(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
建設機械に搭載され、前記建設機械の動作状況を示す複数のセンサの計測値で構成される稼働データを受信して、稼働データ記憶部に記憶する建設機械の稼働データ収集装置において、
前記稼働データの各センサの正常基準値を記憶する正常基準値記憶部と、前記各センサの正常基準値に対する乖離度を計算する乖離度算出部と、前記乖離度算出部で計算した各センサの乖離度の大きさに応じて前記稼働データ記憶部に記憶する稼働データのセンサ項目を動的に変更する記憶センサ項目動的特定部とを備え、
前記記憶センサ項目動的特定部は、前記各センサの正常基準値に対する乖離度の大きさを相互に比較して、前記乖離度の大きいセンサのセンサ項目から順番に選択して前記稼働データ記憶部に記憶する
ことを特徴とする建設機械の稼働データ収集装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の建設機械の稼働データ収集装置の実施の形態を図面を用いて説明する。なお、本発明は油圧ショベルに限らず、クレーン車、ホイールローダ、ブルドーザ等のその他の建設機械にも適用可能である。
図1は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルを示す側面図、
図2は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態におけるコントローラネットワークの構成を示す概略構成図、
図3は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルの作動油冷却系統の全体概略構成を示す概略構成図、
図4は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態を備えた油圧ショベルのエンジンの冷却水系統及び吸気系統の全体概略構成を示す概略構成図である。
【0022】
図1において、1は超大型の建設機械である油圧ショベルである。2は走行体、3はこの走行体2上に旋回可能に設けた旋回体、4はこの旋回体3の前部左側に設けた運転室、5は旋回体3の前部中央に設けたフロント作業機である。フロント作業機5は、旋回体3に回動可能に設けたブーム6と、このブーム6の先端に回動可能に設けたアーム7と、その先端に取り付けられたバケット8とで構成されている。また、運転室4のなかには、油圧ショベル1の作動部位ごとの動作状態に係わる状態量を収集するためのコントローラネットワーク9が設けられている。
【0023】
次に、
図2を用いて、コントローラネットワーク9における構成例を説明する。
図2に示すようにコントローラネットワーク9は、エンジン制御装置10と、噴射量制御装置12と、エンジンモニタ装置13と、走行体2を操作するための電気レバー15と、フロント作業機5を操作するための電気レバー16と、電気レバー15、16の操作量に応じて油圧制御を行う電気レバー制御装置17と、ディスプレイ18と、表示制御装置19と、キーパッド14と、稼働データ収集装置100と、により構成されている。
【0024】
エンジン制御装置10は、噴射量制御装置12を制御することによりエンジン11(
図3及び
図4参照)への燃料噴射量を制御する装置である。また、エンジンモニタ装置13は、エンジン11の動作状態に係わる状態量を各種センサにより取得してモニタリングを行う。エンジン11の動作状態を検出するためのセンサには、例えば、エンジン11の吸排気系統の動作状態をセンシングするためのセンサ群20と、エンジン11の冷却水系統の動作状態をセンシングためのセンサ群22とが接続されている。
【0025】
エンジン11の吸排気系統に関連するセンサ群20には、後述するが、エンジン11に吸い込まれる空気を冷却するためのインタクーラ67(
図4参照)の出入口に設置されるインタクーラ入口温度センサT1(
図4参照)、インタクーラ入口圧力センサP1(
図4参照)、インタクーラ出口温度センサT2(
図4参照)、インタクーラ出口圧力センサP2(
図4参照)や、エンジン11から排出される排気の温度を検出するための排気温度センサT3(
図4参照)などが含まれている。
【0026】
エンジン11の冷却水系統に関連するセンサ群22には、こちらも後述するが、エンジン内を循環する冷却水を冷却するためのラジエータ46(
