特許第5845214号(P5845214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5845214
(24)【登録日】2015年11月27日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】リリーフ弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 17/04 20060101AFI20151224BHJP
   F16K 51/00 20060101ALI20151224BHJP
   F16K 17/06 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   F16K17/04 D
   F16K51/00 A
   F16K17/06 B
   F16K17/04 A
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-147586(P2013-147586)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2015-21513(P2015-21513A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079441
【弁理士】
【氏名又は名称】広瀬 和彦
(72)【発明者】
【氏名】安藤 真和
(72)【発明者】
【氏名】吉本 光宏
(72)【発明者】
【氏名】伊東 英明
(72)【発明者】
【氏名】滝口 和夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 昌希
【審査官】 加藤 一彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−69352(JP,A)
【文献】 実開昭58−84461(JP,U)
【文献】 特開2010−107036(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/151031(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 17/04−17/06
F16K 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧アクチュエータに圧油を供給する供給通路および該供給通路の途中位置に開口するスプール摺動穴が設けられた弁ケーシングと、
前記スプール摺動穴と連通するように該弁ケーシングに形成され、タンクに接続されるタンクポートと、
前記弁ケーシングのスプール摺動穴内に挿嵌して設けられ、前記供給通路内の圧力を受圧して軸方向に摺動変位することにより前記供給通路を前記タンクポートに対して開,閉するスプール弁体と、
前記供給通路に臨む前記スプール摺動穴の軸方向一側に位置して前記弁ケーシングに設けられ、前記スプール弁体がスプール摺動穴内を閉弁方向に摺動変位するときのストロークエンドを規制する変位規制部と、
前記スプール弁体の軸方向他側に位置して前記スプール摺動穴内に設けられ、前記スプール弁体を該変位規制部に向けて軸方向に付勢し前記スプール弁体の開弁圧をリリーフ圧として設定する弁ばねとを備え、
該弁ばねに抗して前記スプール弁体が開弁したときに、該スプール弁体の軸方向一側の端面と前記変位規制部との間に軸方向隙間が形成されるリリーフ弁において、
前記スプール弁体の軸方向一側には、前記供給通路内の圧力を受圧するため一側が開口し他側が閉塞された凹形状の受圧部と、該受圧部の周壁を径方向に貫通して延び該受圧部の内,外を径方向で連通させる径方向穴とを設け、
前記変位規制部に隣接した前記スプール摺動穴の一側の内周面と前記受圧部の周壁外周との間には、両者の間を周方向に延び前記スプール弁体の開弁時に油液が流通する環状隙間を形成し、
前記スプール弁体の開弁時には、前記供給通路から前記受圧部および前記径方向穴を介して前記タンクポートに流れる第1の油通路と、前記変位規制部とスプール弁体との間の前記軸方向隙間および前記環状隙間を介して前記タンクポートに流れる第2の油通路とからなる2つの油通路が常に形成される構成としたことを特徴とするリリーフ弁。
【請求項2】
前記スプール弁体の軸方向他側には、前記スプール摺動穴との間に位置して前記スプール弁体に背圧を作用させる背圧室を形成し、
前記スプール弁体の開弁時における前記軸方向隙間の寸法は、前記弁ばねのばね力と前記背圧室の圧力とにより予め決められる構成とし、
前記スプール摺動穴の一側の内周面と前記受圧部の周壁外周との間に形成される前記環状隙間の径方向寸法は、前記軸方向隙間の寸法よりも大きい寸法に設定してなる請求項1に記載のリリーフ弁。
【請求項3】
前記スプール弁体は、前記スプール摺動穴内を軸方向に摺動変位したときに前記供給通路を前記タンクポートに対して開,閉するランド部を有し、
前記スプール弁体の開弁時には、該ランド部が前記タンクポートに対して開口する軸方向の開口量寸法、前記環状隙間の径方向寸法および前記軸方向隙間の寸法関係を、軸方向隙間<環状隙間≦軸方向の開口量となるように設定してなる請求項1または2に記載のリリーフ弁。
【請求項4】
前記スプール弁体は、前記スプール摺動穴内を軸方向に摺動変位したときに前記供給通路を前記タンクポートに対して開,閉するランド部を有し、
前記スプール弁体のランド部には、前記径方向穴と連通する切欠きを設け、該切欠きは、前記スプール弁体の開弁時に前記第1の油通路および第2の油通路の一部を構成してなる請求項1または2に記載のリリーフ弁。
【請求項5】
前記変位規制部には、前記スプール弁体の軸方向一側の端面が当接する部位に斜めに傾斜した環状のテーパ面を形成してなる請求項1,2,3または4に記載のリリーフ弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建設機械等の油圧機器に好適に用いられるリリーフ弁に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベルに代表される建設機械は、油圧機器の破損、損傷等につながるような過剰圧が油圧回路中に発生するのを抑えるためにリリーフ弁を装備している。この種の従来技術によるリリーフ弁は、過剰圧の発生時に開弁してタンク側に過剰圧を逃がす構成である。また、このようなリリーフ弁としては、弁ケーシング内にスプール摺動穴を設け、該スプール摺動穴内に挿嵌して設けたスプール弁体を、軸方向に摺動変位させることによって前記過剰圧をタンク側にリリーフさせる構成としたものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−69352号公報
