(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミン(A)に由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸(B)に由来するポリアミド樹脂又はこれを含むポリアミド樹脂組成物の成形体であって、下記式で示される結晶性が0〜50%、水分率が0.1〜2質量%であり、前記水分率は、カールフィッシャー法に従い、ポリアミド樹脂の融点−5℃で、30分気化して得られた水分量から算出した値であることを特徴とするポリアミド樹脂成形体;
結晶性(%)=(Qc/Qm)×100
(Qmはポリアミド樹脂成形体の融解熱量、Qcはポリアミド樹脂成形体の昇温時の結晶化熱量を表す)。
ポリアミド樹脂組成物が、カルボジイミド化合物(C)を、ポリアミド樹脂100質量部に対し0.1〜2質量部含有することを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂成形体。
ポリアミド樹脂又はこれを含むポリアミド樹脂組成物を溶融させる際のシリンダー温度を、シリンダーの入口温度(Tin)と出口温度(Tout)の関係が下記式(1)を満たすようにして成形されたものであることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂成形体。
Tout≧Tin+20℃ ・・・(1)
シリンダーの入口温度(Tin)、出口温度(Tout)及びポリアミド樹脂の融点(Tm)の関係が、下記式(2)及び式(3)を満たすことを特徴とする請求項6に記載のポリアミド樹脂成形体。
Tm+60℃≧Tout≧Tm+10℃ ・・・(2)
Tm+40℃≧Tin≧Tm−50℃ ・・・(3)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ポリアミド樹脂]
本発明に用いるポリアミド樹脂は、ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミン(A)に由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸(B)に由来するポリアミド樹脂である。
【0013】
ポリアミド樹脂を構成するジアミン単位は、キシリレンジアミン単位を70モル%以上含むことが必要であり、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む。ジアミン単位中のキシリレンジアミン単位が70モル%以上であることで、ポリアミド樹脂は優れた弾性率やガスバリア性を発現することができる。
【0014】
キシリレンジアミン(A)は、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン又はこれらの混合物が好ましく用いられる。ジアミン成分として、メタキシリレンジアミンにパラキシリレンジアミンを加えることで、ポリアミド樹脂の融点やガラス転移点、耐熱性、結晶化速度を向上させることができる。
【0015】
ポリアミド樹脂の結晶化速度を向上させる観点からは、ジアミン構成単位中パラキシリレンジアミンが、20モル%以上であることが好ましく、30モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましく、60%以上が特に好ましい。
ポリアミド樹脂の柔軟性を向上させる観点からは、ジアミン構成単位中、メタキシリレンジアミンは、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0016】
メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン単位以外のジアミン単位を構成し得る化合物としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;
1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環族ジアミン;
ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン類等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
一方、本発明に用いるポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸構成単位の50モル%以上は、セバシン酸(B)であることを必要とする。セバシン酸(B)の量が、ジカルボン酸構成単位中、50モル%を下回ると、ポリアミド樹脂成形体の水分率が高くなり、吸水性(吸湿性)が増す。また、密度が大きくなるため得られるポリアミド樹脂成形体の重量が重くなる。セバシン酸(B)の量を50モル%以上とすることにより、ポリアミド樹脂成形体が吸水した際の弾性率低下を少なくすることができる。また、セバシン酸の量が多くなるほど軽量化ができる。セバシン酸の量は、好ましくは75〜100モル%、より好ましくは90〜100モル%である。
【0018】
このようなセバシン酸(B)は、植物由来のものであることが好ましい。植物由来のセバシン酸は、不純物として硫黄化合物やナトリウム化合物を含有することから、植物由来のセバシン酸(B)を構成単位とするポリアミド樹脂は、酸化防止剤を添加しなくても黄変しにくく、得られる成形体のイエローインデックス(YI)も低い。また、植物由来のセバシン酸(B)は、不純物を過度に精製することなく使用することが好ましい。過度に精製する必要が無いので、コスト的にも優位である。
【0019】
ここで、セバシン酸(B)は、硫黄原子濃度が1〜200ppmであることが好ましく、より好ましくは10〜150ppm、特に好ましくは20〜100ppmである。上記の範囲であると、ポリアミド樹脂を合成する際のYIの増加を抑えることができる。また、ポリアミド樹脂を溶融成形する際のYIの増加を押さえることができ、得られるポリアミド樹脂成形体のYIを低くすることができる。
【0020】
また、セバシン酸(B)は、ナトリウム原子濃度が1〜500ppmであることが好ましく、より好ましくは10〜300ppm、特に好ましくは20〜200ppmである。上記の範囲であると、ポリアミド樹脂を合成する際の反応性が良く、適切な分子量範囲にコントロールしやすくなる。また、ポリアミド樹脂を溶融成形する際に増粘を抑制することができ、成形性が良好となると共に成形加工時にコゲの発生を抑制できることから、得られる成形体の品質が良好となる傾向にある。さらに、ポリアミド樹脂とガラスフィラー等をコンパウンドする際にダイで発生する、所謂、目ヤニ等の樹脂劣化物の発生を抑制しやすい傾向にある。
