特許第5843975号(P5843975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5843975後発性白内障抑制用組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5843975
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】後発性白内障抑制用組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4402 20060101AFI20151217BHJP
   A61K 31/728 20060101ALI20151217BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 27/12 20060101ALI20151217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20151217BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20151217BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
   A61K31/4402
   A61K31/728
   A61K47/04
   A61P27/12
   A61P43/00 111
   A61K47/48
   A61K47/34
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-547077(P2014-547077)
(86)(22)【出願日】2012年1月9日
(65)【公表番号】特表2015-500334(P2015-500334A)
(43)【公表日】2015年1月5日
(86)【国際出願番号】KR2012000205
(87)【国際公開番号】WO2013089307
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2014年6月11日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0133103
(32)【優先日】2011年12月12日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514148258
【氏名又は名称】ビーエムアイ コリア カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】510058863
【氏名又は名称】ザ カトリック ユニバーシティ オブ コリア インダストリー−アカデミック コーオペレイション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】バイク,ヨンジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ,チョンキ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソンヒ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジュンソブ
(72)【発明者】
【氏名】ウ,ク
【審査官】 磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−505179(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第2008−0092631(KR,A)
【文献】 日本眼科学会雑誌, 2010, Vol.114, p.303
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4402
A61K 31/728
A61K 47/04
A61K 47/34
A61K 47/48
A61P 27/12
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコールで親水化させたスルファサラジン;
1.4〜2.0%(w/v)のヒアルロン酸;および
水溶液を含む担体を含み、
かつ、前記親水化させたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉を、33〜42℃で5〜24時間混合させて得ることを特徴とする、後発性白内障抑制用組成物。
【請求項2】
親水化させたスルファサラジンの濃度が0.1〜1.5mMであることを特徴とする、請求項1に記載の後発性白内障抑制用組成物。
【請求項3】
