(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の一態様を得るに至った経緯]
本発明者は、有機発光素子のエージングについての研究を続ける中で、素子構造体の劣化について、初期の状態では劣化割合が急峻であるが、通電時間がある程度経過すると、劣化割合が緩やかなものとなり、その後の劣化割合が、発光層の劣化割合と深く関わりを有するということを究明した。このため、本発明では、発光層における発光輝度の低下割合と、素子構造体における発光輝度の低下割合と、に着目してエージング時間を規定することとした。より具体的には、初期における素子構造体の劣化割合は、発光層の劣化割合に比べて大きいが、初期劣化が終了した後は、素子構造体の劣化が発光層の劣化により規定されることを、本発明者が究明した。
【0011】
[本発明の態様]
本発明の一態様に係る有機発光素子の製造方法は、第1電極を形成するとともに、当該第1電極に対応させ、発光層を含む有機層を形成する第1工程と、有機層に対応させ、第2電極を形成し、素子構造体を形成する第2工程と、得られた素子構造体における第1電極と第2電極との間に対して通電してエージング処理する第3工程と、を有し、第3工程において、発光層における発光輝度の低下割合と、素子構造体における発光輝度の低下割合と、に基づく時間、通電を実行することを特徴とする。
【0012】
上記のように、素子構造体の劣化割合と発光層の劣化割合との関係に注目することにより、これらの相互関係に基づいてエージング処理時間(通電時間)を明確に定義することが可能であり、安定した発光特性を有し、長寿命な有機発光素子を製造することができる。
【0013】
なお、上記において、「素子構造体における発光輝度」とは、第1電極と第2電極との間に電流を流した時の発光輝度であるのに対して、「発光層における発光輝度」とは、第1電極と第2電極との間の通電を行わず、外部から発光層に対してエネルギを付加(例えば、UVランプによりUV光を照射)した際の発光層からの励起光の輝度を指している。即ち、本発明の一態様では、フォトルミネッセンス(PL)発光とエレクトロルミネッセンス(EL)発光の両発光輝度を勘案している。以下においても、同様である。
【0014】
より具体的には、本発明の一態様に係る有機発光素子の製造方法では、第3工程において、発光層における発光輝度の低下割合と、素子構造体における発光輝度の低下割合と、が略等しくなる時間、通電を実行することを特徴とする。
【0015】
ここで、上記において「略等しくなる」とは、低下割合の差異が20[%]以内となることを指し、より好ましくは、低下割合の差異が10[%]以内となることを指す。
【0016】
上記のように、発光層における発光輝度の低下割合と、素子構造体における発光輝度の低下割合と、が略等しくなる(差異が20[%]以内になる、より好ましくは10[%]以内になる)時間をエージング時間(第3工程における通電時間)とすれば、その後の素子構造体の発光輝度の低下割合は、発光層の発光輝度の低下割合と略同等となる。即ち、横軸に通電開始からの経過時間をとり、縦軸に発光輝度をとるとき、素子構造体の発光輝度の推移を示す曲線と、発光層の発光輝度の推移を示す曲線とが略平行の関係となる。そして、このように両曲線が略平行の関係となった後においては、素子構造体の劣化が、発光層の劣化に大きく依存した関係となる。
【0017】
以上のように、本発明の一態様に係る有機発光素子の製造方法では、上記のように、発光層における発光輝度の低下割合と、素子構造体における発光輝度の低下割合と、が略等しくなる時間をエージング時間(第3工程における通電時間)とすることにより、安定した発光特性を有し、長寿命な有機発光素子を製造することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る有機発光素子の製造方法では、第3工程における通電時間の決定において、エージング処理の対象とする素子とは別であって、同一形態の通電時間決定用素子を用いる。そして、通電時間決定用素子の発光層における発光輝度を通電開始からの経過時間毎に対応して求めるとともに、通電時間決定用素子の素子構造体における発光輝度を経過時間毎に対応して求める工程と、求めた通電時間決定用素子の発光層における発光輝度の経過時間毎の低下の割合を求めるとともに、求めた通電時間決定用素子の素子構造体における発光輝度の経過時間毎の低下の割合を求める工程と、求めた通電時間決定用素子の発光層における発光輝度の低下割合と、求めた通電時間決定用素子の素子構造体における発光輝度の低下割合とが略等しくなる経過時間を求める工程と、を用いて決定されることを特徴とする。