【0021】
植物由来の場合のセバシン酸(B)の純度は、99〜100質量%が好ましく、99.5〜100質量%がより好ましく、99.6〜100質量%がさらに好ましい。この範囲であると、得られるポリアミド樹脂の品質が良く、重合に影響を及ぼさないため好ましい。
【0022】
例えば、セバシン酸(B)が含有する1,10−デカメチレンジカルボン酸等のジカルボン酸の量は、0〜1質量%が好ましく、0〜0.7質量%がより好ましく、0〜0.6質量%がさらに好ましい。この範囲であると、得られるポリアミド樹脂の品質が良く、重合に影響を及ぼさないため好ましい。
また、セバシン酸(B)が含有するオクタン酸、ノナン酸、ウンデカン酸等のモノカルボン酸の量は、0〜1質量%が好ましく、0〜0.5質量%がより好ましく、0〜0.4質量%がさらに好ましい。この範囲であると、得られるポリアミド樹脂の品質が良く、重合に影響を及ぼさないため好ましい。
【0023】
セバシン酸(B)の色相(APHA)は、100以下が好ましく、75以下がより好ましく、50以下がさらに好ましい。この範囲であると、得られるポリアミド樹脂のYIが低いため、好ましい。なお、APHAは、日本油化学会(Japan Oil Chemist’s Society)の基準油脂分析試験法(Standard Methods for the Analysis of Fats,Oils and Related Materials)により測定することができる。
【0024】
ポリアミド樹脂の製造に使用できるセバシン酸(B)以外のジカルボン酸成分としては、他の炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分が好ましく、例えばアジピン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
セバシン酸以外のジカルボン酸成分を使用する場合は、これらの中でも、アジピン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等を用いることが好ましく、特にはアジピン酸が好ましい。アジピン酸を併用することで、弾性率や吸水率、結晶性をコントロールしやすくなる。アジピン酸の量は、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下がさらに好ましい。
また、ウンデカン二酸、ドデカン二酸を併用すると、ポリアミド樹脂の比重が小さくなり、成形体が軽量化されるため好ましい。
セバシン酸以外の炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を使用する場合の使用割合は、50モル%未満であり、好ましくは40モル%以下である。
【0025】
また、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類なども使用でき、これらを併用することもできる。
さらに、ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、ポリアミド樹脂を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、ε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用することもできる。
【0026】
本発明に用いるポリアミド樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法、重合条件により行うことができる。例えば、ジアミン(キシリレンジアミン等)とジカルボン酸(セバシン酸等)とからなる塩を水の存在下に加圧状態で昇温し、加えた水及び縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法によりポリアミド樹脂を製造することができる。
また、ジアミン(キシリレンジアミン等)を溶融状態のジカルボン酸(セバシン酸等)に直接加えて、常圧下で重縮合する方法によってもポリアミド樹脂を製造することができる。この場合、反応系を均一な液状状態で保つために、ジアミンをジカルボン酸に連続的に加え、その間、反応温度が生成するオリゴアミド及びポリアミドの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
また、ポリアミド樹脂の重縮合時に、分子量調節剤として少量のモノアミン、モノカルボン酸を加えてもよい。
【0027】
本発明に用いるポリアミド樹脂は、さらに加熱処理し、溶融粘度を増大させたものを用いることもできる。
加熱処理する方法として、例えば、回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中もしくは減圧下において、水の存在下で緩やかに加熱し、融着を回避しつつ結晶化させた後、更に加熱処理を行う方法、溝型攪拌加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中で加熱し、結晶化させた後、ホッパー形状の加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中で加熱処理する方法、溝型攪拌加熱装置を用いて結晶化させた後、回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて加熱処理を行う方法等が挙げられる。
なかでも、回分式加熱装置を用いて、結晶化ならびに加熱処理を行う方法が好ましい。結晶化処理の条件としては、溶融重合で得られたポリアミド樹脂に対して1〜30質量%の水の存在下、かつ、0.5〜4時間かけて70〜120℃まで昇温することにより結晶化し、次いで、不活性ガス雰囲気中又は減圧下で、〔溶融重合で得られたポリアミド樹脂の融点−50℃〕〜〔溶融重合で得られたポリアミド樹脂の融点−10℃〕の温度で、1〜12時間加熱処理する条件が好ましい。
【0028】
本発明に用いるポリアミド樹脂の数平均分子量は、8,000〜50,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜45,000、更に好ましくは12,000〜40,000である。8,000未満であると、衝撃強度等のポリアミド樹脂の機械物性が低下する場合があり、また、50,000より大きいと、ポリアミド樹脂の合成時に過剰な熱履歴を加える必要があり、ポリアミド樹脂のYIが増加することがある。この範囲であると成形加工時に樹脂の流動が良好であるので、装置内部での滞留を抑制でき、得られる成形体はコゲ等の混入の少ない品質のより良いものとすることができる。
