(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、空燃比センサからの空燃比信号に基づいて、空燃比が目標空燃比に対して、リッチまたはリーン側にずれているかを判定している。そのため、空燃比センサで検出される値が正確でない場合、リッチ・リーン判定部によるリッチ・リーン判定を正確に行うことができず、特定気筒におけるリーン異常を正確に検出することができないという問題があった。
そして、排気ガス還流システムを備えている場合には、特定気筒におけるリーン異常を正確に検出することができないと、リーン異常が発生して燃焼が安定していない気筒へ排気ガスを導入してしまうため、失火に至るおそれやエミッションが悪化するおそれもあった。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、特定気筒におけるリーン異常を正確に検出することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一形態は、機関回転数を検出する回転数検出部と、
排気通路の触媒上流側における燃料混合気の空燃比を検出する空燃比検出部とを備え、空燃比(A/F)の学習制御を行う内燃機関の制御装置において、前記回転数検出部により検出される回転数に基づき、回転変動が最も大きい気筒を最悪気筒とし、最悪気筒における回転変動値と最悪気筒以外の気筒における回転変動値の平均値との差分を算出する回転数差分算出部と、前記空燃比検出部により検出されるA/Fに基づき、推定インバランス率を算出する推定インバランス率算出部と、前記回転数差分算出部により算出された回転数差分と、前記推定インバランス率算出部により算出された推定インバランス率とに基づいて、特定気筒におけるリーンインバランス異常を検出するリーン異常検出部を有することを特徴とする。
【0009】
なお、リーンインバランス率とは、気筒間空燃比の相違の程度(差、不均衡の程度)が大きいほど大きくなるか、または、小さくなる値(単調増加するか、または、単調減少する値)であり、空燃比センサの出力値に基づいて得られるA/F変動積算値に対応して変化する値である。
【0010】
この内燃機関の制御装置では、回転数差分算出部において回転数差分を算出し、推定インバランス率算出部において推定インバランス率(全気筒平均値)を算出する。そして、リーン異常検出部において、算出された回転数差分及び推定インバランス率に基づいて、特定気筒におけるリーンインバランス異常を検出する。このように、リーンインバランス異常を検出するために用いるA/F変動値をリッチ側とリーン側とに分けずに、A/F変動積算値に対応する推定インバランス率をリーンインバランス異常の検出に使用している。これにより、リーンインバランス異常の検出ロバスト性を向上させることができるため、空燃比検出部により検出されるA/Fが正確でない場合であっても、特定気筒におけるリーンインバランス異常を正確に検出することができる。
【0011】
そして、上記した内燃機関の制御装置において、前記リーン異常検出部は、前記回転数差分算出部により算出された回転数差分値が予め決められた所定値より大きく、かつ前記推定インバランス率算出部により算出された推定インバランス率が予め決められた所定値以上である気筒でリーンインバランス異常が発生していると判定すれば良い。
【0012】
このようにすることにより、簡単な制御で精度良く特定気筒におけるリーンインバランス異常を正確に検出することができる。
【0013】
上記した内燃機関の制御装置において、気筒ごとに排気ガスを還流するEGR通路と、還流する排気ガスの流量を調整するEGR装置と、前記EGR装置の動作を制御するEGR制御部とを備える排気ガス還流システムを有し、前記EGR制御部は、前記リーン異常検出部によりリーンインバランス異常が検出された場合、排気ガスの導入を制限するように前記EGR装置を制御することが望ましい。
【0014】
排気ガス還流システムを有する場合には、特定気筒におけるリーンインバランス異常が発生しているにもかかわらず、その異常が発生している気筒へ排気ガスが導入されると、失火やエミッションの悪化に至るおそれがある。
