(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記可動体は、前記電磁係合部に一端部が連結された棒状部を有し、前記変位許容機構は、前記固定部に対して前記連結部が前記所定範囲内で変位したとしても、前記棒状部が前記電磁係合部に対して前記所定方向と交わる方向に相対的に変位または変形することを許容することで、前記可動体の振動を前記被加振体に伝達可能なように前記一端部の前記電磁係合部に対する連結状態が維持されることを特徴とする請求項1記載の加振器の取付構造。
前記変位許容機構は前記取り付け部に設けられ、前記取り付け部は、前記固定部と前記磁路形成部とが前記所定方向と交わる方向に相対的に変位可能なように前記固定部と前記磁路形成部と間に介在し、前記固定部に対して前記連結部が前記所定範囲内で変位したとしても、前記固定部に対して前記磁路形成部が前記所定方向と交わる方向に変位することを前記取り付け部が許容することで、前記可動体の振動を前記被加振体に伝達可能なように前記磁路形成部の前記固定部に対する取り付け状態が維持されることを特徴とする請求項1または2記載の加振器の取付構造。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係る加振器の取付構造が適用されるピアノの外観を示す斜視図である。
【0020】
本実施の形態では、オーディオ信号によって動作して被加振体を加振することで発音させる加振器の取付構造が適用される装置や楽器として、グランドピアノ1を例示する。被加振体として響板7を例示する。ただし、これらの例示に限定されるものではなく、オーディオ信号に基づく駆動信号で加振器が駆動され、それによって被加振体が振動して音響が発生する構成であればよい。
【0021】
グランドピアノ1は、その前面に演奏者によって演奏操作がなされる鍵2が複数配列された鍵盤、およびペダル3を有する。また、グランドピアノ1は、前面部分に操作パネル13を有する制御装置10、および譜面台部分に設けられたタッチパネル60を有する。ユーザの指示は、操作パネル13およびタッチパネル60が操作されることにより、制御装置10に対して入力可能になっている。
【0022】
図2は、グランドピアノ1の内部構造を示す断面図である。
【0023】
この図においては、各鍵2に対応して設けられている構成については1つの鍵2に着目して示し、他の鍵2に対応して設けられている部分については記載を省略している。各鍵2の後端側(演奏するユーザから見て鍵2の奥側)の下部には、ソレノイドを用いて鍵2を駆動する鍵駆動部30が設けられている。
【0024】
鍵駆動部30は、制御装置10からの制御信号に応じて、対応するソレノイドを駆動してプランジャを上昇させることにより、ユーザが押鍵したときと同様な状態を再現する一方、プランジャを下降させることにより、ユーザが離鍵したときと同様な状態を再現する。
【0025】
弦5及びハンマ4は、各鍵2に対応して設けられる。鍵2が押下されるとアクション機構(図示略)を介してハンマ4が回動し、各鍵2に対応する弦5を打撃する。ダンパ8は、鍵2の押下量、およびペダル3のうちダンパペダル(以下、単にペダル3といった場合にはダンパペダルを示す)の踏込量に応じて変位し、弦5と非接触状態または接触状態となる。ストッパ40は、打弦阻止モードが設定されているときに動作し、各ハンマ4を受け止めてハンマ4による弦5への打撃を阻止する部材である。
【0026】
鍵センサ22は、各鍵2に対応して各鍵2の下部に設けられ、対応する鍵2の挙動に応じた検出信号を制御装置10に出力する。ハンマセンサ24は、ハンマ4に対応して設けられ、対応するハンマ4の挙動に応じた検出信号を制御装置10に出力する。ペダルセンサ23は、各ペダル3に対応して設けられ、対応するペダル3の挙動に応じた検出信号を制御装置10に出力する。
【0027】
図示はしないが、制御装置10は、CPU、ROM、RAM、通信インターフェイス等を備える。ROMに記憶された制御プログラムをCPUが実行することで、制御装置10による各種の制御が実現される。
【0028】
響板7は、木材で形成された板状の部材である。響板7には、響棒75および駒6が配設される。駒6には、張架される弦5の一部が係止される。従って、駒6を介して響板7の振動が各弦5に伝達されるとともに、各弦5の振動が駒6を介して響板7に伝達される。
【0029】
また、加振器50が、直支柱9に接続された支持部55によって支持されて、響板7に接続されている。支持部55はアルミ素材等の金属で形成される。直支柱9はフレームとともに弦5の張力を支える部材であり、グランドピアノ1の一部である。
