(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明を援用する。
【0011】
[鋼片の製造設備]
図1は、本実施形態による鋼片の製造方法を実施するための製造設備のレイアウト図である。
図1を参照して、製造設備は、加熱炉1と、分塊圧延機2と、V−H式連続鋼片圧延機3とを備える。各設備1〜3の間には、搬送設備10が配置される。搬送設備10はたとえば、搬送ローラ等である。
【0012】
[加熱炉1]
加熱炉1は、素材を所定の温度に加熱する。加熱炉1は、ウォーキングビーム式の連続加熱炉であってもよいし、ロータリーハース式の連続加熱炉であってもよい。また、ソーキングピット等の均熱炉であってもよい。
【0013】
素材はたとえば、鋳造材である。鋳造材は、連続鋳造法により製造される鋳片であってもよいし、造塊法により製造される鋼塊(インゴット)であってもよい。
【0014】
[分塊圧延機2]
分塊圧延機2は、二重可逆式である。分塊圧延機2は、一対の分塊ロールと、一対のマニプレータとを備える。
図2は、一対の分塊ロールの互いに対向する表面近傍の正面図である。
図2を参照して、一対の分塊ロール2U及び2Lは、上下に配置され、各々のロールの軸方向は水平方向を向く。
【0015】
分塊ロール2U及び2Lは、溝孔型21及び23と、平坦部22とを備える。分塊ロール2U及び2Lはそれぞれ、同じ形状の溝孔型21及び23を備える。
【0016】
溝孔型21の縦断面形状(分塊ロール2U又は2Lのロール軸を含む断面での形状)は台形状であり、溝底21Bと、一対のフランジ21Fとを有する。フランジ21Fはそれぞれ、溝底21Bの端とロール表面24との間に配置される。溝孔型21の幅は、溝底21Bからロール表面24に向かって大きくなる。したがって、溝孔型21において、表面24側の幅21Wが最も広く、溝底21Bの幅が最も狭い。
【0017】
分塊ロール2Uの溝孔型21と、分塊ロール2Lの溝孔型21とは、互いに対向して配置され、ボックス孔型210を形成する。
【0018】
溝孔型23は、溝孔型21と同様に台形状であり、溝底23Bと、一対のフランジ23Fとを有する。溝孔型23は、溝孔型21よりも幅が広い。分塊ロール2U及び2Lの一対の溝孔型23はボックス孔型230を形成する。ボックス孔型230は、圧延時に、素材をボックス孔型210よりも大きな断面形状に圧延する。
【0019】
分塊ロール2U及び2Lの一対の平坦部22の断面形状は直線状であり、互いに平行する。平坦部22は、溝孔型21及び23よりも広い幅を有する。平坦部22は原則として、溝孔型21及び23に入らない断面形状を持つ素材を平圧延(フラット圧延)するときに使用される。
【0020】
図2では、平坦部22は、ロール表面24と同一の面である。しかしながら、平坦部22は、ロール表面24と異なる深さにしてもよい。つまり、平坦部22は、ロール表面24を所定位置まで研削して形成されてもよい。
【0021】
一対のマニプレータは、分塊圧延機2の入り側に、パスラインに平行に配置される。マニプレータは、圧延中の素材に対してガイドの役割を果たす。マニプレータはさらに、キッカーを備える。キッカーにより、圧延を行った後、素材を、素材の軸廻りに90°回転させることができる。これにより、分塊圧延機2で素材に対して互いに直交する2方向からの圧延が可能となる。
【0022】
分塊圧延機2は、分塊ロール2U及び2Lを順方向に回転して、分塊圧延機2の入り側に配置された素材を、分塊圧延機2の入り側から出側に進行させながら圧延する。以下、この圧延を順圧延という。分塊圧延機2はさらに、分塊ロール2U及び2Lを逆回転させることにより、分塊圧延機2の出側の素材を、分塊圧延機2の出側から入り側方向に進行させながら圧延する。以下、この圧延を逆圧延という。要するに、分塊圧延機2は、素材を、分塊圧延機2を挟んで往復させながら(順圧延及び逆圧延を繰り返しながら)、所定の断面形状の中間鋼片を製造する。
【0023】
分塊圧延機2はさらに、分塊ロール2U及び2Lの出側にも、一対のマニプレータを備えてもよい。
【0024】
分塊圧延機2による圧延(分塊圧延)において、順圧延又は逆圧延の1回当たりの圧延を、「1パス」という。たとえば、「5パス」であれば、順圧延が3回、逆圧延が2回実施されたことになる。
