(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記アルミニウム材料体、上記アルミニウム素管体及び/又は上記ナノ構造体作製用ドラム状型体が、マグネシウム(Mg)を1000質量ppm以下で含有するものである請求項1に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法。
上記アルミニウム素管体を、鉄を100質量ppm以下で含有するアルミニウム材料体を用いてマンドレル押出成形することを含む方法によって作製する請求項1又は請求項2に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法。
上記ナノ構造体作製用ドラム状型体が、鉄を100質量ppm以下で含有するものである請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法。
上記アルミニウム材料体、上記アルミニウム素管体及び/又は上記ナノ構造体作製用ドラム状型体が、鉄、ケイ素及び銅の合計を300質量ppm以下で含有するものである請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法。
上記アルミニウム材料体を外周切削した後、マンドレル押出成形することを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法。
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法を使用してナノ構造体作製用ドラム状型体を製造し、得られたナノ構造体作製用ドラム状型体にナノ構造体形成材料を連続的に埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料又は該ナノ構造体形成材料が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用ドラム状型体から連続的に剥離することを特徴とするナノ構造体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、ナノ構造体においては、その表面の反射率を如何に低下させるかということが大きな課題であり、ナノ構造体の表面に発生する目視できる欠陥、ナノ構造体の表面の場所による反射率の不均一性、ヘイズが高く透明性が劣ること等についてはあまり着目されておらず、従って解決すべき課題としてはあまり取り上げられていなかった。
【0009】
従来、「アルミニウム材の表面に、陽極酸化とエッチング等の孔拡大処理とを交互に繰り返すことにより、テーパー形状の孔(ポア)を有する型体(鋳型)を作製する工程、すなわち、可視光の反射率を下げる特定の微細構造(モスアイ(蛾の目)構造)を有する型体(鋳型)を作製する工程」において、該アルミニウム材としては、ガラス、樹脂、ステンレス等の異種金属、純度の低いアルミニウム等の表面にアルミニウムを蒸着させた部材が一般に用いられていた。
【0010】
しかしながら、該アルミニウム材として上記のように、アルミニウムを蒸着させた部材を使用すると、コストがかかる、メンテナンスが面倒である、アルミニウム蒸着膜と型体の基材との密着性が弱いためにアルミニウム蒸着膜の剥離が起こり易くナノ構造体作製用の型体(鋳型)として寿命が短い、蒸着装置の初期費用がかかり過ぎて大面積の蒸着(大面積の型体)ができない等の問題があった。
【0011】
そこで、本発明者は、アルミニウムを蒸着させた部材に代えて、アルミニウム素管体の表面に、上記方法でテーパー形状の孔(ポア)を形成させ、それをナノ構造体作製用ドラム状型体とし、該ナノ構造体作製用ドラム状型体に、連続的にナノ構造体形成材料を埋め込んだ後に剥離することによって、例えばグラビア印刷のように、ナノ構造体を連続的に作製する方法の検討を行なっていた。
すなわち、型体の出発物体として、アルミニウムを蒸着させた部材に代えて、アルミニウム素管体を使用して検討を行なっていた。
ここでアルミニウム素管体とは、ドラム形状の型体を作製するための材料となる、アルミニウム製の管材を言う。
【0012】
しかし、型体の出発物体としてアルミニウム素管体を使用すると、型体の出発物体として、アルミニウムを蒸着させた部材を使用したときに発生していた前記した問題は発生しないものの、アルミニウム素管体から得られる型体に、目視できる点状等の欠陥が発生したり、型体を転写して得られるナノ構造体の表面に目視できる点状等の欠陥が発生したりするといった問題点が新たに発生した。
【0013】
特に、FDP、商業ディスプレイ、展示ケース等に使用する場合等、欠陥の存在は、商品価値を著しく下げてしまうため、これらの性能については非常に高度に要求される。
【0014】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、アルミニウム素管体の表面に陽極酸化皮膜形成工程とエッチング工程を繰返し行なって得られるテーパー形状を有するポアをその表面に有するナノ構造体作製用ドラム状型体を用い、それを鋳型として表面形状を転写して得られるナノ構造体において、その表面に発生する目視できる欠陥を極めて少なくすること、ナノ構造体作製用ドラム状型体の表面に発生する目視できる欠陥を極めて少なくすること、ナノ構造体作製用ドラム状型体を安価に提供すること等である。
以下、本発明において、「ナノ構造体作製用ドラム状型体の表面又はナノ構造体の表面に存在する目視できる点状等の欠陥」を、単に「欠陥」と略記することがある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明は、前記背景技術、及び、発明者が新たに見出した上記課題の解決の必要性に鑑みてなされたものであり、本発明者は、まず、ナノ構造体の欠陥を低減するには、その型体(鋳型)となるナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法から改良しなければならないことを見出した。
【0016】
ナノ構造体作製用ドラム状型体においては、内部に冷却水を流して温度制御を行う必要性等から、内部の一部が空状であるドラム状の型体が用いられる。
本願発明者は、アルミニウムを蒸着する方法では、前述の通り、コストや型体の耐久性に難があることを見出したことから、アルミニウム素管体を作製し、この外周側の表面にナノ構造(微細構造)を設ければよいことを見出して、それについて検討した。
【0017】
アルミニウム素管体を作製する方法としては、鋳型を用いて鋳造で素管を作製する方法や押出成形工程と引抜き工程を含む方法が考えられるが、生産性の点では後者の方法が優れる。
【0018】
また、押出成形方法としては、ポートホール押出成形やマンドレル押出成形があるが、前者が一般的に用いられている。
「ポートホール押出成形」とは、通常4〜6に分割したブリッジ部と突起部分を持つオス型とメス型のふたつのダイスを組み合わせてセットし、そこにアルミニウム材料体を押し付ける方法であり、オス型のブリッジ部でアルミニウム材料体が分流し、オス型の突起とメス型の作る空隙で再び溶着されて(溶着された部分を繋ぎ目部分と言う場合がある)中空形状を成形する。ポートホール押出成形のオス型(右側)とメス型(左側)のダイス概略図を
図6(b)に示す。
【0019】
オス型は、通常4〜6に分流するように設計される。ポートホール押出成形は、形状押出圧力が低くても押出可能である点、製造コストがかからない点、偏肉精度が出せる点等から、マンドレル押出成形よりポートホール押出成形が汎用的に用いられている。
【0020】
一方、マンドレル押出成形は、例えば、アルミニウム材料体にマンドレルを貫通させてセットし押出する方法で、マンドレルと円形のダイスの空隙部とで管状に成形する。マンドレル押出成形のダイスの概略図を
図6(a)で示す。
【0021】
マンドレル押出成形は、溶着部のない押出法であるが、反り、偏肉等が出易く、寸法精度が出し難いので、また、特に偏肉は引き抜いても矯正し難いということもあり、純アルミニウム系等の柔らかい材料には、マンドレル押出成形することは通常は行われない。
【0022】
本願発明者は、ポートホール押出成形の工程後、引抜き工程を行ったアルミニウム素管体(以下、「ポートホール押出成形アルミニウム素管体」と略記する場合がある)を用いて、後述する方法でナノ構造体作製用ドラム状型体を作製し、更に、この型体を用いて、反射防止膜等のナノ構造体を作製した。
