特許第5843917号(P5843917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5843917
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】チェーン
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/02 20060101AFI20151217BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20151217BHJP
   C09D 5/10 20060101ALI20151217BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20151217BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20151217BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20151217BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
   F16G13/02 F
   C23C28/00 A
   C09D5/10
   C09D7/12
   C09D133/00
   C09D163/00
   C09D175/04
【請求項の数】9
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-91801(P2014-91801)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-209912(P2015-209912A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2015年7月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】有馬 愛子
(72)【発明者】
【氏名】福池 裕二
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−298056(JP,A)
【文献】 特開2002−053769(JP,A)
【文献】 特開2008−175241(JP,A)
【文献】 特開2013−023542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/02
C09D 5/10
C09D 7/12
C09D 133/00
C09D 163/00
C09D 175/04
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系材料からなり、一対の外プレートと一対の内プレートとを交互に連結してあり、水系防錆塗料を用いて形成された塗膜を有するチェーンにおいて、
表面に形成された亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜を有し、
前記水系防錆塗料は、亜鉛と、硫酸バリウムとを、該硫酸バリウムの前記亜鉛に対する質量比率が0.3以上7以下であるように含有し、
前記塗膜は、前記亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜上に、前記水系防錆塗料を塗装し、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化してなり、
前記亜鉛と前記硫酸バリウムとの合計質量の、該合計質量と、硬化したときの前記樹脂の固形分の質量との総質量に対する質量比率は、0.2以上0.7以下であり、
耐薬品性を有することを特徴とするチェーン。
【請求項2】
前記水系防錆塗料は、コロイダルシリカをさらに含み、
該コロイダルシリカの固形分の、前記亜鉛及び硫酸バリウムの合計質量に対する質量比率は、0.04以下であり、
前記亜鉛と前記硫酸バリウムと前記コロイダルシリカの固形分との合計質量の、該合計質量と、硬化したときの前記樹脂の固形分の質量との総質量に対する質量比率は、0.2以上0.7以下であることを特徴とする請求項1に記載のチェーン。
【請求項3】
鉄系材料からなり、一対の外プレートと一対の内プレートとを交互に連結してあり、水系防錆塗料を用いて形成された塗膜を有するチェーンにおいて、
表面に形成された亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜を有し、
前記水系防錆塗料は、亜鉛と、コロイダルシリカとを含有し、硫酸バリウムは含有せず、
前記塗膜は、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜上に、前記水系防錆塗料を塗装し、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化してなり、
前記コロイダルシリカの固形分の、前記亜鉛に対する質量比率は、0.02以下であり、
前記亜鉛と前記コロイダルシリカの固形分との合計質量の、該合計質量と、硬化したときの前記樹脂の固形分の質量との総質量に対する質量比率は、0.2以上0.7以下であり、
耐薬品性を有することを特徴とするチェーン。
【請求項4】
鉄系材料からなり、一対の外プレートと一対の内プレートとを交互に連結してあり、水系防錆塗料を用いて形成された塗膜を有するチェーンにおいて、
表面に形成された亜鉛−鉄合金被膜を有し、
前記水系防錆塗料は、第1顔料としての亜鉛と、硫酸バリウムを含む第2顔料とを含有し、
前記塗膜は、前記亜鉛−鉄合金被膜上に、前記水系防錆塗料を塗装し、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化してなり、
前記亜鉛と、前記第2顔料の固形分との合計質量の、該合計質量と、硬化したときの前記樹脂の固形分の質量との総質量に対する質量比率は、0.2以上0.42以下であり、
耐薬品性を有することを特徴とするチェーン。
【請求項5】
前記水系防錆塗料は、
分子中に、アルキル基、フェニル基、又は水素原子の一部若しくは全部をハロゲン原子で置換したハロアルキル基と、加水分解性ケイ素基とを有するシラン化合物と、
ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びアルキルエーテルホスフェート塩からなる群から選択される少なくとも1種である界面活性剤と
をさらに含むことを特徴とする請求項1からまでのいずれか1項に記載のチェーン。
【請求項6】
前記シラン化合物の前記亜鉛に対する質量比率は、0.005以上0.8以下であることを特徴とする請求項に記載のチェーン。
【請求項7】
前記界面活性剤の前記亜鉛に対する質量比率は、0.005以上0.8以下であることを特徴とする請求項又はに記載のチェーン。
【請求項8】
前記水系防錆塗料は、分子中にエポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、及びビニル基からなる群より選ばれる少なくとも1個の官能基と加水分解性ケイ素基とを有するシランカップリング剤をさらに含むことを特徴とする請求項からまでのいずれか1項に記載のチェーン。
