特許第5842819号(P5842819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5842819
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】ピロロキノリンキノンのカルシウム塩
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20151217BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20151217BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20151217BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20151217BHJP
【FI】
   C07D471/04 102
   C07D471/04CSP
   A61K31/4745
   A61P43/00 105
   A61K8/49
   A61Q19/00
   A23L1/30 Z
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-535081(P2012-535081)
(86)(22)【出願日】2011年9月22日
(86)【国際出願番号】JP2011071697
(87)【国際公開番号】WO2012039474
(87)【国際公開日】20120329
【審査請求日】2014年6月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-211883(P2010-211883)
(32)【優先日】2010年9月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
(72)【発明者】
【氏名】中野 昌彦
【審査官】 早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−112912(JP,A)
【文献】 特開昭62−246575(JP,A)
【文献】 BERGE,S. M.,Pharmaceutical salts,JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES,米国,AMERICAN PHARMACEUTICAL ASSOCIATION,1977年,Vol.66,No.1,pp.1-19
【文献】 川口洋子ら,医薬品と結晶多形,生活工学研究,2002年,Vol.4, No.2,p.310-317
【文献】 新医薬品の規格及び試験方法の設定について,医薬審発第568号,2001年
【文献】 大島寛,結晶多形・擬多形の析出挙動と制御,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.48-53
【文献】 高田則幸,創薬段階における原薬Formスクリーニングと選択,PHARM STAGE,2007年 1月15日,Vol.6, No.10,p.20-25
【文献】 山野光久,医薬品のプロセス研究における結晶多形現象への取り組み,有機合成化学協会誌,2007年 9月 1日,Vol.65, No.9,p.907(69)-913(75)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 471/04
A61K 31/4745
A61P 43/00
A61K 8/49
A61Q 19/00
A23L 1/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノンイオンとカルシウムイオンとのモル比が1:0.5〜1.5である、白色のピロロキノリンキノンのカルシウム塩。
【請求項2】
請求項1に記載のピロロキノリンキノンのカルシウム塩の結晶。
【請求項3】
粉末X線回折でCu Kα放射線を用いた2θのピークとして8.8°、17.5°、25.4°、28.1°、30.5°、33.9°(いずれも±0.4°)を示す、請求項に記載のピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶。
【請求項4】
請求項1に記載のピロロキノリンキノンのカルシウム塩または請求項又はに記載のピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶と、キレート性物質とを含んでなる、ピロロキノリンキノン含有組成物。
【請求項5】
キレート性物質が、リン酸、ピロリン酸、核酸、フィチン酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、EDTA、ヘキサメタリン酸およびポリリン酸からなる群から選択される1種以上である、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合して得られたpHが4未満の混合物から析出物を得ることを含んでなる、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩の製造方法。
【請求項7】
混合物中に水が存在する、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
カルシウムイオン源が、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、および水酸化カルシウムからなる群から選択される、請求項又はに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2010年9月22日に提出された日本出願である特願2010−211883の利益を享受する。この先の出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩の製造方法および該製造方法により得られるピロロキノリンキノンのカルシウム塩に関する。本発明は、また、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
ピロロキノリンキノン(以下、PQQと表すことがある)は新しいビタミンの可能性があることが提案されて(例えば、非特許文献1参照)、健康補助食品、化粧品などに有用な物質として注目を集めている。更には細菌に限らず、真核生物のカビ、酵母に存在し、補酵素として重要な働きを行っている。また、PQQについて近年までに細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防治療作用、創傷治癒作用、抗アレルギ−作用、逆転写酵素阻害作用およびグリオキサラ−ゼI阻害作用−制癌作用、神経線維再生など多くの生理活性が明らかにされている。当分野において、より高い結晶性は、化学安定性およびより長い貯蔵寿命をもたらすことが知られており、結果的に、剤を安定化する必要性が少なく、かつ長い貯蔵寿命を有し、かつ比較的簡素な包装形態において提供される可能性を有する。
【0004】