【0025】
図示していないが、各溝孔型21のフランジ21Fとロール表面24との境界部分は、丸みを帯びていてもよい。また、溝底21Bとフランジ21Fとの境界部分も、丸みを帯びていてよい。溝孔型23についても同様である。
【0026】
図2では、分塊ロール2U及び2Lに形成されたボックス孔型は2つである。しかしながら、ボックス孔型は3以上形成されてもよいし、1つでもよい。
【0027】
[V−H式連続鋼片圧延機3]
V−H式連続鋼片圧延機3は、少なくとも1つの垂直スタンドと、少なくとも1つの水平スタンドとを備える。本実施形態では、V−H式連続鋼片圧延機3は、複数の垂直スタンドと、複数の水平スタンドとを備える。垂直スタンド及び水平スタンドは、一列に配列され、垂直スタンド及び水平スタンドは、交互に配置される。本実施形態では、垂直スタンドの後ろに水平スタンドが配置される。つまり、垂直スタンド、水平スタンドの順に順次配置される。
【0028】
V−H式連続鋼片圧延機3は、ダイヤモンド孔型及びスクエア孔型を備える。具体的には、垂直スタンドは、
図3に示すように、ロール軸が上下方向に延びる一対の垂直ロール30を備える。一対の垂直ロール30は、パスラインPを挟んで配置される。各垂直ロール30は、二辺がなす角度が鈍角の二等辺三角形状の断面形状である溝孔型31を備える。一対の溝孔型31は互いに対向して配置され、ダイヤモンド孔型(菱孔型)310を形成する。
【0029】
水平スタンドは、
図4に示すように、ロール軸が水平方向に延びる一対の水平ロール32を備える。水平ロール32は、垂直ロール30の後ろに配置され、垂直ロール30と直交する。つまり、正面視において、水平ロール32の軸と垂直ロール30の軸とのなす角は直角である。ここでいう「直交」及び「直角」とは、厳密な90°のみに限定されず、実質的にダイヤモンド孔型圧延及びスクエア孔型圧延を実施できる範囲の角度で交差すればよい。
【0030】
一対の水平ロール32は、パスラインPを挟んで配置される。各水平ロール32には、断面形状が直角二等辺三角形状の溝孔型33を備える。一対の溝孔型33は互いに対向して配置され、スクエア孔型330を形成する。
【0031】
図3及び
図4には図示していないが、溝孔型31及び溝孔型33では、そのフランジ部及び溝底(谷底)が丸みを帯びていてもよい。
【0032】
また、上述の説明では、ダイヤモンド孔型310が垂直ロール30に形成され、スクエア孔型330が水平ロール32に形成される。しかしながら、ダイヤモンド孔型310が水平ロール32に形成され、スクエア孔型330が垂直ロール30に形成されてもよい。この場合、水平ロール32がV−H式連続鋼片圧延機3の先頭に配置され、その後ろに、垂直ロール30が配置される。つまり、V−H式連続鋼片圧延機3では、ダイヤモンド孔型310で初めに圧延し、次に、スクエア孔型330で圧延する。
【0033】
[鋼片の製造方法]
本実施形態による鋼片の製造方法は、
図1に示す設備1〜3を用いて実施する。本実施形態による鋼片の製造方法では、圧延中の被圧延材のコーナ部に掛かる引張応力を抑制することにより、被圧延材のコーナ部に割れが発生するのを抑制する。
【0034】
分塊ロール2U、2Lにおけるボックス孔型210及び230を用いた圧延は、圧延中の被圧延材のコーナ部に掛かる引張応力を抑える。なぜなら、ボックス孔型210及び230では、溝底とフランジとの境界部分で被圧延材のコーナ部が拘束され、コーナ部のメタルフローが制限されるためである。したがって、本実施形態では、ボックス孔型210及び230を用いて、鋼片の最終形状に近いサイズの中間鋼片を製造する。
【0035】
ボックス孔型210及び230は、上述のとおり、台形状の溝孔型21又は23により形成される。そのため、ボックス孔型210及び230では、矩形状(正方形状)の横断面を有する鋼片を製造することが困難である。
【0036】
矩形状の鋼片を製造するには、V−H式連続鋼片圧延機3のダイヤモンド孔型310及びスクエア孔型330を用いた孔型圧延を実施するのが好ましい。しかしながら、ダイヤモンド孔型310及びスクエア孔型330を用いた孔型圧延では、圧延中の被圧延材のコーナ部のうち、ロールギャップ部311及び331(
図3及び
