【実施例】
【0029】
本実施例は、HSV−2組換えウイルスの作製、およびその免疫学的効果を決定するための試験を記載する。
【0030】
(I.材料および方法)
(細胞)
アフリカミドリザル腎臓(Vero)細胞および骨肉腫株U2OS細胞を増殖させ、100U/ml ペニシリンGおよび100μg/ml 硫酸ストレプトマイシン(GIBCO,Carlsbad,CA)の存在下で、10% ウシ胎仔血清(FBS)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Sigma Aldrich)中で維持した(71)。U2OS細胞は、上記HSV−1 ICP0欠失を機能的に補完し得る(71)。U2CEP4R11細胞は、DMEM+10% FBSおよびハイグロマイシンB(50μg/ml)中で維持したtetR発現U2OS細胞である(73)。VCEP4R−28細胞は、DMEM+10% FBSおよびハイグロマイシンB(50μg/ml)中で維持したtetR発現Vero細胞である(73)。
【0031】
(プラスミド)
プラスミドpHSV2/ICP0は、上記HSV−2 ICP0オープンリーディングフレーム(ORF)の268bp上流からICP0コード配列のポリAシグナルの40bp下流まで網羅するPCR増幅したHSV−2 ICP0配列をコードするpUC19由来プラスミドである。pHSV2.ICP0−Vは、ICP0の開始コドンの25bp上流からICP0 ORFの終止コドンの397bp上流までの配列を含むXho I-ICP0 DNA配列を、Xho I含有マルチクローニング配列(MCS)で置換することによって、プラスミドpHSV−2/ICP0に由来するHSV−2 ICP0クローニングプラスミドである。プラスミドpHSV2.ICP0−lacZを、pcDNA3−lacZのHindIII−Not I−LacZ遺伝子含有フラグメントをpHSV2.ICP0−Vに、Hind III−Not I部位で挿入することによって作製した。pcmvtetO−UL9C535Cは、上記tetO含有hCMV最初期プロモーターの制御下でUL9−C535Cをコードするプラスミドである(68)。p02lacZ−TOC535C(上記tetO含有hCMV主要最初期プロモーターによって駆動されるUL9−C535Cを発現する(
図1A))を、pHSV2.ICP0−lacZの上記EcoR I/Age I−lacZ含有フラグメントをpcmvtetOUL9−C535Cの上記EcoR I/Hind III−hcmvtetO−UL9C535C含有フラグメントで置換することによって、構築した(69)。
【0032】
pAzgD−HSV−2は、Patricia Spear博士(Northwestern University)が提供してくれたHSV−2 gD2コードプラスミドである。pICP4TO−hEGFは、上記tetOを有するHSV−1最初期ICP4プロモーターの制御下でヒト上皮増殖因子を発現する。上記プロモーターは、ICP4遺伝子の転写開始部位に対して−377bp〜−19bpまでのHSV−1 ICP4プロモーター配列からなる。プラスミドpcmvtetO−hEGFにおける上記tetOを有するhCMV主要最初期プロモーター(73)に類似して、上記tetO含有ICP4プロモーターは、上記ICP4 TATAエレメント(TATATGA)の10bp下流においてtetオペレーターの2コピーをタンデムで含む。従って、pcmvtetO−hEGFと同様に、pICP4TO−hEGFからのhEGF発現は、tetRの存在下でテトラサイクリンによって厳密に調節され得、上記tetOの挿入は、tetRの非存在下で上記ICP4プロモーター活性に対して何ら影響を有さない。pICP4TO−hEGFにおいて上記tetOを有するICP4プロモーターと関連したさらなる特有の特徴は、上記野生型ICP4プロモーターにおいてICP4遺伝子の転写開始部位にまたがる(51)上記ICP4 DNA結合配列 ATCGTCCACACGGAG(配列番号3)がないことである。従って、ICP4による自己調節を受けやすい上記野生型ICP4プロモーター(16,57)とは異なって、pICP4TO−hEGFにおける上記tetOを有するICP4プロモーターは、上記HSV−1主要調節タンパク質ICP4によって抑制されない。
【0033】
