特許第5845148号(P5845148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東日本旅客鉄道株式会社の特許一覧 ▶ 鉄建建設株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ジェイテックの特許一覧

特許5845148地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法
<>
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000002
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000003
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000004
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000005
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000006
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000007
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000008
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000009
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000010
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000011
  • 特許5845148-地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5845148
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20151224BHJP
【FI】
   E21D9/06 311Z
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-152328(P2012-152328)
(22)【出願日】2012年7月6日
(65)【公開番号】特開2014-15727(P2014-15727A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399101337
【氏名又は名称】株式会社ジェイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100104363
【弁理士】
【氏名又は名称】端山 博孝
(72)【発明者】
【氏名】石橋 忠良
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴
(72)【発明者】
【氏名】本田 諭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英之
(72)【発明者】
【氏名】長尾 達児
(72)【発明者】
【氏名】中井 寛
(72)【発明者】
【氏名】山村 康夫
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 隆
(72)【発明者】
【氏名】細川 昇
(72)【発明者】
【氏名】野田 嘉範
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 謙一
【審査官】 須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−174219(JP,A)
【文献】 特開平09−203296(JP,A)
【文献】 特開平09−195679(JP,A)
【文献】 特開平09−273378(JP,A)
【文献】 特開平02−164998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/04
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面板と、この底面板よりも先端部が前方に突出している上面板と、これら底面板及び上面板間を連結する1対の側面板とからなり、地山に貫入される覆工エレメントの先端部に連結され、人力により切羽を掘削しながら掘進するための刃口であって、
前記底面板は、掘進方向前方かつ左右方向斜めの上方に向かって傾斜して先端部がせり上がる傾斜面部を有していることを特徴とする地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造。
【請求項2】
前記傾斜面部は、前記底面板の先端縁辺と一方の側端縁辺とを結ぶ線を平坦面部との境界として形成されていることを特徴とする請求項1記載の地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造。
【請求項3】
底面板と、この底面板よりも先端部が前方に突出している上面板と、これら底面板及び上面板間を連結する1対の側面板とからなり、地山に貫入される覆工エレメントの先端部に連結され、人力により切羽を掘削しながら掘進するための刃口であって、
前記底面板は、掘進方向前方かつ直上方に向かって傾斜して先端部がせり上がる傾斜面部を有していることを特徴とする地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造。
【請求項4】
前記傾斜面部は、前記底面板の両側端縁辺を結ぶ線を平坦面部との境界として形成されていることを特徴とする請求項3記載の地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造。
【請求項5】
前記傾斜面部は、前記底面板全体に亘って形成されていることを特徴とする請求項3記載の地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造。
【請求項6】
