【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、親水性スルファサラジン;1.4〜2.0%(w/v)のヒアルロン酸;および水溶液を含む担体を含む、後発性白内障抑制用組成物を提供する。
【0010】
また、本発明は、スルファサラジンを親水化させる段階;前記親水化されたスルファサラジンにヒアルロン酸粉を添加する段階;および前記親水化されたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉を、33〜42℃で5〜24時間混合する段階を含む、後発性白内障抑制用組成物の製造方法を提供する。
【0011】
以下、発明の具体的な実施形態にかかる後発性白内障抑制用組成物およびその製造方法に関して詳細に説明する。
【0012】
発明の一実施形態によれば、親水性スルファサラジン;1.4〜2.0%(w/v)のヒアルロン酸;および水溶液を含む担体を含む、後発性白内障抑制用組成物が提供できる。
【0013】
本発明者らは、韓国登録特許第0894042号において、スルファサラジン−ヒアルロン酸混合物およびこれを含む後発性白内障抑制用組成物を用いると、後発性白内障の原因である水晶体上皮細胞の増殖および移動を抑制して水晶体後嚢の透明性を維持させることができ、後発性白内障の発生を抑制することができることを明らかにした。
【0014】
しかし、ヒアルロン酸は、難溶性化合物であって、水溶媒などに対する最大溶解度が2%(w/v)に過ぎないため、スルファサラジンが含まれている水溶液と、2%(w/v)のヒアルロン酸が含まれている水溶液とを同じ比率で混合するとしても、製造される組成物上に、ヒアルロン酸の濃度が眼科手術時に要請される濃度、例えば、1.4〜1.5%(w/v)に及ばないだけでなく、このような混合物の均質性も十分でなかった。
【0015】
そこで、本発明者らは、研究を引き続き進行させて、後述する特定の製造方法を適用すると、ヒアルロン酸を眼科手術時に要請される水準以上の含有量で含むことができるだけでなく、均質性が顕著に優れながらも、同等水準以上の後発性白内障抑制効果を有する後発性白内障抑制用組成物を製造することができることを、実験を通して確認し、発明を完成した。これにより、このような後発性白内障抑制用組成物は、後発性白内障の発病率を顕著に低下させて後発性白内障による視力の喪失および2次的手術を効果的に防止できるだけでなく、より効果的な薬効および均質な分散状態を有する製剤を提供することができる。
【0016】
また、後述する実験例AおよびCに示されているように、前記後発性白内障抑制用組成物は、水晶体上皮細胞の移動を効果的に抑制して後発性白内障の発病率を顕著に低下できる点が確認される。より具体的には、前記後発性白内障抑制用組成物を適用すると、NF−kBが主活性部位の細胞の核で発現するのを抑制できることが確認された。
【0017】
前記スルファサラジン(Sulfasalazine、2−Hydroxy−5−[[4−[(2−pyridinylamino)sulfonyl]azo]benzoic acidまたは6−oxo−3−(2−[4−(N−pyridin−2−ylsulfamoyl)phenyl]hydrazono)cyclohexa−1,4−dienecarboxylic acid]は、スルファピリジン(Sulfapyridine)と5−アミノサリチル酸(5−aminosalicylic acid、5−ASA)とがアゾ結合(azo bond)して形成された化合物であって、NF−kB(Nuclear factor kappa B)の活性を抑制することが知られている。これにより、このようなスルファサラジンを含む前記後発性白内障抑制用組成物は、水晶体上皮細胞が増殖および移動をする時に発現するNF−kBの活性を抑制して後発性白内障の発病を抑制することができる。
【0018】
前記スルファサラジンは、水溶液に対して難溶性であって、薬剤に使用されるためには、親水性スルファサラジンに可溶化しなければならない。このような親水性スルファサラジンは、スルファサラジンに塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどを添加して、酸付加塩またはアルカリ付加塩の形態で得られてよく、より好ましくは、スルファサラジンをペグ化(PEGylation)して得られてもよい。
【0019】
