(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、大気中に配置された基板に対して、酸化膜の原料ミストを噴射することにより、大気中において当該基板上に酸化膜を成膜する方法および装置に関するものである。ここで、本発明では、原料ミストは、反応性が高いアルキル化合物を溶媒で溶解させた原料溶液を、超音波霧化器によりミスト化させたものである。つまり、原料ミストは、ミスト状の当該原料溶液であると把握できる。
【0022】
また、本発明では、気化されたアルキル化合物ガスを基板に対して晒すことにより、当該基板上に酸化膜を成膜するものでなく、前記原料溶液の「ミスト」を基板に対して吹き付けることにより、当該基板上に酸化膜を成膜するものである。
【0023】
なお、本明細書では、「ミスト」とは、上記原料溶液を超音波霧化器により霧化したものであり、液滴の粒径が10μm以下のものである。液滴の上限を当該10μmに設定することにより、熱容量を有する液滴による基板の温度低下を防止することができる。
【0024】
また、気体でなく、上記原料溶液の液状であれば「ミスト」の粒径の下限は、特に限定される必要はない。しかしながら、たとえば一例を挙げるなら、当該「ミスト」の下限は0.1μm程度である。
【0025】
ここで、超音波霧化器により原料溶液を霧化することにより、ミストの液滴の大きさを上記のごとく小さく設定でき、噴出された原料ミストの基板に至る沈降速度を十分に遅くすることができる(つまり、当該原料ミストは、ガスライクのような反応が期待できる)。また、ミストの液滴の大きさが10μm以下と小さいので、基板における酸化膜反応が速やかに発生する。
【0026】
さらに、スプレー法では不活性ガスを用いて液滴を作製し、当該不活性ガスと共に当該液滴を基板に向けて噴出させている。これに対して、本発明では、超音波霧化器により原料溶液を霧化し(原料ミストを作製し)、不活性ガスは、原料ミストのキャリアガスとして用いる。したがって、スプレー法では、液滴の噴射速度調整は困難であるが、本発明で採用するミスト法では、不活性ガスの流量を調整するだけで、原料ミストの噴出速度を調整することができる。
【0027】
さらに、スプレー法では、上記の通り不活性ガスを利用して、原料溶液から、数十μm程度の大きさの液滴を作製している。したがって、不活性ガスを大量に供給する必要がある。当該不活性ガスの大量供給は、液滴の沈降速度を速くさせ、基板に液滴が速い速度で衝突する。これにより、液滴が基板上に飛び散ることや、液滴が未反応のまま基板上に残留することなどの問題がある。
【0028】
これ対して、超音波霧化器により原料溶液を霧化し(原料ミストを作製し)、不活性ガスは原料ミストのキャリアガスとして用いるミスト法では、当該不活性ガスは液滴作製に寄与しないので、当該不活性ガスを大量に供給する必要が無い。したがって、上記スプレー法による各問題は、本発明が採用しているミスト法では解消される(不活性ガスの流量は、原料ミストの噴出速度に応じて、自由に調整できる)。
【0029】
さて、発明者らは、スプレー法を採用している上記特許文献1に開示されている酸化膜の成膜方法を、スプレー法でなく、ミスト法を利用して実施した。しかしながら、当該実施の結果、酸化膜の成膜が成立しないケースが発生した。また、当該実施の結果、酸化膜の成膜が成立した場合においても、酸化膜の成膜速度(成膜効率)が悪く、導電性の酸化膜を作製する場合には、抵抗を十分に低減できないことを見出した。
【0030】
さらに、発明者らは、多大な考察および実験等の結果、ミスト法を利用して酸化膜を成膜する場合、特許文献1に開示されている相対湿度における雰囲気は、温度や湿度の影響を大いに受けるので、不適な成膜環境であることを見出した。
【0031】
加えて、発明者らは、ミスト法を利用して酸化膜を成膜する場合においては、酸化膜の成膜を確実に成立させ、酸化膜の成膜速度(成膜効率)を向上させ、さらには例えば高い導電性を有する酸化膜を作製するためには、次のことが必要であることを見出した。つまり、発明者らは、噴出されたミスト原料に対して、大気雰囲気中に含まれる酸化剤だけでなく、積極的に酸化剤を供給すること(換言すれば、相対湿度90%程度の大気雰囲気に含まれる水分量(酸化剤と考えられる)では、原料ミストと反応させて酸化膜を成膜するには不十分であること)、当該酸化剤の供給量は調整されたものであることが好ましいことをも、見出した。
