(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プレス工程において、前記半導体層と前記ソース電極及び前記ドレイン電極の少なくとも一方とが連続する領域が上方に形成される領域を含むように、前記絶縁性材料の表面をプレス部材により押圧する
請求項7〜17のいずれか1項に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る薄膜トランジスタの一態様は、基板上に位置するゲート電極と、前記ゲート電極を被覆するゲート絶縁層と、前記ゲート絶縁層上に位置する半導体層と、前記半導体層と電気的に接続するソース電極及びドレイン電極と、を有し、前記ゲート絶縁層は、前記ゲート電極の上方に位置する第1領域と、前記第1領域と同一物質からなり前記ゲート電極の上方とは異なる場所に位置する第2領域とを含み、前記第1領域の密度は、前記第2領域の密度よりも高い。
【0015】
本態様によれば、ゲート電極上におけるゲート絶縁層は高密度の第1領域によって構成されているので、ゲート絶縁層の耐電圧特性を向上させることができる。これにより、結果としてゲート電極を厚膜化してゲート電極と同層の配線も厚膜化する方法を採用することができるので、低抵抗配線とすることができる。
【0016】
さらに、本態様によれば、ゲート電極上におけるゲート絶縁層の第1領域は第2領域よりも比誘電率が高くなるので、半導体層のチャネル領域に誘起されるキャリアの密度を高くすることができる。これにより、TFT特性を向上させることができる。
【0017】
さらに、本態様では、第1領域と第2領域とが同一物質によって形成されているので、第1領域と第2領域との間には界面が形成されない。これにより、リーク電流の発生を抑制することができるので、ゲート絶縁層の耐電圧特性が低下することを抑制することができる。
【0018】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記第2領域は、前記ゲート電極と、当該ゲート電極に隣接する他のゲート電極との間に位置する領域である、とすることができる。
【0019】
本態様によれば、隣り合うゲート電極間に位置する領域である第2領域の比誘電率は、ゲート電極の上方に位置する第1領域の比誘電率よりも小さくなる。これにより、隣り合うゲート電極間に発生する寄生容量を抑制することができる。さらに、隣り合うゲート電極間の比誘電率が小さいので、薄膜トランジスタの応答速度を向上させることができる。
【0020】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記ゲート絶縁層は、前記第1領域と前記第2領域との間の領域である第3領域を含み、前記第3領域の密度は、前記第1領域の密度から前記第2領域の密度へ遷移する密度である、とすることができる。
【0021】
本態様によれば、ゲート電極の端部が、第2領域よりも平均密度が高い第3領域によって覆われるので、ゲート電極の端部で発生しやすい先端放電を抑制することができる。これにより、ゲート絶縁層3の耐電圧特性を一層向上させることができる。
【0022】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの一態様において、前記ゲート絶縁層は、有機絶縁膜である、とすることができる。この場合、前記有機絶縁膜は、その一部に無機材料が添加された有機材料からなることが好ましい。
【0023】
本態様によれば、有機絶縁膜の材料を塗布した後に、プリベークして溶媒を気化して未硬化の状態でプレスして圧縮することによって、粗密差のある有機絶縁膜を容易に形成することができる。これにより、高密度の第1領域と低密度の第2領域とを含むゲート絶縁層を容易に形成することができる。
【0024】
また、本発明に係る有機EL発光素子の一態様は、上記のいずれかの薄膜トランジスタと、前記薄膜トランジスタの上方に位置し、コンタクトホールが形成された平坦化膜と、前記平坦化膜上に形成され、前記コンタクトホールを介して前記ドレイン電極又は前記ソース電極と電気的に接続する下部電極と、前記下部電極の上方に位置する上部電極と、前記下部電極と前記上部電極との間に位置する有機発光層と、を備えるものである。
【0025】
本態様によれば、ゲート絶縁層の耐電圧特性が優れた薄膜トランジスタを用いている。そのため、配線抵抗を低下する手法として、ゲート電極とともに配線も厚膜化する方法を採用することができる。これにより、有機EL発光素子が大型化しても電流ロスの少ない配線を実現することができるので、高速動作を行うことができる有機EL発光素子を実現することができる。
【0026】
さらに、本態様によれば、第1領域によってゲート電極の上方におけるゲート絶縁層の比誘電率が他の領域の比誘電率と比べて高くなっているので、半導体層のチャネル領域に誘起されるキャリアの密度を高くすることができる。これにより、薄膜トランジスタのTFT特性を向上させることができるので、さらに高速動作を行うことができる有機EL発光素子を実現することができる。
【0027】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様は、基板上にゲート電極を形成する第1工程と、前記ゲート電極を被覆してゲート絶縁層を形成する第2工程と、前記ゲート絶縁層上に、前記ゲート電極の上方の領域を挟んでソース電極とドレイン電極とを並設する第3工程と、前記ソース電極と前記ドレイン電極とに電気的に接続される半導体層を形成する第4工程と、を有し、前記第2工程は、前記ゲート電極を被覆するように絶縁性材料を塗布する塗布工程と、前記ゲート電極の上方の領域に塗布された前記絶縁性材料が前記ゲート電極の上方とは異なる領域に塗布された前記絶縁性材料よりも隆起した状態で、前記絶縁性材料を加熱する工程と、前記絶縁性材料を加熱する工程の後、前記絶縁性材料の表面をプレス部材により押圧するプレス工程とを少なくとも含むものである。
【0028】
本態様によれば、ゲート電極上における隆起した有機絶縁性材料の圧縮率を他の領域の有機絶縁性材料の圧縮率よりも大きくすることができるので、膜密度が異なる第1領域及び第2領域を含むゲート絶縁層を形成することができる。
【0029】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様では、前記第2工程における前記塗布工程において、前記ゲート電極の上方の領域と前記ゲート電極の上方以外の領域とに、同一の絶縁性材料を塗布する、としてもよい。
【0030】
本態様によれば、密度の異なる領域同士の間には界面が形成されないのでゲート絶縁層の耐電圧特性が低下することを抑制することができる。さらに、密度の異なる複数種の材料を用いてゲート絶縁層を形成する場合と比較して、ゲート絶縁層を形成する工程を簡素化することもできる。
【0031】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様では、前記第2工程における前記プレス工程によって、前記ゲート絶縁層における前記ゲート電極上の領域に対応する第1領域の密度が、前記ゲート絶縁層における前記第1領域とは異なる場所に位置する領域の密度よりも高くなる、としてもよい。
