特許第5846117号(P5846117)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5846117過酸化物活性化剤ならびに土壌及び/又は地下水の浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5846117
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】過酸化物活性化剤ならびに土壌及び/又は地下水の浄化方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20151224BHJP
   B09C 1/02 20060101ALI20151224BHJP
   B09C 1/08 20060101ALI20151224BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20151224BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20151224BHJP
   B01J 20/14 20060101ALI20151224BHJP
   A62D 3/38 20070101ALI20151224BHJP
   A62D 101/22 20070101ALN20151224BHJP
   A62D 101/45 20070101ALN20151224BHJP
【FI】
   C09K3/00 SZAB
   B09B3/00 304K
   C02F1/72 A
   C02F1/72 Z
   C02F1/28 E
   B01J20/14
   A62D3/38
   A62D101:22
   A62D101:45
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-512841(P2012-512841)
(86)(22)【出願日】2011年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2011060102
(87)【国際公開番号】WO2011136196
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2010-104788(P2010-104788)
(32)【優先日】2010年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】君塚 健一
(72)【発明者】
【氏名】新開 洋介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浄
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 成康
(72)【発明者】
【氏名】海老原 孝
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−082600(JP,A)
【文献】 特表2003−503197(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/123574(WO,A1)
【文献】 特開2006−247483(JP,A)
【文献】 特開2007−215552(JP,A)
【文献】 特開2005−139328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
A62D 3/38
B01J 20/14
B09C 1/02
B09C 1/08
C02F 1/28
C02F 1/72
A62D 101/22
A62D 101/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物に汚染された土壌及び/又は地下水の浄化に用いる過酸化物を活性する過酸化物活性化剤であって、珪藻土を含む有機物吸着材と、鉄錯体とを含有し、前記過酸化物と前記有機化合物との反応場のpHが5〜9であることを特徴とする過酸化物活性化剤。
【請求項2】
前記鉄錯体が、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ニトリロトリス(メチレンホスホ
ン酸)、L−アスパラギン酸二酢酸、タウリン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、
ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸
、フィチン酸、メチルグリシン二酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、L−
グルタミン酸二酢酸、ホスホノブタントリカルボン酸及び(S,S)−エチレンジアミン
ジコハク酸から選ばれる一種以上のキレート剤で形成されていることを特徴とする請求項
1に記載の過酸化物活性化剤。
【請求項3】
前記珪藻土のBET比表面積が、15〜45m/gである、請求項1または2に記載の過酸化物活性化剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の過酸化物活性化剤と過酸化物とを同時に、あるいは逐次に、有機化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に添加することを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法であって、前記過酸化物と前記有機化合物との反応場のpHが5〜9である浄化方法
【請求項5】
前記過酸化物が、水溶液中で過酸化水素を発生する化合物から選ばれる1種以上である
請求項に記載の浄化方法。
【請求項6】