【請求項9】
前記シランカップリング剤の前記亜鉛に対する質量比率は、0.005以上1以下であることを特徴とする請求項に記載のチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸、アルカリ、塩水等の腐食雰囲気下で使用され、表面に亜鉛を含む合金被膜が形成されており、該合金被膜上に、亜鉛及び樹脂を含む塗料を用いて塗膜が形成されたブシュチェーン、ローラチェーン等のチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩水等の腐食雰囲気下で使用されるチェーンを防食するために、チェーンの各部品の鉄系素地表面を、亜鉛等の鉄より卑である金属で被覆すること、又はニッケル等の鉄より貴である金属で被覆すること等が行われている。前者の亜鉛めっきとして、電気亜鉛めっき及び粉末衝撃亜鉛めっき等が挙げられ、後者のニッケルめっきとして、電気ニッケルめっき及び無電解ニッケルめっき等が挙げられる。
【0003】
また、亜鉛及びアルミニウムの犠牲防食作用(これらの金属が鉄よりもイオン化傾向が大きいため、鉄より先に溶出して鉄の腐食を抑制する作用)を利用し、チェーンの各部品の鉄系素地表面に、亜鉛及びアルミニウム等を金属顔料として含む水系防錆塗料を用いて塗膜を形成することも行われている。
【0004】
特許文献1には、鉄素地上に非水素雰囲気下で亜鉛被膜を形成し、該亜鉛被膜上に、アルミニウム粉末及びシリコーン樹脂を含有する水系防錆塗料を焼付け塗装して、白錆防止焼付け塗膜を形成した防食性チェーン用部品の発明が開示されている。
【0005】
特許文献2には、鉄素地上に、亜鉛−鉄合金からなるブラスト材を投射して亜鉛−鉄合金下地被膜を形成し、該亜鉛−鉄合金下地被膜に、亜鉛を主成分とする卑金属の粉末と、メルカプト基を含み、卑金属の粉末を被覆する有機化合物と、硝酸塩とを含有する水系防錆塗料を塗装して塗膜を形成してあるチェーンの発明が開示されている。
【0006】
そして、特許文献3には、チェーンのブシュの内周面に軸方向中央部が肉厚になるように、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる材料をインサート成形してあり、耐薬品性に優れ、薬剤を用いた洗浄を行う用途においても初期摩耗伸びを低減することができるとともに耐摩耗性を向上させることができるチェーンの発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3122037号公報
【特許文献2】特許第4869349号公報
【特許文献3】特開2010−1914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の場合、防食加工を施されたチェーン構成部品を組み立てる場合、内プレートにブシュが、外プレートに連結ピンが圧入嵌合される際に、締鋲部に塗膜剥離が生じやすく、その部分から早期に発錆しやすくなり、耐薬品性が悪くなるため、チェーンの組み立て後に補修を必要とすることがあった。
そして、特許文献2の水系防錆塗料は貯蔵安定性が良好であり、チェーンの防錆性も良好であるが、耐薬品性のさらなる向上が求められている。
また、特許文献3の場合、チェーンのブシュとピンとの間に樹脂材料が介在し、ブシュとピンとの摺動部の耐摩耗性及び耐薬品性は良好であるが、チェーンの内プレート及び外プレートの表面においては、耐薬品性が得られないという問題があった。
【0009】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、表面に鉄の反応を抑制する合金被膜が形成されており、該合金被膜上に形成する塗膜の付着性が良好であり、強度が強く、均一であるので、組み立て後の補修が不要であるとともに、耐薬品性が良好に維持されるチェーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意研究の結果、チェーンの鉄系素地の表面に亜鉛を含む合金被膜を形成し、該合金被膜上に、亜鉛と、硫酸バリウム及び/又はコロイダルシリカとを含有する水系防錆塗料を塗装して、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化してなる塗膜を形成することにより、チェーンが良好な耐薬品性、及び付着性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、第1発明に係るチェーンは、鉄系材料からなり、一対の外プレートと一対の内プレートとを交互に連結してあり、水系防錆塗料を用いて形成された塗膜を有するチェーンにおいて、表面に形成された亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜を有し、前記水系防錆塗料は、亜鉛と、硫酸バリウムとを、該硫酸バリウムの前記亜鉛に対する質量比率が0.3以上7以下であるように含有し、前記塗膜は、前記亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜上に、前記水系防錆塗料を塗装し、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化してなり、前記亜鉛と前記硫酸バリウムとの合計質量の、該合計質量と、硬化したときの前記樹脂の固形分の質量との総質量に対する質量比率は、0.2以上0.7以下であり、耐薬品性を有することを特徴とする。
【0013】
第2発明に係るチェーンは、第1発明において、前記水系防錆塗料は、コロイダルシリカをさらに含み、該コロイダルシリカの固形分の、前記亜鉛及び硫酸バリウムの合計質量に対する質量比率は、0.04以下であり、前記亜鉛と前記硫酸バリウムと前記コロイダルシリカの固形分との合計質量の、該合計質量と、硬化したときの前記樹脂の固形分の質量との総質量に対する質量比率は、0.2以上0.7以下であることを特徴とする。
【0015】
発明に係るチェーンは、鉄系材料からなり、一対の外プレートと一対の内プレートとを交互に連結してあり、水系防錆塗料を用いて形成された塗膜を有するチェーンにおいて、表面に形成された亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜を有し、前記水系防錆塗料は、亜鉛と、コロイダルシリカとを含有し、硫酸バリウムは含有せず、前記塗膜は、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜上に、前記水系防錆塗料を塗装し、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化してなり、前記コロイダルシリカの固形分の、前記亜鉛に対する質量比率は、0.02以下であり、前記亜鉛と前記コロイダルシリカの固形分との合計質量の、該合計質量と、硬化したときの前記樹脂の固形分の質量との総質量に対する質量比率は、0.2以上0.7以下であり、耐薬品性を有することを特徴とする。
【0017】