【0019】
このような具体的工程の実行により、最適なエージング時間の設定を行うことができ、安定した発光特性を有し、長寿命な有機発光素子を製造することができる。
【0020】
このように、先行する素子を用い、予め最適なエージング時間(第3工程における通電時間)を規定しておくことで、高効率な有機発光素子の製造を行うことが可能となる。
【0021】
ここで、「通電時間決定用素子」とは、第3工程のエージング処理の対象となる素子の直前の素子だけを意味するのではなく、例えば、ロット毎や品種毎の各最初の素子とすることなどもできる。また、装置や工程に改変を加えた際などには、その最初にラインに流す素子を用いてエージング処理時間を決定し、決定されたエージング時間により、続いてライン(生産工程)に流す素子のエージング処理を実行することとしてもよい。
【0022】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子の製造方法では、第1電極を形成するとともに、当該第1電極に対応させ、発光層を含む有機層を形成する第1工程と、有機層に対応させ、第2電極を形成し、素子構造体を形成する第2工程と、所定の通電時間にわたって、得られた素子構造体における第1電極と第2電極との間に対して通電してエージング処理する第3工程と、を有し、第3工程における所定の通電時間が、エージング処理の対象とする素子とは別であって、同一形態の通電時間決定用素子を用い決定する。そして、通電時間決定用素子の発光層における発光輝度を通電開始からの経過時間毎に対応して求めるとともに、通電時間決定用素子の素子構造体における発光輝度を経過時間毎に対応して求める工程と、求めた通電時間決定用素子の発光層における発光輝度の経過時間毎の低下の割合を求めると共に、求めた通電時間決定用素子の素子構造体における発光輝度の経過時間毎の低下の割合を求める工程と、求めた通電時間決定用素子の発光層における発光輝度の低下割合と、求めた通電時間決定用素子の素子構造体における発光輝度の低下割合とが略等しくなる経過時間を求める工程と、を用いて、略等しくなる経過時間を対応付けることにより決定される、ことを特徴とする。
【0023】
このような具体的方法を用いてエージング処理時間を決定し、決定した時間によりエージングを実行することとしても、安定した発光特性を有し、長寿命な有機発光素子を安定して製造することができる。
【0024】
このように、通電時間決定用素子を用い、予め最適なエージング時間(第3工程における通電時間)を規定しておくことで、上述のように、高効率な有機発光素子の製造を行うことが可能となる。「通電時間決定用素子」の定義については、上記同様である。
【0025】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子のエージング方法は、第1電極と第2電極との間に、発光層を含む有機層が介挿されてなる有機発光素子を準備する第1工程と、有機発光素子における第1電極と第2電極との間に対して通電する第2工程と、を有し、第2工程では、発光層における発光輝度の通電開始からの経過時間毎に対する低下割合と、通電時間決定用素子における発光輝度の経過時間毎に対する低下割合とが略等しくなる時間、通電を実行する、ことを特徴とする。
【0026】
本発明の一態様に係る有機発光素子のエージング方法では、上記同様に、発光輝度の低下割合と、有機発光素子(上記における素子構造体に相当)における発光輝度の低下割合と、が略等しくなる時間、通電を実行することにより、最適なエージング処理を行うことができ、安定した発光特性を有し、長寿命な有機発光素子を得ることができる。
【0027】
本発明の一態様に係る有機発光素子のエージング方法では、第2工程における通電時間を、エージング処理の対象とする素子とは別であって、同一形態の通電時間決定用素子を用い決定する。そして、通電時間決定用素子の発光層における発光輝度の経過時間毎に対する低下割合と、通電時間決定用素子における発光輝度の経過時間毎に対する低下割合とが、互いに異なる状態から、互いに略等しい状態になるまでの時間に規定されている、ことを特徴とする。
【0028】
このように、通電時間決定用素子の発光層における発光輝度の経過時間毎に対する低下割合と、通電時間決定用素子における発光輝度の経過時間毎に対する低下割合とが、互いに異なる状態から、互いに略等しい状態になるまでの時間をエージング処理時間(第2工程における通電時間)としてエージング処理をした場合においても、安定した発光特性を有し、長寿命な有機発光素子を得ることができる。
