特許第5846102号(P5846102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5846102
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】張力制御システム
(51)【国際特許分類】
   B21C 47/00 20060101AFI20151224BHJP
   B21C 47/02 20060101ALI20151224BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   B21C47/00 F
   B21C47/02 E
   G05B13/02 C
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-247266(P2012-247266)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2014-94395(P2014-94395A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2014年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−152808(JP,A)
【文献】 特開2001−58212(JP,A)
【文献】 特開平1−259778(JP,A)
【文献】 特開2006−8322(JP,A)
【文献】 特開平11−285730(JP,A)
【文献】 特開平9−52119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 45/00−49/00
B21B 37/48
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機のロールにより圧延された被圧延材を巻き取るリールを駆動するリールモータのトルクを、与えられたトルク基準値に基づいて制御するモータ制御手段と、
前記被圧延材の張力を計測する張力計測手段と、
前記張力の目標値と、前記張力計測手段の計測値との偏差に基づいて、前記リールモータのトルク基準値を算出する張力制御器と、
前記モータ制御手段に与えられるトルク基準値と、前記張力計測手段の計測値とに基づいて、張力制御に影響する外乱を、前記リールモータに作用する外乱トルクとして推定する外乱トルク推定手段と、
を備え、
前記張力制御器により算出されたトルク基準値を、前記外乱トルク推定手段により推定された外乱トルクにて補償して、前記モータ制御手段に与える張力制御システム。
【請求項2】
前記外乱トルク推定手段は、外乱トルクに含まれる高周波ノイズを除去するローパスフィルタを含み、
前記張力制御器により算出されたトルク基準値を、前記張力計測手段の計測値の不完全微分値をハイパスフィルタに通した値を用いて算出される補償トルクにて補償する手段を更に備える請求項1記載の張力制御システム。
【請求項3】
前記外乱トルク推定手段により推定される外乱トルクには、前記ロールの周速の変動の影響が包含されている請求項1または2記載の張力制御システム。
【請求項4】
前記外乱トルク推定手段により推定される外乱トルクには、前記ロールにおける先進率の変動の影響が包含されている請求項1乃至3の何れか1項記載の張力制御システム。
【請求項5】
前記外乱トルク推定手段により推定される外乱トルクには、前記被圧延材の張力による前記リールモータの負荷トルクの変動の影響が包含されている請求項1乃至4の何れか1項記載の張力制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リールに巻き取られる被圧延材に作用する張力を制御する張力制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機における最終スタンドを通過した被圧延材をリールに巻き取る場合、被圧延材に一定の張力を付加した状態で巻き取りが行われる。この張力により、被圧延材の蛇行を防止し、通板を安定化させる。また、圧延荷重を低減して圧延そのものを成立させるためにも、この張力は必要不可欠である。そのため、リールを駆動するリールモータのトルクを操作することによって、張力制御が行われている。圧延機の起動、加減速、停止、ロール偏心、入側板厚変化、タンデム圧延機におけるカローゼルリールの公転、巻き取ったコイルの偏心などの外乱要素に引き起こされる非定常状態では張力変動が生じやすく、その結果、圧延荷重が変動して板厚や形状の変動が大きくなってしまう。したがって、張力変動を防止しながら圧延を行うことが品質を保つ上で重要となる。通常の張力制御であるATR(AUTO TENSION REGULATOR)では、張力センサから得た値と目標張力との差分にPI制御を施している。しかしながら、安定性の制限から各ゲインを大きく設定することができず、ロール偏心や入側板厚変動などの突発的な外乱要素による張力変動に素早く対応することができないという問題がある。
