(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タンディッシュから鋳型へ注入する溶鋼の流量を、前記タンディッシュと前記鋳型とを繋ぐ流路の開口部面積を変更することにより調整する、切替元制御装置及び切替先制御装置を備えた連続鋳造機で、
前記切替元制御装置による前記鋳型内の溶鋼湯面レベルのフィードバック制御から、前記切替先制御装置による前記鋳型内の溶鋼湯面レベルのフィードバック制御へと切り替える際に、
予め定めた時間関数で定まる前記切替元制御装置の流路開度の速度軌道に基づいて算出される、前記切替元制御装置の流路開度を全開開度に近づけるフィードフォワード制御開度変更操作量を、前記切替元制御装置で前記溶鋼湯面レベルをフィードバック制御する際の流路開度指令値に加えることにより、前記切替元制御装置の流路開度指令値を算出する切替前切替元指令値算出工程と、
前記切替元制御装置の流路開度に前記フィードフォワード制御開度変更操作量を反映させることに伴う溶鋼注入量変化及び鋳造速度変更による溶鋼流出量変化を補償する、前記切替先制御装置に対するフィードフォワード制御開度操作量を、直前の制御周期における前記切替先制御装置の流路開度指令値に加えることにより、現在の制御周期における前記切替先制御装置の流路開度指令値を算出する切替前切替先指令値算出工程と、を制御周期毎に繰り返し、
前記切替元制御装置の流路開度が、前記鋳型内の溶鋼湯面レベルの制御を前記切替先制御装置による制御へと切り替える設定開度に到達した時点で、前記鋳型内の溶鋼湯面レベルの制御を、前記切替先制御装置によるフィードバック制御へと切り替え、
前記切替元制御装置がスライディングゲート方式湯面制御装置であり、且つ、前記切替先制御装置がストッパー方式湯面制御装置であるか、或いは、前記切替元制御装置がストッパー方式湯面制御装置であり、且つ、前記切替先制御装置がスライディングゲート方式湯面制御装置である、連続鋳造機の鋳型内湯面レベル制御方法。
タンディッシュから鋳型へ注入する溶鋼の流量を、前記タンディッシュと前記鋳型とを繋ぐ流路の開口部面積を変更することにより調整する、切替元制御装置及び切替先制御装置を備えた連続鋳造機で、前記切替元制御装置による前記鋳型内の溶鋼湯面レベルのフィードバック制御から、前記切替先制御装置による前記鋳型内の溶鋼湯面レベルのフィードバック制御へと切り替える制御切替手段を備える、連続鋳造機の鋳型内湯面レベル制御装置であって、
予め定めた時間関数で定まる前記切替元制御装置の流路開度の速度軌道に基づいて算出される、前記切替元制御装置の流路開度を全開開度に近づけるフィードフォワード制御開度変更操作量を、前記切替元制御装置で前記溶鋼湯面レベルをフィードバック制御する際の流路開度指令値に加えることにより、前記切替元制御装置の流路開度指令値を算出する切替前切替元指令値算出部と、
前記切替元制御装置の流路開度に前記フィードフォワード制御開度変更操作量を反映させることに伴う溶鋼注入量変化及び鋳造速度変更による溶鋼流出量変化を補償する、前記切替先制御装置に対するフィードフォワード制御開度操作量を、直前の制御周期における前記切替先制御装置の流路開度指令値に加えることにより、現在の制御周期における前記切替先制御装置の流路開度指令値を算出する切替前切替先指令値算出部と、を備え、
前記切替前切替元指令値算出部における前記切替元制御装置の流路開度指令値の算出、及び、前記切替前切替先指令値算出部における前記切替先制御装置の流路開度指令値の算出が、制御周期毎に行われ、
前記切替前切替元指令値算出部によって算出された、前記切替元制御装置の流路開度が、前記鋳型内の溶鋼湯面レベルの制御を前記切替先制御装置による制御へと切り替える設定開度に到達した時に、前記制御切替手段によって、前記鋳型内の溶鋼湯面レベルの制御が、前記切替先制御装置によるフィードバック制御へと切り替えられ、
前記切替元制御装置がスライディングゲート方式湯面制御装置であり、且つ、前記切替先制御装置がストッパー方式湯面制御装置であるか、或いは、前記切替元制御装置がストッパー方式湯面制御装置であり、且つ、前記切替先制御装置がスライディングゲート方式湯面制御装置である、連続鋳造機の鋳型内湯面レベル制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されない。