発明に係るチェーンは、鉄系材料からなり、一対の外プレートと一対の内プレートとを交互に連結してあり、水系防錆塗料を用いて形成された塗膜を有するチェーンにおいて、表面に形成された亜鉛−鉄合金被膜を有し、前記水系防錆塗料は、第1顔料としての亜鉛と、硫酸バリウムを含む第2顔料とを含有し、前記塗膜は、前記亜鉛−鉄合金被膜上に、前記水系防錆塗料を塗装し、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化してなり、前記亜鉛と、前記第2顔料の固形分との合計質量の、該合計質量と、硬化したときの前記樹脂の固形分の質量との総質量に対する質量比率は、0.2以上0.42以下であり、耐薬品性を有することを特徴とする。
【0018】
発明に係るチェーンは、第1発明から第発明までのいずれか1つの発明において、前記水系防錆塗料は、分子中に、アルキル基、フェニル基、又は水素原子の一部若しくは全部をハロゲン原子で置換したハロアルキル基と、加水分解性ケイ素基とを有するシラン化合物と、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びアルキルエーテルホスフェート塩からなる群から選択される少なくとも1種である界面活性剤とをさらに含むことを特徴とする。
【0019】
発明に係るチェーンは、第発明において、前記シラン化合物の前記亜鉛に対する質量比率は、0.005以上0.8以下であることを特徴とする。
【0020】
発明に係るチェーンは、第発明又は第発明において、前記界面活性剤の前記亜鉛に対する質量比率は、0.005以上0.8以下であることを特徴とする。
【0021】
発明に係るチェーンは、第発明から第発明までのいずれか1つの発明において、前記水系防錆塗料は、分子中にエポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、及びビニル基からなる群より選ばれる少なくとも1個の官能基と加水分解性ケイ素基とを有するシランカップリング剤をさらに含むことを特徴とする。
【0022】
発明に係るチェーンは、第発明において、前記シランカップリング剤の前記亜鉛に対する質量比率は、0.005以上1以下であることを特徴とする。
【0023】
本発明においては、チェーンの鉄系素地の表面に、鉄よりイオン化傾向が大きく、例えばアルカリ性水溶液の存在下で、鉄より先に酸化する亜鉛、アルミニウム、及びマグネシウムを含む合金被膜が形成されているので、鉄の酸化が良好に抑制される。そして、本発明においては、該合金被膜上に、亜鉛と、硫酸バリウム及び/又はコロイダルシリカとを含有する水系防錆塗料を塗装し、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化してなる塗膜が形成されている。塗膜が硫酸バリウムを含むことにより、塗膜強度及び付着性が良好になる。塗膜がコロイダルシリカを含むことにより、塩水存在下における防錆性も向上する。
従って、本発明に係るチェーンは、塗膜の合金皮膜に対する付着性が良好であり、塗膜の強度が強く、均一であるので、組み立て時及び使用時に塗膜粉の発生が抑制され、組み立て後の補修が不要であるとともに、耐薬品性が良好に維持される。
【0024】
水系防錆塗料がシラン化合物と界面活性剤とを含む場合、シラン化合物が界面活性剤により水と馴染んで加水分解されやすくなり、亜鉛が、加水分解により生じたシラノール基と結合して塗料中で良好に分散して安定化する。従って、塗料が焼き付け時に硬化しやすくなるとともに、チェーンにより均一に塗膜が形成され得る。
【発明の効果】
【0025】
本発明のチェーンによれば、チェーンの鉄系素地の表面に亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜が形成され、該亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜上に、亜鉛と、硫酸バリウム及び/又はコロイダルシリカとを含有する水系防錆塗料を塗装し、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化してなる塗膜が形成されているので、塗膜の付着性、強度、及び均一性が良好であり、良好な耐薬品性が長期的に維持される。
また、チェーンの鉄系素地の表面に亜鉛−鉄合金被膜を形成する場合、PWCを調整することで、チェーンは良好な耐薬品性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施例に係るチェーンを示す断面図である。
図2図1のチェーンの一部分の表面を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係るチェーンとして、鉄系材料からなり、離間配置される一対の内プレートと、該内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合されるブシュと、前記内プレートの外側に配置されて前後の内プレートに連結される一対の外プレートと、ブシュの内周面に遊嵌して外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合される連結ピンとで構成されるブシュチェーンが挙げられる。また、本発明は、前記連結ピン及びブシュの外周面にローラをさらに遊嵌させるローラチェーンに適用することができる。
【0028】
本発明のチェーンに用いられる内プレート及び外プレートの具体的な形状として、小判型プレート、ヒョウタン型プレート等が挙げられる。
【0029】
本発明のチェーンの上述の構成部品の表面には、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金被膜(Zn−Al−Mg合金被膜)が形成されている。Zn−Al−Mg合金被膜は、Zn−Al−Mg合金を含むブラスト材料を、メカニカルプレーティング用投射機器等を用いて前記表面に投射することにより(衝撃めっきにより)形成される。
合金の組成の範囲として、Al:1〜5質量%、Mg:5.5〜15質量%、Zn:残部が挙げられる。前記ブラスト材料の組成の一例として、Al:3質量%、Mg:6質量%、Zn及び不純物:91質量%の場合が挙げられる。
【0030】
本発明に係るチェーンは、Zn−Al−Mg合金被膜上に、水系防錆塗料を用いて形成された第1塗膜を有する。
水系防錆塗料は、第1顔料としての亜鉛を含有する。
亜鉛は粉末状であるのが好ましく、フレーク状であるのがより好ましい。フレーク状にすることにより、比表面積が大きくなり、金属粉末同士の接触が密になり、金属自体の能動的な防食性に加えて、フレーク形状に基づく保護バリア効果(受動的防食性)も得られ、塗膜に割れが発生するのを抑制することができる。
また、亜鉛は水溶性溶媒によりスラリー状にしてもよい。水溶性溶媒としては、プロピレングリコール、エチレングリコール等のグリコール系溶媒、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒等が挙げられる。
水系防錆塗料は、亜鉛以外に、アルミニウム粉末、又は亜鉛と、アルミニウム,マグネシウム,錫,コバルト,マンガン等とを含む粉末状の合金等を含むことができる。
【0031】
