特許第5844169号(P5844169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5844169
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】シンクロサイクロトロン
(51)【国際特許分類】
   H05H 13/02 20060101AFI20151217BHJP
   H01G 5/06 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
   H05H13/02
   H01G5/06 N
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-18828(P2012-18828)
(22)【出願日】2012年1月31日
(65)【公開番号】特開2013-157556(P2013-157556A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2014年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(72)【発明者】
【氏名】戸内 豊
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−031228(JP,U)
【文献】 実開昭51−083635(JP,U)
【文献】 実開昭59−094408(JP,U)
【文献】 特開平10−275699(JP,A)
【文献】 特表2008−507826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 13/02
H01G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器の内部で荷電粒子を加速するシンクロサイクロトロンであって、
前記真空容器を通過する磁場を形成するコイルと、
前記真空容器の内部の前記荷電粒子を加速させる加速電極と、
前記加速電極に供給される高周波電力の共振周波数を変調する共振回路と、
前記共振回路に電気的に接続され、互いに対向する一対の電極の向かい合う面積を変えることで静電容量を可変させる回転コンデンサーと、を備え、
前記回転コンデンサーは、軸線周りに回転する回転軸を備え、
前記一対の電極は、
前記回転軸から径方向の外側へ張り出す第1の電極板と、
前記回転軸の軸線方向に離間し前記第1の電極板と対向して配置された第2の電極板とを有し、
前記第1の電極板の縁部には、板厚方向に切欠きが形成されている、
シンクロサイクロトロン
【請求項2】
前記切欠きは、前記第1の電極板の前記縁部である側辺の延在方向に複数形成されている、
請求項1に記載のシンクロサイクロトロン。
【請求項3】
真空容器の内部で荷電粒子を加速するシンクロサイクロトロンであって、
前記真空容器を通過する磁場を形成するコイルと、
前記真空容器の内部の前記荷電粒子を加速させる加速電極と、
前記加速電極に供給される高周波電力の共振周波数を変調する共振回路と、
前記共振回路に電気的に接続され、互いに対向する一対の電極の向かい合う面積を変えることで静電容量を可変させる回転コンデンサーと、を備え、
前記回転コンデンサーは、軸線周りに回転する回転軸を備え、
前記一対の電極は、
前記回転軸から径方向の外側へ張り出す第1の電極板と、
前記回転軸の軸線方向に離間し前記第1の電極板と対向して配置された第2の電極板とを有し、
前記第1の電極板は、絶縁体からなる電極板本体と、前記電極板本体の前記第2の電極板側の表面を被覆する導電体からなる表面層と、を有する、
シンクロサイクロトロン
【請求項4】
真空容器の内部で荷電粒子を加速するシンクロサイクロトロンであって、
前記真空容器を通過する磁場を形成するコイルと、
前記真空容器の内部の前記荷電粒子を加速させる加速電極と、
前記加速電極に供給される高周波電力の共振周波数を変調する共振回路と、
前記共振回路に電気的に接続され、互いに対向する一対の電極の向かい合う面積を変えることで静電容量を可変させる回転コンデンサーと、を備え、
前記回転コンデンサーは、軸線周りに回転する回転軸を備え、
前記一対の電極は、
前記回転軸から径方向の外側へ張り出す第1の電極板と、
前記回転軸の軸線方向に離間し前記第1の電極板と対向して配置された第2の電極板とを有し、
前記第1の電極板の縁部には、中央部よりも厚さが薄い薄肉部が形成されている、
シンクロサイクロトロン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の電極の向かい合う面積を変えることで静電容量を可変させる回転コンデンサーを備えたシンクロサイクロトロンに関する。
【背景技術】
【0002】
