特許第5844204号(P5844204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5844204ステータコアおよびそれを用いた回転電動機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5844204
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】ステータコアおよびそれを用いた回転電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20151217BHJP
   H02K 1/14 20060101ALI20151217BHJP
【FI】
   H02K1/18 B
   H02K1/18 C
   H02K1/14 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-89108(P2012-89108)
(22)【出願日】2012年4月10日
(65)【公開番号】特開2013-219946(P2013-219946A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】中▲崎▼ 修
(72)【発明者】
【氏名】木下 創
【審査官】 槻木澤 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−136685(JP,A)
【文献】 特開2007−014129(JP,A)
【文献】 特開2004−274970(JP,A)
【文献】 特開2002−272024(JP,A)
【文献】 特開平11−098793(JP,A)
【文献】 特開昭53−017903(JP,A)
【文献】 特開2001−258225(JP,A)
【文献】 特開2002−238231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H02K 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーロータ型の回転電動機のステータコアであって、
厚み方向に積層された複数の鉄心片であり、それぞれの内周側に複数のスロットおよび複数のティースが形成され、それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置される複数の溶接溝を有し、対応する溶接溝における固着によって径方向に歪ませる力が内在する、複数の鉄心片を備え、
前記ステータコアのスロット数をS、前記回転電動機の磁極数をPとするとき、前記溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数であることを特徴とするステータコア。
【請求項2】
前記溶接溝は、前記ティースと対応する箇所に設けられることを特徴とする請求項1に記載のステータコア。
【請求項3】
前記溶接溝は、前記スロットと対応する箇所に設けられることを特徴とする請求項1に記載のステータコア。
【請求項4】
S=18、P=16であり、N=6であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のステータコア。
【請求項5】
前記複数の鉄心片はそれぞれ、ティースごとに分割形成されたティース片を円環状に連結して形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のステータコア。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のステータコアと、前記ステータコアの前記複数のスロットそれぞれに巻装される複数の巻線と、を有するステータと、
永久磁石を有するロータと、
を備えることを特徴とする回転電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーロータ型の回転電動機に関し、特に積層型のステータコア(固定子鉄心)を有する回転電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電動機のひとつに、インナーロータ型のブラシレスモータ(以下、単に回転電動機ともいう)が知られている。回転電動機は、インナーロータとアウターステータを備える。アウターステータは、ステータコアと、それに巻装された巻線(コイル)を有し、ステータコアは、プレス加工により切断、成形された薄型の鉄心片が積層されて構成される。図1(a)、(b)は、回転電動機のステータコア100の構成を示す図である。図1(a)は、鉄心片10の平面図であり、図1(b)は、鉄心片10の断面図であり、図1(c)はステータコア100全体を示す斜視図である。鉄心片10は、環状のヨーク12、複数のティース(歯部)14、複数のスロット(溝)16、複数の溶接溝18を備える。
【0003】
複数のヨーク12は、環状のヨーク12から内側に突起している。隣接する2つのティース14の間には、巻線(不図示)が巻装されるスロット16が設けられる。ヨーク12の外側には、複数の溶接溝18が設けられる。
【0004】
図1(c)に示すように、ステータコア100は円筒形状を有し、複数の鉄心片10が積層されて構成される。複数の鉄心片10同士は、ヨーク12の外側に設けられた溶接溝18において溶接によって機械的に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−14129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
