【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明の実施の形態を説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
【0042】
<実施例1〜6および16〜29、比較例1、2についての測定法>
1A.蛋白質粒子粒子径(平均粒子径):
フィブリノゲン凍結乾燥粉末を乳鉢で粉砕したものを、デジタルマイクロスコープ(キーエンス株式会社:商品名「VHX-100」)により、倍率1000倍で撮影して得た写真から無作為に10個の粒子を選んで直径を測定し、平均値を平均粒子径とした。
2A.平均繊維径:
得られた繊維成形体の表面を走査型電子顕微鏡(キーエンス株式会社:商品名「VE8800」)により、倍率3000倍で撮影して得た写真から無作為に20箇所を選んで繊維の径を測定し、すべての繊維径の平均値を求めて平均繊維径とした。n=20である。
3A.平均厚み:
得られた繊維成形体を高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ:商品名「ライトマチックVL−50」)を用いて測定力0.01Nによりn=15にて繊維成形体の膜厚を測定した平均値を算出した。なお、本測定においては測定機器が使用可能な最小の測定力で測定を行った。
4A.目付:
得られた繊維成形体を、50mm×100mmにカットし、その重量を測定し、換算することで目付けを算出した。
5A.嵩密度
上記測定した目付と平均厚みの値から嵩密度を算出した。
6A.溶解テスト:得られた繊維成形体を、1cm×1cmにカットし、生理食塩水15μLを添加し、溶解性を確認した。
7A.ELISA測定
【0043】
(1)フィブリノゲン
ELISAプレート(NUNC 468667)に抗ヒトフィブリノゲン抗体(DAKO A0080)を10μg/mLで固定化した。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル UK−B80)を各ウェルに添加し、マスキングした。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、検体を添加した。標準品としてヒトフィブリノゲン(Enzyme Research Laboratories No.FIB3)を用い、検量線を作成した。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、HRP標識抗ヒトフィブリノゲン抗体(CPL5523)を添加し、反応後、0.05%Tween20を含むPBSで洗浄し、TMB試薬(KPL 50−76−02 50−65−02)を添加し、6分間静置して発色させた。1M H
3PO
4を加え、発色を停止し、マイクロプレートリーダーでOD450−650nmを測定した。
【0044】
(2)トロンビン
ELISAプレート(NUNC 468667)に抗ヒトトロンビン抗体(Affinity Biological社、No.SAHT−AP)を5μg/mLで固定化した。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル UK−B80)を各ウェルに添加し、マスキングした。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、検体を添加する。標準品としてヒトトロンビン(ヘマトロジックテクノロジー社:HCT−0020)を用い、検量線を作成した。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、HRP標識抗ヒトトロンビン抗体((Affinity Biological社、No.SAHT−HRP)を0.1μg/mLで添加した。反応後、0.05%Tween20を含むPBSで洗浄し、TMB試薬(DaKo S1599)を添加し、10分間静置して発色させた。0.5M H
2SO
4を加え、発色を停止し、マイクロプレートリーダーでOD450−650nmを測定した。
8A.トロンビン活性測定
ファルコン社製2008チューブに試料20μLと50mM Tris−HCl (pH8.5)+50mM NaClバッファー60μL、0.1% PLURONIC F−68を20μL加え、37℃で3分インキュベーションした。標準品としてヒトプラズマ由来精製α―トロンビン(ヘマトロジックテクノロジー社から購入:HCT−0020)を同バッファーで5、2.5、1.25、0.625、0.3125U/mLに希釈したものを用いた。その反応液にテストチーム発色基質S−2238(1mM:第一化学薬品工業)を100μL添加して攪拌混合し、37℃で5分間の反応後、0.1Mクエン酸溶液を800μL加えて反応を停止した。反応液200μLを96ウェルプレートに移し、OD405/650を測定した。
【0045】
実施例1
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(ボルヒール(登録商標、以下同じ)組織接着用:バイアル1)を乳鉢で粉砕し、平均粒子径が14μmの粉砕フィブリノゲン凍結乾燥粉末を作製した。エタノールにこの粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、10wt%になるようにポリビニルピロリドン(K90 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ポリビニルピロリドン=100/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は13.5kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.51μm、平均厚みは285μm、目付は2.35mg/cm
2、嵩密度は82mg/cm
3であった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ、1秒以内に溶解した。また、得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断して、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定を実施した。結果、固定化蛋白質量は0.54mg/cm
2であった。得られたシートはハサミでトリミングが可能であった。
【0046】
実施例2
エタノールに実施例1で粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、10wt%になるようにポリビニルピロリドン(K90 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ポリビニルピロリドン=100/200(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は17kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.33μm、平均厚みは469μm、目付は5.28mg/cm
2、嵩密度は113mg/cm
