(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態の吸引チップについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態の吸引チップの構成を説明する説明図である。
【0013】
<吸引チップCについて>
吸引チップCは、吸引装置の1種である吸引ピペットPに装着して使用され、ユーザが吸引ピペットPを操作して対象物を吸引する際に、吸引した対象物を吸引して一時的に保持するための管状通路C1を備えた実験器具である。なお、吸引ピペットPは、吸引チップCの開口部Coに進入する先端部を有する吸引装置である。吸引ピペットPは、吸引チップCを装着した状態でユーザがプッシュボタン(図示せず)を操作することにより、吸引チップCの吸引口1から吸引力を発生させて、対象物を吸引する。
【0014】
本実施の形態の吸引チップCは、
図1に示されるように、先端開口部1と、第一の膜フィルタ2(第一の選別手段)が設けられた管状通路C1と、コーン状部材3と、を有する。各構成については後記により詳述する。
【0015】
吸引チップCの大きさ(内容積)としては特に限定されず、用途に応じて、たとえば1μL〜5mL程度の内容積を有する吸引チップCを適宜採用することができる。
【0016】
吸引チップCの管壁の厚みは、特に限定されないが、薄すぎると強度が低くなるため、100〜600μm程度とすることが好ましい。
【0017】
吸引チップCを構成する材料としては、通常の吸引チップに使用される材料であれば特に限定されない。たとえば、材料として、ポリプロピレンまたはポリスチレン等の樹脂を採用することができる。
【0018】
吸引チップCの作製方法としては特に限定されず、従来公知の吸引チップの製造方法を採用することができる。たとえば、上記材料を溶融させて成型金型に注入し、成型する方法を採用することができる。
【0019】
<対象物の集合Mについて>
対象物の集合Mは、選別対象物T1と非対象物T2とを含む。対象物の集合Mの種類としては特に限定されないが、種々の形状や粒子径を有する粒子の混合物、種々の大きさの細胞や夾雑物を含んだ細胞培養液や細胞処理液などが挙げられる。たとえば、対象物の集合Mが、種々の形状の粒子の混合スラリーであり、吸引チップCを用いてその中に含まれる所定の形状の対象物を吸引し、吐出する場合、吐出された粒子が選別対象物T1に該当する。同様に、対象物の集合Mが、種々の大きさの細胞や夾雑物を含んだ細胞培養液や細胞処理液であり、吸引チップCを用いて吸引し、所定の形状の細胞のみを吐出する場合、吐出された所定の形状の細胞が選別対象物T1に該当する。
【0020】
本実施形態の吸引チップCを用いて吸引する選別対象物T1としては、生体由来の細胞であることが好ましく、より好ましくは、生体由来の細胞凝集塊である。
【0021】
生体由来の細胞を対象物として本実施形態の吸引チップCを用いれば、吸引と吐出の一連の動作を行うだけで、対象物の集合Mから所定の径よりも大きな径を有する細胞のみを選別対象物T1として取り出すことができる。その際、後述する第一の膜フィルタ2を取り外す等の分解作業が不要であるため、ユーザは、コンタミネーションが特に問題視されるバイオ関連技術や医薬の分野において、コンタミネーションを起こすことなく効率的に作業を行うことができる。
【0022】
生体由来(細胞株由来を含む)の細胞凝集塊(スフェロイド spheroid)は、一般に、個々の細胞が数個〜数十万個凝集して形成される。細胞凝集塊の形状としては、多様な形状をしており、たとえば略球形、略角型、管状、不定形状などを呈している。そして、このような細胞株由来の細胞凝集塊を用いて得た試験結果は、1個の細胞を用いて得た試験結果よりも、細胞凝集塊の内部に各細胞間の相互作用を考慮した生体類似環境が再構築されており、個々の細胞の機能を考慮した結果が得られ、かつ、より生体内における環境に即した実験条件に揃えることができる。上記のとおり、本実施形態の吸引チップCを用いれば、吸引と吐出の一連の動作を行うだけで、対象物の集合Mから所定の径よりも大きな径を有する細胞凝集塊のみを選別対象物T1として取り出すことができる。そのため、本実施形態の吸引チップCは、歪な形状の細胞凝集塊等を簡単に排除することができるため、バイオ関連技術や医薬の分野において信頼性の高い結果が得られる。
【0023】
<先端開口部1について>
先端開口部1は、ユーザが吸引チップCを装着した吸引ピペット等の吸引装置を操作することにより選別対象物T1と非対象物T2とを含む対象物の集合M(
図2A参照)を吸引または吐出するための開口であり、吸引チップCの先端部において、断面が略円形の内周壁を備えた管状通路C1の端部開口として形成されている。ユーザは、少なくとも先端開口部1を対象物の集合Mが貯留された容器に浸漬し、吸引ピペットP等の吸引装置を操作して対象物の集合Mを吸引する。
【0024】
先端開口部1の開口面積は、選別対象物T1の径よりも大きければよく、吸引する選別対象物T1の径に合わせて適宜調整すればよい。たとえば、上記のとおり、細胞凝集塊を選別対象物T1とする場合において、細胞凝集塊の大きさが300〜500μmである場合には、先端開口部1の径は、150〜1000μm程度であればよい。
【0025】
なお、本実施形態の吸引チップCが有する先端開口部1の形状は、円形以外の形状であってもよく特に限定されない。先端開口部1の形状は、対象物の形状に併せて適宜、最適な形状を採用することができる。たとえば、略球形の細胞凝集塊以外に、芯状の粒子を選別対象物T1とする場合には、ユーザは、先端開口部1の形状が狭い吸引チップCを使用することにより、大きな球形の粒子や扁平な粒子が先端開口部1から吸引されることを防止することができる。
【0026】
<管状通路C1について>
管状通路C1は、吸引ピペットP等の吸引装置を用いて対象物の集合Mを吸引する際に、対象物の集合Mが通過する。管状通路C1は、
図1に示されるように、吸引チップCの内部に形成された通路であり、先端部に先端開口部1が形成されている。
【0027】
管状通路C1の径としては特に限定されず、対象物が通過し得る大きさであればよい。たとえば、細胞凝集塊を選別対象物T1とする場合において、細胞凝集塊の大きさが300〜500μmである場合には、管状通路C1の径は、400〜2000μm程度であればよい。
【0028】
吸引された対象物の集合Mは、ユーザが吸引ピペットを操作して吸引動作を行う間は吸引方向の下流側(以下、単に吸引方向という場合がある)へ管状通路C1を進み、ユーザが吸引ピペットを操作して吐出動作を行う間は、吸引方向の上流側(以下、単に吐出方向という場合がある)へ管状通路C1を進む。吸引された対象物の集合Mが吸引方向へ進むと、対象物の集合Mに含まれる選別対象物T1および非対象物T2は、第一の膜フィルタ2に至る。
【0029】