前記傾斜面部は、その傾斜角度が可変であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1記載の地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1記載の刃口を用いた人力掘削による掘進方法であって、掘進に伴って前記刃口に押し上げ力が生じたとき、刃口前方の下側地盤を突き崩して人為的に緩みを生じさせるか、又は下側地盤を排除することを特徴とする掘進方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法に関し、より詳細には、覆工エレメントを用いて鉄道線路や道路の下方の地盤に地下構造物を構築する際に、覆工エレメントの先端部に連結される刃口の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路や道路の下方の地盤に立体交差する地下構造物を構築する工法の1つとして、長尺の多数の鋼製エレメントを地山に貫入して覆工を行うHEP&JES(High Speed Element Pull & Jointed Element Structure) 工法が知られている。
【0003】
この工法は、図1に示すように、例えば線路1下の地盤に構造物の断面を区画するように、長尺の多数の覆工エレメント2,3を牽引又は推進により並列させて地山に順次挿入し、エレメント内部にコンクリートを打設して覆工壁4を構築した後、覆工壁4内方の地山を掘削して、覆工壁4を箱形ラーメン形式又は円形等の構造物とする工法である。
【0004】
このような工法に使用する覆工エレメントとして、断面が四角形の基準覆工エレメントと、その側部に順次連設される断面コ字形の一般部覆工エレメントとを用い、さらに各エレメント間の継手を全強状態に接合することができる構造とした工法について既に提案がされている(特許文献1,2参照)。
【0005】
これらの基準覆工エレメント及び一般部覆工エレメントは、いずれも鋼製のもので、その構造が図2に示されている。すなわち、基準覆工エレメント2は、4枚のプレート5によって断面四角形に形成され、各隅角部には断面略C字形の継手6が長手方向に沿って設けられている。また、一般部覆工エレメント3は、3枚のプレート7,8によって断面コ字形に形成され、各隅角部及びプレート7の開放側端部には上記継手6と同形状の継手9,10が長手方向に沿ってそれぞれ設けられている。基準覆工エレメント2は最初に地山に貫入され、次いで、基準覆工エレメント2の両側部の地山に一般部覆工エレメント3が貫入される。
【0006】
その際、図2では一方側のみを示すように、一般部覆工エレメント3は、その開放部側の継手10を基準覆工エレメント2の継手6に嵌合させながら地山に貫入される。先行して地山に挿入された一般部覆工エレメント3に並列させて、さらに後行する一般部覆工エレメント3が地山に貫入され、この後行する一般部覆工エレメント3は、その開放部側の継手10を先行する一般部覆工エレメントの隅角部側の継手9に嵌合させながら地山に貫入される。このようにして、一般部覆工エレメント3を順次地山に貫入し、図に示したような覆工壁4が構築される。
【0007】
以上のような工法において、覆工エレメント2,3の先端部には刃口が連結され、刃口前方の地盤を掘削しながら覆工エレメント2,3が推進又は牽引により発進側から到達側に向けて地盤に貫入される。掘削は、一般には刃口に搭載した掘削機によって行われるが、土質条件によっては人力掘削が選択される。図9は、人力掘削専用の刃口の従来例を示している。
【0008】
刃口50は底面板51、上面板52及びこれらを連結する1対の側面板53,53を有し、前後が開口した断面四角形で鋼製のものである。刃口50はその後部に連結される覆工エレメントと断面寸法が同様である。上面板52の先端部は底面板よりも前方に突出し、これによって切羽面に勾配をつけて掘削することができ(図10(b)参照)、切羽の安定性を確保している。なお、図示しないが、この刃口50にも一方の側面板53に継手6,9,10と同様の継手が設けられ、既設の覆工エレメントの継手に嵌合される。しかしながら、このような刃口50は、以下に記すような問題がある。
【0009】
図10は刃口50による掘進作業を示している。(a)は1工程の掘進、すなわち前回までの牽引又は推進を終えた状態を示している。次いで、(b)に示すように、刃口内部に入った作業者が、刃口50の前方の地山を掘削する。掘削は地山の安定性が確保できる距離分であるが、この掘削によって地山の応力が解放し、緩みLが生じる。このため、掘削後、(c)に示すように、緩みLが生じた地盤上を牽引又は推進により刃口50及びエレメント2(又は3)が通過すると、上載荷重の影響により時間の経過とともに、エレメント2(3)が計画高さよりも下がってくる傾向がある。
【0010】
特に、上述のHEP&JES工法の場合は、図11に示すように片側の継手6,10をガイドとして掘進することから、エレメントの継手が嵌合していない側が矢印で示すように大きく沈下する傾向が認められ、エレメント断面方向に傾斜し、精度確保が困難になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−120372号公報
【特許文献2】特開2000−179282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、人力掘削によって掘進する場合の覆工エレメントの沈下を防止し、設置精度の向上に資することができる、刃口構造及びその刃口を用いた掘進方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、底面板と、この底面板よりも先端部が前方に突出している上面板と、これら底面板及び上面板間を連結する1対の側面板とからなり、地山に貫入される覆工エレメントの先端部に連結され、人力により切羽を掘削しながら掘進するための刃口であって、
前記底面板は、掘進方向前方かつ左右方向斜めの上方に向かって傾斜して先端部がせり上がる傾斜面部を有していることを特徴とする地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造にある。
【0014】
より具体的には、前記傾斜面部は、前記底面板の先端縁辺と一方の側端縁辺とを結ぶ線を平坦面部との境界として形成されている。
【0015】
また、この発明は、底面板と、この底面板よりも先端部が前方に突出している上面板と、これら底面板及び上面板間を連結する1対の側面板とからなり、地山に貫入される覆工エレメントの先端部に連結され、人力により切羽を掘削しながら掘進するための刃口であって、
前記底面板は、掘進方向前方かつ直上方に向かって傾斜して先端部がせり上がる傾斜面部を有していることを特徴とする地下構造物構築用覆工エレメントの刃口構造にある。
【0016】