PQQは、有機化学的合成法(非特許文献2)または発酵法(特許文献1)などの方法により得たPQQをクロマトグラフィーに供し、流出液中のPQQ区分を濃縮して、有機溶媒を加え、晶析により結晶化し(特許文献2)、乾燥して得ることが出来る。しかし、PQQのアルカリ金属塩は水溶液からアルコールを入れて溶解度を下げて析出させることで作られるが、その結晶性は高くない。また、この方法は高価で可燃性があり、廃液処理の費用もかさむ有機溶媒を使用することから、これを使用しない方法が求められている。また、非特許文献2ではジナトリウム塩の結晶が得られているがこの方法は生産性が低く、工業的に有用でない。更にカルシウムイオンは栄養成分として重要であり、ピロロキノリンと同時に摂取することが望まれているが、これまでPQQのカルシウム塩の具体的な製造方法についての報告はされていない。
【0005】
特許文献2にはアルカリ金属の塩と同様にアルカリ土類金属の塩に言及されているが実施例はなく、また、有機溶媒を使用して結晶化させる方法であるから可燃性物質を扱うための設備や排水設備が高価になる。また、アルカリ金属塩は水溶性であり、アミンやカルボニル、還元性化合物と反応しやすく、溶解した水分がある環境は特に反応しやすくなる。その為、安定性を上げるために水溶性が低いことが求められている。食品や薬として投与されるときには容易にPQQが吸収されることが望まれている。
【0006】
一方、PQQおよびその塩類は赤色かそれが濃くなった色として得られることが多い。これらの色はPQQ特有の色として知られているが、食品や薬に混合した際にはその色が強く出て、意図する目的の色調にできないことがある。特に、嗜好性が重要である食品においてはこの色は目的の色を設計するうえで障害となる場合がある。そのため、PQQの色はより白色に近いものが望まれている。PQQの色はコーティングや他の成分との混合によって白色に見せることができる。しかし、非必須成分の混合は、食品、薬の成分設計の自由度が下げるという欠点がある。また、コーティング等を行う場合は、元のPQQと同じ機能であるか、PQQにもどることが求められる。あるいは、有機合成等によって修飾することで色を変えることが考えられるが、多くの有機溶媒を必要とし、有毒性の高い試薬を使う必要がある。
加えて、PQQは反応性が高いことから、食品等と接触する場所では固体であり、吸収が行われる腸では溶液となるような形態が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2751183号公報
【特許文献2】特公平7−113024号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】nature,vol422, 24April,2003, p832
【非特許文献2】JACS、第103巻、第5599〜5600頁(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の水溶液と、カルシウムイオン源の水溶液とを混合して得られた溶液から結晶を析出させることにより、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩を製造することができ、また、得られたカルシウム塩は結晶性が高く、水溶性が低いことを見出した。本発明者らは、また、所定の条件下では白色のカルシウム塩が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0010】
本発明は、PQQの塩で結晶性が高いと同時に水溶性が低く、かつ、容易にPQQを遊離する物質を、大量の有機溶媒を用いることなく、製造可能な方法を提供することを目的とする。具体的にはPQQのカルシウム塩の製造方法とその高純度な結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)ピロロキノリンキノンイオンとカルシウムイオンとのモル比が1:0.5〜1.5である、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩。
(2)ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合して得られた混合物から析出させて得られる、(1)に記載のピロロキノリンキノンのカルシウム塩。
(3)カルシウムイオン源が、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、および水酸化カルシウムからなる群から選択される、(2)に記載のピロロキノリンキノンのカルシウム塩。
(4)白色である、(1)〜(3)のいずれかに記載のピロロキノリンキノンのカルシウム塩
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載のピロロキノリンキノンのカルシウム塩の結晶。
(6)粉末X線回折でCu Kα放射線を用いた2θのピークとして7.7°、10.6°、19.1°、26.4°、38.6°(いずれも±0.4°)を示す、(6)に記載のピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶。
(7)粉末X線回折でCu Kα放射線を用いた2θのピークとして9.8°、15.3°、17.1°、19.7°、26.3°、28.3°(いずれも±0.4°)を示す、(5)に記載のピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶。
(8)粉末X線回折でCu Kα放射線を用いた2θのピークとして8.8°、17.5°、25.4°、28.1°、30.5°、33.9°(いずれも±0.4°)を示す、(5)に記載のピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶。
(9)(1)〜(4)のいずれかに記載のピロロキノリンキノンのカルシウム塩または(5)〜(8)のいずれかに記載のピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶と、キレート性物質とを含んでなる、ピロロキノリンキノン含有組成物。
(10)キレート性物質が、リン酸、ピロリン酸、核酸、フィチン酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、EDTA、ヘキサメタリン酸およびポリリン酸からなる群から選択される1種以上である、(9)に記載の組成物。
(11)ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合して得られた混合物から析出物を得ることを含んでなる、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩の製造方法。
(12)混合物中に水が存在する、(11)に記載の製造方法。
(13)混合物のpHが4未満である、(11)または(12)に記載の製造方法。
(14)カルシウムイオン源が、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、および水酸化カルシウムからなる群から選択される、(11)〜(13)のいずれかに記載の製造方法。
(15)(11)〜(14)のいずれかに記載の製造方法により製造される、ピロロキノリンキノンカルシウム塩。
(16)粉末X線回折でCu Kα放射線を用いた2θのピークとして7.7°、10.6°、19.1°、26.4°、38.6°(いずれも±0.4°)を示すピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶。