【0029】
なお、ポリアミド樹脂の数平均分子量については、以下の式から算出される。
数平均分子量=2×1000000/([COOH]+[NH
2])
(式中、[COOH]はポリアミド樹脂中の末端カルボキシル基濃度(μmol/g)を表し、[NH
2]はポリアミド樹脂中の末端アミノ基濃度(μmol/g)を表す。)
本発明では、末端アミノ基濃度は、ポリアミド樹脂をフェノール/エタノール混合溶液に溶解したものを希塩酸水溶液で中和滴定して算出した値を用い、末端カルボキシル基濃度は、ポリアミド樹脂をベンジルアルコールに溶解したものを水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定して算出した値を用いる。
【0030】
また、本発明に用いるポリアミド樹脂の融点は、150〜300℃の範囲に制御することが好ましく、より好ましくは160〜290℃、さらに好ましくは170〜290℃、特に好ましくは180〜290℃である。融点を上記範囲とすることにより、加工性がよくなる傾向にあり好ましい。
また、本発明に用いるポリアミド樹脂のガラス転移点は、50〜130℃の範囲であることが好ましい。ガラス転移点を上記範囲とすることによりバリア性が良好となる傾向にあり好ましい。
【0031】
なお、本発明において、ポリアミド樹脂の融点及びガラス転移点は、示差走査熱量測定(DSC)法によって測定することができ、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定される融点、ガラス転移点をいう。具体的には、例えば、窒素雰囲気下、30℃から予想される融点以上の温度まで10℃/分の速度で昇温し、2分間保持した後、測定サンプルを液体窒素又はドライアイスを用いて急冷する。次いで、10℃/分の速度で融点以上の温度まで昇温し、融点、ガラス転移点を求めることができる。
【0032】
また、本発明に用いるポリアミド樹脂は、末端アミノ基濃度が、100μ当量/g未満であることが好ましく、より好ましくは5〜75μ当量/g、さらに好ましくは10〜50μ当量/g、末端カルボキシル基濃度が、好ましくは200μ当量/g未満、より好ましくは10〜150μ当量/g、さらに好ましくは50〜130μ当量/gのものが好適に用いられる。末端アミノ基濃度及び末端カルボキシル基濃度を上記範囲とすることにより、成形加工時の粘度が安定し、加工性が良好となる傾向にある。また、末端カルボキシル基濃度又は末端アミノ基濃度が上記範囲であると、後記するカルボジイミド化合物を添加した際のポリアミド樹脂とカルボジイミド化合物の反応性が良好となり、得られる成形体の耐熱老化性、耐加水分解性などの物性が優れる傾向にあるため好ましい。
【0033】
また、本発明に用いるポリアミド樹脂は、反応したジカルボン酸に対するジアミンのモル比(反応したジアミンのモル数/反応したジカルボン酸のモル数)が0.98〜1.1であることが好ましく、より好ましくは0.985〜1.0、さらに好ましくは0.99〜0.999のものが用いられる。反応モル比が0.98〜1.1の範囲から外れる場合、ポリアミド樹脂の数平均分子量が増加しにくくなるため好ましくない。また反応モル比が1.1より大きい場合は、ポリアミド樹脂の末端アミノ基が過剰になり、これから得られる成形体のヘーズが上昇したり、ゲル化物が発生したりしやすくなる傾向があることから好ましくない。
【0034】
ここで、反応モル比(r)は次式で求められる。
r=(1−cN−b(C−N))/(1−cC+a(C−N))
式中、a:M
1/2
b:M
2/2
c:18.015
M
1:ジアミンの分子量(g/mol)
M
2:ジカルボン酸の分子量(g/mol)
N:末端アミノ基濃度(当量/g)
C:末端カルボキシル基濃度(当量/g)
【0035】
また、本発明に用いるポリアミド樹脂は、96%硫酸中、樹脂濃度1g/100cc、温度25℃で測定した相対粘度が1.7〜4.7であることが好ましく、2.05〜4.3であるものがより好ましく、2.45〜3.9であるものがさらに好ましい。このような範囲であると、成形加工性が良好となる傾向にあるため好ましい。
【0036】
[ポリアミド樹脂成形体]
上記したポリアミド樹脂又はこれを含むポリアミド樹脂組成物は、各種の成形方法により、各種形態の成形体とされる。
成形法としては、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形、真空成形、プレス成形、ダイレクトブロー成形、回転成形、サンドイッチ成形、二色成形、溶融紡糸等の成形法を例示することができる。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂成形体は、その結晶性が0〜50%であることを特徴とする。結晶性は好ましくは0〜30%であり、より好ましくは0〜15%であり、さらに好ましくは0〜5%である。結晶性がこのような範囲にあると、成形体の機械的強度が優れたものとなり、また、吸水時に弾性率等の機械物性の低下を抑えることができ、長期にわたり成形体の物性を維持することができるため好ましい。
【0038】
成形体の結晶性の調整は、例えば、成形温度や金型温度等の制御により可能である。具体的には、成形体が射出成形品の場合には、シリンダー温度を170〜350℃とし、金型温度を10〜150℃とし数秒〜数十秒、具体的には1〜60秒金型内で溶融樹脂を保持することにより、結晶性を制御することができる。金型温度は、80〜150℃が好ましく、90〜130℃がより好ましい。この範囲であると、好ましい結晶性を維持することができる。
【0039】
成形体がフィルム又はシートの場合には、タッチロールの温度を80〜150℃とし、引き取りスピードを制御することによって所定の結晶性の成形体とすることができる。引き取りスピードは、押出機のスクリュー径、トルクや、フィルム又はシートの大きさにもよるが、通常、キシリレンジアミン(A)がメタキシリレンジアミン100モル%の場合は、1〜50m/分が好ましい。キシリレンジアミン(A)が、メタキシリレンジアミン0〜70モル%、パラキシリレンジアミン100〜30モル%の混合物の場合は、5〜100m/分が好ましく、10〜100m/分がより好ましい。また、成形体がチューブや繊維等の場合であって、溶融樹脂を空冷又は水冷するにあたっては、冷却温度を30〜90℃とすることによって制御可能である。