その結果、ポートホール押出成形工程に起因とする欠陥が、ナノ構造体作製用ドラム状型体の作製工程で発生することが判明した。
【0023】
また、この欠陥は、後述するように、ポートホール押出成形工程での繋ぎ目部分に多く発生していることも分かった。
本願発明者は、原因を各工程での状況により解析したところ、ポートホール押出成形の材料であるアルミニウム素管体自体にはポートホール押出成形工程での繋ぎ目部分に起因するような欠陥は目視で確認できなかった。そのため、アルミニウム材料体の溶着が十分に行われていると判断した。
【0024】
次の機械研摩工程の表面粗さの低減等を目的とした前処理段階でも、表面粗さの低減が実現できていて、特に不具合が発生しておらず、欠陥は目視で確認できなかった。
ところが、陽極酸化とエッチングを繰り返し行い、テーパー形状の凹部又は凸部を有するナノ構造(微細構造)をアルミニウム素管体の表面に作製する工程に進むと、欠陥が目視で確認できるようになった。
本願発明者は、この欠陥がポートホール押出成形工程での繋ぎ目部分に多く発生し、窪んだ形状をしていることを発見し、そのような欠陥を回避しなくてはならないことを見出した。
【0025】
以上の結果を考慮して、ナノ構造体作製用ドラム状型体の作製時において発生する前記のような欠陥を防止するためには、アルミニウム材料体を押出時に分流しない方式である、前記マンドレル押出成形で作製すれば「欠陥」の発生を解決できるのではないかと考えた。
しかし、単に、マンドレル押出成形を含んだ製造法によるアルミニウム素管体を採用するだけでは欠陥を十分に抑えることができず、そして、アルミニウム材料体を用いて、押出成形でアルミニウム素管体を製造する際に、マンドレル押出成形を採用し、かつ、該アルミニウム材料体は、鉄(Fe)の含有量が100質量ppm以下であるとき、初めて、そうして得られるナノ構造体作製用ドラム状型体やこれを鋳型として転写して得られるナノ構造体には、欠陥がなく、ヘイズを充分に下げられて高い透明性を獲得できることを見出して本発明に到達した。
【0026】
すなわち、本発明は、ナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法であって、
アルミニウム素管体の表面に、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で、テーパー形状を有するポアを形成するように、該アルミニウム素管体の表面を陽極酸化処理する陽極酸化皮膜形成工程と該陽極酸化皮膜をエッチング処理するエッチング工程のふたつの工程を繰り返し行って、該表面にテーパー形状を有するポアを形成する工程を有するナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法であって、
該アルミニウム素管体は鉄を100質量ppm以下で含有するものであり、該アルミニウム素管体を、アルミニウム材料体を用いてマンドレル押出成形することを含む方法によって作製することを特徴とするナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法を提供するものである。
【0027】
また、本発明は、上記のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法を使用してナノ構造体作製用ドラム状型体を製造し、得られたナノ構造体作製用ドラム状型体にナノ構造体形成材料を連続的に埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料又は該ナノ構造体形成材料が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用ドラム状型体から連続的に剥離することを特徴とするナノ構造体の製造方法を提供するものである。
【0028】
また、本発明は、上記のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法を使用して製造されたものであることを特徴とするナノ構造体作製用ドラム状型体を提供するものである。
【0029】
また、本発明は、上記のナノ構造体の製造方法を使用して製造されたものであることを特徴とするナノ構造体を提供するものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、前記問題点と課題を解決し、型体製造の出発物体として、アルミニウムを蒸着させた部材に代えてアルミニウム素管体を使用することによって、型体の製造コストが安くできる、型体のメンテナンスが容易である、ナノ構造体作製用の型体(鋳型)としての寿命が長い、大面積の型体が容易に製造できる等の効果を奏し、ナノ構造体の生産効率、ナノ構造体の製造コスト等に関して極めて有利となる。
【0031】
また、鉄を100質量ppm以下で含有するアルミニウム材料体を用いてマンドレル押出成形を含む方法で製造したアルミニウム素管体を使用することによって、アルミニウム素管体を使用したナノ構造体作製用ドラム状型体を作製する際に発生し易かった点状等の欠陥の発生を極めて少なくできる、効果を奏する。
すなわち、本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法を使用して得られたナノ構造体作製用ドラム状型体を用いれば、欠陥が極めて少ないナノ構造体を得ることができる効果を奏する。また、こうして得られたナノ構造体はヘイズが充分に低く、高い透明性を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0034】
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法は、アルミニウム素管体の表面に、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で、テーパー形状を有するポアを形成するように、該アルミニウム素管体の表面を陽極酸化処理する陽極酸化皮膜形成工程と該陽極酸化皮膜をエッチング処理するエッチング工程のふたつの工程を繰り返し行って、該表面にテーパー形状を有するポアを形成する工程を有するナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法であって、
該アルミニウム素管体は鉄を100質量ppm以下で含有するものであり、該アルミニウム素管体を、アルミニウム材料体を用いてマンドレル押出成形を含む方法によって作製することを特徴とする。
【0035】
<ナノ構造体>
ナノ構造体作製用ドラム状型体(以下、単に「型体」と略記することがある)は、ナノ構造を利用したナノ構造体を作製するためのものである。
本発明におけるナノ構造体は、表面に光の反射防止機能を有する光反射防止体(光反射防止膜)、光の透過率が向上した高光透過率体(高光透過率膜)等を包含する。また、本発明におけるナノ構造体の表面の凹凸形態としては、前記特許文献の何れかの文献に記載のものも挙げられる。
【0036】
ナノ構造体は、例えば、表面にモスアイ(蛾の眼)構造と呼ばれる構造を有しており、一般には空気等の気体に接する最表面からナノ構造体の内部に入っていくに従って、徐々にナノ構造体の部分が多くなり、そのため屈折率がナノ構造体の内部に入っていくに従って、徐々に大きくすることで反射を防止する。なお、一般に、屈折率が急激に(不連続に)変化する表面があると、正反射率が大きくなる。
【0037】
図1に、本発明におけるナノ構造体の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(100000倍)を示した。
【0038】
ナノ構造体の好ましい形態は、その表面に平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在しているものである。平均高さ又は平均深さが、小さすぎると、良好な光学特性が発現されない場合があり、大きすぎると、製造が困難になる等の場合がある。
凸部と凹部が連結して波打った構造を有している場合では、最高部(凸部の上)と最深部(凹部の下)の平均長さは、100nm以上1000nm以下であることが同様の理由から特に好ましい。
【0039】
ナノ構造体は、その表面に、上記凸部又は凹部が、少なくともある一の方向の平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されている。凸部又は凹部は、ランダムに配置されていてもよいし、規則性を持って配置されていてもよいが、本発明のように、アルミニウム材料の表面を処理して該表面にテーパー形状を有するポアを形成した型体を用いて得られたナノ構造体では、通常は、該凸部又は凹部はランダムに配置される。
