特許第5841551号(P5841551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5841551
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/08 20060101AFI20151217BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
   B60C19/08
   B60C11/00 D
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-2054(P2013-2054)
(22)【出願日】2013年1月9日
(65)【公開番号】特開2014-133467(P2014-133467A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2014年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣末 瑛介
【審査官】 八木 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−525453(JP,A)
【文献】 特開平01−293208(JP,A)
【文献】 特開平08−078139(JP,A)
【文献】 特開2006−022288(JP,A)
【文献】 特開2007−276570(JP,A)
【文献】 特開2012−143993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部と、一対のサイドウォール部と、各サイドウォール部の内方端に設けられかつビードコアが埋設されたビード部とを有する空気入りタイヤであって、
前記一対のビードコア間をのびているトロイド状のカーカスを具え、
前記カーカスは、並列されたカーカスコードがトッピングゴムで被覆されたカーカスプライを含み、
前記カーカスプライの前記トッピングゴムに沿って一方側の前記ビードコアから前記トレッド部をへて他方側の前記ビードコアに至るトロイド状の導電性糸が設けられていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記導電性糸は、タイヤ周方向に距離をあけて複数本設けられている請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記導電性糸は、タイヤ周方向に距離をあけて複数本設けられており、前記距離は、80〜120mmである請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記導電性糸は、前記ビードコア間において、前記カーカスプライのタイヤ外面側に設けられている請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記導電性糸は、カーボンファイバーを含む請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記カーボンファイバーは、70〜170デニールである請求項5記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記トレッド部の内部には、前記カーカスの外側に配されかつスチールコードが並列されたベルト層と、前記ベルト層と電気的に導通する体積固有抵抗値が10Ωcm未満のゴムを含むトレッドゴムとが設けられ、
前記導電性糸は、前記ベルト層に接続されている請求項1乃至6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記カーカスプライは、前記トレッド部から前記サイドウォール部を経て前記ビード部の前記ビードコアに至る本体部と、前記本体部からのびて前記ビードコアの廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部とを含み、
前記導電性糸は、前記本体部に沿ってのび、しかも、前記ビードコアのタイヤ半径方向内側を通り、前記折返し部に沿って前記折返し部の外端で終端する請求項1乃至7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記導電性糸は、タイヤ放射方向に対してジグザグ状又は波状にのびる請求項1乃至8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記カーカスプライは、前記トレッド部から前記サイドウォール部を経て前記ビード部の前記ビードコアに至る本体部を含み、
前記導電性糸は、前記本体部の外面側及びタイヤ内腔面側の両側に設けられている請求項1乃至9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気抵抗を小さくし得る空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤのトレッドゴムやサイドウォールゴムには、多くのシリカが配合される傾向がある。シリカは、タイヤの転がり抵抗を小さくし、ウェットグリップ性を高める利点をもたらす。一方、シリカは導電性に劣るため、タイヤの電気抵抗の増加を招く。電気抵抗が大きいタイヤは、静電気を車両に蓄積させ、ラジオノイズ等の電波障害を引き起こしやすい。関連する文献としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−071112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、一対のビードコア間をのびる導電性糸を設けることを基本として、電気抵抗を小さくし得る空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のうち、請求項1記載の発明は、トレッド部と、一対のサイドウォール部と、各サイドウォール部の内方端に設けられかつビードコアが埋設されたビード部とを有する空気入りタイヤであって、前記一対のビードコア間をのびているトロイド状のカーカスを具え、前記カーカスは、並列されたカーカスコードがトッピングゴムで被覆されたカーカスプライを含み、前記カーカスプライの前記トッピングゴムに沿って一方側の前記ビードコアから前記トレッド部をへて他方側の前記ビードコアに至るトロイド状の導電性糸が設けられていることを特徴としている。