【0040】
また、成形体の種類に関わらず、樹脂を溶融させるシリンダー温度の入口温度(Tin)と出口温度(Tout)の関係が、以下の式(1)を満たすようにすることが好ましい。
Tout≧Tin+20℃ ・・・(1)
この条件を満たすようにシリンダーの入口と出口の温度を調整することにより、結晶性を制御することができる。
また、シリンダーの入口温度(Tin)、出口温度(Tout)は、ポリアミド樹脂の融点(Tm)との関係において、以下の式(2)及び式(3)を満たすことが好ましい。
Tm+60℃≧Tout≧Tm+10℃ ・・・(2)
Tm+40℃≧Tin≧Tm−50℃ ・・・(3)
とすることがより好ましい。さらに好ましくは、
Tm+40℃≧Tout≧Tm+15℃
Tm+20℃≧Tin≧Tm−40℃
特に好ましくは、
Tm+30℃≧Tout≧Tm+20℃
Tm+10℃≧Tin≧Tm−30℃
である。このような範囲とすることにより、ポリアミド樹脂を溶融させるにあたって、過度に溶融させること無く、結晶化の起点となる結晶核を溶融樹脂中に適度に存在させることができると考えられ、結晶化を促進し、成形体の結晶性を調整しやすくなる。
【0041】
また、成形体の種類に関わらず、樹脂を溶融させるスクリューは、圧縮比が2〜4、より好ましくは2.2〜3.6のスクリューが、ポリアミド樹脂の結晶化を促進し、成形体の結晶性を調整しやすいため好ましい。また、スクリュー全長(供給部から圧縮部先端まで)を1としたときの圧縮部の長さが、0.1〜0.25であることが好ましく、より好ましくは0.11〜0.2、さらに好ましくは0.11〜0.15である。このような範囲の圧縮比や圧縮部長さのスクリューを用いることによって、結晶化の起点となる結晶核を溶融樹脂中に適度に存在させることができ、結晶化を促進し、成形体の結晶性を調整しやすくなり好ましい。
【0042】
また、成形体の種類に関わらず、成形体をポリアミド樹脂のガラス転移点(Tg)以上の温度に数分間〜数時間保持して熱処理(結晶化処理)を施すことにより、結晶化を促進させ、結晶性を調整することもできる。その際の好ましい温度は、
Tg+20℃〜Tm−20℃であり、より好ましくは、Tg+40℃〜Tm−40℃、さらに好ましくは、Tg+60℃〜Tm−60℃である。
【0043】
また、成形体の種類に関わらず、成形前のポリアミド樹脂の水分率を調整することによっても、成形体の結晶性を調整することが可能である。成形前のポリアミド樹脂の水分率の調整は、公知の方法を採用できる。例えば、温度60〜180℃、好ましくは80〜150℃の範囲で、例えば、2時間以上、好ましくは3時間以上、上限は24時間程度で、乾燥させる方法があげられる。乾燥は減圧下でも常圧下でもあってもよいが、減圧下が好ましい。また、乾燥時の雰囲気としては、空気、窒素、不活性ガス等のいずれであってもよい。除湿空気を用いる場合は、100℃以下、好ましくは90℃以下で乾燥することが、ポリアミド樹脂の着色を防止する観点から好ましい。乾燥する際の装置としては、静置型乾燥機、回転型乾燥機、流動床型乾燥機、攪拌翼を有する乾燥機等を使用することができる。成形前のポリアミド樹脂が適度な水分率を有することによって、成形加工時に結晶化を促進できる。ポリアミド樹脂の好ましい水分率は、0.02〜0.15質量%であり、より好ましくは0.03〜0.10質量%、さらに好ましくは0.04〜0.09質量%である。
【0044】
なお、本発明において、ポリアミド樹脂成形体の結晶性の測定は、示差走査熱量計を用いて、以下の式から算出される。
結晶性(%)=(Q
c/Q
m)×100
(Q
mはポリアミド樹脂成形体の融解熱量、Q
cはポリアミド樹脂成形体の昇温時の結晶化熱量を表す。)
具体的には、成形体から約10mgのサンプルを切り出し、島津製作所(株)製の示差走査熱量計DSC−50を用い、下記の方法により測定される。
標準物質:α−アルミナ
試料量:約10mg
昇温速度:10℃/分
測定温度範囲:25〜300℃
雰囲気:窒素ガス 30ml/分
なお、周知のように、融解熱量は樹脂が溶融する際の成形体単位重量あたりの吸収熱量であり、結晶化熱量は昇温時に樹脂が結晶化する際の成形体単位重量あたりの発熱量である。結晶性の値が小さいほど、成形体の結晶化度が高いといえる。
【0045】
また、本発明のポリアミド樹脂成形体は、その水分率が0.1〜2%であることを特徴とする。
ポリアミド樹脂成形体の水分率は、0.2〜1.8質量%であることが好ましく、より好ましくは0.3〜1.4質量%、さらに好ましくは0.4〜1質量%である。水分率が上記範囲内にあり、かつ結晶性が前記範囲にあると、本発明のポリアミド樹脂成形体は、驚くべきことに、弾性率等の機械的強度を高く維持することが可能となる。この点は、一般的に言われてきたポリアミド樹脂が水分吸収により強度低下が生じるという常識を大きく覆すものである。
ポリアミド樹脂成形体の水分率が、0.1%に満たない場合は、成形体の強度が不十分であり、靭性が不足することから、機械的強度を高く維持することができず、また割れ等を生じやすくなる。2%を超えても、機械的強度の保持率が悪化し、長期使用の際に機械的強度が低下してしまう。
【0046】
水分率の調整は、ポリアミド樹脂成形体を、例えば20℃〜60℃の条件下で、50〜100%RHの湿度を保ち保存し吸湿させる方法、あるいは水中に保存し吸水させる方法、また、それらの吸湿処理後に、加熱乾燥する方法等で実施できる。また、加熱装置においてポリアミド樹脂成形体とともに水あるいはスチームを仕込んで、例えば40〜150℃に昇温し所定の水分率に調製する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
なお、本発明において、ポリアミド樹脂成形体の水分率の測定は、カールフィッシャー法(Karl Fisher Method)にて測定でき、成形体から切り取った試験片を、例えば、平沼産業(株)(Hiranuma Sangyo Co.,Ltd.)製カールフィッシャー微量水分測定装置(Karl Fisher Moisture Meter)(ZQ−2000)を用い、測定温度は、ポリアミド樹脂の融点−5℃とし、30分の気化条件で水分量を定量して、水分率を求めることにより行われる。
【0048】
[成形方法]