少なくとも、ある一の方向について、平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていればよく、全ての方向に、その平均周期が50nm以上400nm以下となっている必要はない。
【0040】
<ナノ構造体作製用ドラム状型体>
本発明におけるナノ構造体作製用ドラム状型体は、アルミニウム素管体の表面に陽極酸化皮膜が形成されたものであり、該陽極酸化皮膜は、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でポアを有している。
図2に、本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(100000倍)を示した。
【0041】
ナノ構造体作製用ドラム状型体は、その表面の形状を転写させて、上記のようなナノ構造体を作製するためのものであるので、本発明におけるナノ構造体作製用ドラム状型体の方も、表面に上記形状を有している。
該型体は、ナノ構造体を製造する際の鋳型となるものであるから、その表面形状は、上記したナノ構造体の表面形状(凸部又は凹部の平均高さ又は平均深さと、その凸部又は凹部の、少なくともある一の方向に対しての平均周期)とほぼ一致する。該型体の好ましい表面形態も、上記したナノ構造体の好ましい形態と同様である。
【0042】
<ナノ構造体作製用ドラム状型体の製造工程>
図3に、本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体23の製造方法の概略を示した。
最初の押出成形工程では、アルミニウム材料体21を押出成形してアルミニウム押出成形体22を得る。次いで、必要に応じて引抜き、研摩等の中間工程を経てアルミニウム素管体とし、更に、ポア形成工程で表面にテーパー形状を有するポアを形成して、ナノ構造体作製用ドラム状型体23を製造する。
アルミニウム押出成形体22を、中間工程を経ず、そのままアルミニウム素管体として使用してもよい。
【0043】
<<押出成形工程>>
[アルミニウム材料体、アルミニウム素管体、ナノ構造体作製用ドラム状型体]
本発明における上記「アルミニウム材料体21」とは、アルミニウム材料でできており、これを用いてマンドレル押出成形をしてアルミニウム素管体を作製するための原料体をいい、最初の押出成形工程で原料として使用される。
アルミニウム材料体21の形状は、押出成形できるような形状であれば特に限定はなく、一般には、押出成形に使用される装置からの要請で決められる。
【0044】
アルミニウム材料体の材質である「アルミニウム材料」とは、主成分がアルミニウム(Al)であるものをいい、純アルミニウム(1000系)、アルミニウム合金の何れでもよい。ここで、「主成分」とは90質量%以上で含有されている金属成分をいう。
後述するように、鉄、ケイ素及び銅以外の金属は、含有量が多くても比較的「欠陥」の原因にはなり難いので、アルミニウム合金も用いられ得る。
【0045】
「純アルミニウム」とは、純度99.00質量%以上のアルミニウムをいい、本発明で使用可能な「純アルミニウム」としては、好ましくは純度99.50質量%以上、より好ましくは純度99.85質量%以上、特に好ましくは純度99.95質量%以上、最も好ましくは純度99.99質量%以上である。純度が低いと、不純物金属の種類にもよるが、「欠陥」が生じる原因になる場合がある。
【0046】
「アルミニウム合金」は特に限定はないが、例えば、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Mg系合金(5000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)等が挙げられる。アルミニウム合金は、「欠陥」が生じない範囲で用いられる。特に、マグネシウム(Mg)が多いものは、「欠陥」が生じ易い場合がある。
これらの中でも、「欠陥」が生じ難い点から、前述した「純アルミニウム」が好ましい。
【0047】
本発明においては、アルミニウム素管体の鉄(Fe)の含有量が100質量ppm以下であることが必須である。
また、アルミニウム材料体を押出成形してアルミニウム素管体を製造するので、アルミニウム材料体の鉄(Fe)の含有量も100質量ppm以下であることが好ましい。すなわち、本発明においては、鉄を100質量ppm以下で含有するアルミニウム材料体を用いてマンドレル押出成形することが好ましい。
また、アルミニウム素管体は、ポア形成工程を経て、ナノ構造体作製用ドラム状型体となるので、ナノ構造体作製用ドラム状型体の型体部分、すなわち、中間工程において取り付けられた印刷機用の軸等の付帯物を除いた本体の型体部分も、鉄を100質量ppm以下で含有するものであることが好ましい。
【0048】
特に好ましくは、アルミニウムインゴット材を溶解させ偏析法により高純度化させ、その後、融解中に所望のアルミニウム材料体とすることが好ましい。
本発明においては、アルミニウム材料体に含まれる他の金属の含有量は、GDMSによる常法での測定値として定義される。
アルミニウム材料体やアルミニウム素管体は、GDMSによって管理しながら製造することが好ましい。
ここで、「質量ppm」とは、単位を質量として算出した「ppm」をいう。以下、「質量ppm」を単に「ppm」と略記する場合がある。
【0049】
アルミニウム材料体、アルミニウム素管体、「印刷機用の軸等の付帯物を除いたナノ構造体作製用ドラム状型体部分」の何れにおいても、鉄(Fe)は、60ppm以下がより好ましく、25ppm以下が特に好ましく、10ppm以下が更に好ましく、5ppm以下が最も好ましい。
また、下限は特に限定はないが、必要以上に鉄の含有量が低いアルミニウム材料体を作ろうとすると、製造コストが上昇するので、0.1ppm以上が好ましく、0.5ppm以上がより好ましく、1ppm以上が特に好ましい。
【0050】
アルミニウム材料体、アルミニウム素管体、「軸等の付帯物を除いたナノ構造体作製用ドラム状型体」の何れにおいても、鉄(Fe)の含有量が上記範囲内であると、ナノ構造体作製用ドラム状型体に「欠陥」がなくなる、又は、極めて少なくなる。従って、その型体から得られたナノ構造体にも、「欠陥」がなくなる、又は、極めて少なくなる。
【0051】
また、鉄(Fe)の含有量が上記範囲内であると、該型体から得られたナノ構造体のヘイズが小さくなり、可視光における透明性が良好となる。
鉄の含有量は、製造コスト等を考慮しなければ、低ければ低い程、型体やナノ構造体の「欠陥」は少なくなり、ナノ構造体のヘイズ(透明性)は良好となる。
【0052】
前記した通り、「欠陥」とは、「ナノ構造体作製用ドラム状型体の表面又はナノ構造体の表面に存在する目視できる点状等の欠陥」をいう。
図4に、ナノ構造体作製用ドラム状型体の表面の代表的「欠陥」の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示し、
図5に、ナノ構造体の表面の代表的「欠陥」の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
「欠陥」の大きさは、目視できれば限定はないが、平均の差渡し長さとして約10μm〜約1000μmである。また、形状は、点状に限らず、
図4及び
図5に示したように種々ある。
【0053】
型体の表面に発生する「欠陥」は、押出成形後のアルミニウム素管体の表面には通常現れない。すなわち、「欠陥」は目視できるものであるが、押出成形後のアルミニウム素管体の表面では通常見えない。
しかしながら、該アルミニウム素管体に対し、陽極酸化処理とエッチング処理とを繰り返し行って、該表面にテーパー形状を有するポアを形成するポア形成工程を行なった後のナノ構造体作製用ドラム状型体の表面では目視できるようになる。
このため、「欠陥」の存在には気付き難く、最終的な型体の表面又はナノ構造体の表面で目視できても(気付いても)、その「欠陥」の原因が、ポア形成工程より前の押出成形工程にあることは推定し難い。
【0054】
アルミニウム材料体中の鉄(Fe)以外の元素については、特に限定はないが、鉄(Fe)、ケイ素(Si)及び銅(Cu)の合計の含有量が300ppm以下であることが、型体やナノ構造体の「欠陥」をなくす又は少なくするためや、ナノ構造体のヘイズを下げるために好ましい。
