特許第5841210号(P5841210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5841210-燃料電池セル 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5841210
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】燃料電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20151217BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20151217BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20151217BHJP
【FI】
   H01M4/86 U
   H01M8/12
   H01M4/86 T
   H01M8/02 E
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-174137(P2014-174137)
(22)【出願日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年8月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−150813(JP,A)
【文献】 特開2002−367615(JP,A)
【文献】 特開平08−259346(JP,A)
【文献】 特開平08−236138(JP,A)
【文献】 特開平07−267748(JP,A)
【文献】 特開2011−105582(JP,A)
【文献】 特開2010−225363(JP,A)
【文献】 特開2009−016351(JP,A)
【文献】 特開2007−200693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/02
H01M 8/08 − 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、
一般式ABOで表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相と、硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムを主成分とする第二相と、を含む空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、10.2%以下である、
燃料電池セル。
【請求項2】
前記第二相の面積占有率は、0.20%以上である、
請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
前記第二相の面積占有率は、0.36%以上である、
請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
前記断面における前記第二相の平均円相当径は、0.05μm以上2.5μm以下である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項5】
前記第二相の密度は、前記主相の密度よりも小さい、
請求項1乃至4のいずれかに記載の燃料電池セル。
【請求項6】
前記ペロブスカイト型酸化物は、LSCFである、
請求項1乃至5のいずれかに記載の燃料電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型の燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題及びエネルギー資源の有効利用の観点から、燃料電池に注目が集まっている。燃料電池は、燃料電池セル及びインターコネクタ等を備える。燃料電池セルは、一般的に、燃料極と、空気極と、燃料極および空気極の間に配置される固体電解質層とを有する。空気極は、例えばLSCF((La,Sr)(Co,Fe)O)、LSF((La,Sr)FeO)、LSC((La,Sr)CoO)などのペロブスカイト型酸化物によって構成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−32132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記材料によって構成される空気極を備える燃料電池では、初期出力が低下しやすいという問題がある。本発明者らは、初期出力の低下の原因の1つが空気極内部に発生する不活性領域によるものであることを新たに見出した。
【0005】
本発明は、このような新たな知見に基づくものであって、初期出力を向上可能な燃料電池セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る燃料電池セルは、燃料極と、空気極と、燃料極と空気極の間に配置される固体電解質層とを備える。空気極は、主相と、第二相とを含む。主相は、一般式ABOで表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする。第二相は、硫酸ストロンチウムとクロム酸ストロンチウムを主成分とする。空気極の断面における第二相の面積占有率は、10.2%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、初期出力を向上可能な燃料電池セル及び空気極材料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】燃料電池セルの構成を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