本発明のポリアミド樹脂成形体は、上記したポリアミド樹脂を用いて、前記した、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、圧縮成形、真空成形、プレス成形、ダイレクトブロー成形、回転成形、サンドイッチ成形、二色成形、溶融紡糸等により、所望の形状の成形体を製造することができる。例えば、ポリアミド樹脂を、所望により各種添加成分をブレンドし、シリンダー温度が200〜350℃程度に調製された射出成形機に投入して溶融状態にして、所定の形状の金型内に導入することにより射出成形体を製造することができる。
【0049】
例えば、シート、フィルムを製造するにあたっては、ポリアミド樹脂(又は組成物)を押出成形し常法に従って製造することができ、具体的には、ポリアミド樹脂組成物を溶融して連続的にTダイより押出し、キャスティングロールにて冷却しながらフィルム状に成形するTダイ法、環状のダイスより連続的に押出し、水を接触させて冷却する水冷インフレーション法、同じく環状のダイスより押出し、空気によって冷却する空冷インフレーション法等によって得られる。また積層したシート、フィルムでも構わない。
なお、本発明のポリアミド樹脂成形体におけるシート、フィルムとは、厚いものを「シート」、薄いものを「フィルム」とする一般的な定義に準じるが、正確に規定する場合は0.1mm以上のものを「シート」、0.1mm未満のものを「フィルム」とする。
【0050】
また、チューブや(異形)押出品を製造することもでき、また、チューブ状に引いた後、金型により型圧縮することで、コルゲートチューブのように蛇腹状のチューブにしたり、螺旋状に切断したりすることでスパイラルチューブ等にすることができる。
【0051】
本発明のポリアミド樹脂成形体は、成形体が上記した結晶性及び水分率の条件を満たすことによって、弾性率等の機械的強度に優れ、長期使用の際に機械的強度が低下するという問題がないキシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂成形体となる。
このような条件と成形体の性能向上との関係は未だ充分解明出来ていないが、結晶性及び水分率を本発明規定の範囲とすることにより、このように優れた性能を発現する。
本発明に使用するポリアミド樹脂の結晶化度が高いために、水分量が上がっても弾性率が低下しにくいこと、水分子が配位するアミド基の濃度が低いので、吸水しにくく、弾性率が低下しにくいこと、非晶部分の吸水性が低いことなどの要因が関係しているようではあるが、定かではない。また、分子構造的にキシリレンジアミンとセバシン酸が特定量存在することにより、吸水しても物性の低下が少ない特異的な結晶構造となるとも推定されるが、現時点では定かではない。
【0052】
[その他添加剤等]
本発明のポリアミド樹脂成形体に使用するポリアミド樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、各種添加剤を配合し、ポリアミド樹脂組成物とすることができる。具体的には、例えば、リン系、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、有機硫黄系、シュウ酸アニリド系、芳香族第2級アミン系などの有機系安定剤、銅化合物やハロゲン化物などの無機系安定剤、ガラス系充填材(ガラス繊維、粉砕ガラス繊維(ミルドファイバー)、ガラスフレーク、ガラスビーズ等)、ケイ酸カルシウム系充填材(ワラストナイト等)、マイカ、タルク、カオリン、チタン酸カリウムウィスカー、窒化ホウ素、炭素繊維等の無機充填材、タルク、窒化ホウ素等の結晶核剤、カルボジイミド化合物等の耐加水分解性改良剤、導電剤、滑剤、可塑剤、離型剤、顔料、染料、分散剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、耐衝撃性改良剤、難燃剤及びその他の周知の添加剤を配合することができる。
【0053】
例えば、ガラス系充填材の配合量はポリアミド樹脂100質量部に対し、好ましくは5〜200質量部、より好ましくは10〜150質量部であり、更に好ましくは20〜100質量部である。無機系充填材の配合量はポリアミド樹脂100質量部に対し、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.5〜50質量部であり、更に好ましくは1〜30質量部である。結晶核剤の配合量はポリアミド樹脂100質量部に対し、好ましくは0.1〜100質量部、より好ましくは0.5〜50質量部であり、更に好ましくは1〜30質量部である。離型剤の配合量はポリアミド樹脂100質量部に対し、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.2〜8質量部であり、更に好ましくは0.5〜5質量部である。
【0054】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、上記ポリアミド樹脂以外のその他の樹脂を配合することもできる。この場合、ポリアミド樹脂100質量部に対し、好ましくは5〜200質量部、より好ましくは10〜150質量部であり、更に好ましくは20〜100質量部である。
【0055】
これらの添加剤の中でも、耐加水分解性改良剤としてのカルボジイミド化合物(C)を配合することが好ましい。カルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造した芳香族、脂肪族又は脂環式のポリカルボジイミド化合物が好ましく挙げられる。これらの中で、押出し時等における溶融混練性の面から、脂肪族又は脂環式ポリカルボジイミド化合物が好ましく、脂環式ポリカルボジイミド化合物がより好ましく用いられる。
【0056】
これらのカルボジイミド化合物(C)は、有機ポリイソシアネートを脱炭酸縮合反応することで製造することができる。例えば、カルボジイミド化触媒の存在下、各種有機ポリイソシアネートを約70℃以上の温度で不活性溶媒中、もしくは溶媒を使用することなく、脱炭酸縮合反応させることによって合成する方法等を挙げることができる。イソシアネート基含有率は、好ましくは0.1〜5%、より好ましくは1〜3%である。上記のような範囲とすることにより、ポリアミド樹脂との反応が容易となり、耐加水分解性が良好となる傾向にある。
【0057】
カルボジイミド化合物(C)の合成原料である有機ポリイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート等の各種有機ジイソシアネートやこれらの混合物を使用することができる。