<第一の膜フィルタ2について>
第一の膜フィルタ2は、先端開口部1から吸引された対象物の集合Mに含まれる選別対象物T1と非対象物T2とのうち、非対象物T2のみを通過させ、選別対象物T1を通過させずに第一の膜フィルタ2が配置された位置よりも、対象物の集合Mの吸引方向の上流側に滞留させる。第一の膜フィルタ2は、
図1に示されるように、管状通路C1の水平断面形状に沿った形状を有し、管状通路C1の内周壁に接合されている。管状通路C1の配置位置は、吸引チップCの中央位置から、やや対象物の集合Mの吸引方向の上流側である。
【0030】
第一の膜フィルタ2は、選別対象物T1の径よりも小さな径の貫通孔(第一の貫通孔)が設けられた多孔質膜である。第一の貫通孔の開口面積としては特に限定されない。ユーザは、選別する選別対象物T1の径に応じて、最適な開口面積の第一の貫通孔が設けられた第一の膜フィルタ2を採用することができる。一例としては、選別対象物T1が直径300μmの細胞凝集塊である場合には、第一の膜フィルタ2の第一の貫通孔の径を100μm程度とすることができる。
【0031】
第一の膜フィルタ2の厚みは特に限定されず、たとえば10〜100μm程度である。このように、第一の膜フィルタ2は厚みが小さいため嵩張らず、吸引チップCの管状通路C1内に設けることができる。また、第一の膜フィルタ2を設けていない吸引チップと比較しても、内容積が大幅に減少することがない。そのため、従来の吸引チップに第一の膜フィルタ2を設けて使用する場合に、内容積の違い等による計量ミス等を起こすことがない。
【0032】
第一の膜フィルタ2の種類としては特に限定されない。たとえば、タンパク質等の物質、あるいは細胞等の分離やろ過に使用されている第一の膜フィルタ2を用いることができる。具体的には、ナイロンやセルロースなどを原料としたメンブレンフィルタ、ガラス繊維製のフィルタなどを用いることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、第一の膜フィルタが多孔質膜である場合を例に説明したが、第一の膜フィルタはこれに限定されない。たとえば、本実施形態の吸引チップCは、第一の膜フィルタとして、格子状に第一の貫通孔が形成されたメッシュ部材を採用してもよく、微細孔のメッシュ部材を採用してもよい。
【0034】
また、第一の貫通孔の形状としては円形に限定されず、楕円、多角形であってもよく、これらの形状を結う摺る第一の貫通孔が規則的に、または不規則的に配置された形状を採用してもよい。上記のとおり、生体由来の細胞凝集塊を選別対象物T1とし、選別対象物T1が略球形を呈する場合には、略球形の選別対象物T1が第一の貫通孔を通過することがないように、円形以外の形状を呈する第一の貫通孔を形成した第一の膜フィルタ2を採用することが好ましい。
【0035】
<コーン状部材3について>
コーン状部材3(捕捉機構、捕捉手段)は、第一の膜フィルタ2を通過した非対象物T2を捕捉する。コーン状部材3は、管状通路C1において、第一の膜フィルタ2よりも対象物の集合Mの吸引方向の下流側に設けられる。コーン状部材3は、非対象物T2を含む対象物の集合Mを通過させる通過孔4と、通過した非対象物T2を貯留する貯留部5を有する。なお、本実施形態の貯留部5は、吸引チップCが吸引口1を下方にして立設状態で使用される場合に機能する。
【0036】
コーン状部材3は、対象物の集合Mの吸引方向に向けて、吸引された対象物の集合Mの流路を狭めるテーパ部6を有する。テーパ部6は、対象物の集合Mの吸引方向の上流側の端部が、管状通路C1の内周壁に接合されており、狭められたテーパ部6の端部には、非対象物T2を含む対象物の集合Mが通過する通過孔4が形成されている。
【0037】
テーパ部6が、対象物の集合Mの吸引方向に向けて、吸引された対象物の流路を狭める割合(縮径率)は、一定であってもよく、徐々に縮径率が大きくなるように変動してもよい。すなわち、
図2Aに示されるように、テーパ部6の傾斜角θが一定であってもよく、変動してもよい。
【0038】
傾斜角θは、30°以上60°以下であることが好ましい。傾斜角が60°を超える場合、コーン状部材3の外周壁と管状通路C1の内周壁との間に形成される貯留部5の深さが浅くなり、非対象物T2を充分に貯留できない可能性がある。その結果、貯留されなかった非対象物T2が通過孔4を逆流して吐出される可能性がある。一方、傾斜角が30°未満の場合、コーン状部材3のテーパ部6の端部に形成される通過孔4の開口面積を小さくするために、コーン状部材3の長さを大きくする必要があるため、吸引チップCの大きさが大きくなり、利便性が悪くなる可能性がある。
【0039】
コーン状部材3の材質は特に限定されず、たとえば、材料として、ポリプロピレンまたはポリスチレン等の樹脂を採用することができる。ほかにも、アルミニウム等の金属を成型してコーン状部材3としてもよい。
【0040】
通過孔4は、狭められたテーパ部6の端部に形成されている。通過孔4は、非対象物T2を含む対象物の集合Mが通過する孔である。通過孔4は、対象物の集合Mの吸引時には非対象物T2を通過させやすく、対象物の集合Mの吐出時には非対象物T2の逆流を効率的に防止し得る形状であることが好ましい。そのため、通過孔4の径は、たとえば100〜500μmとすることが好ましい。通過孔4の径が50μm未満の場合、吸引時の対象物の集合Mの流れを抑制しすぎるため、吸引動作が円滑に進まない可能性がある。一方、通過孔4の径が500μmを超える場合、対象物の集合Mの吐出時に非対象物T2が対象物の集合Mと混ざって逆流しやすくなる傾向がある。
【0041】
通過孔4の形状は、特に限定されない。通過孔4の形状としては、円形、楕円形、多角形等の各種形状を採用することができる。
【0042】
通過孔4の個数は、特に限定されない。通過孔4は狭められたテーパ部6の端部に形成されているため、コーン状部材3が複数のテーパ部6を有し、複数のテーパ部6が複数の端部を形成する場合には、通過孔4は、それぞれの端部に形成されてもよい。
【0043】
貯留部5は、対象物の集合Mを吐出する際に、非対象物T2を貯留する。貯留部5は、コーン状部材3の外周壁と、管状通路C1の内周壁との間に形成される空間である。
図2Bに示されるように、吐出により管状通路C1から対象物の集合Mが吐出される際、テーパ部6の外周壁と管状通路C1の内周壁との空間には、吐出されなかった対象物の集合Mが残留する。非対象物T2は、対象物の集合Mの吸引時には、テーパ部6の内周壁に沿って通過孔4を通過するが(
図2A参照)、吐出時にはほぼ全部の非対象物T2は、テーパ部6の外周壁に沿って貯留部5に沈降し、貯留される。
【0044】
なお、貯留部5の形状は特に限定されない。すなわち、貯留部5の形状は、
図2Aや
図2Bに示されるように、コーン状部材3の平坦な外周壁と、管状通路C1の平坦な内周壁との間に形成された深い谷状の貯留部5に限定されず、たとえば、
