(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素系導電性粒子が、黒鉛粒子、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェンから成る群から選択される1又は2種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質導電シート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(多孔質導電シート)
本発明の多孔質導電シート(以下、「本シート」ともいう)は、芳香族ポリアミドパルプと炭素系導電材料からなる多孔質導電シートであって、炭素系導電材料として、繊維長1mm以上の炭素繊維と、繊維長1mm未満の炭素系短繊維と、炭素系導電性粒子を含んで成る。
【0014】
本シートは、炭素系導電材料として、繊維長1mm以上の炭素繊維と炭素系導電性粒子に加えて、繊維長1mm未満の炭素系短繊維を有している。そのため、本シートは、繊維長1mm未満の炭素系短繊維と炭素系導電性粒子とがシート内に分散され導電パスを形成する為に導電性が高い。また、繊維長1mm以上の炭素繊維が骨格を形成するのに加えて、本シートは構造材としてフィブリル構造を有する芳香族ポリアミドパルプを有しているため、炭素系短繊維が芳香族ポリアミドパルプに保持されることで、ランダム配向の骨格材として働き、シート内に空隙が作製される。その結果、本シートは、高い通気度と高いシート強度を有している。そのため、燃料電池電極材用の多孔質導電シートとして好適に使用することができる。
【0015】
本発明でいう繊維長1mm未満の炭素系短繊維とは、繊維長が1mm未満の繊維状の炭素系物質である。本発明で用いる炭素系短繊維としては、アスペクト比が5〜100であり、断面における長径と短径の比が1〜10である繊維状の炭素系物質であることが好ましい。炭素系短繊維のアスペクト比が5〜100であり、且つ炭素系短繊維の断面における長径と短径の比が1〜10以下であると、炭素系短繊維が多孔質導電シートの骨格として寄与しやすく、多孔質導電シートにより優れたガス透過性を与える傾向がある。
【0016】
さらには本発明において、この炭素系短繊維のアペクト比は、10〜80がより好ましく、15〜50が特に好ましい。アスペクト比が5未満の場合は、炭素系短繊維が多孔質導電シートの骨格として寄与せず、ガス透過性が得られない為に電池性能が低下する。100を超える場合は、シートの嵩密度が小さくなり、電気抵抗が増加する為に、高い電池性能が得られ難い。
【0017】
また、炭素系短繊維の断面における長径と短径の比は、この好ましくは1〜5であり、より好ましくは1〜3である。炭素系短繊維の断面における長径と短径の比が10を超える場合、炭素系短繊維が扁平になりすぎ、シート内の空隙を埋めてしまい、ガス透過性が得られない為に電池性能が低下する。
【0018】
又、本シートに用いる1mm以上の炭素繊維の平均繊維長と繊維長1mm未満の炭素系短繊維の平均繊維長の比は1.5〜2000が好ましく、2〜500がより好ましく、10〜250が特に好ましい。繊維長1mm以上の炭素繊維の平均繊維長と炭素系短繊維の平均繊維長の比が1.5〜2000であることで、炭素系短繊維がシート内に均一に分散し導電パスを形成しやすくなり、また、骨格材としても機能しやすい。1.5未満の場合は炭素系短繊維が分散しにくく、導電パスを形成し辛いため、電気抵抗が増加する傾向がある。2000を超える場合は、炭素系短繊維が骨格材として働きにくく、シートが緻密になりすぎガス透過性が低下する傾向がある。
【0019】
本発明において、芳香族ポリアミドパルプの繊維表面にフッ素樹脂が融着されていることが好ましい。芳香族ポリアミドパルプの繊維表面にフッ素系樹脂が融着されていると、多孔質導電シートに撥水性が付与される。
本シートは、芳香族ポリアミドパルプ、炭素系導電粒子、繊維長1mm以上の炭素繊維と繊維長1mm未満の炭素系短繊維を含んで成り、好ましくは、フッ素樹脂を含む。
本シートの前記各成分の好ましい含有率は、芳香族ポリアミドパルプが5〜45質量%、フッ素樹脂が1〜50質量%、炭素系導電粒子が5〜75質量%、1mm以上の炭素繊維が5〜70質量%、1mm未満の炭素系短繊維が1〜70質量%である。
芳香族ポリアミドパルプが45質量%を超える場合、電気抵抗が高くなり電池性能が低下する傾向がある。一方、5%未満の場合は、シート強度が低く抄紙しにくい傾向がある。
【0020】
フッ素樹脂が、1質量%未満である場合は、撥水性が低くなり、燃料電池の電池反応で生成される水を排水する機能が不足しやすい傾向がある。一方、50質量%を超える場合、フッ素樹脂が膜状に存在するため、ガスの透過性が低くなり電池性能が低下しやすい傾向がある。また、本シートに含まれる芳香族ポリアミドパルプのフッ素樹脂に対する質量比は、10/90〜50/50の範囲であることが好ましく、20/80〜40/60の範囲であることが特に好ましい。芳香族ポリアミドパルプのフッ素樹脂に対する質量比が10/90未満の場合、フッ素樹脂が多すぎシートを形成しにくい傾向がある。一方、芳香族ポリアミドパルプのフッ素樹脂に対する質量比が50/50を超える場合、フッ素樹脂の機械的強度と撥水性を備える多孔質導電シートが得られにくい傾向がある。
【0021】
炭素系導電粒子が、75質量%を超える場合、シートが緻密になりすぎガス透過性が悪くなり電池性能が低下する傾向がある。一方、5質量%未満である場合は、電気抵抗が高くなり電池性能が低下する傾向がある。