有機ジイソシアネートとしては、具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、メチレンビス(4,1−シクロへキシレン)=ジイソシアネート等を例示することができ、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチレンビス(4,1−シクロへキシレン)=ジイソシアネートが好ましい。
【0058】
カルボジイミド化合物(C)の末端を封止してその重合度を制御するために、モノイソシアネート等の末端封止剤を使用することも好ましい。モノイソシアネートとしては、例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
【0059】
なお、末端封止剤としては、上記のモノイソシアネートに限定されることはなく、イソシアネートと反応し得る活性水素化合物であればよい。このような活性水素化合物としては、脂肪族、芳香族、脂環式の化合物の中で、メタノール、エタノール、フェノール、シクロヘキサノール、N−メチルエタノールアミン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等の−OH基を持つ化合物、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の2級アミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の1級アミン、コハク酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸等のカルボン酸、エチルメルカプタン、アリルメルカプタン、チオフェノール等のチオール類やエポキシ基を有する化合物等を例示することができ、2種以上を併用してもよい。
【0060】
カルボジイミド化触媒としては、例えば、1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド及びこれらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド等、チタン酸テトラブチル等の金属触媒等を使用することができ、これらのなかでは、反応性の面から3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシドが好適である。カルボジイミド化触媒は、2種以上併用してもよい。
【0061】
カルボジイミド化合物(C)の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、好ましくは0.1〜2質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部であり、さらに好ましくは、0.2〜1.5質量部、特に好ましくは、0.3〜1.5質量部である。0.1質量部未満では、ポリアミド樹脂の耐加水分解性が十分ではなく、押出等の溶融混練時の吐出ムラが発生しやすく、溶融混練が不十分となりやすい。一方、2質量部を超えると、溶融混練時の樹脂の粘度が著しく増加し、溶融混練性、成形加工性が悪くなりやすい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。
なお本発明における評価のための測定は、以下の方法で行った。
【0063】
[評価方法]
実施例1〜14及び比較例1〜5のポリアミド樹脂又はポリアミド樹脂組成物を成形した試験片に対して、下記(1)〜(4)の評価を行った。
(1)曲げ強さ(単位:MPa)
下記の方法で得られたポリアミド樹脂又はポリアミド樹脂組成物を用い、後記表1〜3に記載の組成及び成形条件で、ファナック社(FANUC Corporation)製射出成形機100Tにて、試験片(ISO試験片 4mm厚み)を作製した。なお、成形前に、実施例2、5〜8、11、12の樹脂組成物に対しては、80℃の除湿エアー(露点:−40℃)で8時間の乾燥を、それ以外のポリアミド樹脂に対しては、150℃で5時間の真空乾燥を実施した。
得られた試験片に、表に記載の条件で熱処理(結晶化処理)を行い、JIS K7171に準じて曲げ強さ(MPa)を求め、これを吸水処理前の曲げ強さとした。なお、装置は東洋精機株式会社(Toyo Seiki Seisaku−sho,Ltd.)製引張試験機(tensile strength tester)「ストログラフ(Strograph)」を使用し、測定温度を23℃、測定湿度を50%RHとして測定した。
また、同上の方法で射出成形して得られた試験片に、表1〜3に記載の条件で熱処理及び吸水処理を実施した後、同上の方法で曲げ強さを求め、これを吸水処理後の曲げ強さとした。なお、熱処理、吸水処理を行わなかった場合は、表中の熱処理条件、吸水処理条件欄に「無し」と記載した(以下、(2)〜(4)についても同様である)。
【0064】
(2)曲げ弾性率(単位:GPa)
下記の方法で得られたポリアミド樹脂又はポリアミド樹脂組成物を用い、表1〜3に記載の組成及び成形条件で、ファナック社製射出成形機100Tにて、試験片(ISO試験片 4mm厚み)を作製した。なお、成形前に、実施例2、5〜8、11、12の樹脂組成物に対しては、80℃の除湿エアー(露点:−40℃)で8時間の乾燥を、それ以外のポリアミド樹脂に対しては、150℃で5時間の真空乾燥を実施した。
得られた試験片に、表1〜3に記載の条件で熱処理(結晶化処理)を行い、JIS K7171に準じて曲げ弾性率(GPa)を求め、これを吸水処理前の曲げ弾性率とした。なお、装置は東洋精機株式会社製ストログラフを使用し、測定温度を23℃、測定湿度を50%RHとして測定した。
また、同上の方法で射出成形して得られた試験片に、表1〜3に記載の条件で熱処理及び吸水処理を実施した後、同上の方法で曲げ弾性率を求め、これを吸水処理後の曲げ弾性率とした。
【0065】
(3)結晶性(単位:%)
下記の方法で得られたポリアミド樹脂又はポリアミド樹脂組成物を用い、表1〜3に記載の組成及び成形条件で、ファナック社製射出成形機100Tにて、試験片(大きさ125×13mm、実施例2、5〜8、11、12は1mm厚み、それ以外は4mm厚み)を作製した。なお、成形前に、実施例2、5〜8、11、12の樹脂組成物に対しては、80℃の除湿エアー(露点:−40℃)で8時間の乾燥を、それ以外のポリアミド樹脂に対しては、150℃で5時間の真空乾燥を実施した。
得られた試験片に表1〜3に記載の条件で熱処理(結晶化処理)及び吸水処理を実施した後、示差走査熱量測定により、以下の式から結晶性を算出した。
結晶性(%)=(Q