回転コンデンサーは、一対の電極として、所定の軸周りに回転する羽根板(第1の電極)と、この羽根板に対向して配置された対向電極(第2の電極)とを備えている。回転コンデンサーでは、羽根板を所定の軸周りに回転させて一対の電極の向かい合う面積を変化させることで、静電容量を変化させる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−507826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばシンクロサイクロトロンを陽子線(荷電粒子線)治療に適用することが検討されている。陽子線治療に適用可能なシンクロサイクロトロンとしては、出射される陽子ビームの高出力化が求められており、荷電粒子を加速するための磁場を強くする必要がある。シンクロサイクロトロンは、加速電極に供給される高周波電力の共振周波数を変調するための可変コンデンサー(回転コンデンサー)を備えている。ビームの高出力化を図るためには、回転コンデンサーの羽根板の高速化が必要であり、そのために解決すべき新たな課題が生じることが考えられる。
【0005】
例えば、強い磁場が生じている環境で高速で回転コンデンサーを使用した場合には、導体である羽根板が磁場中を移動することで羽根板に渦電流が流れ、羽根板が発熱することになる。特に、羽根板が高速で回転する場合には発熱量が増加するため、発熱を抑制することが求められている。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、羽根板中を流れる渦電流を低減して、発熱を抑制することが可能な回転コンデンサーを備えたシンクロサイクロトロンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、真空容器の内部で荷電粒子を加速するシンクロサイクロトロンであって、真空容器を通過する磁場を形成するコイルと、真空容器の内部の荷電粒子を加速させる加速電極と、加速電極に供給される高周波電力の共振周波数を変調する共振回路と、当該共振回路に電気的に接続され、互いに対向する一対の電極の向かい合う面積を変えることで静電容量を可変させる回転コンデンサーと、を備え、当該回転コンデンサーは、軸線周りに回転する回転軸を備え、一対の電極は、回転軸から径方向の外側へ張り出す第1の電極板と、回転軸の軸線方向に離間し第1の電極板と対向して配置された第2の電極板とを有し、第1の電極板の縁部には、板厚方向に切欠きが形成されている
【0008】
このようなシンクロサイクロトロンの回転コンデンサーによれば、第1の電極板に板厚方向に切欠きが形成されているため、第1の電極板中を流れる渦電流の経路が切欠きによって妨げられる。これにより、第1の電極板中を流れる渦電流を低減して、発熱を抑制することができる。
【0009】
ここで、上記作用を奏する具体的な構成として、切欠きが、第1の電極板の縁部である側辺の延在方向に複数形成されている構成が挙げられる。渦電流は、中央部よりも側辺近傍を流れる傾向にあるため、第1の電極板の側辺に切欠きを設けることで、渦電流の流れを効果的に低減させることができる。また、側辺の延在方向に複数の切欠きを設けることで、渦電流の経路を延長させて渦電流が流れにくい構造とすることができる。
【0010】
また、本発明は、真空容器の内部で荷電粒子を加速するシンクロサイクロトロンであって、真空容器を通過する磁場を形成するコイルと、真空容器の内部の荷電粒子を加速させる加速電極と、当該加速電極に供給される高周波電力の共振周波数を変調する共振回路と、当該共振回路に電気的に接続され、互いに対向する一対の電極の向かい合う面積を変えることで静電容量を可変させる回転コンデンサーと、を備え、当該回転コンデンサーは、軸線周りに回転する回転軸を備え、一対の電極は、回転軸から径方向の外側へ張り出す第1の電極板と、回転軸の軸線方向に離間し第1の電極板と対向して配置された第2の電極板とを有し、第1の電極板は、絶縁体からなる電極板本体と、電極板本体の第2の電極板側の表面を被覆する導電体からなる表面層と、を有する
【0011】
このようなシンクロサイクロトロンの回転コンデンサーによれば、絶縁体からなる電極板本体の表面に、導電体からなる表面層が形成されているので、渦電流が表面層を流れることになり、電極板本体を流れる渦電流を低減することができる。これにより、第1の電極板中を流れる渦電流を低減して、発熱を抑制することができる。
【0012】
また、本発明は、真空容器の内部で荷電粒子を加速するシンクロサイクロトロンであって、真空容器を通過する磁場を形成するコイルと、真空容器の内部の荷電粒子を加速させる加速電極と、当該加速電極に供給される高周波電力の共振周波数を変調する共振回路と、当該共振回路に電気的に接続され、互いに対向する一対の電極の向かい合う面積を変えることで静電容量を可変させる回転コンデンサーと、を備え、当該回転コンデンサーは、軸線周りに回転する回転軸を備え、一対の電極は、回転軸から径方向の外側へ張り出す第1の電極板と、回転軸の軸線方向に離間し第1の電極板と対向して配置された第2の電極板とを有し、第1の電極板の縁部には、中央部よりも厚さが薄い薄肉部が形成されている
