(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5844644
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】一体化レンズを有する導波路
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20151224BHJP
G02B 6/42 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
G01N21/64 G
G02B6/42
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-552982(P2011-552982)
(86)(22)【出願日】2010年2月24日
(65)【公表番号】特表2012-519311(P2012-519311A)
(43)【公表日】2012年8月23日
(86)【国際出願番号】US2010025172
(87)【国際公開番号】WO2010141122
(87)【国際公開日】20101209
【審査請求日】2013年2月13日
(31)【優先権主張番号】61/156,586
(32)【優先日】2009年3月2日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】12/617,535
(32)【優先日】2009年11月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512048664
【氏名又は名称】エムバイオ ダイアグノスティクス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】ケビン モル
(72)【発明者】
【氏名】カート ボーゲル
(72)【発明者】
【氏名】マリー デラニー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ロックヘッド
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー マイアット
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−221667(JP,A)
【文献】
特開平07−120397(JP,A)
【文献】
特表平08−510331(JP,A)
【文献】
特開2003−042945(JP,A)
【文献】
特開平08−145879(JP,A)
【文献】
特開平02−057947(JP,A)
【文献】
特表2000−508062(JP,A)
【文献】
特開2006−317349(JP,A)
【文献】
特開平07−261053(JP,A)
【文献】
特開2004−163257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−21/74
G02B 6/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析標本を照明するために、伝ぱ方向に沿って光を供給する光源とともに使用するための導波路構造体であって、
平面導波路であって、前記伝ぱ方向が該平面導波路の法線方向に垂直、かつ前記平面導波路の法線方向と平行な方向に、前記平面導波路からのオフセットを有するように方向づけられた平面導波路と、
前記平面導波路の近くに配置された屈折域であって、
(a)前記平面導波路の上面に隣接して同一平面上にあり共通平面表面を形成する平面表面と、
(b)湾曲表面と、
を有する少なくとも平凸シリンドリカルレンズの部分を含み、前記少なくとも平凸シリンドリカルレンズの部分は、前記平面表面に平行で、かつ、前記法線方向と平行な方向に前記平面導波路からオフセットを有する伝ぱ方向で前記湾曲表面に入射する光ビームを集中して前記光を前記平面導波路に光結合させる、屈折域と、
を備える導波路構造体。
【請求項2】
前記光ビームを供給する光源を更に備え、前記平面導波路の光軸と平行に前記光源を相対的に移動させることが、前記光源から供給される光の前記平面導波路への光結合に影響しない、請求項1に記載の導波路構造体。
【請求項3】
前記平面導波路内の光の内部伝ぱ角は、前記平面導波路を前記屈折域と共に、前記平面導波路の法線方向と平行な方向に、前記光ビームに対して相対的に移動させることによって調整される、請求項1に記載の導波路構造体。
【請求項4】
前記平面導波路は、複数の捕捉分子が該平面導波路の面に結合している、請求項1に記載の導波路構造体。
【請求項5】