【0003】
張力制御の外乱を補償する方法として、特許文献1の発明では、コイル偏心による張力変動を防ぐために、巻き取ったコイルの外径測定器を用いて各回転位置での偏心量にあわせてモータ回転数を補正している。また、特許文献2の発明では、1パス目において各回転位置でのロール偏心量を圧延荷重の変動から同定して、2パス目以降でロール偏心量を補正している。また、特許文献3には、外乱要素を含まない制御対象のモデル応答を作成し、実機の応答値とモデルの応答値との差分から補償値を作成して、外乱抑制および振動抑制を行う電動機の速度制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平4−43405号公報
【特許文献2】国際公開第WO2006/123394号パンフレット
【特許文献3】特開昭60−254201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2の発明では、動的に変動する外乱要素の影響を抑圧することは困難である。また、特許文献1の発明では、高精度の外径測定器が必要となり、コストが高くなる。また、特許文献2の発明では、2パス目以降で偏心量が変動した場合には、その変動に対処することができない。また、特許文献3の発明を応用する場合には、調整が必要なパラメータ数が多く、特に制御対象のモデルの慣性モーメントの調整が難しいために、設備更新などでの短時間での調整は、熟練した調整員でなければ実装することができないという課題がある。
【0006】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、パラメータのモデリングおよび調整に要するコストや労力を軽減しつつ、動的に変動する外乱要素の影響を抑圧し、被圧延材の張力の変動を抑制することのできる張力制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る張力制御システムは、圧延機のロールにより圧延された被圧延材を巻き取るリールを駆動するリールモータのトルクを、与えられたトルク基準値に基づいて制御するモータ制御手段と、被圧延材の張力を計測する張力計測手段と、張力の目標値と、張力計測手段の計測値との偏差に基づいて、リールモータのトルク基準値を算出する張力制御器と、モータ制御手段に与えられるトルク基準値と、張力計測手段の計測値とに基づいて、張力制御に影響する外乱を、リールモータに作用する外乱トルクとして推定する外乱トルク推定手段と、を備え、張力制御器により算出されたトルク基準値を、外乱トルク推定手段により推定された外乱トルクにて補償して、モータ制御手段に与えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パラメータのモデリングおよび調整に要するコストや労力を軽減しつつ、動的に変動する外乱要素の影響を抑圧し、被圧延材の張力の変動を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1における圧延機設備を示す構成図である。
図2】PI制御を用いたリールモータによる張力制御系のブロック線図である。
図3】本発明の実施の形態1の張力制御システムにおける規範モデルのブロック線図である。
図4】本発明の実施の形態1の張力制御システムにおける外乱オブザーバを説明するための図である。
図5】本発明の実施の形態1の張力制御システムにおける外乱オブザーバの内部構成を示す図である。
図6】本発明の実施の形態1の張力制御システムを示すブロック線図である。
図7】本発明の実施の形態1の張力制御システムによるシミュレーション結果を示す図である。
図8】比較例のシミュレーション結果を示す図である。