【0006】
また、請求項2記載の発明は、前記導電性糸は、タイヤ周方向に距離をあけて複数本設けられている請求項1記載の空気入りタイヤである。
【0007】
また、請求項3記載の発明は、前記導電性糸は、タイヤ周方向に距離をあけて複数本設けられており、前記距離は、80〜120mmである請求項1又は2記載の空気入りタイヤである。
【0008】
また、請求項4記載の発明は、前記導電性糸は、前記ビードコア間において、前記カーカスプライのタイヤ外面側に設けられている請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0009】
また、請求項5記載の発明は、前記導電性糸は、カーボンファイバーを含む請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【0010】
また、請求項6記載の発明は、前記カーボンファイバーは、70〜170デニールである請求項5記載の空気入りタイヤである。
【0011】
また、請求項7記載の発明は、前記トレッド部の内部には、前記カーカスの外側に配されかつスチールコードが並列されたベルト層と、前記ベルト層と電気的に導通する体積固有抵抗値が10Ωcm未満のゴムを含むトレッドゴムとが設けられ、前記導電性糸は、前記ベルト層に接続されている請求項1乃至6のいずれかに記載の空気入りタイヤである。請求項8記載の発明は、前記カーカスプライは、前記トレッド部から前記サイドウォール部を経て前記ビード部の前記ビードコアに至る本体部と、前記本体部からのびて前記ビードコアの廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部とを含み、前記導電性糸は、前記本体部に沿ってのび、しかも、前記ビードコアのタイヤ半径方向内側を通り、前記折返し部に沿って前記折返し部の外端で終端する請求項1乃至7のいずれかに記載の空気入りタイヤである。請求項9記載の発明は、前記導電性糸は、タイヤ放射方向に対してジグザグ状又は波状にのびる請求項1乃至8のいずれかに記載の空気入りタイヤである。請求項10記載の発明は、前記カーカスプライは、前記トレッド部から前記サイドウォール部を経て前記ビード部の前記ビードコアに至る本体部を含み、前記導電性糸は、前記本体部の外面側及びタイヤ内腔面側の両側に設けられている請求項1乃至9のいずれかに記載の空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の空気入りタイヤは、一対のビードコア間をのびているトロイド状のカーカスを具える。該カーカスは、並列されたカーカスコードがトッピングゴムで被覆されたカーカスプライを含む。また、本発明の空気入りタイヤは、カーカスプライのトッピングゴムに沿って前記一対のビードコア間をトロイド状にのびる導電性糸が設けられている。
【0013】
このような空気入りタイヤは、小さな電気抵抗を持つ。従って、車両の静電気の蓄積が抑制される。また、導電性糸は、一対のビードコア間をトロイド状にのびているので、トレッド部と、両側のサイドウォール部とに連続した広い範囲の導電路を形成することができる。従って、例えば、ビード部とトレッド部とに導電性ゴムを配置することにより、簡単な構造で車両の静電気をリムから路面へとより積極的に逃がすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の空気入りタイヤを示す断面図である。
図2】(a)は導電性糸を直線状に設けたタイヤの側面透視図であり、(b)は導電性糸をジグザグ状に設けたタイヤの側面透視図である。
図3】(a)は導電性糸が直線状に設けられたカーカスプライの拡大斜視図、(b)は導電性糸がジグザグ状に設けられたカーカスプライの拡大斜視図である。
図4図1のA−A断面図である。
図5】他の実施形態の空気入りタイヤの断面図である。
図6】他の実施形態の空気入りタイヤの断面図である。
図7】タイヤの電気抵抗測定装置を概念的に示す略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ1(以下、単に「タイヤ」ということがある)の正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。ここで、正規状態とは、タイヤを正規リム(図示省略)にリム組みし、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態である。以下、特に言及しない場合、タイヤの各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0016】
前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0017】
前記「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0018】
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、各サイドウォール部3のタイヤ半径方向の内方端に設けられかつビードコア5が埋設されたビード部4とを有する。本実施形態の空気入りタイヤ1は、一対のビードコア5間をのびているトロイド状のカーカス6と、該カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内方に配されるベルト層7とを具える。本実施形態では乗用車用空気入りタイヤが示されている。
【0019】
