(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(b)〜(d)が、PCR、LAMP、NASBA、ICAN、TRC、SDA、TMA、SMAP、RPA、HDAよりなる群から選ばれる1つにより行われる工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の標的塩基配列の検出方法。
前記検出用プライマーと、前記競合プライマーとを、異なる種類の標識物質でそれぞれ標識し、前記工程(e)が、前記検出用プライマーからの伸長産物と、前記競合プライマーからの伸長産物とを別個に検出する工程であることを特徴とする請求項4又は5に記載の標的塩基配列の検出方法。
前記工程(e)は、前記工程(b)〜(d)と同時に行われる工程であって、標識されたプライマーからの伸長産物が、2本鎖を形成している状態を検出する工程であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の標的塩基配列の検出方法。
【背景技術】
【0002】
近時、世界的なヒトゲノム解析により、その約31億個の塩基対の配列が明らかにされ、ヒトの遺伝子の数が約3〜4万個であることが明らかとなった。
【0003】
ヒトには個体間で塩基配列の違いが存在し、特定の集団人口の1%以上の頻度で存在するものを遺伝子多型と呼んでいる。その中でも遺伝子の塩基配列が一塩基だけ異なっている一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism、SNP)は、種々の疾患と関連性があることが示唆されている。例えば、ヒトの遺伝子病は、一つの遺伝子中の一塩基の違いが病気の原因となると考えられている。また、生活習慣病やガンなどは、複数の遺伝子における一塩基の違いが影響していると考えられている。
したがって、SNPの解析は、創薬ターゲットの探索または副作用の予見などの医薬品の開発において、極めて有効であると考えられる。このため、SNPの解析は世界的な巨大プロジェクトとして押し進められている。
【0004】
薬物の効果や副作用の程度に個人差があることの原因の一つとして、個々人の薬物代謝に関わる酵素群の違いが挙げられる。その違いも遺伝子上のわずかな違いによるものであることが最近明らかにされつつある。
そこで、あらかじめ患者の遺伝子を解析することによって、最適な薬剤を選択し患者に投与する方法が考えられている。さらに、単一遺伝子疾患のみならず多因子疾患についても、遺伝子診断の意義が急速に高まりつつある。
【0005】
また、病原細菌やウイルスを標的とした薬物の効果は、同一種であっても、個体毎に異なることがあり、これらは個体毎の遺伝子の微細な違いによることが多い。このような外来因子である病原細菌やウイルスの遺伝子診断も、今後は検査対象が確実に増加することが予想される。
【0006】
このようにポストゲノム時代の医療においては、ヒトや病原微生物の遺伝子の微細な違い、とりわけ一塩基の違いを検出できることは重要であり、今後もその重要性が増すと予想される。
【0007】
これまでに、塩基配列における微細な違い、とりわけ一塩基の違いを検出する方法が種々検討されている(非特許文献1〜2参照。)。
しかしながら、実用レベルでの検出を行うためには、低コスト、方法の簡便性、検出時間の短さ、検出結果の正確さなどの点がいずれも優れていることが要求される。しかしながら、現在までのところ、上記要求を満たす方法は知られていない。
【0008】
遺伝子の微細な違い、とりわけその一塩基の違いを検出する場合、目的とする遺伝子断片は試料中にわずかしか含まれていないのが一般的である。この場合、目的とする遺伝子を、何らかの方法によって予め増幅させておくことが必要となる。このような遺伝子増幅法としては、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法が挙げられる。
【0009】
一般的に、目的の遺伝子の一塩基の違いを検出するためには、遺伝子増幅の段階と、増幅させた遺伝子の一塩基の違いを調べる段階との二段階の工程を必要とする(非特許文献2参照。)。しかしながら、二段階の工程を必要とする方法は、工程が複数あるため、処理が煩雑となる。
【0010】
このような二段階の工程の煩雑さを改善するため、例えば、蛍光色素とクエンチャーがついたプローブを用いるTaqMan法(非特許文献3参照。)や、質量分析計によるDNAの質量分析を利用したMALDI−TOF/MS法(非特許文献4参照。)等が報告されている。また、遺伝子の増幅を必要としない方法として、DNAの構造を認識して切断する酵素を用いるInvader法(非特許文献5参照。)が報告されている。しかしながら、これらの方法は依然として実施するコストが高く、またプローブの設計も複雑である。
【0011】
一方、遺伝子の増幅と一塩基の識別とを同時に行う方法が報告されている(非特許文献6参照。)。この方法は、DNAポリメラーゼの伸長反応において、プライマーの3’末端がサンプル中の鋳型DNAと相補的(以下、マッチ)であるか否かによって、伸長反応が起こったり起こらなかったりすることを利用するものである。すなわち、PCR反応に用いられる一対のプライマーセットにおいて、一方のプライマーの3’末端が一塩基多型に相補的な塩基を有るようにプライマーを設計すると、プライマーが鋳型と完全にマッチである場合には、伸長反応が起こり、他方のプライマーとの間で増幅反応が引き起こされる。ところが、一方のプライマーと鋳型との間で一塩基のミスマッチがある場合には、そのプライマーからの伸長反応は起こりにくく、他方のプライマーとの間での増幅反応も起こりにくい。このようにして増幅反応による増幅産物の量によって、一塩基の識別を行うことができる。この方法によれば、増幅反応後にさらに操作を行って一塩基を識別する必要がない。
【0012】
しかしながら、この方法は、反応条件、例えば、鋳型の量、温度、プライマーの量、または反応基質であるdNTPの濃度などにより、反応が影響を受けやすい。このため、常に再現性のあるデータを得ることが容易でない。
【0013】
別の方法として、例えば、プライマーの3’末端付近に人工的な変異(鋳型とミスマッチである塩基)を導入する方法が検討されている(非特許文献7参照。)。しかしながら、この方法でも、プライマーの最適化に一定の労力を必要とし、識別精度も試料の品質によって影響を受けることがある。
【0014】
これらの問題を解決するために、蛍光色素などで標識された少なくとも二種類のプライマーを競合させる方法が提案されている(特許文献1〜4参照。)。
【0015】
特許文献1〜3に提案されている様な、プライマーの3’末端または末端付近を調べたい塩基の位置に合わせ、サンプル中の標的核酸の塩基とマッチしたときは伸長反応が起こり、ミスマッチのときには伸長反応が起こりにくいことを利用した検出方法をアレル特異的PCR(ASP−PCR)という。
【0016】
アレル特異的PCRを行う際に、2つ以上のアレル特異的なプライマーを競合させた場合と各アレル特異的プライマーを個別に増幅させた場合での塩基識別精度は、競合させたほうが高いことが分かっている(非特許文献8参照。)。これは、検出したいアレルと異なるアレルが存在するとき、異なるアレルにマッチするプライマーが、標的塩基配列に優先的に結合し、検出したいプライマーの非特異伸長反応を抑えるためである。さらに、異なるアレルにマッチするプライマーからの伸長が効率よく進むことで、伸長反応に必要な材料が消費されるため、検出したいアレルにミスマッチであるプライマーによるプライマーダイマーの生成を抑制することもできる。このようにプライマーを競合させる方法を競合オリゴヌクレオチドプライミング(Competitive Oligonucleotide Priming、COP)といい、特許文献1〜4においては、COPが用いられている。
【0017】
特許文献1で提案されている方法は、標的核酸に対して、ミスマッチ塩基の数が異なる複数の競合プライマーを用いた時に、ミスマッチ塩基の数が少ない競合プライマーが標的核酸と2本鎖を形成しやすいという性質を利用した方法であり、標的核酸中の一塩基変異を簡便に検出する場合には優れた方法である。
しかしながら、この方法では、SNP解析の際に擬陽性が出る可能性がある。これは、標的核酸中の一塩基変異にのみ着目して競合プライマーの設計を行っているため、ミスマッチ塩基の数が多い競合プライマーからの伸長を抑制する能力が不十分であるためと考えられる。
【0018】