水溶液を含む担体、蒸留水、リン酸緩衝液、均衡塩容液、および生理食塩水からなる群より選択された1種以上の薬剤学的に許容される担体を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の後発性白内障抑制用組成物。
【請求項4】
塩酸、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムからなる群より選択された1つ以上の薬剤学的に許容される塩をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の後発性白内障抑制用組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の後発性白内障抑制用組成物を含むことを特徴とする、眼球投与用製剤。
【請求項6】
ポリエチレングリコールでスルファサラジンを親水化させる段階;
前記親水化さたスルファサラジンにヒアルロン酸粉を添加する段階;および
前記親水化さたスルファサラジンおよび濃度が1.4〜2.0%(w/v)となるように調節したヒアルロン酸粉を、33〜42℃で5〜24時間混合する段階を含むことを特徴とする、後発性白内障抑制用組成物の製造方法。
【請求項7】
親水化させスルファサラジンの濃度を0.1〜1.5mMに調節する段階を含むことを特徴とする、請求項に記載の後発性白内障抑制用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後発性白内障抑制用組成物およびその製造方法に関するものである。より詳細には、後発性白内障の発病率を低下させて後発性白内障による視力の喪失および2次的手術を防止できるだけでなく、より効果的な薬効および均質な製剤を提供できる後発性白内障抑制用組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全体白内障手術患者の約30%が後発性白内障(After−cataract、Posterior capsular opacity)、つまり、残っている水晶体上皮細胞が不規則な配列で水晶体後嚢(posterior capsule)に育って入り込んで水晶体が再び濁ってしまう疾患を経験していることが知られている。このような後発性白内障は、全年齢層で発生するが、特に、高齢患者層に比べて若い患者層で発病率が2倍以上高いことが報告されている。
【0003】
より具体的には、図1および図2に示しているように、白内障手術後、外部環境に露出すると、水晶体上皮細胞は継続的な増殖を行う。これにより、水晶体上皮細胞が相対的に空の空間である水晶体後嚢に移動し、継続的な細胞変形および増殖が起こりながら光の透過力および視力が低下するようになるが、このような後嚢に集まった水晶体上皮細胞が完全に変形しながら後発性白内障が発生するのである。
【0004】
まだ、後発性白内障の治療は、レーザ(Nd−Yg Laser)手術が唯一の方法と知られているが、このようなレーザ施術後には視野が狭くなる問題が現れている。これにより、後発性白内障を予防的に治療する方法がより効果的であるが、今のところは、後発性白内障を抑制する方法として、白内障手術時に用いられる人工水晶体支持部に物理的な変化を加えたり、水晶体嚢拡張リングを用いる方法などが提示されているだけである。
【0005】
韓国登録特許第0490286号には、スルファサラジンまたはその水溶性塩を活性成分として、緑内障による網膜の虚血、糖尿病性網膜症による網膜損傷、ブドウ膜炎による網膜神経の退化などを治療することができる網膜損傷治療用眼薬組成物に関して開示されている。
【0006】
また、韓国登録特許第0417623号には、スルファサラジンを有効成分として、パーキンソン病、ハンチントン病、またはアルツハイマー病などの脳神経疾患を予防および治療することができる薬学的組成物が開示されている。
【0007】
しかし、これらの方法によっても効果的に後発性白内障を予防および治療することができず、白内障水晶体上皮細胞の増殖および移動を抑制して後発性白内障を予防または治療する方法については全く知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、後発性白内障の発病率を低下させて後発性白内障による視力の喪失および2次的手術を効果的に防止できるだけでなく、より効果的な薬効および均質な製剤を提供できる後発性白内障抑制用組成物およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、親水性スルファサラジン;1.4〜2.0%(w/v)のヒアルロン酸;および水溶液を含む担体を含む、後発性白内障抑制用組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、スルファサラジンを親水化させる段階;前記親水化されたスルファサラジンにヒアルロン酸粉を添加する段階;および前記親水化されたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉を、33〜42℃で5〜24時間混合する段階を含む、後発性白内障抑制用組成物の製造方法を提供する。