(17)粉末X線回折でCu Kα放射線を用いた2θのピークとして9.8°、15.3°、17.1°、19.7°、26.3°、28.3°(いずれも±0.4°)を示すピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶。
(18)粉末X線回折でCu Kα放射線を用いた2θのピークとして8.8°、17.5°、25.4°、28.1°、30.5°、33.9°(いずれも±0.4°)を示すピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶。
【0012】
本発明によれば、有機溶媒を使用せず工業的に有用な方法で、水溶性が低く結晶性の高い安定なPQQのカルシウム塩を高純度で製造できる点で有利である。また、得られたPQQのカルシウム塩が使用時には溶解することも可能で、吸収性も高い点で有利である。本発明によれば、また、白色または白色に近い(淡赤色)PQQのカルシウム塩を製造できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1の粉末X線回析結果を示した図である。
図2図2は、実施例2の粉末X線回析結果を示した図である。
図3図3は、実施例14の粉末X線回析結果を示した図である。
図4図4は、H−NMRスペクトル結果を示した図である。
図5図5は、13C−NMRスペクトル結果を示した図である。
図6図6は、XPS測定結果を示した図である。
【発明の具体的説明】
【0014】
本発明によれば、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合することにより、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩を製造することができる。
【0015】
本発明で用いられるピロロキノリンキノンは、下記式(1)で表される構造を有する。
【化1】
【0016】
本願明細書において「ピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩」とは、式(1)で表される化合物のアルカリ金属塩を意味する。
【0017】
本願明細書において「ピロロキノリンキノンのカルシウム塩」とは、式(1)で表される化合物のカルシウム塩を意味する。ピロロキノリンキノンのカルシウム塩の水付加物もピロロキノリンキノンのカルシウム塩に含まれる。
【0018】
本願明細書において「ピロロキノリンキノンのカルシウム塩の結晶」とは、式(1)で表される化合物のカルシウム塩の結晶を意味し、固体状態でピロロキノリンキノン分子が規則正しく整列している状態であり、一般的には、高純度で安定性の高い状態である。ピロロキノリンキノンのカルシウム塩が結晶の形態であるか否かは、粉末X線回析でピークを検出することにより確認することができる。
【0019】
粉末X線回折による回折角2θの測定は、例えば、下記の測定条件で行うことができる。
(測定条件)
装置:株式会社RIGAKU製RINT2500
X線:Cu/管電圧40kV/管電流100mA
スキャンスピード:4.000°/min
サンプリング幅:0.020°
その他、モノクロメータが装着された一般的な粉末X線回折装置で観測することもできる。
【0020】
本発明において用いられるピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウム、ルビジュウムなどの塩が挙げられる。好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩であり、手に入れやすいナトリウム塩が特に好ましい。これらを単独で使用しても、混合して使用してもよい。ピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩における塩の置換数は、1〜3であり、モノアルカリ金属塩、ジアルカリ金属塩、トリアルカリ金属塩のどれでも良いが、好ましくは、ジアルカリ金属塩である。ピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩として、特に好ましくは、ジナトリウム塩である。
【0021】
本発明において用いられるPQQのアルカリ金属塩は、市販されているものを入手することもできる。また、有機化学的合成法および発酵法などにより製造することも可能である。原料に用いるPQQの塩は結晶でもよいし、非晶質でもよい。また、不純物を含んでいてもよい。
【0022】
本発明において用いられるピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩は、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の溶液として使用することができる。用いられる溶媒は、反応が進行すれば特に限定されず、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩を、水、アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の溶媒に溶解して使用することができる。溶媒は単独または2種以上を混合して使用することができる。用いられる溶媒は、好ましくは、水(水溶液)である。
【0023】
ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の溶液は、例えば、0.1〜100g/Lであることが好ましく、より好ましくは、1〜20g/Lである。
【0024】
ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の溶液のpHは、最終的に1から12にすることが好ましく、より好ましくは、2〜9、より好ましくは、2〜7である。また、このpHを調整選択することでカルシウムの置換数を制御できる。pHを2から4(好ましくは、2.5〜4)で調整することによりPQQ1に対し1個のカルシウムの塩、それ以上(例えば、4より大きく7以下、好ましくは、4.5〜7)でPQQ1に対し1.5個のカルシウム塩を得ることができる。なお、後述のように、白色PQQカルシウム塩を製造する場合は、この時点で、pHを4未満(例えば、1.5以上4未満、好ましくは1.5〜3.5、より好ましくは2〜3)に調整することができる。
【0025】
pHの変化させる際の添加の手順として、PQQまたはそのアルカリ金属塩の溶液に対して酸、アルカリを加えてpHを変えることができる。pHを変えるために使用される酸、アルカリは、ピロロキノリンキノンやカルシウムと反応性が低い物質が好ましく、この種類は特に制限されない。無機、有機、どちらでも使用できる。無機酸としては、例えば、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、過塩素酸、硫酸、燐酸、硝酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、酢酸、蟻酸、シュウ酸、乳酸、クエン酸等が挙げられる。無機アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、酸化カルシウム等が挙げられ、有機アルカリとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム水酸化物等の4級アンモニウムヒドロキシドやアミン等が挙げられる。これらは単独もしくは混合して使用することが可能である。