【0030】
図3は、加振器50の取り付け位置を説明するための響板7の裏面図である。
【0031】
加振器50は、響板7のうち、複数存在する響棒75の間に接続されている。同じ構成の加振器50が複数(例えば2つ)、響板7に接続されているが、1つであってもよい。加振器50は、駒6に極力近い位置に配置され、本実施の形態では響板7を挟んで駒6の反対側に配置される。以下、グランドピアノ1の左右方向をX方向、前後方向をY方向、上下方向をZ方向(所定方向)とする。X−Y方向が水平方向である。
【0032】
図4は、加振器50の縦断面図である。加振器50は、ボイスコイル型のアクチュエータであり、大別して磁路形成部52及び可動体100からなる。可動体100は、棒状部101、キャップ512、ボビン511、ボイスコイル513を有している。キャップ512の下半部に、環状のボビン511がわずかな隙間を有して嵌合固定されている。ボイスコイル513は、ボビン511に外周面に巻き付けられた導線で構成され、磁路形成部52が形成する磁場内において、流れる電流を振動に変える。キャップ512、ボビン511及びボイスコイル513が、磁路形成部52に電磁的に係合する電磁係合部EMとなる。
【0033】
棒状部101の下端部である一端部101aが、電磁係合部EMのキャップ512に連結固定され、Z方向(上下方向)に延設される。響板7の下面には他端部連結部110が固定される。他端部連結部110は、棒状部101の上端部である他端部101bを響板7に対して固定的に連結して可動体100の振動を響板7に伝達する役割を果たす。
【0034】
磁路形成部52は、トッププレート521、磁石522及びヨーク523を有し、これらを上側から順に配設している。電磁係合部EMは、ダンパ53によって、磁路形成部52に対して接触することなくZ方向に変位可能に支持される。すなわち、ダンパ53は、繊維等で円盤状に形成され、円盤状の部分が蛇腹状に波立たせた形状をしている。ダンパ53の外周側の端部がトッププレート521の上面に取り付けられ、内周側の端部が電磁係合部EMに取り付けられている。
【0035】
磁路形成部52は、例えば、ヨーク523が支持部55にネジ等で固定されることで、直支柱9に対して固定状態とされている。従って支持部55は、固定部である直支柱9に対して磁路形成部52を取り付ける役割を果たす。
【0036】
トッププレート521は、例えば、軟鉄等の軟磁性材料でなり、中心に穴のあいた円盤状に形成される。ヨーク523は、例えば、軟鉄等の軟磁性材料でなり、円盤状の円盤部523Eと、円盤部523Eよりも外径が小さい円柱状の円柱部523Fとを、双方の軸心を一致させて一体とした形状に形成される。円柱部523Fの外径は、トッププレート521の内径よりも小さい。磁石522は、ドーナツ型の永久磁石であり、その内径はトッププレート521の内径よりも大きい。
【0037】
トッププレート521、磁石522及びヨーク523は、各々の軸心が一致し、それが磁路形成部52の軸心C1となっている。このような配置により、
図4に破線の矢印で示した磁路が形成される。トッププレート521と円柱部523Fとに挟まれた空間である磁路空間525内にボイスコイル513が位置するように電磁係合部EMが配置される。その際、棒状部101の軸心C2が磁路形成部52の軸心C1と同心となるように、ダンパ53によって電磁係合部EMの水平方向(X−Y方向)の位置決めがされている。
【0038】
加振器50には、制御装置10から、オーディオ信号に基づく駆動信号が入力される。例えば、不図示の記憶部に記憶されたオーディオデータが制御装置10により読み出され、それに基づいて駆動信号が生成される。あるいは、演奏操作に応じて響板7を振動させる場合は、鍵センサ22、ペダルセンサ23、ハンマセンサ24によって鍵2、ペダル3及びハンマ4の挙動をそれぞれ検出することで演奏者の演奏操作を検出し、それらの検出結果に基づいて、制御装置10が演奏情報を生成する。そしてその演奏情報に基づいて制御装置10が音響信号を生成する。この音響信号が加工や増幅の処理をされて、加振器50に駆動信号として出力される。
【0039】
駆動信号がボイスコイル513に入力されると、ボイスコイル513は、磁路空間525における磁力を受けて、入力される駆動信号が示す波形に応じたZ方向の駆動力をボビン511が受ける。従って、磁路形成部52により電磁係合部EMが励振されて、電磁係合部EMと棒状部101とが一体となってZ方向に振動する。
【0040】
可動体100がZ方向に振動すると、その振動は他端部連結部110によって響板7に伝達され、響板7が加振される。響板7の振動は空気中に放音され、音響となる。