すなわち、上記アルミニウム材料体、上記アルミニウム素管体、及び/又は、上記「印刷機に取り付け用の軸等の付帯物を除いたナノ構造体作製用ドラム状型体」が、鉄(Fe)、ケイ素(Si)及び銅(Cu)の合計で300質量ppm以下含有するようなナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法が好ましい。
【0055】
アルミニウム素管体の不純物はGDMSにより測定し、鉄、ケイ素及び銅の合計は、より好ましくは200ppm以下、特に好ましくは100ppm以下、更に好ましくは70ppm以下、最も好ましくは40ppm以下である。
鉄を前記した範囲に含み、かつ、鉄、ケイ素及び銅の合計を上記した範囲に含むときに、型体やナノ構造体の「欠陥」がなくなり、ナノ構造体のヘイズをより下げるために特に好ましい。
【0056】
チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)等の「鉄、ケイ素及び銅以外の元素」の含有量は、型体やナノ構造体の「欠陥」や、ナノ構造体のヘイズに対して、「鉄」の含有量や「鉄、ケイ素及び銅の合計」の含有量に比べれば影響は大きくない。しかし、アルミニウム材料体、アルミニウム素管体、「軸等の付帯物を除いたナノ構造体作製用ドラム状型体」の何れにおいても、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)等の含有量が多過ぎると「欠陥」が増大する傾向がある。
【0057】
具体的には、マグネシウム(Mg)は、5000ppm以下が好ましく、3000ppm以下がより好ましく、1000ppm以下が特に好ましい。また、チタン(Ti)については、500ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましく、100ppm以下が特に好ましい。
【0058】
[マンドレル押出成形]
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法においては、アルミニウム素管体を、アルミニウム材料体を用いてマンドレル押出成形することによって作製することが必須である。つまり、本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法は、アルミニウム素管体を作製する方法において、マンドレル押出成形を必須として含む方法である。
押出成形には、熱間押出、温間押出及び冷間押出があるが、押出圧力が低くても押出可能である点、寸法精度が出し易い点、偏肉が発生し難い点、反り難い点、温間押出及び冷間押出では押出時の発熱を冷却しなくてはならないが、冷却が不要である点、等から熱間押出が好ましい。
【0059】
本願発明において、「マンドレル押出成形」とは、例えばアルミニウム材料体に芯棒(マンドレル)を貫通させて押出機にセットし、加圧ロッドで加圧し、成形する方法であり、マンドレルとダイスの空隙部の形状で管状に成形する成形方法を言う。ダイスによってアルミニウム材料体を分流させない特徴を持つ。
【0060】
マンドレル押出成形以外の成形方法(例えば、ポートホール押出成形)であると、たとえ、鉄を100ppm以下で含有する場合であっても、更には、鉄を100ppm以下で含有し、かつ、鉄、ケイ素及び銅の合計を300質量ppm以下で含有する場合であっても、型体に「欠陥」が生じる場合がある。また、型体に「欠陥」が生じれば、ナノ構造体にも「欠陥」が生じたり、ヘイズが上昇したりする場合がある。
【0061】
本発明は、アルミニウム素管体を、アルミニウム材料体21を用いてマンドレル押出成形することを含む方法によって作製することを特徴とする。
押出成形には、マンドレル押出成形、ポートホール押出成形等がある。
図6に、押出成形のダイス形状の概略横断面図を示す。
図6(a)はマンドレル押出成形のダイス形状であり、
図6(b)はポートホール押出成形のダイス形状である。
【0062】
マンドレル押出成形では、ダイスの断面形状が
図6(a)のようになっているため、材料の溶着部分がない。
一方、ポートホール押出成形では、ダイスの断面形状が
図6(b)のようになっているため、材料は押出時には板状になって分かれて出て来て、その後、押出加工熱によって溶着されてドラム状になるため溶着部分ができる。例えば、
図6(b)では6箇所の溶着部分がある。
【0063】
本発明において、マンドレル押出成形は熱間押出が好ましいが、押出成形時の材料の温度は、具体的には、例えば、250〜700℃が好ましく、300〜600℃がより好ましく、350〜500℃が特に好ましい。
直接押出でも間接押出でもよく、液圧押出でも機械押出でもよい。また、押出圧力も適宜選択される。
【0064】
ポートホール押出成形は、押出圧力が低くても押出可能である、製造コストがかからない、寸法精度が出せる等の点から、マンドレル押出成形より汎用的に用いられている。特に、柔らかい金属の場合、上記の点で優れる分だけ有利なポートホール押出成形が通常は使用される。
中でも、純度が高いアルミニウム材料体は特に柔らかいので、通常はポートホール押出成形が用いられる。更に、鉄(Fe)を100質量ppm以下で含有するアルミニウム材料体、及び、鉄(Fe)を100質量ppm以下で含有し、かつ、鉄、ケイ素及び銅の合計を300質量ppm以下で含有するアルミニウム材料体は、何れも極めて柔らかいので、通常は当然にポートホール押出成形が用いられる。
【0065】
一方、柔らかいと、反り、偏肉等が出易く、寸法精度が出し難いので、また、特に偏肉は引き抜いても矯正し難いということもあり、柔らかい材料をマンドレル押出成形することは通常は考えられない。従って、鉄を100質量ppm以下で含有するような極めて柔らかい高純度なアルミニウム材料体等を用いてわざわざマンドレル押出成形することは通常は考えられない。
【0066】
<<中間工程>>
図3の工程図における「中間工程」は、上記「押出成形工程」と後述する「ポア形成工程」の間に行なう工程であり、本発明においては特に限定はないが、作業性向上のための治具の設置、洗浄、ナノ構造体形成材料への連続転写のための軸等の治具24の設置等が挙げられる。
具体的には特に限定はないが、例えば、脱脂、洗浄、加熱、冷却、口打ち、引抜、整形、切断、軸付け、研摩等が挙げられる。これらは、不要ならば行なわなくてもよく、複数箇所(複数回)で行なってもよく、また、順番は上記に限定されない。
図3においては、「中間工程」後には、ナノ構造体形成材料への連続転写のための装置に適応させるための軸が治具24として取り付けられている。
【0067】
中間工程の最終段階、すなわち、後述するポア形成工程の前段階では、ナノ構造体のヘイズを向上させるため、「通常の研摩よりレベルの高い研摩」(以下、単に「研摩」と略記する)を行なうことが好ましい。
研摩を行った後のRaは、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.03μm以下、特に好ましくは0.02μm以下である。また、Ryは、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.35μm以下である。ここで、Ra及びRyは、JIS B0601(1994)により求めた値であり、Raは「算術平均粗さ」であり、Ryは「最大高さ」である。
【0068】
前記アルミニウム素管体の表面は、陽極酸化皮膜の形成を行う前に研摩をすることが好ましい。前記アルミニウム素管体の表面を研摩する方法としては、機械研摩、化学研摩、電解研摩の何れか1つでもよく、又はこれらを任意に組み合わせてもよい。
例えば、電解研摩単独、機械研摩単独、電解研摩と化学研摩の組合せ、機械研摩と化学研摩の組合せ、電解研摩と機械研摩の組合せ、電解研摩と機械研摩と化学研摩の組合せが好ましく、その中でも、電解研摩単独又は電解研摩を含んだ組合せがより好ましい。
更にその中でも、処理の容易な点で、機械研摩をした後に電解研摩する方法が特に好ましい。アルミニウム素管体の表面を研摩することによって表面が均一になり、それをポア形成工程で加工して得られた型体は、ヘイズが小さくて光の透過性能が著しく向上したナノ構造体を作製できる。
【0069】
アルミニウム素管体に、後述する陽極酸化とエッチングを繰り返し行って、テーパー形状の凹部又は凸部を有するナノ構造(微細構造)を表面に有する型体を作製する。
【0070】
<<ポア形成工程>>