水系防錆塗料は、Zn−Al−Mg合金被膜に塗装し、焼き付けたときに、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化して第1塗膜が形成され得る成分を含有する。
【0032】
ウレタン樹脂が硬化して第1塗膜が形成される場合、水系防錆塗料は、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを含む。
ポリイソシアネート化合物としては、例えば特開2014−25062号公報に記載されているポリイソシアネート化合物が挙げられ、具体的にはヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート類;該脂肪族ポリイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物、アロファネートタイプ付加物、ウレトジオンタイプ付加物;イソホロンジイソシアネート、4,4´−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4−又は−2,6−ジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート類;該脂環族ジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,4−ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;該芳香族ジイソシアネートのビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物;水添MDI及び水添MDIの誘導体;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジメチロールプロピオン酸、ポリアルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のポリオールの水酸基にイソシアネート基が過剰量となる比率でポリイソシアネート化合物を反応させてなるウレタン化付加物;該ウレタン化付加物のビューレットタイプ付加物、イソシアヌレート環付加物等が挙げられる。
【0033】
ポリイソシアネート化合物として、上述のポリイソシアネート化合物のイソシアネート基にブロック剤を付加させてなるブロック化ポリイソシアネート化合物を用いてもよい。ブロック剤としては、例えば、フェノール系、ラクタム系、アルコール系、エーテル系、オキシム系、活性メチレン系、メルカプタン系、酸アミド系、イミド系、アミン系、イミダゾール系、ピラゾール系等のブロック剤が挙げられる。
【0034】
ポリオール化合物としては、例えば特開2014−19752号公報に記載されているエポキシ樹脂が挙げられ、具体的にはポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリオレフィンポリオール、フッ素ポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、二塩基酸と多価アルコールと縮合反応によって得られるポリエステルポリオール、及び例えば多価アルコールを用いたε−カプロラクトンの開環重合により得られるポリカプロラクトン類等が挙げられる。
【0035】
アクリルポリオールとしては、ヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和結合含有単量体の単独化合物又は混合物と、これと共重合可能な他のエチレン性不飽和結合含有単量体の単独化合物又は混合物との共重合体が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、多価ヒドロキシ化合物の単独化合物又はその混合物に、強塩基性触媒存在下、アルキレンオキサイドの単独化合物又は混合物を添加して得られるポリエーテルポリオール類;エチレンジアミン類等の多官能化合物にアルキレンオキサイドを反応させて得られるポリエーテルポリオール類;及びこれらポリエーテル類を媒体としてアクリルアミド等を重合して得られる、いわゆるポリマーポリオール類等が挙げられる。
【0036】
ポリオレフィンポリオールとしては、水酸基を2個以上有する、ポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、及び水素添加ポリイソプレン等が挙げられる。
フッ素ポリオールとしては、分子内にフッ素を含むポリオールであるフルオロオレフィン、シクロビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、及びモノカルボン酸ビニルエステル等の共重合体が挙げられる。
ポリカーボネートポリオールとしては、低分子カーボネート化合物と、多価アルコールとを縮重合して得られるものが挙げられる。
【0037】
上述のポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを含む水系防錆塗料をチェーンに塗装した後、焼き付けたときに、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と、ポリオール化合物の活性水素とが反応して硬化する。ブロック化ポリイソシアネート化合物を用いた場合は、ブロック剤が解離して、ブロック剤と結合していたイソシアネート基が、前記活性水素と反応する。
なお、水系防錆塗料にポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを配合するのではなく、水系防錆塗料に最初からウレタン樹脂を配合することにしてもよい。
【0038】
エポキシ樹脂が硬化して第1塗膜が形成される場合、水系防錆塗料は、エポキシ樹脂と、硬化剤とを含有する。
エポキシ樹脂としては、例えば特開2014−19752号公報に記載されているエポキシ樹脂が挙げられ、具体的にはノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリコールエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族不飽和化合物のエポキシ型樹脂、エポキシ型脂肪酸エステル、多価カルボン酸エステル型エポキシ樹脂、アミノグリシジル型エポキシ樹脂、β−メチルエピクロ型エポキシ樹脂、環状オキシラン型エポキシ樹脂、ハロゲン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0039】
硬化剤としては、例えば特許第5071602号公報に記載されている硬化剤が挙げられ、具体的にはアミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノ−ル系化合物等が挙げられる。
【0040】
アミン系化合物としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ−ル、BF3 アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。
アミド系化合物としては、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。