そのため、この内燃機関の制御装置では、リーン異常検出部によりリーンインバランス異常が検出された場合、EGR制御部において、排気ガスの導入を制限する。これにより、リーンインバランス異常が発生している気筒への排気ガスの過剰導入がなくなるため、失火やエミッションの悪化に至ることを確実に防止することができる。
【0015】
この場合、上記した内燃機関の制御装置において、前記EGR制御部は、前記推定インバランス率に基づき、排気ガスの導入量あるいは導入開始時期の少なくとも一方を調整することにより、排気ガスの導入を制限するように前記EGR装置を制御すれば良い。
【0016】
このように、排気ガスの導入量あるいは導入開始時期の少なくとも一方を調整することにより、排気ガスの導入を制限することができる。具体的には、排気ガスの導入量を調整(減少)、導入開始時期を調整(遅延)、及び排気ガスの導入量と導入開始時期の両方の調整を行うことができる。そして、排気ガスの導入量は、推定インバランス率が所定値を超えたら推定インバランス率が大きくなるにしたがって徐々に減少するように調整すれば良い。また、排気ガスの導入時期は、推定インバランス率が所定値を超えたら推定インバランス率が大きくなるにしたがって徐々に遅くなるように調整すれば良い。
【0017】
また、上記した内燃機関の制御装置において、機関始動時に燃料噴射量を補正する始動時補正部を有し、前記始動時補正部は、機関始動時に最悪気筒における回転変動値が予め定めた所定値より大きくなった場合、最悪気筒の回転変動値に基づき最悪気筒における燃料噴射量を補正することが望ましい。
【0018】
このように、機関始動時に最悪気筒における回転変動値が予め定めた所定値より大きくなった場合には、リーンインバランス異常が発生していると考えられるため、最悪気筒の回転変動値に基づき最悪気筒における燃料噴射量を増量する。これにより、機関始動時のエミッション及びドライバビリティを向上させることができる。
【0019】
この場合、上記した内燃機関の制御装置において、前記始動時補正部は、内燃機関の運転中に最悪気筒における回転変動値が予め定めた所定値より大きくなった場合、その後の所定期間における前記回転変動値の平均値を記憶し、次回の機関始動時に前記記憶した回転変動値に基づき最悪気筒における燃料噴射量を補正すれば良い。
【0020】
機関始動時に燃料噴射量を補正する場合には、誤判定を防止するために一定以上の判定時間が必要となる。そのため、リーンインバランス異常が発生している場合には、燃料噴射量の増量のタイミングが遅れてしまうため、エミッションの悪化が問題となる。
そこで、この内燃機関の制御装置では、内燃機関の運転中(例えば、車両走行中など)に最悪気筒における回転変動値が予め定めた所定値より大きくなった場合、その後の所定期間における前記回転変動値の平均値を記憶し、次回の機関始動時に前記記憶した回転変動値に基づき最悪気筒における燃料噴射量を補正している。これにより、機関始動直後から早期に燃料噴射量の補正を行うことができるため、リーンインバランス異常が発生している場合に、機関始動時のエミッション及びドライバビリティを一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る内燃機関の制御装置によれば、上記した通り、特定気筒におけるリーン異常を正確に検出することができる。また、リーン異常が発生した場合でも、失火やエミッションの悪化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の内燃機関の制御装置を具体化した実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。そこで、実施の形態に係る制御装置について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、実施の形態に係る制御装置を含むエンジンシステムの概略構成を示す図である。
【0024】
図1に示すように、周知の構造を有する多気筒の内燃機関(エンジン)1は、吸気通路2を通じて供給される燃料と空気との可燃混合気を、各気筒の燃焼室で爆発・燃焼させ、その燃焼後の排気を排気通路3を通じて排出させることにより、ピストン(図示しない)を動作させてクランクシャフト4を回転させ、動力を得るようになっている。