回転電動機は、固定子巻線に電流を流さない状態において、ロータを回転させたときに回転角に応じて脈動する抗力が発生する。これはコギングトルクと称され、回転電動機を回転制御する際の外乱となり、装置の精度低下、効率の低下、騒音、振動の原因となるため、低減することが望まれる。
【0007】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、コギングトルクを低減した回転電動機の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様、インナーロータ型の回転電動機のステータコアに関する。ステータコアは、厚み方向に積層された複数の鉄心片を備える。複数の鉄心片は、それぞれの内周側に複数のスロットおよび複数のティースが形成され、それぞれの外周側に実質的に等間隔に配置される複数の溶接溝が形成され、対応する溶接溝における固着によって径方向に歪ませる力が内在する。ステータコアのスロット数をS、回転電動機の磁極数をPとするとき、溶接溝の個数Nは、Pの非約数であり、かつ、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数である。
【0009】
この態様によると、溶接前に実質的に真円状の鉄心片が、溶接後に楕円状に変形するのを抑制でき、それによりコギングトルクを低減することができる。
【0010】
本発明の別の態様は、回転電動機に関する。回転電動機は、ステータおよび永久磁石を有するロータを備える。ステータは、上述のステータコアと、ステータコアの複数のスロットそれぞれに巻装される複数の巻線と、を有する。
この態様によれば、コギングトルクが低減されるため、高効率化、静音化、低振動化などの効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転電動機のコギングトルクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(a)、(b)は、回転電動機のステータコアの構成を示す図である。
図2図2(a)、(b)は、磁極数P=16、スロット数S=18、N=6である鉄心片の構成を示す平面図である。
図3図2(a)の鉄心片を用いたステータコアおよび図1(a)の鉄心片を用いたステータコアそれぞれの、溶接による径方向の歪みの計算結果を示すチャート図である。
図4】実施の形態に係るステータコアを備える回転電動機の構成を示す断面図である。
図5】N=8、N=6それぞれにおける、高調波と、コギングトルクの計算結果を示す図である。
図6】変形例に係る鉄心片の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
本発明者らは、図1に示すステータコア100について、コギングトルクを低減するための検討を行い、以下の着想を得た。なおこの検討により得られた知見は、当業者に周知ではなく、本発明者らが独自に認識したものである。
【0015】
図1のステータコア100では、図1のステータコア100は、スロット数S=18であり、溶接溝18の個数としてN=8が選択されている。このようなステータコア100を用いて構成された回転電動機について、コギングトルクを解析したところ、コギングトルクは1.15[N・m]であり、さらに低減する必要がある。
【0016】
本発明者らは、図1のステータコア100のコギングトルクが大きい理由として以下の2つの要因を見いだした。第1の要因は、溶接溝18の個数Nが、磁極数Pの約数となっていること、第2の要因は、溶接後のステータコア100が、楕円形状に変形していることである。
【0017】
第1の要因について説明する。コギングトルクは、ロータの永久磁石の極数Pとスロット数Nの最小公倍数Xの脈動となって現れ、その大きさは脈動数Xに反比例する。したがってコギングトルクを低減するためには、脈動数Xを大きくすればよいことが知られている。
また、N個の溶接溝18において溶接されたステータコア100では、N次高調波が生ずる。上述のように磁極数Pとスロット数Sの最小公倍数Xの脈動が生ずるため、溶接溝18の個数Nは、磁極数Pを避けることが望ましい。また溶接溝18の個数Nが磁極数Pの約数である場合にも同様である。
【0018】
第1の要因の検討結果から、溶接溝18の個数Nは、磁極数Pの非約数であることが望ましい。これを第1条件という。
【0019】
第2要因について説明する。図1を参照すると、ある溶接溝18[1]、18[5]は、ティース14と対応する箇所に位置し、別の溶接溝18[3]、18[7]は、スロット16と対応する箇所に位置し、別の溶接溝18[2]、18[4]、18[6]、18[8]は、ティース14とスロット16の境界付近に位置する。鉄心片10の剛性は、必ずしも回転対称ではなく、ティース14の箇所とスロット16の箇所とでは、剛性が異なっている。したがって図1の鉄心片10を複数の溶接溝18において溶接すると、溶接溝18ごとに剛性が異なることにより、鉄心片10が楕円状に変形する。ステータコア100が楕円状に変形すると、2次高調波の成分が大きくなり、これによりコギングトルクが増大する。これが第2要因の原因である。なお、溶接溝18の分布に応じて、鉄心片10が真円から歪むという知見は当業者に知られたものではなく、本発明者らが初めて見いだしたものである。
