(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5844892
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】紙および板紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 17/69 20060101AFI20151224BHJP
D21H 17/24 20060101ALI20151224BHJP
D21H 17/44 20060101ALI20151224BHJP
D21H 17/66 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
D21H17/69
D21H17/24
D21H17/44
D21H17/66
【請求項の数】29
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-514027(P2014-514027)
(86)(22)【出願日】2012年6月5日
(65)【公表番号】特表2014-518962(P2014-518962A)
(43)【公表日】2014年8月7日
(86)【国際出願番号】EP2012060541
(87)【国際公開番号】WO2012168204
(87)【国際公開日】20121213
【審査請求日】2014年1月29日
(31)【優先権主張番号】11169107.7
(32)【優先日】2011年6月8日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】61/494,475
(32)【優先日】2011年6月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509131443
【氏名又は名称】アクゾ ノーベル ケミカルズ インターナショナル ベスローテン フエンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel Chemicals International B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】シモンソン,パトリック
【審査官】
中尾 奈穂子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−156398(JP,A)
【文献】
特表2010−539344(JP,A)
【文献】
特開2010−138516(JP,A)
【文献】
特表2010−533799(JP,A)
【文献】
特開平08−013376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) 1以上の充填剤、1以上のアニオン性多糖および1以上のカチオン性剤を混合ゾーン中に導入して充填剤組成物を形成する工程であって、
(i) 前記1以上の充填剤および前記1以上のアニオン性多糖が前記混合ゾーン中で混合されて充填剤プレミックスを形成し、次いで前記1以上のカチオン性剤が前記混合ゾーン中に導入されて前記充填剤組成物を形成し、または
(ii) 前記1以上の充填剤および前記1以上のアニオン性多糖が充填剤プレミックスゾーン中で混合されて充填剤プレミックスを形成し、次いで前記充填剤プレミックスを前記混合ゾーン中に導入する、工程、
(b) 前記充填剤組成物を、セルロース系繊維を含む水性懸濁液の中にポンプで導入する工程、ならびに
(c) 得られた懸濁液を脱水する工程
を含む、紙および板紙の製造方法。
【請求項2】
(i) 製造する紙または板紙の厚み規格を提供する工程、
(ii) 製造されている紙または板紙の厚さを測定する工程、
(iii)測定した厚さを厚み規格と比較して、厚さの差異を識別する工程、および
(iv) 任意選択的に、充填剤組成物の用量を調節して紙または板紙の充填剤含有量を調節することにより、厚さの差異を小さくして厚み規格を満たす紙または板紙を提供する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1以上の充填剤および前記1以上のアニオン性多糖を前記混合ゾーン中で混合して充填剤プレミックスを形成する工程、次いで前記1以上のカチオン性剤を前記混合ゾーン中に導入して前記充填剤組成物を形成する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記1以上の充填剤および前記1以上のアニオン性多糖を充填剤プレミックスゾーン中で混合して充填剤プレミックスを形成する工程、次いで前記充填剤プレミックスを前記混合ゾーン中に導入する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記混合ゾーンがポンプ、スタティックミキサーまたは混合タンクである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記充填剤プレミックスゾーンがポンプ、スタティックミキサーまたは混合タンクである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ポンプが可変ポンプ容量を有する、請求項1、5、および6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記1以上の充填剤が無機充填剤を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記1以上の充填剤が、炭酸カルシウムから選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記1以上のアニオン性多糖が、アニオン性デンプン、アニオン性セルロース誘導体およびそれらの混合物から選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1以上のアニオン性多糖がカルボキシメチルセルロースを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記1以上のアニオン性多糖が0.65までのアニオン性基の置換度を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記1以上のカチオン性剤が2以上のカチオン性剤を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記1以上のカチオン性剤がカチオン性有機ポリマーを含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記1以上のカチオン性剤がカチオン性無機化合物を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
