(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5844310
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】回流式開放型風洞装置および回流式開放型風洞内の気流の整流化方法
(51)【国際特許分類】
G01M 9/04 20060101AFI20151217BHJP
【FI】
G01M9/04
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-130739(P2013-130739)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-4616(P2015-4616A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2014年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】391007242
【氏名又は名称】三菱重工冷熱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102738
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】外村 琢
【審査官】
後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−162310(JP,A)
【文献】
実開平4−64745(JP,U)
【文献】
特開2004−20389(JP,A)
【文献】
特開2000−275136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/00− 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に測定対象物を配置する測定室と、それぞれ測定室に臨んで開口し、測定室内で互い
に対向する開口端を有し、一方が吹き出し口、他方が吸い込み口を構成する送風ダクトと
、送風ダクトの途中に設置され、吹き出し口から気流を吹き出し、吸い込み口より気流を
吸い込む送風機とを有し、該送風ダクトは、前記吹き出し口に向かって縮径する縮流胴、
および前記吸い込み口から拡径する拡散胴を有する回流式開放型風洞装置において、
前記吸い込み口を介して前記拡散胴に流入される気流の一部を前記測定室に還流させるた
めの開口部が、前記吸込み口から流入する気流の不安定化を防止するように、前記拡散胴の側面に設けられ、
前記開口部には、前記拡散胴内に気流偏向板が設けられ、該気流偏向板は、前記開口部の
最下流側の縁を支点として、前記拡散胴内で回動調整可能であり、
それにより、前記気流偏向板が前記拡散胴内を流れる気流の一部を前記開口部に向かって
偏向する、ことを特徴とする回流式開放型風洞装置。
【請求項2】
前記拡散胴は、矩形断面を有し、
前記開口部は、前記拡散胴の頂面に設けられ、
測定対象物は、前記測定室内で前記拡散胴の底面に載置される、請求項1に記載の回流式
開放型風洞装置。
【請求項3】
前記開口部は、周方向に所定角度間隔を隔てて複数設けられ、前記気流偏向板は、前記頂
面の開口部にのみ設けられる、請求項2に記載の回流式開放型風洞装置。
【請求項4】
前記気流偏向板は、前記開口部を閉鎖する開度零度位置と、前記測定室内に配置された測
定対象物の高さに応じて決定される最大開度位置との間で、回動可能である、請求項2ま
たは請求項3に記載の回流式開放型風洞装置。
【請求項5】
さらに、前記拡散胴内で、前記気流偏向板の背後の下流側に、ピトー管が設けられ、該ピ
トー管により検知された、前記拡散胴内の高さ方向の流速分布に応じて、前記気流偏向板
の開度を定める、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の回流式開放型風洞装置
。
【請求項6】
前記気流偏向板の開度は、前記送風機による気流の風速と、測定対象物の外形との関係で
決定する、請求項1に記載の回流式開放型風洞装置。