1mm以上の炭素繊維が、70質量%を超える場合、所期のシート厚みが得られ難い傾向がある。また、嵩密度が小さくなる為に電気抵抗が高くなり、電池性能が低下する傾向がある。一方、5%未満の場合はシート強度が低く抄紙しにくい傾向がある。本シートにおいて、1mm以上の炭素繊維の含有率は、より好ましくは5〜60%、特に好ましくは5〜40%である。
1mm未満の炭素系短繊維が70%を超える場合、シートが緻密になり過ぎガス透過性が低くなり電池性能が低下する傾向がある。一方、1%を未満である場合は、電気抵抗が高くなり、電池性能が低下する傾向がある。1mm未満の炭素系単繊維の含有率は、より好ましくは5〜60質量%、特に好ましくは5〜40質量%である。
【0022】
本シートにおいて、芳香族ポリアミドパルプの含有量と、繊維長1mm以上の炭素繊維、炭素系短繊維及び炭素系導電性粒子の含有量を合計した炭素系導電材料の含有量との質量比は、90/10〜10/90の範囲であることが好ましく、85/15〜15/85の範囲であることが特に好ましい。芳香族ポリアミドパルプの炭素系導電材料に対する質量比が90/10を超える場合、導電性が得られにくい傾向がある。一方、芳香族ポリアミドパルプの炭素系導電材料に対する質量比が10/90未満の場合、芳香族ポリアミドパルプによる補強効果が十分には得られにくい傾向がある。
【0023】
本シートにおいて、炭素系導電粒子と1mm未満の炭素系短繊維の含有量の質量比が、90/10〜30/70であることが好ましい。炭素系導電粒子と1mm未満の炭素系短繊維の質量比がこの範囲であると、より高い通気度と導電性を有する多孔質導電シートとすることができる。炭素系導電粒子と1mm未満の炭素系短繊維の質量比が90/10を超えると、シートの通気度が低下しやすい傾向がある。一方、30/70未満であると、シートの導電性が低下しやすい傾向がある。
また、本シートにおいて、炭素系導電粒子と1mm以上の炭素繊維の含有量の質量比は、90/10〜40/60であることが好ましい。炭素系導電粒子と1mm以上の炭素繊維の質量比が90/10を超えると、シートの強度が低下しやすい傾向がある。一方、40/60未満であると、シートの導電性が低下しやすい傾向がある。
【0024】
さらに本シートにおいて、1mm以上の炭素繊維と1mm未満の炭素系短繊維の含有量の質量比は、90/10〜10/90であることが好ましい。炭素系導電粒子と1mm以上の炭素系短繊維の質量比が90/10を超えると、シートの導電性が低下しやすい傾向がある。一方、40/60未満であると、シートの強度が低下しやすい傾向がある。
本シートにおいて、導電パスを形成する炭素系導電粒子と1mm未満の炭素系短繊維の合計含有量と、1mm以上の炭素繊維の含有量の質量比が、95/5〜40/60であると、より優れた導電性を有する多孔質導電シートとすることができる。また、本シートにおいて骨格材として働く、1mm以上の炭素繊維と1mm未満の炭素系短繊維の合計含有量と、炭素系導電物質の含有量の質量比を80/20〜90/10とすると、より通気度とシート強度に優れた多孔質導電シートとすることができる。
【0025】
本シートの厚さ平均値は、50〜500μmが好ましく、100〜400μmがより好ましい。厚さ平均値が50μm未満の場合は、シートの強度が低くなり、取扱い性が低下しやすい傾向がある。厚さ平均値が500μmを超える場合は、シート面方向の厚さの均一性が悪くなりやすい。
厚さ平均値は、後述のように、目付や、熱圧縮の際の温度や圧力を調整することにより制御できる。
【0026】
本発明において、シートの「厚さ」は、直径5mmの円形圧板を用いてシートの厚さ方向に1.2Nの荷重(61.9kPa)を負荷した時のシートの厚さを表す。「厚さ平均値」は、10cm角のシート面を碁盤の目状に9面に区分(即ち、約3.33cm角で9面に区分)し、区分された各面の中心部における厚さを測定し、これら9点の厚さの測定値を平均した値を表す。
【0027】
本シートの目付は、20〜200g/m
2が好ましく、30〜150g/m
2がより好ましい。目付が20g/m
2未満の場合は、シート強力が低くなり、取扱い性が低下しやすい傾向がある。目付が200g/m
2を超える場合は、所期の厚さのシートが得にくい傾向にある。
本シートの嵩密度は、0.2〜0.7g/cm
3が好ましい。嵩密度が0.2g/cm
3未満の場合は、シート強度が低くなり、シートの取扱い性が低下する。嵩密度が0.7g/cm
3を超える場合は、シートの面方向における厚さの均一性が悪くなりやすい。
本シートの平均細孔径は、0.01〜20μmが好ましく、0.01〜10μmがより好ましい。平均細孔径が0.01μm未満の場合、シートの排水性が悪く、電極内に生成水が滞留して、電池性能を低下させやすい。平均細孔径が20μmを超える場合、燃料ガスもしくは燃料液体の拡散性が悪くなり、電池性能が低下しやすい傾向がある。
【0028】
本シートの通気度は、5ml/min.・cm
2以上が好ましく、10ml/min.・cm
2以上であることがより好ましい。通気度が5ml/min.・cm
2以上であれば、燃料ガスや燃料液体の拡散性が良く、高い電池性能を得ることができる。
本シートの面間電気抵抗値は、800mΩ/cm
2以下が好ましく、600mΩ/cm
2以下が特に好ましい。面間電気抵抗が800mΩ/cm
2以下である場合、本シートを電極材として使用した燃料電池は高い発電性能を得ることができる。