【0011】
以下、発明の具体的な実施形態にかかる後発性白内障抑制用組成物およびその製造方法に関して詳細に説明する。
【0012】
発明の一実施形態によれば、親水性スルファサラジン;1.4〜2.0%(w/v)のヒアルロン酸;および水溶液を含む担体を含む、後発性白内障抑制用組成物が提供できる。
【0013】
本発明者らは、韓国登録特許第0894042号において、スルファサラジン−ヒアルロン酸混合物およびこれを含む後発性白内障抑制用組成物を用いると、後発性白内障の原因である水晶体上皮細胞の増殖および移動を抑制して水晶体後嚢の透明性を維持させることができ、後発性白内障の発生を抑制することができることを明らかにした。
【0014】
しかし、ヒアルロン酸は、難溶性化合物であって、水溶媒などに対する最大溶解度が2%(w/v)に過ぎないため、スルファサラジンが含まれている水溶液と、2%(w/v)のヒアルロン酸が含まれている水溶液とを同じ比率で混合するとしても、製造される組成物上に、ヒアルロン酸の濃度が眼科手術時に要請される濃度、例えば、1.4〜1.5%(w/v)に及ばないだけでなく、このような混合物の均質性も十分でなかった。
【0015】
そこで、本発明者らは、研究を引き続き進行させて、後述する特定の製造方法を適用すると、ヒアルロン酸を眼科手術時に要請される水準以上の含有量で含むことができるだけでなく、均質性が顕著に優れながらも、同等水準以上の後発性白内障抑制効果を有する後発性白内障抑制用組成物を製造することができることを、実験を通して確認し、発明を完成した。これにより、このような後発性白内障抑制用組成物は、後発性白内障の発病率を顕著に低下させて後発性白内障による視力の喪失および2次的手術を効果的に防止できるだけでなく、より効果的な薬効および均質な分散状態を有する製剤を提供することができる。
【0016】
また、後述する実験例AおよびCに示されているように、前記後発性白内障抑制用組成物は、水晶体上皮細胞の移動を効果的に抑制して後発性白内障の発病率を顕著に低下できる点が確認される。より具体的には、前記後発性白内障抑制用組成物を適用すると、NF−kBが主活性部位の細胞の核で発現するのを抑制できることが確認された。
【0017】
前記スルファサラジン(Sulfasalazine、2−Hydroxy−5−[[4−[(2−pyridinylamino)sulfonyl]azo]benzoic acidまたは6−oxo−3−(2−[4−(N−pyridin−2−ylsulfamoyl)phenyl]hydrazono)cyclohexa−1,4−dienecarboxylic acid]は、スルファピリジン(Sulfapyridine)と5−アミノサリチル酸(5−aminosalicylic acid、5−ASA)とがアゾ結合(azo bond)して形成された化合物であって、NF−kB(Nuclear factor kappa B)の活性を抑制することが知られている。これにより、このようなスルファサラジンを含む前記後発性白内障抑制用組成物は、水晶体上皮細胞が増殖および移動をする時に発現するNF−kBの活性を抑制して後発性白内障の発病を抑制することができる。
【0018】
前記スルファサラジンは、水溶液に対して難溶性であって、薬剤に使用されるためには、親水性スルファサラジンに可溶化しなければならない。このような親水性スルファサラジンは、スルファサラジンに塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどを添加して、酸付加塩またはアルカリ付加塩の形態で得られてよく、より好ましくは、スルファサラジンをペグ化(PEGylation)して得られてもよい。
【0019】
前記親水性スルファサラジンは、ペグ化されたスルファサラジンを含むことができる。前記ペグ化(PEGylation)されたスルファサラジンは、スルファサラジンをポリエチレングリコールを含む塩均衡溶液に添加して得られる。このような塩均衡溶液は、多様な分子量および濃度のポリエチレングリコールを含むことができるが、300〜500、好ましくは380〜420の重量平均分子量を有するポリエチレングリコールを1%、好ましくは5%(v/v)以上の濃度で含むことが好ましい。
【0020】
前記親水性スルファサラジンの濃度は0.1〜1.5mM、好ましくは0.2〜1.2mM、より好ましくは0.3〜1.0mMであってよい。前記濃度が0.1mM未満であれば、有効な薬効を実現しにくいことがあり、1.5mMを超えると、長時間の眼科手術時に水晶体上皮細胞に対する毒性が過度に高くなることがある。
【0021】