アレル特異的PCRに用いられるアレル特異的プライマーは、3’末端付近での標的核酸との2本鎖の安定性が重要であり、3’末端付近において、識別したい塩基以外の塩基が標的核酸と相補にならないように設定することでさらに塩基識別を高めることができる。
【0019】
特許文献2で提案されているSNP検出方法においては、特許文献1で問題となっていた擬陽性を低減すべく、競合プライマーの3’末端にSNPを識別する塩基を導入し、更に3’末端から2〜5塩基のいずれか1つ以上に人工的な変異を導入している。
【0020】
また、特許文献3で提案されている塩基多型の検出方法においては、競合プライマーの3’末端から5番目までの位置に人工的な変異を導入している。
【0021】
特許文献2〜3に提案されている方法は、競合プライマー間で同じ位置に同じ変異を導入したものであり、プライマーの3’末端付近が標的核酸とマッチであれば効率よく伸長反応が進み、ミスマッチ塩基が増えるほど伸長効率が落ちることを利用したものである。また、ミスマッチ塩基が増えることによってプライマーと標的核酸との2本鎖が全体として不安定になることも伸長効率の低下に関連している。
【0022】
特許文献4で提案されている塩基多型の検出方法では、競合プライマー間で同じ位置に異なる変異を導入することが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の標的塩基配列の検出方法は、多型塩基を有する標的核酸を検出する方法である。
【0033】
本発明において、標的塩基配列とは、多型塩基を有する塩基配列をいう。
本発明において、標的塩基配列を検出するとは、核酸試料中に含まれている核酸の塩基配列が、既知の塩基配列と同一の塩基配列であるか否かを検出することをいう。
【0034】
本明細書および特許請求の範囲において、識別対象である多型を有する核酸を「標的核酸」という。
標的核酸は、多型塩基を含有する塩基配列からなり、前記標的核酸とアニール可能なプライマーを設計できる程度に塩基配列が明らかにされているものであれば、特に限定されるものではない。
【0035】
また、標的塩基配列が有する多型塩基は、一塩基多型であれば、SNPのような先天的な多型であってもよく、体細胞変異等の後天的な多型であってもよい。
SNP(一塩基多型)とは、同一生物種の個体間のゲノム塩基配列中に一塩基の違いがあり、その変異が集団内で1%以上の頻度で見られるものと定義されている。
一方、体細胞変異とは同一固体内において後天的に生じた遺伝子の細胞間での違いを意味する。また、変異部位とは、配列中における塩基の相違する部位を意味する。塩基配列中の変異は一塩基置換のみならず複数の塩基が置換、欠失あるいは挿入されている場合がある。
【0036】
検出の対象とする多型としては、たとえば、遺伝病、生活習慣病、がん等の各種疾患、薬物代謝に関連する遺伝子の多型等が挙げられる。本発明は、特に、ワルファリンの至適投与量に関連する遺伝子であるビタミンKエポキシド還元酵素複合体1(VKORC1)のイントロン1領域の1173位における遺伝子多型(1173C>T)や、がん遺伝子K−Rasの12番目又は13番目のコドンにおける変異の検出に好適に用いられる。
【0037】
本発明において、検出用プライマーとは、標的塩基配列を検出するプライマーをいう。
検出用プライマーは、多型塩基に相補的なマッチ塩基と、前記標的塩基配列に対して、多型塩基以外に少なくとも1つのミスマッチ塩基とを有する。
検出用プライマーが有するミスマッチ塩基の数は、1つでもよく、2つ以上でもよい。好ましくは、1〜5であり、より好ましくは、1〜3であり、特に好ましくは1又は2である。
【0038】
本発明において、競合プライマーとは、標的核酸中の多型塩基を含む領域に対して、前記検出用プライマーと競合的にアニールするプライマーであり、多型塩基に非相補的なミスマッチ塩基を有する。競合プライマーは、多型塩基に非相補的なミスマッチ塩基を有するため、標的核酸にアニールした際に、標的核酸中の多型塩基とは塩基対を形成しない。また、競合プライマーは、多型塩基に非相補的なミスマッチ塩基に加えて、前記標的塩基配列に対して、多型塩基以外に少なくとも1つのミスマッチ塩基を有する。
競合プライマーが有するミスマッチ塩基の数は、1つでもよく、2つ以上でもよい。好ましくは、1〜5であり、より好ましくは、1〜3であり、特に好ましくは1又は2である。
【0039】
尚、本発明において、マッチとは、2本鎖を形成しているDNA塩基対がワトソンクリック型塩基対を形成している状態を意味し、ミスマッチとはワトソンクリック型塩基対を形成していない状態を意味する。ワトソンクリック型塩基対とはデオキシリボ核酸の2本のポリヌクレオチド分子が、アデニン(A)とチミン(T)(もしくはウラシル(U))、グアニン(G)とシトシン(C)という組を作り、水素結合で繋がったものをいう。ミスマッチ塩基は天然塩基でも人工塩基でも構わないが、鋳型の塩基と異なっている必要がある。
【0040】
検出用プライマーが有する少なくとも1つのミスマッチ塩基の位置は、前記競合プライマーが有するミスマッチ塩基の位置とは異なる。従って、検出用プライマーと競合プライマーとの間では、塩基配列が少なくとも3塩基異なる。
ここで、ミスマッチ塩基の位置とは、鋳型とプライマーが2本鎖を形成したときに、プライマー中において多型塩基に対応する塩基を基準とした位置をいう。
標的核酸に対して両者を競合的にアニールさせることにより、多型塩基検出精度を向上させることができる。これは、検出したいアレル(本発明における標的核酸)と異なるアレルが存在するとき、目的のアレルを検出できるプライマーを検出用プライマーとし、異なるアレルを検出できるプライマーを競合プライマーとして用いた場合には、当該異なるアレルに競合プライマーが優先的に結合することにより、検出用プライマーの非特異反応を抑えるためである。また、3’末端付近の安定性の違いから競合プライマーからの伸長が効率よく進むことで、伸長反応に必要な材料が消費されるため、検出用プライマーからの非特異増幅を抑えることもできる。
【0041】
本発明において、検出用プライマー及び競合プライマーは、標的塩基配列に本質的に相補的である。ここで、本発明において本質的に相補的であるとは、オリゴヌクレオチドが、伸長反応の反応条件下において、特定の配列を持つ標的核酸と2本鎖状態を形成することのできる塩基配列を持つことを意味し、必ずしも完全に相補的である必要はなく、いくつかのミスマッチ塩基対を含んでいてもよい。
【0042】
また、検出用プライマー及び競合プライマーは、標的塩基配列中であれば、アニールする領域が異なっていてもよい。標的核酸に競合的にアニールさせる点からは、検出用プライマーがアニールする領域と同じ領域において、標的核酸と競合プライマーとがアニールするように、両プライマーを設計することが好ましい。
【0043】
本発明において検出用プライマーは、3’末端、または3’末端から2塩基目に多型塩基に相補的な塩基を有することが好ましい。標的核酸に競合的にアニールさせる点から、競合プライマーは、3’末端、または3’末端から2塩基目に多型塩基に非相補的な塩基を有することが好ましい。
【0044】
例えば、標的塩基配列が5’−ATGCATGC−3’であり、5’末端から5塩基のAが多型塩基であったときに、この多型塩基Aを検出する検出用プライマーは3’末端付近の配列を5’−GCAT−3’または5’−GCATG−3’とすることができる。このとき競合プライマーは、3’末端付近の配列を5’−GCAG−3’ または5’−GCAGGとすることができる。前記の例は一例であり、ミスマッチにする塩基はマッチになる1種の塩基を除いて3種類の中から選ぶことができる。検出用プライマーが鋳型の塩基を識別する位置は3’末端、または3’末端から2塩基目がより好ましいが、3’末端から離れていてもよい。
【0045】
競合プライマー塩基配列中の、多型塩基とミスマッチにする塩基の塩基種は、標的塩基配列以外の遺伝子型の多型とマッチする塩基種とすることが好ましい。例えば、野生型がCであり、変異型がAである多型を検出する場合であって、変異型を検出する場合に、多型塩基Aを含む塩基配列を標的塩基配列とする場合、競合プライマーは、多型塩基Aと非相補的な塩基として、A、G、Cのいずれを選択してもよいが、野生型と相補的であるGを選択することが好ましい。
【0046】
本発明において、競合プライマーは、1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。例えば、後述するK−rasのように、複数の遺伝子型がある多型の場合には、検出対象である遺伝子型以外の各遺伝子型にそれぞれマッチする複数種類の競合プライマーを用いることが好ましい。
【0047】
