(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のハニカムセグメントが接合材層を介して互いの接合面で一体的に接合されたハニカムセグメント接合体を備え、流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有するハニカム構造体であって、
前記接合材層が骨材として無機粒子と天然針状鉱物とを含有し、かつ前記天然針状鉱物はその長軸方向の平均長さが20〜500μmのものが80質量%以上であるハニカム構造体。
接合材層に骨材として使用する無機粒子が、炭化珪素(SiC)、コージェライト、アルミナ、ジルコニアおよびイットリアからなる群から選ばれる1種又は2種以上の無機粒子である請求項1に記載のハニカム構造体。
【背景技術】
【0002】
微細粒子状物質の捕集フィルター、例えば、ディーゼルエンジン等からの排ガスに含まれている粒子状物質(パティキュレート)を捕捉して除去するためのディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)として、ハニカム構造体が広く使用されている。
【0003】
このようなハニカム構造体は、例えば、炭化珪素(SiC)等からなる多孔質の隔壁によって区画、形成された流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有している。また、それぞれ隣接したセルの端部は、交互に(市松模様状に)目封止されている。即ち、一のセルは、一方の端部が開口し、他方の端部が目封止されている。そして、一のセルと隣接する他のセルは、一方の端部が目封止され、他方の端部が開口している。このような複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造のもの(以下において「ハニカムセグメント」という。)の複数個が接合材によって互いに一体的に接合されてハニカム構造体が形成される。
【0004】
このような構造とすることにより、以下のようにして排ガスを浄化することができる。まず、ハニカム構造体の一方の端部から所定のセル(流入セル)に排ガスを流入させる。このようにすると、このセルは他端部が目封止されているため上記排ガスは多孔質の隔壁を通過して、隣接したセル(流出セル)に導入される。そして、隔壁を通過する際に排ガス中の粒子状物質(パティキュレート)が隔壁に捕捉される。そのため、流入セルに隣接した流出セルを経由して浄化された排ガスが排出される。
【0005】
このようなハニカム構造体(フィルター)を長期間継続して使用するためには、定期的にフィルターに再生処理を施す必要がある。即ち、フィルター内部に経時的に堆積したパティキュレートにより増大した圧力損失を低減させてフィルター性能を初期状態に戻すため、フィルター内部に堆積したパティキュレートを燃焼させて除去する必要がある。このフィルター再生時には加熱によって大きな熱応力が発生し、この熱応力がハニカム構造体にクラックや破壊等の欠陥を発生させるという問題があった。
【0006】
そこで、この熱応力に対する耐熱衝撃性の向上の要請に対応すべく、複数のハニカムセグメントを接合材層にて一体的に接合することにより熱応力を分散、緩和する機能を持たせた分割構造のハニカム構造体が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。そして、このようなハニカム構造体によれば、耐熱衝撃性をある程度改善することができるようになった。
【0007】
さらに、複数のハニカムセグメントを接合材で接合したハニカム構造体において、この接合材層部分の気孔率の分布を適切な値に制御することによって熱応力を分散、緩和する機能を持たせ、耐熱衝撃性に優れたハニカム構造体とすることが提案されている(特許文献5参照)。この方法では接合材層に無機繊維を含有しているが、無機繊維はその製造の際に副生するショットと呼ばれる粒状の無機物質を含んでおり、このショットが存在するために応力緩和機能と接合強度が低下する。
【0008】
また、ハニカムセグメントを接合するに際して、SiC粒子に加えて無機材料よりなる針状結晶粒子または短冊状結晶粒子を含有させて、分散性を上げ接合強度を向上させたSiC系接合材が提案されている(特許文献6参照)。しかし、この方法では接合材層が緻密化してヤング率が高くなるためハニカムセグメントの熱膨張に対する応力緩和機能が低下するという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、近年、フィルターは更に大型化の要請が高まっている。これに伴い加熱処理によって再生する際に発生する熱応力も増大することになる。そのため、上述した問題を解消するために、構造体としての耐熱衝撃性の更なる向上が強く望まれるようになった。この耐熱衝撃性の向上を実現するため、複数のハニカムセグメントを一体的に接合する接合材層には、さらに優れた応力緩和機能と接合強度とが求められてきた。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、従来のハニカム構造体の接合材層と同等以上の応力緩和機能及び接合強度の接合材層を有し、優れた耐熱衝撃性を有するハニカム構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、以下に示す、ハニカム構造体が提供される。
