特許第5845012号(P5845012)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5845012衝撃荷重測定用荷重計測装置及び衝突荷重計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5845012
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】衝撃荷重測定用荷重計測装置及び衝突荷重計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/26 20060101AFI20151224BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   G01L1/26 Z
   G01L5/00 F
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-153547(P2011-153547)
(22)【出願日】2011年7月12日
(65)【公開番号】特開2013-19771(P2013-19771A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2013年8月12日
【審判番号】不服2015-1663(P2015-1663/J1)
【審判請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 智史
(72)【発明者】
【氏名】水村 正昭
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 俊二
(72)【発明者】
【氏名】野村 成彦
(72)【発明者】
【氏名】上西 朗弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】和田 学
(72)【発明者】
【氏名】江上 徹
【合議体】
【審判長】 酒井 伸芳
【審判官】 森 竜介
【審判官】 堀 圭史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−234975(JP,A)
【文献】 特開2006−284514(JP,A)
【文献】 特開昭63−15131(JP,A)
【文献】 特開平2−114140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/26
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張荷重又は圧縮荷重を計測する円柱状の荷重検出部、及び該荷重検出部の軸線方向の両端部にそれぞれ設けられた一対の保持部を有し、これら一対の保持部と上記荷重検出部とが一体に、且つ一対の保持部における荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも大きく形成された複数の荷重計測部材と、
各荷重計測部材の一方側の保持部が密着してボルトにより連結された、引張荷重又は圧縮荷重を作用させる単一の接触部材と、
各荷重計測部材の他方側の保持部が密着してボルトにより連結された単一の支持部材とを備え、
前記各荷重計測部材、接触部材及び支持部材が、それぞれ鉄のヤング率以上のヤング率の素材からなり、
上記複数の荷重計測部材は、上記接触部材と支持部材との間に、各荷重検出部の軸線方向が相互に平行となるように並列に配設されていて、
上記接触部材及び支持部材は、上記荷重計測部材の荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、各荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも大きく形成されており、
かつ上記各荷重計測部材の一方側の保持部及び他方側の保持部が、それぞれ隣接する荷重計測部材の保持部同士を互いに密着させた状態で配置されていることを特徴とする、衝撃荷重測定用荷重計測装置。
【請求項2】
上記保持部が、平面視多角形の角柱状であることを特徴とする、請求項1に記載の衝撃荷重測定用荷重計測装置。
【請求項3】
引張荷重又は圧縮荷重を計測する円柱状の荷重検出部、及び該荷重検出部の軸線方向の両端部にそれぞれ設けられた一対の保持部を有し、これら一対の保持部と上記荷重検出部とが一体に、且つ一対の保持部における荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも大きく形成された複数の荷重計測部材と、