3であった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ、1秒以内に溶解した。また、得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断し、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定を実施した。結果、固定化蛋白質量は1.61mg/cm
2であった。得られたシートはハサミでトリミングが可能であった。
【0047】
実施例3
2−プロパノールに実施例1で粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、16wt%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=20/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は11kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.86μm、平均厚みは137μm、目付は1.59mg/cm
2、嵩密度は116mg/cm
3であった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ1秒以内に溶解した。また、得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断し、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定を実施した。結果、固定化蛋白質量は0.17mg/cm
2であった。得られたシートはハサミでトリミングが可能であった。
【0048】
比較例1
1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/MINIMUM ESSENTIAL MEDIUM EAGLE(シグマアルドリッチ社製)10×(9/1=v/v)に実施例1で粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を15w/v%になるように溶解させた。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は23.5kV、紡糸液流量は2.45mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は12cmであった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ溶解しなかった。
【0049】
比較例2
フィブリノゲン溶解液にフィブリノゲン凍結乾燥粉末(いずれもボルヒール組織接着用に含まれる)を溶解させた後、16wt%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=20/100(w/w)の紡糸液を調製したが、ヒドロキシプロピルセルロースとフィブリノゲンが相分離し、フィブリノゲンが析出し、エレクトロスピニングを行うことができなかった。
【0050】
実施例4
2−プロパノールに実施例1で粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、16wt%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=40/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12.5kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.43μm、平均厚みは152μm、目付は1.86mg/cm
2、嵩密度は122mg/cm
3であった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ1秒以内に溶解した。また、得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断し、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定を実施した。結果、固定化蛋白質量は0.30mg/cm
2であった。得られたシートはハサミでトリミングが可能であった。
【0051】
実施例5
2−プロパノールに実施例1で粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、16wt%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=100/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12.5kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.35μm、平均厚みは191μm、目付は2.74mg/cm
2、嵩密度は143mg/cm
3であった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ1秒以内に溶解した。また、得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断し、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定を実施した。結果、固定化蛋白質量は0.51mg/cm
2であった。得られたシートはハサミでトリミングが可能であった。
【0052】
実施例6
<脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層の作製>
エタノールに実施例1と同様に乳鉢で粉砕したトロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10wt%になるようにポリ乳酸(PL18 Purac Biomaterial製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリ乳酸=100/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は15kV、紡糸液流量は3.0mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。得られたシートを2cm×2cmに切断し、1mLの生理食塩水で蛋白質を抽出して活性・ELISA測定を実施した。結果、活性測定値は23U/cm
2、ELISA測定値は16μg/cm
2であった。
【0053】
<組織接着効果評価試験>