【0029】
なお、上記においても、「略等しくなる」とは、低下割合の差異が20[%]以内となることを指し、より好ましくは、低下割合の差異が10[%]以内となることを指す。
【0030】
本発明の一態様に係る有機発光素子のエージング方法では、第2工程における通電時間を、エージング処理の対象とする素子とは別であって、同一形態の通電時間決定用素子を用い決定する。そして、通電時間決定用素子の発光層における発光輝度の経過時間毎に対する低下割合が、通電時間決定用素子における発光輝度の経過時間毎に対する低下割合に対し、大きな値から略等しい値になるまでの時間に規定されている、ことを特徴とする。
【0031】
このように、通電時間決定用素子における発光輝度の経過時間毎に対する低下割合が、通電時間決定用素子の発光層における発光輝度の経過時間毎に対する低下割合に対し、大きな値から略等しい値になるまでの時間をエージング処理時間(第2工程における通電時間)としてエージング処理をした場合においても、安定した発光特性を有し、長寿命な有機発光素子を得ることができる。
【0032】
なお、上記においても、「略等しくなる」とは、低下割合の差異が20[%]以内となることを指し、より好ましくは、低下割合の差異が10[%]以内となることを指す。
【0033】
また、本発明の一態様に係る有機発光装置は、上記のいずれかに記載の有機発光素子の製造方法により得られた有機発光素子を有することを特徴とする。
【0034】
上述のように、上記のいずれかに記載の有機発光素子の製造方法により得られた有機発光素子は、最適なエージング処理が施されたことにより安定した発光特性を有し、長寿命であるので、これを有する有機発光装置についても、安定した発光特性を有し、長寿命である。
【0035】
また、本発明の一態様に係る有機表示パネルは、上記のいずれかに記載の有機発光素子の製造方法により得られた有機発光素子を有することを特徴とする。
【0036】
上述のように、上記のいずれかに記載の有機発光素子の製造方法により得られた有機発光素子は、最適なエージング処理が施されたことにより安定した発光特性を有し、長寿命であるので、これを有する有機表示パネルについても、安定した発光特性を有し、長寿命である。
【0037】
また、本発明の一態様に係る有機表示装置は、上記のいずれかに記載の有機発光素子の製造方法により得られた有機発光素子を有することを特徴とする。
【0038】
上述のように、上記のいずれかに記載の有機発光素子の製造方法により得られた有機発光素子は、最適なエージング処理が施されたことにより安定した発光特性を有し、長寿命であるので、これを有する有機表示装置についても、安定した発光特性を有し、長寿命である。
【0039】
また、本発明の一態様に係る有機発光素子は、第1電極と第2電極との間に、発光層を含む有機層が介挿されてなり、上記のいずれかに記載の有機発光素子のエージング方法によりエージング処理が実行されたことを特徴とする。
【0040】
上述のように、上記のいずれかに記載の有機発光素子のエージング方法では、最適なエージング処理時間でエージング処理を実行することができるので、これより得られた有機発光素子は、安定した発光特性を有し、長寿命である。
【0041】
以下では、幾つかの具体例を用い、本発明に係る態様の特徴、および作用・効果について説明する。なお、本発明は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以下の実施の形態に何ら限定を受けるものではない。
【0042】
[実施の形態1]
1.有機表示装置1の製造方法
本実施の形態に係る有機表示装置1の製造方法について、
図1から
図3を用い説明する。
【0043】
先ず、
図1に示すように、TFT基板を形成する(ステップS101)。
図2に示すように、TFT基板101は、基板1011のZ軸方向上面にゲート、ソース、およびドレインの各電極を形成し(
図2では、TFTドレイン1012のみを図示)、TFTドレイン1012上の一部を除きパッシベーション膜1013で被覆してなる構成を有する。
【0044】
次に、
図1に示すように、TFT基板101上に絶縁層を形成する(ステップS102)。
図2に示すように、絶縁層102は、TFTドレイン1012上の一部が露出するコンタクト孔102aが開けられ、その他の部分のZ軸方向上面が略平坦化されている。