【特許文献2】特開2010−261366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来技術のリリーフ弁では、異物の噛み込みによって下記のような不具合が発生する虞れがある。即ち、油圧回路内を流れる作動油(圧油も含む)中には、例えば切削加工による切り粉や摩耗粉等の異物が混入することがある。このような異物は、スプール弁体を閉弁方向のストロークエンドに位置決めする変位規制部と前記スプール弁体の端部との間に噛み込まれ易い。
【0005】
前記変位規制部とスプール弁体との間に異物を噛み込んだ場合には、スプール弁体を完全に閉弁させることができなくなる。このため、油圧回路内の圧油がリリーフ弁のタンクポート側に漏洩するようになり、圧油の圧力を安定して制御できなくなる。しかも、一度噛み込まれた異物は、油液の流れによっても排出されることなく、前記変位規制部とスプール弁体との間に付着したまま留まることがあり、リリーフ弁による圧力設定機能が損なわれる可能性もある。
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、異物の噛み込みを抑え、リリーフ圧の設定を安定して行うことができるようにしたリリーフ弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、油圧アクチュエータに圧油を供給する供給通路および該供給通路の途中位置に開口するスプール摺動穴が設けられた弁ケーシングと、前記スプール摺動穴と連通するように該弁ケーシングに形成され、タンクに接続されるタンクポートと、前記弁ケーシングのスプール摺動穴内に挿嵌して設けられ、前記供給通路内の圧力を受圧して軸方向に摺動変位することにより前記供給通路を前記タンクポートに対して開,閉するスプール弁体と、前記供給通路に臨む前記スプール摺動穴の軸方向一側に位置して前記弁ケーシングに設けられ、前記スプール弁体がスプール摺動穴内を閉弁方向に摺動変位するときのストロークエンドを規制する変位規制部と、前記スプール弁体の軸方向他側に位置して前記スプール摺動穴内に設けられ、前記スプール弁体を該変位規制部に向けて軸方向に付勢し前記スプール弁体の開弁圧をリリーフ圧として設定する弁ばねとを備え、該弁ばねに抗して前記スプール弁体が開弁したときに、該スプール弁体の軸方向一側の端面と前記変位規制部との間に軸方向隙間が形成されるリリーフ弁に適用される。
【0008】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記スプール弁体の軸方向一側には、前記供給通路内の圧力を受圧するため一側が開口し他側が閉塞された凹形状の受圧部と、該受圧部の周壁を径方向に貫通して延び該受圧部の内,外を径方向で連通させる径方向穴とを設け、前記変位規制部に隣接した前記スプール摺動穴の一側の内周面と前記受圧部の周壁外周との間には、両者の間を周方向に延び前記スプール弁体の開弁時に油液が流通する環状隙間を形成し、前記スプール弁体の開弁時には、前記供給通路から前記受圧部および前記径方向穴を介して前記タンクポートに流れる第1の油通路と、前記変位規制部とスプール弁体との間の前記軸方向隙間および前記環状隙間を介して前記タンクポートに流れる第2の油通路とからなる2つの油通路が常に形成される構成としたことにある。
【0009】
請求項2の発明によると、前記スプール弁体の軸方向他側には、前記スプール摺動穴との間に位置して前記スプール弁体に背圧を作用させる背圧室を形成し、前記スプール弁体の開弁時における前記軸方向隙間の寸法は、前記弁ばねのばね力と前記背圧室の圧力とにより予め決められる構成とし、前記スプール摺動穴の一側の内周面と前記受圧部の周壁外周との間に形成される前記環状隙間の径方向寸法は、前記軸方向隙間の寸法よりも大きい寸法に設定する構成としている。
【0010】
請求項3の発明によると、前記スプール弁体は、前記スプール摺動穴内を軸方向に摺動変位したときに前記供給通路を前記タンクポートに対して開,閉するランド部を有し、前記スプール弁体の開弁時には、該ランド部が前記タンクポートに対して開口する軸方向の開口量寸法、前記環状隙間の径方向寸法および前記軸方向隙間の寸法関係を、軸方向隙間<環状隙間≦軸方向の開口量となるように設定する構成としている。
【0011】
請求項4の発明によると、前記スプール弁体は、前記スプール摺動穴内を軸方向に摺動変位したときに前記供給通路を前記タンクポートに対して開,閉するランド部を有し、前記スプール弁体のランド部には、前記径方向穴と連通する切欠きを設け、該切欠きは、前記スプール弁体の開弁時に前記第1の油通路および第2の油通路の一部を構成している。
【0012】
さらに、請求項5の発明によると、前記変位規制部には、前記スプール弁体の軸方向一側の端面が当接する部位に斜めに傾斜した環状のテーパ面を形成する構成としている。
【発明の効果】
【0013】
上述の如く、請求項1の発明によるリリーフ弁は、スプール弁体の開弁時に、供給通路内の圧油を第1の油通路と第2の油通路とからなる2つの油通路を介してタンクポートへと排出することができる。このとき、第2の油通路側では、供給通路内の圧油が変位規制部とスプール弁体との間の軸方向隙間および環状隙間を介してタンクポートに流れる。このため、スプール弁体の一側端面と変位規制部との間で異物の噛み込みが仮に発生した場合でも、前記軸方向隙間から環状隙間に向けて流れる油液(圧油)によって前記異物をタンクポート側へと洗い流すように排出することができる。この結果、前記変位規制部とスプール弁体との間に異物が付着したままで留まるようなことはなくなり、リリーフ弁による圧力設定機能を安定して維持することができる。即ち、供給通路内に過剰圧が発生したときには、これをタンクポート側にリリーフすることができ、過剰圧の発生を抑えることができる。
【0014】