前記過酸化物が、過酸化水素、過炭酸塩、過酸化尿素、ペルオキソ二硫酸塩及びペルオ
キソ一硫酸塩から選ばれる1種以上である請求項に記載の浄化方法。
【請求項7】
前記過酸化物が過酸化水素またはペルオキソ二硫酸塩である請求項に記載の浄化方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の過酸化物活性化剤を有機化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に添加し、前記有機化合物を前記過酸化物活性化剤における有機物吸着材に吸着させる工程、次いで過酸化物を添加して前記有機化合物を分解する工程を有する土壌及び/又は地下水の浄化方法であって、前記過酸化物と前記有機化合物との反応場のpHが5〜9である浄化方法
【請求項9】
珪藻土を含む有機物吸着材を、有機化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に添加し
て、前記有機化合物を前記有機物吸着材に吸着させる工程、次いで過酸化物を添加する工
程、次いで鉄錯体溶液を添加する工程を有することを特徴とする土壌及び/又は地下水の
浄化方法であって、前記過酸化物と前記有機化合物との反応場のpHが5〜9である浄化方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物で汚染された土壌及び/又は地下水を浄化する際に用いる過酸化物と併用される有機物吸着材及び鉄錯体を含有する該過酸化物の活性化剤、並びにこれらを用いた浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌及び/又は地下水中の汚染が生活環境に大きく影響を与えることが明らかとなり、水質汚濁防止法や土壌汚染対策法等が整備され、これまで蓄積、放置されていた有機化合物汚染の浄化が進められている。なお、ここでいう、有機化合物とは、主にTPH(Total
Petroleum Hydrocarbon)のような石油系炭化水素や、生物による分解が困難な難分解性物質、農薬、防腐剤、シアン化物等が該当する。
【0003】
これらの有機化合物に対し、物理的、化学的、生物的或いはそれらを組み合わせた様々な浄化方法が試みられている。物理的な方法、例えば掘削除去では汚染場所の浄化は可能であるが、除去された汚染物質の二次的な処理が必要となる欠点がある。また、生物的な方法、例えばバイオオーグメンテーションは周辺環境への影響が少ないメリットはあるが、高濃度汚染や複合汚染への適用は難しいというデメリットがある。これらに対し、化学的な浄化方法では、汚染物質の分解が可能なため二次処理が不要であり、さらに分解対象に選択性がなく、高濃度汚染や複合汚染への適用も可能である。化学的な浄化方法の中でも、中性pH領域で実施可能な方法は重金属類の溶出拡散の恐れが少ないとされており、種々の方法が開発されてきている。
【0004】
中性pH領域で実施可能な化学的浄化方法としては、pH5〜8の鉄キレート水溶液と過酸化水素水溶液を用いたフェントン反応による浄化方法(特許文献1参照)や、生分解性キレート剤と過酸化水素水溶液を用いたフェントン反応による浄化方法(特許文献2参照)が知られている。また、過酸化水素、クエン酸、鉄混合溶液を用いたフェントン反応による浄化方法(特許文献3参照)が知られている。しかしながら、これらの文献に記載された方法は何れも水系反応であり、石油系炭化水素のような水不溶性の物質の分解は困難であった。
【0005】
石油系炭化水素のような水不溶性物質の分解に関する試みとしては、金属塩、過酸化水素分解能力を有する活性炭及び酸化剤を添加して分解する方法(特許文献4参照)が知られている。しかし、この方法は反応場のpHを5以下としなければならず、重金属類の溶出拡散が懸念されるものであった。
【0006】
石油系炭化水素の中性領域での原位置浄化技術としては、界面活性剤を用いた洗浄方法(非特許文献1〜3)が試みられているが、これらの方法は何れも洗浄であり、回収した油汚染の再処理が必要な欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3793084号公報
【特許文献2】国際公開第2006/123574号パンフレット
【特許文献3】特開2009−285609号公報
【特許文献4】特開2006−247483号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】戸成ら、界面活性剤を用いた含油土壌の原位置噴射洗浄実験の紹介、第15回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集、2009年、14頁
【非特許文献2】大村ら、油含有土壌の原位置洗浄に関する研究、第15回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集、2009年、72頁
【非特許文献3】岡田ら、界面活性剤を用いた石油汚染地盤の原位置洗浄技術に関する検討、第15回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集、2009年、146頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来技術における上記したような課題を解決し、有機化合物、特に石油系炭化水素で汚染された土壌及び/又は地下水を簡便で効率良く、かつ安価に浄化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、珪藻土を含む有機物吸着材、鉄錯体、及び過酸化物を用いることにより、中性pH領域でも石油系炭化水素が分解可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、上記課題は、以下の本発明によって解決することができる。