【0032】
本態様によれば、ゲート絶縁層の耐電圧特性及びTFT特性に優れた薄膜トランジスタを得ることができる。
【0033】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様では、前記第1工程において、前記ゲート電極に隣接する他のゲート電極を形成し、前記第2工程における前記塗布工程において、前記ゲート電極及び前記他のゲート電極を被覆するように前記絶縁性材料を塗布し、前記第2工程におけるプレス工程によって、前記ゲート絶縁層における前記ゲート電極上の領域に対応する第1領域の密度が、前記ゲート絶縁層における前記ゲート電極と当該ゲート電極に隣接する他のゲート電極との間の領域に対応する第2領域の密度よりも高くなる、としてもよい。
【0034】
本態様によれば、隣り合うゲート電極間に発生する寄生容量を抑制することができる薄膜トランジスタを得ることができる。
【0035】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記第2工程における前記プレス工程によって、前記ゲート絶縁層における前記第1領域と前記第2領域との間の第3領域の密度が、前記第1領域の密度から前記第2領域の密度へ遷移する密度となる、としてもよい。
【0036】
本態様によれば、ゲート電極の端部で発生する先端放電を抑制して耐電圧特性に非常に優れた薄膜トランジスタを得ることができる。
【0037】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様では、前記第2工程における前記塗布工程において、前記ゲート電極の上方以外の領域に塗布する絶縁性材料よりも誘電率が高い絶縁性材料を前記ゲート電極の上方に塗布してもよい。
【0038】
本態様によれば、第1領域と第2領域との密度差及び誘電率差を容易に大きくすることができるので、チャネル領域に誘起されるキャリア密度を容易に向上させることができる。
【0039】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様において、前記第2工程は、さらに、前記プレス工程の後に、紫外線照射処理及び加熱処理の少なくともいずれか一つの処理によって前記絶縁性材料を硬化する硬化工程を含む、としてもよい。
【0040】
本態様によれば、絶縁性材料の分子構造を緻密にして分子結合を強固にすることができる。
【0041】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様では、前記プレス部材は、平面を有し、前記第2工程における前記プレス工程において、前記平面によって前記絶縁性材料を押圧する、としてもよい。
【0042】
本態様によれば、絶縁性材料の隆起している部分に対しては、絶縁性材料の隆起していない部分よりも容易に大きな押圧力を付与することができる。これにより、絶縁性材料に対して粗密差のある領域を容易に形成することができる。
【0043】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様では、前記第2工程における前記絶縁性材料を加熱する工程において、前記絶縁性材料の少なくとも表面を固化する、としてもよい。
【0044】
本態様によれば、絶縁性材料が流動して広がることを抑制して絶縁性材料の凹凸状態を容易に維持することができるので、ゲート電極の上方における隆起した有機絶縁材料に対しては他の領域と比べて容易に高い押圧力を付与することができる。これにより、ゲート電極の上方の有機絶縁材料の圧縮率を大きくすることができるので、ゲート電極の上方の有機絶縁材料の密度を容易に高くすることができる。
【0045】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様では、前記第2工程における前記プレス工程において、前記プレス部材と前記絶縁性材料の表面との間に、前記プレス部材に前記絶縁性材料が付着することを防止するための付着防止用保護シートを介して、前記プレス部材を押圧する、としてもよい。
【0046】
本態様によれば、絶縁性材料がプレス部材に付着することを防止することができるので、絶縁性材料がプレス部材に付着してプレス後の有機絶縁性材料の表面の平坦性が損なわれることを防止することができる。
【0047】
また、本発明に係る薄膜トランジスタの製造方法の一態様では、絶縁性材料を加熱する工程において、絶縁性材料に含まれる溶媒の沸点以上の温度で前記絶縁性材料を加熱する、としてもよい。
【0048】
本態様によれば、絶縁性材料の溶媒の少なくとも一部をより確実に気化させることができ、その後のプレス工程によって絶縁性材料に密度勾配を発生させることが出来る。
【0049】
(実施の形態)
以下、本発明に係る薄膜トランジスタ及び薄膜トランジスタの製造方法の実施の形態について説明する。但し、本発明は、請求の範囲の記載に基づいて特定される。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、請求項に記載されていない構成要素は、本発明の課題を達成するのに必ずしも必要ではないが、より好ましい形態を構成するものとして説明される。なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示したものではない。
【0050】
まず、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ10について、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係る薄膜トランジスタの構成を示す断面図である。
【0051】
図1に示すように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10は、ボトムゲート型でp型(pチャネル)のTFTであって、基板1と、ゲート電極2と、ゲート絶縁層3と、ソース電極4と、ドレイン電極5と、隔壁部6と、半導体層7と、平坦化膜8とを備える。以下、薄膜トランジスタ10の各構成要素について詳述する。
【0052】
基板1は、例えば、石英ガラス又は無アルカリガラスからなるガラス基板である。なお、基板1としては、プラスチックフィルム等の可撓性を有するフレキシブル基板等を用いても構わない。
【0053】
ゲート電極2は、基板上に位置し、基板1上に所定形状にパターン形成されている。ゲート電極2は、導電性材料又はその合金等の単層構造又は多層構造からなり、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、又はモリブデンタングステン(MoW)等を用いて形成される。
【0054】
