(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5843416
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】ステロイドホルモンを含むタブレット
(51)【国際特許分類】
A61K 31/568 20060101AFI20151217BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20151217BHJP
A61K 31/565 20060101ALI20151217BHJP
A61K 31/566 20060101ALI20151217BHJP
A61K 31/567 20060101ALI20151217BHJP
A61K 31/5685 20060101ALI20151217BHJP
A61K 31/569 20060101ALI20151217BHJP
A61K 31/57 20060101ALI20151217BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20151217BHJP
A61K 31/575 20060101ALI20151217BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20151217BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20151217BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20151217BHJP
A61K 47/42 20060101ALI20151217BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20151217BHJP
A61P 5/26 20060101ALI20151217BHJP
A61P 5/30 20060101ALI20151217BHJP
A61P 5/34 20060101ALI20151217BHJP
A61P 5/40 20060101ALI20151217BHJP
A61P 5/44 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
A61K31/568
A61K9/70
A61K9/70 401
A61K31/565
A61K31/566
A61K31/567
A61K31/5685
A61K31/569
A61K31/57
A61K31/573
A61K31/575
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/42
A61P1/02
A61P5/26
A61P5/30
A61P5/34
A61P5/40
A61P5/44
【請求項の数】27
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2008-503397(P2008-503397)
(86)(22)【出願日】2006年3月15日
(65)【公表番号】特表2008-534533(P2008-534533A)
(43)【公表日】2008年8月28日
(86)【国際出願番号】EP2006002358
(87)【国際公開番号】WO2006102990
(87)【国際公開日】20061005
【審査請求日】2009年2月19日
【審判番号】不服2013-7139(P2013-7139/J1)
【審判請求日】2013年4月18日
(31)【優先権主張番号】102005015128.0
(32)【優先日】2005年3月31日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・クルメ
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト・ラードルマイアー
(72)【発明者】
【氏名】サーシャ・ゲネラール
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ディットゲン
(72)【発明者】
【氏名】キース・ジェンセン
【合議体】
【審判長】
蔵野 雅昭
【審判官】
辰己 雅夫
【審判官】
穴吹 智子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−535269号公報
【文献】