図4参照)の前後に設置されるラジエータ入口温度センサT4(
図4参照)、ラジエータ入口圧力センサP4(
図4参照)、ラジエータ出口温度センサT5(
図4参照)などが含まれている。
【0027】
エンジン制御装置10とエンジンモニタ装置13とは、通信線によって接続されており、またエンジンモニタ装置12と稼働データ収集装置100とは、ネットワーク回線を介して接続されている。このような構成をとることにより、各種センサで検出したエンジン11の吸排気系統や冷却水系統の動作状態に係わる状態量を稼働データ収集装置100に送信することが可能になっている。
【0028】
ディスプレイ18は、運転室4内に設けられ油圧ショベル1の各種稼働情報や警報情報等をオペレータに対して表示する。表示制御装置19はディスプレイ18と接続され、表示を制御する。また、キーパッド14は、表示制御装置19と接続されており、オペレータの操作入力により各種データ設定やディスプレイ18の画面切り替え等を受け付ける。
【0029】
油圧モニタ装置23は、油圧ショベル1の油圧システムの動作状態に係わる状態量のモニタリングを行う装置である。油圧モニタ装置23には、油圧システムの動作状態を検出する各種センサが接続されており、例えば、作動油冷却系統の動作状態をセンシングするためのセンサ群24が接続されている。作動油冷却系統の動作状態をセンシングするためのセンサ群24には、後述するが、例えば作動油を冷却するためのオイルクーラ33(
図3参照)の出入口に設置されるオイルクーラ入口圧力センサP7、オイルクーラ出口温度センサT12、また作動油の温度を検知する作動油温度センサT10などが含まれる。
【0030】
油圧モニタ装置23と稼働データ収集装置100とは、ネットワーク回線を介して接続されており、油圧モニタ装置23で検出した作動油冷却系統の動作状態に係わる状態量についても稼働データ収集装置100に送信することが可能な構成になっている。
【0031】
稼働データ収集装置100は、前記ネットワーク回線を介して、油圧モニタ装置23およびエンジンモニタ装置13と接続されており、油圧モニタ装置23から、油圧システムの、例えば、作動油冷却系統の動作状態に係わるセンサデータや、エンジン11の、例えば、吸排気系統や冷却水系統の動作状態に係わるセンサデータを受信している。そして、稼働データ収集装置100は、受信したセンサデータに基づいてエンジン11や油圧システムの部位系統(作動油冷却系統や吸気排気系統、冷却水系統など)別に正常基準値に対する乖離度を算出し、特に異常に寄与していると考えられるセンサデータのみを記録するように動作する。
【0032】
稼働データ収集装置100は、さらに外部と通信するためのインターフェースを備えており、例えば、外部通信用有線コネクタ101や、無線通信用アンテナ103を介して、外部の携帯端末21と接続され、通信を行うことで蓄積したセンサデータを外部の携帯端末21へ送信することが可能になっている。
【0033】
次に、
図3を用いて油圧ショベル1の油圧システムにおける作動油冷却系統の全体概略構成と、作動油冷却系統の動作状態をセンシングするためのセンサ群24の各センサの設置位置とについて説明する。
【0034】
図3において、11は油圧ショベル1の旋回体3に搭載されたエンジンである。25はメインポンプで、エンジン11のクランクシャフト(図示せず)の回転駆動力によりポンプトランスミッション26を介して駆動される。27はアクチュエータ(例えば、ブームシリンダやアームシリンダなど)で、メインポンプ25から吐出される作動油により駆動される。28はコントロールバルブで、メインポンプ25の吐出配管に接続され、メインポンプ25からアクチュエータ27への作動油の流量および流れ方向を制御する。
【0035】
また、30はパイロットポンプで、前記メインポンプ25と同様にエンジン11のクランクシャフトの回転駆動力によりポンプトランスミッション26を介して駆動され、コントロールバルブ28を切替駆動するためのパイロット元圧を生成する。31はパイロット減圧弁で、パイロットポンプ30の吐出配管に接続され、パイロットポンプ30で生成されたパイロット元圧を電気レバー制御装置17からの制御信号に応じて減圧しパイロット圧を生成する。
【0036】