ゲート絶縁層3は、ゲート電極2を被覆して形成されている。本実施の形態において、ゲート絶縁層3は、当該薄膜トランジスタ10におけるゲート電極2だけではなく、当該薄膜トランジスタに隣接する他の薄膜トランジスタのゲート電極20あるいはその他配線等の当該ゲート電極2と同層に形成された他の電極や配線等も覆うようにして、基板1上の全面に形成される。ゲート絶縁層3は、例えば、ポリイミド、ポリビニルフェノール、又はポリプロピレン等からなる有機絶縁膜によって形成することができる。なお、この有機絶縁膜は、その一部にシリコン酸化膜やアルミナ等の無機材料が添加された有機材料によって構成されていてもよい。
【0055】
また、ゲート絶縁層3は、ゲート電極2の上方に位置する領域である第1領域31と、ゲート電極2の上方とは異なる場所に位置する領域である第2領域32と、第1領域31と第2領域32との間の領域である第3領域33とによって構成されている。本実施の形態において、第2領域32と第3領域33とは、基板1上におけるゲート電極2が形成されていない領域であり、基板1上に直接形成される領域である。このうち、第3領域33は、ゲート電極2の側周部周辺の領域である。
【0056】
ゲート絶縁層3において、第1領域31は、膜密度が他の領域よりも高い高密度領域である。また、第2領域32は、膜密度が他の領域よりも低い低密度領域である。第3領域33は、膜密度が第1領域31の密度から第2領域32の密度へと遷移する遷移密度領域である。
【0057】
また、本実施の形態において、第1領域31、第2領域32及び第3領域33は、同一物質からなる。従って、各領域は、上記膜密度の違いに応じた比誘電率となっている。具体的には、高密度の第1領域31の比誘電率は、他の領域の比誘電率よりも高い値になっており、低密度の第2領域32の比誘電率は、他の領域の比誘電率よりも低い値となっており、また、第3領域33の比誘電率は、第1領域31の比誘電率と第2領域32の比誘電率の間の値となっている。
【0058】
ここで、第1領域31において、膜密度をρ1とし、比誘電率をε1とし、膜厚をt1とし、第2領域32において、膜密度をρ2とし、比誘電率をε2とし、膜厚をt2とし、さらに、第3領域33において、平均膜密度をρ3とし、比誘電率をε3とし、膜厚をt3とすると、本実施の形態では、ρ1>ρ3>ρ2、ε1>ε3>ε2、t1<t3=t2の関係を満たしている。また、ゲート電極2の膜厚をtgとすると、tg<t2=t3の関係を満たしている。
【0059】
なお、ゲート絶縁層3の表面にはゲート電極2の厚みによって段差が生じるが、当該段差は小さく、ゲート絶縁層3の表面は概ね平坦である。当該段差は、少なくともゲート電極2の膜厚tgよりも小さい。
【0060】
一対のソース電極4及びドレイン電極5は、ゲート電極2の上方の領域を挟んで並設されている。すなわち、ソース電極4及びドレイン電極5は、ゲート絶縁層3上に離間して形成され、ゲート電極2の上方に所定の間隔をあけて対向配置されている。また、ソース電極4及びドレイン電極5における対向する各端部は、隔壁部6の開口内に露出するように構成されている。すなわち、ソース電極4及びドレイン電極5の開口側の端部は、平面視したときに隔壁部6の開口部分に位置するように形成されている。
【0061】
また、ソース電極4及びドレイン電極5は、導電性材料又はその合金等の単層構造又は多層構造からなり、例えば、Mo、W、Cu、Al、Ni(ニッケル)、Au(金)、Ag(銀)、MoW又はMoN(窒化モリブデン)等を用いて形成することができる。
【0062】
隔壁部6は、ソース電極4及びドレイン電極5を覆うようにゲート絶縁層3上に形成されている。また、隔壁部6は、半導体層7を画素ごとに分離して区画するために、チャネル部(半導体層7)に対応して形成された開口を有する。
【0063】
隔壁部6の開口は、ゲート電極2の上方に形成されており、本実施の形態では平面視形状が矩形状となるように形成されている。隔壁部6は、半導体層7の周囲を規制するバンクであって、半導体層7を形成するために開口内に塗布された有機半導体溶液の流れをせき止める機能を有する。隔壁部6の隔壁部分は、レジスト等の感光性材料を用いて形成することができ、この感光性樹脂を部分的に露光及び現像することによって開口を形成することができる。なお、フッ素等によって隔壁部6に対して所定の表面処理を行うことにより、隔壁部6の表面にも撥水性を持たせることが好ましい。
【0064】
半導体層7は、隔壁部6の隔壁部分(開口における内壁)によって囲まれており、半導体層7の外周は、この内壁面によって規制されている。半導体層7は、ゲート絶縁層3上に位置し、開口内においてソース電極4が露出する部分の上面と、開口内に露出するゲート絶縁層3の上面と、開口内においてドレイン電極5が露出する部分の上面とにわたって形成されている。
【0065】
本実施の形態における半導体層7は、有機材料を塗布することによって形成される塗布型の有機半導体層である。有機半導体層は、所定の有機半導体材料を含む溶剤を、インクジェット法等の印刷法によって隔壁部6の開口内に塗布して結晶化することによって形成することができる。有機半導体層の材料としては、例えば、ペンタセン、フタロシアニン系、又は、ポルフィリン系の可溶性の有機半導体材料を用いることができる。
【0066】
なお、半導体層7を保護するために、隔壁部6の開口内における半導体層7の上に保護膜を形成してもよい。これにより、半導体層7に浸入しようとする水分や酸素又は不純物を効果的に遮断することができる。
【0067】
平坦化膜8は、半導体層7を覆って隔壁部6の開口を埋めるように隔壁部6の上に形成される。平坦化膜8は、薄膜トランジスタ10の表面を平坦化する膜であるとともに、層間のリーク電流の発生を抑制する層間絶縁膜である。平坦化膜8としては、例えば、レジストなどの有機材料やSOG(Spin On Glass)などの無機材料を用いて形成することができる。
【0068】
次に、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の作用効果について説明する。
【0069】
本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10は、例えば表示パネルの画素回路等に用いることができる。ここで、表示パネルの大型化に伴って配線が長くなると、配線抵抗が高くなって電流ロスが大きくなるので、配線の低抵抗化が望まれている。特に、薄膜トランジスタを有機EL表示パネルの駆動トランジスタとして用いる場合、電流駆動型の有機EL発光素子に対して所望の電流を供給する必要があるので、配線における電流ロスは画質の低下を引き起こすので好ましくない。
【0070】
配線の電流ロスを減らすためには配線抵抗を低くする必要があるが、その方法の一つとして、配線の膜厚を厚くすることが考えられる。例えば、有機EL表示パネルにおける配線の膜厚としては、高速動作を実現するために配線材料として低抵抗のAl(アルミニウム)やCu(銅)を用いた場合であっても、500〜1000nm、あるいは、1000nm以上が要求される。ここで、配線は、薄膜トランジスタにおけるゲート電極及びソース電極(ドレイン電極)の材料を用いて、これらのゲート電極等と同時にパターン形成されることから、配線の膜厚を厚くすると、配線と同層のゲート電極等の膜厚も厚くなる。
【0071】