国際公開第04/096191号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K31/00-31/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステロイドホルモン2〜15質量%及び親水性の担体物質80〜98質量%を含むステロイドホルモンを経粘膜投与するためのフィルム形態の医薬組成物であって、ステロイドホルモンが担体物質中に溶解して存在しており、ステロイドホルモンが1.0〜4.3の範囲のlog Pを有し、ステロイドホルモンがアンドロゲンであり、そして、担体物質がセルロース誘導体であることを特徴とする該医薬組成物(ただし、前記医薬組成物は、担体物質中で第二の相を形成することができる液体の賦形剤を含まないものとする)。
【請求項2】
担体物質がメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)又はそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
担体物質がヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)であることを特徴とする請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
ステロイドホルモンを3〜8質量%含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項5】
ステロイドホルモンを5質量%含むことを特徴とする請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
1〜10cm2の面積を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項7】
5〜8cm2の面積を有することを特徴とする請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
7cm2の面積を有することを特徴とする請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
50〜250g/m2の単位面積当たり質量を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項10】
100〜150g/m2の単位面積当たり質量を有することを特徴とする請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
40〜130μmの厚さを有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項12】
50〜100μmの厚さを有することを特徴とする請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
粘膜付着性であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項14】
口の中で30分未満の間に完全に溶解することを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項15】
口の中で15分未満の間に完全に溶解することを特徴とする請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
ステロイドホルモンがテストステロン、ジヒドロテストステロン、7α−メチル−19−ノルテストステロン(MENT)、MENT 17−アセテート、7α−メチル−11β−フルオロ−19−ノルテストステロン(eF−MENT)、メステロロン、メテノロン、ナンドロロン、オキサンドロロン、アンドロステンジオン又はこれらのステロイドホルモンの混合物であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項17】
ステロイドホルモンがテストステロン、7α−メチル−19−ノルテストステロン(MENT)又は7α−メチル−11β−フルオロ−19−ノルテストステロン(eF−MENT)であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項18】
香味料、着色剤、透過促進剤、甘味料、充填剤、可塑剤、pH安定剤、崩壊剤の群からの少なくとも1つの賦形剤を更に含むことを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項19】
口腔用途において少なくとも25%の生物学的利用能でその中に含まれるステロイドホルモンを放出することを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項20】
口腔用途において少なくとも50%の生物学的利用能でその中に含まれるステロイドホルモンを放出することを特徴とする請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
