(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トレッド部に、トレッド接地端の内側に配されタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と、前記ショルダー主溝のタイヤ軸方向外側に位置する一対のショルダー陸部とを有する空気入りタイヤであって、
前記ショルダー陸部には、
前記トレッド接地端からタイヤ軸方向内側にのび、前記ショルダー主溝に連通することなく前記ショルダー陸部内で終端する内端を有する複数本のショルダー横溝と、
前記各ショルダー横溝の前記内端と前記ショルダー主溝との間を連通する複数のショルダー補助サイプと、
タイヤ周方向で隣り合う前記ショルダー補助サイプの間を、前記ショルダー補助サイプに連通することなくタイヤ周方向にのびるショルダー縦細溝とが設けられ、
前記トレッド部に、タイヤ赤道の両外側でかつ前記一対のショルダー主溝の間に配されてタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と、
前記センター主溝と前記ショルダー主溝との間で区分される一対のミドル陸部とが設けられ、
前記各ミドル陸部には、前記ショルダー主溝からタイヤ軸方向内側にのび、前記センター主溝に連通することなく終端する内端を有する複数本のミドル傾斜溝と、
タイヤ軸方向の内端が前記センター主溝に連通しかつ前記ミドル傾斜溝と平行にのびる複数本のミドル傾斜サイプと、
タイヤ周方向で隣り合う前記ミドル傾斜サイプの間を、前記ミドル傾斜サイプと連通することなくタイヤ周方向にのびるミドル縦細溝とが形成されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
前記ショルダー横溝は、前記トレッド接地端でのタイヤ周方向に対する角度θ1が85〜90゜であり、かつ、前記内端でのタイヤ周方向に対する角度θ2が前記角度θ1よりも小さい請求項1記載の空気入りタイヤ。
前記ショルダー陸部には、タイヤ周方向で隣り合う前記ショルダー横溝間に、前記ショルダー横溝と交差することなく前記トレッド接地端からタイヤ軸方向内側に向かってのびるショルダー横サイプが設けられ、
前記ショルダー横サイプは、前記ショルダー縦細溝と連通することなくショルダー陸部内で終端する内端を有し、
前記ショルダー横サイプは、前記トレッド接地端でのタイヤ周方向に対する角度θ3が85〜90゜であり、かつ、前記内端でのタイヤ周方向に対する角度θ4が前記角度θ3よりも小さい請求項1又は請求項2に記載の空気入りタイヤ。
タイヤ周方向で隣り合う前記ショルダー横溝の間隔Dと、前記ショルダー横溝間の前記ショルダー縦細溝のタイヤ周方向長さL1との比L1/Dは、0.3〜0.6である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
前記ショルダー横溝のタイヤ軸方向の長さL2と、前記ショルダー補助サイプのタイヤ軸方向の長さL3との比L3/L2は、0.4〜0.6である請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
前記ミドル傾斜サイプは、タイヤ軸方向の外端が、前記ショルダー主溝に連通する第2ミドル傾斜サイプを含んでいる請求項1乃至10のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、排水性能の低下を抑制しつつ、操縦安定性能及び耐偏摩耗性能を向上させた空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トレッド部に、トレッド接地端の内側に配されタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝と、前記ショルダー主溝のタイヤ軸方向外側に位置する一対のショルダー陸部とを有する空気入りタイヤであって、前記ショルダー陸部には、前記トレッド接地端からタイヤ軸方向内側にのび、前記ショルダー主溝に連通することなく前記ショルダー陸部内で終端する内端を有する複数本のショルダー横溝と、前記各ショルダー横溝の前記内端と前記ショルダー主溝との間を連通するショルダー補助サイプと、タイヤ周方向で隣り合う前記ショルダー補助サイプの間を、前記ショルダー補助サイプに連通することなくタイヤ周方向にのびるショルダー縦細溝とが設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、前記ショルダー横溝は、前記トレッド接地端でのタイヤ周方向に対する角度θ1が85〜90゜であり、かつ、前記内端でのタイヤ周方向に対する角度θ2が前記角度θ1よりも小さいのが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、前記ショルダー陸部には、タイヤ周方向で隣り合う前記ショルダー横溝間に、前記ショルダー横溝と交差することなく前記トレッド接地端からタイヤ軸方向内側に向かってのびるショルダー横サイプが設けられ、前記ショルダー横サイプは、前記ショルダー縦細溝と連通することなくショルダー陸部内で終端する内端を有し、前記ショルダー横サイプは、前記トレッド接地端でのタイヤ周方向に対する角度θ3が85〜90゜であり、かつ、前記内端でのタイヤ周方向に対する角度θ4が前記角度θ3よりも小さいのが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、タイヤ周方向で隣り合う前記ショルダー横溝の間隔Dと、前記ショルダー横溝間の前記ショルダー縦細溝のタイヤ周方向長さL1との比L1/Dは、0.3〜0.6であるのが望ましい。
【0013】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、前記ショルダー横溝のタイヤ軸方向の長さL2と、前記ショルダー補助サイプのタイヤ軸方向の長さL3との比L3/L2は、0.4〜0.6であるのが望ましい。
【0014】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、前記ショルダー横溝の前記角度θ2は、75〜85゜であるのが望ましい。
【0015】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、前記トレッド部に、タイヤ赤道の両外側でかつ前記一対のショルダー主溝の間に配されてタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝と、前記センター主溝と前記ショルダー主溝との間で区分される一対のミドル陸部とが設けられ、前記各ミドル陸部には、前記ショルダー主溝からタイヤ軸方向内側にのび、前記センター主溝に連通することなく終端する内端を有する複数本のミドル傾斜溝と、タイヤ軸方向の内端が前記センター主溝に連通しかつ前記ミドル傾斜溝と平行にのびる複数本のミドル傾斜サイプと、タイヤ周方向で隣り合う前記ミドル傾斜サイプの間を、前記ミドル傾斜サイプと連通することなくタイヤ周方向にのびるミドル縦細溝とが形成されているのが望ましい。
【0016】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、前記ミドル傾斜溝は、前記ショルダー主溝を挟んで前記ショルダー補助サイプと対向した位置に設けられているのが望ましい。
【0017】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、前記ミドル縦細溝は、タイヤ周方向で隣り合う前記ミドル傾斜サイプの間に、周方向に複数本設けられているのが望ましい。
【0018】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、前記ミドル傾斜サイプは、タイヤ軸方向の外端が、前記ミドル傾斜溝の前記内端に連通する第1ミドル傾斜サイプを含んでいるのが望ましい。
【0019】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、前記第1ミドル傾斜サイプは、前記ミドル傾斜溝一本おきに隔設されているのが望ましい。