カーカス6は、並列されたカーカスコードがトッピングゴムで被覆された少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aにより構成される。カーカスプライ6Aは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aからのびてビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含む。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのび、かつ硬質ゴムからなるビードエーペックス8が配され、ビード部4が適宜補強される。
【0020】
カーカスコードは、例えば、アラミド、レーヨンなどの有機繊維コードが採用される。カーカスコードは、例えば、タイヤ赤道Cに対して70〜90°の角度で配列される。
【0021】
カーカスプライ6Aのトッピングゴムは、従来の一般的なタイヤと同様、ゴム補強剤としてカーボンブラックを含む。カーカスプライ6Aの体積固有電気抵抗値は、10Ω・cm未満、好ましくは10Ω・cm以下であり、導電性が確保される。なお、本明細書において、導電性がを有するゴムとは、10Ω・cm未満のゴムであり、10Ω・cm以上のゴムは、非導電性のゴムである。
【0022】
ベルト層7は、ベルトコードをタイヤ赤道Cに対して例えば10〜40度の角度で傾けて配列した少なくとも1枚、本実施形態ではタイヤ半径方向に内、外2枚のベルトプライ7A、7Bを、各ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わせて構成される。ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードがトッピングゴムで被覆されて形成される。トッピングゴムは、カーカスプライ6Aと同様のゴムが好適に採用される。
【0023】
本実施形態のベルトコードには、スチールコードが採用されるが、アラミド、レーヨン等の高弾性の有機繊維コードも必要に応じて用いられる。
【0024】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に設けられたトレッドゴム11、サイドウォール部3でカーカス6のタイヤ外面側に設けられたサイドウォールゴム12、ビード部4のタイヤ外面側に設けられるリムずれ防止用のクリンチゴム13、及び、タイヤ内腔面15を形成する空気非透過性に優れたインナーライナゴム14を含む。
【0025】
トレッドゴム11、サイドウォールゴム12は、従来の一般的なタイヤと同様、ゴム補強剤としてシリカを多く含んだゴム部材が採用され得る。これらのゴム部材の体積固有抵抗値は、例えば、10〜10Ω・cmの範囲である。
【0026】
クリンチゴム13及びインナーライナゴム14には、ゴム補強剤としてカーボンブラックを多く含んだゴム部材が採用され得る。これらのゴム部材の体積固有抵抗値は、例えば、10〜10Ω・cmの範囲である。
【0027】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、カーカスプライ6Aのトッピングゴムに沿って一対のビードコア間をトロイド状にのびる導電性糸10が設けられている。導電性糸10は、小さい電気抵抗を持っている。従って、このような空気入りタイヤ1も、小さな電気抵抗を持ち、車両の静電気の蓄積が抑制される。また、導電性糸10は、一対のビードコア5間をトロイド状にのびているので、トレッド部2と、両側のサイドウォール部3とに連続した広い範囲の導電路を形成することができる。従って、例えば、ビード部4とトレッド部2とに導電性ゴムを配置することにより、簡単な構造で車両の静電気をリムから路面へとより積極的に逃がすことができる。
【0028】
導電性糸10は、例えば、カーカスプライ6Aの本体部6aのタイヤ外面側に設けられている。従って、導電性糸10は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4までのび、ビードコア5のタイヤ半径方向内側を通り、折返し部6bに沿って折返し部6bの外端16までのびる。このような導電性糸10は、ビード部4で折返されているため、ビード部4の電気抵抗は効果的に小さくなる。
【0029】
図2(a)及び(b)には、タイヤ1の側面透視図が示されている。図2(a)に示されるように、導電性糸10は、例えば、タイヤ周方向に距離をあけて複数本設けられるのが望ましい。図2(a)の実施形態の導電性糸10は、タイヤ放射方向と平行に直線状にのびる。導電性糸10は、タイヤ周方向に等間隔で設けられるのが望ましい。このような導電性糸10は、タイヤ1全体の電気抵抗を均一に小さくし、トレッド部2及びサイドウォール部3に連続した広い範囲の導電路を形成することができる。
【0030】
図2(b)に示されるように、導電性糸10は、タイヤ放射方向に対してジグザグ状又は波状にのびても良い。このような導電性糸10は、図2(a)の例に比して、各々の糸の長さを大きくし、車両の静電気の蓄積をさらに効果的に抑制する。
【0031】
タイヤ周方向で隣合う導電性糸10、10の間隔dが小さくなると、タイヤの生産性が低下するおそれがある。逆に、前記間隔dが大きくなると、タイヤ1の電気抵抗が小さくならないおそれがある。このため、前記間隔dは、好ましくは80mm以上、より好ましくは90mm以上であり、好ましくは120mm以下、より好ましくは110mm以下である。なお、前記間隙dは、隣合う導電性糸10、10のタイヤ周方向の間隔が最大となる位置での間隔を意味し、本実施形態では、タイヤ赤道C上での間隔である。
【0032】
図3(a)及び(b)は、導電性糸10が配されたカーカスプライ6Aの拡大斜視図が示されている。図3(a)及び(b)に示されるように、導電性糸10は、カーカスプライ6Aのトッピングゴム21の表面21sにカーカスコード22のコード長手方向に沿って設けられるのが望ましい。
【0033】
図4は、図1のA−A断面に相当している。図4に示されるように、導電性糸10は、サイドウォールゴム12との間に導電性糸10に沿った微小な空隙24を形成する。このような空隙24は、トッピングゴム21の表面21sとサイドウォールゴム12の表面12sとの間に生じる残留空気を導電性糸10に沿わせて外部に排出し、エアー残り不良を抑制するのに有効である。