各荷重計測部材の一方側の保持部が密着してボルトにより連結された、引張荷重又は圧縮荷重を作用させる単一の接触部材と、
各荷重計測部材の他方側の保持部が密着してボルトにより連結された単一の支持部材とを備え、
前記各荷重計測部材、接触部材及び支持部材が、それぞれ鉄のヤング率以上のヤング率の素材からなり、
上記複数の荷重計測部材は、上記接触部材と支持部材との間に、各荷重検出部の軸線方向が相互に平行となるように並列に配設されていて、
上記接触部材及び支持部材は、上記荷重計測部材の荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、各荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも大きく形成されており、
かつ上記各荷重計測部材の一方側の保持部及び他方側の保持部が、それぞれ隣接する荷重計測部材の保持部同士を互いに密着させた状態で配置されている荷重計測装置を用いて、前記接触部材に加わる衝突荷重を測定することを特徴とする、衝突荷重計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷重計測装置に関するものであり、特に自動車構造を代表とする衝撃吸収部材の特性評価に必須の高速変形における引張荷重または圧縮荷重、すなわち衝撃荷重の計測に使用される衝撃荷重測定用荷重計測装置、およびそれを用いた衝突荷重計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車業界では、衝突時の乗員への傷害を低減しうる車体構造の開発が急務の課題となっており、車体の衝突変形挙動を最適化するためには個々の部材やそれらの組合せ構造の変形特性を把握することが極めて重要である。
そのため、従来においては、大型の圧縮試験機等を用いて部材を低速で変形させるという準静的な方法で該部材の特性評価が行われてきた。
【0003】
ところが、実際の衝突変形は高速で変形が起こるものであり、準静的な荷重負荷での挙動とは差がある。特に、自動車で多く使用される薄板構造において重要な座屈は荷重負荷が動的か準静的かによって挙動が異なることが知られている。
このため、動的な変形特性を把握するために落重試験、即ち、固定した部材に対して、上部から落錘を衝突させて動的な変形を起こさせる試験を行って、実際の衝突時の変形に近づけるようにしていた。
【0004】
しかしながら、特性評価には部材の衝撃変形時の吸収エネルギーを評価する必要があるため、吸収エネルギーの評価には部材の圧潰距離と、その時の圧潰荷重の計測が必要となるが、このような動的な試験においては、この圧潰荷重の計測が非常に難しいのが実情であった。
即ち、一般に通常の準静的な試験で使われるロードセルで動的な荷重を計測した場合、計測中に衝撃弾性波がロードセル中を反射・伝播して、この衝撃弾性波の伝播に起因した荷重の振動が発生・重畳するため、該衝撃弾性波が計測荷重の計測に影響を与え、これにより計測荷重真の荷重計測が出来ないという問題があった。
さらには、近年部材単体を対象とした試験だけでなく、複数の部材を組み合わせた構造体での衝突試験が活発化しており、部材組合せにより試験体の大きさが複雑に変化する衝突試験に対応するため、試験用の治具を個々に設計・製作しており、試験実施までに長い設計・製作期間と大きいコストがかかるという問題が出てきた。
【0005】
上述のような動的な荷重の計測方法については、材料の応力−ひずみ関係を計測するため、例えば特許文献1には、試験体の動的変形特性を計測する際に、動的荷重の作用開始点とその支持構造が直線的に配置されるような装置において、作用開始点、試験体、荷重検出部、荷重検出部の支持構造がこの順に配置されており、かつ、荷重検出部が円柱状であり、その直径D(mm)と、長さL(mm)の比が、0.3≦L/D≦3を満たし、かつ、(荷重検出部の断面積)<(荷重検出部の支持構造の断面積)を満たす荷重計測装置が示されている。また、試験体の支持が必要な場合には、作用開始点、試験体、試験体の支持部、荷重検出部、支持構造がこの順に配置され、さらに、(荷重検出部の断面積)<(試験体の支持部の断面積)の条件を満たす荷重計測装置が記載されている。
【0006】
上記特許文献1に記載された荷重計測装置は、動的な荷重の検出であっても精度よく行うことができるが、荷重の検出を行う荷重検出部は1つだけ設けられているため、該荷重検出部に偏心荷重が作用した場合には複雑な曲げモーメントが発生することになる。特に、近年増大している複雑な構造体に対する試験の場合、引張荷重または圧縮荷重がどの位置に作用するかが特定できない場合も多いため、荷重検出部に偏心荷重が作用する可能性が高い。
