(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外乱トルク推定手段により推定される外乱トルクには、前記ロールにおける先進率の変動の影響が包含されている請求項1乃至3の何れか1項記載の張力制御システム。
前記外乱トルク推定手段により推定される外乱トルクには、前記被圧延材の張力による前記リールモータの負荷トルクの変動の影響が包含されている請求項1乃至4の何れか1項記載の張力制御システム。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における圧延機設備を示す構成図である。
図1に示すように、本実施形態における圧延機設備は、圧延機の最終スタンドのロール1と、ロール1により圧延された被圧延材5を巻き取るリール6と、リール6を駆動するリールモータ7と、リール6の回転速度を検出する回転速度センサ8と、ロール1とリール6との間で被圧延材5に接触して回転する送りロール2と、送りロール2の回転速度を検出する回転速度センサ4と、被圧延材5に作用する張力を計測する張力計測手段としての張力センサ3とを備えている。被圧延材5は、リール6に巻き取られることによりコイル9を形成する。送りロール2の前方の被圧延材5と、送りロール2の後方の被圧延材5とは、角度をなしている。このため、送りロール2には、被圧延材5に作用する張力に応じた荷重が作用する。張力センサ3は、送りロール2に作用する荷重を計測することにより、被圧延材5の張力を計測することができる。
【0012】
ここで、以下の説明で用いる記号の意味を表1にまとめて示す。なお、表1および図面において文字の上に^(ハット)が付された記号については、本明細書中では、文字の前に^を付して表記する。
【0014】
図2は、PI制御を用いたリールモータ7による張力制御系のブロック線図である。まず、
図2を参照して、PI制御を用いたリールモータ7による張力制御系について説明する。被圧延材5の張力Tと、コイル9を含むリール6の周速v
rと、スタンド(ロール1)の出口の被圧延材5の速度v
outと、リール6とスタンド(ロール1)との間の距離L
rと、被圧延材5のヤング率Eとの間には、応力とひずみの関係から、次式が成り立つ。
【0016】
張力制御器ATRは、張力センサ3により計測された張力計測値T
resと、張力の目標値T
cmdとの偏差に基づいて、PI制御の演算を行い、リールモータ7のトルク基準値(トルク指令値)τ
rrefを算出する。モータ制御手段10は、リールモータ7が発揮するトルクτ
rが、与えられたトルク基準値τ
rrefに一致するように、リールモータ7を制御する。
【0017】
リールモータ7には、被圧延材5の張力による負荷トルクが作用する。この張力によるリールモータ負荷トルクは、被圧延材5の板幅B
outおよび板厚hと、コイル9を含むリール6の半径R
rとを用いて、B
outhR
rT
resとして表される。リールモータ7のトルクτ
rと、張力によるリールモータ負荷トルクB
outhR
rT
resとの差が、リール6およびコイル9に対する回転力として作用し、コイル9を含むリール6の慣性モーメントJ
rに応じて、リール6の回転速度が変化する。
【0018】
図2に示すように、このような張力制御系には、ロール1の速度(ロール1の周速v
Roll)およびロール1における先進率fの影響が、外乱として作用する。そして、ロール周速v
Rollおよび先進率fは、ロール1の偏心、入側板厚変化、タンデム圧延機におけるカローゼルリールの公転、巻き取ったコイル9の偏心などの種々の外乱要素によって変動してしまう。このため、従来、これらの外乱の値を予測して補償することは非常に難しい。
【0019】
図3は、本実施形態の張力制御システムにおける規範モデルのブロック線図である。
図3に示すように、本実施形態の張力制御システムでは、ロール周速v
Rollの影響、先進率fの影響、および張力によるリールモータ負荷トルクの影響を規範モデルから除外しており、ロール1の偏心、入側板厚変化、タンデム圧延機におけるカローゼルリールの公転、巻き取ったコイル9の偏心などの外乱要素に基づく、ロール周速v
Rollおよび先進率fの変動の影響、並びに、張力によるリールモータ負荷トルクの影響を、リールモータ7のトルクτ
rに作用する一つの外乱トルクτ
disの影響であると解釈する。これにより、実装の際にモデリングと調整が必要なパラメータの数を極力減らすことができ、パラメータのモデリングおよび調整に要する労力やコストを軽減することができる。