【0013】
(1)複数のハニカムセグメントが接合材層を介して互いの接合面で一体的に接合されたハニカムセグメント接合体を備え、流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有するハニカム構造体であって、前記接合材層が骨材として無機粒子と
天然針状鉱物とを含有し、かつ
前記天然針状鉱物はその長軸方向の平均長さが20〜500μmのものが80質量%以上であるハニカム構造体。
【0014】
(2)接合材層に骨材として使用する無機粒子が、炭化珪素(SiC)、コージェライト、アルミナ、ジルコニアおよびイットリアからなる群から選ばれる1種又は2種以上の無機粒子である前記(1)記載のハニカム構造体。
【0015】
(3)前記無機粒子が、その平均粒子径が1〜20μmである前記(1)又は(2)に記載のハニカム構造体。
【0017】
(
4)前記天然針状鉱物が、セピオライト、ウォラストナイト、パリゴスカイト、及びア
タパルジャイトからなる群から選ばれる1種又は2種以上の針状鉱物である
前記(1)〜
(3)のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0018】
(
5)前記
天然針状鉱物が、その長軸方向に垂直な断面の平均直径が1〜20μmである前記(1)〜(
4)のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0019】
(
6)接合材層における前記無機粒子と
前記天然針状鉱物の比率が、質量比で10:90〜90:10の範囲にある前記(1)〜(
5)のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0020】
(
7)前記接合材層のヤング率が20〜100MPaの範囲にある前記(1)〜(
6)のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0021】
(
8)前記接合材層の接合強度が500〜1500kPaの範囲にある前記(1)〜(
7)のいずれかに記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0022】
本発明のハニカム構造体は、複数のハニカムセグメントが接合材層を介して互いの接合面で一体的に接合されたハニカムセグメント接合体から成り、この接合材に骨材として無機粒子とショット含有率が10質量%未満の針状結晶粒子とを含有している。接合材として無機粒子とともに特定の針状結晶粒子を含有したものを用いることによって、フィルターの再生処理などの際の加熱による熱応力に対して良好な応力緩和機能を有するとともに接合強度の低下のない接合材層が得られる。そして、このような接合材層を備えたハニカム構造体は、従来のハニカム構造体よりも優れた耐熱衝撃性を有する。即ち、本発明のハニカム構造体は、従来のハニカム構造体の接合材層と同等以上の応力緩和機能及び接合強度の接合材層を備えつつ、優れた耐熱衝撃性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0025】
本発明のハニカム構造体は、複数のハニカムセグメントが接合材層を介して互いの接合面で一体的に接合されたハニカムセグメント接合体を備え、流体の流路となる複数のセルが中心軸方向に互いに並行するように配設された構造のものであって、この複数のハニカムセグメントを接合する接合材層に骨材として無機粒子とショット含有率が10質量%未満の針状結晶粒子とを含有し、かつ針状結晶粒子がその長軸方向の平均長さが20〜500μmのものが80質量%以上であることを特徴とするものである。
【0026】
まず、本発明の実施の形態におけるハニカム構造体1の構造を、図面を用いてさらに具体的に説明する。
図1及び
図2に示すように、本発明の実施の形態におけるハニカム構造体1は、多孔質の隔壁6によって区画、形成された流体の流路となる複数のセル5がハニカム構造体1の中心軸方向に互いに並行するように配設された構造を有し、それぞれが全体構造の一部を構成する形状を有するとともに、ハニカム構造体1の中心軸に対して垂直な方向に組み付けられることによって全体構造を構成する。そしてこの形状を有する複数のハニカムセグメント2が、接合材層9によって一体的に接合されて得られるハニカムセグメント接合体10として構成されてなるものである。
