(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を例示するが、本発明は、これらの記載に限定されるものではない。
【0021】
本発明に係る、炭素数が3以下の側鎖を有するフッ素化リン酸エステルとしては、リン酸トリ(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリ(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプルピル)、リン酸トリ(2,2,2−トリフルオロエチル)等が、また、炭素数が3以下の側鎖を有するフッ素化カーボネートとしてジ(2,2,3,3−テトラフルオロプルピル)カーボネート、ジ(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプルピル)カーボネート等が挙げられ、これらを単独で、または2種以上を混合して用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
これらの中でも、リン酸トリ(2,2,3,3−テトラフルオロプルピル)、ジ(2,2,3,3−テトラフルオロプルピル)カーボネートのように、フッ素化リン酸エステル、フッ素化カーボネートの分子鎖末端がCF
2Hであるものを選択すると、非水電解液を構成するリチウム塩やその他の有機溶媒との溶解性が高く維持できるため、フッ素化リン酸エステルおよびフッ素化カーボネートを多量に混合することが可能となり、多量に混合した場合でも電池特性を良好に維持しつつ、難燃性を高めることができるため、好ましい。また、側鎖末端がCF
2Hであるものを選択すると、CF
3であるものに比べてリチウム塩の溶解性が高く非水電解液の粘度を低く抑えられる傾向があるため、粘度が高いことによる電池性能への悪影響のおそれを低減できるため、好ましい。
【0023】
なお、本発明に係る非水電解液の溶媒に占める「フッ素化リン酸エステル及び/又はフッ素化カーボネート」の割合は、電解液の難燃性を確実にするため、15重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。また、多すぎると、リチウム塩の溶解性が低下し、電池性能が低下するおそれがあるため、優れた電池性能を得るためには、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下が最も好ましい。
【0024】
非水電解液を構成するその他の有機溶媒は、限定されるものではなく、一般に非水電解液二次電池用非水電解液に使用される有機溶媒が使用できる。
【0025】
例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1−フェニルビニレンカーボネート、1,2−ジフェニルビニレンカーボネート等の環状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等の鎖状カーボネート、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル、テトラヒドロフランまたはその誘導体、1,3−ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、ジオキサランまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
非水電解液を構成するリチウム塩としては、限定されるものではなく、一般に非水電解液二次電池に使用される広電位領域において安定であるリチウム塩が使用できる。例えば、LiBF
4、LiPF
6、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC(C
2F
5SO
2)
3などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0027】
非水電解液における電解質塩の濃度としては、優れた高率放電特性を有する非水電解液電池を確実に得るために、0.1mol/l〜5mol/lが好ましく、さらに好ましくは、1mol/l〜2.0mol/lである。
【0028】
本発明の非水電解液二次電池に用いる負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムを吸蔵・放出可能な天然グラファイト、人造グラファイト、コークス類、難黒鉛化性炭素、低温焼成易黒鉛化性炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、活性炭などの炭素材料が挙げられる。
【0029】