【0025】
吸気通路2に設けられたスロットルバルブ5は、同通路2を流れて各気筒に吸入される空気量(吸気量)QAを調節するために開閉される。このバルブ5は、運転席に設けられたアクセルペダル6の操作に連動して作動する。スロットルバルブ5に対して設けられたスロットルセンサ21は、このバルブ5の開度(スロットル開度)TAを検出し、その検出値に応じた電気信号を出力する。吸気通路2に設けられたエアフローメータ22は、吸気通路2を流れる吸気量QAを計測し、その計測値に応じた電気信号を出力する。
【0026】
各気筒に対応して設けられた燃料噴射弁(インジェクタ)7は、各気筒の吸気ポートに燃料を噴射供給する。各インジェクタ7には、燃料タンク、燃料ポンプ及び燃料パイプ等より構成される燃料供給装置(図示略)により燃料が圧送される。
【0027】
各気筒に対応してエンジン1に設けられた点火プラグ8は、イグナイタ9から出力される高電圧を受けて点火動作をする。各点火プラグ8の点火時期は、イグナイタ9による高電圧の出力タイミングにより決定される。
【0028】
排気通路3に設けられた触媒コンバータ11は、エンジン1から排出される排気を浄化するための三元触媒12を内蔵する。周知のように、三元触媒12は、排気中の一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と、窒素酸化物(NOx)の還元を同時に行う。これにより排気中の有害ガス三成分(CO,HC、NOx)を、無害な二酸化炭素(CO
2)、水蒸気(H
2O)及び窒素(N
2)に清浄化する。三元触媒12の持つ排気清浄化特性は、エンジン1の設定空燃比により大きく変わる。即ち、空燃比(A/F)が薄い(リーン)ときは、燃焼後の酸素(O
2)の量が多くなり、酸化作用が活発に、還元作用が不活発になる。この酸化と還元のバランスがとれたとき(理論空燃比に近付いたとき)、三元触媒12は最も有効に働くことになる。
【0029】
排気通路3において、三元触媒12の上流側にはA/Fセンサ23が、下流側にはO
2センサ24がそれぞれ設けられる。A/Fセンサ23は、エンジン1から排気通路3へ排出される排気中の酸素濃度Oxを電流値として検出し、これを電圧値に変換して空燃比を検出するようになっている。O
2センサ24は、三元触媒12を通過した排気中の酸素濃度Oxを検出し、その検出値に応じた電気信号を出力する。
【0030】
エンジン1に設けられた回転速度センサ25は、クランクシャフト4の角速度、即ち、エンジン回転速度NEを検出し、その検出値に応じた電気信号を出力する。エンジン1に設けられ水温センサ26は、エンジン1の内部を流れる冷却水の温度(冷却水温)THWを検出し、その検出値に応じた電気信号を出力する。また、自動車に設けられた車速センサ27は、自動車の走行速度(車速)SPDを検出し、その検出値に応じた電気信号を出力する。
【0031】
そして、電子制御装置(ECU)30は、スロットルセンサ21、エアフローメータ22、A/Fセンサ23、O
2センサ24、回転速度センサ25、水温センサ26及び車速センサ27から出力される各種信号を入力する。ECU30は、これらの入力信号に基づいてA/F制御、燃料噴射量制御及び燃料噴射時期制御を含む燃料噴射制御、並びに点火時期制御等を実行し、各インジェクタ7及びイグナイタ9を制御する。
【0032】
ここで、A/F制御とは、少なくともA/Fセンサ23からの出力信号に基づいてインジェクタ7を制御することにより、エンジン1での実際のA/Fを目標A/Fにフィードバック制御することである。燃料噴射制御とは、エンジン1の運転状態に応じて各インジェクタ7を制御することにより、燃料噴射量及び燃料噴射時期を制御することである。点火時期制御とは、エンジン1の運転状態に応じてイグナイタ9を制御することにより、各点火プラグ8による点火時期を制御することである。
【0033】
本実施の形態で、ECU30は、本発明の回転数差分算出部、推定インバランス率算出部、リーン異常判定部、EGR制御部、及び始動時補正部に相当する。ECU30は、中央処理装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及びバックアップRAM等よりなる周知の構成を備えたものである。ROMは、前述した各種制御に係る所定の制御プログラムを予め記憶している。ECU30は、これらの制御プログラムに従って前述した各種制御等を実行する。