【0007】
このとき、この特許文献1に記載された荷重計測装置においても、荷重検出部の軸線方向に作用する荷重を測定することは一応は可能であるものの、偏心荷重が作用した場合には上述のように荷重検出部には複雑な曲げモーメントが発生するため、その曲げモーメントの影響を受けて正確な荷重計測を行うことができないことが考えられる。また、荷重検出部に貼り付けるひずみゲージの位置によって測定精度が変化しやすいという問題も存在する。さらには、偏心荷重によって荷重検出部の一部に応力が集中し、該荷重検出部の一部に集中的に変形してしまうことがあるため、本来弾性変形のみを前提としている荷重検出部に塑性変形が生じてしまう可能性があり、やはり正確な荷重計測ができないことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−284514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の技術的課題は、高速変形における高精度引張荷重または圧縮荷重、すなわち衝撃荷重を計測するに際して、たとえ偏心荷重が作用しても荷重を正確に計測することができ、かつ部材単体から複数部材の組合せである構造体まで広範囲の規模の衝突試験で荷重測定装置に関する治具の設計・製作の時間的・金銭的コストを軽減できる衝撃荷重測定用荷重計測装置、及びそれを用いた衝突荷重計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の衝撃荷重測定用荷重計測装置は、引張荷重又は圧縮荷重を計測する円柱状の荷重検出部、及び該荷重検出部の軸線方向の両端部にそれぞれ設けられた一対の保持部を有し、これら一対の保持部と上記荷重検出部とが一体に、且つ一対の保持部における荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも大きく形成された複数の荷重計測部材と、各荷重計測部材の一方側の保持部が密着してボルトにより連結された、引張荷重又は圧縮荷重を作用させる単一の接触部材と、各荷重計測部材の他方側の保持部が密着してボルトにより連結された単一の支持部材とを備え、前記各荷重計測部材、接触部材及び支持部材が、それぞれ鉄のヤング率以上のヤング率の素材からなり、上記複数の荷重計測部材は、上記接触部材と支持部材との間に、各荷重検出部の軸線方向が相互に平行となるように並列に配設されていて、上記接触部材及び支持部材は、上記荷重計測部材の荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、各荷重検出部における該軸線と大きく形成されており、かつ上記各荷重計測部材の一方側の保持部及び他方側の保持部が、それぞれ隣接する荷重計測部材の保持部同士を互いに密着させた状態で配置されていることを特徴とするものである。
また本発明の衝撃荷重測定用荷重計測装置は、上記保持部を、平面視多角形の角柱状とすることができる。
さらに本発明の衝突荷重計測方法は、引張荷重又は圧縮荷重を計測する円柱状の荷重検出部、及び該荷重検出部の軸線方向の両端部にそれぞれ設けられた一対の保持部を有し、これら一対の保持部と上記荷重検出部とが一体に、且つ一対の保持部における荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも大きく形成された複数の荷重計測部材と、各荷重計測部材の一方側の保持部が密着してボルトにより連結された、引張荷重又は圧縮荷重を作用させる単一の接触部材と、各荷重計測部材の他方側の保持部が密着してボルトにより連結された単一の支持部材とを備え、前記各荷重計測部材、接触部材及び支持部材が、それぞれ鉄のヤング率以上のヤング率の素材からなり、上記複数の荷重計測部材は、上記接触部材と支持部材との間に、各荷重検出部の軸線方向が相互に平行となるように並列に配設されていて、上記接触部材及び支持部材は、上記荷重計測部材の荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、各荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも大きく形成されており、かつ上記各荷重計測部材の一方側の保持部及び他方側の保持部が、それぞれ隣接する荷重計測部材の保持部同士を互いに密着させた状態で配置されている荷重計測装置を用いて、前記接触部材に加わる衝突荷重を測定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、荷重検出部を備えた複数の荷重計測部材を、上記接触部材と支持部材との間に、各荷重検出部の軸線方向が相互に平行となるように並列に配設したため、接触部材に偏心荷重が作用したとしても、曲げモーメントの影響が小さい該偏心荷重の作用位置の直下あるいはその近傍の荷重計測部材の荷重検出部によりその荷重を高精度で計測することができる。