フィブリノゲンの活性を確認するために、実施例5で作製した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と実施例6で作製した脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層の組み合わせで接着試験を行った。接着力はウサギの皮と当該シート(2cm×2cm)を接着させ、フィブリンゲルが形成され、接着しているか確認した。この際、重ねたシートには事前に200μLの水を水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層に添加し、40秒経過後に水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層をウサギの皮に貼付した。その後、37℃で3分間静置後、皮とシートとの接着性を確認した。対照としてフィブリン接着材の成分が固定化されたコラーゲンシート製剤(製品名:タココンブ/CSLベーリング(株)):フィブリノゲンおよびトロンビン等の成分が、スポンジ状のウマコラーゲンのシートを支持体とし、シートの片面に真空乾燥により固着されたもの:2cm×2cm)を使用した。その結果、評価対象のシートは、比較対照のコラーゲンシート製剤以上の接着力を示した。
【0054】
<考察>
比較例1で1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/MINIMUM ESSENTIAL MEDIUM EAGLE 10×(9/1=v/v)を用いたのは、フィブリノゲン凍結乾燥粉末からエレクトロスピニング法による繊維成形体製造を可能にするためである。フィブリノゲンは水性溶媒に溶解することが困難なため、このフィブリノゲン凍結乾燥粉末にはフィブリノゲンの溶解性を増すための添加剤が含まれている。この比較例1ではかかるフィブリノゲン凍結乾燥粉末をそのまま用いているにもかかわらず、それを繊維成形体としたとき、そこからのフィブリノゲン溶出はみられなかった。
これに対し、実施例1−5にあるように、フィブリノゲンを平均粒子径0.01〜100μmの粒子とし、その分散液を経てそれを水およびエタノールに溶解性のポリマーに含有させる形態とすることで、1秒以内の溶解が達成されたのである。また、実施例6からは、本発明のシート成形体においては、止血性蛋白質の生理活性は保持されていることがわかる。
一方、比較例2では、国際公開WO2009/031620号に倣い、ボルヒールのフィブリノゲン凍結乾燥粉末をそのフィブリノゲン溶解液に溶解し、それを水溶性セルロース誘導体溶液と混合する方法を試みたが、均一な組成物を得ることができなかった。
【0055】
<実施例7〜13についての測定法>
1B.紡糸用ドープ中のフィブリノゲン、トロンビン、およびフィブリンの分散性:
脂肪族ポリエステル添加直前のフィブリノゲン、トロンビン、およびフィブリンの分散液を目視により観察し、これらの蛋白質の分散性を確認した。
2B.繊維成形体の厚み:1Aと同じ方法により測定した。
3B.繊維径(平均繊維径):2Aと同じ方法により測定した。
4B.シートの取り扱い性:
得られた繊維成形体が容易に取り扱い可能であるかを定性的に評価した。
【0056】
実施例7
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル1)を、ジェットミル(株式会社セイシン企業:商品名「超微少量ラボジェットミル」)を用いて微粒化した。これをエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたフィブリノゲン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリ乳酸を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリ乳酸溶液のポリ乳酸濃度は10重量%、フィブリノゲン凍結乾燥粉末濃度は4重量%(フィブリノゲンとして1.8重量%)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリ乳酸添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリ乳酸溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は3.3μm、厚さは161μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。なお、上記エタノールの代わりにジクロロメタンを用いた場合(実施例14)には得られた繊維成形体の取り扱い性に低下が認められ、この観点ではエタノールがより好ましいものと考えられた。
【0057】
実施例8
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)をエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたトロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリ乳酸を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリ乳酸溶液のポリ乳酸濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は4重量%(トロンビンとして0.045重量%)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリ乳酸添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリ乳酸溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は6.2μm、厚さは170μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。なお、上記エタノールの代わりにジクロロメタンを用いた場合(実施例15)には得られた繊維成形体の取り扱い性に低下が認められ、この観点ではエタノールがより好ましいものと考えられた。
【0058】
実施例9
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)をエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたトロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリ乳酸を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリ乳酸溶液のポリ乳酸濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は7重量%(トロンビンとして0.078重量%)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリ乳酸添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリ乳酸溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は8.1μm、厚さは175μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。
【0059】
実施例10