【0026】
本発明のpHを調整する操作の温度は特に制限がないが一般的に取り扱いやすいのは−20℃から140℃である。好ましくは、0〜140℃、より好ましくは、20〜90℃である。加温してピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩の溶解度を上げるほうが取り扱いやすい。ただし、後述のように、白色PQQカルシウム塩を製造する場合は38℃以下が好ましく、より好ましくは、−20から30℃である。温度が低いほうが白色変化しやすい前駆体を与えることができる。
【0027】
本発明において用いられるカルシウムイオン源としては、カルシウムイオンを供給することができる物質であればよく、例えば、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、酸化カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム等のカルシウム化合物等が挙げられる。本発明において用いられるカルシウムイオン源は、好ましくは、25℃での溶解度が0.01g/L以上、より好ましくは、1g/L以上の物質である。溶解性の点から、好ましくは、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウムであり、より好ましくは、塩化カルシウムである。
【0028】
本発明において用いられるカルシウムイオン源は、そのまま(粉末)で使用することもできるし、溶液として使用することもできるが、溶液として使用することが好ましい。用いられる溶媒は、反応が進行すれば特に限定されず、カルシウムイオン源を、水、アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の溶媒に溶解して使用することができる。溶媒は単独または2種以上を混合して使用することができる。用いられる溶媒は、好ましくは、水(水溶液)である。
【0029】
ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源との重量比は、1:0.1〜100、好ましくは、1:0.1〜20、より好ましくは、1:0.1〜10、さらに好ましくは、1:0.3〜5とすることができる。
【0030】
本発明によれば、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオンとを反応させ、析出させることでカルシウム体を製造することができる。
【0031】
すなわち、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合することでカルシウム塩が形成され、これを析出させることで得ることができる。
【0032】
本発明において、「ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合する」工程は、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオンとを溶媒中で反応させることができればよく、例えば、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の溶液とカルシウムイオン源の溶液とを混合して行うこともできるし、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の溶液にカルシウムイオン源を添加して行うこともできる。
【0033】
本願明細書において、「混合」については、一方の混合対象物を他方の混合対象物に添加して行うこともできるし、混合対象物を別の容器に添加して行うこともできる。
【0034】
本願明細書において、「添加」については、添加物を添加対象に一時に添加することもできるし、徐々に添加することもできる。
【0035】
本発明による製造方法において、反応pHは、特に制限がないが、例えば、1〜12とすることができ、好ましくは2〜9、より好ましくは、2〜7である。あるいは、反応pHは、4未満とすることができ、好ましくは、1.5以上4未満、より好ましくは、1.5〜3.5、さらに好ましくは、2〜3とすることができる。
【0036】
本発明による製造方法において、反応温度は、特に制限がないが、例えば、−20〜140℃とすることができ、好ましくは0〜120℃である。
【0037】
本発明による製造方法において、反応時間は、特に制限がないが、例えば、5分〜1週間とすることができる。
【0038】
上記反応を経て製造された本発明のPQQカルシウム塩(赤色)は、ピロロキノリンキノンイオンとカルシウムイオンの比は、1:0.5から1.5であることが好ましい。より好ましくは1:1から1.5である。これはPQQのカルボン酸がカルシウムと形成する塩であることを意味している。さらに結晶性が高い物質は安定性も高いことが多く、本発明も結晶性であることが好ましい。
【0039】
具体的な操作方法について説明する。
PQQまたはそのアルカリ金属塩を水に溶解させる。溶解が完全に行われていなくても反応は進行することができる。pH調整のために酸、アルカリの溶液を加えて調整してもよい。この時のPQQまたはそのアルカリ金属塩の濃度は0.1から100g/Lであることが望ましく、より望ましくは1から20g/Lである。このときの温度は0から140℃で使用すれは良く、好ましくは20から90℃が特別な装置も要らず、使用しやすい。溶解度の面では高い温度が溶解しやすいため、50℃以上にするのが生産性を高める。ここに塩化カルシウムを加えることでカルシウム塩を析出させることができる。カルシウムは水溶液、粉末の形で添加することができる。混合する時間は特に制限がないが、5分から1週間ぐらいで行うことができる。スケールが小さい場合は短時間ですむが、大きな場合は長時間必要である。
【0040】
本発明において、さらには、PQQカルシウム塩を白色として得ることができる。本発明の白色PQQカルシウム塩は、上記のようにして得られたPQQカルシウム塩(赤色)を経て形成することができる。
【0041】
本発明の白色PQQカルシウム塩は、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合して得られた混合物から析出されたもの(析出物)、すなわち、赤色PQQカルシウム塩を水の存在する環境下に所定のpHで一定時間置くことによって得ることができる。
【0042】
本願明細書において「水の存在する環境下に置く」とは、製造系において、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源との混合物中に含まれる赤色PQQカルシウム塩を水と接触できる状況に置くことができればよく、例えば、赤色PQQカルシウム塩を水溶液中に存在させることもできるし、水と有機溶媒との混合溶液中に存在させることもできる。赤色PQQカルシウム塩を水溶液中に存在させることが好ましい。
【0043】
ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合して得られた混合物のpHは4未満となるように調整することができるが、好ましくは、1.5以上4未満、より好ましくは、1.5〜3.5、さらに好ましくは、2〜3とすることができる。なお、ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合して得られた混合物のpHが4未満である場合は、特段の調整をせずにそのまま使用することができる。