【0020】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいては、前記ミドル傾斜サイプは、タイヤ軸方向の外端が、前記ショルダー主溝に連通する第2ミドル傾斜サイプを含んでいるのが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向で隣り合うショルダー補助サイプの間を、タイヤ周方向にのびるショルダー縦細溝が設けられているので、ショルダー陸部の内側における排水性能を向上しうる。ショルダー縦細溝は、ショルダー補助サイプに連通することなくタイヤ周方向にのびるので、ショルダー陸部の剛性分布が適正化され、操縦安定性能が向上しうると共に、ショルダー陸部の偏摩耗を抑制しうる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。ここで、正規状態とは、タイヤを正規リム(図示省略)にリム組みし、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態である。以下、特に言及されない場合、タイヤの各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0024】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0025】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0026】
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある)1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内方に配されるベルト層7とを具え、本実施形態では乗用車用のものが示されている。
【0027】
カーカス6は、例えば、1枚のカーカスプライ6Aにより構成されている。このカーカスプライ6Aは、ビードコア5、5間を跨る本体部6aの両端に、ビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返されることによりビードコア5に係止される折返し部6bを一連に具えている。カーカスプライ6Aには、例えば、芳香族ポリアミド、レーヨンなどの有機繊維コードがカーカスコードとして採用されている。カーカスコードは、タイヤ赤道Cに対して、例えば、70〜90°の角度で配列されている。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外方に向かって先細状にのびるビードエーペックスゴム8が配されている。
【0028】
ベルト層7は、本実施形態では、ベルトコードがタイヤ赤道Cに対して、例えば、15〜45゜の角度で傾斜して配列された2枚のベルトプライ7A、7Bを、ベルトコードが互いに交差する向きにタイヤ半径方向で重ね合わされてなる。このベルトコードには、例えば、アラミド又はレーヨン等が好適に採用されている。
【0029】
図2は、本実施形態の空気入りタイヤ1のトレッド部2の展開図である。
図2に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、そのトレッド部2に、タイヤ赤道Cの両側に配されかつタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝9と、このセンター主溝9のタイヤ軸方向外側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝10とが形成されている。一対のショルダー主溝10は、トレッド接地端Teの内側に配され、一対のセンター主溝9は、一対のショルダー主溝10の間に配されている。本実施形態のセンター主溝9及びショルダー主溝10は、略一定の溝幅を有し、直線状にのびているが、ジグザグ状又はS字状にのびるものでもよい。センター主溝9は、例えば、タイヤ赤道C上をのびる1本のみでもよい。
【0030】
トレッド接地端Teとは、正規状態のタイヤに、正規荷重を付加しかつキャンバー角0゜で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地端を意味している。「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【0031】
センター主溝9の溝幅W1及びショルダー主溝10の溝幅W2は、例えば、トレッド接地幅TWの3.0〜5.0%である。このようなショルダー主溝10及びセンター主溝9は、ウェット走行時、路面とトレッド部2との間に生ずる水を効果的に排出し、ウェット性能を向上させる。なお、トレッド接地幅TWは、正規状態のタイヤ1のトレッド接地端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離である。