前記平面導波路の面に近い領域から放射される光を検出するように配置された検出器を更に備える、請求項1に記載の導波路構造体。
【請求項6】
前記光源は、レーザ、白色光源又は発光ダイオードのうち1又は複数を含む、請求項2に記載の導波路構造体。
【請求項7】
前記屈折域は光学収差を最小にする形状をしている、請求項1に記載の導波路構造体。
【請求項8】
前記平面導波路と前記屈折域とが単一物体として一体化されている、請求項1に記載の導波路構造体。
【請求項9】
前記屈折域と前記平面導波路との間には屈折率の不連続がない、請求項1に記載の導波路構造体。
【請求項10】
流体室であって、該流体室の第1側面の少なくとも一部が前記共通平面表面によって形成される流体室を更に備える、請求項1に記載の導波路構造体。
【請求項11】
前記流体室の前記第1側面は、該第1側面に結合した複数の特定結合分子を有し、前記流体室は、生物学標本の貯蔵槽を形成している、請求項10に記載の導波路構造体。
【請求項12】
前記流体室の前記第1側面と異なる側面は、第2平面導波路によって少なくとも部分的に形成される、請求項10に記載の導波路構造体。
【請求項13】
前記屈折域は、誘導された光が前記平面導波路と前記第2平面導波路との間に配置された領域を照明するように、光を前記平面導波路路及び前記第2平面導波路に光結合するように構成されている、請求項12に記載の導波路構造体。
【請求項14】
標本分析を行う方法であって、
光源からの光を伝ぱ方向に沿って供給するステップと、
平面導波路の近くに配置された屈折域の湾曲表面を前記光源からの光で照明するステップであって、前記平面導波路は該導波路の法線方向に上面を有し、該上面は前記屈折域の平面表面に隣接し、かつ同一平面上にある、ステップと、
集中された光を形成するために、前記湾曲表面を用いて、前記光源によって供給される前記光を集中させるステップと、
前記屈折域を介して前記集中された光を前記平面導波路に結合するステップであって、前記導波路は、
(a)前記伝ぱ方向は前記平面表面に平行であり、
(b)前記光源によって供給され、前記湾曲表面が集中した前記光は、前記平面導波路の法線方向と平行な方向に前記平面導波路からのオフセットを有する、
ように方向づけられている、ステップと、
を有する方法。
【請求項15】
前記光源を前記平面導波路の法線方向と平行な方向に移動させることによって、前記平面導波路内の光の内部伝ぱ角を調整するステップを更に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記光源を前記平面導波路の光軸と平行に移動させつつ、前記光源によって供給される光の前記平面導波路への光結合を一定に維持するステップを更に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記平面導波路の面及び前記屈折域の面によって少なくとも部分的に形成される貯蔵槽に生物学標本を配置するステップを更に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記平面導波路の面に近い領域から放射される光を検出するステップを更に有する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
生物学分析を行う装置であって、
伝ぱ方向に沿って光を供給する光源と、
平面導波路であって、該平面導波路の面に複数の捕捉分子が結合しており、前記平面導波路の光軸は前記伝ぱ方向と平行、かつ前記平面導波路の面に垂直な方向に前記伝ぱ方向からのオフセットを有する、平面導波路と、
前記光源によって供給される光を前記平面導波路に光結合する屈折域であって、前記平面導波路の近くに配置され、少なくとも平凸シリンドリカルレンズの部分を有し、前記少なくとも平凸シリンドリカルレンズの部分は、
(a)前記平面導波路の前記面と同一平面上にある平面表面と、
(b)湾曲表面と、
を有し、前記平面表面に平行で、かつ、前記平面導波路の前記光軸と垂直な方向に前記平面導波路からオフセットを有する伝ぱ方向で前記湾曲表面に入射する光を集束して、前記光を前記平面導波路に光結合させ、
前記屈折域の長軸は前記平面導波路の光軸に垂直に方向づけられている、屈折域と、
前記複数の捕捉分子が結合している前記平面導波路の面に近い領域から放射される光を検出するように配置された検出器と、
を備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願との相互参照)
本願は、2009年3月2日提出の米国特許仮出願第61/156,586号,"Waveguide with Integrated Lens"及び2009年11月12日提出の米国特許出願第12/617,535号の優先権を主張し,ここに参照する。