【0020】
また、コイル9を含むリール6の慣性モーメントJ
rは、被圧延材5が巻き取られるにつれて変化する。本実施形態では、この慣性モーメントJ
rの変化の影響を上記外乱トルクτ
disに含めて、一括して補償することもできる。このため、パラメータのモデリングおよび調整に要する労力やコストを更に軽減することができる。
【0021】
図4は、本実施形態の張力制御システムにおける外乱オブザーバを説明するための図である。
図4に示すように、本実施形態の張力制御システムにおける外乱オブザーバ13の入力は、モータ制御手段10に与えられるトルク基準値τ
rrefと、規範モデルにおけるコイル9を含むリール6の周速の推定値^v
mresである。^v
mresは、張力センサ3により計測された張力計測値T
resを不完全微分器11にて不完全微分した値に、ゲイン補償器12にて、リール6とスタンドとの間の距離L
rを乗算して被圧延材5のヤング率の推定値^Eで除算することによって得る。外乱オブザーバ13によって推定された外乱トルク^τ
disを、張力制御器ATRにより算出されたトルク基準値τ
rrefにフィードフォワード補償することによって、外乱トルクτ
disを相殺(キャンセリング)することが可能である。
【0022】
本実施形態の張力制御システムでは、外乱トルクτ
disの推定をできるだけ速く行うことが重要であるため、制御周期のサンプリングタイムstができるだけ小さいことが望まれる。本実施形態では、リールモータ7のドライブ装置の内部に張力制御システムを実装することにより、サンプリングタイムstを例えば1msec程度の十分小さい周期にすることが可能である。また、本実施形態では、被圧延材5のヤング率の推定値^Eを得るモデルが必要となるが、そのモデル誤差の影響も含めて外乱オブザーバ13が補償するため、精度の高いモデルを必要としない。本実施形態では、このような点からも、モデリングのコストを削減することができる。
【0023】
図5は、本実施形態の張力制御システムにおける外乱オブザーバ13の内部構成を示す図である。
図5に示すように、外乱オブザーバ13は、変換器15と、ブロック16と、1次のローパスフィルタ17とを有している。変換器15は、コイル9を含むリール6の周速の推定値^v
mresを、回転速度に変換する。この変換の際、コイル9を含むリール6の半径R
rの値が必要になる。コイル9を含むリール6の半径R
rは、回転速度センサ4により検出される送りロール2の回転速度n
dと、回転速度センサ8により検出されるリール6の回転速度n
rを用いて求めることができる。コイル9を含むリール6の周速v
rと、送りロール2の回転速度n
dと、送りロール2の半径rと、リール6の回転速度n
rと、リール半径R
rとの間には、次式が成り立つ。
【0025】
上記式(2)より、コイル9を含むリール6の半径の推定値^R
rは、次式により算出することができる。
【0027】
変換器15は、上記式(3)により算出したコイル9を含むリール6の半径の推定値^R
rを用いて回転速度を算出する。ブロック16は、変換器15により算出された回転速度に完全微分を施すとともにコイル9を含むリール6の慣性モーメントJ
rを乗ずることにより、トルクの次元[N・m]の値に変換する。この値と、トルク基準値τ
rrefとの差分を求めることにより、前述したような各種の外乱要素を、トルクの次元[N・m]を有する外乱トルクとして抽出することができる。本実施形態の外乱オブザーバ13では、この抽出した外乱トルクに含まれる高周波のノイズを除去するため、この抽出した外乱トルクをローパスフィルタ17に通した値を外乱トルクの推定値^τ
disとする。
【0028】
図6は、本実施形態の張力制御システムを示すブロック線図である。
図6に示す本実施形態の張力制御システムでは、ブロック16における完全微分演算を回避するために、上述した外乱オブザーバ13に代えて、外乱オブザーバ13を等価的に変形した、微分演算器を含まない外乱オブザーバ18を用いている。それ以外の点については、これまでの説明と同様である。
図6に示す本実施形態の張力制御システムでは、外乱オブザーバ18、ゲイン補償器12および不完全微分器11により、外乱トルク推定手段が構成されている。
【0029】
次に、
図6に示す張力制御システムの動作について説明する。張力センサ3による張力計測値T
resと、張力目標値T
cmdとの偏差が張力制御器ATRにてPI制御される。また、サンプリング毎に、外乱オブザーバ18によって、外乱トルクの推定値^τ