図4参照)に位置するコーナ部が溝孔型31及び33に拘束されない。そのため、これらのコーナ部のメタルフローは大きくなり、引張応力が大きくなる。したがって、ダイヤモンド孔型310及びスクエア孔型330では、ボックス孔型210及び230と比較して、被圧延材のコーナ部が割れやすい。
【0037】
そこで、本実施形態では、ダイヤモンド孔型310及びスクエア孔型330での圧延回数(パス回数)をなるべく低く抑える。具体的には、ダイヤモンド孔型310及びスクエア孔型330での孔型圧延をそれぞれ1回のみ実施する。これにより、矩形状の横断面を有する鋼片のコーナ部に割れが発生するのを抑制する。
【0038】
本実施形態の鋼片の製造方法によれば、グリーブル試験において、絞りRAが82.5%以上を確保できる温度範囲が350℃しか存在しない難加工素材であっても、製造された鋼片のコーナ部に割れが発生するのを抑制することができる。
【0039】
以下、上述の製造方法の詳細を説明する。
図5は、本実施形態による鋼片の製造方法のフロー図である。
図5を参照して、本製造方法は、加熱工程(ステップS1)、分塊圧延工程(S2)及び鋼片圧延工程(S3)を含む。
【0040】
[加熱工程(S1)]
加熱工程では、素材を加熱炉1で加熱する。素材は、たとえば、難加工な鋳造材であり、たとえば、高Mn非磁性鋼である。高Mn非磁性鋼はたとえば、質量%で、C:0.80〜1.00%、Si:0.20〜0.50%、Mn:13.00〜16.00%、V:0.10〜0.15%、N:0.007〜0.040%を含有し、残部はFe及び不純物である。高Mn非磁性鋼はさらに、上述した元素の他に、P:0.025%以下、S:0.035%以下、Cu:0.25%以下、Ni:0.20%以下、Cr:0.20%以下、Mo:0.20%以下、Al:0.040%以下、Pb:0.020%以下等を含有してもよい。
【0041】
図6は、上述の化学組成を有する高Mn非磁性鋼のグリーブル試験で得られた絞りと試験温度との関係を示す図である。
図6を参照して、高Mn非磁性鋼の場合、900℃での絞りRAは、84%程度であり、熱間圧延可能な下限値である82.5%に近い。要するに、高Mn非磁性鋼は、難加工素材である。
【0042】
素材は、高Mn非磁性鋼に限定されない。絞りRAが82.5%以上であれば、本実施形態の製造方法により、コーナ部の割れが抑制された鋼片を製造することができる。
【0043】
上述の素材を、加熱炉1に装入し、加熱する。素材が鋳片である場合、素材を連続式加熱炉又は均熱炉に装入する。素材が鋼塊である場合、素材を均熱炉に装入する。
【0044】
加熱炉1での加熱温度が低すぎれば、V−H式連続鋼片圧延機3での仕上げ温度が900℃未満になりやすい。そのため、圧延中の熱間延性が低くなり、鋼片のコーナ部に割れが発生しやすい。一方、加熱温度が高すぎれば、鋼片に脆化割れが発生しやすくなる。したがって、加熱炉1での好ましい加熱温度は、1100〜1200℃である。
【0045】
[分塊圧延工程(S2)]
加熱炉1により加熱された素材に対して、分塊圧延機2を用いた圧延(分塊圧延)を実施する。
【0046】
分塊圧延では、なるべく、ボックス孔型210及び230を用いて素材を圧延する。上述のとおり、ボックス孔型210及び230は、他の孔型310、330及び平坦部22と比較して、被圧延材のコーナ部のメタルフローを小さく抑えることができる。そのため、圧延中の被圧延材コーナ部に掛かる引張応力は低く、コーナ部に割れが発生するのを抑制できる。
【0047】
たとえば、横断面形状が300〜500mm×300〜500mmの略矩形状の素材を圧延する場合、ボックス孔型210及び230を用いて、複数回のパスで圧延し、横断形状が180〜200mm×180〜200mmの中間鋼片を製造する。
【0048】
このとき、分塊圧延機2はたとえば、素材を一往復(順圧延及び逆圧延)するごとに、キッカーにより90°回転して、さらに圧延を継続する。キッカーにより素材を回転することで、直交する2方向から素材を圧延することができる。
【0049】
分塊圧延機2による圧延では、初めに、サイズの大きいボックス孔型230を用いて圧延する。ボックス孔型230で圧延した結果、圧延後の素材の厚さが、ボックス孔型210の最大幅21W未満になったとき、素材を90°回転して、ボックス孔型210を用いて圧延を継続する。
