特許第5844567号(P5844567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5844567
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】四輪駆動車の制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/35 20060101AFI20151224BHJP
【FI】
   B60K17/35 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-164987(P2011-164987)
(22)【出願日】2011年7月28日
(65)【公開番号】特開2013-28245(P2013-28245A)
(43)【公開日】2013年2月7日
【審査請求日】2014年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100083013
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 正明
(72)【発明者】
【氏名】八木 康
(72)【発明者】
【氏名】河野 裕人
(72)【発明者】
【氏名】野津 知宏
(72)【発明者】
【氏名】垣田 晃義
(72)【発明者】
【氏名】繁田 良平
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 実開平05−077631(JP,U)
【文献】 特開平06−239159(JP,A)
【文献】 特開平01−199079(JP,A)
【文献】 特開平05−221248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電流に応じて補助駆動輪への駆動力伝達容量が変化する駆動力配分装置を用い、車両の走行状態に応じて主駆動輪と補助駆動輪への駆動力の配分を制御する四輪駆動車の制御方法であって、
前記駆動力配分装置は、前記印加電流が低下中は該印加電流が上昇中よりも印加電流に対する補助駆動輪への駆動力伝達容量が大きくなる特性を備えるものであり、
駆動力配分装置により前記補助駆動輪へ駆動力を配分しているときに、前記特性における印加電流が低下中の特性に基いた駆動力伝達容量が得られるように、所定期間ごとに、前記印加電流を補助駆動輪への駆動力の目標配分量に応じた電流値よりも一時的に上昇させた後、目標配分量に応じた電流値に復帰させる電流増減制御を行うことを特徴とする四輪駆動車の制御方法。
【請求項2】
前記請求項1に記載の四輪駆動車の制御方法において、
前記電流増減制御は、前記補助駆動輪への駆動力の目標配分量が所定の上限値を超えるときには行わないことを特徴とする四輪駆動車の制御方法。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載の四輪駆動車の制御方法において、
前記電流増減制御は、補助駆動輪への駆動力の配分開始後、該補助駆動輪への目標配分量が所定値に達したときに開始することを特徴とする四輪駆動車の制御方法。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の四輪駆動車の制御方法において、
前記電流増減制御は、その電流の増減に起因して補助駆動輪に伝達される駆動力が変化するまでの間に終了することを特徴とする四輪駆動車の制御方法。
【請求項5】
車両の走行状態に応じて主駆動輪と補助駆動輪への駆動力の配分を制御する四輪駆動車の制御装置であって、
印加電流に応じて補助駆動輪への駆動力伝達容量が変化することにより前記主駆動輪と補助駆動輪への駆動力の配分を制御すると共に、前記印加電流が低下中は該印加電流が上昇中よりも印加電流に対する補助駆動輪への駆動力伝達容量が大きくなる特性を備える駆動力配分装置と、
車両の走行状態に応じて前記補助駆動輪へ配分する駆動力の目標配分量を設定し、この目標配分量に応じた電流を前記駆動力配分装置に印加すると共に、該駆動力配分装置により前記補助駆動輪側へ駆動力を配分しているときに、前記特性における印加電流が低下中の特性に基いた駆動力伝達容量が得られるよう、所定期間ごとに、前記印加電流を目標配分量に応じた電流値よりも一時的に上昇させた後、目標配分量に応じた電流値に復帰させる電流増減制御を行う電流制御手段とを有することを特徴とする四輪駆動車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車、特に前後の車輪への駆動力の配分を走行状態に応じて自動的に制御する四輪駆動車の制御方法及び制御装置に関し、車両の走行制御技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