gD2を、上記tetO含有ICP4プロモーターの制御下でクローニングするために、本発明者らは、pICP4TO−hEGFにおけるSma I−Bam HI tetO含有ICP4プロモーターを、pHSV2.ICP0−Vの中へ、上記ベクターのMCSの中にクローニングすることによって、プラスミドp02ICP4−TOを最初に構築した。p02.4TO−gD2は、上記tetOを有するICP4プロモーターの制御下にあるpAzgD−HSV−2のgD2遺伝子をコードするp02ICP4−TO由来プラスミドである。
【0034】
p02lacZTO−gD2.C535C(上記hCMVプロモーターの−236bpにおいて5’短縮を有する上記tetOを有するhCMV最初期プロモーターの制御下でUL9−C535Cを、かつ上記tetO−ICP4プロモーターの制御下にある上記gD2遺伝子をコードするプラスミド(
図1A))を、p02lacZTO−C535CのSnaB I/Pst Iフラグメントをp02.4TO−gD2のHind III/Pst I−gD2含有フラグメントで置換することによって作った。p02lacZTO−gD2.C535Cにおいて、UL9−C535C遺伝子およびgD2遺伝子の転写は、反対の配向にある。
【0035】
(ウイルス)
野生型HSV−2(株186および株G)を増殖させ、Vero細胞上でプラークアッセイした。N2−lacZは、HSV−2 ICP0プロモーターの制御下にあるLac Z遺伝子をコードするHSV−2 ICP0ヌル変異体である。この中で上記ICP0遺伝子の両方のコピーは、Nhe Iで直線状にしたpHSV2.ICP0−lacZでU2OS細胞をトランスフェクトし、続いて、以前に記載される(74)ようにHSV−2を重感染することによる相同組み換えを介して、pHSV2.ICP0−lacZにおける上記Lac Z遺伝子によって置換されている。上記ICP0遺伝子の、上記ICP0遺伝子座における上記Lac Z遺伝子での置換を、上記ICP0遺伝子に隣接するプライマーおよび上記Lac Z遺伝子に対して特異的なプライマーを用いる、N2−lacZウイルスDNAのPCR分析によって確認した(41,74)。
【0036】
N2−C535Cは、N2−lacZの誘導体である。この中で、上記Lac Z遺伝子の両方のコピーは、プラスミドp02lacZ−TOC535Cにおける上記tetO含有hCMV プロモーターの制御下でUL9−C535CをコードするDNA配列で置換されている(
図1B)。簡潔には、U2CEP4R11細胞を、上記直線状にしたp02lacZ−TOC535Cおよび感染性N2−lacZウイルスDNAで、Lipofectamine 2000によって同時トランスフェクトした。上記トランスフェクションの子孫を、標準的なプラークアッセイによって、N2−lacZの上記Lac Z遺伝子の、上記cmvtetOUL9−C535Cを含むDNA配列での組換え置換についてスクリーニングした。プラークを、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−b−D−ガラクトピラノシド(X−Gal)で、感染後96時間で染色した。白いプラーク(これは、上記UL 9−C535C DNAコード配列による上記Lac Z遺伝子の両方のコピーの置換を反映する)を単離した。上記単離物のうちの1つを、N2−C535Cと称し、これは、4回のプラーク精製の後に、均質に白いプラークを得た。
【0037】
N2−lacZの中のICP0遺伝子座における上記Lac Z遺伝子の両方のコピーを、上記tetOを有するhCMV主要最初期プロモーターの制御下にあるUL9−C535Cおよび上記tetO含有HSV−1 ICP4プロモーター(これは、ICP4遺伝子の転写開始部位に対して−377bpから−19bpまでのHSV−1 ICP4プロモーター配列からなる(71))の制御下にあるgD2をコードするDNA配列で置換することによって、CJ2−gD2を構築する(
図1B)。
【0038】
(SDS−PAGEおよびウェスタンブロット分析)
60mmディッシュ中に、7.5×10
5 細胞/ディッシュで播種したVero細胞に、模擬感染させたか、または10 PFU/細胞のMOIで示されたウイルスを感染させた。細胞抽出物を、感染後9時間もしくは16時間で調製した(72)。上記細胞抽出物中のタンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)(9% アクリルアミド)によって分離し、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜に移し、HSV−1 gDに対するポリクローナル抗体(R45(Gary H.Cohen博士およびRoselyn J Eisenberg博士から贈与))、UL9(Mark Challbergから贈与)、もしくはICP27およびgBに対して特異的なモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)のいずれかでプローブした。