一方、薄膜トランジスタにおいてTFT特性の向上を図るためにはゲート絶縁層を薄くすることが好ましく、例えば、ゲート絶縁層としては、100〜300nm程度の膜厚に抑えることが要求される。
【0072】
この場合、配線の厚膜化とゲート絶縁層の薄膜化とを同時に満たすとなると、ボトムゲート型の薄膜トランジスタにおいては、配線の厚膜化によって膜厚化したゲート電極上に、当該ゲート電極の膜厚の数分の一となる非常に薄い膜厚のゲート絶縁層を被覆することになり、ゲート絶縁層の耐電圧特性が低下するという課題がある。特に、ゲート電極のコーナー部では、ゲート絶縁層の薄膜化に伴ってゲート絶縁膜の耐電圧特性が著しく低下する。さらに、ゲート絶縁層の耐電圧特性が低下すると、当該薄膜トランジスタを用いた表示パネルの歩留りが低下してしまう。
【0073】
これに対して、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ10によれば、ゲート電極2上におけるゲート絶縁層3は密度が高い第1領域31によって構成されているので、ゲート絶縁層3における耐電圧特性を向上させることができる。これにより、ゲート電極2の膜厚を厚くしても所望の耐電圧特性を維持することができる。従って、ゲート電極2と同時にパターニングして配線を形成する場合には、ゲート電極2の厚膜化によって配線も厚膜化して抵抗を小さくすることができる。この結果、表示パネルが大型化しても、電流ロスの少ない配線を実現することができるので、高速動作を行うことができるとともに高画質の表示パネルを実現することができる。
【0074】
さらに、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10によれば、ゲート電極2の上方に位置する第1領域31の密度がゲート電極2の上方とは異なる場所に位置する第2領域32の密度よりも高くなっているので、ゲート電極2の上方におけるゲート絶縁層3(第1領域31)の比誘電率は他の領域の比誘電率と比べて高くなっている。これにより、半導体層7のチャネル領域に誘起されるキャリアの密度を高くすることができるので、TFT特性を向上させることができる。
【0075】
また、本実施の形態では、ゲート絶縁層3における第2領域32が、当該薄膜トランジスタ10におけるゲート電極2と当該ゲート電極2に隣接する他のゲート電極20との間に位置する領域となっている。すなわち、第1領域31よりも低密度である第2領域32は、隣接する2つの薄膜トランジスタにおいて、一方の薄膜トランジスタのゲート電極と他方のトランジスタのゲート電極との間の領域となっている。これにより、隣り合うゲート電極間に位置する第2領域32の比誘電率は、ゲート電極2の上方に位置する第1領域31の比誘電率よりも小さくなる。従って、隣り合うゲート電極間に発生する寄生容量を抑制することができる。さらに、隣り合うゲート電極間の比誘電率が小さいので、薄膜トランジスタの応答速度を向上させることもできる。
【0076】
また、本実施の形態では、ゲート電極2の端部周辺における第3領域33の密度が、第1領域31の密度から第2領域32の密度へと遷移する密度となっている。これにより、第2領域32よりも平均密度が高い第3領域33がゲート電極2の端部を被覆することになるので、ゲート電極2の端部で発生しやすい先端放電を抑制することができる。従って、さらにゲート絶縁層3の耐電圧特性を向上させることができる。
【0077】
なお、本実施の形態において、ゲート絶縁層3における第1領域31、第2領域32及び第3領域33は同一物質によって構成されているが、第1領域31、第2領域32及び第3領域33を複数種の異なる材料を用いて形成しても構わない。例えば、ゲート電極2の上方に塗布する絶縁性材料を、ゲート電極2の上方以外の領域に塗布される絶縁性材料よりも誘電率が高い物質で構成しても構わない。このように、第1領域31、第2領域32及び第3領域33を異なる材料によって構成することによって、各領域における密度差及び誘電率差を容易に大きくすることができる。従って、チャネル領域に誘起されるキャリア密度を一層向上させることができ、TFT特性をさらに向上させることができる。
【0078】
但し、複数種の異なる材料を用いてゲート絶縁層3を形成すると、異なる材料で構成される領域同士の間には界面が形成されて当該界面を通ってリーク電流が流れやすくなるので、耐電圧特性が低下する。一方、本実施の形態のように、ゲート絶縁層3における密度の異なる領域を同一物質によって形成すると、密度の異なる領域同士の間が連続的となって上記のような界面が形成されないので、ゲート絶縁層3の耐電圧特性が低下することを抑制することができる。従って、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10のように、ゲート絶縁層3における第1領域31、第2領域32及び第3領域33については、同一物質によって構成することが好ましい。
【0079】
また、ゲート絶縁層3を同一物質によって形成する場合、ゲート絶縁層3は有機絶縁膜によって構成することが好ましい。これにより、有機絶縁膜の材料を塗布した後に、プリベークして溶媒を気化して未硬化の状態でプレスして圧縮することによって、粗密差のある有機絶縁膜を容易に形成することができる。従って、高密度の第1領域31と低密度の第2領域32とを含むゲート絶縁層3を容易に形成することができる。
【0080】
次に、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の製造方法について、
図2及び
図3を用いて説明する。
図2及び
図3は、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタの製造方法における各工程を説明するための断面図である。
【0081】
まず、
図2の(a)に示すように、ガラス基板等の基板1上に所定形状のゲート電極2を形成する(ゲート電極形成工程)。具体的には、基板1上にゲート電極2の材料をスパッタ又は蒸着によって堆積させてゲート金属膜を形成し、その後、フォトリソグラフィ及びエッチングによってゲート金属膜をパターニングすることで所定形状のゲート電極2を形成する。
【0082】
このとき、基板1上に複数の薄膜トランジスタを形成する場合は、各薄膜トランジスタのゲート電極も同時に形成する。例えば、
図2の(a)に示すように、ゲート電極2とともに、ゲート電極2に隣接するゲート電極20を同時にパターン形成する。また、ゲート電極2の材料を用いて基板1上に配線も同時に形成する場合、ゲート金属膜のパターニング時においてゲート電極2とともに配線もパターン形成する。例えば、ゲート電極2とともに、ゲート電極2に接続されるゲート線を同時にパターン形成する。
【0083】
次に、
図2の(b)〜(e)に示すように、ゲート電極2を覆うようにして、密度の異なる複数の領域を有するゲート絶縁層3を形成する(ゲート絶縁層形成工程)。なお、本実施の形態において、ゲート絶縁層3は、ゲート電極2だけを覆うのではなく、当該ゲート電極2に隣接するゲート電極20をも覆うように形成される。
【0084】
ゲート絶縁層形成工程では、まず、