【0002】
(政府との関連)
本発明は,米国商務省認可第70NANB7053号の契約による政府援助によってなされたものである。したがって,米国政府が本願発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明は概略,標本照明用の導波路に関する。より詳細には,本発明は,屈折域(reflactive volume)に近接した平面導波路に関する。
【背景技術】
【0004】
蛍光標識付けされたプローブは,生物学標本の内容を特徴付ける便利な方法を提供する。蛍光プローブの結合化学を適応させることによって,リボ核酸(RNA),デオキシリボ核酸(DNA),タンパク質のような複雑な分子及び細胞組織の検出において,高い特定性を得ることができる。蛍光団(fluorophore)は通常,検出すべき種(species)に結合しているか,していないかに係わらず,ストークスシフトした放射光を吸収し,再発光するため,結合した蛍光団と未結合の蛍光団とを分離する必要がある。
【0005】
結合した蛍光団と未結合の蛍光団とを分離する一つの普通の方法は,蛍光標識付けされた種の空間局在を用いるものである。例えば「サンドイッチ免疫学分析(sandwich immunoassay)」においては,表面を化学処理して検出すべき種を表面に結合させる。そして,蛍光プローブが,表面に結合された種に付着する。そして,未結合の蛍光団は,洗浄段階でシステムから除去される。
【0006】
励起光を表面に限定できるときは,背景蛍光が更に減少される。全反射照明蛍光(TIRF)は,背景蛍光を減少させる一つの方法である。一般に光が一つの媒体からほかの媒体に伝ぱ(播)するとき,光の一部は境界面(interface)で反射する。しかし,光屈折係数が低い物質に光が伝ぱする場合,表面に入射する光ビームの角度が(表面法線に対して)「臨界角」より大きいとき,光は全反射する。屈折率が低い物質においては,光強度は表面からの距離に応じて指数的に減衰する。この指数的に減衰する場は,エバネセント場として知られており,可視光については100nmから1μmのオーダの特性減衰長を有する。したがって,エバネセント場は,表面に局在する蛍光団だけを励起する。
【0007】
簡略化した実装においては,TIRFは表面で一度反射したレーザビームによって行われる。これは,よく確立されたTIRF顕微法及びほかのバイオセンシング技法の基礎である。しかし,レーザビームを導波路内部に限定することによって,多重反射を実現することができ,より広い範囲を照明することができる。いくつかの形状の導波路があり得るが,それぞれ一定のトレードオフがある。
【0008】
シングルモード平面導波路は,薄膜導波路又は集積光導波路とも呼ばれ,伝ぱする光の波長よりも小さい厚み寸法の小断面に光を限定する。シングルモード平面導波路の利点は,非常に強いエバネセント場が発生されることである。シングルモード平面導波路の欠点は,効率のよい光結合ができないことであり,通常,精密な位置合わせ公差を要するプリズム又は格子を必要とする。さらに,シングルモード平面導波路は,その導波層が通常基板上に付着した薄膜であって,厳格な厚み公差が必要であるため,製造することが高価である。これに対して,多重モード平面導波路はレーザビームを結合させることがずっと容易であり,シングルモード平面導波路よりも製造が単純である。例えば,標準の1mm厚顕微鏡スライドは,当該スライドの端から光を結合できる効果的な導波路になる。したがって,多重モード導波路の寸法は,現在のプラスチック射出成型技法と両立性がある。
【0009】
蛍光を用いた分析システムにおいては,検出領域内のエバネセント場が均一であることが望ましい。シングルモード平面導波路に関しては,当然,エバネセント場の強度は光伝ぱの方向に沿って均一である(散乱損失及び導波路内の吸収は無視する)。しかし,使い捨て医療器具に関しては,費用,堅固性及び使用の容易さも同様に重要である。多重モード導波路に対する入射結合を調整することによって,均一性及び場の強度を最適化することができる。
【0010】
多重モード導波路の個々のモードはそれぞれ,伝ぱ方向に均一な強度を有し,モード分散は表面に建設的及び破壊的に干渉し,空間的に場の強度が変化することになる。導波路の厚みが光の波長よりもずっと大きいときは,導波路のモード構造は無視することができ,導波路の強度は,導波路の二つの表面で全反射し,周辺の反射光と干渉する通常の屈折ビームとして扱うことができる。
【0011】