【0039】
(マウス)
雌性BALB/cマウス(4〜6週齢)を、Charles River Laboratories(Wilmington, MA)から購入した。マウスを、1ケージあたり4匹で金属製ケージの中に収容し、12時間明暗サイクルで維持した。マウスを、実験前に1週間にわたって上記収容条件に順応させた。すべての動物実験は、Harvard Medical Area Standing Committee on AnimalsおよびAmerican Veterinary Medical Associationによって承認されたプロトコルに従って行った。
【0040】
(免疫および抗原投与)
BALB/cマウスを、いくつかの群に無作為に分け、彼らの左背側脇腹部(left rear flank)を剃毛した。マウスは、27ゲージ針を取り付けた1mlシリンジを使用して、左背側脇腹部に、2×10
6 PFU/マウスのCJ2−gD2、N2−C535C、CJ9−gDをワクチン接種したか、もしくは容積30μlにおいてDMEMを皮下に模擬ワクチン接種したかのいずれかであった。2週間後に、マウスを追加免疫し、野生型HSV−2株Gを2回目の免疫の3週間後に抗原投与した。抗原投与の5日前、マウスに、メドロキシプロゲステロン(SICOR Pharmaceuticals,Inc.,Irvine,CA)を20μlの容積中3mg/マウスで頚部のひだ襟に皮下注射した(7,50)。膣内抗原投与については、すべての群のマウスを麻酔し、アルギン酸カルシウムスワブ(滅菌泌尿生殖器アルギン酸カルシウムが先端についたアプリケーター(urethro−genital calcium alginate tipped applicator),Puritan Medical Products company LLC,Guilford,Maine USA)で予めぬぐい、HSV−2株Gの5×10
5 PFU(50 LD
50)を含む20μlの培養培地を膣内接種した(50)。動物を、感染後30〜45分間にわたって麻酔の影響下で、彼らの下半身(rear part)を持ち上げた状態で背中を保持し続けた。
【0041】
(急性感染アッセイおよび臨床的観察)
抗原投与後1日目、2日目、3日目、5日目、および7日目に、膣粘膜を、アルギン酸カルシウムでぬぐった(7)。スワブ材料中の感染性ウイルスを、Vero細胞単層に対する標準的プラークアッセイによって評価した。野生型HSV−2での抗原投与後、マウスを、性器病変および全身の疾患の徴候について21日の追跡期間の間に毎日評価した。疾患の重篤度を、以下のとおりスコア付けした:0=ヘルペス感染の徴候なし、1=わずかな性器紅斑および浮腫、2=中程度の性器炎症、3=化膿した性器病変および/もしくは全身の疾患、4=後肢麻痺、および5=死亡(8,50)。
【0042】
(HSV−2特異的中和抗体の検出)
初回免疫の4週間後に、免疫したマウスおよび模擬免疫したマウスの尾静脈から血液を採取した。中和血清抗体力価を、補体(5−7)と250 PFUの野生型HSV−2株186の存在下で先に記載されるように決定した。上記中和抗体力価を、培地+補体単独で得られた上記HSV PFUに対して、HSV PFUにおける50%低下を達成するために必要とされる最終血清希釈度として表した。
【0043】
(免疫沈降)
7.5×10
6 細胞/100−mmディッシュにおいて播種したU2OS細胞を、模擬トランスフェクトしたか、または播種後24時間において10μgのp02.4TO−gDでリポフェクタミン2000によってトランスフェクトした。細胞抽出物を、トランスフェクション後48時間において調製した(72)。免疫沈降を、模擬免疫したマウスおよび上記で調製した70μlの細胞抽出物で免疫したマウスから採取した10μlのプールされた血清を混合することによって行った。上記gD/マウスIgG特異的複合体を、プロテインA(Pierce Classic IP kit,Pierce Biotechnology,Rockford, IL)で沈降させ、SDS−PAGEで分離し、ウサギ抗gD特異的ポリクローナル抗体R45でプローブし、続いて、HRP結合体化ヤギ抗ウサギIgG(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)と反応させた。