【0050】
以上の分塊圧延工程においては、ボックス孔型1パス当たりの圧延歪みを0.03〜0.12に制限する。ここで、圧延歪みは、真歪みであり、次の式(1)で定義される。
圧延歪み=ln(圧延前の被圧延材の断面積/圧延後の被圧延材の断面積) (1)
【0051】
圧延歪みが大きすぎれば、ボックス孔型を用いて圧延しても、被圧延材のコーナ部に、軸方向の引張応力が過剰に掛かり、割れやすくなる。一方、圧延歪みが小さすぎれば、所定の形状の中間鋼片を製造するためにパス回数が過剰に増え、圧延中の被圧延材温度が低下する。そのため、V−H式連続鋼片圧延機3での仕上げ温度が900℃未満になり、鋼片のコーナ部に割れが発生しやすくなる。
【0052】
上述のとおり、ボックス孔型を用いた圧延において、1パス当たりの圧延歪みが0.03〜0.12であれば、コーナ部に割れが発生するのを抑制することができる。
【0053】
[平圧延を実施する場合]
分塊圧延前の素材の断面形状が大きく、素材幅がボックス孔型230の最大幅23W(
図2参照)よりも大きい場合もある。この場合、素材の厚さが最大幅23W未満になるまで、平坦部22を用いて平圧延を実施してもよい。
【0054】
平圧延では、被圧延材のコーナ部が孔型に拘束されない。そのため、コーナ部に掛かる引張応力は、ボックス孔型を用いた圧延の場合よりも大きくなる。したがって、平圧延を実施する場合、1パス当たりの圧延歪みは、ボックス圧延時よりも低く制限される。具体的には、平圧延時では、1パス当たりの圧延歪みを0.02〜0.03に制限する。
【0055】
[鋼片圧延工程(S3)]
分塊圧延工程により製造された中間鋼片をV−H式連続鋼片圧延機3を用いて圧延し、鋼片を製造する。V−H式連続鋼片圧延機3では、2つのスタンド(先頭の垂直スタンド及びその後ろに配置された水平スタンド)で圧延を実施する。つまり、V−H式連続鋼片圧延機3の2つのスタンド以外の他のスタンドでは圧延を実施しない。
【0056】
V−H式連続鋼片圧延機3でダイヤモンド孔型及びスクエア孔型を用いて圧延する場合、分塊圧延機2におけるボックス孔型210及び230と比較して、1パス(一対のロールでの1回圧延)当たりの減面率を大きくすることができる。しかしながら、減面率を大きくすることができる反面、コーナ部のメタルフローは大きくなる。特に、圧延中にロールギャップ部311及び331(
図3及び
図4参照)に位置する中間鋼片のコーナ部は、溝孔型31及び33に拘束されないため、これらのコーナ部では大きな引張応力が掛かる。したがって、ダイヤモンド孔型310及びスクエア孔型330では、ボックス孔型210及び230と比較して、被圧延材のコーナ部が割れやすい。
【0057】
したがって、本実施形態では、分塊圧延機2により、鋼片の最終形状に近い断面形状まで圧延を実施し、最後に鋼片の形状を整えることを目的に、ダイヤモンド孔型310及びスクエア孔型330をそれぞれ1回ずつ使用して、中間鋼片を最終形状の鋼片まで圧延する。ダイヤモンド孔型を2回以上使用したり、又はスクエア孔型を2回以上使用したりする場合、中間鋼片にスタンド間で作用する引張応力が働きやすくなり、コーナ部に割れが発生しやすくなる。したがって、本実施形態では、ダイヤモンド孔型310及びスクエア孔型330をそれぞれ1回ずつ使用する。
【0058】
ダイヤモンド孔型310及びスクエア孔型330の各孔型での1パス当たりの減面率は、30%以下に制限する。ここで、減面率(%)は、次の式(2)で定義される。
減面率(%)={(圧延前の被圧延材の断面積−圧延後の被圧延材の断面積)/圧延前の被圧延材の断面積}×100 (2)
【0059】
減面率が30%を超えると、圧延中の中間鋼片のコーナ部に、軸方向の引張応力が過剰に掛かり、割れやすくなる。したがって、1パス当たりの減面率は30%以下である。
【0060】
さらに、V−H式連続鋼片圧延機3での鋼片の仕上げ温度は、900℃以上である。ここで、「仕上げ温度」は次のとおり定義される。V−H式連続鋼片圧延機3のうち、圧延に使用した最後尾のスタンド(本実施形態では、圧延に使用したスクエア孔型330を有する水平スタンド)の出側直後の鋼片温度を、仕上げ温度と定義する。
【0061】