【0041】
ところで、響板7に、経年変化等によって寸法変化や変形が生じると、他端部連結部110も一緒に水平変位し得ることになる。棒状部101の軸心C2と磁路形成部52の軸心C1とは同心であることが最適である。しかし、仮に他端部連結部110が水平変位すると、ダンパ53が電磁係合部EMの位置を規制しきれず、電磁係合部EMと磁路形成部52との位置関係が不適切になり得る。
【0042】
そこで、直支柱9に対して他端部連結部110が所定範囲内で変位したとしても、磁路形成部52と電磁係合部EMとの電磁的な係合が適切に維持され且つ、可動体100の振動が響板7に適切に伝達されるようするための「変位許容機構」を設けることが必要となる。
【0043】
このような課題があることは、製品使用初期段階では認識されにくいものである。しかも、水平方向に関しては寸法変化を吸収しつつ、Z方向に関しては振動伝達機能を維持するような機構を考えなくてはならず、それには新規な発想が必要となる。本実施の形態では、直支柱9に対して磁路形成部52を取り付ける部分(取り付け部)、可動体100及び他端部連結部110の少なくとも1つに、変位許容機構を設ける。以降、個々の変位許容機構の例示構成を説明する。
【0044】
図5、
図6で、変位許容機構を他端部連結部110に設けた構成を説明する。
【0045】
図5(a)、(b)は、変位許容機構の第1、第2の例に係る他端部連結部110の縦断面図である。
図5(c)、(d)は、変位許容機構の第3の例に係る他端部連結部110の平面図、縦断面図である。
【0046】
図5(a)に示すように、第1の例に係る他端部連結部110には、ポインタ部材111及びチャック部材112を有するボールジョイント構造が採用される。棒状部101の他端部101bには、球状部102が形成されている。ポインタ部材111は響板7の下面7aに螺着等で固定され、ポインタ部材111に対してチャック部材112がネジ構造で係合するようになっている。
【0047】
ポインタ部材111に形成されたテーパ面111aとチャック部材112に形成されたテーパ面112aとの間に棒状部101の球状部102を介装し、ポインタ部材111に対してチャック部材112を螺合して締め付けることで、テーパ面111aとテーパ面112aとによって球状部102のZ方向の位置が規制される。
【0048】
この構成によれば、他端部連結部110が水平方向の成分を含む方向(加振方向とは異なる方向、ないし、加振方向と交わる方向)に変位した場合、それに応じて球状部102がテーパ面111a、112a内でZ軸に垂直な軸を中心に回転することができる。それにより、棒状部101のうち少なくとも他端部101bに近い側の部分がZ軸に対して無理なく傾斜することが許容される。
【0049】
他端部連結部110の水平方向の変位として想定される範囲を「所定範囲」とする。第1の例では、電磁係合部EMも磁路形成部52の軸心C1に対して傾斜し得る。ここで、所定範囲内で他端部連結部110が変位したことで生じる電磁係合部EMの傾斜の程度が、磁路形成部52と電磁係合部EMとの電磁的な係合が適切に維持される範囲内であるように、棒状部101の長さや磁路空間525の大きさ等が設定されているものとする。
【0050】
このような構成により、響板7が水平方向に寸法変化を生じても、響板7に対する加振器50の加振機能を維持することができる。
【0051】
図5(b)に示すように、第2の例に係る他端部連結部110は、第1の例とは、ポインタ部材111とチャック部材112との締め付け機構が相違する。ポインタ部材111はネジ103で響板7に固定され、チャック部材112は、そのフランジ部がネジ103でポインタ部材111に固定される。テーパ面111aとテーパ面112aとによって球状部102のZ方向の位置が規制される点は第1の例と同じであり、他端部連結部110が水平変位した場合の作用効果も第1の例と同じである。
【0052】
図5(c)、(d)に示すように、第3の例に係る他端部連結部110は、響板7に固定される受け部材113を有する。受け部材113には、二股状の延設片の間にスリット113bが形成される。受け部材113に形成されたテーパ面113aの上に球状部102を位置させて、二股状の延設片をネジ114で締めることでスリット113bを縮小させる。すると、球状部102は、響板7の下面7aとテーパ面113aとによってZ方向の位置が規制される。他端部連結部110が水平変位した場合の作用効果は第1の例と同じである。
【0053】
図6(a)、(b)は、変位許容機構の第4、第5の例に係る他端部連結部110の縦断面図である。
