(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5843266
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】硫黄変性クロロプレンゴム及びその成形体、並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08C 19/20 20060101AFI20151217BHJP
C08F 8/34 20060101ALI20151217BHJP
B29D 29/06 20060101ALI20151217BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
C08C19/20
C08F8/34
B29D29/06
F16F1/36 C
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-545660(P2012-545660)
(86)(22)【出願日】2011年10月25日
(86)【国際出願番号】JP2011074507
(87)【国際公開番号】WO2012070347
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2014年7月4日
(31)【優先権主張番号】特願2010-263150(P2010-263150)
(32)【優先日】2010年11月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】小林 直紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良知
(72)【発明者】
【氏名】大勢 元博
(72)【発明者】
【氏名】阿部 靖
【審査官】
上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−275124(JP,A)
【文献】
特開平11−116622(JP,A)
【文献】
特開平09−003120(JP,A)
【文献】
特開平07−062029(JP,A)
【文献】
特開2001−342299(JP,A)
【文献】
特開2012−172105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00−19/44
C08F 6/00−246/00
C08F 301/00
F16F 1/36
F16F 15/08
F16G 1/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、硫黄と、クロロプレンとを乳化重合をして得られたラテックス中に、テトラメチルチウラムジスルフィドと、下記化学式(1)で表わされるテトラアルキルチウラムジスルフィド及び下記化学式(2)で表わされるジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物とを添加することによって、該テトラメチルチウラムジスルフィドと、該テトラアルキルチウラムジスルフィド及び該ジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物とにより、該ラテックスにより得られた重合体の末端が変性され、
重クロロホルム溶媒中で測定される1H−NMRスペクトルにおいて、3.55〜3.61ppm及び3.41〜3.47ppmにピークトップを有し、
3.55〜3.61ppmのピーク面積(A)と、4.2〜6.5ppmのピーク面積(B)の比(A/B)が、0.05/100〜0.50/100であり、
JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物の抽出量が3.0〜9.0質量%である硫黄変性クロロプレンゴム。
【請求項2】
裁断した前記硫黄変性クロロプレンゴムをコンデンサー付属のナス形フラスコに入れ、エタノール/トルエン共沸混合物でロジン酸を抽出し、ガスクロマトグラフによりロジン成分のピーク面積から求めたロジン酸類の含有量が、2.0〜7.0質量%であることを特徴とする請求項1記載の硫黄変性クロロプレンゴム。
【請求項3】
裁断した前記硫黄変性クロロプレンゴムをコンデンサー付属のナス形フラスコに入れ、エタノール/トルエン共沸混合物で脂肪酸類を抽出し、ガスクロマトグラフにより脂肪酸成分のピーク面積から求めた脂肪酸類の含有量が、0.01〜0.3質量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の硫黄変性クロロプレンゴム。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載した硫黄変性クロロプレンゴムを用いた成形体。
【請求項5】
伝動ベルト、コンベヤベルト、防振ゴム又は空気バネであることを特徴とする請求項4記載の成形体。
【請求項6】
少なくとも硫黄と、クロロプレンと、を乳化重合して
ラテックスを得る重合工程と、
該ラテックス中に、テトラメチルチウラムジスルフィドと、下記化学式(3)で表されるテトラアルキルチウラムジスルフィド及び下記化学式(4)で表されるジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物とを添加する工程とを、この順で連続して有し、
該ラテックスにより得られた重合体の末端を、該テトラメチルチウラムジスルフィドと、該テトラアルキルチウラムジスルフィド及び該ジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物により変性する可塑化工程とを、
