特許第5842885号(P5842885)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5842885
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20151217BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20151217BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
   B60C11/03 C
   B60C11/12 D
   B60C11/03 100B
   B60C11/03 100C
   B60C11/13 B
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-183325(P2013-183325)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-48048(P2015-48048A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年3月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】温品 良介
【審査官】 倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−094140(JP,A)
【文献】 特開2003−146018(JP,A)
【文献】 特開2012−171479(JP,A)
【文献】 特開2000−043514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/12
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部に一対のセンター主溝及び一対のショルダー主溝を含むタイヤ周方向に延びる少なくとも4本の主溝を設け、これら主溝によりタイヤ周方向に延在する少なくとも5列の陸部を区画したリブパターンを有すると共に、回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、各ショルダー主溝の内側に隣接する中間陸部に屈曲形状を有する複数本の屈曲溝を設け、各屈曲溝の一方の端部を前記ショルダー主溝に開口し、各屈曲溝の他方の端部を前記中間陸部内で閉塞し、各屈曲溝に開口端部から屈曲部まで延長する第一傾斜溝部と該屈曲部から閉塞端部まで延長する第二傾斜溝部とを形成し、前記第一傾斜溝部の前記開口端部から前記屈曲部へと向かう方向を前記回転方向と一致させ、前記屈曲部を頂点として前記第二傾斜溝部を前記第一傾斜溝部側へ屈曲させ、前記第一傾斜溝部で区分される中間陸部のタイヤ幅方向外側領域に前記第二傾斜溝部を配置すると共に、前記第一傾斜溝部のタイヤ周方向に対する平均傾斜角度αを10°〜30°の範囲に設定し、前記第二傾斜溝部の前記第一傾斜溝部に対する平均傾斜角度βを5°〜60°の範囲に設定したことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第一傾斜溝部の溝幅が前記開口端部から前記屈曲部に向かって一定又は漸減することを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第一傾斜溝部の溝深さが前記開口端部から前記屈曲部に向かって一定又は漸減することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第二傾斜溝部の溝幅が前記屈曲部から前記閉塞端部に向かって一定であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第二傾斜溝部の溝深さが前記屈曲部から前記閉塞端部に向かって一定であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記中間陸部のタイヤ赤道側のエッジから前記屈曲溝の屈曲部頂点までのタイヤ幅方向の距離を前記中間陸部の幅の5%〜40%の範囲に設定したことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記中間陸部のタイヤ赤道側のエッジから前記屈曲溝の閉塞端部頂点までのタイヤ幅方向の距離を前記中間陸部の幅の30%〜70%の範囲に設定したことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