【0021】
本発明では、鋳型内の湯面レベルを制御する制御装置を切り替えている間に、切替元制御装置の流路開度を全開に近づける参照速度及び鋳造速度を用いて、鋳型への溶鋼注入量を制御するように切替先制御装置の流路開度変更量を決定し、制御装置切替中の鋳型内湯面レベルの変動を抑制する。
【0022】
以下では、ストッパー方式のノズル(以下において、「ストッパー」ということがある。)を用いる湯面制御装置と、スライディングゲート方式のノズル(以下において、「スライディングゲート」ということがある。)を用いる湯面制御装置との2つの制御装置を備え、1つの浸漬ノズルを介してタンディッシュから鋳型に溶鋼を注入する連続鋳造機において、両者の間で湯面制御を切替える実施の形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の連続鋳造機の鋳型内湯面レベル制御装置20を備える連続鋳造機100を説明する図である。
図1に示した連続鋳造機100は、溶鋼12が注入されるタンディッシュ1、溶鋼12を連続鋳造する際に用いられる鋳型7、及び、タンディッシュ1と鋳型7とを繋ぐ浸漬ノズル8と、鋳型内湯面レベル制御装置20と、を有している。鋳型内湯面レベル制御装置20は、溶鋼12の湯面レベルを制御するストッパー方式湯面制御装置3及びスライディングゲート方式湯面制御装置5と、これら2つの制御装置を切替える制御切替手段4と、湯面レベル計6と、を有している。鋳型内湯面レベル制御装置20において、鋳型7内の湯面レベルは、湯面レベル計6によって測定され、湯面レベル計6による測定結果は制御切替手段4へと送られる。ストッパー方式湯面制御装置3は、紙面上下動可能に構成されたストッパー2と、タンディッシュ1の底部に備えられたストッパー下ノズル11とを有し、スライディングゲート方式湯面制御装置5は、紙面左右方向へ移動可能に構成されたスライディングゲート9、及び、該スライディングゲート9とタンディッシュ1との間に設けられたスライディングゲート上ノズル10を有している。ストッパー方式湯面制御装置3を用いて鋳型内の湯面レベルを制御する場合には、ストッパー2の先端がストッパー下ノズル11内に位置するようにストッパー2の動作が制御され、ストッパー2の位置を制御することによって、ストッパー下ノズル11を流通する溶鋼12の流通可能断面積(流路開度)を調整し、溶鋼12の湯面レベルを制御する。これに対し、スライディングゲート方式湯面制御装置5を用いて鋳型内の湯面レベルを制御する場合には、スライディングゲート9を紙面左右方向へ移動させることにより、浸漬ノズル8内の流路断面積を低減するようにスライディングゲート9の動作が制御され、スライディングゲート9の位置を制御することによって、浸漬ノズル8内を流通する溶鋼12の流通可能断面積(流路開度)を調整し、溶鋼12の湯面レベルを制御する。
【0024】
ストッパー2の側面図及び下面図を
図2に、スライディングゲート9の上面図を
図3に、それぞれ示す。
図3には、スライディングゲート上ノズル開口部10aの直径がD
2であり、浸漬ノズル内壁面8aの直径がD
4である様子が示されている。
図2に示したように、ストッパー2を上下動させることにより、ストッパー下ノズル11とストッパー2との間隔d
1(y)、流路長さl
1(y)、ストッパー開度y、及び、ストッパー開口面積A
1(y)を制御することができる。また、
図3に示したように、スライディングゲート9を左右方向へ移動させることにより、スライディングゲート開口部9aの直径と浸漬ノズル内壁面8aの直径との重なり長さx、及び、スライディングゲート開口部の面積A
3(x)を制御することができる。
【0025】
連続鋳造機100において、タンディッシュ1の中から、鋳型7内の溶鋼湯面レベルまでの流路形状に着目して、タンディッシュ1から鋳型7までを複数の領域に分割すると、ベルヌーイの定理により、溶鋼流に関して以下のような関係式が成り立つ。
【0026】
タンディッシュ1内の溶鋼湯面高さH
tdと同底面における溶鋼流速v
0との間には、下記式(1)の関係が成り立つ。
【0027】
【数1】
ここで、gは重力加速度、H
tdはタンディッシュ1内の溶鋼高さ、p
0はタンディッシュ1の底面における溶鋼静圧である。
【0028】