図2の(b)に示すように、ゲート電極2を被覆するように絶縁性材料を塗布する(塗布工程)。本実施の形態において、ポリイミド、ポリビニルフェノール又はポリプロピレン等からなる有機絶縁材料を含む溶剤(有機絶縁性材料30)を塗布法によって塗布する。
【0085】
また、本実施の形態では、ゲート電極2の上方の領域とゲート電極2の上方以外の領域とには、同一の有機絶縁性材料30を塗布しているので、ゲート電極2の上方の領域からゲート電極2の上方以外の領域にわたって連続的に有機絶縁性材料30が塗布される。さらに、ゲート電極2及び他のゲート電極20を被覆するように有機絶縁性材料30を塗布しているので、ゲート電極2の上方の領域から他のゲート電極20の上方以外の領域にわたっても連続的に有機絶縁性材料30が塗布される。すなわち、ゲート電極2と同層に形成された全ての電極や配線を覆うようにして有機絶縁性材料30が塗布される。
【0086】
このとき、有機絶縁性材料30は、基板1上においてほぼ一定の膜厚で塗布されるので、有機絶縁性材料30は、ゲート電極2の膜厚及び当該ゲート電極2と同層の配線等における膜厚の起伏に従った状態で塗布される。これにより、同図に示すように、ゲート電極2等の上方の領域に塗布された有機絶縁性材料30は、ゲート電極2等の上方とは異なる領域(すなわち、ゲート電極2等が形成されていない領域)に塗布された有機絶縁性材料30よりも隆起した状態となる。
【0087】
次に、ゲート電極2の上方の領域に塗布された有機絶縁性材料30がゲート電極2の上方とは異なる領域に塗布された有機絶縁性材料30よりも隆起した状態で、
図2の(c)に示すように、有機絶縁材料30を加熱する(加熱工程)。本実施の形態では、加熱工程として、加熱処理等のプリベーク(仮硬化)を施すことによって、有機絶縁性材料30に含まれる溶媒の少なくとも一部を気化させる(気化工程)。
【0088】
このように有機絶縁性材料30に含まれる溶媒を気化させることによって有機絶縁性材料30の流動性を低下させることができる。これにより、プレス前において、ゲート電極2の上方の領域に塗布された有機絶縁性材料30がゲート電極2の上方とは異なる領域に塗布された有機絶縁性材料30よりも隆起した状態、すなわち、有機絶縁性材料30の表面の凹凸状態を維持することができる。
【0089】
なお、加熱工程(気化工程)を実施しない場合、例えば有機絶縁性材料30の一部を隆起させた状態としてそのまま次工程でプレスを行うと、有機絶縁性材料の流動性30が高い状態で圧力が加わることになる。すると、有機絶縁性材料30流動性が高いため、受ける圧力が一定になるように有機絶縁性材料30が移動してしまう。これにより、本実施の形態のように、有機絶縁性材料30の中に密度勾配を発生させることができない。
【0090】
なお、加熱工程では、有機絶縁性材料30に含まれる溶媒の沸点以上で、有機絶縁性材料30を加熱することが好ましい。また、有機絶縁性材料30が、有機絶縁性材料30に含まれる溶媒の沸点以上の温度になるように、有機絶縁性材料30を加熱することがより好ましい。これにより、有機絶縁性材料30の溶媒の少なくとも一部をより確実に気化させることができ、その後のプレス工程によって有機絶縁性材料30中に密度勾配を発生させることが出来る。
【0091】
次に、
図2の(d)に示すように、溶媒を気化させた絶縁性材料の表面をプレス部材200により押圧する(プレス工程)。このプレス工程では、有機絶縁性材料30に対して押圧力を付与することで有機絶縁性材料30を圧縮成形して、当該有機絶縁性材料30の表面全面を平坦にする。このとき、プレス前において有機絶縁性材料30の表面は凹凸状態となっており、また有機絶縁性材料30の流動性が低下した状態となっているため凹凸状態を維持しやすい状態になっている。そのため、有機絶縁性材料30がプレス部材200に押圧された際、ゲート電極2の上方における有機絶縁性材料30の隆起している部分(凸部分)から隆起していない部分(凹部分)に有機絶縁性材料30が流れ出てしまうのではなく、隆起している部分(凸部分)に対して集中的に押圧力が付与される。これにより、隆起部分(凸部分)に対応するゲート電極2上における有機絶縁性材料30の密度が、隆起していない部分(凹部分)に対応する有機絶縁性材料30の密度よりも高くなる。
【0092】
また、このプレス工程では、同図に示すように、プレス面が平面となっているプレス部材200を用いて有機絶縁性材料30を平坦化することが好ましい。これにより、有機絶縁性材料30の隆起している部分に対しては、有機絶縁性材料30の隆起していない部分よりも容易に大きな押圧力を付与することができるので、有機絶縁性材料30に対して粗密差のある領域を容易に形成することができる。
【0093】
また、プレス部材200のプレス面には、有機絶縁性材料30が付着することを防止するための付着防止用保護シートを設けておくことが好ましい。これにより、プレス部材200と有機絶縁性材料30の表面との間に付着防止用保護シートを介した状態でプレス工程を行うことができるので、有機絶縁性材料30がプレス部材200に付着してプレス後の有機絶縁性材料30の表面の平坦性が損なわれることを防止することができる。
【0094】
また、プレス工程の後は、紫外線照射処理及び加熱処理の少なくともいずれか一つの処理によって有機絶縁性材料30を本硬化する本硬化工程を施すことが好ましい。これにより、粗密領域を含む所定形状のゲート絶縁層3を形成することができる。
【0095】
この本硬化工程では、有機絶縁性材料30にアクリルポリマー等の高分子材料又はアクリルモノマー等の低分子材料からなる光架橋基が含まれる場合、UV光等の光照射によって有機絶縁性材料30の分子中に分子結合が形成される。また、有機絶縁性材料30に熱架橋基が含まれる場合、加熱処理によって有機絶縁性材料30の分子中に分子結合が形成される。これにより、有機絶縁性材料30の分子構造が緻密になって分子結合が強固になり、有機絶縁性材料30を完全に硬化させることができる。
【0096】
以上のゲート絶縁層形成工程によって、
図2の(e)に示すように、ゲート電極2上の領域に対応する第1領域31の密度が当該第1領域31とは異なる場所に位置する領域の密度よりも高い状態となっているゲート絶縁層3を形成することができる。具体的には、ゲート電極2上の領域に対応する第1領域31の密度が、ゲート電極2と当該ゲート電極2に隣接する他のゲート電極20との間の領域に対応する第2領域32の密度よりも高くすることができる。さらに、第1領域31と第2領域32との間の第3領域33の密度が、第1領域31の密度から第2領域32の密度へと遷移する密度とすることができる。
【0097】
次に、
図3の(a)に示すように、ゲート絶縁層3の上に、ゲート電極2の上方の領域を挟んでソース電極4とドレイン電極5とを並設する。具体的には、ゲート絶縁層3上の全面に、ソース電極4及びドレイン電極5の材料を堆積させてソースドレイン金属膜を形成し、フォトリソグラフィ及びエッチングを行うことによってソースドレイン金属膜をパターニングすることにより、対向する所定形状の一対のソース電極4及びドレイン電極5を形成する。ソースドレイン金属膜は、例えば、Mo、W、Cu、Al、Ni、Au、Ag、MoW又はMoN等を用いて、スパッタ又は蒸着によって形成することができる。また、ソースドレイン金属膜のエッチング除去によって、ゲート絶縁層3が露出する。