【請求項7】
前記気流偏向板は、気流を受ける際に固定可能に、前記開口部を介して吊り下げ支持され
、
前記気流偏向板は、前記開口部の最下流側の縁を支点とする所望の開度にモーター駆動さ
れる、請求項4に記載の回流式開放型風洞装置。
【請求項8】
前記拡散胴は、下流方向に所定テーパ角度でテーパ付けられ、
前記気流偏向板は、前記所定テーパ角度に応じて、前記支点を中心とする回動径
が定められる、請求項1項に記載の回流式開放型風洞装置。
【請求項9】
前記拡散胴内の高さ方向の流速分布に基づいて、前記気流偏向板の開度をフィードバック
制御する、請求項5に記載の回流式開放型風洞装置。
【請求項10】
測定室に臨んで開口する吸い込み口から拡径する拡散胴を有し、拡散胴の側面に開口部を
有する回流式開放型風洞であって、
前記拡散胴内に開口部を閉鎖可能な気流偏向板を設ける段階と、
測定室内に所定風速の気流を発生し、拡散胴の吸い込み口より気流を吸い込み、それによ
り気流偏向板により気流を開口部に向かって偏向させて、測定室内に還流させる段階と、
気流偏向板の背後の下流側の気流の流速分布を測定する段階と、
測定した気流の流速分布に基づいて、気流偏向板の開度を調整する段階と、を有し、
それにより、所望の還流を生じさせることを特徴とする、回流式開放型風洞内の気流の整
流化方法。
【請求項11】
前記拡散胴の頂部に、前記開口部の最下流側の縁を支点として、前記拡散胴内で回動調整
可能となるように、前記気流偏向板を設け、
前記気流の流速分布の測定段階は、少なくとも前記拡散胴の頂部から前記測定室内に配置
された風洞試験対象物の高さまでの範囲を測定し、
前記気流偏向板の最大開度を前記測定室内に配置された風洞試験対象物の高さに応じて、
設定する、請求項10に記載の回流式開放型風洞内の気流の整流化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回流式開放型風洞装置および回流式開放型風洞内の気流の整流化方法に関し、より詳細には、測定対象物にかかわらず、気流の乱れを有効に防止することにより、十分な風洞性能を確保することが可能な回流式開放型風洞装置および回流式開放型風洞内の気流の整流化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、風洞内に測定対象物を配置して、測定対象物に向かって気流を流す風洞試験が行われており、特に、測定対象物の風洞試験設備内への搬出入の便宜の観点から、測定室を有する開放型、さらには気流を発生する送風機の駆動コスト削減の観点から、回流式が採用され、回流式開放型風洞装置が、たとえば、自動車に対する環境試験用に用いられている。
この回流式開放型風洞装置は、内部に測定対象物を配置する測定室と、それぞれ測定室に臨んで開口し、互いに測定室内で互いに対向する開口端を有し、一方が吹き出し口、他方が吸い込み口を構成する送風ダクトと、送風ダクトの途中に設置され、吹き出し口から気流を吹き出し、吸い込み口より気流を吸い込む送風機とを有し、送風ダクトは、吹き出し口に
向かって縮径する縮流胴、および吸い込み口から拡径する拡散胴を有する。
【0003】
この回流式開放型風洞装置は、回流式開放型であることに起因して、吸い込み口から拡散胴下流側への随伴流を生じ、それにより、測定室と拡散胴の吸い込み口近傍との間での圧力脈動に伴う気流の逆流が引き起こされる。
このような逆流は、吸い込み口に導入される気流の乱れの原因となり、測定室における気流性状が不安定化(風洞性能劣化)したり、場合により、風洞自体の自励振動を引き起こし、それが騒音の原因となったり、風洞自体の構造信頼性あるいは健全性に悪影響を及ぼすことがある。
このため、回流式開放型風洞において、拡散胴の側面に通気口(開口)を設け、随伴流を通気口から還流させることにより、このような技術的問題点を解消したものが、たとえば、特許文献1および特許文件2に開示されている。
【0004】
より詳細には、たとえば特許文献1においては、矩形状の通気口が、拡散胴の頂面において、一組の対向短辺を気流の流れ方向に沿って、一組の対向長辺を気流の流れ方向と直交する向きに配置しており、通気口を設けない場合に比べれば、随伴流を通気口を介して測定室に還流させて、気流の乱れをある程度改善することは可能である。
