【文献】
T.Yurugi-Kobayashi, et al,Arterioscler thromb Vasc Biol.,2006年,Vol.26,p.1977-1984
【文献】
松永 太一 他,再生医療 日本再生医療学会雑誌,2011年,Vol.10 Suppl,p.181,O-29-4
【文献】
A.J.Rufaihah, et al,Am J Transl Res,2013年 1月,Vol.5(1),p.21-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(i)の前に多能性幹細胞へ細胞外基質を添加することで細胞をコーティングする工程、および工程(ii)の前に工程(i)で得られた細胞へ細胞外基質を添加することで細胞をコーティングする工程を含む、請求項6に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<多能性幹細胞>
本発明で使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、以下のものに限定されないが、例えば胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、誘導多能性幹(iPS)細胞などが含まれる。好ましい多能性幹細胞は、ES細胞、ntES細胞、およびiPS細胞である。
【0012】
(A) 胚性幹細胞
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。
【0013】
ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に発見され (M.J. Evans and M.H. Kaufman (1981), Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された (J.A. Thomson et al. (1998), Science 282:1145-1147、J.A. Thomson et al. (1995), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:7844-7848、J.A. Thomson et al. (1996), Biol. Reprod., 55:254-259および J.A. Thomson and V.S. Marshall (1998), Curr. Top. Dev. Biol., 38:133-165)。
【0014】
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培地を用いて行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばH. Suemori et al. (2006), Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932、M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559、H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279およびH. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585などに記載されている。
【0015】
ES細胞作製のための培地として、例えば0.1mM 2-メルカプトエタノール、0.1mM 非必須アミノ酸、2mM L-グルタミン酸、20% KSR及び4ng/ml bFGFを補充したDMEM/F-12培地を使用し、37℃、5% CO
2湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができる。また、ES細胞は、3〜4日おきに継代する必要があり、このとき、継代は、例えば1mM CaCl
2及び20% KSRを含有するPBS中の0.25% トリプシン及び0.1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて行うことができる。
【0016】
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にして行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOG、などの遺伝子マーカーの発現をReal-Time PCR法で検出したり、細胞表面抗原であるSSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81を免疫染色法にて検出することで行うことができる (Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485)。
【0017】
ヒトES細胞株である例えばKhES-1、KhES-2及びKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
【0018】
(B) 精子幹細胞
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培地で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁,羊土社(東京、日本))。
【0019】
(C) 胚性生殖細胞
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。
【0020】
(D) 誘導多能性幹細胞
