粒子径は、反応時の攪拌条件、鉱酸の添加条件等によって調節することができる。
【0038】
珪酸アルカリ溶液Lに硫酸などの鉱酸Nを添加することにより生成する数nm程度のシリカゾル微粒子を無機粒子凝結体X2の表面全体を被覆するように付着させることによって、シリカゾルの結晶が成長し、無機粒子凝結体X2の表面上のシリカゾル微粒子と無機粒子凝結体X2が含有するカルシウムとの間で結合が生じ、無機粒子凝結体X2の表面にシリカを析出させることができる。
【0039】
本工程における無機粒子凝結体X2を珪酸アルカリ溶液Lに添加して分散させたスラリーにおける無機粒子の濃度の下限としては、95g/Lが好ましく、100g/Lがさらに好ましく、105g/Lが特に好ましい。一方、無機粒子の濃度の上限としては、300g/Lが好ましく、250g/Lがさらに好ましく、200g/Lが特に好ましい。無機粒子の濃度が上記範囲未満の場合は、シリカ生成反応が鈍くなり複合粒子の生産性が悪化するおそれがある。逆に、無機粒子の濃度が上記範囲を超える場合は、スラリーの粘度が上昇して無機粒子の分散性が低下するおそれがある。
【0040】
本工程における攪拌時の上記スラリーの温度としては70℃以上100℃以下が好ましい。スラリーの温度はシリカゾルの生成及び成長に影響を及ぼすため、スラリーの温度が上記範囲未満の場合は、シリカが生成されないおそれや、シリカゾルの生成及び成長の速度が遅くなってシリカが十分な強度で無機粒子と複合されないため、抄紙時にシリカが剥離するおそれがある。逆に、スラリーの温度が上記範囲を超える場合は、製造が困難になるほか、無機粒子凝結体X2の表面に緻密にシリカが形成されるため、シリカ複合粒子X3の吸油度が低下するおそれがある。
【0041】
(珪酸アルカリ溶液L)
本工程において用いる珪酸アルカリ溶液Lは、特に限定されるものではないが、珪酸ナトリウム溶液(3号水ガラス)を用いることが入手性の点で好ましい。
【0042】
珪酸アルカリ溶液L中の珪酸濃度の下限としては、6g/Lが好ましく、8g/Lがさらに好ましく、10g/Lが特に好ましい。一方、珪酸濃度の上限としては、18g/Lが好ましく、16g/Lがさらに好ましく、14g/Lが特に好ましい。珪酸濃度が上記範囲未満の場合は、シリカゾルが十分に生成されないため、シリカが複合されない無機粒子凝結体X2が生じるおそれがある。逆に、珪酸濃度が上記範囲を超える場合は、シリカゾルではなくホワイトカーボンが生成され、無機粒子凝結体X2がホワイトカーボンで被覆されることによって、無機粒子の多孔性が失われ、当該製造方法によって得られる複合粒子の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。
【0043】
本工程における珪酸アルカリ溶液の添加量は、無機粒子凝結体X2のスラリー中の珪酸濃度(SiO2換算)が5質量%以上15質量%以下となる量が好ましい。珪酸濃度が上記範囲未満の場合は、シリカ複合効果が弱化して、当該製造方法によって得られる複合粒子の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。逆に、珪酸濃度が上記範囲を超える場合は、当該製造方法で得られる複合粒子が添加された紙の塗工液の吸収能力が大きくなるため、塗工層を設ける場合に塗工層表面の平坦性が低下するおそれがある。
【0044】
(鉱酸N)
本工程で用いる鉱酸Nとしては、特に限定されるものではなく、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等を用いることができる。これらの中でも、コスト及びハンドリングの観点から硫酸が特に好ましい。本工程で用いる鉱酸Nの濃度としては、0.1mol/L以上5.0mol/L以下が好ましい。鉱酸Nの濃度が上記範囲未満の場合は、シリカの生成速度が遅くなってシリカが十分形成されないおそれがある。逆に、鉱酸Nの濃度が上記範囲を超える場合は、局部的な反応が生じて、シリカが偏在して形成され、得られる複合粒子の歩留り向上効果等が低下するおそれがある。また、本工程における鉱酸Nの添加量は、珪酸アルカリの中和率が50%以上75%以下となる量が好ましい。