記中間陸部に前記センター主溝と前記第一傾斜溝部との間に延在する複数本のサイプを設け、各第一傾斜溝部に対して少なくとも1本のサイプを配置したことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記中間陸部に前記ショルダー主溝と前記第二傾斜溝部の閉塞端部との間に延在する複数本のサイプを設けたことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記サイプの溝深さを前記センター主溝の溝深さの20%〜80%の範囲に設定したことを特徴とする請求項又はに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記ショルダー主溝の外側に隣接するショルダー陸部にタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝を設け、タイヤ周上における前記屈曲溝の本数と前記ラグ溝の本数との比を1:2としたことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記ショルダー陸部に配置された全てのラグ溝を前記ショルダー主溝に対して非連通としたことを特徴とする請求項11に記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
前記ショルダー主溝の両側に位置する中間陸部及びショルダー陸部のエッジにジグザグ状の面取り部を形成し、各陸部に形成される面取り部の数を前記屈曲溝の本数と同じにし、各面取り部の深さを前記ショルダー主溝の溝深さの30%〜70%の範囲に設定したことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性トレッドパターンを有する空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、サーキット走行における偏摩耗を抑制し、摩耗後における騒音の悪化を防止することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、回転方向が指定され、その回転方向に対応させた方向性トレッドパターンを有するものがある(例えば、特許文献1〜2参照)。このような空気入りタイヤでは、トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝を設け、これら主溝によりタイヤ周方向に延在する複数列の陸部を区画し、各陸部にタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝を形成し、これらラグ溝をタイヤ幅方向外側から内側に向かって回転方向と同じ方向に傾斜するように配置している。また、ラグ溝を設けた陸部の剛性を確保するために、各ラグ溝のタイヤ幅方向外側の端部を主溝に対して開口する一方でタイヤ幅方向内側の端部を陸部内で閉塞することが行われている。
【0003】
このような方向性トレッドパターンを有する空気入りタイヤは、良好な排水性を発揮することは勿論のこと、ラグ溝がタイヤ幅方向に対して傾斜しているためラグ溝に起因するパターンノイズを低減することができ、しかもラグ溝の片側の端部を閉塞しているため陸部の剛性を十分に確保して良好な操縦安定性を発揮することができるという利点がある。そのため、この種の空気入りタイヤは一般道での常用タイヤとして使用される一方で、そのまま競技施設におけるサーキット走行にも使用されることがある。
【0004】
しかしながら、上述のような一端閉塞型のラグ溝を含む方向性トレッドパターンを有する空気入りタイヤをサーキット走行に使用した場合、ラグ溝の閉塞端部が配置されている部分の剛性が相対的に低いため、その部分がコーナリング時に大きく変形することで局部的に摩耗を免れ、逆にラグ溝の閉塞端部が配置されていない部分は剛性が相対的に高いため優先的に摩耗し、その結果として、タイヤ周上で偏摩耗を生じ易いという問題がある。そして、トレッド部に偏摩耗を生じると、摩耗後における騒音が著しく悪化することになる。このような騒音の悪化は、サーキット走行時には特に問題にならないものの、一般道での走行時には快適性を損なう要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−229506号公報