本シートの濡れ張力は、50mN/m以下であることが好ましい。濡れ張力が50mN/m以下であれば、シートの排水性が良く、本シートを使用した電極は、電極内の生成水を排出しやすく、電池性能を向上させやすい。
以下、本シートに含まれる各成分についてさらに詳細に説明する。
【0029】
(芳香族ポリアミドパルプ)
本発明に用いられる芳香族ポリアミドパルプは、アミド結合の85モル%以上が芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分との脱水縮合により形成されるアミド結合を有する芳香族ポリアミドパルプである。本発明に用いられる芳香族ポリアミドパルプは、繊維を高度にフィブリル化させたものであることが好ましい。以下の記載では、芳香族ポリアミドパルプを、「アラミドパルプ」と称することがある。
図1は、フィブリル化させた芳香族ポリアミドパルプを示す図面代用写真である。
図1中、2はフィブリル化させた芳香族ポリアミドパルプである。芳香族ポリアミドパルプ2は、幹部4と、幹部4から繊維をフィブリル化させたフィブリル部6とからなる。幹部4は、繊維径が3〜70μm、長さが0.1〜500mmである。フィブリル部6の繊維径は、0.01〜2μmである。
【0030】
アミド結合の85モル%以上が芳香族ジアミン成分と芳香族ジカルボン酸成分との脱水縮合により形成されるアミド結合を有する芳香族ポリアミドパルプとしては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレン−テレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラベンズアミド、ポリ−4,4’−ジアミノベンズアニリド、ポリパラフェニレン−2,6−ナフタリックアミド、コポリパラフェニレン/4,4’−(3,3’−ジメチルビフェニレン)テレフタルアミド、ポリオルソフェニレンテレフタルアミド、ポリパラフェニレンフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド等を挙げることができる。中でも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン−3,4’オキシジフェニレン−テレフタルアミドなどのパラ系の芳香族ポリアミドを用いると、よりシート強度の高い多孔質導電シートが得られるため好ましい。また、ポリメタフェニレンイソフタルアミドなどのメタ系の芳香族ポリアミドを用いると、より耐熱性の高い多孔質導電シートを得ることができる。
【0031】
「フィブリル化」とは、繊維の表面に微小径の短繊維をランダムに形成させることをいう。本発明において、芳香族ポリアミド繊維のフィブリル化は公知の方法で行われる。例えば、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報などに記載される有機高分子重合体溶液に沈殿剤を加え、剪断力の生ずる系で混合する方法によりフィブリル化が行われる。また、特公昭59−603号公報に記載される、光学的異方性を示す高分子重合体溶液から形成した分子配向性を有する成形物に、叩解等の機械的剪断力を与えて、ランダムに微小径の短繊維を付与させる方法によりフィブリル化が行われる。
【0032】
通常、フィブリル化の指標としてはBET比表面積が用いられる。アラミドパルプのBET比表面積は3〜25m
2/gが好ましく、5〜20m
2/gが特に好ましく、9〜16m
2/gがさらに好ましい。アラミドパルプのBET比表面積が3m
2/g未満である場合は、パルプ同士の絡み合いが十分に起こらないので、得られる多孔質導電シートの機械的強度が低くなる傾向がある。また、アラミドパルプにフッ素樹脂粒子を沈着(後述)させることが困難となる傾向がある。一方、アラミドパルプのBET比表面積が25m
2/gを超える場合は、多孔質導電シートの抄造時における濾水性が悪くなる傾向がある。そのため、多孔質導電シートの抄造に長時間を要し、製造コストを上昇させやすい傾向がある。
【0033】
(フッ素樹脂)
本発明で用いられるフッ素樹脂としては、四フッ化エチレン樹脂(以下、「PTFE」と略記する)、パーフルオロ−アルコキシ樹脂(以下、「PFA」と略記する)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体樹脂(以下、「FEP」と略記する)、四フッ化エチレン−エチレン共重合体樹脂(以下、「ETFE」と略記する)、フッ化ビニリデン樹脂(以下、「PVDF」と略記する)、三フッ化塩化エチレン(以下、「PCTFE」と略記する)が例示される。その中でも、PTFEが耐熱性、摺動特性に優れるため、特に好ましい。
フッ素樹脂粒子の平均粒径は0.01〜10μmが好ましく、0.1〜1μmが特に好ましい。平均粒径が0.01μm未満である場合、アラミドパルプに沈着させにくい傾向がある。一方、平均粒径が10μmを超える場合、安定な分散液を調製しにくい傾向がある。また、多孔質導電シート中にフッ素樹脂が偏在しやすくなる。
【0034】
(炭素系導電性粒子)
本発明の多孔質導電シートに含まれる炭素系導電性粒子としては、炭素含有率が94質量%以上であって、比抵抗値が100Ω・cm以下の物質であれば、特に限定されるものではない。炭素含有率が94質量%未満の場合は、多孔質導電シートの導電性が低下しやすい傾向がある。さらに、この多孔質導電シートを組み込んだ電池を長期間に亘って作動させると、多孔質導電シートが劣化し易くなる。
