特許第5844894号(P5844894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5844894-シート成形体および止血材 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5844894
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】シート成形体および止血材
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/00 20060101AFI20151224BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20151224BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20151224BHJP
   A61K 38/48 20060101ALI20151224BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20151224BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20151224BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20151224BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   A61L25/00 A
   A61L15/03
   A61K37/465
   A61K37/547
   A61K47/38
   A61K47/34
   A61K47/32
   A61P7/04
【請求項の数】20
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-515699(P2014-515699)
(86)(22)【出願日】2013年5月13日
(86)【国際出願番号】JP2013063872
(87)【国際公開番号】WO2013172472
(87)【国際公開日】20131121
【審査請求日】2014年11月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-110392(P2012-110392)
(32)【優先日】2012年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-110393(P2012-110393)
(32)【優先日】2012年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-110394(P2012-110394)
(32)【優先日】2012年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-3273(P2013-3273)
(32)【優先日】2013年1月11日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-110391(P2012-110391)
(32)【優先日】2012年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173555
【氏名又は名称】一般財団法人化学及血清療法研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(74)【代理人】
【識別番号】100109287
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 泰三
(72)【発明者】
【氏名】景山 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】藤永 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 鮎子
(72)【発明者】
【氏名】秋山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】大野 晃稔
(72)【発明者】
【氏名】本多 勧
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 真
(72)【発明者】
【氏名】兼子 博章
(72)【発明者】
【氏名】今村 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】川村 亮一
(72)【発明者】
【氏名】平嶋 正樹
【審査官】 牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−290610(JP,A)
【文献】 特開2012−087122(JP,A)
【文献】 特開2010−069031(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/028244(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/037760(WO,A1)
【文献】 特表2002−513645(JP,A)
【文献】 特表2008−516735(JP,A)
【文献】 特開2009−183649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00− 33/00
A61K 37/00− 37/66
C08L 1/00−101/14
D01F 1/00− 6/96
D01F 9/00− 9/04
D01F 8/00− 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリノゲンおよびトロンビンよりなる群から選ばれる少なくとも一種の蛋白質と、脂肪族ポリエステルおよび水溶性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種の繊維状のポリマーを含有してなりそして該蛋白質の少なくとも一部分が該ポリマー内部に入り込んでいるポリマー組成物のシート成形体。
【請求項2】
脂肪族ポリエステルおよび水溶性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のポリマーが、セルロース誘導体、N−ビニル環状ラクタム単位を有するポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸、デキストラン、プルラン、デンプン、およびそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項1に記載のシート成形体。
【請求項3】
脂肪族ポリエステルおよび水溶性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のポリマーが、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウム カルボキシメチルセルロース、およびそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項1に記載のシート成形体。
【請求項4】
脂肪族ポリエステルおよび水溶性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のポリマーが、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、およびそれらの共重合体、ならびにそれらの混合物からなる群から選ばれるものである、請求項1に記載のシート成形体。
【請求項5】
シート成形体がフィルム成形体または繊維成形体である請求項1から4のいずれかに記載のシート成形体。
【請求項6】
フィブリノゲンと水溶性ポリマーを含有してなりそしてフィブリノゲンの少なくとも一部分が該水溶性ポリマー内部に入り込んでいる第1ポリマー組成物層およびトロンビンと繊維状の脂肪族ポリエステルを含有してなりそしてトロンビンの少なくとも一部分が該脂肪族ポリエステル内部に入り込んでいる第2ポリマー組成物層を含有してなる積層シート成形体。
【請求項7】
水溶性ポリマーがセルロース誘導体、N−ビニル環状ラクタム単位を有するポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸、デキストラン、プルラン、デンプン、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項6に記載の積層シート成形体。
【請求項8】
水溶性ポリマーがヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウム カルボキシメチルセルロース、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項6に記載の積層シート成形体。
【請求項9】
脂肪族ポリエステルがポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、およびそれらの共重合体、ならびにそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項6から8のいずれかに記載の積層シート成形体。
【請求項10】
第1のポリマー組成物層が、血液凝固第XIII因子、アルブミン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、フェニルアラニン、ヒスチジン、界面活性剤、塩化ナトリウム、糖アルコール、トレハロース、クエン酸ナトリウム、アプロチニンおよび塩化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の添加剤を含む、請求項6から9のいずれかに記載の積層シート成形体。
【請求項11】
第1のポリマー組成物層がフィルム成形体または繊維成形体からなる請求項6から10のいずれかに記載の積層シート成形体。
【請求項12】
第1のポリマー組成物層がフィルム成形体からなる請求項6から10のいずれかに記載の積層シート成形体。
【請求項13】
フィルム成形体中の水溶性ポリマーの含量が0.1〜50重量%である請求項12に記載の積層シート成形体。
【請求項14】
フィルム成形体がフィブリノゲンを0.05〜10mg/cm含む請求項12または13に記載の積層シート成形体。
【請求項15】
第2ポリマー組成物層が繊維成形体からなる請求項6から14のいずれかに記載の積層シート成形体。
【請求項16】
脂肪族ポリエステルおよび水溶性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のポリマー中に、フィブリノーゲンまたはフィブリノーゲンと添加剤との混合物および/またはトロンビンまたはトロンビンと添加物の混合物が蛋白質粒子として分散して存在している請求項6〜15のいずれかに記載の積層シート成形体。
【請求項17】
止血性蛋白質がトロンビンである請求項16に記載の積層シート成形体。
【請求項18】
蛋白質粒子と脂肪族ポリエステルの重量比が10:10〜100である請求項17に記載の積層シート成形体。
【請求項19】
請求項1から5のいずれかのシート成形体または請求項6から18のいずれかの積層シート成形体からなる止血材。
【請求項20】
請求項1から5のいずれかのシート成形体または請求項6から18のいずれかの積層シート成形体からなる組織接着材または組織閉鎖材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート成形体およびそれからなる止血材に関する。さらに詳しくは、フィブリノゲンおよび/またはトロンビンを含有し、これらの止血性蛋白質の溶出性および担持性が良好で止血性に優れたシート成形体およびそれからなる止血材に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリノゲンは、血液凝固カスケードの最終段階に存在する凝固因子である。血管が損傷を受けると凝固系の活性化が生じ、最終的に活性化されたトロンビンが可溶性フィブリノゲンを不溶性のフィブリンに変換する。このフィブリンは接着力を有し、止血および創傷治癒に重要な機能を発揮する。
医療現場、特に外科手術においては、止血および組織閉鎖等の組織接着操作は重要な位置づけにあり、本原理を応用したフィブリン糊接着材が幅広い外科手術の現場で利用されている。
フィブリン糊接着材の使用方法については、これまで様々な検討が加えられ、改善が図られており、フィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液を患部に塗布または噴霧する液状型製剤(2液混合製剤:特許文献1および特許文献2参照)や、コラーゲン等の支持体にフィブリノゲンとトロンビンを混合固定化したシートを患部に貼付するシート製剤(特許文献3参照)がある。
しかしながら、現行の液状型製剤においては、凍結乾燥されたフィブリノゲンとトロンビンそれぞれを使用時に溶解して用いるため、凍結乾燥製剤の溶解に数分程度の時間を要し、緊急時の手術への対応の面や簡便性において満足できる剤型とはいえない。
【0003】
また、上記フィブリン糊接着材においては、フィブリノゲン濃度が高濃度であるほど強い接着力が得られることから、強力な接着力を実現させるためには、高濃度のフィブリノゲンに少量の高濃度トロンビンを作用させることが必要である。
しかしながら、現行の液状型製剤は、フィブリノゲン溶液とトロンビン溶液を等量混合するため濃度が半分になり、フィブリノゲンの最大効力を発揮できない。さらに、フィブリノゲンの濃度は現実的に10%程度溶液が濃度限界であることから、2液等量混合の系において、濃度の改良も困難である。
この点、シート製剤はフィブリノゲン溶液を高濃度で患部に適用可能であるため、理論的には2液混合製剤より強固な接着力が期待される。また、シート製剤であれば、噴出性・滲出性の出血部位に対する圧迫止血・圧迫閉鎖が可能となり、優れた利便性が期待される。
シート状の組織接着材を使用する際には、フィブリノゲン溶液を高濃度で患部に適用するため、創傷部位に適用した際の、シート製剤の組織への浸透性を増大させる必要がある。また、シート製剤を創傷部位に密着させるために丸めたり、折り曲げたりすることがあるので、このような力に対してシートの破損やフィブリノゲン成分およびトロンビン成分の脱落が起こらないようにシートの柔軟性や2成分の保持力を上げる必要がある。
【0004】
有効成分を各種基材に固定化したシート状組織接着材およびシート状止血材が報告されている(特許文献4、特許文献5、特許文献6および特許文献7参照)。特許文献4においては、ウマ由来のコラーゲン表層にフィブリノゲンおよびトロンビンを固定化したシート製剤が開示・実用化されている(タココンブ(登録商標))。しかしながら、コラーゲン基材は厚みがあり比較的硬質であるため、創傷部位での密着性が下がり、効果的な閉鎖が困難な場合がある。また、本シート製剤は、支持体が馬コラーゲンであり、適用対象がヒトである場合、異種タンパクに対する抗体の出現やプリオン病等の人畜共通感染症の危険性が存在するため理想的なものとは言い難い。