【0044】
(IFN−γ ELISPOTアッセイ)
雌性BALB/cマウスを、DMEMで偽免疫したか、またはCJ2−gD2で用量2×10
6 PFU/マウスで、2週間間隔で2回免疫した。2回目の免疫後5〜10週間において、偽免疫したマウスおよびCJ2−gD2免疫したマウスを、模擬抗原投与したか、または野生型HSV−2株186を皮下で用量1×10
4 PFU/マウスにおいて抗原投与した。脾細胞を、抗原投与後4日目もしくは5日目にマウスの個々の群(n=3)から単離した。上記CD4
+ およびCD8
+ T細胞ELISPOTアッセイを、先に記載されたように行った(42)。簡潔には、CD4
+ およびCD8
+ T細胞を、DynalマウスCD4陰性単離キットもしくはCD8陰性単離キットを使用して脾細胞から単離し、抗マウスIFN−γ特異的モノクローナル抗体(AN18)で予めコーティングした96ウェル濾過プレート中、7.5×10
4もしくは1.5×10
5 細胞/ウェルにおいて四連で播種した。37℃で20時間にわたるインキュベーション後、ウェルを洗浄し、ビオチン化IFN−γ特異的モノクローナル抗体(R4−6A2,Mabtech)で室温において反応させ、ストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ(Mabtech)とともにインキュベートした。上記IFN−γスポット形成細胞を、BCIP/NBT基質の添加によって検出した。スポットを解剖顕微鏡で計数し、IFN−γスポット形成細胞(SFC)の数を、平均±SEM/100万 CD4
+ もしくはCD8
+ T細胞として表した。
【0045】
(定量的リアルタイムPCR)
脊髄および後根神経節を含む脊柱の下部腰椎(lower lumbar)および仙骨部を、追加免疫の16日後、もしくは5×10
5 PFUのHSV−2株Gでの膣内抗原投与の21日後に、CJ2−gD2もしくはCJ9−gDのいずれかで免疫した9匹もしくは10匹のマウスから回収した。上記脊柱を4つの小片に切断し、各小片を、0.5mlの通常の増殖培地中で別個に保持し、−80℃においてさらに加工処理するために貯蔵した。総DNAを、DNeasy組織キット(Qiagen,Santa Clarita,CA)を使用して各後根神経節から単離し、400μl AE緩衝液中で懸濁した。HSV−2 DNAの存在を、先に記載されるように(8)、100ngの神経節DNAおよび上記HSV DNAポリメラーゼに特異的なプライマー(順方向: 5’ GCT CGA GTG CGA AAA AAC GTT C (配列番号4)、逆方向: 5’ CGG GGC GCT CGG CTA AC (配列番号5))を用いて、リアルタイムPCR(Applied Biosystems 7300 Real−Time PCR System)によって定量した。確実に検出され得るHSV−2ウイルスDNAの最小限のコピーは、反応あたり1コピーであった。
【0046】
(統計分析)
統計分析のために、片側スチューデントt検定を行った。結果は、P値が0.05未満である場合に統計的に有意であるとみなされる。
【0047】
(II.結果)
(CJ2−gD2の構築)
gD2発現ドミナントネガティブおよびUL9−C535C発現ドミナントネガティブかつ複製欠損性HSV−2組換えウイルスの生成における第1の工程として、本発明者らは、HSV−2 ICP0欠失変異体、N2−lacZを構築した。この中でHSV−2株186におけるICP0遺伝子の両方のコピーが、上記HSV−2 ICP0プロモーターの制御下にある上記Lac Z遺伝子によって置換されている(
図1B)。本発明者らは、上記HSV−1 ICP0ヌル変異体7314(11)と同様に、ヒト骨肉腫株U2OS細胞に対するN2−lacZの上記プラーク形成効率は、Vero細胞におけるものの425倍であることを示し、このことは、U2OS細胞における細胞活性が、HSV−2 ICP0を機能的に代替し得ることを示す。野生型HSV−2と比較して、Vero細胞におけるN2−lacZの複製効率は、0.1 PFU/細胞のMOIにおいて600分の1未満に低下する。この知見と一致して、1×10
5 および5×10
5 PFU/マウスにおけるN2−lacZの膣内接種は、局所的な疾患も全身的な疾患ももたらさかった一方で、1×10