【0045】
次に、
図1に示すように、絶縁層102上にアノードを形成する(ステップS103)。ここで、
図2に示すように、アノード103は、発光単位(サブピクセル)で区画され形成されており、コンタクト孔102aの側壁に沿って一部がTFTドレイン1012に接続されている。なお、アノード103は、例えば、スパッタリング法や真空蒸着法などにより金属膜を成膜した後、サブピクセル単位にエッチングすることで形成できる。
【0046】
次に、
図1に示すように、アノード103の上面を覆うように透明導電膜が形成されている(ステップS014)。
図2に示すように、透明導電膜104は、アノード103の上面のみならず側端面も覆っており、また、コンタクト孔102a内においてもアノード103の上面を覆っている。なお、透明導電膜104は、上記同様に、スパッタリング法や真空蒸着法などを用い成膜した後、エッチングによりサブピクセル単位に区画することにより形成される。
【0047】
次に、
図1に示すように、透明導電膜104上の一部にホール注入層を形成する(ステップS107)。
図2に示すように、ホール注入層105は、透明導電膜104上の全面ではなく、その一部に形成されているが、全面に形成することもできる。
【0048】
ここで、ホール注入層105は、金属酸化物からなる層とすることも、有機材料からなる層とすることもできるが、形成材料については、後述する。そして、金属酸化物からなる層からなるホール注入層105を採用する場合には、例えば、透明導電膜104上および露出した絶縁膜102の一部表面を覆うように、金属酸化膜を形成し、この膜をエッチングによりサブピクセル単位に区画することにより形成される。
【0049】
金属酸化物(例えば、酸化タングステン)からなるホール注入層105を採用する場合には、金属酸化膜の形成は、例えば、アルゴンガスと酸素ガスにより構成されたガスをスパッタ装置のチャンバー内のガスとして用い、当該ガスの全圧が2.7[Pa]を超え7.0[Pa]以下であり、且つ、酸素ガス分圧の全圧に対する比が50[%]以上70[%]以下であって、さらにターゲット単位面積当たりの投入電力密度が1[W/cm
2]以上2.8[W/cm
2]以下となる成膜条件を採用することができる。
【0050】
図1に示すように、各サブピクセルを規定するバンクを形成する(ステップS106)。
図2に示すように、バンク106は、ホール注入層105の外縁部の一部を覆い、ホール注入層105で覆われていない透明導電膜104および絶縁層102の上に形成されている。
【0051】
バンク106の形成は、先ず、ホール注入層105の外面および透明導電膜104、絶縁層102の上に、バンク106の材料層を積層形成する。この材料層は、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂などの感光性樹脂成分とフッ素成分を含む材料を用い、スピンコート法等により形成される。なお、本実施の形態においては、感光性樹脂材料の一例として、日本ゼオン製ネガ型感光性材料(品番:ZPN1168)を用いることができる。
【0052】
次に、材料層をパターニングして、各サブピクセルに対応する開口部を形成する。開口部の形成には、材料層の表面にマスクを配して露光を行い、その後で現像を行うことにより形成できる。
【0053】
次に、
図1および
図2に示すように、ホール注入層105上におけるバンク106で規定された各凹部内には、ホール輸送層107、発光層108、および電子輸送層109が順に形成される(
図1におけるステップS107,S108,S109)。
【0054】
ホール輸送層107は、その構成材料である有機化合物からなる膜を印刷法で成膜した後、焼成することで形成される。発光層108についても、同様に、印刷法で成膜した後、焼成することで形成される。
【0055】
次に、
図1に示すように、電子輸送層109上にカソードおよび封止層を順に積層する(ステップS110,S111)。
図2に示すように、カソード110および封止層111は、バンク106の頂面も被覆するように形成されており、全面に形成されている。
【0056】
次に、
図1に示すように、封止層111上に接着樹脂材を塗布し、予め準備しておいたCF(カラーフィルタ)パネルを接合する(ステップS112,S113)。
図2に示すように、接着樹脂層112により接合されるCFパネル113は、基板1031のZ軸方向下面にカラーフィルタ1132およびブラックマトリクス1133が形成されてなる。