前後輪に駆動力を伝える四輪駆動車として、常時四輪駆動方式のもの、運転者の選択による二輪・四輪切換方式のものなどに加えて、近年、車両の走行状態に応じて、前後輪への駆動力の配分を自動的に制御するものが実用化されている。
【0003】
この駆動力配分自動制御方式によれば、例えば、前輪を主駆動輪、後輪を補助駆動輪とする場合に、基本的には前輪のみの二輪駆動状態に制御すると共に、車速の上昇やハンドル舵角の増大等に応じて後輪へ駆動力を配分するように制御し、或いは、低μ路等における主駆動輪のスリップによる駆動力のロスや補助駆動輪への動力伝達ロスなどを勘案して、最も効率的な駆動力配分を実現するなどにより、走行性、操縦安定性、燃費性能等を総合的に向上させることが可能となる。
【0004】
ところで、上記のような駆動力の配分は、補助駆動輪への動力伝達経路に電磁式カップリング等の電気的に制御される駆動力配分装置を配設し、この駆動力配分装置に対する通電制御によって該装置の駆動力伝達容量を制御することにより、走行状態に応じて補助駆動輪への駆動力配分比を全体の0〜50%の範囲で可変制御するように行われる。
【0005】
その場合に、電気的に制御する駆動力配分装置においては、図7に示すように、印加された電流に対する駆動力伝達容量の特性が、曲線Aで示す電流値が上昇中と、曲線Bで示す電流値が低下中とで異なり、いわゆるヒステリシスが発生する。そのため、同一の電流値Iに対し、その電流値Iが上昇中のものか低下中のものかにより、伝達容量がTからTの範囲でばらつき、駆動力配分の制御の精度が低下することになる。
【0006】
なお、特許文献1には、車両の動力伝達経路中に配置されるカップリングにおいて、スプライン嵌合部の摩擦抵抗に起因して生じる伝達容量のヒステリシスに対し、これを機械的構造の改良によって低減するようにした発明が開示されているが、これは、四輪駆動車における前後輪への駆動力配分に関するものではなく、また、上記のような駆動力配分装置における電気的なヒステリシスに対処するものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−193757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、補助駆動輪への動力伝達経路に配設された電気的に制御される駆動力配分装置におけるヒステリシスによる影響を抑制し、該装置による前後輪間の駆動力配分制御の精度の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、印加電流に応じて補助駆動輪への駆動力伝達容量が変化する駆動力配分装置を用い、車両の走行状態に応じて主駆動輪と補助駆動輪への駆動力の配分を制御する四輪駆動車の制御方法であって、前記駆動力配分装置は、前記印加電流が低下中は該印加電流が上昇中よりも印加電流に対する補助駆動輪への駆動力伝達容量が大きくなる特性を備えるものであり、該駆動力配分装置により前記補助駆動輪へ駆動力を配分しているときに、前記特性における印加電流が低下中の特性に基いた駆動力伝達容量が得られるように、所定期間ごとに、前記印加電流を補助駆動輪への駆動力の目標配分量に応じた電流値よりも一時的に上昇させた後、目標配分量に応じた電流値に復帰させる電流増減制御を行うことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の四輪駆動車の制御方法において、前記電流増減制御は、前記補助駆動輪への駆動力の目標配分量が所定の上限値を超えるときには行わないことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の四輪駆動車の制御方法において、前記電流増減制御は、補助駆動輪への駆動力の配分開始後、該補助駆動輪への目標配分量が所定値に達したときに開始することを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の四輪駆動車の制御方法において、前記電流増減制御は、その電流の増減に起因して補助駆動輪に伝達される駆動力が変化するまでの間に終了することを特徴とする。