4 PFU/マウスの野生型HSV−2で感染させたマウスは、重篤な陰部ヘルペスを発症し、感染後11日目までにすべて死亡した。さらに、N2−lacZは、用量5×10
5 PFU/マウスでの膣内感染後に、再活性化可能な潜伏感染を確立できない。これら結果は、HSV−1 ICP0(10,11,37,64)と同様に、HSV−2 ICP0の欠失は、上記ウイルスが急性感染および再活性化可能な潜伏感染をインビボで開始する能力を有意に減弱することを示す。
【0048】
ドミナントネガティブおよび複製欠損性HSV−2ウイルス組換え体によるgD2発現のレベルを最大にする目的で、本発明者らは、N2−lacZにおける上記Lac Z遺伝子の両方のコピーを、上記tetOを有するHSV−1主要最初期ICP4プロモーターにより駆動されるgD2遺伝子およびhCMV最初期プロモーターの全長の−236bpにおいて短縮を有する上記tetO含有hCMV主要最初期プロモーターの制御下にあるUL9−C535CをコードするDNA配列(
図1B)で置換することによって、ドミナントネガティブおよび複製欠損性HSV−2組換え体(CJ2−gD2)を構築した。従って、HSV−1 UL9遺伝子座における上記tetO含有hCMVプロモーターによって駆動される挿入されたHSV−1 gD遺伝子の単一のコピーをコードする(41)CJ9−gDとは異なって、CJ2−gD2は、上記tetOを有するHSV−1最初期ICP4プロモーター(これは、ICP4遺伝子の転写開始部位に対して−377bpから−19bpまでのHSV−1 ICP4プロモーター配列からなる)によって制御されるgD2遺伝子の2コピーを含む。N2−C535Cは、N2−lacZにおける上記Lac Z遺伝子の両方のコピーが上記全長tetOを有するhCMV最初期プロモーターの制御下にあるUL9−C535Cによって置換されるHSV−2組換え体である。
【0049】
(CJ2−gD2は、感染したVero細胞において高レベルのgD2およびUL9−C535Cを発現する)
それぞれ、上記tetOを有するHSV−1最初期ICP4プロモーターおよびhCMV最初期プロモーターからのgD2およびUL9−C535Cの発現を試験するために、Vero細胞に、10 PFU/細胞のMOIにおいて、野生型HSV−2、N2−lacZ、N2−C535C、およびCJ2−gD2を感染させ、感染後9時間に採取した。感染細胞タンパク質を、HSV−1/2 ICP27モノクローナル抗体、UL9ポリクローナル抗体、およびgD1ポリクローナル抗体(R45)でのウェスタンブロットアッセイによって分析した。gD2と同様に、gB2が中和抗体およびT細胞応答の主要な標的であり、γ1生成物であると仮定すると、感染細胞タンパク質をまた、gB特異的モノクローナル抗体でプローブした。
図2Aは、CJ2−gD2およびN2−C535Cが、野生型HSV−2およびN2−lacZによって発現されるものに類似のレベルのHSV−2最初期タンパク質ICP27を発現することを示す。有意な量のUL9−C535Cが、CJ2−gD2感染細胞およびN2−C535C感染細胞において検出された一方で、gD2もgB2も、N2−C535C感染細胞においてほとんど検出されなかった。しかし、N2−C535C感染とは対照的に、CJ2−gD2でのVero細胞の感染は、野生型HSV−2が感染した細胞におけるものに類似のレベルで、gD2の高レベル発現をもたらし、gD2発現は、gB2発現に対して何ら影響を与えない。上記結果はまた、上記HSV−1 ICP0ヌル変異体7134(71)と同様に、N2−lacZにおけるHSV−2 ICP0の欠失は、gD2発現を大いに低下させることを示す。その真正のHSV初期プロモーターからのUL9の非常に低いレベルの発現(68)に起因して、野生型UL9は、これら4種の異なるウイルスが感染した細胞の中では検出されなかった。さらに、本発明者らは、CJ2−gD2感染細胞において発現されたUL9−C535Cのレベルが、N2−C535Cが感染した細胞より一貫して高いことを観察する。このことは、上記HSV−1 ICP4プロモーターに存在する上記HSV VP16応答性エレメントTAATGARAT(71)が、上記記載されたハイブリッドICP4/hCMVプロモーターシステムのhCMV−最初期プロモーターからのUL9−C535Cの増強された発現をもたらし得ることを示唆する。
【0050】