しかしながら、このような回流式開放型風洞においては、回流式開放型であることに起因して、以下のような技術的問題点を有する。
【0005】
第1に、随伴流の流量は、送風機による気流の風速と、吸い込み口における測定対象物の占める断面積とそれ以外の断面積との面積比とにより、変動するところ、測定対象物がたとえば、自動車である場合、セダンタイプであれば、車高さが低く、マイクロバスであれば、車高が高く、それにより、吸い込み口における面積比が大きく相違し、随伴流の流量が両者で相違する。
この場合、マイクロバスに合わせて、通気口の面積を決定するとすれば、セダンタイプの場合には、気流の逆流を防止するのに不十分であったり、逆にセダンタイプに合わせて、通気口の面積を決定するとすれば、マイクロバスの場合には、気流の逆流の防止が過剰となったりする。
【0006】
第2に、通気口の寸法によっては、気流の逆流防止効果が不安定となる点である。
より詳細には、風洞自体のコンパクト化および送風機への負担軽減の観点から、吸い込み口から下流側にテーパ付けられた拡散胴が設けられるところ、通気口の面積が一定の場合、このテーパ角度によっては、通気口を介しての還流の流量が影響を受け、気流の乱れを防止するのが不十分となることがある。
【特許文献1】特開2006−162310
【特許文献2】特開2008−76304
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、測定対象物にかかわらず、気流の乱れを有効に防止することにより、十分な風洞性能を確保することが可能な回流式開放型風洞装置および回流式開放型風洞内の気流の整流化方法を提供することにある。
以上の技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、気流を発生する送風機の大容量化を抑制するとともに、風洞全体のコンパクト化を達成しつつ、気流の乱れを有効に防止することにより、十分な風洞性能を確保することが可能な回流式開放型風洞装置および回流式開放型風洞内の気流の整流化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明の回流式開放型風洞装置は、
内部に測定対象物を配置する測定室と、それぞれ測定室に臨んで開口し、測定室内で互いに対向する開口端を有し、一方が吹き出し口、他方が吸い込み口を構成する送風ダクトと、送風ダクトの途中に設置され、吹き出し口から気流を吹き出し、吸い込み口より気流を吸い込む送風機とを有し、該送風ダクトは、前記吹き出し口に向かって縮径する縮流胴、および前記吸い込み口から拡径する拡散胴を有する回流式開放型風洞装置において、
前記吸い込み口を介して前記拡散胴に流入される気流の一部を前記測定室に還流させるための開口部が、前記拡散胴の側面に設けられ、
前記開口部には、前記拡散胴内に気流偏向板が設けられ、該気流偏向板は、前記開口部の最下流側の縁を支点として、前記拡散胴内で回動調整可能であり、
それにより、前記気流偏向板が前記拡散胴内を流れる気流の一部を前記開口部に向かって偏向する、構成としている。
【0009】
以上の構成を有する回流式開放型風洞装置によれば、測定室内で、送風機により発生した気流が送風ダクト内を流れて縮流胴により絞られて吹き出し口より吹き出して開放され、測定対象物を通過し、吸い込み口より拡散胴内に流入し、送風ダクト内を流れて送風機に戻される回流式の風洞装置であり、送風機の負担を軽減しつつ、測定対象物の測定室への搬出入の利便性を確保するとともに、測定室内で吹き出し口から吸いこみ口に向かって流れる気流中に測定対象物を配置することにより、測定対象物に対して空力性能試験を行うことが可能である。
その際、吸い込み口を介して拡散胴に流入する気流は、吸い込み口を介して測定室内の空気を吸い込むことにより随伴流を伴うところ、吸い込み口の周縁近傍の随伴流は、気流偏向板により偏向されながら開口部より外方へ流出して、測定室に還流させることが可能であり、測定対象物に応じて、気流偏向板の開口部の最下流位置を支点とする回動角度(開度)を調整することにより、随伴流の発生に伴う気流の乱れを有効に防止し、以て測定対象物にかかわらず、気流の乱れを有効に防止することにより、十分な風洞性能を確保することが可能である。