更に有し、
重クロロホルム溶媒中で測定される1H−NMRスペクトルにおいて、3.55〜3.61ppm及び3.41〜3.47ppmにピークトップを有し、
3.55〜3.61ppmのピーク面積(A)と、4.2〜6.5ppmのピーク面積(B)の比(A/B)が、0.05/100〜0.50/100であり、
JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物の抽出量が3.0〜9.0質量%である硫黄変性クロロプレンゴムを得ることを特徴とする硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄変性クロロプレンゴム及びその成形体、並びにその製造方法に関する。詳しくは、一般産業用の伝動ベルトやコンベヤベルト、自動車用空気バネ、防振ゴム等の動的環境用途に使用される硫黄変性クロロプレンゴム及びその成形体、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴムは、硫黄変性クロロプレンゴムと非硫黄変性クロロプレンゴムに大別され、それぞれの特性を活かして自動車部品、接着剤、各種工業部品等広範囲な分野に用いられている。
【0003】
硫黄変性クロロプレンゴムは、その優れた動的特性を生かし、一般産業用の伝動ベルトやコンベヤベルト、自動車用空気バネ、防振ゴム等の様々な動的環境用途において使用されている。これらの製品は、動的な応力により変形−回帰が繰り返し行われるため、ゴム自体が発熱して劣化したり、製品寿命が短縮したりするという問題がある。このため、発熱性を低減させた硫黄変性クロロプレンゴムの開発が切望されていた。
【0004】
ゴムの発熱性を低減させる技術としては、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム等の有機過酸化物系架橋剤により架橋可能なエラストマー、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の金属塩、BET比表面積が25m
2/g以下の酸化マグネシウム、及び有機過酸化物系架橋剤を含有してなる低発熱性ゴム組成物(特許文献1参照)が知られている。また、ゴム成分に特定の低発熱性カーボンブラックを含有させたゴム組成物(特許文献2参照)が知られている。また、所定の性質を有する高分子量の(A)成分と、所定の性質を有する低分子量の(B)成分とを混合して得られる変性共役ジエン系重合体(特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−268239号公報
【特許文献2】特開平10−130424号公報
【特許文献3】特開2010−121086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された従来の技術は、特殊な配合剤や第三成分を仲介とした間接的な手段に基づいて硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性を低減させているため、十分な低発熱効果を得難く、また、配合系や用途が限定されるという課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、発熱性を低減させた硫黄変性クロロプレンゴム及びその成形体、並びにその製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明の硫黄変性クロロプレンゴムは、テトラメチルチウラムジスルフィドと、下記化学式1で表わされるテトラアルキルチウラムジスルフィド及び下記化学式2で表わされるジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物により重合体の末端が変性され、重クロロホルム溶媒中で測定される1H−NMRスペクトルにおいて、3.55〜3.61ppm及び3.41〜3.47ppmにピークトップを有し、3.55〜3.61ppmのピーク面積(A)と、4.2〜6.5ppmのピーク面積(B)の比(A/B)が、0.05/100〜0.50/100であり、JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物(エタノール70容とトルエン30容の混合液。以下、ETAと記載する。)抽出量が3.0〜9.0質量%である。なお、JISは日本工業規格(Japanese Industrial Standards)の略称である。また、下記化学式1中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ炭素数2〜7のアルキル基を表し、下記化学式2中、R
5及びR
6はそれぞれ炭素数1〜7のアルキル基を表し、Mは金属元素を表す。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
また、裁断した前記硫黄変性クロロプレンゴムをコンデンサー付属のナス形フラスコに入れ、ETAでロジン酸を抽出し、ガスクロマトグラフによりロジン成分のピーク面積から求めたロジン酸類の含有量を2.0〜7.0質量%とすることができ、裁断した前記硫黄変性クロロプレンゴムをコンデンサー付属のナス形フラスコに入れ、ETAで脂肪酸類を抽出し、ガスクロマトグラフにより脂肪酸成分のピーク面積から求めた脂肪酸類の含有量を0.01〜0.3質量%とすることができる。ここで、ロジン酸類とは、ロジン酸、不均化ロジン酸、若しくは不均化ロジン酸のアルカリ金属塩、又はこれらの化合物を意味する。