酸無水物系化合物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0041】
フェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂、ビフェニル変性ナフトール樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂等の多価フェノール化合物が挙げられる。
また、硬化剤として、上述のポリイソシアネート化合物、又はブロック化ポリイソシアネート化合物を用いてもよい。
【0042】
上述のエポキシ樹脂と硬化剤とを含む水系防錆塗料をチェーンに塗装した後、焼き付けることにより、エポキシ樹脂が硬化する。
【0043】
アクリル樹脂が硬化して第1塗膜が形成される場合、水系防錆塗料は、アクリル樹脂を含有する。
アクリル樹脂は、アクリル系単量体を主成分とする単量体を水系で乳化剤を用いて乳化重合させたものである。アクリル系単量体は、(メタ)アクリル基を有する単量体である。主成分として用いる単量体としては、活性水素基を含まない単量体が好ましい。他方、乳化重合の安定化のために、親水性基(水酸基、カルボキシル基、エーテル基等)を有する単量体を併用することが好ましい。
【0044】
アクリル系単量体としては、例えば特許第5397946号公報に記載されている下記の単量体が挙げられる。
(メタ)アクリル系単量体のうち(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸s−ペンチル、(メタ)アクリル酸1−エチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチルブチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸t−ペンチル、(メタ)アクリル酸3−メチルブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−メチルペンチル、(メタ)アクリル酸4−メチルペンチル、(メタ)アクリル酸2−エチルブチル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−ヘプチル、(メタ)アクリル酸3−ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸3,3,5−トリメチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸ドコシル、(メタ)アクリル酸テトラコシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチルが挙げられる。これらの中でも、アルキル基の炭素原子数が1〜24の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0045】
前記親水性基を有する単量体としては、以下の単量体を例示することができる。カルボキシル基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、2−アクリロイルオキシプロピオン酸等が挙げられる。
前記水酸基を有する単量体としては、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシイソプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル系単量体等が挙げられる。
前記エーテル基含有単量体としては、グリセリンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0046】
また、(メタ)アクリル系単量体とともに、重合性二重結合を有するその他の単量体を含んで重合することにしてもよい。このようなその他の単量体としては、エステル基含有ビニル単量体、スチレン誘導体、ビニルエーテル系単量体が挙げられる。
【0047】
亜鉛の質量の(後述する硫酸バリウム及び/又はコロイダルシリカを第2顔料としてさらに含む場合は亜鉛の質量に該第2顔料の固形分を加算した質量の)、顔料の合計質量と、硬化したときの前記樹脂の固形分との総質量に対する質量比率は、0.2以上0.7以下であるのが好ましい。この場合、耐薬品性及び付着性が良好である。前記質量比率の下限は0.25であるのがより好ましく、前記質量比率の上限は0.68であるのがより好ましく、0.65であるのがさらに好ましく、0.6であるのが特に好ましい。
【0048】
水系防錆塗料は、シラン化合物と、界面活性剤とを含むことができる。
シラン化合物は、分子中に、アルキル基、フェニル基、又は水素原子の一部若しくは全部をハロゲン原子で置換したハロアルキル基と、加水分解性ケイ素基とを有するのが好ましい。
加水分解性ケイ素基としては特に限定されないが、取扱い性の観点から、アルコキシシリル基が好ましく、反応性の観点から、メトキシシリル基、エトキシシリル基が特に好ましい。
このシラン化合物としては、例えばメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0049】
このシラン化合物は加水分解してシラノール基が生じやすく、シラノール基は亜鉛と結合するので、亜鉛が塗料中で良好に分散して安定化する。塗膜の形成時に、シラノール基は下層の塗膜とも結合するので、塗膜間の付着性も向上する。
この効果の発現、塗料の水中での分散性及び安定性、貯蔵安定性の観点から、シラン化合物の亜鉛(固形分:亜鉛が亜鉛ペーストに調製されている場合、該亜鉛ペースト中の亜鉛の含有量)に対する質量比率は、0.005以上0.8以下であるのが好ましい。前記質量比率の下限は、より好ましくは0.02、さらに好ましくは0.04、前記質量比率の上限は、より好ましくは0.6である。
このシラン化合物は、分子中にエポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、メルカプト基、及びビニル基からなる群より選ばれる少なくとも1個の官能基と加水分解性ケイ素基とを有する後述のシランカップリング剤と異なり、前記官能基を有さないので、塗料のゲル化が抑制される。
【0050】
水系防錆塗料は、界面活性剤を含むことができる。
界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びアルキルエーテルホスフェート塩からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
【0051】
ポリオキシエチレンアルキルアミンは下記式(1)の一般式で表される。
【0052】
【化1】
【0053】
但し、a=1,2,〜
b=1,2,〜
R=Cn 2n+1
n=1,2,〜
【0054】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは下記式(2)の一般式で表される。
RO−(CH2CH2 O)n −H ・・・(2)
n=1,2,〜
R=Cm 2m+1
m=1,2,〜
【0055】
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルは下記式(3)の一般式で表される。