本発明の非水電解液二次電池に用いるセパレータとしては、限定されるものではなく、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を主成分とする微多孔膜が用いられ、材料、重量平均分子量や空孔率の異なる複数の微多孔膜が積層してなるものや、これらの微多孔膜に各種の可塑剤、酸化防止剤、難燃剤などの添加剤を適量含有しているものであってもよい。
【0030】
その他の電池の構成要素として、集電体、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、これらの部品についても従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【実施例】
【0031】
以下、本発明のさらなる詳細を実施例により説明するが、本発明はこれらの記載に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
以下に示す方法で非水電解液二次電池を作製した。
【0033】
正極板は、N−メチルピロリドンを溶媒とし、正極合剤成分として、結着剤であるポリフッ化ビニリデン5重量%と導電剤であるアセチレンブラック5重量%とリン酸鉄リチウム正極活物質90重量%とを含有するペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体両面に塗布、乾燥することによって作製した。
【0034】
負極板は、N−メチルピロリドンを溶媒とし、負極合剤成分として、結着剤であるポリフッ化ビニリデン6重量%とハードカーボン94重量%とを含有するペーストを厚さ10μmの銅箔集電体両面に塗布、乾燥することによって作製した。
【0035】
非水電解液はつぎのようにして作製した。まず、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びビニレンカーボネート(VC)を体積比1:1:1:0.05で混合した混合溶媒を作製した。つぎに、この混合溶媒と、化3に示すリン酸トリ(2,2,3,3−テトラフルオロプルピル)(TFPP)とを、重量比80:20となるように混合した。得られたEC、DMC、EMC、VCおよびTFPPを含む混合溶媒に、LiPF
6を1mol/lとなるように溶解した。このようにして得られた非水電解液を本発明電解液aとする。
【化3】
【0036】
実施例に係る非水電解液電池の概略断面図を
図1に示す。非水電解液電池1は、アルミニウム集電体に正極合材を塗布してなる正極3と、銅集電体に負極合材を塗布してなる負極4とがセパレータ5を介して巻回された扁平巻状電極群2と、非水電解液とを電池ケース6に収納してなる、幅34mm×高さ49mm×厚さ5.2mmのものである。電池ケース6には、安全弁8を設けた電池蓋7がレーザー溶接によって取り付けられ、負極端子9は負極リード11を介して負極4と接続され、正極3は正極リード10を介して電池蓋と接続されている。
【0037】
本発明電解液aを注液し、注液口をレーザー溶接することにより、設計容量400mAhの角形非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を本発明電池Aとする。
【0038】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、非水溶媒としてEC、DMC、EMC、VCおよび化4に示すリン酸トリ(2,2,2−トリフルオロエチル)(TFEP)を含み、LiPF
6の濃度が1mol/lで、TFEPが電解液溶媒に占める割合20重量%である非水電解液を作製した。この非水電解液を本発明電解液bとする。
【化4】
【0039】
電解液に本発明電解液bを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を本発明電池Bとする。
【0040】
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、非水溶媒としてEC、DMC、EMC、VCおよび化5に示すジ(2,2,3,3−テトラフルオロプルピル)カーボネート(TFPC)を含み、LiPF
6の濃度が1mol/lで、TFPCが電解液溶媒に占める割合20重量%である非水電解液を作製した。この非水電解液を本発明電解液cとする。
【化5】
【0041】
電解液に本発明電解液cを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を本発明電池Cとする。
【0042】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で、非水溶媒としてEC、DMC、EMC、VCおよび化6に示すジ(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート(TFEC)を含み、LiPF