【0012】
また、本発明の成形体は、前記硫黄変性クロロプレンゴムを用いたものである。該成形体としては、例えば伝動ベルトやコンベヤベルト、防振ゴム又は空気バネを挙げることができる。
【0013】
また、本発明の硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法は、少なくとも硫黄と、クロロプレンと、を乳化重合して重合体を得る重合工程と、前記重合体の末端を、テトラメチルチウラムジスルフィドと、上記化学式1で表されるテトラ
アルキルチウラムジスルフィド及び上記化学式2で表されるジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物により変性する可塑化工程とを有し、重クロロホルム溶媒中で測定される1H−NMRスペクトルにおいて、3.55〜3.61ppm及び3.41〜3.47ppmにピークトップを有し、3.55〜3.61ppmのピーク面積(A)と、4.2〜6.5ppmのピーク面積(B)の比(A/B)が、0.05/100〜0.50/100であり、JIS K 6229で規定されるETA抽出量が3.0〜9.0質量%である硫黄変性クロロプレンゴムを得るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、テトラメチルチウラムジスルフィドと、テトラ
アルキルチウラムジスルフィド及びジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物と、からなる可塑化剤で重合体の末端が変性され、ETA抽出量及びピーク面積の比(A/B)を適正な範囲としているため、硫黄変性クロロプレンゴム及びその成形体の発熱性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1の硫黄変性クロロプレンゴムの1H−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(第1の実施形態)
<硫黄変性クロロプレンゴム>
まず、本発明の第1の実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムについて説明する。
第1の実施形態の硫黄変性クロロプレンゴムは、硫黄と、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下、クロロプレンという)と、必要に応じて他の単量体1種以上とを乳化重合させて重合体を得、重合体の末端を、テトラメチルチウラムジスルフィドと、下記化学式3で表わされるテトラアルキルチウラムジスルフィド及び下記化学式4で表わされるジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物とからなる可塑化剤で変性して得られるものである。ここで、下記化学式3中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ炭素数2〜7のアルキル基を表す。また、下記化学式4中、R
5及びR
6はそれぞれ炭素数1〜7のアルキル基を表し、Mは金属元素を表す。
【0018】
【化3】
【0019】
【化4】
【0020】
[重合体]
第1の実施形態の重合体は、前述の通り、硫黄と、クロロプレンと、必要に応じて他の単量体1種以上とを乳化重合させて得られるものである。
【0021】
クロロプレンと共重合する他の単量体としては、例えば、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イソプレン、ブタジエン、メタクリル酸及びこれらのエステル類等がある。
【0022】
他の単量体を用いる場合は、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの特性を損なわない範囲、好ましくは、硫黄と、クロロプレンと、他の単量体の合計量に対して10質量%以下で用いるとよい。他の単量体が10質量%を超えると、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性が著しく増加したり、引張強度等が低下したりする場合がある。
【0023】
[NMRスペクトル]
第1の実施形態の硫黄変性クロロプレンゴムは、重クロロホルム溶媒中で測定される1H−NMRスペクトルにおいて、3.55〜3.61ppm及び3.41〜3.47ppmにピークトップを有し、かつ3.55〜3.61ppmのピーク面積(A)と、4.2〜6.5ppmのピーク面積(B)の比(A/B)が、0.05/100〜0.50/100の範囲である。
【0024】
ここで、3.41〜3.47ppmと3.55〜3.61ppmにおけるピークは、テトラメチルチウラムジスルフィドがクロロプレン鎖の末端に結合した際に形成するジメチルチウラム末端の−N(CH
3)
2のメチル基に由来するものである。ピークが2カ所で確認される理由は、CS−N(CH
3)
2のC−N結合を軸とした回転が束縛され、幾何異性体が存在するためである。
【0025】
つまり、3.41〜3.47ppm及び3.55〜3.61ppmにピークトップを有するということは、硫黄変性クロロプレンゴム中に、テトラメチルチウラムジスルフィド由来のジメチルチウラムスルフィドが、クロロプレン鎖の末端に結合していることを示すものである。
【0026】
