特許第5841641号(P5841641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5841641
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/12 20060101AFI20151217BHJP
   F02B 37/007 20060101ALI20151217BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
   F02B37/12 303J
   F02B37/007
   F02B37/12 303H
   F02B37/12 303E
   F02D23/00 N
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-124613(P2014-124613)
(22)【出願日】2014年6月17日
(65)【公開番号】特開2016-3617(P2016-3617A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2015年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 隆博
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 克浩
(72)【発明者】
【氏名】秋山 隼太
(72)【発明者】
【氏名】東田 正憲
(72)【発明者】
【氏名】野上 哲男
【審査官】 安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−159730(JP,A)
【文献】 特開2009−167799(JP,A)
【文献】 特開昭60−166716(JP,A)
【文献】 特開2011−047393(JP,A)
【文献】 特開2014−177918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00 − 41/10
F02D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシリンダを有するエンジン本体と、
各シリンダに掃気ガスを供給する掃気管と、
空気を昇圧し前記掃気ガスとして前記掃気管に供給する主過給機と、
前記主過給機と並列に配置されており、空気を昇圧し前記掃気ガスとして前記掃気管に供給する副過給機と、
圧縮空気を内部に保有する圧縮空気タンクと、
前記圧縮空気タンクが保有する圧縮空気を前記掃気管に供給する圧縮空気供給配管と、
前記圧縮空気供給配管に設けられた圧縮空気制御弁と、を備え
前記圧縮空気制御弁は、前記主過給機及び前記副過給機が稼動する並列運転から前記主過給機のみが稼動する単独運転へ移行する間の単独移行運転の際に開放される、エンジンシステム。
【請求項2】
複数のシリンダを有するエンジン本体と、
各シリンダに掃気ガスを供給する掃気管と、
空気を昇圧し前記掃気ガスとして主掃気配管を介して前記掃気管に供給する主過給機と、
前記主過給機と並列に配置されており、空気を昇圧し前記掃気ガスとして副掃気配管及び前記主掃気配管を介して前記掃気管に供給する副過給機と、
前記副掃気配管に設けられた副ブロワ出口弁と、
前記副排気配管の前記副ブロワ出口弁よりも上流側の部分に連結され、前記副過給機で昇圧された空気を外部へ放出する放風配管と、
前記放風配管に設けられた放風弁と、
圧縮空気を内部に保有する圧縮空気タンクと、
前記圧縮空気タンクが保有する圧縮空気を前記掃気管に供給する圧縮空気供給配管と、
前記圧縮空気供給配管に設けられた圧縮空気制御弁と、を備え、
前記主過給機のみが稼動する単独運転から前記主過給機及び前記副過給機が稼動する並列運転へ移行する間の並列移行運転の際には前記副ブロワ出口弁が閉じられるとともに前記放風弁が開放され、これに伴って、前記圧縮空気制御弁は前記並列移行運転の際における掃気圧の低下を抑えることができるよう前記並列移行運転の際に開放される、エンジンシステム。
【請求項3】
前記圧縮空気タンクは、エンジン始動用の圧縮空気を保有するタンクである、請求項1又は2に記載のエンジンシステム。
【請求項4】
前記主過給機及び前記副過給機が昇圧した空気を冷却するエアクーラをさらに備え、
前記圧縮空気供給配管は、前記エアクーラに前記圧縮空気を供給し、該圧縮空気は前記エアクーラを介して前記掃気管に供給される、請求項1乃至3のうちいずれか一の項に記載のエンジンシステム。