誘導多能性幹 (iPS) 細胞は、ある特定の核初期化物質を、DNAまたはタンパク質の形態で体細胞に導入することまたは薬剤によって当該核初期化物質の内在性のmRNAおよびタンパク質の発現を上昇させることによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126: 663-676、K. Takahashi et al. (2007) Cell, 131: 861-872、J. Yu et al. (2007) Science, 318: 1917-1920、M. Nakagawa et al. (2008) Nat. Biotechnol., 26: 101-106、国際公開WO 2007/069666および国際公開WO 2010/068955)。核初期化物質は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子またはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子もしくはその遺伝子産物であればよく、特に限定されないが、例えば、Oct3/4, Klf4, Klf1, Klf2, Klf5, Sox2, Sox1, Sox3, Sox15, Sox17, Sox18, c-Myc, L-Myc, N-Myc, TERT, SV40 Large T antigen, HPV16 E6, HPV16 E7, Bmil, Lin28, Lin28b, Nanog, EsrrbまたはEsrrgが例示される。これらの初期化物質は、iPS細胞樹立の際には、組み合わされて使用されてもよい。例えば、上記初期化物質を、少なくとも1つ、2つもしくは3つ含む組み合わせであり、好ましくは4つを含む組み合わせである。
【0021】
上記の各核初期化物質のマウスおよびヒトcDNAのヌクレオチド配列並びに当該cDNAにコードされるタンパク質のアミノ酸配列情報は、WO 2007/069666に記載のNCBI accession numbersを参照すること、またL-Myc、Lin28、Lin28b、Esrrb、EsrrgおよびGlis1のマウスおよびヒトのcDNA配列およびアミノ酸配列情報については、それぞれ下記NCBI accession numbersを参照することにより取得できる。当業者は、当該cDNA配列またはアミノ酸配列情報に基づいて、常法により所望の核初期化物質を調製することができる。
遺伝子名 マウス ヒト
L-Myc NM_008506 NM_001033081
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
Glis1 NM_147221 NM_147193
【0022】
これらの核初期化物質は、タンパク質の形態で、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチドとの結合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよいし、あるいは、DNAの形態で、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 85, 348-62, 2009)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができる。使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが挙げられる。さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、核初期化物質をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する核初期化物質をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる(Kaji, K. et al., (2009), Nature, 458: 771-775、Woltjen et al., (2009), Nature, 458: 766-770、WO 2010/012077)。さらに、ベクターには、染色体への組み込みがなくとも複製されて、エピソーマルに存在するように、リンパ指向性ヘルペスウイルス(lymphotrophic herpes virus)、BKウイルスおよび牛乳頭腫(Bovine papillomavirus)の起点とその複製に係る配列を含んでいてもよい。例えば、EBNA-1およびoriPもしくはLarge TおよびSV40ori配列を含むことが挙げられる(WO 2009/115295、WO 2009/157201およびWO 2009/149233)。また、複数の核初期化物質を同時に導入するために、ポリシストロニックに発現させる発現ベクターを用いてもよい。ポリシストロニックに発現させるためには、遺伝子をコードする配列の間は、IRESまたは口蹄病ウイルス(FMDV)2Aコード領域により結合されていてもよい(Science, 322:949-953, 2008およびWO 2009/092042 2009/152529)。
【0023】
核初期化に際して、iPS細胞の誘導効率を高めるために、上記の因子の他に、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標) (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5'-azacytidine)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wnt Signaling activator(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、LIFまたはbFGFなどの増殖因子、ALK5阻害剤(例えば、SB431542)(Nat. Methods, 6: 805-8 (2009))、mitogen-activated protein kinase signalling阻害剤、glycogen synthase kinase-3阻害剤(PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、miR-291-3p、miR-294、miR-295などのmiRNA (R.L. Judson et al., Nat. Biotech., 27:459-461 (2009))、等を使用することができる。
【0024】
薬剤によって核初期化物質の内在性のタンパク質の発現を上昇させる方法における薬剤としては、6-bromoindirubin-3'-oxime、indirubin-5-nitro-3'-oxime、valproic acid、2-(3-(6-methylpyridin-2-yl)-lH-pyrazol-4-yl)-1,5-naphthyridine、1-(4-methylphenyl)-2-(4,5,6,7-tetrahydro-2-imino-3(2H)-benzothiazolyl)ethanone HBr(pifithrin-alpha)、prostaglandin J2および prostaglandin E2等が例示される(WO 2010/068955)。
