(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の鉄骨柱と鉄骨梁からなる支持架構と、該支持架構の上部の鉄骨梁から吊り下げ支持されるボイラ本体とを接続し、前記支持架構と前記ボイラ本体の地震時の相対変位を利用して地震の振動エネルギを吸収するサイスミックタイにおいて、
該サイスミックタイは、弾性部材であるリンク材と、該リンク材に垂直方向に弾塑性部材であるピン材とからなり、前記リンク材と前記ピン材の両端部を互いにヒンジ結合した構造を有し、
前記ピン材は、該ピン材の軸方向の中央部に断面形状が円形の支圧部を有するとともに、該支圧部から前記ヒンジ結合の部位に向かって外径を漸次小とする略紡錘形状を有し、
前記ピン材の支圧部は、前記支持架構と前記ボイラ本体に連結されており、
前記略紡錘形状は、ウエブ部と該ウエブ部の外縁側に設置するフランジ部とで形成した構造である
ことを特徴とするサイスミックタイ。
請求項1乃至3のいずれかに記載したサイスミックタイを、複数の鉄骨柱と鉄骨梁とからなり且つ複数の層構造からなる支持架構と前記ボイラ本体とからなるボイラ耐震構造体において、前記ボイラ耐震構造体の重心位置に相当する層に、少なくとも設けたことを特徴とするボイラ耐震構造体。
請求項1乃至3のいずれかに記載したサイスミックタイを、複数の鉄骨柱と鉄骨梁とからなり且つ複数の層構造からなる支持架構とボイラ本体とからなるボイラ耐震構造体において、前記ボイラ本体が火炉と側壁部と後部壁部から構成される場合、前記火炉と後部壁部とを有する層には、前記火炉と前記支持架構との間に、前記後部壁部と前記支持架構との間の両方に設置したことを特徴とするボイラ耐震構造体。
【背景技術】
【0002】
主に火力発電プラントに用いられる大型ボイラは、通常、複数の柱と上下方向に複数配される主梁との組合せにより構成される支持架構の上部からそのボイラ本体が吊下げられた構造である。そこで、従来採用されており、且つ本発明の実施形態に係るサイスミックタイを適用可能とするボイラの耐震構造について、
図15〜
図20を参照しながら、以下説明する。
【0003】
ここで、
図15は、従来技術に関する、ボイラ本体4と、支持架構7の柱1及び主梁2と、サイスミックタイ6とを備えたボイラ耐震構造の側面図である。
図17は、ボイラ耐震構造における支持架構の複数層に形成されたサイスミックタイ6の配置を示す図であり、
図18は、従来技術に関するボイラ耐震構造に適用されるサイスミックタイ6の構造を示す見取図であり、
図19は、従来技術に関するサイスミックタイ6の紡錘型ピンの構造を示す図であり、
図20は、サイスミックタイによるエネルギー吸収の原理を説明する図である(本発明の原理説明図でもある)。
【0004】
ボイラ本体4は運転中に上下方向に熱伸びする。この熱伸びを拘束しないようにするため、ボイラ本体4は主梁2と柱1(鉄骨柱とも称する)から成る支持架構7により、吊りボルト3を介して吊下げ支持されている。
【0005】
ここで、主梁2とは、水平方向に配置する耐震用の梁2を意味する。主梁2(以下、梁または鉄骨梁とも称する)は、地面32からの高さ方向に配置される。下方から順に支持架構7の基礎部分から最下部の主梁2までを第1層、最下部の主梁2から次の主梁2までを第2層として、ボイラ本体4を吊下げる主梁2まで複数の層構造を成し、
図15の例では第7層まで形成されている。
【0006】
支持架構7における層構造の複数層に支持架構7とボイラ本体4とを接続してボイラ本体4と支持架構7の振動エネルギーを吸収するサイスミックタイ6が設けられている。
【0007】
図15において、サイスミックタイ6は、主梁2の裏側に隠れた状態で配置され、支持架構7とボイラ本体4に連結されている(
図17をも参照)。
【0008】
図15に示すボイラ耐震構造において、サイスミックタイ6は、第1層の上部、第2層の上部、第4層の上部、第5層の上部、第6層の上部に設置されている。
図15におけるサイスミックタイ6の配置を平面表示したものが
図17である。A−A〜G−G断面で計14個のサイスミックタイ6が配置されている。