また、4.2〜6.5ppmにおけるピーク群は、クロロプレンゴム中のトランス1,4結合等、主にクロロプレン主構造の−CH−に由来するものである。つまり、3.55〜3.61ppmのピーク面積(A)と4.2〜6.5ppmのピーク面積(B)の比(A/B)は、硫黄変性クロロプレンゴムの末端に結合しているテトラメチルチウラムジスルフィド由来のジメチルチウラムスルフィドの重合体に対する相対量を示すものである。
【0027】
硫黄変性クロロプレンゴムの3.55〜3.61ppmのピーク面積(A)と、4.2〜6.5ppmのピーク面積(B)との比(A/B)が、0.05/100〜0.50/100の範囲であることで、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性を低減することができる。(A/B)が、0.05/100に満たないと、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性を低減させる効果が得られず、0.50/100を超えてしまうと、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性が急激に増加する。
【0028】
なお、1H−NMRスペクトルの測定は、次のように測定することができる。
得られた硫黄変性クロロプレンゴムをベンゼンとメタノールで精製し、再度凍結乾燥して試料を得、これを重クロロホルムに溶解させて測定する。測定データは、溶媒とした重クロロホルム中のクロロホルムのピーク(7.24ppm)を基準に補正する。
【0029】
[ETA抽出量]
第1の実施形態における硫黄変性クロロプレンゴムのJIS K 6229で規定されるETA抽出量は、3.0〜9.0質量%の範囲とする。ETA抽出量が3.0質量%に満たないと、得られる硫黄変性クロロプレンゴムのスコーチタイムが低下し、結果として貯蔵安定性低下に繋がる。ETA抽出量が9.0質量%を超えると、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性が大幅に増加してしまう。
【0030】
ここで、ETA抽出量(質量%)は、裁断した硫黄変性クロロプレンゴムを、コンデンサー付属のナス形フラスコに入れてETAで抽出を行い、ETA抽出分と抽出前の硫黄変性クロロプレンゴムの質量比から算出することができる。具体的には、ETA抽出前の硫黄変性クロロプレンゴムの質量(C)を測定し、ETA抽出液を乾燥させて得た固形分の質量(D)を測定し、(D/C)×100で算出する。
【0031】
なお、ETA抽出分に含まれる成分としては、例えばロジン酸類や脂肪酸類、遊離硫黄や遊離可塑化剤等がある。また、ETA抽出量は、乳化重合時に添加する化合物の添加量や、硫黄変性クロロプレンゴムの重合率、可塑化温度、可塑化時間を変えることによって調整することができる。
【0032】
[ロジン酸類の含有量]
本実施形態の硫黄変性クロロプレンゴムにおけるロジン酸類の含有量は、2.0〜7.0質量%とすることが好ましい。ロジン酸類の含有量が2.0質量%に満たないと、硫黄変性クロロプレンゴムの熱安定性が劣って貯蔵安定性が低下する場合があり、7.0質量%を超えてしまうと、硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性を低減させる効果が得られなくなってしまう場合がある。
【0033】
ここで、「硫黄変性クロロプレンゴム中のロジン酸類の含有量」は、裁断した硫黄変性クロロプレンゴムを、コンデンサー付属のナス形フラスコに入れ、ETAでロジン酸類を抽出し、ガスクロマトグラフにて成分の測定をし、ロジン成分のピーク面積から求めることができる。また、硫黄変性クロロプレンゴム中のロジン酸類の含有量は、後述するように乳化剤として添加するロジン酸類の添加量や重合率によって調整することができる。
【0034】
[脂肪酸類の含有量]
脂肪酸類は、予めロジン乳化物を構成する成分として含まれていたり、乳化重合の際の乳化剤として別途添加されたりする。そして、本実施形態の硫黄変性クロロプレンゴムにおいては、脂肪酸類の含有量は0.01〜0.3質量%であることが好ましい。これにより、発熱性を低減させる効果を向上させることができる。
【0035】
ここで、脂肪酸類とは、炭素数が6〜22である飽和又は不飽和の脂肪酸あるいはそのアルカリ金属塩が挙げられ、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)等の天然脂肪酸が好適に用いられるが、類似する炭素数の脂肪酸や、炭素数は同じであるが、不飽和結合の数、位置等が異なってもよい。特に、実用的見地からステアリン酸、オレイン酸が好ましい。
【0036】
なお、「硫黄変性クロロプレンゴム中の脂肪酸類の含有量」は、裁断した硫黄変性クロロプレンゴムを、コンデンサー付属のナス形フラスコに入れ、ETAで脂肪酸類を抽出し、ガスクロマトグラフにて測定を実施し、脂肪酸成分のピーク面積から求めることができる。
【0037】
<硫黄変性クロロプレンゴムの製法>
次に、本発明の第1の実施形態に係る硫黄変性クロロプレンゴムの製造方法について説明する。
【0038】
[重合工程]
重合工程では、まず硫黄と、クロロプレンと、必要に応じてその他の単量体1種以上とを乳化重合させて重合体を得る。
【0039】
乳化重合に際して用いる硫黄の量は、硫黄、クロロプレン及び他の単量体の合計量に対して0.1〜1.5質量%とすることが好ましく、0.3〜1.5質量%とすることがさらに好ましい。硫黄の量が0.1質量%未満であると、硫黄変性クロロプレンゴムの特徴である優れた機械的特性や動的特性が得られないだけでなく、後述する可塑化工程での可塑化速度が著しく低下し、生産性が劣る場合がある。一方、硫黄の量が1.5質量%を超えると、加工時に配合物のムーニー粘度低下が著しくなり作業性が損なわれる場合がある。