図9】本発明の実施の形態2の張力制御システムを示すブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における圧延機設備を示す構成図である。図1に示すように、本実施形態における圧延機設備は、圧延機の最終スタンドのロール1と、ロール1により圧延された被圧延材5を巻き取るリール6と、リール6を駆動するリールモータ7と、リール6の回転速度を検出する回転速度センサ8と、ロール1とリール6との間で被圧延材5に接触して回転する送りロール2と、送りロール2の回転速度を検出する回転速度センサ4と、被圧延材5に作用する張力を計測する張力計測手段としての張力センサ3とを備えている。被圧延材5は、リール6に巻き取られることによりコイル9を形成する。送りロール2の前方の被圧延材5と、送りロール2の後方の被圧延材5とは、角度をなしている。このため、送りロール2には、被圧延材5に作用する張力に応じた荷重が作用する。張力センサ3は、送りロール2に作用する荷重を計測することにより、被圧延材5の張力を計測することができる。
【0012】
ここで、以下の説明で用いる記号の意味を表1にまとめて示す。なお、表1および図面において文字の上に^(ハット)が付された記号については、本明細書中では、文字の前に^を付して表記する。
【0013】
【表1】
【0014】
図2は、PI制御を用いたリールモータ7による張力制御系のブロック線図である。まず、図2を参照して、PI制御を用いたリールモータ7による張力制御系について説明する。被圧延材5の張力Tと、コイル9を含むリール6の周速vrと、スタンド(ロール1)の出口の被圧延材5の速度voutと、リール6とスタンド(ロール1)との間の距離Lrと、被圧延材5のヤング率Eとの間には、応力とひずみの関係から、次式が成り立つ。
【0015】
【数1】
【0016】
張力制御器ATRは、張力センサ3により計測された張力計測値Tresと、張力の目標値Tcmdとの偏差に基づいて、PI制御の演算を行い、リールモータ7のトルク基準値(トルク指令値)τrrefを算出する。モータ制御手段10は、リールモータ7が発揮するトルクτrが、与えられたトルク基準値τrrefに一致するように、リールモータ7を制御する。
【0017】
リールモータ7には、被圧延材5の張力による負荷トルクが作用する。この張力によるリールモータ負荷トルクは、被圧延材5の板幅Boutおよび板厚hと、コイル9を含むリール6の半径Rrとを用いて、BouthRrresとして表される。リールモータ7のトルクτrと、張力によるリールモータ負荷トルクBouthRrresとの差が、リール6およびコイル9に対する回転力として作用し、コイル9を含むリール6の慣性モーメントJrに応じて、リール6の回転速度が変化する。
【0018】
図2に示すように、このような張力制御系には、ロール1の速度(ロール1の周速vRoll)およびロール1における先進率fの影響が、外乱として作用する。そして、ロール周速vRollおよび先進率fは、ロール1の偏心、入側板厚変化、タンデム圧延機におけるカローゼルリールの公転、巻き取ったコイル9の偏心などの種々の外乱要素によって変動してしまう。このため、従来、これらの外乱の値を予測して補償することは非常に難しい。
【0019】
図3は、本実施形態の張力制御システムにおける規範モデルのブロック線図である。図3に示すように、本実施形態の張力制御システムでは、ロール周速vRollの影響、先進率fの影響、および張力によるリールモータ負荷トルクの影響を規範モデルから除外しており、ロール1の偏心、入側板厚変化、タンデム圧延機におけるカローゼルリールの公転、巻き取ったコイル9の偏心などの外乱要素に基づく、ロール周速vRollおよび先進率fの変動の影響、並びに、張力によるリールモータ負荷トルクの影響を、リールモータ7のトルクτrに作用する一つの外乱トルクτdisの影響であると解釈する。これにより、実装の際にモデリングと調整が必要なパラメータの数を極力減らすことができ、パラメータのモデリングおよび調整に要する労力やコストを軽減することができる。
【0020】
また、コイル9を含むリール6の慣性モーメントJrは、被圧延材5が巻き取られるにつれて変化する。本実施形態では、この慣性モーメントJrの変化の影響を上記外乱トルクτdisに含めて、一括して補償することもできる。このため、パラメータのモデリングおよび調整に要する労力やコストを更に軽減することができる。
【0021】