ストッパー2とストッパー下ノズル11との間に形成される溶鋼流路内の溶鋼流速v
1については、ベルヌーイの定理より下記式(2)の関係が成り立つ。
【0029】
【数2】
ここで、yはストッパー開度、h
1はストッパー下ノズル11の高さ、l
1(y)はストッパー2とストッパー下ノズル11との間の流路長さ、d
1(y)は同流路の間隔、f
1は同流路の摩擦係数、p
1は同流路における溶鋼静圧、ζ
1は同流路の入口における圧力損失係数である。
【0030】
スライディングゲート上ノズル10内の流路内溶鋼流速v
2については、ベルヌーイの定理より下記式(3)の関係が成り立つ。
【0031】
【数3】
ここで、h
2はスライディングゲート上ノズル10の垂直高さ、f
2はスライディングゲート上ノズル10内流路の摩擦係数、D
2はスライディングゲート上ノズル10の内径、p
2はスライディングゲート上ノズル10内の溶鋼静圧である。
【0032】
スライディングゲート9の開口部の流路内溶鋼流速v
3については、ベルヌーイの定理より下記式(4)の関係が成り立つ。
【0033】
【数4】
ここで、h
3はスライディングゲート9の垂直高さ、f
3はスライディングゲート9内流路の摩擦係数、xはスライディングゲート9の開度、D
3(x)は開口面積を等価な円に換算したときの内径、ζ
3(x)はスライディングゲート9の入口急縮による圧力損失係数、p
3はスライディングゲート9内の開口部における溶鋼静圧である。
【0034】
浸漬ノズル8内の流路内溶鋼流速v
4については、ベルヌーイの定理より下記式(5)の関係が成り立つ。
【0035】
【数5】
ここで、h
4はスライディングゲート9と鋳型7内の溶鋼表面との距離、f
4は浸漬ノズル8内流路の摩擦係数、ζ
4(x)はスライディングゲート9の出口急拡による圧力損失係数、D
4は浸漬ノズル8の内径である。
【0036】
また、連続の法則により、各部における流量は等しいので、下記式(6)が成り立つ。
【0037】
【数6】
ここで、A
1(y)はストッパー開口面積、A
2はスライディングゲート上ノズル10内における流路開口面積、A
3(x)はスライディングゲート開口部の面積、A
4は浸漬ノズル8内における流路開口面積である。
【0038】
上記式(1)〜(6)より、溶鋼流量は下記式(7)で表される。
【0040】
溶鋼注入量と鋳片としての引抜量とが一定になる条件は、鋳型7の水平断面積をA、鋳造速度をv
cとすると、
【0041】
【数8】
である。この条件を満たすことは、
【0042】
【数9】
とすると、上記式(7)乃至(9)より、
【0044】
図4は、本発明の連続鋳造機の鋳型内湯面レベル制御方法(以下において、「本発明の制御方法」ということがある。)を説明するフローチャートである。
図4に示した本発明の制御方法は、制御装置を切替えるか否かを判断する工程(S1)と、切替元制御装置の流路開度が所定開度未満であるかを判断する工程(S2)と、切替前切替元指令値算出工程(S3)と、切替前切替先指令値算出工程(S4)と、流路開度指令値出力工程(S5)と、切替元制御装置の流路開度が全開であるか否かを判断する工程(S6)と、切替後切替元指令値算出工程(S7)と、切替後切替先指令値算出工程(S8)と、切替先制御装置のフィードバック制御指令値を算出する工程(S9)と、切替元制御装置の流路開度を全開にする工程(S10)と、切替元制御装置のフィードバック制御指令値を算出する工程(S11)と、切替先制御装置の流路開度を全開にする工程(S12)と、を有している。以下、
図1乃至
図4を参照しつつ、本発明の制御方法、及び、本発明の連続鋳造機の鋳型内湯面レベル制御装置について説明する。なお、ここでは、切替元制御装置がスライディングゲート方式湯面制御装置5であり、切替先制御装置がストッパー方式湯面制御装置3である場合について、説明する。
【0045】
本発明の制御方法によって鋳型7内の湯面レベルを制御する場合には、まず最初に、S1において、切替元制御装置から切替先制御装置へ制御を切替えるか否かが判断される。S1で肯定判断がなされた場合には(後述するt>T
1に相当)、切替元制御装置から切替先制御装置へ制御が切替えられるので、S2へと処理が進められる。
【0046】