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)をエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたトロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリ乳酸を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリ乳酸溶液のポリ乳酸濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は10重量%(トロンビンとして0.11重量%)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリ乳酸添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリ乳酸溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は9.4μm、厚さは210μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。
【0060】
実施例11
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)をエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたトロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体(Purasorb PDLG5010、Purac社製)を添加してポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体溶液のポリマー濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は5重量%(トロンビンとして0.06重量%)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は15kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は4.8μm、厚さは330μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。
【0061】
実施例12
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)を2−プロパノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたトロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体(Purasorb PDLG5010、Purac社製)を添加してポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体溶液のポリマー濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は5重量%(トロンビンとして0.06重量%)、2−プロパノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は15kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は6.4μm、厚さは320μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。
【0062】
実施例13
エタノールにトロンビン凍結乾燥粉末(リコンビナントトロンビン1mg/mL、3.4%塩化ナトリウム、1.2%クエン酸ナトリウム、0.29%塩化カルシウム、1%マンニトールpH7を凍結乾燥したもの)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10重量%になるようにポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体(Purasorb PDLG5010、Purac社製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体=100(トロンビンとして1.67)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度26℃、湿度29%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は20V、紡糸液流量は4.0mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は35cmであった。得られた繊維成形体の厚さは136μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。得られたシートのトロンビン溶出性を溶出試験により確認した。試験方法は以下に示す通りである。
【0063】
<溶出試験>
(1)試料を直径6mmの大きさに打ち抜き、質量を測定した。
(2)試料をマイクロチューブに入れ、HPC含有生理食塩水、又は生理食塩水にて溶出試験を実施した。
(3)サンプリング時間は10、30、60、120秒とする。
(4)サンプリングした試料を液体クロマトグラフィーにより測定を行い、ピーク面積からトロンビン含量を求めた。
(5)溶出率を下記の式より求めた。
溶出率(%)=得られたトロンビン含量/理論固定化トロンビン含量×100
理論固定化トロンビン含量は、仕込んだトロンビン重量%と繊維成形体の目付け から算出した。
溶出試験の結果を
図1に示す。HPC含有生理食塩水では、生理食塩水よりも溶出率が向上した。これより、本発明の積層シート成形体において、シート中にHPCを含有させることがトロンビンの溶出率の向上に寄与していることがわかった。
【0064】
<実施例14〜15、比較例3〜4についての測定法>
1C.止血性蛋白質粒子粒子径(平均粒子径):
紡糸溶液をデジタルマイクロスコープ(キーエンス株式会社:商品名「VHX-100」)により、倍率1000倍で撮影して得た写真から無作為に10個の粒子を選んで直径を測定し、平均値を平均粒子径とした。
2C.繊維成形体の厚み:1Aと同じ方法により測定した。
3C.繊維径(平均繊維径):2Aと同じ方法により測定した。
4C.止血性蛋白質の溶出試験:
得られた繊維成形体を2cm×2cmに切り出し、1mLの生理食塩水に3分間もしくは3時間浸漬して水溶性成分を溶出させた。n=3〜6にて前後の重量変化を測定し、以下の式により算出した抽出率の平均値を求めた。水溶性成分理論重量は、仕込み止血性蛋白質重量%と繊維成形体の目付けから算出した。
抽出率[%]=(重量減少[mg]/水溶性成分理論重量[mg])×100
5C.止血性蛋白質の担持性試験:
得られた繊維成形体を1cm×1cmに切り出し、これを鋏でおよそ4分割となるように切り分けた。前後の重量を測定し、重量変化を算出した。
重量変化[%]=(分割後の重量[mg]/分割前の重量[mg])×100
6C.繊維成形体の柔軟性試験:
(JIS−L−1906 8.19.2 B法)スライド法を参考とし、試験片の大きさを0.5cm×3.5cmとして、以下の手順により柔軟性測定を行った。試験機本体と移動台の上面が一致するようにしてから、幅0.5cm分をカバーガラスと試験機本体とで挟み込み形で試験片を設置した。移動台を降下させ、試験片の自由端が移動台から離れるときの降下長さδ値をスケールから算出した(δ値が大きいほど柔軟性が高い)。