一方、前記ヒアルロン酸(hyaluronic acid)は、白内障手術時、水晶体嚢の形状を維持させ、人工水晶体の挿入時に潤滑剤の役割を果たし、組成物の透明度および粘度を増加させて、前記後発性白内障抑制用組成物を眼球に適用する時、安定的施術を可能にする。
【0022】
発明の一実施形態の後発性白内障抑制用組成物では、前記後発性白内障抑制用組成物において、ヒアルロン酸の含有量が1.4〜2.0%(w/v)、より好ましくは1.5〜1.8%(w/v)であってよい。従来は、1.0%(w/v)を超えてヒアルロン酸を含む組成物を製造しにくかった上に、ヒアルロン酸の含有量を高めたとしても、組成物の均質性が顕著に低下していた。しかし、後述する特定の製造方法によれば、ヒアルロン酸の含有量が1.4〜2.0%(w/v)でありながらも、優れた均質性を有する後発性白内障抑制用組成物が提供される。
【0023】
前記後発性白内障抑制用組成物において、ヒアルロン酸の含有量が1.4%(w/v)未満の場合、水晶体嚢の形状を維持させにくく、人工水晶体の挿入時に潤滑剤の役割が減少することがあり、スルファサラジンの薬効を有効性あるように伝達することができないだけでなく、前記組成物の粘度が低下してスルファサラジンが水晶体上皮細胞に接触可能な時間が短くなることがあり、これにより、眼球用製剤として適切な役割を果たしにくいことがあって好ましくない。
【0024】
一方、前記後発性白内障抑制用組成物では、1.0×10〜4.0×10g/モルの重量平均分子量を有するヒアルロン酸を使用することができる。
【0025】
前記後発性白内障抑制用組成物では、高性能液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて測定したスルファサラジン含有量の相対標準偏差が2以下であり得る。従来技術によれば、スルファサラジンおよびヒアルロン酸の混合物が含まれている組成物でヒアルロン酸の含有量を高めると、均質性が顕著に低下し、スルファサラジンの分散が非常に不均質になる現象(例えば、スルファサラジン含有量の相対標準偏差が非常に大きくなる現象)が観察されたが、後述する実験例Dに示されているように、発明の一実施形態の前記後発性白内障抑制用組成物では、スルファサラジンおよびヒアルロン酸が非常に均質に分散していることが確認される。これにより、前記後発性白内障抑制用組成物を眼科施術などに適用する場合、水晶体上皮細胞の全領域にわたってスルファサラジンが均質に接触可能なため、スルファサラジンが特定の部分に過濃度で接触して水晶体上皮細胞に毒性を示したり、低濃度で接触して有効な薬効が発現しない問題などを解決することができ、非常に安定した眼科施術用製剤を提供することができる。また、前記後発性白内障抑制用組成物を眼科施術などに適用する場合、スルファサラジンをヒアルロン酸と共に使用するため、手術時、2次的な薬物投与の面倒さおよび追加的な毒性に対する危険負担を最少化することができる。
【0026】
一方、前記水溶液を含む担体は、蒸留水、リン酸緩衝液(Phosphate Buffered Saline)、均衡塩容液(Balanced Salt Solution)、生理食塩水(Saline)、またはこれらの混合物などを含むことができる。
【0027】
前記後発性白内障抑制用組成物は、薬剤学的に許容される塩をさらに含むことができる。前記薬剤学的に許容される塩の具体例としては、塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、またはこれらの混合物がある。
【0028】
一方、発明の他の実施形態により、スルファサラジンを親水化させる段階;前記親水化されたスルファサラジンにヒアルロン酸粉を添加する段階;および前記親水化されたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉を、33〜42℃で5〜24時間混合する段階を含む、後発性白内障抑制用組成物の製造方法が提供できる。
【0029】
本発明者らは、後発性白内障抑制用組成物に関する研究を引き続き進行させて、親水化されたスルファサラジンにヒアルロン酸粉を添加し、特定の反応条件で混合すると、ヒアルロン酸の含有量を高めることができるだけでなく、組成物の均質性も向上させることができて、優れた薬効および安定性を有する後発性白内障抑制用組成物を提供することができることを、実験を通して確認し、発明を完成した。
【0030】
前記親水化されたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉は、33〜42℃で、好ましくは35〜40℃で、5〜24時間、好ましくは10〜15時間混合することが好ましい。前記混合時の温度が33℃未満の場合には、後発性白内障抑制用組成物の成分が均質に混合されないことがあり、42℃超過の場合には、製剤の安定した調剤が容易でないので好ましくない。また、前記混合の時間が5時間未満の場合には、後発性白内障抑制用組成物の成分が均質に混合されないことがあり、24時間を超える場合には、ヒアルロン酸の粘度に変化が生じることがある。