【0013】
このようなシンクロサイクロトロンの回転コンデンサーによれば、第1の電極板の縁部に、中央部よりも厚さが薄い薄肉部が形成されているので、渦電流を流れ難くすることができるこれにより、第1の電極板中を流れる渦電流を低減して、発熱を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、磁場中を移動する第1の電極板に流れる渦電流を低減することが可能であるため、発熱を抑制することが可能な回転コンデンサーを備えたシンクロサイクロトロンを提供することができる。発熱を抑制することができるので、回転コンデンサーの回転数を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る回転コンデンサーを備えたシンクロサイクロトロンを示す斜視図である。
図2図1に示すシンクロサイクロトロン内に配置されたヨーク、及びヨークの外面側に配置された回転コンデンサーを示す図である。
図3図1に示すシンクロサイクロトロン内の加速電極、及び加速電極に接続された回転コンデンサーを示す断面図である。
図4図1に示すシンクロサイクロトロン内の加速電極、及び加速電極に接続された回転コンデンサーを示す断面図である。
図5】回転コンデンサーの回転軸線方向に沿う断面図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る回転コンデンサーを示す斜視図である。
図7】本発明の第1実施形態に係る回転コンデンサーを軸線方向から示す正面図である。
図8】回転コンデンサーの回転羽根を示す正面図である。
図9】本発明の第2実施形態に係る回転コンデンサーの回転羽根を示す断面図である。
図10】本発明の第3実施形態に係る回転コンデンサーの回転羽根を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る粒子加速器の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において、同一又は相当要素には同一の符号を付し重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、図面の位置関係に基づくものとする。本実施形態では、回転コンデンサーをシンクロサイクロトロンに適用した場合について説明する。
【0017】
(シンクロサイクロトロン)
図1図4に示すシンクロサイクロトロン1は、陽子ビーム(荷電粒子ビーム)を生成するものであり、図示しないイオン源から供給されるイオン(水素の陽イオン)を真空容器2(図3図4参照)の内部で加速させて、陽子ビームを生成する。
【0018】
シンクロサイクロトロン1は、上下に対向して配置された一対の鉄心3(ヨーク)と、鉄心3に磁場生じさせるためのコイル4(電磁石)と、真空容器2内のイオンを加速させるための加速電極5(ディー電極)とを備えている。なお、図2では、上下一対の鉄心3のうち上部側の鉄心3のみを図示している。
【0019】
鉄心3には、リング状の空間3aが形成され、この空間3a内にコイル4が収容されている。コイルの内側には、真空容器(真空箱)が配置されている。コイル4に電流を流すことで、真空容器内を上下方向Zに通過する磁場が形成され、真空容器内を通過した磁場は、コイル4の外側の鉄心3を通って元に戻る。
【0020】
加速電極5には、高周波電源(不図示)からの高周波電力の共振周波数を変調するための共振回路10が接続されている。図5は、共振回路10及び回転コンデンサー11を示す断面図である。共振回路10は、加速電極5と電気的に接続された内導体10Aと、内導体10Aの外側に配置された外導体10Bとを備えている。外導体10は筒状を成し、その内部に内導体10Aが挿通されている。
【0021】
共振回路10は、静電容量を可変させる回転コンデンサー11(可変コンデンサー)と電気的に接続されている。回転コンデンサー11は、軸周りに回転する回転軸12と、回転軸12から張り出す複数の回転羽根13(第1の電極板)と、回転羽根13と対向して配置された固定電極14(第2の電極板)と、を備えている。
【0022】
回転軸12は、銅やアルミニウム等によって形成することができる。回転軸12は、軸回りに回転自在に支持されている。回転軸12は、例えば電動機(不図示)からの回転駆動力が伝達されて、所定の回転数で回転する。
【0023】
回転羽根13は、例えば、銅やアルミニウム等の板材によって形成することができる。回転羽根13は、正面視において(回転軸12の軸線方向Xから見て)、例えば、扇型を成している。回転羽根13は、図6に示すように、円弧状の外周部13a、外周部13の両端から屈曲され回転軸12の周面12aへ向かって延在する一対の側辺13b,13bを有する。
【0024】