図1は,多重モード導波路を必要とする既存の結合方式105〜115のいくつかの例を示す図である。多重モード導波路120を用いる結合方式105は,導波路120に平行に伝ぱするレーザビーム125を,円柱形レンズ130を有する導波路120の端に焦点を結ばせることを含む。しかしTIRビームの場強度は,臨界角で入射するビームで最大になり,表面法線からの入射角が90°のビーム(すなわち,かすめ入射)でゼロになる。このように,TIR表面に平行な入射ビームは,方式105の構成における円柱状レンズ130を有する導波路120に結合されたとき,エバネセント場の強度が小さくなる。
【0012】
結合方式105のバリエーションを,結合方式110によって説明する。方式110においては,導波路内の当該ビーム135の中心光線が,TIRがエバネセント場強度を最大化するために臨界角近くで表面に当たるように,円柱形レンズ140によって集中させたレーザビーム135が適当な角度で導波路145の端に入射する。集中光学系を選択することによって,場強度と均一性との妥協が図られる。TIRの臨界角近くで動作させることによって,高い場強度が得られるようにほぼコリメートされたビームを使うときは,表面強度が十分均一になるまで,ビームを導波路内で何度も反射させなければならない。したがってより長い導波路が必要である。しかし,ビームが十分に集中しているときは,ほんのわずかな反射で表面強度が整う。しかし,臨界角外に伝ぱする光線に大きなエネルギが含まれ,導波路の長さ方向のエバネセント場強度が減少することになる。
【0013】
レーザビームを導波路の入力面に集中させるために,レンズ130及び140のような円柱形レンズは,導波路120及び145のような導波路それぞれの入力面に正確に位置合わせする必要がある。この課題に対する解決策の一つの提案を,結合方式115によって説明する。結合方式115においては,レンズ150は一つの光学部品として導波路155に組み込まれており,例えばレンズエレメントを平面導波路に接着したり,単一光学部品を成型することによって作られる。この方法はレンズ150の焦点を導波路155の端から正確な位置に置くことができるが,それでもなお,ビーム160を導波路155に結合させるために,レーザビーム160を導波路155のレンズ150に対して注意深く位置合わせする必要がある。導波部品を光源に対して繰り返し配置する必要がある応用に関しては,光結合がずれに対して比較的不感応であることが極めて望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施形態は,光が平面導波路に結合されるようにして,標本照明用に強力なエバネセント場を提供し,一方で利用者の不注意によるずれを除去又は大いに減少させる。本発明の実施形態はまた,導波路内の内部伝ぱ角を容易に調整できるようにして,エバネセント場の強度を簡単に調整できるようにする。本発明の実施形態はまた,平面導波路上の流体室(fluidic chamber)を,室の光学特性に対して不感応であるように配置して分析を行う装置も提供する。
【0015】
本願請求項に,分析のために標本を照明する装置が開示されている。この装置は,光源と,平面導波路と,屈折域とを含む。光源は伝ぱ方向に沿って光を供給する。平面導波路は,伝ぱ方向が平面導波路の法線方向に対して垂直であり,平面導波路の法線方向と平行な方向に,平面導波路からのオフセットを有するように方向付けられる。屈折域は平面導波路の近くに配置され,光源から供給される光を平面導波路に光結合する。
【0016】
本願の別の請求項は標本分析を行う方法を述べている。光源から伝ぱ方向に沿って光が供給される。平面導波路の近くに配置された屈折域が当該光線で照明される。導波路は,伝ぱ方向が平面導波路の法線方向に対して垂直であり,平面導波路の法線方向と平行な方向に,平面導波路からのオフセットを有するように方向付けられる。そして屈折域を介して光が平面導波路に結合される。
【0017】
更に別の請求項に,生物学分析を行う装置が開示されている。この装置は,光源と,平面導波路と,屈折域と,検出器とを含む。光源は伝ぱ方向に沿って光を供給する。平面導波路は,その面に結合した複数の特定結合分子を有する。平面導波路は,その面に結合した二つ以上の異種特定結合分子の配列を更に有する。さらに,平面導波路の光軸は,伝ぱ方向に平行であり,かつ平面導波路の面に垂直の方向に伝ぱ方向からのオフセットを有している。屈折域は,光源が供給する光を平面導波路に結合し,平面導波路の近くに配置されている。屈折域は,少なくとも平凸円柱形レンズの断面を含む。検出器は,複数の特定結合分子が結合している平面導波路の面に近い領域から放射される光を検出するように配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】多重モード導波路を必要とする既存の結合方式のいくつかの例を示す図である。