第一のカチオン性剤および第二のカチオン性剤をカチオン性剤プレミックスゾーン中で混合してカチオン性剤プレミックスを形成する工程、ならびに前記カチオン性剤プレミックスを前記混合ゾーン中に導入する工程を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記1以上のカチオン性剤が、カチオン性ポリアミン、カチオン性ポリアミドアミン、カチオン性ポリエチレンイミン、カチオン性ジシアンジアミドポリマー、カチオン性アクリルアミド系ポリマー、カチオン性アクリレート系ポリマー、カチオン性ビニルアミン/ビニルホルムアミド系ポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド系ポリマー、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、ポリアルミニウムクロリド、ポリ硫酸アルミニウム、ポリ硫酸ケイ酸アルミニウム、およびこれらの混合物から選択される、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
セルロース系繊維を含む前記水性懸濁液に1以上の濾水歩留剤を脱水前に添加する工程をさらに含む、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記充填剤組成物を前記セルロース懸濁液中に導入する工程、次いで1以上の濾水歩留剤を前記セルロース懸濁液に脱水前に添加する工程を含む、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記1以上の濾水歩留剤がケイ酸質材料を含む、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
前記1以上の濾水歩留剤が、カチオン性ポリマーを含む、請求項18〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記1以上の濾水歩留剤が、アニオン性ポリマーを含む、請求項18〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記1以上の充填剤が、沈降炭酸カルシウム、粉砕炭酸カルシウム、およびこれらの混合物から選択される、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記1以上のアニオン性多糖が、セルロース誘導体から選択される、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記1以上のカチオン性剤が、ポリアルミニウム化合物であるカチオン性無機化合物から選択される、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記1以上の濾水歩留剤が、シリカ系粒子であるケイ酸質材料から選択される、請求項18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記1以上の濾水歩留剤が、カチオン性アクリルアミド系ポリマーであるカチオン性ポリマーから選択される、請求項18〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記1以上の濾水歩留剤が、アニオン性アクリルアミド系ポリマーであるアニオン性ポリマーから選択される、請求項18〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
1以上のコンピュータが、前記厚さを測定し、前記測定した厚さを前記厚み規格と比較し、そして、前記充填剤含有量を調節することにより前記厚さの差異を小さくして、前記厚み規格を満たす紙または板紙を提供するのに使用される、請求項2〜28のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙および板紙の製造方法に関する。さらに詳細には、本発明は紙および板紙の製造方法用の好適な充填剤組成物の製造方法、および、充填剤組成物をセルロース系懸濁液に添加する、紙および板紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用途において充填剤および充填剤組成物は、周知であり、紙の価格を下げるために比較的高価なバージンセルロース系繊維をより高価でない充填剤で置換して、広く使用されている。充填剤はまた、ある種の紙の性質例えば表面平滑性、印刷性および光学的性質、例えば不透明度および明るさを改善させることができる。しかしながら、紙の他の性質には悪影響を与える。例えば充填剤を充填した紙は充填しない紙と比べて、通常、強度が弱い。
【0003】
充填剤入りの紙(filled paper)は、従来、ある種の規格、例えば引張強度、引張剛性、内部結合(Scott式)、厚さ、坪量(grammage)、充填剤含有量などを満たすように製造されている。特定の坪量の紙を製造するときに、充填剤の含有量を増加させると紙の厚さが薄くなることが認められている。紙の厚さが規格外になると、取り扱いの問題、例えば高速加工(high-speed conversion)や最終用途の操作(end-use operation)における問題が生じる。
【0004】
充填剤入りの紙の厚さを薄くすることは、坪量を増加すること、すなわち、このプロセスで使用するセルロース系繊維および充填剤の量を規格に従った割合で増やすことによって相殺してもよいが、全体の製造コストが増大する。また、紙の厚さを薄くすることは、通常の硫酸塩/サルファイトパルプの一部を嵩高いパルプ、例えばBCTMP(バルクのCTMP)で置き換えることによって相殺される。しかしながら、そのようなパルプを使用することに伴う欠陥や問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、厚み制御の改善と、高速加工および最終用途の操作での実行性の改善、および強度特性が改善または維持された充填剤入りの紙および板紙の製造方法に対するニーズがある。また、紙および板紙に上記性質および利点を与える充填剤組成物の製造方法に対するニーズがある。
【0006】
本発明の目的は、特に製造する紙および板紙の充填剤の含有量を増やす場合、厚さ制御が改善された、すなわち厚さを維持または厚さの減少を少なくとも抑えた、紙および板紙の製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、高速加工および最終用途の操作において実行性が改善された、充填剤入りの紙および充填板紙の製造方法を提供することにある。これによって規格外の紙の厚さによって生じ得る取り扱いおよび走行性の問題、例えば複写機における重なり給紙または紙詰まり、フォームプレス(forms press)および他の加工機械における操作速度の低下、ならびに印刷機および封筒折り機械の位置決め(registration)エラーを避け、または少なくとも低下させることができる。
【0007】