図2Cに示されるように、コーン状部材3の外周壁と管状通路C1の内周壁との間に形成されたなだらかな凹状の貯留部5aであってもよい。
【0045】
図2Aおよび
図2Bを参照して、本実施形態の吸引チップCを用いた吸引および吐出の動作を説明する。
図2Aは、本実施形態の吸引チップCを用いて対象物の集合Mを吸引した際に、対象物の集合Mが吸引される様子を説明する模式図である。
図2Bは、本実施形態の吸引チップCを用いて対象物の集合Mを吐出した際に、対象物の集合Mが吐出される様子を説明する模式図である。
【0046】
図2Aに示されるように、ユーザが吸引装置である吸引ピペット(図示せず)を操作して吸引動作を行った場合、選別対象物T1と非対象物T2とを含む対象物の集合Mは、吸引口1から吸引されて管状通路C1内を吸引方向へ進行する。対象物の集合Mは、ビーカ等の容器(図示せず)に貯留されている。矢印A1は、吸引方向へ進行する対象物の集合Mの進行方向を示している。
【0047】
第一の膜フィルタ2は、第一の膜フィルタ2に到着した対象物の集合Mに含まれる選別対象物T1と非対象物T2のうち、選別対象物T1を通過させず、非対象物T2を通過させる。参照符号T1aは、管状通路C1内をA1方向へ進行する選別対象物を示しており、参照符号T2aは、管状通路C1内をA1方向へ進行する非対象物を示しており、参照符号T1bは、第一の膜フィルタ2を通過できずに管状通路C1内に留まっている選別対象物を示している。
【0048】
第一の膜フィルタ2を通過した非対象物T2は、選別対象物T1が選別除去された対象物の集合Mとともに、さらに対象物の集合Mの吸引方向へ進行する。参照符号T2bは、第一の膜フィルタ2を通過した非対象物を示している。対象物の集合Mの吸引方向へ進行する非対象物T2bは、コーン状部材3のテーパ部6の斜面に沿って進行し、コーン状部材3の通過孔4を通過する。参照符号T2cは、通過孔4を通過した非対象物を示している。
【0049】
次いで、
図2Bに示されるように、ユーザが吸引ピペット(図示せず)を操作して吐出動作を行った場合、非対象物T2を含む対象物の集合Mは、対象物の吐出方向へ進行する。この場合、非対象物T2を含まない対象物の集合Mは、通過孔4を通過するが、非対象物T2は、ほとんどが通過孔4を通過できずに貯留部5に進行する。参照符号T2dは、貯留部5へ移動する非対象物を示している。非対象物T2を含まない対象物の集合Mは、第一の選別手段を通過して、選別対象物T1とともに吐出される。
【0050】
このように、吸引と吐出の一連の動作のみを行うことにより、対象物の集合Mから非対象物T2のみを除去して、選別対象物T1のみを吐出することができる。コーン状部材3に設けられたテーパ部6は、吸引時には非対象物T2が通過孔4を通過するよう促すが、吐出時には貯留部5に進行するよう促す。そのため、本実施形態の吸引チップPは、高い精度で非対象物T2を選別除去することができる。
【0051】
なお、本実施形態では、第一の膜フィルタ2やコーン状部材3を一体的に備えた吸引チップCを例に説明したが、第一の膜フィルタ2やコーン状部材3は別部材として準備することができる。すなわち、第一の膜フィルタ2を備えたフィルタユニットや、コーン状部材3を備えた捕捉ユニットを別々に準備して、従来の吸引チップに嵌め込むか、従来の吸引チップに接着して組み立てることができる。
【0052】
上記のとおり、本実施形態の吸引チップCは、吸引および吐出の動作により非対象物T2よりも径の大きな選別対象物T1を吐出することができる。そのため、吐出後に必要とする選別対象物T1が吸引チップC内に残されていないため、ユーザは吸引チップCを分解等する必要がなく、コンタミネーションを起こすことがない。
【0053】
なお、上記した各種ユニットを組み立てて使用した後は、吸引チップCは使い捨てとすることが好ましいが、分解して洗浄等をすることにより再利用をすることも可能である。その場合には、コンタミネーションを防止するために、再利用の前に、アルコール滅菌、UV照射、高圧蒸気滅菌等により各種ユニットを滅菌することが好ましい。
【0054】
また、本実施形態では、
図2Bを参照して対象物の集合Mを吐出する際の動作を説明したが、ユーザが吸引ピペットのプッシュボタン(図示せず)を押し下げる等により吐出を促さなくても、選別対象物T1のみを先端開口部1から沈降させて取り出すことが可能である。
【0055】
すなわち、吸引動作を終えると、管状通路C1内に導入された選別対象物T1は、重力方向に沈降を始める。先端開口部1を液体中に浸漬した状態では、外気に曝した場合と違って先端開口部1に表面張力が働くことがない。そのため、ユーザが吐出動作を行わなくても、先端開口部1から選別対象物T1が落下する。
【0056】
その際、通過孔4を通過した非対象物T2cも重力方向に沈降するため、再び通過孔4を通過する可能性がある。そのため、ユーザは、たとえば吸引チップCを傾けるなどにより、非対象物T2cが開口孔を通過せずに貯留部5に沈降することを促すことが好ましい。
【0057】
なお、本実施形態の吸引チップCは、上記のとおり、1回の吸引および吐出の一連の動作を行うだけでも充分に選別対象物T1を選別することができるが、操作回数は1回に限定されず、複数回行ってもよい。たとえば選別前の対象物の集合Mが貯留された容器(図示せず)から、本実施形態の吸引チップCを装着した吸引ピペットPを操作して別の容器に移した後に、さらに、もう一度、本実施形態の吸引チップCを装着した吸引ピペットPを操作して、別の容器に移し替える。これにより、ユーザは、仮に1回の吸引および吐出の動作では、選別対象物T1のみを完全に選別できなかった場合に、選別対象物T1の選別精度を向上させることができる。
【0058】
また、吸引および吐出の一連の動作を2回行う代わりに、本実施形態の吸引チップCは、吸引チップC内に、複数個のコーン状部材を設けてもよい。たとえば、本実施形態の吸引チップCの別例として、本実施形態のコーン状部材3の通過孔4の吸引方向の下流側に、別のコーン状部材を配置することができる。
【0059】
吸引時に別のコーン状部材の通過孔を通過した非対象物T2が、吐出時に別のコーン状部材の通過孔を逆流した場合であっても、非対象物T2がその上流側に設けられたコーン状部材3の通過孔4をも通過する可能性は極端に低い。ユーザは、選別対象物T1の選別精度をより向上させることができる。
【0060】
なお、コーン状部材を複数設けた場合において、より確実に非対象物の逆流を防止するためには、ユーザは、それぞれのコーン状部材の通過孔の位置を、吸引チップCの管状通路C1の軸方向において、同軸上とならない位置に配置することが好ましい。このような位置に通過孔を配置することにより、コーン状部材3よりも上流側に配置された別のコーン状部材の通過孔を、非対象物T2が逆流した場合であっても、非対象物T2は、コーン状部材3の貯留部5に沈降しやすく、コーン状部材3の通過孔4を通過する可能性は極端に低い。