図2Bで示された上記gD1ポリクローナル抗体(R45)でのウェスタンブロット分析から、遙かにより高いレベルのgDが野生型HSV−2に感染した細胞より野生型HSV−1感染細胞において検出された一方で、CJ9−gD感染細胞において検出されたgDのレベルは、CJ2−gD2が感染した細胞より顕著に低かったことが示される。この知見は、CJ2−gD2がCJ9−gDによって発現されたgD1より効率的にgD2を発現することを示す。
【0051】
CJ2−gD2感染Vero細胞において発現された上記UL9−C535CおよびgD2が、実際に、上記tetOを有するプロモーターの制御下にあることを実証するために、本発明者らは、次に、安定なtetR発現Vero細胞株であるVCEP4R−28細胞に、野生型HSV−2およびCJ2−gD2を、10 PFU/細胞のMOIにおいて、テトラサイクリンの非存在下および存在下で感染させた。感染細胞由来のタンパク質を、感染後9時間において採取し、ウェスタンブロットによって分析した。認められ得るように(
図3)、類似のレベルのICP27が、テトラサイクリンの非存在下および存在下の両方で、野生型HSV−2感染VCEP4R−28細胞およびCJ2−gD2感染VCEP4R−28細胞において検出されたが、UL9−C535Cは、テトラサイクリンが存在したときにのみ、CJ2−gD2感染VCEP4R−28細胞において検出され、顕著により高いレベルのgD2が、テトラサイクリンの非存在下よりテトラサイクリンの存在下で検出された。
【0052】
(CJ2−gD2はVero細胞において複製できない)
ICP0の欠如および上記tetOを有するhCMV主要最初期プロモーターからのUL9−C535Cの高レベル発現が原因で、CJ2−gD2は、上記tetR発現ICP0補完U2OS細胞株U2CEP4R11において構築され、増殖されなければならなかった(68)。本発明者らは、Vero細胞単層上で6.65×10
7 PFUのCJ2−gD2をプラークアッセイし、感染性ウイルスを検出しなかった。このことは、Vero細胞におけるCJ2−gD2のプラーク形成効率が、その補完U2CEP4R11細胞と比較して、少なくとも6.65×10
7分の1になったことを示す。
【0053】
(CJ2−gD2による野生型HSV−2複製の阻害)
本発明者らは、次に、同時感染アッセイによって野生型HSV−2ウイルス複製の、複製に対するCJ2−gD2による高レベルUL9−C535C発現のドミナントネガティブ効果を試験した(
図4)。
図4Aは、5 PFU/細胞のMOIでのCJ2−gD2および2 PFU/細胞のMOIでの野生型HSV−2によるVero細胞の同時感染は、上記ウイルス力価が、Vero細胞においてもしくはU2CEP4R11細胞において決定されたか否かにかかわらず、同じMOIでの野生型HSV−2によって単一で感染させた細胞と比較して、野生型HSV−2生成においてほぼ500分の1になったことを示す。野生型ウイルス収量のわずかな低下が、類似の同時感染実験がN2−lacZで行われた場合に検出された。
【0054】
野生型HSV−2の複製を阻害することにおいてCJ2−gD2の有効性をさらに試験するために、本発明者らは、それぞれ、1:1および3:1のMOI比において、野生型HSV−2およびCJ2−gD2での同時感染実験を行った。
図4Bの結果は、CJ2−gD2が、野生型HSV−2感染を両方の条件下で妨げることにおいて有効である(それぞれ、5 PFU/細胞および15 PFU/細胞のMOIにおいて、野生型HSV−2に単一に感染させた細胞と比較して、示された同時感染比において、野生型ウイルス合成の約151分の1および約94分の1の低下をもたらす)ことを示す。
【0055】
(CJ2−gD2は、マウスにおける脳内注射後に無毒性である)
神経毒性は、HSV感染の顕著な特徴のうちの1つである。CJ2−gD2およびN2−C535CがCNSにおいて複製する能力を決定するために、雌性BALB/cマウス(5〜6週齢)を、5群(各々8匹のマウス)に無作為に割り当てた。CJ2−gD2およびN2−C535Cを、深さ4mmで28ゲージインスリン針を用いて、20μl容積中2.5×10
6 PFU/マウスにおいて各マウスの脳の左前頭葉に直接接種した(74)。罹病率および死亡率を、35日間にわたってモニターした。野生型HSV−2株186のLD
50が、硝子体内注射後に雌性BALB/cマウスにおいて約10 PFUであると仮定して(38)、マウスの1群に、25 PFU/マウスにおいて野生型HSV−2もまた接種した。さらなるコントロールとして、第5群のマウスに、1×10
6 PFU/マウスにおいてN2−lacZを接種した。