c/Q
m)×100
(Q
mはポリアミド樹脂成形体の融解熱量、Q
cはポリアミド樹脂成形体の昇温時の結晶化熱量をあらわす。)
具体的には、試験片から約10mgのサンプルを切り出し、島津製作所(株)(SHIMADZU Corporation)製の示差走査熱量計DSC−50を用い、下記の方法により測定した。
標準物質:α−アルミナ
試料量:約10mg
昇温速度:10℃/分
測定温度範囲:25〜300℃
雰囲気:窒素ガス 30ml/分
【0066】
(4)水分率(単位:%)
上記(3)結晶性の評価と同様の方法で試験片を射出成形し、得られた試験片に表1〜3に記載の条件で熱処理(結晶化処理)を行った。この試験片から0.5gを切り出し、平沼産業(株)製カールフィッシャー微量水分測定装置(ZQ−2000)を用い、測定温度は、ポリアミド樹脂の融点−5℃とし、30分の気化条件で水分量を定量して、吸水処理前の試験片中の水分率を求めた。
また、同上の方法で射出成形して得られた試験片に、表1〜3に記載の条件で熱処理及び吸水処理を実施した後、同上の方法で水分率を求め、これを吸水処理後の水分率とした。
【0067】
[原材料]
キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂:
キシリレンセバカミド系ポリアミド樹脂として、以下の製造例1〜6で得られたポリアミド樹脂−1〜6(「ポリアミド−1」〜「ポリアミド−6」)を使用した。
【0068】
<製造例1>
攪拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下装置及び窒素導入管、ストランドダイを備えた内容積50リットルの反応容器に、精秤したセバシン酸8950g(44.25mol)、次亜リン酸カルシウム12.54g(0.074mol)、酢酸ナトリウム6.45g(0.079mol)を秤量して仕込んだ(次亜リン酸カルシウムと酢酸ナトリウムのモル当量比は1.0)。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素で0.3MPaに加圧し、攪拌しながら160℃に昇温してセバシン酸を均一に溶融した。次いでパラキシリレンジアミン6026g(44.24mol)を攪拌下で170分を要して滴下した。この間、内温は281℃まで連続的に上昇させた。滴下工程では圧力を0.5MPaに制御し、生成水は分縮器及び冷却器を通して系外に除いた。分縮器の温度は145〜147℃の範囲に制御した。パラキシリレンジアミン滴下終了後、0.4MPa/時間の速度で降圧し、60分間で常圧まで降圧した。この間に内温は299℃まで昇温した。その後0.002MPa/分の速度で降圧し、20分間で0.08MPaまで降圧した。その後攪拌装置のトルクが所定の値となるまで0.08MPaで反応を継続した。0.08MPaでの反応時間は10分であった。その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出してこれをペレット化し、約13kgのポリアミド樹脂−1(以下「ポリアミド−1」という。)を得た。
ポリアミド−1の融点は281℃、ガラス転移点は75.0℃、数平均分子量は14,493、相対粘度(96%硫酸中、樹脂濃度1g/100cc、温度25℃で測定)は2.19、末端アミノ基濃度は55.3μ当量/g、末端カルボキシル基濃度は82.7μ当量/gであった。
【0069】
<製造例2>
製造例1において、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合割合を表に記載した割合とし以外は、製造例1と同様にしてポリアミド樹脂−2(以下「ポリアミド−2」という。)を得た。
ポリアミド−2の融点は263℃、ガラス転移点は70.0℃、数平均分子量は12,285、相対粘度(96%硫酸中、樹脂濃度1g/100cc、温度25℃で測定)は2.15、末端アミノ基濃度は43.8μ当量/g、末端カルボキシル基濃度は119μ当量/gであった。
【0070】
<製造例3>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロート及び窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、精秤したセバシン酸12,135g(60mol)、次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaH
2PO
2・H
2O)3.105g(ポリアミド樹脂中のリン原子濃度として50ppm)、酢酸ナトリウム1.61gを入れ、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹拌しながら170℃まで加熱した。酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム一水和物のモル比は0.67とした。
これにメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの5:5の混合ジアミン8,172g(60mol)を撹拌下に滴下し、生成する縮合水を系外へ除きながら系内を連続的に昇温した。混合メタキシリレンジアミンの滴下終了後、内温を260℃として40分間溶融重合反応を継続した。
その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出して、これをペレット化し、約24kgのポリアミド樹脂−3(以下「ポリアミド−3」という。)を得た。
ポリアミド−3の融点は234℃、ガラス転移点は67.0℃、数平均分子量は20,000、相対粘度(96%硫酸中、樹脂濃度1g/100cc、温度25℃で測定)は2.45、末端アミノ基濃度は15.0μ当量/g、末端カルボキシル基濃度は85.0μ当量/gであった。
【0071】
<製造例4〜6>
製造例3において、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合割合を表に記載した割合とした以外は、製造例3と同様にしてポリアミド樹脂−4〜6(以下「ポリアミド−4」〜「ポリアミド−6」という。)を得た。
ポリアミド−4の融点は224℃、ガラス転移点は66.5℃、数平均分子量は18,182、相対粘度(96%硫酸中、樹脂濃度1g/100cc、温度25℃で測定)は2.33、末端アミノ基濃度は20.0当量/g、末端カルボキシル基濃度は90.0μ当量/gであった。