【0032】
図3には、
図2のA−A線断面図が示される。
図3に示されるように、センター主溝9及びショルダー主溝10の溝深さd1及びd2は、例えば、5〜10mmであるのが望ましい。
【0033】
センター主溝9及びショルダー主溝10により、トレッド部2が複数の領域に区画される。トレッド部2は、一対のセンター主溝9、9間に挟まれるセンター陸部11と、センター主溝9及びショルダー主溝10に挟まれる一対のミドル陸部12と、ショルダー主溝10のタイヤ軸方向外側に位置する一対のショルダー陸部13とを有している。
【0034】
図4には、センター陸部11の拡大図が示される。センター陸部11には、複数本のセンター傾斜溝21が設けられている。センター傾斜溝21は、両側のセンター主溝9、9を連通する。これにより、センター陸部11は、複数個のセンターブロック22が並ぶブロック列である。センター傾斜溝21は、タイヤ軸方向に対して傾斜しているので、本実施形態のセンターブロック22の踏面22sは、略平行四辺形状である。
【0035】
センター陸部11のタイヤ軸方向の最大幅W3は、好ましくはトレッド接地幅TWの0.08〜0.12倍である。
【0036】
センター傾斜溝21は略一定の溝幅でのびる。センター傾斜溝21の溝幅W4は、センター主溝9の溝幅W1(
図2に示す)の0.44倍以上、より好ましくは0.46倍以上であり、好ましくは0.52倍以下、より好ましくは0.50倍以下である。センター傾斜溝21の溝幅W4が、センター主溝9の溝幅W1の0.44倍よりも小さい場合、ウェット性能が向上しないおそれがある。逆に、センター傾斜溝21の溝幅W4がセンター主溝9の溝幅W1の0.52倍よりも大きい場合、センター陸部11の剛性が低下して、操縦安定性能が低下するおそれがある。
【0037】
同様の観点から、
図3に示されるように、センター傾斜溝21の溝深さd3は、好ましくはセンター主溝9の溝深さd1の0.68倍以上、より好ましくは0.70倍以上であり、好ましくは0.76倍以下、より好ましくは0.74倍以下である。
【0038】
センター傾斜溝21には、溝底部21dが隆起したタイバー23が設けられるのが望ましい。このようなタイバー23は、ウェット性能を維持しつつ、センター陸部6の剛性を向上させる。
【0039】
図5には、ミドル陸部12の拡大図が示されている。
図5に示されるように、ミドル陸部12は、略一定のタイヤ軸方向の幅W5を有している。ミドル陸部12の幅W5は、優れた耐摩耗性能及び操縦安定性能を発揮させるために、好ましくは、トレッド接地幅TW(
図1に示され、以下、同様である)の0.12〜0.18倍である。
【0040】
ミドル陸部12には、複数本のミドル傾斜溝25と、複数本のミドル傾斜サイプ(第2ミドル傾斜サイプ)26と、複数本のミドル縦細溝27とが設けられている。ミドル傾斜溝25は、センター傾斜溝21と同一の方向に傾斜している。ミドル傾斜溝25は、ショルダー主溝10からタイヤ軸方向内側にのび、センター主溝9に連通することなく終端する内端25iを有する。従って、ミドル陸部12は、大きな接地圧が作用するタイヤ軸方向内側部分に高い剛性を有するため、摩耗が発生し難く、かつ、優れたウェット性能を持つ。
【0041】
ミドル傾斜溝25は、ショルダー主溝10を挟んで後述するショルダー補助サイプ34(
図2参照)と対向した位置に設けられている。ミドル傾斜溝25は、隣り合う2本のショルダー補助サイプ34に対して、1本ずつ設けられている。このようなミドル傾斜溝25は、ウェット性能を向上させる。
【0042】
ミドル傾斜溝25の溝幅W6は、好ましくは、ショルダー主溝10の溝幅W2(
図2参照)の0.50倍以上、より好ましくは0.55倍以上であり、好ましくは0.65倍以下、より好ましくは0.60倍以下である。このようなミドル傾斜溝25は、ミドル陸部12の剛性を維持し、操縦安定性能を損ねることなくウェット性能を向上させる。
【0043】
同様の観点から、ミドル傾斜溝25のタイヤ軸方向の長さL0は、好ましくはミドル陸部12のタイヤ軸方向の幅W5の0.40倍以上、より好ましくは0.45倍以上であり、好ましくは0.60倍以下、より好ましくは0.55倍以下である。
【0044】
