(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転するローラ上にボイラの伝熱エレメントを載置して搬送するローララインを設け、該ローラライン上に搬送方向上流側から加熱炉及び冷却ゾーンを配設し、前記加熱炉内の高温雰囲気温度で前記伝熱エレメントを一定時間保持した後に前記冷却ゾーンにて冷却することで熱処理を行うローラハース連続炉を用いた熱処理装置であって、
前記加熱炉内で前記伝熱エレメントを、前記伝熱エレメントの幅方向が搬送方向と直交する方向に載置し、搬送方向及び逆方向へオシレートしながら加熱することを特徴とする熱処理装置。
前記加熱炉内で前記伝熱エレメントを搬送方向及び逆方向へオシレートさせる炉内ローラは、隣接するローラ間の軸中心間距離であるローラピッチ(Lp)と、前記炉内ローラが回転して移動する外周の周長(Lo)が略等しくなるように配設されていることを特徴とする請求項1に記載の熱処理装置。
前記加熱炉内で前記伝熱エレメントを搬送方向及び逆方向へオシレートさせる炉内ローラのオシレート速度は、前記伝熱エレメント及び前記炉内ローラの接触状態が下限の低接触から上限の高接触までの範囲内にあり、かつ、温度ムラ許容値の温度比(保持中の最大温度差/規格値、前記規格値は日本工業規格JIS Z3700において定めた値)が1以下となるように制御されることを特徴とする請求項1または2に記載の熱処理装置。
前記加熱炉内及び/または前記冷却ゾーンで前記伝熱エレメントを搬送方向及び逆方向へオシレートさせるローラの表面に、前記ローララインの幅方向中心へ向けて傾斜し、かつ、前記搬送方向の下流側で交差するようにして凹溝部または凹凸部を形成したことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の熱処理装置。
【背景技術】
【0002】
熱処理装置は、例えばステンレス材等の応力腐食割れ防止のため、約1000℃〜1200℃程度の高温雰囲気に一定時間ワークを加熱保持して熱処理を行う装置であり、加熱後のワークは鋭敏化を防ぐために、急冷される。このような熱処理装置は、
図8に示すようなボイラの伝熱エレメントHEを熱処理する場合、処理対象(以下、ワークと呼ぶ)が大型のパネル状であることから、バッチ式の熱処理炉を採用することが多い。
しかし、バッチ式の熱処理炉は生産性が低いという課題があるため、生産性向上の観点から、ローラライン上に加熱炉及び冷却ゾーンを設置して連続的な熱処理を行うローラハース連続炉を採用した熱処理装置が望ましい。
【0003】
一方、従来のローラハース連続炉は、例えば下記の特許文献1及び2に示すように、長尺の管棒材や鋼板を処理するものが一般的に知られている。このため従来のローラハース連続炉が対象とする管棒材や鋼板などのワークは、ボイラの伝熱エレメントHEと比較して、ローラによる搬送方向と直交するワーク幅方向の寸法が著しく小さい。
また、例えば焼鈍炉や溶体化炉等のように、連続的な熱処理炉においてワークを搬送する断熱ローラは、耐熱性、耐摩耗性及び断熱性に優れたものが望ましい。例えば、下記の特許文献3に開示されているハースロール連続炉のように、表面温度のばらつきをなくして適正温度に維持できる断熱ロールが公知で存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、
図8に示すようなボイラ用の伝熱エレメントHEは、ステンレスチューブSTの集合体であり、例えば幅Wが3.5m程度、高さHが0.6m程度、長さLが18m程度の寸法を有する幅広で大型の略板状パネルである。このような幅広のワークHEを、ローラライン上に加熱炉を設置して、連続的に熱処理する場合には、すなわち、ローラハース連続炉を備えた熱処理装置で熱処理する場合には、冷却後のワークに生じる熱変形が大きく、この抑制が課題である。
このような熱変形は、例えば両側端部で上下方向に反るような熱変形であり、ワークHEの幅Wが広くなるほど、この熱変形は顕著に生じやすい傾向にある。
【0006】
上述した熱変形は、次に示す2つの原因から発生する。