【0027】
接合材層9による複数のハニカムセグメント2の接合の後、ハニカム構造体1の中心軸に対して垂直な平面で切断した全体の断面形状が円形、楕円形、三角形、正方形、その他の形状となるように研削加工され、外周面がコーティング材4によって被覆される。このハニカム構造体1をDPFとして用いる場合、ディーゼルエンジンの排気系等にこれを配置することにより、ディーゼルエンジンから排出されるスートを含む粒子状物質(パティキュレート)を捕捉することができる。
【0028】
図1においては、一つのハニカムセグメント2においてのみ、セル5及び隔壁6を示しているが、他のセグメントも同様の構成となっている。それぞれのハニカムセグメント2は、
図2に示すように、ハニカム構造体1(ハニカムセグメント接合体10)の全体構造の一部を構成する形状を有するとともに、ハニカム構造体1の中心軸に対して垂直な方向に組み付けられることによって全体構造を構成することになる形状を有している(
図1参照)。
図4に示すように、セル5はハニカム構造体1の中心軸方向に互いに並行するように配設されており、隣接しているセル5におけるそれぞれの端部が交互に充填材7によって目封じされている。
【0029】
所定のセル5(流入セル)においては、
図3、4における左端部側が開口している一方、右端部側が充填材7によって目封じされており、これと隣接する他のセル5(流出セル)においては、左端部側が充填材7によって目封じされるが、右端部側が開口している。このような目封じにより、
図2に示すように、ハニカムセグメント2の端面が市松模様状を呈するようになる。このような複数のハニカムセグメント2が接合されたハニカム構造体1を排ガスの排気系内に配置した場合、排ガスは
図4における左側の開口部から各ハニカムセグメント2のセル5内に流入して右側に移動する。
【0030】
図4においては、ハニカムセグメント2の左側が排ガスの入口となる場合を示し、排ガスは、目封じされることなく開口しているセル5(流入セル)からハニカムセグメント2内に流入する。セル5(流入セル)に流入した排ガスは、多孔質の隔壁6を通過して隣接する他のセル5(流出セル)から流出する。そして、隔壁6を通過する際に排ガス中のスートを含む粒子状物質(パティキュレート)が隔壁6に捕捉される。このようにして、排ガスの浄化を行うことができる。このような捕捉によって、ハニカムセグメント2の内部にはスートを含む粒子状物質(パティキュレート)が経時的に堆積して圧力損失が大きくなるため、スート等を燃焼させる再生処理が行われる。なお、
図2〜4には、全体の断面形状が正方形のハニカムセグメント2を示すが、三角形、六角形等の形状であってもよい。また、セル5の断面形状も、三角形、六角形、円形、楕円形、その他の形状であってもよい。
【0031】
本発明の実施の形態におけるハニカム構造体1は、複数のハニカムセグメント2を接合材層9によって接合される。
図2に示すように、ハニカムセグメント2の外周面に接合材が塗布されて接合材層9が形成され、この接合材層9がハニカムセグメント2を接合するように機能する。この接合材層9を形成する接合材組成物は、骨材として無機粒子とショット含有率が10質量%未満の針状結晶粒子とを必須の成分として含有している。
【0032】
接合材組成物の骨材として使用する無機粒子は、炭化珪素(SiC)、コージェライト、アルミナ、ジルコニア、イットリア、ムライト、アルミニウムシリケート、珪素、珪素−炭化珪素系複合材料などを挙げることができる。これらの中でも、炭化珪素、コージェライト、アルミナ、ジルコニア、及びイットリアが好ましい。この無機粒子は、その平均粒子径が1〜20μmであることが好ましく、1.5〜10μmであることがより好ましい。
【0033】
また、同じく骨材として使用するもう一つの成分は針状結晶粒子である。本明細書でいう「針状結晶粒子」とは、「天然針状鉱物」と「ショット含有率が10質量%未満の無機繊維」の両者を含む概念である。本発明で使用する針状結晶粒子は、その長軸方向の平均長さが20〜500μmのものが80質量%以上、20μm未満のものが20質量%以下であることが好ましい。その長軸方向の平均長さが20〜500μmのものが90質量%以上であることが更に好ましい。また、この針状結晶粒子は、その長軸方向に垂直な断面の平均直径が1〜20μmであることが好ましく、1.5〜15μmであることがさらに好ましい。
【0034】
本発明では、骨材として使用する針状結晶粒子として天然針状鉱物を使用することが最も好ましい。この天然針状鉱物とは、天然から産出される針状のケイ酸塩鉱物のうち、石綿(蛇紋石、角閃石)以外のものである。具体的には、例えば、セピオライト、ウォラストナイト、パリゴスカイト、アタパルジャイトなどが挙げられる。この天然針状鉱物は、その長軸方向の平均長さが20〜500μmのものが80質量%以上であり、その長軸方向に垂直な断面の平均直径が1〜20μmであることが好ましい。
