特許第5844324号(P5844324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中国電力株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5844324-碍子製造方法 図000002
  • 特許5844324-碍子製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5844324
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月13日
(54)【発明の名称】碍子製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 17/02 20060101AFI20151217BHJP
【FI】
   H01B17/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-186948(P2013-186948)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-56203(P2015-56203A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2014年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松重 勇
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−247913(JP,A)
【文献】 特開2002−167544(JP,A)
【文献】 特開2004−176151(JP,A)
【文献】 特開2001−172773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁材料により形成された碍子本体と、耐候性鋼材により形成され、前記碍子本体に固定され、前記碍子本体を他の碍子または支持物に支持するための支持金具とを備えた碍子の製造方法であって、
前記支持金具を所定時間空気に曝し、前記支持金具の表面に錆層を形成する錆層形成工程と、
前記錆層形成工程において錆層が形成された前記支持金具を前記碍子本体に固定させる組立工程とを備えていることを特徴とする碍子製造方法。
【請求項2】
絶縁材料により形成された碍子本体と、耐候性鋼材により形成され、前記碍子本体に固定され、前記碍子本体を他の碍子または支持物に支持するための支持金具とを備えた碍子の製造方法であって、
前記碍子本体に前記支持金具を固定させる組立工程と、
前記碍子本体に固定された前記支持金具を所定時間空気に曝し、前記支持金具の表面に錆層を形成する錆層形成工程とを備えていることを特徴とする碍子製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線等とその支持物との間を絶縁する碍子(がいし)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、碍子は、磁器等の絶縁材料から形成された碍子本体と、当該碍子本体を他の碍子、または鉄塔や電柱等の支持物に支持するための支持金具とを備えている。支持金具は例えば鉄により形成され、碍子本体にセメント等を介して固着されていると共に、他の碍子または支持物に接続するための接続部(例えばコッター等の連結金具を装着するための穴等)が形成されている。また、従来、碍子の支持金具には、その腐食を抑制するために、例えば溶融亜鉛めっきが施されている。
【0003】
碍子が風雨に長期間曝されると、溶融亜鉛めっきにより支持金具に形成されためっき層が腐食し、めっき層が消失する。めっき層が消失すると、支持金具自体の腐食が進行する。支持金具が腐食すると、連結金具等が固着し、または、支持金具の減肉により支持金具の機械的強度が低下し、このために課電破壊加重の規格値を満足しなくなる。それゆえ、従来、支持金具のめっき層が消失する頃、碍子を交換している。
【0004】
一方、下記の特許文献1には、碍子の支持金具のめっき層上に塗膜を形成し、めっき層の腐食を抑制する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−54943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の碍子には次のような問題がある。すなわち、碍子の支持金具においては、通常の大気腐食(自然腐食)に加え、碍子特有の電食作用による腐食が生じる。つまり、碍子本体の表面が汚損湿潤すると、碍子表面に微小な部分放電が発生し、漏れ電流中に直流電流が生じる。この直流成分により、支持金具の亜鉛めっき層や鉄が陽イオン化され、溶出する。
【0007】
このような電食作用による腐食は、その程度が大きく、進行が速いため、碍子の寿命を短くする要因となる。碍子の寿命が短いと、碍子の交換頻度が高くなり、電力系統や電気設備の管理コストが増大する。
【0008】
この点、特許文献1に記載された技術によれば、めっき層上に形成された塗膜によりめっき層の腐食が抑制されるので、腐食の進行を遅くすることができそうである。しかしながら、めっき層上に塗膜を形成するといった表面加工を採用すると、碍子の製造費用が上昇してしまう。