ミドル傾斜溝25のタイヤ軸方向に対する角度φ1は、好ましくは35°以上、より好ましくは40°以上であり、好ましくは55°以下、より好ましくは50°以下である。ミドル傾斜溝25のタイヤ軸方向に対する角度φ1が35°より小さい場合、ミドル陸部12のタイヤ周方向の剛性が低下して、耐摩耗性能及び操縦安定性能が低下するおそれがある。逆に、前記角度φ1が55°より大きい場合、横剛性が低下するおそれがある。
【0045】
本実施形態では、ミドル傾斜溝25の少なくとも一方の溝縁25eは、タイヤ軸方向の外端25oで溝幅が大きくなる向きに、例えば円弧状に湾曲している。これにより、ミドル傾斜溝25は、高い排水性を発揮できる。
【0046】
図3に示されるように、ミドル傾斜溝25の溝深さd4は、好ましくはセンター主溝9の溝深さd1の0.50倍以上、より好ましくは0.55倍以上であり、好ましくは0.70倍以下、より好ましくは0.67倍以下である。このようなミドル傾斜溝25は、操縦安定性能及び耐摩耗性能を維持しつつ、ウェット性能を向上させる。
【0047】
ミドル傾斜溝25は、タイヤ軸方向の外端25o側に、溝底部25dが隆起したタイバー28(
図3参照)を有する。このようなミドル傾斜溝25は、ミドル陸部12のタイヤ軸方向外側の過度の剛性の低下を防ぎ、ミドル陸部12の偏摩耗を抑制する。
【0048】
ミドル傾斜サイプ26は、タイヤ軸方向の内端がセンター主溝9に連通し、ミドル傾斜溝25と平行にのび、タイヤ軸方向の外端が、ショルダー主溝10に連通する。これにより、ミドル陸部12は、複数個のミドルブロック29に区分されている。このようなミドル陸部12は、特許文献1に記載されているラグ溝が設けられた陸部と比較して、タイヤ周方向に高い剛性を有し、優れた耐摩耗性能を発揮する。
【0049】
ミドル傾斜サイプ26の幅Wsは、2.0mm未満であり、ミドル傾斜サイプ26のタイヤ軸方向の内端には、拡幅部26aが設けられている。
【0050】
拡幅部26aは、ミドル傾斜サイプ26のタイヤ軸方向の内側に設けられる。拡幅部26aの溝幅は、2.0mm以上であり、タイヤ軸方向の内側に向かって漸増している。拡幅部26aは、センター主溝9に連通する。このような拡幅部26aにより、ミドル傾斜サイプ26の排水性能が向上し、かつ、ミドルブロック29の欠けが抑制される。従って、耐偏摩耗性能及びウェット性能が向上する。
【0051】
ミドル傾斜サイプ26は、タイヤ軸方向に対して傾斜している。ミドル傾斜サイプ26のタイヤ軸方向に対する角度φ2は、耐摩耗性能及び操縦安定性能を向上させるために、好ましくは35°以上、より好ましくは40°以上であり、好ましくは55°以下、より好ましくは45°以下である。このようなミドル傾斜サイプ26によって、本実施形態のミドルブロック29の踏面29sは、略平行四辺形状である。このようなミドル傾斜サイプ26に替えて、又はミドル傾斜サイプ26に加えて、センター主溝9とミドル傾斜溝25のタイヤ軸方向の内端25iとの間を連通するミドル傾斜サイプ(第1ミドル傾斜サイプ)が設けられていてもよい。このようなミドル傾斜サイプは、タイヤ軸方向の外端がミドル傾斜溝25の内端25iに連通し、ミドル陸部12の排水性能を高める。
【0052】
図3に示されるように、ミドル傾斜サイプ26の溝深さd5は、好ましくはセンター主溝9の溝深さd1の0.50倍以上、より好ましくは0.55倍以上であり、好ましくは0.70倍以下、より好ましくは0.67倍以下である。このようなミドル傾斜サイプ26は、ミドル陸部12の剛性を維持しつつ、ウェット性能を向上させる。
【0053】
図5に示されるように、ミドル縦細溝27は、タイヤ周方向で隣り合うミドル傾斜サイプ26の間であって、ミドル傾斜溝25の内端25iよりもタイヤ軸方向内側を、ミドル傾斜サイプ26と連通することなくタイヤ周方向に断続的にのびている。ミドル縦細溝27の両端27e、27eは、いずれも、ミドル傾斜サイプ26に連なることなくミドルブロック29内で終端している。このようなミドル縦細溝27は、ミドルブロック29のタイヤ軸方向内側及び外側の剛性を均一に近付け、偏摩耗を抑制しつつ、排水性能を向上させる。
【0054】