【0025】
iPS細胞誘導のための培養培地としては、例えば(1) 10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDME培地(これらの培地にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)、(2) bFGFまたはSCFを含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX-WES培地、トロンボX社)または霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(
ヒト&サル)ES細胞用培地(リプロセル、京都、日本)、mTeSR-1)、などが含まれる。
【0026】
培養法の例としては、たとえば、37℃、5%CO
2存在下にて、10%FBS含有DMEMまたはDMEM/F12培地中で体細胞と核初期化物質 (DNAまたはタンパク質) を接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞 (たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等) 上にまきなおし、体細胞と核初期化物質の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培地で培養し、該接触から約30〜約45日またはそれ以上ののちにES細胞様コロニーを生じさせることができる。また、iPS細胞の誘導効率を高めるために、5-10%と低い酸素濃度の条件下で培養してもよい。
【0027】
あるいは、その代替培養法として、フィーダー細胞 (たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等) 上で10%FBS含有DMEM培地(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日またはそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。
【0028】
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培地と培地交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm
2あたり約5×10
3〜約5×10
6細胞の範囲である。
【0029】
マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子を用いた場合は、対応する薬剤を含む培地(選択培地)で培養を行うことによりマーカー遺伝子発現細胞を選択することができる。またマーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、マーカー遺伝子発現細胞を検出することができる。
【0030】
本明細書中で使用する「体細胞」は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ブタ、ラット等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞 (組織前駆細胞) 等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞 (体性幹細胞も含む) であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、たとえば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0031】
本発明において、体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。
【0032】
(E) 核移植により得られたクローン胚由来のES細胞
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nat. Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47〜52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで再プログラム化することができる。
【0033】
(F)融合幹細胞
体細胞と卵子もしくはES細胞とを融合させることにより、融合させたES細胞と同様な多能性を有し、さらに体細胞に特有の遺伝子も有する幹細胞である(Tada M et al. Curr Biol. 11:1553-8, 2001; Cowan CA et al. Science. 2005 Aug 26;309(5739):1369-73)。
【0034】
内皮細胞への分化誘導法
本発明の多能性幹細胞から内皮細胞を製造する方法は、
a)多能性幹細胞に対して分化刺激を与えて多能性幹細胞から内皮細胞前駆細胞を20%以上含む細胞集団を形成させる工程、
b)当該細胞集団をcAMPおよびVEGFを含む培地で培養して内皮細胞前駆細胞の割合が全細胞の40%以上となるようにする工程、および
c)b)で得られた細胞集団をVEGFを含む培地で培養して内皮細胞前駆細胞から内皮細胞を誘導する工程、を含む。
【0035】
本発明において「内皮細胞」は、PE-CAM(CD31)、VE-cadherin(VECad)およびフォン-ウィルブラント因子(vWF)の少なくとも一つを発現している細胞を意味する。この中では、VE-cadherin(VECad)を発現する細胞が好ましく、PE-CAM(CD31)およびVE-cadherin(VECad)の両方を発現する細胞がより好ましい。
内皮細胞には血管内皮細胞や角膜内皮細胞が含まれる。
【0036】
ここで、PE-CAMは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_000442が例示され、マウスの場合、NM_001032378が例示される。VE-cadherinは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_001795が例示され、マウスの場合、NM_009868が例示される。vWFは、ヒトの場合NCBIのaccession番号NM_000552が例示され、マウスの場合、NM_011708が例示される。これらの分子の発現はこれらの分子を特異的に認識する抗体を用いる方法などで確認することができる。