上記の条件を満たす炭素系導電性粒子としては、黒鉛粒子、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェンが例示される。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
カーボンブラックとしては、アセチレンブラックや、中空シェル状の構造を持つケッチェンブラック(登録商標)などが挙げられる。特にケッチェンブラックが好ましい。
【0035】
炭素系導電性粒子としてカーボンブラックを用いる場合、その平均粒径は0.01〜20μmであることが好ましい。平均粒径が0.01μm未満の場合は、カーボンブラックの分散液を調製する際に、カーボンブラックが凝集して分散斑が起きやすい。平均粒径が20μmを超える場合は、カーボンブラック粒子が芳香族ポリアミドの繊維間に適度に分散されないため、得られる多孔質導電シートの導電性が低下しやすい。
黒鉛粒子としては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、膨張化黒鉛、葉片状黒鉛、塊状黒鉛、球状黒鉛などが例示される。鱗片状黒鉛、球状黒鉛が特に好ましい。黒鉛粒子を用いる場合、その平均粒径は0.01〜300μmが好ましい。
【0036】
(繊維長1mm以上の炭素繊維)
本発明には繊維長1mm以上の炭素繊維が使用される。炭素繊維の繊維長は2mm以上がより好ましく、3mm以上が特に好ましい。繊維長1mm以上の炭素繊維を用いると、多孔質導電シート内で、繊維長1mm以上の炭素繊維同士が網目構造を形成し、シートの骨格材として働き、シート強度が向上する。さらに、繊維長1mm以上の炭素繊維同士が形成する網目がシートの通気孔として働き、良好な通気度を有する多孔質導電シートとなる。繊維長1mm以上の炭素繊維が存在しない場合には、シート内の網目構造が密になりすぎるため、多孔質導電シートの通気度が低下する。
繊維長1mm以上の炭素繊維の平均綿長(カット長)は20mm以下が好ましく、より好ましくは9mm以下、特に好ましくは6mm以下である。平均綿長が20mmを超える場合は、繊維の均一分散性が低下して得られるシートの強力が低下しやすい。
【0037】
本発明の多孔質導電シートに含まれる繊維長1mm以上の炭素繊維としては、炭素含有率が94質量%以上であって、比抵抗値が100Ω・cm以下であり且つ所定の長さを有している物質であれば、特に限定されるものではない。炭素含有率が94質量%未満の場合は、多孔質導電シートの通電性が低下する。さらに、この多孔質導電シートを組み込んだ電池を長期間に亘って作動させると、多孔質導電シートが劣化し易くなる。
上記の条件を満たす炭素繊維としてはPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、フェノール系炭素繊維などが挙げられ、これらの炭素繊維を所定の長さに切断して得られる炭素繊維チョップドストランドを用いることがより好ましい。
【0038】
繊維長1mm以上の炭素繊維の繊維径は5〜20μmが好ましく、6〜13μmが特に好ましい。扁平な断面の炭素繊維の場合、長径と短径との平均値を繊維径とする。繊維径が5μm未満の場合は、単繊維の強度が低いため、得られる多孔質導電シートの強力が不足しやすい傾向がある。繊維径が20μmを超える場合は、多孔質導電シートを構成する炭素単繊維の外周の形状が多孔質導電シートのシート面に浮き上がりやすい傾向がある。炭素単繊維の外周の形状が浮き上がって形成されたシート面上の凹凸は、多孔質導電シートの表面平滑性を損ない、多孔質導電シートの接触電気抵抗が増加する傾向にある。
【0039】
(繊維長1mm未満の炭素系短繊維)
本発明の多孔質導電シートには繊維長1mm未満の炭素系短繊維が含まれる。1mm未満の炭素系短繊維は、1mm以上の炭素繊維と比較して、シート内での分散性に優れる。そのため1mm未満の炭素系短繊維は、本シート内に均一に分散し、導電パスを形成することができる。そのため、本シートは高い導電性が得られる。
【0040】
ところで、従来、炭素系短繊維の繊維長が1mm未満であると、繊維長が短くシートの骨格材としては不適であると考えられてきた。しかし、本シートはフィブリル構造を有する芳香族ポリアミドパルプを有しているため、1mm未満の炭素系短繊維が芳香族ポリアミドパルプのフィブリル部に保持されることで、繊維長が短くても骨格材として働くことができる。1mm未満の炭素系短繊維は、分散性に優れるため、シート内で均一に分散しランダムに配向する。そのため1mm未満の炭素系短繊維が骨格材として働く、本シートは、シート強度の等方性に優れている。
【0041】
本発明の繊維長1mm未満の炭素系短繊維は、アスペクト比が5〜100であることが好ましく、10〜80がより好ましく、15〜50が特に好ましい。アスペクト比が5未満の場合は、炭素系短繊維が多孔質導電シートの骨格として寄与しにくく、ガス透過性を得にくい為に電池性能が低下する傾向がある。100を超える場合は、シートの嵩密度が小さくなりやすく、電気抵抗が増加しやすい傾向がある。
又、この炭素系短繊維の断面における長径と短径の比は1〜10以下であり、1〜5が好ましく、1〜3以下がより好ましい。長径と短径の比が10を超える場合、炭素系短繊維が扁平になりすぎ、シート内の空隙を埋めてしまい、ガス透過性が得られない為に電池性能が低下する。
【0042】