前記親水性スルファサラジンは、ペグ化されたスルファサラジンを含むことができる。前記ペグ化(PEGylation)されたスルファサラジンは、スルファサラジンをポリエチレングリコールを含む塩均衡溶液に添加して得られる。このような塩均衡溶液は、多様な分子量および濃度のポリエチレングリコールを含むことができるが、300〜500、好ましくは380〜420の重量平均分子量を有するポリエチレングリコールを1%、好ましくは5%(v/v)以上の濃度で含むことが好ましい。
【0020】
前記親水性スルファサラジンの濃度は0.1〜1.5mM、好ましくは0.2〜1.2mM、より好ましくは0.3〜1.0mMであってよい。前記濃度が0.1mM未満であれば、有効な薬効を実現しにくいことがあり、1.5mMを超えると、長時間の眼科手術時に水晶体上皮細胞に対する毒性が過度に高くなることがある。
【0021】
一方、前記ヒアルロン酸(hyaluronic acid)は、白内障手術時、水晶体嚢の形状を維持させ、人工水晶体の挿入時に潤滑剤の役割を果たし、組成物の透明度および粘度を増加させて、前記後発性白内障抑制用組成物を眼球に適用する時、安定的施術を可能にする。
【0022】
発明の一実施形態の後発性白内障抑制用組成物では、前記後発性白内障抑制用組成物において、ヒアルロン酸の含有量が1.4〜2.0%(w/v)、より好ましくは1.5〜1.8%(w/v)であってよい。従来は、1.0%(w/v)を超えてヒアルロン酸を含む組成物を製造しにくかった上に、ヒアルロン酸の含有量を高めたとしても、組成物の均質性が顕著に低下していた。しかし、後述する特定の製造方法によれば、ヒアルロン酸の含有量が1.4〜2.0%(w/v)でありながらも、優れた均質性を有する後発性白内障抑制用組成物が提供される。
【0023】
前記後発性白内障抑制用組成物において、ヒアルロン酸の含有量が1.4%(w/v)未満の場合、水晶体嚢の形状を維持させにくく、人工水晶体の挿入時に潤滑剤の役割が減少することがあり、スルファサラジンの薬効を有効性あるように伝達することができないだけでなく、前記組成物の粘度が低下してスルファサラジンが水晶体上皮細胞に接触可能な時間が短くなることがあり、これにより、眼球用製剤として適切な役割を果たしにくいことがあって好ましくない。
【0024】
一方、前記後発性白内障抑制用組成物では、1.0×10
6〜4.0×10
6g/モルの重量平均分子量を有するヒアルロン酸を使用することができる。
【0025】
前記後発性白内障抑制用組成物では、高性能液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて測定したスルファサラジン含有量の相対標準偏差が2以下であり得る。従来技術によれば、スルファサラジンおよびヒアルロン酸の混合物が含まれている組成物でヒアルロン酸の含有量を高めると、均質性が顕著に低下し、スルファサラジンの分散が非常に不均質になる現象(例えば、スルファサラジン含有量の相対標準偏差が非常に大きくなる現象)が観察されたが、後述する実験例Dに示されているように、発明の一実施形態の前記後発性白内障抑制用組成物では、スルファサラジンおよびヒアルロン酸が非常に均質に分散していることが確認される。これにより、前記後発性白内障抑制用組成物を眼科施術などに適用する場合、水晶体上皮細胞の全領域にわたってスルファサラジンが均質に接触可能なため、スルファサラジンが特定の部分に過濃度で接触して水晶体上皮細胞に毒性を示したり、低濃度で接触して有効な薬効が発現しない問題などを解決することができ、非常に安定した眼科施術用製剤を提供することができる。また、前記後発性白内障抑制用組成物を眼科施術などに適用する場合、スルファサラジンをヒアルロン酸と共に使用するため、手術時、2次的な薬物投与の面倒さおよび追加的な毒性に対する危険負担を最少化することができる。
【0026】
一方、前記水溶液を含む担体は、蒸留水、リン酸緩衝液(Phosphate Buffered Saline)、均衡塩容液(Balanced Salt Solution)、生理食塩水(Saline)、またはこれらの混合物などを含むことができる。
【0027】
前記後発性白内障抑制用組成物は、薬剤学的に許容される塩をさらに含むことができる。前記薬剤学的に許容される塩の具体例としては、塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、またはこれらの混合物がある。
【0028】