口腔用途において70〜75%の生物学的利用能でその中に含まれるステロイドホルモンを放出することを特徴とする請求項1〜20のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項22】
アンドロゲン欠乏症を治療するための薬剤を製造するための請求項1〜21のいずれか1項記載の医薬組成物の使用。
【請求項23】
テストステロン欠乏症を治療するための薬剤を製造するための請求項1〜21のいずれか1項記載の医薬組成物の使用。
【請求項24】
ステロイドホルモンが、薬剤投与後、60分未満の間に最高血中濃度に到達することを特徴とする請求項22又は23記載の使用。
【請求項25】
ステロイドホルモンが、薬剤投与後、30分未満の間に最高血中濃度に到達することを特徴とする請求項24記載の使用。
【請求項26】
少なくとも25%の生物学的利用能でステロイドホルモンを投与することを特徴とする請求項22〜25のいずれか1項記載の使用。
【請求項27】
少なくとも50%の生物学的利用能でステロイドホルモンを投与することを特徴とする請求項26記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステロイドホルモンを経粘膜投与するためのフィルム形態の系である形状の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ステロイドホルモンの種々の投与形態がこれ迄に記述されている。また、慣用の経口投与の他に、インプラント、パッチ及びゲルの投与形態が利用できる。これらの投与形態は、長期間にわたってできるだけ均一にステロイドホルモンを連続的に供給することを目的としている。しかしながら、種々の用途では、血液中のステロイドホルモン濃度が急激に上昇する投与が望ましい。例えば男性テストステロン欠乏症の場合、生理学的状態を回復するには、朝のうちに濃度ピークに達することが必要である。このための必要条件は、短時間で高い血中濃度を達成するため、ホルモンの急激な取り込みと高い生物学的利用能である。
【0003】
活性成分の急激な放出は、経粘膜投与によって達成することができる。水性環境中、例えば口の中で崩壊する剤形は、この目的で知られている。口腔投与系、例えばパッチ、サッカブルタブレット、チューインガム、フィルム及びメルティングタブレットが知られている。
【0004】
このフィルム形態の系に関して特に記載しなければならないのは、いわゆるウエハー(wafer)(US 5,948,430)である。口中にウエハーを適用した後、活性成分は周囲に放出される。血液中の活性成分の濃度の急激な上昇を達成するには、口腔粘膜を通して活性成分の吸収が速いことが特に重要である。ウエハーのサイズは口のサイズによって制限され、そして厚いウエハーは非常にゆっくりとしか崩壊しないため、溶解度又は吸収度の低さは、任意にウエハーを拡大することによって補うことができない。
【0005】
ウエハー中に存在する活性医薬成分は、吸収位置に応じて口腔粘膜を通して口腔又は舌下に吸収される。これらの投与方式は、経口投与と比較して、例えば初回通過効果の回避、より急激な作用開始、そして胃腸代謝の回避といった多くの利点を特徴としている。
【0006】
粘膜付着は、口腔又は舌下投与系の進展において鍵となる役割を果たす。生体膜のムチン層に結合する物質は、通常「粘膜付着性」と呼ばれる。粘膜付着性ポリマーは、種々の粘膜を通した投与によってある種の活性成分を全身的に生物学的利用可能とするための多数の投与形態に使用されることが多い。このような医薬組成物には、タブレット、パッチ、細片、フィルム、半固体及び散剤が含まれる。ポリマーは、粘膜付着性であるためにはある種の物理化学的性質を有しなければならない。従って、このようなポリマーは、多数の水素結合基のため主にアニオンで親水性でなければならず、粘膜又は組織亀裂を通して浸透するために粘膜組織の表面上で十分な湿潤性を有し、十分な柔軟性を有しなければならない。
【0007】
しかしながら、口腔及び舌下投与系の開発における主要な問題は、粘膜の上皮組織を通して活性成分の流れ速度が低いことであり、これにより活性成分の生物学的利用能が低くなる。
【0008】
ヒト口腔粘膜に浸透する薬物の能力は、とりわけ、油/水分配係数によって表される薬物の脂溶性に左右される。この関係は、例えばカルボン酸、アルキルフェニル酢酸、脂肪酸、アンフェタミン及びフェンフルラミン、アセトアニリド及びステロイドで示されている。
【0009】
ステロイドについては、その口腔吸収は、油/水分配係数におけるバイ指数(biexponential)関数に依存していることがわかった。1.6〜3.3の間のLog p値は、舌下吸収に都合よいものとみなされる。多くのプロゲステロン誘導体では、粘膜を通した取り込みの速度定数は、log Pの減少(親水性が高まる)につれて減少することを示すことができる。
【0010】