本発明において共通プライマーとは、検出用プライマー又は競合プライマーと対になって標的核酸を増幅しうるものであり、検出用プライマー又は競合プライマーからの伸長産物の3’末端側の10〜30塩基とマッチである配列を持ち、PCR反応において検出用プライマー又は競合プライマーからの伸長産物を鋳型として伸長を行う能力を持つものをいう。本発明においては、2種類以上の共通プライマーを用いてもよく、2種類以上の共通プライマーが競合関係にあってもよい。競合関係にある2種類以上の共通プライマーは多型塩基配列を含んでいてもよい。
【0048】
検出用プライマー及び競合プライマーが有する多型塩基以外の塩基に非相補的なミスマッチ塩基が、前記検出用プライマーでは多型塩基に相補的なマッチ塩基から、前記競合プライマーでは多型塩基に非相補的なミスマッチ塩基から、いずれも17塩基以内に位置することが好ましく、8塩基以内に位置することがより好ましい。
【0049】
検出用プライマー及び競合プライマーは、それぞれ複数のミスマッチ塩基を有してもよい。検出用プライマー及び競合プライマーがそれぞれ2つのミスマッチ塩基を有している場合には、前記検出用プライマー及び前記競合プライマーにおいて、第1のミスマッチ塩基が、3’末端から6塩基以内に位置し、第2のミスマッチ塩基が、3’末端から7塩基以上5’ 末端側に位置していることが好ましい。
更に、検出用プライマーの第1のミスマッチ塩基の位置が、前記競合プライマーが有する第1のミスマッチ塩基の位置とは異なっていることが好ましい。
【0050】
また、検出用プライマー及び競合プライマーにおいて、第2のミスマッチ塩基は、互いに位置が異なっていてもよく、塩基種が異なっていてもよい。
つまり、同じ位置の場合には、塩基種が異なっていてもよい。
本発明において、「前記検出用プライマーの第2のミスマッチ塩基と前記競合プライマーの第2のミスマッチ塩基が互いに異なる」とは、具体的には、両者の位置が異なる場合、又は、両者の位置が同じであり、かつ塩基種が異なる場合を意味する。
本発明において、検出プライマーと競合プライマーにおける、第2のミスマッチ塩基の位置が同じであってもよい。
【0051】
検出用プライマー及び競合プライマーにおいて、第2のミスマッチ塩基は、3’末端から7塩基以上離れていることが好ましく、3’末端から9塩基以上離れていることがより好ましい。
また、第2のミスマッチ塩基は、プライマーの中央付近に配置することが、検出プライマーからの増幅反応の効率を上げることができる点で好ましい。例えば、20〜25塩基のプライマーを用いた場合には、第2のミスマッチ塩基は、3’末端から7〜15塩基目に位置していることが好ましく、9〜15塩基目に位置していることがより好ましい。
【0052】
検出プライマーおよび競合プライマーの長さは、識別能や反応性に影響を与える場合がある。例えば、鎖長が長いプライマーほど標的核酸に優先的にアニールする傾向にある。従って、より精度よく標的塩基配列を検出するためには、前記競合プライマーと前記検出用プライマーの鎖長の差は16塩基以内であることが好ましく、2塩基以内であることがより好ましく、1塩基以内であることが特に好ましい。
例えば、鎖長に差があり競合プライマーの鎖長が長い場合には、競合プライマーが、検出用プライマーよりも優先してアニールし、検出プライマーのアニールが阻害される場合がある。逆に、検出プライマーの鎖長が長い場合には、検出プライマーが、競合プライマーよりも優先してアニールし、競合プライマーのアニールが阻害される場合がある。このため、検出プライマーと競合プライマーの鎖長は同程度であることが好ましい。
【0053】
次に、本発明の標的塩基配列の検出方法について、
図1〜
図6を用いてより詳細に説明する。
【0054】
図1は、従来の標的塩基配列の検出方法の一態様を模式的に示した図である。
図1には反応組成物の一部として、遺伝子多型(C>T)を有する鋳型S、検出用プライマー(プライマーA:フォワードプライマーに相当)、競合プライマー(プライマーB:フォワードプライマーに相当)及び共通プライマー(リバースプライマーに相当)が挙げられている。
検出用プライマー及び競合プライマーがアニールした鋳型Sとのミスマッチ部位に下線を付した。
プライマーAは、検出用プライマーであり、プライマーAにおいて、3’末端に多型塩基を検出する塩基としてグアニン、3’末端から2塩基目に多型塩基以外の塩基に非相補的なミスマッチ塩基としてチミンが導入されている。
また、プライマーBは、競合プライマーであり、プライマーBにおいて、3’末端に多型塩基に非相補的なミスマッチ塩基としてアデニン、3’末端から2塩基目に多型塩基以外の塩基に非相補的なミスマッチ塩基としてチミンが導入されている。
ここで、プライマーA及びBに導入された変異の塩基及び導入位置は同じである。
鋳型Sに、4種類のデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)、DNAポリメラーゼ及び共通プライマーと共に2種類のプライマー(プライマーA及びB)を同時に作用させることで、検出用プライマー又は競合プライマーと、共通プライマーとの間で遺伝子が増幅される。
【0055】
ここで、本明細書中において、RoundとはPCRにおける2サイクルをいう。例えば1Roundとは、検出用プライマー又は競合プライマーが鋳型とアニールした後、伸長反応し、変性後に検出用プライマー又は競合プライマーからの伸長生成物と共通プライマーがアニールし、検出用プライマー又は競合プライマーからの伸長産物を鋳型として共通プライマーから伸長反応する工程を意味する。
【0056】
図1において、1st Round目ではプライマーAはプライマーBと比較して鋳型Sと形成した2本鎖がより安定であるために伸長反応の効率が高い。両方のプライマーの3’末端から2塩基目に鋳型Sとミスマッチになるチミンを導入することにより、プライマーAからの特異的伸長効率とプライマーBからの非特異的伸長効率の差を大きくすることができるためである。
しかし、低頻度ながらも非特異的伸長反応によって生じた伸長産物は、次のサイクルで共通プライマーの鋳型(鋳型b)となって複製され、プライマーBの配列に相補的な配列を含むDNA(鋳型b’)が合成される。鋳型a’あるいは鋳型b’は、それぞれプライマーAあるいはプライマーBと完全に相補的であり、次のRoundからはいずれも効率よく伸長される。
さらに、次のRoundにおいて、プライマーBの多型塩基以外の塩基に非相補的なミスマッチ塩基は、鋳型a’に対してはマッチとなる。このため、プライマーBは、鋳型a’と2本鎖を形成し、伸長反応する。このため2nd Round以降は、プライマーAとプライマーBの特異性を高めるために導入したミスマッチ塩基の効果がなくなってしまう。鋳型a’はRoundを繰り返すごとに指数関数的に増加するため、特異的伸長反応に比べて効率は低いものの鋳型aおよびa’の増加に伴ってbおよびb’が増加する。
従って、当該方法は、鋳型に対してプライマーAとプライマーBの伸長効率の差をいかに大きくするという点で改良の余地を残している。
【0057】
従来の標的塩基配列の検出方法として、検出用プライマー及び競合プライマーの間で同じ位置に異なる変異を導入している場合を、
図2を用いてより詳細に説明する。
【0058】
図2は、従来の標的塩基配列の検出方法の一態様を模式的に示した図である。プライマーAにおいて、3’末端に多型塩基を検出する塩基としてグアニン、3’末端から2塩基目に多型塩基以外の塩基に非相補的なミスマッチ塩基としてチミンが導入されている。また、プライマーBにおいて、3’末端に多型塩基に非相補的なミスマッチ塩基としてアデニン、3’末端から2塩基目に多型塩基以外の塩基に非相補的なミスマッチ塩基としてシトシンが導入されている。
ここで、プライマーA及びBに導入された変異の導入位置は同じであるが、塩基は異なる。
図1と比較すると、鋳型a’に対する非特異的伸長反応は3’末端が2塩基のミスマッチとなり、多型塩基を検出するための位置以外に導入したミスマッチ塩基の効果が持続し非特異的反応は抑制される。
しかしながら、鋳型a’は増幅の過程で増え続けるため、より効果的な非特異伸長反応の抑制が必要である。
【0059】
次に本発明の検出方法を
図3〜5を用いて説明する。
【0060】
図3、
図4は、本発明において、多型を検出する塩基以外に導入したミスマッチ塩基の位置が検出用プライマーと競合プライマー間で異なる場合である。プライマーの構成以外は、
図1で説明したものと同様であるため説明を省略する。検出用プライマー及び競合プライマーがアニールした鋳型S又は鋳型a’とのミスマッチ部位に下線を付した。
【0061】