【請求項5】
前記圧縮空気制御弁は、前記単独移行運転が開始されると同時に開放される、請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項6】
前記圧縮空気制御弁は、前記並列移行運転が開始されると同時に開放される、請求項2に記載のエンジンシステム。
【請求項7】
前記圧縮空気制御弁は、前記掃気管内の圧力が所定値以下となったときに開放される、請求項1又は2に記載のエンジンシステム。
【請求項8】
前記圧縮空気供給配管に設けられた圧力調整弁をさらに備え、
前記圧力調整弁は、前記単独移行運転時における前記圧縮空気供給配管の出口圧力が、前記並列運転時における定常状態での前記圧縮空気供給配管の出口付近での圧力以上、かつ、前記単独運転時における定常状態での前記圧縮空気供給配管の出口付近での圧力以下となるように制御する、請求項1に記載のエンジンシステム。
【請求項9】
前記圧縮空気供給配管に設けられた圧力調整弁をさらに備え、
前記圧力調整弁は、前記並列移行運転時における前記圧縮空気供給配管の出口圧力が、前記並列運転時における定常状態での前記圧縮空気供給配管の出口付近での圧力以上、かつ、前記単独運転時における定常状態での前記圧縮空気供給配管の出口付近での圧力以下となるように制御する、請求項2に記載のエンジンシステム。
【請求項10】
前記圧縮空気供給配管に設けられ、掃気ガスが前記圧縮空気タンクに向かって流れるのを防ぐ逆止弁をさらに備える、請求項8又は9に記載のエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台の過給機を備え、運転状況に応じて過給機の稼動台数を変えることができるエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に過給機を備えたエンジンシステムでは、エンジン本体が高負荷のときに効率のよい運転ができるように過給機が選定される。ただし、燃費等の観点から、エンジン本体を中負荷及び低負荷で運転することが多いエンジンシステムでは、主過給機と副過給機の2台の過給機を備える場合もある(特許文献1及び2参照)。
【0003】
そのようなエンジンシステムでは、エンジン本体を高負荷で運転する場合には主過給機と副過給機の両方を稼動させ、エンジン本体を中負荷及び低負荷で運転する場合には主過給機のみを稼動させる。かかる構成によれば、エンジン本体を高負荷で運転する場合のみならず、中負荷及び低負荷で運転する場合も効率のよい運転が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−166716号公報
【特許文献2】特開2009−167799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、上記のエンジンシステムでは、過給機の稼動台数を変更する際、過給機のサージを回避するために掃気ガスの一部を外部に放出している。このような理由等から、過給機の稼動台数を変更する際には、掃気圧が一時的に落ち込み、エンジン本体の燃焼状態が悪化して、場合によっては失火するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、過給機の稼動台数を変更する際に、エンジン本体の燃焼状態の悪化を抑えることができるエンジンシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある形態に係るエンジンシステムは、複数のシリンダを有するエンジン本体と、各シリンダに掃気ガスを供給する掃気管と、空気を昇圧し前記掃気ガスとして前記掃気管に供給する主過給機と、前記主過給機と並列に配置されており、空気を昇圧し前記掃気ガスとして前記掃気管に供給する副過給機と、圧縮空気を内部に保有する圧縮空気タンクと、前記圧縮空気タンクが保有する圧縮空気を前記掃気管に供給する圧縮空気供給配管と、前記圧縮空気供給配管に設けられた圧縮空気制御弁と、を備えている。
【0008】
かかる構成によれば、掃気圧が低下したとき又は低下する直前に圧縮空気タンクが保有する圧縮空気を一気に、かつ一時的に掃気管に供給することができる。そのため、過給機の稼動台数を変更する際における掃気圧の低下を抑えることが可能であり、ひいてはエンジン本体の燃焼状態の悪化を抑えることができる。