本発明で用いる炭素系短繊維の繊維長は1mm未満であるが、0.01〜0.8mmが好ましく、0.02〜0.5mmがより好ましく、0.03〜0.3mmが特に好ましい。繊維長が0.01mm未満の場合、多孔質導電シートの通気度が低下しやすい傾向がある。
本発明で用いる炭素系短繊維は炭素含有率が94質量%以上であって、比抵抗値が100Ω・cm以下であることが好ましい。炭素含有率が94質量%未満の場合は、多孔質導電シートの通電性が低下する傾向がある。さらに、この多孔質導電シートを組み込んだ電池を長期間に亘って作動させると、多孔質導電シートが劣化し易くなる。
【0043】
上記の条件を満たす炭素系短繊維としてはPAN系カーボンミルドファイバー、ピッチ系カーボンミルドファイバー、フェノール系カーボンミルドファイバー、VGCF、繊維状黒鉛などが挙げられる。これらの中でも、カーボンミルドファイバーを用いると、通気性、強度に優れた多孔質導電シートをより得やすいため好ましく、PAN系カーボンミルドファイバーまたはピッチ系カーボンミルドファイバーを用いることが特に好ましい。PAN系カーボンミルドファイバーを用いた場合、より強度の高い多孔質導電シートを得やすい。一方、ピッチ系カーボンミルドファイバーを用いると、より導電性の高い多孔質導電シートを得ることができる。
【0044】
炭素系短繊維の繊維径は5〜20μmが好ましく、6〜13μmが特に好ましい。扁平な断面の炭素系短繊維の場合、長径と短径との平均値を繊維径とする。繊維径が5μm未満の場合は、単繊維の強度が低いため、得られる多孔質導電シートの強力が不足しやすい傾向がある。繊維径が20μmを超える場合は、多孔質導電シートを構成する炭素単繊維の外周の形状が多孔質導電シートのシート面に浮き上がりやすい。炭素単繊維の外周の形状が浮き上がって形成されたシート面上の凹凸は、多孔質導電シートの表面平滑性を損ない、多孔質導電シートの接触電気抵抗が増加しやすい傾向がある。
【0045】
(多孔質導電シートの製造方法)
本発明の多孔質導電シートの製造方法は、繊維長1mm以上の炭素繊維と繊維長1mm未満の炭素系短繊維と炭素系導電粒子と芳香族ポリアミドパルプとを含んで成るスラリーを調製し、このスラリーを抄紙する多孔質導電シートの製造方法である。
【0046】
<スラリー調製工程>
スラリーの調製においては、まず、アラミドパルプの分散液を調整する。分散媒としては水が好ましい。
アラミドパルプの分散液は、公知の方法で調製することができる。例えば、木質パルプを抄造する際に従来から用いられている方法を適用することができる。各種の離解機(パルパー)、ナイアガラビーター等の各種のビーター、又はシングルディスクリファイナー等の各種のリファイナー等を用いて分散させることができる。
【0047】
本シートの好ましい様態としてフッ素樹脂を添加する場合には、スラリーにフッ素樹脂分散液を添加する製造方法を用いる。この方法を用いる場合には、アラミドパルプとフッ素樹脂粒子とが分散する分散液(以下、「アラミドパルプ−フッ素樹脂分散液」と称することがある。)を調製することが好ましい。アラミドパルプ−フッ素樹脂分散液は、アラミドパルプが分散する分散液とフッ素樹脂粒子が分散する分散液とを各々調製し、これらを混合することにより製造できる。フッ素樹脂粒子の分散液にアラミドパルプを添加して分散させることにより調製しても良いし、この逆であっても良い。最も好ましいのは、フッ素樹脂粒子の分散液にアラミドパルプを添加して分散させる方法である。
【0048】
アラミドパルプ−フッ素樹脂分散液におけるアラミドパルプとフッ素樹脂との配合比率は、目的とする最終製品に応じて適宜選択すれば良い。抄紙して得られたシート全体のアラミドパルプのフッ素樹脂に対する質量比は、10/90〜50/50の範囲であることが好ましく、20/80〜40/60の範囲であることが特に好ましい。アラミドパルプのフッ素樹脂に対する質量比が10/90未満の場合、フッ素樹脂が多すぎシートを形成しにくい傾向がある。一方、アラミドパルプのフッ素樹脂に対する質量比が50/50を超える場合、フッ素樹脂の機械的強度と撥水性を備える多孔質導電シートが得られにくい傾向がある。
【0049】
フッ素樹脂粒子の分散液は、公知の方法によって調製することができる。例えば、界面活性剤の存在下、フッ素樹脂の原料モノマーをラジカル重合させることにより調製することができる。フッ素樹脂粒子の分散液の市販品をそのまま用いることもできる。市販品のフッ素樹脂粒子の分散液としては、旭硝子株式会社製のFluon PTFEディスパージョンAD911E(製品名)や、ダイキン工業株式会社製のポリフロン PTFE D−1E(製品名)が例示される。
【0050】
フッ素樹脂粒子の分散液には、ノニオン性の界面活性剤を分散剤として用いる分散液と、イオン性の界面活性剤を分散剤として用いる分散液とがある。イオン性の界面活性剤で分散させる場合、ノニオン性の界面活性剤を用いる場合に比べ、フッ素樹脂粒子を解分散させやすい。しかし、イオン性の界面活性剤を用いて分散させたフッ素樹脂粒子の分散液は、解分散させるとフッ素樹脂粒子の大きなフロックが形成されやすくなる。フッ素樹脂粒子の大きなフロックが形成されると、均一にフッ素樹脂が含浸された多孔質導電シートを得にくい。ノニオン性の界面活性剤で分散させる場合、フッ素樹脂粒子の分散液は、イオン性の界面活性剤を用いる場合に比べ、フッ素樹脂粒子を解分散させにくい傾向にある。しかし、解分散ができる場合は、細かなフッ素樹脂粒子をアラミドパルプの繊維に均一に沈着させることができる。したがって、本発明においては、ノニオン性の界面活性剤を用いるフッ素樹脂粒子の分散液を用いることが好ましい。