本発明のもう1つの目的は、特に製造する紙および板紙の充填剤の含有量を増やす場合、強度が維持または改善された、充填剤入りの紙および板紙の製造方法を提供することにある。実質的に維持または改善され得る、本発明によって製造される充填剤入りの紙および板紙の強度特性としては、引張強度、引張剛性、剛軟度、Z−強度、内部結合(Scott式)およびワックスピック(紙の表面強度)があげられる。
【0008】
本発明のさらにもう1つの目的は、充填剤組成物における充填剤の含有量および充填剤:他の成分の割合を、厚みの偏り例えば厚みの規格からのズレに呼応して、容易に制御でき、規格内の厚さを有し、かつ強度特性を維持、改善した充填剤入りの紙および板紙を提供できる、紙および板紙の製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明を用いることにより、製造する紙および板紙の厚さ制御を改善して強度特性を維持または改善しながら、紙および板紙の繊維の含有量を減らし、かつ充填剤の含有量を増加させることができる。規格外の紙の厚さによって、取り扱い、例えば高速加工および最終用途の操作において問題が生じ得る。このような問題の例には、複写機における重なり給紙または紙詰まり、フォームプレスおよび他の加工機械における操作速度の低下、および印刷機および封筒折り機械の位置決めエラーを挙げることができる。
【0010】
これにより、バージンセルロース系繊維の使用量を減らすこと、強度特性を維持しながら充填剤の搭載量を増加させること、及び改善された紙および板紙の製造方法を提供することが可能であり、このことは環境と経済的な利益につながる。
【0011】
本発明のさらにもう1つの目的は、充填剤組成物における充填剤:他の成分の割合を容易に調節できる、紙および板紙の製造方法で使用するのに適した充填剤組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、1つの態様では、本発明は、
(a) 1以上の充填剤、1以上のアニオン性多糖および1以上のカチオン性剤を混合ゾーン中に導入して充填剤組成物を形成すること、
(b) 前記充填剤組成物を、セルロース系繊維を含む水性懸濁液中にポンプで導入すること、ならびに
(c) 得られた懸濁液を脱水すること
を含む、紙および板紙の製造方法に関する。
【0013】
もう1つの態様では本発明は、
(a) 1以上の充填剤、1以上のアニオン性多糖および1以上のカチオン性剤を混合ゾーン中に導入して充填剤組成物を形成すること、
(b) 前記充填材組成物を貯蔵タンクにポンプにより導入すること
を含む、充填剤組成物の製造方法に関する。
【0014】
本発明の、これらおよび他の目的および態様について、以下に詳細に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、1以上の充填剤の使用を含む。用語「充填剤」には、本明細書において、合成および天然の無機充填剤ならびに顔料が含まれ、多孔性、嵩高、プラスチック製、および膨張性の充填剤ならびに顔料が含まれる。本発明に適した充填剤の例としては、硅灰石、カオリナイト例えばカオリン、チャイナクレー、焼石膏、二酸化チタン、石膏、タルサイト例えばタルク、ハイドロタルサイト、マナッセ石、パイロオーロ石、ショグレン石、スティヒト石、バーバートン石、タコバイト、リーブス石、デソーテルス石、モツコレア石、ウェルムランド石、メイキセネライト、コーリング石、クロロマガルマイト、カーボイダイト、ホネサイト、ウッドワード石、アイオワ石、ハイドロホネサイトおよびマウントケイサイト、シリカ類例えば沈降シリカおよび沈降アルミノ珪酸塩、スメクタイト類例えばモンモリロナイト/ベントナイト、ヘクトライト、バイデライト、ノントロナイトおよびサポナイト、水素化酸化アルミニウム(アルミニウム水酸化物)、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、シュウ酸カルシウム、ならびに天然および合成炭酸カルシウムがあげられる。好適な天然および合成の炭酸カルシウムの例としては、チョーク、粉砕大理石、粉砕炭酸カルシウム(GCC)および沈降炭酸カルシウム(PCC)があげられ、存在する様々な結晶形または形態、例えば菱面体晶、斜方晶系形、平板形、直平行六面体および偏三角面体形の方解石(calcite)および針状形態のアラゴナイト(aragonite)があげられる。1以上の充填剤は好適にはカオリン、炭酸カルシウム例えば粉砕炭酸カルシウムおよび沈降炭酸カルシウムおよびそれらの混合物から選択される。1以上の充填剤は好適には水性懸濁液の形で使用される。
【0016】
本発明は、1以上のアニオン性多糖の使用を含む。好適には、1以上のアニオン性多糖は水分散性または水溶性であり、好ましくは水溶性または少なくとも一部水溶性である。1以上のアニオン性多糖は、好適には水性組成物の形で使用される。1以上のアニオン性多糖は、アニオン性基を含み、それは天然のものであってもおよび/または多糖の化学処理により導入されたものでもよい。天然のアニオン性多糖の例としては、相当量の共有結合リン酸モノエステル基を含む天然ジャガイモテンプンがあげられる。1以上のアニオン性多糖はまた、この多糖が正味アニオン性であるか、あるいは正味のアニオン電荷を有する限り、すなわち、アニオン性基の数がカチオン性基の数よりも多いか、あるいはアニオン性基の置換の程度がカチオン性基の置換の程度よりも大きい限り、カチオン性基を含んでいてもよい。好ましくは、1以上のアニオン性多糖は、カチオン性基を含まないか、または実質的に含まない。
【0017】
1以上のアニオン性多糖の中に存在できる、好適なアニオン性基の例としては、カルボキシレート基、例えばカルボキシアルキル基、サルフェート基、スルホネート基、例えばスルホアルキル基、ホスフェート基およびホスホネート基があげられ、そのアルキル基はメチル、エチル、プロピルおよびそれらの混合物、好適にはメチルであってもよい;好適には1以上のアニオン性多糖は、カルボキシレート基、例えばカルボキシアルキル基を含むアニオン性基を含有する。アニオン性基の対イオンは通常、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、好適にはナトリウムである。アニオン性基は、その酸性型でも存在することができ、それにより対応するアニオン性基が水性環境で形成される。
【0018】
1以上のアニオン性多糖の中に存在できる、好適なカチオン性基の例としては、アミンの塩、好適には第三級アミンの塩、および第四級アンモニウム基、好ましくは第四級アンモニウム基があげられる。カチオン基を含む好ましいアニオン性多糖の例としては、アニオン性多糖を、2,3−エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドおよびそれらの混合物から選択される四級化剤と反応させて得られるものがあげられる。
【0019】