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法は、アルミニウム素管体の表面に、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で、テーパー形状を有するポアを形成するように、該アルミニウム素管体の表面を陽極酸化処理する陽極酸化皮膜形成工程と該陽極酸化皮膜をエッチング処理するエッチング工程のふたつの工程を繰り返し行って、該表面にテーパー形状を有するポアを形成する工程を必須の工程として有する。
【0071】
[陽極酸化皮膜形成工程]
本発明における陽極酸化皮膜とは、酸溶液中で、アルミニウム素管体を陽極として電流を流し、水が電気分解して発生する酸素とアルミニウムとが反応して形成される、表面にポアを有する酸化アルミニウムの皮膜である。
【0072】
[[ポア]]
本発明における陽極酸化皮膜は、その表面にポアを有している。本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法では、該ポアを、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在させるようにする。このようなポアを形成させるためには、後述するように、陽極酸化皮膜形成工程及びエッチング工程の条件を制御する。
【0073】
上記ポアの平均周期は、少なくとも、ある一の方向に対し50nm以上であるが、100nm以上が好ましい。また、400nm以下であるが、250nm以下が好ましい。
また、少なくとも、ある一の方向について、平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていればよく、全ての方向に、その平均周期が50nm以上400nm以下となっている必要はない。平均周期は短すぎても長すぎても、それを鋳型として作製されるナノ構造体において反射防止効果が充分に得られない場合がある。
【0074】
[[テーパー形状を有するテーパー形状層、細孔形状部を有する細孔形状層]]
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法においては、上記ポアは、テーパー形状部のみを形成していてもよいが、特許文献7に記載のように、テーパー形状部とその下部にある細孔形状部を形成していてもよい。ナノ構造体作製用ドラム状型体の表面の硬度を上げ、耐久性を向上する効果がある。
【0075】
該テーパー形状部は、陽極酸化皮膜の表面では広く開口しており、深部に入るに従って徐々に細くなっていくテーパー形状となっており、該細孔形状部は、ほぼ等しい径の細孔形状となっており、該テーパー形状部を有するテーパー形状層の下側に連続して細孔形状部を有する細孔形状層を形成する。
【0076】
上記ポアがテーパー形状部のみを形成している場合(細孔形状層を有さないナノ構造体作製用ドラム状型体の場合)、テーパー形状層の層厚は、100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、250nm以上であることが特に好ましい。また、1000nm以下であることが好ましく、600nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることが特に好ましい。
テーパー形状層の層厚が薄すぎると、それを鋳型に形成されるナノ構造体の反射率低減の効果が得られない場合があり、一方、厚すぎると、テーパー形状部の形状が作り難かったり、陽極酸化やエッチングの工程時間が長くなりすぎ、無駄になったりする以外に、型体としての耐久性が劣ったり、それを鋳型に形成されるナノ構造体の機械的特性が劣ったりする場合がある。
【0077】
細孔形状層を有する型体の場合は、アルミニウム素管体の表面に、陽極酸化皮膜の形成と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返し行って、テーパー形状部を有する陽極酸価皮膜を形成し、更に、陽極酸化を行って、該テーパー形状層の下部に、陽極酸化皮膜を形成させて細孔形状層を形成させる。
【0078】
このようなポアを有する型体では、連続的又は断続的に繰り返しナノ構造体を作製しても、該型体に大きい又は細かい傷が付き難い、型体が摩滅し難い、ナノ構造が破壊されない等、該型体の機械的な強度、耐久性等が向上する。
【0079】
このような細孔形状層を有するナノ構造体作製用ドラム状型体においては、テーパー形状層の層厚及び好ましい範囲は、上記した上記ポアがテーパー形状部のみを形成している場合(細孔形状層を有さないナノ構造体作製用ドラム状型体の場合)と同様である。
【0080】
上記細孔形状層の層厚は該テーパー形状層の層厚以上であることが好ましく、具体的には、600nm以上であることが好ましく、2000nm以上であることがより好ましく、4000nm以上であることが特に好ましい。一方、上限は50000nm以下であることが好ましく、10000nm以下であることがより好ましく、8000nm以下であることが特に好ましい。
細孔形状層の層厚が厚すぎると、クレーター状の欠陥が多く発生したり、表面が荒れてきて、該型体で作製したナノ構造体のヘイズが大きくなったりする場合がある。また、厚すぎると陽極酸化時間が長くなり、型体のコストが高くなる場合がある。
【0081】
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体は、前記アルミニウム素管体の表面に、陽極酸化皮膜の形成と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返し行って、該表面にテーパー形状を有するポアを形成する。すなわち、該表面に、テーパー形状部を有するテーパー形状層を形成する。そして、要すれば、更に、陽極酸化処理を行って、該テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の下部に、細孔形状部を有する陽極酸化皮膜の形成を行なって細孔形状層を形成してもよい。
【0082】
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法においては、上記工程を少なくとも有していればよく、途中若しくは後にエッチング処理や陽極酸化処理を行ってもよく、そのような製造方法も本発明に含まれる。
【0083】
[[[陽極酸化皮膜形成工程]]]
本発明における陽極酸化の電解液としては、酸溶液であれば特に制限はなく、例えば、硫酸系、シュウ酸系、リン酸系又はクロム酸系等の何れでもよいが、所望のテーパー形状部4の寸法や形状が得られる点でシュウ酸系の電解液が好ましい。
【0084】
陽極酸化の条件は、前記の形状の型体ができる条件であれば特に限定はないが、電解液としてシュウ酸を用いる場合の条件は以下の通りである。
すなわち、濃度は0.01〜0.5Mが好ましく、0.02〜0.3Mがより好ましく、0.03〜0.1Mが特に好ましい。印加電圧は20〜120Vが好ましく、40〜110Vがより好ましく、60〜105Vが特に好ましく、80〜100Vが更に好ましい。
液温は0〜50℃が好ましく、1〜30℃がより好ましく、2〜10℃が特に好ましい。
1回の処理時間は5〜500秒が好ましく、10〜250秒がより好ましく、15〜200秒が特に好ましく、20〜100秒が更に好ましい。
【0085】
かかる範囲の条件で陽極酸化を行えば、下記のエッチング条件と組み合わせて、前記ナノ構造体作製用ドラム状型体の表面に、陽極酸化皮膜によるテーパー形状層が製造できる。なお、他の酸でも上記とほぼ同じ条件が好ましい。
【0086】
電圧が大きすぎる場合には、形成されるテーパー形状部の平均間隔が大きすぎるようになり、この型体によって得られたナノ構造体の表面に形成された凸部又は凹部の平均周期が大きくなりすぎる場合がある。
一方、電圧が小さすぎる場合には、形成されるテーパー形状部の平均間隔が小さすぎるようになり、この型体によって得られたナノ構造体の表面に形成された凸部又は凹部の平均周期が小さくなりすぎる場合がある。
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体は、その表面に存在するポアが、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在することが必須であるので、電圧はこの範囲に入るように調整される。
【0087】
すなわち、上記テーパー形状を有するテーパー形状層の陽極酸化皮膜を、シュウ酸濃度0.01M以上0.5M以下の浴液を用い、印加電圧20V以上120V以下、かつ液温0℃以上50℃以下で形成する工程を少なくとも含む上記のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法が特に好ましい。