口腔吸収には2つのパラレル経路が存在するので、水及び油中で実質的に同一の溶解度を有する物質が最も良好に透過するものとされる。しかしながら、これとは対照的に、同族列では、疎水性が高まるにつれて浸透性が高くなるという所見がある。
【0011】
口腔粘膜を通した活性成分の吸収を評価するためのさらなるパラメーターは、溶解度及び溶解速度といったような物理化学的性質である。口の中に存在する媒体中の活性成分の溶解度は、濃度勾配を決定し、これは拡散圧に対応する。高い溶解度は、高い拡散圧を生じる。これに関して、口中に存在する液体の容積は、わずか数ミリリットルにしか達しない。
【0012】
本明細書に記載されたステロイドホルモンは、利用可能な容積中で30μgから最大1mgの溶解度を示す。しかしながら、医療用途に必要な全ての物質の量は、これより明らかに多い。
【0013】
US 6,264,981は、この挑戦を満たす種々の可能性を記載している。US 6,264,981は、弱酸及び塩基の緩衝化された製剤、すなわちイオン化できる物質を記載している。緩衝化により、そこに記載された物質は塩の形態になり、この塩は電離することでより可溶性となる。しかしながら、本明細書に記載されたステロイドホルモンは、容易に塩の形態に変換することができない。
【0014】
許容度及び安全性が重要な態様である経粘膜用途の浸透及び吸収促進剤としての有用性について、種々の化学物質が試験されている。しかしながら、粘膜吸収を高めるのに必要な濃度において、多くの知られている透過促進剤の使用は、粘膜の刺激及び/又は損傷をもたらす可能性がある。
【0015】
透過促進剤が粘膜に明白な損害を与えるため、このような透過促進剤を用いて透過を高めることの深刻な欠点としては、例えば細胞上層の減失による口腔粘膜の滅失及びデスモソームの数における減少、及び塩、ラウリル硫酸ナトリウム又は胆汁酸による口腔上皮の炎症が含まれる。
【0016】
ステロイドホルモンは親油性物質であり、水中の溶解度は非常に僅かしかない。ヒトに口腔投与したテストステロンタブレットについてのテストステロンの代謝クリアランス(C. Wang, D.H. Catlin, B. Starcevic, A. Leung, E. DiStefano, G. Lucas, J. Clin. Endocrin. Metab., 89, 2936-2941, 2004)及び薬理動態的データからみて、口腔粘着性のテストステロンタブレットの生物学的利用能について算出された値は、25%のオーダーである(K.J. Baisley, M.J. Boyce, S. Bukofzer, R. Pradhan, S.J. Warrington, J. Endocrin. 175, 813-819, 2002)。
【0017】
口腔用途のためのフィルム形態の投与系は、面積及び厚さの両方で制限され、25%の生物学的利用能はいくつかのステロイドについては不十分である。ウエハーの面積は、空いている口腔面積によって制限され、それは片側当たり約7cm
2である。ウエハーがより大きくなる場合、均一かつ安全な投与を確実に行うことができる信頼性は低下する。また、ウエハーの充填を高めることによって又はウエハーの過剰の「厚肉化」によって吸収位置(口腔粘膜)で溶解した活性成分の濃度を高めることは容易に可能ではなく、その理由は、それによって新たに生じる唾液のために活性成分の望ましくない嚥下の危険性が高まるからである。
【0018】
従って、非常に急速な及び高い吸収は、非常に短時間に(好ましくは15分未満のうちに)担体物質及び活性成分の両方を溶解し、かくして口腔粘膜を通しての吸収を可能とするフィルムに依存している。低い有用性の一連のフィルムを口腔に適用しても、急激な作用開始の目的に役立つことはない。このような一連のフィルムのうちの最初のものを使用する前の口の中の状態の回復には、利用可能な唾液を完全に置き換える必要がある。さらに、一定の再現可能な吸収を確実にするためには、前のウエハーの完全な吸収又は除去を確実に行わなければならない。これらの必要のため、2つのウエハーの適用の間には少なくとも30分間の時間的間隔が生じる。
【0019】
ステロイドホルモンの溶解度は、生理学的なpH範囲でイオン化できず、1.0−4.3のlog Pで不適切な溶解度を有し、この吸収については、US 6,264,981に記載された他の手段(シクロデキストリン、包接化合物)によって改善することができない。
【0020】