【0061】
また、
図2Cに示されるように、コーン状部材3の通過孔4の下流側に、振分部材Dを配置し、通過孔4を通過した非対象物T2を振り分けてもよい。
図2Cにおいて、参照符号T2c1は、振分部材Dにより左右に振り分けられた非対象物を示しており、参照符号A1aは、振分方向を示している。本実施形態において、振分部材Dは、円錐状の部材であり、倒立円錐状に、頂部が通過孔4の下流側に位置するよう配置されている。振分部材Dは、通過孔4を通過した非対象物T2を含む液流を、振分部材Dの円錐斜面により周方向に振り分けて、管状通路C1の内壁方向に進行させる。振分部材Dの形状としては特に限定されず、貫通孔4を通過した非対象物T2を管状通路C1の内壁方向に振り分けられる形状であればよく、たとえば角錐台状等であってもよい。
【0062】
さらに、コーン状部材3の外周壁の一部と、管状通路3の内周壁の一部との少なくとも一方に、逆テーパ部6aを設けることができる。コーン状部材3の外周壁の一部と、管状通路3の内周壁の一部との両方に逆テーパ部6aを設けた場合について説明する。逆テーパ部6aは、
図2Dおよび
図2Eに示されるように、内側テーパ片6a1と、外側テーパ片6a2とからなる。
図2Dは、本実施形態の別例の吸引チップを用いた吐出の動作を説明する説明図であり、
図2Eは、本実施形態の別例の吸引チップの平面図である。内側テーパ片6a1は、下流側端部においてコーン状部材3の外周壁と接合されており、かつ、コーン状部材3の外周壁を周回する部材である。内側テーパ片6a1は、吐出時に非対象物(非対象物T2d1)の沈降を促す斜面を有する。外側テーパ片6a2は、下流側端部において管状通路C1の内周壁と接合されており、管状通路C1の内周壁を周回する部材である。外側テーパ片6a2は、吐出時に非対象物(非対象物T2d1)の沈降を促す斜面を有する。内側テーパ片6a1とコーン状部材3の外周壁との接合部(内側テーパ片6a1の上縁部)の水平位置は、外側テーパ片6a2と管状通路C1の内周壁との接合部(外側テーパ片6a2の上縁部)の水平位置と、同程度である。内側テーパ片6a1の上流側端部と外側テーパ片6a2の上流側端部とは、互いに近接し、環状の通過孔6a3を形成する。吐出時において、非対象物T2は、内側テーパ片6a1と外側テーパ片6a2とにより流路が狭められ、通過孔6a3を通過して貯留部5に沈降する。参照符号T2d2は、通過孔6a3を通過した非対象物を示している。逆テーパ部6aを設けることにより、貯留部5への非対象物T2の沈降を促すとともに、貯留部5に沈降した非対象物T2の逆流を、より確実に防止することができる。
【0063】
(第2の実施形態)
以下に、本発明の第2の実施形態の吸引チップCaについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
図3は、本発明の第2の実施形態の吸引チップCaを用いた吸引および吐出の動作を説明する説明図であり、
図3Aは、本実施形態の吸引チップCaを用いて対象物の集合Mを吸引した際に、対象物の集合Mが吸引される様子を説明する模式図である。
図3Bは、本実施形態の吸引チップCaを用いて対象物の集合Mを吐出した際に、対象物の集合Mが吐出される様子を説明する模式図である。
【0064】
第2の実施形態の吸引チップCaは、通過孔4よりも、対象物の集合Mの吸引方向の下流側に弁機構7と、第二の膜フィルタ8(第二の選別手段)とをさらに備える以外は、第1の実施形態の吸引チップCと同様である。そのため、相違点以外の説明は省略する。
【0065】
<弁機構7について>
弁機構7は、通過孔4に近接して配置され、非対象物をより確実に貯留部において捕捉させるために、吸引時と吐出時とで対象物の集合Mの流通経路を異ならせる目的で設けられている。弁機構7は、
図3Aに示されるように、対象物の集合Mの吸引時には、通過孔4を通過した非対象物T2cを、弁機構の上流側開口部7bの手前で、通過孔4の周方向外側に分流させて(矢印A4方向)、第二の膜フィルタ8に向かう経路を設ける。また、弁機構7は、
図3Bに示されるように、対象物の集合Mの吐出時には、第二の膜フィルタ8を通過した対象物の集合Mに含まれる液体成分を、弁機構の下流側開口部7cから弁機構7の本体部7a内に導入し(矢印A6方向)、通過孔4から吐出させる。弁機構7は、内部に通路を有する本体部7aと、本体部7aに設けられた上流側開口部7bおよび下流側開口部7cと、蓋部7dとを有する。
【0066】
本体部7aは、吐出時に対象物の集合Mに含まれる液体成分が通過する内部通路を有する。本体部7aは、対象物の集合Mの吸引時および吐出時に、対象物の集合Mが流れる流れに従って管状通路C1内を上下に移動する。本体部7aには、上下にそれぞれ開口部が設けられている。
【0067】
本体部7aを構成する材料としては、特に限定されず、たとえば、ポリプロピレンまたはポリスチレン等の樹脂を採用することができる。ほかにも、アルミニウム等の金属を成型して本体部7aとしてもよい。
【0068】
上流側開口部7bは、本体部7aの一端の開口であり、その開口面積は、コーン状部材3の通過孔4よりも小さい。また、下流側開口部7cは、本体部7aの他端の開口である。
【0069】
対象物の集合Mの吸引時には、
図3Aに示されるように、本体部7aは吸引方向へ移動する。そのため、上流側開口部7bは、コーン状部材3の通過孔4と上流側開口部7bと離間する。また、下流側開口部7cは、後述する蓋部7dと当接して閉鎖される。そのため、非対象物T2を含む対象物の集合Mは、上流側開口部7bから本体部7aの内部に流れ込まずに上流側開口部7bの手前で、通過孔4の周方向外側に分流(矢印A4方向)される。
【0070】
一方、対象物の集合Mの吐出時には、
図3Bに示されるように、本体部7aは吐出方向へ移動する。そのため、上流側開口部7bは、コーン状部材3の通過孔4に先端部を進入させて、本体部2aの内部通路とテーパ部6の通過孔4の上流側領域とを連通する。また、下流側開口部7cは、本体部7が移動することにより後述する蓋部7dと離間され、開放される。そのため、非対象物T2を含む対象物の集合Mは、開放された下流側開口部7cから本体部7a内に導入され(矢印A6方向)、上流側開口部7bから通過孔4の上流側領域に吐出される。このとき、テーパ部6に貯留された非対象物T2dは、吐出される対象物の集合Mと合流しない。
【0071】
上流側開口部7bの開口面積としては特に限定されず、上記した通過孔4に先端部を進入させることができる大きさであればよい。たとえば、通過孔4の開口面積が7500〜200000μm
2の場合、上流側開口部7bの開口面積は3500〜100000μm
2程度を採用することができる。
【0072】
上流側開口部7bを含む先端の形状は、