<1> 有機化合物に汚染された土壌及び/又は地下水の浄化に用いる過酸化物を活性する過酸化物活性化剤であって、珪藻土を含む有機物吸着材と、鉄錯体とを含有することを特徴とする過酸化物活性化剤である。
<2> 前記鉄錯体が、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、L−アスパラギン酸二酢酸、タウリン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸、フィチン酸、メチルグリシン二酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、L−グルタミン酸二酢酸、ホスホノブタントリカルボン酸及び(S,S)−エチレンジアミンジコハク酸から選ばれる一種以上のキレート剤で形成されていることを特徴とする上記<1>に記載の過酸化物活性化剤である。
<3> 上記<1>または<2>に記載の過酸化物活性化剤と過酸化物とを同時に、あるいは逐次に、有機化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に添加することを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法である。
<4> 前記過酸化物が、水溶液中で過酸化水素を発生する化合物から選ばれる1種以上である上記<3>に記載の浄化方法である。
<5> 前記過酸化物が、過酸化水素、過炭酸塩、過酸化尿素、ペルオキソ二硫酸塩及びペルオキソ一硫酸塩から選ばれる1種以上である上記<4>に記載の浄化方法である。
<6> 前記過酸化物が過酸化水素またはペルオキソ二硫酸塩である上記<5>に記載の浄化方法である。
<7> 前記過酸化物と前記有機化合物との反応場のpHが5〜9である上記<3>〜<6>のいずれかに記載の浄化方法である。
<8> 上記<1>または<2>のいずれかに記載の過酸化物活性化剤を有機化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に添加し、前記有機化合物を前記過酸化物活性化剤における有機物吸着材に吸着させる工程、次いで過酸化物を添加して前記有機化合物を分解する工程を有する土壌及び/又は地下水の浄化方法である。
<9> 前記過酸化物と前記有機化合物との反応場のpHが5〜9である上記<8>に記載の浄化方法である。
<10> 珪藻土を含む有機物吸着材を、有機化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に添加して、前記有機化合物を前記有機物吸着材に吸着させる工程、次いで過酸化物を添加する工程、次いで鉄錯体溶液を添加する工程を有することを特徴とする土壌及び/又は地下水の浄化方法である。
<11> 前記過酸化物と前記有機化合物との反応場のpHが5〜9である上記<10>に記載の浄化方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、珪藻土を含む有機物吸着材、鉄錯体、及び過酸化物を用いることにより、石油系炭化水素を含む土壌及び/又は地下水の中性pH領域での浄化が可能となる。さらに本発明における有機物吸着材と鉄錯体との混合溶液は十分に安定であることから、当該溶液を予め調製しておくことで、サイトでの薬剤調製の手間を大幅に省くことも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における有機化合物とは、主にTPH(Total Petroleum Hydrocarbon)のような石油系炭化水素や、生物による分解が困難な難分解性物質、農薬、防腐剤、シアン化物等が挙げられる。本発明において浄化対象となる土壌及び/又は地下水は、主にTPHのような石油系炭化水素に汚染されたものである。また、本発明の好ましい態様によれば、生物による分解が困難な難分解性の有機化合物や、農薬、防腐剤、トリクロロエチレン(TCE)、テトラクロロエチレン(PCE)等の有機塩素化合物、シアン化物等の化学物質に汚染された土壌及び/又は地下水も処理可能である。
【0014】
本発明に用いられる有機物吸着材は、珪藻土を含むものであれば特に制限はなく、有機物吸着能を有する多孔質物質であれば良いが、過酸化物、特に過酸化水素を実質的に分解しないことが好ましい。過酸化物分解能の高い有機物吸着材を使用した場合には、共存させる鉄錯体を低減出来る場合もあるが、多くの場合は過酸化物の無駄分解が多くなり、経済性に劣る。これに対し、過酸化物を実質的に分解しない有機物吸着材を用いた場合、特に本発明を原位置浄化に用いる場合には、注入された過酸化物の拡散距離が長くなるため、注入井戸の掘削数を削減出来、工業的に非常に有益である。
【0015】
上記珪藻土は価格、入手の容易さの点でも工業的に有利である。本発明において珪藻土とは、単細胞ソウ類であるケイソウの遺ガイから成るケイ質の堆積物で、粘土、火山灰、有機物などが混じっているもの(共立出版化学大辞典3)と定義される。本発明に用いられる珪藻土としては、特に制限はなく、未焼成品、焼成品のいずれも使用可能である。同様に、未精製品、精製品のいずれも使用可能である。粒径については、小さいほど、有機物吸着積が大きくなり、かつ水性分散液とした場合の流動性が向上することから、小粒径である方が好ましい。本発明における珪藻土のBET比表面積は15〜45m/gが好ましい。さらに好ましくは、20〜40m/gの範囲である。15〜45m/gの範囲を外れると有機化合物の分解量が小さくなり、好ましくない。
【0016】