【
図2】例示実施形態を示す一般化した構成を示す図である。
【
図3】一体化レンズを有する例示導波路の断面図である。
【
図4】
図3に示した一体化レンズを有する導波路の詳細な断面図である。
【
図5】一体化レンズを有する例示導波路を示すカバリエ透視図である。
【
図6】複数の溝を有する例示ガスケットを示すカバリエ透視図である。
【
図7】標本分析を行う例示方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願発明技術の実施形態は,一体化レンズを有する導波路を備えた装置を用いて,エバネセント場による蛍光検出及び分析に必要とされるような標本照明を提供する。装置の全体構成は次のようなものであってよい。すなわち,導波路表面に結合した蛍光放射分子が,導波路内を伝ぱする光ビームから,隣接する溶液内に進入するエバネセント場によって励起される。伝ぱしたビームは,一体的に接続されたレンズによってもたらされる。レーザビームのようなコリメートされたビームは,システムが導波路の移動(translation)に不感応であるように,導波路表面と平行に伝ぱすることができる。また,入射ビームは,レンズ表面における光の屈折によって,ビームがTIRの臨界角に近い角度で導波路に向けられるように,導波路の光軸から適当なオフセットを有するようにしてもよい。さらに,第2一体化円柱形レンズを,導波路の出力端に追加してもよい。これによって,多色蛍光分析のように,第2レーザを反対方向に結合することが容易になる。
【0020】
本装置はまた,流体室と平面導波路との接点が伝ぱする光の光路外になり,室を構成する材料の光学特性についての制約を除去できるように,室を平面導波路に結合してもよい。いくつかの従来の構成では,導波路と室との接触領域における光学損失を制限するために,機械的締付によって平面導波路と接触する流体室に,低屈折率の材料を用いていた。導波路と室との接点と,光路とを分離することによって,室を導波路に付着させるために接着剤又はプラスチック溶着のような伝統的な接着方法を用いることができる。さらに,流体室は第2平面導波路を備えてもよいし,部分的に第2平面導波路によって形成されていてもよい。そして流体室は二つの導波路の間に配置される。このような構成によって,光が平面導波路及び流体室によって形成される領域(volume)双方に結合することができる。
【0021】
図2は,例示実施形態を示す一般化した構成200を示す図である。構成200は,光源205と,屈折域210と,平面導波路215とを含む。光源205は,伝ぱ方向220に沿って光を供給するコリメートされたか,概略コリメートされたレーザ光源又は任意のほかの光源を含んでもよい。屈折域210は,平面導波路215の近くに配置される。屈折域210と平面導波路215との間には,屈折率の不連続がなくてもよい。例えば,屈折域210は,導波路215との間の空隙を屈折率整合液で満たして,導波路に近接させ,又は隣接させてもよい。あるいは,屈折域210は,単一ユニット又は物体として,平面導波路215と一体化してもよい。平面導波路215は,伝ぱ方向220が平面導波路215の法線方向225に垂直になるように方向付けられる。さらに,平面導波路は,平面導波路215の法線方向225と平行な方向にオフセット230を有する。
【0022】
図3は,一つの実施形態による一体化レンズ310を有する導波路305の例示断面
図300である。さらに,断面
図300は分析物表面320の蛍光プローブを励起するのに適した波長を有するレーザのようなコリメートされた光ビーム315を示している。関係するレンズ310を有する平面導波路305は,励起光315を平面導波路305の底面を通じて注入するように構成されている。流れセル(flow cell)は,ガスケット325のような密閉機構と,入口330と,出口335と,導波路の上面320に付着した化合物が所望の対象化合物を表面に結合することができる流体標本室とを備える。集光及びフィルタ光学系345は,導波路の上面320からの蛍光を捕捉することができる。そして蛍光信号はCCD又はCMOSカメラのような撮像デバイス350に向けられる。さらに,流れセルの屋根,床及び/又は壁を,化合物を付着させる表面として用いてもよい。
【0023】
流体標本室340は,導波路350に類似して第2平面導波路を備えてもよいし,部分的に第2平面導波路によって形成されてもよく,それによって流体標本室340が二つの平面導波路の間に配置されることに注意されたい。このような構成において,光は平面導波路及び流体標本室340によって形成される領域双方に結合される。ここで説明した原理は,複数の平面導波路を有する構成にも類似して適用できる。