図3Bに示されるように、本体部7aの断面積よりも開口面積が小さくなるよう、上流側に縮径されている。そのため、本体部7aは、吐出時に上流側へ移動した際に、上流側開口部7bを含む先端部を通過孔4に進入させやすく、かつ、下流側開口部7cから本体部7a内に導入された対象物の集合Mを、上流側開口部7bから吐出しやすい。
【0073】
蓋部7dは、
図3Aに示されるように、対象物の集合Mの吸引時には、下流側に移動した本体部7aの下流側開口部7cと当接して下流側開口部7cを閉鎖する。一方、蓋部7dは、
図3Bに示されるように、対象物の集合Mの吐出時には、本体部7aが上流側に移動するため、下流側開口部7cと離間し、下流側開口部7cを開放する。
【0074】
蓋部7dを構成する材料としては、特に限定されず、たとえば、ポリプロピレンまたはポリスチレン等の樹脂を採用することができる。ほかにも、アルミニウム等の金属を成型して蓋部7dとしてもよい。蓋部7dは、上記のとおり下流側開口部7cと当接して下流側開口部7cを閉鎖する。そのため、シール性のある樹脂素材から構成されることが好ましい。
【0075】
弁機構7には、外周に第二の膜フィルタ8が設けられている。
【0076】
<第二の膜フィルタ8について>
第二の膜フィルタ8は、非対象物T2を含む対象物の集合Mから、非対象物T2を通過させず、対象物の集合Mを構成する液体成分のみを通過させる。
【0077】
第二の膜フィルタ8は、
図3Aに示されるように、上流側開口部7bと下流側開口部7cとの間に設けられている。具体的には、第二の膜フィルタ8は、ドーナツ状の膜体であって、その外周縁が管状通路C1の内周壁に接合されているとともに、その内周縁が、弁機構7の本体部7aの外周壁とも接合されている。また、第二の膜フィルタ8は、吸引時にテーパ部6の通過孔4を通過した対象物の集合Mが通過する吸引経路内に設けられている。
【0078】
なお、本実施形態では、第二の膜フィルタ8が上流側開口部7bと下流側開口部7cとの間に設けられている場合について説明したが、第二の膜フィルタ8の位置は、この位置に特に限定されない。第二の膜フィルタ8の位置の別例は、後記において詳述する。
【0079】
第二の膜フィルタ8は、非対象物T2の径よりも小さな径の貫通孔(第二の貫通孔)が設けられた多孔質膜である。第二の貫通孔の開口面積としては特に限定されない。ユーザは、選別する非対象物T2の径に応じて、最適な開口面積の第二の貫通孔が設けられた第二の膜フィルタ8を採用することができる。一例としては、非対象物T2が直径20μmの細胞である場合には、第二の膜フィルタ8の第二の貫通孔の径を10μm程度とすることができる。第二の膜フィルタ8の厚みは特に限定されず、たとえば5〜20μm程度である。このように、第二の膜フィルタ8は厚みが小さいため嵩張らず、吸引ピペット内に設けることができる。また、第二の膜フィルタ8を設けていない吸引チップと比較しても、内容積が大幅に減少することがない。そのため、従来の吸引チップや第一の実施形態の吸引チップCに第二の膜フィルタ8を設けて使用する場合に、内容積の違い等による計量ミス等を起こすことがない。
【0080】
第二の膜フィルタ8の種類としては特に限定されず、上記した第一の膜フィルタ2と同様のものを採用することができる。また、第二の貫通孔の形状についても特に限定されず、上記した第一の膜フィルタ2の第一の貫通孔と同様のものを採用することができる。
【0081】
以下、本実施の形態の吸引チップCaを用いて吸引よび吐出する場合における弁機構7の動作について説明する。
【0082】
図3Aに示されるように、ユーザが吸引装置である吸引ピペット等(図示せず)を操作して対象物の集合Mを吸引すると、弁機構7の本体部7aは対象物の集合Mの吸引方向へ移動する。矢印A3は、本体部7aの移動方向を示している。下流側開口部7cは、本体部7aの移動により蓋部7dと当接して、閉鎖される。
【0083】
上記のとおり、下流側開口部7cが蓋部7dで閉鎖されると、本体部7aの内部通路に元から存在する空気や、吸引初期に本体部7aの内部通路に導入された対象物の集合Mは、下流側開口部7cから排出されない。そのため、あらたに吸引された対象物の集合Mは、本体部7aの内部通路に入り込むことができない。その結果、対象物の集合Mは、上流側開口部7bから本体部7a内に流れ込まず、上流側開口部7bの手前で、通過孔4の周方向外側に分流(矢印A4方向)される。非対象物T2を含んだ対象物の集合Mは、ユーザが吸引を続けることにより、第二の膜フィルタ8に至る。上記のとおり、第二の膜フィルタ8は、非対象物T2を通さず、対象物の集合Mを構成する液体成分のみを通過させる。参照符号T2eは、第二の膜フィルタ8を通過できずに第二の膜フィルタ8近傍に滞留する非対象物を示している。
【0084】
図3Bに示されるように、ユーザが吸引装置である吸引ピペット等を操作して対象物の集合Mを吐出すると、弁機構7の本体部7aは、対象物の集合Mの吐出方向へ移動する。矢印A5は、本体部7aの移動方向を示している。下流側開口部7cは、当接していた蓋部7dから離間され、開放される。上流側開口部7bを含む先端部は、コーン状部材3の通過孔4に進入する。その結果、第二の膜フィルタ8を通過した対象物の集合Mを構成する液体成分は、下流側開口部7cから本体部7a内に流れ込み(矢印A6方向)、本体部7a内を通過して上流側開口部7bから吐出され、矢印A2の方向に吐出される。
【0085】
第二の膜フィルタ8の近傍に滞留していた非対象物T2eは、ユーザが吸引を終えた時点で重力に従って貯留部5に沈降する。吐出時には、非対象物T2が第二の膜フィルタ8の近傍から通過孔4に到達する前に、通過孔4に弁機構7の本体部7aの先端部が進入されて通過孔4が閉鎖されているため、非対象物T2は通過孔4を逆流して吐出されることがない。
【0086】
以上、本実施形態の吸引チップCaは、弁機構7と第二の膜フィルタ8とを備えている。弁機構7は、吐出時に、本体部7aを移動させて、上流側開口部7bの先端部を通過孔4に進入させて通過孔4を閉鎖する。そのため、本実施形態の吸引チップCaは、貯留部5に貯留されなかった非対象物T2が対象物の集合M中を浮遊している場合であっても、浮遊している非対象物T2が通過孔4を逆流して選別対象物T1と合流することを防ぐことができる。
【0087】
また、本実施形態の吸引チップCaは、吐出時に上流側開口部7bを含む先端部とコーン状部材3の通過孔4とを連通するため、第二の膜フィルタ8を通過した対象物の集合Mの液体成分のみを通過孔4を通過させて、第一の膜フィルタ2に選別された選別対象物T1とともに吐出する。その結果、吸引と吐出の一連の動作を行うだけで、より確実に対象物の集合Mから選別対象物T1のみを選別して吐出することができる。
【0088】
なお、本実施の形態では、捕捉機構(捕捉手段)としてコーン状部材3を用い、コーン状部材のテーパ部6の外周壁と管状通路C1の内周壁との間に貯留部5が形成された場合を例に説明したが、非対象物T2を貯留する形態は、特に限定されない。