【0057】
以上のように、表示パネル10が完成する。
【0058】
次に、
図3に示すように、表示パネル10に対して駆動制御部20を付設する(
図1のステップS20)。
図3に示すように、駆動制御部20は、駆動回路21〜24および制御回路25等から構成されている。
【0059】
最後に、
図1に示すように、表示パネル10に対してエージング処理を行う(ステップS30)。エージング処理は、例えば、処理前におけるホール注入性に対して、ホールの移動度が1/10以下となるまで通電を行うことでなされ、具体的には、実際の使用時における輝度以上であって、且つ、その3倍以下の輝度となるように、予め規定された時間、通電処理を実行する。なお、エージング処理時間については、後述する。
【0060】
以上の工程を経て、本実施の形態に係る有機表示装置1が完成する。
【0061】
2.表示パネル10における使用材料
表示パネル10では、例えば、各部位を次のような材料を用い形成することができる。
【0062】
(i) 基板1011
基板1011は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料をベースとして形成されている。
【0063】
(ii) 絶縁層102
絶縁層102は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、アクリル系樹脂材料などの有機化合物を用い形成されている。
【0064】
(iii) アノード103
アノード103は、AgまたはAlを含む金属材料から構成されている。トップエミッション型の本実施の形態に係る表示パネル10の場合には、その表面部が高い反射性を有することが好ましい。
【0065】
(iv) 透明導電膜104
透明導電膜104は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)若しくはIZO(Indium Zinc Oxide)などを用い形成される。
【0066】
(v) ホール注入層105
ホール注入層105は、例えば、銀(Ag)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)などの酸化物、あるいは、PEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料からなる層である。上記の内、金属酸化物からなるホール注入層105は、電荷(ホール)を安定的に、または電荷(ホール)の生成を補助して、発光層108に対しホール(正孔)を注入する機能を有し、大きな仕事関数を有する。
【0067】
ここで、ホール注入層105を遷移金属の酸化物から構成する場合には、複数の酸化数をとるためこれにより複数の準位をとることができ、その結果、ホール注入が容易になり駆動電圧を低減することができる。特に、酸化タングステン(WO
X)を用いることが、ホールを安定的に注入し、且つ、ホールの生成を補助するという機能を有するという観点から望ましい。
【0068】
(vi) バンク106
バンク106は、樹脂等の有機材料を用い形成されており絶縁性を有する。バンク106の形成に用いる有機材料の例としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等があげられる。バンク106は、有機溶剤耐性を有することが好ましい。さらに、バンク106は、製造工程中において、エッチング処理、ベーク処理など施されることがあるので、それらの処理に対して過度に変形、変質などをしないような耐性の高い材料で形成されることが好ましい。また、撥水性をもたせるために、表面をフッ素処理することもできる。
【0069】
なお、バンク106を親液性の材料を用い形成した場合には、バンク106の表面と発光層108の表面との親液性/撥液性の差異が小さくなり、発光層108を形成するために有機物質を含んだインクを、バンク106が規定する開口部内に選択的に保持させることが困難となってしまうためである。
【0070】
さらに、バンク106の構造については、
図2に示すような一層構造だけでなく、二層以上の多層構造を採用することもできる。この場合には、層毎に上記材料を組み合わせることもできるし、層毎に無機材料と有機材料とを用いることもできる。
【0071】
(vii) ホール輸送層107
ホール輸送層107は、親水基を備えない高分子化合物を用い形成されている。例えば、ポリフルオレンやその誘導体、あるいはポリアリールアミンやその誘導体などの高分子化合物であって、親水基を備えないものなどを用いることができる。