また、各荷重計測部材は、一対の保持部における荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも大きく形成されているため、接触部材に偏心荷重が作用した場合には、各荷重計測部材の荷重検出部は各々弾性変形し、また他の荷重計測部材の荷重検出部に接触等によって干渉することもないため、従来のように、偏心荷重に起因する変形の集中による塑性変形が防止される。
【0012】
さらに、各荷重計測部材の一対の保持部と上記荷重検出部とを一体に形成し、且つ荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも、一対の保持部及び接触部材並びに支持部材における荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積を大きく形成したため、各荷重計測部材の荷重検出部内における応力波の反射・干渉を促進させることができる。これにより、計測すべき荷重に係る荷重検出部内での応力波の早期の飽和を図り、また該荷重検出部における応力波の伝播の乱れの影響を排除することができる。この結果、自動車構造を代表とする衝撃吸収部材の特性評価に必須の高速変形を含む広範囲の変形速度における高精度引張荷重または圧縮荷重の計測を行うことが可能となる。
また、水平断面の断面積の小さい荷重検出部を有する荷重計測部材を1ユニットとした集合体として全体が構成されているため、大規模な構造体での試験でも、ユニットを増やしていくだけで対応でき、複雑な治具の設計・製作による時間的・金銭的コストを大幅に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る荷重計測装置を模式的に示す正面図である。
図2】同平面図である。
図3】本発明において用いる荷重計測部材を模式的に示す(a)正面図、(b)A−A断面図である。
図4】荷重検出部の荷重の上昇過程を説明する説明図である。
図5】実施例の各荷重計測装置の説明図である。
図6】本発明に係る荷重計測装置と従来の荷重計測装置とについての、測定結果を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1図3は本発明の荷重計測装置の一実施の形態を示すもので、この実施の形態の荷重計測装置は、鉛直方向に延びる荷重検出部4を備えた複数の荷重計測部材1と、試験体を接触させて引張荷重又は圧縮荷重を作用させる単一の接触部材2と、試験時に剛体等に固定されて上記荷重計測部材を支持する単一の支持部材3とを備えている。
そして、上記複数の荷重計測部材1は、上記接触部材2と支持部材3との間に、各荷重検出部4の軸線が相互に平行となるように並列に配設されていて、全体として全部の荷重計測部材1が接触部材2と支持部材3との間に挟まれた状態で保持された構成となっている。
【0015】
この実施の形態においては、荷重計測部材1の上部側に上記接触部材2が、下部側に上記支持部材3がそれぞれ配設されている。
また、この実施の形態の荷重計測装置は、図1及び図2に示すように、荷重計測部材1を、平面視において横方向に6列、縦(奥行き方向)に6列ずつ計36個を並べた構成となっており、結果として、荷重計測装置全体としては、36個の荷重検出部4を備えた構成となっている
なお、この実施の形態の荷重計測装置を構成する上記接触部材2及び支持部材3、並びに各荷重計測部材1(つまり、荷重検出部4、及び後述する上部側保持部5・下部側保持部6)については、いずれも同等材質、すなわち弾性率および密度が同程度のもので形成されている。
【0016】
上記各荷重計測部材1は、図3に示すように、鉛直方向に立ち上がる中実の円柱状に形成された単一の上記荷重検出部4と、該荷重検出部4の軸線方向の両端部、即ち荷重検出部の上下両端部にそれぞれ設けられた、上下一対の保持部である上部側保持部5及び下部側保持部6とをそれぞれ備えている。したがって、各荷重計測部材1は、全体として荷重検出部4がこれら上部側保持部5と下部側保持部6との間に挟まれ、且つ荷重検出部4の軸線が上下方向に延びたものとなっている。