担体物質及び活性成分の溶解速度は、口の中で使用するために特に非常に重要であり、その理由は、そこで約0.5〜3ml/分の新たな唾液が連続的に形成されるからである。これは、続いて使用者による制御可能でないやり方で嚥下によって胃腸管へ運ばれる。ここで、経口投与の場合、活性成分は、ゆっくりした取り込みの欠点及び代謝の初回通過効果を受けやすい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、本発明の目的は、生理学的なpH値でイオン化できず、1.0−4.3のlog Pを有するステロイドホルモンを、好ましくは透過促進剤を添加することなく口の中で溶解し、高い生物学的利用能でその中に含まれるステロイドホルモンを放出し、好ましくはその中に含まれるステロイドホルモンの最大血中濃度(=最大濃度)が60分以内に50%を超える投与系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的は、口の中で溶解し、そして少なくとも1つのステロイドホルモン0.01〜50質量%、好ましくは2〜15質量%、及び担体物質50〜99.99質量%、好ましくは80〜98質量%を含む投与系を提供することにより達成された。適切な担体物質は、特にセルロース及びその誘導体、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、及びポリ−N−ビニルピロリドン、ビニルピロリドン−酢酸ビニルコポリマー、デンプン、デンプン誘導体、ゼラチン、ゼラチン誘導体及びそれらの組み合わせである。
【0023】
好ましい投与系は、ステロイドホルモン、特にアンドロゲン2〜15質量%、特に好ましくは3〜8質量%、及び担体物質、特にセルロース誘導体80〜98質量%からなる。
【0024】
特に好ましい投与系は、テストステロン、7α−メチル−19−ノルテストステロン及び7α−メチル−11β−フルオロ−19−ノルテストステロンからなる群からのステロイドホルモンの5質量%及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の95質量%からなる。
【0025】
本発明によれば、口の中で溶解する投与系はフィルムの形態であることが好ましい。また、フィルム形態のこれらの投与系は、「ウエハー」とも称する。フィルムの形態の本発明の投与系は、特定の実施態様において、粘膜付着性を与えられる。これは、特に適用後の粘膜から投与系を分離することは不可能なやり方で粘膜に付着する性質を意味する。
【0026】
本発明のフィルム形態の投与系は、1〜10cm
2の間、好ましくは5〜8cm
2の間、そして特に好ましくは7cm
2の面積を有する。さらに、それは、50〜250g/m
2の間、好ましくは100〜150g/m
2の間の単位面積当たりの質量を有する。後者は、40〜130μmの間、好ましくは50〜100μmの間の厚さにほぼ相当する。
【0027】
フィルム形態の投与系は、好ましくは30分未満の期間に、特に好ましくは15分未満の期間に口の中で溶解する。投与系から経粘膜的に血流に入るステロイドホルモンは、血液中でこのステロイドホルモンの濃度を急激に上昇させる。この場合、血液中のこのステロイドホルモンの最大濃度は、好ましくは適用後60分未満の期間、特に好ましくは15〜30分で達する。
【0028】
ステロイドホルモンの高い生物学的利用能及び血液中のホルモン濃度の顕著な低下を伴うパルス性の経過を達成する能力は、本発明の投与系の特徴である。従って、この投与系は、パルス性、概日性、または同様の自然のリズムに適応したホルモン療法を可能にする。
【0029】
ステロイドホルモンの少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%の生物学的利用能を達成する投与系が可能である。特に好ましい実施態様において、ステロイドホルモンは、70〜75%の間の生物学的利用能で放出される。
【0030】
フィルム形態の投与系は、担体物質及びステロイドホルモンの他に、さらなる物質、例えば香味料、着色剤、透過促進剤、甘味料、充填剤、ステロイドホルモンを溶解することができ、好ましくは親水性の担体物質中で第二の相を形成することができる液体の、好ましくは親油性の賦形剤、可溶化剤、pH安定剤、崩壊剤を含んでなる。好ましい実施態様では、投与系は、浸透促進剤、吸収促進薬及び/又は透過促進剤を含まない。
【0031】
投与系は、概日リズムのパルス療法に使用するのが好ましい。薬物のパルス放出は、一般に喘息、関節炎、小腸癌及び他の癌、糖尿病、心臓血管障害、胆嚢障害及び神経障害といったような病因において振動性のリズムを有する疾患のより良好な(時間医薬的(chronopharmaceutical))治療を可能にする。
【0032】
投与系は、1日1回の投与によって短時間で、好ましくは60分未満で血液中のステロイドホルモンの高められた濃度が達成される治療の一部として使用するのが特に好ましい。投与系は、特に、投与されたアンドロゲンの高められた血液中の濃度を短時間で達成するため、朝1回のアンドロゲン療法の一部として投与することができる。
【0033】