【0072】
(viii) 発光層108
発光層108は、上述のように、ホールと電子とが注入され再結合されることにより励起状態が生成され発光する機能を有する。有機発光層108の形成に用いる材料は、湿式印刷法を用い製膜できる発光性の有機材料を用いることが必要である。
【0073】
具体的には、例えば、特許公開公報(日本国・特開平5−163488号公報)に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体などの蛍光物質で形成されることが好ましい。
【0074】
(ix) 電子輸送層109
電子輸送層109は、カソード110から注入された電子を発光層108へ輸送する機能を有し、例えば、オキサジアゾール誘導体(OXD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、フェナンスロリン誘導体(BCP、Bphen)などを用い形成されている。
【0075】
(x) カソード110
カソード110は、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)若しくはIZO(Indium Zinc Oxide)などを用い形成される。本実施の形態のように、トップエミッション型の表示パネル10の場合においては、光透過性の材料で形成されることが好ましい。光透過性については、透過率が80[%]以上とすることが好ましい。
【0076】
カソード110の形成に用いる材料としては、上記の他に、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはそれらのハロゲン化物を含む層の構造、あるいは、前記いずれかの層に銀を含む層とをこの順で積層した構造を用いることもできる。上記において、銀を含む層は、銀単独で形成されていてもよいし、銀合金で形成されていてもよい。また、光取出し効率の向上を図るためには、当該銀を含む層の上から透明度の高い屈折率調整層を設けることもできる。
【0077】
(xi) 封止層111
封止層111は、発光層108などの有機層が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を有し、例えば、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)などの材料を用い形成される。また、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)などの材料を用い形成された層の上に、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などの樹脂材料からなる封止樹脂層を設けてもよい。
【0078】
封止層111は、トップエミッション型である本実施の形態に係る表示パネル10の場合においては、光透過性の材料で形成されることが好ましい。
【0079】
3.エージング処理時間
次に、本実施の形態に係る有機表示装置1の製造工程の内、エージング処理時間、即ち、エージング処理のステップS30における通電時間の規定方法について、
図4から
図7を用い説明する。
【0080】
先ず、本実施の形態に係るエージング処理方法では、エージング処理を施そうとする有機表示装置1に対して同一の形態を有する“通電時間決定用素子”を用い、当該素子における素子構造体の発光輝度の劣化割合と、発光層108の発光輝度の劣化割合との相対的な関係を以って処理時間(通電時間)を決定する。
【0081】
(i) 素子構造体の発光輝度と発光層108の発光輝度の各測定方法
図4(a)に示すように、素子構造体のアノード103とカソード11ーとの間に通電を行う。そして、当該通電によるEL発光について、輝度計にて測定を行う。
【0082】
一方、
図4(b)に示すように、発光層108の発光輝度の測定は、アノード103とカソード110との間の通電を一時停止し、その状態で光源(UVランプ)からのUV光を照射した際のPL発光を検出器で検出する。即ち、PL発光については、フォトルミネッセンス法を用い測定できる。
【0083】
本実施の形態に係るエージング処理の通電時間決定に際しては、生産に先行して同一ロットの有機表示装置について、上記EL発光の測定と、上記PL発光の測定とを一定時間毎に繰り返し行う。
【0084】
(ii) エージング時間決定のためのデータ収集と、エージング時間の決定