図5は、DMEMを接種したマウスと同様に、CJ2−gD2およびN2−C535Cを用量2.5×10
6 PFUにおいて脳内接種したマウスが、35日間の追跡の間に神経毒性の徴候を示さなかった一方で、用量25 PFU/マウス(CJ2−gD2を接種したマウスに与えられた用量の100,000分の1の用量)において野生型HSV−2を接種したすべてのマウスは、接種後10日目までに死亡したことを示す。そしてすべての接種したマウスは、HSV−2感染と一般に関連したCNS疾患の徴候(粗くなった毛並み、猫背、失調、および食欲不振が挙げられる)を示した。N2−lacZを接種したマウスのうちの100%が生き残ったが、すべてのマウスは、脳炎の徴候を示した。
【0056】
(CJ2−gD2で免疫したマウスにおけるHSV−2特異的中和抗体およびgD2特異的抗体応答の誘導)
CJ2−gD2が抗HSV−2特異的中和抗体を誘発する能力を、用量2×10
6 PFUにおいてCJ2−gD2で免疫したマウスで決定した。コントロールとして、マウスの群にも、N2−C535CもしくはCJ9−gDを同じ用量で免疫した。示されるように(
図6A)、CJ2−gD2で免疫したマウスにおける上記HSV−2特異的中和抗体力価の平均は、平均500であり、これは、N2−C535Cで免疫したマウスのものの3倍であり(p=0.015)、CJ9−gD免疫マウスにおいて誘導された中和抗体力価に匹敵する(p=0.28)。HSV−2に対する特異的抗体力価は、1:10希釈で模擬ワクチン接種したマウスにおいては検出されなかった。
【0057】
図6Bは、gD特異的抗体応答の類似のレベルが、CJ2−gD2で免疫したマウスとCJ9−gDで免疫したマウスとの間で、それぞれの免疫沈降させたgD2複合体を抗gD1抗体R45でプローブした場合に検出された一方で、CJ2−gD2で免疫したマウスにおける抗gD特異的抗体のレベルは、N2−C535Cで免疫したマウスおよび模擬免疫したコントロールより有意に高かったことを示す。まとめると、
図6に示された結果は、CJ2−gD2によるgD2の高レベル発現が、N2−C535Cと比較して、抗gD2抗体および抗HSV−2特異的中和抗体応答を誘発することにおいて増大した効力をもたらすことを示す。
【0058】
(CJ2−gD2で免疫したマウスにおけるHSV−2特異的T細胞応答の誘導)
HSV−2特異的T細胞応答を誘発することにおいてCJ2−gD2免疫の有効性を評価するために、本発明者らは、野生型HSV−2で抗原投与した後の免疫したマウスにおいて記憶T細胞応答を試験するために再現実験(recall experiment)を行った。第1に、偽ワクチン接種したマウスおよびCJ2−gD2ワクチン接種したマウスを、模擬抗原投与したか、または追加免疫後9〜10週間において野生型HSV−2で抗原投与し、続いて、抗原投与後5日目に個々のマウス群の脾臓から単離したCD4
+ およびCD8
+ T細胞でのIFN−γ ELISPOTアッセイ(n=3)を行った(
図7A)。野生型HSV−2で抗原投与したCJ2−gD2ワクチン接種したマウスは、上記模擬感染したCJ2−gD2免疫マウスと比較して、IFN−γ−陽性CD4
+ T細胞の4.8倍の増大を有した(p<0.0001)。より有意なことには、以前にCJ2−gD2でワクチン接種したHSV−2感染マウスにおいて検出されたIFN−γ分泌CD4
+ T細胞の数は、HSV−2感染した偽ワクチン接種マウスより18倍多かった(p<0.0001)。IFN−γ−陽性CD4
+ T細胞は、同一条件下で、偽ワクチン接種した模擬感染コントロールマウスにおいて検出されなかった。これら知見は、CJ2−gD2での免疫は、強力な記憶CD4
+ T細胞応答を誘発することを示す。
【0059】
上記偽ワクチン接種コントロールと比較して、CJ2−gD2ワクチン接種したマウスにおいてIFN−γ分泌CD8
+ T細胞の2倍超の増加が存在した一方で、IFN−γ分泌CD8
+ T細胞の類似の数が、HSV−2感染させた偽ワクチン接種マウスおよびHSV−2感染させたCJ2−gD2ワクチン接種マウスの脾臓において検出された(
図7B)。本発明者らは、従って、再現実験の第2のセットを行った。ここで偽ワクチン接種したマウスおよびCJ2−gD2ワクチン接種したマウスを、模擬抗原投与したか、または2回目のワクチン接種後5〜6週間において、野生型HSV−2で抗原投与した(n=3)。CD4
+ およびCD8
+ ELISPOTアッセイを、感染後4日目に行った(
図7Cおよび
