(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5845478
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】放射性物質含有排水の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/26 20060101AFI20151224BHJP
G21F 9/06 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
G21F9/26
G21F9/06 511Z
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-94473(P2011-94473)
(22)【出願日】2011年4月20日
(65)【公開番号】特開2012-225810(P2012-225810A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】511099892
【氏名又は名称】ミヤモンテ ユーエスエー インク
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大 塚 則 昭
(72)【発明者】
【氏名】宮 山 雅 夫
【審査官】
藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭51−030164(JP,A)
【文献】
特開2006−116376(JP,A)
【文献】
特開2006−212540(JP,A)
【文献】
特表2012−503547(JP,A)
【文献】
特開平07−191190(JP,A)
【文献】
特開2006−159082(JP,A)
【文献】
田中忠夫 他,TRU核種の移行挙動に関する研究,JAERI−CONF,日本,日本原子力研究開発機構,2001年12月,JAERI−CONF 2001−015,全文および全図
【文献】
Nagao S. et.al.,Molecular size distribution of Pu in the presence of humic substances in river and droundwaters,J.Radioanal Nucl.Chem.,NL,Springer,2007年 7月,Vol.237 No.1,pp.135−139
【文献】
上田正人 他,合成吸着樹脂を用いた地下水腐植物質の採取と特性分析,原子力バックエンド研究,日本,日本原子力学会,2006年 3月31日,Vol.12 No.1/2,pp.31−39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/26
G21F 9/06
C02F 1/00
C02F 1/28
C02F 1/58
C02F 5/00
C02F 9/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質含有排水を無害化処理することができる水処理方法であって、
前記放射性物質含有排水を逆浸透膜で処理する逆浸透膜濾過工程と、
前記放射性物質含有排水中にフルボ酸水溶液を添加するフルボ酸処理工程と、
前記フルボ酸処理工程で生成したフルボ酸と放射性物質イオンとの錯体を不溶化して分離する工程と、
を含むことを特徴とする放射性物質含有排水処理方法。
【請求項2】
前記逆浸透膜濾過工程の前に固形物質除去工程が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の放射性物質含有排水処理方法。
【請求項3】
前記フルボ酸処理工程が、前記逆浸透膜濾過工程で濃縮された濃縮水にフルボ酸水溶液を添加処理するものであることを特徴とする請求項1に記載の放射性物質含有排水処理方法。
【請求項4】
放射性物質含有排水を無害化処理することができる水処理装置であって、
放射性物質含有排水を逆浸透膜で処理する逆浸透膜濾過装置と、
前記放射性物質含有排水中にフルボ酸水溶液を添加するフルボ酸処理手段と、
前記フルボ酸処理工程で生成したフルボ酸と放射性物質イオンとの錯体を不溶化して分離する分離手段と、
を含むことを特徴とする放射性物質含有排水処理装置。
【請求項5】
前記逆浸透膜濾過装置の前段にフルボ酸水溶液を添加するフルボ酸処理手段を設けたことを特徴とする請求項4に記載の放射性物質含有排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質含有排水の処理方法及び装置に係り、より詳しくは、原子力施設における放射性物質含有排水の処理に好適な方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設から発生する放射性排水としては、作業員の衣類を洗濯した際に発生する洗濯排水、機器や配管系統の洗浄排水・ブロー排水などである機器ドレン水、施設床上への漏洩水・結露水や雑排水である床ドレン水等がある。これらの放射性排水は、排水中の放射性物質を除去低減した上で、施設用水として再利用するか、化学的酸素要求量(以下CODと略記)原因物質等を除去低減して環境へ放出処分される。