【0017】
上記荷重検出部4の外周面には、図示しないひずみゲージが貼付けられていて、このひずみゲージにより測定した表面ひずみから荷重検出を算出することができるようになっている。ここで、この荷重検出部4を中実の円柱状としているのは、断面内の荷重分布を均一とするためであり、この結果、ひずみゲージによる荷重計測の精度が高められる。
この点について詳しく説明すると、例えば荷重検出部を角柱状とした場合には、該荷重検出部に偏心荷重が作用した際に、応力が角隅部に集中して該角隅部に局所的な変形が生じやすく、また、その変形も圧縮変形やせん断変形が入り混じった複雑な変形となる。後で詳述する応力波は、伝播する物体の変形によって速度が変化することから、荷重検出部にこのような複雑な変形が生じた場合には、該荷重検出部を伝播速度の異なる応力波が時間差をもって通過することになる。そして、このような応力波の時間差は荷重検出時にはノイズとしてあらわれるため、結果として高精度の荷重計測が阻害されることとなる。さらに、応力が角隅部等に局部的に集中すると、この種の荷重検出部としてはあってはならない塑性変形が生じる可能性が非常に高くなる。したがって、角柱状等の局所的な変形を生じ易い形状のものは、荷重検出部としてはきわめて不適であるといえる。
そのため、本発明においては、荷重検出部を中実の円柱状として、断面内の荷重分布を均一とすることにより局所的な変形集中を防いで極力単純な変形が生じるようにし、これにより、荷重検出部内における応力波の速度の変化を防止して該応力波が時間差をもって通過することを防ぎ、荷重検出時のノイズを排除するようにしている。
なお、荷重検出部4の軸線方向長さは、ひずみゲージの貼付けができる範囲内において、できるだけ短い方が望ましく、これにより、荷重計測の際に荷重検出部4全体に応力波が伝播する時間を低減することができるため、後述する上記応力波の荷重検出部4での早期飽和を一層促進させることができる。
【0018】
さらに、上記上部側保持部5及び下部側保持部6は、この実施の形態においては、鉛直方向に立ち上がった平面視略正方形状の立方体状にそれぞれ形成されて、相互に同形のものとなっている。そして、上記接触部材2と支持部材3との間において、隣接する荷重計測部材の上部側保持部5同士、下部側保持部6同士がそれぞれ密着した状態で配置されている。
したがって、上記接触部材2と支持部材3との間にある6列×6列、計36個の荷重計測部材1は、これらの荷重計測部材1すべての上部側保持部5、下部側保持部6の集合によって、平面視略正方形状の上下端面を形成するように並べられた格好となっている。
【0019】
また、上記荷重計測部材1は、削り出し等によって上記荷重検出部4と上部側保持部5及び下部側保持部6とが一体に形成され、いずれの荷重計測部材1も相互に同形同大のものとなっている。これら荷重検出部4と上部側保持部5及び下部側保持部6とを一体に形成するのは、荷重計測手段1内、つまり荷重検出部4と上部側保持部5及び下部側保持部6との接合部分において、応力波伝播に伴う振動の発生を抑えるためであり、これにより、荷重計測時にこの振動によるノイズが発生するのを防止して荷重計測の高精度化を図っている。
さらに、この荷重計測部材1、つまり荷重検出部及び上部側保持部5並びに下部側保持部6は、全体として高ヤング率の素材、例えば鉄等によって構成されていて、荷重計測部材後述する応力波の伝播速度を可及的に早めることができるようにしている。
また、図1に示すように、上部側及び下部側保持部5,6の各水平断面、即ち荷重検出部4の軸線と直交する断面の断面積Ah,Ahは、荷重検出部4の水平断面、即ち該荷重検出部4の軸線と直交する断面の断面積Akよりも大きく形成されている。
【0020】
上記接触部材2は、平面視略正方形状の板体状(立方体状)に形成されたもので、上面側が上記試験体を接触させる接触面となっている一方、下面側には上記荷重計測部材1が収容・固定されている。
この接触部材2は、その板面が、上記荷重計測部材1すべての上部側保持部5の集合によって形成された平面視略正方形状の上端面とほぼ同じ、もしくは若干大きい大きさを有していて、下面側にすべての荷重計測部材1の上部側保持部5がはみ出すことなく収まるようになっている。
また、上記接触部材2と各荷重計測部材1とは、該接触部材2を貫通して荷重計測部材1の上部側保持部5にまで達する着脱自在のボルト(図示せず)により連結されており、これにより、ボルト固定時には接触部材2の下面と各荷重計測部材1の上部側保持部5の上端面とが密着した状態で位置不動に相互に連結されることとなる。