【0009】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記圧縮空気タンクは、エンジン始動用の圧縮空気を保有するタンクであってもよい。通常、エンジン始動と過給機の稼動台数の変更は同時に行われないことから、過給機の稼動台数を変更する際には、エンジン始動用の圧縮空気を利用することができる。そのため、上記の構成によれば、圧縮空気タンクを別途設ける必要がなく、エンジンシステム全体の製造コストを抑えることができるとともに、圧縮空気タンクの設置エリアを別途確保する必要もない。
【0010】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記主過給機及び前記副過給機が昇圧した空気を冷却するエアクーラをさらに備え、前記圧縮空気供給配管は、前記エアクーラに前記圧縮空気を供給し、該圧縮空気は前記エアクーラを介して前記掃気管に供給してもよい。かかる構成によれば、圧縮されることで温度が高くなった圧縮空気を、エアクーラで冷却することができるため、掃気ガスの温度が圧縮空気によって上昇するのを抑えることができる。
【0011】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記圧縮空気制御弁は、前記主過給機及び前記副過給機が稼動する並列運転から前記主過給機のみが稼動する単独運転へ移行する間の単独移行運転の際に開放されていてもよい。かかる構成によれば、単独移行運転時に掃気圧が低下するのを抑えることができる。
【0012】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記圧縮空気制御弁は、前記主過給機のみが稼動する単独運転から前記主過給機及び前記副過給機が稼動する並列運転へ移行する間の並列移行運転の際に開放されていてもよい。かかる構成によれば、並列移行運転時に掃気圧が低下するのを抑えることができる。
【0013】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記圧縮空気制御弁は、前記単独移行運転が開始されると同時に開放されてもよい。かかる構成によれば、単独移行運転の早い段階で掃気圧が低下してしまうような場合であっても、掃気圧の低下を抑えることができる。
【0014】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記圧縮空気制御弁は、前記並列移行運転が開始されると同時に開放されてもよい。かかる構成によれば、並列移行運転の早い段階で掃気圧が低下してしまうような場合であっても、掃気圧の低下を抑えることができる。
【0015】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記圧縮空気制御弁は、前記掃気管内の圧力が所定よりも低くなったときに開放されてもよい。かかる構成によれば、掃気圧が低くなったときに掃気管に圧縮空気が供給されるため、掃気管へ圧縮空気を不要に供給するのを防ぐことができる。
【0016】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記圧縮空気供給配管に設けられた圧力調整弁をさらに備え、前記圧力調整弁は、前記単独移行運転時又は前記並列移行運転時における前記圧縮空気供給配管の出口圧力が、前記並列運転時における定常状態での前記圧縮空気供給配管の出口付近での圧力以上、かつ、前記単独運転時における定常状態での前記圧縮空気供給配管の出口付近での圧力以下となるように制御してもよい。かかる構成によれば、掃気圧の低下を有効に抑えつつ、掃気圧が過上昇するのを抑えることができる。
【0017】
また、上記のエンジンシステムにおいて、前記圧縮空気供給配管に設けられ、掃気ガスが前記圧縮空気タンクに向かって流れるのを防ぐ逆止弁をさらに備えていてもよい。かかる構成によれば、掃気ガスが圧縮空気供給配管及び圧縮空気タンクに流れ込むことによって生じ得る不具合を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のとおり、上記のエンジンシステムによれば、過給機の稼動台数を変更する際に、燃焼状態の悪化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、エンジンシステム全体の概略構成図である。
図2図2は、エンジンシステムの制御系のブロック図である。
図3図3は、台数削減制御を開始した後の掃気圧の時間変化を示した図である。
図4図4は、台数増加制御を開始した後の掃気圧の時間変化を示した図である。