本発明の1以上のアニオン性多糖は、非イオン性基、例えばアルキルまたはヒドロキシアルキル基、例えばヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチルおよびそれらの混合物、例えばヒドロキシエチルメチル、ヒドロキシプロピルメチル、ヒドロキシブチルメチル、ヒドロキシエチルエチル、ヒドロキシプロピルおよび同類のものを含んでいてもよい。本発明の好ましい実施形態では、アニオン性多糖はアニオン性基および非イオン性基の両方を含む。
【0020】
本発明のアニオン性多糖の好適な例としては、グルカン、例えばデキストランおよびセルロース、ガラクトマンナン、例えばグアーガム、キチン、キトサン、グリカン、ガラクタン、キサンタンガム、ペクチン、マンナン、デキストリン、アルギン酸塩およびカラゲナンがあげられる。好適なデンプンの例としては、ジャガイモ、トウモロコシ、小麦、タピオカ、米、ワキシーメイズなどがあげられる。好ましくは、アニオン性多糖は、セルロース誘導体、好ましくはアニオン性セルロースエーテルから選択される。好適なアニオン性多糖およびセルロース誘導体の例としては、カルボキシアルキルセルロース、例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、スルホエチルカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(CM−HEC)、カルボキシメチルセルロースがあげられ、このセルロースは、1以上の非イオン性置換基、好ましくはカルボキシメチルセルロース(CMC)で置換されている。好適なセルロース誘導体の例としては、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,940,785号明細書に開示されたものがあげられる。
【0021】
1以上のアニオン性多糖のアニオン性基の置換の程度は、通常、少なくとも約0.001または少なくとも約0.01、好適には少なくとも約0.05または少なくとも約0.10および好ましくは少なくとも約0.15であり、アニオン性多糖のアニオン性基の置換の程度は通常、約1.0以下または約0.75以下、好適には約0.65以下または約0.50以下および好ましくは約0.45以下である。
【0022】
1以上のアニオン性多糖の重量平均分子量は通常、少なくとも2,000ダルトン(Dalton)または少なくとも約5,000ダルトン、好適には少なくとも50,000ダルトンまたは少なくとも約100,000ダルトンであり、平均分子量は通常、約30,000,000ダルトン以下または約25,000,000ダルトン以下、好適には約1,000,000ダルトン以下または約500,000ダルトン以下である。
【0023】
本発明は、1以上のカチオン性剤の使用を含む。本明細書において、用語「カチオン性剤」は、カチオン性の有機および無機化合物を含む意味である。本明細書において用語「カチオン性有機化合物」はまた第一のカチオン性剤ともいう。本明細書において用語「カチオン性無機化合物」はまた第二のカチオン性剤ともいう。
【0024】
好適なカチオン性有機化合物または第一のカチオン性剤としては水溶性および水分散性であり、好ましくは水溶性カチオン性有機化合物があげられる。1以上のカチオン性剤は、好適には水性組成物の形で使用される。カチオン性有機化合物は、合成であってもよいし、天然物から誘導され、カチオン性にされたものでもよい。好適なカチオン性有機化合物の例として、カチオン性有機ポリマー、例えば縮合ポリマー類、例えばカチオン性ポリアミン、カチオン性ポリアミドアミン、カチオン性ポリエチレンイミンおよびカチオン性ジシアンジアミドポリマー、エチレン性不飽和カチオン性モノマーまたは少なくとも1つのカチオン性モノマーを含むモノマーブレンドのカチオン性ビニル付加ポリマー、例えばカチオン性アクリルアミド系ポリマー、カチオン性アクリレート系ポリマー、カチオン系ビニルアミン/ビニルホルムアミド系ポリマーおよびジアリルジアルキルアンモニウムクロリド系カチオン系ポリマーがあげられる。好適なエチレン性不飽和カチオン性モノマーの例としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、およびジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、好ましくは四級化形態のもの、およびジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)があげられる。エチレン性不飽和モノマーのカチオン性ポリマーは、通常、約10〜100モル%のカチオン性モノマーと、0〜90モル%の他のモノマーから調製され、これらのパーセントの合計は100である。カチオン性モノマーの量は、通常、少なくとも80モル%、好適には100モル%となる。好適には、1以上のカチオン性剤は、カチオン性縮合ポリマー、好ましくはカチオン性ポリアミンを含む。
【0025】
カチオン性有機化合物の重量平均分子量は通常、少なくとも約1,000、好適には少なくとも約2,000、好ましくは少なくとも約5,000である。通常、重量平均分子量は、約4,000,000以下、好適には約2,000,000以下、好ましくは約700,000以下である。カチオン性有機化合物の電荷密度は通常、少なくとも約0.2meq/g、好適には少なくとも約1meq/gであり、電荷密度は通常、約15meq/g以下、好適には約10meq/g以下である。
【0026】
好適なカチオン性無機化合物または第二のカチオン性剤の例としては、無機の一価、二価および多価カチオンおよび多価電解質、例えばアルミニウム化合物があげられる。好適なアルミニウム化合物の例としては、ミョウバン(硫酸アルミニウム)、アルミン酸塩、例えばアルミン酸ナトリウムおよびアルミン酸カリウム、ならびにポリアルミニウム化合物、例えばポリアルミニウムクロリド、ポリ硫酸アルミニウム、ポリ硫酸ケイ酸アルミニウムおよびそれらの混合物があげられる。好適には、1以上のカチオン性剤は、ポリアルミニウム化合物、好ましくはポリアルミニウムクロリドを含む。
【0027】
本発明の1以上のカチオン性剤は、好適には少なくとも1種のカチオン性有機化合物または上記の第一のカチオン性剤および1種のカチオン性無機化合物または上記の第二のカチオン性剤を含む。カチオン性有機化合物および無機化合物の好適な組み合わせの例としては、カチオン性有機ポリマーおよびポリアルミニウム化合物、好適にはカチオン性縮合ポリマーおよびポリアルミニウム化合物、好ましくはカチオン性ポリアミンおよびポリアルミニウムクロリドがあげられる。
【0028】
本発明の方法は、1以上の充填剤、1以上のアニオン性多糖、および1以上のカチオン性剤を混合ゾーンに導入して充填剤組成物を形成し、次いで充填剤組成物を、セルロース系繊維を含む水性懸濁液(以下「セルロース系懸濁液」ともいう)の中にポンプで導入し、または、充填剤組成物を貯蔵タンクにポンプで入れることを含む。
【0029】