【0054】
図6(a)に示すように、第4の例に係る他端部連結部110は、硬さの異なる2種類の材料を上下に積層して構成される。例えば、上側の樹脂部115が響板7の下面7aに固定され、下側の樹脂部116が樹脂部115に固定される。樹脂部115の方が樹脂部116よりも硬質である。棒状部101の他端部101bは、樹脂部115にわずかに埋まるように樹脂部115に固定されている。これは、2色成形によるアウトサート成形等の手法で実現可能である。
【0055】
樹脂部115は、可動体100の振動を響板7に適切に伝達できる程度の硬さを有する。一方、樹脂部116は、他端部101bのうち樹脂部116に挿入固定されている部分が水平方向に変位しても、それに追従する程度の柔軟性を有する。
【0056】
この構成によると、他端部連結部110(の特に樹脂部115)が水平方向に変位した場合、他端部101bのうち樹脂部115に固定される部分は樹脂部115と一緒に水平変位することになるが、それより下の部分は、樹脂部116の柔軟性のためにZ軸に垂直な軸を中心に回転することができる。それにより、棒状部101のうち樹脂部115に固定される部分を除く部分が、Z軸に対して無理なく傾斜することが許容される。
【0057】
他端部連結部110の変位が所定範囲内であれば、それによる棒状部101の傾斜により磁路形成部52と電磁係合部EMとの電磁的な係合が不適切になることはない。よって、響板7が水平方向に寸法変化を生じても、響板7に対する加振器50の加振機能を維持することができる。
【0058】
図6(b)に示すように、第5の例に係る他端部連結部110は、1種類の柔軟な材料で構成される。すなわち、樹脂部116と同程度の硬さの樹脂部117が、響板7の下面7aにネジ等で固定される。棒状部101の他端部101bは、樹脂部117に深く埋まるように挿入固定されるが、他端部101bの先端と響板7の下面7aとの間には、適度の薄さの肉部117aを確保する。肉部117aの厚みは、樹脂部117の柔らかさを考慮して、可動体100の振動を響板7に適切に伝達できる程度の厚みとしている。
【0059】
この構成によると、他端部連結部110(の特に樹脂部117の上部)が水平方向に変位した場合、樹脂部117の柔軟性により、棒状部101がZ軸に対して無理なく傾斜することが許容される。他端部連結部110の変位が所定範囲内であれば、それによる棒状部101の傾斜により磁路形成部52と電磁係合部EMとの電磁的な係合が不適切になることはない。よって、響板7が水平方向に寸法変化を生じても、響板7に対する加振器50の加振機能を維持することができる。
【0060】
図5、
図6に示した例では、他端部連結部110が変位したとき、棒状部101はほぼ全体が傾斜し得るが、そのような構成に限定されない。すなわち、少なくとも棒状部101の他端部101bに近い側の部分がZ方向に対して傾斜することを変位許容機構が許容することで、可動体100の振動を響板7に伝達可能なように、他端部連結部110による他端部101bの響板7に対する連結状態が維持される構成であればよい。
【0061】
次に、
図7、
図8、
図9で、変位許容機構を可動体100に設けた構成を説明する。
【0062】
図7は、変位許容機構の第6の例に係る可動体100のうち棒状部101の側面図である。第6の例に係る可動体100は、棒状部101が上下に3分割され、第1棒状部101−1、第2棒状部101−2、第3棒状部101−3からなる。第1棒状部101−1と第2棒状部101−2、第2棒状部101−2と第3棒状部101−3とは、それぞれ接続部としてのユニバーサルジョイント104で接続される。これら2つのユニバーサルジョイント104が、変位許容機構となる。
【0063】
第1棒状部101−1と第2棒状部101−2との接続部を例にとると、ユニバーサルジョイント104により、第1棒状部101−1に対して相対的に、第2棒状部101−2が、X軸を中心に回転自在であり且つY軸を中心に回転自在である。そのため、第1棒状部101−1と第2棒状部101−2の軸線同士が傾斜してもなおかつ、Z方向に対して力の伝達は行える。
【0064】
この構成によると、直支柱9に対して他端部連結部110が水平方向に所定範囲内で変位したとしても、第1棒状部101−1に対して第2棒状部101−2が相対的に傾斜することをユニバーサルジョイント104が許容することで、可動体100の振動を響板7に伝達可能なように棒状部101−1、101−2の接続状態が維持される。他端部連結部110が所定範囲内で変位したことで第1棒状部101−1が傾斜したとしても、磁路形成部52と電磁係合部EMとの間の隙間が適切に維持されて電磁的な係合も適切に維持されるとする。
