【実施例】
【0012】
先ず、素地層に用いる原料、
カオリンと、
タルクと、
アルミナと、長石と、
ペタライト粉末をそれぞれ化学分析し、SiO
2、Al
2O
3、MgO、CaO、K
2O、Na
2O、Li
2O量の測定を行う。それぞれの測定結果から、
配合計算を行った後、所定の割合に原料を秤量し混合する。この時、焼結後の組成として、リチウム元素を含み、且つNa
2O+K
2Oが1.1重量%〜2.8重量%含まれるよう
配合計算し、秤量を行う。この時、リチウム元素が素地に含まれる場合、焼成時において釉薬層に低膨張結晶が析出する。このリチウム量は
、配合計算によるLi
2Oとして0.12重量%〜1.0重量%相当量であればよいが、より好ましくは0.3重量%〜0.8重量%である。しかし、このようにリチウム元素を含む場合でも、
配合計算においてNa
2O+K
2Oが1.1重量%〜2.8重量%含まれることが磁器質で、亀裂のない焼結体を得るためには必要条件となる。Na
2O+K
2Oが1.1重量%未満の場合、素地が充分溶融できず、吸水性のある多孔質な焼結体しか得られない。一方、Na
2O+K
2Oが2.8重量%を越えると、素地は吸水性の無いものが得られるが、釉薬層においては低膨張結晶の生成を阻害すると考えられ、焼成後に亀裂が発生してしまう。
配合計算における、より好ましいNa
2O+K
2O量は1.5重量%〜2.5重量%である。
【0013】
このような配合計算により、表1に示すA−1〜A−3の配合を行った。
【表1】
つまり、A−1はカオリンを8.5重量%、タルクを39.6重量%、アルミナを17.1重量%、長石を25.7重量%、ペタライトを9.1重量%配合したものを、ボールミルに投入し、同重量の水を入れ、平均粒子径が5μm以下になるまで充分に微粉砕する。同様にA−2はカオリンを16.5重量%、タルクを39.6重量%、アルミナを17.1重量%、長石を17.7重量%、ペタライトを9.1重量%配合したものを、ボールミルに投入し、同重量の水を入れ、平均粒子径が5μm以下になるまで充分に微粉砕する。同様にA−3はカオリンを28.5重量%、タルクを39.6重量%、アルミナを17.1重量%、長石を5.7重量%、ペタライトを9.1重量%配合したものを、ボールミルに投入し、同重量の水を入れ、平均粒子径が5μm以下になるまで充分に微粉砕する。この時、原料が充分に粉砕されず、平均粒子径が5μmを越える場合、焼結が進まず、吸水性のある焼結体しか得られない。一方、平均粒子径が5μm以下になるまで微粉砕した場合、焼成時にタルクとカオリンとアルミナが充分に反応するため、コーディエライトの生成と緻密な磁器焼結体が得られる。
【0014】
このA−1〜A−3の配合素地焼結体の組成はいずれも、重量%でSiO
2:50〜55、Al
2O
3:25〜35、MgO:10〜15、CaO:0〜2、K
2O+Na
2O:1.1〜2.8、Li
2O:0.12〜1.0の範囲となる。ボールミルによる粉砕後は、通常の陶磁器製品の製造方法と同様、フィルタープレスにより脱水処理を行い、真空土練機により円柱状の原料に加工を行う。この原料を用いて、鋳込み成形により寸法10mm×70mm×4mmの試験体を成形し、電気炉により900℃で素焼きを行う。素焼き後の試料を、60°の傾きの溝をつけた耐火煉瓦に立て掛け、焼成により湾曲した角度(湾曲度)を測定することで比較を行った。また吸水率は、焼結体を切り出し、アルキメデス法により測定を行った。さらに、熱膨張測定は、焼結体から直径5mmで長さ20mmの丸棒を切り出し、室温から950℃まで測定を行い、700℃での熱膨張係数を算出した。なお比較のため、天草陶土を用いた普通磁器についても同様の試料を作製し、上記測定を行った。それらの測定結果を表2に示す。
【表2】
【0015】
A−1〜A−3いずれも吸水率が0.1%以下で緻密な磁器焼結体である。これは、焼結を促進し緻密化に必要なNa
2O+K