【特許文献2】特開2005−231430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、サーキット走行における偏摩耗を抑制し、摩耗後における騒音の悪化を防止することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部に一対のセンター主溝及び一対のショルダー主溝を含むタイヤ周方向に延びる少なくとも4本の主溝を設け、これら主溝によりタイヤ周方向に延在する少なくとも5列の陸部を区画したリブパターンを有すると共に、回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、各ショルダー主溝の内側に隣接する中間陸部に屈曲形状を有する複数本の屈曲溝を設け、各屈曲溝の一方の端部を前記ショルダー主溝に開口し、各屈曲溝の他方の端部を前記中間陸部内で閉塞し、各屈曲溝に開口端部から屈曲部まで延長する第一傾斜溝部と該屈曲部から閉塞端部まで延長する第二傾斜溝部とを形成し、前記第一傾斜溝部の前記開口端部から前記屈曲部へと向かう方向を前記回転方向と一致させ、前記屈曲部を頂点として前記第二傾斜溝部を前記第一傾斜溝部側へ屈曲させ、前記第一傾斜溝部で区分される中間陸部のタイヤ幅方向外側領域に前記第二傾斜溝部を配置すると共に、前記第一傾斜溝部のタイヤ周方向に対する平均傾斜角度αを10°〜30°の範囲に設定し、前記第二傾斜溝部の前記第一傾斜溝部に対する平均傾斜角度βを5°〜60°の範囲に設定したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、各ショルダー主溝の内側に隣接する中間陸部に、従来のような傾斜した一端閉塞型のラグ溝を配置する替りに、屈曲形状を有する複数本の屈曲溝を設け、各屈曲溝の一方の端部をショルダー主溝に開口し、各屈曲溝の他方の端部を中間陸部内で閉塞すると共に、各屈曲溝に開口端部から屈曲部まで延長する第一傾斜溝部と該屈曲部から閉塞端部まで延長する第二傾斜溝部とを形成し、第一傾斜溝部の開口端部から屈曲部へと向かう方向を回転方向と一致させ、屈曲部を頂点として第二傾斜溝部を第一傾斜溝部側へ屈曲させ、第一傾斜溝部で区分される中間陸部のタイヤ幅方向外側領域に第二傾斜溝部を配置した構造を採用することにより、屈曲溝の閉塞端部を中間陸部のエッジから離れた位置に配置するため、サーキット走行を実施した場合においても偏摩耗を抑制することができ、摩耗後における騒音の悪化を防止することができる。
【0009】
本発明において、第一傾斜溝部のタイヤ周方向に対する平均傾斜角度αは10°〜30°の範囲に設定するこれにより、耐偏摩耗性を低下させることなく騒音低減効果を十分に発揮することができる。また、第二傾斜溝部の第一傾斜溝部に対する平均傾斜角度βは5°〜60°の範囲に設定するこれにより、耐偏摩耗性の低下を回避することができる。
【0010】
第一傾斜溝部の溝幅は開口端部から屈曲部に向かって一定又は漸減することが好ましい。同様に、第一傾斜溝部の溝深さは開口端部から屈曲部に向かって一定又は漸減することが好ましい。これにより、屈曲部近傍の陸部剛性を十分に維持し、偏摩耗を抑制することができる。
【0011】
第二傾斜溝部の溝幅は屈曲部から閉塞端部に向かって一定であることが好ましい。同様に、第二傾斜溝部の溝深さは屈曲部から閉塞端部に向かって一定であることが好ましい。このようにして第二傾斜溝部の周辺の剛性変化を抑えることにより、偏摩耗を抑制することができる。
【0012】
中間陸部のタイヤ赤道側のエッジから屈曲溝の屈曲部頂点までのタイヤ幅方向の距離は中間陸部の幅の5%〜40%の範囲に設定することが好ましい。また、中間陸部のタイヤ赤道側のエッジから屈曲溝の閉塞端部頂点までのタイヤ幅方向の距離は中間陸部の幅の30%〜70%の範囲に設定することが好ましい。これにより、偏摩耗の抑制効果を十分に得ることができる。
【0013】
中間陸部にはセンター主溝と第一傾斜溝部との間に延在する複数本のサイプを設け、各第一傾斜溝部に対して少なくとも1本のサイプを配置することが好ましい。また、中間陸部にはショルダー主溝と第二傾斜溝部の閉塞端部との間に延在する複数本のサイプを設けることが好ましい。これら部位にサイプを配置することにより、中間陸部の剛性をタイヤ周上で均一化する効果が得られ、偏摩耗の抑制効果を高めることができる。この場合、サイプの溝深さはセンター主溝の溝深さの20%〜80%の範囲に設定することが好ましい。これにより、中間陸部の剛性を適切に調整することができる。
【0014】