【0035】
接合材組成物の骨材の一つとしてこの天然針状鉱物を使用することによって、ハニカムセグメントを接合する接合材層の中に空隙を発生させることで接合層のヤング率を低下させ、ハニカムセグメントの熱膨張による応力緩和を可能にした。また、この天然針状鉱物そのものの物理特性とその繊維状の細長い形状による針状鉱物の互いに絡み合うという作用によって、ハニカムセグメントのクラックの進展を抑制することができる。そのためこれらの作用があいまって、ハニカムセグメントを接合して得られるハニカム構造体の応力緩和機能及び接合強度が向上し、優れた耐熱衝撃性を有するハニカム構造体が得られる。このようなハニカムセグメントの接合材層の強度の大きな向上は、従来の単に骨材として無機繊維を使用したものでは得られなかったものである。
【0036】
更に、これらの天然針状鉱物は、後述する人工的に製造される無機繊維とは異なり、無機材料を溶融して繊維化するという操作がないため未繊維物質である粒状の形態をした物質(以下において「ショット」という。)を含んでいない。そのためこのショットが存在することによる応力緩和機能の低下や接合強度の低下という無機繊維を用いた場合に発生する問題が生ずることがなく、この点でもより好ましいものである。
【0037】
また、本発明では、接合材組成物の骨材の一つとして天然針状鉱物の代わりに、又はこれに加えてショット含有率が10質量%未満の無機繊維を使用することができる。
無機繊維は、一般的に人造非晶質繊維のことを意味し、鉱物、鉱石、鉱さい(スラグ)、岩石、無機粉末等を種々の組合せで配合し、溶融化して、遠心力等を利用して吹き飛ばして繊維状にしたものである。その代表的なものとして、リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)、グラスウール(GW)、ロックウール(RW)、スラグウール(SW)などが挙げられる。この無機繊維の精製などの際に糸切れなどにより紡糸されずに残された原料が再固化して、粒状の未繊維状物質が発生することがある。この粒状の物質(ショット)は無機繊維の副生成物であり、このショットが含まれることでハニカム構造体の応力緩和機能および接合強度が低下することが知られている
【0038】
このように無機繊維は、ショットが含まれることでハニカム構造体の性能に悪影響を及ぼすため接合材の成分としては好ましくないものであるが、本発明のハニカム構造体では、ショット含有率が10質量%未満のものであれば、接合材組成物の骨材である針状結晶粒子として、これ単独で或いは前述の天然針状鉱物と併用して使用することができる。本発明には、無機繊維のショット含有率は少ないもののほうがより好ましく、5質量%未満のものがより好ましく、ショットを含有しないものが最も好ましい。
【0039】
本発明では、ハニカムセグメント2の接合材層9を形成する接合材組成物の骨材として、無機粒子とショット含有率が10質量%未満の針状結晶粒子を使用するが、この両者の配合比率は質量比で10:90〜90:10の範囲が好ましい。針状結晶粒子が質量比で10未満では接合材の応力緩和機能及び接合強度が不足し、十分な耐熱衝撃性が得られないという問題が生じ、質量比で90を超える割合になるとペースト状の接合材組成物を調整した際に、流動性が不足し、塗布不良が生じやすくなるため、いずれも好ましくない。
【0040】
接合材組成物には、接合材層9を多孔質にして応力緩和機能を高めるため、造孔材を配合する。接合材用の造孔材としては、例えば、発泡樹脂、カーボン、吸水性樹脂、フライアッシュバルーンなどを挙げることができる。これらの中でも、粒子径のバラツキが比較的小さく、接合材層に均一な気孔を形成することができるという観点から、発泡樹脂、カーボン、吸水性樹脂が好ましい。これらは1種単独でまたは2種以上を用いてもよい。
【0041】
接合材用造孔材の含有割合は、接合材組成物のスラリー全量の1〜10質量%であることが好ましく、3〜7質量%であることが更に好ましい。接合材用造孔材の含有割合が上記範囲であることにより、接合材層が、球状気孔が更に均一に分散した構造となる。その結果、応力緩和と接合強度とを良好に両立させることが可能になる。接合材用造孔材の平均粒子径は、10〜70μmであることが好ましく、20〜60μmであることが更に好ましい。
【0042】
接合材組成物としては、更に、有機バインダー、分散剤などの添加剤を含有することもできる。有機バインダーは、従来公知の有機バインダーを適宜選択して使用することができる。この有機バインダーによって、従来のハニカム構造体の接合材層と同等の接合強度の接合材層を得ることができる。分散剤は、従来公知の分散剤を適宜選択して使用することができる。
【0043】