33はオイルクーラで、コントロールバルブ28と作動油タンク34との間に設けられ作動油を冷却する。36はオイルクーラ33を冷却する冷却風を生起するオイルクーラ冷却ファン、37はオイルクーラ冷却ファン36を駆動するオイルクーラファン駆動モータ、38はオイルクーラファン駆動ポンプで、エンジン11のクランクシャフト(図示せず)の回転駆動力によりポンプトランスミッション26を介して駆動され、オイルクーラファン駆動モータ37を駆動するための作動油を吐出配管を介して供給する。40はオイルクーラファン駆動モータ37のドレン配管である。
【0037】
なお、
図3では、便宜上、アクチュエータやこれに対応してコントロールバルブやパイロット減圧弁を1つのみ図示しているが、実際には油圧ショベル1には多数のアクチュエータが搭載されており、それらに対応したコントロールバルブおよびパイロット減圧弁等の油圧機器が設けられている。
【0038】
次に、
図3の油圧システムの作動油冷却系統における各種センサについて説明する。
図3において、T10は作動油温度センサで、作動油タンク34内の作動油温度を検出する。T11はオイルクーラ前面温度センサで、オイルクーラ33のオイルクーラ冷却ファン36前面の空気温度を検出する。T12はオイルクーラ出口温度センサで、オイルクーラ33の下流側配管に設けられ、オイルクーラ33から流出する作動油の温度を検出する。
【0039】
また、T9はファンモータドレン温度センサで、オイルクーラファン駆動モータ37のドレン配管40に設けられ、オイルクーラファン駆動モータ37のドレン温度を検出する。P7はオイルクーラ入口圧力センサで、オイルクーラ33の上流側配管に設けられ、オイルクーラ33に流入する作動油の圧力を検出する。P8はファンモータ入口圧力センサで、オイルクーラファン駆動モータ37に流入する作動油の圧力を検出する。P9はファンモータドレン圧力センサで、オイルクーラファン駆動モータ37のドレン配管40に設けられ、オイルクーラファン駆動モータ37のドレン圧力を検出する。
【0040】
図2に戻り、作動油冷却系統の動作状態を検出するためのセンサ群24に含まれる各センサで取得した状態量、すなわち、上記の作動油温度センサT10で検出される作動油温度、オイルクーラ前面温度センサT11で検出されるオイルクーラ前面温度、オイルクーラ出口温度センサT12で検出されるオイルクーラ出口温度、ファンモータドレン温度センサT9で検出されるファン駆動モータドレン温度、オイルクーラ入口圧力センサP7で検出されるオイルクーラ入口圧力、ファンモータ入口圧力センサP8で検出されるファン駆動モータ入口圧力、ファンモータドレン圧力センサP9で検出されるファン駆動モータドレン圧力は、油圧モニタ装置23に入力される。そして、油圧モニタ装置23は、上記センサデータを油圧システムの作動油冷却系統に関するセンシングデータとしてネットワーク回線を介して稼働データ収集装置100に送信する。
【0041】
次に、
図4を用いてエンジン11の冷却水系統及び吸排気系統の全体概略構成と、冷却水系統及び吸排気系統の動作状態をセンシングするためのセンサ群20とセンサ群22の各センサの設置位置とについて説明する。
【0042】
まず、エンジン11の冷却水系統について説明する。
図4において、45は冷却水ポンプで、エンジン11のクランクシャフトの回転駆動力を利用してポンプトランスミッション26を介して駆動される。46はラジエータで、冷却水ポンプ45から吐出され、エンジン11を冷却して水温が上昇した冷却水を冷却する。また、47はラジエータ46の入口に接続されたラジエータ入口配管、48はラジエータ46の出口に接続されたラジエータ出口配管である。54はラジエータ冷却ファン駆動モータで、図示しないファン駆動ポンプからの圧油により駆動される。58はラジエータ冷却ファンで、ラジエータ冷却ファン駆動モータ54により駆動され、ラジエータ46を冷却する風を生起する。
【0043】
次に、
図4のエンジンの冷却水系統における各種センサについて説明する。
図4において、T6はラジエータ前面空気温度センサで、ラジエータ46のラジエータ冷却ファン駆動モータ54側直近の空気温度を検出する。T4はラジエータ入口温度センサで、ラジエータ入口配管47に設けられ、ラジエータ46に流入する冷却水の温度を検出する。T5はラジエータ出口温度センサで、ラジエータ出口配管48に設けられ、ラジエータ46から流出する冷却水の温度を検出する。P4はラジエータ入口圧力センサで、ラジエータ入口配管47に設けられ、ラジエータ46に流入する冷却水の圧力を検出する。P6はファン駆動モータ入口圧力センサで、ラジエータ冷却ファン駆動モータ54への入口配管に設けられ、ラジエータ冷却ファン駆動モータ54に流入する圧油の圧力を検出する。