本実施形態において、ミドル縦細溝27は、ミドル傾斜溝25のタイヤ周方向両側に夫々1本ずつ設けられている。すなわち、ミドル縦細溝27は、タイヤ周方向で隣り合うミドル傾斜サイプ26の間に、周方向に複数本設けられている。タイヤ周方向で隣り合うミドル傾斜サイプ26の間に設けられるミドル縦細溝27の本数は、3本以上であってもよい。ミドル縦細溝27の本数を適宜変更することにより、ミドルブロック29のタイヤ軸方向内側の剛性を調整しうる。このようなミドル縦細溝27は、上記作用をさらに向上させ、とりわけヒールアンドトゥ摩耗を抑制する。
【0055】
ミドル縦細溝27は、略一定の溝幅を有し、タイヤ周方向に沿って直線状にのびている。ミドル縦細溝27の溝幅W7は、好ましくは0.8mm以上、より好ましくは1.0mm以上であり、好ましくは1.6mm以下、より好ましくは1.4mm以下である。このようなミドル縦細溝27は、操縦安定性能を損なうことなく優れたウェット性能を発揮する。
【0056】
同様の観点から、
図3に示されるように、ミドル縦細溝27の溝深さd6は、好ましくはセンター主溝9の溝深さd1の0.45倍以上、より好ましくは0.48倍以上であり、好ましくは0.55倍以下、より好ましくは0.52倍以下である。
【0057】
ミドル陸部12の剛性分布は、ミドル傾斜溝25の溝深さd4、ミドル傾斜サイプ26の溝深さd5及び、ミドル縦細溝27の溝深さd6の影響を受ける。ミドル傾斜サイプ26の溝深さd5が最も小さい場合、ミドル陸部12のタイヤ周方向の剛性が、タイヤ軸方向の剛性に対して相対的に大きくなる。また、ミドル縦細溝27のタイヤ軸方向外側に配されたミドル傾斜溝25の溝深さd4が最も大きい場合、ミドル陸部12の剛性がタイヤ軸方向外側に向かって漸減する。これにより、ミドル陸部12は、接地圧に応じた剛性分布を持つため、優れた耐摩耗性能及び操縦安定性能が発揮される。
【0058】
図6には、ショルダー陸部13の拡大図が示される。
図6に示されるように、ショルダー陸部13は、略一定のタイヤ軸方向の幅W8を有している。ショルダー陸部13の幅W8は、旋回安定性能及び乗り心地性能を両立させるために、好ましくはトレッド接地幅TWの0.20〜0.26倍である。このようなショルダー陸部13は、優れた耐摩耗性能及び操縦安定性能を発揮する。
【0059】
ショルダー陸部13には、ショルダー横溝31、ショルダー横サイプ32、ショルダー縦細溝33及びショルダー補助サイプ34が設けられる。
【0060】
ショルダー横溝31は、トレッド接地端Teの外側からタイヤ軸方向内側にのび、ショルダー陸部13内で終端する内端31iを有する。これにより、ウェット性能及びワンダリング性能が向上する。
【0061】
ショルダー横溝31の溝幅W9は、好ましくはショルダー主溝10の溝幅W2の0.62倍以上、より好ましくは0.64倍以上であり、好ましくは0.70倍以下、より好ましくは0.68倍以下とされる。このようなショルダー横溝31は、ショルダー陸部13の剛性を維持して優れた耐摩耗性能を発揮し、かつ、ウェット性能及びワンダリング性能を向上させる。
【0062】
ショルダー横溝31の内端31iには、タイヤ軸方向にのび、かつ、ショルダー主溝10に連通するショルダー補助サイプ34が設けられるのが望ましい。このようなショルダー補助サイプ34は、ショルダー陸部13のタイヤ軸方向内側の剛性を維持しつつ、ショルダー陸部13における排水性能を向上させる。このため、優れた耐摩耗性能及びウェット性能が発揮される。
【0063】
ショルダー横溝31のタイヤ軸方向の長さL2と、ショルダー補助サイプ34のタイヤ軸方向の長さL3との比L3/L2は、0.4〜0.6であるのが望ましい。比L3/L2が0.4未満の場合、ショルダー横溝31の内端31i近傍においてヒールアンドトゥ摩耗等の偏摩耗が発生しやすくなる。比L3/L2が0.6を超える場合、排水性能が十分に高められないおそれがある。
【0064】
ショルダー横サイプ32は、タイヤ周方向で隣り合うショルダー横溝31、31の間に設けられる。ショルダー横サイプ32は、ショルダー横溝31と交差することなく、トレッド接地端Teの外側からショルダー横溝31と略平行にのび、ショルダー陸部13内で終端する内端32iを有する。このようなショルダー横サイプ32は、ショルダー陸部13の剛性分布を均一にして偏摩耗を抑制し、かつ、ウェット性能及びワンダリング性能を向上させる。
【0065】