【0040】
また、乳化重合に用いる乳化剤としては、ロジン酸類が好適であり、一般的に用いられるその他の乳化剤や後述する脂肪酸類を併用することもできる。その他の乳化剤としては、例えば、芳香族スルフォン酸ホルマリン縮合物の金属塩、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸カリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸カリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸カリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルフォン酸カリウム等がある。
【0041】
特に好適に用いられる乳化剤としては、不均化ロジン酸のアルカリ金属塩と、炭素数が6〜22である飽和又は不飽和の脂肪酸の混合物からなるアルカリ石鹸水溶液である。不均化ロジン酸の構成成分としては、例えば、セスキテルペン、8,5−イソピマル酸、ジヒドロピマル酸、セコデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、デイソプロピルデヒドロアビエチン酸、デメチルデヒドロアビエチン酸等が挙げられる。
【0042】
乳化重合開始時の水性乳化液のpHは、10.5〜13.0であることが望ましい。ここで、水性乳化液とは、乳化重合開始直前の硫黄、クロロプレン、クロロプレンと共重合可能な他の単量体及び乳化剤等の混合液を指すが、各成分を後添加したり、分割添加したりすることにより、その組成が変わる場合も包含される。乳化重合開始時の水性乳化液のpH10.5未満では、乳化剤としてロジン酸類を用いた場合に、重合中の重合体析出等で安定的に重合が制御できなくなる場合があり、pH13.0を超えると、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの低発熱性が不十分となる場合がある。水性乳化液のpHは、乳化重合時に存在している水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ成分量によって適宜調整することができる。
【0043】
乳化重合の重合温度は重合制御性と生産性の観点から0〜55℃、好ましくは30〜55℃である。
【0044】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合で用いられる過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム及び過酸化水素等が用いられる。
【0045】
重合は、例えば転化率30〜95%、好ましくは50〜95%の範囲で行われ、重合禁止剤を加えて停止させる。転化率が30%未満であると、硫黄との共重合量が極端に少なく、実用的な機械特性が得られない。一方、95%を超える場合は、分岐構造の発達やゲルの生成により、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの加工性が悪くなる場合がある。
【0046】
重合禁止剤としては、例えばチオジフェニルアミン、4−第3ブチルカテコール、2,2’−メチレンビス−4−メチル−6−第三−ブチルフェノール等がある。そして、乳化重合終了後の未反応単量体は、常法の減圧蒸留等の方法で除去することができる。
【0047】
[可塑化工程]
乳化重合により得られた重合体は、テトラメチルチウラムジスルフィドと、化学式3で先に示した炭素数2〜7のアルキル基を有するテトラアルキルチウラムジスルフィド及び化学式4で先に示した炭素数1〜7のアルキル基を有するジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物と、からなる可塑化剤によって、末端の分子鎖を切断、解重合し、成形加工に適する程度まで重合体の分子鎖長を短くし、ムーニー粘度を適正な範囲にまで下げる。
【0048】
テトラメチルチウラムジスルフィドと、化学式3で表わされるテトラアルキルチウラムジスルフィド及び化学式4で表わされるジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物と、からなる可塑化剤を用いた可塑化は、20〜70℃の温度で、得られる硫黄変性クロロプレンゴムが下記ムーニー粘度の範囲内に達するまで行われる。
【0049】
なお、本実施形態の硫黄変性クロロプレンゴムにおけるムーニー粘度(ML
1+4、100℃)範囲は、加工実用性の観点から、20〜120であることが好ましく、より好ましくは25〜90、更に好ましくは30〜60である。ここで「ML
1+4」は、ムーニー粘度測定に用いたL型ローラの予熱時間が1分、回転時間が4分であることを意味し、「100℃」は試験温度を意味している。なお、ムーニー粘度の測定は、JIS K 6300−1に基づいて測定することができる。
【0050】
<可塑化剤>
可塑化工程で使用される可塑化剤は、前述の通り、テトラメチルチウラムジスルフィドと、化学式3で表わされるテトラアルキルチウラムジスルフィド及び化学式4で表わされるジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物と、からなるものである。
【0051】
また、化学式3で表わされるテトラアルキルチウラムジスルフィドとしては、例えば、テトラエチルチウラムジスルフィド、