【0056】
【化2】
【0057】
但し、n=1,2,〜
【0058】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは下記式(4)の一般式で表される。
【0059】
【化3】
【0060】
但し、a=1,2,〜
b=1,2,〜
c=1,2,〜
R=Cn 2n+1
n=1,2,〜
【0061】
ソルビタン脂肪酸エステルは下記式(5)の一般式で表される。
【0062】
【化4】
【0063】
但し、R=Cn 2n+1
n=1,2,〜
【0064】
界面活性剤を含有することにより、シラン化合物が水に馴染みやすくなり、シラン化合物の加水分解が促進され、生じたシラノール基が亜鉛と結合する。従って、亜鉛が水系防錆塗料中で良好に分散し、貯蔵安定性が向上する。亜鉛が塗料中で良好に分散して安定化しているので、塗料は焼き付け時に硬化しやすくなるとともに、ロスなく、成分及び厚みともに均一である塗膜が形成され得る。
界面活性剤の種類及び組み合わせを決定する際にHLBが考慮されるが、界面活性剤の種類及び組み合わせにより好適なHLBの範囲は異なるので、界面活性剤の種類及び組み合わせに対応したHLBを有する界面活性剤を選択する。
【0065】
塗料の水中での分散性及び安定性、貯蔵安定性の観点から、界面活性剤の亜鉛(固形分:亜鉛が亜鉛ペーストに調製されている場合は亜鉛ペースト中の亜鉛の含有量)に対する質量比率は、0.005以上0.8以下であるのが好ましい。前記質量比率の下限は、より好ましくは0.02、さらに好ましくは0.04、前記質量比率の上限は、より好ましくは0.6である。
【0066】
水系防錆塗料は、分子中にエポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、及びビニル基からなる群より選ばれる少なくとも1個の官能基と加水分解性ケイ素基とを有するシランカップリング剤を含むことができる。加水分解性ケイ素基としては特に限定されないが、取扱い性の観点から、アルコキシシリル基が好ましく、反応性の観点から、メトキシシリル基、エトキシシリル基が特に好ましい。
【0067】
シランカップリング剤としては、官能基としてエポキシ基を含む場合、例えば2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0068】
シランカップリング剤が加水分解することによりシラノール基が生じ、シラノール基は亜鉛と結合するので、亜鉛が塗料中で安定化すると考えられる。シラノール基は金属である被塗物とも結合し、また、前記官能基により塗料成分が架橋又は化学結合するので、塗膜の付着性が向上する。
塗料の水中での分散性及び安定性、貯蔵安定性、並びに塗膜の良好な付着性の発現観点から、シランカップリング剤の亜鉛に対する質量比率は、好ましくは0.005以上1以下である。前記質量比率の下限は、より好ましくは0.02、さらに好ましくは0.12、前記質量比率の上限は、より好ましくは0.8、さらに好ましくは0.6である。
【0069】
水系防錆塗料は、第2顔料として硫酸バリウムを含むことができる。硫酸バリウムとしては、沈降性硫酸バリウムが好ましい。
硫酸バリウムの亜鉛に対する質量比率(BaSO4 /Zn)は、7以下であるのが好ましい。この場合、塗膜強度及び付着性が良好であり、耐薬品性が良好であるとともに、隠蔽性が良好である。BaSO4 /Znの下限は、より好ましくは0.15、さらに好ましくは0.3、BaSO4 /Znの上限は、より好ましくは6である。硫酸バリウムを含有することにより、塩水存在下における防錆性も良好になる。
【0070】
水系防錆塗料は、硫酸バリウムに加えて、第2顔料としてコロイダルシリカを含むことができる。コロイダルシリカの固形分の、亜鉛及び硫酸バリウムの合計質量に対する質量比率[(コロイダルシリカの固形分)/(Zn+BaSO4 )]は、0.04以下であるのが好ましい。この場合、耐薬品性が良好であり、水系防錆塗料の貯蔵安定性が良好である。(コロイダルシリカの固形分)/(Zn+BaSO4 )の上限は、より好ましくは0.02である。コロイダルシリカを含有することにより、塩水存在下における防錆性も良好になる。
【0071】
水系防錆塗料が硫酸バリウムを含有せず、コロイダルシリカのみを含有する場合、コロイダルシリカの固形分の亜鉛に対する質量比率[(コロイダルシリカの固形分)/(Zn)]は0.02以下であるのが好ましい。この場合、耐薬品性が良好であり、水系防錆塗料の貯蔵安定性が良好である。前記質量比率の上限は、より好ましくは0.01である。
【0072】
水系防錆塗料は、水溶性溶媒、及び湿潤剤、湿潤分散剤,消泡剤,増粘剤,pH調整剤等の塗料用添加剤を配合し得る。水溶性溶媒としては、プロピレングリコール、エチレングリコール等のグリコール系溶媒、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒等が挙げられる。
塗料用添加剤としては、ポリカルボン酸系等の湿潤分散剤、有機ホスフェートエステル,ナトリウムビストリデシルスルホスクシネート等のジエステルスルホスクシネート等の湿潤剤、シリコーン系又はアクリル系の消泡剤、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、及びメチルエチルセルロースのエーテル類、これら物質の混合物の増粘剤が挙げられる。
【0073】
水系防錆塗料は、Zn−Al−Mg合金被膜に、浸漬ドレン(ディップドレン)及び浸漬回転(ディップスピン)等の浸漬処理、はけ塗り、噴霧等を行うことにより塗装される。
【0074】
本発明の塗料は、180℃以下で、30〜40分間、焼き付けるのが好ましい。この場合、チェーン構成部品に硬さ低下が生じず、チェーン強度及びチェーン寿命が低下するのが抑制される。
本発明の塗料は、Zn−Al−Mg合金被膜上に複数回塗装することにしてもよい。
【0075】
良好な耐食性の発現及びコストの観点から、塗着量が5mg/dm2 〜400mg/dm2 、塗膜の合計膜厚が1μm〜30μmとなるように塗装するのが好ましい。そして、被塗物に第2塗膜と第1塗膜とを形成させる場合、両塗膜の合計の膜厚が5〜30μm、塗着量が50mg/dm2 〜400mg/dm2 であるのが好ましい。
【0076】
本発明に係るチェーンは、表面に、亜鉛−鉄合金被膜(Zn−Fe合金被膜)が形成され、該亜鉛−鉄合金被膜上に、第1顔料としての亜鉛と、硫酸バリウムを含む第2顔料(第2顔料としてさらにコロイダルシリカを含んでもよい)とを含有する水系防錆塗料を塗装し、焼き付けたときに、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂が硬化して第1塗膜が形成されたものであってもよい。第1顔料及び第2顔料の固形分の合計質量の、該合計質量と、硬化した前記樹脂の固形分との総質量に対する質量比率は、0.2以上0.42以下である。この場合、耐薬品性及び付着性が良好である。前記質量比率の上限は、好ましくは0.4である。
【0077】