図4は、本実施形態の張力制御システムにおける外乱オブザーバを説明するための図である。図4に示すように、本実施形態の張力制御システムにおける外乱オブザーバ13の入力は、モータ制御手段10に与えられるトルク基準値τrrefと、規範モデルにおけるコイル9を含むリール6の周速の推定値^vmresである。^vmresは、張力センサ3により計測された張力計測値Tresを不完全微分器11にて不完全微分した値に、ゲイン補償器12にて、リール6とスタンドとの間の距離Lrを乗算して被圧延材5のヤング率の推定値^Eで除算することによって得る。外乱オブザーバ13によって推定された外乱トルク^τdisを、張力制御器ATRにより算出されたトルク基準値τrrefにフィードフォワード補償することによって、外乱トルクτdisを相殺(キャンセリング)することが可能である。
【0022】
本実施形態の張力制御システムでは、外乱トルクτdisの推定をできるだけ速く行うことが重要であるため、制御周期のサンプリングタイムstができるだけ小さいことが望まれる。本実施形態では、リールモータ7のドライブ装置の内部に張力制御システムを実装することにより、サンプリングタイムstを例えば1msec程度の十分小さい周期にすることが可能である。また、本実施形態では、被圧延材5のヤング率の推定値^Eを得るモデルが必要となるが、そのモデル誤差の影響も含めて外乱オブザーバ13が補償するため、精度の高いモデルを必要としない。本実施形態では、このような点からも、モデリングのコストを削減することができる。
【0023】
図5は、本実施形態の張力制御システムにおける外乱オブザーバ13の内部構成を示す図である。図5に示すように、外乱オブザーバ13は、変換器15と、ブロック16と、1次のローパスフィルタ17とを有している。変換器15は、コイル9を含むリール6の周速の推定値^vmresを、回転速度に変換する。この変換の際、コイル9を含むリール6の半径Rrの値が必要になる。コイル9を含むリール6の半径Rrは、回転速度センサ4により検出される送りロール2の回転速度ndと、回転速度センサ8により検出されるリール6の回転速度nrを用いて求めることができる。コイル9を含むリール6の周速vrと、送りロール2の回転速度ndと、送りロール2の半径rと、リール6の回転速度nrと、リール半径Rrとの間には、次式が成り立つ。
【0024】
【数2】
【0025】
上記式(2)より、コイル9を含むリール6の半径の推定値^Rrは、次式により算出することができる。
【0026】
【数3】
【0027】
変換器15は、上記式(3)により算出したコイル9を含むリール6の半径の推定値^Rrを用いて回転速度を算出する。ブロック16は、変換器15により算出された回転速度に完全微分を施すとともにコイル9を含むリール6の慣性モーメントJrを乗ずることにより、トルクの次元[N・m]の値に変換する。この値と、トルク基準値τrrefとの差分を求めることにより、前述したような各種の外乱要素を、トルクの次元[N・m]を有する外乱トルクとして抽出することができる。本実施形態の外乱オブザーバ13では、この抽出した外乱トルクに含まれる高周波のノイズを除去するため、この抽出した外乱トルクをローパスフィルタ17に通した値を外乱トルクの推定値^τdisとする。
【0028】
図6は、本実施形態の張力制御システムを示すブロック線図である。図6に示す本実施形態の張力制御システムでは、ブロック16における完全微分演算を回避するために、上述した外乱オブザーバ13に代えて、外乱オブザーバ13を等価的に変形した、微分演算器を含まない外乱オブザーバ18を用いている。それ以外の点については、これまでの説明と同様である。図6に示す本実施形態の張力制御システムでは、外乱オブザーバ18、ゲイン補償器12および不完全微分器11により、外乱トルク推定手段が構成されている。
【0029】
次に、図6に示す張力制御システムの動作について説明する。張力センサ3による張力計測値Tresと、張力目標値Tcmdとの偏差が張力制御器ATRにてPI制御される。また、サンプリング毎に、外乱オブザーバ18によって、外乱トルクの推定値^τdisが逐次計算され、張力制御器ATRにて算出されたトルク基準値τrrefが外乱トルクの推定値^τdisにて補償される。この補償されたトルク基準値τrrefがモータ制御手段10に与えられ、リールモータ7のトルクτrが制御される。前述したように、本実施形態の張力制御システムにおいて推定される外乱トルクには、ロール1の偏心、入側板厚変化、タンデム圧延機におけるカローゼルリールの公転、巻き取ったコイル9の偏心などの外乱要素に基づく、ロール周速vRollおよび先進率fの変動の影響、並びに、張力によるリールモータ負荷トルクの影響が包含されている。このため、本実施形態の張力制御システムによれば、諸々の外乱要素の影響を確実に抑制することができ、被圧延材5の張力Tの変動を確実に抑制することができる。また、本実施形態の張力制御システムによれば、ロール周速vRollの影響、先進率fの影響、および張力によるリールモータ負荷トルクの影響をモデルから除外しているため、実装の際にモデリングと調整が必要なパラメータの数を極力減らすことができ、パラメータのモデリングおよび調整に要する労力やコストを軽減することができる。