なお、回転羽根13の形状は、その他の形状でもよい。回転羽根13の形状としては、台形状、楕円形状、三角形などが挙げられる。また、回転羽根13の縁部(周面13a、側辺13b)は、直線的に形成されていてもよく、曲線的に形成されていてもよい。
【0025】
本実施形態の回転コンデンサー11は、図6に示すように、例えば4枚を一組として、複数組の回転羽根13を備えている。複数の回転羽根13は、回転軸12の周方向(回転方向R)において、例えば等間隔で配置されている。一組の回転羽根13は、回転軸12の軸線方向Xにおいて、所定の間隔で配置されている。回転羽根13は、回転軸12の一端側(鉄心3側)に配置されている。回転軸12の他端側には、複数の接地電極15(アース電極)が設けられている。
【0026】
図7に示す固定電極14は、例えば銅やアルミニウム等の板材によって形成することができる。固定電極14は、正面視(回転軸12の軸線方向Xから見て)において、例えば、扇型を成している。固定電極14は、図5に示すように、内導体10Aに固定され回転軸12の径方向の外側から、内側へ張り出すように形成されている。
【0027】
本実施形態の回転コンデンサー11は、例えば、4枚を一組として、複数組の固定電極14を備えている。複数の固定電極14は、回転軸12の周方向Rにおいて、例えば等間隔で配置されている。一組の固定電極14は、回転軸12の軸線方向Xにおいて、所定の間隔で配置されている。複数の固定電極14は、外周部において電気的に接続されている。
【0028】
回転羽根13及び固定電極14は、回転軸12の軸線方向Xに離間して、互いに対向する一対の電極として機能する。回転羽根13は、回転軸12の回転に伴って移動する。回転羽根13が回転移動することで、一対の電極(回転羽根13、固定電極14)の向かい合う面積が変化する。一対の電極13,14の重なり合う面積を変化させることで、回転コンデンサー11の静電容量を変更することができる。
【0029】
ここで、図8に示すように、回転羽根13の側辺13b(縁部)には、複数の切欠き21が設けられている。切欠き21は、板厚方向に貫通し、例えば、平面視において(板厚方向から見て)矩形状に形成されている。また、切欠き21は、側辺13bから回転羽根13の中央部側へ延びている。更に、切欠き21は、例えば、側辺13bの延在方向に所定の間隔で配置されている。なお、図8では、1枚の回転羽根13のみを図示している。また、図6及び図7では、切欠き21の図示を省略している。図では、切欠き21が誇張して図示されているが、実際は、側辺13bからの奥行きが20〜30mm、幅が1〜2mm程度である。
【0030】
切欠き21の形状は、矩形状に限定されず、その他の形状でもよい。切欠き21の形状としては、例えば、V字状、U字状、半円形状などが挙げられる。なお、切欠き21の位置、大きさ、数量は適宜変更することができる。切欠き21は、例えば、回転羽根13の外周13a側の縁部(エッジ部)に形成されていてもよい。また、切欠き21の開口幅は、特に限定されない。
【0031】
次に、回転コンデンサー11を備えたシンクロサイクロトロン1の作用について説明する。シンクロサイクロトロン1の真空容器2内には、イオン源から供給されたイオンが存在している。コイル4には、交流電源から交流電力が供給され、鉄心3内に所定の磁場が形成されている。真空容器2内には上下方向Zに通過する磁場が形成されている。
【0032】
真空容器2内の加速電極5には、高周波電源からの高周波電力が供給されている。高周波電源に接続された共振回路10によって、高周波電力の共振周波数が変調される。回転コンデンサー11の回転軸12は、例えば12600rpmで回転している。回転コンデンサー11では、回転羽根13と固定電極14との向かい合う面積を変更することで、静電容量を変化させる。これにより、共振回路10による共振周波数の変調が行われ、所定の高周波電力が加速電極5に供給される。
【0033】
シンクロサイクロトロン1では、イオンの重量増加に合わせて共振周波数を低下させ、イオンを加速させる。これにより、イオンのエネルギーが高くなることで生じる周期遅れを回避することができる。そのため、好適にイオンが加速されて、イオンのエネルギーが所定値以上となった後に、加速されたイオンが真空容器2外へ出射される。その結果、シンクロサイクロトロン1では、高強度のビーム電流を得ることができる。
【0034】
また、シンクロサイクロトロン1の使用中において、鉄心3から空気中に磁束が漏洩している。回転コンデンサー11は、鉄心3の外面側に配置されており、漏洩磁束による磁場(X方向の成分)の影響を受けている。そのため、磁場の中を移動する回転羽根13には、渦電流S(図8参照)が生じている。回転羽根13に形成された渦電流Sは、縁部(外周部13a、側辺13b)に沿って流れる。
【0035】
本実施形態の回転コンデンサー1は、回転羽根13の側辺13bに、切欠き21が形成されているため、回転羽根13中を流れる渦電流Sの経路が切欠き21によって妨げられる。これにより、渦電流Sが、切欠き21を避けるように形成され、渦電流Sが流れ難くなる。その結果、回転羽根13中を流れる渦電流Sを低減することで、回転コンデンサー1の発熱を抑制することができる。