【0098】
なお、ソースドレイン金属膜をパターニングする際、ソース電極4及びドレイン電極5をパターン形成すると同時に、表示パネルにおける配線もパターン形成することができる。すなわち、表示パネルの配線とソース電極4及びドレイン電極5とを同じ材料を用いて同時に形成することができる。例えば、ソースドレイン金属膜をパターニングすることによって、映像信号線(ソース線)を形成することができる。
【0099】
次に、
図3の(b)に示すように、ゲート絶縁層3上に、開口を有する隔壁部6を形成する。具体的には、まず、基板1の上方の全面に、隔壁部6の所定の材料を塗布することによって隔壁層を形成する。隔壁層は、ソース電極4、ドレイン電極5及び露出させたゲート絶縁層3等を覆うように形成される。次に、隔壁層をパターニングすることにより、ソース電極4とドレイン電極5との間におけるゲート絶縁層3を再び露出させるようにして、ゲート電極2の上方を開口する。これにより、開口と隔壁部分(バンク)とを有する所定形状の隔壁部6を形成することができる。隔壁部6の開口は、半導体層7を形成する部分に対応して形成され、平面視したときにソース電極4及びドレイン電極5の各端部が当該開口内に露出するように形成される。
【0100】
なお、隔壁層のパターニングは、隔壁層を露光及び現像することによって行うことができる。また、隔壁層は撥水性を持たせるためにフッ素等を含有した材料を用いても構わない。あるいは、隔壁層に開口を形成した後、隔壁部6の表面に撥水性を持たせるために、フッ素等を用いて隔壁層に対して所定の表面処理を行っても構わない。
【0101】
次に、
図3の(c)に示すように、隔壁部6の開口内に、ソース電極4とドレイン電極5とに電気的に接続される半導体層7を形成する。具体的には、まず、隔壁部6の開口内に、有機半導体材料を含む溶液(有機半導体溶液)をインクジェット法にて塗布する。開口内に塗布された有機半導体溶液は、隔壁部6の対向する隔壁部分(開口の内壁面)にガードされて、有機半導体溶液の塗布領域が規制される。これにより、有機半導体溶液が隔壁部6の開口の外側に流れ出してしまうことを防止することができる。なお、上記のインクジェット法による有機半導体材料溶液の塗布は、隔壁部6の開口の中央付近に滴下して行うことが好ましい。また、有機半導体材料としては、ペンタセン、フタロシアニン系、又は、ポルフィリン系の可溶性の有機材料を用いることができる。次に、所定の熱処理を行うことによって有機半導体溶液を乾燥させて固化し、有機半導体材料の結晶化を行う。これにより、隔壁部6の開口内において、外周が規制された所定形状の半導体層7を形成することができる。本実施の形態において、半導体層7は、露出するゲート絶縁層3の上面を覆うように、ソース電極4の端部の上面からドレイン電極5の端部の上面にわたって形成される。
【0102】
次に、
図3の(d)に示すように、基板1上の全面に平坦化膜8を形成する。平坦化膜8は、表面が平坦化するように所望の厚さで形成する。なお、平坦化膜8は、SOG等の所定の材料を塗布することによって形成することができる。
【0103】
なお、有機半導体は、水分や酸素等を取り込むとトランジスタの閾値電圧変動等の特性劣化を引き起こす。そこで、これを防止するために、上述のように、水分や酸素等の透過を防止する保護膜を有機半導体と平坦化層の間に設けても良い。
【0104】
以上のようにして、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10を製造することができる。
【0105】
以上、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10の製造方法によれば、ゲート電極2が形成された基板1上に有機絶縁性材料を塗布し、隆起した状態で有機絶縁性材料に含まれる溶媒を気化し、隆起した状態の有機絶縁性材料の表面をプレスすることによって、ゲート電極2上における隆起した有機絶縁性材料の圧縮率を他の領域の有機絶縁性材料の圧縮率よりも大きくすることができる。このように、本実施の形態では、有機絶縁性材料に付与する圧縮率差を利用することによって、膜密度が異なる第1領域31及び第2領域32を含むゲート絶縁層3を形成することができる。
【0106】
なお、本実施の形態におけるゲート絶縁層形成工程の塗布工程では、ゲート電極2の膜厚より厚い膜厚で有機絶縁性材料を塗布形成することが好ましい。これにより、有機絶縁性材料の全体をプレスしたときに、ゲート電極2等の上方における隆起した有機絶縁性材料30(凸部分)に対して高い押圧力を容易に付与して当該凸部分を効果的に圧縮することができるので、ゲート絶縁層3において膜密度の異なる領域を容易に形成することが可能となる。
【0107】
また、ゲート絶縁層形成工程の塗布工程では、上述のとおり、ゲート絶縁層3における第1領域31、第2領域32及び第3領域33を異なる物質からなる有機絶縁性材料を用いて塗布形成することもできるが、同一物質によって構成することが好ましい。これにより、密度の異なる領域同士の間には界面が形成されないのでゲート絶縁層3の耐電圧特性が低下することを抑制することができる。さらに、ゲート絶縁層3を同一物質によって形成することによって、密度の異なる複数種の材料を用いてゲート絶縁層3を形成する場合と比較して、ゲート絶縁層3を形成する工程を簡素化することができる。
【0108】
また、本実施の形態におけるゲート絶縁層形成工程の加熱工程(気化工程)では、有機絶縁性材料の少なくとも表面を固化するように行うことが好ましい。このように有機絶縁性材料の表面を固化することにより、有機絶縁性材料30がプレス部材によって押圧された時に、ゲート電極2等の上方における隆起した有機絶縁性材料30(凸部分)に対して高い押圧力を付与することができる。これにより、ゲート電極2等の上方の有機絶縁性材料30の圧縮率を、ゲート電極2等の上方以外の有機絶縁性材料30の圧縮率よりも大きくすることができるので、ゲート電極2等の上方の有機絶縁性材料30の密度を容易に高くすることができる。
【0109】
なお、ゲート絶縁層3(絶縁膜)をプレスによって押圧することによる誘電率の変化を、
図6A及び
図6Bを用いて説明する。
図6Aは、本実施の形態に係る薄膜トランジスタにおけるプレス前のゲート絶縁層(絶縁膜)とプレス後のゲート絶縁層(絶縁膜)を示している。
図6Bは、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタにおけるゲート絶縁層(絶縁膜)の減膜率とプレス後のゲート絶縁層(絶縁膜)の比誘電率との関係を示す図である。
【0110】
図6Aに示すように、ゲート絶縁層3(絶縁膜)は、プレスによって押圧されることにより厚さが減少する。ここで、プレス前の絶縁膜について、厚みをd
iとし、比誘電率をε
iと定義する。また、プレス後の絶縁膜について、厚みをd
pとし、比誘電率をε
pとし、プレスによって減少した絶縁膜の厚さをd
aと定義する。
【0111】
この場合、プレス後の絶縁膜の比誘電率ε