【0045】
本工程におけるシリカ析出時の反応液は中性から弱アルカリ性の範囲が好ましく、pHは8.0以上11.0以下が好ましく、8.5以上10.5以下がさらに好ましい。pHが上記範囲未満の場合は、鉱酸の過剰添加により、無機粒子に含まれるカルシウム成分が水酸化カルシウムに変化しやすくなり、スラリーの粘度が増大するおそれがある。また、シリカゾルではなくホワイトカーボンが生成し、当該製造方法によって得られる複合粒子の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。逆に、pHが上記範囲を超える場合は、珪酸アルカリと鉱酸との反応が鈍って無機粒子凝結体X2の表面にシリカが析出されにくくなるため、当該製造方法によって得られる複合粒子の不透明性が低下するおそれがある。
【0046】
(シリカ複合粒子X3)
本工程を経て得られるシリカ複合粒子X3の体積平均粒子径の下限としては、0.5μmが好ましく、0.6μmがより好ましい。一方、シリカ複合粒子X3の体積平均粒子径の上限としては、10.0μmが好ましく、9.7μmがより好ましい。シリカ複合粒子X3の体積平均粒子径が上記範囲未満の場合は、当該製造方法によって得られる複合粒子の歩留り向上効果が十分得られないおそれがある。逆に、シリカ複合粒子X3の体積平均粒子径が上記範囲を超える場合は、当該製造方法によって得られる複合粒子を添加した紙に紙面劣化等が生じるおそれがある。
【0047】
シリカ複合粒子X3における酸化物換算でのシリカの比率としては、6.0質量%以上42.0質量%以下が好ましい。シリカの比率が上記範囲未満の場合は、無機粒子凝結体X2の表面が十分に被覆されていないため、当該製造方法によって得られる複合粒子の歩留り向上効果が低下するおそれがある。逆に、シリカの比率が上記範囲を超える場合は、シリカの析出量が過度となり、当該製造方法によって得られる複合粒子の白色度、不透明度及び吸油度が低下するおそれがある。
【0048】
<(3)アルミニウム処理工程>
(3)アルミニウム処理工程においては、アルミニウム塩Aにより上記シリカ複合粒子を処理してアルミ処理シリカ複合粒子X4を得る。
【0049】
(アルミニウム塩A)
本工程で用いるアルミニウム塩Aは、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、アルミン酸ソーダ等を用いることができる。これらの中でも、得られる複合粒子の歩留りの向上効果と製造コスト低減効果を有する硫酸バンドが特に好ましい。
【0050】
上記工程で得られたシリカ複合粒子X3をアルミニウム塩Aによって処理する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、シリカ複合粒子X3のスラリーにアルミニウム塩Aを添加する方法を用いることができる。
【0051】
アルミニウム塩Aの添加量は、反応完了時のpHが好ましくは6.8〜9.2、より好ましくは7.2〜9.0となる量を添加することが好ましい。アルミニウム塩Aの添加量の下限としては、シリカ複合粒子X3の100質量部に対して18質量部が好ましく、23質量部がさらに好ましく、28質量部が特に好ましい。一方で、アルミニウム塩Aの添加量の上限としては、48質量部が好ましく、43質量部がさらに好ましく、38質量部が特に好ましい。アルミニウム塩Aの添加量が上記上限未満の場合は、シリカ複合粒子X3の処理が十分で、また、パルプ原料との結合力が弱まり、歩留まりの向上効果が発揮されない場合がある。逆に、アルミニウム塩Aの添加量が上記上限を超える場合は、生産コストが高くなるばかりで、歩留り向上の効果が頭打ちとなるおそれがある。
【0052】
(アルミ処理シリカ複合粒子X4)