【0010】
さらに、前記拡散胴は、矩形断面を有し、
前記開口部は、前記拡散胴の頂面に設けられ、
測定対象物は、前記測定室内で前記拡散胴の底面に載置されるのがよい。
また、前記開口部は、周方向に所定角度間隔を隔てて複数設けられ、前記気流偏向板は、前記頂面の開口部にのみ設けられるのでもよい。
さらにまた、前記気流偏向板は、前記開口部を閉鎖する開度零度位置と、前記測定室内に配置された測定対象物の高さに応じて決定される最大開度位置との間で、回動可能であるのがよい。
【0011】
さらに、前記拡散胴内で、前記気流偏向板の背後の下流側に、ピトー管が設けられ、該ピトー管により検知された、前記拡散胴内の高さ方向の流速分布に応じて、前記気流偏向板の開度を定めるのがよい。
また、前記気流偏向板の開度は、前記送風機による気流の風速と、測定対象物の外形との関係で決定するのがよい。
加えて、前記気流偏向板は、気流を受ける際に固定可能に、前記開口部を介して吊り下げ支持され、
前記気流偏向板は、前記開口部の最下流側の縁を支点とする所望の開度にモーター駆動されるのがよい。
【0012】
また、前記拡散胴は、下流方向に所定テーパ角度でテーパ付けられ、
前記気流偏向板は、前記所定テーパ角度に応じて、前記支点を中心とする回動径が定められるのがよい。
さらに、前記拡散胴内の高さ方向の流速分布に基づいて、前記気流偏向板の開度をフィードバック制御するのでもよい。
【0013】
上記課題を達成するために、本発明の回流式開放型風洞内の気流の整流化方法は、
測定室に臨んで開口する吸い込み口から拡径する拡散胴を有し、拡散胴の側面に開口部を有する回流式開放型風洞であって、
前記拡散胴内に開口部を閉鎖可能な気流偏向板を設ける段階と、
測定室内に所定風速の気流を発生し、拡散胴の吸い込み口より気流を吸い込み、それにより気流偏向板により気流を開口部に向かって偏向させて、測定室内に還流させる段階と、
気流偏向板の背後の下流側の気流の流速分布を測定する段階と、
測定した気流の流速分布に基づいて、気流偏向板の開度を調整する段階と、を有し、
それにより、所望の還流を生じさせる構成としている。
【0014】
また、前記拡散胴の頂部に、前記開口部の最下流側の縁を支点として、前記拡散胴内で回動調整可能となるように、前記気流偏向板を設け、
前記気流の流速分布の測定段階は、少なくとも前記拡散胴の頂部から前記測定室内に配置された風洞試験対象物の高さまでの範囲を測定し、
前記気流偏向板の最大開度を前記測定室内に配置された風洞試験対象物の高さに応じて、設定するのがよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る回流式開放型風洞装置の実施形態について、風洞試験の対象として、車両を例として、図面を参照しながら、以下に詳細に説明する。
【0016】
図1に示すように、回流式開放型風洞装置10は、内部に測定対象物Bを配置する測定室12と、それぞれ測定室12に臨んで開口し、測定室12内で互いに対向する開口端を有し、一方が吹き出し口14、他方が吸い込み口16を構成する送風ダクト18と、送風ダクト18の途中に設置され、吹き出し口14から気流を吹き出し、吸い込み口16より気流を吸い込む送風機20とを有する。
測定対象物Bは、測定室12内で拡散胴24に接続される底面26上で、吹き出し口14と吸い込み口16との間に載置され、吹き出し口14から吸い込み口16に向かう気流の流れ(Y)を受けるようにしている。
送風ダクト18は、第1〜第4の4つの屈曲胴28A,B,C,D(屈曲部)を備えて平面視略長方形に形成され、吹き出し口14に向かって縮径する縮流胴22、および吸い込み口16から拡径する拡散胴24を有する。各屈曲胴28A,B,C,Dには、従来既知のコーナーベン29A,B,C,Dが設けられる。
【0017】
より詳細には、送風ダクト18の送風側部分