第1の原因は、ローラハース連続炉でワークHEを熱処理する際、炉内温度と異なる温度の搬送ローラと接触して、メタル温度分布が不均一になるためである。この結果、ワークHEは均一に加熱されず、不均一な温度分布を形成して熱変形が生じてしまう。
すなわち、大型ワークの伝熱エレメントHEをローラハース連続炉で熱処理する場合には、不均一な加熱により生じる熱変形を抑制する必要がある。しかし、先行技術文献に開示されている断熱ローラは、ローラ自体温度を均一化できても、ワークHEとの接触により生じる温度分布は必ずしも均一でなく、熱変形を抑制できるものではない。
【0007】
第2の原因は、ローラハース連続炉で熱処理した後工程において、加熱後のワークHEを急冷する際に生じるメタル温度分布の不均一化である。
図9は、ローラハース連続炉で熱処理した後工程で生じる熱変形、すなわち、加熱後の急冷時に生じる面内変形及び面外変形の説明図である。
図9(a)において、熱処理前の熱変形の発生していない伝熱エレメントHEは破線で示す。また、熱処理後に面内変形や面外変形が発生した場合の伝熱エレメントHEは、実線で示す。
【0008】
面内変形は、パネル状とした伝熱エレメントHEに生じるパネル水平方向の熱変形である。この面内変形は、
図9(b)に示すように、高温の加熱炉から急冷する冷却ゾーンへの搬送過程において、伝熱エレメントHEのパネル水平方向のメタル温度分布が不均一化して生じる変形である。図中の白抜矢印は、伝熱エレメントHEの搬送方向を示す。
面外変形は、
図9(c)に示すように、冷却ゾーンにおいて冷却風(破線矢印参照)を上下方向(高さ方向)から吹き付けて冷却する際、伝熱エレメントHEの高さ方向のメタル温度分布が不均一化して発生する、パネル高さ方向の熱変形である。図中の符号Rは搬送用のローラを示し、反時計回りに回転して伝熱エレメントHEを白抜矢印の方向へ搬送する。
【0009】
このように、幅広で大型の伝熱パネルHEをローラハース連続炉で熱処理する熱処理装置は、ワークHEが幅広で大型になるほど顕著となる加熱後の熱変形を最小限に抑える必要がある。
本発明は、上記の課題を解決するため、ローラライン上に設置した加熱炉と冷却ゾーンで、連続的に熱処理を行うように配置された熱処理装置において、ワークの加熱、冷却後により生じる熱変形を、最小限に抑制できる熱処理装置を提供する。
加えて本発明は、熱処理による熱変形を最小限に抑えることができる熱処理方法をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するため、次の手段を採用した。
本発明に係る熱処理装置は、回転するローラ上に
ボイラの伝熱エレメントを載置して搬送するローララインを設け、該ローラライン上に搬送方向上流側から加熱炉及び冷却ゾーンを配設し、前記加熱炉内の高温雰囲気温度で前記
伝熱エレメントを一定時間保持した後に前記冷却ゾーンにて冷却することで熱処理を行うローラハース連続炉を用いた熱処理装置であって、前記加熱炉内で前記
伝熱エレメントを
、前記伝熱エレメントの幅方向が搬送方向と直交する方向に載置し、搬送方向及び逆方向へオシレートしながら加熱もしくは冷却処理を施すものである。
また、ボイラ伝熱エレメントは、チューブの軸方向にオシレートしながら、加熱もしくは冷却処理されることが望ましい。
【0011】
このような熱処理装置によれば、加熱炉内で
伝熱エレメントを搬送方向及び逆方向へオシレートしながら加熱処理を施すので、炉内温度と異なる温度の炉内ローラが加熱時に接触する
伝熱エレメントの位置を分散させ、
伝熱エレメントに生じるメタル温度分布の不均一化を抑制できる。このとき、炉内のローラを正回転及び逆回転させて、
伝熱エレメントをオシレートすることが望ましい。
かつ、ボイラ伝熱エレメントは、チューブの軸方向にオシレートしながら加熱処理することで、パネル幅方向のメタル温度分布の不均一化が抑制され、熱変形を大幅に低減できる。
【0012】
上記の発明において、前記加熱炉内で前記
伝熱エレメントを搬送方向及び逆方向へオシレートさせる炉内ローラは、隣接するローラ間の軸中心間距離であるローラピッチ(Lp)と、前記炉内ローラが回転して移動する外周の周長(Lo)とが等しくなるように配設されていることが好ましく、これにより、加熱炉内温度と異なる温度の前記炉内ローラが前記