【0037】
本発明の方法において得られる内皮細胞は、他の細胞種が含まれる細胞集団でもよく、あるいは純化された集団であってもよい。他の細胞種が含まれる細胞集団である場合、当該細胞集団は好ましくは全細胞数の50%以上、より好ましくは80%以上の内皮細胞を含む。
【0038】
各工程での培養方法は、通常の細胞培養方法に準じて行うことができる。
浮遊培養により誘導してもよく、あるいはコーティング処理された培養皿を用いて接着培養により誘導してもよい。
【0039】
ここで、浮遊培養とは、細胞を培養皿へ非接着の状態で培養することで胚様体を形成させることであり、特に限定はされないが、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックスなどによるコーティング処理)されていない培養皿、若しくは、人工的に接着を抑制する処理(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)によるコーティング処理)をした培養皿を使用して行うことができる。
【0040】
また、接着培養においては、細胞外基質でコーティング処理された培養皿を使用できる。本発明において、細胞外基質とは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然由来であっても、人工物(組換え体)であってもよい。例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリンおよびラミニンといった物質またはこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、マトリゲル(商標:ベクトンディッキンソン)などの細胞からの調製物であってもよい。
【0041】
本発明において、内皮細胞を誘導する際に使用される培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、Mouse Embryonic fibroblast conditioned medium (MEF-CM)、およびこれらの混合培地などが包含される。本発明において、好ましくは、RPMI 1640培地が使用される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール(2ME)、チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。
【0042】
培地はさらに、ROCK阻害剤を含んでいてもよい。特に、本工程がヒト多能性幹細胞を単一細胞へ分散させる工程を含む場合には、培地にROCK阻害剤が含まれていることが好ましい。ROCK阻害剤は、Rhoキナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものである限り特に限定されないが、例えば、Y-27632が本発明において使用され得る。
【0043】
培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われる。CO
2濃度は、約2〜5%、好ましくは5%である。
【0044】
まず、工程a)について説明する。
工程a)では多能性幹細胞に対して分化刺激を与えて多能性幹細胞から内皮細胞前駆細胞を20%以上含む細胞集団を形成させる。ここで、内皮細胞前駆細胞の割合は全細胞数の20%以上であれば特に上限はないが、通常は約20〜40%である。
【0045】
「内皮細胞前駆細胞」は、中胚葉を構成しうる細胞群であり、発生の過程で体腔およびそれを裏打ちする中皮、筋肉、骨格、皮膚真皮、結合組織、心臓・血管(血管内皮も含む)、血液(血液細胞も含む)、リンパ管や脾臓、腎臓および尿管、性腺(精巣、子宮、性腺上皮)をつくる能力を有する細胞群が挙げられる。例えば、T(Brachyuryと同義)、VEGF receptor-2(KDR)(Hypertension. 2002 Jun;39(6):1095-100.)、FOXF1、FLK1、BMP4、MOX1およびSDF1のようなマーカーの発現により内皮細胞前駆細胞の存在が確認できる。好ましくは、内皮細胞前駆細胞はKDRを発現する細胞である。
KDR等のマーカーの発現は、例えば、マーカーを特異的に認識する抗体を用いて確認することができる。しかしながら、本発明の方法においては、工程b)の開始前に一定以上の内皮細胞前駆細胞が存在していればよく、マーカーの発現量を確認するステップは不要である。
【0046】
多能性幹細胞に分化刺激を与える方法としては特に限定はされないが、内皮細胞への分化誘導因子を添加する方法があげられ、そのような因子としては、例えば、Activin A、BMP、bFGF、Wnt(特にWnt3a)などのタンパク質やWnt活性化剤(CHIRとかBioなど)などが例示される。
一方、Embrioid body (胚様体)を形成させることにより、外因性の因子を加えなくても内皮細胞前駆細胞に分化しうるため、必ずしも外因性の分化誘導因子を添加する必要はなく、多能性幹細胞を上記のような浮遊培養に供することで分化刺激を与える態様も工程a)には含まれる。
【0047】
多能性幹細胞から内皮前駆細胞への分化誘導方法としてより具体的には、例えば、以下の工程(i)および(ii)を含む方法が例示される。
(i) 多能性幹細胞をActivin Aを含む培地中で培養する工程、
(ii)工程(i )で得られた細胞をBMPおよびbFGFを含む培地中で培養する工程、
【0048】
前記工程(i )の培地におけるActivin Aの濃度は、例えば、50ng/ml〜200ng/ml である。
前記工程(ii)の培地におけるBMPの濃度は、例えば、1ng/ml〜100ng/mlである。
前記工程(ii)の培地におけるbFGFの濃度は、例えば、1ng/ml〜100ng/mlである。
【0049】
前記工程(i)の培養時間は、例えば5日以下の培養であり、好ましくは、12時間〜3日である。
前記工程(ii ) の培養時間は、例えば10日以下の培養であり、好ましくは、2〜5日である。
【0050】
工程(i)の前に多能性幹細胞へ細胞外基質を添加することで細胞をコーティングする工程を含むことが好ましく、さらには、工程(ii)の前に工程(i)で得られた細胞へ細胞外基質を添加することで細胞をコーティングする工程を含むことがより好ましい。
前記工程における細胞外基質の濃度は、例えば、1/100希釈〜1/10希釈の範囲内である。