図5図5は、圧縮空気供給制御のフロー図である。
図6図6は、変形例に係る圧縮空気供給制御のフロー図である。
図7図7は、他の形態に係るエンジンシステム全体の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。以下では、全ての図面を通じて同一又は相当する要素には同じ符号を付して、重複する説明は省略する。
【0021】
<エンジンシステムの全体構成>
まず、エンジンシステム100の全体構成について説明する。図1は、エンジンシステム100の全体の概略構成図である。図1において、太く描いた破線は排気ガスの流れを示しており、太く描いた実線は掃気ガスの流れを示している。エンジンシステム100は、エンジン本体10と、掃気管20と、排気管30と、主過給機40と、副過給機50と、圧縮空気タンク60と、圧縮空気供給配管61と、圧縮空気制御弁62と、圧力調整弁63と、を備えている。以下、これらの構成要素について順に説明する。
【0022】
本実施形態のエンジン本体10は、船舶の推進用主機であり、大型の2ストロークディーゼルエンジンである。ただし、エンジン本体10は、4ストロークエンジンであってもよく、ガスエンジンやガソリンエンジンであってもよい。4ストロークエンジンであれば、「掃気」は「給気」と読み替えられる。エンジン本体10は、複数のシリンダ11を有しており、各シリンダ11内で燃料が爆発燃焼することでピストン12を駆動することができる。なお、エンジン本体10には、エンジン回転数を測定するエンジン回転計13、及び燃料流量を測定する燃料流量計14(いずれも図2参照)が設けられている。
【0023】
掃気管20は、掃気ガスを一時的に収容する装置である。掃気管20には、主過給機40及び副過給機50から掃気ガスが供給される。掃気管20は、供給された掃気ガスを一時的に収容した後、当該掃気ガスを各シリンダ11に供給する。なお、掃気管20には、掃気管20内における掃気ガスの圧力(以下、「掃気圧」と称する)を測定する掃気圧計21が設けられている。
【0024】
排気管30は、排気ガスを一時的に収容する装置である。排気管には、エンジン本体10の各シリンダ11から排気ガスが供給される。排気管30は、供給された排気ガスを一時的に収容した後、当該排気ガスを、主排気配管31を介して主過給機40のタービン41に供給するとともに、副排気配管32を介して副過給機50のタービン51に供給する。なお、副排気配管32には、副タービン入口弁33が設けられている。
【0025】
主過給機40は、エンジン本体10の運転中、常に稼動する過給機である。主過給機40は、タービン41と、ブロワ42とを有している。タービン41には排気管30から排気ガスが供給され、この排気ガスのエネルギによりタービン41は回転する。タービン41とブロワ42は連結シャフト43により連結されており、タービン41の回転に伴ってブロワ42も回転する。ブロワ42が回転すると、外部から取り込んだ空気(外気)が昇圧され、昇圧された空気は掃気ガスとして主掃気配管44を介して掃気管20に供給される。なお、主掃気配管44には、掃気ガスを冷却するエアクーラ45が設けられている。
【0026】
副過給機50は、エンジン本体10の運転状態に応じて、稼動又は停止する過給機である。副過給機50は、主過給機40と並列に配置されている。副過給機50は、主過給機40と同じ構造であって、連結シャフト53によって連結されたタービン51とブロワ52とを有している。本実施形態の副過給機50は、主過給機40と同じ仕様(容量)であるが、異なる仕様であってもよい。副過給機50で昇圧された外気は、掃気ガスとして副掃気配管54および主掃気配管44を介して掃気管20に供給される。なお、副掃気配管54には、副ブロワ出口弁55が設けられている。また、副掃気配管54の副ブロワ出口弁55よりも上流側の部分には、ブロワ52で昇圧された空気を外部へ放出する放風配管56が連結されている。この放風配管56には、放風弁57が設けられている。
【0027】
圧縮空気タンク60は、内部に圧縮空気を保有するタンクである。本実施形態の圧縮空気タンク60は、エンジン始動用の圧縮空気を保有するタンクである。ここでいう「エンジン始動用の圧縮空気」には、エアースタータを駆動する空気源となる圧縮空気、及び、エンジン本体10のシリンダ11に直接供給されてピストン12を駆動する始動弁用圧縮空気が含まれる。大型の2サイクルディーゼルエンジンを搭載する船舶は、エンジン始動用の圧縮空気を保有するタンクを備えているのが一般的である。つまり、このような船舶であれば、別途圧縮空気タンクを設ける必要がない。