伝熱エレメントと加熱時に接触する長さを均一にすることができる。すなわち、加熱中の
伝熱エレメントが炉内ローラと接触する長さは、全ての接触面において均一になるので、加熱炉内温度と異なる温度の炉内ローラから受ける熱影響も均一になる。
【0013】
上記の発明において、前記加熱炉内で前記伝熱エレメントを搬送方向及び逆方向へオシレートさせる炉内ローラのオシレート速度は、前記伝熱エレメント及び前記炉内ローラの接触状態が下限の低接触から上限の高接触までの範囲であり、かつ、温度ムラ許容値の温度比(保持中の最大温度差/規格値
、前記規格値は日本工業規格JIS Z3700において定めた値)が1以下となるように制御することができる。
【0014】
上記の発明において、前記冷却ゾーンで前記
伝熱エレメントを搬送方向及び逆方向へオシレートしながら冷却処理を施すことが好ましく、これにより、熱変形の原因となり、冷却時に生じるメタル温度分布の不均一化を抑制することが可能になる。
かつ、ボイラ伝熱エレメントは、チューブの軸方向にオシレートしながら冷却処理することで、パネル幅方向のメタル温度分布の不均一化が抑制され、熱変形を大幅に低減できる。
【0015】
上記の発明において、前記加熱炉内及び/または冷却ゾーンで前記
伝熱エレメントを搬送方向及び逆方向へオシレートさせるローラの表面に、前記ローララインの幅方向中心へ向けて傾斜し、かつ、前記搬送方向の下流側で交差するようにして凹溝部または凹凸部を形成することが好ましく、これにより、
伝熱エレメントを搬送する際の直進性が向上する。
【0016】
本発明に係る熱処理方法は、回転するローラ上に
伝熱エレメントを載置して搬送するローララインを設け、該ローラライン上に搬送方向上流側から加熱炉及び冷却ゾーンを配設し、前記加熱炉内の高温雰囲気温度で前記
伝熱エレメントを一定時間保持した後に前記冷却ゾーンにて冷却処理を行うローラハース連続炉を用いた熱処理方法であって、前記加熱炉内に
伝熱エレメント搬送用の炉内ローラを備え、炉内温度と異なる温度の前記炉内ローラと前記
伝熱エレメントとの接触長さが、前記
伝熱エレメントのローラ接触面側で均一になるように、前記
伝熱エレメントを
、前記伝熱エレメントの幅方向が搬送方向と直交する方向に載置し、搬送方向及び逆方向へオシレートしながら加熱処理もしくは冷却処理を施すことを特徴とするものである。
【0017】
このような熱処理方法によれば、加熱炉及び冷却ゾーンが、この内部に
伝熱エレメント搬送用のローラを備えたローラハース連続炉とされ、炉内温度と異なる温度の炉内ローラと
伝熱エレメントとの接触長さが、
伝熱エレメントのローラ接触面側で均一になるように、
伝熱エレメントを
、前記伝熱エレメントの幅方向が搬送方向と直交する方向に載置し、搬送方向及び逆方向へオシレートしながら加熱もしくは冷却するので、炉内温度と異なる温度の炉内ローラが加熱もしくは冷却時に接触する
伝熱エレメントの位置を分散させ、
伝熱エレメントに生じるメタル温度分布の不均一化を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
上述した本発明によれば、ワークの熱処理により生じる熱変形を最小限に抑え、ローラライン上に設置した加熱炉で連続的に熱処理を行うことができる生産性の高い熱処理装置を実現できる。すなわち、本発明の熱処理装置及び熱処理方法は、ローラハース連続炉の採用によりバッチ式より生産性を向上させ、しかも、幅広のワークを熱処理する場合の熱変形も最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る熱処理装置及び熱処理方法について、その一実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る熱処理装置1は、
図6及び
図7に示すように、直線状に設けたローラライン10を備えている。このローラライン10には、