ポリアミド−5の融点は212℃、ガラス転移点は64.4℃、数平均分子量は14,286、相対粘度(96%硫酸中、樹脂濃度1g/100cc、温度25℃で測定)は2.09、末端アミノ基濃度は60.0μ当量/g、末端カルボキシル基濃度は80.0μ当量/gであった。
ポリアミド−6の融点は191℃、ガラス転移点は60.0℃、数平均分子量は15,221、相対粘度(96%硫酸中、樹脂濃度1g/100cc、温度25℃で測定)は2.27、末端アミノ基濃度は55.6μ当量/g、末端カルボキシル基濃度は75.8μ当量/gであった。
【0072】
その他のポリアミド樹脂:
・ポリアミド6;
宇部興産株式会社(Ube Industries, Ltd.)製、商品名「ウベナイロン(UBE Nylon)1015B」
融点220℃、ガラス転移点46℃、数平均分子量15,000(メーカ公表値)
・ポリアミド610;
東レ株式会社(Toray Industries,Inc)製、商品名「アミラン(AMILAN)CM2001」
融点225℃
【0073】
その他の添加剤:
・エラストマー;
下記の条件で製造したものを用いた。
スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、無水マレイン酸及びラジカル発生剤をヘンシェルミキサーで均一に混合した後、二軸押出機(スクリー径30mm、L/D=42)を使用し、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融反応させ、ペレット化して、変性水素化ブロック共重合体(以下「変性SEBS」と略す)を得た。なお、無水マレイン酸としては、三菱化学(株)(Mitsubishi Chemical Corporation)製の無水マレイン酸を使用し、ラジカル発生剤としては、1,3−ビス(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(化薬アクゾ(株)(Kayaku Akzo Corporation)製商品名「パーカドックス(Perkadox)14」、10時間での半減期温度121℃)を使用した。このようにして得られた変性SEBSを加熱減圧乾燥した後、ナトリウムメチラートによる滴定で無水マレイン酸の付加量を求めたところ、0.5質量%であった。
【0074】
・カルボジイミド化合物;
脂環式ポリカルボジイミド化合物
日清紡ケミカル(株)(Nisshinbo Chemical Inc.)製
商品名「カルボジライト(CARBODILITE)LA−1」
・ガラス繊維;
チョップドストランド(Chopped Strands)
日本電気硝子(株)(Nippon Electric Glass)製
商品名「T−275H」
・タルク;
林化成(株)(HAYASHI KASEI Co)製
商品名「ミクロンホワイト(MICRON WHITE)#5000S」
・離型剤;
モンタン酸カルシウム
クラリアントジャパン社(株)(Clariant Japan)製
商品名「リコモント(Licomont)CAV102」
【0075】
(実施例1、3、4、9、10、13、14)
上記製造例1〜3、6で得られたポリアミド−1〜ポリアミド−3、ポリアミド−6を用いて、後記表1〜2に示す組成となるように、他の各成分を秤量し、タンブラーにてブレンドした上で、ファナックファナック社製射出成形機100Tを用い、上述した条件及び表1〜2に記載した条件にて成形して成形体(試験片)を得、上記(1)〜(4)の評価を行った。結果を下記表1〜2に示す。
【0076】
(実施例2、5〜8、11、12)
上記製造例1、4、5で得られたポリアミド−1、ポリアミド−4及びポリアミド−5を、後記表1〜2に示す組成となるように、他の各成分を秤量し、ガラス繊維を除く成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械社(TOSHIBA MACHINE Co.)製「TEM26SS」)のメインフィード部から投入して溶融した後、ガラス繊維をサイドフィードした。押出機の設定温度は、メインフィード部からサイドフィード部まで300℃、サイドフィード部から出口部までは290℃とし、押出混練して、ペレット化し、ポリアミド樹脂組成物ペレットを作製した。得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを用いて、ファナックファナック社製射出成形機100Tを用い、上述した条件及び表1〜2に記載した条件にて成形して成形体(試験片)を得、上記(1)〜(4)の評価を行った。結果を下記表1〜2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
(比較例1〜5)
ポリアミド樹脂として、前記ポリアミド6、ポリアミド610、上記製造例1、5、6で得られたポリアミド−1、ポリアミド−5、ポリアミド−6を使用して、上記実施例1と同様にして、上述した条件及び表3に記載した条件にて成形して成形体(試験片)を得、各種評価(1)〜(4)を行った。結果を下記表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
(実施例15)
製造例6で得られたポリアミド−6を150℃で5時間真空乾燥し、30mmφ、L/D=24、スクリュー全長(供給部から圧縮部先端まで)を1としたときの圧縮部の長さが0.125であるスクリューを有する単軸押出機とTダイからなるフィルム成形機にて、スクリュー入口温度180℃、出口温度240℃の条件で押出し、ロール温度80℃、引き取り速度10m/分の条件で冷却しながら巻取り、厚み100μmのフィルムを得た。得られたフィルムを空気雰囲気下130℃で5分間保持した。
フィルムの引張特性をJIS K7127に準じて試験し、弾性率及び破断時の応力(MPa)を求め、これを吸水処理前の弾性率及び破断強度とした。なお、測定装置として、東洋精機株式会社製ストログラフを使用し、試験片幅10mm、チャック間距離50mm、引張速度50mm/分、測定温度23℃、測定湿度50%RHの条件で行った。
また、同上の方法で押出成形して得られたフィルムを、23℃、60%RHの条件で2日間保存した後、同様に引張試験を実施し、吸水処理後の弾性率及び破断強度を求めた。
吸水処理前のフィルムの弾性率は2,000MPa、破断強度は53MPaであった。吸水処理後の弾性率は1,950MPa、破断強度は50MPaであった。
吸水処理後のフィルムの結晶化熱量は3J/g、融解熱量は34J/gであり、結晶性は8.8%であった。また、水分率は0.20%であった。