【0044】
図2に戻り、エンジン11の冷却水系統の動作状態を検出するためのセンサ群20に含まれる各センサで取得した状態量、すなわち、上記ラジエータ前面空気温度センサT6で検出されるラジエータ前面空気温度、ラジエータ入口温度センサT4で検出されるラジエータ入口温度、ラジエータ出口温度センサT5で検出されるラジエータ出口温度、ラジエータ入口圧力センサP4で検出されるラジエータ入口圧力、ファン駆動モータ入口圧力センサP6で検出されるファンモータ入口圧力は、エンジンモニタ装置13に入力される。そして、エンジンモニタ装置13は、上記センサデータをエンジンの冷却水系統に関するセンシングデータとしてネットワーク回線を介して稼働データ収集装置100に送信する。
【0045】
次に、
図4を用いてエンジン11の吸排気系統の説明を行う。
図4において、65はエアクリーナ、66はターボで、エアクリーナ65から吸い込まれた空気を加圧する。67はインタクーラで、ターボ66で加圧されエンジン11に吸い込まれる空気の冷却を行う。68はインタクーラ67の入口に接続されたインタクーラ入口配管、69はインタクーラ67の出口に接続されたインタクーラ出口配管である。70は複数のシリンダで、エンジン11に設けられ、インタクーラ67で冷却された空気を吸い込んで燃料と混合して燃焼させる。71はこれらの複数のシリンダ70で発生した燃焼ガスの排気を行う排気配管、72はマフラである。
【0046】
次に、
図4のエンジンの吸排気系統における各種センサについて説明する。P1はインタクーラ入口配管68に設けられたインタクーラ入口圧力センサ、T1は同様にインタクーラ入口配管68に設けられたインタクーラ入口温度センサである。P2はインタクーラ出口配管69に設けられたインタクーラ出口圧力センサ、T2は同様にインタクーラ出口配管69に設けられたインタクーラ出口温度センサである。また、T3は排気配管71に設けられた排気温度センサである。
【0047】
図2に戻り、エンジンの吸気排気温度の動作状態を検出するためのセンサ群22に含まれる各センサで取得した状態量、すなわち、上記インタクーラ入口温度センサT1で検出したインタクーラ入口温度、インタクーラ入口圧力センサP1で検出したインタクーラ入口圧力、インタクーラ出口温度センサT2で検出したインタクーラ出口温度、インタクーラ出口圧力センサP2で検出したインタクーラ出口圧力、そして、排気温度センサT3で検出した排気温度は、エンジンモニタ装置13に入力される。そして、エンジンモニタ装置13は、上記センサデータをエンジン11の吸排気系統に関するセンシングデータとしてネットワーク回線を介して稼働データ収集装置100に送信する。
【0048】
次に、
図5を用いて稼働データ収集装置100の構成を説明する。
図5は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態の構成を示す概略構成図である。
本発明の建設機械の稼働データ収集装置100は、エンジン冷却水系統やエンジン吸気系統、作動油冷却系統などの部位系統別の異常を検出するために、部位系統別にセンサ集合を構成し、そのセンサリストと、動作モードごとの各センサデータの正常基準値を記憶している。そして、前記正常基準値とセンサデータに基づいてまず部位系統別の乖離度を算出し、全体の異常状態を把握する。そして、部位系統別の正常からの乖離状況に応じて、特に正常基準値からの乖離が大きいセンサデータを上位から順番に第N位まで記憶するように動作する。これによって、部位系統別の全体の異常発生状況に応じて、特に異常に寄与している可能性のあるセンサデータのみを抽出して記憶することができるため、保守につながる情報の質を低下させることなく、記憶情報量を削減することが可能となる。
【0049】
稼働データ収集装置100は、
図5に示すように、稼働データ受信部102と、乖離度算出部104と、稼働データ記憶部106と、正常基準値記憶部であるパラメータ記憶部108と、記憶センサ項目抽出部である乖離上位センサ判定抽出部110と、パラメータ更新部114と、外部通信部116とを備えている。