【0030】
図7および図8は、それぞれ、本実施形態の張力制御システムの有効性を確認するために行ったシミュレーションの結果を示す図である。本シミュレーションでは、外乱要素として、ロール周速vRollおよび先進率fをそれぞれ10%程度ずつランダムに変化させ、張力目標値Tcmd=20MPaのステップ入力を行った。図6に示す本実施形態の張力制御システムによる張力制御のシミュレーション結果を図7に示す。比較例として、図2に示すようなPI制御を用いた張力制御系による張力制御のシミュレーション結果を図8に示す。図8に示すように、比較例の張力制御系では、ロール周速vRollおよび先進率fの変化の影響により、主に破線の円で囲んだ箇所において、張力応答に変動が発生してしまうことが分かる。これに対し、図7に示すように、本実施形態の張力制御システムによれば、ロール周速vRollおよび先進率fの変化の影響を外乱オブザーバ18が補償することにより、比較例のシミュレーション結果に比べて、張力のゆらぎが確実に抑制されていることが分かる。
【0031】
実施の形態2.
次に、図9を参照して、本発明の実施の形態2について説明するが、上述した実施の形態1との相違点を中心に説明し、同一部分または相当部分は同一符号を付し説明を省略する。図9は、本発明の実施の形態2の張力制御システムを示すブロック線図である。図9に示すように、本実施の形態2の張力制御システムは、実施の形態1の張力制御システムに比べて、不完全微分器19と、ハイパスフィルタ20と、ゲイン補償器21とを更に備えている。
【0032】
実施の形態1では、外乱の影響を補償するための外乱トルク推定値^τdisを外乱オブザーバ18により作成しているが、張力センサ3による張力計測値Tresに含まれるノイズが大きい場合には、外乱オブザーバ18内のローパスフィルタ17のカットオフ周波数gdisを高く設定することができず、その結果として、高周波の外乱を抑制することが困難な場合がある。本実施形態では、この問題を解決するために、図9に示すように、張力センサ3による張力計測値Tresを、不完全微分器19にて、外乱オブザーバ18内のローパスフィルタ17のカットオフ周波数gdisよりも高いカットオフ周波数gdmpで不完全微分し、その不完全微分した値を、外乱オブザーバ18内のローパスフィルタ17のカットオフ周波数gdisに等しいカットオフ周波数gdisを有するハイパスフィルタ20に通し、その値にゲイン補償器21にてダンピングゲインKdmpを乗算してなるダンピング補償トルクτdmpを、トルク基準値τrrefにネガティブフィードバックする。このような構成により、外乱オブザーバ18内のローパスフィルタ17のカットオフ周波数gdis以上の高周波領域にのみダンピング補償を施すことができる。このため、外乱オブザーバ18の外乱推定に影響を与えることなく、外乱オブザーバ18が補償しきれない高周波領域における外乱抑圧性能を改善させることが可能である。このダンピング補償トルクτdmpは、ネガティブフィードバックとして、トルク基準値τrrefが小さくなるように作用する。そのため、ある程度のノイズの含有を許容するので、不完全微分器19のカットオフ周波数gdmpを高く設定することが可能である。また、ゲイン補償器21のダンピングゲインKdmpを調整することによって、ダンピングの強弱を容易に調整することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 ロール、2 送りロール、3 張力センサ、4 回転速度センサ、5 被圧延材、6 リール、7 リールモータ、8 回転速度センサ、9 コイル、10 モータ制御手段、11 不完全微分器、12 ゲイン補償器、13 外乱オブザーバ、15 変換器、16 ブロック、17 ローパスフィルタ、18 外乱オブザーバ、19 不完全微分器、20 ハイパスフィルタ、21 ゲイン補償器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9