図3において、プライマーAは鋳型Sに対して3’末端はマッチであるが、3’末端から2塩基目がミスマッチである。一方、プライマーBは鋳型Sに対して3’末端と3’末端から3塩基目がミスマッチである。この場合、2nd Round以降、プライマーBは鋳型a’に対して3’末端で3塩基がミスマッチとなり、非特異伸長反応は非常に効果的に抑制される。多型塩基を検出する塩基以外に導入するミスマッチ塩基は、1塩基にもかかわらず競合するプライマー間で位置を変えることで、非常に大きな効果をもたらす。
【0062】
図4において、プライマーAは鋳型Sに対して3’末端はマッチであるが、3’末端から2塩基目がミスマッチである。一方、プライマーBは鋳型Sに対して3’末端と3’末端から5塩基目がミスマッチである。この様な場合でもプライマーBは鋳型a’に対して3’末端の2塩基および3’末端から5塩基目の一塩基がミスマッチになるので非特異反応は効果的に抑制される。
【0063】
図5は、本発明において、多型塩基を検出する塩基をプライマーの3’末端から2塩基目に設定した場合を示したものである。この場合も多型塩基を検出するための塩基以外に導入したミスマッチ塩基がそれぞれのプライマーで一塩基であるにもかかわらずプライマーBは鋳型a’に対して3’末端で3塩基のミスマッチとなり非特異反応は効果的に抑制される。
【0064】
図6は、本発明において、競合プライマーを3種類用いた場合を示したものである。プライマーの構成以外は、
図1で説明したものと同様であるため説明を省略する。検出用プライマー及び競合プライマーがアニールした鋳型S又は鋳型a’とのミスマッチ部位に下線を付した。
一般的なSNPにおいてはアレルの種類は2種類であることが多いが、まれには3種類の場合がある。さらに、がん遺伝であるK−rasにおいては一箇所で可能性のある変異がすべて見出されている。このような場合、それぞれ4種類の塩基に対応する4種類のプライマーを競合させることが好ましい。
【0065】
図6において、K−rasの変異を検出する位置をプライマーの3’末端とする。
プライマーAはシトシン塩基を検出するもので、3’末端は鋳型Sとマッチであり、3’末端から2塩基目に鋳型Sとミスマッチな塩基としてチミンを導入している。
プライマーBはチミン塩基を検出するもので、3’末端は鋳型Sとミスマッチであり、さらに3’末端から3塩基目に鋳型Sとミスマッチな塩基としてチミンを導入している。
プライマーCはグアニン塩基を検出するもので、3’末端は鋳型Sとミスマッチであり、さらに3’末端から4塩基目に鋳型Sとミスマッチな塩基としてチミンを導入している。
同様にプライマーDはアデニン塩基を検出するもので、3’末端は鋳型Sとミスマッチであり、さらに3’末端から5塩基目に鋳型Sとミスマッチな塩基としてチミンを導入している。
この場合、プライマーB、CおよびDそれぞれは鋳型a’と3塩基ミスマッチになり、各プライマーからの非特異伸長反応が効果的に抑制される。
よって、本発明では競合する2種以上のアレル特異的なプライマーを競合させる場合においても、変異を識別する塩基以外に導入する変異の位置をそれぞれのプライマーで変えることにより、非特異伸長反応を実用的レベルで抑制することが可能となる。
【0066】
図3で示した本発明による効果について、マイクロソフト・エクセルを用いた計算によりシミュレーションを行った。まず、検出するSNPがシトシンかチミンであるかを想定し、4種類のプライマーを設計した。鋳型およびプライマーの配列を表1に示す。
【0067】
【表1】
太字:多型塩基位置 下線:鋳型(Cアレル)とミスマッチな塩基
【0068】
プライマー[1]はCアレル検出用であり、3’末端はグアニンで、3’末端から2塩基目は鋳型とミスマッチなチミンである。
プライマー[2]はTアレル検出用であり、3’末端がアデニンで3’末端から2塩基目はプライマー[1]と同様、鋳型とミスマッチなチミンである。
プライマー[3]はプライマー[2]と同様Tアレル検出用だが、3’末端から2塩基目に導入したミスマッチになる塩基がシトシンであり、プライマー[1]とは異なる。
プライマー[4]はTアレル検出用であり、プライマー[1]のミスマッチ塩基を導入した位置とは異なるように3’末端から3塩基目にミスマッチ塩基としてチミンを入れたものである。
【0069】
シミュレーションに際し、以下のような設定を行った。
・ 初期の鋳型濃度(鋳型S)を1とする。
・ 鋳型Sあるいは伸長産物(鋳型a’、鋳型b’)がそれぞれのプライマーと2本鎖を形成する割合を同等とする。
・ 共通プライマーからの伸長効率は1とする。
【0070】
表2はプライマー[1]とプライマー[2]、プライマー[3]またはプライマー[4]を競合させた場合のプライマー伸長効率を仮定したものである。伸長効率はかなり大胆な仮定であるが、それぞれのミスマッチの数と伸長反応の効率の順序は妥当な仮定である。鋳型SがCアレルである場合を想定したものである。2本鎖の[1]、[2]、[3]および[4]はプライマー[1]、プライマー[2]、プライマー[3]、およびプライマー[4]に相当し、Sは鋳型S、[1]’はプライマー[1]からの伸長生成物を鋳型として共通プライマーから伸長してできたもの、[2]’はプライマー[2]からの伸長生成物を鋳型として共通プライマーから伸長してできたもの、以下[3]’および[4]’も同様である。配列の上段がプライマー、下段が鋳型の配列を示している。
尚、プライマーにおいて、鋳型とミスマッチな塩基に下線を付した。
【0072】
表3〜表8にプライマー[1]とプライマー[2]、プライマー[3]またはプライマー[4]とを競合させた場合の20Roundまでの計算結果を示した。尚、プライマーにおいて、鋳型とミスマッチな塩基を斜体で示した。
また、各Roundでプライマーから伸長される産物量を表すグラフを
図7A〜9Bに示した。
図7Aはプライマー[1]から伸長される伸長産物の鋳型の内訳を示し、
図7Bはプライマー[2]から伸長される伸長産物の鋳型の内訳を示している。
【0079】
図7A及び7Bより、プライマー[1]と[2]の組み合わせでは、鋳型とプライマーがミスマッチの場合でも、高頻度で伸長が行われるため、プライマー[2]からの伸長産物量が多い。特に、[1]’とプライマー[2]が2本鎖を形成して伸長反応が起こってしまう(
図7B;[1]’を鋳型とした伸長)と、次のRoundからはプライマー[2]とマッチな鋳型ができてしまう(
図7B;[2]’を鋳型とした伸長)ため、プライマー[2]からの伸長産物がさらに増えてしまう結果となる。また、[2]’は、プライマー[1]の鋳型にもなりうる(
図7A;[2]’を鋳型とした伸長)ため、プライマー[1]からの偽陽性の伸長産物量も多くなる。
【0080】
図8A及び8Bより、プライマー[1]と[3]の組み合わせでは、鋳型とプライマーがミスマッチの場合には、伸長反応がある程度抑制されるため、プライマー[3]からの伸長産物量は少ない。[1]’とプライマー[3]が2本鎖を形成して伸長反応が起こってしまう(
図8B;[1]’を鋳型とした伸長)と、次のRoundからはプライマー[3]とマッチな鋳型ができ(
図8B;[3]’を鋳型とした伸長)、プライマー[3]からの伸長産物量がさらに増えてしまう。
【0081】
図9A及び9Bよりプライマー[1]と[4]の組み合わせでは、鋳型とプライマーがミスマッチの場合には、ほとんど伸長反応が起こらないため、[1]’を鋳型とするプライマー[4]からの伸長産物量(
図9B;[1]’を鋳型とした伸長)はごくわずかである。よって、プライマー[1]からの伸長産物量が増えてきてもプライマー[4]からの伸長産物量はほとんど増えない。
【0082】
シミュレーション結果より、識別精度は、プライマー[1]と[2]の組み合わせや、プライマー[1]と[3]の組み合わせよりも、プライマー[1]と[4]の組み合わせの方が高い。よって、検出用プライマー及び競合プライマーに導入するミスマッチ塩基の位置を双方で変えることが、識別精度の向上につながることが確認された。
【0083】
本発明の標的塩基配列を検出する方法は、(a)標的塩基配列を含む塩基配列からなる標的核酸を有する核酸試料に、前記標的塩基配列に本質的に相補的な少なくとも1種の検出用プライマーと、前記標的塩基配列に本質的に相補的であり、かつ前記標的核酸に対して前記検出用プライマーと競合的にアニールする少なくとも1種の競合プライマーと、少なくとも1種の共通プライマーと、を添加する工程と、(b)前記核酸試料中の多型塩基を有する標的塩基配列を鋳型として用い、前記標的核酸に、前記検出用プライマーと前記競合プライマーとを競合的にアニールさせ、伸長反応を行い、伸長産物Aを合成する工程と、(c)前記工程(b)または後記工程(d)で得られた前記伸長産物Aと前記共通プライマーをアニールさせ、伸長反応を行い、伸長産物Bを合成する工程と、(d)前記工程(c)で得られた伸長産物Bと前記検出用プライマーまたは前記競合プライマーをアニールさせ、伸長産物Aを合成する工程と、(e)前記伸長産物AまたはBを検出する工程、を有する。