【0051】
次に工程b)について説明する。
工程b)では、工程a)で得られた細胞集団をcAMPおよびVEGFを含む培地で培養して内皮細胞前駆細胞の割合が全細胞の40%以上となるようにする。
内皮細胞前駆細胞の割合は全細胞の40〜100%であればよいが、通常は40〜80%、より好ましくは50〜95%である。例えば、KDR陽性細胞の割合が上記の範囲になればよい。
工程b)において、工程a)で得られた細胞集団をcAMPおよびVEGFを含む培地で培養することにより、内皮細胞前駆細胞の割合が工程a)終了時点と比べて好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上となる。
【0052】
工程b)における培養期間は内皮細胞前駆細胞の割合が全細胞の40%以上となる期間であればよいが、例えば、1〜10日間、好ましくは1〜5日間である。
【0053】
工程(b)の培地におけるcAMPの濃度は、好ましくは0.5mM〜2mMである。なお、cAMPは8-bromo cAMPのような誘導体でもよい。
工程(b)の培地におけるVEGFの濃度は、好ましくは50ng/ml〜200ng/mlである。
cAMPおよびVEGF以外の培地成分は上述したような一般的な培地成分を用いることができる。
【0054】
工程b)においては、培地はさらにp90 ribosomal S6 kinase (RSK)阻害剤をさらに含んでもよい。p90 ribosomal S6 kinase (RSK)阻害剤としては、例えば、SL 0101-1などが例示される。工程(b)の培地におけるp90 ribosomal S6 kinase (RSK)阻害剤の濃度は、好ましくは1μM〜100μMである。
【0055】
工程b)の終了後、直接後述の工程c)を行ってもよいが、好ましくは、工程b)の後または途中で、内皮細胞前駆細胞を純化する工程を行った後に工程c)を行う。これにより、より純粋な内皮細胞を製造することができる。
内皮細胞前駆細胞を純化する工程は、内皮細胞前駆細胞を含む細胞集団から内皮細胞前駆細胞を単離することで行ってもよいし、内皮細胞前駆細胞を含む細胞集団から内皮細胞前駆細胞以外の細胞を除去することで行ってもよい。
これらの工程は、例えば、上述した内皮細胞前駆細胞のマーカーに対する抗体を用いることで行うことができる。
【0056】
工程c)では、工程b)で得られた細胞集団、または純化された内皮細胞前駆細胞をVEGFを含む培地で培養して内皮細胞前駆細胞から内皮細胞を誘導する。
工程c)で用いられるVEGFを含む培地はcAMPを含んでもよいが、cAMPを加えた状態で培養を長期間行うと内皮細胞の誘導効率が低下する場合があるので、cAMPは含まないことが好ましい。
工程(c)の培地におけるVEGFの濃度は、好ましくは50ng/ml〜200ng/mlである。
前記工程(c) の培養時間は、例えば10日以下の培養であり、好ましくは、1〜5日であり、特に好ましくは2日である。
【0057】
さらに、本発明の方法においては、工程(c)で得られた細胞をbFGF、EGFおよびフィブロネクチンを含む培地中で培養する工程(d)を含むこともできる。これにより、内皮細胞の誘導効率をさらに向上させることができる。
【0058】
前記工程(d)において用いられる基礎培地は特に制限されないが、好ましくは、Endothelial serum free medium培地である。
前記工程(d)の培地におけるbFGFの濃度は、例えば、10ng/ml〜30ng/mlである。
前記工程(d)の培地におけるEGFの濃度は、例えば、1ng/ml〜100ng/mlである。
前記工程(d)の培地におけるフィブロネクチンの濃度は、例えば、1μg/ml〜100μg/mlである。
【0059】
[実施例]
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はそれらの実施例によって制限されないものとする。
【0060】
実施例1:効率的な内皮細胞への分化誘導のための条件設定
ヒトiPS細胞(201B6および836B3)は、京都大学の山中教授より受領し、以前に報告された方法(Uosaki H. et al. PLoS One 2011;6:e23657)と同様の方法を用いて維持培養を行った。詳細には、次のとおりである。ヒトiPS細胞を、マトリゲル(growth factor reduced, 1:60希釈、Invitrogen)でコーティングされた培養皿に播種し、マウス胎児性線維芽細胞(MEF)からのconditioned medium(培養上清)(MEF-CM)に4ng/mLのヒトbFGF(hbFGF, WAKO)を添加した培地を用いて維持培養を行った。Conditioned mediumの基礎培地は、Knockout DMEM (GIBCO) 471mL, Knockout serum replacement (KSR) 120mL, NEAA 6mL, 200mM L-Glutamine 3mL, 55mM 2-ME (メルカプトエタノール(GIBCO), 4 ng/ml hbFGF)を混合することにより作製された。MEFは、Mitomycin-C (MMC) (WAKO)により2.5時間処理されたものを用いた。
4〜6日毎に、CTK solution (0.1% Collagenase IV, 0.25% Trypsin, 20% KSR, および1 mM CaCl
2 in Phosphate buffered saline (PBS))を用いて細胞コロニーを剥離し、セルストレーナーでsmall clumpの状態にして継代培養した。
続いて、効率的な内皮細胞への分化誘導条件を見出すため、下記に示すプロトコールの各工程(工程(1)〜工程(6))を元に種々の条件を変えて評価を行った。
上記の方法で継代培養したヒトiPS細胞を、Versene (Invitrogen)を用いて37℃で3-5分間インキュベートすることにより、培養皿から剥離した。Verseneを吸引した後、MEF-CMにてピペッティングし、single cellにて回収した後、遠心分離して細胞数をカウントした。
(1)次いで、マトリゲルでコーティングした培養皿上に6,000 -9,000 細胞/cm
2の密度で細胞を播種し、bFGFを補充したMEF-CM培地中で数日間培養した。
(2)その後、培地をマトリゲルを補充したMEF-CM培地に換えてさらに数時間培養し、マトリゲルで細胞上層を覆った(マトリゲルサンドイッチ)。