【0014】
そして、請求項5に記載の発明は、車両の走行状態に応じて主駆動輪と補助駆動輪への駆動力の配分を制御する四輪駆動車の制御装置であって、印加電流に応じて補助駆動輪への駆動力伝達容量が変化することにより前記主駆動輪と補助駆動輪への駆動力の配分を制御すると共に、前記印加電流が低下中は該印加電流が上昇中よりも印加電流に対する補助駆動輪への駆動力伝達容量が大きくなる特性を備える駆動力配分装置と、車両の走行状態に応じて前記補助駆動輪へ配分する駆動力の目標配分量を設定し、この目標配分量に応じた電流を前記駆動力配分装置に印加すると共に、該駆動力配分装置により前記補助駆動輪側へ駆動力を配分しているときに、前記特性における印加電流が低下中の特性に基いた駆動力伝達容量が得られるよう、所定期間ごとに、前記印加電流を目標配分量に応じた電流値よりも一時的に上昇させた後、目標配分量に応じた電流値に復帰させる電流増減制御を行う電流制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、駆動力配分装置に印加する電流を制御することにより、該駆動力配分装置の駆動力伝達容量、換言すれば、補助駆動輪への駆動力の配分量が制御されることになる。したがって、例えば車速、ハンドル舵角、車輪のスリップ状態等の当該車両の走行状態に応じて、常に最適な駆動力の配分を実現することが可能となり、走行性や操縦安定性、燃費性能等を総合的に向上させることが可能となる。
【0017】
その場合に、前記駆動力配分装置は、印加電流に対する駆動力伝達容量の特性にヒステリシスを有し、目標配分量に応じた印加電流の電流値が上昇中のものか低下中のものかにより伝達容量がばらつくという性質があるが、該駆動力配分装置により補助駆動輪へ駆動力を配分しているときは、所定期間ごとに、印加する電流を目標配分量に応じた電流値よりも一時的に上昇させた後、目標配分量に応じた電流値に復帰させる電流増減制御を行うので、必ず電流値が低下中の特性に基いた伝達容量が得られることになる。
【0018】
これにより、前記駆動力配分装置のヒステリシスによる伝達容量のばらつきが抑制され、四輪駆動車における走行状態に応じた前後輪間の駆動力配分制御の精度が向上することになる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記補助駆動輪への駆動力の目標配分量が所定の上限値を超えるときには前記電流増減制御を行わないので、不必要に電流を上昇させることによるエネルギロスが回避されることになる。
【0020】
つまり、補助駆動輪への駆動力の目標配分量が所定値を超える場合とは、主に、主駆動輪がスリップし易い情況にあって、これを安定化させるために補助駆動輪への駆動力の配分量が比較的大きく変動するような制御を行っている場合であるので、そのたびにヒステリシスによるばらつきを抑制する制御を行ってもその効果が薄く、この補正制御を行う必要性が少ないのである。
【0021】
また、請求項3に記載の発明によれば、主駆動輪のみに駆動力を伝達している二輪駆動状態から補助駆動輪への駆動力の配分を開始した後、目標配分量が所定値に達したときに前記電流増減制御を開始するので、補助駆動輪への駆動力の配分量がもともと小さく、駆動力配分装置のヒステリシスによる影響が小さい駆動力配分制御の開始直後に、電流増減制御を行って不必要に電流値を上昇させることによるエネルギロスが回避されることになる。
【0022】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、前記電流増減制御は、その電流の増減に起因して補助駆動輪に伝達される駆動力が変化するまでの間に終了するので、電流の制御に起因して補助駆動輪に伝達される駆動力が変化し、違和感として乗員に伝わることが防止される。
【0023】
そして、請求項5に記載の発明によれば、前記請求項1の発明に係る方法によって得られる効果が、四輪駆動車の制御装置の効果として実現される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る車両の駆動系統図である。
図2】同実施形態における駆動力配分制御で用いるマップである。
図3】駆動力配分制御の動作を示すフローチャートである。
図4】同制御動作の一例を示すタイムチャートである。
図5】同制御動作の作用説明図である。
図6】同制御動作の他の作用説明図である。