請求項2の発明は、弁ばねのばね力と背圧室の圧力とによりスプール弁体の開弁時における軸方向隙間の寸法(即ち、リフト量)を予め決めることができる。この上で、スプール弁体は受圧部の周壁外周側に形成される環状隙間の径方向寸法を、前記軸方向隙間の寸法よりも大きい寸法に設定している。このため、供給通路内の圧油が第2の油通路を通ってタンクポートへと排出されるときに、油液の流速を軸方向隙間の位置で環状隙間の位置よりも速くすることができ、このときの流れに乗せてスプール弁体と変位規制部との軸方向隙間から異物を排出することができる。しかも、このときの異物は、受圧部の周壁外周側の環状隙間ではスティックされる可能性が低い。このため、スプール弁体の開,閉弁動作を妨げる可能性が低くなり、スプール弁体の摺動変位を安定させることができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、スプール弁体のランド部がタンクポートに対して開口する軸方向の開口量寸法を環状隙間の寸法以上に設定し、軸方向隙間は環状隙間よりも小さい寸法に設定している。このため、供給通路内の圧油が第2の油通路を通ってタンクポートへと排出されるときに、第2の油通路の流れに乗ってスプール弁体と変位規制部との軸方向隙間を通過した異物は、タンクポートから排出されるまでの経路途中でスティックの可能性ないし噛み込まれる虞れがくなり、異物の排出を円滑に行うことができる。
【0016】
請求項4の発明は、スプール弁体のランド部に径方向穴と連通する切欠きを設けることにより、スプール弁体の摺動変位(移動)量に対するタンクポートの開口面積を調整する上で、設計の自由度を高めることができる。このため、スプール弁体が仮に異物を噛み込んだ場合に、圧油の供給通路内とタンクポートが連通している状態でも、前記切欠きによって最低限の圧力を確保できるような構成とすることが可能となる。
【0017】
請求項5の発明は、変位規制部に形成した環状のテーパ面によりスプール弁体の一側端面が変位規制部に当接するときの接触面積を小さくすることができ、これにより、両者の当接部位で異物の噛み込みが発生する可能性(即ち、噛み込みリスク)を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態によるリリーフ弁をファンモータの駆動用油圧回路と共に示す縦断面図である。
図2図1中のリリーフ弁を開弁状態で拡大して示す縦断面図である。
図3】第2の実施の形態によるリリーフ弁を開弁状態で示す図2と同様位置の縦断面図である。
図4】第3の実施の形態によるリリーフ弁を閉弁状態で示す拡大断面図である。
図5】第4の実施の形態によるリリーフ弁を閉弁状態で示す拡大断面図である。
図6】第5の実施の形態によるリリーフ弁を開弁状態で示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態によるリリーフ弁を、ファンモータの駆動回路に適用した場合を例に挙げ、図1ないし図6にわたる添付図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
ここで、図1および図2は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は油圧アクチュエータとしてのファンモータで、該ファンモータ1は、油圧モータからなり、冷却ファン2を回転駆動するものである。油圧ショベルに代表される建設機械には、例えばエンジンの冷却水を冷やすラジエータ、作動油を冷やすオイルクーラ等の熱交換器(いずれも図示せず)が設けられ、冷却ファン2は、これらの熱交換器に向けて冷却風を供給するものである。
【0021】
なお、建設機械に設けられる熱交換器は、前記ラジエータとオイルクーラに限るものではなく、例えばエンジンの過給機に付設するインタクーラ、空調装置用の冷媒を凝縮させるコンデンサ、エンジンに供給する燃料を冷却する燃料クーラ等を含む構成であってもよい。即ち、冷却ファン2からの冷却風を供給する冷却対象の熱交換器は、前記ラジエータ、オイルクーラ、インタクーラ、コンデンサ、燃料クーラのうち少なくとも1個、また2個以上を含んで構成されるものである。
【0022】
3はタンク4と共に油圧源を構成する油圧ポンプで、該油圧ポンプ3は、建設機械の原動機となるディーゼルエンジン(図示せず)等により回転駆動され、タンク4内の作動油を吸込みつつ、後述の主管路5Aに向けて圧油を吐出する。ファンモータ1は、油圧ポンプ3から供給される圧油によって回転駆動されるものである。
【0023】
5A,5Bは油圧ポンプ3,タンク4に対してファンモータ1を接続する一対の主管路で、該主管路5A,5Bのうち一方の主管路5Aは、ファンモータ1と油圧ポンプ3との間を接続する高圧側の管路を構成し、他方の主管路5Bは、ファンモータ1とタンク4との間を接続する低圧側の管路を構成している。ファンモータ1は、主管路5A側から供給される圧油を主管路5B側に排出し、このときの給排量(圧油の流量)に比例して回転速度が増減されるものである。
【0024】
6はファンモータ1と並列関係をなすように主管路5A,5B間に短絡管路6Aを介して設けられたチェック弁である。このチェック弁6は、短絡管路6Aを一方向(即ち、主管路5A側から主管路5B)に向けて圧油が流通するのを阻止し、逆方向(主管路5B側から主管路5A)に向けて油液が流通するのを許すものである。これにより、主管路5A側が負圧傾向となったり、主管路5B側に配管の詰まり等が発生したりした場合でも、チェック弁6を開弁させることによって、ファンモータ1が損傷されるような事態を回避することができる。
【0025】
7は高圧側の主管路5Aから分岐した分岐管路で、該分岐管路7は、その先端側が後述するリリーフ弁11の背圧室19に接続されている。分岐管路7の途中には、絞り8とパイロットリリーフ弁9とが設けられ、該パイロットリリーフ弁9は、絞り8よりも下流側となる位置で分岐管路7内の圧力を予め決められた設定圧に調整するものである。
【0026】
即ち、パイロットリリーフ弁9は、分岐管路7内の圧力が前記設定圧を越えると開弁してタンク管路10側に圧力(圧油の一部)を逃がす。このため、後述するリリーフ弁11の背圧室19には、前記設定圧に相当する背圧が供給されるものである。なお、パイロットリリーフ弁9は、ソレノイドを用いた可変リリーフ弁により構成してもよい。この場合には、ファンモータ1の定格出力、種類等に応じてパイロットリリーフ弁9の設定圧を可変に調整することができる。
【0027】