図6に白抜矢印2で示す搬送方向の上流側から順に、加熱化炉20及び冷却ゾーン40が直線的に配設されている。なお、ローラライン10は、搬送方向と直交する方向に多数の搬送ローラ11を所定のピッチで平行に配設したもので、搬入ゾーン3の搬送ローラ11、後述する加熱炉20内の炉内ローラ24、後述する冷却ゾーン40内の搬送ローラ44、及び搬出ゾーン4の搬送ローラ11を具備して構成されるローラハース連続炉が用いられている。
【0021】
この熱処理装置1は、例えば
図8に示したようなボイラ用の伝熱エレメントHEを熱処理する装置であり、特に、略平面形状をした幅広のワークHEを熱処理するのに適した装置である。なお、ボイラ用の伝熱エレメントHEは、多数のステンレスチューブ(チューブ)STを平板状に並べて連結したチューブ集合体であるが、本実施形態で熱処理する対象がこれに限定されることはない。
【0022】
加熱炉20および冷却ゾーン40には、
図7に示すように、周囲を炉壁で囲った炉内空間21と冷却空間41とが形成されている。この炉内空間21には、搬送方向の両端部に入口開口22及び出口開口23が形成され、それぞれの開口には、上下方向にスライドして開閉する入口扉22a及び出口扉23aが設けられている。また、冷却空間41には、搬送方向の両端部に入口開口42及び出口開口43が形成され、それぞれの開口は上下方向にスライドして開閉する。
【0023】
入口開口22の搬送方向上流側には、入口扉22aを開いてワークHEを加熱炉20内に供給する搬入ゾーン3が設けられている。
出口開口23の搬送方向下流側には冷却ゾーン40が設けられ、出口扉23aを開いて加熱炉20内から搬出されたワークHEがこの冷却ゾーン40へ供給される。この場合、出口扉23aと後述する冷却ゾーン40の入口開口42との間は、ワークの熱を均一に保つために可能な限り接近した位置関係にあることが望ましい。
【0024】
炉内空間21の内部には、ワークHEを搬送する多数の炉内ローラ24が所定のローラピッチで平行に配列されている。なお、炉内ローラ24を含むローラライン10のローラは、いずれもワークHEの搬送方向と直交する配置となる。
上述した炉内ローラ24は、例えば回転方向の選択切換が可能な炉内ローラ電動機25を駆動源とするチェーン駆動により、ワークHEを搬送方向へ移動させる方向の正回転と、搬送方向とは逆方向へ移動させる方向の逆回転(正回転と逆向きの回転)から、いずれか一方を選択して切り換えることができる。このような炉内ローラ24の正回転及び逆回転の切換操作は、図示しない制御部から出力される制御信号に基づいて、炉内ローラ電動機25の回転方向を選択切換することにより実施される。
【0025】
また、炉内空間21の内部には、炉内ローラ24の上下に加熱用のバーナ26が多数設置され、上下方向からの均等加熱ができる。このバーナ26は、都市ガス等の燃料及び空気の供給を受けることで、燃料を燃焼させて炉内空間21の内部を所定の高温雰囲気に加熱するものである。なお、各バーナ26は、ワークHEを直接加熱せず間接加熱するように、すなわち、炉内空間21内の高温雰囲気を加熱するように設置される。
図示の構成では、例えば省エネルギ化を目的として、燃焼後の排ガスが保有する排熱で燃焼用の空気を予熱する熱交換器27を備えていても良い。
【0026】
加熱炉20でワークHEの加熱処理をする加熱処理工程では、入口扉22a及び出口扉23aがともに閉じた閉空間の状態から、入口扉22aのみを開いてワークHEを炉内空間21内に導入した後、入口扉22aを閉じて再度閉空間を形成する。このとき、ワークHEの搬送には、搬入ゾーン3側の搬送ローラ11及び加熱炉20内の炉内ローラ24が使用される。
ワークHEは、閉空間とした炉内空間21内で高温雰囲気温度による加熱を所定時間受けた後、出口扉23aを開いて冷却ゾーン40へ送出される。
【0027】
このようなワークHEの加熱処理工程において、本実施形態では、炉内ローラ24を正回転及び逆回転させることにより、ワークHEを搬送方向及び逆方向へオシレートしながら加熱処理を実施する。このとき、加速減速時のショックを生じないようにするため、加減レートを調整することが望ましい。
また、炉内ローラ24は、例えば
図2に示すように、ワークHEの幅Wと一致する長手方向に均一な温度分布を得るため、内部に介在させた断熱材30の幅(断熱材幅)を炉内幅より幅広としたものを使用することが望ましい。
【0028】