【0034】
そして、エンジン1の各気筒毎にそれぞれ排出ガスの一部を吸気側に還流させるために、排気通路3と吸気通路2との間にそれぞれEGR通路15が接続されている。EGR通路15には、EGR量(排出ガスの還流量)を調整するEGR装置(EGR弁)16が設けられている。なお、EGR通路15は、排気通路3からEGR装置16までは1本であるが、EGR装置16から吸気通路2までは各吸気通路へ接続するため複数本(例えば、4気筒の場合には4本)に分岐している。
【0035】
EGR装置16の開閉動作は、ECU30により制御される。つまり、ECU30は、図示しないEGR制御ルーチンを実行することで、エンジン運転中にEGR装置16を開閉して気筒毎に排出ガスの一部を吸気側に還流させるEGR制御(排出ガス還流制御)を実行する。
【0036】
続いて、上記したエンジンシステムにおけるリーンインバランス異常判定処理、始動時補正及びEGR制御について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、リーンインバランス異常判定処理、始動時補正及びEGR制御の内容を示すフローチャートである。なお、この処理ルーチンは、数msecサイクルで繰り返し実行される。
【0037】
まず、ECU30は、エンジン1が始動時であるか否かを判定する(ステップS1)。このとき、ECU30は、エンジン1が始動時であると判定した場合には(S1:YES)、前回の車両走行中に最悪気筒の回転変動値(平均値)を記憶したか否かを判定する(ステップS2)。なお、ステップS2において判定する回転変動値の詳細については後述する。
一方、ECU30は、エンジン1が始動時でないと判定した場合には(S1:NO)、ステップS2〜S4の処理をスキップして、ステップS5の処理を行う。
【0038】
ステップS2の処理において、ECU30は、最悪気筒の回転変動値を記憶したと判定した場合には(S2:YES)、前回の車両走行中に記憶した最悪気筒の回転変動値を読み出す(ステップS3)。そして、ステップS3にて読み出した回転変動値に基づき、最悪気筒における燃料噴射量の補正量を決定し、始動時における燃料噴射量の補正を実施する(ステップS4)。
【0039】
具体的に本実施の形態では、例えば、燃料噴射量の補正量を
図3に示すように、最悪気筒の回転変動値が所定値を超えると、回転変動値が大きくなるにしたがって徐々に大きくなるように算出する。つまり、回転変動値が大きいほど始動時における燃料の増量が多くされるのである。これにより、始動直後から早期に燃料噴射量の増量補正を行うことができるため、リーンインバランス異常が発生している場合に、始動時のエミッション及びドライバビリティを向上させることができる。
【0040】
一方、ステップS2の処理において、ECU30は、最悪気筒の回転変動値を記憶していないと判定した場合には(S2:NO)、始動時における最悪気筒の回転変動値が予め定められた所定値より大きいか否かを判定する(ステップS14)。このとき、ECU30は、始動時における最悪気筒の回転変動値が予め定められた所定値より大きいと判定した場合には(S14:YES)、始動時における最悪気筒の回転変動値に基づき、最悪気筒における燃料噴射量の補正量を
図3に示すマップデータを参照して決定し、始動時における燃料噴射量の補正を実施する(ステップS15)。なお、ステップS14の処理において、ECU30は、始動時における最悪気筒の回転変動値が予め定められた所定値以下であると判定した場合には(S14:NO)、ステップS15の処理をスキップして、ステップS5の処理を行う。
このようなステップS1〜S4,S14,S15の処理が、本発明の始動時補正部による始動時補正制御となる。
【0041】