pは、以下の式で表すことができる。
【0112】
ε
p=ε
i(1−P)/(1−ε
i・P)
【0113】
上式において、Pは、絶縁膜の厚みの減少率である減膜率質を示しており、P=d
a/d
iで表される。
【0114】
図6Bに、絶縁膜の減膜率Pと、上式によって算出された、プレス後の絶縁膜の比誘電率ε
pとの関係を示す。
図6Bには、プレス前の比誘電率ε
iがそれぞれ3.5(●)、3.0(◆)、2.8(×)の絶縁膜の場合のデータが示されている。
【0115】
図6Bに示すように、いずれの絶縁膜についても、プレスによって減膜率Pが増加するに伴って、比誘電率ε
pも増加することが分かる。なお、比誘電率ε
i=3.0の絶縁膜においては、プレスによって膜厚が90%に圧縮(すなわち、減膜率が10.0%の場合)すると、プレス後の絶縁膜の比誘電率ε
pはプレス前の絶縁膜の比誘電率ε
iと比較して129%に向上する。
【0116】
次に、本実施の形態に係る有機EL発光素子100について、
図4を用いて説明する。
図4は、本発明の実施の形態に係る有機EL発光素子の構成を示す断面図である。
【0117】
本実施の形態に係る有機EL発光素子100は、複数の画素がマトリクス状に配置された画素部(表示部)を有する有機EL表示パネルであって、各画素に対応するように形成された有機EL素子を含むEL層と、薄膜トランジスタ10及び配線等によって構成される画素回路部を含むTFT層とを備える。画素回路部は、各画素に対応するように形成された画素駆動用の駆動トランジスタ及び画素選択用のスイッチングトランジスタと、ソース線、ゲート線及び電源線等によって構成されている。
図4に示す有機EL発光素子は、表示パネルの一画素(サブ画素)の構成を示したものである。
【0118】
図4に示すように、有機EL発光素子100は、基板1上に形成された薄膜トランジスタ10と、薄膜トランジスタ10を覆うように形成された平坦化膜8と、平坦化膜8上に形成された、下部電極61、有機層62及び上部電極63からなる有機EL素子60と、有機EL素子60の有機層62を画素ごとに分離する隔壁部50と、有機EL素子60を覆うように形成された封止層70と、封止基板80とを備える。
【0119】
薄膜トランジスタ10は、上述の本実施の形態における薄膜トランジスタであり、特に半導体層7が有機材料によって構成された有機薄膜トランジスタである。基板1上には、複数の薄膜トランジスタ10がアレイ状に形成される。また、薄膜トランジスタ10は、pチャネル型の駆動トランジスタとしているので、ドレイン電極5が有機EL素子60の下部電極61と電気的に接続されている。なお、
図4には、スイッチングトランジスタは図示されていない。
【0120】
図4に示すように、平坦化膜8には、有機EL素子60の下部電極61と薄膜トランジスタ10のドレイン電極5(ドレイン電極5の延設部分)とを接続するためのコンタクトホール8Hが設けられている。コンタクトホール8Hは、ドレイン電極5上の平坦化膜8を除去することによって形成することができる。これにより、ドレイン電極5の表面を露出させることができるので、コンタクトホール8Hを介してドレイン電極5と下部電極61とを接続することができる。
【0121】
本実施の形態における有機EL素子60は、トップエミッション型の有機EL素子であって、平坦化膜8上において画素単位(発光単位)で形成されている。有機EL素子60は、下部電極61、有機層62及び上部電極63からなる。
【0122】
下部電極61は、平坦化膜8上に形成され、駆動回路部から電流が流れ込む陽極(アノード)であって有機EL素子60の画素電極として機能する。また、本実施の形態における有機EL素子60はトップエミッション型であるので、下部電極61は反射電極として構成されている。反射電極としての下部電極61は、例えば、Al又は銀合金APCなどの反射金属の単層構造、あるいは、インジウム錫酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)などの透明金属酸化物と銀合金APCなどの反射金属との2層構造とすることができる。下部電極61は、画素ごとに分離形成されている。なお、ボトムエミッション型の有機EL素子とする場合、下部電極61は、ITOなどの透明金属酸化物のみからなる透明電極とする。
【0123】
また、上述のように、下部電極61は、平坦化膜8を貫通するコンタクトホール8Hを介して、薄膜トランジスタ10のドレイン電極5と電気的に接続されている。これにより、下部電極61には、駆動トランジスタとしての薄膜トランジスタ10のドレイン電極5から、ソース線から供給されたデータ電圧に対応する電流が供給される。
【0124】
有機層62は、下部電極61上において画素単位で形成されており、所定の有機発光材料で構成される発光層を含む有機EL層である。発光層は、下部電極61と上部電極63とに所定の電圧が印加されることにより注入された電子と正孔とが再結合して生じるエネルギーにより当該発光層の発光材料が励起されて発光する。発光層は、例えば、下層としてα−NPD(Bis[N−(1−naphthyl)−N−phenyl]benzidine)を用い、上層としてAlq
3(tris−(8−hydroxyquinoline)aluminum)を用いた積層構造とすることができる。
【0125】
また、有機層62は、発光層の他に、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層又は電子注入層を含み、これらの層の全部又は一部の層が積層されて構成される。この場合、例えば、正孔注入層としては、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)などの化合物などを用いることができ、正孔輸送層としては、トリフェルアミンやポリアニリンなどを用いることができ、電子注入層としては、ポリフェニレンビニレン(PPV)などを用いることができる。
【0126】
上部電極63は、駆動回路部へ電流が流れ出す陰極(カソード)であり、下部電極61対して負の電圧を発光層に印加して、電子を発光層に注入する機能を有する。上部電極63は、下部電極61と対向するように形成された透明電極であって、有機層62上に形成される。なお、本実施の形態における上部電極63は、各画素に共通となるように形成された共通電極である。上部電極63は、透過率の高い材料及び構造を用いることが好ましく、ITO又はインジウム亜鉛酸化物(IZO:Indium Zinc Oxide)などの透明金属酸化物によって構成することができる。なお、本実施の形態において、上部電極63の電位は接地電位としている。
【0127】
隔壁部50は、有機層62を画素ごとに分離して区画するための開口と、有機層62の周囲を規制する隔壁(バンク)とによって構成されており、平坦化膜8上に形成されている。隔壁部50の隔壁部分は、レジスト等の感光性樹脂を用いて形成することができ、この感光性樹脂を部分的に露光及び現像することによって開口を形成することができる。
【0128】