ショルダー主溝の外側に隣接するショルダー陸部にはタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝を設け、タイヤ周上における屈曲溝の本数とラグ溝の本数との比を1:2とすることが好ましい。これにより、ショルダー陸部の剛性をタイヤ周上で均一化し、ショルダー陸部における偏摩耗を抑制することができる。
【0015】
また、ショルダー陸部に配置された全てのラグ溝はショルダー主溝に対して非連通とすることが好ましい。これにより、ショルダー陸部においてラグ溝で分断されたブロック部分のタイヤ周方向への倒れ込みを抑制し、ヒールアンドトウ摩耗を抑制することができる。
【0016】
更に、ショルダー主溝の両側に位置する中間陸部及びショルダー陸部のエッジにジグザグ状の面取り部を形成し、各陸部に形成される面取り部の数を屈曲溝の本数と同じにし、各面取り部の深さを前記ショルダー主溝の溝深さの30%〜70%の範囲に設定することが好ましい。これにより、中間陸部及びショルダー陸部の剛性をタイヤ周上で更に均一化し、中間陸部及びショルダー陸部における偏摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
図3図2のトレッドパターンにおける要部を示す平面図である。
図4】屈曲溝を有する中間陸部を示す斜視図である。
図5図2のトレッドパターンにおける要部を面取り部と共に示す平面図である。
図6】ショルダー陸部に形成された面取り部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図6は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。なお、本実施形態の空気入りタイヤは、回転方向Rが指定されたタイヤであり、その回転方向Rは例えばタイヤサイドウォール部に表示される。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0020】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0021】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0022】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。例えば、カーカス層4、ベルト層7及びベルトカバー層8の積層数及び積層構造は要求されるタイヤ特性に応じて適宜変更することができる。
【0023】
図2に示すように、トレッド部1には、タイヤ赤道CLの両側の位置でタイヤ周方向に延びる一対のセンター主溝11と、該センター主溝11よりもタイヤ幅方向外側の位置でタイヤ周方向に延びる一対のショルダー主溝12とが形成されている。主溝11,12の寸法は特に限定されるものではないが、例えば、タイヤ幅方向に測定される溝幅が5.0mm〜15.0mmの範囲に設定され、溝深さが5.0mm〜15.0mmの範囲に設定されている。
【0024】
これにより、一対のセンター主溝11,11の相互間にはタイヤ周方向に延在するセンター陸部10が区画され、センター主溝11とショルダー主溝12との間にはタイヤ周方向に延在する中間陸部20が区画され、各ショルダー主溝12のタイヤ幅方向外側にはショルダー陸部30が区画されている。本実施形態ではセンター陸部10に溝が形成されていないが、センター陸部10に切り欠きやサイプを設けるようにしても良い。
【0025】
各中間陸部20には、屈曲形状を有する複数本の屈曲溝21がタイヤ周方向に間隔をおいて設けられている。これら屈曲溝21は釣り針状に折れ曲がった形状を有している。各屈曲溝21は、一方の端部がショルダー主溝12に開口し、他方の端部が中間陸部20内で閉塞している。図3に示すように、各屈曲溝21は開口端部P1から屈曲部P2まで延長する第一傾斜溝部21Aと該屈曲部P2から閉塞端部P3まで延長する第二傾斜溝部21Bとから構成されている。第一傾斜溝部21Aの開口端部P1から屈曲部P2へと向かう方向は回転方向Rと一致している。また、屈曲部P2を頂点として第二傾斜溝部21Bは第一傾斜溝部21A側へ屈曲している。
【0026】