続いて、ECU30は、始動時補正を実行したか否かを判定する(ステップS5)。すなわち、ステップS4又はS15のいずれかの処理が行われたか否かを判定するのである。そして、ECU30は、始動時補正を実行したと判定した場合には(S5:YES)、始動時補正実行履歴フラグをONにし(ステップS6)、始動時補正を実行していないと判定した場合には(S5:NO)、始動時補正実行履歴フラグをOFFにする(ステップS16)。
【0042】
次に、ECU30は、第i気筒(例えば4気筒エンジンの場合にはi=1〜4)にリーンインバランス異常が発生しているか否かを判定する(ステップS7)。具体的に本実施の形態では、回転速度センサ25により検出される回転数に基づき算出される最悪気筒(第i気筒)における回転変動値と最悪気筒以外の気筒における回転変動値との差分である回転数差分と、A/Fセンサ23により検出されるA/Fに基づき算出される推定インバランス率と、始動時補正実行フラグとに基づいて、第i気筒におけるリーンインバランス異常の発生を判定している。このステップS7の処理が、本発明のリーン異常検出部によるリーンインバランス異常の判定となる。
【0043】
ここで、回転数差分の算出方法について簡単に説明する。まず、回転速度センサ25により検出される回転数(角速度)に基づき、クランク角30°CA毎の角速度が最も遅い気筒を最悪気筒とする。次に、最悪気筒の回転変動値(N回平均値)と、最悪気筒以外の気筒における回転変動値(N回平均値)とを算出する。そして、最悪気筒の回転変動値(N回平均値)と最悪気筒以外の気筒における回転変動値(N回平均値)との差分を算出して回転数差分としている。
なお、推定インバランス率とは、気筒間空燃比の相違の程度(差、不均衡の程度)が大きいほど大きくなるか、または、小さくなる値(単調増加するか、または、単調減少する値)であり、空燃比センサの出力値に基づいて得られるA/F変動積算値に対応して変化する値である。
【0044】
そして、ステップS7の処理では、ECU30は、上記の回転数差分が予め定められた所定値よりも大きく、かつ推定インバランス率が予め定められた所定値以上であって、始動時補正実行履歴フラグがONになっている場合には、リーンインバランス異常が発生していると判定する。一方、ECU30は、上記の回転数差分が予め定められた所定値以下である、推定インバランス率が予め定められた所定値より小さい、始動時補正実行履歴フラグがOFFであるの1つでも該当する場合には、リーンインバランス異常が発生していないと判定する。
【0045】
このように、本実施の形態では、リーンインバランス異常を検出するために用いるA/F変動値をリッチ側とリーン側とに分けずに、A/F変動積算値に対応する推定インバランス率をリーンインバランス異常の検出に使用している。そして、始動時補正実行履歴フラグの状態も判定基準に加えている。これらのことから、リーンインバランス異常の検出ロバスト性を向上させることができるため、A/Fセンサ23により検出されるA/Fが正確でない場合であっても、第i気筒におけるリーンインバランス異常を正確に検出することができる。
【0046】
なお、本実施の形態では、始動時補正実行履歴フラグの状態をリーンインバランス異常の判定に使用しているが、これは必須条件ではない。すなわち、少なくとも回転数差分と推定インバランス率とに基づいて、リーンインバランス異常の判定を行うことにより、第i気筒におけるリーンインバランス異常を簡単な制御で精度良く検出することができる。
【0047】
そして、ECU30は、ステップS7の処理にて、第i気筒でリーンインバランス異常が発生していると判定した場合には(S7:YES)、リーンインバランス判定フラグをONにして(ステップS8)、ステップS9の処理を行う。一方、ECU30は、ステップS7の処理にて、いずれの気筒においてもリーンインバランス異常が発生していないと判定した場合には(S7:NO)、リーンインバランス判定フラグをOFFにして(ステップS17)、ステップS18の処理を行う。
【0048】
ステップS9の処理では、ECU30は、EGR制御が実施されているか否かを判定する。このとき、EGR制御が実施されている場合には(S9:YES)、ECU30は、推定インバランス率に応じて排気ガスの導入開始時期を算出するとともに(ステップS10)、推定インバランス率に応じてEGR装置16の開度を算出する(ステップS11)。そして、ECU30は、S10,S11で算出した導入開始時期及び開度に基づきEGR制御を実施する。この処理が、本発明のEGR制御部による排気ガスの導入制限制御である。