混合ゾーンは、ポンプ、スタティックミキサー、混合に適したタンク、例えば紙または板紙製造機械の混合室、または充填剤、アニオン性多糖および1以上のカチオン性剤の流れが集中するゾーンであり得る。好適には混合ゾーンはポンプまたは混合タンクである。混合ゾーンをポンプとすると、そのポンプは、好ましくは得られた充填剤組成物を紙もしくは板紙製造プロセスのセルロース懸濁液または貯蔵タンクの中にポンプで押し出すのに使用される。混合ゾーンを混合タンク、例えば混合室とすると、得られた充填剤組成物は好適には紙または板紙の製造プロセスのセルロース懸濁液の中または貯蔵タンクの中にポンプで導入される。貯蔵タンクは、充填剤組成物が紙または板紙製造機械に積み出しされる前に貯蔵される任意のタンク、または充填剤組成物が紙または板紙製造プロセスのセルロース懸濁液の中に、そこからポンプで導入される任意のタンクである。
【0030】
本発明の方法の実施に際しては、1以上の充填剤、1以上のアニオン性多糖、および1以上のカチオン性剤を、所望の順序で、および所望のプレミックスの形で混合ゾーンに供給し、充填剤組成物を形成することができる。例えば、1以上の充填剤および1以上のアニオン性多糖は混合ゾーンで混合されて、充填剤プレミックスを形成し、次いで1以上のカチオン性剤が混合ゾーンに導入されて、その中の充填剤プレミックスと混合され、充填剤組成物を形成することができる。
【0031】
本発明の方法の実施にあたってはまた、1以上の充填剤および1以上のアニオン性多糖を充填剤予備混合ゾーンで混合して充填剤プレミックスを形成し、その充填剤プレミックスを混合ゾーンに導入することができる。充填剤予備混合ゾーンは、ポンプ、スタティックミキサー、混合に適したタンク(例えば紙または板紙の製造機械の混合室)、または充填剤の流れおよび1以上のアニオン性多糖の流れが(例えば流れが供給される複数のパイプの好適な配置によって)集中する領域であってもよい。好ましくは、充填剤予備混合ゾーンはポンプまたはスタティックミキサーである。充填剤予備混合ゾーンが混合タンク、例えば混合室であれば、充填剤プレミックスは好適にはポンプによって混合ゾーンに導入される。
【0032】
本発明の方法で、2以上のカチオン性剤、例えば第一および第二のカチオン性剤が使用される場合、その方法は、第一カチオン性剤と第二カチオン性剤が、カチオン性剤予備混合ゾーンで混合されて、カチオン性剤プレミックスを生成し、カチオン性剤プレミックスを混合ゾーンに導入することにより実施され得る。カチオン性剤予備混合ゾーンは、ポンプ、スタティックミキサー、混合に適したタンク(例えば紙または板紙製造機械の混合室)、または第一カチオン性剤の流れと第二カチオン性剤の流れが集中するゾーンであってもよい。好ましくは、カチオン性剤予備混合ゾーンは、ポンプ、または第一および第二のカチオン性剤の流れが(例えば流れが供給される複数のパイプの好適な配置によって)集中するゾーンである。カチオン性剤予備混合ゾーンが混合タンク例えば混合室であるときは、カチオン性剤プレミックスは、好適には、混合ゾーンにパイプによって導入される。
【0033】
本発明は、好ましくはポンプの使用を含む。ここで用語「ポンプ」は、ポンプまたはポンプの効果を有する設備をいう。前述のように1以上のポンプを使用することにより、いくつかの利益が得られ、混合ゾーンに入れる充填剤、アニオン性多糖および1以上のカチオン性剤の用量、セルロース懸濁液の中への充填剤組成物の用量を容易に調節でき、これにより、製造される紙または板紙の種々の性質特に紙および板紙の厚さおよび充填剤含有量を調節することができる。好適には、ポンプ容量が調節可能な1以上のポンプが、本発明の方法、特に充填剤組成物をセルロース懸濁液の中に導入する工程において使用される。
【0034】
本発明の方法はまた、好適には、製造する紙または板紙の厚み規格を提供する工程、製造されている紙または板紙の厚さを例えば製造中または製造後にインラインまたはマニュアルで測定する工程、測定された厚さと厚み規格を比較して厚さの差異を識別する工程、および任意選択的に充填剤組成物の用量を調節し、これにより紙または板紙の充填剤含有量を調節することによって厚さの差異を小さくして、規格を満足する紙または板紙を提供することを含む。好適には、厚さの測定において、1以上のコンピュータおよびコンピュータプログラムを使用し、測定した厚さと厚み規格を比較し、充填剤含有量を調節することにより、厚さの差異を小さくして、厚み規格を満足する紙または板紙を提供する。
【0035】
この方法では、1以上の充填剤、1以上のアニオン性多糖、1以上のカチオン性剤、充填剤組成物、充填剤プレミックスおよびカチオン性剤プレミックスは好ましくは水性であり、すなわち、それらは好ましくは水を含む。その他の成分、例えば殺生物剤、防腐剤、充填剤の製造工程の副生成物、アニオン性多糖ならびにカチオン性剤なども、当然、1以上の充填剤、1以上のアニオン性多糖、1以上のカチオン性剤、充填剤組成物、充填剤プレミックスおよびカチオン性剤プレミックスの中に存在してもよい。
【0036】
1以上の充填剤、1以上のアニオン性多糖および1以上のカチオン性剤は本明細書ではまた、「成分(the components)」と総称され、本発明の方法で使用でき、充填剤組成物、充填剤プレミックスおよびカチオン性剤プレミックスの中に存在することができ、その量は、とりわけ、成分の種類および数、意図する用途、所望の充填剤含有量、所望の費用節減、所望の紙強度などに依存する広い制限範囲内で変動することができる。
【0037】
1以上の充填剤は、通常、充填剤組成物および使用する場合は充填剤プレミックスの中に、充填剤組成物または充填剤プレミックスの総重量に基づいて各々、少なくとも約1重量%、好適には少なくとも約2重量%または少なくとも約5重量%、好ましくは少なくとも約10重量%の量で存在する。1以上の充填剤は、充填剤組成物および使用するときは充填剤プレミックスの中に、通常、充填剤組成物または充填剤プレミックスの総重量に基づいて各々、99重量%以下、好適には約75重量%以下、または約50重量%以下、好ましくは約45重量%以下の量で存在する。
【0038】
1以上のアニオン性多糖は、通常、充填剤組成物および使用する場合は充填剤プレミックスの中に、1以上の充填剤の重量に基づいて、少なくとも約1kg/トン、好適には少なくとも約2kg/トン、または少なくとも約3kg/トン、好ましくは少なくとも約5kg/トンの量で存在する。1以上のアニオン性多糖は、通常、充填剤組成物および使用する場合は充填剤プレミックスの中に、充填剤の重量に基づいて約100kg/トン以下、好適には約50kg/トン以下、または約30kg/トン以下、好ましくは約20kg/トン以下の量で存在する。
【0039】
1以上のカチオン性剤、例えば第一および第二のカチオン
性剤は、通常、充填剤組成物および使用する場合はカチオン性剤プレミックスの中に、この方法で使用される充填剤の重量に基づいて、少なくとも約0.001kg/トン、好適には少なくとも約0.01kg/トン、または少なくとも約0.1kg/トン、好ましくは少なくとも約1.0kg/トンの量で存在し、それらは1以上の充填剤の重量に基づいて通常、約30kg/トン以下、好適には約15kg/トン以下、または10kg/トン以下、好ましくは約5kg/トン以下の量で存在する。カチオン性剤がアルミニウム化合物である場合、本明細書で定義される量は、1以上の充填剤の重量に基づいてAl