【0009】
ボイラ本体4と支持架構7の間には、複数のサイスミックタイ6が設置されており、このサイスミックタイ6で地震荷重5による地震エネルギーを吸収してボイラ本体4と支持架構7を制振する。
【0010】
図18は、従来技術に関するボイラ耐震構造に適用されるサイスミックタイの構造を示す見取図である。
図18に示す紡錘型ピン6Bを有するサイスミックタイ6の構造例は、例えば特許文献1に開示されている。このサイスミックタイ6は支圧部6Cを介して、ボイラ4及び支持架構7に連結されている。サイスミックタイ6は、紡錘型ピン6B(柔な鋼材)と、リンク6A(剛な鋼材)をヒンジ結合して構成される。この特許文献1によると、ボイラ本体と支持鉄骨との間に掛け渡された振れ止め構造体は、平行な2本のリンクとこのリンクに結合されたピン材とから構成され、このピン材は、中央部から両端に向かって漸次、ピン径を小さくする紡錘型形状を構成することが開示されている(
図18と
図19を参照)。
【0011】
図19に、特許文献1に開示されたサイスミックタイ6の内で紡錘型ピン6Bと支圧部6Cの構造を示す。このピン6Bは、支圧部6Cから軸方向に断面が小さくなる、いわゆる紡錘型(ラグビーボール型)となっている。断面形状は、支圧部6Cにおける断面(C−C断面)、及びその他の部分の断面(D−D断面)が円形となっている。
【0012】
図20は、従来技術及び本発明に関するサイスミックタイによるエネルギー吸収の原理を説明する図であるが、
図19に示す紡錘型ピンの従来構造におけるサイスミックタイの反力Fiと変位δiの関係を
図20の実線で表す。この実線で囲まれる面積が、振動エネルギ吸収量に相当する。なお、
図20において座標の原点を通る実線は後述する第1勾配を説明するための線である。
【0013】
ボイラ構造物の場合、ボイラ本体と支持架構の相対変位がサイスミックタイに作用する変位δiとなり、この作用によってサイスミックタイに反力Fiが発生する。地震時に配管に損傷が生じないようにするため、実機におけるサイスミックタイの変位δiを最大値(
図16で、最大変位δi、max=15cm)以下に抑える必要がある。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態に係るサイスミックタイについて、図面を参照しながら以下説明する。本実施形態に係るサイスミックタイ6は、
図15と
図18に示すように、ボイラ本体4と支持架構(ボイラ建屋とも称する)7の間に複数設置されており、サイスミックタイ6で地震荷重5による地震エネルギーを吸収してボイラ本体4と支持架構7を制振するものである。
【0028】
ここで、本実施形態に係るサイスミックタイ6について、鉄骨柱1と鉄骨梁2からなるボイラ建屋7と、ボイラ建屋7に吊り下げられたボイラ本体4と、ボイラ本体4からタービン建屋30へ配設された主配管24と、を含めた全体構造からみて、地震時対応としてのサイスミックタイの必要性を敷衍して説明する。
図16は、従来技術に関する、火炉、側壁部、後部壁部及びペントハウス部からなるボイラ本体と、支持架構であるボイラ建屋と、タービン建屋と、ボイラ建屋とタービン建屋間に配設される主配管と、の全体構成を示す概略図である。なお、
図15〜
図18、
図20は、従来技術を説明するための構成を示す図ではあるが、本実施形態においても適用される基盤的な技術である。
【0029】
図16において、火力発電プラントに用いられる大型ボイラは、そのボイラ本体が通常、複数の鉄骨柱1と鉄骨梁2との組合せにより構成される鉄骨構造であるボイラ建屋7(支持架構体7とも称する)の最上部の鉄骨梁から吊下げられている。
【0030】
ボイラ本体は周囲を伝熱壁(周壁とも称する)で囲まれた筐体構造を成しており、前記伝熱壁に設けたバーナ等により化石燃料等の燃料と共に燃焼用空気を供給して燃焼させる火炉と、該火炉の上部に連通して水平方向に設けられ、燃焼により生じた燃焼排ガスが流れる流路(側壁部21とも称する)と、該流路に連通して設けられ燃焼排ガスが下降流となり流れる流路(後部壁部22とも称する)と、からなる。