以下の実施形態では、燃料電池セルとして縦縞形の固体酸化物型燃料電池セル(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)を例に挙げて説明する。
【0011】
(燃料電池セル10の構成)
燃料電池セル(以下、「セル」と略称する。)10の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、セル10の構成を示す断面図である。
【0012】
セル10は、セラミックス材料によって構成される薄板体である。セル10の厚みは、例えば300μm〜3mmであり、セル10の直径は、例えば5mm〜50mmである。複数のセル10がインターコネクタによって直列に接続されることによって、燃料電池が形成されうる。
【0013】
セル10は、燃料極11、固体電解質層12、バリア層13および空気極14を備える。
【0014】
燃料極11は、セル10のアノードとして機能する。燃料極11は、図1に示すように、燃料極集電層111と燃料極活性層112とを有する。
【0015】
燃料極集電層111は、遷移金属と酸素イオン伝導性物質とを含む多孔質の板状焼成体である。燃料極集電層111は、例えば、酸化ニッケル(NiO)及び/又はニッケル(Ni)とイットリア安定化ジルコニア(8YSZ、10YSZなど)とを含んでいてもよい。燃料極集電層111の厚みは、0.2mm〜5.0mmとすることができる。燃料極集電層111の厚みは、燃料極集電層111が支持基板として機能する場合には、セル10の各構成部材のうちで最も厚くてもよい。燃料極集電層111において、Ni及び/又はNiOの体積比率はNi換算で35〜65体積%とすることができ、YSZの体積比率は35〜65体積%とすることができる。なお、燃料極集電層111は、YSZに代えてイットリア(Y)を含んでいてもよい。
【0016】
燃料極活性層112は、燃料極集電層111と固体電解質層12の間に配置される。燃料極活性層112は、遷移金属と酸素イオン伝導性物質とを含む多孔質の板状焼成体である。燃料極活性層112は、燃料極集電層111と同様に、NiO及び/又はNiとイットリア安定化ジルコニアとを含んでいてもよい。燃料極活性層112の厚みは5.0μm〜30μmとすることができる。燃料極活性層112において、Ni及び/又はNiOの体積比率はNi換算で25〜50体積%とすることができ、YSZの体積比率は50〜75体積%とすることができる。このように、燃料極活性層112では、燃料極集電層111よりもYSZの含有率が大きくてもよい。燃料極活性層112は、YSZに代えて、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などのジルコニア系材料を含んでいてもよい。
【0017】
固体電解質層12は、燃料極11とバリア層13の間に配置される。固体電解質層12は、緻密質の板状焼成体である。固体電解質層12は、空気極14で生成される酸素イオンを透過させる機能を有する。固体電解質層12は、ジルコニウム(Zr)を含む。固体電解質層12は、Zrをジルコニア(ZrO)として含んでもよい。固体電解質層12は、ZrOを主成分として含んでいてもよい。
【0018】
また、固体電解質層12は、ZrOの他に、Y及び/又はSc等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、安定化剤として機能する。固体電解質層12において、安定化剤のZrOに対するmol組成比(安定化剤:ZrO)は、3:97〜20:80程度とすることができる。すなわち、固体電解質層12の材料としては、例えば、3YSZ、8YSZ及び10YSZなどのイットリア安定化ジルコニアやScSZなどのジルコニア系材料を挙げることができる。固体電解質層12の厚みは、3μm〜30μmとすることができる。
【0019】
バリア層13は、固体電解質層12と空気極14の間に配置される。バリア層13は、緻密質の板状焼成体である。バリア層13は、固体電解質層12と空気極14の間に高抵抗層が形成されることを抑制する機能を有する。バリア層13の材料としては、セリウム(Ce)及びCeに固溶した希土類金属酸化物を含むセリア系材料が挙げられる。具体的に、セリア系材料としては、GDC((Ce,Gd)O:ガドリニウムドープセリア)、SDC((Ce,Sm)O:サマリウムドープセリア)等が挙げられる。バリア層13の厚みは、3μm〜20μmとすることができる。
【0020】
空気極14は、バリア層13上に配置される。空気極14は、セル10のカソードとして機能する。空気極14の厚みは、10μm〜100μmとすることができる。空気極14は多孔体であり、空気極14の気孔率は25%〜50%とすることができる。
【0021】