一方、絞り8は、分岐管路7内をパイロットリリーフ弁9に向けて流れる圧油に絞り作用を与え、絞り8の前,後に大きな圧力差を発生させる。このため、主管路5A内の圧力は、後述するリリーフ弁11の背圧室19に比較して前記圧力差に相当する圧力分だけ高い圧力に設定されるものである。
【0028】
11は第1の実施の形態で採用したファンモータ1用のリリーフ弁で、該リリーフ弁11は、油圧ポンプ3から吐出された圧油の圧力が予め決められたリリーフ設定圧(即ち、リリーフ圧)に達すると開弁し、これ以上の過剰圧をタンク4側に逃がしてリリーフするものである。リリーフ弁11は、後述の弁ケーシング12(ケーシング本体13、段付スリーブ14、プラグ15および弁体ガイド16)、スプール弁体18および弁ばね21を含んで構成されている。
【0029】
12はリリーフ弁11の弁ケーシングで、該弁ケーシング12は、リリーフ弁11の外殻を構成するケーシング本体13と、後述の段付スリーブ14、プラグ15とを含んで構成されている。ケーシング本体13には、前記主管路5Aの一部をなす圧油の供給通路13Aと、該供給通路13Aの途中位置に開口し後述の段付スリーブ14が螺着して取付けられる弁取付穴13Bとが設けられている。弁取付穴13Bは、供給通路13Aに対してほぼ垂直な方向に延びる貫通穴により構成されている。即ち、弁取付穴13Bは、軸方向の一側(内側)が供給通路13Aに臨んで開口し、軸方向の他側(外側)は、ケーシング本体13の外側面に開口している。
【0030】
14はケーシング本体13の外側から弁取付穴13B内に螺合して着脱可能に設けられた段付スリーブである。図1図2に示すように、この段付スリーブ14は、ケーシング本体13の弁取付穴13Bを軸方向の外側からプラグ15と共に閉塞している。段付スリーブ14は、軸方向の一側から軸方向の他側(即ち、弁取付穴13Bの軸方向外側)に向けて段階的に拡径された段付筒状体として形成されている。段付スリーブ14の内周面は、後述のスプール弁体18が挿嵌される円形のスプール摺動穴14Aとなっている。
【0031】
段付スリーブ14には、供給通路13Aに臨む軸方向の一側に変位規制部14Bが設けられ、該変位規制部14Bは、段付スリーブ14の一側端部から径方向内向きに突出する環状突起として形成されている。変位規制部14Bは、後述のスプール弁体18がスプール摺動穴14A内を閉弁方向に摺動変位するときのストロークエンドを規制する。即ち、スプール弁体18は、変位規制部14Bに当接することにより閉弁位置に保持されるものである。変位規制部14Bの内周面は、供給通路13Aに常時連通する開口部14Cとなっている。
【0032】
また、段付スリーブ14の一側内周には、変位規制部14Bに隣接して拡径穴部14Dが設けられ、該拡径穴部14Dは、後述のスプール弁体18との間に環状隙間22を形成するものである。拡径穴部14Dは、その軸方向寸法を可能な限り大きく形成され、スプール弁体18の開弁時にも後述の径方向穴18Bと少なくとも部分的に径方向で対向する構成となっている。
【0033】
段付スリーブ14の軸方向中間部は、ケーシング本体13の弁取付穴13B内に螺着して取付けられる固定筒部14Eとなっている。段付スリーブ14の固定筒部14Eは、ケーシング本体13の弁取付穴13B内に液密状態で嵌合されている。段付スリーブ14の固定筒部14Eには、軸方向一側寄りの位置に後述の環状溝17Cおよび連通穴17Dが設けられている。そして、スプール弁体18が閉弁状態にあるときに、段付スリーブ14の固定筒部14Eは、供給通路13Aを後述のタンクポート17に対して遮断した状態に保つものである。
【0034】
一方、段付スリーブ14の軸方向他側には、ケーシング本体13の外部に突出する突出筒部14Fが設けられている。該突出筒部14Fは、その外側面が六角形または四角形状に形成され、段付スリーブ14を弁取付穴13Bに螺着するときに、例えばレンチ等の工具(図示せず)が突出筒部14Fに係合されるものである。段付スリーブ14の突出筒部14Fと固定筒部14Eとの間には、ケーシング本体13の端面に液密状態で当接される環状段部14Gが形成されている。
【0035】
さらに、段付スリーブ14の固定筒部14Eには、後述の背圧室19に連通する径方向の油孔14Hが形成され、該油孔14Hには、分岐管路7の先端側が接続されている。ここで、油孔14Hは、分岐管路7からの油液が背圧室19に流入または背圧室19から油液が流出するときに、この油液に絞り作用を与えるオリフィス孔としても機能する。
【0036】
15は弁ケーシング12の一部を構成するプラグで、該プラグ15は、段付スリーブ14の突出筒部14Fの内周側に外側から螺合して設けられている。プラグ15は、段付スリーブ14の突出筒部14Fを外部に対して閉塞する栓体を構成している。ここで、プラグ15は、その先端面(軸方向一側の端面)が後述の弁ガイド16に当接し、後述する弁ばね21のばね力を可変に調整する機能を有している。即ち、弁ばね21のばね力は、突出筒部14Fに対するプラグ15の螺合位置を変えて弁ガイド16を段付スリーブ14(スプール摺動穴14A)内で軸方向に移動させることにより調整されるものである。
【0037】
16は段付スリーブ14内に変位可能に設けられた弁ガイドで、該弁ガイド16は、後述のスプール弁体18をスプール摺動穴14A内で軸方向にガイドし、スプール弁体18の開,閉弁動作(即ち、軸方向の摺動変位)を安定させるものである。ここで、弁ガイド16は、軸方向の一側がスプール弁体18をガイドするガイド筒部16Aとなり、軸方向の他側は、後述する弁ばね21のばね力を受承するばね受部16Bとなっている。また、弁ガイド16の軸方向中間部には、後述のダンピング室20に油液が流入,出するのを補償する径方向の油孔16Cが形成されている。
【0038】
17はスプール摺動穴14Aと連通するように弁ケーシング12に形成されたタンクポートで、該タンクポート17は、弁取付穴13Bの径方向に延びてケーシング本体13に形成されタンク管路17Aを介してタンク4に接続されたポート穴17Bと、段付スリーブ14の内周面に形成され全周にわたって延びた環状溝17Cと、該環状溝17Cをポート穴17Bに連通させるように段付スリーブ14の径方向に穿設された複数の連通穴17Dとにより構成されている。
【0039】
ここで、タンクポート17の環状溝17Cは、段付スリーブ14の変位規制部14B、拡径穴部14Dから軸方向の他側に予め決められた寸法だけ離間した位置(固定筒部14Eの軸方向一側寄りの位置)に配置されている。そして、後述のスプール弁体18が軸方向に摺動変位するときに、タンクポート17の環状溝17Cは、後述のランド部18Cにより供給通路13A(即ち、後述の径方向穴18B)に対して連通,遮断されるものである。