【0031】
後述する実験例Dに示されているように、前記親水化されたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉を、35℃(実施例4)、37℃(実施例1)、および40℃(実施例3)の温度で混合して製造された後発性白内障抑制用組成物は、スルファサラジン含有量の相対標準偏差が2以下となり、後発性白内障抑制用組成物の成分が非常に均質に分散していることが確認される。これに対し、前記混合温度が25℃(比較例1)の場合には、20%以上の高い相対標準偏差が現れ、後発性白内障抑制用組成物の成分が非常に不均一に分散する点が確認される。
【0032】
前記スルファサラジンを親水化させる段階では、難溶性化合物を可溶化させるための方法として通常知られている方法を特別な制限なく使用することができるが、好ましくは、スルファサラジンをペグ化(PEGylation)させる段階を適用することができる。具体的には、このようなスルファサラジンをペグ化(PEGylation)させる段階は、スルファサラジンをポリエチレングリコールを含む塩均衡溶液に添加する段階を含むことができる。前記塩均衡溶液に含まれるポリエチレングリコールは、スルファサラジンをペグ化(PEGylation)して親水化させることができる。スルファサラジンをペグ化して親水化させると、化学的構造の変更なく水溶性の液体として使用することができ、注射剤および眼科用製剤として容易に製作することができる。前記スルファサラジンおよびポリエチレングリコールに関する具体的な内容は、上述した内容の通りである。
【0033】
前記スルファサラジンを親水化させる段階では、スルファサラジンの濃度を0.1〜1.5mMに調節する段階を含むことができる。より具体的には、ポリエチレングリコールを含む塩均衡溶液に適切な量でスルファサラジン溶液を添加して、前記スルファサラジンの濃度を0.1〜1.5mM、好ましくは0.2〜1.2mM、より好ましくは0.3〜1.0mMに調節することができる。
【0034】
前記親水化されたスルファサラジンにヒアルロン酸粉を添加する段階では、全体組成物上で前記ヒアルロン酸の濃度が1.4〜2.0%(w/v)、好ましくは1.5〜1.8%(w/v)となるように調節する段階を含むことができる。より具体的には、前記親水化されたスルファサラジンまたは前記スルファサラジンが添加された塩均衡溶液に適切な量のヒアルロン酸粉を添加して濃度を調節することができる。前記ヒアルロン酸粉の物性、形態、大きさなどには別の制限がなく、無菌処理されたものが好ましい。
【0035】
一方、前記後発性白内障抑制用組成物の製造方法では、薬剤学的に許容される添加剤、担体または塩を添加する段階をさらに含むことができる。このような薬剤学的に許容される担体または塩は、前記後発性白内障抑制用組成物の製造過程で特別な制限なく添加可能であるが、前記親水化されたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉が完全に混合された後に添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、後発性白内障の発病率を低下させて後発性白内障による視力の喪失および2次的手術を防止できるだけでなく、より効果的な薬効および安定した製剤を提供できる後発性白内障抑制用組成物が提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】後発性白内障の発生過程を概略的に示したものである。
図2】後発性白内障の発病と水晶体上皮細胞との関係を概略的に示したものである。
図3】実施例による後発性白内障抑制用組成物が水晶体上皮細胞の移動を抑制したかを確認した結果およびこれに対する統計データを示したものである。
図4】スルファサラジンの濃度別細胞に対する毒性をMTT assayを通して確認した結果を示したものである。
図5】NF−kBが細胞質および核で活性化されるか否かを確認した結果およびこれに対する統計データを示したものである。
図6】実施例1、実施例3、実施例4、および比較例1の後発性白内障抑制用組成物の均質性の評価結果を示したものである。
図7】実施例2および比較例2の後発性白内障抑制用組成物の均質性の評価結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
発明を下記の実施例でより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0039】
<実施例および比較例:後発性白内障抑制用組成物の製造>
【0040】
実施例1
【0041】