得られたマトリゲル被覆細胞を用いて、下記の手順により内皮細胞へ分化誘導させた。
(3)培地を、Activin A (ActA; R&D Systems)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、数時間培養した。
(4)洗浄後、培地を、human Bone morphogenetic protein 4 (BMP4; R&D)、hbFGFおよびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、数日間培養した。
(5)洗浄後、培地を、8-bromo cAMP(cAMP)、血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、数日間培養した。
(6)さらに洗浄後、培地を、血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、数日間培養した。
【0061】
工程(3)を18時間、工程(4)を3日、工程(5)を3日、工程(6)を3日行い、内皮細胞分化の経時変化をVECad及びCD31二重陽性細胞をフローサイトメトリーにより検出することで調べた。結果を
図1に示す。なお、
図1では工程(3)の開始時点を0日としている。コントロールとして、工程(5)でcAMPとVEGFを含まない培地を用いた場合を示す。
その結果、VECad及びCD31二重陽性細胞は工程(5)の開始後、出現し、工程(6)において、全細胞数の60〜80%にまで達した。一方、コントロールにおいてはVECad及びCD31二重陽性細胞はほとんど検出されなかった。
【0062】
また、同様に、内皮細胞前駆細胞の経時変化をKDR陽性細胞をフローサイトメトリーにより検出することで調べた。結果を
図2に示す。なお、
図2では工程(3)の開始時点を0日としている。コントロールとして、工程(5)でcAMPとVEGFを含まない培地を用いた場合を示す。
その結果、KDR陽性細胞は培養開始の時点(d0)で全細胞の約20%存在し、工程(4)の終了時には約50%に増加した。その後、工程(5)の培養を行うことにより、約90%まで増加した。一方、コントロールにおいてはKDR陽性細胞は工程(5)以降減少した。
以上より、工程(5)でcAMPとVEGFを含む培地で培養してKDR陽性細胞を増加させ、その後、工程(6)でVEGFを含む培地で培養することにより、内皮細胞を効率よく誘導できることが分かった。
【0063】
実施例2:マトリゲルサンドイッチおよびActivin Aについての評価
工程(2)のマトリゲルサンドイッチから工程(3)の開始期間および工程(3)のActivin Aの投与期間、ならびに濃度について検討するために、Activin Aの濃度として100ng/ml、125ng/mlおよび150ng/ml、Activin Aの投与期間を12時間、18時間および24時間、ならびにマトリゲルサンドイッチから工程(3)の開始時期を12時間後および24時間後との各組合せを用いた場合の内皮細胞の誘導率を評価した。各工程の培養条件は、下記のとおりである。
(1)マトリゲルでコーティングした培養皿上に6,000 -9,000 細胞/cm
2の密度で細胞を播種し、4 ng/mL bFGFを補充したMEF-CM培地中で3日間培養した。
(2)その後、培地をマトリゲル(1/60希釈)を補充したMEF-CM培地に換えてさらに数時間培養し、マトリゲルで細胞上層を覆い、12時間または24時間培養した(マトリゲルサンドイッチ)。
(3)培地を、各濃度のActivin A (ActA; R&D Systems)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、各期間培養した。
(4)洗浄後、培地を、10 ng/mL human Bone morphogenetic protein 4 (BMP4; R&D)、10 ng/mL hbFGFおよびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、3日間培養した。
(5)洗浄後、培地を、1.0mM 8-bromo cAMP(cAMP)、100ng/ml 血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、3日間培養した。
(6)さらに洗浄後、培地を、100ng/ml 血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、2日間培養した。
その結果、いずれの場合もVECad及びCD31二重陽性細胞は得られたが、マトリゲルサンドイッチから工程(3)の開始までが、24時間であり、工程(3)の期間が18時間であり、およびActivin Aの濃度が125ng/mlの場合に、最も誘導率が高いことが見出された(
図3)。
【0064】
実施例3:追加のマトリゲルサンドイッチについての評価
工程(3)以降の工程で、マトリゲルを追加で投与するのに適した時期を評価するために、マトリゲルの再投与時期をd2、d1.5、d1、d3、d4、d6およびd7(この時、工程(3)の開始時期をd0とする)にて、内皮細胞の誘導率を評価した。それ以外の各工程の培養条件は、下記のとおりである。
(1)マトリゲルでコーティングした培養皿上に6,000 -9,000 細胞/cm
2の密度で細胞を播種し、4 ng/mL bFGFを補充したMEF-CM培地中で3日間培養した。
(2)その後、培地をマトリゲル(1/60希釈)を補充したMEF-CM培地に換えてさらに1日間培養し、マトリゲルで細胞上層を覆った(マトリゲルサンドイッチ)。
(3)培地を、125ng/mL Activin A (ActA; R&D Systems)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、18時間培養した。
(4)洗浄後、培地を、10 ng/mL human Bone morphogenetic protein 4 (BMP4; R&D)、10 ng/mL hbFGFおよびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、3日間培養した。
(5)洗浄後、培地を、1.0mM 8-bromo cAMP(cAMP)、100ng/ml 血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、3日間培養した。