【0032】
以下、この発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
【0033】
<実施の形態>
図1は、本実施の形態に係る酸化成膜装置が備える、ミスト噴射用ノズル1の外観構成を示す斜視図である。
図1には、座標軸X−Y−Zも併記している。
図2は、酸化膜成膜装置全体の概略構成を示す断面図である。ここで、
図2は、
図1の構成をY方向から眺めた時の断面図である。
【0034】
なお、図面簡略化のため、
図1では、
図2で示している、各種容器20,30,40、各種配管51,52,53,54、超音波霧化器25および供給調整部50の図示を省略している。また、
図1では、図面簡略化のため、ミスト噴射用ノズル1の内部構成の図示も省略している。なお、
図2において、X−Z座標系を併記している。また、
図2では、ミスト噴射用ノズル1の内部構成を描くため、各種容器20,30,40の大きさに比べて、相対的に拡大して、ミスト噴射用ノズル1の大きさを図示している。
【0035】
図1の構成例では、一辺が1m以上の矩形状の基板100上に酸化薄膜を成膜するために、ミスト噴射用ノズル1を、当該基板100の上方に位置させている。そして、ミスト噴射用ノズル1は、基板100の上面に対して、成膜の原料となる原料ミストを噴射する。ここで、当該噴射を行いながら、たとえば基板100を水平方向(X方向)に移動させる。当該移動を伴うミスト噴射により、基板100の上面全面に、原料ミストを噴射させることができ、結果として基板100上面全面に、均一な酸化薄膜を成膜することができる。
【0036】
ここで、基板100は、加熱されていても良く、また加熱されていなくても良い(つまり、常温での成膜も可能である)。また、ミスト噴射の際における基板100の上面とミスト噴射用ノズル1の端部との距離は、たとえば、数mm程度である。
【0037】
また、基板100は大気雰囲気内で配置されており、ミスト噴射用ノズル1も同様に、成膜処理の際には、大気雰囲気内に配設される。
【0038】
図2に示すように、酸化膜成膜装置は、ミスト噴射用ノズル1、各種容器20,30,40、各種配管51,52,53,54、超音波霧化器25および供給調整部50を備えている。
【0039】
図2に示すように、ミスト噴射用ノズル1は、中空部1Hを有する本体部1Aにより構成されている。本体部1Aは、
図1,2に示すように、X方向の幅が短く(たとえば、数cm程度)、Y方向の奥行きが長く(Y方向の基板100の寸法より少し長い程度であり、たとえば1m以上)、Z方向の高さは少し高め(たとえば、10〜20cm程度)の、略直方体の概略外観を有する。
【0040】
当該本体部1Aは、たとえばステンレス製であっても良いが、軽量化の観点からはアルミニウム製を採用しても良い。また、アルミニウム製の場合には、本体部1Aの耐腐食性向上させるために、コーティングを行うことが望ましい。
【0041】
図2に示すように、本体部1Aには、原料ミスト供給口2、原料ミスト噴出口3、不活性ガス噴出口4および酸化剤供給口5が設けられている。さらに、本体部1Aには、原料ミスト供給通路10、原料ミスト通路7、不活性ガス通路8および酸化剤通路9が設けられている。また、
図2に示すように、中空部1HのX方向の幅は、原料ミスト噴出口3(原料ミスト通路7)に近づくにつれて滑らかに狭くなる形状を有している。
【0042】
原料ミスト供給口2は、中空部1Hの上部に配設されており、原料ミスト供給通路10と中空部1Hとを接続する。ここで、原料ミスト供給口2は、中空部1Hの側面に配設されていても良い。原料ミスト発生容器20で生成された原料ミストは、配管52、原料ミスト供給通路10および原料ミスト供給口2を介して、本体部1Aの中空部1H内へ供給される。
【0043】
中空部1Hの下方側は、原料ミスト通路7の一方端と接続されており、当該原料ミスト通路7の他方端は、原料ミスト噴出口3と接続されている。ここで、
図2に示すように、原料ミスト噴出口3は、ミスト噴射用ノズル1の下方端から、Z方向に少し奥まった位置の本体部1Aに配設されている。