【0028】
圧縮空気供給配管61は、圧縮空気タンク60が保有する圧縮空気を掃気管20に供給する配管である。本実施形態の圧縮空気供給配管61は、圧縮空気タンク60と掃気管20を直接連結しているが、圧縮空気タンク60と主掃気配管44とを連結してもよく、圧縮空気タンク60と副掃気配管54の副ブロワ出口弁55よりも下流の部分とを連結してもよく、圧縮空気タンク60とエアクーラ45を連結してもよい。いずれの構成であっても、圧縮空気供給配管61は、圧縮空気タンク60が保有する圧縮空気を掃気管20に供給することができる。
【0029】
圧縮空気制御弁62は、圧縮空気供給配管61に設けられた弁であり、開放することにより圧縮空気タンク60が保有する圧縮空気を掃気管20に供給することができる。圧縮空気制御弁62を開閉するタイミングについては後述する。なお、圧縮空気供給配管61のうち圧縮空気制御弁62よりも下流には逆止弁64が設けられている。この逆止弁64は、圧縮空気が掃気管20に向って流れるのを許容する一方、掃気ガスが圧縮空気タンク60に向かって流れるのを防ぐことができる。
【0030】
圧力調整弁63は、圧縮空気供給配管61の出口圧力を調整する弁である。圧力調整弁63は、圧縮空気供給配管61の圧縮空気制御弁62よりも上流側の2カ所に設けられている。上流側の圧力調整弁63は圧縮空気タンク60から供給される圧縮空気の圧力を一定程度下げる役割を有している。また、下流側の圧力調整弁63は圧縮空気供給配管61の出口圧力を微調整する役割を有している。なお、圧力調整弁63は1カ所にのみ設けられていてもよい。
【0031】
<制御系の構成>
次に、エンジンシステム100の制御系の構成について説明する。図2は、エンジンシステム100の制御系のブロック図である。図2に示すように、エンジンシステム100は、エンジンシステム100全体を制御する制御装置70を備えている。制御装置70は、例えばCPU、ROM、RAM等によって構成されている。
【0032】
制御装置70は、作業者が操作する運転操作盤71、エンジン回転計13、燃料流量計14、及び掃気圧計21と電気的に接続されている。制御装置70は、これらの機器から送信される入力信号に基づいて、種々の演算を行い、エンジンシステム100の各部を制御する。本実施形態では、制御装置70は、副タービン入口弁33、副ブロワ出口弁55、放風弁57、圧縮空気制御弁62、及び圧力調整弁63と電気的に接続されており、各種の演算等の結果に基づいて、これらの機器へ制御信号を送信する。
【0033】
制御装置70は、機能的な構成として、台数削減制御部72と、台数増加制御部73と、圧縮空気供給制御部74と、を有している。以下、各制御部について順に説明する。
【0034】
<台数削減制御部>
台数削減制御部72は、過給機の稼動台数を減らす台数削減制御を行う部分である。台数削減制御は、エンジン負荷を高負荷(例えば、エンジン負荷100%)から中負荷又は低負荷(例えば、エンジン負荷50%)へ移行した後に行われる。本実施形態では、作業者の操作によって台数削減制御が開始されるが、自動で開始されるようにしてもよい。
【0035】
台数削減制御では、主過給機40を稼動させた状態で副過給機50を停止させることにより、過給機の稼動台数を減らす。具体的には、開放されている副タービン入口弁33を閉止することにより、排気ガスが副過給機50のタービン51に供給されなくなり、副過給機50が停止する。また、副タービン入口弁33を閉める際には、副ブロワ出口弁55も閉止する。これにより、主過給機40で昇圧された空気が副過給機50のブロワ52に流れるのを防ぐことができる。ただし、副ブロワ出口弁55を閉めると副過給機50のブロワ52の背圧が高くなる結果、サージが起きるおそれがある。そのため、副ブロワ出口弁55を閉止したときには、放風弁57もあわせて開放し、副過給機50で昇圧した空気を外部に放出する。これにより、副過給機50のブロワ52の背圧が高くなるのが抑えられ、サージを回避することができる。
【0036】
図3の破線は、エンジン負荷が中負荷のときに台数削減制御を開始した後の掃気圧の時間変化を示している。ただし、図3で示す値は概念的なものであり、実際の値とは必ずしも一致しない(以下で説明する他のグラフも同様)。台数削減制御により、主過給機40と副過給機50の両方が稼動する並列運転から、主過給機40のみが稼動する稼動単独運転へ移行することになる。図中の符号Pwで示す値は、並列運転時の定常状態での掃気圧(以下、「並列掃気圧」と称す)である。また、符号Psで示す値は、単独運転時の定常状態での掃気圧(以下、「単独掃気圧」と称す)である。図3は中負荷の例であるが、主過給機40のみが稼動できる全ての負荷において、並列掃気圧Pwよりも単独掃気圧Psの方が大きい。