(6)さらに洗浄後、培地を、100ng/ml 血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、2日間培養した。
その結果、いずれの場合もVECad及びCD31二重陽性細胞は得られたが、工程(4)で追加のマトリゲルを投与した場合に、最も誘導率が高いことが見出された(
図4)。
【0065】
実施例4:cAMPについての評価
工程(5)のcAMPの濃度、投与時期および投与期間について評価するために、cAMPの濃度を0.25mM、0.5mMおよび1mMを用いて、さらに、d4-d7、d5-d8、d3-d7、d4-d8およびd3-d8の期間に投与した場合の組合せにて内皮細胞の誘導率を評価した(d3開始の場合、工程(4)は2日間となり、d5開始の場合、工程(4)は4日間となり、d8終了の場合、工程(6)は2日間となる)。それ以外の各工程の培養条件は、下記のとおりである。
(1)マトリゲルでコーティングした培養皿上に6,000 -9,000 細胞/cm
2の密度で細胞を播種し、4 ng/mL bFGFを補充したMEF-CM培地中で3日間培養した。
(2)その後、培地をマトリゲル(1/60希釈)を補充したMEF-CM培地に換えてさらに1日間培養し、マトリゲルで細胞上層を覆った(マトリゲルサンドイッチ)。
(3)培地を、125ng/mL Activin A (ActA; R&D Systems)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、18時間培養した。
(4)洗浄後、培地を、10 ng/mL human Bone morphogenetic protein 4 (BMP4; R&D)、10 ng/mL hbFGFおよびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、数日間培養した。
(5)洗浄後、培地を、8-bromo cAMP(cAMP)、100ng/ml 血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、数日間培養した。
(6)さらに洗浄後、培地を、100ng/ml 血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、d9まで数日間培養した。
その結果、1mMの濃度でd4-d7でcAMPを投与した場合に最も内皮細胞誘導率が高いことが見出された(
図5)。なお、d8までcAMP存在下で培養すると、やや内皮細胞の割合が低下したことから、cAMPは一定期間経過後、培地から除くことが好ましいことが分かった。
【0066】
実施例5:VEGFについての評価
工程(5)のVEGFの濃度について評価するために、VEGFの濃度を0 ng/ml(-)、100ng/ml、200ng/mlおよび400ng/mlを用いて内皮細胞の誘導率を評価した。さらに、cAMPの有無との組み合わせにおいても評価した。各工程の培養条件は、下記のとおりである。
(1)マトリゲルでコーティングした培養皿上に6,000 -9,000 細胞/cm
2の密度で細胞を播種し、4 ng/mL bFGFを補充したMEF-CM培地中で3日間培養した。
(2)その後、培地をマトリゲル(1/60希釈)を補充したMEF-CM培地に換えてさらに1日間培養し、マトリゲルで細胞上層を覆った(マトリゲルサンドイッチ)。
(3)培地を、125ng/mL Activin A (ActA; R&D Systems)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、18時間培養した。
(4)洗浄後、培地を、10 ng/mL human Bone morphogenetic protein 4 (BMP4; R&D)、10 ng/mL hbFGFおよびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、3日間培養した。
(5)洗浄後、培地を、0 mMまたは1.0mM 8-bromo cAMP(cAMP)、各濃度の血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、3日間培養した。
(6)さらに洗浄後、培地を、100ng/ml 血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、2日間培養した。
その結果、1mMのcAMPと共に100ng/mlの濃度でVEGFを投与した場合に最も内皮細胞誘導率が高いことが見出された(
図6、
図7および表1)。
【表1】
【0067】
実施例6:効率的な内皮細胞への分化誘導法
実施例2〜5において明らかとなった、それぞれのパラメータの最適な条件を組み合わせて内皮細胞への分化誘導実験を行った。
すなわち、分化誘導プロトコールは下記のとおりである。
継代培養したヒトiPS細胞を、Versene (Invitrogen)を用いて37℃で3-5分間インキュベートすることにより、ヒトiPS細胞を培養皿から剥離した。Verseneを吸引した後、MEF-CMにてピペッティングし、single cellにて回収した後、遠心分離して細胞数をカウントした。マトリゲルでコーティングした培養皿上に6,000 〜9,000 細胞/cm
2の密度で4 ng/mL bFGF添加MEF-CMを培地として播種した。3日間の培養の後、マトリゲルでコーティング (1/60希釈)添加MEF-CMに培地を換えてさらに1日間培養し、マトリゲルで細胞上層を覆った(マトリゲルサンドイッチ)。
得られたマトリゲル被覆細胞を用いて、下記の手順により内皮細胞へ分化誘導させた。
(d0-d1)培地を、125ng/mL Activin A (ActA; R&D Systems)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、18時間培養した。
(d1-d4)洗浄後、培地を、10 ng/mL human Bone morphogenetic protein 4 (BMP4; R&D)、10 ng/mL hbFGF、Matrigel (1/60希釈)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、3日間培養した。