以下、各工程について説明する。
【0084】
まず、工程(a)において、(a)標的塩基配列を含む塩基配列からなる標的核酸を有する核酸試料に、1種の検出用プライマーと、少なくとも1種の競合プライマーと、少なくとも1種の共通プライマーと、を添加する。
【0085】
核酸試料とは、核酸を含有する試料であれば、特に限定されるものではなく、動物、植物、微生物、培養細胞等から核酸を抽出したサンプルであることが好ましい。動物等からの核酸の抽出は、フェノール/クロロホルム法等の公知の手法により行うことができる。なお、核酸試料中に含有される核酸が、2本鎖核酸である場合、あらかじめ1本鎖核酸にしておくことが好ましい。1本鎖核酸を用いることにより、後述する工程(b)において、該1本鎖核酸に、検出用プライマー、競合プライマーをアニールさせることができる。抽出された2本鎖核酸の1本鎖化は、熱エネルギーを加える等の公知の手法により行うことができる。
【0086】
核酸試料中の核酸とは、DNAまたはRNAであれば特に限定されず、天然のものであっても合成されたものであってもよい。天然の核酸としては、たとえば、生物から回収されたゲノムDNA、mRNA、rRNA、hnRNA等がある。また、合成された核酸として、β−シアノエチルホスフォロアミダイト法、DNA固相合成法等の公知の化学的合成法により合成されたDNAや、PCR等の公知の核酸合成法により合成された核酸、逆転写反応により合成されたcDNA等がある。
【0087】
なお、本発明において、オリゴヌクレオチドとは天然、非天然に限らずデオキシリボヌクレオチド(DNA)やリボヌクレオチド(RNA)と同様の機能を有するものをいい、PNAやLNAなどの人工核酸も含まれるものとする。
本発明において、プライマーとは、鋳型と2本鎖状態になり、DNAポリメラーゼや逆転写酵素が DNAを合成する際に3’水酸基を供給する役割をもつ短い核酸の断片である。
【0088】
次に、工程(b)において、核酸試料中の多型塩基を有する標的塩基配列を鋳型として用い、前記標的核酸に、前記検出用プライマーと前記競合プライマーとを競合的にアニールさせ、伸長反応を行い、伸長産物Aを合成する。
【0089】
検出用プライマーまたは競合プライマーが、標的核酸にアニールする反応条件は、特に限定されるものではなく、各プライマーのTm値等を考慮した上で、温度、pH、塩濃度、緩衝液等の通常の条件下で行うことができる。
【0090】
本発明において伸長反応とは、dNTP、DNAポリメラーゼ等の試薬を用いて行われる核酸合成反応であり、RNAを鋳型とする逆転写酵素による伸長反応も含まれる。
DNAポリメラーゼとはプライマーがアニールした鋳型DNAと相補的な塩基配列を持つDNA鎖を合成する酵素の総称である。
本発明に用いられるDNAポリメラーゼとしては、特に限定されないが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、Vent DNAポリメラーゼ等の熱安定性DNAポリメラーゼを用いることが好ましく、試験開始前の伸長を防ぐためにホットスタート機能を持つDNAポリメラーゼを使用することがより好ましい。さらに、本発明においては、プライマーの3’末端近傍で塩基を識別するため、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼを使用するのが特に好ましい。
また、この伸長反応を行う際の反応条件等の具体的な方法については、実験医学第8巻第9号(羊土社、(1990))、PCRテクノロジー・ストックトン・プレス(PCR Technology Stockton press)(1989)等の文献に記載された公知の方法に従い行うことができる。
【0091】
次に、工程(c)において、前記工程(b)または後記工程(d)で得られた前記伸長産物Aと前記共通プライマーをアニールさせ、伸長反応を行い、伸長産物Bを合成し、工程(d)において、前記工程(c)で得られた伸長産物Bと前記検出用プライマーまたは前記競合プライマーをアニールさせ、伸長産物Aを合成する。これらの工程により標的核酸が増幅される。
【0092】
上記核酸増幅工程としては、PCR(Polymerase Chain Reaction)、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)、NASBA(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)、ICAN(Isothermal and Chimerical primer−initiated Amplification of Nucleic acids)、TRC(Transcription Reverse−Transcription Concerted)、SDA(Strand Displacement Amplification)、TMA(Transcription Mediated Amplification)、SMAP(SMart Amplification Process)、RPA(Recombines polymerase amplification)、HDA(Helicase−dependent amplification)などが挙げられる。
【0093】
例示した上記核酸増幅工程において、等温増幅反応が用いられる場合には常法に従う。
【0094】
PCR反応において、検出用プライマー、競合プライマー、または共通プライマーの濃度としては、適宜最適な濃度を検討することができるが、共通プライマーの濃度を検出用プライマーと競合プライマーの合計濃度以下に設定することが好ましく、さらに好ましくは検出用プライマーおよび競合プライマーの合計濃度の25%以下である。これは、PCRが進んでいくと鋳型とマッチである検出用プライマーが優先的に消費され、鋳型とミスマッチである競合プライマーの相対濃度が上がってしまい識別精度が落ちてしまうのを防ぐためである。共通プライマーの濃度を低くすることで、鋳型とマッチである検出用プライマーの消費とともに共通プライマーも消費され、識別制度を維持することができる。
【0095】
次に、工程(e)において、前記伸長産物AまたはBを検出する。
工程(e)におけるプライマーからの伸長産物の検出方法は、特に限定するものではなく、蛍光色素等によるプライマーの標識、電気泳動、高速液体クロマトグラフィーやマススペクトル、融解曲線分析、増殖曲線分析など、核酸を分析できるあらゆる方法が挙げられる。
【0096】
検出用プライマー、競合プライマー、又は共通プライマーを、標識物質により標識しておくことにより、標識物質を指標として伸長産物を検出することができる。このような標識物質としては、例えば、蛍光色素、エネルギー吸収性物質、ラジオアイソトープ、化学発光体、酵素、抗体等が挙げられる。プライマーに標識する位置については、特に限定するものではないが、伸長反応を阻害しないような位置が好ましい。
【0097】
プライマーを異なる蛍光色素で標識していずれのプライマーから増幅したものかを区別する方法は、特異性に与える影響も少なく、融解曲線を測定する必要もなく簡便な方法であるため好ましい。
【0098】
より好ましくは、プライマーの5’末端にフルオロセインとアクリジンを導入する方法が挙げられる(非特許文献9参照)。このプライマーは1本鎖状態で存在する場合、フルオロセインの励起波長を照射してもエネルギー吸収性物質であるアクリジンによって消光されてフルオロセインからの蛍光は観察されない。
一方、2本鎖を形成している場合、インターカレーターでもあるアクリジンは2本鎖核酸に結合するため、フルオロセインとの距離が離れフルオロセインからの蛍光を吸収することができなくなる。よってプライマー伸長反応が生じたプライマーのみ蛍光を発光することになる(
図10参照。)。
従って、検出用プライマー及び競合プライマーの蛍光色素を異なるものにすることにより、いずれのプライマーからの伸長生成物であるかを判断することができる。
よって例えば、本発明の検出方法において、野生型と変異型の2種類からなる多型のうち、変異型アレルを検出するプライマーを検出用プライマーとし、野生型アレルを検出し得るプライマーを競合プライマーとして用い、かつ、検出用プライマーと競合プライマーをそれぞれ異なる蛍光色素で標識し、各プライマーの伸長産物をそれぞれ検出することにより、試料中の1つの多型の有無を検出することができるだけでなく、試料中の複数の多型を検出することができる。