【0031】
火炉20の上部には吊下げ型の過熱器や再熱器が燃焼排ガス流路内に設けられており、火炉20からの例えば約1400℃から1500℃の高温の燃焼排ガスと過熱器、再熱器および周壁の内部を流通する水蒸気または水との間で熱交換を行う。側壁部21においても燃焼排ガスは周壁の内部を流通する水蒸気または水との間で熱交換を行い、例えば約1000℃から1100℃の燃焼排ガスとなり後部壁部22に流入する。
【0032】
後部壁部22においては横置き型の過熱器、再熱器、節炭器が同じく燃焼排ガス流路内に設けられており、側壁部21からの燃焼排ガスは過熱器、再熱器、節炭器および周壁の内部を流通する水蒸気または水との間で熱交換を行い、例えば約300℃から400℃の燃焼排ガスとなる。
【0033】
ボイラ本体4(
図15参照)の最上部には、天井壁およびシール構造により火炉20、側壁部21および後部壁部22の内部とは断熱遮断されたペントハウス部23があり、過熱器や再熱器の管寄せが設けられている。過熱器や再熱器で高温となった蒸気はペントハウス部23内の管寄せを経由して管寄せに連通して設けられた主蒸気管や再熱蒸気管(これらをまとめて主配管24と称する)を介して、ボイラ建屋7とは別に独立して設けられたタービン建屋30側に伸延される。
【0034】
また、後部壁部22の下部または後方からボイラ建屋7の外部に連通して排ガスダクトが設けられている。排ガスダクトの経路内には脱硝装置、除塵装置および脱硫装置などの環境装置や熱交換器が設けられており、後部壁部22からの燃焼排ガスは脱硫装置出口で約50℃となった後、最終的に煙突から大気へ放出される。
【0035】
この他、
図16には図示していないが、ボイラ本体4からボイラ建屋7を経てタービン建屋30近傍に連通しているものとしてはボイラ本体4への給水を供給する主給水管などがある。主蒸気管や再熱蒸気管はボイラ本体からボイラ建屋7を経由してタービン建屋30に至る経路において、ボイラ建屋7内、タービン建屋30内および両者間の鉄骨構造物に設けられたスプリングハンガなどの支持サポートに吊下げられており、各構造物における配管の熱伸びに対応できるようにしている。また、排ガスダクトはボイラ建屋7からの出口部などにエクスパンション構造が設けられており、ボイラ本体の熱伸びに対応できるようにしている。
【0036】
これらの配管やダクトは少なくともボイラ本体4(
図15参照)の熱伸びには対応可能に設計されているが、振幅の大きな地震時の対応には限界がある。特に、ボイラ本体4とボイラ建屋7間においては、地震時のボイラ本体4とボイラ建屋7との干渉を防止するためボイラ本体4とボイラ建屋7との相対変位量には制限があり、仮に制限を越えた変位が生じた場合には主配管24等の破損が生じるため、地震後の復旧に多大の時間を要することになる。このためボイラ本体4とボイラ建屋7間には弾性変形に加えて塑性変形により振動エネルギを吸収するサイスミックタイ6を用いて対応する。
【0037】
図15に、ボイラ耐震構造体を説明するための側面図を示す。
図15において鉄骨梁2と鉄骨柱1から成る支持架構であるボイラ建屋7内に、ボイラ本体4が吊下げられている。ここでは鉄骨柱1と鉄骨梁2との内でボイラ耐震構造体の重要構成部品については特に主鉄骨柱1と主鉄骨梁2と称することとする。ボイラ本体4は吊りボルト3を介して最上部の主鉄骨梁2aに吊下げ支持されており、運転中に吊下げ支持部を起点として上下方向を下向きに非拘束で熱伸びする。また、図示していないが、吊下げ支持部の任意の位置を水平方向に移動する基準点として設定し、水平移動を可能とするようにスライドやエキスパンション代を設けている。
【0038】
ここで、主鉄骨梁2は、ボイラ建屋において水平方向に配置されておりボイラ耐震構造体の重要構成部品を成しており、地面(基礎部とも称する)32からの高さ方向に複数が水平方向に配置されている。ボイラ耐震構造体は、下から順に基礎部から最下部の主鉄骨梁2までを第1層、最下部の主鉄骨梁2から次の主鉄骨梁2までを第2層と称しており、ボイラ本体4を吊下げる主鉄骨梁2まで複数の層構造を成している。