テトライソプロピルチウラムジスルフィド、テトラ−n−プロピルチウラムジスルフィド、テトラ−n−ブチルチウラムジスルフィド、テトラ−n−ヘキシルチウラムジスルフィドがある。化学式4で表わされるジアルキルジチオカルバミン酸塩としては、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム等がある。これらのなかでも、可塑化制御性の観点から、化学式3で表される4つのアルキル基(R
1、R
2、R
3、R
4)が何れもエチル基であるテトラエチルチウラムジスルフィドが好適に用いられる。
【0052】
化学式3で表わされるテトラアルキルチウラムジスルフィド及び化学式4で表わされるジアルキルジチオカルバミン酸塩から選ばれる少なくとも一種の化合物は、前述したようにETA抽出量が3.0〜9.0質量%及び(A/B)の値が0.05/100〜0.50/100の範囲内となるように添加される。
【0053】
また、前述した可塑化剤は、乳化重合後でかつ未反応単量体除去前の
ラテックスに添加したり、未反応単量体除去後の
ラテックスに添加したりすることができる。また、可塑化剤の添加量にもよるが、未反応単量体除去の前後で組み合わせて可塑化剤を添加することも可能である。ただし、化学式3で表わされるテトラアルキルチウラムジスルフィドや化学式4で表わされるジアルキルジチオカルバミン酸塩は、室温で固体(粉体)状のものが多いため、水性乳化液に分散させた状態で
ラテックスに添加することが好ましい。
【0054】
具体的には、例えば炭素数6〜22の飽和又は不飽和の脂肪酸のアルカリ金属塩及び/又はβ−ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のアルカリ金属塩を準備し、これらの乳化剤を少量水に加えて乳化液を作製する。そして、この乳化液に化学式3で表わされるテトラアルキルチウラムジスルフィドや化学式4で表わされるジアルキルジチオカルバミン酸塩を添加し、撹拌翼やスタラー等を用いて混合撹拌して可塑化剤の分散液とした後、可塑化に供する。これにより、前述した可塑化剤の性能を有効に発現させることができる。
【0055】
<連鎖移動剤>
可塑化工程においては、可塑化剤とともに、公知の連鎖移動剤を添加してもよい。公知の連鎖移動剤としては、例えば、エチルキサントゲン酸カリウム、2,2−(2,4−ジオキソペンタメチレン)−n−ブチル−キサントゲン酸ナトリウム等のキサントゲン酸塩等がある。
【0056】
<安定剤>
また、貯蔵時のムーニー粘度変化を防止するため、可塑化工程で得られる硫黄変性クロロプレンゴムに、少量の安定剤を含有させて硫黄変性クロロプレンゴム組成物とすることもできる。そのような安定剤の例としては、フェニル−α−ナフチルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−4−フェニルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ターシャリー−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(6−ターシャリー−ブチル−3−メチルフェノール)等がある。好ましくは、4,4’−チオビス−(6−ターシャリー−ブチル−3−メチルフェノール
)が良い。
【0057】
本実施形態の硫黄変性クロロプレンゴムは、特定の構造の可塑化剤で構造改質し、ETA抽出量とピーク面積の比(A/B)を特定の範囲としているため、硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性を低減することができる。さらには、特定量のロジン酸類、脂肪酸類を含むことで、硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性をより確実に低減することができる。
【0058】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る成形体について説明する。本実施形態の成形体は、前述した第1の実施形態の硫黄変性クロロプレンゴムを成形したものであり、伝動ベルトやコンベヤベルト、防振ゴム、空気バネ等のように、動的な力学刺激が繰り返し負荷されて変形する成形体として好適に用いることができる。
【0059】
また、本実施形態の成形体を製造する際の成形方法としては、例えば押出成形、射出成形、圧縮成形及びカレンダー成形等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
本実施形態の成形体では、発熱性を低減させた硫黄変性クロロプレンゴムを材料としているため、動的な力学刺激が繰り返し負荷されて変形しても、ゴム自体が発熱して劣化したり、製品寿命が短縮したりすることを抑制することができる。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りがない限り、質量部はクロロプレン単量体に対する量であり、また質量%はクロロプレンゴムに対する量である。
【0062】
実施例1
<硫黄変性クロロプレンゴムの作製>
(a)内容積30リットルの重合缶に、クロロプレン単量体100質量部、硫黄0.55質量部、純水105質量部、不均化ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)3.80質量部、オレイン酸0.05質量部、水酸化ナトリウム0.55質量部、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名デモールN:花王株式会社製)0.5質量部を添加した。重合開始前の水性乳化剤のpHは12.8であった。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度40℃にて窒素気流下で重合を行った。転化率75%となった時点で重合停止剤であるジエチルヒドロキシアミンを加えて重合を停止させ、ラテックスを得た。