図7D)。それぞれ、IFN−γ分泌CD4
+ およびCD8
+ T細胞における8.6倍および5.7倍の増加は、模擬感染させたCJ2−gD2免疫マウスと比較して、HSV−2感染後のCJ2−gD2免疫マウスにおいて検出された(CD4
+ T細胞:p=0.035;CD8
+ T細胞:p=0.01)。さらに、HSV−2での抗原投与後に、IFN−γ分泌CD4
+ およびCD8
+ T細胞は、偽ワクチン接種マウスと比較して、CJ2−gD2ワクチン接種マウスにおいてそれぞれ、8倍および9.5倍高かった(CD4
+ T細胞:p=0.036;CD8
+ T細胞:p=0.01)。まとめると、これら研究から、CJ2−gD2での免疫が、確固としたHSV−2特異的記憶CD4
+ およびCD8
+ T細胞応答を誘発し得、これは、HSV−2感染の間に効率的に再現され得ることが示される。
【0060】
(免疫したマウスにおけるHSV−2性器感染および疾患に対する防御)
初回免疫の5〜6週間後に、マウスを、50 LD
50(5×10
5 PFU/マウス)においてHSV−2株Gで膣内に抗原投与した。膣スワブを、抗原投与後1日目、2日目、3日目、5日目、および7日目に採取した。性器HSV−2疾患および播種性のHSV−2疾患の発生率について、21日の追跡期間の間にマウスを観察した。
図8Aに示されるように、抗原投与するウイルスの収量は、模擬免疫したコントロール(n=10)のものと比較して、CJ2−gD2で免疫したマウス(n=9)において、1日目に200分の1未満に(p<0.001)、および2日目に130分の1未満に(p<0.0001)低下した。CJ2−gD2で免疫したマウス群とN2−C535Cで免疫したマウス群との間で(n=10)、抗原投与後1日目、2日目、および3日目の抗原投与ウイルス排出の低下において有意差はなかったが、CJ2−gD2での免疫は、1日目(p=0.03)、2日目(p=0.025)および3日目(p<0.007)に抗原投与ウイルス排出の低下において、CJ9−gDより有効であった。抗原投与後5日目に、CJ2−gD2、N2−C535C、もしくはCJ9−gDで免疫したマウスにおいて抗原投与ウイルスは、ほとんどもしくは全く検出されなかったのに対して、すべての模擬ワクチン接種したマウスは、5×10
3 PFU/mlより多くの平均収量で、ウイルスを排出し続けた。マウスの3つの免疫群において、抗原投与後7日目に、集められた膣スワブ材料中に抗原投与ウイルスは存在しなかった。別個に実験において、本発明者らは、抗原投与後5日目に、CJ2−gD2免疫マウスにおいてウイルス排出は認められなかった一方で、野生型HSV−2の存在は、7匹のN2−C535C免疫したマウスのうちの5匹において、および7匹のCJ9−gD免疫したマウスのうちの4匹において検出されたことを観察した。
【0061】
図9における結果は、CJ2−gD2で免疫したマウスは、局所的な性器病変の発生から完全に保護され、野生型HSV−2での抗原投与後に全身的な疾患の徴候を示さなかったことを示す(
図9A)。すべての模擬免疫したマウスは、重篤な性器病変を発生させ、抗原投与後11日目までには、上記野生型HSV−2感染で死亡した(
図9B)。N2−C535CおよびCJ9−gDでの免疫は、野生型HSV−2での致死的抗原投与に対してマウスを防御したが、マウスのうちの20%および30%は、それぞれ、N2−C535C免疫マウスおよびCJ9−gD免疫マウスにおいて、局所的な性器疾患の一時的な低い程度(スコア1)を経験した(表1)。類似の実験において(表1)、CJ9−gDで免疫したマウス(n=7)の中で、2匹のマウスは、局所的な性器疾患の低い程度を経験したことが観察され、1匹のマウスは、全身的な疾患の徴候を示し、抗原投与後14日目に死亡した。7匹のN2−C535C免疫マウスのうちの3匹(43%)は、局所的な性器疾患の低い程度(スコア=1)を示した。繰り返すと、CJ2−gD2免疫したマウス(n=7)において、局所的および全身的なヘルペス疾患の徴候は何ら認められなかった。まとめると、これら研究から、CJ2−gD2は、野生型HSV−2での膣内抗原投与後の性器疾患に対するマウスの保護において、N2−C535CおよびCJ9−gDより有効なワクチンであることが示される。
【0062】
【表1】
【0063】
【化1】
【0064】
【化2】
【0065】
【化3】
【0066】
【化4】
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