【0040】
18は段付スリーブ14のスプール摺動穴14A内に挿嵌して設けられたスプール弁体である。このスプール弁体18は、供給通路13A内の圧力を後述の受圧部18A側で受圧し、弁ばね21に抗して軸方向に摺動変位する。これによって、スプール弁体18(即ち、後述のランド部18C)は、供給通路13Aをタンクポート17に対して開,閉するものである。
【0041】
ここで、スプール弁体18の軸方向一側には、供給通路13A内の圧力を受圧する受圧部18Aが凹形状をなして形成されている。図2に示すように、受圧部18Aは、筒状の周壁からなる先端筒部18A1 と底部18A2 とにより凹形状に形成されている。即ち、受圧部18Aの先端筒部18A1 は、その軸方向一側が変位規制部14Bの開口部14Cと軸方向で対向して開口し、他側が底部18A2 となって閉塞されている。
【0042】
受圧部18Aの先端筒部18A1 には、その周壁を径方向に貫通して延びる合計4個の径方向穴18Bが設けられている。該各径方向穴18Bは、受圧部18Aの内,外を径方向で連通させる貫通穴として形成されている。なお、径方向穴18Bの個数は、4個に限るものではなく、例えば1〜3個または5個以上であってもよい。
【0043】
スプール弁体18の外周側には、受圧部18Aの底部18A2 に対して径方向外側となる位置に環状のランド部18Cが設けられている。このランド部18Cは、スプール弁体18がスプール摺動穴14A内を軸方向に変位するときに、供給通路13Aとタンクポート17との間を連通,遮断するように、受圧部18Aおよび径方向穴18Bを段付スリーブ14の環状溝17Cに対して開,閉するものである。
【0044】
スプール弁体18の軸方向他側は、スプール摺動穴14A内を軸方向に延びる円筒状の有蓋筒部18Dとして形成されている。該有蓋筒部18Dは、その内周面が弁ガイド16のガイド筒部16Aの外周面に摺動接触するように挿嵌されている。有蓋筒部18Dの他側端部は、後述する弁ばね21のばね力を受承するばね受部18Eとなっている。
【0045】
19は段付スリーブ14のスプール摺動穴14A内に形成された背圧室で、該背圧室19は、スプール弁体18の有蓋筒部18Dと弁ガイド16との間に形成された環状の油室である。背圧室19は、段付スリーブ14の油孔14Hを介して分岐管路7に接続され、弁ガイド16の油孔16Cを介して後述のダンピング室20に常時連通している。
【0046】
これにより、背圧室19(ダンピング室20を含む)には、パイロットリリーフ弁9により圧力設定された分岐管路7内の圧油が油孔14Hを介して供給される。このため、スプール弁体18には、背圧室19(ダンピング室20を含む)内の圧力が予め設定された圧力で、有蓋筒部18D側に閉弁方向に作用する背圧として作用するものである。
【0047】
20は弁ガイド16のガイド筒部16Aとスプール弁体18の有蓋筒部18Dとの間に形成されたダンピング室である。このダンピング室20は、弁ガイド16の油孔16Cを介して背圧室19と常時連通している。そして、ダンピング室20は、背圧室19と共にスプール弁体18に背圧を作用させ、スプール弁体18が開,閉弁方向に摺動変位するときには、油孔14H,16Cによる絞り作用でスプール弁体18の動きを緩やかに緩和(緩衝)するものである。
【0048】
21はスプール弁体18を常時閉弁方向に向けて付勢する弁ばねで、該弁ばね21は、スプール摺動穴14A(背圧室19)内に位置して弁ガイド16のばね受部16Bとスプール弁体18のばね受部18Eとの間に縮装状態(即ち、プリセット状態)で配設されている。弁ばね21は、スプール弁体18の先端筒部18A1 を段付スリーブ14の変位規制部14Bに押付けるように付勢し、スプール弁体18の開弁圧をリリーフ圧として設定するものである。
【0049】
22は段付スリーブ14の変位規制部14Bに隣接した拡径穴部14D(スプール摺動穴14Aの一側)と受圧部18Aの先端筒部18A1 との間に形成された環状隙間である。図2に示すように、この環状隙間22は、径方向寸法αをもって形成され、拡径穴部14Dの内周面と先端筒部18A1 の外周面との間を周方向に全周にわたって延びている。スプール弁体18の開弁時には、後述の軸方向隙間23を介して環状隙間22内を矢示B方向に油液が流通する。
【0050】
23はスプール弁体18の開弁時に段付スリーブ14の変位規制部14Bと先端筒部18A1 との間に形成される軸方向隙間である。図2に示すように、この軸方向隙間23は、軸方向の寸法βを有し、この寸法βは、スプール弁体18の開弁時におけるリフト量に相当する寸法である。即ち、スプール弁体18のリフト量(寸法β)は、パイロットリリーフ弁9の設定圧(リリーフ調整圧)、背圧室19(ダンピング室20を含む)に対する有蓋筒部18Dの受圧面積、弁ばね21のばね力、供給通路13A内の圧力を受圧する受圧部18Aの受圧面積等によって予め決められるものである。
【0051】
ここで、環状隙間22の径方向寸法αは、スプール弁体18の開弁時における軸方向隙間23の寸法βよりも大きくなり、下記の数1式を満たすように設定されている。換言すると、段付スリーブ14(スプール摺動穴14A)の一側内周には、数1式を満たすように拡径穴部14Dが形成されている。
【0052】
【数1】
【0053】
図2に示すように、スプール弁体18の開弁時には、弁ケーシング12の供給通路13Aからスプール弁体18の受圧部18Aおよび各径方向穴18Bを介してタンクポート17へと矢示A方向に流れる第1の油通路24と、段付スリーブ14の変位規制部14Bとスプール弁体18との間の軸方向隙間23および環状隙間22を介してタンクポート17へと矢示B方向に流れる第2の油通路25とが形成される。
【0054】
第1の本実施の形態によるファンモータ1の駆動回路に適用されたリリーフ弁11は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0055】
まず、ディーゼルエンジンジ等の原動機(図示せず)によって油圧ポンプ3を回転駆動すると、タンク4内の作動油が油圧ポンプ3に吸込まれると共に、高圧の圧油が主管路5A内へと吐出される。即ち、油圧ポンプ3からの圧油が主管路5Aを介してファンモータ1に供給され、その戻り油が主管路5Bを介してタンク4へと排出される。