特許文献5においては、止血化合物が均等に分散した紙状組成物が開示されている。この組成物は非水性溶媒中で生体吸収性ポリマーと止血化合物(主としてトロンビン、フィブリノゲン)からなる繊維状パルプを形成し、製紙処理を施すことで製造される。前述のタココンブに対して止血時間を14倍減少し、かつ使用中の貼り直しを可能としている。しかしながら紙状であるため、組織追従性に改善の余地がある。
特許文献6および特許文献7においては、トロンビンを生体吸収性合成不織布に固定化したシートとフィブリノゲン溶液を併用した材料が開示されている。これらの組成物においては、不織布を有効成分水溶液に浸漬し、凍結乾燥を施すことにより複合化を行っている。この方法においては、凍結乾燥工程の歩留まりが悪い、シートの柔軟性が低い、固定化した蛋白質の担持性が悪くシートから剥がれ落ちる、という問題点がある。
【0005】
特許文献8には、凝固反応を制御する目的で、フィブリノゲンを含有する層とトロンビンを含有する層との中間にセルロース誘導体を材料とする中間層を設けたシート状組織止血材が示されているが、該組織止血材中に含まれるフィブリノゲンの溶解性が十分ではなく、また凍結乾燥品故にハンドリングが悪く、トリミングできないという問題がある。
その他、シート製剤として、非イオン界面活性剤を含むフィブリノゲンが固定化された生体吸収性支持体およびトロンビンが固定化された生体吸収性支持体よりなるシート状フィブリン糊接着材が特許文献9に、フィブリノゲン層、トロンビン層、吸収物質層等からなる止血サンドウィッチ包帯が特許文献10に、そして、第一の吸収性不織布、一つ以上の第二の吸収性織布または編地とトロンビンおよび/またはフィブリノゲンとを含む多孔の創傷手当て用品が特許文献11に、それぞれ開示されている。しかし、これらの止血材はフィブリノゲンおよびトロンビンの凍結乾燥により製造されているためフィブリノゲンおよびトロンビンの脱落が生じ易く、柔軟性も不十分であり、フィブリノゲンとトロンビンが隣接しているため上記のような組織接着効果が十分でない。また、フィブリノゲンとトロンビンが直接接している形態である場合、保存中にわずかな水分で凝固反応が進行してフィブリンを形成してしまうため、保存安定性にも問題がある。さらには、凍結乾燥工程を必要とするため、製造するのに多大な時間と手間がかかるという問題があった。
このようにフィブリノゲンとトロンビンの組み合わせにより、実際に効果と利便性が期待できるシート状止血材は確立されていない。また、強力な組織接着効果を発揮するためには、高濃度のフィブリノゲン溶液が必要であるが、フィブリノゲンの溶解性は悪いために、従来の組成のままでフィブリノゲンを支持体に固定化した場合、フィブリノゲンはほとんど溶解しないために十分な薬効を発揮することは期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平9−2971号公報
【特許文献2】国際公開WO97/33633号
【特許文献3】特表2004−521115号公報
【特許文献4】特公昭61-34830号公報
【特許文献5】特表2002-513645号公報
【特許文献6】国際公開WO2004/064878号
【特許文献7】国際公開WO2005/113030号
【特許文献8】特開2009−183649号公報
【特許文献9】特開2010−069031号公報
【特許文献10】特表2002−515300号公報
【特許文献11】特表2009−533135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、止血性蛋白質、つまりフィブリノゲンおよび/またはトロンビンの担持性および溶出性が良く、柔軟性(組織追従性)、ひいては止血性に優れたシート成形体を提供することにある。
本発明の他の目的は、本発明の上記シート成形体からなる、創傷部位に適用して優れた止血効果を達成できる止血材を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、フィブリノゲンおよびトロンビンよりなる群から選ばれる少なくとも一種の蛋白質と、脂肪族ポリエステルおよび水溶性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種の繊維状のポリマーを含有してなりそして該蛋白質の少なくとも一部分が該ポリマー内部に入り込んでいるポリマー組成物のシート成形体によって達成される。
【0009】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、前段落のシート成形体の組合せとしてフィブリノゲンと水溶性ポリマーを含有してなりそしてフィブリノゲンの少なくとも一部分が該水溶性ポリマー内部に入り込んでいる第1のシート成形体層およびトロンビンと繊維状の脂肪族ポリエステルを含有してなりそしてトロンビンの少なくとも一部分が該脂肪族ポリエステル内部に入り込んでいる第2のシート成形体層を含有してなる積層シート成形体によって達成される。



【0010】
また、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第3に、本発明の上記シート成形体または積層シート成形体からなる止血材によって達成される。すなわち、これらの成形体は創傷部位に適用され、止血材として創傷部位を処置するために用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】トロンビンを含有するポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体の繊維成形体からのトロンビン溶出性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のシート成形体は、フィブリノゲンおよびトロンビンよりなる群から選ばれる少なくとも一種の蛋白質と、脂肪族ポリエステルおよび水溶性ポリマーよりなる群から選ばれる少なくとも一種のポリマー(以下、「基材ポリマー」ともいう。)を含有するポリマー組成物のシート成形体である。ここで「蛋白質を含有する」とは、蛋白質の少なくとも一部分が基材ポリマー組成物内部に入り込んでいる状態をいう。このような構造は蛋白質が組成物表面や組成物の空隙に存在する凍結乾燥による複合体とは異なり、蛋白質の担持性に優れる。
本発明のシート成形体としては、シート状のものであれば特に制限はないが、繊維成形体およびフィルム成形体が好ましいものとして挙げられる。繊維成形体とは、得られた一本または複数本の繊維が積層され、織り、編まれ、もしくはその他の手法により形成された3次元の成形体をいう。具体的な繊維成形体の形態としては、例えば不織布が挙げられる。さらに、それをもとに加工したチューブ、メッシュなども繊維成形体に含まれる。フィルム成形体とは、インフレーション押出成形法、Tダイ押出成形法などの押出成形法、カレンダー法、流延法(キャスト法)などの成形法で作製されるフィルム状の成形体を示す。
【0013】
本発明のシート成形体は、単独でも、フィブリン糊における相補蛋白質(トロンビンに対しフィブリノゲン、又はフィブリノゲンに対しトロンビン)を含有する第2のシートと組み合わせてもその効果を発揮しうる。単独で用いる場合は、脂肪酸ポリエステルにトロンビンを含有する繊維成形体であることが好ましい。
また、上記のシート成形体は、本発明の第2のシート成形体との積層シート成形体を構成するシート成形体として用いることができるが、本発明の第2のシート成形体との積層シート成形体は、フィブリノゲンと水溶性ポリマーを含有してなる第1のシート成形体およびトロンビンと脂肪族ポリエステルを含有してなる第2のシート成形体を含有してなる積層シート成形体である。
本発明で用いられる止血性蛋白質であるフィブリノゲンおよびトロンビンは、動物から調製したものでも、遺伝子組換え技術により製造したものでもよい。動物由来であればヒト由来が好ましい。また、アミノ酸配列を改変した蛋白質も使用できる。
なお、上記ポリマー組成物が、特に、フィブリノゲンおよびトロンビンを含有する場合など、保存中に一部でフィブリンを生じることがあるが、こうしたフィブリンを含む組成物も本発明の範囲である。
【0014】
本発明で用いられる止血性蛋白質には、薬学的に許容しうる添加剤を加えてもよい。そのような添加剤の例として、血液凝固第XIII因子、アルブミン、イソロイシン、グリシン、アルギニン、グルタミン酸、フェニルアラニン、ヒスチジン、界面活性剤、塩化ナトリウム、糖アルコール(グリセロール、マンニトール等)、トレハロース、クエン酸ナトリウム、アプロチニンおよび塩化カルシウムからなる群から選択される一種以上が挙げられる。
本発明で用いられる止血性蛋白質又は止血性蛋白質と添加剤との混合物は、基材ポリマーにそれぞれ分子として分散して存在してもよいが、それぞれ分子が集まった粒子(以下添加剤との混合粒子を含めて「蛋白質粒子」と記載する場合がある。)として基材ポリマー中に分散して存在することが好ましい。このことにより、止血性蛋白質の溶出性や、シート成形体が繊維状成形体の場合にはシートの柔軟性などを向上できる場合がある。
【0015】
本発明において、含有される蛋白質粒子の平均粒子径は0.1〜200μmである。粒子径が0.1μmよりも小さい粒子を作製することは技術的に困難である。また200μmよりも大きいと、得られるシート成形体が脆弱化し、取り扱いが困難になるため好ましくない。好ましくは0.5から150μm、さらに好ましくは1〜100μmである。
本発明のシート成形体は、繊維成形体の場合、蛋白質含有粒子を基材ポリマーに対して、通常1〜200重量%、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜100重量%、さらに好ましくは50〜100重量%含有する。これらよりも少ないと、シート成形体からの蛋白質の溶出性、シート成形体の柔軟性または止血性が不良となる場合があり、また多いとシート成形体自体の自己支持性が低下するため好ましくない。また、フィルム成形体の場合、蛋白質含有粒子を基材ポリマーに対して、通常100重量%以上、好ましくは500重量%以上、より好ましくは800〜950重量%含有する。これらより少ないと、止血性が不良となる場合があり、多いとフィルムの成形性が不良となる場合がある。
【0016】
本発明において用いられる脂肪族ポリエステルとしては、具体的にはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸-ポリグリコール酸共重合体、ポリカプロラクトン、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネート、およびこれらの誘導体が例示できる。これらの中でも、好ましくはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、およびそれらの共重合体、ならびにそれらの混合物からなる群から選ばれる。
ここで、ポリ乳酸の共重合体を用いる場合、伸縮性を付与するモノマー成分を含んでいてもよい。ここで伸縮性を付与するモノマー成分とは、カプロラクトンモノマーや、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリアルキレンカーボネートジオール、ポリエチレングリコールユニットなどの軟質成分が例示できる。これらの軟質成分は少ないほうが好ましく、ポリマーユニットあたり50mol%未満であることが好ましい。これよりも軟質成分が多いと自己支持性を失いやすく、やわらかすぎて取り扱いにくい。
ポリ乳酸またはその共重合体を用いる場合、ポリマーを構成するモノマーにはL−乳酸、D−乳酸があるが、特に制限はない。またポリマーの光学純度や分子量、L体とD体の組成比や配列には特に制限はないが、好ましくはL体の多いポリマーであり、ポリL乳酸とポリD乳酸のステレオコンプレックスを用いてもよい。また、ポリマーの分子量としては、通常1×10〜5×10であり、好ましくは1×10〜1×10、より好ましくは5×10〜5×10である。また、ポリマーの末端構造やポリマーを重合する触媒は任意に選択できる。
【0017】
本発明に用いられる水溶性ポリマーとしては、例えばN−ビニル環状ラクタム単位を有するポリマーおよび水溶性セルロース誘導体を好ましいものとして挙げることができる。
N−ビニル環状ラクタム単位を有するポリマーとしては、例えばN−ビニルピロリドンやN−ビニルカプロラクタム類を重合あるいは共重合させて得られるホモポリマーあるいはコポリマーが挙げられる。このようなホモポリマーとしては、具体的には、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(N−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン)、ポリ(N−ビニル−2−ピペリドン)、ポリ(N−ビニル−6−メチル−2−ピペリドン)、ポリ(N−ビニル−ε−カプロラクタム)、ポリ(N−ビニル−7−メチル−ε−カプロラクタム)等が挙げられる。
また、前記コポリマーとしては、具体的には、N−ビニルピロリドンやN−ビニルカプロラクタム等を、例えば酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、マレイン酸エステル、マレイン酸、アクリロニトリル、スチレン、アルキルビニルエーテル、N−ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、アリルアルコール、オレフィン類等と共重合させて得られるコポリマーが挙げられる。なお、前記エステルとしては、炭素数1〜20のアルキルエステル、ジメチルアミノアルキルエステルおよびその四級塩、ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。このような基幹ポリマーは、一種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。製造のしやすさや、入手のしやすさからポリビニルピロリドンが最も好ましい。
【0018】
本発明において使用されるN−ビニル環状ラクタム単位を有するポリマーの平均分子量としては、特に限定されるものではないが、通常1×10〜5×10であり、好ましくは1×10〜1×10、より好ましくは5×10〜5×10である。また、ポリマーの末端構造やポリマーを重合する触媒は任意に選択できる。
また、水溶性セルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウム カルボキシメチルセルロース、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