一方、発明の他の実施形態により、スルファサラジンを親水化させる段階;前記親水化されたスルファサラジンにヒアルロン酸粉を添加する段階;および前記親水化されたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉を、33〜42℃で5〜24時間混合する段階を含む、後発性白内障抑制用組成物の製造方法が提供できる。
【0029】
本発明者らは、後発性白内障抑制用組成物に関する研究を引き続き進行させて、親水化されたスルファサラジンにヒアルロン酸粉を添加し、特定の反応条件で混合すると、ヒアルロン酸の含有量を高めることができるだけでなく、組成物の均質性も向上させることができて、優れた薬効および安定性を有する後発性白内障抑制用組成物を提供することができることを、実験を通して確認し、発明を完成した。
【0030】
前記親水化されたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉は、33〜42℃で、好ましくは35〜40℃で、5〜24時間、好ましくは10〜15時間混合することが好ましい。前記混合時の温度が33℃未満の場合には、後発性白内障抑制用組成物の成分が均質に混合されないことがあり、42℃超過の場合には、製剤の安定した調剤が容易でないので好ましくない。また、前記混合の時間が5時間未満の場合には、後発性白内障抑制用組成物の成分が均質に混合されないことがあり、24時間を超える場合には、ヒアルロン酸の粘度に変化が生じることがある。
【0031】
後述する実験例Dに示されているように、前記親水化されたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉を、35℃(実施例4)、37℃(実施例1)、および40℃(実施例3)の温度で混合して製造された後発性白内障抑制用組成物は、スルファサラジン含有量の相対標準偏差が2以下となり、後発性白内障抑制用組成物の成分が非常に均質に分散していることが確認される。これに対し、前記混合温度が25℃(比較例1)の場合には、20%以上の高い相対標準偏差が現れ、後発性白内障抑制用組成物の成分が非常に不均一に分散する点が確認される。
【0032】
前記スルファサラジンを親水化させる段階では、難溶性化合物を可溶化させるための方法として通常知られている方法を特別な制限なく使用することができるが、好ましくは、スルファサラジンをペグ化(PEGylation)させる段階を適用することができる。具体的には、このようなスルファサラジンをペグ化(PEGylation)させる段階は、スルファサラジンをポリエチレングリコールを含む塩均衡溶液に添加する段階を含むことができる。前記塩均衡溶液に含まれるポリエチレングリコールは、スルファサラジンをペグ化(PEGylation)して親水化させることができる。スルファサラジンをペグ化して親水化させると、化学的構造の変更なく水溶性の液体として使用することができ、注射剤および眼科用製剤として容易に製作することができる。前記スルファサラジンおよびポリエチレングリコールに関する具体的な内容は、上述した内容の通りである。
【0033】
前記スルファサラジンを親水化させる段階では、スルファサラジンの濃度を0.1〜1.5mMに調節する段階を含むことができる。より具体的には、ポリエチレングリコールを含む塩均衡溶液に適切な量でスルファサラジン溶液を添加して、前記スルファサラジンの濃度を0.1〜1.5mM、好ましくは0.2〜1.2mM、より好ましくは0.3〜1.0mMに調節することができる。
【0034】
前記親水化されたスルファサラジンにヒアルロン酸粉を添加する段階では、全体組成物上で前記ヒアルロン酸の濃度が1.4〜2.0%(w/v)、好ましくは1.5〜1.8%(w/v)となるように調節する段階を含むことができる。より具体的には、前記親水化されたスルファサラジンまたは前記スルファサラジンが添加された塩均衡溶液に適切な量のヒアルロン酸粉を添加して濃度を調節することができる。前記ヒアルロン酸粉の物性、形態、大きさなどには別の制限がなく、無菌処理されたものが好ましい。
【0035】
一方、前記後発性白内障抑制用組成物の製造方法では、薬剤学的に許容される添加剤、担体または塩を添加する段階をさらに含むことができる。このような薬剤学的に許容される担体または塩は、前記後発性白内障抑制用組成物の製造過程で特別な制限なく添加可能であるが、前記親水化されたスルファサラジンおよびヒアルロン酸粉が完全に混合された後に添加することが好ましい。