【0036】
回転コンデンサー1では、発熱が抑制されているため、高速で回転羽根13を回転させてシンクロサイクロトロン1の共振周波数を適正に変調させることができる。その結果、イオンの加速を好適に行い、安定した陽子ビームの照射を実現することができる。
【0037】
なお、図8では、側辺13b(縁部)に切欠き21が形成されていない場合のローレンツ力密度解析結果が示されている。図8において、破線Lで示す範囲(破線Lと側辺13bに挟まれた領域)内が、周囲と比較してローレンツ力密度が高い領域である。このローレンツ力密度が高いに領域に、切欠き21を形成することが好ましい。これにより、渦電流の流れを効果的に抑制することができる。
【0038】
次に、本発明の第2実施形態に係る回転コンデンサーについて説明する。図9は、本発明の第2実施形態に係る回転コンデンサーの回転羽根31を示す断面図である。第2実施形態の回転コンデンサーが第1実施形態の回転コンデンサー11と異なる点は、側辺13bに切欠き21が形成された回転羽根13に代えて、積層構造の回転羽根31を備えている点である。
【0039】
回転羽根31は、絶縁体からなる電極板本体32と、電極板本体32の表面を被覆する導電体からなる表面層33とを有する。電極板本体32としては、例えばセラミックスを使用することができる。その他に、電極板本体32に使用可能な絶縁体としてはステンレス等が挙げられる。
【0040】
表面層33の材質としては、例えば銅を使用することができる。電極板本体32の表面に銅めっきを施すことで、表面層33を形成することができる。表面層33の厚みは、例えば20〜30μm程度で薄く形成されている。なお、表面層の材質としては、銅以外の導電体を用いることができる。
【0041】
このような第2実施形態に係る回転コンデンサーは、絶縁体からなる電極板本体32で剛性を保ち、導電体からなる表面層33によって必要な高周波電流を流しつつ且つ表面層33が薄く形成されているので、抵抗を増して渦電流を抑制することができる。その結果、回転コンデンサー発熱を抑えることができる。なお、積層構造の回転羽根31に切欠き21が形成されている構成でもよい。また、表面層33は、電極板本体32の外表面の全域に形成されていてもよく、例えば、電極本体32の縁部のみに形成されている構成でもよい。
【0042】
次に、本発明の第3実施形態に係る回転コンデンサーについて説明する。図10は、本発明の第3実施形態に係る回転コンデンサー回転羽根の縁部を示す断面図である。第3実施形態の回転コンデンサー第1実施形態の回転コンデンサー11と異なる点は、側辺13bに切欠き21が形成された回転羽根13に代えて、側辺(縁部)が薄肉である回転羽根41を備えている点である。
【0043】
回転羽根41の側辺(13b)は、その他の部分(回転羽根41の中央部)と比較して厚さが薄くなっている。例えば、先端部41aに向かって先細りするように、側辺が形成されている。図10に示すように緩やかに湾曲するような形状となっている。なお、直線的に傾斜して、先細りする形状でもよく、段差面が形成されることで、薄く形成されていてもよい。
【0044】
なお、薄肉部は、回転羽根41の全周に形成されていてもよく、部分的に形成されていてもよい。薄肉部は、例えば、板厚方向において緩やかに湾曲するように形成されていてもよく、段差が設けられて薄肉となっている構成でもよい。
【0045】
このような第3実施形態に係る回転コンデンサーでは、回転羽根41の側辺に、薄肉部が形成されており、渦電流が流れ易い側辺部の抵抗が増すので、渦電流を低減することができる。これにより、回転羽根41を流れる渦電流を低減して、発熱を抑えることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記の実施形態では、回転コンデンサーをシンクロサイクロトロン(粒子加速器)に適用した場合について説明しているが、回転コンデンサーは、その他の機器、用途に使用することができる。なお、粒子加速器はシンクロサイクロトロンに限定されず、サイクロトロンやシンクロトロンでも良い。また、粒子線(荷電粒子)は陽子ビームに限定されず、炭素ビーム(重粒子ビーム)などでも良い。回転コンデンサーは、治療用のシンクロサイクロトロンに使用可能であるが、治療用に限定されず、その他の用途に使用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
11…回転コンデンサー、12…回転軸、13,31,41…回転羽根(一対の電極、第1の電極板)、13b…側辺(縁部)、14…固定電極(一対の電極、第2の電極板)、21…切欠き(スリット)、32…電極板本体、33…表面層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10