これらの中でも、好ましくはヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびそれらの混合物からなる群から選択され、最も好ましくはヒドロキシプロピルセルロースである。
また、本発明で用いられる水溶性セルロース誘導体の分子量としては、特に限定されないが、例えば濃度2%、20℃で粘度測定を行った場合、通常1〜10000mPa・sであり、好ましくは2〜5000mPa・s、より好ましくは2〜4000mPa・sである。
【0019】
本発明のシート成形体においては、その目的を損なわない範囲で、他のポリマーや他の化合物を併用してもよい。例えばポリマー共重合、ポリマーブレンド、化合物混合である。化合物混合の例として、具体的にはリン脂質、界面活性剤等が挙げられる。
本発明で用いられるポリマーは高純度であることが好ましく、とりわけポリマー中に含まれる添加剤や可塑剤、残存触媒、残存物モノマー、成形加工や後加工に用いた残留溶媒などの残留物は少ないほうが好ましい。特に医療に用いる場合は、安全性の基準未満に抑える必要がある。
本発明のシート成形体の平均厚みは、繊維成形体の場合、通常10〜1000μm、好ましくは50〜200μm、より好ましくは100〜150μmである。これらよりも小さいと、シート成形体の強度が保てなくなり、トリミングすることができず好ましくなく、大きいと、シート成形体の柔軟性および/または止血性が低下するため好ましくない。シート成形体が、フィルム成形体の場合、その平均厚みは、通常5〜200μm、好ましくは10〜100μmである。
【0020】
本発明のシート成形体がフィブリノゲンを含む場合、フィブリノゲンを0.05〜30mg/cmの範囲で含むことが好ましい。フィブリノゲンの含有量が0.05mg/cmより少ないと蛋白質の特性に基づく効果を示さず、30mg/cmよりも多いと、繊維成形体自体が脆弱になり好ましくない。好ましい含有量は0.1〜25mg/cmであり、さらに好ましくは0.2〜25mg/cmである。また、特にシート成形体がフィルム成形体の場合には、止血性の観点でフィブリノゲン含量は2mg/cm以下、好ましくは1.5mg/cm以下、さらに好ましくは1.4mg/cm以下である。
本発明のシート成形体がトロンビンを含む場合、その含有量は0.1〜100U/cmの範囲が好ましい。トロンビンの含有量 が0.1U/cmより少ないと止血効果を示さず、100U/cmよりも多いと、シート成形体自体が脆弱になり好ましくない。好ましい含有量は2〜80U/cmであり、さらに好ましくは5〜50U/cmである。
本発明で、繊維成形体とは、得られた一本または複数本の繊維が積層され、織り、編まれ、もしくはその他の手法により形成された3次元の成形体をいう。具体的な繊維成形体の形態としては、例えば不織布が挙げられる。さらに、それをもとに加工したチューブ、メッシュなども繊維成形体に含まれる。
本発明のシート成形体が繊維成形体である場合、好ましい平均繊維径は0.01〜50μmである。平均繊維径が0.01μmよりも小さいと、繊維成形体の強度が保てないため好ましくない。また平均繊維径が50μmよりも大きいと、繊維の比表面積が小さくなるため止血性蛋白質の溶解性が悪くなり好ましくない。さらに好ましくは平均繊維径が0.02〜30μmである。なお、繊維径とは繊維断面の直径を表す。繊維断面の形状は円形に限らず、楕円形や異形になることもありうる。この場合の繊維径とは、該楕円形の長軸方向の長さと短軸方向の長さの平均をその繊維径として算出する。また、繊維断面が円形でも楕円形でもないときには円または楕円に近似して繊維径を算出する。
【0021】
本発明のシート成形体が繊維成形体である場合、その目付は0.1〜50mg/cmが好ましい。目付が0.1mg/cmよりも小さいと止血性蛋白質を十分に担持できないため好ましくない。また、目付が50mg/cmよりも大きいと、炎症を引き起こす可能性が高くなるため好ましくない。さらに好ましくは0.2〜20mg/cmである。
本発明のシート成形体が繊維成形体である場合、その嵩密度は100〜200mg/cmが好ましい。嵩密度が100mg/cmよりも小さいとハンドリング性が低下するため好ましくない。また嵩密度が200mg/cmよりも大きいと、繊維成形体の空隙が少なくなり、柔軟性および止血性蛋白質の溶出性が低下するため好ましくない。
【0022】
本発明のシート成形体が繊維成形体である場合は、その製法は、プラスチック繊維の製造に採用されているいずれの方法も採用でき特に制限されないが、止血性蛋白質の活性低下を防ぐため、止血性蛋白質または止血性蛋白質含有粒子を容易に分散させるべく溶液成形によって行うことが好ましい。また、繊維成形体は長繊維であることが好ましい。長繊維とは、具体的には紡糸から繊維成形体への加工に至る工程の中で、繊維を切断する工程を加えずに形成される繊維成形体をいい、エレクトロスピニング法、スパンボンド法、メルトブロー法などで形成することができるが、エレクトロスピニング法が好ましく用いられる。
エレクトロスピニング法は、ポリマーを溶媒に溶解させた溶液に高電圧を印加することで、電極上に繊維成形体を得る方法である。工程としては、高分子を溶媒に溶解させて溶液を製造する工程と、該溶液に高電圧を印加する工程と、該溶液を噴出させる工程と、噴出させた溶液から溶媒を蒸発させて繊維成形体を形成させる工程と、任意に実施しうる工程として形成された繊維成形体の電荷を消失させる工程と、電荷消失によって繊維成形体を累積させる工程を含む。
エレクトロスピニング法における、紡糸液を製造する段階について説明する。本発明における紡糸液は、基材ポリマー溶液と止血性蛋白質粒子からなる懸濁液を使用することが好ましい。
【0023】
懸濁液における基材ポリマーの濃度は1〜30重量%であることが好ましい。ポリマーの濃度が1重量%より低いと、繊維成形体を形成することが困難となり好ましくない。また、30重量%より高いと、得られる繊維成形体の繊維径が大きくなり、また懸濁液の粘度が高くなり好ましくない。より好ましい懸濁液におけるポリマーの濃度は1.5〜20重量%である。
水溶性ポリマーの溶媒は、水溶性ポリマーを溶解可能で、かつ止血性蛋白質粒子と懸濁液を形成し、紡糸する段階で蒸発し、繊維を形成可能なものであれば特に限定されず、一種を単独で用いても複数の溶媒を組み合わせてもよい。例えば、クロロホルム、2−プロパノール、トルエン、ベンゼン、ベンジルアルコール、ジクロロメタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、トリクロロエタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、アセトン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1−プロパノール、フェノール、ピリジン、酢酸、蟻酸、ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ヘキサフルオロアセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリジノン、N−メチルモルホリン−N−オキシド、1,3−ジオキソラン、水、およびこれらの溶媒の混合溶媒が挙げられる。これらのうちでも、取り扱い性や物性などから、ジクロロメタン、クロロホルム、2−プロパノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミドを用いることが好ましい。
【0024】
脂肪族ポリエステルを溶解する溶媒としては、脂肪族ポリエステルを溶解可能で、かつ止血性蛋白質粒子と懸濁液を形成し、かつ紡糸する段階で蒸発し、繊維を形成可能なものであれば特に限定されず、一種を単独で用いても複数の溶媒を組み合わせてもよい。例えばクロロホルム、2−プロパノール、トルエン、ベンゼン、ベンジルアルコール、ジクロロメタン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、トリクロロエタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。また、エマルションを形成する範囲内においてアセトン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1−プロパノール、フェノール、ピリジン、酢酸、蟻酸、ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ヘキサフルオロアセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリジノン、N−メチルモルホリン−N−オキシド、1,3−ジオキソラン等の溶媒を含んでいてもよい。これらの中でも、取り扱い性や物性から、ジクロロメタン、エタノールを用いることが好ましい。
かかる懸濁液を調製する方法としては、特に限定されないが、超音波や各種攪拌方法を用いることができる。攪拌方法としては、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ボールミル等の攪拌方法も使用することができる。なかでも超音波処理による分散方法が好ましい。
また、溶媒と止血性蛋白質粒子とで懸濁液を形成した後、水溶性ポリマーまたは脂肪族ポリエステルを添加して紡糸液を調製することも可能である。
【0025】
また、懸濁液を調製する前に止血性蛋白質粒子を微細処理することができる。微細処理としては、乾式粉砕と湿式粉砕とがあり、本発明においてはいずれの方式も採用することができ、両者を組み合わせることもできる。乾式粉砕処理としては、ボールミルを用いた処理、遊星ミルや振動ミルを用いた処理、乳鉢を用い乳棒によりすり潰す処理、媒体攪拌型粉砕機、ハンマーミル等の衝撃式粉砕機、ジェットミル、石臼を用いてすりつぶす処理等が挙げられる。一方、湿式粉砕処理としては、適当な分散媒に止血性蛋白質を分散させた状態で、高い剪断力の攪拌装置、混練装置等により攪拌する処理や、媒体中に分散した状態でのボールミル、ビーズミル処理等が挙げられる。さらには、スプレードライヤーにより作製した止血性蛋白質粒子を使用することもできる。
次に、溶液に高電圧を印加する段階と、溶液を噴出させる段階と、噴出された溶液から溶媒を蒸発させて繊維成形体を形成させる段階について説明する。
【0026】
本発明の繊維成形体の製造方法においては、ポリマー溶液と止血性蛋白質粒子からなる懸濁液を噴出させ、繊維成形体を形成させるために、懸濁液に高電圧を印加する必要がある。電圧を印加する方法については、懸濁液を噴出させ、繊維成形体が形成されるものであれば特に限定されないが、溶液に電極を挿入して電圧を印加する方法や、溶液噴出ノズルに対して電圧を印加する方法などがある。
また、溶液に印加する電極とは別に補助電極を設けることも可能である。また、印加電圧の値については、前記繊維成形体が形成されれば特に限定されないが、通常は5〜50kVの範囲が好ましい。印加電圧が5kVより小さい場合は、紡糸液が噴出されずに繊維成形体が形成されないため好ましくなく、印加電圧が50kVより大きい場合は、電極からアース電極に向かって放電が起きるために好ましくない。より好ましくは10〜30kVの範囲である。所望の電位は任意の適切な方法で作ればよい。
こうすることで、ポリマー溶液と止血性蛋白質粒子からなる懸濁液を噴出させた直後に使用した溶媒が揮発して繊維成形体が形成される。通常の紡糸は大気下、室温で行われるが、揮発が不十分である場合には陰圧下で行うことや、高温の雰囲気下で行うことも可能である。また、紡糸する温度は溶媒の蒸発挙動や紡糸液の粘度に依存するが、通常は0〜50℃の範囲である。
【0027】
次に、形成された繊維成形体の電荷を消失させ累積させる段階について説明する。繊維成形体の電荷を消失させ累積させる方法は特に限定はされないが、繊維成形体をアース電極に捕集することで電荷を消失させ、同時に累積させる方法が挙げられる。他にイオナイザー等により累積前に電荷を消失させる方法も挙げられる。この場合、繊維成形体を累積させる方法は、特に限定はされないが、通常の方法として、電荷消失により繊維成形体の静電力を失わせ、自重により落下、累積させる方法が挙げられる。また必要に応じて、静電力を消失させた繊維成形体を吸引してメッシュ上に累積させる方法、装置内の空気を対流させてメッシュ上に累積させる方法などを行ってもよい。なお、イオナイザーとは、内蔵のイオン発生装置によりイオンを発生させ、イオンを帯電物に放出させることにより帯電物の電荷を消失させうる装置である。本発明の繊維成形体の製造方法で用いられうるイオナイザーを構成する好ましいイオン発生装置として、内蔵の放電針に高電圧を印加することによりイオンを発生する装置が挙げられる。
かかるエレクトロスピニング法は公知であり、本発明の繊維成形体が調製できる限り、その装置や条件は限定されないが、後述する実施例のほか、例えば国際公開WO2004/072336号明細書や国際公開2005/087988号明細書の記載を参考にすることができる。
本発明のシート成形体がフィルム成形体である場合、その製法は、従来からフィルムの製法として採用されているいずれの方法でも製造できる。例えば流延法(キャスト法)を挙げることができる。こうした成形は、溶融成形によって行っても、溶液成形によって行ってもよいが、止血性蛋白質の活性低下を防ぐため、止血性蛋白質を容易に分散させるべく溶液成形を行うことが好ましい。
次に、本発明の積層シート成形体について説明する。
【0028】
本発明の積層シート成形体は、フィブリノゲンと水溶性ポリマーを含有してなる第1ポリマー組成物層およびトロンビンと脂肪族ポリエステルを含有してなる第2ポリマー組成物層を含有してなる。
水溶性ポリマーは、セルロース誘導体、N−ビニル環状ラクタム単位を有するポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ヒアルロン酸、デキストラン、プルランまたはデンプンあるいはこれらの混合物から選ばれる。
水溶性ポリマーは、セルロース誘導体もしくはN−ビニル環状ラクタム単位を有するポリマー、またはこれらの混合物であることが好ましい。
セルロース誘導体は、具体的にはヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびナトリウム カルボキシメチルセルロース、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
これらの中でも、好ましくはヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、およびそれらの混合物からなる群から選択され、最も好ましくはヒドロキシプロピルセルロースまたはポリビニルピロリドンである。
また、水溶性ポリマーがN−ビニル環状ラクタム単位を有するポリマーである場合の平均分子量は特に限定されるものではないが、1×10〜5×10であり、好ましくは1×10〜1×10、より好ましくは5×10〜5×10である。また、ポリマーの末端構造やポリマーを重合する触媒は任意に選択できる。