以上のように構成された前記水系防錆塗料は、貯蔵安定性が良好である。そして、鉄系素地の表面にZn−Al−Mg合金被膜又はZn−Fe合金被膜が形成され、Zn−Al−Mg合金被膜上又はZn−Fe合金被膜上に前記水系防錆塗料を用いて塗膜が形成された本発明のチェーンは、塗膜の付着性が良好であり、耐薬品性が良好に長期的に維持される。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の実施例及び比較例につき具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0079】
1.チェーンの耐薬品性の評価
[配合例1〜35]
下記表1〜表3の配合量(質量部で示す)に従って、亜鉛フレーク(「STANDART(登録商標) ZINC FLAKE AT」、エカルト株式会社製)、沈降性硫酸バリウム(「B−35」、堺化学工業株式会社製)、コロイダルシリカ(「PL−3−D」、扶桑化学工業株式会社製)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、n−ヘキシルトリメトキシシラン、湿潤分散剤、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物、水、プロピレングリコール、シリコーン系消泡剤(「BYK018」、ビッグケミー・ジャパン株式会社製)、湿潤剤を配合することにより、配合例1〜35の塗料を得た。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
表1〜表3中に、沈降性硫酸バリウム/亜鉛フレーク(以下、BaSO4 /Znと表す)、[(コロイダルシリカの固形分)]/[亜鉛フレーク+沈降性硫酸バリウム][%][表中では、コロイダルシリカ/(亜鉛+硫酸バリウム)と表す]、及びPWC(Pigment Weight Concentration)[%]を示す。
PWCは、形成された塗膜中での[亜鉛フレーク+(沈降性硫酸バリウム)及び/又は(コロイダルシリカの固形分)]と[亜鉛フレーク+(沈降性硫酸バリウム)及び/又は(コロイダルシリカの固形分)+(樹脂が硬化した場合の硬化物の質量(樹脂の固形分の質量))]との質量比率で表す。
【0084】
[実施例
図1は実施例に係るチェーン10を示す断面図であり、図2図1のチェーンの一部分の表面を示す拡大断面図である。
【0085】
チェーン10は、図1及び図2に示すように、左右一対に離間配置される内プレート11,11と、この内プレート11,11のブシュ圧入孔11a,11aに圧入嵌合されるブシュ12と、内プレート11,11の外側に配置され、前後の内プレート11,11に連結される左右一対の外プレート13,13と、ブシュ12の内周面に遊嵌され、外プレート13,13のピン圧入孔13a,13aに圧入嵌合される連結ピン14と、ブシュ12の外周面に遊嵌されるローラ15とからなる。
【0086】
内プレート11と、ブシュ12と、外プレート13と、連結ピン14と、ローラ15とは、それぞれ、表面上に、Zn−Al−Mg合金被膜17、前記水系防錆塗料を用いて形成された第1塗膜18、並びに前記水系防錆塗料を用いて形成された第2塗膜19を有する。図2においては、外プレート13の表面上に、Zn−Al−Mg合金被膜17、第1塗膜18、及び第2塗膜19が積層されている状態を示す。
【0087】
チェーン10の構成部品(内プレート11、ブシュ12、外プレート13、連結ピン14、及びローラ15)の表面に、Zn−Al−Mg合金からなるブラスト材(「ZR#50S」、DOWA IP クリエイション株式会社製)を投射することにより、Zn−Al−Mg合金被膜17は形成される。そして、該Zn−Al−Mg合金被膜17の表面に、前記表1の配合例の水系防錆塗料をディップスピン法により塗装し、180℃で40分間焼き付けて厚み5μmの第1塗膜18を形成した。さらに、第1塗膜18の表面に、配合例の水系防錆塗料をディップスピン法により塗装し、180℃で40分間焼き付けて厚み3μmの第2塗膜19を形成した。
【0088】
以上のようにして、実施例に係るチェーン10を得た。被膜及び塗膜の構成を下記の表4に示す。下記の表4において、「第1被膜」とは、Zn−Al−Mg合金被膜を表す。
【0089】
【表4】
【0090】
[実施例〜28]
実施例と同様にして、上記表4及び下記表5に示す構成の被膜及び塗膜を形成して、実施例〜実施例28のチェーンを作製した。
【0091】
【表5】
【0092】
[実施例29〜32]
チェーンの表面にZn−Fe合金からなるブラスト材を投射してZn−Fe合金被膜を形成し、該Zn−Fe合金被膜上に、上記表5に示す配合例の水系防錆塗料を2回塗装して、実施例29〜32のチェーンを作製した。表5において、「第2被膜」とは、Zn−Fe合金被膜を表す。
【0093】
[比較例1〜31]
チェーンの表面にZn−Fe合金被膜(第2被膜)を形成し、該第2被膜上に、下記表6及び表7に示す配合例の水系防錆塗料を2回塗装して、比較例1〜31のチェーンを作製した。
【0094】
【表6】
【0095】
【表7】
【0096】
[比較例32〜38]
チェーンの表面にZn−Al−Mg合金被膜(第1被膜)を形成し、該第1被膜上に、前記表7及び下記表8に示す配合例の水系防錆塗料を2回塗装して、比較例32〜38のチェーンを作製した。
【0097】
【表8】
【0098】
[比較例39]
比較例39のチェーンは、表面に合金被膜及び塗膜を有しない。
【0099】
[比較例40]
チェーンの表面にZn−Fe合金被膜(第2被膜)を形成しており、塗膜は有しない。
【0100】
[比較例41]
チェーンの表面にZn−Al−Mg合金被膜(第1被膜)を形成しており、塗膜は有しない。
[比較例42]
実施例2と同様にして、上記表4に示す構成の被膜及び塗膜を形成して、比較例42のチェーンを作製した。
【0101】
前記実施例及び比較例のチェーンにつき、隠蔽性、付着性、及び耐薬品性の評価を行った。評価方法は下記の通りである。
【0102】
[隠蔽性の評価]
目視で、下地被膜が透けて見えるか否かを評価した。評価は以下の通りである。
○…下地が透けていない。
△…下地が少し透けている。
×…下地が透けている。
【0103】
[耐薬品性試験]
前記実施例及び比較例のチェーンにつき、耐薬品性試験を行った。試験は、チェーンを各薬品に浸漬し、経時的に状態を確認した。下記の各時間において、赤錆発生又は塗膜の剥離が生じたか否かを確認した。評価及び経過時間は以下の通りである。
A…3000時間
B…2000時間
C…1000時間
D…700時間
E…300時間
F…100時間
【0104】
上述したように、実施例〜28のチェーンは下地被膜としてZn−Al−Mg合金被膜を形成してあり、比較例1〜31のチェーンは下地被膜としてZn−Fe合金被膜を形成してある。表4〜8より、下地被膜上に同一の水系防錆塗料を用いた塗膜が形成してある場合、実施例のチェーンは比較例のチェーンに対して、耐薬品性が著しく向上していることが分かる。
【0105】
比較例39〜41より、合金被膜及び塗膜を形成しない場合、第1被膜又は第2被膜を形成しても塗膜を形成しない場合においては、耐薬品性が非常に悪いことが分かる。