図15の例では第1層から第7層までからなるボイラ耐震構造体が形成されている。
【0039】
複数の層構造からなるボイラ耐震構造体であるボイラ建屋7では複数層において主鉄骨柱1または主鉄骨梁2のいずれかとボイラ本体4とを接続してボイラ本体4の地震時の振動エネルギを吸収する構造体であるサイスミックタイ6が設けられている。なお、サイスミックタイ6の一方は、通常は主鉄骨柱1に接続されているが、剛性が高ければ主鉄骨梁2に接続することも可能である。また、サイスミックタイ6の他方は、通常、ボイラ本体4の火炉を取り囲むようにバックステと称する周壁を拘束する構造体が設けてあり(
図18参照)、バックステを介して接続される。
【0040】
図15において、サイスミックタイ6は、一方が主鉄骨梁2と同じ高さ位置で主鉄骨柱1に接続され、他方が図示していないバックステに接続されており、バックステを介してボイラ本体4に連結されている。このように、サイスミックタイ6の主鉄骨柱1への接続位置を主鉄骨梁2と同じレベルにしたのは、両者が設けられていることによりボイラ建屋側の剛性が最も高い部分となることによる。
【0041】
また、
図15において、サイスミックタイ6は、第1層の上部、第2層の上部、第4層の上部、第5層の上部、第6層の上部に設置されている。
図15におけるサイスミックタイ6の配置を平面表示したものが
図17である。
図15と
図17に示すB−B断面〜G−G断面に全14個のサイスミックタイ6が配置されている。火炉側に10個、後部壁部側に4個である。また、各サイスミックタイ6の鉄骨柱1への取り付け角度は例えば30度〜45度としており(
図17に示す長尺形状のサイスミックタイ6が鉄骨柱1に当接する角度)、ボイラ本体の平面上のあらゆる変位方向に対応できるようにしている。なおまた、ボイラ本体の熱伸び(上下移動)に対しても対応できる構造になっている。このように、サイスミックタイ6により地震荷重5による地震エネルギを吸収してボイラ本体4とボイラ建屋7とのボイラ構造物を制振する。
【0042】
図18にはサイスミックタイ6の従来例を示しており、これによると、サイスミックタイ6は、鋼板などの剛な鋼材2枚を1組として長さ方向の端部を溶接して1枚の板状にしたもの(リンク材6Aと称する)をボイラの高さ方向に上下1組ずつ平行に配置したものと、リンク材6Aの上下の両端部にそれぞれ垂直方向に鋼材2枚の間に差し込んで配置した紡錘型の柔な2本の鋼材(ピン材6Bと称する)と、から構成され、ピン材6Bの両端部とリンク材6Aの両端部を小径の丸鋼(ピン)によりヒンジ接続している。
【0043】
また、2本のピン材6Bの中央部に設けた支圧部6Cにそれぞれ接続部材を設け、一方を支圧部6Cを介して、支持架構7の鉄骨柱1に連結し、他方をバックステに連結している。すなわち、サイスミックタイ6は、ピン6B(柔な鋼材)と、リンク6A(剛な鋼材)をピンによりヒンジ結合して構成されている(上述した特許文献1を参照)。
【0044】
図19に、
図18で説明した従来構造のサイスミックタイに使用されているピン材6Bを示す。このピン材6Bは、ピン材の軸方向の中央部に設けた支圧部6Cから軸方向に離間するに従い断面が小さくなる、いわゆる紡錘型(ラグビーボール型)となっており、断面形状は、支圧部6Cにおける断面(C−C断面)、及びその他の部分の断面(D−D断面)とは同心円形となっている。
【0045】
この従来構造におけるサイスミックタイの反力Fiと変位δiの関係を、
図20中の実線で示す。この実線で囲まれる菱形の面積が、地震時の振動エネルギ吸収量に相当する。
【0046】
次に、本発明の実施形態におけるボイラ耐震構造物の場合について説明する。ボイラ本体4とボイラ建屋7との相対変位がサイスミックタイに作用する変位δiとなり、この変位によってサイスミックタイに反力Fiが発生する。地震時に