本工程を経て得られるアルミ処理シリカ複合粒子X4の体積平均粒子径の下限としては、1.0μmが好ましく、1.3μmがより好ましい。一方、アルミ処理シリカ複合粒子X4の体積平均粒子径の上限としては、10.5μmが好ましく、7.5μmがより好ましい。アルミ処理シリカ複合粒子X4の体積平均粒子径が上記範囲未満の場合は、アルミ処理シリカ複合粒子X4の添加時の歩留り向上効果が十分得られないおそれがある。逆に、アルミ処理シリカ複合粒子X4の体積平均粒子径が上記範囲を超える場合は、アルミ処理シリカ複合粒子X4が添加された紙の塗工液の吸収能力が大きくなるため、塗工層を設ける場合に塗工層表面の平坦性が低下するおそれがあるほか、アルミ処理シリカ複合粒子X4が添加された紙の強度低下を招くおそれがある。また、抄紙系内の汚れや、ワイヤーの摩耗度が増大するおそれがある。
【0053】
本工程を経て得られるアルミ処理シリカ複合粒子X4の吸油度の下限としては、50ml/100gが好ましく、70ml/100gがさらに好ましい。一方、アルミ処理シリカ複合粒子X4の吸油度の上限としては、150ml/100gが好ましく、100ml/100gがさらに好ましい。アルミ処理シリカ複合粒子X4の吸油度を上記範囲とすることで、アルミ処理シリカ複合粒子X4が添加された紙のインク乾燥性等を向上させることができる。吸油度が上記範囲未満の場合は、アルミ処理シリカ複合粒子X4が添加された紙のインク乾燥性向上の効果が得られないおそれがある。逆に、吸油度が上記範囲を超える場合は、アルミ処理シリカ複合粒子X4が添加された紙のインクの吸収性が高くなりすぎて、インクの沈み込みによる発色性の劣化が生じるおそれがある。
【0054】
本工程を経て得られるアルミ処理シリカ複合粒子X4のアルミニウム含有率の下限としては、1質量%が好ましく、2%質量がさらに好ましい。一方、アルミ処理シリカ複合粒子X4のアルミニウム含有率の上限としては、10質量%が好ましく、6質量%がさらに好ましい。アルミニウムの含有率が上記範囲未満の場合は、アルミ処理シリカ複合粒子X4の添加時の歩留り向上効果が十分得られないおそれがある。逆に、アルミニウムの含有率が上記範囲を超える場合は、アルミ処理シリカ複合粒子X4のpHが下がりすぎて、無機粒子X1が炭酸カルシウムの場合、炭酸カルシウムが溶けてしまい、目的とするアルミ処理シリカ複合粒子X4が得られないおそれがある。
【0055】
本発明においては、上述のようにシリカ複合工程とアルミニウム処理工程とを分けて行うことによって、歩留りが高く、高い白色度、不透明度及び吸油度を有する複合粒子(アルミ処理シリカ複合粒子X4)を得ることができる。上記シリカ複合工程とアルミニウム処理工程とを同時に行った場合、すなわち無機粒子凝結体X2にシリカを複合する際にアルミニウム塩Aを同時に添加すると、アルミニウムイオンを核にしてシリカが凝集するため、ホワイトカーボンが形成され、シリカが複合された粒子を得ることができない。
【0056】
また、上記シリカ複合工程及びアルミニウム処理工程は、所定の処理量毎にこれらの工程を繰り返すバッチ式、又は連続して各工程を実行する連続式で行うことができるが、生産効率の観点からは、連続式を採用することが好ましい。
【0057】
上記シリカ複合工程及びアルミニウム処理工程を連続式で行う場合は、
図1に示すように、第一シリカ複合反応槽2に連続的に無機粒子凝結体X2、珪酸アルカリ溶液L及び鉱酸Nが供給され、所定の温度及び圧力下でこれらを混合したスラリーが攪拌される。攪拌された無機粒子凝結体X2、珪酸アルカリ溶液L及び鉱酸Nを含有するスラリーは第二シリカ複合反応槽3に連続的に移送される。第二シリカ複合反応槽3に移送された上記スラリーは連続的にアルミニウム処理反応槽4に移送される。第二シリカ複合反応槽3は一定の容積を有するため、上記スラリーがアルミニウム処理反応槽4に移送されるまでの間にシリカの生成及び成長が進行し、無機粒子凝結体X2はシリカ複合粒子X3となってアルミニウム処理反応槽4に連続的に供給される。次に、このアルミニウム処理反応槽4には、アルミニウム塩Aが連続的に供給され、上記シリカ複合粒子X3と混合される。アルミニウム処理反応槽4にてシリカ複合粒子X3のシラノール基にアルミニウムイオンが結合され、アルミ処理シリカ複合粒子X4が形成される。このアルミ処理シリカ複合粒子X4を含有するスラリーは、貯槽5に貯留され、填料、顔料等として抄紙製造ラインに供給される。