更に、各中間陸部20にはセンター主溝11と第一傾斜溝部21Aとの間に延在する複数本のサイプ22が形成され、各第一傾斜溝部21Aに対して2本のサイプ22が配置されている。つまり、センター主溝11と第一傾斜溝部21Aの先端部(屈曲部P2)との間に1本のサイプ22が配置され、センター主溝11と第一傾斜溝部21Aの中腹部との間に他の1本のサイプ22が配置されている。これらサイプ22はセンター主溝11や第一傾斜溝部21Aに対して必ずしも連通している必要はなく、その近傍まで延在していれば良い。また、各中間陸部20にはショルダー主溝12と第二傾斜溝部21Bの閉塞端部P3との間に延在する複数本のサイプ23が形成されている。サイプ23はショルダー主溝12や第二傾斜溝部21Bに対して必ずしも連通している必要はなく、その近傍まで延在していれば良い。ここで、近傍とは対象となる溝からの距離が3.0mm以下であることを意味する。サイプ22,23の溝幅は2.0mm以下であり、トレッドパターンのピッチ長に因らず一定の溝幅にて形成されるものである。このような寸法を有するサイプ22,23は中間陸部20の一体性を損なうことなくエッジ効果を発揮するものとなる。
【0027】
ショルダー陸部30には、タイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝31がタイヤ周方向に間隔をおいて設けられている。ショルダー陸部30に配置された全てのラグ溝31はショルダー主溝12に対して非連通となっている。また、ショルダー陸部30には、ショルダー主溝12とラグ溝31との間に延在する複数本のサイプ32が形成されている。サイプ32の溝幅はサイプ22,23と同様に2.0mm以下である。
【0028】
上述したセンター陸部10、中間陸部20及びショルダー陸部30はいずれも溝によって分断されることなくタイヤ周方向に連続的に延在するリブ構造を有している。このようなリブ構造を有する陸部10,20,30からなるリブパターンは操縦安定性の点で有利である。なお、陸部20,30にはサイプ22,23,32が形成されているが、これらサイプ22,23,32は陸部20,30を実質的に分断するものではない。
【0029】
上述した空気入りタイヤでは、回転方向Rが指定された方向性トレッドパターンにおいて、各ショルダー主溝12の内側に隣接する中間陸部20に、屈曲形状を有する複数本の屈曲溝21を設け、各屈曲溝21の一方の端部をショルダー主溝12に開口し、各屈曲溝21の他方の端部を中間陸部20内で閉塞すると共に、各屈曲溝21に開口端部P1から屈曲部P2まで延長する第一傾斜溝部21Aと該屈曲部P2から閉塞端部P3まで延長する第二傾斜溝部21Bとを形成し、第一傾斜溝部21Aの開口端部P1から屈曲部P2へと向かう方向を回転方向Rと一致させ、屈曲部P2を頂点として第二傾斜溝部21Bを第一傾斜溝部21A側へ屈曲させた構造を採用することにより、屈曲溝21の閉塞端部P3を中間陸部20のエッジから離れた位置に配置している。そのため、サーキット走行でのコーナリング時に中間陸部20に対して大きな横力が掛かった際に、中間陸部20が屈曲溝21の閉塞端部P3の近傍において局部的に変形するのを回避し、それによって偏摩耗を抑制することができる。そして、中間陸部20の摩耗をタイヤ周上で均一にすることにより、摩耗後における騒音の悪化を防止することができる。
【0030】
上記空気入りタイヤにおいて、第一傾斜溝部21Aのタイヤ周方向(タイヤ赤道CL)に対する平均傾斜角度αは10°〜30°の範囲に設定すると良い。平均傾斜角度αは、第一傾斜溝部21Aの両端部の溝幅中心位置を通る直線のタイヤ周方向に対する傾斜角度である。平均傾斜角度αを上記範囲に設定することにより、耐偏摩耗性を低下させることなく騒音低減効果を十分に発揮することができる。ここで、平均傾斜角度αが10°未満であると第一傾斜溝部21Aの開口端部P1の近傍における中間陸部20の剛性が低下するため耐偏摩耗性が低下し、逆に30°を超えるとパターンノイズの増加により騒音低減効果が低下することになる。
【0031】
また、第二傾斜溝部21Bの第一傾斜溝部21Aに対する平均傾斜角度βは5°〜60°の範囲に設定すると良い。平均傾斜角度βは、第一傾斜溝部21Aの両端部の溝幅中心位置を通る直線に対する第二傾斜溝部21Bの両端部の溝幅中心位置を通る直線の傾斜角度である。平均傾斜角度βを上記範囲に設定することにより、耐偏摩耗性の低下を回避することができる。ここで、平均傾斜角度βが5°未満であると第一傾斜溝部21Aと第二傾斜溝部21Bとの間に挟まれる部分の剛性が低下するため耐偏摩耗性が低下し、逆に、60°を超えると第二傾斜溝部21Bとその隣の屈曲溝21の第一傾斜溝部21Aとで挟まれる部分の剛性が低下するため耐偏摩耗性が低下する。
【0032】
上記空気入りタイヤにおいて、第一傾斜溝部21Aの溝幅は、開口端部P1から屈曲部P2に向かって一定又は漸減するのが好ましく、特に図3に示すように、開口端部P1から屈曲部P2に向かって漸減するのが良い。同様に、第一傾斜溝部21Aの溝深さは、開口端部P1から屈曲部P2に向かって一定又は漸減することが好ましく、特に図4に示すように、開口端部P1から屈曲部P2に向かって漸減するのが良い。これにより、屈曲部P2の近傍の陸部剛性を十分に維持し、偏摩耗を抑制することができる。