【0034】
本明細書において、導電性糸10とは、体積固有電気抵抗値が10Ω・cm以下の糸を意味する。導電性糸10の体積固有電気抵抗値は、好ましくは10Ω・cm以下、より好ましくは5×10Ω・cm以下である。このような導電性糸10は、効果的にタイヤの電気抵抗を小さくする。
【0035】
導電性糸10には、例えば、カーボンファイバーが好適に採用される。カーボンファイバーは、優れた導電性を有し、かつ、タイヤの繰り返し変形に対しても高い耐久性を持つ。
【0036】
導電性糸10の太さは、好ましくは70デニール以上、より好ましくは75デニール以上であり、好ましくは170デニール以下、より好ましくは110デニール以下である。導電性糸10の太さが小さくなると、タイヤ走行中の歪により、破断するおそれがある。逆に、導電性10の太さが大きくなると、サイドウォール部3の外面に導電性糸10に起因する凹凸部が生じ、外観を悪化させるおそれがある。
【0037】
車両の静電気をより効果的に路面に逃がすために、トレッドゴム11は、ベルト層7と電気的に導通する体積固有抵抗値が10Ω・cm未満のゴムを含むのが望ましい。このようなトレッドゴム11は、ベルト層7及びカーカスプライ6Aのトッピングゴムを介して導電性糸と電気的に連通し、タイヤの電気抵抗をより一層小さくする。
【0038】
近年、トレッドゴム11は、転がり抵抗を低減するために、シリカリッチ配合のゴムが採用され得る。このようなトレッドゴム11は、電気抵抗が大きくなるおそれがある。車両の静電気を路面に放出させるために、トレッド部2には、路面とベルト層7とを電気的に連通させる端子部25が設けられるのが望ましい。端子部25は、導電性のゴムからなり、一端がトレッド接地面2sに露出し、他端がベルト層7に接続する柱状又はタイヤ周方向にのびる副次的なゴム部材である。このようなトレッド部は、低転がり抵抗を発揮しつつ、車両に蓄積した静電気が、効果的に路面に放電される。
【0039】
図5に示されるように、導電性糸10は、カーカスプライ6Aの本体部6aのタイヤ内腔面15側に設けられても良い。このような導電性糸10は、ビード部4で導電性のクリンチゴム13と電気的に導通するため、より効果的に車両の静電気をリムから路面に逃がすことができる。また、このような導電性糸10は、その本数及び太さを大きくしても、サイドウォール部3の外面に凸部を形成せず、外観を損ねるおそれが無い。
【0040】
図6に示されるように、導電性糸10は、本体部6aの外面側及びタイヤ内腔面側の両側に設けられても良い。これにより、さらに広い範囲の導電路が形成され、車両の静電気の蓄積がより効果的に抑制される。
【0041】
以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施しうる。
【実施例】
【0042】
図1図5又は図6の基本構造を有するサイズ195/65R15の乗用車用の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作され、タイヤの電気抵抗、サイドウォール部の外観、生産性がテストされた。また、比較例1として、導電性糸が設けられていないタイヤについても、同様にテストされた。テスト方法は以下の通りである。
【0043】
<タイヤの電気抵抗値>
図6に示されるように、絶縁板30(電気抵抗値が1012Ω以上)の上に設置された表面が研磨された金属板31(電気抵抗値は10Ω以下)と、タイヤ・リム組立体を保持する導電性のタイヤ取付軸32と、電気抵抗測定器33とを含む測定装置が使用され、JATMA規定に準拠してテストタイヤTとリムRとの組立体の電気抵抗値が測定された。なお各テストタイヤTは、予め表面の離型剤や汚れが十分に除去され、かつ、十分に乾燥した状態のものが用いられた。また他の条件は、次の通りである。
リム材料:アルミニウム合金製
リムサイズ:17×7J
内圧:200kPa
荷重:5.3kN
試験環境温度(試験室温度):25℃
湿度:50%
電気抵抗測定器の測定範囲:1.0×10 〜1.6×1016Ω
試験電圧(印可電圧):1000V
【0044】
試験の要領は、次の通りである。
(1)テストタイヤTをリムに装着しタイヤ・リム組立体を準備する。この際、両者の接触部に潤滑剤として石けん水が用いられる。
(2)タイヤ・リム組立体を試験室内で2時間放置させた後、タイヤ取付軸32に取り付ける。
(3)タイヤ・リム組立体に前記荷重を0.5分間負荷し、解放後にさらに0.5分間、解放後にさらに2分間負荷する。
(4)試験電圧が印可され、5分経過した時点で、タイヤ取付軸32と金属板31との間の電気抵抗値を電気抵抗測定器33によって測定する。前記測定は、タイヤ周方向に90°間隔で4カ所で行われ、そのうちの最大値を当該タイヤTの電気抵抗値(測定値)とする。
【0045】
<サイドウォール部の外観>
サイドウォール部に導電性糸に起因する凸部が生じていないかが、試験者の肉眼により観察され、下記の3段階評価が行われた。
A:凸部が生じておらず、良好である。
B:凸部が生じているが、製品として使用できるレベルである。
C:凸部が生じており、製品として使用できないレベルである。
【0046】
<生産性>
各テストタイヤの生産性について、下記の3段階評価が行われた。
A:従来タイヤの生産性と同程度であり、良好である。
B:従来タイヤの生産性より劣るが、問題無いレベルである。
C:従来タイヤの生産性より劣り、製品として大量生産できないレベルである。
テスト結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から明らかなように、実施例1のタイヤは、比較例に比べて、電気抵抗が有意に小さくなっていることが確認できた。
【符号の説明】
【0049】
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
10 導電性糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7