【0056】
これにより、ファンモータ1は冷却ファン2を回転駆動して建設機械の熱交換器(例えば、ラジエータ、オイルクーラ等)に、冷却ファン2からの冷却風を供給することができる。ファンモータ1の回転速度は、主管路5A,5Bを介した圧油の給排量(圧油の流量)に比例して増減され、パイロットリリーフ弁9の設定圧(リリーフ調整圧)とリリーフ弁11のリリーフ設定圧によって決められるものである。
【0057】
ところで、油圧回路内を流れる圧油(即ち、作動油)中には、例えば切削加工による切り粉や摩耗粉等の異物が混入することがある。このような異物は、リリーフ弁11のスプール弁体18(先端筒部18A1 )と段付スリーブ14の変位規制部14Bとの間に噛み込まれ易い。変位規制部14Bとスプール弁体18との間に異物を噛み込んだ場合には、スプール弁体18を完全に閉弁させることができなくなるため、油圧回路内の圧油がリリーフ弁11のタンクポート17側に漏洩する虞れがあり、圧油の圧力を安定して制御するのが難しくなる。
【0058】
そこで、第1の実施の形態によると、スプール弁体18の軸方向一側には、供給通路13A内の圧力を受圧するため一側が開口し他側が閉塞された凹形状の受圧部18Aと、該受圧部18Aの周壁(先端筒部18A1 )を径方向に貫通して延び該受圧部18Aの内,外を径方向で連通させる径方向穴18Bとを設け、変位規制部14Bに隣接したスプール摺動穴14Aの一側(即ち、拡径穴部14D)と先端筒部18A1 の外周との間には、両者の間を周方向に延びスプール弁体18の開弁時に油液が流通する環状隙間22を形成している。そして、リリーフ弁11は、弁ばね21に抗してスプール弁体18が開弁したときに、該スプール弁体18の先端筒部18A1 と段付スリーブ14の変位規制部14Bとの間に軸方向隙間23が形成される構成としている。
【0059】
この上で、スプール弁体18の開弁時には、供給通路13Aから受圧部18Aおよび径方向穴18Bを介してタンクポート17へと矢示A方向に流れる第1の油通路24と、変位規制部14Bとスプール弁体18(先端筒部18A1 )との間の軸方向隙間23および環状隙間22を介してタンクポート17へと矢示B方向に流れる第2の油通路25とを形成する構成としている。
【0060】
これにより、リリーフ弁11は、スプール弁体18の開弁時に供給通路13A内の圧油を第1の油通路24と第2の油通路25とを介してタンクポート17へと排出することができる。このとき、第2の油通路25側では供給通路13A内の圧油が軸方向隙間23および環状隙間22を介してタンクポート17へと矢示B方向に流れる。
【0061】
このため、スプール弁体18の先端筒部18A1 と変位規制部14Bとの間で異物の噛み込みが仮に発生した場合でも、軸方向隙間23から環状隙間22に向けて矢示B方向に流れる油液(圧油)によって前記異物をタンクポート17側へと洗い流すように排出することができる。この結果、変位規制部14Bとスプール弁体18(先端筒部18A1 )との間に異物が付着したままで留まるようなことはなくなり、リリーフ弁11による圧力設定機能を安定して維持することができる。即ち、供給通路13A内に過剰圧が発生したときには、これをタンクポート17側にリリーフすることができ、過剰圧の発生を抑えることができる。
【0062】
しかも、第1の実施の形態で採用したリリーフ弁11は、弁ばね21のばね力と背圧室17(ダンピング室20)の圧力とによりスプール弁体18の開弁時における軸方向隙間23の寸法β(即ち、リフト量)を予め決めることができる。この上で、スプール弁体18は先端筒部18A1 の外周側に形成される環状隙間22の径方向寸法αを、数1式に示すように軸方向隙間23の寸法βよりも大きい寸法に設定している。
【0063】
このため、供給通路13A内の圧油が第2の油通路25を通って矢示B方向へとタンクポート17に排出されるときに、油液の流速を軸方向隙間23の位置で環状隙間22の位置よりも速くすることができ、このときの流れに乗せてスプール弁体18(先端筒部18A1 )と変位規制部14Bとの軸方向隙間23から異物を排出することができる。しかも、このときの異物は、受圧部18Aの先端筒部18A1 の外周側の環状隙間22ではスティックされる可能性が低くなる。これにより、スプール弁体18の開,閉弁動作が妨げられることはなくなり、スプール弁体18の摺動変位を安定させることができる。
【0064】
従って、第1の実施の形態で採用したリリーフ弁11は、上述の如き構成を採用することにより、スプール弁体18(先端筒部18A1 )と変位規制部14Bとの軸方向隙間23における異物の噛み込みを抑えることができると共に、過剰圧の発生を防ぐことができ、リリーフ弁11によるリリーフ圧の設定を安定して行うことができる。
【0065】
次に、図3は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。然るに、第2の実施の形態の特徴は、スプール弁体18のランド部18Cに開口溝部31を設けることにより、後述の数2式による関係を満たす構成としたことにある。
【0066】
第2の実施の形態で採用した開口溝部31は、スプール弁体18のランド部18Cを部分的に切り取るように形成され、ランド部18Cに複数個設けられている。開口溝部31は、ランド部18Cに設けられた切欠きであってもよい。即ち、各開口溝部31は、スプール弁体18の軸方向と周方向とにそれぞれ予め決められた寸法をもって形成され、スプール弁体18の径方向にも予め決められた溝深さ(寸法)をもって形成されている。そして、スプール弁体18の開弁時において、ランド部18Cがタンクポート17の環状溝17Cに対して開口する軸方向の開口量寸法は、開口溝部31により図3中に示す寸法γに設定されるものである。
【0067】
ここで、環状隙間22の径方向寸法α、軸方向隙間23の寸法β、開口溝部31によるランド部18Cの開口量寸法(寸法γ)は、下記の数2式を満たす関係に設定されている。即ち、環状隙間22の径方向寸法αは、軸方向隙間23の寸法βよりも大きく、開口溝部31によるランド部18Cの軸方向の開口量寸法に対して寸法γ以下の寸法になっている。
【0068】
【数2】
【0069】