【0050】
稼働データ受信部102は、通信線を介して接続されているエンジンモニタ装置13(
図2参照)および油圧モニタ装置23(
図2参照)から部位系統ごとの状態量として各種センサデータを受信する。
【0051】
パラメータ記憶部108には、作動油冷却系統やエンジンの冷却水系統などの部位系統別の状態量を検出するためのセンサ情報と、各センサデータの正常基準値に関する情報と、乖離上位センサ判定抽出部110において稼働データ記憶部106に記憶するか否かを判定するための判定閾値に関する情報とが記憶されている。
【0052】
乖離度算出部104は、時間間隔ΔT毎にパラメータ記憶部108に記憶している正常基準値に対して稼働データ受信部102で受信したセンサデータがどれだけ離れているかを示す乖離度を計算する。なお、時間間隔ΔTは、乖離度算出部104にて稼働データ収集装置100の図示しない内部クロックから計測し、また、時間間隔ΔTの設定については外部から設定できる図示しない時間間隔設定装置により設定される。
【0053】
乖離上位センサ判定抽出部110は、乖離度算出部104で計算した乖離度の結果と、パラメータ記憶部108に記憶されている判定閾値に関する情報とに基づいて、正常基準値からの乖離の度合いの大きいセンサを特定して抽出し、抽出したセンサのデータを稼働データ記憶部106に記憶する処理を行う。
【0054】
外部通信部116は、外部通信用有線コネクタ101もしくは無線通信用アンテナ103を介して、外部の携帯端末21と有線および無線で通信を行い、携帯端末21に対して、稼働データ記憶部106に保存している稼働データを送信すると共に、携帯端末21から更新用パラメータを受信してパラメータ更新部114に出力する。
【0055】
パラメータ更新部114は、携帯端末21から外部通信部116を介して受信した更新用のパラメータ情報に基づいてパラメータ記憶部108の内容を書き換える処理を行う。
【0056】
次に、稼働データ収集装置100の各部の詳細について図面を用いて説明する。
図6は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態におけるセンサデータの構成例を示す表図、
図7は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態における乖離度算出部が行う処理内容を示すフローチャート図、
図8は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態におけるパラメータ記憶部が保持するセンサ情報の一例を示す表図、
図9は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態におけるパラメータ記憶部が保持する正常基準値情報の一例を示す表図、
図10は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態における乖離上位センサ判定抽出部が行う処理内容を示すフローチャート図、
図11は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態におけるパラメータ記憶部が保持する判定閾値の一例を示す表図、
図12は本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態における稼働データ記憶部の内容を示す表図である。
【0057】
稼働データ受信部102は、通信線を介して接続されているエンジンモニタ装置13(
図2参照)からエンジン11の冷却水系統および吸排気系統におけるセンサ群20とセンサ群22で検出したセンサデータを受信するとともに、同様に通信線を介して接続されている油圧モニタ装置23(
図2参照)から油圧システムの作動油冷却系統におけるセンサ群24で検出したセンサデータを受信する。そして、稼働データ受信部102は、
図5に示すように、受信したセンサデータを乖離度算出部104に出力する。
【0058】
図6は、稼働データ受信部102が、受信する各時刻のセンサデータの構成例を示している。
図6に示すようにセンサデータは、例えば時刻ごとの受信日時と、複数のセンサレコードとで構成されている。受信日時は、前述した稼働データ収集装置100の図示しない内部クロックで計測するもので、複数のセンサレコードを受信した日時を示す。