【0044】
pHの変化させる際の添加の手順として、混合物に対して酸、アルカリを加えてpHを変えることができる。pHを変えるために酸、アルカリを使用するが、この種類は特に制限されない。無機、有機、どちらでも使用できる。無機酸としては、例えば、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、過塩素酸、硫酸、燐酸、硝酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、酢酸、蟻酸、シュウ酸、乳酸、クエン酸等が挙げられる。無機アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、酸化カルシウム等が挙げられ、有機アルカリとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム水酸化物等の4級アンモニウムヒドロキシドやアミン等が挙げられる。これらは単独もしくは混合して使用することが可能である。
【0045】
ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合して得られた混合物を水の存在する環境下に置く時間は、2時間以上とすることができる。好ましくは、24時間以上、より好ましくは、48時間以上、さらに好ましくは、72時間以上である。
【0046】
ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合して得られた混合物は、攪拌されてもよい。攪拌は、磁気攪拌、機械攪拌、手動攪拌、振とう攪拌等に供することにより実施することができる。
【0047】
ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩とカルシウムイオン源とを溶液中で混合して得られた混合物の温度は、−20から120℃で行うことができ、より好ましくは0から80℃である。白色変化させる反応は反応温度が高いほう変化が速い。
【0048】
白色のピロロキノリンキノンのカルシウム塩を得るために、例えば、下記工程を実施することができる:
(i)ピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の水溶液とカルシウムイオン源の水溶液とを混合すること;
(ii)工程(i)で得られた混合物から析出物を得ること;および
(iii)工程(ii)で得られた析出物を含む混合物をpH4未満で2時間以上置くこと。
【0049】
上記工程を経て製造された本発明のPQQカルシウム塩(白色)は、ピロロキノリンキノンイオンとカルシウムイオンの比が、1:0.5〜1.5であることが好ましい。より好ましくは1:1〜1.5である。
【0050】
析出した固体は濾過、もしくは遠心分離により液と分ける。これを水洗い、必要であればエタノールのような有機溶媒でさらに洗えばよい。この得られた固体は風乾、減圧乾燥することで水分を除くことができる。本発明の製造方法は水を溶媒にすることで有機溶媒を使用しなくてもカルシウム塩を製造できる方法である。
【0051】
白色のPQQカルシウム塩と赤色のPQQカルシウム塩とが共存することがあるが、遠心分離で分けることができる。白色塩は結晶としてもアモルファスとしても得ることができる。
【0052】
本発明のピロロキノリンキノンのカルシウム塩は、結晶の形態で得ることができる。本発明によれば、ピロロキノリンキノンイオンとカルシウムイオンの比が、1:0.5〜1.5、好ましくは、1:1〜1.5である、ピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶が提供される。
【0053】
本発明のPQQのカルシウム塩は、上記のCu Kα放射線を用いた2θのピークとして、少なくとも、7.7°、10.6°、19.1°、26.4°、38.6°(いずれも±0.4°)を示すピロロキノリンキノンカルシウムの結晶として得ることができる。若しくは、少なくとも、9.8°、15.3°、17.1°、19.7°、26.3°、28.3°(いずれも±0.4°)を示すピロロキノリンキノンカルシウムの結晶として得ることができる。当該PQQのカルシウム塩は赤色である。
あるいは、上記のCu Kα放射線を用いた2θのピークとして、少なくとも、8.8°、17.5°、25.4°、28.1°、30.5°、33.9°(いずれも±0.4°)を示すPQQカルシウムの結晶として得ることができる。当該PQQのカルシウム塩は白色である。
本発明の結晶は、単一の結晶であっても、これらの結晶の混合物であってもよい。
【0054】
測定誤差は、±0.4°とすることができるが、好ましくは、±0.2°、より好ましくは、±0.1°とすることができる。
【0055】
本発明で規定する結晶形は測定誤差も含まれることから、ピークの角度に関する合理的な同一性があればよい。
【0056】
本発明では結晶性のカルシウム塩を得られていれば、アルカリ金属が残留しても特に問題がない。
【0057】
本発明のPQQのカルシウム塩は難溶性である。この難溶性PQQのカルシウム塩を溶解しやすくするにはキレート性物質と反応させてカルシウムを除くことで容易に行うことができる。そのためキレート性物質との組成物は遊離性を制御するのに有効である。キレート性物質はカルシウムに対して有効であればよくいずれであってもよく、例えば、食べることができるキレート性物質としては、リン酸(リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム等)、ピロリン酸、核酸(DNAナトリウム等)、フィチン酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、EDTA、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸等及びその塩類が挙げられる。これらの添加量は機能に合わせて決定することができるが、カルシウム塩に対して0.1から1000倍の重量で加えればよい。より好ましくは1から100倍である。この方法により、難溶性であったカルシウム塩をキレート性物質が反応することでキレート物質のカチオン交換することで水溶性にかえることができる。
【0058】
難溶性PQQのカルシウム塩はそのままでも細胞や生体に投与した場合、生体内には多くのカルシウムと反応する物質が存在しているため、遊離し、働くことができる。また、その難溶性結晶の大きさは、細胞が物質を取り込むのに適する1μm以下である場合、溶解しているより促進する可能性がある。これはエンドサイトーシスと呼ばれる細胞内取り込みのメカニズムに依存していると考えられる。
【0059】
本発明のPQQのカルシウム塩は、溶解と同時にカルシウムイオンを遊離することができる。PQQのカルシウム塩は、有機溶媒、特に、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の存在下で容易にカルシウムイオンを遊離することができる。
【0060】