【0044】
原料ミスト噴出口3は、ミスト噴射の際に、基板100の上面(薄膜形成面)に面するように、本体部1Aの面に形成されている。中空部1H内に拡散した原料ミストは、原料ミスト通路7を介して、原料ミスト噴出口3から基板100に向けて噴出(噴射)される。
【0045】
また、
図2に示すように、不活性ガス噴出口4は、薄厚の本体部1Aを挟んで、原料ミスト噴出口3の隣の本体部1Aに形成されている。
図2に示す構成例では、不活性ガス噴出口4は、ミスト噴射用ノズル1に二つ設けられており、原料ミスト噴出口3は、二つの不活性ガス噴出口4に挟まれている(つまり、
図2に示すように、X方向に、一方の不活性ガス噴出口4、本体部1A、原料ミスト噴出口3、本体部1Aおよび他方の不活性ガス噴出口4の順に並んで、各噴出口3,4が配設されている。
【0046】
不活性ガス通路8は、各不活性ガス噴出口4に対応して、二つ本体部1Aに形成されている。各不活性ガス通路8の一方端は、配管53に接続されており、不活性ガス通路8の他方端は各々、各不活性ガス噴出口4と接続されている。
【0047】
ここで、
図2に示すように、各不活性ガス噴出口4においても、原料ミスト噴出口3と同様、ミスト噴射用ノズル1の下方端から、Z方向に少し奥まった位置の本体部1Aに配設されている。
図2の構成例では、各不活性ガス噴出口4および原料ミスト噴出口3は、Z方向のほぼ同じ高さ位置において、本体部1Aに穿設されている。
【0048】
不活性ガス噴出口4は、ミスト噴射の際に、基板100の上面方向に向くように、本体部1Aの面に形成されている。不活性ガス容器30から供給された不活性ガスは、不活性ガス通路8を介して、不活性ガス噴出口4から基板100方向に向けて噴出(噴射)される。
【0049】
ここで、不活性ガス噴出口4から噴出される不活性ガスは、原料ミスト噴出口3付近において、噴射された原料ミストの周辺をパージするように、不活性ガス噴出口4は本体部1Aに形成されている。したがって、より具体的には、不活性ガス噴出口4は、原料ミスト噴出口3に隣接しており、当該不活性ガス噴出口4の開口面は、原料ミスト噴出口3から噴出された原料ミストの周囲をパージできるように、基板100の上面方向に面している。
【0050】
なお、上記説明および
図2の構成からも明らかなように、不活性ガスは、原料ミストの噴出とは別系統で、噴出されている。
【0051】
ここで、原料ミスト噴出口3の開口形状および各不活性ガス噴出口4の開口形状は、Y方向に長いスリット状である。
【0052】
また、
図2に示すように、ミスト噴射用ノズル1の下方端にかけて、X方向に末広がりとなる断面形状を有する、空洞部6が、本体部1Aに形成されている。当該空洞部6の傾斜面には、酸化剤供給口5が形成されている。
図2に示す構成例では、酸化剤供給口5は二つであり、各傾斜面に対応して各酸化剤供給口5が本体部1Aに穿設されている。
【0053】
酸化剤通路9は、各酸化剤供給口5に対応して、二つ本体部1Aに形成されている。各酸化剤通路9の一方端は、配管54に接続されており、酸化剤通路9の他方端は各々、各酸化剤供給口5と接続されている。
【0054】
ここで、
図2に示すように、各酸化剤供給口5は、ミスト噴射用ノズル1の下方端から、Z方向に若干奥まった位置の本体部1Aに配設されている。
図2の構成例では、各酸化剤供給口5は、不活性ガス噴出口4および原料ミスト噴出口3よりも、基板100に近い側(ミスト噴射用ノズル1の下方端に近い側)に形成されている。
【0055】
酸化剤供給口5は、ミスト噴射の際に、基板100の上面および基板100に向かう噴射された原料ミストに面するように、本体部1Aの面に形成されている。酸化剤容器40から供給された酸化剤は、酸化剤通路9を介して、酸化剤供給口5から噴出された原料ミストに向けて供給される。
【0056】
ここで、酸化剤供給口5から出力される酸化剤は、基板100の上面付近である空洞部6の一部である混合領域(基板100方向に近づくに連れて末広がりの断面形状を有する領域であり、空洞部6における基板100に面する所定の領域)6aにおいて、噴射された原料ミストとX方向の左右方向から混合するように、酸化剤供給口5は本体部1Aに形成されている。