PWCが25%である実施例25は、耐薬品性が非常に良好である。PWCが70を超えた場合、付着性がやや悪くなることが確認されているので、PWCは20%以上70%以下であるのが好ましい。PWCの上限は68%であるのがより好ましく、65%であるのがさらに好ましく、60%であるのが特に好ましく、40%であるのが最も好ましい。
【0106】
水系防錆塗料が硫酸バリウムを含む場合、耐薬品性はより良好である。実施例18、19及び比較例25、26より、BaSO4 /Znが7.3である場合、すなわち7を超えた場合、隠蔽性が少し悪くなるので、BaSO4 /Znは7以下であるのが好ましい。BaSO4 /Znの下限は、より好ましくは0.15、さらに好ましくは0.3、BaSO4 /Znの上限は、より好ましくは6である。
【0107】
水系防錆塗料がコロイダルシリカのみを含む場合、コロイダルシリカの固形分の亜鉛に対する質量比率[(コロイダルシリカの固形分)/(Zn)]は2%以下であるのが好ましい。前記質量比率の上限は、より好ましくは1%である。
水系防錆塗料が硫酸バリウム及びコロイダルシリカを含む場合、コロイダルシリカの固形分の、亜鉛及び硫酸バリウムの合計質量に対する質量比率[(コロイダルシリカの固形分)/(Zn+BaSO4 )]は、4%以下であるのが好ましい。(コロイダルシリカの固形分)/(Zn+BaSO4 )の上限は、より好ましくは2%である。
【0108】
表面に、亜鉛−鉄合金被膜(Zn−Fe合金被膜)が形成されているチェーンの場合、PWCが20%以上42%以下であるとき、耐薬品性が良好であることが分かる。PWCの上限は、好ましくは40%である。
【0109】
以上より、本発明の実施の形態に係る水系防錆塗料は貯蔵安定性が良好であり、本発明の実施例に係るチェーンは、塗膜の付着性及び隠蔽性が良好であり、耐薬品性が良好であることが確認された。
【0110】
2.水系防錆塗料の水中での安定性の評価
以下、本発明のチェーンの塗膜に用いる水系防錆塗料について、シラン化合物、界面活性剤、及びシランカップリング剤の配合量を変えた場合の水中での安定性を評価した結果について示す。
【0111】
[配合例A〜G]
下記表9の配合量(質量部で示す)に従って、亜鉛フレーク(「STANDART(登録商標) ZINC FLAKE AT」、界面活性剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル、シラン化合物としてのn−ヘキシルトリメトキシシラン、湿潤分散剤、及び水を配合することにより、配合例A〜Gの塗料を得た。
【0112】
【表9】
【0113】
表9中に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(界面活性剤)/亜鉛[%]、n−ヘキシルトリメトキシシラン(シラン化合物)/亜鉛[%]、並びに水中での安定性及び貯蔵安定性を評価した結果を示す。
【0114】
水中での安定性は、塗料を調製し、室温で3日間放置したときのガスの発生の有無を確認した。評価は以下の通りである。
○:ガスの発生なし
△:極僅かにガスの発生あり
×:ガスの発生あり
【0115】
貯蔵安定性は、40℃で放置し、以下の評価を行った。
○:3日でゲル化
△:1日でゲル化
×:3時間でゲル化
−:評価せず
【0116】
[配合例H〜L]
下記表10の配合量(質量部で示す)に従って、亜鉛フレーク(「STANDART(登録商標) ZINC FLAKE AT」、界面活性剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル、シラン化合物としてのn−ヘキシルトリメトキシシラン、湿潤分散剤、3−グリシドキシプロピルトチメトキシシラン、酢酸、及び水を配合することにより、配合例H〜Lの塗料を得た。
【0117】
【表10】
【0118】
表10中に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(界面活性剤)/亜鉛[%]、n−ヘキシルトリメトキシシラン(シラン化合物)/亜鉛[%]、3−グリシドキシプロピルトチメトキシシラン(シランカップリング剤)/亜鉛[%]、並びに水中での安定性及び貯蔵安定性を評価した結果を示す。
【0119】
[配合例M、N、P、Q、R]
下記表11の配合量(質量部で示す)に従って、亜鉛フレーク(「STANDART(登録商標) ZINC FLAKE AT」、界面活性剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル、シラン化合物としてのn−ヘキシルトリメトキシシラン、湿潤分散剤、及び水を配合することにより、配合例M、N、P、Q、Rの塗料を得た。
【0120】
【表11】
【0121】
表11中に、表9と同様に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(界面活性剤)/亜鉛[%]、n−ヘキシルトリメトキシシラン(シラン化合物)/亜鉛[%]、並びに水中での安定性及び貯蔵安定性を評価した結果を示す。
【0122】
配合例M、N、P、Q、Rより、塗料中に界面活性剤及びシラン化合物を含まない場合、界面活性剤及びシラン化合物のうちの一方を亜鉛に対し10%含む場合、界面活性剤及びシラン化合物をそれぞれ亜鉛に対し0.4%ずつ含む場合、界面活性剤及びシラン化合物をそれぞれ亜鉛に対し100%ずつ含む場合のいずれにおいても、水中での安定性が悪いことが分かる。
【0123】
配合例A〜Gと配合例M、N、P、Q、Rとを比較することにより、界面活性剤の亜鉛に対する質量比率、及びシラン化合物の亜鉛に対する質量比率がそれぞれ0.5%以上80%以下である場合、水中での安定性及び貯蔵安定性が良好であることが分かる。界面活性剤の亜鉛に対する質量比率、及びシラン化合物の亜鉛に対する質量比率の下限は、好ましくは2%、より好ましくは4%、上限は、好ましくは60%である。
【0124】
配合例H〜Lより、塗料がシランカップリング剤をさらに含むことにより、水中での安定性がより良好になることが分かる。
配合例A〜Lと、配合例M、N、P、Q、Rとを比較することにより、シランカップリング剤の亜鉛に対する質量比率は、0.5%以上100%以下であるのが好ましいことが分かる。質量比率の下限は、より好ましくは2%、さらに好ましくは12%、前記質量比率の上限は、より好ましくは80%、さらに好ましくは60%である。
【0125】
以上のように、水系防錆塗料が、シラン化合物と、界面活性剤とを含む場合、又はこれに加えてシランカップリング剤を含む場合、水中での安定性及び貯蔵安定性が良好であることが確認された。そして、シラノール基と結合した亜鉛が塗料中で良好に分散するので、塗料をチェーンの表面に塗装して焼き付けるときに硬化しやすくなるとともに、被塗物に均一に塗膜が形成され得る。従って、チェーンが鉄系材料からなる場合に、亜鉛の犠牲防食作用が塗膜の面方向に均一に得られ、チェーンの耐薬品性がより良好になると考えられる。
【0126】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0127】
10 チェーン
11 内プレート
11a ブシュ圧入孔
12 ブシュ
13 外プレート
13a ピン圧入孔
14 連結ピン
15 ローラ
17 Zn−Al−Mg合金被膜
18 第1塗膜
19 第2塗膜
図1
図2