S2では、切替元制御装置による制御から切替先制御装置による制御へと制御が切替えられるときの流路開度に、切替元制御装置の流路開度が達しているか否かが判断される。S2で肯定判断がなされた場合には、切替元制御装置の流路開度が、切替元制御装置による制御から切替先制御装置による制御へと制御が切替えられるときの流路開度に達していないので、湯面レベル制御は、未だ切り替えられない。そこで、S2で肯定判断がなされた場合には、処理がS3へと進められる。
【0047】
S3では、切替元制御装置による制御から切替先制御装置による制御へと制御が切替えられる前の段階における、切替元制御装置に対する流路開度指令値を算出する。この工程は、制御切替手段4における切替前切替元指令値算出部4aで行われる。
S3では、制御周期Δtごとに、湯面レベル計6による実測値と予め定めた目標値との偏差に基づいてスライディングゲートのフィードバック制御指令値x
FB(t)を算出するとともに、予め定めた時間関数で定まるスライディングゲート開度の速度軌道に基づき、該制御周期におけるスライディングゲート開度の変更操作量dx
ref(t)を算出して、スライディングゲート開度指令値を
x(t)=x
FB(t)+dx
ref(t)
として算出する。スライディングゲート開度の速度軌道は、該開度が全開又は全開に近い所定の開度に至るまでの速度を、該開度の時間変化率として規定するもので、例えば、スライディングゲートの開度が時刻T
1以後の所定の時間内に全開開度に達するように定めることができる。このようにして、切替元制御装置による制御から切替先制御装置による制御へと制御が切替えられる前の段階における、切替元制御装置に対する流路開度指令値を算出したら、処理はS4へと進められる。
【0048】
S4では、切替元制御装置による制御から切替先制御装置による制御へと制御が切替えられる前の段階における、切替先制御装置に対する流路開度指令値を算出する。この工程は、制御切替手段4における切替前切替先指令値算出部4bで行われる。
S4では、切替元制御装置の流路開度に上記dx
ref(t)を反映させることに伴う溶鋼注入量変化及び鋳造速度変更による溶鋼流出量変化を補償する、切替先制御装置に対するフィードフォワード制御開度操作量dy
FF(t)を算出する。dy
FF(t)は、例えば下記方程式(11)の数値解として、ニュートン法などの数値解析法を用いて算出することができる。
【0049】
【数11】
制御装置の計算負荷を低減するために、ニュートン法などの反復法を用いることができない場合には、以下の関数
【0052】
【数14】
を用いて、G(x、y、v
c)=G
x(x)+G
y(y)+G
v(v
c)と表すことができるので、上記方程式(11)の第1次近似解として
【0053】
【数15】
を算出しても良い。このようにして切替先制御装置に対するフィードフォワード制御開度操作量dy
FF(t)を算出したら、これを、直前の制御周期における切替先制御装置の流路開度指令値y(t−Δt)に加えることにより、現在の制御周期における前記切替先制御装置の流路開度指令値y(t)を
【0054】
【数16】
として算出する。S3及びS4により、切替元制御装置及び切替先制御装置に対する指令値が算出されたら、引き続き、S5において、算出された指令値が制御切替手段4から切替元制御装置及び切替先制御装置へ向けて出力されることにより、鋳型7内の湯面レベルが制御される。上記S3及びS4は、上記S2で否定判断がなされるまで行われる。
【0055】
S2で否定判断がなされた場合には、切替元制御装置の流路開度が、切替元制御装置による制御から切替先制御装置による制御へと制御が切替えられるときの流路開度に達している(後述するt=T
2(>T
1)に相当)。そのため、制御が切替元制御装置から切替先制御装置へと切替えられて、処理がS6へと進められる。
【0056】
S6では、切替元制御装置の流路開度が全開になっているか否かが判断される。S6で肯定判断がなされた場合には、切替元制御装置から切替先制御装置への切替えが終了し、湯面レベル制御は切替先制御装置によって行われ、切替元制御装置による湯面レベル制御は行われない。そのため、S6で肯定判断がなされた場合には、切替先制御装置によるフィードバック制御を行うための制御指令値y