【0099】
蛍光色素を導入する位置については、特に限定するものではないが、競合プライマーに標識するため、ポリメラーゼ反応を阻害しないような位置が好ましい。
また、アクリジンの代わりにピレンを用いてもよい。ピレンもまたエネルギー吸収性を有し、2本鎖に結合できるため、アクリジンと同様に2本鎖形成反応を調べることができる。
このほか、2つ以上のアレル特異的プライマーのどれから伸長が起こったかを検出する方法としては、LUX(商標名)プライマー(invitrogen社)やAmplifluor(商標名)UNIプライマー(商標名)(CHEMICON社)など、プライマーの1本鎖状態と2本鎖状態を判別することができる方法があり(Ranasingheら、Chem.Commun、第44巻、第5487〜5502頁、2005年)、いずれの方法も適用可能である。
【0100】
蛍光色素を用いた好適な検出方法としては、QP(Quenching Probe/Primer)法を用いた検出方法が挙げられる。
【0101】
QP法は、ある種の蛍光色素に、グアニン塩基が空間的に近接することにより、蛍光が消光することを利用した検出方法である。
本発明の検出用プライマーを、グアニン塩基との近接により消光する蛍光色素で標識することにより、検出用プライマーと、標的核酸との近接の有無を検出することができる。該グアニン塩基を有するのは、標的核酸であっても、検出用プライマーであってもよいが、検出用プライマーであることが好ましい。
【0102】
前記グアニン塩基との近接により消光する蛍光色素としては、QP法に通常使用される蛍光色素を用いて行うことができ、たとえば、BODIPY FL(商品名、インビトロジェン社製)、PACFIC BLUE(商品名、インビトロジェン社製)、CR6G(商品名、インビトロジェン社製)、TAMRA(商品名、インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0103】
電気泳動で検出する場合、競合する二つのプライマーの長さを変えておき、伸長生成物の長さを変えることによって泳動度の差により検出することができる。ただし、プライマーの長さを変えることによって特異性に影響が出ないようにすることが重要である。
電気泳動による検出に用いる試薬としては二本鎖DNAに結合して蛍光を発するので、臭化エチジウムやサイバーグリーンがより好ましい。
【0104】
また、サイバーグリーンは蛍光色素であるため、後述する融解曲線を測定することによっていずれのプライマーから伸長した生成物かを区別することができる。
【0105】
高速液体クロマトグラフィーでも同様に二つのプライマーからの伸長生成物を区別することができる。
また、質量分析法を利用する場合は二つのプライマーからの伸長生成物の長さが異なるようにしてもよいし、プライマーを質量が異なる物質で標識してもよい。後者の場合、特異性に与える影響が少なく好ましい。
【0106】
前記工程(e)は、前記工程(b)〜(d)からなる核酸増幅工程と同時に設けられてもよく、核酸増幅工程後に行われてもよい。
【0107】
核酸増幅工程中の識別方法としては、標識されたプライマー、またはその伸長産物の2本鎖状態を測定する方法が挙げられる。この識別方法は、鋳型と2本鎖を形成している競合するプライマーまたは競合するプライマーからの伸長産物が2本鎖を形成する能力差を利用している。
また、プライマーからの伸長産物は2本鎖を形成する温度下で蛍光測定してもよい。この方法では、競合するプライマーから伸長した産物だけを検出することができるので、さらに高精度に識別が可能である。
【0108】
核酸増幅工程後の識別方法としては、融解曲線を測定する方法が挙げられる。これは、増幅生成物が2本鎖から1本鎖に遷移する温度依存性を利用する方法である。この方法では、競合する2つのプライマーによる増幅産物だけを検出することができるので、さらに高精度に識別が可能である。
【0109】
本発明の検出方法をリアルタイムPCR装置のようなDNA配列検査器具に用いることができる。この場合、上述したPCRに必要な試薬と、プライマーとを添加した容器内に検体DNAを入れ、リアルタイムPCRを行い、検出用プライマーからの伸長産物の検出を行う。検体DNAを入れた後、密閉したまま検出を行うことで増幅産物の飛散や汚染を防ぐことができる。
【0110】
本発明の標的塩基配列検出キットは、多型塩基を有する標的塩基配列を検出する上記方法に用いるキットであり、上記検出用プライマーと競合プライマーと共通プライマーとを含むことを特徴とする。
その他、試料前処理用の細胞破壊試薬や、標識物質の標識を検出するための試薬等を組み合わせてもよい。
このように、本発明の標的塩基配列の検出方法に必要な試薬等をキット化することにより、より簡便かつ短時間で一塩基多型の識別をすることができる。
【0111】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0112】
比較例1〜2及び実施例1〜2では、ワルファリンの至適投与量に関連する遺伝子であるビタミンKエポキシド還元酵素複合体1(VKORC1)のイントロン1領域の1173位における遺伝子多型(1173C>T)を識別対象とした。
表9に示されるように、VKORC1の上記遺伝子多型を検出する2種類の検出用プライマー(VK1Wat−Acridine及びVK1Mtg−Acridine)及び共通プライマー(VK1R2)を作製した。検出用プライマーとしては、5’末端にアクリジンホスホロアミダイト(グレンリサーチ社)を用いてアクリジンを導入し、さらにその5’末端に6−フルオロセイン(グレンリサーチ社)を導入したものを日本バイオサービス社から購入した。表9に示される4種の競合プライマー(VK1Mtg、VK1Mat、VK1Mac、VK1Wat)および共通プライマー(VK1R2)については、常法の合成方法で合成したものをグライナージャパンから購入した。鋳型となるゲノムDNAとしてはCoriell社から購入したものを用いた。
表9中、1173位及び多型塩基認識部位を太字で示し、ミスマッチ塩基導入部位に下線を付した。また、「Acridine」はアクリジンを、「6−FAM」は6−フルオロセイン標識を、右欄の数字は配列表中に示した標識前の配列に対応する配列番号を、それぞれ示す。
【0113】
【表9】
【0114】
(比較例1)
鋳型として、VK1ORC1の遺伝子多型であるCアレル、またはTアレルを、検出用プライマーとしてVK1Wat−Acridine及び競合プライマーとしてVK1Matを、共通プライマーとしてVK1R2を混合した反応液を表10記載の組成となるように調製した。上記反応液をリアルタイムPCRシステム(Roche製、「LightCycler」)にセットし、95℃で1分間保持し、DNAポリメラーゼの抗体を変性させた後、62℃20秒、95℃5秒の2ステップPCRを55サイクル行い、95℃から40℃まで融解曲線解析を行った。なお、鋳型に蒸留水(D.W.)を用いたものをネガティブコントロールとした。結果を
図11に示す。
【0115】
【表10】
【0116】
図11は、比較例1の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
検出用プライマー(VK1Wat−Acridine)が、2本鎖を形成すると、エネルギー吸収物質であるアクリジンが2本鎖核酸にインターカレートし、アクリジンによるエネルギー吸収量が小さくなるため、6−フルオロセインからの蛍光強度が大きくなる。
融解曲線とは、温度を低温から徐々に上げることにより、PCR法により増幅された2本鎖核酸が1本鎖状態に変性するまでの蛍光強度を測定して得られる曲線をいう。融解曲線の負の一次微分曲線は温度変化に対する蛍光変化量を示すもので、変化量が最大のところが2本鎖DNAのTmとなる。
比較例1において、VK1Wat−Acridineからの伸長産物は、83℃から86℃の範囲で1本鎖状態と2本鎖状態の変化量が最も多いことが既に分かっている。よって、融解曲線の負の一次微分曲線において83℃から86℃の範囲でピークが見られる場合には、VK1Wat−Acridineから伸長反応が起きたと判断することができる。
比較例1の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、Cアレル、またはTアレルのどちらを鋳型として用いても同様の結果が得られた。これは、上記プライマーセットでは、伸長反応がCアレル特異的でないことを示唆している。