図16で示した主配管24等に損傷が生じないようにするため、実機におけるサイスミックタイの変位δiを最大値(最大変位とも称する)以下に抑える必要がある。すなわち最大変位は主配管24等が損傷しない範囲で変位する最大の相対変位となり、ボイラ本体4とボイラ建屋7とが地震時の振動により相対変位したときに、ボイラ本体4と同じ変位をする主配管24がボイラ建屋7側でのスプリングハンガー等による変位吸収量を超えてボイラ建屋7に干渉する相対変位以下になるように考慮して任意に設定する。
【0047】
ここでは、最大変位δi,maxを15cmと仮定して、サイスミックタイによる地震時の振動エネルギ吸収の原理について、
図20を用いて以下に説明する。
図20の実線は、地震時のサイスミックタイが変位に対して作用する反力の状態を示したものである。変位開始前は原点にあり、右側の変位に応じて右上がりに増加する。この勾配を第1勾配と称し、弾性変形により反力が増加する。変位が進むと弾性変形から塑性変形へとなり、ここからの勾配を第2勾配と称する。この第2勾配は変位が最大変位(15cm)に達するまで続く。
【0048】
次に、変位が右から左に方向を変えると反力の方向が逆になり、弾性変形により前記最大変位から連続して第1勾配と平行に逆進し、原点まで戻らない位置で塑性変形となり、左側の変位に対して第2勾配と平行に最大変位(−15cm)に達するまで進む。さらに変位が左から右に方向を変えると反力の方向がまた逆、すなわち最初の方向と同じになり、弾性変形により第1勾配と平行に塑性変形に変わるまで進み、塑性変形後は第2勾配で最大変位(15cm)まで進むことになる。
【0049】
図20において、実線で示す従来構造における最大変位(δi,max=15cm)、最大反力Fi,maxを超えない条件下で、地震時の振動エネルギ(以下、単に振動エネルギとも称する)吸収量を最大にするのが、
図20の点線(
図20で、目標と記載)で示す矩形の面積(以下、振動吸収エネルギ面積とも称する)である。
【0050】
この矩形面積に極力近づけるように、実線で示す従来構造による振動吸収エネルギ面積を広げるような構造が望まれる。従来構造から振動エネルギの吸収性能を増加するには、
図20に示すサイスミックタイの第1勾配(サイスミックタイが弾性時の勾配)を増加させ、第2勾配(サイスミックタイが塑性時の勾配)を低減する必要がある。
【0051】
上述した第1勾配の増加には、従来構造よりも断面2次モーメントを増加する必要があり、第2勾配の低減には、塑性応力面積部分を広げてかつその応力分布を平準化する必要がある。
【0052】
上述の施策として、断面2次モーメントを増加するように従来構造におけるサイスミックタイの直径を大きくすると、断面積も増加してしまい塑性応力面積が低減するため、振動エネルギの吸収増加につながらない。この逆に、塑性応力面積部分を広げるため、サイスミックタイの直径を小さくすると、断面2次モーメントが減少するため、振動エネルギの吸収増加につながらない。
【0053】
このように、断面2次モーメントを増加することと塑性応力面積部分を広げることには相反関係にあるため、両者を両立させる構造を見出すことには非常に困難な課題が伴うものであった。本発明の実施形態ではこのような課題を解決するために、上述した両立する構造を提供するものであり、以下に説明する。
【0054】
本実施形態に係るサイスミックタイ6は、支圧部6C(
図18を参照)を介して、ボイラ本体4及び支持架構7に連結されていて、地震時の支持架構7とボイラ本体4の相対変位を利用して振動エネルギを吸収する鋼製のものである。サイスミックタイ6の具体的構造としては、相対変位の発生する方向に対して水平方向に2本の弾性部材であるリンク6Aを設け、かつ相対変位の発生する方向に対して垂直方向に2本の弾塑性部材であるピン6Bを設け、リンク6Aとピン6Bの端部をヒンジ結合した構造である。
【0055】
本発明の特徴は、概して云えば、サイスミックタイ6におけるピン材16が、以下に説明する
図1〜
図7に示す具体的構造を備えていることにある。
【0056】
ここで、本実施形態に関するピン材16はその軸方向の中央部に設けたピン支圧部16Cの断面形状が円形である。この理由は、ボイラ本体4の熱膨張時に、ボイラ本体4と支持架構7に対してサイスミックタイ6を回転自由にして連結するためである。そして、ピン材16のピン支圧部16Cの直径が、