図5に示すように、エージング時間設定のためのデータ収集においては、先ず、タイマをリセット(t=0)し、カウンタをリセット(n=1)する(ステップS51)。そして、経過時間t=0におけるPL発光輝度L
PL(0)を測定する(ステップS52)。
【0085】
次に、アノード103とカソード110との間に通電を開始し、通電開始直後における素子構造体のEL発光輝度L
EL(0)を測定する(ステップS53)。そして、タイマを起動して計時を開始する(ステップS54)。
【0086】
通電を維持した状態で、経過時間t毎にEL発光輝度L
EL(t)の測定を継続する(ステップS55)。そして、通電開始直後におけるEL発光輝度L
EL(0)に対する経過時間t毎のEL発光輝度L
EL(t)の比(L
EL(t)/L
EL(0))が、(1−k×n)となったとき、一時通電を停止し、PL発光輝度L
PL(t)を測定する(ステップS57)。
【0087】
ここで、(1−k×n)は、10[%]刻みとする場合には、(n=1)なら90[%]、(n=2)なら80[%]というようになる。あるいは、5[%]刻みとする場合には、(n=1)なら95[%]、(n=2)なら90[%]、(n=3)なら85[%]というようになる。値kについては、測定の頻度増加の手間と、より詳細なデータ収集とを勘案して決定することができる。例えば、本実施の形態では、(k=0.1)とし、10[%]刻みでデータを収集することとする。
【0088】
上記測定データL
EL(t),L
PL(t)をメモリに格納する(ステップS58)。そして、比(L
EL(t)/L
EL(0))が予め設定された値T
X以下となれば(ステップS59:Yes)、計時を終了し(ステップS62)、データ収集を終了する。ここで、値T
Xは、データ収集に許容される工数などを勘案して決定されている。例えば、50[%]とすることもできるし、それよりも小さい30[%]あるいは10[%]などとすることができる。
【0089】
一方、比(L
EL(t)/L
EL(0))が値T
Xよりも大きい場合には(ステップS59:No)、アノード103とカソード110との間の通電を再開し(ステップS60)、それと同時にカウンタを(n=n+1)とする(ステップS61)。そして、ステップS55からステップS59を再度実行する。
【0090】
(iii) 収集されたデータとエージング時間の決定
上記により得られたデータ(フォトルミネッセンス(PL)発光の輝度データ、およびエレクトロルミネッセンス(EL)発光の輝度データ)を、
図6に示すようにグラフ化する。グラフ化に当たっては、横軸に経過時間をとり、縦軸に相対輝度(L
EL(t)/L
EL(0),L
PL(t)/L
PL(0))をとる。
【0091】
図6に示すように、EL発光の相対輝度の曲線L
ELは、通電を開始してから一定に時間が経過するまでの間、急激に低下するように指数関数的に変化する。
【0092】
一方、PL発光の相対輝度の曲線L
PLは、通電開始直後においても、EL発光の相対輝度の曲線L
ELほど急激には低下せず、相対的に緩やかに変化する。
【0093】
エージング時間(通電時間)の決定は、曲線L
ELと曲線L
PLとの互いに傾きに着目し、傾きが略等しくなる時点の経過時間をエージング時間と決定する。具体的には、経過時間t
1に対応する、ポイントP
1とポイントP
2とを比較すると、曲線L
ELと曲線L
PLとの傾きの差異は、20[%]よりも大きく、「略等しい」とはいえない。
【0094】
一方、経過時間t
2に対応する、ポイントP
3とポイントP
4とを比較すると、曲線L
ELと曲線L
PLとの傾きの差異は、20[%]以下となり、輝度低下の割合が「略等しい」といえる。そして、経過時間t
2以降は、曲線L
ELと曲線L
PLとの傾きは、互いに「略等しい」状態を維持して推移する。これより、時間t
2をエージング時間(通電時間)と決定することができる。
【0095】
図6に示すように、時間t
2以後においては、曲線L
ELと曲線L
PLとは略平行な状態で維持されることになり、発光層108の劣化により表示パネル10の寿命が決まることになると言える。
【0096】
なお、本実施の形態では、曲線L
ELと曲線L
PLとの傾きの差異は、20[%]以下となる経過時間t
2をエージング時間と決定したが、傾きの差異が10[%]以下となる経過時間をエージング時間と決定するようにすれば、発光特性の安定化、および長寿命化という観点からさらに好ましい。
【0097】
また、