【0021】
上記支持部材3は、上記接触部材2とほぼ同形の平面視略正方形状の板体状(立方体状)に形成されたもので、上面側に上記荷重計測部材1が載置・固定されている。
この支持部材3は、その板面が、上記荷重計測部材1すべての下部側保持部6の集合によって形成された平面視略正方形状の下端面とほぼ同じ、もしくは若干大きい大きさ(この実施の形態の場合、接触部材2と同じ大きさ)を有していて、下面側にすべての荷重計測部材1の下部側保持部6がはみ出すことなく収まるようになっている。
また、この支持部材3と各荷重計測部材1とは、該支持部材3を貫通して荷重計測部材1の下部側保持部6にまで達する着脱ボルト(図示せず)により連結されており、これにより、ボルト固定時には支持部材3の上面と各荷重計測部材1の下部側保持部6の下端面とが密着した状態で位置不動に相互に連結されることとなる。
【0022】
ところで、上記接触部材2及び支持部材3は、各水平断面、即ち上記荷重計測部材1の荷重検出部4の軸線と直交する各断面の断面積As,Asが、各荷重検出部4の水平断面、即ち各荷重検出部4における該軸線と直交する断面の断面積Akよりも大きく形成されている。
また、接触部材2及び支持部材3の水平断面の断面積As,Asは、この荷重計測装置の構成上、上記各荷重計測部材1単体の上部側及び下部側保持部5,6の水平断面の断面積Ah,Ahよりも大きくなっている。
したがって、これら接触部材2及び支持部材3、各荷重計測部材1の上部側及び下部側保持部5,6、荷重検出部4の各水平断面の断面積As,As,As,As,Akの大きさの関係は、As=As>Ah=Ah>Akとなり、As,AsはAkに比べ極めて大きくなっている。
【0023】
ここで、接触部材2及び支持部材3、各荷重計測部材1の上部側及び下部側保持部5,6、荷重検出部4の各水平断面の断面積の大きさの関係を、As=As>Ah=Ah>Akとしたのは、荷重検出部1における応力波の飽和をより早期に完了させるためである。
以下、この点について具体的に説明する。
【0024】
試験体に衝撃荷重が加わる場合、試験体に高速変形が生じるが、このときに試験体に負荷される引張荷重または圧縮荷重f、すなわち荷重計測部材に生じる荷重は、図4に示すように段階的に上昇してΔt時間経過後に100%の荷重Fに到達するように計測される。これは、応力波が荷重検出部4を伝わる際に該荷重検出部4の端面で反射や、荷重検出部4内での応力波同士の干渉等を繰り返し、徐々に飽和するためである。
動的な試験を行った場合、応力波はまず荷重検出部4の内部で反射・干渉し、内部の変形を均一化する。そのとき、高速での高精度な荷重計測を行うためには、応力波ノイズの原因となる荷重検出部4内での反射・干渉を早期に飽和させることが必要である。
【0025】
したがって、試験体の高速変形時の荷重を正確に計測するためには、荷重検出部4内での応力波の反射・干渉を早期に飽和させて、荷重が不安定になる上記Δtの時間を短くすることが肝要である。
この点に鑑み、発明者らは、計測される荷重の複数の段差部分に注目し、これらの段差部分に相当する荷重を本来計測すべき荷重Fに対して相対的に増加させることにより、荷重検出部4に伝わる荷重を早期に荷重Fに到達させ、Δtの時間を短くすることができるとの知見を得た。
【0026】
そして、段差に相当する荷重を荷重Fに対して相対的に増加させるためには、荷重検出部4における応力波の反射率の増大を図り、該応力波を早期に飽和させることが効果的であることを発明者らは見出した。
また、応力波は断面積が小の領域から大の領域に進行する際に反射率が高くなり、反射が増大すること、及び応力波は断面積が大の領域から小の領域に進行する場合には、該断面積大の領域においては応力波の伝播の乱れの影響が非常に大きいが、小から大の領域に進行する場合、小の領域においては応力波の伝播の乱れの影響をほとんど受けないこともわかった。さらに、断面積の差が大きいほど、応力波の反射率が大きいことを見出した。
【0027】
そのため、本発明においては、荷重検出部4の水平断面の断面積を、荷重計測部材1を構成する部材の中で最も小さくし、さらに荷重計測部材1の上部側及び下部側保持部5,6の各断面積、接触部材2及び支持部材3の各断面積の順に断面積を大きくしている。