【0003】
このような原子力施設から発生する放射性排水の処理としては、放射性懸濁固形物質除去のためにフィルタによる濾過等で固液分離処理が行われ、イオン化した溶解性放射性物質除去のためにイオン交換樹脂処理、蒸発濃縮処理、逆浸透膜処理などが行われ、環境への放出のために活性炭吸着処理、凝集沈澱処理等が行われる。
【0004】
しかしながら、原子力施設から定常的に排出される上記のような放射性排水は、放射性物質の含有濃度が低く、処理は容易であるが、原子力設備における事故等によって発生した廃水は放射性物質の含有濃度が高く、従来の排水処理装置で処理しようとすると、処理中に二次廃棄物として廃イオン交換樹脂、廃濾過膜、廃活性炭等が大量に発生するため、それらの交換頻度が増大し、処理速度が大幅に遅くなるという問題があった。
【0005】
このような問題点に対して、特許文献1には、放射性排水を酸化剤と接触させることにより放射性排水中のイオン状放射性物質を酸化・不溶化処理し、フィルタなどで固液分離する方法が開示されているが、高濃度の放射性物質を含有する廃水を処理する場合には、処理速度の点で十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−228795号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明は、上述の問題点を解決するためになされるものであって、本発明の目的は、原子力施設における高濃度の放射性物質を含有する排水を迅速に、かつ効果的に無害化処理することができる放射性物質含有排水処理方法及び処理装置を提供することにある。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは、水質改善の観点から、重金属等と強い錯体形成能を有し、重金属を水に可溶化するフルボ酸に着目してきたが、最近になって、トレンフィールド(Melanine A. Trenfield)らによって、フルボ酸を加えることにより水中の遊離ウラニルイオン(UO
22+)が大幅に減少して無害化されることが報告された(Envin. Sci. Technl. 2011,45,3082−3089)。
【0009】
発明者らは、原子力施設における事故廃水を無害化処理するにあたって、上記性質を有するフルボ酸の活用を鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0010】
前記目的を達成するために、本発明に係る放射性物質含有排水処理方法は、放射性物質含有排水を無害化処理することができる水処理方法であって、放射性物質含有排水を逆浸透膜で処理する逆浸透膜濾過工程と、放射性物質含有排水にフルボ酸添加処理するフルボ酸添加処理工程を含む。
【0011】
また、本発明に係る放射性物質含有排水処理装置は、放射性物質含有排水を逆浸透膜で処理する逆浸透膜濾過装置と、放射性物質含有排水にフルボ酸を添加処理するフルボ酸処理手段を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原子力施設から発生する放射性排水に含まれる放射性物質を、迅速に無害化することができ、従来の方法に比べ、イオン交換樹脂、濾過膜、活性炭等の二次廃棄物の発生量が少なくなる上、保守作業も簡単となる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る排水処理装置を示すブロック図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る排水処理装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の一実施形態を示すブロック図であり、放射性物質含有排水貯蔵槽10、固液分離装置20、逆浸透膜濾過装置30、フルボ酸供給槽44を有するフルボ酸処理槽40を順に配列した例を示した。
【0015】
本実施態様において、放射性物質含有排水貯蔵槽10から送られた放射性物質含有排水は、固液分離装置20により、排水中に懸濁した放射性固形物質等の固形物質が固液分離され、分離された放射性固形物質を含むスラッジは、放射性二次廃棄物として処理される。また、放射性固形物質が除かれた排水は、次の工程である逆浸透膜濾過工程に送られる。
【0016】
但し、本発明においては、固液分離装置20は必ずしも必要でないが、逆浸透膜濾過膜の目詰まりや、フルボ酸の固形物質への吸着による有効濃度の低下などの点で、逆浸透膜濾過工程及びフルボ酸処理工程の前段に、固液分離手段による固形物質除去工程を設けることが望ましい。