【0009】
また、従来の碍子には次に述べるような問題がある。例えば高圧送電線を鉄塔に支持する場合、電線と鉄塔との間に必要な絶縁性を確保するために、多数の碍子を連ねて取り付ける必要がある。碍子の個数が増加すれば、コストも増加する。そこで、個々の碍子の絶縁耐力を高めることにより、電線と鉄塔との間に必要な絶縁性を確保しつつ、碍子の個数を減らすことが望まれる。
【0010】
この点、個々の碍子において、碍子本体の表面距離を長くすることで、絶縁耐力を高めることができる。しかしながら、碍子本体の表面距離を長くすると、碍子本体の形状が複雑になり、または碍子本体の大きさが増加する等の問題が生じる。
【0011】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の第1の課題は、低コストで寿命を延ばすことができる碍子製造方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第2の課題は、碍子本体の形状の複雑化、または碍子本体の大型化を招くことなく、絶縁耐力を高めることができる碍子製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の第1の碍子製造方法は、絶縁材料により形成された碍子本体と、耐候性鋼材により形成され、前記碍子本体に固定され、前記碍子本体を他の碍子または支持物に支持するための支持金具とを備えた碍子の製造方法であって、前記支持金具を所定時間空気に曝し、前記支持金具の表面に錆層を形成する錆層形成工程と、前記錆層形成工程において錆層が形成された前記支持金具を前記碍子本体に固定させる組立工程とを備えていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第2の碍子製造方法は、絶縁材料により形成された碍子本体と、耐候性鋼材により形成され、前記碍子本体に固定され、前記碍子本体を他の碍子または支持物に支持するための支持金具とを備えた碍子の製造方法であって、前記碍子本体に前記支持金具を固定させる組立工程と、前記碍子本体に固定された前記支持金具を所定時間空気に曝し、前記支持金具の表面に錆層を形成する錆層形成工程とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低コストで碍子の寿命を延ばすことができる。また、本発明によれば、碍子本体の形状の複雑化、または碍子本体の大型化を招くことなく、碍子の絶縁耐力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態による碍子を示す一部破断の正面図である。
図2】支軸部材の表面に錆層が形成された状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の実施形態による碍子を示している。図1において、本発明の実施形態による碍子1は、懸垂碍子であり、碍子本体2と、碍子本体2を他の碍子、または鉄塔、電柱、腕金等の支持物に支持するための支持金具7とを備えている。また、支持金具7は、支軸部材8およびキャップ部材10を備えている。
【0020】
碍子本体2は、例えば磁器、ガラス、ポリマー等の絶縁材料により形成されている。碍子本体2は、有蓋筒状に形成された軸部3と、軸部3からその全周に亘って径方向外向きに拡張し、笠状に形成された笠部4とを備えている。また、図1において笠部4の底面には、複数の円形の溝5が形成され、これらの溝5は碍子本体2の軸心を基準にして同心円状に配置されている。これらの溝5により、碍子本体2の表面距離が長くなる。
【0021】
支軸部材8は棒状に形成されている。支軸部材8の一端側は、碍子本体2の軸部3内に入り込み、軸部3にセメント12によって固着されている。また、支軸部材8の他端側は、図1において碍子本体2の下方に伸長している。また、支軸部材8の他端部には、碍子本体2を他の碍子または支持物に接続するための接続部9が形成されている。
【0022】
キャップ部材10はキャップ状に形成されている。キャップ部材10は、図1において碍子本体2の軸部3の上部を覆い、当該軸部3の上部にセメント13によって固着されている。また、キャップ部材10の頂部には、碍子本体2を他の碍子または支持物に接続するための接続部11が形成されている。
【0023】
2つの碍子1を互いに連結する場合には、一方の碍子1の支軸部材8に形成された接続部9と、他方の碍子1のキャップ部材10に形成された接続部11とを、コッターおよび割りピン等の連結金具14を介して接続する。
【0024】
また、支軸部材8はその全体が耐候性鋼材により形成されている。また、キャップ部材10もその全体が耐候性鋼材により形成されている。耐候性鋼材は、鉄ないし鋼にCu、Cr、Ni等の合金元素を添加することにより形成された鋼材である。
【0025】
また、支軸部材8およびキャップ部材10を形成する耐候性鋼材の表面には、碍子1の使用開始前の段階(例えば碍子1の出荷時)において錆層が形成されている。
【0026】
ここで、図2は支軸部材8の表面付近の断面を拡大して示している。図2に示すように、支軸部材8の表面には錆層21が形成されている。錆層21において、表面側にはオキシ水酸化鉄22が形成され、内部側には保護性錆(または安定錆)の層である保護性錆層23が形成されている。保護性錆層23は、Cu、Cr、Niが関与する極めて緻密な非晶質の層である。また、キャップ部材10の表面にも、図2に示す錆層21と同様の錆層が形成されている。