【0117】
(比較例2)
検出用プライマーとしてVK1Wat−Acridine及び競合プライマーとしてVK1Macを用いた以外は、比較例1と同様の反応及び同様の解析を行った。結果を
図12に示す。
【0118】
図12は、比較例2の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
比較例2の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、Cアレルを鋳型として用いたときのVK1Wat−Acridineからの増幅が優位に観察された。しかしながら、Tアレルを鋳型として用いたときにわずかなピークが見られる。これは、TアレルをサンプルとしたときVK1Wat−Acridineからの伸長抑制は十分ではないことを示唆している。
【0119】
(実施例1)
検出用プライマーとしてVK1Wat−Acridine及び競合プライマーとしてVK1Mtgを用いた以外は、比較例1と同様の反応及び同様の解析を行った。結果を
図13に示す。
【0120】
図13は、実施例1の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
実施例1の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、Cアレルを鋳型として用いたときのVK1Wat−Acridineからの増幅が優位に観察された。さらに、比較例2の結果に比べTアレルを鋳型として用いたときのVK1Wat−Acridineからの増幅が抑えられていることから、上記プライマーセットでは、Cアレル特異性がより優れていることを示唆している。
【0121】
(実施例2)
検出用プライマーとしてVK1Mtg−Acridine及び競合プライマーとしてVK1Watを用いた以外は、比較例1と同様の反応及び同様の解析を行った。結果を
図14に示す。
【0122】
図14は、実施例2の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
実施例2において、VK1Mtg−Acridineからの伸長産物は、83℃から86℃の範囲で1本鎖状態と2本鎖状態の変化量が最も多いことが既に分かっている。よって、融解曲線の負の一次微分曲線において83℃から86℃の範囲でピークが見られる場合には、蛍光標識されたVK1Mtg−Acridineから伸長反応が起きたと判断することができる。
実施例2の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、Tアレルを鋳型として用いたときのVK1Mtg−Acridineからの増幅が優位に観察された。これは、上記プライマーセットでは、伸長反応がTアレル特異的であることを示唆している。
【0123】
実施例2のプライマーセットは、実施例1のプライマーセットとは蛍光標識が変異型プライマーに導入されていることのみが異なるだけで塩基配列のセットとしては同じである。よって、実施例1及び2の結果から、VK1Wat及びVK1Mtgのどちらを蛍光標識しても、蛍光標識されたプライマーからの伸長反応の有無を判断できることが明らかとなった。
従って、VK1Wat及びVK1Mtgに互いに蛍光波長の異なる蛍光色素を導入することにより、各蛍光標識プライマーからの伸長反応を同時に測定することができる。
【0124】
実施例3〜5では、上記と同様、ワルファリンの至適投与量に関連する遺伝子であるビタミンKエポキシド還元酵素複合体1(VKORC1)のイントロン1領域の1173位における遺伝子多型(1173C>T)を検出対象とし、競合プライマーの多型塩基以外に導入するミスマッチ塩基の位置が検出精度に与える影響を調べた。
表11に示されるように、新たにVKORC1の遺伝子多型を識別する検出用プライマー(VK1Mtg−pyren)を作製した。検出用プライマーとしては、5’末端から2塩基目のアデニンにAmino−modifer C6 dA(グレンリサーチ社)を導入し、さらにその5’末端に6−フルオロセイン(グレンリサーチ社)を導入したものを日本バイオサービス社から購入し、1−ピレンブタノイックアシッドサクシンイミジルエステル(インビトロジェン社)を用いてアミノ基へピレン修飾を行ったものを用いた。
競合プライマーおよび共通プライマーとしては、常法の合成方法で合成したものをグライナージャパンから購入したものを用いた。競合プライマーについては、ミスマッチ塩基の導入位置を変えたものを複数作製した。他は、比較例1の記載と同様である。
表11中、多型塩基認識部位を太字で示し、ミスマッチ塩基導入部位に下線を付し、ピレン修飾した塩基は二重下線を付した。また、「pyrene」はピレンを、「6−FAM」は6−FAM標識を、右欄の数字は配列表中に示した標識前の配列に対応する配列番号を、それぞれ示す。尚、用いたテンプレートは表9記載の配列と同様のものである。
【0125】
【表11】
【0126】
(実施例3)
鋳型として、VK1ORC1の遺伝子多型であるCアレルまたは、Tアレルを、検出用プライマーとしてVK1Wat−pyrene及び競合プライマーとしてVK1M4tを、共通プライマーとしてVK1R2を混合した反応液を表12記載の組成となるように調製した。上記反応液をリアルタイムPCRシステム(Roche製、「LightCycler」)にセットし、95℃で1分間保持し、DNAポリメラーゼの抗体を変性させた後、58℃20秒、95℃5秒の2ステップPCRを55サイクル行い、95℃から40℃まで融解曲線解析を行った。なお、鋳型に蒸留水(D.W.)を用いたものをネガティブコントロールとした。結果を
図15に示す。
【0127】
【表12】
【0128】
図15は、実施例3の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
実施例3の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、実施例1と同様の結果が得られた。したがって競合プライマーのミスマッチ塩基が3’末端から4塩基目に位置する場合でも実施例1の3’末端から3塩基目に位置する場合と同様に、Cアレル特異性がより優れていることが示唆された。
【0129】
(実施例4)
競合プライマーとしてVK1M5tを用いた以外は、実施例3と同様の反応及び同様の解析を行った。結果を
図16に示す。
【0130】
図16は、実施例4の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
実施例4の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、実施例3と同様の結果が得られた。したがって競合プライマーのミスマッチ塩基が3’末端から5塩基目に位置する場合でも実施例1の3’末端から3塩基目に位置する場合と同様に、Cアレル特異性がより優れていることが示唆された。
【0131】
(実施例5)
競合プライマーとしてVK1M8tを用いた以外は、実施例3と同様の反応及び同様の解析を行った。結果を
図17に示す。
【0132】
図17は、実施例5の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
実施例5の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、実施例3と同様の結果が得られた。したがって競合プライマーのミスマッチ塩基が3’末端から8塩基目に位置する場合でも実施例1の3’末端から3塩基目に位置する場合と同様に、Cアレル特異性がより優れていることが示唆された。
【0133】
(実施例6)
検出用プライマーとしてVK1Mtg−pyrene及び競合プライマーとしてVK1W4tを用いた以外は、実施例3と同様の反応及び同様の解析を行った。結果を
図18に示す。
【0134】
図18は、実施例6の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
実施例6の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、実施例2と同様の結果が得られた。したがって変異を検出するプライマーセットにおいて競合プライマーの3’末端から4塩基目にミスマッチ塩基を導入しても、Tアレル特異性がより優れていることが示唆された。
【0135】
(実施例7)
競合プライマーとしてVK1W5tを用いた以外は、実施例6と同様の反応及び同様の解析を行った。結果を
図19に示す。