【0058】
なお、鉱酸Nは第一シリカ複合反応槽2への添加を基本とするが、第一シリカ複合反応槽2及び第二シリカ複合反応槽3へ2段階で添加させることがより好ましい。このように2段階で鉱酸Nを無機粒子スラリーに添加することによって、ホワイトカーボンの析出を抑えながらシリカを均質に複合させることができる。
【0059】
(複合粒子)
上記製造方法で得られる複合粒子は、適度な粒子径とパルプ原料への自己定着性を有するため、填料として紙へ添加した際の歩留りが高い。また、高い白色度、不透明度及び吸油度を有するため、添加された紙の白色度、不透明度、インク乾燥性等を向上させることができる。また、上記製造方法で得られる複合粒子は、密度が小さく嵩高性を有するため、嵩高紙の填料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
なお、本実施例における各測定値は以下の方法にて測定した値である。
【0062】
(ア)無機粒子、無機粒子凝結体、シリカ複合粒子及びアルミ処理シリカ複合粒子の体積平均粒子径(単位:μm)
サンプル10mgを超音波分散機(出力:80W)で3分間分散させた溶液を用いてレーザー粒径分布測定装置(日機装株式会社製、型番:マイクロトラックMT−3000II)により粒子径を測定し、粒度分布が累積体積分布の小径側から累積10%、累積50%、累積90%に相当する粒子径(D10、D50、D90)及び最大粒子径をそれぞれ算出した。
【0063】
(イ)アルミニウム含有率(単位:質量%)
X線粉末回折装置(理学電機株式会社製、型番:RAD2)を用いたX線回析法によって測定した。計測条件は、Cu−Kα−湾曲モノクロメーターを40KV−40mA、発散スリットを1mm、散乱スリットを1mm、受光スリットを0.3mm、走査速度を0.8度/分、走査範囲を2θ=7〜85度、サンプリングを0.02度とした。
【0064】
(ウ)歩留り(単位:%)
新聞古紙パルプ85%、サーモメカニカルパルプ15%からなるパルプ原料に、それぞれ固形分基準で測定サンプルを10質量%、カチオン化澱粉を1質量%、硫酸バンドを0.5質量%、中性サイズ剤(荒川化学工業株式会社製、品名:KW−504)を0.1質量%添加し、実験用角形手抄きシートマシン(25cm×25cm、ワイヤー80メッシュ、熊谷理機工業株式会社製)を用いて、JIS−P−8222に記載の「パルプ−試験用手すき紙の調製方法」に準拠して手抄きシートを5枚作製し、プレスで水分調節した後、ドラムドライヤーで乾燥させ、坪量45g/m2の手抄きシートサンプルを作製した。このシートサンプルの灰分を、JIS−P−8251に記載の「紙、板紙及びパルプ−灰分試験方法」に準拠して測定し、下記式(2)によって歩留りを算出した。
歩留り=灰分(%)/複合粒子サンプル添加量(質量%)×100 (2)
【0065】
(エ)吸油量(単位:ml/100g)
JIS−K−5101−13−1に記載の「顔料試験方法−第13部:吸油量−第1節:精製あまに油法」に準拠し、以下の方法で測定した。105〜110℃で2時間乾燥した複合粒子サンプル2〜5gをガラス板にとり、精製あまに油(酸価4以下のもの)をビュレットから少量ずつ複合粒子サンプルの中央に滴下するとともに都度ヘラで練り合わせ、この作業を繰り返してサンプル全体が滑らかな硬さを有する1本の棒状体に成形された時点の精製あまに油の滴下量を求め、下記式(3)によって吸油量を算出した。
吸油量=(あまに油滴下量(ml)×100)/複合粒子質量(g) (3)
【0066】
(オ)ワイヤー摩耗度(mg)
複合粒子サンプルを水に分散させて濃度が2質量%のスラリーを作製し、プラスチックワイヤー摩耗度計(日本フィルコン株式会社製)を用いて3時間摩耗試験を行った後に測定した。
【0067】
(実施例1)