【0065】
実施例14
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル1)を、ジェットミル(株式会社セイシン企業:商品名「超微少量ラボジェットミル」)を用いて微粒化した。これをジクロロメタン(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施することでフィブリノゲン分散液を調製した。L体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液のポリマー濃度は10重量%、フィブリノゲン凍結乾燥粉末濃度は4重量%(フィブリノゲンとして1.8重量%)となるように調製した。紡糸溶液中に分散したフィブリノゲンの粒子径は12μmであった。得られたポリマー溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は14.9μm、厚さは325μmであった。シート重量と仕込み比から算出した、シートに含まれるフィブリノゲン量は0.43 mg/cm
2であった。3時間浸漬後の抽出率は40%であった。担持性試験における重量変化はなかった(100%保持)。柔軟性試験から得られたδ値は2.7cmであった。
【0066】
実施例15
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒールバイアル3)(凍結乾燥粉末40mg中に1.12%のトロンビン(750unit)を含む。)をジクロロメタン(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施することでトロンビン分散液を調製した。L体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液のポリマー濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は4重量%(トロンビンとして0.045重量%または750ユニット(U)/g)となるように調製した。紡糸溶液中に分散したトロンビンの粒子径は9μmであった。得られたポリマー溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は16.6μm、厚さは291μmであった。シート重量と仕込み比から算出した、シートに含まれるトロンビン量は31.39U/cm
2であった。
【0067】
比較例3
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)をエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、トロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液のポリマー濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は4重量%(トロンビンとして0.045重量%または750U/g)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。紡糸溶液中に分散したトロンビンの粒子径は12μmであった。このポリマー溶液を風乾し、固体状態とした。繊維成形体と同様に溶出試験を行った結果、3分間浸漬後に約3%の水溶性成分が抽出された。
【0068】
比較例4
繊維成形体として、ポリグリコール酸系不織布であるネオベール(登録商標、グンゼ株式会社製)を用い、以下の手順でフィブリノゲン固定化シートを作製した(凍結乾燥法)。市販の生体組織接着材(製品名:ボルヒール:一般財団法人化学及血清療法研究所製)のキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上記の繊維成形体(5×5cm
2)上に染み込ませた。この検体を凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。担持性試験において、担持していたフィブリノゲンが崩壊し粉末として損失した(重量変化89%)。柔軟性試験から得られたδ値は0.7cmであった。
【0069】
<実施例16〜29についての測定法>
1D.蛋白質粉末粒子径(平均粒子径)
フィブリノゲン凍結乾燥粉末を乳鉢で粉砕をしたものを、レーザー回折式粒度分布測定装置(Malvern:商品名「Master sizer2000」)により粒度分布を測定し、D50値(メディアン径)を平均粒子径とした。
2D.フィブリノゲン含量測定
得られたシートはΦ0.5cmに切り出した後、0.1%TFA溶液によりフィブリノゲンを抽出し、高速液体クロマトグラフィーで定量した。
【0070】
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:214nm)
カラム:Agilent Bio SEC−3(3μm、30nm、4.6×300mm、Agilent Technologies)
カラム温度:35℃
サンプラー温度:5℃
移動相:0.1%TFA含有水/0.1%TFA含有アセトニトリル=50/50
流量:0.5mL/min
分析時間:10min
【0071】
実施例16
<水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体の作製>
2−プロパノールにフィブリノゲン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル1)を分散させた後、16重量%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s、和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=100(フィブリノゲンとして46)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12.5kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.35μm、平均厚みは191μm、目付は2.74mg/cm
2、嵩密度は143mg/cm
3であった。得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断し、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定(「7A.ELISA測定(1)フィブリノゲン」に記載の方法)を実施した。その結果、固定化蛋白質量は0.51mg/cm
2であった。
【0072】
実施例17
<脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の作製>
エタノールにトロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10重量%になるようにポリ乳酸(PL18 Purac Biomaterial製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリ乳酸=100(トロンビンとして1.1)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は15kV、紡糸液流量は3.0mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は25cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は9.37μm、平均厚みは210μm、目付は3.15mg/cm
2、嵩密度は150mg/cm
3であった。得られたシートを2cm×2cmに切断し、1mLの生理食塩水で蛋白質を抽出して活性(「8A.トロンビン活性測定」に記載の方法)・ELISA測定(「7A.ELISA測定(2)トロンビン」に記載の方法)を実施した。その結果、活性測定値は23.0U/cm
2、ELISA測定値は、16μg/cm
2であった。
【0073】
実施例18
<積層シート成形体の組織接着効果評価試験>
実施例16で作製した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体と実施例17で作製した脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の組み合わせで使用した場合の効果を確認するために、接着力の比較を行った。接着力はウサギの皮と当該シート(2cm×2cm)を接着させ、フィブリンゲルが形成され、接着しているか確認した。この際、重ねたシートには事前に200μLの水を水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体に添加し、40秒経過後に水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体をウサギの皮に貼付した。その後、37℃で3分間静置後、皮とシート成形体との接着性を確認した。対照としてフィブリン接着材の成分が固定化されたコラーゲンシート製剤(製品名:タココンブ/CSLベーリング(株)):フィブリノゲンおよびトロンビン等の成分が、スポンジ状のウマコラーゲンのシートを支持体とし、シートの片面に真空乾燥により固着されたもの:2cm×2cm)を使用した。その結果、本発明の積層シート成形体は比較対照のコラーゲンシート製剤以上の接着力を示した。
【0074】
実施例19
<水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体の作製>
2−プロパノールにフィブリノゲン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル1)を分散させた後、16重量%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=100(フィブリノゲンとして46)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12.5kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.35μm、平均厚みは191μm、目付は2.74mg/cm
2、嵩密度は143mg/cm
3であった。得られたシートを20kGyで電子線滅菌した。滅菌したシートを0.5cm×0.5cmに切断して、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定(「7A.ELISA測定(1)フィブリノゲン」に記載の方法)を実施した。その結果、固定化蛋白質量は0.78mg/cm
2であった。
【0075】
実施例20
<脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の作製>
エタノールにトロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10重量%になるようにポリ乳酸(PL18 Purac Biomaterial製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリ乳酸=100(トロンビンとして1.1)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は15kV、紡糸液流量は3.0mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は25cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は9.37μm、平均厚みは210μm、目付は3.15mg/cm
2、嵩密度は150mg/cm
3であった。得られたシート成形体を20kGyで電子線滅菌した。得られたシート成形体を2cm×2cmに切断し、1mLの生理食塩水で蛋白質を抽出して活性(「8A.トロンビン活性測定」に記載の方法)・ELISA測定(「7A.ELISA測定(2)トロンビン」に記載の方法)を実施した。その結果、活性測定値は14.7U/cm
2、ELISA測定値は11.4μg/cm
2であった。
【0076】
実施例21
<ウサギ肝臓滲出性出血に対する止血効果>
実施例19で作製した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体と実施例20で作製した脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の組み合わせで使用した場合の止血効果を、タココンブを使用した場合の止血効果と比較した。
動物の止血モデルとしてはウサギを用いた。ウサギを開腹し、肝臓の一部を切除して、その出血部位に対して、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体を重ねて適用し、その止血効果(止血の有無、出血量)をみた。試験方法は以下に示す通りである。
(1)セラクタール10mg/kg(約1.0mL)ケタラール50mg/kg(約3.0mL)を筋肉内投与した。
(2)体重を測定し、腹部を剃毛後、仰臥位にて保定した。
(3)耳静脈より持続麻酔(2%ケタラール、20U/mLヘパリン添加生理食塩水)を行った。
(4)胸骨剣状突起直下から下腹部までを正中切開により開腹した。
(5)ヘパリンナトリウム注射液を耳静脈より300U/kg投与した。
(6)腸用ピンセットやガーゼなどを用いて創傷作製に十分な厚みのある肝葉(外側左葉、内側左葉、右葉)を引き出した。
(7)肝葉に皮ポンチで直径10mm、深さ4mmの創傷を作り、その部分をメスで切除した。
(8)切除創からの出血を10秒間、ベンシーツに吸収してその重量を測定した。創傷部出血が0.5g以上の傷を試験に使用した。
(9)創傷部位に2.5cm角に切断した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を重ねて、出血部位に水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層を適用し、1分間圧迫した。対照として用いるタココンブの場合は、2.5cm角に切断した後に生理食塩水を312.5μL滴下し、出血部位に適用し、1分間圧迫した。