【0057】
当該混合領域6aは、混合領域6a以外の空洞部6の領域(
図2の構成例では、断面形状が矩形である空洞部6の領域)よりも、X方向に幅が広く設定されており、当該幅広の領域において、後述するように、原料ミストと酸化剤とが混合される。
【0058】
なお、上記説明および
図2の構成からも明らかなように、酸化剤は、原料ミストの噴出とは別系統で、噴出されている。
【0059】
ここで、酸化剤供給口5の開口形状は、Y方向に長いスリット状である。
【0060】
また、酸化膜成膜装置は、原料ミスト発生容器20を備えている。原料ミスト発生容器20には、アルキル化合物を含む原料溶液が収納されている。当該原料ミスト発生容器20には、超音波霧化器25が配設されている。原料ミスト発生容器20内において、原料溶液は、超音波霧化器を用いた超音波霧化処理によりミスト状にされる(つまり、超音波霧化器25により、原料溶液から原料ミストが生成される。ミスト生成処理と把握できる)。
【0061】
ここで、原料溶液の溶質となるアルキル化合物とは、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、トリメチルシラン、トリエチルシラン、ジメチルシラン、およびジエチルシランの何れかである。
【0062】
また、原料溶液の溶媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン等のアミン系溶媒、および、ジエチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グライム、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒などが、採用できる。または、原料溶液の溶媒として、炭化水素やアルコールなども採用できる。
【0063】
原料ミスト発生容器20で生成された原料ミストは、配管51から供給されるキャリアガスに乗って、配管52に出力される。そして、当該原料ミストは、配管52および原料ミスト供給通路10を通って、原料ミスト供給口2から、ミスト噴射用ノズル1の中空部1Hへと供給される。ここで、上記キャリアガスとして、窒素や希ガスなどを採用できる。
【0064】
中空部1H内に拡散した原料ミストは、原料ミスト通路7を通って、原料ミスト噴出口3から基板100の上面に向けて噴出(噴射)される(原料ミスト噴出処理と把握できる)。
【0065】
なお、原料ミスト噴出口3から噴出される原料ミストの流量は、配管51から供給されるキャリアガスの流量を調整することにより、調整することができる。
【0066】
また、酸化膜成膜装置は、不活性ガス容器30を備えている。不活性ガス容器30には、不活性ガスが収納されている。ここで、当該不活性ガスとしては、窒素または希ガスが採用できる。
【0067】
不活性ガス容器30内の不活性ガスは、所定の流路で、配管53に出力される。そして、当該不活性ガスは、配管53および不活性ガス通路8を通って、不活性ガス噴出口4から噴出(噴射)される。不活性ガス噴出口4から噴出された不活性ガスは、原料ミスト噴出口3付近において原料ミストの周囲に対して吹き付けられ(噴出され)、さらに原料ミストと共に基板100の上面に向かう(不活性ガス噴出処理と把握できる)。
【0068】
また、酸化膜成膜装置は、酸化剤容器40を備えている。酸化剤容器40には、原料溶液に含まれるアルキル化合物に対して酸化作用を有する酸化剤が、収納されている。
【0069】
ここで、アルキル化合物に対して酸化作用を有する酸化剤としては、水、酸素、過酸化水素、オゾン、一酸化窒素、亜酸化窒素、および二酸化窒素の何れかを、採用することができる。なお、当該酸化剤は、液体であっても気体であっても良い。
【0070】
酸化剤容器40内の酸化剤は、配管54に出力される。そして、当該酸化剤は、配管54および酸化剤通路9を通って、酸化剤供給口5から、ミスト噴射用ノズル1の空洞部6の上記混合領域6aへと積極的(つまり、大気雰囲気中に含まれる酸化剤以外に、酸化剤を供給すること)かつスポット的に出力される。酸化剤供給口5から出力された酸化剤は、基板100の近傍であるミスト噴射用ノズル1の下方端の上記混合領域6aにおいて原料ミストと混合され(供給され)、さらに原料ミストと共に基板100の上面に向かう(酸化剤供給処理と把握できる)。