【0051】
分散液中のアラミドパルプやフッ素樹脂の濃度は特に制限されないが、分散液の流動性を損なわない範囲でできるだけ高い濃度とした方が製造コスト低減の点から好ましい。
また、フッ素樹脂粒子がアラミドパルプ表面に粒子状に沈着させやすくする目的で、このアラミドパルプ−フッ素樹脂分散液に対して凝集剤を添加し、フッ素樹脂粒子を解分散させてもよい。凝集剤は、アラミドパルプ−フッ素樹脂分散液中に分散するフッ素樹脂粒子を解分散させる作用を有する。凝集剤の種類や添加量は、フッ素樹脂粒子の分散に用いられている界面活性剤の種類や、アラミドパルプの比表面積に応じて適宜決定すれば良い。
【0052】
アラミドパルプ−フッ素樹脂分散液中のフッ素樹脂粒子は、実質的に全量がアラミドパルプに沈着されることが好ましい。アラミドパルプに沈着されないフッ素樹脂粒子は、抄造時の廃水に流出される。フッ素樹脂は高価格であるため、廃水中にフッ素樹脂が流出されることは経済性の観点から好ましくない。また、フッ素樹脂が廃水中に流出されると、廃水処理が必要になり、製造コストを上昇させる。すなわち、「実質的に全量」とは、廃水処理が不要になる程度をいう。
【0053】
アラミドパルプ分散液またはアラミドパルプ−フッ素樹脂分散液(以下、まとめてアラミドパルプ分散液と称する)には、続いて繊維長1mm以上の炭素繊維及び繊維長1mm未満の炭素系短繊維及び炭素系導電性粒子(以下、これら3種をまとめて、炭素系導電材料と称する)が添加される。炭素系導電材料の添加は、フッ素樹脂粒子をアラミドパルプに沈着させる前であっても後であっても良い。炭素系導電材料をアラミドパルプ分散液へ配合する方法は、繊維長1mm以上の炭素繊維、炭素系短繊維及び炭素系導電性粒子それぞれの分散液をアラミドパルプ分散液に配合しても良いし、繊維長1mm以上の炭素繊維、炭素系短繊維及び炭素系導電性粒子をそれぞれアラミドパルプ分散液に配合した後に分散させても良い。炭素系導電性粒子は二次粒子の状態で分散していても良い。これにより、アラミドパルプと、繊維長1mm以上の炭素繊維と、炭素系短繊維と、炭素系導電性粒子と、好ましくはアラミドパルプに沈着するフッ素樹脂とを含むスラリー(以下、単に「スラリー」ともいう)が得られる。
【0054】
アラミドパルプの配合量と、繊維長1mm以上の炭素繊維、炭素系短繊維及び炭素系導電性粒子の配合量を合計した炭素系導電材料の配合量との配合比率は、目的とする最終製品に応じて適宜選択すれば良い。抄紙して得られたシート全体のアラミドパルプの炭素系導電材料に対する質量比としては、90/10〜10/90の範囲であることが好ましく、85/15〜15/85の範囲であることが特に好ましい。アラミドパルプの炭素系導電材料に対する質量比が90/10を超える場合、導電性が得られにくい傾向がある。一方、アラミドパルプの炭素系導電材料に対する質量比が10/90未満の場合、アラミドパルプによる十分な補強効果が得られにくい傾向がある。
【0055】
また、得られる多孔質導電シートの性能を向上させたり、他の特性を付与させたりする目的で、スラリーにグラファイトやブロンズ粉等のような充填材、添加剤等を添加することもできる。
このスラリーにおいて、繊維長1mm以上の炭素繊維は5〜70質量%、繊維長1mm未満の炭素系短繊維は1〜70質量%、炭素系導電性粒子は5〜75質量%、芳香族ポリアミドパルプは5〜45質量%、フッ素樹脂は1〜50質量%であることが好ましい。
このスラリーを湿式抄紙することで、本発明の多孔質導電シートが得られる。湿式抄紙は、公知の方法により行われる。例えば、長網式や丸網式の抄造機を用いることができる。得られる多孔質導電シートは必要により脱水、乾燥される。
【0056】
<熱プレス工程>
続いて、本発明の多孔質導電シートに、空気中で熱プレスを行うことが好ましい。熱プレスによって、多孔質導電シートのシート厚みを調節することができる。また、シート表面を平滑化し、接触抵抗が低減し、シートの厚さ方向の導電性を向上させることができる。
熱プレスの温度は、120〜250℃であり、140〜250℃が好ましく、160〜250℃が特に好ましい。熱プレスの加圧方向は、多孔質導電シートの厚さ方向である。熱プレス時の接圧は、0.1〜100MPaであり、1〜50MPaが好ましく、5〜20MPaが特に好ましい。熱プレスの時間は、1〜300分間であり、2.5〜60分間が好ましく、5〜30分間が特に好ましい。熱プレスは、連続式、バッチ式のいずれで行っても良い。
【0057】
<焼成工程>
本発明の好ましい様態として、フッ素樹脂を添加した場合には、本発明の多孔質導電シートを不活性ガス中で焼成することが好ましい。これにより、アラミドパルプに沈着されているフッ素樹脂粒子が溶融してアラミドパルプ表面に融着される。その結果、撥水性が付与された多孔質導電シートが得られる。
焼成温度は、200〜500℃であり、230〜430℃が好ましい。焼成温度が200℃未満である場合、アラミドパルプに沈着しているフッ素樹脂粒子が溶融しない。その場合、多孔質導電シートの撥水性が不十分になる。焼成温度が500℃を超える場合は、フッ素樹脂が分解してフッ酸が発生し、装置等に不具合を生じさせる。
焼成時間は、10〜120分間であり、30〜90分間が好ましい。
多孔質導電シートは、面圧を付与しながら焼成しても良い。面圧は、1.0kPa以下であり、0.1〜0.5kPaが好ましい。面圧の付与は、バッチプレス、間欠プレス、カレンダプレス、ベルトプレス、ローラー等を用いて付与される。