2O
3として計算される。
【0040】
充填剤組成物のカチオン性剤対1以上のアニオン性多糖の重量比は、通常、約10:1〜約1:1000、好適には約2:1〜約1:100、好ましくは約1:1〜約1:40である。
【0041】
水は充填剤組成物および使用する場合は充填剤プレミックスの中に、通常、充填剤組成物または充填剤プレミックスの総重量に基づいて各々、約1重量%以上、好適には少なくとも約25重量%または少なくとも約50重量%、好ましくは少なくとも約55重量%の量で存在する。水は充填剤組成物および充填剤プレミックスの中に通常、充填剤組成物または充填剤プレミックスの総重量に基づいて各々99重量%以下、好適には約98重量%以下、または約95重量%以下、好ましくは約90重量%以下の量で存在し、これらのパーセントの合計は100である。
【0042】
本発明によれば、充填剤組成物は、とりわけ、セルロース懸濁液の種類、充填剤の種類、アニオン性多糖の種類、カチオン性剤の種類、製造する紙の種類、添加のポイントなどに依存する広い制限内で変動し得る量でセルロース懸濁液に添加されてもよい。充填剤組成物は、通常、乾燥セルロース系繊維に基づき、乾燥充填剤として計算して少なくとも約1kg/トン、好適には少なくとも約10kg/トンまたは少なくとも約50kg/トン、好ましくは少なくとも100kg/トンの量でセルロース懸濁液に添加される。充填剤組成物は通常、乾燥セルロース系繊維に基づき、乾燥充填剤として計算して2000kg/トン以下、好適には1500kg/トン以下、好ましくは1000kg/トンまたは750kg/トン以下の量でセルロース懸濁液に添加される。本発明における紙は、通常、充填剤含有量が、1〜約67重量%、好適には約5〜約50または約10〜約40、好ましくは約20〜約35、または約25〜約35重量%の範囲内である。
【0043】
好ましくは、本発明の方法で用いる成分を混合ゾーンで混合し、得られた充填剤組成物をセルロース懸濁液の中にポンプで導入し、そこで充填剤組成物の成分をセルロース系繊維と混合し、得られた懸濁液をヘッドボックスに供給し、このヘッドボックスは懸濁液を成形ワイヤ上に排出し、そこで懸濁液から水を排出して充填剤組成物の固形成分を含む湿ったセルロースウェブまたはシートを得て、次いでこのウェブまたはシートを紙または板紙の製造機械の乾燥セクションでさらに脱水し、乾燥して、充填剤入りの紙または板紙を得る。本発明の方法は好ましくは、紙または板紙の製造機械で連続的に実施される。
【0044】
本発明の方法では、その他の添加剤も当然、セルロース懸濁液の中に導入されるか、または得られた紙のウェブまたはシートにあるいは板紙に塗布されることにより使用してもよい。このような添加剤の例としては、従来の充填剤、蛍光増白剤、サイズ剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、カチオン性凝固剤、濾水歩留剤(drainage and retention aid)などがあげられる。
【0045】
好適な従来の充填剤としては、上記の充填剤、好適にはカオリン、チャイナクレー、二酸化チタン、石膏、タルク、天然および合成炭酸カルシウム、例えばチョーク、粉砕大理石、粉砕炭酸カルシウムおよび沈降炭酸カルシウム、水素化酸化アルミニウム(アルミニウム三水酸化物)、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、シュウ酸カルシウムなどがあげられる。好適な湿潤紙力増強剤の例としては、カチオン性ポリアミンおよびポリアミノアミドがあげられ、それらにはポリアミンおよびポリアミノアミドをエピクロルヒドリンと反応させて得られた生成物が含まれる。
【0046】
好適なサイズ剤の例としては、非セルロース反応性サイズ剤、例えばロジン系石鹸などのロジン系サイズ剤、ロジン系乳濁液/分散液、セルロース反応性サイズ剤、例えばアルキルおよびアルケニルコハク酸無水物(ASA)などの酸無水物の乳濁液/分散液、アルケニルおよびアルキルケテン二量体(AKD)および多量体、ならびにエチレン性不飽和モノマーのアニオン性、カチオン性および両性のポリマー、例えばスチレンとアクリレートとの共重合体があげられる。1以上のサイズ剤は、セルロース懸濁液に添加するか、表面サイズ剤適用の際に紙に塗布するか、または両方を行うことができる。好ましい実施形態では、少なくとも1種類のサイズ剤をセルロース懸濁液に添加し、少なくとも1種類のサイズ剤を紙に塗布する。
【0047】
好適なカチオン性凝固剤の例としては、カチオン性有機高分子凝固剤およびカチオン性無機凝固剤があげられる。好適なカチオン性有機高分子凝固剤の例としては、前記のカチオン性有機ポリマーがあげられる。好適なカチオン性無機凝固剤の例としては前記のカチオン性無機化合物があげられる。
【0048】
好適な濾水歩留剤の例としては、有機ポリマー、無機材料、例えばアニオン性微粒子材料、例えばコロイド状シリカ系粒子などのシリカ質材料、モンモリロナイト/ベントナイト、およびそれらの組み合わせがあげられる。用語「濾水歩留剤」は、本明細書において、セルロース懸濁液に1以上の添加剤を添加した場合に、前記1以上の添加剤を添加しない場合に得られるよりも優れた脱水および/または歩留りが得られる1以上の添加剤をさす。濾水歩留剤は、本発明の充填剤組成物のセルロース懸濁液への導入の前、導入と同時、導入の合間、および導入の後にセルロース懸濁液に添加することができるが、充填剤組成物の導入後が好ましい。
【0049】
好適な有機ポリマーの例としては、アニオン性、両性およびカチオン性デンプン;アニオン性、両性およびカチオン性アクリル系アミドポリマー(本質的に直鎖状、分枝状および架橋アニオン性およびカチオン性アクリルアミド系ポリマーを含む);ならびにカチオン性ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド);カチオン性ポリエチレンイミン;カチオン性ポリアミン;カチオン性ポリアミドアミンおよびビニルアミド系ポリマー、メラミン−ホルムアルデヒドおよび尿素−ホルムアルデヒド樹脂があげられる。好適には濾水歩留剤は、少なくとも1種のカチオン性または両性ポリマー、好ましくはカチオン性ポリマーを含む。カチオン性デンプンおよびカチオン性ポリアクリルアミドは特に好ましいポリマーであり、それらは単独に、相互に共に、またはその他のポリマー、例えばその他のカチオン性および/またはアニオン性ポリマーと共に使用することができる。ポリマーの重量平均分子量は、好適には約1,000,000より大きく、好ましくは約2,000,000より大きい。ポリマーの重量平均分子量の上限は臨界的ではない。それは約50,000,000、通常約30,000,000、好適には約25,000,000であっても良い。しかし天然原料からのポリマーの重量平均分子量はそれより大きくなることがある。