【0029】
また、水溶性ポリマーがセルロース誘導体である場合は、濃度2%、20℃で粘度測定を行った場合、好ましくは0.01〜10000mPa・s、より好ましくは0.1〜5000mPa・s、さらに好ましくは0.1〜1000mPa・s、最も好ましくは0.1〜100mPa・sの範囲内のものである。
水溶性ポリマーには、その目的を損なわない範囲で、他のポリマーや他の化合物を併用してもよい。例えば、ポリマー共重合、ポリマーブレンド、化合物混合である。
かかる水溶性ポリマーは高純度であることが好ましく、とりわけポリマー中に含まれる可塑剤、残存触媒、残存モノマー、成形加工や後加工に用いた残留溶媒などの残留物は、少ないほうが好ましい。特に、医療に用いる場合は、安全性の基準値未満に抑える必要がある。
また、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層は、薬学的に許容しうる添加剤をさらに含んでいてもよい。そのような添加剤の例としては、前記シート成形体の説明で記載したものと同じものを挙げることができる。特にフィブリノゲンが平均粒子径0.01〜100μmの粒子である場合、これらの添加剤は、該粒子中に添加されていることが好ましい。
【0030】
脂肪族ポリエステルとしては、前記シート成形体の説明に記載したものが同様に用いられる。
なお、脂肪族ポリエステルには、その目的を損なわない範囲で、他のポリマーや他の化合物を併用してもよい。例えば、ポリマー共重合、ポリマーブレンド、化合物の混合である。
かかる脂肪族ポリエステルは高純度であることが好ましく、とりわけポリマー中に含まれる添加剤や可塑剤、残存触媒、残存モノマー、成形加工や後加工に用いた残留溶媒などの残留物は少ないほうが好ましい。特に、医療に用いる場合は、安全性の基準値未満に抑える必要がある。
また、脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層は、薬学的に許容しうる添加剤をさらに含んでいてもよい。そのような添加剤の例として、多価アルコール、界面活性剤、アミノ酸、少糖、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、および塩化カルシウムからなる群から選択される一種以上が挙げられる。これにより、トロンビンの安定性、溶解性、柔軟性などを向上できる場合がある。
【0031】
水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる第1ポリマー組成物層は、繊維成形体またはフィルムからなることが好ましい。繊維成形体とは、得られた一本または複数本の繊維が積層され、織り、編まれ、もしくはその他の手法により形成された3次元の成形体をいう。具体的な繊維成形体の形態としては、例えば不織布が挙げられる。さらに、それをもとに加工したチューブ、メッシュなども繊維成形体に含まれる。
フィルムは従来から採用されているいずれの方法でも製造できる。例えば流延法(キャスト法)を挙げることができる。こうした成形は、溶融成形によって行っても、溶液成形によって行ってもよいが、止血性蛋白質の活性低下を防ぐため、止血性蛋白質を容易に分散させるべく溶液成形を行うことが好ましい。
水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる繊維成形体の平均繊維径は0.01〜50μmである。平均繊維径が、0.01μmよりも小さいと、繊維成形体の強度が保てないため好ましくない。また平均繊維径が50μmよりも大きいと、繊維の比表面積が小さくなるため溶解性が悪くなり、好ましくない。さらに好ましくは、平均繊維径が0.02〜30μmである。なお、繊維径とは繊維断面の直径を表す。繊維断面の形状は円形に限らず、楕円形や異形になることもありうる。この場合の繊維径とは、該楕円形の長軸方向の長さと短軸方向の長さの平均をその繊維径として算出する。また、繊維断面が円形でも楕円形でもないときには円または楕円に近似して繊維径を算出する。
【0032】
本発明の積層シート成形体の平均厚みは、好ましくは50〜350μm、より好ましくは100〜300μm、さらに好ましくは100〜250μmである。
水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる繊維成形体の目付は0.1〜50mg/cmであることが好ましい。目付が0.1mg/cmよりも小さいと、フィブリノゲンを十分に担持できないため好ましくない。また目付が50mg/cmよりも大きいと、炎症を引き起こす可能性が高くなるため好ましくない。
水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる繊維成形体の嵩密度は100〜200mg/cmであることが好ましい。嵩密度が100mg/cmよりも小さいと、ハンドリング性が低下するため好ましくない。また嵩密度が200mg/cmよりも大きいと、繊維成形体の空隙が低くなり、柔軟性および溶解性が低下するため好ましくない。
水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる繊維成形体は、フィブリノゲンを通常0.05〜30mg/cmの範囲で含んでいる。フィブリノゲンの含有量が0.05mg/cmより少ないと止血効果を示さず、30mg/cmよりも多いと繊維成形体自体が脆弱になり好ましくない。好ましい含有量は0.1〜25mg/cmであり、さらに好ましくは、0.2〜25mg/cmである。また、特にシート成形体がフィルム成形体の場合には、止血性の観点でフィブリノゲン含量は2mg/cm以下、好ましくは1.5mg/cm以下、さらに好ましくは1.4mg/cm以下である。
【0033】
水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる繊維成形体は長繊維よりなることが好ましい。長繊維とは、具体的には紡糸から繊維成形体への加工に至る工程の中で、繊維を切断する工程を加えずに形成される繊維成形体のことをいい、エレクトロスピニング法、スパンボンド法、メルトブロー法などで形成することができるが、エレクトロスピニング法が好ましく用いられる。
エレクトロスピニング法は、前記シート成形体の説明において記載した水溶性ポリマーとフィブリノゲン粉末を混合し懸濁液を調製したとき、フィブリノゲン粉末のサイズは、0.01〜100μmの範囲にあることが好ましい。0.01μmよりも小さいフィブリノゲン粉末を作製することは技術的に困難であり、100μmよりも大きいと分散性が悪く、繊維成形体が脆弱となり好ましくはない。
水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるフィルムは従来から採用されているいずれの方法でも製造できる。例えば流延法(キャスト法)を挙げることができる。こうした成形は、溶融成形によって行っても、溶液成形によって行ってもよいが、止血性蛋白質の活性低下を防ぐため、止血性蛋白質を容易に分散させるべく溶液成形を行うことが好ましい。
【0034】
水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるフィルム中の水溶性ポリマーの含量は、ポリマーの種類にもよるが、0.1〜50重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜20重量%である。また、フィブリノゲンの蛋白質粒子は、水溶性ポリマーに対して、ポリマーの種類にもよるが、通常100重量%以上、好ましくは500重量%以上、より好ましくは800〜950重量%含有する。これらより少ないと、止血性が不良となる場合があり、多いとフィルムの成形性が不良となる場合がある。
水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるフィルムの平均厚みは10〜1000μmであることが好ましい。
水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるフィルムは、フィブリノゲンを好ましくは0.05〜10mg/cmの範囲で含んでいる。0.05mg/cmより少ないと止血効果を示し難く、10mg/cmよりも多いとフィルム自体が脆弱になり好ましくない。より好ましい含有量は0.1〜8mg/cmであり、さらに好ましくは、0.2〜4mg/cmである。
【0035】
本発明において、脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる第2ポリマー組成物層は、繊維成形体からなることが好ましい。なお、繊維成形体の定義については前記した。
脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる繊維成形体の平均繊維径は0.01〜50μmである。平均繊維径が、0.01μmよりも小さいと、繊維成形体の強度が保てないため好ましくない。また平均繊維径が50μmよりも大きいと、繊維の比表面積が小さくなるためトロンビンの放出性が悪くなり好ましくない。さらに好ましくは、平均繊維径が0.02〜30μmである。
脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる繊維成形体の平均厚みは10〜1000μmである。平均厚みが、10μmよりも小さいと、繊維成形体の強度が保てなくなりトリミングすることができず好ましくない。また平均厚みが1000μmよりも大きいと、繊維成形体の柔軟性が低下するため好ましくない。さらに好ましくは、平均厚みが20〜500μmである。
【0036】
脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる繊維成形体の目付は0.1〜50mg/cmである。目付が0.1mg/cmよりも小さいと、トロンビンを十分に担持できないため好ましくない。また目付が50mg/cmよりも大きいと、炎症を引き起こす可能性が高くなるため好ましくない。さらに好ましくは0.2〜20mg/cmである。
脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる繊維成形体の嵩密度は100〜200mg/cmである。嵩密度が100mg/cmよりも小さいと、ハンドリング性が低下するため好ましくない。また嵩密度が200mg/cmよりも大きいと、繊維成形体の空隙が低くなり、柔軟性およびトロンビンの放出能が低下するため好ましくない。
【0037】
本発明において、脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる繊維成形体は、トロンビンを0.1〜100U/cm含んでいることが好ましい。トロンビンの含有量が0.1U/cmより少ないと止血効果が不十分であり好ましくない。100U/cmより多いと繊維成形体自体が脆弱になり好ましくない。好ましい含有量は2〜80U/cmであり、さらに好ましくは5〜50U/cmである。また、トロンビンの蛋白質含有粒子は、脂肪族ポリエステルに対して、通常1〜200重量%、好ましくは10〜100重量%、より好ましくは20〜100重量%、さらに好ましくは50〜100重量%含有する。これらよりも少ないと、トロンビンの溶出性、シート成形体の柔軟性または止血性が不良となる場合があり、また多いとシート成形体の自己支持性が低下するため好ましくない。
脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる繊維成形体は長繊維よりなることが好ましい。長繊維の意味およびその製造法については前述のとおりである。
かかる脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる繊維成形体はエレクトロスピニング法で製造することができる。エレクトロスピニング法は前記シート成形体の説明において記載した。脂肪族ポリエステルとトロンビン粉末を混合して懸濁液を調製したとき、トロンビン粉末のサイズは特に限定されるものではないが、0.01〜100μmの範囲にあることが好ましい。0.01μmよりも小さいトロンビン粉末を作製することは技術的に困難であり、100μmよりも大きいと分散性が悪く、繊維成形体が脆弱となり好ましくない。
【0038】
本発明のシート成形体の表面または積層シート成形体における各層の表面に、さらに綿状の繊維構造物を積層することや、綿状構造物を本発明の積層シート成形体ではさんでサンドイッチ構造にするなどの加工は、本発明の目的を損ねない範囲で任意に実施しうる。
本発明のシート成形体および積層シート成形体における繊維成形体の繊維内部にも任意に薬剤を含ませることができる。エレクトロスピニング法で成形する場合は、有機溶媒もしくは水溶液に可溶であり、溶解によりその生理活性を損なわないものであれば、使用する薬剤に特に制限はない。
本発明の積層シート成形体は、1層以上の水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる第1ポリマー組成物層と、1層以上の脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる第2ポリマー組成物層を含むが、これら以外の層が設けられていてもよい。また、これら各層を積層する順は問わず、同種の層が隣接している部分があってもよい。
【0039】
本発明の積層シート成形体は、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる第1ポリマー組成物層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる第2ポリマー組成物層を各々重ねたものでもよく、形成されたいずれかの層に、通常のコーティング方法により積層することもできる。かかるコーティングの方法として、特に制限されるものではないが、エレクトロスピニング、エレクトロスプレー、キャスティング、浸漬、噴射、プレス、熱プレスなどの方法が挙げられる。なかでも、繊維成形体からなる層の上に繊維成形体からなる層を積層する方法としては、エレクトロスピニング法が好ましい。水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる繊維成形体に脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる繊維成形体を積層しても、脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる繊維成形体に水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる繊維成形体を積層してもよい。