【0071】
基板100の上面近傍である上記混合領域6aでは、原料ミストと酸化剤とが酸化作用を起こし、基板100の上面において、アルキル化合物の種類に応じて、所定の酸化膜(導電性を有する酸化膜または絶縁性を有する酸化膜)が成膜される。
【0072】
ここで、配管54の途中には、マスフローコントローラなどの供給調整部50が配設されている。当該供給調整部50は、配管54に流れる酸化剤の流量を、所望の一定量に、任意に調整することができる。
【0073】
なお、配管54に供給調整部50が配設された構成は、酸化剤供給口5から供給される酸化剤が気体の場合に適用される。たとえば、酸化剤供給口5から供給される酸化剤が液体の場合には、
図3に示す構成が採用される。
【0074】
液体の酸化剤を供給する
図3の構成例では、容器50内の液体酸化剤を超音波霧化器40aにより、ミスト化する。そして、当該ミスト化された酸化剤は、配管51aから供給されるキャリアガスに乗って、配管54に出力される。当該
図3の構成に示すように、供給される酸化剤が液体の場合には、マスフローコントローラなどの供給調整部50は、キャリアガスの供給通路である配管51aに配設される。当該供給調整部50は、配管51aに流れるキャリアガスの流量を、所望の一定量に、任意に調整することにより、配管54に流れるミスト状の酸化剤の流量を、所望の一定量に、任意に調整することが可能となる。
【0075】
上記のように、供給調整部50は、原料ミストに供給される(液体または気体の)酸化剤の供給量を、所望の一定量に調整することができる。なお、当該酸化剤の供給量は、原料ミストの種類、酸化剤の種類および原料ミストの流量に応じて、決定される。
【0076】
たとえば、供給調整部50を用いて、酸化剤の供給流量を供給流量I1に調整した場合には、当該調整後には、酸化剤供給口5からは、供給流量I1の酸化剤が定常的に出力される。また、アルキル化合物の種類に応じて、供給調整部50を用いて、酸化剤の供給流量を供給流量I2に調整したとする。すると、当該調整後には、酸化剤供給口5からは、供給流量I2の酸化剤が定常的に出力される。
【0077】
なお、
図2に示すように、空洞部6は、ミスト噴射用ノズル1の下方端から本体部1Aの一部を切欠くことにより、本体部1A内部に形成されている。そして、空洞部6に面するように、本体部1Aの内側において、原料ミスト噴出口3、不活性ガス噴出口4および酸化剤供給口5が形成されている。また、空洞部6の基板100側には、容積が広い混合領域6aが設けられている。つまり、原料ミスト噴出口3、不活性ガス噴出口4、酸化剤供給口5および混合領域6aは全て、ミスト噴射用ノズル1の下方端の一部を切欠いて形成された空洞部6に設けられており、これらの部分3,4,5,6aは、本体部1Aの内側に形成されている。
【0078】
以上のように、本実施の形態では、大気中において基板100に対して、アルキル化合物を含む原料ミストを噴出させている。さらに、アルキル化合物に対して酸化作用を有する酸化剤を、基板100に対して噴出された原料ミストに対して、積極的にスポット的に供給している。ここで、上記説明から分かるように、原料ミストに対する酸化剤の供給は、基板100の上面近傍である空洞部6の上記混合領域6aで実施される。
【0079】
したがって、本実施の形態では、大気に含まれる水分等以外に、積極的にかつ十分な量の酸化剤を、原料ミストに晒すことができる。よって、ミスト法を利用して酸化膜を成膜する場合においては、酸化膜の成膜を確実に成立させ、酸化膜の成膜速度(成膜効率)を向上させ、さらには所望の性能を有する酸化膜を再現性良く安定的に成膜することができる。
【0080】
また、上記のように、本実施の形態では、大気に含まれる水分等以外に積極的にかつ十分に酸化剤を原料ミストに供給できる。したがって、たとえば温度や湿度の影響により大気に含まれる水分の量が変化したとしても、当該水分の変化の影響をほとんど受けることなく、基板100上面に酸化膜を成膜することができる(つまり、大気中において常に、正常に酸化膜の成膜ができる)。
【0081】