【0024】
図4は,一体化レンズ310を有する導波路305の詳細な断面
図400である。更なる参考として,
図5に一体化レンズ310を有する例示導波路305のカバリエ透視
図500を示す。
図4に戻ると,コリメートされた光ビーム315は,平面導波路305の光軸と平行又はほぼ平行な方向に伝ぱするが,円柱形レンズ310の湾曲した面に当たるように,光軸からオフセットを有する。導波路構造体が取り外し可能な消耗品である医療器具に関しては,この形状によって,コリメートされた光315が導波路305に再現性よく結合するために必要な位置公差を緩和することができる。
図4に示すように,光315はレンズ310の湾曲した面に,レンズ310の局所面法線に対して非零角αで当たる。
【0025】
スネルの法則によって説明される屈折の結果,光ビーム315は,導波路305の上面に,導波路305の光軸に対して角度βで当たるように屈折する。角度βは,内部伝ぱ角として定義される。光ビーム315の中心と円柱形レンズ310の頂点との垂直距離yは,βが全内部反射を起こさせる臨界角の余角よりも小さいように選ばれる。与えられたレンズ310の湾曲面の半径R及び円柱形レンズ310の屈折率nに関して,距離yと角度βとの関係は次の式によって表される。
【数1】
【0026】
光ビーム315は空間的広がり(spatial extent)を有するため,レンズ310の湾曲面は光ビーム315を集中させる作用をする。レンズ310の湾曲面の半径Rは,与えられた光ビーム315のビーム直径に対して,導波路305の上面に入射する角度範囲が,検出領域内に均一なエバネセント場強度を与えるために適当であり,TIRの臨界角外に留まるように選ばれる。導波路305の上面に焦点を結ぶ光ビーム315が,ずれに対して最大公差を許容することが望ましい。導波路305及び上面にビームを集中させるレンズ310を備える構造体の合計厚みtは次の式で与えられる。
【数2】
【0027】
厚みtが適切なとき,光ビーム315は,レンズ310の湾局面を規定する円の中心から水平距離Lの点に焦点を結ぶ。Lと前に定義した量との関係は次の式で与えられる。
【数3】
【0028】
導波路305及びレンズ310を備える構造体は,いくつかの別個の方法で製造することができる。一つの方法は,アセンブリ全体を射出成型技術によって作る方法である。別の方法は,類似する屈折率の材料で別個に作られた平面導波路及びレンズエレメントを組み立てる方法である。そして二つのエレメントを,透明光学セメント又は光学接触によって永続的に接合してもよいし,屈折率整合流体/油/ゲルで一時的に接合してもよい。
【0029】
図3で説明したような形状によって,入射レーザビームの回転ではなく移動によって,内部伝ぱ角(β)を容易に調整することができる。これによって,レーザを導波路に結合させるための機械設計をより複雑でないものにすることができる。さらに,
図3及び4で開示した形状のレンズの焦点位置は導波路305の光軸に対するレーザビームの移動に非常に不感応であるため,入射角を変更したいときに新たな射出成型導波路を必要としない。さらに,読出し器具を変更することなく入射角に所望の変更を加えることができ,器具の物理的変更なしに種々のカートリッジ機能が実現される。カートリッジ上のバーコードを用いて,与えられたカートリッジからの信号を解釈するための用いる情報を識別してもよい。
【0030】
上面での最初の反射の後,導波路から光が漏れることを防ぐために,円柱形レンズ310の長さが焦点位置を越えないように円柱形レンズを短縮してもよい。円柱形レンズ310の頂点と,焦点と反対側の底面上の点とを結ぶ線によって規定される範囲(例えば,
図3の「光不感帯355」参照)は,導波路にうまく結合した光をその範囲内で伝ぱさせない。このようにして,光不感帯に指定された範囲内のレンズの正確な形態は,レンズ310が焦点を通る垂直線を越えない限り,任意の都合のよい形状であってよい。材料費用を最小化することが重要な単一射出成型デバイスに関しては,光不感帯355と記された範囲のすべてのプラスチックを除去することが望ましい。普通の光学製造工程によって作られた二つの別個の部品を組み立てるときは,伝統的な円柱形レンズ310をさいの目に切って,焦点を越える材料を除去することによって,容易に製造することができる。信号を収集する際の背景寄与を最小化するために,自己蛍光特性の低い材料が望ましい。
【0031】