10%(v/v)のポリエチレングリコール(PEG、Mw.400、商品名:P3265、Sigma社)が含まれている塩均衡溶液(Balanced salt solution)500mLに、スルファサラジンを0.5mMの濃度となるように添加し、室温で2時間程度混合した。
【0042】
そして、前記スルファサラジンが含まれている塩均衡溶液に、ヒアルロン酸粉(Sodium Hyaluronate、NOVA Biotech)15g/Lとなるように、37℃で12時間混合して、スルファサラジン−ヒアルロン酸混合物の後発性白内障抑制用組成物を得た。
【0043】
実施例2
【0044】
スルファサラジンを1.0mMの濃度となるようにした点を除いては、前記実施例1と同様の方法で後発性白内障抑制用組成物を得た。
【0045】
実施例3
【0046】
前記スルファサラジンが含まれている塩均衡溶液およびヒアルロン酸粉の混合温度を40℃にした点を除いては、実施例1と同様の方法で後発性白内障抑制用組成物を得た。
【0047】
実施例4
【0048】
前記スルファサラジンが含まれている塩均衡溶液およびヒアルロン酸粉の混合温度を35℃にした点を除いては、実施例1と同様の方法で後発性白内障抑制用組成物を得た。
【0049】
実施例5
【0050】
スルファサラジンを0.3mMの濃度となるようにした点を除いては、前記実施例1と同様の方法で後発性白内障抑制用組成物を得た。
【0051】
比較例1
【0052】
前記スルファサラジンが含まれている塩均衡溶液およびヒアルロン酸粉の混合温度を25℃にした点を除いては、実施例1と同様の方法で後発性白内障抑制用組成物を得た。
【0053】
比較例2
【0054】
10%(v/v)のポリエチレングリコール(PEG、Mw.400、商品名:P3265、Sigma社)が含まれている塩均衡溶液(Balanced salt solution)500mLに、スルファサラジンを1.0mMの濃度となるように添加し、室温で1時間程度混合した。
【0055】
そして、前記スルファサラジンが含まれている塩均衡溶液に、2%のヒアルロン酸溶液を50:50の重量比で配合し、25℃で2時間混合して、スルファサラジン−ヒアルロン酸混合物の後発性白内障抑制用組成物を得た。
【0056】
比較例3
【0057】
スルファサラジンを0.5mMの濃度となるように添加した点以外には、前記比較例2と同様の方法で後発性白内障抑制用組成物を得た。
【0058】
前記実施例1〜5、および比較例1〜3でのスルファサラジンの濃度、ヒアルロン酸の使用量(濃度)、およびスルファサラジンが含まれている塩均衡溶液およびヒアルロン酸粉の混合温度を、下記の表1に記載した。
【0059】
【表1】
*比較例1の場合、後述のように、スルファサラジンとヒアルロン酸との混合物が非常に不均質に形成され、ヒアルロン酸の相当部分が溶解せず、ヒアルロン酸の正確な濃度を測定することができなかった。
【0060】
<実験例>
【0061】
製造例1.ヒト水晶体の上皮細胞の培養
【0062】
Human lens epithelial B3 cell line(以下、「HLEB3細胞」という)水晶体上皮細胞を、Eagle’s minimum essential medium(MEM、Invitrogen−Gibco、Grand Island、NY、USA)に、20%fetal bovine serumが含まれている培養液に入れて、5%CO細胞培養器を用いて、37℃で培養した。
【0063】
製造例2.水晶体嚢の培養
【0064】
豚の眼を利用し、水晶体を分離後、水晶体嚢の前方を直径約5mm程度に切り出し、水晶体嚢拡張リング(Tension ring、CTR98−A、Lucid Korea、Korea)を挿入した後、水晶体の内容物を除去した。このような水晶体嚢を血清(serum)のないDulbeccos Modified essential medium(DMEM)培養液に入れて、5%CO細胞培養器を用いて、37℃で培養した。
【0065】
前記実施例および比較例で製造された後発性白内障抑制用組成物と、前記製造例1で得られたヒトの水晶体上皮細胞培養液とを1:1の同量で混合した後、製造例2の水晶体嚢に投与して効果を観察した。
【0066】
効果の分析方法は、次の通りである。
1)細胞毒性:MTT assayを通して分析した。
2)蛋白質活性:Western blot分析法を利用して行った。
【0067】
得られたすべての結果に対する統計学的分析は、one−way ANOVA testを用いて実施した。
【0068】
A.水晶体上皮細胞の移動を抑制するか否かの確認
【0069】
実施例1、2で製造された後発性白内障抑制用組成物およびスルファサラジンを処理しない対照群を、それぞれ前記製造例1で得られたヒトの水晶体上皮細胞培養液を1:1の同量で混合して、製造例2の水晶体嚢に投与した後、水晶体上皮細胞の移動が抑制されるかを、顕微鏡(AE−21、Pelco社)および顕微鏡カメラ(Digital352CCD、Motic社)を用いて観察し、その結果を図3に示した。