スプール弁体18のランド部18Cは、数2式の関係を満たすことにより、開弁時にランド部18Cがタンクポート17の環状溝17Cに対して開口する軸方向の開口量寸法(寸法γ)が、軸方向隙間23の寸法βよりも大きい寸法となっている。このため、スプール弁体18の閉弁時(即ち、先端筒部18A1 が段付スリーブ14の変位規制部14Bに当接した状態)でも、開口溝部31によりランド部18Cがタンクポート17の環状溝17Cに僅かでも開口し続けることになる。
【0070】
これにより、供給通路13A内の圧油は、スプール弁体18の閉弁時にも開口溝部31を通じてタンクポート17側に排出される。しかし、このときの油液量(油液の排出量)は、開口溝部31の形状に応じて適宜に調整することが可能である。このため、供給通路13A(主管路5A)内の圧力を所望な圧力(即ち、ファンモータ1を回転駆動するのに必要な圧力)に保持することができるものである。
【0071】
かくして、このように構成される第2の実施の形態でも、スプール弁体18(先端筒部18A1 )と変位規制部14Bとの軸方向隙間23における異物の噛み込みを抑えることができ、第1の実施の形態とほぼ同様な効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態では、スプール弁体18のランド部18Cがタンクポート17に対して開口する軸方向の開口量寸法(開口溝部31による寸法γ)を環状隙間22の径方向寸法α以上に設定している。
【0072】
このため、スプール弁体18の開弁時には、供給通路13A内の圧油が第2の油通路25を通ってタンクポート17へと排出されるときに、矢示B方向の流れに乗ってスプール弁体18(先端筒部18A1 )と変位規制部14Bとの軸方向隙間23を通過した異物は、タンクポート17から排出されるまでの経路(即ち、油通路25)の途中でスティックの可能性ないし噛み込まれる可能性が低くなり、異物の排出を円滑に行うことができる。
【0073】
次に、図4は本発明の第3の実施の形態を示し、第3の実施の形態の特徴は、スプール弁体のランド部に径方向穴と連通する切欠きを設ける構成としたことにある。なお、第3の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0074】
図中、41はスプール弁体18のランド部18Cに形成した複数の切欠きで、該各切欠き41は、断面三角形状または四角形状をなすノッチにより構成され、スプール弁体18の各径方向穴18Bに連通している。即ち、第3の実施の形態で採用した各切欠き41は、スプール弁体18のランド部18Cを部分的に切欠くことにより形成されている。各切欠き41は、スプール弁体18の軸方向と周方向とにそれぞれ予め決められた寸法をもって形成され、スプール弁体18の径方向にも予め決められた溝深さ(寸法)をもって形成されている。
【0075】
図4に示すように、閉弁状態にあるスプール弁体18が開弁方向(即ち、先端筒部18A1 が変位規制部14Bから離間する方向)に移動した場合、まず、スプール弁体18の切欠き41がタンクポート17の環状溝17Cに連通し、さらにスプール弁体18が開弁方向に移動したときに、スプール弁体18の径方向穴18Bがタンクポート17(段付スリーブ14に形成した環状溝17C)に直接的に連通するようになる。各切欠き41は、スプール弁体18の開弁時に第1の油通路24および第2の油通路25の一部を構成するものである。
【0076】
このため、スプール弁体18のランド部18Cに切欠き41を設けることによって、スプール弁体18の摺動変位(移動)量とタンクポート17の環状溝17Cに対する開口面積の関係を幅広く設定できるようになり、仮に異物の噛み込みが発生した場合でも、リリーフ弁11により最低限の圧力(即ち、ファンモータ1を回転駆動するのに必要な圧力)を確保することができる。
【0077】
かくして、このように構成される第3の実施の形態でも、スプール弁体18(先端筒部18A1 )と変位規制部14Bとの間における異物の噛み込みを抑えることができ、第1の実施の形態とほぼ同様な効果を得ることができる。特に、第3の実施の形態では、スプール弁体18のランド部18Cに径方向穴18Bと連通する切欠き41を設ける構成としている。
【0078】
これにより、スプール弁体18の摺動変位(移動)量に対するタンクポート17の開口面積を調整する上で、設計の自由度を高めることができる。このため、スプール弁体18が仮に異物を噛み込んだ場合に、圧油の供給通路13A内とタンクポート17がランド部18Cを介して連通したとしても、ランド部18Cに設けた切欠き41によって最低限の圧力を確保するような構成とすることができる。
【0079】
次に、図5は本発明の第4の実施の形態を示し、第4の実施の形態の特徴は、段付スリーブの変位規制部に環状のテーパ面を設ける構成としたことにある。なお、第4の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0080】
図中、51は第4の実施の形態で採用した環状のテーパ面で、該テーパ面51は、段付スリーブ14の変位規制部14Bのうち、開口部14Cの周囲に位置する部位に形成されている。即ち、テーパ面51は、段付スリーブ14の変位規制部14Bのうち、スプール弁体18の軸方向一側の端面(即ち、先端筒部18A1 )が当接する部位に斜めに傾斜した面として形成されている。
【0081】
テーパ面51は、変位規制部14Bに対する先端筒部18A1 の接触面積を小さくし、両者の接触が線接触(または、線接触に近い状態)となるように構成されている。これによって、変位規制部14Bと先端筒部18A1 との間で異物を噛み込むリスクが小さくなる。
【0082】
かくして、このように構成される第4の実施の形態でも、スプール弁体18(先端筒部18A1 )と変位規制部14Bとの間における異物の噛み込みを抑えることができ、第1の実施の形態とほぼ同様な効果を得ることができる。特に、第4の実施の形態では、段付スリーブ14の変位規制部14Bに環状のテーパ面51を設ける構成としている。
【0083】
このため、変位規制部14Bに形成した環状のテーパ面51によりスプール弁体18の軸方向一側の端面(即ち、先端筒部18A1 )が変位規制部14Bに当接するときの接触面積を小さくすることができ、両者の当接部位で異物の噛み込みが発生する可能性(即ち、噛み込みリスク)を低減することができる。
【0084】
次に、図6は本発明の第5の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、スプール弁体の開弁時において、段付スリーブの内周面に沿った油液の流れを円滑にする構成としたことにある。なお、第5の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0085】