粗粉砕した石灰石を用い、ビーズミルを用いて体積平均粒子径(D50)が3.0μmとなるように微粉砕し、原料の重質炭酸カルシウムスラリーを得た。
【0068】
上記重質炭酸カルシウムを固形分濃度が20質量%のなるよう水を添加して調整し、無機粒子スラリーを得た。この無機粒子スラリーに、後述の凝結剤Aを、凝結剤添加後の体積平均粒子径が凝結剤添加前の体積平均粒子径の約3倍で、3.5〜10.0μmとなるように、無機粒子の固形分に対して固形分換算で200ppm添加した。当該実施例1においては、凝結剤を添加後の無機粒子スラリーの固形分濃度は25質量%、体積平均粒子径(D50)は6.0μmであった。
【0069】
次に、凝結剤を添加した上記無機粒子スラリーに珪酸ナトリウム溶液を無機粒子スラリー中の珪酸分(SiO2換算)で8質量%になるように添加した。このスラリーに濃度が0.2〜4.0mol/Lの希硫酸をpHが9.0となる量添加し、スラリーの液温を80℃に保ちつつミキサーを用いてスラリーを攪拌し、シリカ複合粒子を得た。このシリカ複合粒子の体積平均粒子径(D50)は6.5μm、酸化物換算でのシリカの比率は18質量%であった。
【0070】
さらに、上記シリカ複合粒子のスラリーに、反応完了pHが8.0となるように硫酸バンド(住友化学工業株式会社製)を添加し、複合粒子(アルミ処理シリカ複合粒子)を得た。
【0071】
(実施例2〜15)
上記実施例1と同様の方法を用い、表1に示した無機粒子、凝結剤、反応条件等によって複合粒子を製造した。表1に記載されていない条件は、実施例1と同様である。ただし、実施例14及び15は無機粒子の凝結を行っていない。
【0072】
(比較例1)
無機粒子凝結工程、シリカ複合工程及びアルミニウム処理工程を行わず、粉砕した重質炭酸カルシウムをそのまま用いた。
【0073】
(比較例2)
シリカ複合工程及びアルミニウム処理工程を行わず、表1に記載の条件で無機粒子凝結工程を行って重質炭酸カルシウムを凝結させた無機粒子を製造した。
【0074】
(比較例3)
アルミニウム処理工程において硫酸バンドの代わりに希硫酸を用いた表1に記載の条件にて上記実施例1と同様の方法で複合粒子を製造した。
【0075】
(比較例4)
無機粒子凝結工程において凝結剤の代わりに凝集剤を用い、また、アルミニウム処理工程において硫酸バンドの代わりに希硫酸を用いた表1に記載の条件にて上記実施例1と同様の方法で複合粒子を製造した。
【0076】
(比較例5)
無機粒子凝結工程を実施せず、また、アルミニウム処理工程において硫酸バンドの代わりに希硫酸を用いた表1に記載の条件にて上記実施例1と同様の方法で複合粒子を製造した。
【0077】
各実施例及び比較例で用いた凝結剤及び凝集剤は以下の通りである。
・凝結剤A:ハイモ株式会社製「ハイマックスSC−100」
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体
質量平均分子量:30万
カチオン電荷密度:6.0meq/g
・凝結剤B:ハイモ株式会社製「ハイマックスSC−924」
ポリエチレンイミン変性体
質量平均分子量:50万
カチオン電荷密度:18.0meq/g
・凝結剤C:BASF社製「カチオファストSF」
ポリエチレンイミン
質量平均分子量:100〜120万
カチオン電荷密度:11.0meq/g
・凝集剤A:ハイモ株式会社製「ハイモロックND270」
カチオン性ポリアクリルアミド
質量平均分子量:1500万
カチオン電荷密度:2.0meq/g
【0078】
各実施例及び比較例の複合粒子(又は無機粒子)の体積平均粒子径、アルミニウム含有率、歩留り、吸油度、ワイヤー摩耗度を計測した。測定結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すように、本発明の製造方法によれば、填料として好適な粒径及びアルミニウム含有率を有するために歩留まりが高く、吸油度にも優れた複合粒子を得ることができる。また、当該製造方法で得られる複合粒子は、ワイヤー摩耗度が低いため、抄紙コストを低減することもできる。