本発明のPQQのカルシウム塩の結晶は、医薬または機能性食品の有効成分とすることができる。すなわち、本発明によれば、本発明のPQQのカルシウム塩の結晶を含んでなる医薬または食品が提供される。皮膚外用剤、注射剤、経口剤、坐剤等の形態、あるいは、日常食する飲食物、栄養補強食、各種病院食等の形態で提供可能である。なお、調製の際に使用される添加剤としては、液剤としては水、果糖、ブドウ糖等の糖類、落下生油、大豆油、オリーブ油等の油類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類を用いることができる。
【0061】
錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの固形剤の賦型剤としては乳糖、ショ糖、マンニット等の糖類、滑沢剤としてはカオリン、タルク、ステアリン酸マグネシウム等、崩壊剤としてデンプン、アルギン酸ナトリウム、結合剤としてポリビニルアルコール、セルロース、ゼラチン等、界面活性剤としては脂肪酸エステル等、可塑剤としてグリセリン等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。必要に応じて溶解促進剤、充填剤等を加えてもよい。
【0062】
PQQのカルシウム塩の結晶は、単独でも、他の素材と組み合わせても使用できる。組み合わせ可能な素材としては、ビタミンB群、ビタミンC及びビタミンE等のビタミン類、アミノ酸類、アスタキサンチン、α-カロテン、β-カロテン等のカロテノイド類、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等のω3脂肪酸類、アラキドン酸等のω6脂肪酸類などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
本発明の好ましい態様によれば、
(i)pH2.5〜4のピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の水溶液とカルシウムイオン源の水溶液とを混合すること;
(ii)工程(i)で得られた混合物から析出物を得ること
を含んでなる、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩の製造方法および該製造方法により得られたピロロキノリンキノンのカルシウム塩(結晶)が提供される。このようにして得られたピロロキノリンキノンのカルシウム塩は、ピロロキノリンキノンとカルシウムイオンとの比が約1:1である。
【0064】
本発明の好ましい態様によれば、
(i)pH4.5〜7のピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の水溶液とカルシウムイオン源の水溶液とを混合すること;
(ii)工程(i)で得られた混合物から析出物を得ること
を含んでなる、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩の製造方法および該製造方法により得られたピロロキノリンキノンのカルシウム塩(結晶)が提供される。このようにして得られたピロロキノリンキノンのカルシウム塩は、ピロロキノリンキノンとカルシウムイオンとの比が約1:1.5である。
【0065】
本発明の好ましい態様によれば、
(i)pH2〜7のピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の水溶液とカルシウムイオン源の水溶液とを混合すること;
(ii)工程(i)で得られた混合物から析出物を得ること;および
(iii)工程(ii)で得られた析出物を含む混合物をpH1.5〜3.5で24時間以上置くこと
を含んでなる、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩の製造方法および該製造方法により得られたピロロキノリンキノンのカルシウム塩(結晶)が提供される。このようにして得られたピロロキノリンキノンのカルシウム塩は白色である。
【0066】
本発明のより好ましい態様によれば、
(i)pH2〜7のピロロキノリンキノンまたはそのアルカリ金属塩の水溶液と、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、および水酸化カルシウムからなる群から選択されるカルシウムイオン源の水溶液とを混合すること;
(ii)工程(i)で得られた混合物から析出物を得ること;および
(iii)工程(ii)で得られた析出物を含む混合物をpH1.5〜3.5で24時間以上置くこと
を含んでなる、ピロロキノリンキノンのカルシウム塩の製造方法および該製造方法により得られたピロロキノリンキノンのカルシウム塩(結晶)が提供される。このようにして得られたピロロキノリンキノンのカルシウム塩は白色である。
【0067】
本発明はまた、以下の発明も提供される。
〔1〕ピロロキノリンキノンイオンとカルシウムイオンの比が1:0.5から1.5であるピロロキノリンキノンのカルシウム塩。
〔2〕粉末X線回折でCu Kα放射線を用いた2θのピークとして7.7°、10.6°、19.1°、26.4°、38.6°(いずれも±0.4°)を示すピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶。
〔3〕粉末X線回折でCu Kα放射線を用いた2θのピークとして9.8°、15.3、17.1、19.7°、26.3°、28.3°(いずれも±0.4°)を示すピロロキノリンキノンカルシウム塩の結晶。
〔4〕ピロロキノリンキノンのカルシウム塩とキレート性物質を含む組成物。
〔5〕キレート性物質がリン酸、ピロリン酸、核酸、フィチン酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、EDTA、ヘキサメタリン酸及びポリリン酸からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする〔4〕記載の組成物。
〔6〕ピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩とカルシウム化合物を反応させることを特徴とするピロロキノリンキノンのカルシウム塩の製造方法。
【実施例】
【0068】
実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。
【0069】
本発明に関する分析は以下のようにして行った。
(粉末X線回折)
装置:RIGAKU製RINT2500
X線:Cu/管電圧40kV/管電流100mA
発散スリット:2/3°
散乱スリット:2/3°
受光スリット:0.3mm
スキャンスピード:4.000°/min
サンプリング幅:0.02
(吸光度測定)
装置:HITACHI U−2000(日立)
(ICP分析)
装置:iCAP6500(Thermo Scientific)
(NMR測定)
装置:ECA−500(日本電子)
分析条件:
H:wPMLG3
H−13C:dipolar hetcor
回転数:10kHz
プローブ:固体3.2mm
試料管:窒化ケイ素製
(XPS分析)
装置:ESCA3400(島津製作所)
分析条件:
X線源:Mg Kα
出力:10kV 100W
P.E.:75
Resolution ナロー:high
(CHNO分析)
装置:EA1112(Thermo Finnigan)
分析条件:
燃焼温度:CHN:950℃;O:1060℃