FB(t)がS9で算出される。さらに、切替元制御装置による湯面レベル制御は行われないので、S10において、切替元制御装置に対する流路開度指令値が全開のまま維持される。このようにして、切替先制御装置に対する制御指令値及び切替元制御装置に対する制御指令値が特定されたら、引き続き、S5において、その制御指令値が制御切替手段4から切替元制御装置及び切替先制御装置へ向けて出力される。
【0057】
これに対し、S6で否定判断がなされた場合には、切替元制御装置の流路開度が全開になっていないので、切替元制御装置の流路開度が全開に至るまで、切替元制御装置の流路開度が開方向に変更する。この流路開度の変更が湯面レベルを変動させ得るので、S6で否定判断がなされた場合には、切替元制御装置から切替先制御装置への切替え途中における湯面レベルの変動を抑制するために、引き続き、処理がS7へと進められる。
【0058】
S7では、切替元制御装置の流路開度を全開開度に近づけるフィードフォワード制御開度変更操作量dx
ref(t)を、直前の制御周期における切替元制御装置の流路開度指令値x(t−Δt)に加えることにより、現在の制御周期における切替元制御装置の流路開度指令値x(t)を
【0059】
【数17】
として算出する。この工程は、制御切替手段4における切替後切替元指令値算出部4cで行われる。このようにして、切替元制御装置による制御から切替先制御装置による制御へと制御が切替えられた後の段階における、切替元制御装置に対する流路開度指令値x(t)を算出したら、処理はS8へと進められる。
【0060】
S8では、切替元制御装置の流路開度に上記フィードフォワード制御開度変更操作量dx
ref(t)を反映させることに伴う溶鋼注入量変化及び鋳造速度変更による溶鋼流出量変化を補償する、切替先制御装置に対するフィードフォワード制御開度操作量dy
FF(t)を、切替先制御装置で溶鋼湯面レベルをフィードバック制御する際の流路開度指令値y
FB(t)に加えることにより、切替先制御装置の流路開度指令値y(t)を算出する。この工程は、制御切替手段4における切替後切替先指令値算出部4dで行われる。dy
FF(t)は、上記S4と同様に、方程式
【0061】
【数18】
の数値解、又は1次近似解として
【0062】
【数19】
にしたがって算出する。これをy
FB(t)に加えることにより、現在の制御周期における切替先制御装置の流路開度指令値y(t)を
【0064】
一方、S1で否定判断がなされた場合には、切替元制御装置による制御が継続される。本実施形態では、湯面レベル制御に用いられない制御装置は流路開度を全開にするので、S1で否定判断がなされた場合には、S11において切替元制御装置のフィードバック制御指令値を算出し、続いて、S12において切替先制御装置の流路開度を全開にするように指令値が決定される。これらの指令値は、制御切替手段4で算出され、算出された指令値は、制御切替手段4から切替元制御装置及び切替先制御装置へ向けて出力される。
【0065】
以上、切替元制御装置がスライディングゲート方式湯面制御装置5であり、切替先制御装置がストッパー方式湯面制御装置3である場合について説明したが、本発明は当該形態に限定されない。切替元制御装置がストッパー方式湯面制御装置であり、切替先制御装置がスライディングゲート方式湯面制御装置である場合は、上記処理において、ストッパー方式湯面制御装置とスライディングゲート方式湯面制御装置とを入れ替えた、以下のような処理を行えば良い。
【0066】
(1)時刻t=T
1より、制御装置切替処理を開始する。この時刻までは、スライディングゲートは全開開度で待機しておく。
【0067】
(2)時刻t>T
1より、ストッパー開度が予め定めた開度を上回るまでは、制御周期Δtごとに、湯面レベル計6による実測値と予め定めた目標値との偏差に基づき、ストッパーのフィードバック制御指令値y
FB(t)を算出するとともに、ストッパーの開度が時刻T
1以後の所定の時間内に全開開度に達するように、予め定めた時間関数で定まるストッパー開度の速度軌道に基づき、当該制御周期におけるストッパー開度の変更操作量dy
ref(t)を算出して、ストッパーの流路開度指令値y(t)を
【0069】
(3)次に、ストッパーの流路開度指令値にy
FB(t)を反映させることに伴う溶鋼注入量変化及び鋳造速度変更による溶鋼流出量変化の影響を打ち消すためのスライディングゲートのフィードフォワード制御開度操作量dx