【0027】
このような構成を有する碍子1の製造方法は次の通りである。まず、支軸部材8およびキャップ部材10を所定時間空気に曝し、支軸部材8の表面およびキャップ部材10の表面に錆層を形成する(錆層形成工程)。次に、錆層がそれぞれ形成されたキャップ部材10および支軸部材8を碍子本体2にセメント12,13により固定させることにより、碍子1を組み立てる(組立工程)。
【0028】
錆層形成工程では、適度な乾湿が繰り返される環境下に支軸部材8およびキャップ部材10を置くことが望ましい。乾湿を人為的に作り出してもよい。また、支軸部材8およびキャップ部材10を空気に曝す時間(適度な乾湿が繰り返される環境下に支軸部材8およびキャップ部材10を置く時間)は、支軸部材8の表面全体およびキャップ部材10の表面全体に適度な錆層が形成され得る時間、または、支軸部材8およびキャップ部材10を空気に曝し始めてから(適度な乾湿が繰り返される環境下に支軸部材8およびキャップ部材10を置き始めてから)支軸部材8の表面およびキャップ部材10の表面において錆層形成の進行が止まるまでの時間に設定することが望ましい。また、錆層形成工程では、錆促進剤の使用等、錆層の形成を速める手段を採用してもよい。
【0029】
以上説明した通り、本発明の実施形態による碍子1によれば、支軸部材8およびキャップ部材10にそれぞれ形成された錆層により、支軸部材8の表面およびキャップ部材10の表面を保護し、支軸部材8およびキャップ部材10の腐食を抑制することができる。したがって、支軸部材8およびキャップ部材10に溶融亜鉛めっき等のめっきを施す必要がなくなるので、めっきにかかる費用をなくすことができ、碍子の製造コストを削減することができる。
【0030】
また、支軸部材8およびキャップ部材10に形成された錆層は安定しており、持続性を有するので、錆層により長期間に亘って支軸部材8およびキャップ部材10の腐食を抑えることができ、それゆえ、碍子1の寿命を延ばすことができる。また、碍子1の長寿命化を図ることにより、碍子1の交換頻度を減らすことができ、これにより電力系統または電気設備等の管理コストを削減することができる。
【0031】
また、本発明の実施形態による碍子1によれば、支軸部材8およびキャップ部材10に表面加工を施す必要がないので、碍子1を容易に製造することが可能になる。
【0032】
また、本発明の実施形態による碍子1において、支軸部材8の表面およびキャップ部材10の表面にそれぞれ形成された錆層は絶縁体である。したがって、図1に示す碍子1において、位置P1から位置P2までの間における絶縁体部分の表面距離は、碍子本体2の表面距離に、支軸部材8およびキャップ部材10のそれぞれに形成された錆層の表面距離を加えたものとなる。この結果、碍子1における絶縁体部分の表面距離が長くなり、碍子1における漏洩電流距離が長くなる。このように、本発明の実施形態による碍子1によれば、碍子本体2の形状も大きさも変更せずに、碍子1における絶縁体部分の表面距離および碍子1における漏洩電流距離を長くすることができる。すなわち、碍子1によれば、碍子本体2の形状の複雑化、または碍子本体2の大型化を招くことなく、碍子1の絶縁耐力を高めることができる。
【0033】
また、例えば鉄塔と当該鉄塔に支持する電線との間に複数の碍子1を取り付ける場合、個々の碍子1の絶縁耐力を高めることにより、鉄塔と電線との間に必要な絶縁性を確保しつつ、碍子1の個数を減らすことができる。したがって、碍子1の個数削減によりコストを削減することができる。さらに、碍子1の個数削減によって、鉄塔や腕金の小型化が許容されるようになるので、これによってもコスト削減を推し進めることができる。
【0034】
また、支軸部材8およびキャップ部材10に錆層が形成されることにより、支軸部材8およびキャップ部材10の色を、自然と調和した色にすることができ、碍子1の外観を良くすることができる。
【0035】
なお、支軸部材8およびキャップ部材10に加え、コッターおよび割りピン等の連結金具14をも耐候性鋼材で形成してもよい。
【0036】
また、本発明は、上述したような懸垂碍子に限らず、ピン碍子、長幹碍子等の他の種類の碍子にも適用することができ、また、本発明は、送電用、変電用、配電用の電線を支持するための碍子に限らず、鉄道の架線を支持するための碍子等、他の用途に使用される碍子にも適用することができる。
【0037】
また、本発明の碍子製造方法において、上記錆層形成工程と上記組立工程との順序を逆にしてもよい。この場合には、錆層形成工程において、支軸部材8およびキャップ部材10の表面のうち碍子1の組立後において外部に露出した部分(大気に触れている部分)にのみ錆層が形成される。
【0038】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う碍子および碍子製造方法もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
1 碍子
2 碍子本体
3 軸部
4 笠部
5 溝
7 支持金具
8 支軸部材
9 接続部
10 キャップ部材
11 接続部
12、13 セメント
14 連結金具
21 錆層
22 オキシ水酸化鉄
23 保護性錆層
図1
図2