カラムオーブン温度:CHN:65℃;O:75℃
検出器:TCD
検量線用標準物質:アンチピリン
【0070】
試験例1:原料合成
特許第2692167号公報の実施例1に基づき、ハイホミクロビウム メチロボラム DSM1869を培養して得られた培養液を遠心分離して、菌体を除去し、PQQを含有する培養上澄液を得た。なお、この菌株はDSM(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen (German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)から入手できるものである。Sephadex G−10(ファルマシア製)カラムに、この培養上澄液を通過させてPQQを吸着させ、NaCl水溶液で溶出させて得られたpH7.5のPQQ水溶液をさらにNaClを60g/L濃度になるように加えて冷却し、固体を得た。得られた固体を水に溶かし高速液体クロマトグラフィーのUV吸収によるPQQ純度は99.0%以上であった。この固体をイオン交換水に溶解し、PQQ10g/Lを含む溶液を800g用意した。塩酸を加えてpHを3.5にした後、エタノールを200mL添加した。この時、赤色固体が析出した。室温下で5時間攪拌した後、5℃で24時間静置し、固体を析出させた。連続遠心分離で固体を回収し、50℃で減圧乾燥を行った。得られた固体の粉末X線回折スペクトルを測定した。得られた固体(PQQジナトリウム塩)には低角側でピークが見られる他は殆どピークが見られず、結晶性が低かった。
【0071】
実施例1:PQQ結晶化(pH6.4)
試験例1で得られたPQQジナトリウム塩1gを水100gに加え、NaOHでpH6.4に調整した。塩化カルシウム1gを水40mlに溶解した液を加え、一晩攪拌した後、析出した固体をろ過し、水、エタノールで洗った。これを減圧乾燥50℃で一晩行った。濃赤色結晶の重量1.18gを得た。含水量23%であった。ICP分析を使って分析した結果、PQQ1に対してCa1.5molの比で含有しており、Na含有量0でナトリウムは含まれていなかった。得られたカルシウム体の粉末X線回折の結果を図1に示す。7.7°、10.6°、19.1°、26.4°、38.6°にピークを有する結晶性PQQカルシウム塩であった。この固体は結晶性で水溶性の低い物質であった。
【0072】
実施例2:PQQ結晶化(pH3.5)
PQQジナトリウム塩3gを水800gに加え溶解した。この時のpHは3.5であった。塩化カルシウム6gを水100mlに溶解した液を加え、2日間攪拌後、析出した固体をろ過し、水、エタノールで洗った。これを減圧乾燥70℃で一晩行い赤色の固体3.29gを得た。含水量11%であった。ICP分析を使って分析した結果、PQQ1に対してCa1molの比で含有しており、Na含有量0でナトリウムは含まれていなかった。得られたカルシウム塩の粉末X線回折は図2に示す。9.8°、15.3、17.1、19.7°、26.3°、28.3°にピークを有する結晶性PQQカルシウム塩であった。この固体は結晶性で水溶性の低い物質であった。
【0073】
実施例1−1、2−1、比較例1:細胞を使用した吸収性試験
PQQは培養動物細胞に対して増殖を増やす効果と高濃度にすると細胞の増殖を抑える効果がある。これを利用して細胞吸収がどのように変化するかを試験した。
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-DHFR、大日本住友製薬社製)をα‐MEM+10%牛胎児血清の培地で5%CO, 37℃で培養した。イワキ製96穴プレート使用し、1個の穴に6000個の細胞になるように100μlの培地とともに加え、一晩培養した。培養液を抜き、所定の試験濃度の培地を加えた。2日培養後、培地を入れ替え、Cell Counting Kit 8(同仁化学社製)を使用して1時間反応させ、450nmの吸光度を測定した。この時の吸光度は細胞数に比例する。
【0074】
試験サンプルは前記実施例1,2の結晶PQQカルシウム塩、および試験例1の原料のPQQジナトリウム塩を使用し、培地で希釈して試験した。各サンプル2回行い平均化した。試験濃度は150μg/MLを上限に1/2に濃度を変え、2.3μg/MLを下限として行った。
無添加と比較してPQQによる細胞数が最も多くなっている濃度(5%程度)を最適増殖濃度として記載する。また、全細胞数が無添加と比較して10%程度少なくなる添加量を増殖低下濃度として記載する。その結果を以下の表1に示す。
【表1】
増殖に効果的な濃度はPQQジナトリウム塩に比べ、約16から32分の1になっており、吸収性が向上していることが分かった。増殖低下濃度は2分の1になっており、吸収性が向上していることが分かる。このように吸収性は向上しており、カルシウム塩によって細胞透過性が向上していることが示された。また、難溶性の塩ではあるが細胞への影響は表れており、生物的には利用できる形態であることが示された。
【0075】
実施例3−10、1−2,2−2:溶出試験
キレート性物質を添加することによる不溶性の塩の溶解性の変化を測定した。キレート性物質を実施例1、2で得られた結晶PQQカルシウム塩と混合し水1mlに加え、4時間室温で放置した後、遠心分離で不溶成分を除いた液を450nmでの吸収からPQQの溶解量を測定した。その結果を表2に示す。
【表2】
表2の実施例2−2,1−2に示すようにカルシウム塩単独の溶解性は非常に低い。これに対し、この不溶性の塩にキレート性物質を組み合わせることで溶解性を上げることができる。混合するものを変えることで溶解性を制御することができ、その用途に応じて変えることができる。
【0076】
実施例11:PQQ結晶化(pH4.8)
実施例1と同様に実験を行った。ただし、PQQジナトリウム塩の水溶液はpH4.8にあわせた。回収量等は実施例1と変わりなく、粉末X線回折の分析結果も実施例1と同様の結晶構造を有していた。PQQ1に対してCa1.5molの比の塩であった。
【0077】
実施例12:結晶化(pH2.9)
実施例2と同様の操作を行った。ただし、PQQジナトリウム塩の水溶液はpH2.9にあわせた。回収量等は実施例2と同様で、粉末X線回折の分析結果は実施例2の結晶(PQQ:Ca=1:1の塩)とともに他の結晶構造も混合された結晶性物質であった。
【0078】
実施例13:PQQ結晶化(pH6.6)
ピロロキノリンキノンのカリウム塩0.54gを水300mlに溶かしてpHを6.6にした。塩化カルシウム1.4gを含む水溶液20mlと混合し、一晩攪拌した。ろ過した後、水、エタノールで洗浄後、減圧乾燥して0.42gの固体を得た。得られた物質の粉末X線回折は実施例1と同様のピークを与え、PQQ1に対してCa1.5molの比のカルシウム塩が製造できた。
【0079】
実施例14:白色の結晶PQQカルシウム塩の製造
試験例1で得られたPQQジナトリウム塩を水に溶かし、2g/Lの水溶液を作製した。この水溶液400mlに2Nの塩酸を2ml加えた。塩化カルシウム(2g/L)の水溶液170mlと温度10℃で混合した。混合時のpHは2.3であった。30分間10℃にしたのち、40℃にして3日間攪拌した。これをろ過し、50mlの水で洗浄し白色固体を得た。減圧乾燥を一晩行い、0.76gの固体を得た。粉末X線回析結果を図3に示す。8.8°、17.5°、25.4°、28.1°、30.5°、33.9°にピークを示す結晶性の白色物質であった。