より具体的には、前記傾斜面部は、前記底面板の両側端縁辺を結ぶ線を平坦面部との境界として形成されている。また、前記傾斜面部は、前記底面板全体に亘って形成されている構成を採用することもできる。さらに、上記刃口構造において、前記傾斜面部は、その傾斜角度が可変である構成を採用することができる。
【0017】
さらにこの発明は、上記刃口を用いた人力掘削による掘進方法であって、掘進に伴って前記刃口に押し上げ力が生じたとき、刃口前方の下側地盤を突き崩して人為的に緩みを生じさせるか、又は下側地盤を排除することを特徴とする掘進方法にある。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、刃口及び覆工エレメントを地山に貫入させると、刃口が掘削断面下側の地盤を通過するに伴って、掘削によって緩みを生じた緩み地盤を傾斜面部が押し付けることになる。これにより、緩み地盤が締め固められ、刃口の後部に連結された覆工エレメントの沈下が防止され、エレメントの設置制度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明による刃口が適用されて築造される、覆工エレメントによる地下構造物を示す正面図である。
図2】覆工エレメントの具体例を示す正面図である。
図3】この発明による一般部覆工エレメント用の刃口の実施形態を示す斜視図である。
図4】傾斜面部の形態例を示す平面図である。
図5】掘進状態を示す側面図である。
図6】掘進状態を示す正面図である。
図7】この発明による基準覆工エレメント用の刃口の実施形態を示す斜視図である。
図8】傾斜面部の傾斜角度を可変とした刃口の別の実施形態を示す側面図である。
図9】従来の刃口を示す斜視図である。
図10】掘進状態を側面図である。
図11】掘進状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図3は、この発明による刃口の実施形態を示している。この実施形態は、図2に示した一般部覆工エレメント3用の刃口である。刃口20は、従来のものと同様に、底面板21、上面板22及びこれらを連結する1対の側面板23,23を有し、前後が開口した断面四角形で鋼製のものである。また、刃口20は、上面板22の先端部が底面板21よりも前方に突出している点も従来と同様である。
【0021】
この発明によれば、刃口20の底面板21は傾斜面部21aを有している。傾斜面部21aは、刃口20の掘進方向前方かつ左右方向斜めの上方に向かって傾斜して先端部がせり上がるように設けられている。具体的には、傾斜面部21aは底面板21の先端縁辺24の一方の端と、一方の側端縁辺25の中間部とを結ぶ線を平坦面部との境界26として屈曲形成されている。
【0022】
図3において、鎖線27は従来の刃口の底面板の外形を示している。上記のような傾斜面部21aを設けたことにより、これに伴って一方の側面板23も、傾斜面部21aの傾斜した縁辺に倣うように形成されている。
【0023】
傾斜面部21aは図3に示した形態に限らず、図4に底面板21を平面で示すように、種々の形態を採ることができる。(a)は、図1に示した形態を平面で示している。(b)は、底面板21の先端縁辺24の一方の端と、側端縁辺25の後端とを結ぶ線を平坦面部との境界26として傾斜面部21aを屈曲形成した形態を示している。(c)は、底面板21の先端縁辺24の中間部と、側端縁辺25の中間部とを結ぶ線を平坦面部との境界26として傾斜面部21aを屈曲形成した形態を示している。(d)は、底面板21の先端縁辺24の中間部と、側端縁辺25の後端を結ぶ線を平坦面部との境界26として傾斜面部21aを屈曲形成した形態を示している。
【0024】
図5及び図6は上記刃口20を使用した、掘進中の状態を示している。図10(b)に示したように、従来と同様に人力により、刃口前方の地盤を所定距離掘削する。掘削後、、図5に示すように牽引又は推進により刃口20及び覆工エレメント3を地山に貫入させると、刃口20が掘削断面下側の地盤を通過するに伴って、掘削によって緩みを生じた緩み地盤Lを傾斜面部21aが押し付けることになる。これにより、緩み地盤Lが締め固められ、刃口20の後部に連結された覆工エレメント3の沈下が防止される。
【0025】
図7は、図2に示した基準覆工エレメント2用の刃口30を示している。刃口30が底面板31、上面板32及び1対の側面板33からなる点は、従来のものや刃口20と同様である。基準覆工エレメント2は、両側の継手とも嵌合されることなく単独で地山に貫入されるため、緩み地盤を通過すると底面板の幅方向(掘進方向に直角な方向)全体に亘って沈下する傾向がある。このため、刃口30の底面板31には掘進方向前方かつ直上方に向かって傾斜して先端部がせり上げる傾斜面部31aが設けられている。
【0026】
傾斜面部31aは、具体的には底面板31の両側端縁辺35,35の中間部を結ぶ線を平坦面部との境界36として屈曲形成されている。傾斜面部31aは、底面板31の一部に設けるのではなく、底面板31の全体を傾斜面部としてもよい。この刃口30の場合も、掘削によって緩みを生じた緩み地盤Lを傾斜面部31aが押し付けることになるので、刃口30の後部に連結された覆工エレメント2の沈下が防止される。
【0027】
土質によっては掘削による地盤の緩みの程度が小さく、刃口20あるいは刃口30での掘進中に、地盤の押し付けにより逆に刃口を押し上げるような作用力が生じるような場合がある。このような場合は、掘削時に刃口前方の下側地盤を突き崩して人為的に緩みを生じさせる。あるいは下側地盤を排除する。
【0028】
図8は刃口20あるいは刃口30の別の実施形態を示している。この実施形態は、傾斜面部21a(31a)の傾斜角度を可変としたものである。傾斜角度を可変とするために、傾斜面部21a(31a)は、ヒンジ40を介して底面板21(31)の平坦面部に連結されている。この実施形態によれば、掘進方向に地盤強度が変化するような施工条件の場合、傾斜面部21a(31a)の傾斜角度を変えることにより、地盤に対する押し付け強さを調節することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
2 基準覆工エレメント
3 一般部覆工エレメント
20 刃口
21 底面板
21a 傾斜面部
22 上面板
23 側面板
24 先端縁辺
26 境界
30 刃口
31 底面板
31a 傾斜面部
32 上面板
33 側面板
36 境界
L 緩み地盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11