【0059】
ひとつのセンサレコードは、例えば、部位系統IDとセンサIDとセンサ値とから構成されている。部位系統IDはエンジンの冷却水系統や吸気系統、排気系統、油圧システムの作動油冷却系統などを特定するIDであり、センサ項目であるセンサIDは各センサに与えられている固有IDである。部位系統IDとセンサIDの組み合わせによって、そのセンサ値が、重機のどのセンサから取得したものであるかが分かるようになっている。
【0060】
次に、稼働データ収集装置100の乖離度算出部104における処理内容について
図7を用いて説明する。
まず、乖離度算出部104は、ステップ(S2000)において稼働データ受信部102からセンサデータが入力されたか否かを確認する。ここで入力がない場合は、NOと判断されてステップ(S2000)に戻り入力を待つ。稼働データ受信部102からセンサデータの入力を受け付けるとYESと判断され、ステップ(S2050)に進む。
【0061】
乖離度算出部104は、ステップ(S2050)において、パラメータ記憶部108に記憶しているセンサ情報を読込み、以降の処理で扱うセンサデータの抽出処理を行う。
【0062】
図8は、パラメータ記憶部108に記憶しているセンサ情報を示している。センサ情報には、稼働データ受信部102が受信したセンサデータを解釈するためのテーブルが含まれている。すなわち、乖離度算出の対象とする部位系統ごとのIDと、それに含まれるセンサのセンサID、センサで取得したデータの単位などが含まれる。乖離度算出部104は、稼働データ受信部102から受信したセンサデータの各センサレコードにおける部位系統IDとセンサIDの組み合わせを、このセンサ情報の内容と比較し、IDの組み合わせが一致したセンサレコードのみを抽出する。
【0063】
図7に戻り、乖離度算出部104は、ステップ(S2100)において、パラメータ記憶部108に記憶している正常基準値情報を読込む。
【0064】
図9は、パラメータ記憶部108に記憶している正常基準値情報の内容を示している。
図9に示すように正常基準値情報は、エンジン冷却水系統やエンジン吸気系統、エンジン排気系統、作動油冷却系統などの部位系統ごとに正常基準値を記憶しており、各部位系統ごとの正常基準値として、動作モードごとの各センサの正常平均値と正常分散値を記憶している。
【0065】
動作モードとは、例えば、エンジン負荷率やエンジン回転数の状態によりデータ分類した単位を示している。数値解析的には、過去に取得した正常動作時のセンサデータに対してクラスタ分析などの処理を行うことで統計的な分類を行うことが可能である。例えば、N個のセンサのデータの組み合わせをN要素のベクトルとみなし、過去に取得した正常動作時の各時刻データをN次元空間にプロットしたときに、同じ動作モードのセンサデータは概ね近い位置に集合をなして固まる傾向にある。この特性を生かして、動作モードごとに集合をなして固まったデータ群に対して、それぞれN個のセンサデータの平均値および分散値を計算して、正常基準値として事前に記憶している。
【0066】
例えば、エンジン吸気系統に関しては、動作モード1から動作モードMに対して、インタクーラ入口温度(T1)と、インタクーラ入口圧力(P1)と、インタクーラ出口温度(T2)と、インタクーラ出口圧力(P2)の平均値および分散値とを計算して記憶している。その他の各部位系統に関しても、動作モード1から動作モードMに対して、センサ1〜Nのセンサデータの平均値および分散値を計算して記憶している。
【0067】
図7に戻り、乖離度算出部104は、ステップ(S2200)において、部位系統ごと、動作モードごとに乖離度を算出する。ここで、部位系統e、動作モードmの乖離度L(e,m)とし、部位系統eに含まれるセンサ数をN個、センサの時刻tにおける取得値をd
1(t), d
2(t),・・・d
N(t)とすると、以下の演算式数1で計算する。
【0069】
ここで、μ
mi,σ
miはそれぞれ動作モードmにおけるセンサiの正常平均値、正常分散値である