【0089】
たとえば、
図3Cおよび
図3Dに示されるように、捕捉機構として、第一の膜フィルタ2の下流側に設けられた受け皿状部材Sを採用することができる。受け皿状部材Sは、円形状であり、開口孔Saと、開口孔Saの周囲に設けられた壁部Saを有する。
図3Cに示されるように、吸引時において、非対象物T2bは、開口孔Saを通過する。通過した非対象物は、第二の膜フィルタ8に進行を遮られる。その後、吐出時において、非対称物(非対象物T2e1)は、受け皿状部材Sの受け皿に沈降する。壁部Sa1は、受け皿状部材Sに沈降した非対象物T2e1が、安定して貯留されるために設けられている。上記のとおり、吐出時には、弁機構7が下流側へ移動する。その結果、上流側開口部7bを含む先端部は、先端部の外周の一部を壁部Sa1と当接させるとともに、開口孔Saに進入して、開口孔Saを封鎖する。その結果、非対象物T2bは、開口孔Saを逆流することがない。
【0090】
なお、
図3Cおよび
図3Dでは、開口孔Saの周囲に壁部Sa1を設けた場合を示しているが、壁部Sa1は必須ではない。
【0091】
また、本実施形態では、第二の膜フィルタ8や弁機構7を一体的に備えた吸引チップCaを例に説明したが、第二の膜フィルタ8や弁機構7は別部材として準備することができる。すなわち、第二の膜フィルタ8を備えたフィルタユニットや、弁機構7を備えた弁機構7ユニットを準備するとともに、これらのユニットと接続可能な吸引チップのユニットを準備すればよい。準備したユニットは、接着するか嵌め込み可能に構成することにより、容易に本実施形態の吸引チップCaを組み立てることができる。また、必要に応じて、弁機構7の一部のみをユニットとして設けたり、弁機構7の一部を第二の膜フィルタ8と一体的に設けてもよい。すわなち、弁機構7の蓋部7dのみを吸引チップCaと一体的に設けるとともに、本体部7aの外周壁が第二膜フィルタと接合されたユニットを準備してもよい。ほかにも、第二の膜フィルタ8の中央部に弁機構7の本体部7aが上下に移動可能な孔を設け、吸引時および吐出時に弁機構7が上下に移動するように構成してもよい。
【0092】
(第3の実施形態)
以下に、本発明の第3の実施形態の吸引チップについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
図4は、本発明の第3の実施形態の吸引チップの弁機構71の動作を説明する説明図である。
【0093】
第3の実施形態の吸引チップは、弁機構71の構造および動作が異なる以外は、第2の実施形態の吸引チップと同様である。そのため、相違点以外の説明は省略する。
【0094】
<弁機構71について>
弁機構71は、
図4に示されるように、スイング式の逆支弁構造を有する。弁機構71は、本体部71a、上流側開口部71b、下流側開口部71c、蓋部71dとからなる。蓋部71d以外は第2の実施形態で説明した弁機構7と同様の構成であるため、説明は省略する。
【0095】
蓋部71dは、下流側開口部71cの近傍において、一端が本体部71aの内周壁と回動自在に取り付けられている。
【0096】
蓋部71dの一端を本体部71aの内周壁に回動自在に取り付ける方法として特に限定されない。たとえば、蝶番を用いて蓋部71dと本体部71aの内周壁とを回動自在に取り付けることができる。
【0097】
対象物の集合Mの吸引時および吐出時における蓋部71dの動作は以下のとおりである。
【0098】
すなわち、通常、ユーザが吸引動作を行う際には、ユーザは、吸引チップCを吸引装置である吸引ピペットP(
図1参照)の先端部に装着した状態で、吸引ピペットPのプッシュボタン(図示せず)を押し込むなどにより、吸引チップCの管状通路C1内の空気を排出する。この状態で吸引チップCの吸引口1から対象物の集合Mの吸引を開始すると、吸引の初期において、弁機構71の本体部71aの内部通路では、空気が対象物の集合Mの吸引方向に流れる。この空気の流れにより、蓋部71dは当接片71eと当接する方向(矢印A7方向)に回動し、当接部71eと当接して下流側開口部71cを閉鎖する。
【0099】
当接部71eは、本体部71aの内部通路の内周壁に突設された部材であり、下流側開口部71cの近傍に設けられている。当接部71eは、回動する蓋部71dと当接することにより蓋部71dの回動を止める。回動する蓋部71dと当接する当接部71eの突設長さとしては特に限定されず、回動する蓋部71dの端部が当接する長さであればよい。
【0100】
蓋部71dにより下流側開口部71cが閉鎖されると、本体部71aの内部通路に存在する空気や対象物の集合Mは、吸引方向へ移動できず、本体部71aの内部通路内に滞留する。その結果、あらたに吸引された空気や対象物の集合Mは、本体部71aの内部通路に流れ込むことがなく、弁機構71の上流側開口部71bの手前で、通過孔4の周方向外側に分流される(矢印A4方向
図3A参照)。
【0101】
一方、吐出時には、第2の実施形態で上記したとおり、本体部71aが移動して、上流側開口部71bを含む先端部がコーン状部材3の通過孔4(
図3B参照)に進入する。対象物の集合M(
図3B参照)を構成する液体成分は、矢印A2方向に流れ、蓋部71dを押し開けて下流側開口部71cを開放する方向(矢印A8方向)に回動させる。対象物の集合Mを構成する液体成分は、開放された下流側開口部71cから本体部71aの内部通路に流れ込み、上流側開口部71bから吐出される。
【0102】
なお、本実施形態では、対象物の集合Mの流れにより回動する蓋部71dを例示したが、蓋部71dはこれに限定されない。たとえば、蓋部71dに圧縮ばね等の弾性部材を付設して、吸引時や吸引前の状態において常時、下流側開口部71cを閉鎖する構成としてもよい。この場合、圧縮ばね等の弾性部材が蓋部71dに加える応力(矢印A7方向への応力)は、吐出時に対象物の集合Mの流れが、下流側開口部71cが開放されるよう蓋部71dへ加える応力(矢印A8方向への応力)よりも小さく設定される。
【0103】
なお、下流側開口部71cをより確実に閉鎖するために、蓋部71dと当接部71eとの接触箇所にシール材を設けることが好ましい。シール材としては特に限定されず、天然ゴム、合成ゴム、テフロン(登録商標)等のシール材を採用することができる。
【0104】
(第4の実施形態)
以下に、本発明の第4の実施形態の吸引チップについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
図5は、本発明の第4の実施形態の吸引チップの弁機構72の動作を説明する説明図である。
【0105】
第4の実施形態の吸引チップは、弁機構72の構造および動作が異なる以外は、第2の実施形態の吸引チップと同様である。そのため、相違点以外の説明は省略する。
【0106】
<弁機構72について>
弁機構72は、