本発明によるステロイドホルモンは、1.0−4.3のlog Pを有するエストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲン及びコルチコステロイドであることができる。
【0034】
好ましいエストロゲンは、エチニルエストラジオールである。好ましいプロゲステロンは、ドロスピレノン、ジエノゲスト、ゲストデン、レボノルゲストレル、シプロテロンアセテートである。
【0035】
本発明の目的に適したコルチコステロイドは、ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン21−アセテート、メチルプレドニゾロンアセポネート、プレドニソロン、デフラザコルト、デフラザコルトアルコール、フルオコルトロン及びフルオコルトロン水和物、フルオコルトロン21−ピバレートである。
【0036】
本発明の目的に適したアンドロゲンは、テストステロン、ジヒドロテストステロン、7α−メチル−19−ノルテストステロン(MENT)、MENT 17−アセテート、7α−メチル−11β−フルオロ−19−ノルテストステロン(eF−MENT)、メステロロン、メテノロン、ナンドロロン、オキサンドロロン、アンドロステンジオンである。
【0037】
全ての例は、1.0−4.3のlog Pの範囲に入る。
【0038】
アンドロゲンMENT又はeF−MENTを含んでなる投与系は、本発明により好ましい。
【0039】
95%HPMC及び5%MENT又はeF−MENTを含んでなる投与系は、特に好ましい。
【0040】
以下の実施例は、適切な投与系(「ウエハー」)の製造を説明する。乾燥ウエハーの組成物は表1に示される。
【0041】
実施例1:MENT5gをエタノール/水(50:50)溶液700mlに加え、溶解が完了するまで撹拌した。必要に応じて超音波を適用して溶解を補助した。次いでヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)95gを加え、溶解が完了するまで混合物を撹拌した。 混合物を脱気し、スプレッドボックスを用いて広げて乾燥させた。厚さ50〜100μmの間の薄い透明なフィルムを製造した。試料を適当なサイズに切断することによってMENT1.5mgの含量の透明なウエハーを得た。
【0042】
参考例1:メントール3g及びチモール2gをATMOS 300(=オレイン酸のモノ−及び
ジグリセリドの混合物)26g及びTween 80(=ポリオキシエチレンソルビタンオレエートエステル)4gに加えた。固形物が溶解するまで混合物を撹拌した。次いで、この混合物にMENT 5gを加え、活性成分が完全に溶解するまでこれを撹拌した。HPMC 60gをエタノール−水50:50の混合物600gに加え、溶解が完了するまで撹拌した。次いで、水相に有機相をゆっくりと加え、高速で撹拌して濃厚なクリーム状の組成物を得た。混合物を脱気し、広げた後、乾燥した。厚さ50〜100μmの間の薄い半透明のフィルムを製造した。適当なサイズの試料を切断することによってMENT 1.5mgの含量の半透明のウエハーを得た。
【0043】
参考例2:MENT 5gをATMOS 300の20g、オクタノール10g及びレシチン5gの混合物に加えた。固形物が溶解するまで混合物を撹拌した。HPMC60gを水600gに加え、溶解す
るまで撹拌した。有機相を高速で撹拌しながら水相に加えて濃厚なクリーム状の組成物を得た。混合物を脱気し、広げた後、乾燥した。厚さ50〜100μmの間の薄い半透明のフィルムを製造した。適当なサイズの試料を切断することによってMENT 1.5mgの含量で半透明のウエハーを得た。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例1の乾燥系は、担体物質中に単分子ディスパージョンとして溶解されたステロイドホルモンを含んでなり、一方、
参考例1及び2のステロイドホルモンは油相中の溶液の形態であり、油相はさらに個々の相として担体物質中に存在することに注目することができる。従って、液体、好ましくはステロイドホルモンを溶解することができ、そして(好ましくは親水性の)担体物質中で第二の相を形成することができる親油性の賦形剤の使用は、「二相系」としてステロイドホルモン入りのフィルム形態の投与系を製造することを可能にする。
【0046】
実験データ
臨床的な予備的研究を健康なヒトで実施してMENTウエハーが原則として臨床用途に適切であるかどうか試験した。試験の必須の態様は、ウエハーによって血液中で達成することができる活性成分のレベル及びその時間経過、及び一般的な許容度に関する。ウエハーの3種の異なる投与量を試験した。各被験者は、クロスオーバーデザインの単一投与としてそれぞれ全3回の投与を受けた。個々の投与間には少なくとも48時間の休薬期間があった。
【0047】