なお、ミスト法において、所定量の酸化剤を積極的に原料ミストに対して供給する場合(前者)と、酸化剤を積極的に供給せず、大気中に含まれる水分のみを原料ミストと反応させた場合(後者)とで、基板における酸化亜鉛薄膜(透明導電膜として、導電性の特徴を有する酸化亜鉛薄膜)の成膜を試みた。ここで、原料ミストに含まれるアルキル化合物をジエチル亜鉛とし、酸化剤を水のミストとした。また、原料ミストの供給量および成膜処理時間は同じである。
【0082】
ここで、後者では、大気雰囲気中に含まれる水分のみが酸化剤となるため、噴出された原料ミストは、極力大気と接する必要がある。よって、後者では、原料ミストの噴射ノズルの下端から基板までの距離は、数cm程度必要である(前者では、上述したように、ミスト噴射用ノズル1の下端から基板100までの距離は、数mm程度である)。
【0083】
結果、前者の場合で成膜された亜鉛酸化膜の膜厚は、後者の場合で成膜された亜鉛酸化膜の膜厚の約5倍であった。これは、成膜処理時間、原料ガス等の供給量が同じであることを考慮すると、前者の場合の方が、後者の場合よりも、酸化膜の成膜速度(成膜効率)が向上していることを示す。
【0084】
前記前者の成膜例では、アルキル化合物としてジエチル亜鉛、酸化剤として水を用いた。多くのアルキル化合物は、その分子構造上、非常に酸化されやすく、空気中の水分とも容易に反応する。したがって、ジエチル亜鉛以外の他のアルキル化合物についても、ジエチル亜鉛と同様、積極的な酸化剤供給により、効率良く、所望の性能を有する酸化膜を再現性良く安定的に成膜することができると判断できる。また、上記の通り、発明者らは、アルキル化合物を原料として酸化膜を成膜する場合、大気雰囲気に含まれる酸化剤だけでは不十分であり、積極的にアルキル化合物に対して酸化作用を有する酸化剤を供給することが、成膜効率向上、所望の性能を有する酸化膜を安定的に成膜するという観点から、必要であることを見出した。前記前者の成膜例では、酸化剤として水(水蒸気)を採用しているが、アルキル化合物に対して酸化作用を有する酸化剤であれば、酸素、過酸化水素、オゾン、一酸化窒素、亜酸化窒素、および二酸化窒素なども採用できる。ここで、当該酸化剤は、液体であっても気体であっても良い。
【0085】
また、前者の場合で成膜された亜鉛酸化膜のシート抵抗は、後者の場合で成膜された亜鉛酸化膜のシート抵抗の約1/250であった。これは、前者の場合の方が、後者の場合よりも、酸化膜の抵抗が低下していることを示す。
【0086】
なお、
図2に示すように、酸化剤供給口5は、原料ミスト噴出口3付近でなく、基板100により近いミスト噴射用ノズル1の下方端付近に、形成されている。当該構成により、原料ミストと酸化剤との混合による反応を、原料ミスト噴出口3付近でなく、基板100付近で起こせることができる。よって、原料ミスト噴出口3において、原料ミストと酸化剤との反応により生成される反応物の付着を抑制することができ、結果として、原料ミスト噴出口3の目詰まりを抑制できる。
【0087】
また、基板100に対する酸化膜の成膜効率の観点からも、酸化剤供給口5は、原料ミスト噴出口3付近でなく、基板100により近いミスト噴射用ノズル1の下方端付近に、形成されていることが、望ましい。
【0088】
また、
図2に示すように、空洞部6の混合領域6aは、ミスト噴射用ノズル1の下方端にかけて末広がりの断面形状を有しており、比較的大きな容積が、本体部1Aの下方端側に形成されている。したがって、原料ミストと酸化剤との反応は、当該比較的な大きな容積を有する混合領域6aで発生し、当該混合領域6aにおける反応物の付着による目詰まり等の悪影響は、発生しない。
【0089】
なお、
図2の構成において、不活性ガス噴出処理に寄与する構成30,53,8,4を省略することも可能である。しかしながら、上述したように、原料ミスト噴出口3の付近に不活性ガス噴出口4を設け、噴出された原料ミストの周辺に対して不活性ガスを吹き付けることが可能な構成30,53,8,4を設けることが望ましい。
【0090】