なお、EGR制御が実施されていない場合には(S9:NO)、ステップS10,S11の処理をスキップして、ステップS12の処理を行う。
【0049】
ここで、本実施の形態では、ステップS10の処理において、例えば、排気ガスの導入開始時期の遅延時間を
図4に示すように、推定インバランス率が所定値を超えると、推定インバランス率が大きくなるにしたがって徐々に大きくなるように算出する。また、ステップS11の処理において、例えば、EGR装置16の開度を
図5に示すように、推定インバランス率が所定値を超えると、推定インバランス率が大きくなるにしたがって徐々に小さくなるように算出する。
【0050】
このような処理により、リーンインバランス異常が発生している第i気筒に対する排気ガスの導入を制限することができる。従って、第i気筒への排気ガスの過剰導入がなくなるため、失火やエミッションの悪化に至ることを確実に防止することができる。
【0051】
一方、ステップS18の処理でも、ECU30は、EGR制御が実施されているか否かを判定する。このとき、EGR制御が実施されている場合には(S18:YES)、ECU30は、従来と同様の方法により排気ガスの導入開始時期を算出するとともに(ステップS19)、EGR装置16の開度を算出する(ステップS20)。そして、ECU30は、S19,S20で算出した導入開始時期及び開度に基づきEGR制御を実施する。この処理は、従来から行われているEGR制御である。
なお、EGR制御が実施されていない場合には(S18:NO)、ステップS19,S20の処理をスキップして、ステップS12の処理を行う。
【0052】
そして、ECU30は、最悪気筒の回転変動値が予め定められた所定値より大きいか否かを判定する(ステップS12)。なお、ステップS12において使用する最悪気筒の回転変動値はN回平均値である。このとき、ECU30は、最悪気筒の回転変動値が予め定められた所定値より大きいと判定した場合には(S12:YES)、その回転変動値を記憶する(ステップS13)。すなわち、リーンインバランス異常が発生していると考えられる状態において、そのときの最悪気筒の回転変動値を記憶しておくのである。そして、前述したように、このとき記憶した最悪気筒の回転変動値を使用して、エンジン1の始動時に始動直後から早期に燃料噴射量の補正を行うことができるようにしている(S1〜S4の処理参照)。
【0053】
続いて、上記の処理が実施された際における各種制御値とエンジン及びEGRシステムの各状態について、
図6を参照しながら説明する。
図6は、リーンインバランス異常判定処理、始動時補正及びEGR制御における各種制御値とエンジン及びEGRシステムの各状態の一例を示すタイミングチャートである。ここでは、エンジン1の稼働中(車両走行中)にリーンインバランス異常が発生した場合を例示している。
【0054】
時刻t1において、リーンインバランス異常が発生すると、推定インバランス率、最悪気筒の回転変動値及び回転数差分がそれぞれ増加し始める。そして、時刻t2において、推定インバランス率が所定値以上となる。しかしながら、回転数差分が所定値以下であるためリーンインバランス判定フラグはOFFとされる(
図2S7:NO,S17)。そして、時刻t3において、EGR制御が実行される(
図2のS17,S18:YES,S19,S20)。このときのEGR制御は従来と同様である。
【0055】
そして、時刻t4において、最悪気筒の回転変動値が所定値より大きくなるため、時刻t4から所定時間における回転変動の平均値が算出され、それが回転変動値として記憶される(
図2のS12:YES,S13)。その後、時刻t5において、排気ガスの導入が開始されEGR装置16が開かれる。
【0056】
次に、エンジン1が始動されるときについて説明する。エンジン1が始動されると、時刻t6においてクランキングが開始され、時刻t7において始動時補正が実施される(
図2のS1:YES)。このとき、前回の車両走行時に、最悪気筒の回転変動値を記憶しているため、その回転変動値に応じて補正が実行される。つまり、始動時には、前回走行時における最悪気筒の回転変動値が保持されて、始動時の燃料噴射量の増量補正が実施される(