また、炉内ローラ24は、荷重を受ける部分の耐熱温度を低下させるため、炉内ローラ内部に冷却水を供給して流通させる水冷構造、あるいは、冷却油を流通させる油冷構造が採用されている。そして、炉内ローラ24の熱伸びを考慮して、非駆動側には熱伸び吸収機構31を設けることが望ましい。なお、図中の符号32は外皮メタル、33は外筒、34は冷却水流路、35は支持部、36はチェーン、37はロータリジョイントである。
このような加熱炉20の停止動作では、例えば炉内温度が150℃程度に温度低下するまで炉内ローラ24を回転させることにより、炉内ローラ24の熱変形を抑制することが望ましい。
【0029】
冷却ゾーン40は、上述した加熱処理工程後のワークHEを急冷するための冷却処理装置である。この冷却ゾーン40は、上述した冷却空間41を形成し、ワークHEの搬送方向の両端部に入口開口42及び出口開口43を設けるとともに、冷却空間41内に搬送ローラ44及び冷却ノズル45を配設したものである。
入口開口42及び出口開口43は、搬送方向の両端部に設けられており、
図7に示すように、上下に開閉する入口扉42a及び出口扉43aを備えることが炉内温度分布を均一化するために望ましい。但し、入口と出口の開口面積を小さくすれば、炉内側からの放熱の影響が小さくなるので、部分的な開口を入口もしくは出口に設けても良い。たとえば
図6に示すように、入口扉42a及び出口扉43aを設けていない場合も可能である。
【0030】
冷却ノズル45は、冷却空間41内に搬送された高温のワークHEに対し、空気等の冷却媒体を噴射することにより急冷するものである。
冷却ゾーン40でワークHEを急冷する冷却処理工程では、入口扉42a及び出口扉43aがともに閉じた閉空間の状態から、入口扉42aのみを開いてワークHEを冷却空間41内に導入した後、入口扉42aを閉じて再度閉空間を形成する。このとき、入口扉42aの開操作は、加熱炉20の出口扉23aの開操作と略同時に行われ、ワークHEの搬送には、加熱炉20内の炉内ローラ24及び冷却ゾーン40内の搬送ローラ44が使用される。なお、入口扉42a及び出口扉43aがない場合には、当然ながら開閉操作は不要となる。
【0031】
ワークHEは、閉空間とした冷却空間41内で冷却媒体の噴射による冷却を所定時間受けた後、出口扉43aを開いて搬出ゾーン4へ送出される。
このようなワークHEの冷却工程においても、例えば搬送ローラ電動機38によるチェーン駆動される搬送ローラ44を正回転及び逆回転させることにより、ワークHEを搬送方向及び逆方向へオシレートしながら冷却処理を実施することで、均一に冷却することが望ましい。
なお、上述した冷却工程において、冷却空間41に入口扉42a及び出口扉43aがない場合には、当然ながら開閉操作は不要となる。
【0032】
さて、上述した加熱炉20において、加熱炉20内での加熱処理中には、
図1(a)に白抜矢印で示すように、ワークHEを搬送方向及び逆方向へオシレートしながら加熱処理を施している。このため、炉内空間21内の炉内温度、すなわち、炉内の高温雰囲気と異なる温度である炉内ローラ24が加熱時に接触するワークHEの位置を分散させ、ワークHEに生じるメタル温度分布の不均一化を抑制できる。換言すれば、ワークHEをオシレートすることにより、炉内ローラ24と接するワークHEの位置が常に変動するので、炉内ローラ24との接触により吸熱されて温度低下する領域も分散され、加熱処理したワークHEのメタル温度分布を全体に渡って均一化できる。
【0033】
上述したオシレートは、
図1(b)に示すように、炉内ローラ24を180度ずつ正回転及び逆回転させることが好ましい。すなわち、炉内ローラ24のチェーン駆動源である炉内電動機25を正転及び逆転させることにより、炉内ローラ24を搬送方向へ移動させる方向の正回転と、搬送方向とは逆方向へ移動させる方向の逆回転とが180度ずつ繰り返されると、炉内ローラ24の接触面が高温のワークHEから受ける熱影響も均一化され、結果としてワークHE側が炉内ローラ24から受ける熱影響も均一化される。
なお、炉内ローラ24の回転については、上述した180度ずつの正逆交互の回転に限定されることはなく、ローラピッチ(Lp)と炉内ローラ24が回転して移動する外周の周長(Lo)とが等しくなれば(Lp=Lo)良い。