空気極14は、一般式ABOで表され、AサイトにSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相を含む。このようなペロブスカイト型酸化物には、ランタンを含有するペロブスカイト型複合酸化物と、ランタンを含有しないペロブスカイト型複合酸化物とがある。ランタンを含有するペロブスカイト型複合酸化物としては、例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト:(La,Sr)(Co,Fe)O)、LSF(ランタンストロンチウムフェライト:(La,Sr)FeO)、及びLSC(ランタンストロンチウムコバルタイト:(La,Sr)CoO)などが挙げられる。ランタンを含有しないペロブスカイト型複合酸化物としては、例えば、SSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト:(Sm,Sr)CoO)などが挙げられる。主相の密度は、5.5g/cm〜8.5g/cmとすることができる。なお、本実施形態において、「AがBを主成分として含む」とは、Aの70%以上がBによって構成されていることをいうものとする。
【0022】
空気極14は、硫酸ストロンチウム(SrSO)とクロム酸ストロンチウム(SrCrO)とを主成分とする第二相を含む。第二相には、主相の構成元素(例えば、LaやCoなど)が固溶していてもよい。また、第二相には、SrSO及びSrCrO以外の不純物が含まれていてもよい。第二相の密度は、主相の密度よりも小さくてもよい。例えば、第二相の密度は、3.2g/cm〜5.2g/cmとすることができる。
【0023】
空気極14の断面における第二相の面積占有率は、10.2%以下である。これによって、空気極14内部に発生する不活性領域が減少されるため、初期出力が低下することを抑制できる。さらに、通電時における第二相と主相の反応を抑えることができるため、空気極14の劣化が進行することを抑制できる。
【0024】
なお、本実施形態において、「空気極14の断面における対象物Xの面積占有率」とは、空気極14の内部に含まれる気孔を除いた領域(すなわち、空気極14の固相)の全面積に対する対象物Xの総面積の割合をいうものとする。
【0025】
空気極14の断面における第二相の面積占有率は、0.2%以上であることが好ましく、0.36%以上であることがさらに好ましい。これによって、SrSO及びSrCrOを主成分とする第二相が焼結助剤として機能するため、多孔質構造である空気極14の骨格を強化することができる。その結果、通電時において空気極14にクラックが発生することを抑制できるため、空気極14の耐久性を向上させることができる。
【0026】
空気極14の断面における第二相の構成粒子の平均円相当径は、0.05μm以上2.5μm以下であることが好ましい。これによって、空気極14の耐久性をより向上させることができる。なお、平均円相当径とは、第二相を構成する粒子と同じ面積を有する円の直径の算術平均値である。
【0027】
(面積占有率の算出方法)
次に、空気極14の断面における第二相の面積占有率の算出方法を説明する。
【0028】
(1)FE−SEM画像
まず、インレンズ二次電子検出器を用いたFE−SEM(Field Emission Scanning Electron Microscope:電界放射型走査型電子顕微鏡)によって倍率10000倍に拡大された空気極14の断面を取得する。具体的に、FE−SEM画像は、加速電圧:1kV、ワーキングディスタンス:2mmに設定されたZeiss社(ドイツ)製のFE−SEM(型式:ULTRA55)によって得ることができる。なお、空気極14の断面には、精密機械研磨後に株式会社日立ハイテクノロジーズのIM4000によってイオンミリング加工処理を予め施しておくことが好ましい。
【0029】
FE−SEM画像では、主相(LSCF)と第二相(SrSO及びSrCrO)と気孔の明暗差が異なっており、主相が“灰白色”、第二相が“灰色”、気孔が“黒色”にて表示されている。このような明暗差による3値化は、画像の輝度を256階調に分類することによって実現可能である。
【0030】
ただし、主相、第二相及び気孔を判別する手法は、FE−SEM画像における明暗差を用いるものには限られない。例えば、SEM−EDS(Scanning Electron Microscope Energy Dispersive X−ray Spectrometry)により同一視野の元素マッピングを取得した後に、FE−SEM画像と照らし合わせて画像中の各粒子を同定することによっても、主相と第二相と気孔を精度良く3値化することができる。
【0031】
(2)FE−SEM画像の解析
次に、FE−SEM画像をMVTec社(ドイツ)製の画像解析ソフトHALCONによって画像解析する。解析画像では、所定の手法(例えば、線で囲む手法)によって第二相を特定することができる。
【0032】
(3)面積占有率の算出
次に、解析画像において特定された第二相の合計面積を算出する。
【0033】
次に、気孔を除いた領域(すなわち、空気極14の固相)の総面積に対する第二相の合計面積の割合を算出する。このように算出された第二相の合計面積の割合が、第二相の面積占有率である。
【0034】
なお、以上の手法を用いることで、主相の面積占有率を算出することもできる。
【0035】
(空気極材料)
空気極14を構成する空気極材料には、一般式ABOで表され、AサイトにSrを含むペロブスカイト型酸化物粉末とSrSO粉末とSrCrO粉末の混合材料が好適である。AサイトにSrを含むペロブスカイト型複合酸化物としては、上述の通り、LSCF、LSF、LSC、SSCなどが挙げられる。