本発明の積層シート成形体を止血材として創傷部位に適用する際、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層が創傷部位に接触するように適用することが好ましい。そうすることで、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層が創傷部位に接触するやいなや水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層が溶解し、創傷部位にフィブリノゲンが十分に浸透し、ついで脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層よりトロンビンが直ちに放出されることでフィブリン生成に伴う凝固反応が進行する。なお、脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層の脂肪族ポリエステルは、圧迫止血に必要な補強材として機能した後、時間をかけて分解される。
【0040】
本発明のシート成形体および積層シート成形体は薄く、かつ柔軟性に優れるため創傷部位との密着性がよい。また、本発明のシート成形体および積層シート成形体は、繊維成形体などに有効成分であるフィブリノゲンおよび/またはトロンビンが含有されているため、凍結乾燥品と異なって担持性に優れる。その一方、フィブリノゲンの溶解性ならびにトロンビンの放出性およびフィブリノゲン層への溶出性にも優れるため、短時間での止血効果が発現する。また、短時間での止血効果発現のために必要なフィブリノゲン量が少なく、コスト面でも優れる。また、本発明のシート成形体は、使用する材料を選択することにより、創傷部位に適用後の創傷部位の視認性に優れるものとなる。これにより、これまでの製品では困難であった止血状態が視覚的に確認でき、縫合が必要な場合に縫合すべき部位が容易に特定できる。さらに、本発明のシート成形体および積層シート成形体を製造するのに凍結乾燥工程を必要としないため、生産性にも優れている。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明の実施の形態を説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
【0042】
<実施例1〜6および16〜29、比較例1、2についての測定法>
1A.蛋白質粒子粒子径(平均粒子径):
フィブリノゲン凍結乾燥粉末を乳鉢で粉砕したものを、デジタルマイクロスコープ(キーエンス株式会社:商品名「VHX-100」)により、倍率1000倍で撮影して得た写真から無作為に10個の粒子を選んで直径を測定し、平均値を平均粒子径とした。
2A.平均繊維径:
得られた繊維成形体の表面を走査型電子顕微鏡(キーエンス株式会社:商品名「VE8800」)により、倍率3000倍で撮影して得た写真から無作為に20箇所を選んで繊維の径を測定し、すべての繊維径の平均値を求めて平均繊維径とした。n=20である。
3A.平均厚み:
得られた繊維成形体を高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ:商品名「ライトマチックVL−50」)を用いて測定力0.01Nによりn=15にて繊維成形体の膜厚を測定した平均値を算出した。なお、本測定においては測定機器が使用可能な最小の測定力で測定を行った。
4A.目付:
得られた繊維成形体を、50mm×100mmにカットし、その重量を測定し、換算することで目付けを算出した。
5A.嵩密度
上記測定した目付と平均厚みの値から嵩密度を算出した。
6A.溶解テスト:得られた繊維成形体を、1cm×1cmにカットし、生理食塩水15μLを添加し、溶解性を確認した。
7A.ELISA測定
【0043】
(1)フィブリノゲン
ELISAプレート(NUNC 468667)に抗ヒトフィブリノゲン抗体(DAKO A0080)を10μg/mLで固定化した。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル UK−B80)を各ウェルに添加し、マスキングした。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、検体を添加した。標準品としてヒトフィブリノゲン(Enzyme Research Laboratories No.FIB3)を用い、検量線を作成した。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、HRP標識抗ヒトフィブリノゲン抗体(CPL5523)を添加し、反応後、0.05%Tween20を含むPBSで洗浄し、TMB試薬(KPL 50−76−02 50−65−02)を添加し、6分間静置して発色させた。1M HPOを加え、発色を停止し、マイクロプレートリーダーでOD450−650nmを測定した。
【0044】
(2)トロンビン
ELISAプレート(NUNC 468667)に抗ヒトトロンビン抗体(Affinity Biological社、No.SAHT−AP)を5μg/mLで固定化した。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、ブロックエース(DSファーマバイオメディカル UK−B80)を各ウェルに添加し、マスキングした。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、検体を添加する。標準品としてヒトトロンビン(ヘマトロジックテクノロジー社:HCT−0020)を用い、検量線を作成した。0.05%Tween20を含むPBSで洗浄後、HRP標識抗ヒトトロンビン抗体((Affinity Biological社、No.SAHT−HRP)を0.1μg/mLで添加した。反応後、0.05%Tween20を含むPBSで洗浄し、TMB試薬(DaKo S1599)を添加し、10分間静置して発色させた。0.5M HSOを加え、発色を停止し、マイクロプレートリーダーでOD450−650nmを測定した。
8A.トロンビン活性測定
ファルコン社製2008チューブに試料20μLと50mM Tris−HCl (pH8.5)+50mM NaClバッファー60μL、0.1% PLURONIC F−68を20μL加え、37℃で3分インキュベーションした。標準品としてヒトプラズマ由来精製α―トロンビン(ヘマトロジックテクノロジー社から購入:HCT−0020)を同バッファーで5、2.5、1.25、0.625、0.3125U/mLに希釈したものを用いた。その反応液にテストチーム発色基質S−2238(1mM:第一化学薬品工業)を100μL添加して攪拌混合し、37℃で5分間の反応後、0.1Mクエン酸溶液を800μL加えて反応を停止した。反応液200μLを96ウェルプレートに移し、OD405/650を測定した。
【0045】
実施例1
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(ボルヒール(登録商標、以下同じ)組織接着用:バイアル1)を乳鉢で粉砕し、平均粒子径が14μmの粉砕フィブリノゲン凍結乾燥粉末を作製した。エタノールにこの粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、10wt%になるようにポリビニルピロリドン(K90 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ポリビニルピロリドン=100/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は13.5kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.51μm、平均厚みは285μm、目付は2.35mg/cm、嵩密度は82mg/cmであった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ、1秒以内に溶解した。また、得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断して、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定を実施した。結果、固定化蛋白質量は0.54mg/cmであった。得られたシートはハサミでトリミングが可能であった。
【0046】
実施例2
エタノールに実施例1で粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、10wt%になるようにポリビニルピロリドン(K90 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ポリビニルピロリドン=100/200(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は17kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.33μm、平均厚みは469μm、目付は5.28mg/cm、嵩密度は113mg/cmであった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ、1秒以内に溶解した。また、得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断し、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定を実施した。結果、固定化蛋白質量は1.61mg/cmであった。得られたシートはハサミでトリミングが可能であった。
【0047】
実施例3
2−プロパノールに実施例1で粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、16wt%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=20/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は11kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.86μm、平均厚みは137μm、目付は1.59mg/cm、嵩密度は116mg/cmであった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ1秒以内に溶解した。また、得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断し、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定を実施した。結果、固定化蛋白質量は0.17mg/cmであった。得られたシートはハサミでトリミングが可能であった。
【0048】
比較例1
1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/MINIMUM ESSENTIAL MEDIUM EAGLE(シグマアルドリッチ社製)10×(9/1=v/v)に実施例1で粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を15w/v%になるように溶解させた。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は23.5kV、紡糸液流量は2.45mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は12cmであった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ溶解しなかった。
【0049】
比較例2
フィブリノゲン溶解液にフィブリノゲン凍結乾燥粉末(いずれもボルヒール組織接着用に含まれる)を溶解させた後、16wt%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=20/100(w/w)の紡糸液を調製したが、ヒドロキシプロピルセルロースとフィブリノゲンが相分離し、フィブリノゲンが析出し、エレクトロスピニングを行うことができなかった。
【0050】
実施例4
2−プロパノールに実施例1で粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、16wt%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=40/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12.5kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.43μm、平均厚みは152μm、目付は1.86mg/cm、嵩密度は122mg/cmであった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ1秒以内に溶解した。また、得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断し、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定を実施した。結果、固定化蛋白質量は0.30mg/cmであった。得られたシートはハサミでトリミングが可能であった。
【0051】
実施例5
2−プロパノールに実施例1で粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、16wt%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=100/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12.5kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.35μm、平均厚みは191μm、目付は2.74mg/cm、嵩密度は143mg/cmであった。得られた繊維成形体の溶解テストを実施したところ1秒以内に溶解した。また、得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断し、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定を実施した。結果、固定化蛋白質量は0.51mg/cmであった。得られたシートはハサミでトリミングが可能であった。
【0052】
実施例6
<脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層の作製>