【0037】
並列運転から単独運転へ移行する間の運転を「単独移行運転」と呼ぶこととすると、図3の破線で示すように、単独移行運転時の掃気圧は、並列掃気圧Pwから単独掃気圧Psへと緩やかに上昇するのではなく、並列掃気圧Pwよりも低い値に一旦落ち込む。これは、副過給機50で昇圧した空気が外部に放出されて掃気管20に供給されないことが主な原因である。掃気圧の落ち込みが大きい場合には、エンジン本体10の効率が低下し、場合によっては失火に至るおそれがある。
【0038】
<台数増加制御部>
台数増加制御部73は、過給機の稼動台数を増やす台数増加制御を行う部分である。稼動台数増加制御は、エンジン負荷を中負荷又は低負荷から高負荷へ移行する前に行われる。本実施形態では、作業者の操作によって台数増加制御が開始されるが、自動で開始されるようにしてもよい。エンジン負荷を増加する前に、あらかじめ副過給機50を稼動させ、稼動する過給機の台数を増やすことにより、高負荷における主過給機40のオーバースピードを防ぐことができる。
【0039】
台数増加制御では、主過給機40が稼動した状態で副過給機50を始動させることにより、過給機の稼動台数を増やす。具体的には、閉止されている副タービン入口弁33を開放することにより、排気ガスが副過給機50のタービン51に供給され、副過給機50は始動する。なお、台数増加制御を開始するときは、副ブロワ出口弁55は閉じた状態にある。そのため、この場合も副過給機50のタービン51にサージが発生しないように放風弁57を開放し、副過給機50で昇圧した空気を外部へ放出する。
【0040】
図4の破線は、エンジン負荷が中負荷のときに台数増加制御を開始した後の掃気圧の時間変化を示している。台数増加制御により、単独運転から並列運転へ移行することになる。単独運転から並列運転へ移行する間の運転を「並列移行運転」と呼ぶこととすると、図4の破線で示すように、並列移行運転時の掃気圧は、単独掃気圧Psから並列掃気圧Pwへ緩やかに移行するのではなく、並列掃気圧Pwよりも低い値に一旦落ち込む。これは、副過給機50で昇圧した空気が外部に放出されて掃気管20に供給されないことが主な原因であり、また、副過給機50の立ち上がりに時間がかかることも影響している。掃気圧の落ち込みが大きい場合には、エンジン本体10の効率が低下し、場合によっては失火に至るおそれがある。
【0041】
<圧縮空気供給制御部>
圧縮空気供給制御部74は、掃気管20に圧縮空気を供給して掃気圧の低下を防ぐ圧縮空気供給制御を行う部分である。図5は、圧縮空気供給制御の方法を示したフローチャートである。図5を参照して、圧縮空気供給制御について説明する。以下で説明する演算及び制御は、圧縮空気供給制御部74によって遂行される。
【0042】
圧縮空気供給制御は、台数削減制御又は台数増加制御(以下、両制御を総合して「台数切替制御」と称す)が行われるのと同時に開始される。つまり、作業者の操作によって運転操作盤71から制御装置70へ台数切替制御の開始を指示する信号が送信されると、圧縮空気供給制御の処理が開始される。
【0043】
処理が開始されると、圧縮空気供給制御部74は、台数切替制御が開始されてから予め設定された供給開始時間t1が経過したか否かを判定する(ステップS1)。台数切替制御が開始されてから供給開始時間t1が経過していないと判定した場合は(ステップS1でNO)、ステップS1を繰り返す。
【0044】
一方、台数切替制御が開始されてから供給開始時間t1が経過していると判定した場合は(ステップS1でYES)、圧縮空気供給制御部74は、圧縮空気制御弁62に制御信号を送信し、圧縮空気制御弁62を開放する(ステップS2)。これにより、圧縮空気タンク60内の圧縮空気が、一気に掃気管20に供給される。そのため、台数切替制御時における掃気圧の低下を抑えることができる。
【0045】
なお、本実施形態では、圧縮空気タンク60から掃気管20に供給する圧縮空気の圧力、すなわち圧縮空気供給配管61の出口圧力Poは、並列掃気圧Pw以上、かつ、単独掃気圧Ps以下である。圧縮空気供給配管61の出口圧力Poをこのように調整することで、掃気圧の低下を有効に抑えつつ、掃気圧が過上昇するのを抑えることができる。圧縮空気供給配管61の出口圧力Poは、圧力調整弁63によって調整することができる。