図7】駆動力配分装置のヒステリシス特性の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る四輪駆動車の制御装置について説明する。なお、この制御装置の動作は本発明に係る四輪駆動車の制御方法の実施形態を構成する。
【0026】
まず、図1により、本実施形態が適用される車両の構成を説明すると、この車両1は、
フロントエンジン・フロントドライブ車をベースとし、左右の前輪2、2が主駆動輪、左右の後輪3、3が補助駆動輪とされた四輪駆動車であって、駆動系統を構成するものとして、エンジン4と、該エンジン4の出力が入力され、走行状態に応じて減速比が自動または手動で変化する変速機5と、該変速機5の出力が入力され、車軸6、6を介して前輪2、2へ駆動力としてのトルクを配分する前輪差動装置7と、該差動装置7を介して前記変速機5の出力を後輪3、3側へ取り出す動力取出軸8と、該動力取出軸8からトルクが入力される駆動力配分装置としてのカップリング9と、該カップリング9から出力されたトルクを車軸10、10を介して後輪3、3に配分する後輪差動装置11とを備えている。
【0027】
前記カップリング9は、印加された電流に応じた締結力で締結されることにより、トルク伝達容量が印加電流の電流値によって制御されることになり、完全に締結されたときには伝達容量が入力トルクをそのまま後輪差動装置11側に出力し、このとき、前後輪2、3のトルク配分比は、ほぼ50:50となる。また、完全に解放されたときには、後輪差動装置11側へはトルクは出力されず、前後輪2、3のトルク配分比は、100:0となる。そして、その中間の配分比では、カップリング9の伝達容量と等しいトルクが後輪差動装置11側へ出力され、そのトルクが後輪3、3へのトルク配分量となる。
【0028】
そして、このカップリング9のトルク伝達容量を制御することにより前後輪2、3へのトルクの配分を車両1の走行状態に応じて制御するためのコントローラ20が備えられ、この実施形態では、該コントローラ20は、前輪2及び後輪3の車輪速をそれぞれ検出する車輪側センサ21、22からの信号と、ハンドル(図示せず)の操舵角を検出する舵角センサ23からの信号とを入力するようになっており、これらの信号に基づき、そのときの走行状態に最も適した前後輪2、3へのトルク配分となるように、前記カップリング9に印加する電流を制御する。
【0029】
具体的には、車輪側センサ21、22からの信号に基づいて検出される車速が所定車速以下で、舵角センサ23からの信号が示す操舵角がほぼ0、かつ、車輪側センサ21、22からの信号が示す前後輪2、3の車輪速の差に基いて検出される前後輪2、3のスリップ量がほぼ0の安定した走行状態では、後輪3へのトルク配分はなく、二輪駆動状態とされる。
【0030】
そして、車速が前記所定車速を超えたときや、操舵角が所定角度を超えたときには、車速や操舵角の増大に応じて後輪3へのトルク配分量が所定範囲内で増大され、また、主駆動輪である前輪2のスリップ量が所定量を超えれば、そのスリップ量の増大に応じて後輪3へのトルク配分量が所定範囲内で増大される。さらに、前輪2のスリップによる駆動ロス、後輪3のスリップによる駆動ロス、及び動力伝達経路が長くなる後輪3へのトルク伝達時の機械ロス等をトータルしたときのロスが最も小さくなるように、後輪3へのトルク配分量が制御される。
【0031】
コントローラ20は、上記のようなトルク配分の制御のために、図2に示すようなカップリング9の印加電流とトルク伝達容量との関係を示すマップを備えており、このマップに基き、そのときの走行状態に応じたトルク伝達容量が得られるように、換言すれば、後輪3へ配分されるトルク(以下、「後輪トルク」という)が走行状態に応じた目標トルク(以下、「目標後輪トルク」という)Tとなるように、カップリング9に印加する電流の電流値Iを求めるようなっている。
【0032】
その場合に、前記カップリング9は、印加電流に対するトルク伝達容量の特性にヒステリシスがあり、同一の電流値に対し、その電流値が上昇中のものか低下中のものかにより、伝達容量が所定の範囲でばらつくという特性があるので、コントローラ20は、カップリング9のトルク伝達容量を制御する際に、ヒステリシスを考慮した補正制御を行うようになっており、次に、この補正制御を含むカップリング9の制御動作を図3に示すフローチャートに従って説明する。
【0033】