FF(t)を、方程式
【0070】
【数22】
の数値解として、ニュートン法などの数値解析法を用いて算出する。なお、制御装置の計算負荷低減のため、ニュートン法などの反復法を用いることができない場合には、上記式(12)乃至(14)の関数を用いることでG(x、y、v
c)=G
x(x)+G
y(y)+G
v(v
c)と表すことができるので、方程式(22)の第1次近似解として
【0071】
【数23】
を算出しても良い。時刻tにおけるスライディングゲート方式湯面制御装置への開度指令値x(t)は、上記式(22)の数値解、又は、式(23)を用いて、
【0073】
(4)時刻t=T
2(>T
1)において、ストッパーの開度が予め定めた開度を上回った場合、以降では、ストッパーの開度は予め定めた速度軌道にしたがって算出し、湯面レベルのフィードバック制御はスライディングゲート方式湯面制御装置により行う。
時刻tにおけるストッパー開度y(t)は、予め定めた時間関数で定まる速度軌道dy
ref(t)を用いて、
【0074】
【数25】
として算出する。一方、同時刻のスライディングゲート開度x(t)は、湯面レベル計による実測値と目標値との偏差に基づくフィードバック制御を行うための制御指令値x
FB(t)に、ストッパー開度及び鋳造速度の変化の影響を補償するためのフィードフォワード制御開度変更量dx
FF(t)を加えることにより算出する。dx
FF(t)は、上記(3)と同様に、方程式
【0075】
【数26】
の数値解、又は、第1次近似解
【0076】
【数27】
としてdx
FF(t)を算出し、これにx
FB(t)を加えることにより、
【0077】
【数28】
を算出する。以上の処理を制御周期ごとに行うことにより、切替元制御装置がストッパー方式湯面制御装置であり、切替先制御装置がスライディングゲート方式湯面制御装置であっても、鋳造中に溶鋼流量制御装置を切替える際の鋳型内湯面レベルの変動を抑制することができる。
【実施例】
【0078】
タンディッシュから鋳型へ向けて流れる溶鋼の流量を調節可能な、スライディングゲート方式の湯面制御装置及びストッパー方式の湯面制御装置を備える連続鋳造機における鋳造中に、湯面レベルを制御する制御装置をスライディングゲート方式の湯面制御装置からストッパー方式の湯面制御装置へと切替える際に、本発明又は従来技術を適用したときの鋳型内の湯面レベルの変化を調べた。本発明を適用する場合、及び、従来技術を適用する場合の何れにおいても、同一の連続鋳造機を使用し、溶鋼の流量制御に使用されていない湯面制御装置の流路開度は全開開度に維持し、且つ、制御周期(Δt)は0.1秒とした。また、本発明を適用する場合、及び、従来技術を適用する場合の何れにおいても、切替元制御装置で溶鋼湯面レベルをフィードバック制御する際の流路開度指令値(x
FB(t))、及び、切替先制御装置で溶鋼湯面レベルをフィードバック制御する際の流路開度指令値(y
FB(t))の算出方法は同一とした。さらに、本発明を適用する場合、切替元制御装置(スライディングゲート方式の湯面制御装置)の流路開度を全開開度に近づけるフィードフォワード制御開度変更操作量(dx
ref(t))は、工業用パーソナルコンピュータで算出した。なお、今回使用した連続鋳造機(スラブ用連続鋳造機)は、タンディッシュ、及び、開口部が長辺1.6m,短辺0.27mの長方形である鋳型を備えており、スライディングゲート上ノズル内径D
2は0.075m、浸漬ノズル内径D
4は0.070mであった。
【0079】
<実施例1>
制御装置をスライディングゲート方式の湯面制御装置からストッパー方式の湯面制御装置へと切替える際に、制御周期毎に上記方程式(11)をニュートン法で数値的に解くことでストッパーのフィードフォワード制御開度操作量dy
FF(t)を算出して、制御を行った。このときの、湯面偏差、流路開度、及び鋳造速度の経過を
図5に示す。
図5(a)の縦軸は湯面偏差[mm]、
図5(b)の縦軸は流路開度(左側の縦軸:ストッパー開度、右側の縦軸:スライディングゲート開度)[mm]、
図5(c)の縦軸は鋳造速度[m/min]であり、
図5(a)乃至(c)の横軸は時間[s]である。
本実施例において、スライディングゲート開度の変更軌道は、一定速度で全開開度に近づくものとした。t=T