ショルダー縦細溝33は、ショルダー横溝31の内端31i及びショルダー横サイプ32の内端32iよりもタイヤ軸方向内側をタイヤ周方向に断続的にのびる。ショルダー縦細溝33の両端33e、33eは、ショルダー横溝31、ショルダー補助サイプ34及びショルダー横サイプ32に連通することなくショルダー陸部13内で終端する。すなわち、ショルダー縦細溝33は、隣り合うショルダー補助サイプ34、34、ショルダー横サイプ32の内端32i及びショルダー主溝10によって囲まれた領域に、一本又は複数本設けられている。このようなショルダー縦細溝33は、ショルダー陸部13のタイヤ軸方向の剛性分布を均一にし、偏摩耗を抑制する。
【0066】
ショルダー縦細溝33の溝幅W10は、好ましくは0.8mm以上、より好ましくは1.0mm以上であり、好ましくは1.6mm以下、より好ましくは1.4mm以下である。ショルダー縦細溝33の溝幅W10は、ショルダー横サイプ32及びショルダー補助サイプ34の幅よりも大きいのが望ましい。このようなショルダー縦細溝33は、操縦安定性能を損なうことなく優れたウェット性能を発揮する。
【0067】
タイヤ周方向で隣り合うショルダー横溝31、31の間隔Dと、そのショルダー横溝31、31間に設けられているショルダー縦細溝33のタイヤ周方向長さL1との比L1/Dは、0.3〜0.6であるのが望ましい。比L1/Dが0.3未満の場合、ショルダー陸部13のタイヤ軸方向内側における排水性能が高められないおそれがある。一方。比L1/Dが0.6を超える場合、ショルダー陸部13の剛性分布が適正化されず、操縦安定性能やショルダー陸部13の耐偏摩耗性能を向上させることができないおそれがある。
【0068】
図7は、本実施形態にかかる空気入りタイヤ1の接地形状をハッチングにて示している。
図7において、タイヤの進行方向は、矢印Pにて示されている。
図6、
図7に示すように、トレッド接地端Teにおけるショルダー横溝31のタイヤ周方向に対する角度θ1は、85〜90゜であることが望ましい。このようなショルダー横溝31は、タイヤの接地形状FPにおけるショルダー陸部13の踏み込み側端縁FE1及び蹴り出し側端縁FE2に対して角度αにて交差する。このため、ショルダー横溝31によって区画されるショルダーブロック状部35の踏面35sは、踏み込み側において、ショルダー横溝31の内端31iが最初に接地し始め、トレッド接地端Teが最後に接地する。これにより、ショルダー横溝31の内端31iからトレッド接地端Teにかけて徐々に接地することになるので、踏み込み側端縁FE1における局所的な滑りが減少し、ヒールアンドトゥ摩耗等の偏摩耗が抑制される。一方、蹴り出し側において、ショルダーブロック状部35の踏面35sは、トレッド接地端Teが最初に路面から離れ始め、ショルダー横溝31の内端31iが最後に路面から離れる。これにより、トレッド接地端Teからショルダー横溝31の内端31iにかけて、徐々に路面から離れることになるので、蹴り出し側端縁FE2の近傍に局所的な滑りが減少し、ヒールアンドトゥ摩耗等の偏摩耗が抑制される。
【0069】
図6に示すように、ショルダー横溝31の内端31iにおけるタイヤ周方向に対する角度θ2は、トレッド接地端Teにおける角度θ1よりも小さいことが望ましい。このようなショルダー横溝31によれば、排水性能が高められる。より具体的には、ショルダー横溝31の内端31iにおける角度θ2は、75〜85゜であることが望ましい。角度θ2が75゜未満の場合、ショルダー横溝31の内端31i近傍においてヒールアンドトゥ摩耗等の偏摩耗が発生しやすくなり、角度θ2が85゜を超える場合、排水性能が十分に高められないおそれがある。
【0070】
図6に示すように、トレッド接地端Teにおけるショルダー横サイプ32のタイヤ周方向に対する角度θ3は、85〜90゜であることが望ましい。このようなショルダー横サイプ32は、
図7に示されるショルダー横溝31と同様に、タイヤの接地形状FPにおけるショルダー陸部13の踏み込み側端縁FE1及び蹴り出し側端縁FE2に対して角度αと同等の角度にて交差する。従って、ショルダー横サイプ32の内端32iからトレッド接地端Teにかけて徐々に接地することになるので、踏み込み側端縁FE1における局所的な滑りが減少し、ヒールアンドトゥ摩耗等の偏摩耗が抑制される。一方、蹴り出し側においても、トレッド接地端Teからショルダー横サイプ32の内端32iにかけて、徐々に路面から離れることになるので、蹴り出し側端縁FE2の近傍に局所的な滑りが減少し、ヒールアンドトゥ摩耗等の偏摩耗が抑制される。