図5に示されるように、リフト式の逆支弁構造を有する。弁機構72は、本体部72a、上流側開口部72b、下流側開口部72c、蓋部72dとからなる。蓋部72d以外は第2の実施形態で説明した弁機構7と同様の構成であるため、説明は省略する。
【0107】
蓋部72dは、下流側開口部72cの近傍において、上下移動可能に設けられている。蓋部72dは、略円盤形状の蓋部本体72d1と、蓋部本体72d1に接続された軸72d2とからなる。
【0108】
蓋部本体72d1は、下流側開口部72cを覆う断面形状を有する。また、蓋部本体72d1の断面の径は、本体部72aの内部通路の内径よりも小さい。そのため、蓋部72dが本体部72aの内部通路内を上下移動することができるとともに、下流側開口部72cを閉鎖することができる。
【0109】
軸72d2は、蓋部72dが本体部72aの内部通路を上下移動(矢印A9および矢印A10方向)する際のガイドとして機能する部材である。
【0110】
後述する吐出時には、対象物の集合Mに含まれる液体成分は、下流側開口部72cから本体部72aの内部通路内に流入する。そのため、軸72d2の径は、下流側開口部72cを対象物の集合Mの液体成分が充分に通過し得る程度に隙間Sを形成できるよう、下流側開口部72cの開口面積よりも小さい。
【0111】
軸72d2は、蓋部本体72d1と一体的に形成してもよく、別体として準備した後に接合等により一体的に形成してもよい。
【0112】
第3の実施形態で詳述したとおり、ユーザが吸引動作を行う際には、ユーザは、吸引チップを吸引装置である吸引ピペット(図示せず)の先端部に装着した状態で、吸引ピペットのプッシュボタンを押し込むなどにより、吸引チップの内部通路内の空気を排出する。
【0113】
この状態で吸引チップの吸引口から対象物の集合Mの吸引を開始すると、吸引の初期において、弁機構72の本体部72aの内部通路では、空気が対象物の集合Mの吸引方向に流れる。この空気の流れにより、蓋部72dは上方向(矢印A9方向)に移動し、当接部72fと当接して下流側開口部72cを閉鎖する。
【0114】
当接部72fは、本体部72aの内部通路に突設された部材であり、下流側開口部72cの近傍に設けられている。当接部72fは、上方向に移動する蓋部72dと当接することにより蓋部72dの移動を止める。当接部72fの突設長さとしては特に限定されず、蓋部本体72d1の端部が当接する長さであればよい。
【0115】
一方、吐出時には、第2の実施形態で上記したとおり、本体部72aが移動して、上流側開口部72bを含む先端部がコーン状部材3の通過孔4(
図3B参照)に進入する。対象物の集合M(
図3B参照)を構成する液体は、吐出方向(矢印A2方向)に流れ、蓋部72dを下方向(矢印A10方向)に移動させる。対象物の集合Mを構成する液体成分は、蓋部72dが移動することにより開放された下流側開口部72cの隙間Sから本体部72aの内部通路に流れ込み、上流側開口部72bから吐出される。なお、下方向(矢印A10方向)に移動した蓋部72dは、当接部72eと当接して停止する。
【0116】
当接部72eは、下方向に移動する蓋部72dと当接することにより蓋部72dの移動を止める。当接部72eは、本体部72aの内部通路の一部に突設された部材である。
【0117】
なお、下流側開口部72cをより確実に閉鎖するために、蓋部本体72d1の端部と当接部72fとの接触箇所にシール材を設けることが好ましい。シール材としては特に限定されず、天然ゴム、合成ゴム、テフロン(登録商標)等のシール材を採用することができる。
【0118】
本実施形態では、下流側開口部72cを覆う断面形状を有する蓋部本体72d1を備えた弁機構72を例示したが、蓋部本体72d1の断面形状は特に限定されない。たとえば、第1の実施形態で詳述したコーン状部材3と近似する形状の蓋部72dを採用し、該コーン状部材3のテーパ部6が隙間なく係合する被係合面を当接片72fに設けてもよい。
【0119】
また、第2の実施形態で述べたように、第二の膜フィルタ8の位置は、上流側開口部と下流側開口部との間に限定されない。たとえば、
図6に示されるように、第二の膜フィルタ(第二の膜フィルタ8a)は、本体部71aの一部に延設部71a1が設けられている場合において、延設部71a1の一部と上流側開口部71bとの間に設けられていてもよい。この場合、第二の膜フィルタ8aの外周縁は、管状通路C1の内周壁と接合され、第二の膜フィルタ8aの内周縁は、延設部71a1の外周壁と接合される。すなわち、第二の膜フィルタ8aの位置は、吸引時に第二の膜フィルタ8aを通過した対象物の集合の液体成分が、吐出時において非対象物と混合されることなく弁機構7の本体部71a内を通過させ得る位置であればよい。
【0120】
(第5の実施形態)
第5の実施形態の吸引チップは、弁機構73の構造および動作が異なる以外は、第4の実施形態の吸引チップと同様である。そのため、相違点以外の説明は省略する。
【0121】
本実施形態の吸引チップの弁機構73は、
図7(a)に示されるように、本体部73a、上流側開口部73b、下流側開口部73c、蓋部73dとからなる。蓋部73dは、蓋部本体73d1と、蓋部本体73d1に接続された軸73d2とからなる。当接部73eの機能は、第4の実施形態において上記した当接部72eと同じである。
【0122】
本実施形態の弁機構73の本体部73aは、第一の膜フィルタ2の下流側において、管状通路C1の内壁と接合されている。また、本体部73aの側周壁には、通過孔73a1が形成されている。貯留部5bは、本体部73aの外周壁と、管状通路C1の内周壁との間に形成される空間である。
【0123】
吸引時において、
図7(a)に示されるように、蓋部73dは、下流側に移動して、下流側開口部73cを閉鎖するとともに、通過孔73a1を開放する。矢印A11は、吸引時における蓋部73dの移動方向を示している。第一の膜フィルタ2を通過した非対象物T2は、通過孔73a1を通過する。参照符号T2fは、通過孔73a1を通過した非対象物を示している。第二の膜フィルタ8bは、非対象物T2fを通過させない。
【0124】
蓋部73dの蓋部本体73d1の径は、吐出時において、下流側開口部73cから流入する液体成分が本体部73aの内部を通過して上流側開口部73bから吐出されるよう、本体部73aの内部通路の内径よりも小さく形成されている。
【0125】
そのため、吐出時において、
図7(b)に示されるように、蓋部73dは、上流側に移動して、下流側開口部73cを開放するとともに、蓋部本体73d1の側面で通過孔73a1を閉鎖する。矢印A12は、吐出時における蓋部73dの移動方向を示している。開放された下流側開口部73cから、第二の膜フィルタ8bを通過した液体成分が導入され、該液体成分は上流側開口部73aから吐出される。また、非対象物T2fは、貯留部5bに沈降する。上記のとおり、吐出時には、通過孔73a1は閉鎖されているため、非対象物T2gは、当該通過孔73a1を逆流することがない。