図19に示す紡錘型の支圧部6Cに比べて、サイスミックタイの取り付け上の制約から1.5倍程度を上限としている。
【0057】
さらに、
図1と
図2に示す本実施形態に関するピン材16は、
図19に示す紡錘型形状ピン6Bに対して、
図1、
図5、
図7に示すように、その軸方向にその軸を対称中心線としてその両側面を部分的に切断加工して(刳り貫いて)、ウエブ部16Wを形成し且つそのウエブ部16の両端部にフランジ部16Fを残存形成した構造である。
図1に示すFiは、サイスミックタイ6の反力が作用する軸を示す。
【0058】
ここで、
図18に示すボイラ本体4と支持架構7に取り付けられたサイスミックタイ6のピン支圧部16Cへの反力の方向が、
図5に示すピン紡錘形状切断加工部16Bの反力Fiの作用する軸となるように、すなわち、切断加工部16Bの平板状加工面が反力Fiを挟んで対称形となるように、
図1と
図2に示す構造のピン16Bをリンク6Aに取り付けて設置する。
【0059】
図5に、サイスミックタイ6におけるピン材16の支圧部16Cの断面形(E−E断面)、紡錘部の断面形(F−F断面、G−G断面、H−H断面)を示す。
図5においても、サイスミックタイの反力Fiが作用する軸1001を示す。
図5に示すように、ピン支圧部6C及びピン紡錘形状切断加工部16Bの断面形(E−E断面、F−F断面、G−G断面、H−H断面)は、サイスミックタイ反力Fiが作用する軸に対して、
図5の図示例で上下対称である。
【0060】
図2と
図5と
図7において、本実施形態の構成例として、ピン材16のウエブ部16Wの断面形状の板厚twはピン紡錘形状切断加工部16Bの軸方向において一定の厚さであり、フランジ部16Fのピン軸垂直方向の寸法tFもピン軸方向において一定の長さとなっている。
【0061】
また、本実施形態に関するピン紡錘形状切断加工部16Bの特徴は、
図7に示すように、ピン紡錘形状切断加工部16Bの断面形状が一定の厚さtwをもつウエブ部16W(板状体であり、さらにピン支圧部16Cから遠ざかるにしたがって幅方向寸法(
図7の図示例で左右方向の寸法)が小さくなるもの)と、このウエブ部16Wの両端部に紡錘型ピンの残存したフランジ部16Fと、を有する形状を備え、且つウエブ部16Wの断面面積Awに対するフランジ部16Fの断面面積AFの比が1.3〜1.7である構造(断面面積比の技術的意義は
図5の説明で後述する)を呈することである。
【0062】
上述した紡錘型ピンの切断形状と断面面積比を有するピン16Bの構造は、本発明者がパラメータサーベイを実施して得た最適な断面形状である。
【0063】
図7に、本実施形態に関するピン紡錘形状切断加工部16Bの断面形状のパラメータを示す。このパラメータとは、下式に示す断面フランジ部16Fの面積AF、断面ウエブ部16Wの面積Awである。
【0064】
AF=1/2×r
2×θ−r
2×cos(θ/2)×sin(θ/2)…(1)
Aw=tw×H…(2)
図7(1)のフランジ部の面積AFの近傍部分を抜き出したものを、
図7(2)に示す。
図7(2)を用い、式(1)に示すフランジ部の面積AFについて以下に説明する。
【0065】
式(1)中において、1/2×r
2×θは扇型の面積Azであり、r
2×cos(θ/2)×sin(θ/2)は三角形面積ATである。この扇型の面積Azから三角形の面積ATを引いたものが、フランジ部の面積AFとなる。
ここに、半径r、ウエブ部高さH、角度θは、直径D、フランジ部厚tFを用いて
r=D/2…(3)
H=r−tF…(4)
θ=2×cos
−1(H/r)…(5)
ここで、ウエブ部面積Awに対するフランジ部面積AFの比(AF/Aw)をパラメータとして、
図19に示す従来構造に対する本実施形態の振動エネルギ吸収量の増加に役立つAF/Awをパラメータサーベイした結果を
図8に示す。
図8に示すように、従来構造に対する振動エネルギ吸収量が急激に増加する領域は、AF/Awが1.3〜1.7の領域である。