乖離度算出部104は、ステップ(S2300)において部位系統ごとに動作モード特定処理を行う。ここでは、ステップ(S2200)で計算したM個の動作モードごとの乖離度L(e,m)(m=1,2,・・・M)を比較し、乖離度が最小となるm=m(e)を、対象部位系統eにおける動作モードと特定する。すなわち、本ステップにおける動作モード特定処理とは、センサデータと各動作モードの正常基準値との距離を計算して、その距離が最小となる動作モードを検出する処理に相当する。
【0070】
乖離度算出部104は、ステップ(S2400)において部位系統ごとの乖離度情報を作成して乖離上位センサ判定部110に出力する。
ここで出力する情報は、時刻tと、部位系統e (e=1,2,・・・,E)ごとの特定動作モードm(e)と、乖離度L(e,m(e))と、センサ値d
1(t), d
2(t),・・・d
N(t)と、センサ値ごとの乖離値((d
i(t)-μ
m(e)i/σ
m(e)i)
2 (i=1,2 ・・・,N)とを含んでいる。
【0071】
乖離度算出部104は、ステップ(S2400)の処理を終了すると再び、ステップ(S2000)に戻り、前述した時間間隔ΔT後の時刻t+1の稼働データの入力処理を行う。
【0072】
次に、稼働データ収集装置100の乖離上位センサ判定抽出部110における処理内容について
図10を用いて説明する。
まず、乖離上位センサ判定抽出部110は、ステップ(S4000)において、乖離度算出部104から乖離度情報が入力されたか否かを確認する。ここで入力がない場合は、NOと判断されてステップ(S4000)に戻り入力を待つ。乖離度算出部104から乖離度情報の入力を受け付けるとYESと判断され、ステップ(S4100)に進む。
【0073】
乖離上位センサ判定抽出部110は、ステップ(S4100)において、パラメータ記憶部108の判定閾値情報を読み込む。
【0074】
図11は、パラメータ記憶部108に記憶している判定閾値情報の内容を示している。判定閾値情報は、乖離度Lの範囲と、抽出する乖離上位センサ数とを対応づけたテーブルで構成されている。例えば、乖離度L(e,m(e))が1より小さい場合には、部位系統eのセンサデータは正常値のばらつきの範囲内であると考えられるため、取得するセンサ数を0とし、乖離度L(e,m(e))が大きくなるに従って抽出するセンサ数を多くするように設定されている。
【0075】
この判定閾値情報は、
図5に示す稼働データ収集装置100の構成においてパラメータ更新部114を介して、携帯端末21からの更新指示に従って変更が可能になっている。したがって、例えば、乖離度“L≧0”の範囲に対してセンサ数を“ALL”と設定するとすべてのセンサデータが抽出対象となるような判定閾値情報となる。
【0076】
図10に戻り、乖離上位センサ判定抽出部110は、ステップ(S4200)において、部位系統eごとに乖離上位センサ数NUM(e)を特定する。すなわち、部位系統eにおける乖離度L(e,m(e))を判定閾値情報の各乖離度Lの範囲のなかでどのランクに属するかを判断し、それに対応する乖離上位センサ数NUM(e)を特定する。
【0077】
乖離上位センサ判定抽出部110は、ステップ(S4300)において、乖離上位センサを第NUM(e)位まで特定する。すなわち、乖離度算出部104から入力された乖離度情報のなかで各センサの乖離度((d
i(t)-μ
m(e)i/σ
m(e)i)
2 (i=1,2,・・・,N)をそれぞれ比較し、大きいものから順に第NUM(e)位までのセンサを特定する。これらが、抽出した乖離上位センサに相当する。
【0078】
乖離上位センサ判定抽出部110は、ステップ(S4400)において、ステップ(S4300)で特定したセンサに関する情報に基づいて稼働データ記憶部106への出力処理を行う。
【0079】
図12は、稼働データ記憶部106に記憶される情報の内容の一例を示している。稼働データ記憶部106は、管理情報とセンサデータとの2つの項目から構成されている。管理情報には、当該稼働データ収集装置100が設置されている重機に関する情報として機種、号機、PIN(Personal Identification Number)、カントリーコード、サイトIDの情報が記憶されている。ここで、機種、号機、PINについては、対象重機を一意に特定するための固有情報である。また、カントリーコードとサイトIDは、対象重機が稼働している国および、稼働している鉱山を特定するための情報である。これらのコードおよびIDに関する情報は、センサデータの管理目的で用いられ、携帯端末21を介して管理システム側へセンサデータを送信する際に付加することでどの重機のセンサデータであるかを特定可能にするために用いられる。