当該不活性ガス噴出処理を可能にする構成30,53,8,4を設けることにより、原料ミスト噴出口3から噴出された原料ミストが、酸化剤供給口5から出力された酸化剤以外の、周辺雰囲気の反応に寄与する物質(大気中の水分)と接触することを防止できる。よって、原料ミスト噴出口3において、原料ミストと周辺雰囲気の反応に寄与する物質との反応を防止できる。結果として、原料ミスト噴出口3の反応生成物の付着が防止でき、原料ミスト噴出口3の目詰まりは発生しない。
【0091】
原料ミスト噴出口3における反応生成物付着防止の観点から、不活性ガス供給口4は、基板100により近いミスト噴射用ノズル1の下方端付近でなく、原料ミスト噴出口3付近に、形成されている。
【0092】
なお、不活性ガス噴出口4から噴出される不活性ガスが、原料ミストに対しても吹き付けることが可能なように、当該不活性ガス噴出口4の開口面を、噴出された原料ミスト(原料ミスト噴出口3の周辺を含む)の方向に向くように構成しても良い。
【0093】
また、不活性ガス噴出処理に寄与する構成30,53,8,4を省略する構成を採用する場合には、原料ミスト噴出口3を、基板100により近いミスト噴射用ノズル1の下方端付近で、酸化剤供給口5付近に設けることが望ましい。原料ミスト噴出口3を、基板100により近い位置に配置することにより、原料ミスト噴出口3における反応生成物の付着を抑制することが可能となる。
【0094】
ここで、不活性ガス噴出処理に寄与する構成30,53,8,4を省略する構成を採用する場合において、原料ミスト噴出口3が、酸化剤供給口5と同じZ軸方向の同じ高さ位置か、または、酸化剤供給口5よりもZ方向に高い(
図2においてZ方向の上の)位置に設けられていることが望ましい。
【0095】
また、本実施の形態では、超音波霧化器を用いて、原料溶液から原料ミストを生成している。
【0096】
超音波霧化器により原料溶液を霧化することにより、ミストの液滴の大きさを小さく設定でき、噴出された原料ミストの基板に至る沈降速度を十分に遅くすることができる。また、ミストの液滴の大きさが小さいので、基板における酸化膜反応が速やかに発生する。さらに、原料溶液を霧化する際には不活性ガスを利用しない。よって、原料ミストの噴出速度を、キャリアガスの流量を変更するだけで、調整することができる。なお、前記のように、キャリアガス(不活性ガス)は原料ミスト生成には寄与しないので、ミスト法を採用した本実施の形態では、多量の不活性ガスの供給は不要となり、液滴が基板上に飛び散ることや、液滴が未反応のまま基板上に残留することなどの問題も発生しない。
【0097】
図2の構成とは異なり、原料ミスト噴出口3、酸化剤供給口5および不活性ガス噴出口4の内の何れか一つ若しくは各々を、ミスト噴射用ノズル1とは別構成となるノズルに配設しても良い。しかしながら、
図2に示したように、原料ミスト噴出口3、酸化剤供給口5および不活性ガス噴出口4が全て、同一のミスト噴射用ノズル1に設けられることにより、酸化膜成膜装置の構成の簡略化を図ることができる。
【0098】
ところで、大気雰囲気中に含まれる水分以外に、積極的に酸化剤を供給することが、上記発明の効果から必要であることを、発明者らは見出した。しかし、酸化剤の供給量が常に、多ければ多いほど良いとは限らない。つまり、原料溶液を構成するアルキル化合物の種類に応じて、成膜効率および成膜される酸化膜の品質の観点から、酸化剤の供給量が決定されることがある。
【0099】
そこで、本実施の形態では、
図2(酸化剤が気体の場合)および
図3(酸化剤が液体の場合)に示すように、酸化剤の供給量を調整することが可能な供給調整部50が、設けられている。当該供給調整部50の配設により、常に、アルキル化合物の種類に応じて適正量の酸化剤を、空洞部6の混合領域6aに供給することができ、成膜効率の向上および良質の酸化膜の成膜が常に可能となる。
【0100】
なお、上述のように、酸化剤は液体であっても気体であっても良い。たとえば、原料ミストと酸化剤との反応により、結露等が発生するケースにおいては、酸化剤は液体よりも気体の方が望ましい。
【0101】
また、本発明では、ミスト噴射用ノズル1を用いて、基板に対して原料ミストを噴出するノズル方式を、採用している。当該ノズル方式は、大面積の基板に対して、均一な膜を成膜するのに適している。
【0102】
この発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。