6の濃度が1mol/lで、TFECが電解液溶媒に占める割合20重量%である非水電解液を作製した。この非水電解液を本発明電解液dとする。
【化6】
【0043】
電解液に本発明電解液dを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を本発明電池Dとする。
【0044】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で、非水溶媒としてEC、DMC、EMC、VCおよび化7に示すリン酸トリ(2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル)(OFPP)を含み、LiPF
6の濃度が1mol/lで、OFPPが電解液溶媒に占める割合20重量%である非水電解液を作製した。この非水電解液を比較電解液eとする。
【化7】
【0045】
電解液に比較電解液eを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を比較電池Eとする。
【0046】
[比較例2]
実施例1と同様の方法で、非水溶媒としてEC、DMC、EMC、VCおよび化8に示すジ(2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチル)カーボネート(OFPC)を含み、LiPF
6の濃度が1mol/lで、OFPCが電解液溶媒に占める割合20重量%である非水電解液を作製した。この非水電解液を比較電解液fとする。
【化8】
【0047】
電解液に比較電解液fを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を比較電池Fとする。
【0048】
[比較例3]
実施例1と同様の方法で、非水溶媒としてEC、DMC、EMCおよびVCを含み、LiPF
6の濃度が1mol/lである非水電解液を作製した。この非水電解液を比較電解液gとする。
【0049】
電解液に比較電解液gを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を比較電池Gとする。
【0050】
[実施例5]
負極板は、N−メチルピロリドンを溶媒とし、負極合剤成分として、結着剤であるポリフッ化ビニリデン6重量%とグラファイト(黒鉛)94重量%とを含有するペーストを厚さ14μmの銅箔集電体両面に塗布、乾燥することによって作製した。
【0051】
電解液は、ECとジエチルカーボネート(DEC)とVCとを体積比3:7:0.05で混合した混合溶媒を作製し、この混合溶媒とTFPPとを重量比80:20となるように混合し、LiPF
6を1mol/lとなるように溶解した。この非水電解液を本発明電解液hとする。
【0052】
負極にグラファイトを含有する上記負極板を用い、電解液に本発明電解液hを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、設計容量500mAhの角形非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を本発明電池Hとする。
【0053】
[実施例6]
実施例5と同様の方法で、非水溶媒としてEC、DEC、VCおよびTFPPを含み、LiPF
6の濃度が1mol/lで、TFPPが電解液溶媒に占める割合が30重量%である非水電解液を作製した。この非水電解液を本発明電解液iとする。
【0054】
電解液に本発明電解液iを用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を本発明電池Iとする。
【0055】
[実施例7]
実施例5と同様の方法で、非水溶媒としてEC、DEC、VCおよびTFEPを含み、LiPF
6の濃度が1mol/lで、TFEPが電解液溶媒に占める割合が20重量%である非水電解液を作製した。この非水電解液を本発明電解液jとする。
【0056】
電解液に本発明電解液jを用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を本発明電池Jとする。
【0057】
[実施例8]
実施例5と同様の方法で、非水溶媒としてEC、DEC、VCおよびTFEPを含み、LiPF
6の濃度が1mol/lで、TFEPが電解液溶媒に占める割合が30重量%である非水電解液を作製した。この非水電解液を本発明電解液kとする。
【0058】
電解液に本発明電解液kを用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を本発明電池Kとする。
【0059】
[比較例4]
実施例5と同様の方法で、非水溶媒としてEC、DECおよびVCを含み、LiPF
6の濃度が1mol/lである非水電解液を作製した。この非水電解液を
比較電解液lとする。
電解液に