【0070】
図3−Aに示されているように、スルファサラジンを処理しない対照群と比較した時、実施例1、2の後発性白内障抑制用組成物によって水晶体上皮細胞の移動が抑制されていることが確認された。また、実施例1、2の後発性白内障抑制用組成物が、比較例2および3の組成物(スルファサラジンが含まれている塩均衡溶液に、2%のヒアルロン酸溶液を50:50の重量比で配合)に比べて、水晶体上皮細胞の移動をより効果的に抑制できる点も確認された。
【0071】
具体的には、図3−Bに示されているように、実施例1、2の後発性白内障抑制用組成物が、それぞれ51.5%、40.5%の水晶体上皮細胞の移動抑制および増殖抑制効果を示すのに対し、比較例2および3の組成物は、68.5%、48.5%に過ぎない水晶体上皮細胞の移動抑制および増殖抑制効果を示す点が確認される。
【0072】
B.スルファサラジンの濃度別細胞毒性の確認実験
【0073】
図4に示されているように、MTT assayを通して分析した結果、実施例1、2および5の組成物が60.0%以上の数値を示し、有意すべき細胞毒性がないことが確認された。
【0074】
C.NF−kBの発現および活性抑制の確認実験
【0075】
実施例の後発性白内障抑制用組成物が水晶体上皮細胞の移動中にNF−kBの発現および活性を抑制するかを、次のような方法で確認した。
【0076】
まず、電気泳動(electrophoresis)実験を通して、NF−kBが細胞質および核で活性化されるかを確認し、その結果を図5−Aに示した。この時、Beta−tubulinは細胞質マーカーとして、Laminin Aは核蛋白質マーカーとして使用した。
【0077】
図5−Aに示されているように、水晶体の上皮細胞移動中にNF−kBが細胞質と核で発現し、主活性部位が細胞の核であることが確認される(対照群)。これに対し、実施例1、2および5の後発性白内障抑制用組成物を適用した場合には、主活性部位の細胞の核でNF−kBの発現が抑制されることを確認することができる。
【0078】
また、図5−Bから追加的に確認されるように、実施例の後発性白内障抑制用組成物を適用すると、NF−kBの核への移動を30%以上抑制できることが明らかになった。
【0079】
D.スルファサラジン−ヒアルロン酸混合物の均質性の評価
【0080】
(1)スルファサラジンを10%ポリエチレングリコールが含まれている塩均衡溶液に濃度別に溶かし、高性能液体クロマトグラフでスルファサラジンの含有量を測定して直線の検量線を用意した(図6−A)。
【0081】
(2)そして、実施例1(37℃)、実施例3(40℃)、実施例4(35℃)、および比較例1(25℃)の組成物の上、中、下の位置ごとに3つのサンプルを取った後、高性能液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて、スルファサラジンの含有量を分析した。そして、このような含有量の分析を3回繰り返して、これから含有量の相対標準偏差(RDS)を計算した。
【0082】
図6−Bに示されているように、実施例1(37℃)、実施例3(40℃)、および実施例4(35℃)では、それぞれ0.87%、1.30%、および1.34%の相対標準偏差が現れ、後発性白内障抑制用組成物が非常に均質に分散していることを確認することができた。これに対し、比較例1(25℃)は、28.35%の高い相対標準偏差を示し、後発性白内障抑制用組成物が非常に不均一に分散していることを確認することができた。
【0083】
また、比較例1の組成物では、ヒアルロン酸とスルファサラジンが非常に不均一に分散しているだけでなく、使用されたヒアルロン酸の相当部分が溶解せず、実質的に1.4(w/v)%以上の高濃度のヒアルロン酸を含む組成物になり得ないことを確認することができた。
【0084】
(3)スルファサラジンを10%ポリエチレングリコールが含まれている塩均衡溶液に濃度別に溶かし、高性能液体クロマトグラフでスルファサラジンの含有量を測定して直線の検量線を用意した(図7−A)。
【0085】
実施例2および比較例2の組成物の上、中、下の位置ごとに3つのサンプルを取った後、高性能液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて、スルファサラジンの含有量を分析した。そして、このような含有量の分析を3回繰り返して、これから含有量の相対標準偏差(RDS)を計算した。
【0086】
図7−Bに示されているように、実施例2は、0.59%の相対標準偏差が現れ、後発性白内障抑制用組成物が非常に均質に分散しているのに対し、比較例2は、6.84%の相対標準偏差が現れ、非常に不均一に分散していることを確認することができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7