(10)圧迫後、出血の有無および創傷部位からの出血をベンシーツに吸収して、その重量を測定した。
その結果、本発明の積層シート成形体を用いた場合、止血し(n=1)、適用後1分間の出血量は0.003gと極めて微量であった。一方、対照として用いたタココンブの場合(n=5)、適用後1分間の出血量は1.57gと止血効果は不十分であり、出血量が多かった。
【0077】
実施例22
<脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の作製>
エタノールにトロンビン凍結乾燥粉末(リコンビナントトロンビン1mg/mL、3.4%塩化ナトリウム、1.2%クエン酸ナトリウム、0.29%塩化カルシウム、1%マンニトールpH7を凍結乾燥したもの)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10重量%になるようにポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体(Purasorb PDLG5010、Purac社製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体=100(トロンビンとして1.67)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は20kV、紡糸液流量は4.0mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は35cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は3.8μm、平均厚みは127μm、目付は1.38mg/cm
2、嵩密度は109mg/cm
3であった。得られたシート成形体をΦ1cmに切り出し、200μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してトロンビン活性測定(「8A.トロンビン活性測定」に記載の方法)を実施した。その結果、活性測定値は18.3U/cm
2であった。
【0078】
実施例23
<水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体の作製>
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(リコンビナントフィブリノゲン10mg/mL、10mMアルギニン、130mM塩化ナトリウム、0.5%マンニトール pH8.5を凍結乾燥したもの)を乳鉢で粉砕し、平均粒子径が30μmの粉砕フィブリノゲン凍結乾燥粉末を作製した。2−プロパノールにこの粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、15重量%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(2.0−2.9mPa・s 日本曹逹製)およびマクロゴール(分子量:400 三洋化成工業製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース/マクロゴール=51(フィブリノゲンとして25.92)/34/15(w/w/w)のドープ液を調製した。得られたドープ液を用い、流延法によりフィルムを作製した。塗工間隔は127μmで、塗工速度は30.1mm/secであった。フィルム作製後、1分以内に実施例22で作製した脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を上部から積載することで水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を得た。得られた積層シート成形体の平均膜厚は157μmであった。得られた積層シート成形体を20kGyで電子線滅菌した。得られた積層シート成形体をΦ1cmに切り出し、200μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してフィブリノゲンのELISA測定(「7A.ELISA測定(1)フィブリノゲン」に記載の方法)を実施した。結果、固定化蛋白質量は0.58mg/cm
2であった。
【0079】
実施例24
<ウサギ肝臓滲出性出血に対する止血効果>
実施例23で作製した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体の止血効果を、タコシールを使用した場合の止血効果と比較した。
動物の止血モデルとしてはウサギを用いた。ウサギを開腹し、肝臓の一部を切除し、その出血部位に対して、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を適用し、その止血効果(止血の有無、出血量)をみた。試験方法は実施例21に記載の方法と同じである。
その結果、本発明の積層シート成形体を用いた場合(n=4)、適用後1分間の出血量は0.003gと極めて微量であった。一方、対照として用いたタコシールの場合(n=4)、適用後1分間の出血量は0.65gと止血効果は不十分であり、出血量が多かった。
【0080】
実施例25
<脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の作製>
エタノールにトロンビン凍結乾燥粉末(リコンビナントトロンビン1mg/mL、3.4%塩化ナトリウム、1.2%クエン酸ナトリウム、0.29%塩化カルシウム、1%マンニトールpH7を凍結乾燥したもの)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10重量%になるようにポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体(Purasorb PDLG5010、Purac社製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体=100(トロンビンとして1.67)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は20kV、紡糸液流量は4.0mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は35cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は2.97μm、平均厚みは137μm、目付は1.49mg/cm
2、嵩密度は108mg/cm
3であった。
【0081】
実施例26
<水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体の作製>