有機物吸着材の配合量は、有機化合物に汚染された土壌及び/又は地下水における汚染の濃度に依存し、反応場に存在する前記有機化合物の全量を吸着することが可能な量以上を配合することが好ましい。具体的な配合量は、サイトの土壌及び地下水を用いたトリータビリティー試験によって、浄化可否を指標として求めることが出来る。このトリータビリティー試験において、有機物吸着材が不足すると、試験後に油膜が目視確認されることがあり、浄化可否を分析により求めずとも、配合量の不足が分かることもある。
上記鉄錯体に用いられる鉄塩には特に制限はなく、例えば硫酸第一鉄や塩化第一鉄等が挙げられるが、入手の容易さから硫酸第一鉄が好適である。
【0017】
上記鉄錯体に用いられるキレート剤には特に制限はないが、好ましくはグリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTAと称される)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMPと称される)、L−アスパラギン酸二酢酸(ASDAと称される)、タウリン二酢酸(ESDAと称される)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDAと称される)、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDPと称される)、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸(DPTA−OHと称される)、フィチン酸、メチルグリシン二酢酸(MGDAと称される)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTAと称される)、L−グルタミン酸二酢酸(GLDAと称される)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTCと称される)及び(S,S)−エチレンジアミンジコハク酸(EDDSと称される)から選ばれる一種以上のキレート剤である。
【0018】
これらのキレート剤は酸型、塩基型の何れも使用可能であるが、使用前に鉄錯体としておくことが好ましい。鉄錯体の配合量は有機化合物に汚染された土壌及び/又は地下水における汚染の濃度に依存するが、反応場における鉄イオン換算濃度で15mg/L以上配合することが好ましい。本発明の鉄錯体における鉄塩とキレート剤との配合比は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではないが、鉄塩(鉄イオンとして)に対するキレート剤のモル比(キレート剤/鉄イオン)として、好ましくは1〜3、より好ましくは1〜2である。キレート剤を多くし過ぎることは経済性に反し、モル比を小さくし過ぎると鉄塩の沈殿が生じ好ましくない。
【0019】
本発明の過酸化物活性化剤の形態にも特に制限はなく、珪藻土を含む有機物吸着材と鉄錯体とを混合した水溶液、珪藻土を含む有機物吸着材と鉄錯体とをそれぞれ単独で含む水溶液、両者の固体の混合物、有機物吸着材が固体であって鉄錯体が水溶液である形態など、使用状況に応じて様々な形態をとることが可能である。操作の容易さを考えると水溶液の形態が特に好ましい。
【0020】
本発明に用いられる過酸化物にも特に制限はないが、過酸化水素、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸が好適に用いられる。価格、水溶液の安定性から過酸化水素水溶液が好ましい。また過酸化水素水溶液には、メタリン酸、ピロリン酸、オルトリン酸、縮合リン酸塩、ホスホン酸、ピコリン酸、ジピコリン酸、フェニル尿素などの安定剤を本発明の効果を損なわない範囲内であれば添加することも可能である。過酸化水素には工業用過酸化水素水溶液を用いることができる。過酸化水素水溶液の濃度は特に制限はないが、60重量%より高濃度の過酸化水素水溶液は入手が困難であるため、60重量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは、安全性及び輸送コストの観点から25〜45重量%、特に好ましくは30〜45重量%である。
【0021】
浄化に際しては、過酸化物活性化剤及び過酸化物を別々に供給しても良いし、混合後に同時供給しても良い。また、供給方法には特に制限はなく、注入、圧入、高圧噴射、高圧噴射攪拌、噴霧、揚水曝気システムへの薬剤注入等、あらゆる工法への適用が可能である。また、各材料を含む水溶液を浄化対象に添加する前に加熱すること、各材料を含む水溶液を添加した後、浄化対象を加熱することも可能である。
【0022】
浄化対象に供給する過酸化物の量は、汚染物質の分解に必要な量の1〜1000倍程度である。これより少なければ浄化が不十分となり、多すぎる場合は経済性に劣る。
好ましい過酸化物活性化剤の使用量は、事前のトリータビリティー試験より求めることが好ましいが、少なくとも浄化対象の有機化合物を全量吸着出来る量以上の有機物吸着材の使用は必要である。使用量が少ない場合は、有機化合物が水系反応場へ供給されず分解が不完全となる恐れがある。使用量が多すぎる場合は経済性に劣る。
【0023】
土壌及び/又は地下水の汚染物質である有機化合物の分解においては、前記有機化合物と過酸化物との反応場のpHを5〜9に保つことが望ましい。反応場のpHを5〜9に保つことにより、重金属類の溶出拡散を抑制することができる。浄化対象となる土壌等にpH緩衝能が充分あればpH調整剤の添加は必要ないが、薬剤の添加や有機物分解の進行によってpHが変動する場合は、市販のpH調整剤及び/又はpH緩衝剤を用いることも可能である。pH調整剤としては、硫酸、硝酸、リン酸等の酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基が使用可能である。また、pH緩衝剤としては、化学便覧等で紹介されているもので良いが、鉄の沈殿抑制や環境調和の観点から炭酸系緩衝剤が好ましい。炭酸系緩衝剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。このうち、コストや溶解度、pHの観点からは炭酸水素ナトリウムを単独で使用するか、もしくは炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムとを併用することが望ましい。pH緩衝剤は浄化中の土壌及び/又は地下水のpHが5〜9となるように添加すれば良いが、炭酸イオン及び炭酸水素イオンにはラジカルスカベンジャー効果があるため、極力使用を控えることが望ましい。