【0126】
なお、本実施形態では、通過孔73a1が横方向に設けられている場合を例に説明したが、通過孔73a1の形成される方向は特に限定されない。たとえば、通過孔73a1を、本体部73aの内周から外周にかけて斜めに下るよう傾斜する方向に設けてもよい。この場合、通過孔73a1を通過して第二の膜フィルタ8bに到達した非対象物T2fが、貯留部5bに沈降する際に、通過孔73a1を逆流しにくい。
【0127】
また、本実施形態では、
図7(b)に示されるように、吐出時において、第二の膜フィルタ8bを通過した液体成分が、下流側開口部73cを通過する場合に例に説明したが、液体成分の吐出経路は、特に限定されない。たとえば、液体成分の吐出経路として、
図7(c)に示されるように、蓋部本体(蓋部本体73d2)を上下方向に貫通する貫通孔73d3を当該蓋部本体73d2に設け、液体成分が、当該貫通孔73d3を通過するよう構成してもよい。当該貫通孔73d3の下流側開口部は、
図7(c)に示されるように、吸引時には本体部73aの内周部と当接するため、非対象物は、通過孔73a1を通過する。
【0128】
さらに、
図7(d)に示されるように、本体部73aの一部(たとえば上面部)に該本体部73aを貫通する貫通孔73a2を設け、液体成分が、当該貫通孔73a2を通過するよう構成してもよい。当該貫通孔73a2の上流側開口部は、吸引時において蓋部本体73d3と当接するため、非対象物は、通過孔73a1を通過する。
【0129】
なお、上述した具体的実施形態には以下の構成を有する発明が主に含まれている。
【0130】
本発明の一局面による吸引チップは、選別対象物と非対象物とを含む対象物の集合を吸引または吐出する先端開口部と、該先端開口部から吸引された対象物の集合に含まれる選別対象物と非対象物とを選別し、非対象物を通過させる第一の選別手段が設けられた管状通路と、該管状通路の、該第一の選別手段よりも前記対象物の集合の吸引方向の下流側に設けられ、前記非対象物を捕捉する捕捉手段と、を有し、前記捕捉手段は、前記非対象物を通過させる通過孔と、該通過孔を通過した前記非対象物を貯留する貯留部と、を有することを特徴とする。
【0131】
本発明は、このような構成を採用することにより、吸引時に所望の径より小さな径の夾雑物のみを捕捉手段の通過孔を通過させ、貯留部に貯留させることができる。その結果、吸引と吐出とからなる一連の簡単な動作のみを行うことにより、大きな径の選別対象物のみを吐出することができる。この操作には、フィルタ等の捕捉手段を取り外す等の作業が不要であるため、動作の前後においてコンタミネーションを起こすことがない。
【0132】
前記第一の選別手段は、表面に複数の貫通孔を有する膜フィルタであることが好ましい。
【0133】
本発明は、このような構成を採用することにより、吸引チップに装着しても嵩張らない。また、種々の孔径を有する膜フィルタを準備し、選別対象物の形状に応じて膜フィルタを選定すれば、種々の形状を有する選別対象物を選別することができる。
【0134】
前記捕捉手段は、前記対象物の集合の吸引方向の下流側に向けて、吸引された対象物の流路を狭めるテーパ部を有し、狭められた該テーパ部の端部に、前記通過孔が形成されることが好ましい。
【0135】
本発明は、このような構成を採用することにより、第一の選別手段を通過した非対象物を通過孔に導入しやすい。その結果、非対象物は、通過孔を通過した後に貯留部に貯留されやすくなり、吸引チップの選別能力を向上させることができる。
【0136】
前記管状通路は、断面が略円形の内周壁を備えた通路であり、前記捕捉手段は、前記対象物の集合の吸引方向の上流側の端部が、前記内周壁に接合され、前記対象物の集合の吸引方向の下流側に、前記通過孔が形成されたコーン状部材からなり、前記貯留部は、前記捕捉手段のコーン状部材の外周壁と、前記管状通路の内周壁との間に形成される空間であることが好ましい。
【0137】
本発明は、このような構成を採用することにより、対象物の集合の吸引時には非対象物を通過孔に導入しやすく、対象物の集合の吐出時には非対象物をコーン状部材の外周壁に沿って貯留部に導入しやすいため、非対象物を効率的に除去することができる。
【0138】
前記管状通路の、前記通過孔よりも前記対象物の集合の吸引方向の下流側に設けられる弁機構と、第二の選別手段とをさらに備え、前記弁機構は、内部に通路を有する本体部と、該本体部に設けられ、前記対象物の集合の吸引方向の上流側に設けられた上流側開口部と、前記本体部に設けられ、前記対象物の集合の吸引方向の下流側に設けられた下流側開口部と、前記対象物の集合の吸引時に前記下流側開口部を閉鎖し、前記対象物の集合の吐出時に前記下流側開口部を開放する蓋部と、を有し、前記第二の選別手段は、前記上流側開口部の下流側であって、前記下流側開口部の上流側に設けられ、前記通過孔を通過した対象物の集合から前記非対象物を選別しながら前記対象物の集合を通過させることが好ましい。
【0139】
本発明は、このような構成を採用することにより、通過孔を通過したにもかかわらず貯留部に貯留されなかった非対象物が対象物の集合中を浮遊している場合に、浮遊している非対象物が逆流して選別対象物と合流することを防ぐことができる。
【0140】
前記蓋部は、前記対象物の集合の吸引時に、前記対象物の集合の吸引方向の下流側へ移動する前記本体部の前記下流側開口部と当接して前記下流側開口部を閉鎖し、前記本体部は、前記対象物の集合の吐出時に、前記対象物の集合の吸引方向の上流側へ移動して、閉鎖された前記下流側開口部を開放するとともに、前記上流側開口部を含む先端部を前記捕捉手段の前記通過孔に進入させて、前記第二の選別手段を通過した前記対象物の集合を前記上流側開口部から吐出することが好ましい。
【0141】
本発明は、このような構成を採用することにより、吐出時に上流側開口部を含む先端部と捕捉手段の通過孔とが連通することにより、第二の選別手段を通過しなかった非対象物が通過孔を通過するための経路が遮断されるため、吸引チップの選別能力を向上させることができる。
【0142】
前記選別対象物が、生体由来の細胞であることが好ましい。
【0143】
本発明は、このような構成を採用することにより、コンタミネーションが特に問題視されるバイオ関連技術や医薬の分野において、作業の効率化に寄与し得る。
【0144】
前記選別対象物が生体由来の細胞凝集塊であることが好ましい。
【0145】
本発明は、このような構成を採用することにより、1個の細胞を用いて得た試験結果よりも、個々の細胞の機能を考慮した結果が得られ、かつ、実験条件を、より生体内における環境に即した条件に揃えることができる。また、種々の形状を有する細胞凝集塊の中から、所定の形状の細胞凝集塊のみを選別できるため、バイオ関連技術や医薬の分野において信頼性の高い結果を得ることができる吸引チップとすることができる。