有機バインダーとしては、具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどを用いることができる。これらの中でも、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースが好ましい。接合材組成物の接合性が良好になるためである。有機バインダーの配合量は、骨材100質量部に対して、1〜10質量部とすることが好ましく、3〜6質量部とすることが更に好ましい。上記範囲とすることにより、良好な接合強度の接合材層を形成することができる。
【0044】
ハニカムセグメント2の接合面への接合材の塗布は、隣接しているそれぞれのハニカムセグメントの外周面に行ってもよいが、隣接したハニカムセグメントの相互間においては、対応した外周面の一方に対してだけ行ってもよい。このような対応面の片側だけへの塗布は、接合材の使用量を節約できる点で好ましい。接合材層の厚さは、ハニカムセグメントの相互間の接合力を勘案して決定され、例えば、0.5〜3.0mmの範囲で適宜選択される。
【0045】
本発明に用いられるハニカムセグメント2の材料としては、強度、耐熱性の観点から、炭化珪素(SiC)、炭化珪素(SiC)を骨材としてかつ珪素(Si)を結合材として形成された珪素−炭化珪素系複合材料、窒化珪素、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材、珪素−炭化珪素複合材、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、Fe−Cr−Al系金属からなる群から選択される少なくとも一種から構成された物を挙げることができる。中でも、炭化珪素(SiC)又は珪素−炭化珪素系複合材料から構成されてなるものが好ましい。
【0046】
ハニカムセグメント2の作製は、例えば、上述の材料から適宜選択したものに、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等のバインダー、界面活性剤、溶媒としての水等を添加して、可塑性の坏土とし、この坏土を上述の形状となるように押出成形し、次いで、マイクロ波、熱風等によって乾燥した後、焼結することにより行うことができる。
【0047】
セル5の目封じに用いる充填材7としては、ハニカムセグメント2と同様な材料を用いることができる。充填材7による目封じは、目封じをしないセル5をマスキングした状態で、ハニカムセグメント2の端面をスラリー状の充填材7に浸漬することにより開口しているセル5に充填することにより行うことができる。充填材7の充填は、ハニカムセグメント2の成形後における焼成前に行っても、焼成後に行ってもよいが、焼成前に行うことの方が、焼成工程が1回で終了するため好ましい。
【0048】
本発明のハニカム構造体は、以上のような構成からなるものであり、接合材層9は、そのZ軸方向の圧縮ヤング率が20〜100MPa、好ましくは30〜60MPaである。
【0049】
なお、Z軸方向の圧縮ヤング率は、次のように算出した。即ち、所定の寸法(10×10mm〜30×30mm、厚み0.5〜3mm)の試料を切り出し、Z軸方向の圧縮試験を行った。尚、試料には基材がついていてもかまわない。Z軸方向の圧縮ヤング率は、荷重を0〜3MPaまで試料に加えた時の応力−ひずみ曲線における傾きをヤング率として、下式より算出した。
【0051】
本実施の形態に用いられる接合材層のZ軸方向の圧縮ヤング率が、20MPa未満であると、セグメント中に温度分布を持ったときに、セグメント自体の変形が大きくなってクラックが発生することがある。一方、100MPaより大きくなると、セグメント単体では問題ないが、複数のハニカムセグメトが接合材層で一体化したハニカム構造体において応力が緩和できず、DPFでの再生処理の際に生じる急激な熱応力により外周部が破損することがある。
【0052】
また、本発明のハニカム構造体は、その接合材層9での接合強度が500〜1500kPaであり、好ましくは800〜1200kPaである。
接合材層9での接合強度は次のような方法で測定した。即ち、ハニカム構造体から2本のハニカムセグメントが接合された2本組構造体を切り出し、その2本組構造体の接合部のY軸方向(長手方向)にせん断荷重をかけたときの破壊荷重と接合部の面積から、下式より算出した。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によっていかなる制限を受けるものではない。
【0055】
(実施例1〜6、比較例
1)
1.ハニカムセグメントの作製:
ハニカムセグメント原料として、SiC粉末及び金属Si粉末を80:20の質量割合で混合し、これに造孔剤として澱粉、発泡樹脂を加え、さらにメチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルメチルセルロース、界面活性剤及び水を添加して、可塑性の坏土を作製した。この坏土を押出成形し、マイクロ波及び熱風で乾燥して隔壁の厚さが310μm、セル密度が約46.5セル/cm