【0066】
以上のように、エネルギー吸収量を増加するピン材構造は、
図2と
図7に示すように、紡錘型ピンのピン軸方向両側面の切断断面形状のウエブ部16Wの断面面積Awに対するフランジ部16Fの断面面積AFの比が1.3〜1.7であることがわかる。
【0067】
次に、本発明の実施形態に係るサイスミックタイにおけるピン材の他の構造について、
図3、
図4、
図6を参照して以下説明する。本実施形態に係るサイスミックタイ及びこれを用いたボイラ耐震構造体は下記の特徴を有する。
(1)ボイラの熱膨張時に、サイスミックタイを回転自由とするため、ピン材の軸方向の中央点に設けた支圧部の断面形状が円形である。
(2)サイスミックタイの取付上の幾何制約から、ピン材の支圧部の直径が、従来構造の1.5倍以下である。
(3)ピン材の支圧部以外の断面形状がI型形状であり、I型形状ウエブ部の面積に対してフランジ部の面積の比が、1.3〜1.7である。
【0068】
上記(1)〜(3)の特徴を有する断面形は、発明者らがパラメータサーベイ(パラメータを変えての数値解析の繰り返し)を実施して得た最適な断面形状である。
【0069】
図7にピン材の断面形のパラメータを示す。このパラメータとは、下式に示す断面フランジ部の面積AF、ウエブ部の面積Awである。
AF=1/2×r
2×θ−r
2×cos(θ/2)×sin(θ/2)…(6)
Aw=tw×H…(7)
ここに、半径r、ウエブ部高さH、角度θは、直径D、フランジ部厚tFを用いて
r=D/2…(8)
H=r−tF…(9)
θ=2×cos
−1(H/r)…(10)
ここで、ウエブ部面積Awに対するフランジ部面積AFの比(AF/Aw)をパラメータとして、
図19に示す従来構造に対する本実施形態の振動エネルギ吸収量の増加に役立つAF/Awをパラメータサーベイした結果を
図8に示す。
【0070】
図8に示すように、従来における振動エネルギ吸収量が増加する領域は、AF/Awが1.3〜1.7の領域であることがわかる。以上のように、振動エネルギ吸収を増加するピン構造は、I型形状ウエブ部の面積に対するフランジ部の面積の比が1.3〜1.7であることがわかる。
【0071】
上述のサーベイで得られた最適な構造であるピン構造を
図3に示す。
図3は本実施形態に係るサイスミックタイにおけるピン材の他の構造を示す図であり、
図3(1)はピン構造の側面図、
図3(2)平面図である。また、
図3(1)のE−E切断線、F−F切断線、I−I切断線、J−J切断線のそれぞれの断面形状を、各々、
図6(1)〜
図6(4)に示す。
【0072】
図3、
図6に示すように、本実施形態に関するピン材の構造は、ウエブ板2001、フランジ板2002、これらの板を固定するための板2003、支圧部構成部品2004を紡錘型に組み立て、溶接して成る構造である。
【0073】
ウエブ板2001、フランジ板2002、固定板2003、支圧部構成部品2004を、各々、
図4(1)
図4(6)に示す。
図4(1)はウエブ板2001の平面図、
図4(2)はフランジ板2002の平面図、
図4(3)はフランジ板2002の側面図、
図4(4)は固定板2003の断面図、
図4(5)は固定板2003の側面図、
図4(6)は支圧部構成部品の平面図を示す。
【0074】
図6(1)に支圧部16Cの断面形(E−E断面)を示し、
図6(2)に紡錘部の断面形(F−F断面)を示す。
図6(3)及び
図6(4)はピン弾性部分の断面形を示す。
図6(1)及び
図6(2)に示すように、支圧部16C及びピン16Bの断面形(E−E断面、F−F断面)は、サイスミックタイ反力Fiが作用する軸に対して、左右対称であることが分かる。
【0075】
図3(1)、
図6(1)及び
図6(2)に示す支圧部16Cとピン16Bに記載のサイスミックタイ反力Fiが作用する軸と、
図18に示す反力Fiの方向が一致するように、支圧部16Cとピン16Bが
図18に示すサイスミックタイ6に設置される。
【0076】
次に、本発明の実施形態に係るサイスミックタイの振動エネルギ吸収量について、
図9〜