【0046】
続いて、圧縮空気供給制御部74は、台数切替制御が開始されてから予め設定された供給終了時間t2が経過したか否かを判定する(ステップS3)。台数切替制御が開始されてから供給終了時間t2が経過していないと判定した場合は(ステップS3でNO)、ステップS3を繰り返す。
【0047】
一方、台数切替制御が開始されてから供給終了時間t2が経過している場合は(ステップS3でYES)、圧縮空気供給制御部74は、圧縮空気制御弁62に制御信号を送信し、圧縮空気制御弁62を閉止し(ステップS4)、処理が終了する。これにより、掃気管20への圧縮空気の供給は停止される。
【0048】
なお、上記の供給開始時間t1及び供給終了時間t2は、固定値であってもよく、変動値であってもよい。供給開始時間t1及び供給終了時間t2が固定値の場合、台数削減制御と台数増加制御で異なる値としてもよい。供給開始時間t1及び供給終了時間t2が変動値の場合、例えば、エンジン負荷が大きくなるに従って、供給終了時間t2を遅く設定してもよい。
【0049】
また、エンジン負荷によって並列掃気圧Pw及び単独掃気圧Psは変動するため、エンジン負荷に応じて圧縮空気供給配管61の出口圧力Poを変更してもよい。さらに、圧縮空気タンク60が保有する圧縮空気の圧力が変動するような場合は、圧縮空気タンク60内の圧力を取得し、当該圧力に基づいて圧力調整弁63の開度を調整してもよい。
【0050】
図3の実線は、台数削減制御と同時に圧縮空気供給制御を行った場合の掃気圧の時間変化を示している。台数削減制御の条件は、図3の破線で示す場合と同じである。また、圧縮空気供給制御における供給開始時間t1はゼロである。すなわち、台数削減制御の開始と同時に圧縮空気制御弁62を開放している。また、供給終了時間t2は、台数削減制御が行われている時間、すなわち単独移行運転の終了時間よりも長く設定している。さらに、圧縮空気供給配管61の出口圧力Poは、並列掃気圧Pw以上、かつ、単独掃気圧Ps以下となるように設定している(図3の一点鎖線参照)。
【0051】
図3の実線で示すように、台数削減制御と同時に圧縮空気供給制御を行うと、掃気管20に圧縮空気が供給されるため、圧縮空気供給制御を行わない場合(破線)に比べ掃気圧の落ち込みが小さくなる。また、単独運転に切り換わってから比較的早い段階で、掃気圧が単独掃気圧Ps付近にまで達する。よって、エンジン本体10の燃焼状態の悪化を抑えることができる。
【0052】
図4の実線は、台数増加制御と同時に圧縮空気供給制御を行った場合の掃気圧の時間変化を示している。台数増加制御の条件は、図4の破線で示す場合と同じである。また、圧縮空気供給制御における供給開始時間t1はゼロである。そして、供給終了時間t2は、台数増加制御が行われている時間と同じ時間に設定している。さらに、圧縮空気供給配管61の出口圧力Poは、並列掃気圧Pw以上、かつ、単独掃気圧Ps以下となるように設定している(図4の一点鎖線参照)。
【0053】
図4の実線で示すように、台数増加制御と同時に圧縮空気供給制御を行うと、掃気管20に圧縮空気が供給されるため、圧縮空気供給制御を行わない場合(破線)に比べ掃気圧の落ち込みが小さくなる。さらに、掃気圧が並列掃気圧Pwよりも大きく下回ることがない。よって、エンジン本体10の燃焼状態の悪化を抑えることができる。
【0054】
なお、図4の実線で示すように、台数増加制御の初期段階では、掃気圧が圧縮空気供給配管の出口圧力Poよりも大きいため、掃気管20へ圧縮空気を供給することはできない。このとき、掃気管20から圧縮空気タンク60へ掃気ガスが逆流するおそれがあるが、圧縮空気供給配管61には逆止弁64が設けられているため当該逆流は生じない。よって、掃気ガスが圧縮空気供給配管61及び圧縮空気タンク60に流れ込むことによって生じ得る不具合を防ぐことができる。
【0055】
<変形例>
次に、図6を参照して、圧縮空気供給制御の変形例について説明する。図6は、変形例に係る圧縮空気供給制御の方法を示したフローチャートである。以下で説明する演算及び制御は、圧縮空気供給制御部74によって遂行される。
【0056】
圧縮空気供給制御は、図5の場合と同様に、台数切替制御が行われるのと同時に開始される。処理が開始されると、圧縮空気供給制御部74は、エンジン回転計13及び掃気圧計21から送信される信号を読み込み、これらの信号に基づいて、エンジン負荷(エンジン回転数及び燃料噴射量から推定)並びに掃気圧を取得する(ステップS11)。
