特許第5846170号(P5846170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

特許5846170蓄電システムおよびそれを用いた電動車両
<>
  • 特許5846170-蓄電システムおよびそれを用いた電動車両 図000006
  • 特許5846170-蓄電システムおよびそれを用いた電動車両 図000007
  • 特許5846170-蓄電システムおよびそれを用いた電動車両 図000008
  • 特許5846170-蓄電システムおよびそれを用いた電動車両 図000009
  • 特許5846170-蓄電システムおよびそれを用いた電動車両 図000010
  • 特許5846170-蓄電システムおよびそれを用いた電動車両 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5846170
(24)【登録日】2015年12月4日
(45)【発行日】2016年1月20日
(54)【発明の名称】蓄電システムおよびそれを用いた電動車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20151224BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20151224BHJP
   G01R 31/36 20060101ALI20151224BHJP
   B60L 3/00 20060101ALI20151224BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20151224BHJP
【FI】
   H01M10/48 P
   H02J7/00 X
   G01R31/36 A
   B60L3/00 S
   B60L11/18 A
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-164196(P2013-164196)
(22)【出願日】2013年8月7日
(65)【公開番号】特開2015-35839(P2015-35839A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2014年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】一 雅雄
【審査官】 石川 晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−242880(JP,A)
【文献】 特開2009−005458(JP,A)
【文献】 特開2011−015520(JP,A)
【文献】 特開2012−159414(JP,A)
【文献】 特開2010−200574(JP,A)
【文献】 特開平11−121048(JP,A)
【文献】 特開2012−189373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H02J 7/00
G01R 31/36
B60L 3/00
B60L 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池と、
検出演算装置と、
前記蓄電池に接続された双方向コンバータと、
前記双方向コンバータの動作を制御する制御装置と、を備える蓄電システムであって、
前記検出演算装置は、前記制御装置が前記蓄電池を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電するように前記双方向コンバータを動作させたときの前記蓄電池の正極と負極との間の電圧値または前記蓄電池と前記双方向コンバータとの間の電流値を検出し、検出した前記値に基づいて前記蓄電池の開放電圧および直流抵抗を算出し、
前記蓄電池の開放電圧の変化率が予め設定した基準変化率を上回るとき、予め記憶された前記蓄電池の残容量と開放電圧の関係から前記蓄電池の残容量を検出し、
前記蓄電池の直流抵抗の変化率が前記基準変化率を上回るとき、予め記憶された前記蓄電池の残容量と直流抵抗の関係から前記蓄電池の残容量を検出し、
前記蓄電池の開放電圧および直流抵抗の変化率がともに前記基準変化率を下回るとき、前記双方向コンバータにより前記蓄電池を充放電させたときの電流が流れた時間と検出した前記値を積算して前記蓄電池の残容量を検出することを特徴とする蓄電システム。
【請求項2】
請求項に記載の蓄電システムを搭載したことを特徴とする電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電システムおよびそれを用いた電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーを含む発電源から供給される電力を、電圧変換装置などを介して蓄電池に充電し、その蓄電池に蓄積された電力が負荷や発電源の電力が不足した場合に必要に応じて放電が行われる装置を搭載した蓄電システムの開発が活発化している。蓄電システムは、例えば需要地近傍に分散して配置される分散型電力供給システムへ搭載されている。
【0003】
一般に、蓄電システムには電力の充放電を行うことが可能なスイッチング電源装置であるコンバータやインバータが搭載されており、上述の分散型電力供給システムへの搭載以外にHybrid Vehicle(HV)、Plugin Hybrid Vehicle(PHV)、およびElectric Vehicle(EV)を含む省エネルギー・低環境負荷を目指した電動車両への搭載技術の発展が著しい。その中で蓄電システムは、電力貯蔵や電力需給バランスを調整する電源装置として大きな役割を持っている。
【0004】
このような蓄電システムの蓄電池は、単体の蓄電池セル(単セル)や、蓄電システムに必要な入出力電圧と入出力電流を満たすために複数個の単セルを電気的に接続した組電池から構成されている。
【0005】
しかしながら、蓄電池は、充電が過多の状態(過充電)や放電が過多の状態(過放電)になると、本来の良好な特性が劣化してしまう度合いが大きく、急峻に進行するため、蓄電池の特性上で定められた充電電圧と放電電圧の範囲内で使用する必要がある。また、蓄電システムの劣化の度合いや故障の発生は装置全体の効率低下を生む可能性があるため、蓄電池の残容量を把握することの要求が高まってきている。