【0088】
[[[エッチング工程]]]
エッチングは主にポアのテーパー形状部の孔径拡大と所望の形状を得るために行われる。上記の陽極酸化とエッチングとを組み合わせることで、アルミニウム素管体の表面の陽極酸化皮膜に形成されたポアの、孔径、高さ、深さ、テーパー形状等を調整することができる。
【0089】
エッチングの方法は通常知られている方法であれば特に制限なく用いることができる。例えば、エッチング液としては、リン酸、硝酸、酢酸、硫酸、クロム酸等の酸溶液、又はこれらの混合液を用いることができる。好ましくは、リン酸又は硝酸であり、必要な溶解速度が得られる点、より均一な面が得られる点で、特に好ましくはリン酸である。
また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ溶液又はこれらの混合溶液を用いることもできる。
【0090】
エッチング液の濃度や浸漬時間、温度等は、所望の形状が得られるように適宜調節すればよいが、リン酸の場合の条件は以下の通りである。
すなわち、エッチング溶液の濃度は、1〜20質量%が好ましく、1.2〜10質量%がより好ましく、1.5〜2.5質量%が特に好ましい。
液温は、30〜90℃が好ましく、35〜80℃がより好ましく、40〜70℃が特に好ましい。
1回の処理時間(浸漬時間)は10秒〜60分が好ましく、30秒〜40分がより好ましく、45秒〜20分が特に好ましく、1分〜10分が更に好ましい。
【0091】
かかる範囲の条件でエッチングを行えば、上記の陽極酸化条件との組み合わせで、前記のポアが形成できテーパー形状層が製造できる。なお、他の酸でも上記とほぼ同じ条件が好ましい。
【0092】
[[[陽極酸化皮膜形成工程とエッチング工程の組み合わせ]]]
上記陽極酸化処理とエッチング処理は繰り返し行なって、所望のテーパー形状層、すなわち、テーパー形状を有するポアを得る。各処理の間には水洗をすることも好ましい。陽極酸化処理とエッチング処理の回数は所望の形状が得られるように適宜調節すればよいが、組み合わせの回数として、5〜20回が好ましく、7〜18回がより好ましく、10〜14回が特に好ましい。最後は、陽極酸化処理で終わっても、エッチング処理で終わってもよい。
【0093】
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法において、陽極酸化皮膜のテーパー形状層を得る場合、特に好ましい組み合わせは、シュウ酸水溶液で陽極酸化をし、リン酸水溶液でエッチングをすることである。全体の好ましい条件は上記の各好ましい条件の組み合わせである。
【0094】
[[[細孔形状層を有するナノ構造体作製用ドラム状型体]]]
細孔形状層を有するナノ構造体作製用ドラム状型体の場合、細孔形状層を形成するための陽極酸化の電解液や形成条件は、テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の項で記載した陽極酸化の電解液(種類、濃度等)や形成条件(液温、印加電圧等)が使用でき、好ましい範囲も同様である。
【0095】
[ナノ構造体の構成・作製]
本発明におけるナノ構造体は、連続的に、ナノ構造体作製用ドラム状型体に、ナノ構造体形成材料を埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料又は該ナノ構造体形成材料が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用ドラム状型体から剥離して得られる。該ナノ構造体は、ナノ構造体作製用ドラム状型体を用いて連続的に製造することができる。
ナノ構造体形成材料を埋め込んだ後に、要すれば、光照射、電子線照射及び/又は加熱によってナノ構造体形成材料を硬化させた後に型体から剥離して得られる。
【0096】
通常、型体がそのまま転写されるので、上記ナノ構造体は、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で凸部又は凹部が存在するという極めて微細な表面構造を有している。更に、一般に「モスアイ(蛾の眼)構造」と呼ばれる構造を有していることが、良好な反射防止性能を有している点で好ましい。
【0097】
上記ナノ構造体形成材料としては、特に制限はなく、熱可塑性組成物、硬化性組成物の何れでも好適に使用し得る。上記ナノ構造に適した機械的強度を与えるため、また、型となる陽極酸化皮膜からの剥離性等の点から硬化性組成物を用いることが好ましい。
【0098】
<熱可塑性組成物>
熱可塑性組成物としては、ガラス転移温度又は融点まで加熱することによって軟らかくなるものであれば特に制限はないが、例えば、アクリロニトリル−スチレン系重合体組成物、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン系重合体組成物、スチレン−(メタ)アクリレート系重合体組成物、ブダジエン−スチレン系重合体組成物等のスチレン系重合体組成物;塩化ビニル系重合体組成物、エチレン−塩化ビニル系重合体組成物、エチレン−酢酸ビニル系重合体組成物、プロピレン系重合体組成物、プロピレン−塩化ビニル系重合体組成物、プロピレン−酢酸ビニル系重合体組成物、塩素化ポリエチレン系組成物、塩素化ポリプロピレン系組成物等のポリオレフィン系組成物;ケトン系重合体組成物;ポリアセタール系組成物;ポリエステル系組成物;ポリカーボネート系組成物;ポリ酢酸ビニル系組成物、ポリビニル系組成物、ポリブタジエン系組成物、ポリ(メタ)アクリレート系組成物等が挙げられる。
【0099】
<硬化性組成物>
硬化性組成物とは、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって硬化する組成物である。中でも、光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物が、上記した点から好ましい。
【0100】
<<光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物>>
「光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物」(以下、「光硬化性組成物」と略記する)としては特に限定はなく、アクリル系重合性組成物又はメタクリル系重合性組成物(以下、「(メタ)アクリル系重合性組成物」と略記する)、光酸触媒で架橋し得る組成物等、何れも使用できるが、(メタ)アクリル系重合性組成物が、上記ナノ構造に適した機械的強度を与えるため、型体1からの剥離性、化合物群が豊富なため種々の物性のナノ構造体を調製できる等の点から好ましい。
【0101】
<<熱硬化性組成物>>
本発明における熱硬化性組成物とは、加熱すると重合を起こして高分子の網目構造を形成し、硬化して元に戻らなくなる組成物であれば特に制限はないが、例えば、フェノール系重合性組成物、キシレン系重合性組成物、エポキシ系重合性組成物、メラミン系重合性組成物、グアナミン系重合性組成物、ジアリルフタレート系重合性組成物、尿素系重合性組成物(ユリア系重合性組成物)、不飽和ポリエステル系重合性組成物、アルキド系重合性組成物、ポリウレタン系重合性組成物、ポリイミド系重合性組成物、フラン系重合性組成物、ポリオキシベンゾイル系重合性組成物、マレイン酸系重合性組成物、メラミン系重合性組成物、(メタ)アクリル系重合性組成物等が挙げられる。フェノール系重合性組成物としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂等である。エポキシ系重合性組成物としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロロヒドリン樹脂、エポキシノボラック樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、多官能性エポキシ等である。不飽和ポリエステル系重合性組成物としては、例えば、オルソフタル酸系、イソフタル酸系、アジピン酸系、ヘット酸系、ジアリルフタレート系等である。中でも、熱硬化性組成物としては、(メタ)アクリル系重合組成物が好ましい。
【0102】
また、上記ナノ構造体形成材料には、更に、バインダーポリマー、微粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、離型剤、潤滑剤、レベリング剤等を配合することもできる。これらは、従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0103】