コントローラ20は、二輪駆動状態から後輪3へのトルク配分制御を開始したときに、まず、ステップS1で、前記車輪速センサ21、22及び舵角センサ23等からの各種信号を読み込み、ステップS2で、これらの信号が示すそのときの走行状態に応じた目標後輪トルクTを設定すると共に、後輪トルクがその目標後輪トルクTとなるように、換言すれば、その目標後輪トルクTを伝達可能なトルク伝達容量が得られるように、図2のマップから読み取った電流値Iの電流を制御電流Iとしてカップリング9に印加する。
【0034】
次に、ステップS3で、後述するタイマがセットされてから所定時間が経過したか否かを判定する。この時点では、タイマはいまだセットされていないので判定結果はNoとなり、次に、ステップS4で、前記目標後輪トルクTが補正制御範囲に設定される閾値を超えた直後か否かを判定する。この閾値は、例えば、0.5〜1.5N・mに設定されている。
【0035】
そして、前記ステップS4で、目標後輪トルクTがいまだ補正制御範囲に設定される閾値を超えいないと判定されたときには、前記ステップS1、S2を再び実行し、カップリング9に目標後輪トルクTに応じた電流値Iの制御電流Iを印加する。
【0036】
したがって、図4に符号aで示すように、後輪3へのトルク配分制御が開始された後、目標後輪トルクTが補正制御範囲に設定される閾値を超えるまでは、その補正制御を行うことなく、後輪トルクが走行状態に応じた目標後輪トルクTとなるように、該カップリング9に制御電流Iを印加する通常の制御が行われる。
【0037】
一方、前記ステップS4で、目標後輪トルクTが補正制御範囲に設定される閾値を超えたと判定されれば、コントローラ20は、ヒステリシス補正制御として、ステップS5で、前記カップリング9に、図4に示すようなヒステリシス補正電流I’を印加する。このヒステリシス補正電流I’は、最大電流値Imaxが通常の制御中における後輪3へのトルク配分量に対応する制御電流Iよりも十分高く(例えば、1〜3A)、また、印加時間Δtは極短時間(例えば、0.1〜0.3秒)で、パルス状の電流とされている。
【0038】
ここで、電流値の大きいヒステリシス補正電流I’を印加すると、後輪トルクが急上昇して乗員に違和感を与えることになるが、このヒステリシス補正電流I’を上記のように印加時間が極短時間のパルス状の電流とすれば、電流値の上昇によりカップリング9のトルク伝達容量が一時的に上昇しても、後輪差動装置11等を介して大きなトルクが後輪3へ伝達されるまでにその状態が解消され、乗員に違和感を与えることが回避されるのである。
【0039】
そして、コントローラ20は、次にステップS6でタイマをセットし、刻時を開始した上で、ステップS7で、前記ヒステリシス補正電流I’の印加に連続させて、前記ステップS2と同様にして、そのときの走行状態に応じた目標後輪トルクTに対応する電流値Iの制御電流Iをカップリング9に印加する。
【0040】
これにより、カップリング9に印加される電流は、目標後輪トルクTに応じた電流値Iから一時的に急激に上昇され、その直後に再び目標後輪トルクTに応じた電流値Iに復帰されることになるが、このとき、図5に示すように、カップリング9に印加される電流は、電流値を前記ヒステリシス補正電流I’の最大電流値Imaxから低下させて印加されることになり、したがって、そのときのカップリング9のトルク伝達容量、即ち後輪トルクは、ヒステリシス特性の符合Bで示す曲線上の値となる。
【0041】
次に、コントローラ20は、ステップS8で、目標後輪トルクTが補正制御範囲内にあるか否かを判定し、該範囲内にあるときは前記ステップS1、S2を再び実行し、カップリング9にそのときの目標後輪トルクTに応じた電流値Iの制御電流Iを印加すると共に、ステップS3で、前記ステップS6でタイマをセットした後、所定時間が経過したか否かを判定する。
【0042】
ここで、図4に示すように、補正制御範囲は、カップリング9のヒステリシスに対する補正制御を実行する条件としての目標後輪トルクTの範囲であって、例えば下限値Tminが0.5〜1.5N・m、上限値Tmaxが200〜300N・mの範囲とされる。
【0043】
つまり、目標後輪トルクTが前記下限値Tmin未満であるときは、カップリング9のヒステリシスによる影響が小さいので補正の必要がなく、また、目標後輪トルクTが前記上限値Tmaxを超える場合は、主駆動輪である前輪2がスリップし易い状況にあって、これを安定化させるために後輪トルクが比較的大きく変動するような制御を行っている場合であるので、そのたびにヒステリシスによるばらつきを抑制する制御を行っても効果が薄く、いずれも無駄に補正制御を行うことによるエネルギロスを回避するために補正制御範囲が設定されているのである。