また、この実施の形態においては、各荷重計測部材1について、隣接する荷重計測部材1の各保持部5,6の側面同士を相互に密着させると共に、各荷重計測部材1の上部側保持部5と接触部材2とを、また下部側保持部6と支持部材3とを、それぞれ互いに密着させた構成としている。これにより、上部側保持部5と接触部材2とが、また下部側保持部6と支持部材3とが、それぞれ一体化された状態となるため、荷重検出部4の上側に位置する上部側保持部5・接触部材2全体の水平断面及び荷重検出部4の下側に位置する下部側保持部6・支持部材3全体の水平断面と、各荷重検出部4の水平断面の断面積との差はより大きくなる。
これにより、荷重検出部4における応力波の反射の増大・促進、干渉の促進を図り、該応力波を早期に飽和させることができるため、結果として、上記Δtの時間が短くなり、荷重検出部4での高精度な荷重計測が可能となる。
さらには、荷重検出部4の水平断面の断面積を最も小さくしたことにより、荷重検出部4においては応力波の伝播の乱れの影響がほとんど排除され、これにより、荷重検出部4で一層高精度な荷重測定が可能となる。
【0028】
上記構成を有する荷重計測装置は、支持部材3を剛体に固定した上で、上記接触部材2の接触面に試験体を衝突させたり、あるいは接触面上に試験体を載置して該試験体に対して落錘等により衝撃を加えたりするなどして該接触部材2に圧縮荷重又は引張荷重を作用させ、荷重計測部材1の荷重検出部4によりその荷重を計測する。
【0029】
このとき、上記複数の荷重計測部材1は、上記接触部材2と支持部材3との間に、各荷重検出部4の軸線方向が相互に平行となるように並列に配設されているため、接触部材2のどの位置荷重が作用したとしても、つまり仮に接触部材2に偏心荷重が作用したとしても、各荷重計測部材1の荷重検出部4は、略鉛直方向に個別に弾性変形する。
そのため、曲げモーメントの影響が比較的小さい、該接触部材2における荷重の作用位置の直下あるいはその近傍に位置する荷重計測部材1の荷重検出部4によって、本来計測すべき鉛直方向の荷重を高精度で計測することができる。
しかも、荷重検出部4の水平断面の断面積は、接触部材2や上部側及び下部側保持部5,6の水平断面の断面積よりも小さいため、接触部材2に偏心荷重が作用した場合であっても、各荷重検出部4は他の荷重計測部材1の荷重検出部4に干渉することがなくそれぞれが弾性変形し、これにより、従来のような偏心荷重に起因する変形の集中による塑性変形が防止される。
【0030】
さらに、各荷重計測部材1の上部側及び下部側の一対の保持部5,6と上記荷重検出部4とを一体に形成し、且つ荷重検出部4における該軸線と直交する断面の断面積よりも、相互に密着して配置された上部側保持部5と接触部材2、下部側保持6と支持部材3の、荷重検出部4の軸線と直交する断面の断面積を大きく形成したため、各荷重計測部材1の荷重検出部4内における応力波の反射・干渉を促進させることができる。これにより、計測すべき本来の荷重に係る荷重検出部4内での応力波の早期の飽和を図ることができ、この結果、高速変形を含む広範囲の変形速度における引張荷重または圧縮荷重の計測を高精度で行うことが可能となる。
【0031】
上記実施の形態においては、荷重計測部材1を、平面視において横方向に6列、縦(奥行き方向)に6列ずつ、計36個を並べて敷詰めたものとしているが、配置する荷重計測部材の数については、複数であれば任意に設定することができる。例えば、試験規模や試験内容等の各種条件ごとに荷重計測手段の配置総数を調整することができ、これより試験ごとに別の荷重計測装置を準備・設計する手間を省略することができる。
また、上記実施の形態においては、全荷重計測部材1の集まりによって上部側及び下部側保持部5,6が形成する上下端面が平面視略正方形状となるように荷重計測部材1を配列しているが、この荷重計測部材の配列についても試験規模や試験内容等の各種条件に応じて任意に設定することができる。
なお、荷重計測部材の設置数や配列については、荷重検出部ができるだけ密となるように荷重計測部材を集合配置させることができるように設定することが好ましい。
【0032】
さらに、上記実施の形態では、各荷重計測部材1の一対の保持部5,6を平面視略正方形状の立方体状としているが、この一対の保持部は、必ずしも平面視略正方形状の立方体状とする必要はない。この保持部については、上記荷重検出部と一体にでき、且つこの一対の保持部における荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも大きく形成されたものであれば、例えば平面視略三角形状や略五角形状、略六角形状等、平面視が任意の多角形の角柱状、あるいは円柱状等、任意の形状とすることができ、また、一方の保持部と他方の保持部とが相互に別の形状、さらには相互に異なる大きさとしてもよい。