【0017】
逆浸透膜濾過工程及びフルボ酸処理工程の前段に設ける固形物質除去工程の固液分離手段としては、重力沈降処理、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、遠心分離処理、膜処理などが使用できるが、処理速度の点から膜処理が好ましく、特には、限外濾過膜処理が好ましい。
また、逆浸透膜の目詰まり防止のため、固形物質除去工程の固液分離手段と共に、無機分でのスケール付着防止のための軟化装置が併せて設けられていることが好ましい。
【0018】
逆浸透膜濾過工程では、逆浸透膜濾過装置30によって、イオン化した溶解性放射性物質を含まない濾過水と、溶解性放射性物質が濃縮された濃縮水に分けられる。
ここで分離された放射性物質を含まない濾過水は、原子力施設での用水、純水などに再利用され、溶解性放射性物質が濃縮された濃縮水は、次工程のフルボ酸処理工程に送られる。
【0019】
本発明において、逆浸透膜濾過工程で用いられる逆浸透膜濾過装置30の逆浸透膜の膜素材に特に制限はなく、ポリエーテルアミド複合膜、ポリビニルアルコール複合膜、セルロースエステル系膜、ポリスルホン系膜、ポリイミド系膜、ポリアミド膜などが使用でき、これらの膜の形状にも特に制限はなく、例えば、スパイラルモジュール、中空糸モジュール、平膜モジュール、管型モジュールなどを挙げることができる。
【0020】
また、逆浸透膜濾過装置30の水回収率については特に制限はなく、通常70〜90%で運転され、処理された濾過水は、原子力施設用水、純水、超純水などとして再利用することができる。
【0021】
逆浸透膜濾過工程において濃縮された排水は、次のフルボ酸処理工程に送られるが、本実施形態に係るフルボ酸処理工程には、フルボ酸供給槽44と攪拌翼を有するフルボ酸処理槽40が設けられている。
フルボ酸処理工程では、溶解性放射性物質が濃縮された濃縮水にフルボ酸が添加され、濃縮水中に溶存した放射性物質イオンとフルボ酸で錯体を形成させ、放射性物質イオンを生物吸収しない形態にすることにより無害化する。
【0022】
フルボ酸処理工程のフルボ酸処理手段としては、フルボ酸水溶液を排水と混合する方法、フルボ酸をゼオライト等の無機担体に担持させてペレット状にしたものまたは固形のフルボ酸をカラムに充填し、その中を通して排水を処理する方法、
などが使用できるが、操作性、設備の保守性の点でフルボ酸水溶液を排水に添加して混合する方法が好ましい。
【0023】
フルボ酸処理工程で用いるフルボ酸は、抽出源、成分組成を特に限定するものではないが、一定の抽出源から得られるフルボ酸を用いることは、装置の安定運転の点で好ましい。
【0024】
フルボ酸処理工程におけるフルボ酸の最適な添加量は、排水中の放射性物質イオン濃度により異なるが、放射性物質イオン量に対して2〜100倍量とすることが、放射性物質イオンとの錯体形成を確実なものとする上で好ましい。
【0025】
フルボ酸処理して無害化した濃縮水は系外に排出され、CODなどの放射性物質以外の排出基準を満たすために、活性汚泥処理や活性炭吸着処理等の処理を行った後、外部環境に放出される。
フルボ酸処理工程において、溶存する放射性物質イオンは、フルボ酸により錯体化し無害化されるが、この錯体をPH調整等で不溶化して分離し、再度固液分離手段による固形物質除去工程を経て分離させ、放射性固形物質スラッジと共に放射性二次廃棄物として処理してもよい。
【0026】
図2は、本発明の他の実施形態を示すブロック図であり、放射性物質含有排水貯蔵槽10と、固液分離装置20と、逆浸透膜濾過装置30の順に配置され、固液分離装置20と逆浸透膜濾過装置30とをつなぐ配管にフルボ酸供給槽44が設けられた例を示した。
この実施形態では、フルボ酸供給槽44を逆浸透膜濾過装置30の前段に設けてあるので、逆浸透膜濾過装置30がフルボ酸処理槽40の役目を果たすことになり、フルボ酸処理槽40が省略できるので、装置がよりコンパクトになるメリットがある。
【実施例】
【0027】
放射性物質含有排水を模擬するため、純水中に炭酸セシウムを溶解し、セシウムイオン濃度が10ppmの模擬排水を調製した。この模擬排水を、
図1に示した構成の装置において、フルボ酸添加量を廃水に対して50ppmとして処理を行った。フルボ酸は、国際腐食物質学会(IHSS)が頒布している標準有機物試料のうちスワニー河フルボ酸を用いた。
【0028】
上記処理後の処理水(逆浸透膜濾過装置の濃縮水)中のセシウムイオン濃度について、ICP−質量分析装置の測定では、セシウムイオンとしての濃度は0.1ppm以下となり、優れた除去効果を確認した。
【符号の説明】
【0029】
10 : 放射性物質含有排水貯蔵槽
20 : 固液分離装置
30 : 逆浸透膜濾過装置
40 : フルボ酸処理槽
44 : フルボ酸供給槽