2(300セル/平方インチ)、断面が一辺35mmの正四角形、長さが152mmのハニカムセグメント成形体を得た。このハニカムセグメント成形体を、端面が市松模様状を呈するように、セルの両端面を目封じした。すなわち、隣接するセルが、互いに反対側の端部で封じられるように目封じを行った。目封じ材としては、ハニカムセグメント原料と同様な材料を用いた。セルの両端面を目封じし、乾燥させた後、大気雰囲気中約400℃で脱脂し、その後、Ar不活性雰囲気で約1450℃で焼成して、SiC結晶粒子をSiで結合させた、多孔質構造を有するハニカムセグメントを得た。
【0056】
2.接合材の調製:
骨材成分としては、無機粒子として無機微粒炭化珪素を、針状結晶粒子としてウォラストナイトを用い、造孔材として発泡樹脂を用いた。針状結晶粒子のウォラストナイトは、その長軸方向の平均長さと長軸方向に垂直な断面の平均直径を種々変えたものを使用し、また、無機微粒炭化珪素とウォラストナイトの配合比率も種々変化させた。このウォラストナイトは天然鉱物でありショット含有率はゼロであった。これにさらに無機バインダーとしてコロイダルシリカを、有機バインダーとしてカルボキシメチルセルロースを、分散剤としてポリエチレングリコールオレイン酸エステルを加え、更に水を加えて混合した。その後、これをミキサーにて30分間混練してペースト状の接合材組成物を得た。そしてこのペースト状の接合材組成物の粘度が300〜400dPa・sとなるように水を加えて調整した。ここで使用した無機微粒炭化珪素とウォラストナイトのサイズと配合比率、その他の各添加成分の配合割合等は表1に示す。
【0057】
3.ハニカム構造体の作製:
ハニカムセグメントの外壁面に、厚さ約1mmとなるように表1に示す種々の接合材組成物をコーティングして接合材層を形成し、その上に別のハニカムセグメントを載置した。この工程を繰り返して、16個のハニカムセグメントからなるハニカムセグメント積層体を作製し、外部より圧力を加え、全体を接合させた。その後、140℃で2時間乾燥してハニカムセグメント接合体を得た。次いで、このハニカムセグメント接合体の外周を円筒状に切断した後、コーティング材を塗布し、700℃で2時間乾燥硬化させ、ハニカム構造体を得た。
【0058】
4.評価試験:
得られたそれぞれのハニカム構造体から一部を切断して取り出し、それぞれのサンプルについてZ軸方向の圧縮ヤング率と接合強度を測定した。更に、それぞれのハニカム構造体の急速加熱試験(バーナースポーリング試験、B−sp)、急速冷却試験(電気炉スポーリング試験、E−sp)、エンジン試験(E/G試験)を行った。これらの試験結果を表2に示す。
【0059】
圧縮ヤング率と接合強度の測定は、本明細書に既に述べた方法に従って行なった。また、急速加熱試験(B−sp)、急速冷却試験(E−sp)、エンジン試験(E/G試験)はそれぞれ以下のようにして行なった。
【0060】
「B−sp」試験(バーナースポーリング試験、急速加熱試験):
ハニカム構造体にバーナーで加熱した空気を流すことにより中心部分と外側部分との温度差をつくり、ハニカム構造体のクラックの発生しない温度により耐熱衝撃性を評価する試験。加熱できる温度が高いほど耐熱衝撃性が高い。
【0061】
「E−sp」試験(電気炉スポーリング試験、急速冷却試験):
ハニカム構造体を電気炉にて500℃×2h加熱し、均一な温度にした後、電気炉から取り出し室温まで急速に冷却する。急速冷却によるハニカム構造体のクラック発生の有無により耐熱衝撃性を評価する試験。
【0062】
「E/G」試験(エンジン試験1000℃):
フィルター再生のために堆積したパーティキュレートを燃焼させ、ハニカム中心部の温度が1000℃となる条件にて、ハニカム構造体のクラックの有無により耐熱衝撃性を評価する試験。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表2中、「○」はクラック発生なし、「×」はクラック発生ありを意味する。表2の結果から分かるように、本発明の実施例のものはいずれも800℃以上の高温度に耐えており、良好な耐熱衝撃性を有していた。また、これらのものは、E−sp試験、E/G試験でもハニカム構造体にクラックが発生せず、良好な耐熱衝撃性を示した。特に、実施例1〜5のものが一層優れた耐熱衝撃性を有していた。一方
、比較例
1のものは、針状結晶粒子のウォラストナイトの長軸方向の平均長さが10μmと非常に短いため、十分な応力緩和機能が得られず、B−sp試験では600℃という低い温度となり、E−sp試験およびE/G試験ではハニカム構造体にクラックが発生し、耐熱衝撃性に劣るものであった。