【0050】
シリカ系粒子、すなわちSiO
2またはケイ酸に基づく粒子は通常、水性コロイド分散液いわゆるゾルの形で供給される。好適なシリカ系粒子の例としては、コロイド状シリカおよびポリケイ酸の異なる種類、単独重合体または共重合体があげられる。シリカ系のゾルは改質することができ、他の元素、例えばアルミニウム、ホウ素、窒素、ジルコニウム、ガリウム、チタニウムなどを含むことができ、それらは水相中および/またはシリカ系の粒子中に存在することができる。この種類の好適なシリカ系粒子の例としては、コロイド状アルミニウム改質シリカおよびアルミニウムシリケートがあげられる。このような好適なシリカ系粒子の混合物もまた、使用することができる。好適なアニオン性シリカ系粒子の例としては、約100nm未満、好ましくは約20nm未満、さらに好ましくは約1〜約10nmの範囲内の平均粒子サイズを持つものがあげられる。従来、シリカの化学では、粒子サイズとは凝集したまたは凝集していない主たる粒子の平均サイズをいう。シリカ系粒子の比表面積は好適には約50m
2/gより大きく、好ましくは約100m
2/gより大きい。一般的には比表面積は最大約1700m
2/gであり得る。比表面積は、例えば、G. W. Sears in Analytical Chemistry 28 (1956): 12, 1981-1983および米国特許第5,176,891号明細書に記載の周知の方法でNaOHで滴定することにより測定される。得られる面積はしたがって、粒子の平均比表面積を表す。さらにシリカ系粒子の好適な例としては、5〜50%の範囲内のS値を有するゾル中に存在するものがあげられる。S値はIler & Dalton、J. Phys. Chem. 60 (1956), 955-957に記載されているように測定し、計算できる。S値は、凝集の程度またはミクロゲルの生成を示し、より低いS値は凝集の程度がより大きいことを示している。
【0051】
好適な濾水歩留剤の組み合わせの例としては、カチオン性ポリマーおよびアニオン性微粒子材料、例えばケイ酸質材料、例えばカチオン性デンプンおよびアニオン性コロイド状シリカ粒子;カチオン性アクリルアミド系ポリマーおよびアニオン系コロイド状シリカ系粒子;カチオン性アクリルアミド系ポリマー、アニオン性アクリルアミド系ポリマー、およびアニオン性コロイド状シリカ系粒子またはベントナイト;およびカチオン性アクリルアミド系ポリマーおよびベントナイトがあげられる。
【0052】
その他の添加剤を本発明の方法で用いる場合、これらの成分は、とりわけ、成分の種類および数、セルソール懸濁液の種類、充填剤の含有量、製造する紙の種類、添加のポイントなどに依存する広い制限内で変動し得る量で、セルロース懸濁液に添加されてもよいし、紙に塗布されてもよい。サイズ剤は通常、乾燥繊維の重量に基づいて、少なくとも約0.01重量%、好適には、少なくとも約0.1重量%の量でセルロース懸濁液の中に導入され、かつ/または紙に塗布され、上限は通常、約2重量%、好適には約0.5重量%である。一般に濾水歩留剤は、これらの向上剤を用いない場合に得られるよりも優れた濾水性および/または歩留りが得られる量でセルロース懸濁液中に導入される。濾水歩留剤、乾燥紙力増強剤および湿潤紙力増強剤は、相互に独立に、通常、乾燥繊維の重量に基づいて少なくとも約0.001重量%、多くの場合、少なくとも約0.005重量%の量で導入され、上限は通常、約5重量%、好適には約1.5重量%である。
【0053】
本発明の方法は、セルロース系繊維の様々な種類の水性懸濁液からの紙および板紙の製造において使用することができ、懸濁液は好適には乾燥物質に基づいて、このような繊維の少なくとも約25重量%、および好ましくは少なくとも約50重量%を含むべきである。懸濁液は、化学パルプ、例えば硫酸塩パルプ、亜硫酸塩パルプおよびオルガノソルブパルプ、機械パルプ、例えば熱機械パルプ、化学熱機械パルプ、精製パルプおよび(硬木および軟材の両方の)砕木パルプに由来する繊維に基づいてもよく、さらに任意選択的に、脱インキパルプ由来の再生繊維およびその混合物に基づいてもよい。本発明による紙は、多数の用途で使用されてもよく、好適には紙は筆記用紙および印刷用紙として使用される。
【実施例】
【0054】
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、実施例によって発明を限定することを意図しない。部および%は、特に指定しない限り、それぞれ重量部および重量%による部分であり、すべての懸濁液は水性である。
【0055】
特に指定のない限り、以下の成分を実施例で使用した。
GCC:粉砕炭酸カルシウム(Hydrocarb 60,Omya)
PAC:ポリアルミニウムクロリド(Eka ATC 8210)
PA:カチオン性ポリアミン(Eka ATC 4150)
CMC:カルボキシメチルセルロース、アニオン性基の置換度0.3〜0.4(Gabrosa 947,Akzo Nobel)
C−デンプン:カチオン性デンプン(Perlbond 970,Lyckeby)
C−PAM:カチオン性ポリアクリルアミド(Eka PL 1510)
シリカ:アニオン性シリカ系粒子の水性ゾル(Eka NP 442)
【0056】
紙シートを、Techpap SAS,France製のDynamic Sheet Former(Formette Dynamique)を用いて調製した。この実施例で使用される紙料は、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)および広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を基礎とするものであった。水性セルロース懸濁液の濃度は0.5重量%であり、スルホン酸ナトリウムを添加して導電率を0.5mS/cmに調整した。このセルロース懸濁液を700rpmの速度で撹拌し、Dynamic Sheet Formerの混合室内のセルロース懸濁液に添加を行い、その後、撹拌した。
【0057】
この方法では、GCC充填剤スラリーを、CMC水溶液(CMC1重量%)を導入した混合タンクに供給し、混合して均一な充填剤プレミックスを調製した。それと並行して、PAC、PAおよび水をプレミックスタンクに加えてカチオン性剤プレミックスを調製し、それを混合タンクに導入し、そのときに得られた固形分含有量20重量%を含む充填剤組成物を、可変ポンプ容量を有するポンプによってセルロース懸濁液に脱水105秒前に添加した。濾水歩留剤を、得られたセルロース懸濁液に、以下の順序、用量、脱水前の時間で加えた:C−デンプン(乾燥紙シート基準で8kg/トン)を脱水45秒前に添加、C−PAM(乾燥紙シート基準で0.2kg/トン)を脱水15秒前に添加、シリカ(乾燥紙基準でSiO