仕上げ温度が低すぎれば、鋼片圧延中の中間鋼片の熱間延性が低くなりすぎる。そのため、圧延中の中間鋼片のコーナ部に割れが発生しやすくなる。仕上げ温度が900℃以上であり、かつ、上述の他の諸条件を満たせば、製造される鋼片に割れが発生しにくい。
【0062】
以上の工程により、本実施形態による鋼片は製造される。
【0063】
本実施形態による鋼片の製造方法は、上述のとおり、被圧延材のコーナ部のメタルフローを極力抑えることができ、コーナ部に過剰な引張応力が掛かるのを抑えることができる。そのため、鋼片のコーナ部の割れ発生を抑制することができる。
【実施例】
【0064】
高Mn非磁性鋼を用いて、表1に示す製造条件1〜7で鋼片を製造した。
【0065】
【表1】
【0066】
具体的には、300mm×400mmの鋳片を準備した。鋳片は高Mn非磁性鋼からなり、具体的には、質量%で、C:0.86%、Si:0.30%、Mn:13.94%、P:0.011%、S:0.006%、Cu:0.01%、Ni:0.02%、Cr:0.01%、Mo:0.01%、V:0.11%、Al:0.010%、N:0.015%を含有した。P、S、Cu、Ni、Cr及びMoは不純物であり、Alは脱酸材として添加したものである。
【0067】
素材を加熱炉に装入し、表1に示す加熱温度で加熱した。続いて、分塊圧延及び鋼片圧延を実施した。製造条件1〜7のいずれの製造条件においても、分塊圧延工程において平圧延を2パス実施し、ボックス孔型210及び230を用いた圧延を、製造条件1〜6については15パス、製造条件7については19パス実施して中間鋼片を製造した。平圧延及びボックス孔型による圧延での1パス当たりの圧延歪みの上限及び下限は、表1に示す通りであった。
【0068】
分塊圧延後、V−H式連続鋼片圧延機3を用いて、鋼片圧延を実施し、180mm×180mmの正方形状の横断面積を有する鋼片を製造した。このとき、製造条件1〜4、6及び7では、2つのスタンドのみを使用した。つまり、ダイヤモンド孔型310での圧延を1パス実施し、その後、スクエア孔型330での圧延を1パス実施した。
【0069】
一方、製造条件5では、V−H式連続鋼片圧延機3の4つのスタンドを使用した。つまり、ダイヤモンド孔型310による圧延、スクエア孔型330による圧延、ダイヤモンド孔型310による圧延、スクエア孔型330による圧延の順に、連続して圧延を実施した。各製造条件の圧延時において、仕上げ温度を測定した。
【0070】
各製造条件ごとに、30本の鋼片を製造した。各鋼片のコーナ部を目視観察し、割れの有無を確認し、カウントした。カウントした割れ総数及び鋼片本数(30本)に基づいて、鋼片1本当たりの疵発生個数(個/本)を算出した。
【0071】
[試験結果]
試験結果を表1に示す。製造条件1及び2では、分塊圧延工程における平圧延及びボックス孔型210及び230を用いた圧延での圧延歪みが適切であり、ダイヤモンド孔型310及びスクエア孔型330を用いたパス回数及び減面率も適切であった。さらに、仕上げ温度も適切であった。そのため、鋼片のコーナ部に疵が発生しなかった。
【0072】
一方、製造条件3では、平圧延での圧延歪みが大きかった。そのため、鋼片のコーナ部に疵が発生した。製造条件4では、ボックス孔型210及び230を用いた圧延での圧延歪みが大きかった。そのため、鋼片のコーナ部に疵が発生した。
【0073】
製造条件5では、分塊圧延工程での圧延歪みは適切であった。しかしながら、V−H式連続鋼片圧延機3において、4つスタンドを用いた連続圧延を実施した。そのため、鋼片のコーナ部に疵が発生した。
【0074】
製造条件6では、分塊圧延工程での圧延歪みは適切であった。しかしながら、V−H式連続鋼片圧延機3において、ダイヤモンド孔型310を用いた圧延での減面率が大きかった。そのため、鋼片のコーナ部に疵が発生した。
【0075】
製造条件7では、分塊圧延工程での圧延歪みは適切であり、V−H式連続鋼片圧延機3での減面率も適切であった。しかしながら、仕上げ温度が900℃未満であった。そのため、鋼片のコーナ部に割れが発生した。分塊圧延のパス数が多かった(19パス)ため、仕上げ温度が低下し、その結果、鋼片のコーナ部に割れが発生したと推定される。
【0076】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。