【0036】
空気極材料におけるSrSO粉末とSrCrO粉末の添加量は、11.7重量%以下であることが好ましい。これによって、空気極14の断面における第二相の面積占有率を10.2%以下に制御できる。また、空気極材料におけるSrSO粉末とSrCrO粉末の添加量は、0.05重量%以上であることがより好ましい。これによって、空気極14の断面における第二相の面積占有率を0.2%以上に制御できる。
【0037】
また、SrSO粉末とSrCrO粉末の平均密度をペロブスカイト型酸化物粉末の密度よりも小さくすることによって、空気極14における第二相の密度を主相の密度よりも小さくすることができる。
【0038】
また、SrSO粉末とSrCrO粉末の粒度を調整することによって、空気極14における第二相の構成粒子の平均円相当径や第二相の面積占有率を調整することができる。気流式分級機を用いてSrSO粉末とSrCrO粉末の粒度を調整することによって、上限値及び下限値を含む精密な分級が可能となる。
【0039】
(セル10の製造方法)
次に、セル10の製造方法の一例について説明する。ただし、以下に述べる材料、粒径、温度、及び塗布方法等の各種条件は、適宜変更することができる。以下、「成形体」とは、焼成前の部材を指すものとする。
【0040】
まず、NiO粉末とYSZ粉末と造孔剤(例えばPMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂))の混合物に、バインダーとしてのポリビニルアルコール(PVA)を添加してスラリーを作製する。次に、このスラリーをスプレードライヤーで乾燥・造粒することによって燃料極集電層用粉末を得る。次に、金型プレス成形法で燃料極用粉末を成形することによって、燃料極集電層111の成形体を形成する。
【0041】
次に、NiO粉末とYSZ粉末と造孔剤の混合物にポリビニルアルコールを添加してスラリーを作製する。次に、このスラリーを印刷法で燃料極集電層111の成形体上に印刷することによって、燃料極活性層112の成形体を形成する。
【0042】
次に、YSZ粉末に水とバインダーの混合物をボールミルで24時間混合することによってスラリーを作製する。次に、このスラリーを燃料極活性層112の成形体上に塗布した後乾燥することによって固体電解質層12の成形体を形成する。ただし、塗布法に代えてテープ積層法や印刷法等を用いることができる。
【0043】
次に、GDC粉末に水とバインダーの混合物をボールミルで24時間混合することによってスラリーを作製する。次に、このスラリーを固体電解質層12の成形体上に塗布した後乾燥することによってバリア層13の成形体を形成する。ただし、塗布法に代えてテープ積層法や印刷法等を用いることができる。
【0044】
以上によって、燃料極11、固体電解質層12及びバリア層13それぞれの成形体の積層体が完成する。
【0045】
次に、成形体の積層体を1300〜1600℃で2〜20時間共焼結することによって、多孔質の燃料極11と緻密質の固体電解質層12及びバリア層13の共焼成体を形成する。
【0046】
次に、上述した空気極材料と水とバインダーをボールミルで24時間混合することによってスラリーを作製する。次に、このスラリーを共焼成体のバリア層13上に塗布した後乾燥させることによって空気極14の成形体を形成する。そして、空気極14の成形体を電気炉(酸素含有雰囲気、900℃〜1100℃)で1時間〜20時間焼成することによって空気極14を形成する。
【0047】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0048】
(A)上記実施形態において、セル10は、燃料極11、固体電解質層12、バリア層13および空気極14を備えることとしたが、これに限られるものではない。セル10は、燃料極11、固体電解質層12および空気極14を備えていればよく、各層間には他の層が介挿されていてもよい。具体的には、バリア層13と空気極14との間に多孔質のバリア層が介挿されていてもよい。
【0049】
(B)上記実施形態では、縦縞形のセル10について説明したが、セル10は、燃料極支持形、平板形、円筒形、横縞形などであってもよい。なお、セル10の断面は、楕円形状などであってもよい。
【実施例】
【0050】
以下において本発明に係る燃料電池セルの実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0051】
[サンプルNo.1〜No.20の作製]
以下のようにして、燃料極集電層を支持基板とする燃料極支持型セルのサンプルNo.1〜No.20を作製した。
【0052】
まず、金型プレス成形法で厚み500μmの燃料極集電層(NiO:8YSZ=50:50(Ni体積%換算))を成形し、その上に厚み20μmの燃料極活性層(NiO:8YSZ=45:55(Ni体積%換算))を印刷法で形成した。
【0053】
次に、燃料極活性層上に厚み5μmの8YSZ電解質と厚み5μmのGDCバリア膜とを順次形成して積層体を作製した。
【0054】
次に、積層体を1400℃で2時間共焼結することによって共焼成体を得た。
【0055】