【0024】
本発明を有機化合物に汚染された土壌及び/又は地下水の原位置浄化に用いようとする場合の方法に特に制限はないが、一つの方法としては、過酸化物活性化剤と過酸化物とを同時に、あるいは逐次に有機化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に添加する方法が挙げられる。他の方法としては、過酸化物活性化剤を有機化合物で汚染された土壌及び/又は地下水に添加し、土壌及び/又は地下水中の前記有機物化合物を珪藻土を含む有機物吸着材に吸着させる工程、次いで過酸化物を添加して前記有機化合物を分解する工程を有する方法が挙げられる。さらに他の方法としては、珪藻土を含む有機物吸着材を地盤中に添加して前記有機化合物を吸着させる工程、次いで過酸化水素水溶液を添加する工程、さらに鉄錯体を添加する工程を有する方法が挙げられる。有機物吸着材に前記有機化合物を吸着させることでTPH等の低水溶性石油系炭化水素が水系反応場へ導入され、次いで過酸化水素水溶液及び鉄錯体の浄化剤を添加することで、ヒドロキシルラジカルを発生させ、有機物を分解させることが出来るため好適である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら制限を受けるものではない。
<BET比表面積の測定方法>
下記の実施例及び比較例で用いた珪藻土のBET比表面積は、日本ベル社製 BELSORP miniIIを用いて測定した。なお、各珪藻土は日本ベル社製 BELSORP-vacIIにより300℃/3時間の前処理を行った後に、BET比表面積を測定した。
【0026】
(実施例1)
(1)100mL耐圧ネジ口瓶を反応容器として用いた。
(2)有機物吸着材として珪藻土(小宗科学薬品工業株式会社製 けいそう土試薬 Lot.G1D3004)2.7重量%、及び鉄錯体を含む溶液を過酸化物活性化剤として用いた。この小宗科学薬品工業製けいそう土のBET比表面積は38.1m/gであった。なお、鉄錯体は、キレート剤としてグリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA、キレスト社製「キレストGEA」)、鉄塩としてFeSO・7HO(和光純薬製特級試薬)を用いて、キレート剤/鉄イオンのモル比が1、かつ鉄イオン濃度が1500mg/Lとなるように調整した。
(3)pH緩衝剤として440mM炭酸水素ナトリウム/0.875mM炭酸ナトリウム水溶液を用いた。
(4)分解対象として市販の灯油を用いた。
(5)94mLの超純水を反応容器に入れ、次いで前記(2)の過酸化物活性化剤1mL、前記(3)のpH緩衝剤4mLを添加した。さらに1.5重量%の過酸化水素水溶液1mLを加えた。
(6)前記(4)の灯油を12μL添加した後、直ちに密栓した。
(7)TAITEC社製ストロングシェーカーSR−2Sに密栓した反応器を固定し、300回振盪/分にて22℃で20時間振盪させた。
(8)所定時間経過後開封し、灯油抽出用としてn−ヘキサン10mLを添加し、再び密栓した。
(9)前記(7)の振盪機にて30分振盪し、次いで30分静置した。
(10)無水硫酸ナトリウムを入れた2mLオートサンプラー用バイアルにヘキサン層を分取し、GC−FID分析に供した。
(11)灯油の定量方法はEPA(アメリカ環境保護局)8015Bに従い行った。
(12)前記(5)において前記(2)の過酸化物活性化剤1mLを100mLの超純水に添加したものを調製し、前記(6)以降の操作を行ったものをリファレンスとした。
(13)灯油の分解率は下記式により求めた。
【0027】
{灯油分解率(%)}={前記(10)にて抽出された灯油}/{リファレンスにて抽出された灯油}×100
なお、有機物吸着材より回収される灯油の回収率は、回収される量によらず一定とした。上記試験の結果、灯油分解率は79.9%であった。
【0028】
(実施例2)
キレート剤としてニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP、キレスト社製「キレストPH−320」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は71.9%であった。
(実施例3)
キレート剤としてL−アスパラギン酸二酢酸(ASDA、三菱レイヨン社製)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は71.0%であった。
(実施例4)
キレート剤としてタウリン二酢酸(ESDA、キレスト社製「キレストESDA−30」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は70.1%であった。
(実施例5)
キレート剤としてヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA、キレスト社製「キレストE−20」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は67.6%であった。
【0029】
(実施例6)