disが逐次計算され、張力制御器ATRにて算出されたトルク基準値τ
rrefが外乱トルクの推定値^τ
disにて補償される。この補償されたトルク基準値τ
rrefがモータ制御手段10に与えられ、リールモータ7のトルクτ
rが制御される。前述したように、本実施形態の張力制御システムにおいて推定される外乱トルクには、ロール1の偏心、入側板厚変化、タンデム圧延機におけるカローゼルリールの公転、巻き取ったコイル9の偏心などの外乱要素に基づく、ロール周速v
Rollおよび先進率fの変動の影響、並びに、張力によるリールモータ負荷トルクの影響が包含されている。このため、本実施形態の張力制御システムによれば、諸々の外乱要素の影響を確実に抑制することができ、被圧延材5の張力Tの変動を確実に抑制することができる。また、本実施形態の張力制御システムによれば、ロール周速v
Rollの影響、先進率fの影響、および張力によるリールモータ負荷トルクの影響をモデルから除外しているため、実装の際にモデリングと調整が必要なパラメータの数を極力減らすことができ、パラメータのモデリングおよび調整に要する労力やコストを軽減することができる。
【0030】
図7および
図8は、それぞれ、本実施形態の張力制御システムの有効性を確認するために行ったシミュレーションの結果を示す図である。本シミュレーションでは、外乱要素として、ロール周速v
Rollおよび先進率fをそれぞれ10%程度ずつランダムに変化させ、張力目標値T
cmd=20MPaのステップ入力を行った。
図6に示す本実施形態の張力制御システムによる張力制御のシミュレーション結果を
図7に示す。比較例として、
図2に示すようなPI制御を用いた張力制御系による張力制御のシミュレーション結果を
図8に示す。
図8に示すように、比較例の張力制御系では、ロール周速v
Rollおよび先進率fの変化の影響により、主に破線の円で囲んだ箇所において、張力応答に変動が発生してしまうことが分かる。これに対し、
図7に示すように、本実施形態の張力制御システムによれば、ロール周速v
Rollおよび先進率fの変化の影響を外乱オブザーバ18が補償することにより、比較例のシミュレーション結果に比べて、張力のゆらぎが確実に抑制されていることが分かる。
【0031】
実施の形態2.
次に、
図9を参照して、本発明の実施の形態2について説明するが、上述した実施の形態1との相違点を中心に説明し、同一部分または相当部分は同一符号を付し説明を省略する。
図9は、本発明の実施の形態2の張力制御システムを示すブロック線図である。
図9に示すように、本実施の形態2の張力制御システムは、実施の形態1の張力制御システムに比べて、不完全微分器19と、ハイパスフィルタ20と、ゲイン補償器21とを更に備えている。
【0032】
実施の形態1では、外乱の影響を補償するための外乱トルク推定値^τ
disを外乱オブザーバ18により作成しているが、張力センサ3による張力計測値T
resに含まれるノイズが大きい場合には、外乱オブザーバ18内のローパスフィルタ17のカットオフ周波数g
disを高く設定することができず、その結果として、高周波の外乱を抑制することが困難な場合がある。本実施形態では、この問題を解決するために、
図9に示すように、張力センサ3による張力計測値T
resを、不完全微分器19にて、外乱オブザーバ18内のローパスフィルタ17のカットオフ周波数g
disよりも高いカットオフ周波数g
dmpで不完全微分し、その不完全微分した値を、外乱オブザーバ18内のローパスフィルタ17のカットオフ周波数g
disに等しいカットオフ周波数g
disを有するハイパスフィルタ20に通し、その値にゲイン補償器21にてダンピングゲインK
dmpを乗算してなるダンピング補償トルクτ
dmpを、トルク基準値τ
rrefにネガティブフィードバックする。このような構成により、外乱オブザーバ18内のローパスフィルタ17のカットオフ周波数g
dis以上の高周波領域にのみダンピング補償を施すことができる。このため、外乱オブザーバ18の外乱推定に影響を与えることなく、外乱オブザーバ18が補償しきれない高周波領域における外乱抑圧性能を改善させることが可能である。このダンピング補償トルクτ
dmpは、ネガティブフィードバックとして、トルク基準値τ
rrefが小さくなるように作用する。そのため、ある程度のノイズの含有を許容するので、不完全微分器19のカットオフ周波数g
dmpを高く設定することが可能である。また、ゲイン補償器21のダンピングゲインK
dmpを調整することによって、ダンピングの強弱を容易に調整することが可能である。