【0033】
また、第二傾斜溝部21Bの溝幅は、図3に示すように、屈曲部P2から閉塞端部P3に向かって一定であると良い。同様に、第二傾斜溝部21Bの溝深さは、図4に示すように、屈曲部P2から閉塞端部P3に向かって一定であると良い。このようにして第二傾斜溝部21Bの周辺の剛性変化を抑えることにより、偏摩耗を抑制することができる。
【0034】
上記空気入りタイヤにおいて、図3に示すように、中間陸部20のタイヤ赤道CL側のエッジから屈曲溝21の屈曲部頂点までのタイヤ幅方向の距離L1は中間陸部20の幅Wの5%〜40%の範囲に設定すると良い。また、中間陸部20のタイヤ赤道CL側のエッジから屈曲溝21の閉塞端部頂点までのタイヤ幅方向の距離L2は中間陸部20の幅Wの30%〜70%の範囲に設定すると良い。距離L1,L2を上記範囲に設定することにより、偏摩耗の抑制効果を十分に得ることができる。ここで、距離L1,L2が上記範囲から外れると偏摩耗抑制効果が不十分になる。
【0035】
上記空気入りタイヤにおいて、中間陸部20には、センター主溝11と第一傾斜溝部21Aとの間に延在する複数本のサイプ22を設け、各第一傾斜溝部21Aに対して少なくとも1本のサイプを配置し、更には、ショルダー主溝12と第二傾斜溝部21Bの閉塞端部P3との間に延在する複数本のサイプ23を設けると良い。これら部位にサイプ22,23を配置することにより、中間陸部20の剛性をタイヤ周上で均一化する効果が得られ、偏摩耗の抑制効果を高めることができる。
【0036】
サイプ22,23の溝深さはセンター主溝11の溝深さの20%〜80%の範囲に設定すると良い。これにより、中間陸部20の剛性を適切に調整することができる。ここで、サイプ22,23の溝深さがセンター主溝11の溝深さの20%未満であると剛性を十分に下げることができず、逆に80%を超えると剛性が下がり過ぎてしまい、いずれの場合も偏摩耗の抑制効果が低下することになる。
【0037】
上記空気入りタイヤにおいて、ショルダー主溝12の外側に隣接するショルダー陸部30にはタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝31を設け、タイヤ周上における屈曲溝21の本数とラグ溝31の本数との比を1:2とすることが好ましい。これにより、ショルダー陸部30の剛性をタイヤ周上で均一化し、ショルダー陸部30における偏摩耗を抑制することができる。
【0038】
また、ショルダー陸部30にラグ溝31を設けるにあたって、ショルダー陸部30に配置された全てのラグ溝31はショルダー主溝12に対して非連通とするのが良い。これにより、ショルダー陸部30においてラグ溝31で分断されたブロック部分のタイヤ周方向への倒れ込みを抑制し、ヒールアンドトウ摩耗を抑制することができる。
【0039】
更に、上記空気入りタイヤにおいて、図5に示すように、ショルダー主溝12の両側に位置する中間陸部20及びショルダー陸部30のエッジにはジグザグ状の面取り部24,34が形成されている。つまり、中間陸部20のエッジに形成された面取り部24は、その面取り面積がタイヤ周方向の一方側(図中上側)から他方側(図中下側)に向かって徐々に大きくなっており、その面取り面積の増減を屈曲溝21のピッチに合せて反復的に繰り返している。一方、ショルダー陸部30に形成された面取り部34は、その面取り面積がタイヤ周方向の他方側から一方側に向かって徐々に大きくなっており、その面取り面積の増減を屈曲溝21のピッチに合せて反復的に繰り返している。その結果、各陸部20,30に形成される面取り部24,34の数は屈曲溝21の本数と同じになっている。
【0040】
図6に示すように、各面取り部24,34の深さD1はショルダー主溝12の溝深さDの30%〜70%の範囲に設定すると良い。このように中間陸部20及びショルダー陸部30のエッジに面取り部24,34を設け、その寸法を適正化することにより、中間陸部20及びショルダー陸部30の剛性をタイヤ周上で更に均一化し、中間陸部20及びショルダー陸部30における偏摩耗を抑制することができる。ここで、面取り部24,34の深さD1がショルダー主溝12の溝深さDの30%未満であると剛性を十分に下げることができず、逆に70%を超えると剛性が下がり過ぎてしまい、いずれの場合も偏摩耗の抑制効果が低下することになる。