封止層70は、有機EL素子60までが形成された基板1と封止基板80とを接合する接着層として機能するとともに、有機EL素子60を封止して保護する保護層としても機能する。封止層70の材料としては、例えば、アクリル系又はエポキシ系の樹脂などを用いることができる。なお、上部電極63と封止層70との間に、有機EL素子60をさらに水分や酸素から保護するために薄膜封止層を形成してもよい。薄膜封止層の材料としては、例えば、窒化珪素(SiN)又は酸窒化珪素(SiON)等の透明絶縁材料を用いることができる。
【0129】
封止基板80は、有機EL素子60を封止して有機EL発光素子100を外部から保護する基板である。すなわち、封止基板80は、有機EL発光素子100の外面を形成する。また、封止基板80は、有機EL素子60の発光層から放出される光を透過する透光基板である。封止基板80としては、例えば透明ガラス基板を用いることができる。なお、必要に応じて封止基板80の内面に、赤色、緑色及び青色の各色に対応するカラーフィルタを形成してもよく、この場合、封止基板80はカラーフィルタを通過した光を外部に透過する。
【0130】
以上、本実施の形態に係る有機EL発光素子100によれば、ゲート絶縁層3の耐電圧特性が優れた薄膜トランジスタ10を用いているので、抵抗配線を低下させる手法としてゲート電極2を厚膜化する方法を採用することができる。これにより、ゲート電極2と同時にパターン形成される配線も厚膜化し、低抵抗配線を実現することができる。従って、有機EL発光素子100が大型化しても電流ロスの少ない配線を実現することができるので、高速動作を行うことができる有機EL発光素子を実現することができる。
【0131】
さらに、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ10は、ゲート電極2の上方に位置する第1領域31の密度がゲート電極2の上方とは異なる場所に位置する第2領域32の密度よりも高くなっているので、ゲート電極2の上方におけるゲート絶縁層3の比誘電率は他の領域の比誘電率と比べて高くなっている。これにより、半導体層7のチャネル領域に誘起されるキャリアの密度を高くすることができるので、TFT特性を向上させることができる。従って、さらに高速動作を行うことができる有機EL発光素子を実現することができる。
【0132】
さらに、有機EL発光素子100では、各画素において蓄積容量部(ゲート電極2とソース電極4又はドレイン電極5とで構成される容量)が設けられるが、ゲート電極2の上方のゲート絶縁層3の比誘電率が他の領域の比誘電率と比べて高くなっているので、蓄積容量部の大きさ(面積)を小さくすることができる。従って、画素サイズを容易に微細化することができるとともに、画素レイアウトの自由度を向上させることができる。
【0133】
また、隣接画素間のゲート電極2同士の間におけるゲート絶縁層3(第2領域32)の比誘電率は、ゲート絶縁層3の他の領域の比誘電率と比べて小さくなっている。これにより、有機EL発光素子100における寄生容量を小さくすることができるので、パネルを容易に大型化することができるとともに高速動作を行うことができる。
【0134】
以上、本発明に係る薄膜トランジスタ、有機EL発光素子及び薄膜トランジスタの製造方法について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0135】
例えば、上記の実施の形態において、ゲート絶縁層3は同一物質で構成したが、比誘電率が異なる複数種の物質によってゲート絶縁層3を構成してもよい。この場合、例えば、ゲート絶縁層形成工程の塗布工程において、ゲート電極2の上方には第1の比誘電率を有する第1の有機絶縁性材料を塗布し、ゲート電極2の上方以外の領域には第1の比誘電率とは異なる第2の比誘電率を有する第2の有機絶縁性材料を塗布することで実現することができる。
【0136】
また、上記の実施の形態において、半導体層7は有機半導体層としたが、これに限らない。例えば、半導体層7としては、シリコンやゲルマニウム等からなる無機半導体層とすることもできる。なお、この場合、シリコン等からなる半導体層はCVDによって薄膜形成してエッチングによってパターン形成することによって所定形状とすることができるので、隔壁部6は形成しなくてもよい。
【0137】
また、上記の実施の形態において、ゲート電極2と他のゲート電極20とを含む2つ以上のゲート電極を被覆するように有機絶縁性材料30を塗布した上で押圧を行ったが、塗布工程及び押圧工程は、少なくとも一つのゲート電極を覆って有機絶縁性材料30を塗布し、かつその有機絶縁性材料30の押圧を行うものであればよい。
【0138】
また、上記の実施の形態において、第3領域33は、ゲート電極2の側周部周辺の領域としたが、ゲート電極2の上方にその一部が存在していてもよい。例えば、
図2の(b)で、ゲート電極2を被膜して絶縁膜材料が塗布された際、ゲート電極2の端部において絶縁膜材料の厚みがゲート電極2の中央部よりも薄くなっている場合には、第3領域33がゲート電極2の上方に位置する場合がある。
【0139】
また、上記の実施の形態において、ゲート電極2の断面形状を矩形として説明を行ったが、ゲート電極2の断面形状は矩形に限られるものではない。例えば
図5の(a)に示すように、ゲート電極2の断面形状が、側面部において厚みが減少するテーパー状となった台形であってもよい。特に、ゲート電極2をウェットエッチングにより加工した場合、ゲート電極2の両端部はテーパー状になりやすい。なお、
図5の(a)は、
図2の(b)の工程に対応し、ゲート絶縁層3を形成するための有機絶縁性材料30がゲート電極2を被覆するように塗布されている状態を示している。
【0140】
なお、
図5の(a)に示される状態の有機絶縁性材料30に対して、上述の気化工程及びプレス工程を施すことにより、
図5の(b)に示すようなゲート絶縁層3が形成される。すなわち、ゲート電極2の中央付近に位置し、ゲート電極2の厚みが最も大きい領域の上方には、膜密度が他の領域よりも高い第1領域31が存在する。また、ゲート電極2の厚みが減少するテーパー状の側面部の上方の領域を少なくとも含むように第3領域33が存在する。そして、第3領域33よりもゲート電極2から離れた領域に、第2領域32が存在する。
【0141】
また、上記の実施の形態において、薄膜トランジスタ10は有機EL発光素子に適用したが、これに限らない。例えば、薄膜トランジスタ10は、液晶表示装置等の他の表示装置にも適用することができる。また、当該表示装置については、フラットパネルディスプレイとして利用することができ、テレビジョンセット、パーソナルコンピュータ又は携帯電話などの電子機器に適用することができる。
【0142】
また、上記の実施の形態における薄膜トランジスタ10については、基板1上に複数の薄膜トランジスタ10を形成することによって、薄膜トランジスタアレイとしても構成することもできる。
【0143】
また、上記の実施の形態において、薄膜トランジスタ10は、pチャネルTFTとしたが、nチャネルTFTとすることもできる。
【0144】
なお、その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。