少なくとも高用量レベルで生物学的利用能が非常に低くても、利用可能な測定方法を用いてMENTの血中濃度の測定が現実的に可能となるように、そして一方、生物学的利用能が非常に高くても、理論的に考えられるピークのレベルが臨床的な又は臨床前のデータによって立証される安全な範囲内にあるように3種の投与量を固定した。
【0048】
用量群は、0.5mg、1.5mg及び3.0mgであった。投与量のレベルは、ウエハーのサイズによって決定した。使用したウエハーは、0.225mgMENT/1cm
2を含んでなる。0.5mgの用量では2.22cm
2(製剤)の面積を有するウエハーを用い、1.5mgでは6.67cm
2(製剤b)の面積を有するウエハーを用い、そして3.0mgではそれぞれ6.67cm
2の2枚のウエハーを用いて一回投与を行った。ウエハーは、臨床研究者によって口腔粘膜に適用された。低用量は、常に右側に導入し、中用量は常に左側に、そして高用量では、1つのウエハーを各側に用いた。
【0049】
全体で23から42歳までの11人のヒトにウエハーを施し、関連した副作用が観察されることはなかった。局所許容度は、非常に良好であった。適用部位の外観検査は望ましくない局所反応の徴候を示さなかった。被験者は、局所許容度のそれらの主観的な印象を表すために、視覚による類似のスケールを使用した。ここでも、関連する望ましくない効果の形跡はなかった。
【0050】
ほとんどの使用で、ウエハーは15分以内に溶解した。場合によっては、より長くかかった;1つの場合の最大時間は33分であった。得られたデータはウエハーの溶解にかかる時間が明らかに長くかかる場合、生物学的利用能が低いという仮定を支持するものである。
【0051】
MENTウエハーは、約70〜75%の驚くほど良好な生物学的利用能を示した(表2)。
【表2】
【0052】
AUCにおける個々の変動は、低いと分類される20%より低かった。
【0053】
C−max及びAUCは、いずれも明確な用量直線性を示す。最も高い濃度は15〜30分以内に測定され、それから急速に下がり;4時間を超えた後には僅かな濃度しか測定できない。
【0054】
GC−MS方法(ガスクロマトグラフィ−質量分析を組み合わせた)(このために特別に開発し、有効とされた)を用いてMENTの血清レベルを測定した。方法は、ネガティブ化学イオン化(NCI)方法を使用するもので、かくして、測定濃度が約60pg/mlの下限(定量の下限)までの高感度が得られた。
【0055】
GC−MS方法は、より低い感度の測定にも利用でき、これはNCIの代わりに電子イオン化(EI)方法を使用する。
【0056】
原則として、MENT濃度は、ステロイドホルモンを測定するために他の適切な別法によって測定することもできる。適切な例として記載できるのは、完全であると主張するものではないが、ラジオイムノアッセイ、LC−MS技術又はHPLC方法(高速液体クロマトグラフィ)である。
【0057】
【表3】
【0058】
MENTを用いて入手できる臨床結果は、ヒトにおける性機能低下性の症状の有効な防止には少なくとも0.3ng/ml(約1nmol/l)の血清中濃度が必要であることを示している。これは、テストステロンの最小濃度より約10倍低い。
【0059】
MENTウエハー系は、困難なしにこれらの血清レベルを達成する。薬理動態をみると、MENTウエハーは静脈内投与に近い。半減期が短いため、アンドロゲンレベルにおいて短時間であるが、非常に効果的な上昇が望ましい時にウエハーの使用は価値がある。この表示について「短い」というのは、60分未満の期間、好ましくは15〜30分の間とみなされる。
【0060】
緊急に必要な場合に限定される適用の1つの利点は、精巣機能における阻害作用がわずかしかなく、対応する生理機能のごくわずかな障害しか予想されないということである。従って、より長期の活性を有するアンドロゲン生成物と対照的に、活性成分としてアンドロゲンを用いる本発明の投与系の使用においては、使用可能な生殖腺のテストステロン合成の障害も精子形成の阻害も予想されない。
【0061】
従って、アンドロゲンの領域で本発明の投与系を使用する1つの適切な領域は、年配の人において概日アンドロゲンリズム性を回復させるために1日に1回投与することである。ヒトの内在性テストステロン濃度における年齢に伴う減少は、特に概日リズムの喪失を特徴とする。朝に観察されるべきテストステロンレベルにおける増加が実質的に消失する。従って、若者と老人との間のテストステロンレベルにおける最も大きい差分は、朝に採取した血液試料において検出可能であるが、夜に採取した場合には、小さな差分しかない。本発明の投与系を用いて、利用可能な内在性テストステロン産生の実施においてほとんど障害を与えることなく、アンドロゲンリズム性に従った年齢に伴う相対的なアンドロゲン欠乏症を治療することが可能である。これらの場合、患者の自己治療は、有利なやり方で容易に都合よく可能である。