図2のS2:YES,S3,S4)。そして、始動時補正実行履歴フラグがONされる(
図2のS5:YES,S6)。
【0057】
これにより、本実施の形態は、時刻t8にて最悪気筒の回転変動値が所定値より大きくなって始動時補正が実行される従来技術と比較すると(
図6の破線参照)、始動直後から早期に燃料噴射量の補正を行うことができる。このため、リーンインバランス異常が発生している場合に、始動時のエミッション及びドライバビリティを向上させることができる。
【0058】
その後、車両走行中の時刻t9において、推定インバランス率が所定値以上となる。しかしながら、このとき、最悪気筒の回転数差分が所定値以下であるため、リーンインバランス異常は発生していないと判定され、リーンインバランス判定フラグがOFFとされる(
図2のS7:NO,S17)。
【0059】
そして、時刻t10において、回転数差分が所定値より大きくなる。このとき、始動時補正実行履歴フラグがONであるとともに、推定インバランス率が所定値以上であるため、リーンインバランス異常が発生していると判定され、リーンインバランス判定フラグがONにされる(
図2のS7:YES,S8)。
【0060】
その後、時刻t11において、EGR制御が開始(EGR ON)される。そうすると従来の制御では、少し遅れて時刻t12において、EGR装置が作動して排気ガスの導入が開始される。
これに対して、本実施の形態では、時刻t12よりも遅い時刻t13において、EGR装置16が作動して排気ガスの導入が開始される(
図2のS10,S11)。そして、
図6に示すように、EGR装置16の開度が従来よりも小さくされている。これにより、リーンインバランス異常が発生している第i気筒に対する排気ガスの導入を制限することができる。従って、第i気筒への排気ガスの過剰導入がなくなるため、失火やエミッションの悪化に至ることを確実に防止することができる。
【0061】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係る制御装置によれば、ECU30において、回転数差分が予め定められた所定値よりも大きく、かつ推定インバランス率が予め定められた所定値以上であって、始動時補正実行履歴フラグがONになっている場合には、リーンインバランス異常が発生していると判定する。このように、リーンインバランス異常を検出するために用いるA/F変動値をリッチ側とリーン側とに分けずに、A/F変動積算値に対応する推定インバランス率をリーンインバランス異常の検出に使用している。また、始動時補正実行履歴フラグの状態も判定基準に加えている。これらのことから、リーンインバランス異常の検出ロバスト性を向上させることができるため、A/Fセンサ23により検出されるA/Fが正確でない場合であっても、第i気筒におけるリーンインバランス異常を正確に検出することができる。
【0062】
また、リーンインバランス異常が発生している場合、ECU30は、EGR制御が実施されると、推定インバランス率に応じて、排気ガスの導入開始時期及びEGR装置16の開度を算出してEGR制御を実施する。これにより、リーンインバランス異常が発生している第i気筒に対する排気ガスの導入を制限することができ、第i気筒への排気ガスの過剰導入がなくなるため、失火やエミッションの悪化に至ることを確実に防止することができる。
【0063】
さらに、エンジン1の始動時に、前回の車両走行中に最悪気筒の回転変動値が記憶されている場合、ECU30は、その回転変動値に基づき、最悪気筒における燃料噴射量の補正量を決定し、始動時における燃料噴射量の補正を実施する。これにより、始動直後から早期に燃料噴射量の増量補正を行うことができるため、リーンインバランス異常が発生している場合に、始動時のエミッション及びドライバビリティを向上させることができる。
【0064】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、排気ガス還流システムを備えているエンジンシステムを例示したが、排気ガス還流システムを備えていないエンジンシステムに対しても本発明の一部を適用することができる。