ただし、この場合においては、隣接する荷重計測部材の上部側及び下部側保持部同士を互いに密着させた状態で配置することができるようにすることが好ましい。
【0033】
また、上記実施の形態においては、接触部材2及び支持部材3を、それぞれ平面視略正方形状の板体状(立方体状)とし、その板面が、上記荷重計測部材1すべての上部側保持部5あるいは下部側保持部6の集合によって形成された平面視略正方形状の上端面あるいは下端面とほぼ同じ大きさとしている。しかしながら、接触部材及び支持部材は、上記荷重計測部材の荷重検出部の軸線と直交する断面の断面積が、各荷重検出部における該軸線と直交する断面の断面積よりも大きく、また全部の荷重計測部材と連結することができるものであれば、その平面視形状や大きさについては任意に設定することができる。
したがって、荷重計測部材が接触部材や支持部材の周縁からはみ出していてもよく、逆に、接触部材や支持部材の周縁部分が、荷重計測部材の集合によって形成された保持部による上下端面よりはみ出して大きくてもよい。
【0034】
なお、この実施の形態においては、この荷重計測装置を構成する接触部材2及び支持部材3、並びに各荷重計測部材1については、いずれも同等材質、すなわち弾性率および密度が同程度のもので形成しているが、接触部材、支持部材、各荷重計測部材については、異なる材質で形成してもよい。ここで、これらの部材の材料が異なる場合、荷重の計測に際しては、断面積だけではなく、音響インピーダンスをあわせて考慮する必要がある。音響インピーダンスは材料の密度と応力波(=弾性波)伝播速度の積であらわされるため、異種の材料を用いる場合には、断面積に密度及び応力波伝播速度を乗じて考えることが肝要である。
なお、各部材に使用する材質についてはヤング率が高い素材を用いるのが好ましい。
【実施例】
【0035】
本発明の効果を確認するため、上記実施の形態において説明した荷重計測装置(以下、「本発明例」という。)と、比較例1として従来の荷重計測装置、つまり平面視略正方形状に形成された同形同大の直方体状の接触部材と支持部材との間に、水平断面の断面積がこれら接触部材と支持部材とほぼ同じである平面視略正方形状に形成された直方体状の荷重検出部を備えたもの、比較例2として、同様の接触部材と支持部材に加え、その間に直径が120mmの円柱状の荷重検出部を備えたものについて、それぞれの接触部材に高速の衝突物を衝突させることによる性能の比較解析を行った。
衝突物は球状であり重量は2kg、衝突速度は35km/hである。
本発明例と2つの比較例とは、接触部材及び支持部材の水平断面の断面積をほぼ同じ大きさの平面視略正方形状とし、衝突物の衝突位置を、本発明例、比較例ともに、接触部材の板面上の角部分とした。
また、本発明例においては、図5に示すように、9つの荷重計測部材を平面視略正方形状の接触部材と支持部材との間に並列的に配設したものとし、さらに、比較例2の荷重検出部の断面積は、本発明の複数の荷重検出部の断面積の総和に等しいものとした。各荷重計測装置の寸法を図5に示す(なお、図5中の寸法の単位は「mm」である。)。
【0036】
この解析において、まず、衝突物が衝突した際の不釣り合い力(本発明の場合、荷重検出部と上部側保持部との境界で生じる断面力と、荷重検出部と下部側保持部との境界で生じる断面力の差、比較例の場合、荷重検出部と接触部材との境界で生じる断面力と、荷重検出部と支持部材との境界で生じる断面力の差)を評価した。
この結果、図6に示すように、本発明例での不釣り合い力は、全体的に比較例よりも低く、本発明例の装置は比較例の装置よりも瞬時に釣り合い状態を満足し、荷重計測装置として優れることが確認された。
なお、図6においては、横軸は衝突後の経過時間、縦軸は断面力の差である。
【0037】
さらに、本発明の場合は、各荷重検出部に塑性変形は生じなかったが、比較例2の場合は、荷重検出部と接触部材との結合部分で変形の局所化が進み、塑性変形が発生していた。
このように、接触部材に偏心荷重が作用し、従来においては荷重検出部に大きな曲げモーメントが発生するような場合であっても、本発明の荷重計測装置は塑性変形が生じず、また高精度の荷重測定を行うことができることが実証された。
【符号の説明】
【0038】
1 荷重計測部材
2 接触部材
3 支持部材
4 荷重検出部
5 上部側保持部
6 下部側保持部
As 接触部材の断面積
As 支持部材の断面積
Ak 荷重検出部の断面積
Ah 上部側保持部の断面積
Ah 下部側保持部の断面積
図1
図2
図3
図4
図5
図6