2に換算して0.5kg/トン)を脱水5秒前に添加。セルロース懸濁液を混合室からトラバースノズルを経て回転ドラムの中のワイヤ上部の水膜の上にポンプで送り、原料の水分を抜いてシートを形成し、このシートをプレスし、乾燥することにより紙シートを形成した。充填剤入りの紙の試料をISO 187:1990にしたがって気候室で調整し、次いでISO 536:1995にしたがって坪量を測定して評価し、ISO 1924−2およびISO 1924−3:2005にしたがってLorenzen & Wettre,スウェーデン製のAlwetron TH1を用いて厚さ、引張強度および引張剛性を測定し、Tappi T833 pm−94にしたがってScott Internal bond testerを用いて内部結合(Scott式)を測定した。
【0058】
以下の表は、充填剤含有量の異なる紙試料を得るためにセルロース懸濁液に充填剤組成物を量を変えて添加したときに得られた結果を示している。試験番号1〜3では充填剤組成物は添加していない。CMC、PAC、およびPAの用量はすべて乾燥GCC充填剤に基づいている。GSMは坪量、MDは機械方向(Machine Direction)、CDは横方向(Cross Direction)を示す。
【表1】
【0059】
上記の表は、本発明によれば、厚さを実質的に維持し、強度特性を実質的に維持または増加させつつ、紙および板紙の充填剤含有量を増加させることが可能であることを示している。
上記の開示によって提供される本願発明の具体例として、以下の発明が挙げられる。
[1] (a) 1以上の充填剤、1以上のアニオン性多糖および1以上のカチオン性剤を混合ゾーン中に導入して充填剤組成物を形成する工程、
(b) 前記充填剤組成物を、セルロース系繊維を含む水性懸濁液の中にポンプで導入する工程、ならびに
(c) 得られた懸濁液を脱水する工程
を含む、紙および板紙の製造方法。
[2] (a) 1以上の充填剤、1以上のアニオン性多糖および1以上のカチオン性剤を混合ゾーン中に導入して充填剤組成物を形成する工程、
(b) 前記充填剤組成物を貯蔵タンクの中にポンプで導入する工程
を含む、充填剤組成物の製造方法。
[3] (i) 製造する紙または板紙の厚み規格を提供する工程、
(ii) 製造されている紙または板紙の厚さを測定する工程、
(iii)測定した厚さを厚み規格と比較して、厚さの差異を識別する工程、および
(iv) 任意選択的に、充填剤組成物の用量を調節して紙または板紙の充填剤含有量を調節することにより、厚さの差異を小さくして厚み規格を満たす紙または板紙を提供する工程
をさらに含む、[1]に記載の方法。
[4] 前記1以上の充填剤および前記1以上のアニオン性多糖を前記混合ゾーン中で混合して充填剤プレミックスを形成する工程、次いで前記1以上のカチオン性剤を前記混合ゾーン中に導入して前記充填剤組成物を形成する工程を含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5] 前記1以上の充填剤および前記1以上のアニオン性多糖を充填剤プレミックスゾーン中で混合して充填剤プレミックスを形成する工程、次いで前記充填剤プレミックスを前記混合ゾーン中に導入する工程を含む、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6] 前記混合ゾーンがポンプ、スタティックミキサーまたは混合タンクである、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7] 前記充填剤プレミックスゾーンがポンプ、スタティックミキサーまたは混合タンクである、[5]に記載の方法。
[8] 前記ポンプが可変ポンプ容量を有する、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の方法。
[9] 前記1以上の充填剤が無機充填剤を含む、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の方法。
[10] 前記1以上の充填剤が、炭酸カルシウム、好ましくは沈降炭酸カルシウムおよび粉砕炭酸カルシウムならびにそれらの混合物から選択される、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の方法。
[11] 前記1以上のアニオン性多糖が、アニオン性デンプン、アニオン性セルロース誘導体およびそれらの混合物、好ましくはセルロース誘導体から選択される、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の方法。
[12] 前記1以上のアニオン性多糖がカルボキシメチルセルロースを含む、[1]〜[11]のいずれか一項に記載の方法。
[13] 前記1以上のアニオン性多糖が0.65までのアニオン性基の置換度を有する、[1]〜[12]のいずれか一項に記載の方法。
[14] 前記1以上のカチオン性剤が2以上のカチオン性剤を含む、[1]〜[13]のいずれか一項に記載の方法。
[15] 前記1以上のカチオン製剤がカチオン性有機ポリマーを含む、[1]〜[14]のいずれか一項に記載の方法。
[16] 前記1以上のカチオン製剤がカチオン性無機化合物、好ましくはポリアルミニウム化合物を含む、[1]〜[15]のいずれか一項に記載の方法。
[17] 第一のカチオン性剤および第二のカチオン性剤をカチオン性剤プレミックスゾーン中で混合してカチオン性剤プレミックスを形成する工程、ならびに前記カチオン性剤プレミックスを前記混合ゾーン中に導入する工程を含む、[1]〜[16]のいずれか一項に記載の方法。
[18] 前記1以上のカチオン性剤が、カチオン性ポリアミン、カチオン性ポリアミドアミン、カチオン性ポリエチレンイミン、カチオン性ジシアンジアミドポリマー、カチオン性アクリルアミド系ポリマー、カチオン性アクリレート系ポリマー、カチオン性ビニルアミン/ビニルホルムアミド系ポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド系ポリマー、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、ポリアルミニウムクロリド、ポリ硫酸アルミニウム、ポリ硫酸ケイ酸アルミニウム、およびこれらの混合物から選択される、[1]〜[17]のいずれか一項に記載の方法。
[19] セルロース系繊維を含む前記水性懸濁液に1以上の濾水歩留剤を脱水前に添加する工程をさらに含む、[1]〜[18]のいずれか一項に記載の方法。
[20] 前記充填剤組成物を前記セルロース懸濁液中に導入する工程、次いで1以上の濾水歩留剤を前記セルロース懸濁液に脱水前に添加する工程を含む、[1]〜[19]のいずれか一項に記載の方法。
[21] 前記1以上の濾水歩留剤がケイ酸質材料、好ましくはシリカ系粒子を含む、[19]または[20]に記載の方法。
[22] 前記1以上の濾水歩留剤が、カチオン性ポリマー、好ましくはカチオン性アクリルアミド系ポリマーを含む、[19]〜[21]のいずれか一項に記載の方法。
[23] 前記1以上の濾水歩留剤が、アニオン性ポリマー、好ましくはアニオン性アクリルアミド系ポリマーを含む、[19]〜[22]のいずれか一項に記載の方法。