<ナノ構造体の製造方法>
本発明の態様の一つである、「ナノ構造体の製造方法」は、上記のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法を使用してナノ構造体作製用ドラム状型体を製造し、得られたナノ構造体作製用ドラム状型体にナノ構造体形成材料を連続的に埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料又は該ナノ構造体形成材料が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用ドラム状型体から連続的に剥離することを特徴とするものである。
【0104】
具体的には、以下に限定されるわけではないが、例えば、下記の製造方法が好ましい。
すなわち、上記ナノ構造体形成材料11を基材13上に採取、要すれば、バーコーター若しくはアプリケーター等の塗工機又はスペーサーを用いて、均一膜厚になるように塗布する。ここで、「基材」としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記する)、トリアセチルセルロース(以下、「TAC」と略記する)、(メタ)アクリル系ポリマー(以下、「PAC」と略記する)等のフィルムが好適である。
【0105】
図7は、ナノ構造体作製用ドラム状型体を用い連続的にナノ構造体を製造する製造方法の一例を示す断面模式図であるが、本発明はこの模式図の示す範囲に限定されるものではない。
すなわち、ナノ構造体作製用ドラム状型体1にナノ構造体形成材料11を付着させ、ローラー14により力を加え、基材13をナノ構造体作製用ドラム状型体1に対して斜めの方向から貼り合せて、ナノ構造体作製用ドラム状型体1が有するテーパー形状部の構造をナノ構造体形成材料11に転写させる。これを、要すれば硬化装置16を用いて硬化させた後、ナノ構造体作製用ドラム状型体1から剥離することにより、ナノ構造体15を得る。支持ローラー17は、ナノ構造体15を上部に引き上げるように設置されている。
【0106】
貼り合わせる際、ローラー14を用いて、斜めから貼り合わせることによって、気泡が入らず欠陥のないナノ構造体15が得られる。また、ローラー14を用いれば線圧(ニップ圧)を加えることになるため圧力を大きくでき、そのため大面積のナノ構造体の製造が可能になり、また、圧力の調節も容易になる。また、基材13と一体となった均一な膜厚と、所定の光学物性を有するナノ構造体15の製造が可能になり、更に、連続的に製造できるため生産性に優れたものになる。
【0107】
ナノ構造体は、熱可塑性樹脂で形成されていてもよいが、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって硬化性樹脂が重合したものであることも好ましい。その場合、光照射の場合の光の波長については特に限定はない。可視光線及び/又は紫外線を含有する光であることが、要すれば光重合開始剤の存在下で良好に(メタ)アクリロイル基の炭素間二重結合を重合させる点で好ましい。特に好ましくは紫外線を含有する光である。光源は特に限定はなく、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、ハロゲンランプ、各種レーザー等公知のものが用いられ得る。電子線の照射の場合、電子線の強度や波長には特に限定はなく、公知の方法が用いられ得る。
【0108】
熱によって重合させる場合は、その温度は特に限定はないが、80℃以上が好ましく、100℃以上が特に好ましい。また、200℃以下が好ましく、180℃以下が特に好ましい。重合温度が低過ぎる場合は重合が充分に進行しない場合があり、高過ぎる場合は重合が不均一になったり、基材の劣化が起こったりする場合がある。加熱時間も特に限定はないが、5秒以上が好ましく、10秒以上が特に好ましい。また、10分以下が好ましく、2分以下が特に好ましく、30秒以下が更に好ましい。
【0109】
得られたナノ構造体は、光の反射防止用及び/又は光の透過改良用として好適に用いられる。
具体的には、液晶表示ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ(OELD)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の反射防止膜(体);額、標本箱、鑑賞物用ケース、商品ケース、陳列棚、ショーウィンドー等の前面板若しくは該前面板に貼り付ける反射防止膜;等が挙げられる。
【0110】
<作用・原理>
鉄(Fe)を一定値より多く含有するアルミニウム素管体の表面に、陽極酸化皮膜形成工程とエッチング工程のふたつの工程を繰り返し行なって、該表面にテーパー形状を有するポアを形成すると「欠陥」が生じる作用・原理は明らかではないが、以下のことが考えられる。ただし本発明は、以下の作用・原理の範囲に限定されるわけではない。
すなわち、アルミニウム材料体を押し出してアルミニウム素管体を作製した時点で、鉄成分がある点に集合して又は集合しつつ、押出成形時の熱で周囲の空気(酸素)と反応して、アルミニウム素管体の表面のある点に酸化鉄ができる。
そして、その後、陽極酸化とエッチングを繰り返すことで、その酸化鉄が欠落して「欠陥」が生じたと考えられる。
【0111】
マンドレル押出成形では、鉄(Fe)を100質量ppm以下で含有するアルミニウム材料体を用いれば「欠陥」が発生しないか、極めて少なくなるが、ポートホール押出成形では、鉄(Fe)を100質量ppm以下で含有するアルミニウム材料体を用いても「欠陥」が発生する作用・原理は明らかではないが、以下のことが考えられる。ただし本発明は、以下の作用・原理の範囲に限定されるわけではない。
【0112】
ポートホール押出成形で「欠陥」が発生する理由は、ポートホール押出成形工程において、アルニウム材料体は、加熱され流動性を持った状態でダイスを通過し、一旦、分割された状態となる。そのとき表面においては空気と触れ合うため、アルミニウムや異金属を含む酸化物が作られ(特にアルミニウム以外の金属が若干でも含まれていると酸化物が形成され易い)、更に、アルミニウム材料体が押し出されると、溶着しながら管形状を形成していく。その時に、前記酸化物が表面や内部に取り込まれる。そして、陽極酸化とエッチングを繰り返し行い、テーパー形状の凹部又は凸部を有するナノ構造(微細構造)をアルミニウム素管体の表面に作製する工程を行うと、既にアルミニウム素管体に存在する前記酸化物は、その工程中に欠落し、窪んだ形状になるものと思われる。
【0113】
また、ポートホール押出成形では、成形時の継ぎ目部分(ダイス形状は
図6(b)参照)で空気を含む界面が一時的に存在し、かつ高温状態であるため、該継ぎ目部分が酸化し易く、これが原因となって型体に「欠陥」が発生し易いと考えられる。実際に、「欠陥」は、主に継ぎ目部分で多く見られた。
一方、マンドレル押出成形では、かかる空気を含む界面となる継ぎ目部分がないため(ダイス形状は
図6(a)参照)、鉄(Fe)を100質量ppm以下で含有するアルミニウム材料体を用いれば、型体の表面に「欠陥」が生じ難くなったものと考えられる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらに限定されるものではない。
【0115】
実施例1
<アルミニウム材料体の作製>
アルミニウムインゴット材を溶解させ偏析法によりアルミニウムを高純度化させた。その後、融解中に、所望の組成のアルミニウム材料体となるように成分調整を行い、続けて、脱ガス、フィルタリングを行なった。
冷却後、必要サイズに切断し、アルミニウム材料体を調製した。アルミウム材料体は、GDMSにより、異金属成分量を測定し、表1に記載した(それぞれのアルミウム材料体をNo1〜11とした)。
また、それぞれのアルミニウム材料体を元にして作製したアルミニウム素管体、型体は同等の組成を有することを確認した。
【0116】
<押出成形工程>
表1に記載した組成のアルミニウム材料体を外周切削し、押出製造機へ装着させ、ピアッシング(加熱して押出し易い状態にすること)したのち、間接押出法によるマンドレル押出成形を行った。押出した管材をストレッチャーに流し形状を整え、必要サイズに切断してアルミニウム押出成形体を得た。
【0117】
表1に記載した組成のアルミニウム材料体を用い、上記マンドレル押出成形に代えて、ポートホール押出成形すること以外は上記記載の方法と同様にして、アルミニウム押出成形体を得た。