【0063】
(b)前述した(a)工程で得られたラテックスを減圧蒸留して未反応の単量体を除去し、可塑化前の重合終了ラテックスを得た(以下、この重合終了ラテックスを「ラテックス」と略称する。)。
【0064】
(c)続いて、このラテックスに、溶剤としてクロロプレン単量体3.0質量部、可塑化剤としてテトラメチルチウラムジスルフィド(商品名ノクセラーTT:大内新興化学工業株式会社製)0.3質量部及びテトラエチルチウラムジスルフィド(商品名ノクセラーTET:大内新興化学工業株式会社製)2.0質量部、分散剤としてβ―ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩0.05質量部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム0.05質量部からなる可塑化剤乳化液を添加した後、撹拌しながら温度50℃で1時間保持して可塑化した。
【0065】
ここで、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩は、汎用に用いられる分散剤であり、少量添加することで安定性が向上し、製造過程において凝集や析出をすることなく、安定的にラテックスを製造することができる。また、本実施例では、乳化重合後のラテックスに可塑化剤を添加しているが、その際、より安定した可塑化を可能とするため、溶剤として添加したクロロプレンに可塑化剤を溶解させた可塑化剤液に、ラウリル硫酸ナトリウムを添加して乳化状態にしたものを添加した。
【0066】
(d)その後、ラテックスを冷却し、常法の凍結−凝固法で重合体を単離して硫黄変性クロロプレンゴムを得た。
【0067】
<核磁気共鳴分析(1H−NMR)スペクトルの測定>
硫黄変性クロロプレンゴムを、ベンゼン及びメタノールで精製し凍結乾燥したものを、5%の重クロロホルム溶液に溶解して、日本電子株式会社製JNM−ECX−400(400MHz、FT型)を用い測定した。この1H−NMRスペクトルにおいて重クロロホルム中のクロロホルムのピーク(7.24ppm)を基準とした3.55〜3.61ppm及び3.41〜3.47ppmの位置にピークトップを確認し、3.55〜3.61ppmにあるピーク面積(A)を求めた。4.2〜6.5ppmのピーク面積(B)を100とした時の(A)の面積は0.13であった(面積比(A/B)が0.13/100)。得られた硫黄変性クロロプレンゴムの1H−NMRスペクトルを
図1に示す。
【0068】
<核磁気共鳴分析(1H−NMR)の測定条件>
核磁気共鳴分析(1H−NMR)は以下の測定条件で実施した。
・測定モード:ノンデカップリング
・フリップアングル:45度
・待ち時間:7.0秒
・サンプル回転数:0〜12Hz
・ウィンドウ処理:指数関数
・積算回数:512
【0069】
<ETA抽出量及びロジン酸類、脂肪酸類の含有量の測定>
得られた硫黄変性クロロプレンゴム6gを2mm角に裁断し、コンデンサーを付けたナス形フラスコに入れ、ETAでロジン酸類、脂肪酸類を抽出し、ガスクロマトグラフにて測定を実施した。ロジン成分のピーク面積から、ロジン酸類の含有量は4.4質量%、脂肪酸成分のピーク面積から、脂肪酸類の含有量は0.07質量%であった。ETA抽出量(質量%)はETA抽出分と硫黄変性クロロプレンゴムの質量比から、7.1質量%であった。
【0070】
<ガスクロマトグラフの測定条件>
ガスクロマトグラフは、以下の測定条件で実施した。
・使用カラム:FFAP 0.32mmφ×25m(膜厚0.3μm)
・カラム温度:200℃→250℃
・昇温速度 :10℃/min
・注入口温度:270℃
・検出器温度:270℃
・注入量 :2μl
【0071】
<ムーニー粘度>
試験方法はJIS K 6300−1に準拠し、L型ロータの予熱時間1分、回転時間4分、試験温度100℃にて測定を行った。
【0072】
<評価サンプルの作製>
硫黄変性クロロプレンゴム100質量部に、ステアリン酸1質量部、オクチル化ジフェニルアミン2質量部、酸化マグネシウム4質量部、カーボンブラック(GPF)40質量部、酸化亜鉛5.0質量部を、8インチロールを用いて混合し、160℃で20分間プレス架橋して評価用のサンプルを作製し、以下の評価を行った。
【0073】
[発熱性の評価]
実施例及び比較例の各硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性の評価は、グッドリッチフレクソメーター(Goodrich Flexometer:JIS K 6265)、動的粘弾性試験(JIS K 6394)により行った。グッドリッチフレクソメーターは、加硫ゴム等の試験片に動的繰り返し負荷を加えて、試験片内部の発熱による疲労特性を評価する試験方法であって、詳しくは、一定の温度条件で試験片に静的初期荷重を加え、更に一定振幅の正弦振動を加え、時間の経過と共に変化する試験片の発熱温度やクリープ量を測定するものである。試験方法はJIS K 6265に準拠し、50℃、歪み0.175インチ、荷重55ポンド、振動数毎分1,800回の条件で発熱量(ΔT)を測定した。
【0074】
[動的粘弾性試験]