【0044】
そして、現時点では、タイマをセットした直後であって判定結果はNoとなるから、さらにステップS4で、目標後輪トルクが補正制御範囲に設定される閾値を超えた直後か否かを判定するが、目標後輪トルクTは既にこの閾値を超えているので、この判定結果もNoとなる。したがって、前記所定時間が経過するまで、ステップS1、S2を繰り返し実行することになり、その間、走行状態に応じた目標後輪トルクTに対応する電流値Iの制御電流Iによるカップリング9の制御が行われる。
【0045】
また、目標後輪トルクTが前記補正制御範囲にある状態で、ステップS3で、前記タイマのセット後、所定時間が経過したことを判定すれば、コントローラ20は前記ステップS5〜S7を再び実行し、カップリング9にヒステリシス補正電流I’を印加すると共に、これに連続させて、そのときの走行状態に応じた目標後輪トルクTに対応する電流値Iの制御電流Iを印加する。そして、前記タイマの刻時を改めて開始する。
【0046】
このようにして、図4に示すように、目標後輪トルクTが補正制御範囲にある間、所定時間t(例えば、30〜180秒)ごとに、カップリング9にヒステリシス補正電流I’が印加されて、その都度、カップリング9のトルク伝達容量、即ち後輪トルクが図5に符合Bで示す曲線上の値に補正されることになり、これにより、該カップリング9のヒステリシス特性に起因するトルク伝達容量ないし後輪トルクのばらつきが抑制される。
【0047】
その場合に、図5に示すカップリング9のヒステリシス特性は既知であるから、予め符号Bで示す曲線に基いて図2のマップを作成しておけば、該マップから目標トルクTに応じた電流値Iを読み取り、その電流値の制御電流Iをカップリングに印加すれば、所定時間tごとに、後輪トルクが目標後輪トルクTに精度よく制御されることになる。
【0048】
また、図2のマップをヒステリシス特性の曲線Aに基いて作成した場合は、曲線B上の値に補正された後輪トルクをカップリング9のヒステリシス特性に基いてさらに補正する必要があり、その補正方法として、例えば図6に示すように、目標後輪トルクがTで、マップから読み取った電流値がIのときに、ヒステリシス補正電流I’を印加した後、電流値を補正量ΔIだけ減算して制御電量Iを印加すれば、所定時間tごとに、後輪トルクが曲線Bの特性で目標後輪トルクTに精度よく制御されることになる。
【0049】
そして、コントローラ20は、ステップS8で、目標後輪トルクTが前記補正制御範囲内にないことを判定すれば、ステップS9で、タイマをリセット(停止)させた上で、ステップS1に戻り、次にステップS4で、目標後輪トルクTが補正制御範囲に設定される閾値を超えたことを判定するまで、図4に符号bで示すように、ヒステリシス補正制御を行うことなく、走行状態に応じた目標後輪トルクTが得られるようにマップから読み取った制御電流Iをカップリング9に印加するステップS2の制御を行う。
【0050】
なお、以上の制御動作は、目標後輪トルクTが補正制御範囲を超えている状態から該範囲に入った場合で、かつ、該範囲内に設定された閾値(上記の0.5〜1.5N・mよりも高い値に設定される閾値)を超えた場合にも同様に行われる。すなわち、上記の閾値は複数設定されており、閾値(例えば、0.5〜1.5N・m)よりも低い状態から、該閾値を超えた場合と、補正制御範囲上限値(例えば、200〜300N・m)を超えている状態から、該上限値以下になり、さらに、上記の閾値(例えば、0.5〜1.5N・m)よりも高い値に設定される閾値よりも低い状態から該閾値を超えた場合に、ステップS4による目標後輪トルクTが補正制御範囲に設定される閾値を超えたと判定される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明によれば四輪駆動車のトルク配分制御が精度よく行われることになるので、本発明は、この種の車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0052】
1 車両
2 主駆動輪(前輪)
3 補助駆動輪(後輪)
9 駆動力配分装置(カップリング)
20 電流制御手段(コントローラ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7