【0058】
上記のような本発明の製造方法によって得られる多孔質導電シートは、繊維長1mm未満の炭素系短繊維と炭素系導電性粒子とがシート内に分散され導電パスを形成する為に導電性が高い。また、繊維長1mm以上の炭素繊維が骨格を形成するのに加えて、炭素系短繊維が芳香族ポリアミドパルプのフィブリル部に保持されることで、ランダム配向の骨格材として働き、シート内に空隙が作製される。その結果、本発明の製造方法によって得られる多孔質導電シートは、高い通気度と高いシート強度を有している。そのため、燃料電池電極材用の多孔質導電シートとして好適に使用することができる。
【0059】
(本発明の多孔質導電シートの用途)
本発明の多孔質導電シートは、反応ガスを拡散させるガス透過性と、良好な導電性とを備えている。そのため、本発明の多孔質導電シートは、固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極やバイオ燃料電池用電極や空気亜鉛電池用電極などに好ましく用いられる。これらのうち、固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極に特に好ましく用いることができる。
【0060】
(電極材、燃料電池)
本発明のもう一つの様態である多孔質導電シートを用いた電極材は、本発明の多孔質導電シートを用いてなる電極材である。本発明の多孔質導電シートを用いた電極材は、ガス透過性および導電性に優れているため、例えば、多孔質導電シートの一面に触媒層を塗布することで、固体高分子型燃料電池、バイオ燃料電池や空気亜鉛電池の電極などに、好適に使用できる。
本発明のさらなる態様である燃料電池は、本発明の電極材と、高分子電解質膜とが積層される燃料電池である。さらに詳しくは、本発明の多孔質導電シートの一面に触媒層を塗布した電極材にさらに高分子電解質膜を積層した、固体高分子型燃料電池である。固体高分子方燃料電池の燃料としては、メタノールやエタノール等の有機化合物や水素を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。各物性の測定、評価は以下の方法によった。
【0062】
[目付]
一辺が10cmの正方形の多孔質導電シートを120℃で1時間乾燥し、加熱前後の質量値より算出した。
【0063】
[厚さ]
シートの厚さは、直径5mmの円形圧板を用いてシートの厚さ方向に1.2Nの荷重(61.9kPa)を負荷した時のシートの厚さを表す。厚さは、10cm角のシートの面を、9面の正方形に区分(即ち、約3.33cm角で9面に区分)し、この区分された各面の中心部における厚さの測定値を平均した値を表す。
【0064】
[面間電気抵抗]
50mm角の多孔質導電シートを、50mm角(厚さ10mm)の金メッキした2枚の電極で、2枚の電極で挟んだ。この際、多孔質導電シートと電極とは、互いの対応する各辺が一致するように重ねた。2枚の電極で多孔質導電シートの厚さ方向に荷重1MPaを負荷し、この状態で多孔質導電シートの電気抵抗値R(Ω)を測定した。電気抵抗値Rと測定面積に基づいて、面間電気抵抗値を算出した。
【0065】
[平均粒径]
JIS Z 8825−1「粒子径解析−レーザー回折法」に準拠して、平均粒径を測定した。測定には、レーザー回折・散乱式粒度分析計[日機装社製、商品名:マイクロトラック]を用いた。
【0066】
[濡れ張力]
JIS K 6768「プラスチック−フィルム及びシート−ぬれ張力試験方法」に準拠して、濡れ張力を測定した。
【0067】
[炭素系短繊維のアスペクト比]
断面写真より、任意に5点選択して長径と短径を測定し、併せて平均化することにより平均繊維径もしくは平均厚みを算出。その平均繊維径もしくは平均厚みと炭素系短繊維の大きさよりアスペクト比を算出した。
【0068】
[長径と短径の比]
断面写真より、任意に5点選択し長径と短径を測定し算出した。
【0069】
[通気度]
JIS K 3832「精密ろ過膜エレメント及びモジュールのバブルポイント試験方法」に準拠し測定した。パームポロメーター[PMI(Porous Material,Inc.)社製:商品名CFP−1100AEX]を用い、乾き流量測定時の100mmH
2Oの圧力下での1cm
2あたりの通気量を測定した。
【0070】
[実施例1、比較例1、2、3、4]
<各分散液の調製>
アラミドパルプであるトワロン1094(製品名、テイジン・アラミド B.V.製のポリパラフェニレンテレフタラミド繊維のパルプ、BET比表面積:13.5m
2/g、濾水度:100ml、加重平均繊維長:0.91mm)をイオン交換水に混合して分散液を調製した(以下、この分散液を「分散液A」ともいう)。
フッ素樹脂であるAD911E(製品名、旭硝子株式会社製のPTFEのノニオン系分散液、PTFEの平均粒径:0.25μm、PTFEを60質量%含有)をイオン交換水に混合して分散液を調製した(以下、この分散液を「分散液B」ともいう)。
炭素質粒子としてケッチェンブラックEC300JD(製品名、ライオン株式会社製のカーボンブラック、一次粒子径34.0nm)をイオン交換水に混合して分散液を調製した(以下、この分散液を「分散液C」ともいう)。
繊維長1mm以上の炭素繊維として、PAN系炭素繊維(東邦テナックス株式会社製 TENAX HTS40、平均繊維直径7μm、比重1.76)を3mmにカットし、イオン交換水に混合して分散液を調製した(以下、この分散液を「分散液D」ともいう)。