【0136】
図19は、実施例7の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
実施例7の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、実施例6と同様の結果が得られた。したがって変異を検出するプライマーセットにおいて競合プライマーの3’末端から5塩基目に変異を導入してもTアレル特異性がより優れていることが示唆された。
【0137】
(実施例8)
競合プライマーとしてVK1W8tを用いた以外は、実施例7と同様の反応及び同様の解析を行った。結果を
図20に示す。
【0138】
図20は、実施例8の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
実施例8の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、実施例6と同様の結果が得られた。したがって変異を検出するプライマーセットにおいて競合プライマーの3’末端から8塩基目に変異を導入してもTアレル特異性がより優れていることが示唆された。
【0139】
(実施例9〜18)
鋳型として、VK1ORC1の遺伝子多型であるCアレル、またはTアレルを、プライマーとして、表13に示す検出用プライマー及び競合プライマーのセットを、共通プライマーとしてVK1R2を混合した反応液を表11記載の組成となるように調製した。上記反応液をリアルタイムPCRシステム(Roche製、「LightCycler」)にセットし、95℃で1分間保持し、DNAポリメラーゼの抗体を変性させた後、62℃20秒、95℃5秒の2ステップPCRを55サイクル行い、95℃から40℃まで融解曲線解析を行った。なお、鋳型に蒸留水(D.W.)を用いたものをネガティブコントロールとした。結果を
図21〜30に示す。
【0140】
【表13】
【0141】
図21〜30は、実施例9〜18の結果を融解曲線の負の一次微分曲線で示した図である。
実施例9〜13の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、実施例3と同様の結果が、実施例14〜18の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、実施例6と同様の結果が得られた。
【0142】
実施例9〜13から、検出用プライマーが有するミスマッチ塩基及び競合プライマーが有するミスマッチ塩基が、多型塩基にマッチな塩基から17塩基以内に位置する場合には精度良く検出できることが確認された。
また、実施例3〜8から、アニール温度が低い条件下においても8塩基以内に位置する場合には精度良く検出できることが確認された。
【0143】
実施例19〜27では、上記と同様、ワルファリンの至適投与量に関連する遺伝子であるビタミンKエポキシド還元酵素複合体1(VKORC1)のイントロン1領域の1173位における遺伝子多型(1173C>T)を検出対象とし、競合プライマーと検出用プライマーの鎖長の差が検出精度に与える影響を調べた。
表14に示されるように、新たにVKORC1の遺伝子多型を識別する検出用プライマー(VK1Wat−P−FAM1)を作製した。検出用プライマーとしては、5’末端から4塩基目のシトシンにAmino−modifer C6 dC(グレンリサーチ社)を導入し、さらに5’末端から6塩基目のチミンにフルオロセインdT(グレンリサーチ社)を導入したものを日本バイオサービス社から購入し、1−ピレンブタノイックアシッドサクシンイミジルエステル(インビトロジェン社)を用いてアミノ基へピレン修飾を行ったものを用いた。
表14に示される競合プライマーおよび共通プライマーとしては、常法の合成方法で合成したものをグライナージャパンから購入したものを用いた。競合プライマーについては、鎖長を変えたものを複数作製した。
表14中、1173位及び多型塩基認識部位を太字で示し、ミスマッチ塩基導入部位に下線を付した。また、「FAMdT」はフルオロセインdTを、「PyrendC」はピレン標識を行ったAmino−modifer C6 dCを、右欄の数字は配列表中に示した標識前の配列に対応する配列番号を、それぞれ示す。尚、用いたテンプレートは表9記載の配列と同様のものである。
【0144】
(実施例19〜27)
鋳型として、VKORC1の遺伝子多型であるCアレル、またはTアレルを、プライマーとして、表15に示す検出用プライマー及び競合プライマーのセットを、共通プライマーとしてVK1R2を混合した反応液を表10記載の組成となるように調製した。上記反応液をリアルタイムPCRシステム(Roche製、「LightCycler480」)にセットし、95℃で1分間保持し、DNAポリメラーゼの抗体を変性させた後、64℃30秒、95℃5秒の2ステップPCRを60サイクル行った。鋳型としてCアレルを用いて反応させて得られた結果を
図31に示す。
【0145】
【表14】
【0146】
【表15】
【0147】
図31に示すように、実施例19〜27の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、遺伝子多型を精度よく検出できることが確認された。
検出用プライマーよりも2塩基〜16塩基長い競合プライマーを用いた実施例21〜26は、検出プライマーより20塩基長い競合プライマーを用いた実施例27よりも反応性に優れていることが確認された。
更に、検出用プライマーと同じ鎖長、または1塩基長い競合プライマーを用いた実施例19及び実施例20は、検出用プライマーよりも2塩基〜16塩基長い競合プライマーを用いた実施例21〜26よりも反応性に優れていることが確認された。
【0148】
実施例28〜35では、上記と同様、ワルファリンの至適投与量に関連する遺伝子であるビタミンKエポキシド還元酵素複合体1(VKORC1)のイントロン1領域の1173位における遺伝子多型(1173C>T)を検出対象とし、競合プライマーと検出用プライマーに導入した第2のミスマッチ塩基が検出精度に与える影響を調べた。
表16に示されるように、新たにVKORC1の遺伝子多型を識別する検出用プライマー(VK1Wat−P−FAM2〜8)を作製した。検出用プライマーとしては、5’末端から4塩基目のシトシンにAmino−modifer C6 dC(グレンリサーチ社)を導入し、さらに5’末端から6塩基目のチミンにフルオロセインdT(グレンリサーチ社)を導入したものを日本バイオサービス社から購入し、1−ピレンブタノイックアシッドサクシンイミジルエステル(インビトロジェン社)を用いてアミノ基へピレン修飾を行ったものを用いた。
表16に示される競合プライマーおよび共通プライマーとしては、常法の合成方法で合成したものをグライナージャパンから購入したものを用いた。競合プライマーについては、第2のミスマッチ塩基の導入位置を変えたものを複数作製した。
表16中、1173位及び多型塩基認識部位を太字で示し、ミスマッチ塩基導入部位に下線を付した。また、「FAMdT」はフルオロセインdTを、「PyrendC」はピレン標識を行ったAmino−modifer C6 dCを、右欄の数字は配列表中に示した標識前の配列に対応する配列番号を、それぞれ示す。尚、用いたテンプレートは表9記載の配列と同様のものである。
【0149】
(実施例28〜35)
鋳型として、VKORC1の遺伝子多型であるCアレル、またはTアレルを、プライマーとして、表17に示す検出用プライマー及び競合プライマーのセットを、共通プライマーとしてVK1R2を混合した反応液を表10記載の組成となるように調製した。上記反応液をリアルタイムPCRシステム(Roche製、「LightCycler480」)にセットし、95℃で1分間保持し、DNAポリメラーゼの抗体を変性させた後、64℃30秒、95℃5秒の2ステップPCRを60サイクル行った。鋳型としてCアレルを用いて反応させて得られた結果を
図32に示す。
【0150】
【表16】
【0151】
【表17】
【0152】
図32に示すように、実施例28〜35の検出用プライマー及び競合プライマーのセットを用いた場合には、遺伝子多型を精度よく検出できることが確認された。
第2のミスマッチ塩基が、3’末端から7塩基以上離れている検出プライマー及び競合プライマーのセットを用いた実施例29〜35は、第2のミスマッチ塩基が導入されていない実施例28よりも反応性に優れていることが確認された。
中でも第2のミスマッチ塩基が、3’末端から9塩基以上離れている検出プライマー及び競合プライマーのセットを用いた実施例29〜34は、特に反応性に優れていることが確認された。