は、送風機20から測定室12に亘って、断面積が次第に大きくなるテーパー形状の第1拡大胴部40と、断面積が一定の第1中間胴部42と、断面積が次第に小さくなるテーパー形状の縮流胴22と、吹出し口14を備えたノズル部44とからその順に一体的に接続されて構成され、一方、送風ダクト18の吸気側部分は、測定室12から送風機20に亘って、吸込み口16を備えたベルマウス形状のコレクターダクト部46と、断面積が次第に大きくなる拡散胴24と、断面積が一定の第2中間胴部48とからその順に一体的に接続されて構成されているとともに、送風側部分の第1拡大胴部40と吸気側部分の第2中間胴部48が接続されており、それら送風ダクト18の送風側部分のノズル部44及び吸気側部分のコレクターダクト部46は、測定室12内に配置されている。
拡散胴24は、頂面34が水平向きとされた矩形断面を有し、下流方向に所定テーパ角度でテーパ付けられる。所定テーパ角度は、風洞内の流れの剥離現象の防止の観点からの効率性と、拡散胴24の長さを短縮化によるコスト低減とのバランスから決定すればよく、たとえば5°前後でよい。
【0018】
以上のように、送風機20で発生した気流は、第1拡大胴部40、第3屈曲胴28C、第4屈曲胴28D、縮流胴22を経て、測定室12に開口する吹出し口14から測定室12に流入し、第1屈曲胴28A、第2屈曲胴28Bの順に流れるようになっており、送風機20によって送風された気流は、いったん気流全体としての風速(動圧)を低下させて第1中間胴部42における圧力(静圧)を上昇させた後、縮流胴22を通過させることで、測定するのに必要十分な風量(風速)の気流を吹出し口から測定室12に吹き出すことができるようにしている。
【0019】
図2に示すように、拡散胴24の側面32には、吸い込み口16を介して拡散胴24に流入される気流の一部を測定室12に還流させるための開口部30が設けられる。
開口部30は、矩形形状であり、長辺11が拡散胴24の長手方向と平行な向きに、拡散胴24の頂面34を含め、周方向に所定角度間隔を隔てて複数(図面では3つ)設けられる。
開口部30の大きさおよび設置位置について、開口部30により気流(随伴流)の一部を測定室12に還流することにより、拡散胴24内の静圧上昇を抑制して逆流気流の発生を防止し、以て吸込み口16から流入する気流の不安定化を防止する観点から定めればよい。
【0020】
開口部30には、拡散胴24内に気流偏向板31が設けられ、気流偏向板31は、開口部30の最下流側の縁36である短辺13を回転軸線として、拡散胴24内で回動調整可能であり、それにより、気流偏向板31が拡散胴24内を流れる気流の一部を開口部30に向かって偏向する、構成としている。
気流偏向板31は、拡散胴24の所定テーパ角度に応じて、回転軸線を中心とする回動径(長辺11の長さ)を定めるのがよい。
より具体的には、気流偏向板31は、開口部30と同じ形状の薄平板状であり、開口部30を閉鎖する開度零度位置P1(
図3参照)と、測定室12内に配置された測定対象物Bの高さに応じて決定される最大開度位置P2(
図4参照)との間で、たとえば、モーター駆動により、所望の開度に回動可能である。
たとえば、測定対象である車両Bがスポーツセダンタイプの自動車の場合、車高が低く、それに応じて、気流偏向板31の開度を大きく取り、最大開度位置P2を下げ、一方、測定対象である車両Bがワゴンタイプのバスの場合、車高が高く、それに応じて、気流偏向板31の開度を小さく取り、最大開度位置P2を上げる必要がある。
気流偏向板31は、気流を受ける際に固定可能に、開口部30を介して吊り下げ支持される。より詳細には、バー33により吊り下げ支持され、バー33の径は、拡散胴24内の気流を乱さないように、なるべく細いのが好ましい。
変形例として、開口部30を拡散胴24の頂面34にのみ設け、それに応じて、気流偏向板31を、頂面34の開口部30にのみ設けるのでもよい。
【0021】
流速測定装置について、拡散胴24内で、気流偏向板31の背後の下流側に、ピトー管38A,B,Cが設けられ、ピトー管38により検知された、拡散胴24内の高さ方向の流速分布に応じて、気流偏向板31の開度を定めるようにしている。