図6のような輝度劣化の傾向は、ホール注入層および電子輸送層の構成材料を、有機EL素子を構成することができる材料の範囲内では、同じ傾向を示す。
【0098】
4.劣化のメカニズム
デバイスの電流劣化のメカニズムについて、
図7を用い説明する。
【0099】
図7(a)に示すように、通電初期の状態では、カソードから電子輸送層を介して発光層へ移動する電子量は、多い。これに対して、
図7(b)に示すように、通電開始後においては、駆動によりキャリアバランスが低下し、電子の流入量の変動をきたすものと考えられる。このため、発光層への電子量が低下し、これにより輝度の低下を生じるものと考えられる。
【0100】
なお、本実施の形態では、電子電流が劣化する形態について一例としたが、これに限らず、ホール電流が劣化する形態について適用することもできる。
【0101】
[実施の形態2]
実施の形態2に係る有機照明装置5の構成について、
図8を用い説明する。
【0102】
図8に示すように、有機照明装置5は、透明基板51と封止カバー56との間の空間に、カソード52a,52b,52cおよびアノード55と、カソード52a,52b,52cとアノード55とで挟まれた有機EL積層体53a,53b,53cとが収納されている。カソード52a,52b,52cは、互いに電気的に接続されており、カソード52aの一部52dが、封止カバー56から外部に延出されている。なお、カソード52a,52b,52cは、透明導電材料(例えば、ITOやIZO)などから構成され、アノード55は、光反射性材料(例えば、AgやAl)から構成されている。
【0103】
アノード55は、カソード52aの延出された側とは逆の側において、封止カバー56から一部55aが延出されている。
【0104】
有機EL積層体53a,53b,53cの各々は、上記実施の形態1の表示パネル10における電極間に介挿された素子構造体(有機EL積層体)と同じ構成を有する。なお、有機EL積層体53a,53b,53cの各間は、フレキシブル性を有する絶縁体54a,54bにより連結されており、また、有機EL積層体53cのX軸方向右端には、絶縁体54cが設けられている。
【0105】
ここで、有機照明装置5における有機EL積層体53a,53b,53cにおいても、各層の膜厚の均一化などを目的としてバンクを備えることもある。
【0106】
本実施の形態に係る有機照明装置5では、有機EL積層体53a,53b,53cから出射された光が、その一部は直接Z軸方向下向きに、カソード51を透過して出射され、残りはZ軸方向上向きに照射され、アノード55で反射されてZ軸方向下向きに出射される。そして、本実施の形態に係る有機照明装置5においても、製造の最終段階で、上記同様のエージング処理を施すこととしているので、上記同様の長寿命という効果を得ることができる。エージング時間に決定については、上記同様の方法を採用する。
【0107】
[その他の事項]
上記実施の形態1では、発光層108に対して、TFT基板101側にアノード103を配置し、光取出し側にカソード110を配置することとしたが、アノード103とカソード110とを逆の配置とすることもできる。このようにアノードとカソードとを逆の配置とする場合には、光取出し側とは反対側に配置されるカソードについて、アノード103と同じ構成とすることにより、上記同様の効果を得ることができる。上記実施の形態2に係る有機照明装置5についても同様である。
【0108】
また、上記実施の形態1の表示パネル10では、所謂、トップエミッション型の形態を採用したが、ボトムエミッション型の形態を採用することもできる。
【0109】
また、上記実施の形態1,2で採用した構成材料は、一例を示すものであって、本発明は、構成材料を適宜変更することも可能である。例えば、アノード103,55を構成する金属膜については、純粋なAlやAg以外にも、Alを主成分とするAl合金やAgを主成分とするAg合金とすることもできる。
【0110】
また、上記実施の形態では、電子電流が劣化する形態について説明したが、これに限らず、ホール電流が劣化する形態についても適用が可能である。
【0111】
なお、電子電流が劣化するメカニズムは、
図7(a)に示すように、通電初期の状態では、カソードから電子輸送層を介して発光層へ移動する電子量が多い。これに対して、
図7(b)に示すように、通電開始後においては、駆動によりキャリアバランスが低下し、電子の流入量の変動をきたすものと考えられる。このため、発光層への電子量が低下し、これにより輝度の低下を生じるものと考えられる。