【実施例】
【0041】
タイヤサイズが215/45R17であり、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、トレッド部に一対のセンター主溝及び一対のショルダー主溝を含むタイヤ周方向に延びる4本の主溝を設け、これら主溝によりタイヤ周方向に延在する5列の陸部を区画したリブパターンを有すると共に、回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、図2に示すように、各ショルダー主溝の内側に隣接する中間陸部に屈曲形状を有する複数本の屈曲溝を設け、各屈曲溝の一方の端部をショルダー主溝に開口し、各屈曲溝の他方の端部を中間陸部内で閉塞し、各屈曲溝に開口端部から屈曲部まで延長する第一傾斜溝部と該屈曲部から閉塞端部まで延長する第二傾斜溝部とを形成し、第一傾斜溝部の開口端部から屈曲部へと向かう方向を回転方向と一致させ、屈曲部を頂点として第二傾斜溝部を第一傾斜溝部側へ屈曲させた実施例1〜9のタイヤを作製した。なお、屈曲溝を含む溝要素についてはタイヤ周上でピッチが変動するようにピッチバリエーションを付与した。
【0042】
実施例1〜9において、第一傾斜溝部の平均傾斜角度α(°)、第二傾斜溝部の平均傾斜角度β(°)、第一傾斜溝部の溝幅及び溝深さの変化、第二傾斜溝部の溝幅及び溝深さの変化、中間陸部の幅Wに対する屈曲部の距離L1の比率(%)、中間陸部の幅Wに対する閉塞端部の距離L2の比率(%)、センター主溝と第一傾斜溝部との間に延在するサイプ(以下、「サイプA」という)の有無、サイプAから溝までの距離(mm)、センター主溝の溝深さに対するサイプAの溝深さの比率(%)、ショルダー主溝と第二傾斜溝部の閉塞端部との間に延在するサイプ(以下、「サイプB」という)の有無、サイプBから溝までの距離(mm)、センター主溝の溝深さに対するサイプBの溝深さの比率(%)、屈曲溝の本数とショルダー陸部のラグ溝の本数との比、ショルダー主溝に対するショルダー陸部のラグ溝の連通状態、ショルダー主溝における面取り部の有無、ショルダー主溝の溝深さに対する面取り部の深さの比率(%)を表1のように設定した。
【0043】
比較のため、中間陸部に屈曲溝の替りに傾斜溝(第一傾斜溝部に相当)を設けた従来例のタイヤを用意した。また、屈曲溝の第一傾斜溝部の開口端部から屈曲部へと向かう方向を反回転方向と一致させたこと以外は実施例1と同じ構造を有する比較例1のタイヤを用意した。
【0044】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、耐偏摩耗性、摩耗後の車内騒音性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0045】
耐偏摩耗性:
各試験タイヤをリムサイズ17×7Jのホイールに組み付けて空気圧を230kPaとして排気量2.0Lの試験車両(後輪駆動車)に装着し、1周6kmのサーキットコースを10周した後、10人の評価者が目視により偏摩耗の度合いを10点法にて評価し、その平均値を求めた。評価に際して、従来例を5点とし、偏摩耗の度合いが低く耐偏摩耗性が良好であるほど評価点を大きくした。
【0046】
摩耗後の車内騒音性能:
上記走行試験の後、試験タイヤを同じ車両に装着し、プロドライバーによる車内騒音に関するフィーリング評価を行った。評価結果は、従来例を3点とする5点法にて示した。この評価値が大きいほど摩耗後の車内騒音性能が優れていることを意味する。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から明らかなように、実施例1〜9のタイヤは、いずれも従来例との対比において、サーキット走行における耐偏摩耗性が優れており、摩耗後の車内騒音性能も優れていた。一方、比較例1のタイヤは、屈曲溝の第一傾斜溝部の開口端部から屈曲部へと向かう方向を反回転方向としたため、耐偏摩耗性及び摩耗後の車内騒音性能について改善効果が得られなかった。
【符号の説明】
【0049】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
11 センター主溝
12 ショルダー主溝
10 センター陸部
20 中間陸部
21 屈曲溝
21A 第一傾斜溝部
21B 第二傾斜溝部
22,23 サイプ
24,34 面取り部
30 ショルダー陸部
31 ラグ溝
CL タイヤ赤道
R 回転方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6