エタノールに実施例1と同様に乳鉢で粉砕したトロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10wt%になるようにポリ乳酸(PL18 Purac Biomaterial製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリ乳酸=100/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は15kV、紡糸液流量は3.0mL/h、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。得られたシートを2cm×2cmに切断し、1mLの生理食塩水で蛋白質を抽出して活性・ELISA測定を実施した。結果、活性測定値は23U/cm、ELISA測定値は16μg/cmであった。
【0053】
<組織接着効果評価試験>
フィブリノゲンの活性を確認するために、実施例5で作製した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と実施例6で作製した脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層の組み合わせで接着試験を行った。接着力はウサギの皮と当該シート(2cm×2cm)を接着させ、フィブリンゲルが形成され、接着しているか確認した。この際、重ねたシートには事前に200μLの水を水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層に添加し、40秒経過後に水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層をウサギの皮に貼付した。その後、37℃で3分間静置後、皮とシートとの接着性を確認した。対照としてフィブリン接着材の成分が固定化されたコラーゲンシート製剤(製品名:タココンブ/CSLベーリング(株)):フィブリノゲンおよびトロンビン等の成分が、スポンジ状のウマコラーゲンのシートを支持体とし、シートの片面に真空乾燥により固着されたもの:2cm×2cm)を使用した。その結果、評価対象のシートは、比較対照のコラーゲンシート製剤以上の接着力を示した。
【0054】
<考察>
比較例1で1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/MINIMUM ESSENTIAL MEDIUM EAGLE 10×(9/1=v/v)を用いたのは、フィブリノゲン凍結乾燥粉末からエレクトロスピニング法による繊維成形体製造を可能にするためである。フィブリノゲンは水性溶媒に溶解することが困難なため、このフィブリノゲン凍結乾燥粉末にはフィブリノゲンの溶解性を増すための添加剤が含まれている。この比較例1ではかかるフィブリノゲン凍結乾燥粉末をそのまま用いているにもかかわらず、それを繊維成形体としたとき、そこからのフィブリノゲン溶出はみられなかった。
これに対し、実施例1−5にあるように、フィブリノゲンを平均粒子径0.01〜100μmの粒子とし、その分散液を経てそれを水およびエタノールに溶解性のポリマーに含有させる形態とすることで、1秒以内の溶解が達成されたのである。また、実施例6からは、本発明のシート成形体においては、止血性蛋白質の生理活性は保持されていることがわかる。
一方、比較例2では、国際公開WO2009/031620号に倣い、ボルヒールのフィブリノゲン凍結乾燥粉末をそのフィブリノゲン溶解液に溶解し、それを水溶性セルロース誘導体溶液と混合する方法を試みたが、均一な組成物を得ることができなかった。
【0055】
<実施例7〜13についての測定法>
1B.紡糸用ドープ中のフィブリノゲン、トロンビン、およびフィブリンの分散性:
脂肪族ポリエステル添加直前のフィブリノゲン、トロンビン、およびフィブリンの分散液を目視により観察し、これらの蛋白質の分散性を確認した。
2B.繊維成形体の厚み:1Aと同じ方法により測定した。
3B.繊維径(平均繊維径):2Aと同じ方法により測定した。
4B.シートの取り扱い性:
得られた繊維成形体が容易に取り扱い可能であるかを定性的に評価した。
【0056】
実施例7
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル1)を、ジェットミル(株式会社セイシン企業:商品名「超微少量ラボジェットミル」)を用いて微粒化した。これをエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたフィブリノゲン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリ乳酸を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリ乳酸溶液のポリ乳酸濃度は10重量%、フィブリノゲン凍結乾燥粉末濃度は4重量%(フィブリノゲンとして1.8重量%)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリ乳酸添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリ乳酸溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は3.3μm、厚さは161μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。なお、上記エタノールの代わりにジクロロメタンを用いた場合(実施例14)には得られた繊維成形体の取り扱い性に低下が認められ、この観点ではエタノールがより好ましいものと考えられた。
【0057】
実施例8
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)をエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたトロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリ乳酸を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリ乳酸溶液のポリ乳酸濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は4重量%(トロンビンとして0.045重量%)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリ乳酸添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリ乳酸溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は6.2μm、厚さは170μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。なお、上記エタノールの代わりにジクロロメタンを用いた場合(実施例15)には得られた繊維成形体の取り扱い性に低下が認められ、この観点ではエタノールがより好ましいものと考えられた。
【0058】
実施例9
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)をエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたトロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリ乳酸を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリ乳酸溶液のポリ乳酸濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は7重量%(トロンビンとして0.078重量%)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリ乳酸添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリ乳酸溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は8.1μm、厚さは175μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。
【0059】
実施例10
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)をエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたトロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリ乳酸を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリ乳酸溶液のポリ乳酸濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は10重量%(トロンビンとして0.11重量%)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリ乳酸添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリ乳酸溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は9.4μm、厚さは210μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。
【0060】
実施例11
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)をエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたトロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体(Purasorb PDLG5010、Purac社製)を添加してポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体溶液のポリマー濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は5重量%(トロンビンとして0.06重量%)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は15kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は4.8μm、厚さは330μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。
【0061】
実施例12
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)を2−プロパノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、分散性に優れたトロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体(Purasorb PDLG5010、Purac社製)を添加してポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体を溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体溶液のポリマー濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は5重量%(トロンビンとして0.06重量%)、2−プロパノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体添加前の蛋白質/有機溶媒分散液を目視観察すると、沈殿がなく均一な分散状態にあることがわかった。得られたポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は15kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は6.4μm、厚さは320μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。
【0062】
実施例13
エタノールにトロンビン凍結乾燥粉末(リコンビナントトロンビン1mg/mL、3.4%塩化ナトリウム、1.2%クエン酸ナトリウム、0.29%塩化カルシウム、1%マンニトールpH7を凍結乾燥したもの)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10重量%になるようにポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体(Purasorb PDLG5010、Purac社製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体=100(トロンビンとして1.67)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度26℃、湿度29%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は20V、紡糸液流量は4.0mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は35cmであった。得られた繊維成形体の厚さは136μmであり、柔軟かつ取り扱い可能であった。得られたシートのトロンビン溶出性を溶出試験により確認した。試験方法は以下に示す通りである。
【0063】
<溶出試験>
(1)試料を直径6mmの大きさに打ち抜き、質量を測定した。
(2)試料をマイクロチューブに入れ、HPC含有生理食塩水、又は生理食塩水にて溶出試験を実施した。
(3)サンプリング時間は10、30、60、120秒とする。
(4)サンプリングした試料を液体クロマトグラフィーにより測定を行い、ピーク面積からトロンビン含量を求めた。
(5)溶出率を下記の式より求めた。
溶出率(%)=得られたトロンビン含量/理論固定化トロンビン含量×100
理論固定化トロンビン含量は、仕込んだトロンビン重量%と繊維成形体の目付け から算出した。
溶出試験の結果を図1に示す。HPC含有生理食塩水では、生理食塩水よりも溶出率が向上した。これより、本発明の積層シート成形体において、シート中にHPCを含有させることがトロンビンの溶出率の向上に寄与していることがわかった。
【0064】
<実施例14〜15、比較例3〜4についての測定法>
1C.止血性蛋白質粒子粒子径(平均粒子径):
紡糸溶液をデジタルマイクロスコープ(キーエンス株式会社:商品名「VHX-100」)により、倍率1000倍で撮影して得た写真から無作為に10個の粒子を選んで直径を測定し、平均値を平均粒子径とした。
2C.繊維成形体の厚み:1Aと同じ方法により測定した。
3C.繊維径(平均繊維径):2Aと同じ方法により測定した。
4C.止血性蛋白質の溶出試験:
得られた繊維成形体を2cm×2cmに切り出し、1mLの生理食塩水に3分間もしくは3時間浸漬して水溶性成分を溶出させた。n=3〜6にて前後の重量変化を測定し、以下の式により算出した抽出率の平均値を求めた。水溶性成分理論重量は、仕込み止血性蛋白質重量%と繊維成形体の目付けから算出した。
抽出率[%]=(重量減少[mg]/水溶性成分理論重量[mg])×100
5C.止血性蛋白質の担持性試験:
得られた繊維成形体を1cm×1cmに切り出し、これを鋏でおよそ4分割となるように切り分けた。前後の重量を測定し、重量変化を算出した。
重量変化[%]=(分割後の重量[mg]/分割前の重量[mg])×100
6C.繊維成形体の柔軟性試験:
(JIS−L−1906 8.19.2 B法)スライド法を参考とし、試験片の大きさを0.5cm×3.5cmとして、以下の手順により柔軟性測定を行った。試験機本体と移動台の上面が一致するようにしてから、幅0.5cm分をカバーガラスと試験機本体とで挟み込み形で試験片を設置した。移動台を降下させ、試験片の自由端が移動台から離れるときの降下長さδ値をスケールから算出した(δ値が大きいほど柔軟性が高い)。
【0065】
実施例14
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル1)を、ジェットミル(株式会社セイシン企業:商品名「超微少量ラボジェットミル」)を用いて微粒化した。これをジクロロメタン(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施することでフィブリノゲン分散液を調製した。L体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液のポリマー濃度は10重量%、フィブリノゲン凍結乾燥粉末濃度は4重量%(フィブリノゲンとして1.8重量%)となるように調製した。紡糸溶液中に分散したフィブリノゲンの粒子径は12μmであった。得られたポリマー溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は14.9μm、厚さは325μmであった。シート重量と仕込み比から算出した、シートに含まれるフィブリノゲン量は0.43 mg/cmであった。3時間浸漬後の抽出率は40%であった。担持性試験における重量変化はなかった(100%保持)。柔軟性試験から得られたδ値は2.7cmであった。
【0066】
実施例15
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒールバイアル3)(凍結乾燥粉末40mg中に1.12%のトロンビン(750unit)を含む。)をジクロロメタン(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施することでトロンビン分散液を調製した。L体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液のポリマー濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は4重量%(トロンビンとして0.045重量%または750ユニット(U)/g)となるように調製した。紡糸溶液中に分散したトロンビンの粒子径は9μmであった。得られたポリマー溶液を湿度30%以下でエレクトロスピニング法により紡糸し、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12kV、噴出ノズルから平板までの距離は25cmであった。上記平板は、紡糸時は陰極として用いた。得られた繊維成形体の平均繊維径は16.6μm、厚さは291μmであった。シート重量と仕込み比から算出した、シートに含まれるトロンビン量は31.39U/cmであった。
【0067】
比較例3
トロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)をエタノール(和光純薬(株)製)に添加し、超音波バスによる処理を5分間実施し、トロンビン分散液を調製した。得られた分散液にジクロロメタン(和光純薬(株)製)とL体100%ポリ乳酸(Purasorb PL18、Purac社製)を添加してポリマーを溶解し、均一な溶液を調製した。得られた紡糸用ポリマー溶液のポリマー濃度は10重量%、トロンビン凍結乾燥粉末濃度は4重量%(トロンビンとして0.045重量%または750U/g)、エタノールとジクロロメタンの比が1:8重量比となるように調製した。紡糸溶液中に分散したトロンビンの粒子径は12μmであった。このポリマー溶液を風乾し、固体状態とした。繊維成形体と同様に溶出試験を行った結果、3分間浸漬後に約3%の水溶性成分が抽出された。
【0068】
比較例4
繊維成形体として、ポリグリコール酸系不織布であるネオベール(登録商標、グンゼ株式会社製)を用い、以下の手順でフィブリノゲン固定化シートを作製した(凍結乾燥法)。市販の生体組織接着材(製品名:ボルヒール:一般財団法人化学及血清療法研究所製)のキットに含まれるフィブリノゲン溶液1.25mLを、上記の繊維成形体(5×5cm)上に染み込ませた。この検体を凍結後、24時間凍結乾燥させたものをフィブリノゲン固定化シートとした。担持性試験において、担持していたフィブリノゲンが崩壊し粉末として損失した(重量変化89%)。柔軟性試験から得られたδ値は0.7cmであった。
【0069】
<実施例16〜29についての測定法>
1D.蛋白質粉末粒子径(平均粒子径)
フィブリノゲン凍結乾燥粉末を乳鉢で粉砕をしたものを、レーザー回折式粒度分布測定装置(Malvern:商品名「Master sizer2000」)により粒度分布を測定し、D50値(メディアン径)を平均粒子径とした。
2D.フィブリノゲン含量測定
得られたシートはΦ0.5cmに切り出した後、0.1%TFA溶液によりフィブリノゲンを抽出し、高速液体クロマトグラフィーで定量した。
【0070】
<試験条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:214nm)
カラム:Agilent Bio SEC−3(3μm、30nm、4.6×300mm、Agilent Technologies)
カラム温度:35℃
サンプラー温度:5℃
移動相:0.1%TFA含有水/0.1%TFA含有アセトニトリル=50/50
流量:0.5mL/min
分析時間:10min
【0071】
実施例16
<水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体の作製>
2−プロパノールにフィブリノゲン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル1)を分散させた後、16重量%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s、和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=100(フィブリノゲンとして46)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12.5kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.35μm、平均厚みは191μm、目付は2.74mg/cm、嵩密度は143mg/cmであった。得られたシートを0.5cm×0.5cmに切断し、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定(「7A.ELISA測定(1)フィブリノゲン」に記載の方法)を実施した。その結果、固定化蛋白質量は0.51mg/cmであった。
【0072】
実施例17
<脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の作製>
エタノールにトロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10重量%になるようにポリ乳酸(PL18 Purac Biomaterial製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリ乳酸=100(トロンビンとして1.1)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は15kV、紡糸液流量は3.0mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は25cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は9.37μm、平均厚みは210μm、目付は3.15mg/cm、嵩密度は150mg/cmであった。得られたシートを2cm×2cmに切断し、1mLの生理食塩水で蛋白質を抽出して活性(「8A.トロンビン活性測定」に記載の方法)・ELISA測定(「7A.ELISA測定(2)トロンビン」に記載の方法)を実施した。その結果、活性測定値は23.0U/cm、ELISA測定値は、16μg/cmであった。
【0073】
実施例18
<積層シート成形体の組織接着効果評価試験>
実施例16で作製した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体と実施例17で作製した脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の組み合わせで使用した場合の効果を確認するために、接着力の比較を行った。接着力はウサギの皮と当該シート(2cm×2cm)を接着させ、フィブリンゲルが形成され、接着しているか確認した。この際、重ねたシートには事前に200μLの水を水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体に添加し、40秒経過後に水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体をウサギの皮に貼付した。その後、37℃で3分間静置後、皮とシート成形体との接着性を確認した。対照としてフィブリン接着材の成分が固定化されたコラーゲンシート製剤(製品名:タココンブ/CSLベーリング(株)):フィブリノゲンおよびトロンビン等の成分が、スポンジ状のウマコラーゲンのシートを支持体とし、シートの片面に真空乾燥により固着されたもの:2cm×2cm)を使用した。その結果、本発明の積層シート成形体は比較対照のコラーゲンシート製剤以上の接着力を示した。
【0074】
実施例19
<水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体の作製>
2−プロパノールにフィブリノゲン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル1)を分散させた後、16重量%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(6−10mPa・s 和光純薬製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース=100(フィブリノゲンとして46)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は12.5kV、紡糸液流量は1.2mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は15cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は0.35μm、平均厚みは191μm、目付は2.74mg/cm、嵩密度は143mg/cmであった。得られたシートを20kGyで電子線滅菌した。滅菌したシートを0.5cm×0.5cmに切断して、62.5μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してELISA測定(「7A.ELISA測定(1)フィブリノゲン」に記載の方法)を実施した。その結果、固定化蛋白質量は0.78mg/cmであった。
【0075】
実施例20
<脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の作製>
エタノールにトロンビン凍結乾燥粉末(ボルヒール組織接着用:バイアル3)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10重量%になるようにポリ乳酸(PL18 Purac Biomaterial製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリ乳酸=100(トロンビンとして1.1)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は15kV、紡糸液流量は3.0mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は25cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は9.37μm、平均厚みは210μm、目付は3.15mg/cm、嵩密度は150mg/cmであった。得られたシート成形体を20kGyで電子線滅菌した。得られたシート成形体を2cm×2cmに切断し、1mLの生理食塩水で蛋白質を抽出して活性(「8A.トロンビン活性測定」に記載の方法)・ELISA測定(「7A.ELISA測定(2)トロンビン」に記載の方法)を実施した。その結果、活性測定値は14.7U/cm、ELISA測定値は11.4μg/cmであった。
【0076】
実施例21
<ウサギ肝臓滲出性出血に対する止血効果>
実施例19で作製した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体と実施例20で作製した脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の組み合わせで使用した場合の止血効果を、タココンブを使用した場合の止血効果と比較した。
動物の止血モデルとしてはウサギを用いた。ウサギを開腹し、肝臓の一部を切除して、その出血部位に対して、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなるシート成形体と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体を重ねて適用し、その止血効果(止血の有無、出血量)をみた。試験方法は以下に示す通りである。
(1)セラクタール10mg/kg(約1.0mL)ケタラール50mg/kg(約3.0mL)を筋肉内投与した。
(2)体重を測定し、腹部を剃毛後、仰臥位にて保定した。
(3)耳静脈より持続麻酔(2%ケタラール、20U/mLヘパリン添加生理食塩水)を行った。
(4)胸骨剣状突起直下から下腹部までを正中切開により開腹した。