繊維長1mm未満の炭素系短繊維として、PAN系炭素短繊維であるカーボンミルドファイバー HT M100 160MU(製品名、東邦テナックス株式会社製、平均繊維直径7μm、比重1.76、平均繊維長160μm、アスペクト比23、長径/短径1)をイオン交換水に混合して分散液を調製した(以下、この分散液を「分散液E」ともいう)。
【0071】
<スラリー調製>
分散液Bと分散液Cとを混合し、15分間攪拌した。この分散液に、分散液Aを加えて20分間攪拌することにより、アラミドパルプにフッ素樹脂を沈着させた。さらに、分散液D及び分散液Eを加えて3分間攪拌し、スラリーを得た。スラリーにおける各成分の配合量は表1に示した。
【0072】
<多孔質導電シートの作製>
得られたスラリーを、湿式抄紙し、多孔質導電シートを得た。この多孔質導電シートを、温度200℃、圧力20MPaの条件下で、10分間熱プレスした。その後、該多孔質導電シートを窒素ガス雰囲気下400℃で60分間、焼成処理することによりアラミドパルプにフッ素樹脂が融着した多孔質導電シートを得た。得られた多孔質導電シートの各種物性は表1に記載した。
【0073】
比較例1で得られた多孔質導電シートは、炭素系導電材料として、繊維長1mm以上の炭素繊維と炭素系導電性粒子のみを含み、繊維長1mm未満の炭素系短繊維を含んでいない。比較例1で得られた多孔質導電シートは、面間電気抵抗が800mΩ/cm
2以上であり、燃料電池用電極材としては不適であった。
【0074】
そのため比較例2では、多孔質導電シートの面間電気抵抗を下げるために、比較例1に比べ導電性の高い炭素系導電性粒子の配合量を多くして多孔質導電シートを得た。しかし、比較例2で得られた多孔質導電シートは、面間電気抵抗が800mΩ/cm
2を超えており、燃料電池用電極材としては不適であった。
【0075】
比較例3では、さらに面間電気抵抗を低下させる為、比較例2よりも炭素系導電性粒子の配合量を増加させた。しかし、炭素系導電性粒子の配合量が多すぎ、骨格材となる繊維長1mm以上の炭素繊維の配合量が少なくなってしまったため、この配合量では、シート強度が低く抄紙できず、多孔質導電シートが得られなかった。
【0076】
実施例1では、炭素系導電材料として、繊維長1mm以上の炭素繊維と炭素系導電性粒子に加え、繊維長1mm未満の炭素系短繊維を添加した。実施例1で得られた多孔質導電シートは、面間電気抵抗が800mΩ/cm
2以下且つ通気度が5ml/min.・cm
2以上の導電シートであり、燃料電池用電極材として好適に使用できるものであった。
【0077】
比較例4では、炭素系導電材料として、繊維長1mm以上の炭素繊維は添加せず、炭素系導電性粒子と、繊維長1mm未満の炭素系短繊維のみを添加した。しかし、得られた多孔質導電シートは、緻密になりすぎ通気度が5ml/min.・cm
2未満となってしまった。その為、比較例4で得られた多孔質導電シートは、燃料電池用電極材としては不適であった。
【0078】
[実施例2]
繊維長1mm未満の炭素系短繊維としてピッチ系炭素短繊維であるラヒーマ(製品名、帝人株式会社製、平均繊維直径8μm、平均繊維長170μm、アスペクト比21、長径/短径1)を使用した以外は実施例1と同様の方法で多孔質導電シートを得た。スラリーの各分散液における、それぞれの成分比率及び得られた多孔質導電シートの各種物性を表2に示した。
炭素系短繊維の種類をPAN系からピッチ系に変更した実施例2でも、得られた多孔質導電シートは、面間電気抵抗が800mΩ/cm
2未満且つ通気度5ml/min.・cm
2を超えており、燃料電池用電極材として適した多孔質導電シートが得られた。
【0079】
[比較例5]
繊維長1mm未満の炭素系短繊維の代わりに麟片状黒鉛(SECカーボン株式会社製、平均粒径2.5μm、アスペクト比5、長径/短径3)を17wt.%の配合量で使用した以外は実施例1と同様の方法で多孔質導電シートを得た。スラリーの各分散液における、それぞれの成分比率及び得られた多孔質導電シートの各種物性を表2に示した。
比較例5は、炭素系短繊維の代わりに扁平な形状を有する炭素系導電材料である麟片状黒鉛を使用した。扁平な形状である麟片状黒鉛により導電シートの間隙がふさがれてしまった為、比較例5で得られた導電シートは、通気度が5ml/min.・cm
2未満となり、燃料電池用電極材としては不適であった。
【0080】
[実施例3]
炭素質粒子として麟片状黒鉛を用いた以外は実施例1と同様の方法で多孔質導電シートを得た。スラリーの各分散液における、それぞれの成分比率及び得られた多孔質導電シートの各種物性は表2に示した。
導電質粒子の種類を麟片状黒鉛に変更した実施例3でも、得られた多孔質導電シートは、面間電気抵抗が800mΩ/cm
2未満且つ通気度5ml/min.・cm
2を超えており、燃料電池用電極材として適した多孔質導電シートが得られた。
【0081】
[実施例4、5、6]
実施例1と同様の方法により、スラリー調製、湿式抄紙、熱プレス及び焼成処理を実施し多孔質導電シートを得た。スラリーのそれぞれの成分の配合量及び得られた多孔質導電シートの各種物性は表3に示した。
実施例4〜6では、いずれも得られた多孔質導電シートは、面間電気抵抗が800mΩ/cm
2以下且つ通気度が5ml/min.・cm
2以上であり、燃料電池用電極材として好適な多孔質導電シートが得られた。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】