【0118】
<中間工程>
マンドレル押出成形により得られたアルミニウム押出成形体は、アルミニウム素管体として、そのまま使用しても構わないし、引抜加工を行ったものをアルミニウム素管体として用いても構わない。また、更に、研摩加工を行ったものをアルミニウム素管体として用いても構わない。
引抜加工は、アルミニウム素管体の表面硬度や寸法精度(厚み、長さ、径等)を向上する効果があり、好ましく行われる。
【0119】
アルミニウム押出成形体の先端を引抜加工用に口打ちし引抜を行い、引抜いた管材を洗浄し、必要サイズに切断した。
アルミニウム素管体のサイズは、外径φ100mmになるように調整を行った。押出加工のみである場合は、押出加工のみで外径φ100mmになるように調整し、押出加工と引抜加工をする場合は、両方の工程を終了させたとき外径φ100mmになるように調整を行った。
次いで、ナノ構造体形成材料を型体に連続的に埋め込み、連続的に転写してナノ構造体を製造する装置(本発明では、「印刷機」と略記する場合がある)用の軸を差し込んで固定した。
【0120】
次いで、アルミナ系の液体研摩材(粒度#60000)を用いて、10分間、ラッピング研摩を行なった。その後、更に、電解研摩をして鏡面を得た。
【0121】
<ポア形成工程>
仕上がったアルミニウム素管体の表面に、テーパー形状を有するポアを次のように形成した。
すなわち、以下に示す陽極酸化条件と、以下に示す形成された陽極酸化皮膜のエッチング処理条件との繰り返しにより、表面にポアを形成しテーパー形状層を作製した。
【0122】
<<陽極酸化皮膜形成工程の条件>>
電解液:0.05Mシュウ酸水溶液
電圧:80Vの直流電圧
電解液の温度:5℃
時間:30秒
【0123】
<<エッチング工程の条件>>
エッチング液の種類:2質量%リン酸水溶液
エッチング液の温度:50℃
時間:2分
【0124】
上記陽極酸化工程とエッチング工程を、交互に10回ずつ繰り返し、最後は陽極酸化処理で終了させ、表1に記載の組成のナノ構造体作製用ドラム状型体を製造した。
全てのナノ構造体作製用ドラム状型体は、表面に平均深さ300nmのポアが、平均周期200nmで存在していた。
【0125】
<ナノ構造体の製造>
ナノ構造体形成材料である下記に示す光硬化性組成物を、無色透明の厚さ80μmのTACフィルム上に採取、バーコーターNo.28にて、均一な膜厚になるよう塗布した。 その後、上記で得られた、表1に示すNo.1〜No.11の、マンドレル押出成形することによって作製されたナノ構造体作製用ドラム状型体の表面にローラーを用いてラミネートし、付与し、テーパー形状部に光硬化性組成物が充填されたことを確認して、紫外線を照射して光重合させ硬化させた。
硬化後、膜を型体から剥離することで、表面に、平均高さ300nmの凸部が平均周期200nmで存在するナノ構造体を得た。ナノ構造体の厚さは、PETフィルムの厚さも含めて90μmであった。以下、得られたものを、「ナノ構造体フィルム」と言うこともある。
【0126】
<<光硬化性組成物の調製>>
下記式(1)で示される化合物(1)11.8質量部、下記化合物(2)23.0質量部、テトラエチレングリコールジアクリレート45.2質量部、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート20.0質量部、及び、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.0質量部を配合して光硬化性組成物を得た。
【0127】
上記化合物(1)は、下記の式(1)で示される化合物である。
【化1】
[式(1)中、Xは、ジペンタエリスリトール(6個の水酸基を有する)残基を示す。]
【0128】
上記化合物(2)は、
2HEA−−IPDI−−(アジピン酸と1,6−ヘキサンジオールとの重量平均分子量3500の末端水酸基のポリエステル)−−IPDI−−2HEA
で示される化合物である。ここで、「2HEA」は、2−ヒドロキシエチルアクリレートを示し、「IPDI」は、イソホロンジイソシアネートを示し、「−−」は、イソシアネート基と水酸基の通常の下記の反応による結合を示す。
−NCO + HO− → −NHCOO−
【0129】
上記で得られた、ナノ構造体作製用ドラム状型体及びナノ構造体について、以下の方法で評価を行った。
【0130】
<型体の表面の「欠陥」の評価方法>
欠陥の測定評価は暗室にて行い、外径φ100mmの型体に蛍光灯を反射させて型体1周、300mm幅分を評価した。欠陥のサイズに関しては、サイズ見本表を照らし合わせてカウントした。
評価距離は、視点部−型体間を50cm、型体−蛍光灯間を50cmとし、型体を起点とし、蛍光灯と視点部の角度を90°とし、目視評価を行ない、以下の判定基準で判定した。
【0131】
<型体の表面の「欠陥」の判定基準>
○ :目視で欠陥が0〜20個の範囲で確認できる状態
△ :目視で欠陥が21〜50個の範囲で確認できる状態
× :目視で欠陥が51〜99個の範囲で確認できる状態
××:目視で欠陥が100個以上確認できる状態
ただし、上記個数は、欠陥の縦横何れかのサイズが100μm以上の欠陥をカウントした型体表面の欠陥数である。
【0132】
<ナノ構造体の表面の「欠陥」の評価方法>
検査は暗室にて行い、ナノ構造体フィルム(長さ314mm×幅300m)を蛍光灯に透かして測定を行なった。欠陥のサイズに関しては、サイズ見本表を照らし合わせカウントした。
検査距離は、視点部−ナノ構造体フィルム間を25cm、ナノ構造体フィルム−蛍光灯間を25cmとし、視点部より30°上方に蛍光灯を設置した。ナノ構造体フィルム面上の照度は500ルックス(lx)とした。
この条件で欠陥を観察し目視評価を行ない、以下の判定基準で判定した。
【0133】
<ナノ構造体の表面の「欠陥」の判定基準>
○ :目視で欠陥が0〜20個の範囲で確認できる状態
△ :目視で欠陥が21〜50個の範囲で確認できる状態
× :目視で欠陥が51〜99個の範囲で確認できる状態
××:目視で欠陥が100個以上確認できる状態
ただし、上記個数は、欠陥の縦横いずれかのサイズが100μm以上の欠陥をカウントしたナノ構造体の表面の欠陥数である。
【0134】
<ヘイズの測定方法>
村上色彩技術研究所製、ヘイズメーター「HM−150」を用いて、可視光線のヘイズを測定した。
【0135】
<反射率の測定方法>
ナノ構造体用ドラム状型体から賦型したナノ構造体フィルムの裏面に黒板を貼り付け、島津製作所社製、自記分光光度計「UV−3150」を用い、380nm〜780nmの波長の5°正反射スペクトルを得て、次いでCIE1931に従い等色関数と標準イルミナントD65を用いて視感度補正した反射率(Y値)を算出した。
【0136】
評価例1
ドラム状型体で、得られたナノ構造体フィルムの「欠陥」とヘイズの値を、表1に記載した。
【0137】
【表1】
【0138】
型体の欠陥の評価では、表1から、ポートホール押出成形では、全てのドラム状型体で「欠陥」が多く見られ、特に鉄を、100ppmを超えて含有する場合には、「欠陥」が著しく多かった。特に、ドラム状型体の前記溶着部に相当すると思われる部分には、サイズが大きい欠陥や、長さ方向に連続的に欠陥が存在し、欠陥が非常に目立って実用性を損ねるものであった。
また、ドラム状型体の「欠陥」が著しく多かったこと等から、ナノ構造体フィルムでのヘイズは大きかった。
なお、ポートホール押出成形を用いたドラム状型体から得られたナノ構造体の評価結果は、表1に記載はないが、全て欠陥が多く、かつヘイズが大きかった。
【0139】
一方、マンドレル押出成形では、鉄を100ppm以下で含有するアルミニウム材料体、アルミニウム素管体、及び、ナノ構造体作製用ドラム状型体では、いずれも「欠陥」が少なく実用範囲であったが、鉄を100ppmより多く含有するものでは、マンドレル押出成形でも「欠陥」が多い傾向が見られた。
【0140】
更に、鉄を100ppm以下で含有するもの(No.1〜No.7)同士で比較すると、特に、鉄、ケイ素及び銅の合計を300質量ppmより多く含有するもの(No.7)は、マンドレル押出成形でも「欠陥」が「△」と、他(No.1〜No.6)と比較して多かった。
【0141】
表1の結果より、鉄を100質量ppm以下で含有するものを使用し、かつ、アルミニウム素管体をマンドレル押出成形で作製することによって、欠陥の極めて少ないドラム状型体が作製できることが分かった。
更に、そのドラム状型体から得られたナノ構造体は、欠陥が極めて少なく、かつ、ヘイズが小さいことが分かった。