より詳細には、ピトー管38A,B,Cは、拡散胴24の頂面34より下方に所定間隔を隔てて、気流偏向板31の最大開度までカバーするように、複数(図では、3つ)設けられ、たとえば、車高が高い車両Bの場合には、ピトー管38A,Bを用い、車高が高い車両Bの場合には、ピトー管38B,Cを用いるようにしている。ピトー管38は、従来と同様に、拡散胴24の管径の1/10以下にする必要があり、拡散胴24内を流れる気流により、先端部が振動しないように、管長を選択する必要がある。
なお、ピトー管38の設置高さを測定対象物Bの高さに応じて可変となるようにしてもよい。
気流偏向板31の開度は、送風機20による気流の風速と、測定対象物Bの外形、特に車高との関係で決定する。
【0022】
この場合、拡散胴24内の高さ方向の流速分布に基づいて、気流偏向板31の開度をフィードバック制御するのでもよい。
より詳細には、
図5に示すように、まず、送風機20による風量、および測定対象物である車両Bの車高に基づいて、気流偏向板31の最大開度αを設定するとともに、流速分布測定装置のうち、どのピトー管38の測定値を用いて、気流偏向板31の最大開度を評価するかを決定する。
次いで、気流偏向板31を設定した最大開度αに基づく最大開度位置P2まで回動させたうえで、送風機20により送風ダクト18を通じて気流を流し、気流偏向板31による拡散胴24における気流の乱れ防止効果を確認する。
【0023】
より詳細には、選択した2つのピトー管38の流速測定値同士を比較して、その差が所定差圧ΔP未満であれば、最大開度位置P2の気流偏向板31による気流の乱れ防止効果が適正であると判断し、一方その差が所定差圧ΔP以上であれば、気流の乱れ防止効果が不十分であると判断し、気流偏向板31の開度αをΔα増大する。
次いで、開度α+Δαにより、上記ステップを行い、気流の乱れ防止効果が適正となるまで繰り返す。
ΔPおよびΔαは、風洞試験の目的、たとえば、空力、空力特性、あるいは空力騒音測定、並びに風洞試験において要求される精度に応じて、適宜定めればよい。
【0024】
以上の構成を有する回流式開放型風洞装置10について、その作用を、回流式開放型風洞内の気流の整流化方法を含めて、以下に説明する。
まず、拡散胴24内に開口部30を閉鎖可能な気流偏向板31を設ける。より詳細には、拡散胴24の頂面34に、開口部30の最下流側の縁36である長辺11を回転軸線として、拡散胴24内で回動調整可能となるように、気流偏向板31を設ける。
次いで、測定室12内に所定風速の気流を発生し、拡散胴24の吸い込み口16より気流を吸い込み、それにより気流偏向板31により気流を開口部30に向かって偏向させて、測定室12内に還流させる。
次いで、気流偏向板31の背後の下流側の気流の流速分布を測定する。この場合、拡散胴24の頂面34から測定室12内に配置された風洞試験対象物Bの高さまでの範囲を少なくとも測定する。
次いで、測定した気流の流速分布に基づいて、気流偏向板31の開度を調整する。より詳細には、気流偏向板31の最大開度を測定室12内に配置された風洞試験対象物Bの高さに応じて、設定し、それにより、開口部30を介して測定室12への所望の還流を生じさせるようにしている。
図6に示すように、以上により、拡散胴24の吸い込み口16からの随伴流を測定室12へ還流(図面上でX)させることにより、風洞試験対象物Bの高さに係わらず、拡散胴24内の気流の乱れを抑制して、回流式開放型風洞内の気流の整流化を達成することが可能である。
【0025】
以上の構成を有する回流式開放型風洞装置10によれば、測定室12内で、送風機20により発生した気流が送風ダクト18内を流れて縮流胴22により絞られて吹き出し口14より吹き出して開放され、測定対象物Bを通過し、吸い込み口16より拡散胴24内に流入し、送風ダクト18内を流れて送風機20に戻される回流式の風洞装置であり、送風機20の負担を軽減しつつ、測定対象物Bの測定室12への搬出入の利便性を確保するとともに、測定室12内で吹き出し口14から吸いこみ口に向かって流れる気流中に測定対象物Bを配置することにより、測定対象物Bに対して空力性能試験を行うことが可能である。
【0026】