【0065】
よって、響板7が水平方向に寸法変化を生じても、響板7に対する加振器50の加振機能を維持することができる。
【0066】
なお、棒状部101は上下に3分割したが、4分割以上でもよく、2分割でもよい。分割した隣接する棒状部101同士をユニバーサルジョイント104で接続すればよい。また、隣接する棒状部101同士の傾斜を許容するように両者を接続する機構は、ユニバーサルジョイントと呼称される機構やユニットに限定されるものではない。
【0067】
図8(a)は、変位許容機構の第7の例に係る可動体100のうち棒状部101の端部の斜視図である。
【0068】
第7の例では、可動体100の棒状部101自体に変位許容機構が適用され、棒状部101は、柔らかい樹脂を基材として中に複数の鉄心を通した内部構造をしている。例えば、カーボンファイバー等が採用可能である。これによると、棒状部101自体が、Z方向に強度を保ちながら、水平方向には可撓性を有する。そのため、直支柱9に対して他端部連結部110が水平方向に所定範囲内で変位したとしても、棒状部101が
図8(b)に示すように撓むことで、磁路形成部52と電磁係合部EMとの間の隙間が適切に維持されて電磁的な係合も適切に維持される。
【0069】
図8(c)、(d)は、変位許容機構の第8、第9の例に係る可動体100のうち棒状部101の側面図である。
図8(c)に示す第8の例に係る可動体100の棒状部101は、フレキシブルシャフトで構成される。また、
図8(d)に示す第9の例に係る可動体100の棒状部101は、複数の針金の両端を固定してなる。これら第8、第9の例によっても、第7の例と同様の効果が得られる。
【0070】
図9(a)は、変位許容機構の第10の例に係る可動体100のうち電磁係合部EMと棒状部101の一端部101aとを連結する部分の縦断面図である。
【0071】
第10の例では、電磁係合部EMと棒状部101の一端部101aとを連結する一端部連結部120に変位許容機構が適用される。一端部連結部120の構成は、
図5(b)に示す第2の例に係る他端部連結部110と同様で、それを一端部101aの側に設けたものである。
【0072】
まず、棒状部101の一端部101aには、球状部109が形成されている。下側部材122がキャップ512に接着または不図示のネジ等で固定され、上側部材121が下側部材122にネジ123で螺着固定される。上側部材121のテーパ面121aと下側部材122のテーパ面122aとによって球状部109のZ方向の位置が規制される。
【0073】
この構成によると、他端部連結部110が所定範囲内で変位したとしても、棒状部101における少なくとも一端部101aに近い側の部分がZ方向に対して傾斜することを一端部連結部120が許容することで、可動体100の振動を響板7に伝達可能なように、一端部101aの電磁係合部EMに対する連結状態が維持される。その際、他端部連結部110の変位が所定範囲内であれば、磁路形成部52と電磁係合部EMとの間の隙間が適切に維持されて電磁的な係合も適切に維持される。
【0074】
図9(b)は、変位許容機構の第11の例に係る可動体100のうち電磁係合部EMと棒状部101の一端部101aとを連結する部分の縦断面図である。第11の例では、電磁係合部EMと棒状部101の一端部101aとを連結する一端部連結部120に変位許容機構が適用される。
【0075】
まず、電磁係合部EMにおいて、キャップ512には、内径側に延設される内縁部124が設けられる。内縁部124の下に空間Sが形成され、内縁部124の内径は円形の逃げ部128となっている。一方、一端部連結部120において一端部101aの下部には、軸部127から外径側に延設される上側外縁部125、下側外縁部126が形成される。外縁部125、126の外径は逃げ部128よりも大きい。
【0076】
上側外縁部125と下側外縁部126との間に内縁部124が水平方向に摺動可能に挟持されている。これにより、キャップ512に対して、一端部連結部120が水平方向に変位可能となっている。なお、外縁部125、126と内縁部124との間には、摩擦を低減するための処置、例えば、潤滑材を塗布してもよいし、あるいはベアリングを介在させてもよい。また、キャップ512に対する一端部連結部120の変位量を一定の範囲に規制する構成とするのが望ましい。
【0077】