(d4-d7)洗浄後、培地を、1.0mM 8-bromo cAMP(cAMP)、100ng/ml 血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、3日間培養した。
(d7-d9)さらに洗浄後、培地を、100ng/ml 血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)に交換し、2日間培養した。
その後、分化誘導の9日目(D9)に、フローサイトメトリーにより、血管内皮カドヘリン陽性細胞(VECad陽性細胞)を内皮細胞として回収し、細胞数を測定した。
その結果、VECad陽性細胞数/全細胞数(%)は、56.2±12.5%であり、VECad陽性細胞数は、1.66±0.70×10
5であった。
【0068】
実施例7:直接的純化法と間接的純化法との比較
次に、内皮細胞を誘導するに当たり、内皮細胞前駆細胞を純化したのちに培養することの効果を調べた。
すなわち、内皮細胞への分化誘導法において、工程(6)終了後の9日目(d9)において内皮細胞を直接純化する方法(以下、直接的純化法ともいう)と、工程(5)の途中の6日目(d6)にVEGF receptor-2(KDR)陽性細胞を純化する工程を入れた場合(以下、間接的純化法ともいう)とで、回収内皮細胞の収量と純度を比較するために、下記の実験を行った。
まず、直接的純化法によるサンプルを得るために、実施例1の内皮細胞分化誘導法に基づいて9日目(d9)まで培養し、蛍光活性化セルソーター(FACS) にて、VECad、CD31二重陽性細胞を純化し回収した。総細胞数を計測し、フローサイトメトリーにてVEcad、CD31二重陽性細胞の割合を測定することで回収内皮細胞の収量と純度を測定した。
一方、間接的純化法によるサンプルを得るために、実施例6の内皮細胞分化誘導法に基づいて6日目(d6)まで培養し、KDR陽性細胞を純化し回収した。回収されたKDR陽性細胞は、マトリゲルでコーティングした培養皿上に10,000 細胞/cm
2の密度で1.0mM cAMP、100ng/ml VEGF、10 μmol/L Rho結合タンパク質キナーゼ阻害剤 (Y-27632; CalBiochem)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)と共に播種された。その後2日間(d7-d9)、100ng/ml 血管内皮細胞成長因子(VEGF; WAKO)およびB27 supplementを補充したRPMI培地(インスリン不含)にて培養し、分化9日目に回収した。直接的純化法と同様に回収内皮細胞(VECad、CD31二重陽性細胞)の収量と純度を測定した。
その結果、工程(5)の途中の6日目(d6)にVEGF receptor-2(KDR)陽性細胞を純化して培養を継続した場合、9日目(d9)に内皮細胞を直接純化するよりも、有意に高い収量を示すことが見出された(
図8aおよび表2)。
さらに、直接的純化法および間接的純化法により採取された細胞の再培養及び増殖が可能であるか検討した。9日目(d9)までの分化誘導は、上記と同様の方法にて行われた。直接的純化法および間接的純化法(d6で純化)により得られたd9での内皮細胞を、それぞれ1%ゼラチンによってコートされたdish上に播種し、bFGF (20 ng/ml)、EGF (10 ng/ml)、及び、human plasma fibronectin (10 μg/ml)を補充したHuman Endothelial-SFM 培地(Gibco)にて培養し、分化14日目(d14)にVECad、CD31二重陽性細胞を純化・回収し、回収内皮細胞の収量と純度を測定した。
その結果、9日目(d9)に直接的純化法および間接的純化法で採取された細胞は14日(d14)までの5日間に直接的純化法では2.57±1.41倍、間接的純化法では2.65±0.64倍となった。再培養後の増殖には差がなく、14日目(d14)における細胞収量も、6日目(d6)にKDR陽性細胞を純化した場合において、9日目(d9)に内皮細胞を直接純化するよりも、高い収量を示すことが見出された(
図8cおよび表2)。
【表2】
【0069】
実施例8:間接的純化法における純化のタイミングの評価
実施例6の方法において、KDR陽性細胞の純化ステップをそれぞれd4、d5、d6に行い、d9まで培養を継続した。すなわち、d4に純化操作を行う場合は、BMPとbFGFを含む培地で培養した直後にKDR陽性細胞を純化し、その後、cAMPとVEGFを含んだ培地で3日間培養し、その後、VEGFを含む培地で3日間培養した。d5に純化操作を行う場合は、BMPとbFGFを含む培地で培養後、培地をcAMPとVEGFを含んだ培地に交換してさらに1日培養した後にKDR陽性細胞を純化し、次いで、cAMPとVEGFを含んだ培地でさらに2日培養し、その後、VEGFを含む培地で3日間培養した。d6に純化操作を行う場合は、BMPとbFGFを含む培地で培養後、培地をcAMPとVEGFを含んだ培地に交換してさらに2日培養した後にKDR陽性細胞を純化し、次いで、cAMPとVEGFを含んだ培地でさらに1日培養し、その後、VEGFを含む培地で3日間培養した。
表3および
図9に、純化のタイミングと、純化直前のKDR陽性率およびd9における内皮細胞の割合を示した。その結果、d4でKDR陽性細胞が20%ほど出現してきた段階で、VEGF, cAMPにより刺激し、1〜2日後、KDR陽性細胞が50〜90%程度になったところで純化し、内皮細胞へ誘導する方法が特に効率よく内皮細胞を製造できることが分かった。
【表3】
【0070】
実施例9:p90 ribosomal S6 kinase (RSK)の抑制によるcAMP投与時の内皮誘導増強効果
RSKによる内皮細胞誘導効果を検証するため内皮細胞への分化が困難であることが知られている血清入りの培地にて検討した。内皮細胞への分化誘導4日目まで(d1-d4)は、実施例6と同様の方法により行った。次いで、培地を10% Serumを補充したRPMI培地に換え、分化誘導4〜7日目(d4-d7)に、1.0mM cAMP、100ng/ml VEGFおよびRSKの選択的抑制剤である20μM SL 0101-1(Tocris Bioscience)を投与した場合と、1.0mM cAMPおよび100ng/ml VEGFを投与した場合の分化9日目(d9)における総細胞数中のVECad、CD31二重陽性細胞率を測定した。
その結果、SL 0101-1を添加した場合、添加しなかった場合と比較して、有意に高い内皮細胞の誘導率を示すことが見出された(
図10および表4)。
【表4】