【0080】
一方、センサデータは、
図10に示す乖離上位センサ判定抽出部110が、ステップ(S4400)において、出力する情報に相当する。センサデータは、時刻ごとに管理されており、受信日時の情報と部位系統ごとのセンサレコード情報に分割されている。部位系統ごとのセンサレコード情報としては、部位系統IDと、乖離度Lと、乖離上位センサ数NUMと、第1位から第NUM位までのセンサIDとセンサ値で構成されている。部位系統IDは、パラメータ記憶部108のセンサ情報と同一のIDが用いられる。
【0081】
図10に戻り、乖離上位センサ判定抽出部110は、ステップ(S4400)が終了すると、ステップ(S4000)に戻り、乖離度算出部104から次の時刻の乖離度情報の入力を確認する。
【0082】
以上のようにして、稼働データ収集装置100は重機からのセンサデータのうち、故障の兆候を示す異常データに関するデータのみを抽出して稼働データ記憶部106に記憶して蓄積している。この稼働データ記憶部106に蓄積されているセンサデータは、外部の携帯端末21からの要求に応じて、外部通信部116が、外部通信用有線コネクタ101や、無線通信用アンテナ103を介して送信する。
【0083】
次に、上記構成の本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態の動作を以下に説明する。
本発明の稼働データ収集装置100は、エンジン冷却水系統やエンジン吸気系統、作動油冷却系統などの部位系統別の異常を検出するために、部位系統別にセンサ集合を構成し、そのセンサリストと、動作モードごとの各センサデータの正常基準値を記憶している。そして、前記正常基準値とセンサデータに基づいてまず部位系統別の乖離度を算出し、全体の異常状態を把握する。そして、部位系統別の正常からの乖離状況に応じて、特に正常基準値からの乖離が大きいセンサデータを上位から順番に第N位まで記憶するように動作する。
【0084】
例えば、建設機械の作動油冷却系統において、何らかの理由によりオイルクーラ入口圧力センサP7のセンサデータが、正常基準値と大きく乖離した場合、稼働データ収集装置100は、乖離度算出部104において作動油冷却系統の乖離度情報を乖離上位センサ判定抽出部110に出力する。乖離上位センサ判定抽出部110は、パラメータ記憶部108の判定閾値情報を読み込み、乖離度Lに応じた抽出センサ数を特定して、作動油冷却系統における乖離上位センサ数を特定する。例えば、乖離度が1以上2未満の場合には、2個の乖離上位センサが特定される。この結果、作動油冷却系統のオイルクーラ入口圧力センサP7のセンサデータと、オイルファンモータ入口圧力センサP8、オイルクーラファンモータドレン温度センサT9、オイルクーラファンモータドレン圧力センサP9、作動油温度センサT10、オイルクーラ前面温度センサT11、及びオイルクーラ出口温度センサT12の内のいずれかのセンサデータであって、正常基準値との乖離量が2番目に大きいデータが稼働データ記憶部106に記憶されることになる。
【0085】
このように、本実施の形態によれば、建設機械の部位系統でまとめたセンサ集合全体を監視していて、正常基準値との乖離度に応じて、複数の乖離上位に位置するセンサのデータのみを記憶するので、故障予兆を示すような異常が発生した場合には、稼働データ収集装置100にはセンサデータが必ず記録され、結果的に建設機械の故障予兆を確実に行うことができる。また、乖離度に応じて、複数の乖離上位に位置するセンサのデータのみを記憶するので、保守につながる情報の質を低下させることなく大幅な記憶情報量の削減を図ることができる。
【0086】
上述した本発明の建設機械の稼働データ収集装置の一実施の形態によれば、保守につながる情報の質を低下させることなく収集蓄積する記憶情報量を軽減することができるので、建設機械の故障予兆を示す稼働データを効率的に収集することができる。この結果、連続稼働を阻止する故障の発生を精度良く未然に防ぐことができ、建設機械の生産性が向上する。
【0087】
なお、本実施の形態において、その動作を建設機械の作動油冷却系統について説明したが、建設機械のエンジンの冷却水系統、吸排気系統等についても同様に処理される。