図13を参照しながら、有限要素解析で評価した結果を以下に説明する。
図9は本実施形態に係るサイスミックタイの有限要素解析モデルの1/4分割モデルを示す図であり、
図10は本実施形態に係るサイスミックタイの有限要素解析モデルの1/4分割モデルの境界条件を表す図である。
【0077】
図9に示すように、ピン6B、16Bの有限要素解析モデル(FEMモデル)は、ピン6B、16Bの形状の対称性を考慮し、それらのピン材を1/4に分割したモデルである。また、
図10にはこれらのモデルの境界条件を示し、
図10における完全固定点を反力の検出点とし、変位の入力点に
図10に示す繰り返し変位を与えて有限要素解析を実施した。
【0078】
その実施の結果得られた荷重変位曲線を
図11に示す。
図11に示すように、従来構造による荷重変位曲線(実線)101で囲まれる振動エネルギ吸収面積に比べて、本実施形態によるサイスミックタイの荷重変位曲線(点線)102で囲まれる振動エネルギ吸収面積が大きくなっていることが分かる。この荷重変位曲線における最大反力点における応力分布(ミーゼス応力分布)を
図12と
図13に示している。
【0079】
図12に示す従来構造における応力分布に着目すると、ピン6Bの中心軸部に低応力部が現れ、ピン6Bの外縁側に高応力部が現れて、それらの応力の差が大きい。これに対して、
図13に示す本実施形態による応力分布に着目すると、ピン16Bの外縁側に高応力部が現れるとともにピン16Bの中心軸部で中応力部が現れ、それらの応力の差が小さく、ピン16Bの応力分布が平準化していることが分かる。なお、
図12において、図示例で、ピン6Bの上と下の外縁部で応力が高く、その中心軸部で帯状に応力の低い部分が存在する。また、
図13において、図示例で、ピン16Bの外縁側から中心軸に向かって椀状に応力の高い部分が現れ、中心軸部で応力の中程度が現れている。このように、本実施形態によるピン16Bを有するサイスミックタイにおける応力差が小さいこと(応力分布の平準化)は、サイスミックタイの第2勾配(塑性時の勾配)の低減につながる(
図20の説明を参照)。
【0080】
本実施形態によるサイスミックタイをボイラ本体4に適用した場合の地震時の横方向荷重を
図14に示す。本実施形態に示す紡錘形状切断加工部(ウエブ部16Wとフランジ部16Fからなる構成)をもつピン16Bを採用したサイスミックタイが設置された支持架構7の地震時の横方向荷重(層せん断力)は、
図19に示す紡錘型ピン6Bを用いた従来構造よりも低減される。サイスミックタイによる振動エネルギ吸収量を増加すれば、支持架構7の地震時の横方向荷重が低減でき、ひいては支持架構の軽量化及び耐震性向上につながる。
【0081】
なお、サイスミックタイのボイラ本体と鉄骨柱との取り付け方向は、
図18ではリンク材を高さ方向に平行に設け、それとは垂直方向、すなわち、鉄骨柱の軸方向にピン材を設け、両者を両端でピンにより接続し、ピン材の支圧部をそれぞれボイラ本体に接続したバックステと鉄骨柱に接続した支持部材にピン材の軸周りに回転自在に取り付けた例を示しているが、ピン材の支圧部での剛性の確保のためバックステの補強と、ボイラ本体が鉄骨柱に対して熱伸びしたときのスライド構造等の変位吸収する構造とすれば、これを90度回転させた方向としたものでも構わない。
【0082】
図15に本実施形態に係るサイスミックタイを用いたボイラ耐震構造体の側面図を示す。
図15において点線で囲まれた部分8はボイラ本体4と支持架構7からなるボイラ耐震構造体の重心位置に相当する層を示す。この重心位置の相当層8に本実施形態に係るサイスミックタイ6を設けることにより耐震性を向上したボイラ構造体とすることができる。
【0083】
また、
図15と
図16において、ボイラ本体は火炉20と側壁部21と後部壁部22から成り立っているが、ボイラ本体が火炉20と後部壁部22とを有する層に対しては、本実施形態に係るサイスミックタイ6を、火炉20と支持架構7間に、及び、後部壁部22と支持架構7間の両方に設けることにより、耐震性を向上したボイラ構造体とすることができる。