2Oが充分な原料配合であることと、平均粒子径が5μm以下まで原料を微粉砕していることで、カオリンとタルクとアルミナが未反応のまま残存することなく、充分に反応しているためである。 また、焼成による変形しやすさを示す湾曲度の値も、比較用として用いた普通磁器よりも、その値が小さく、変形しにくいことがわかる。つまり、焼結を促進し緻密化に必要なNa
2OとK
2O量が適切であるため、必要以上に軟化しやすいガラス層が余分に生成されず、湾曲度が大きくなり過ぎることがない。さらに熱膨張係数もカオリンとタルクとアルミナが充分に反応しコーディエライトを生成することで、3.8×10
-6以下で低い熱膨張係数の焼結体が得られる。ここで、A−2の焼結体を一部粉砕し、X線回折装置を用いて結晶相を同定した結果を
図1に示す。
図1より、素地はコーディエライト質であることが確認された。
【0016】
次に、釉薬との適合性を確認するため、A−1〜A−3の素地原料と、比較例として同様の粉砕処理を行った、Na
2O+K
2O量が3.0重量%の素地原料を用いて、皿形状の試験体を機械ロクロにより成形した。乾燥後、900℃で素焼き焼成を行い、モル%でSiO
2:75〜80、Al
2O
3:8〜11、MgO:0〜7、CaO:1〜5、K
2O:0〜2、Na
2O:0〜1、Li
2O:0〜8からなる釉薬を施した後1250℃で焼成した。素地の配合が本発明の範囲であれば、焼成により釉中にリチウムアルミノシリケート系と考えられる低膨張の結晶体が安定的に生成する。焼成後の焼結体をS−1〜S−3とし、亀裂の有無を表3に示す。
【表3】
【0017】
素地層と釉薬層からなる皿形状の焼結体S−1〜S−3において亀裂のない焼結体が得られた。しかし、素地の組成においてNa
2O+K
2O量が2.8重量%を越え、3.0重量%のものはNa
2O+K
2Oが釉薬層における低膨張結晶の生成を阻害するため亀裂の発生が確認された。逆に、Na
2O+K
2O量を減少させ、その量が1.1重量%未満とすると、素地が充分に焼結せず、吸水性のある焼結体しか得られない。つまり、Na
2O+K
2O量が1.1重量%〜2.8重量%であれば、吸水性のない素地が得られると共に、釉薬層にも低膨張の結晶体が安定して生成され、亀裂のない焼結体が得られる。以上のように、本発明によれば、これまで吸水性のない磁器焼結体で、しかも亀裂の発生しない製品を歩留まり良く製造することが困難であった、低熱膨張のコーディエライト磁器製品を安定して製造することが可能となる。そのため、現在主流となっている原料価格は高いが、歩留まり良く、製造が容易なペタライト質の耐熱衝撃性の食器に代わり、原料価格の安いコーディエライト質の耐熱衝撃性の食器の製造が主流になるものと考えられる。また、ペタライト質の耐熱衝撃性の食器は吸水性があるため、使用するたびに食品を含む水分を吸収・蓄積し、シミとなって残存する。そのため、シミが目立たぬよう、黒や茶色の釉薬を施した食器しか製品化できない。それに対し、本発明品は低熱膨張で、耐熱衝撃性に優れ、しかも吸水性のない磁器製品であるので、白磁の食器や、白磁に下絵を施したものも製品化が可能である。
【0018】
そのため、従来ペタライト製品の場合、その上で食品を加熱した後、白色の一般食器に移し替えて食卓に供していたが、その移し替えの手間を省くことが可能となる。つまり、調理後の料理を盛りつけた状態でそのままフリーザー、オーブン、スチームオーブン、電子レンジのいずれにも使用することが可能である上、例えば、調理後に該焼結体に盛りつけた料理をそのままフリーザーで保管し、食事の前にスチームオーブンや電子レンジで加熱して、食卓にそのまま供することができる。さらに、食事後には、焼結体を自動洗浄機で洗浄し、熱風乾燥機で乾燥することも可能である。なお、上記焼結体は、皿状を呈する食器であるとして説明したが、皿状以外の形状を呈する食器でもよく、さらに、食器以外の加熱調理器などであってもよい。また、原料に関しても素地層の原料、及び、上記釉薬層の原料として、リチウム元素を有する原料としてペタライトを用いたものについて説明したが、ペタライト以外でもリチウム元素を有する、スポデュメンや炭酸リチウムなどでもよい。