図中、61は段付スリーブ14の変位規制部14Bと拡径穴部14Dとの間に設けられた面取り部としての円弧面部で、該円弧面部61は、変位規制部14Bと拡径穴部14Dとの間のコーナ部に円弧状の面取りを施すことにより形成されている。スプール弁体18が図6に示すように開弁したときには、供給通路13A内の圧油が第2の油通路25を通ってタンクポート17へ排出されるときに、矢示B方向の流れを円弧面部61により滑らかな流れとすることができる。
【0086】
即ち、円弧面部61は、スプール弁体18(先端筒部18A1 )と変位規制部14Bとの軸方向隙間23を通過した矢示B方向の油液の流れを、段付スリーブ14の変位規制部14Bおよび拡径穴部14Dの内側面に沿った円滑な流れとするものである。
【0087】
かくして、このように構成される第5の実施の形態でも、スプール弁体18(先端筒部18A1 )と変位規制部14Bとの軸方向隙間23における異物の噛み込みを抑えることができ、第1の実施の形態とほぼ同様な効果を得ることができる。特に、第5の実施の形態では、段付スリーブ14の変位規制部14Bと拡径穴部14Dとの間のコーナ部に円弧面部61を形成している。
【0088】
これにより、円弧面部61は、スプール弁体18の開弁時における矢示B方向の油液の流れを、段付スリーブ14の変位規制部14Bおよび拡径穴部14Dの内側面に沿った円滑な流れとすることができる。このため、先端筒部18A1 と変位規制部14Bとの間に仮に異物が入り込んでも、軸方向隙間23を通過した矢示B方向の流れに異物が乗り易くなり、この異物をタンクポート17側に容易に排出することができる。即ち、仮に異物を軸方向隙間23に噛み込んだ場合でも、この異物を第2の油通路25の矢示B方向の流れで排出するときに、円弧面部61によって異物を矢示B方向へと円滑にガイドでき、異物を排出し易くすることができる。
【0089】
なお、前記第5の実施の形態では、段付スリーブ14の変位規制部14Bと拡径穴部14Dとの間のコーナ部に円弧面部61を形成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば変位規制部14Bと拡径穴部14Dとの間のコーナ部に斜めに傾斜した面からなる面取りを施す構成としてもよい。
【0090】
また、前記第1の実施の形態では、リリーフ弁11をファンモータ1の駆動回路に適用する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば作業用の油圧シリンダ、走行用または旋回用の油圧モータ等を駆動する油圧アクチュエータ駆動回路に適用されるリリーフ弁であってもよい。この点は、前記第2〜第5の実施の形態についても同様である。
【0091】
さらに、前記各実施の形態では、弁ケーシング12をケーシング本体13と段付スリーブ14とを含んで構成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば弁ケーシングを単一の部材として形成し、この弁ケーシングに、圧油の供給通路とスプール摺動穴とを設ける構成としてもよい。
【0092】
次に、前記各実施の形態に含まれる発明について記載する。本発明によれば、油圧アクチュエータに圧油を供給する供給通路および該供給通路の途中位置に開口する弁取付穴が設けられた弁のケーシング本体と、該ケーシング本体の弁取付穴を外側から閉塞するように前記弁取付穴に螺合して設けられ、内周側が前記供給通路に連通するスプール摺動穴となった弁筒部材としての段付スリーブと、前記スプール摺動穴と連通するように前記段付スリーブおよびケーシング本体に形成され、タンクに接続されるタンクポートと、前記段付スリーブのスプール摺動穴内に挿嵌して設けられ、前記供給通路内の圧力を受圧して軸方向に摺動変位することにより前記供給通路を前記タンクポートに対して開,閉するスプール弁体と、前記供給通路に臨む前記段付スリーブの軸方向一側に設けられ、前記スプール弁体がスプール摺動穴内を閉弁方向に摺動変位するときのストロークエンドを規制する変位規制部と、前記スプール弁体の軸方向他側に位置して前記段付スリーブ内に設けられ、前記スプール弁体を該変位規制部に向けて軸方向に付勢し前記スプール弁体の開弁圧をリリーフ圧として設定する弁ばねとを備え、該弁ばねに抗して前記スプール弁体が開弁したときに、該スプール弁体の軸方向一側の端面と前記変位規制部との間に軸方向隙間が形成されるリリーフ弁に適用される。
【0093】
このようなリリーフ弁において、前記スプール弁体の軸方向一側には、前記供給通路内の圧力を受圧するため一側が開口し他側が閉塞された凹形状の受圧部と、該受圧部の周壁を径方向に貫通して延び該受圧部の内,外を径方向で連通させる径方向穴とを設け、前記変位規制部に隣接した前記段付スリーブの一側内周と前記受圧部の周壁外周との間には、両者の間を周方向に延び前記スプール弁体の開弁時に油液が流通する環状隙間を形成し、前記スプール弁体の開弁時には、前記供給通路から前記受圧部および前記径方向穴を介して前記タンクポートに流れる第1の油通路と、前記変位規制部とスプール弁体との間の前記軸方向隙間および前記環状隙間を介して前記タンクポートに流れる第2の油通路とを形成する構成としたことを特徴としている。
【符号の説明】
【0094】
1 ファンモータ(油圧アクチュエータ)
2 冷却ファン
3 油圧ポンプ
4 タンク
5A,5B 主管路
7 分岐管路
8 絞り
9 パイロットリリーフ弁
11 リリーフ弁
12 弁ケーシング
13 ケーシング本体
13A 供給通路
13B 弁取付穴
14 段付スリーブ
14A スプール摺動穴
14B 変位規制部
15 プラグ
16 弁ガイド
17 タンクポート
17C 環状溝
18 スプール弁体
18A 受圧部
18A1 先端筒部(軸方向一側の端面)
18A2 底部
18B 径方向穴
18C ランド部
19 背圧室
20 ダンピング室
21 弁ばね
22 環状隙間
23 軸方向隙間
24 第1の油通路
25 第2の油通路
31 開口溝部
41 切欠き
51 テーパ面
61 円弧面部(面取り部)
α 径方向寸法
β 寸法
γ 開口量寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6