1の直後においてスライディングゲート開度の変更速度が緩やかになっているのは、t=T
1において鋳造速度が低下開始しており,その影響を補償するため,スライディングゲート開度を閉方向に操作するフィードフォワード開度操作量が加わったためである。ニュートン法で数値的に解いたdy
FF(t)を用いて制御した結果、
図5(b)に示したように、ストッパー開度は時刻t=T
1より切替処理を開始した直後は急速に閉方向へと近づき、その後、一定開度に漸近した。この制御の結果、
図5(a)に示したように、湯面レベルはほとんど変化が見られなかった。
【0080】
<実施例2>
制御装置をスライディングゲート方式の湯面制御装置からストッパー方式の湯面制御装置へと切替える際に、制御周期毎に上記方程式(11)の第1次近似解をフィードフォワード制御開度操作量dy
FF(t)として、制御を行った。このときの、湯面偏差、流路開度、及び鋳造速度の経過を
図6に示す。
図6(a)の縦軸は湯面偏差[mm]、
図6(b)の縦軸は流路開度(左側の縦軸:ストッパー開度、右側の縦軸:スライディングゲート開度)[mm]、
図6(c)の縦軸は鋳造速度[m/min]であり、
図6(a)乃至(c)の横軸は時間[s]である。
本実施例において、スライディングゲート開度の変更軌道は、一定速度で全開開度に近づくものとした。t=T
1の直後においてスライディングゲート開度が変更されなかったのはt=T
1において鋳造速度が低下開始しており,その影響を補償するため,スライディングゲート開度を閉方向に操作するフィードフォワード開度操作量が加わったためであり、スライディングゲート開度の変更開始後に、スライディングゲート開度の変更速度が緩やかに揺らいでいるのは、ストッパー開度フィードフォワード操作量として上記方程式(11)の第1次近似解を用いているため,上記方程式(11)の左辺関数の近似誤差が外乱となり湯面レベルを変動させ,フィードバック制御によるスライディングゲート開度操作を引き起こしたためである。dy
FF(t)に第1次近似解を用いて制御した結果、
図6(b)に示したように、ストッパー開度は時刻t=T
1より切替処理を開始した直後は急速に閉方向へと近づき、その後、一定開度に漸近した。この制御の結果、
図6(a)に示したように、湯面レベルの変動は抑制されたが、実施例1の場合よりも湯面レベルの変動幅が大きかった。
【0081】
<比較例>
制御装置をスライディングゲート方式の湯面制御装置からストッパー方式の湯面制御装置へと切替える際に本発明を使用せず、特許文献2に開示されている技術のように、切替制御装置の切替指令入力直後からストッパー方式の湯面制御装置のストッパー開度を一定速度で閉方向に変更しながら、スライディングゲート方式の湯面制御装置で湯面レベルをフィードバック制御し、ストッパーが所定の開度に到達したときに、フィードバック制御をストッパー方式の湯面制御装置へと切替えるように制御を行った。このときの、湯面偏差、流路開度、及び鋳造速度の経過を
図7に示す。
図7(a)の縦軸は湯面偏差[mm]、
図7(b)の縦軸は流路開度(左側の縦軸:ストッパー開度、右側の縦軸:スライディングゲート開度)[mm]、
図7(c)の縦軸は鋳造速度[m/min]であり、
図7(a)乃至(c)の横軸は時間[s]である。
図7(a)に示したように、本比較例では、時刻t=T
1より切替処理を開始した後、ストッパー開度が全開に近い場合には、湯面レベルが目標値に制御されたが、ストッパー開度が小さくなると急激に湯面レベルが降下した。ストッパー開度が所定の開度に到達していないために、ストッパー開度が小さくなってもスライディングゲート方式の湯面制御装置によるフィードバック制御が継続されている間は、スライディングゲート開度を全開に近づけても湯面レベルを目標値に復帰させることはできず、その後、ストッパー方式の湯面制御装置に湯面レベルのフィードバック制御が切り替わった直後から、湯面レベルは元の目標値に制御される状態へと急激に戻った。
図5(a)、
図6(a)、及び、
図7(a)より、比較例における湯面レベルの変動幅は、実施例1及び実施例2における湯面レベルの変動幅よりも極めて大きい。この結果から、本発明によれば、鋳造中に溶鋼流量制御装置を切替える際の鋳型内湯面レベルの変動を抑制することが可能であることが示された。