この構成によると、他端部連結部110が所定範囲内で変位したとしても、一端部連結部120と共に棒状部101が電磁係合部EMに対して水平方向に相対的に変位することを一端部連結部120が許容することで、可動体100の振動を響板7に伝達可能なように、一端部101aの電磁係合部EMに対する連結状態が維持される。その際、他端部連結部110の変位が所定範囲内であれば、磁路形成部52と電磁係合部EMとの間の隙間が適切に維持されて電磁的な係合も適切に維持される。
【0078】
このように、第10、第11の例によれば、響板7が水平方向に寸法変化を生じても、響板7に対する加振器50の加振機能を維持することができる。
【0079】
図10で、変位許容機構を、直支柱9に対して磁路形成部52を取り付ける取り付け部に設けた構成を説明する。
【0080】
図10は、変位許容機構の第12の例に係る取り付け部の縦断面図である。磁路形成部52は支持部55に対して取り付け部Tで取り付けられる。従って、支持部55と磁路形成部52との間に介在する取り付け部Tは、支持部55と共に、直支柱9に対して磁路形成部52を取り付ける役割を果たす。
【0081】
取り付け部Tには、
図9(b)に示すキャップ512及び一端部連結部120と類似の構成を採用する。すなわち、取り付け部Tは、下側部材131と上側部材132とを有する。下側部材131は支持部55に対してネジ等で固定されている。上側部材132の上には、磁路形成部52が固定されている。
【0082】
下側部材131には、内径側に延設される内縁部134が設けられる。内縁部134の下に空間Sが形成され、内縁部134の内径は円形の逃げ部138となっている。一方、上側部材132には、軸部137から外径側に延設される上側外縁部135、下側外縁部136が形成される。外縁部135、136の外径は逃げ部138よりも大きい。
【0083】
上側外縁部135と下側外縁部136との間に内縁部134が水平方向に摺動可能に挟持されている。これにより、下側部材131に対して、上側部材132が水平方向に変位可能となっている。なお、摩擦低減の処置や変位量規制の機構を採用してもよい点は、
図9(b)に示す例と同様である。
【0084】
この構成によると、他端部連結部110が所定範囲内で変位したとしても、直支柱9に対して磁路形成部52が水平方向に相対的に変位することを取り付け部Tが許容することで、可動体100の振動を響板7に伝達可能なように、磁路形成部52の直支柱9に対する取り付け状態が維持される。その際、他端部連結部110の変位が所定範囲内であれば、磁路形成部52と電磁係合部EMとの間の隙間が適切に維持されて電磁的な係合も適切に維持される。
【0085】
このように、第12の例によれば、響板7が水平方向に寸法変化を生じても、響板7に対する加振器50の加振機能を維持することができる。
【0086】
なお、
図9(b)、
図10に示すような、2つの構成要素を水平方向に相対的に変位可能にする構成は、例示したものに限定されない。例えば、溝と突条との組み合わせをX軸とY軸の双方に設けてもよい。
【0087】
本実施の形態によれば、取り付け部T、可動体100及び他端部連結部110の少なくとも1つに変位許容機構を設けることで、響板7が、可動体100の振動方向に垂直な方向(交わる方向)に寸法変化を生じても、響板7に対する加振器50の加振機能を適切に維持することができる。
【0088】
なお、変位許容機構の第1〜第5の例(
図5、
図6)のうち1つ、変位許容機構の第6の例(
図7)、変位許容機構の第10、第11の例(
図9)のうち1つ、変位許容機構の第12の例(
図10)については、これらのうち少なくとも1つを採用してもよいし、2以上を組み合わせて採用してもよい。
【0089】
本実施の形態では、被加振体として響板7を例示したが、これに限られず、屋根や側板等の、寸法変化を生じる部材を被加振体とする場合にも本発明を適用可能である。被加振体が寸法変化しない部材である場合であっても、加振器を支持する部材が加振方向とは異なる(交わる)方向に寸法変化や変形を生じる場合には本発明を適用可能である。
【0090】
また、変位許容機構は、被加振体のX方向及びY方向の変位を許容するためのものとして説明したが、加振を妨げない範囲で、被加振体が、X方向及び/又はY方向の変位と共にZ方向に変位することを許容してもよい。
【0091】
なお、本発明の適用対象としてピアノを示したが、グランドピアノでもアップライトピアノでもよい。また、ピアノに限られず、種々のアコースティック楽器で加振器を有するもの、あるいは電子楽器で加振器を有するもの、あるいはスピーカに適用してもよい。これらの場合、強制的に振動させることが可能な被加振体を有するものであればよい。被加振体における可動体との連結位置と加振器の支持位置が、寸法変化等によって加振方向とは異なる方向にずれを生じるものであれば、本発明の適用対象となる。