次に、表1に示す空気極材料と水とバインダーをボールミルで24時間混合することによってスラリーを作製した。そして、このスラリーをバリア膜上に塗布した後に1000℃で2時間焼き付けることによって、厚み30μmの空気極を作製した。表1に示す通り、空気極材料の主成分にはLSCF、LSF及びSSCを用い、サンプルごとに異なる量のSrSO粉末及びSrCrO粉末を添加した。
【0056】
[面積占有率の測定]
まず、各サンプルの空気極を精密機械研磨した後に、株式会社日立ハイテクノロジーズのIM4000によってイオンミリング加工を施した。
【0057】
次に、インレンズ二次電子検出器を用いたFE−SEMによって倍率10000倍に拡大された空気極の断面を示すFE−SEM画像を取得した。
【0058】
次に、各サンプルのFE−SEM画像をMVTec社(ドイツ)製画像解析ソフトHALCONで解析することによって解析画像を取得した。
【0059】
次に、解析画像を用いて、SrSO及びSrCrOを含む第二相の面積占有率を算出した。第二相の面積占有率の算出結果は、表1に示す通りである。
【0060】
[第二相の成分分析]
次に、第二相の成分分析を行って、第二相の主成分がSrSO及びSrCrOであることを確認した。
【0061】
まず、TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)によって空気極断面のTEM画像を取得した。そして、TEM画像を参照して、第二相の位置を確認した。
【0062】
次に、EDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:エネルギー分散型X線分光法)によって、TEM画像で確認した第二相上の第1領域におけるEDXスペクトルと、当該第二相上の第2領域(第1領域から離れた領域)におけるEDXスペクトルとを取得した。これらのEDXスペクトルを半定量分析することによって、第二相の構成物質を推察することができる。第1領域におけるEDXスペクトルではSr、S、O、Cuの特性X線が検出され、第2領域におけるEDXスペクトルではSr、Cr、O、Cuの特性X線が検出された。なお、Cuの特性X線が検出されたのは、分析装置のサンプルホルダーの成分が検出されたものであり第二相の構成物質ではない。
【0063】
次に、SAED(Selected Area Electron Diffraction:制限視野解析)によって、第二相の構成粒子の結晶構造(格子定数、格子型、結晶方位)を解析した。SAED画像に基づいて格子定数、格子型及び結晶方位を解析することによって、第二相がSrSO及びSrCrOを主成分としていることが確認された。
【0064】
[焼成後の空気極における微小クラックの確認]
空気極を焼成して各サンプルが完成した時点において、空気極の断面を電子顕微鏡で観察することによって、微小クラックの有無を観察した。観察結果を表1にまとめて記載する。
【0065】
[性能評価試験と耐久性試験後の空気極における微小クラックの確認]
各サンプルについて、燃料極側に窒素ガス、空気極側に空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料極に水素ガスを供給しながら還元処理を3時間行った。そして、各サンプルについて、温度が750℃で定格電流密度0.2A/cmにおける出力密度(初期出力)を測定した。測定結果を表1にまとめて記載する。
【0066】
次に、1000時間当たりの電圧降下率を劣化率として測定した。測定結果を表1にまとめて記載する。
【0067】
続いて、1000時間経過後に空気極の断面を電子顕微鏡で観察することによってクラックの有無を観察した。観察結果を表1にまとめて記載する。
【0068】
【表1】

表1に示すように、空気極断面における第二相(SrSO及びSrCrO)の面積占有率が10.2%以下に抑えたサンプルでは、初期出力を0.15W/cm以上に向上させることができた。これは、空気極内部の不活性領域を低減することができたためである。
【0069】
また、表1に示すように、空気極断面における第二相の面積占有率が0.20%以上にしたサンプルでは、焼成後における微小クラックの発生を抑制できた。これは、添加されたSrSO及びSrCrOによって空気極の焼結性が改善されて多孔質構造の骨格が強化されたためである。
【0070】
また、表1に示すように、空気極断面における第二相の面積占有率が0.36%以上にしたサンプルでは、耐久性試験後においても微小クラックの発生を抑制できた。これは、添加されたSrSO及びSrCrOによって空気極の焼結性がさらに改善されて多孔質構造の骨格が強化されたためである。
【0071】
また、表1に示すように、第二相を構成する粒子の平均円相当径が0.05μm以上2.5μm以下のサンプルでは、劣化率を1.5%以下に抑えることができた。
【符号の説明】
【0072】
10 燃料電池セル
11 燃料極
111 燃料極集電層
112 燃料極活性層
12 固体電解質層
13 バリア層
14 空気極
【要約】
【課題】初期出力を向上可能な燃料電池セル及び空気極材料を提供する。
【解決手段】燃料電池セル10において、空気極14は、一般式ABOで表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相と、硫酸ストロンチウム及びクロム酸ストロンチウムを主成分とする第二相とを含む。空気極14の断面における第二相の面積占有率は、10.2%以下である。
【選択図】図1
図1