【0034】
また、上述した炉内ローラ24は、例えば
図1(c)に示すように、隣接するローラ間の軸中心間距離であるローラピッチ(Lp)と、炉内ローラ24の外周(Lo)とが等しくなる(Lp=Lo)ように配設することが望ましい。このような配置とすれば、オシレートによりワークHEと接触する炉内ローラ24の外周面は全周にわたり、しかも、炉内ローラ24とオシレートによって移動するワークHEとの接触箇所が隣接する炉内ローラ24と接触するまでの移動距離とも一致することになる。但し、これはローラピッチLp=ローラ外周Loと設計される場合であり、ローラピッチLpとローラ外径の関係によっては、この式が成り立つように、ローラ回転角度を調整することが望ましい。
【0035】
このため、炉内温度と異なる温度である炉内ローラ24は、全周にわたってワークHEから吸熱することとなり、高温のワークHE側から受ける熱影響を分散させることが可能になる。従って、加熱時の炉内ローラ24は、ローラ面の温度分布を均一化することができる。
また、加熱時に炉内ローラ24と接触するワークHEの位置についても、オシレート速度が一定であれば、接触長さが全面で均一になるよう分散される。この結果、加熱中のワークHEが炉内ローラ24と接触する長さは、全ての接触面において均一になるので、低温の炉内ローラ24から受ける熱影響も均一になる。換言すれば、加熱中のオシレートにより、ワークHEの温度分布を均一化することができる。
【0036】
また、上述した炉内ローラ24のオシレート速度は、すなわち、加熱炉20内でワークHEを搬送方向及び逆方向へオシレートさせる炉内ローラ24のオシレート速度は、例えば
図3に示すハッチング領域内で、かつ、温度比が1以下となるように制御することが望ましい。
ここで、縦軸の温度比は、温度ムラ許容値の温度比(保持中の最大温度差/規格値)を示している。分母の規格値は、例えば日本工業規格(JIS Z3700「溶接後熱処理方法」)等において定めた許容値であり、この場合、メタル材質により異なるが、50〜85℃である。
【0037】
図3のハッチング部は、ワークHE及び炉内ローラ24間の接触状態が低接触のラインと、ワークHE及び炉内ローラ24間の接触状態が高接触のラインとの間に形成された領域であり、オシレート速度は、このハッチング部であり、かつ上記の温度比が1以下となるように制御することが望ましい。
図3で、低接触のラインは、ワークの荷重条件が最小負荷状態に相当する。また、高接触のラインは、ワークの荷重条件が最大負荷状態に相当する。
【0038】
さらに、上述した熱処理装置1は、冷却ゾーン40の冷却処理工程においても、ワークHEを搬送方向及び逆方向へオシレートしながら冷却することが望ましい。
すなわち、上述した炉内ローラ24と同様に、冷却空間41内の搬送ローラ44を正回転及び逆回転させることによってワークHEをオシレートさせれば、冷却処理によりワークHEの上下面(高さHの方向)に生じるメタル温度分布の不均一化を抑制することができる。換言すれば、冷却処理工程におけるワークHEの急冷時に、ワークHEの全面を均一に冷却できるようになり、この結果、ワークHEのメタル温度分布を均一にすることができる。従って、面外変形の原因となる冷却時に生じるメタル温度分布の不均一化を、特に、ワークHEの上下面方向(高さHの方向)に生じるメタル温度分布の不均一化を抑制できる。
【0039】
また、加熱炉20から冷却ゾーン40へワークHEを搬送する際には、面内変形の原因となる搬送過程においてワークHEにメタル温度分布の不均一化が生じるので、これを抑制するため、加熱炉20から冷却ゾーン40への搬送過程を、円滑かつ最小限に抑えることが望ましい。すなわち、ワークHEが加熱炉20から受ける吸熱側の熱影響と、冷却ゾーン40から受ける放熱側の熱影響とが及ぶ状態を最小限に抑制することが望ましい。
なお、冷却ゾーン40には、冷却時に生じるダストの回収を容易に行うため、冷却ゾーン下部の適所に回収ホッパを設けてもよい。
【0040】
また、本実施形態の熱処理装置1では、例えば