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(リコンビナントフィブリノゲン10mg/mL、10mMアルギニン、130mM塩化ナトリウム、0.5%マンニトール pH8.5を凍結乾燥したもの)を乳鉢で粉砕し、平均粒子径が30μmの粉砕フィブリノゲン凍結乾燥粉末を作製した。2−プロパノールにこの粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、2.9重量%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(2.0−2.9mPa・s 日本曹逹製)およびマクロゴール(分子量:400 三洋化成工業製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース/マクロゴール=90(フィブリノゲンとして36.98)/7/3(w/w/w)のドープ液を調製した。得られたドープ液を用い、流延法によりフィルムを作製した。塗工間隔は50.8μmで、塗工速度は30.1mm/secであった。フィルム作成後、1分以内に実施例25で作製した脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を上部から積載することで、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を得た。得られた積層シート成形体の平均膜厚は169μmであった。得られた積層シート成形体をΦ0.5cmに切り出し、0.1%TFA溶液でフィブリノゲンを抽出して高速液体クロマトグラフィーにより定量(「2D.フィブリノゲン含量測定」記載の方法)した。その結果、固定化蛋白質量は0.54mg/cm
2であった。
【0082】
実施例27
<ウサギ肝臓滲出性出血に対する止血効果>
実施例26で作製した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体の止血効果を、タコシールを使用した場合の止血効果と比較した。
動物の止血モデルとしてはウサギを用いた。ウサギを開腹し、肝臓の一部を切除し、その出血部位に対して水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を適用し、その止血効果(止血の有無、出血量)をみた。試験方法は実施例21に記載の方法と同じである。
その結果、本発明の積層シート成形体を用いた場合(n=6)、適用後1分間の出血量は0.003gと極めて微量であった。一方、実施例24に示したように対照として用いたタコシールの場合(n=4)、適用後1分間の出血量は0.65gと止血効果は不十分であり、出血量が多かった。
【0083】
実施例28
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(リコンビナントフィブリノゲン10mg/mL、10mMアルギニン、110mM塩化ナトリウム、1%グリシン、0.2%マンニトール、0.25%フェニルアラニン、0.4%ヒスチジン、0.1%クエン酸3ナトリウム pH8.5を凍結乾燥したもの)を乳鉢で粉砕し、平均粒子径が22μmの粉砕フィブリノゲン凍結乾燥粉末を作製した。2−プロパノールにこの粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、4.2重量%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(2.0−2.9mPa・s 日本曹逹製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース/=90(フィブリノゲンとして26.55)/10(w/w)のドープ液を調製した。得られたドープ液を用い、流延法によりフィルムを作製した。塗工間隔は101.6μmで、塗工速度は30.1mm/secであった。フィルム作成後、3分以内に実施例25に記載の方法で作製したトロンビン凍結乾燥粉末/ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体=20/100、40/100、60/100、80/100、100/100の比率のシート状繊維成形体を上部から積載することで、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を得た。これらの積層シート成形体の止血効果をラットoozingモデル薬効評価(ラット肝臓に創傷をつけた滲出血モデルを用いて試験を実施した。被験シート成形体を創傷部に一定時間(本実施例では5分間)圧迫し、その後1分間出血の有無を目視にて評価。)で確認した。試験はn=6で実施し、出血の有無を確認した。
その結果、表1に示すように、評価したトロンビン凍結乾燥粉末/ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体の比率、20/100〜100/100の範囲において、いずれもタコシールを上回る止血効果が確認された。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例29
実施例25に記載の方法で、トロンビン含量の異なるシート状繊維成形体を得た(トロンビン含量0.23U/cm
2、2.8U/cm
2、11.4U/cm
2、28.5U/cm
2)。ついで実施例26に記載の方法でフィブリノゲン含量が一定の水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を得た。得られたフィブリノゲン含量が一定でトロンビン含量の異なる積層シート成形体を用いて、トロンビン含量の接着力に及ぼす影響を評価した。試験方法は下記に示す通りである。
(1)積層シート成形体及び陽性対照製剤(タコシール)(1cm×1cm)をプラスチック製四角柱の底部(1cm×1cm)に両面テープで接着させた。
(2)積層シート成形体及び陽性対照製剤(タコシール)を1mLの生理食塩水に10秒間浸し、ラワン板に密着させた。
(3)四角柱の上から100gの加重を5分間かけた。
(4)四角柱を30mm/min.の速度で牽引し、デジタルフォースゲージにて張力を測定した。
試験はn=5で実施し、張力平均値を接着力(g)として評価した。その結果、表2に示すように、いずれの積層シート成形体もタコシールよりも高い接着力を示した。
【0086】
【表2】
【0087】
実施例30
実施例25に記載の方法で、脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体を得た(トロンビン含量24.2U/cm
2)。このシート成形体の止血効果を実施例28に記載の方法(圧迫時間は3分間)で確認した。試験はn=6で実施した。その結果、6/6で止血が確認された。
【0088】
実施例31
実施例25に記載の方法で脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体(トロンビン含量範囲:19〜26U/cm
2)を得て、ついで実施例26に記載の方法で、水溶性ポリマーおよび含量が異なるフィブリノゲンからなる層と、脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を得た。得られたトロンビン含量が一定範囲内でフィブリノゲン含量の異なる積層シート成形体の止血効果を実施例28に記載の方法で確認した。その結果、表3に示すように、いずれのフィブリノゲン含量でも高い止血効果が確認されたが1.47mg/cm
2の場合やや効果が低下した。
【0089】
【表3】