(5)ヘパリンナトリウム注射液を耳静脈より300U/kg投与した。
(6)腸用ピンセットやガーゼなどを用いて創傷作製に十分な厚みのある肝葉(外側左葉、内側左葉、右葉)を引き出した。
(7)肝葉に皮ポンチで直径10mm、深さ4mmの創傷を作り、その部分をメスで切除した。
(8)切除創からの出血を10秒間、ベンシーツに吸収してその重量を測定した。創傷部出血が0.5g以上の傷を試験に使用した。
(9)創傷部位に2.5cm角に切断した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を重ねて、出血部位に水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層を適用し、1分間圧迫した。対照として用いるタココンブの場合は、2.5cm角に切断した後に生理食塩水を312.5μL滴下し、出血部位に適用し、1分間圧迫した。
(10)圧迫後、出血の有無および創傷部位からの出血をベンシーツに吸収して、その重量を測定した。
その結果、本発明の積層シート成形体を用いた場合、止血し(n=1)、適用後1分間の出血量は0.003gと極めて微量であった。一方、対照として用いたタココンブの場合(n=5)、適用後1分間の出血量は1.57gと止血効果は不十分であり、出血量が多かった。
【0077】
実施例22
<脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の作製>
エタノールにトロンビン凍結乾燥粉末(リコンビナントトロンビン1mg/mL、3.4%塩化ナトリウム、1.2%クエン酸ナトリウム、0.29%塩化カルシウム、1%マンニトールpH7を凍結乾燥したもの)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10重量%になるようにポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体(Purasorb PDLG5010、Purac社製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体=100(トロンビンとして1.67)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は20kV、紡糸液流量は4.0mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は35cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は3.8μm、平均厚みは127μm、目付は1.38mg/cm、嵩密度は109mg/cmであった。得られたシート成形体をΦ1cmに切り出し、200μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してトロンビン活性測定(「8A.トロンビン活性測定」に記載の方法)を実施した。その結果、活性測定値は18.3U/cmであった。
【0078】
実施例23
<水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体の作製>
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(リコンビナントフィブリノゲン10mg/mL、10mMアルギニン、130mM塩化ナトリウム、0.5%マンニトール pH8.5を凍結乾燥したもの)を乳鉢で粉砕し、平均粒子径が30μmの粉砕フィブリノゲン凍結乾燥粉末を作製した。2−プロパノールにこの粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、15重量%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(2.0−2.9mPa・s 日本曹逹製)およびマクロゴール(分子量:400 三洋化成工業製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース/マクロゴール=51(フィブリノゲンとして25.92)/34/15(w/w/w)のドープ液を調製した。得られたドープ液を用い、流延法によりフィルムを作製した。塗工間隔は127μmで、塗工速度は30.1mm/secであった。フィルム作製後、1分以内に実施例22で作製した脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を上部から積載することで水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を得た。得られた積層シート成形体の平均膜厚は157μmであった。得られた積層シート成形体を20kGyで電子線滅菌した。得られた積層シート成形体をΦ1cmに切り出し、200μLの生理食塩水で蛋白質を抽出してフィブリノゲンのELISA測定(「7A.ELISA測定(1)フィブリノゲン」に記載の方法)を実施した。結果、固定化蛋白質量は0.58mg/cmであった。
【0079】
実施例24
<ウサギ肝臓滲出性出血に対する止血効果>
実施例23で作製した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体の止血効果を、タコシールを使用した場合の止血効果と比較した。
動物の止血モデルとしてはウサギを用いた。ウサギを開腹し、肝臓の一部を切除し、その出血部位に対して、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を適用し、その止血効果(止血の有無、出血量)をみた。試験方法は実施例21に記載の方法と同じである。
その結果、本発明の積層シート成形体を用いた場合(n=4)、適用後1分間の出血量は0.003gと極めて微量であった。一方、対照として用いたタコシールの場合(n=4)、適用後1分間の出血量は0.65gと止血効果は不十分であり、出血量が多かった。
【0080】
実施例25
<脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体の作製>
エタノールにトロンビン凍結乾燥粉末(リコンビナントトロンビン1mg/mL、3.4%塩化ナトリウム、1.2%クエン酸ナトリウム、0.29%塩化カルシウム、1%マンニトールpH7を凍結乾燥したもの)を分散させた後、ジクロロメタンを加え、10重量%になるようにポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体(Purasorb PDLG5010、Purac社製)を溶解し、トロンビン凍結乾燥粉末/ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体=100(トロンビンとして1.67)/100(w/w)の紡糸液を調製した。温度22℃、湿度26%以下でエレクトロスピニング法により紡糸を行い、シート状の繊維成形体を得た。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は20kV、紡糸液流量は4.0mL/h、噴出ノズルからアースされた平板までの距離は35cmであった。得られた繊維成形体の平均繊維径は2.97μm、平均厚みは137μm、目付は1.49mg/cm、嵩密度は108mg/cmであった。
【0081】
実施例26
<水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体の作製>
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(リコンビナントフィブリノゲン10mg/mL、10mMアルギニン、130mM塩化ナトリウム、0.5%マンニトール pH8.5を凍結乾燥したもの)を乳鉢で粉砕し、平均粒子径が30μmの粉砕フィブリノゲン凍結乾燥粉末を作製した。2−プロパノールにこの粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、2.9重量%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(2.0−2.9mPa・s 日本曹逹製)およびマクロゴール(分子量:400 三洋化成工業製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース/マクロゴール=90(フィブリノゲンとして36.98)/7/3(w/w/w)のドープ液を調製した。得られたドープ液を用い、流延法によりフィルムを作製した。塗工間隔は50.8μmで、塗工速度は30.1mm/secであった。フィルム作成後、1分以内に実施例25で作製した脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を上部から積載することで、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を得た。得られた積層シート成形体の平均膜厚は169μmであった。得られた積層シート成形体をΦ0.5cmに切り出し、0.1%TFA溶液でフィブリノゲンを抽出して高速液体クロマトグラフィーにより定量(「2D.フィブリノゲン含量測定」記載の方法)した。その結果、固定化蛋白質量は0.54mg/cmであった。
【0082】
実施例27
<ウサギ肝臓滲出性出血に対する止血効果>
実施例26で作製した水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体の止血効果を、タコシールを使用した場合の止血効果と比較した。
動物の止血モデルとしてはウサギを用いた。ウサギを開腹し、肝臓の一部を切除し、その出血部位に対して水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を適用し、その止血効果(止血の有無、出血量)をみた。試験方法は実施例21に記載の方法と同じである。
その結果、本発明の積層シート成形体を用いた場合(n=6)、適用後1分間の出血量は0.003gと極めて微量であった。一方、実施例24に示したように対照として用いたタコシールの場合(n=4)、適用後1分間の出血量は0.65gと止血効果は不十分であり、出血量が多かった。
【0083】
実施例28
フィブリノゲン凍結乾燥粉末(リコンビナントフィブリノゲン10mg/mL、10mMアルギニン、110mM塩化ナトリウム、1%グリシン、0.2%マンニトール、0.25%フェニルアラニン、0.4%ヒスチジン、0.1%クエン酸3ナトリウム pH8.5を凍結乾燥したもの)を乳鉢で粉砕し、平均粒子径が22μmの粉砕フィブリノゲン凍結乾燥粉末を作製した。2−プロパノールにこの粉砕したフィブリノゲン凍結乾燥粉末を分散させた後、4.2重量%になるようにヒドロキシプロピルセルロース(2.0−2.9mPa・s 日本曹逹製)を溶解し、フィブリノゲン凍結乾燥粉末/ヒドロキシプロピルセルロース/=90(フィブリノゲンとして26.55)/10(w/w)のドープ液を調製した。得られたドープ液を用い、流延法によりフィルムを作製した。塗工間隔は101.6μmで、塗工速度は30.1mm/secであった。フィルム作成後、3分以内に実施例25に記載の方法で作製したトロンビン凍結乾燥粉末/ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体=20/100、40/100、60/100、80/100、100/100の比率のシート状繊維成形体を上部から積載することで、水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を得た。これらの積層シート成形体の止血効果をラットoozingモデル薬効評価(ラット肝臓に創傷をつけた滲出血モデルを用いて試験を実施した。被験シート成形体を創傷部に一定時間(本実施例では5分間)圧迫し、その後1分間出血の有無を目視にて評価。)で確認した。試験はn=6で実施し、出血の有無を確認した。
その結果、表1に示すように、評価したトロンビン凍結乾燥粉末/ポリグリコール酸−ポリ乳酸共重合体の比率、20/100〜100/100の範囲において、いずれもタコシールを上回る止血効果が確認された。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例29
実施例25に記載の方法で、トロンビン含量の異なるシート状繊維成形体を得た(トロンビン含量0.23U/cm、2.8U/cm、11.4U/cm、28.5U/cm)。ついで実施例26に記載の方法でフィブリノゲン含量が一定の水溶性ポリマーおよびフィブリノゲンからなる層と脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を得た。得られたフィブリノゲン含量が一定でトロンビン含量の異なる積層シート成形体を用いて、トロンビン含量の接着力に及ぼす影響を評価した。試験方法は下記に示す通りである。
(1)積層シート成形体及び陽性対照製剤(タコシール)(1cm×1cm)をプラスチック製四角柱の底部(1cm×1cm)に両面テープで接着させた。
(2)積層シート成形体及び陽性対照製剤(タコシール)を1mLの生理食塩水に10秒間浸し、ラワン板に密着させた。
(3)四角柱の上から100gの加重を5分間かけた。
(4)四角柱を30mm/min.の速度で牽引し、デジタルフォースゲージにて張力を測定した。
試験はn=5で実施し、張力平均値を接着力(g)として評価した。その結果、表2に示すように、いずれの積層シート成形体もタコシールよりも高い接着力を示した。
【0086】
【表2】
【0087】
実施例30
実施例25に記載の方法で、脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体を得た(トロンビン含量24.2U/cm)。このシート成形体の止血効果を実施例28に記載の方法(圧迫時間は3分間)で確認した。試験はn=6で実施した。その結果、6/6で止血が確認された。
【0088】
実施例31
実施例25に記載の方法で脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなるシート成形体(トロンビン含量範囲:19〜26U/cm)を得て、ついで実施例26に記載の方法で、水溶性ポリマーおよび含量が異なるフィブリノゲンからなる層と、脂肪族ポリエステルおよびトロンビンからなる層を含んでなる積層シート成形体を得た。得られたトロンビン含量が一定範囲内でフィブリノゲン含量の異なる積層シート成形体の止血効果を実施例28に記載の方法で確認した。その結果、表3に示すように、いずれのフィブリノゲン含量でも高い止血効果が確認されたが1.47mg/cmの場合やや効果が低下した。
【0089】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のシート成形体は止血材として用いられ、医療品製造業で利用できる。
図1