加硫ゴムの動的粘弾性試験(JIS K 6394)において複素弾性率E
*は下記数式1によって定義される。下記数式1において、複素弾性率E
*の実数部E′は貯蔵弾性率、虚数部E″は損失弾性率である。
【0075】
【数1】
【0076】
また、歪みと応力の時間的遅れを表す位相角δは、損失角と呼ばれ、そのtanとして表わされる損失正接tanδは下記数式2によって定義される。
【0077】
【数2】
【0078】
このtanδは減衰項であって、熱として散逸されるエネルギーと貯蔵されるエネルギーの比で表わされ、硫黄変性クロロプレンゴムに加えられる機械的エネルギーの熱としての散逸され易さ、あるいは該エネルギーの貯蔵され難さであり、当該値が低いほど低発熱性ゴムと解釈される。
【0079】
試験方法はJIS K 6394に準拠し、下記条件で実施した。
・測定器:レオバイブロン動的粘弾性自動測定器
・加振方法:変位振幅10μm(歪み0.05%)、静的張力5gf
・試料形状:板(幅:0.45cm、長さ:3cm(ただしチャック間2cm)、厚さ:0.2cm
・測定周波数:10Hz
・測定温度条件:−100℃〜155℃(昇温速度:2℃/min)
発熱性の指標であるtanδは100℃における値を採用した。
【0080】
上記tanδを温度100℃、振動数10Hzと規定しているのは、一般的な動的環境(例えば、伝動ベルト)を考慮したものである。
【0081】
[スコーチタイム]
JIS K−6300に従い、125℃におけるスコーチタイムt5を測定した。
【0082】
[耐摩耗性]
耐摩耗性は、JIS K−6264−2に従い、DIN摩耗試験を測定した。
【0083】
実施例2〜13、比較例1〜8
下記表1〜3に示した配合により、実施例1と同様にサンプルを作製して評価をした。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
上記表1〜3から明らかなように、実施例1〜13の本発明の硫黄変性クロロプレンゴムは、比較例1〜8の硫黄変性クロロプレンゴムと比べてスコーチタイム及び耐摩耗性で劣ることなく、発熱性及び発熱性の指標である動的粘弾性tanδに優れていた。
【0088】
これに対して、比較例1は、可塑化剤としてテトラメチルチウラムジスルフィドを使用していないため、1H−NMRスペクトルにおいて3.55〜3.61ppm及び3.41〜3.47ppmにピークトップを有しておらず、実施例1〜13に比べて発熱性及び動的粘弾性tanδが劣っていた。また、比較例2は、可塑化剤としてテトラアルキルチウラムジスルフィド及びジアルキルジチオカルバミン酸の何れも使用していないため、発熱性及び動的粘弾性tanδが実施例1〜13によりも劣っていた。
【0089】
比較例3は、可塑化剤の1つとして炭素数8のアルキル基を有するテトラアルキルチウラムジスルフィド(テトラ−n−オクチルチウラムジスルフィド)を使用しているため発熱性及び動的粘弾性tanδが劣っていた。また、比較例4は、可塑化剤の1つとして炭素数8のアルキル基を有するジアルキルジチオカルバミン酸塩(ジ−n−オクチルジチオカルバミン酸ナトリウム)を使用しているため、発熱性及び動的粘弾性tanδが劣っていた。
【0090】
比較例5は、硫黄変性クロロプレンゴムの3.55〜3.61ppmのピーク面積(A)と4.2〜6.5ppmのピーク面積(B)の比(A/B)が0.5/100に満たないため、硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性を低減させる効果が得られず、発熱性及び動的粘弾性tanδが劣っていた。また、比較例6は、(A/B)が0.50/100を超えているため、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性が急激に増加し、発熱性及び動的粘弾性tanδが劣っていた。
【0091】
比較例7は、ETA抽出量が3.0質量%に満たないため、得られる硫黄変性クロロプレンゴムのスコーチタイムが低下した。また、比較例8は、ETA抽出量が9.0質量%を超えているため、得られる硫黄変性クロロプレンゴムの発熱性が急激に増加し、発熱性及び動的粘弾性tanδが劣っていた。
【0092】
ここで、実施例10については、発熱性及び動的粘弾性tanδは各比較例1〜7と比べて優れているものの、他の実施例、特に実施例1〜9と比較すると発熱性が高めの結果であった。これは、ロジン酸類の含有量が7.1質量%と高めであることが原因であると考えられる。このことから、ロジン酸類の含有量は7.0質量%以下であることがより好ましいといえる。
【0093】
また、実施例11については、発熱性及び動的粘弾性tanδは各比較例1〜7と比べて優れているものの、オレイン酸の添加量が異なるため、脂肪酸類の含有量が異なること以外は略同条件である実施例1と比較すると発熱性が高めの結果であった。これは、実施例11では、脂肪酸類の含有量が0.31質量%と高めであるため発熱性を低減させる効果が実施例1と比較して小さかったためであると考えられる。このことから、脂肪酸類の含有量は0.3質量%以下であることがより好ましいといえる。
【0094】
なお、各表には示さなかったが、実施例1において、可塑化剤乳化液中にテトラメチルチウラムジスルフィド0.3質量部を添加せず、常法の凍結−凝固法で重合体を単離して得た硫黄変性クロロプレンゴムをロールで素練りした後、テトラメチルチウラムジスルフィド0.3質量部を混練り添加したサンプルでは、実施例1の特性を得ることはできなかった。本発明は、可塑化剤を重合終了後のラテックス中に添加することが不可欠であった。