【0080】
実施例15:10℃での反応
試験例1で得られたPQQジナトリウム塩を水に溶かし、2g/Lの水溶液を作製した。この水溶液400mlに2Nの塩酸を2ml加えた。塩化カルシウム(2g/L)の水溶液170mlと温度10℃で混合した。混合時のpHは2.3であった。10℃で3日間おいた。これをろ過し、50mlの水で洗浄し白色固体を得た。減圧乾燥を一晩行い、0.78gの固体を得た。粉末X線回析結果は実施例14と同じであった。
【0081】
実施例16:pH2.6での反応
試験例1で得られたPQQジナトリウム塩を水に溶かし、2g/Lの水溶液を作製した。この水溶液250mlに2Nの塩酸を0.6ml加えた。塩化カルシウム(2g/L)の水溶液120mlを室温(約20℃)で混合した。混合時のpHは2.6であった。40℃で6日攪拌した。これをろ過し、10mlのエタノールで洗浄し白色固体を得た。減圧乾燥を一晩行い、0.50gの固体を得た。粉末X線回析結果は実施例14と同じであった。
【0082】
実施例17:白色結晶前駆体(赤色固体)の合成
10℃で混合後、30分でろ過する以外は実施例15と同様に実験を行った。その結果、赤色固体を得た。減圧乾燥を一晩行い、0.79gの赤色固体を得た。
【0083】
実施例18:酢酸でpH調整
試験例1で得られたPQQジナトリウム塩を水に溶かし、2g/Lの水溶液を作製した。この水溶液250mlに酢酸を4.19g加えた。塩化カルシウム(2g/L)の水溶液120mlと室温で混合した。混合時のpHは2.8であった。40℃で6日攪拌し、これをろ過し、10mlのエタノールで洗浄し白色固体を得た。減圧乾燥を一晩行い、0.51gの白色固体を得た。
【0084】
実施例19:白色固体と赤色固体の分離
試験例1で得られたPQQジナトリウム塩を水に溶かし、2g/Lの水溶液を作製した。この水溶液400mlに2Nの塩酸を2ml加えた。塩化カルシウム(2g/L)の水溶液170mlと室温で混合した。混合時のpHは2.3であった。5分後70℃にして1日間放置した。赤色と白色の固体が生じていた。これを50mlの遠沈管に分けて入れ、遠心分離機HITACHI himac CF7D2に入れ、2000回転30分おこなった。容器の底に赤色が下、白色が上の層になって沈降していた。比重差で白色固体と赤色固体とを分離することができた。
【0085】
実施例20−22、比較例2−4:pHによる変化の確認
PQQジナトリウム塩水溶液(2g/L)と塩化カルシウム水溶液(2g/L)を2:1ので混合した。pHは塩酸またはNaOHで調整した。混合時は全て赤色であった。50℃で3日以上放置して色の変化を観察した。
【表3】
混合後にpHを変えても白色固体を作ることができることが分かった。pHが4以上では白色固体はできなかった。
【0086】
実施例23:原料を変えた実験
PQQジナトリウム塩水溶液に塩酸を加え、pH1で析出させて得られたPQQフリー体に水を加え3g/LとしたPQQフリー体の水溶液500μLと炭酸カルシウム1g/Lの水溶液750μLを混合して70℃で一晩放置した(pH3.1)。白色PQQカルシウム化合物が生成した。
【0087】
実施例24〜28:PQQの遊離
実施例15で製造した白色のPQQカルシウム塩10mgを2mlの表4に示す各溶媒に加えた。40℃で5時間放置した後、遠心分離で固体分を除き、高速液体クロマトグラフィーでPQQを分析した。
【表4】
白色のPQQカルシウム塩は、DMSOやリン酸イオンが多い環境ではカルシウムイオンを遊離して赤色溶液となることが分かった。また、人工胃液ではカルシウムイオンを遊離しにくく、中性のリン酸溶液ではカルシウムイオンを遊離しやすいことが分かった。このことは、PQQのカルシウム塩が胃では反応しにくい固体であるが吸収しやすい腸に入るとカルシウムイオンを遊離することを示している。さらに、酢酸バッファーでは、固体の白色PQQカルシウム塩から付加した水を取る効果は小さく、溶解した一部のみから付加した水を外していることが分かった。
【0088】
実施例29:
以下の各試料について、NMR及びXPSによる構造解析を行った。
1:PQQフリー体(PQQジナトリウム塩水溶液に塩酸を加えpH1で析出した赤色PQQ固体)
2:PQQジナトリウム塩(比較例2)
3:赤色PQQカルシウム化合物(実施例17)
4 白色PQQカルシウム化合物(実施例14)
固体NMR測定
図4H−固体NMR(wPMLG3)スペクトル結果を示した。PQQフリー体についてはケミカルシフト値から各シグナルを帰属した。6個のプロトンに対し、5本のシグナルしか確認できないが、PQQの構造から3個のCOOHがあるため、8〜9ppmのシグナルが2個分のCOOHシグナルであると推定した。一方、PQQ−Na赤、PQQ−Ca赤、PQQ−Ca白では5〜6ppmに五員環H(a)のシグナルを確認した。また、各試料、5ppm以下(高磁場側)にNH由来と推定されるシグナルを確認したが、PQQ−Ca白は2本のシグナルが重なった形状であり、他の試料には無いシグナルを確認した。
【0089】
図513C−固体NMR(CPMAS)スペクトル(6mmプローブ,9kHz)を示した。いずれのスペクトルにおいても160ppm以上のシグナルがCOO,C=O由来であり、160ppm以下が五員環及び六員環の骨格由来のシグナルであると推定した。また、PQQ−Ca赤、PQQーCa白はC=O由来と推定されるシグナルは一本しか確認できなかった。ただし、190ppm付近のサイドバンドが重なってシグナルが隠れている可能性も考えられた。PQQ−Ca白では93ppm付近にシグナルが有り、1H測定で3〜4ppmにシグナルがあったことから、−CH−Oーの構造を持つ可能性が考えられた。
【0090】
X線光電子分光(XPS)測定
官能基の変化を確認するため、ESCA3400(島津製作所社製)を用いてXPS測定を行った。白色PQQCa塩については装置内で高真空下に置き、一定時間経過後に取り出したところ、色が赤く(赤色PQQCa塩よりは薄い赤色)変化していた。これは後述するCHNO分析結果から、付着していた水が真空化で飛んだためと推定した。従って白色PQQCa塩のXPS分析結果は色の変化後の結果であると考えられ、*印で区別した。
【0091】
図6にC1sの測定結果を示した。帯電補正はC1sの低エネルギー側のピークトップを285eVに合わせた。PQQフリー体と赤色PQQCa塩、白色PQQCa塩のC1sを比較するといずれの試料も288〜289eV付近にCOO由来のピークを確認したが、PQQ−Ca赤、PQQ−Ca白は287eV付近が凹んでおり、C=O由来のピークが減少していると考えられた。
【0092】
CHNO分析
モル比(N=1として)でPQQ−Ca赤とPQQ−Ca白を比較するとHとOに差が有り、差分の組成はHO(またはHO)に相当した。また真空引き前後(PQQ−Ca白とPQQ−Ca白*)で比較してもHとOに差が有り、差分の組成はHOに相当した。
【表5】
これらの結果を総合すると片方のキノン構造が変化してCHーOHを有しており、水和した構造であると考えられる。元素分析はPQQに対し、カルシウム1、水分子が2分子程度と考えられる。カルシウムイオンが存在することでPQQ上に水和しており、共役形の広がりを下げ、白色にしたと考えられる。この水和構造は容易に変えることができ、元の構造に変化させることができる。
図1
図2
図3
図5
図4
図6