その際、吸い込み口16を介して拡散胴24に流入する気流は、吸い込み口16を介して測定室12内の空気を吸い込むことにより随伴流を伴うところ、吸い込み口16の周縁36近傍の随伴流は、気流偏向板31により偏向されながら開口部30より外方へ流出して、測定室12に還流させることが可能であり、測定対象物Bに応じて、気流偏向板31の開口部30の最下流位置を支点とする回動角度(開度)を調整することにより、随伴流の発生に伴う気流の乱れを有効に防止し、以て測定対象物Bにかかわらず、気流の乱れを有効に防止することにより、十分な風洞性能を確保することが可能である。
【0027】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の修正あるいは変更が可能である。
たとえば、本実施形態において、開口部30を矩形断面の拡散胴24の頂面34にのみ設け、それとの関係で、気流偏向板31を拡散胴24の頂面34にのみ設ける場合を説明したが、それに限定されることなく、風洞試験における測定対象物Bの測定室12内での配置条件に応じて、開口部30を矩形断面の拡散胴24の複数の側面32に設け、それに応じて、気流偏向板31を拡散胴24の側面32に複数設けてもよい。
【0028】
たとえば、本実施形態において、矩形断面の拡散胴24を前提として、その頂面34にのみ気流偏向板31を設ける場合を説明したが、それに限定されることなく、平板状の気流偏向板31により拡散胴24の頂面に設ける開口部を閉鎖可能なように、拡散胴24の頂面を平面状とする限り、気流偏向板31を設けない拡散胴24の他の側面については、平面状である必要はなく、たとえば、頂面を除き、円形断面でもよい。
たとえば、本実施形態において、気流偏向板31を拡散胴24内に設けることにより、拡散胴24内の気流の乱れを防止する場合として説明したが、それに限定されることなく、風洞自体の自励振動を抑制し、自励振動に起因する騒音の発生、あるいは風洞自体の構造信頼性または健全性に寄与させることも可能である。
たとえば、本実施形態において、車両における空力特性を測定する場合として説明したが、それに限定されることなく、自動車や航空機等の実験対象物における空力、空力特性、空力騒音等を測定するために利用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係る回流式開放型風洞装置10の全体図である。
【
図2】
図2(A)は、本発明の実施形態に係る回流式開放型風洞装置10の拡散胴24まわりの部分図であり、
図2(B)は、
図2(A)の線A−Aに沿う概略断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る回流式開放型風洞装置10の気流偏向板31まわりの部分図であって、気流偏向板31が開度零度位置P1にある状況を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る回流式開放型風洞装置10の気流偏向板31まわりの部分図であって、気流偏向板31が最大開度位置P2にある状況を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る回流式開放型風洞装置10の気流偏向板31のフィードバック制御のフローを示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る回流式開放型風洞装置10の気流偏向板31による作用を示す模式図である。
【符号の説明】
【0030】
X 随伴流の還流の流れ
Y 気流の流れ
W 回転軸線
B 測定対象物
α 気流偏向板の開度
P1 開度零度位置
P2 最大開度位置
10 回流式開放型風洞装置
11 長辺
12 測定室
13 短辺
14 吹き出し口
16 吸い込み口
18 送風ダクト
20 送風機
22 縮流胴
24 拡散胴
26 底面
28 屈曲胴
29 コーナーベン
30 開口部
31 気流偏向板
32 側面
33 バー
34 頂面
36 縁
38 ピトー管
40 第1拡大胴部
42 第1中間胴部
44 ノズル部
46 コレクターダクト部
48 第2中間胴部