比較電解液lを用いたこと以外は、実施例5と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を
比較電池
Lとする。
【0060】
[比較例5]
正極板は、N−メチルピロリドンを溶媒とし、正極合剤成分として、結着剤であるポリフッ化ビニリデン4重量%と導電剤であるアセチレンブラック2重量%とコバルト酸リチウム正極活物質94重量%とを含有するペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔集電体両面に塗布、乾燥することによって作製した。
【0061】
負極板は、負極合剤成分として、グラファイト(黒鉛)97.3重量%と結着剤であるカルボキシメチルセルロース1.2重量%およびスチレンブタジエンゴム1.5重量%を含有する水性ペーストを厚さ14μmの銅箔集電体両面に塗布、乾燥することによって作製した。
【0062】
正極にコバルト酸リチウムを含有する上記正極板を用い、負極にグラファイトを含有する上記負極板を用い、電解液に本発明電解液aを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で、設計容量540mAhの角形非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を比較電池Mとする。
【0063】
[比較例6]
電解液に本発明電解液bを用いたこと以外は、比較例5と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を比較電池Nとする。
【0064】
[比較例7]
電解液に本発明電解液cを用いたこと以外は、比較例5と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を比較電池Oとする。
【0065】
[比較例8]
電解液に本発明電解液dを用いたこと以外は、比較例5と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を比較電池Pとする。
【0066】
[比較例9]
電解液に比較電解液eを用いたこと以外は、比較例5と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を比較電池Qとする。
【0067】
[比較例10]
電解液に比較電解液fを用いたこと以外は、比較例5と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を比較電池Rとする。
【0068】
[比較例11]
電解液に比較電解液gを用いたこと以外は、比較例5と同様の方法で、非水電解液二次電池を作製した。この非水電解液二次電池を比較電池Sとする。
【0069】
[電解液燃焼性試験]
まず、実施例1〜4に係る非水電解液二次電池A〜Dおよび比較例1〜3に係る非水電解液二次電池E〜Gに用いた非水電解液a〜gについて、電解液燃焼性試験を行った。ガラスフィルターに電解液を0.6ml染み込ませ、大気中にて10秒間試験炎にさらした後、試験炎を遠ざけ、引火の様子を目視により観察した。
【0070】
この試験において、10秒後に試験炎を遠ざけた時に、電解液に引火していた炎がすぐに消えた場合は「難燃性を示す」ものと判断し、試験炎を遠ざけて3秒後に引火していた炎が消えた場合は「難燃性が不十分」と判断し、試験炎を遠ざけて5秒後においても炎が消えなかった場合は「燃焼性を有する」と判断した。
【0071】
[電解液物性測定]
つぎに、同じく非水電解液a〜gについて、20℃におけるイオン伝導度と粘度を測定した。イオン伝導度は交流インピーダンス法(solartron社製SI
1255 HF FREQUENCY
RESPONSE ANALYZERおよび1470 BATTERY TEST UNIT)にて、粘度は円錐−平板型回転式粘度計(TOKI
SANGYO社製 TV−20)により測定した。
【0072】
難燃性溶媒の種類および組成(重量%)、電解液燃焼性試験、電解液物性測定の結果を表1にまとめた。なお、表1において、「難燃性」欄における、○印は難燃性を示したもの、×印は燃焼性を有するものであることを、イオン伝導度および粘度はそれぞれ比較電解液gの値を1とし、それに対する割合を示した。
【0073】
【表1】
【0074】
表1より、フッ素化リン酸エステル又はフッ素化カーボネートを含有しない非水電解液である比較電解液gと比較して、フッ素化リン酸エステル又はフッ素化カーボネートを含有する電解液(本発明電解液a〜g及び比較電解液e、f)は、難燃性を有するけれども、イオン伝導度は低く、粘度は高くなっており、従来の技術常識によれば、リチウムイオン電池の電解液に求められる性能としては劣ることがわかる。
【0075】
[初期充放電工程]