軸ずれ形状の円柱形レンズ310が用いられるため,湾曲面が円形であるときは焦点においてわずかな光学収差が見られることがある。円形の断面は機能的に作用するがビームが,平面導波路305に結合する入射ビームの垂直位置の範囲を広げるために,非球面を用いてもよく,それによって角度βの調整範囲を大きくすることができる。円形断面からの適切な偏差は,当業者にはなじみのある光線追跡プログラムによって計算することができる。
【0032】
焦点より前の導波路305の上面の広い範囲は,標本室を密閉することができる。面を密閉するガスケット325は,光軸からはずれていてもよい。したがって,大部分のガスケット材料は化学的/生物学的両立性だけを評価すればよく,光学的特性については評価する必要はない。例えば,裏面が接着性のスペーサを用いることによって,複雑な締付機構なしに密閉された流れセルを形成することができる。また,複数の溝を有するガスケットを用いて,複数の流れセルを一つの生体センサに組み込むこともできる。
【0033】
図6は,複数の溝を有する例示ガスケット605を示すカバリエ透視図である。導波路の長手方向に沿ったガスケットへの光結合が最小になるように,溝の幅を入射ビームの未集中(unfocused)寸法に合致するように選択してもよい。入射光を溝間で移動させる機構を含めてもよい。さらに,タンパク質,RNA,DNA又は細胞組織のような蛍光標識付けされた対象分子の補足が可能なように,流れ溝内の導波路305の上面を適宜処理してもよい。
【0034】
ガスケットに付属するふたが,流れセルを完結する。流体標本はふたの開口部を通じて入れることができ,流体が導波路の上面と相互作用するようにできる。また,流体を流れ溝に導き,流れ溝の出口にあるオーバフロー貯蔵槽が流れ溝を通過した流体を貯えるように,流れ溝の外の流体貯蔵槽を含めてもよい。プラスチック部品によって,該プラスチック部品の一つに溝を成型することによって,ガスケットは任意選択で除去してもよいし,また当業者にとって既知の方法によって,二つのプラスチック部品を直接接合してもよい。
【0035】
導波路30内の光によって生成されるエバネセント場は,導波路305の上面に付着した蛍光団を励起することができる。蛍光団が弛緩して周波数が偏移した放射光を放射すると,放射光はレンズ又は一連のレンズによって捕捉されて,表面の像が平面に転写され,それをCCD又はCMOSセンサのような光捕捉デバイス(例えば撮像デバイス350)によって撮像することができる。また,捕捉された蛍光団によって周波数偏移されなかった散乱入射光を除去するために,導波路表面と撮像デバイスとの間に光学フィルタを置いてもよい。
【0036】
図7は,標本分析を行う例示方法700のフローチャートである。方法700の各ステップは,種々の順序で実行してもよい。さらに,方法700にステップを追加し,又は削除してもよく,方法は依然として本願技術の範囲内である。
図7に示した方法は,エバネセント場を用いた蛍光検出及び分析のために実行してもよい。
【0037】
ステップ705において,光が光源から伝ぱ方向に沿って供給される。光源は,コリメートされたか,ほぼコリメートされたレーザ又は任意のほかの光の光源を含んでよい。
【0038】
ステップ710において,屈折域が光で照明される。屈折域は平面導波路の近くに配置してもよいし,平面導波路と一体化してもよい。例示実施形態において,屈折域は少なくとも平凸円柱形レンズの断面を含んでもよく,屈折域の長軸は,平面導波路の光軸及び法線方向に垂直に方向付けられている。
【0039】
ステップ715において,光が屈折域を介して平面導波路に結合される。導波路は,伝ぱ方向が平面導波路の法線方向に垂直,かつ平面導波路の法線方向と平行な方向に平面導波路からのオフセットを有するように方向付けられている。
【0040】
任意選択のステップ720において,光源から供給される光の平面導波路への光結合を,光を平面導波路の法線方向と平行な方向に移動させることによって調整する。
【0041】
ステップ725において,光源を平面導波路の光軸と平行に移動させつつ,光源から供給される光の平面導波路への光結合を一定に維持する。
【0042】
ステップ730において,生物学標本が,平面導波路の面によって少なくとも部分的に形成された貯蔵槽に入れられる。
【0043】
ステップ735において,平面導波路の面に近い領域から放射された光が検出される。いくつかの実施形態においては,平面導波路の,複数の捕捉分子が結合した面に近い領域から放射された光を検出するように検出器が配置される。
【0044】
以上,本願発明を例示実施形態を参照して説明した。本発明のより広い範囲から逸脱することなく種々の修正をなし,またほかの実施形態を用いることができることは,当業者には明白である。したがって,例示実施形態の種々の変形物も本願発明に含まれる。