キレート剤としてヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP、キレスト社製「キレストPH−212」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は66.6%であった。
(実施例7)
キレート剤として1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン四酢酸(DPTA−OH、キレスト社製「キレストRA」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は65.0%であった。
(実施例8)
キレート剤としてフィチン酸(東京化成工業社製試薬)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は63.4%であった。
(実施例9)
キレート剤としてメチルグリシン二酢酸(MGDA、BASF社製「TRILON M」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は56.5%であった。
【0030】
(実施例10)
キレート剤としてヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA、キレスト社製「キレストHA」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は56.1%であった。
(実施例11)
キレート剤としてL−グルタミン酸二酢酸(GLDA、キレスト社製「キレストCMG−40」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は55.3%であった。
(実施例12)
キレート剤としてホスホノブタントリカルボン酸(PBTC、キレスト社製「キレストPH−430」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は52.5%であった。
(実施例13)
キレート剤として(S,S)−エチレンジアミンジコハク酸(EDDS、キレスト社製「キレストEDDS−35」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は52.5%であった。
【0031】
(実施例14)
実施例1の(2)において珪藻土の濃度を5.3重量%とし、キレート剤としてヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA、キレスト社製「キレストHA」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は56.3%であった。
(実施例15)
実施例1の(2)において鉄イオン濃度を500mg/Lとし、キレート剤としてヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA、キレスト社製「キレストHA」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は58.2%であった。
(実施例16)
実施例1の(2)において鉄イオン濃度を3000mg/Lとし、キレート剤としてヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA、キレスト社製「キレストHA」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は54.7%であった。
(実施例17)
実施例1の(2)において、有機物吸着材としてイソライト工業社製珪藻土 イソライトDPを用い、キレート剤としてヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA、キレスト社製「キレストHA」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は67.0%であった。このイソライト工業製イソライトDPのBET比表面積は24.5m/gであった。
(実施例18)
実施例1の(2)において、有機物吸着材として昭和化学工業社製珪藻土 ラヂオライトSPFを用い、キレート剤としてヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA、キレスト社製「キレストHA」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は70.1%であった。この昭和化学工業製ラヂオライトSPFのBET比表面積は31.8m/gであった。
【0032】
(比較例1)
実施例1の(2)において活性炭水性分散液(三菱ガス化学社製「ダイヤフレッシュ オルソンAT」)を有機物吸着材として用い、キレート剤としてヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA、キレスト社製「キレストHA」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は33.5%であった。
(比較例2)
実施例1の(2)において有機物吸着材としてモレキュラーシーブス3Aを粉砕して用い、キレート剤としてヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA、キレスト社製「キレストHA」)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は10.0%であった。
(比較例3)
実施例1の(2)において、鉄錯体を含まない溶液を過酸化物活性化剤として用いた以外は実施例1と同様に試験を行った結果、灯油分解率は46.0%であった。
【0033】
なお、上記実験(実施例1〜18、比較例1〜3)における反応場のpHは何れも6〜8であった。