全ての実施例電池及び比較例電池は、評価試験に先立ち、20℃にて初期充放電工程に供した。なお、以下本明細書において、充放電の電流値の表記は、設計容量を1It(mAh)としている。
【0076】
正極にリン酸鉄リチウムを用いた実施例1〜8に係る非水電解液二次電池A〜D、H〜Kおよび比較例1〜4に係る非水電解液二次電池E〜G、Lについては、充電電流0.1ItmA、充電電圧3.7V、合計充電時間20時間の定電流定電圧充電、及び、放電電流0.1ItmA、終止電圧2.0Vの定電流放電からなる1サイクルの充放電に続き、充電電流0.2ItmA、充電電圧3.7V、合計充電時間7.5時間の定電流定電圧充電、及び、放電電流0.2ItmA、終止電圧2.0Vの定電流放電からなる2サイクルの充放電を行った。
【0077】
正極にコバルト酸リチウムを用いた比較例5〜11に係る非水電解液二次電池M〜Sについては、充電電流0.1ItmA、充電電圧4.2V、合計充電時間20時間の定電流定電圧充電、及び、放電電流0.1ItmA、終止電圧3.0Vの定電流放電からなる1サイクルの充放電に続き、充電電流0.2ItmA、充電電圧4.2V、合計充電時間7.5時間の定電流定電圧充電、及び、放電電流0.2ItmA、終止電圧3.0Vの定電流放電からなる2サイクルの充放電を行った。
【0078】
[放電性能評価試験]
続いて、20℃にて、放電性能評価試験を行った。
【0079】
正極にリン酸鉄リチウムを用いた実施例1〜8に係る非水電解液二次電池A〜D、H〜Kおよび比較例1〜4に係る非水電解液二次電池E〜G、Lについては、充電電流1.0ItmA、充電電圧3.7V、合計充電時間3時間の定電流定電圧充電の後、放電電流0.2ItmA、終止電圧2.0Vの定電流放電を行い、放電電流0.2ItmAにおける放電容量を記録した。さらに、上記と同一の条件で充電を行った後、放電電流のみを順次1ItmA、2ItmA及び3ItmAと変更し、終止電圧2.0Vまでの定電流放電を行い、それぞれの放電電流値における放電容量を記録した。
【0080】
正極にコバルト酸リチウムを用いた比較例5〜11に係る非水電解液二次電池M〜Sについては、充電電流1.0ItmA、充電電圧4.2V、合計充電時間3時間の定電流定電圧充電の後、放電電流0.2ItmA、終止電圧3.0Vの定電流放電を行い、放電電流0.2ItmAにおける放電容量を記録した。さらに、上記と同一の条件で充電を行った後、放電電流のみを順次1ItmA、2ItmA及び3ItmAと変更し、終止電圧3.0Vまでの定電流放電を行い、それぞれの放電電流値における放電容量を記録した。
【0081】
放電性能評価試験の結果を表2にまとめた。ここで、正極と負極の組み合わせが同一である電池同士でグループ分けし、それぞれのグループにおいて、フッ素化リン酸エステルまたはフッ素化カーボネートを含有しない比較電池の0.2ItmA放電時の放電容量を1とし、これを基準として各欄の放電容量の値を表記した。
【0082】
【表2】
【0083】
表2より、コバルト酸リチウムを含有する正極を備える非水電解液電池においては、フッ素化リン酸エステルまたはフッ素化カーボネートを含有する非水電解液a〜fを用いた比較電池M〜Rは、いずれも、フッ素化リン酸エステルまたはフッ素化カーボネートを含有しない非水電解液gを用いた比較電池Sと比べて、放電容量が劣っている。
【0084】
これに対して、リン酸鉄リチウムを含有する正極を備える非水電解液電池のうち、炭素数3以下の側鎖を有するフッ素化リン酸エステルまたはフッ素化カーボネートを含有する非水電解液を用いた本発明電池A〜DおよびH〜Kでは、フッ素化リン酸エステルまたはフッ素化カーボネートを含有しない非水電解液を用いた比較電池G、Lと比較して、実に驚くべき事に、放電容量が低下しておらず、むしろ逆に向上している例が多くみられる。
【0085】
本発明の構成により、放電性能の低下が抑制されるという作用効果が奏される作用機構については、現時点では何ら明らかではない。
【0086】
フッ素化リン酸エステルまたはフッ素化カーボネートを含有していない非水電解液に比べて、粘度が上昇し、イオン伝導度も低下した非水電解液を用いたにもかかわらず、放電性能放電性能の低下が抑制されたことについて、いくつかの仮説を設けることが可能である。
【0087】
リン酸鉄リチウムは、Li/Li
+基準に対して3.45Vの可逆電位を有し、この電位はコバルト酸リチウムの可逆電位に比べて相当に低い。また、リン酸エステルや鎖状カーボネートはフッ素化されることで酸化分解電位が貴な方向にシフトすると考えられる。これらのことが何らかの機構で相乗的に作用したとの仮説が可能である。
【0088】
あるいは、正極活物質の粒径及び比表面積が、リン酸鉄リチウムとコバルト酸リチウムとでは大きく異なっていることが作用効果に何らかの関連をしているとの仮説も可能である。
【0089】
しかしながら、いずれの仮説についても、充分な検証ができていない。