図4に示すように、加熱炉20内でワークHEを搬送方向及び逆方向へオシレートさせる炉内ローラ24Aの表面に、具体的には外皮32の表面に凹溝部28を形成している。
この凹溝部28は、
図4(a)に示す平面視において、ローラライン10の幅方向中心へ向けて傾斜し、かつ、搬送方向の下流側で交差するようにして設けられている。換言すれば、搬送方向を上にした各炉内ローラ24Aの平面視において、各炉内ローラ24Aの表面(外周面)には、略ハ字状となるように凹溝部28が形成されている。
【0041】
このような凹溝部28を形成することにより、ワークHEを搬送方向へ搬送する際、ワークHEの直進性が向上する。すなわち、平面視が略ハ字状の凹溝部28は、搬送時にワークHEが炉内ローラ24Aの両端部側(炉内ローラ24Aの長手方向)へ進もうとする場合、これを阻止するような抵抗力を付与するので、ワークHEは、搬送方向から横ずれすることなく真っ直ぐに進むようになる。
【0042】
このような凹溝部28の代わりに、例えば
図5に示す炉内ローラ24Bのように、凹溝部28と同様の方向の凹凸部29を形成する変形例も可能である。この凹凸部29は、上述した凹溝部28のピッチより密に形成するものとし、凹凸の深さhについては、凹溝部28ほど大きくする必要はない。
また、上述した凹溝部28や凹凸部29は、冷却ゾーン40で使用する搬送ローラ44に形成してもよく、この場合、炉内ローラ24Bと同様の直進性を得ることができる。
【0043】
また、ワークHEをボイラ伝熱エレメントHEとする場合、実際問題として幅方向のメタル温度分布の影響が少ないので、搬送方向において温度分布が均一となるように、チューブの軸方向(長手軸方向)にオシレートすることが望ましい。そうすることによって、ワークに生じるメタル温度分布の不均一化を抑制することができ、さらに面外変形も生じにくくすることができる。
【0044】
上述したように構成されている熱処理装置1では、以下に説明する熱処理方法が可能である。
すなわち、本実施形態に係る熱処理方法は、略平板形状のワークHEを回転する搬送ローラ11、炉内ローラ24及び搬送ローラ44の上に載置して搬送するローラライン10を設け、このローラライン10上に搬送方向上流側から加熱炉20及び冷却ゾーン40を配設し、加熱炉20内の高温雰囲気温度でワークHEを一定時間保持した後に冷却ゾーン40で急冷する加熱および冷却方法である。
【0045】
このような加熱および冷却方法において、本実施形態では、加熱炉20が内部にワーク搬送用の炉内ローラ24を備え、冷却ゾーン40が内部にワーク搬送用の搬送ローラ44を備えたローラハース連続炉とする。そして、加熱炉20内では、炉内温度と異なる温度の炉内ローラ24とワークHEとの接触長さが、ワークHEのローラ接触面側で均一となるように、ワークHEを搬送方向及び逆方向へオシレートしながら加熱もしくは冷却処理される。
【0046】
このような熱処理方法により、加熱炉20の内部ではワークHEを搬送方向及び逆方向へオシレートしながら加熱処理を施し、しかも、炉内温度と異なる温度である炉内ローラ24とワークHEとの接触長さがワークHEのローラ接触面側で均一となるようにするので、炉内温度と異なる温度である炉内ローラが加熱時に接触するワークの位置を分散し、ワークに生じるメタル温度分布の不均一化を抑制できる。
なお、炉内ローラ24とワークHEとの接触長さをワークHEのローラ接触面側で均一化するために、例えば炉内ローラが回転して移動する外周の周長LoやローラピッチLpまたは炉内ロールの回転角度を制御することや、オシレート速度を適切に制御する。
【0047】
上述した本実施形態の熱処理装置及び熱処理方法によれば、ワークHEの熱処理により生じる熱変形を最小限に抑え、ローラライン10上に設置した加熱炉20及び冷却ゾーン40で連続的に熱処理を行うことができる生産性の高い熱処理装置1を提供する。すなわち、本実施形態の熱処理装置及び熱処理方法は、ローラハース連続炉の採用によりバッチ式より生産性を向上させ、しかも、幅広のワークHEを熱処理する場合に生じる熱変形をも最小限に抑制することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。