【0071】
図6に示すように、ショルダー横サイプ32の内端32iにおけるタイヤ周方向に対する角度θ4は、トレッド接地端Teにおける角度θ3よりも小さいことが望ましい。このようなショルダー横サイプ32によれば、排水性能が高められる。
【0072】
ショルダー補助サイプ34のタイヤ周方向に対する角度θ5は、ショルダー横溝31の内端31iにおけるタイヤ周方向に対する角度θ2よりも小さい。このようなショルダー補助サイプ34は、ショルダー陸部13における排水性能を向上させる。
【0073】
以上のような構成を有する本実施形態の空気入りタイヤ1によれば、タイヤ周方向で隣り合うショルダー補助サイプ34、34の間を、タイヤ周方向にのびるショルダー縦細溝33が設けられているので、ショルダー陸部13のタイヤ軸方向の内側における排水性能を向上しうる。ショルダー縦細溝33は、ショルダー補助サイプ34に連通することなくタイヤ周方向にのびるので、ショルダー陸部13の剛性分布が適正化され、操縦安定性能が向上しうると共に、ショルダー陸部13の偏摩耗を抑制しうる。
【0074】
図8は、本発明の他の実施形態にかかるトレッド部2Aを示している。この実施形態は、
図8に示されるように、タイヤ周方向で隣り合うミドル傾斜溝25の間にミドル傾斜溝25aが設けられている点で、
図2等に示されるトレッド部2とは異なる。これにより、トレッド部2Aは、1本のショルダー補助サイプ34に対して、ミドル傾斜溝25又はミドル傾斜溝25aのいずれかが1本ずつ設けられていることになる。さらには、ミドル傾斜サイプ26のタイヤ軸方向の内端の拡幅部26a(
図5参照)が省略されている点でも、
図2等に示されるトレッド部2とは異なる。ミドル傾斜溝25aは、ミドル傾斜溝25と同様にショルダー主溝10からタイヤ軸方向内側にのび、センター主溝9に連通することなく終端する内端を有する。
【0075】
トレッド部2Aにおいて、ミドル傾斜サイプ(第1ミドル傾斜サイプ)26bは、そのタイヤ軸方向の外端が、ミドル傾斜溝25aの内端に連通し、ミドル傾斜溝25aに連通している。これにより、ミドル傾斜サイプ26bは、ミドル傾斜溝25、25aの一本おきに隔設されていることになる。
【0076】
このようなトレッド部2Aを有する空気入りタイヤ1によれば、
図2等に示されるトレッド2に対して増設されたミドル傾斜溝25aによって、ミドル陸部12の排水性能が高められるので、拡幅部26aが省略されていても、トレッド部2を有する空気入りタイヤ1と同等以上の排水性能を維持することができる。
【0077】
以上、本発明の空気入りタイヤが詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【実施例】
【0078】
図2の基本パターンを有するサイズ195/65R15の空気入りタイヤが、表1至4の仕様に基づき試作され、リム15×6Jに装着されて、内圧230kPaの条件にて、排気量1800ccの乗用車の全輪に装着され、耐偏摩耗性能、操縦安定性能及びウェットブレーキ性能がテストされた。テスト方法は、以下の通りである。
【0079】
<耐偏摩耗性能>
各試供タイヤが、8000km走行された後、ミドル陸部におけるヒールアンドトゥ摩耗とショルダー陸部におけるヒールアンドトゥ摩耗とが測定された。結果は、比較例1を100とする指数であり、数値が大きい程、耐偏摩耗性能に優れていることを示す。
【0080】
<操縦安定性能>
上記車両にて、ドライアスファルト路面のテストコースをドライバー1名乗車で走行し、旋回時のハンドル応答性、剛性感及びグリップ等に関する特性が、ドライバーの官能により評価された。結果は、比較例1を100とする指数であり、数値が大きい程、操縦安定性能が優れていることを示す。
【0081】
<排水性能>
車両にて、水膜5mmのウェットアスファルト路面に速度80km/hで進入し、完全制動するまでの制動距離が測定された。結果は、比較例1を100とする指数であり、数値が大きい程、排水性能が優れていることを示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
表1乃至4から明らかなように、実施例の空気入りタイヤは、比較例に比べて耐偏摩耗性能、操縦安定性能及び排水性能が有意に向上していることが確認できた。