【0020】
第2の要因の検討結果から、複数の溶接溝18は、溶接後に鉄心片10が真円を保つように配置されることが望ましく、複数の溶接溝18それぞれが、鉄心片10の剛性が互いに等しい複数の箇所に均等に配置されることが望ましい。このためには、溶接溝18の個数Nは、スロット数Sの約数のうち任意の2つの公倍数であることが望ましい。これを第2条件という。
【0021】
以上の考察から、コギングトルクを低減するためには、第1条件および第2条件を満たすように溶接溝18の個数Nおよび配置を決定すればよい。
【0022】
以下、磁極数P=16、スロット数S=18の回転電動機について、具体的に好ましい溶接溝の配置を説明する。
第1条件を考慮すると、溶接溝18の個数Nから、16の約数(1,2,4,8,16)が除外される。
【0023】
第2条件を考慮する。スロット数S=18の約数は、1,2,3,6,9,18である。約数のうち任意の2つの公倍数は、2,3,6,9,12,18,27,36,・・・54,108,162であり、これらの数が溶接溝18の個数Nに許容される候補となる。
【0024】
第1条件および第2条件をともに満たす個数Nは、3,6,9,12,18,27,36,54,108,162となる。以下ではN=6の場合について、その効果を説明する。
【0025】
図2(a)、(b)は、磁極数P=16、スロット数S=18、N=6である鉄心片10の構成を示す平面図である。たとえば鉄心片10は、プレス加工により切断、成形される。6個の溶接溝18[1]〜18[6]は、実質的に等間隔に、すなわち60度ごとに配置される。図2(a)の鉄心片10では、6個の溶接溝18は、ティース14と対応する箇所に配置される。図2(b)の鉄心片10では、6個の溶接溝18は、スロット16と対応する箇所に配置される。
【0026】
以上が実施の形態に係るステータコア100の構成である。続いてその利点を説明する。
【0027】
図3は、図2(a)の鉄心片10を用いたステータコア100および図1(a)の鉄心片10を用いたステータコア100それぞれの、溶接による径方向の歪みの計算結果を示すチャート図である。計算は、FEM(有限要素法)構造解析を用いて行っており、図1(a)のN=8のモデルと、図2(a)のN=6のモデルについて行った。溶接による変形は、溶接溝18それぞれに対して、鉄心片10の外側から中心方向に向けて加重を与えることで模擬している。チャート中の1〜18はそれぞれティース14の位置を示している。N=8の場合、鉄心片10が楕円形状に変形するのに対して、N=6の場合、変形が抑制されており、溶接後においても真円に近い形状を維持できる。
【0028】
図4は、実施の形態に係るステータコア100を備える回転電動機1の構成を示す断面図である。回転電動機1は、ステータ2とロータ4を備える。ロータ4は、永久磁石を有し、その磁極数Pは16である。ステータ2は、複数の鉄心片10を積層し、複数の溶接溝18において溶接することにより形成されるステータコア100と、ステータコア100のティース14を軸としてスロット16の部分に巻装される巻線20を備える。
【0029】
図4の回転電動機1は、実施の形態に係るステータコア100を備えているため、コギングトルクを低減することができる。図5は、N=8、N=6それぞれにおける、高調波と、コギングトルクの計算結果を示す。N=8の場合、溶接により鉄心片10が楕円形に変形し、それによって2次高調波および8次高調波が顕著に表れることがわかる。このときのコギングトルクは1.15[N・m]である。N=6の場合、溶接による鉄心片10の変形が抑制されるため、2次高調波、8次高調波が低減される。その結果、コギングトルクは0.20[N・m]とN=8の場合の1.15[N・m]に比べて82%低減できる。
【0030】
コギングトルクの低減によって、回転電動機1は、装置の精度の向上、効率の上昇、騒音、振動の低減などの効果を得ることができる。
【0031】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0032】
実施の形態では、鉄心片10が一体形成される場合を説明したが、本発明はそれには限定されない。図6は、変形例に係る鉄心片10の構成を示す平面図である。鉄心片10は、複数S個のティース片22に分割して形成される。複数のティース片22が円環状に連結されることにより、鉄心片10が形成される。個々のティース片22はティース14の中央においてさらに2つのティース片22a、22bに分割されてもよい。
【0033】
図6に示すように、鉄心片10が複数のティース片22の連結により形成される場合においても、図1の鉄心片10と同様に、溶接による変形が発生しうる。したがって複数のティース片を有する鉄心片10についても、第1条件、第2条件を満たすように溶接溝18の個数Nを決定することにより、コギングトルクを低減できる。
【0034】
実施の形態では、スロット数S=18、磁極数P=16の場合を説明したが、本発明はそれには限定されず、任意のスロット数S、任意の磁極数Pの組み合わせに適用可能である。
【0035】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0036】
1…回転電動機、2…ステータ、4…ロータ、100…ステータコア、10…鉄心片、12…ヨーク、14…ティース、16…スロット、18…溶接溝、20…巻線、22…ティース片。
図1
図2
図3
図4
図5
図6