【0057】
続いて、圧縮空気供給制御部74は、基準掃気圧を決定する(ステップS12)。ここでは、並列運転時における掃気圧(すなわち並列掃気圧Pw)を基準掃気圧とする。具体的には、圧縮空気供給制御部74は、エンジン負荷に応じた基準掃気圧を予め記憶しており、ステップS11で取得したエンジン負荷に基づいて基準掃気圧を決定する。なお、基準掃気圧は、並列掃気圧Pw以外の値に決定してもよい。
【0058】
続いて、圧縮空気供給制御部74は、ステップS11で取得した掃気圧が上記の基準掃気圧よりも小さいか否かを判定する(ステップS13)。掃気圧が基準掃気圧以上の場合(ステップS13でNO)、圧縮空気制御弁62を閉止する(ステップS14)。一方、掃気圧が基準掃気圧よりも小さい場合(ステップS13でYES)、圧縮空気制御弁62を開放する(ステップS15)。
【0059】
続いて、圧縮空気供給制御部74は、台数切替制御が完了したか否かを判定する(ステップS16)。台数切替制御が完了したか否かは、台数切替制御開始からの経過時間に基づいて判定してもよく、副タービン入口弁33の開度に基づいて判定してもよく、副過給機50の回転数に基づいて判定してもよい。台数切替制御が完了していないと判定した場合(ステップS16でNO)、ステップS11に戻って各ステップS11〜S16を繰り返す。一方、台数切替制御が完了したと判定した場合(ステップS16でYES)、処理は終了する。
【0060】
以上の圧縮空気供給制御によれば、掃気圧が基準掃気圧よりも低くなったときにだけ掃気管に圧縮空気が供給される。そのため、不要に圧縮空気を掃気管20に供給することにより掃気圧が過上昇してしまうのを防ぐことができる。その結果、掃気圧を早期に安定させることができる。
【0061】
なお、変形例に係る圧縮空気制御では、掃気圧が所定値よりも小さいか否かで圧縮空気制御弁62を開放するか否かを決定しているが、主過給機40の回転数が所定値よりも小さいか否かで圧縮空気制御弁62を開放するか否かを決定してもよい。また、燃料噴射量が所定値よりも大きいか否かで圧縮空気制御弁62を開放するか否かを決定してもよい。いずれの場合であっても、台数切替制御時における掃気圧の低下を抑えることができる。
【0062】
本実施形態に係るエンジンシステム100の構成は以上のとおりである。上記のように、本実施形態に係るエンジンシステム100では、ブロワや圧縮機ではなく圧縮空気タンク60から掃気管20に圧縮空気を供給する。そのため、台数切替制御の際に予め昇圧されている圧縮空気を掃気管に向かって一気に噴射することができる。よって、台数切替制御時における掃気圧の低下を防ぎ、失火等を防止することができる。
【0063】
上記の実施形態では、圧縮空気タンク60は、エンジン始動用の圧縮空気を保有するタンクであるが、掃気管20に圧縮空気を供給するための専用のタンクであってもよい。圧縮空気タンク60を専用のタンクとすることで、圧縮空気の温度が高くなるような場合は、図7に示すように、圧縮空気供給配管61をエアクーラ45又はエアクーラ45よりも上流の配管に連結してもよい。かかる構成によれば、圧縮空気供給配管61から吐出された圧縮空気はエアクーラ45を通過することで冷却されるため、圧縮空気によって掃気ガスの温度が上昇してしまうのを抑えることができる。
【0064】
また、図7に示すような場合は、単独移行運転時又は並列移行運転時における圧縮空気供給配管61の出口圧力は、並列運転時における定常状態での圧縮空気供給配管61の出口付近での圧力以上、かつ、単独運転時における定常状態での圧縮空気供給配管61の出口付近での圧力以下となるよう調整されていてもよい。なお、上記の圧縮空気供給配管61の出口付近での圧力は、図1の掃気管20内の圧力(掃気圧)に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係るエンジンシステムによれば、過給機の稼動台数を変更する際に、エンジン本体の燃焼状態の悪化を抑えることができる。よって、運転状況に応じて過給機の稼動台数を変えるエンジンシステムの技術分野において有益である。
【符号の説明】
【0066】
10 エンジン本体
11 シリンダ
20 掃気管
40 主過給機
50 副過給機
60 圧縮空気タンク
61 圧縮空気供給配管
62 圧縮空気制御弁
63 圧力調整弁
64 逆止弁
100 エンジンシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7