【0006】
ところで、蓄電池は、電極(正極、負極)材料に含まれる複数の活物質材料の配合などによって蓄電池の正極と負極との間の電圧である端子間電圧と、充放電された残容量との間の関係を示す固有の充放電の特性曲線を有する。さらに、一定の時間、電極間に電流を流していない状態における安定した端子間電圧を示す開放電圧OCV(Open Circuit Voltage)と、電極間に電流を流した状態における端子間電圧を示す分極電圧PV(Polarization Voltage)との間では、蓄電池の端子間電圧と残容量との関係性が変化する。
【0007】
この関係性の変化を利用して充放電による端子間電圧の変化と残容量の関係性を示す特性曲線から残容量を正確に推定するために、特許文献1では、二次電池の端子電圧を検出する電圧検出手段と、上記二次電池を流れる放電電流または充電電流を検出する電流検出手段と、上記二次電池の温度を検出する温度検出手段と、上記各手段の検出結果に基づき、上記電圧と電流から二次電池の内部抵抗値を演算し、また、上記二次電池を任意の時間のあいだ放電または充電したときにおける放電または充電前の電池電圧Vと放電または充電後の電池電圧V、および上記放電または充電中の電流を積算して求めた積算容量Qにより、下記(数1)式を用いて求める電池の総容量と、下記(数2)式を用いて求める残存容量とのうちの少なくとも一方を演算し、かつ上記演算式における残存容量を0とみなす電池電圧Vを、上記二次電池の温度および上記内部抵抗値に応じて変化させる演算手段と、上記の演算した総容量と残存容量のうちの少なくとも一方を表示する表示手段と、を備えている二次電池の残存容量表示装置が提案されている。
総容量=Q×(V−V)/|V−V| (数1)
残存容量=Q×(V−V)/|V−V| (数2)
ただし、V:満充電状態における電池電圧、V:残存容量を0とみなす電池電圧。
【0008】
また、特許文献1においては、(数1)式、(数2)式における放電または充電後の電池電圧Vを、放電または充電後に電池電圧が安定したときにおける値としており、放電または充電後に電池電圧が安定するまでには時間がかかるため、放電または充電後に電池電圧が完全に安定するまで待つことは実用的でなく、放電または充電の停止時点から電池電圧が安定するまでの緩和時間の間に安定後の電池電圧を推定するために、緩和時間と放電後の電池電圧との関係を示す特性を示す曲線を、(数3)式で表わされるとしており、各パラメータを予め求めておくことにより、安定後の電池電圧を推定している。
電圧差η=iRe〔1−exp(−t/Re・CdL)〕 (数3)
ただし、Re:電荷移動抵抗、CdL:二重層容量、i:放電または充電時の電流、t:放電または充電停止後の経過時間。
なお、電荷移動抵抗Reと二重層容量CdLは、電池を抵抗と容量との直列回路モデルとして表現した場合における抵抗と容量に相当するとしている。また、電位差ηは放電または充電停止後の経過時間tにおける電圧と安定後の電圧との差としている。したがって、(数3)式の特性を記憶させておき、放電または充電停止後の経過時間tからそのときの電位差ηを求め、そのときの電池電圧に加算することによって安定後の電池電圧を推定し、その値をVとして用いることにより、(数1)式、(数2)式から容量を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−179018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、二次電池の容量と電池電圧とに直線的な比例関係があるものとして、任意の時間のあいだ放電または充電したときの電流を積算して求めた積算容量Qと放電または充電前の電池電圧V、放電または充電後の電池電圧Vより、近似して容量を求めており、蓄電池の容量と電池電圧とに直線的な比例関係にない蓄電池においては正確に容量を検出することができないという課題があった。
【0011】
また、特許文献1に開示される技術では、任意の時間のあいだ放電または充電したときにおける放電または充電前の電池電圧Vと、放電または充電停止後の経過時間tを元に、任意の時間のあいだ放電または充電したときにおける放電または充電後の電池電圧Vを推定する複雑な演算により容量を求めており、放電または充電前の電池電圧Vとなる状態と放電または充電停止後の経過時間tとなる状態の2つの状態を待つ必要があるため、容量の検出に非常に長い時間を要するという課題があった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、蓄電池の残容量を正確、且つ、短時間で検出することが可能な蓄電システムおよびそれを用いた電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る蓄電システムは、蓄電池と、検出演算装置と、蓄電池に接続された双方向コンバータと、双方向コンバータの動作を制御する制御装置と、を備える蓄電システムであって、検出演算装置は、制御装置が蓄電池を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電するように双方向コンバータを動作させたときの蓄電池の正極と負極との間の電圧値または蓄電池と双方向コンバータとの間の電流値を検出し、検出した値に基づいて蓄電池の残容量を検出することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、検出演算装置は、制御装置が蓄電池を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電するように双方向コンバータを動作させたときの蓄電池の正極と負極との間の電圧値または蓄電池と双方向コンバータとの間の電流値を検出し、検出した値に基づいて蓄電池の残容量を検出している。そのため、蓄電池を略同一の時間、且つ、略同一の電流値でシームレスな充放電することにより、充電動作での分極電圧による電圧上昇値と放電動作での分極電圧による電圧下降値が分極緩和する時間を待つことなく、分極電圧の電圧値を直接利用できることから、蓄電池の残容量を正確、且つ、短時間で検出できる。
【0015】
好ましくは、検出演算装置は、検出した値に基づいて蓄電池の開放電圧および直流抵抗を算出し、蓄電池の開放電圧の変化率が予め設定した基準変化率を上回るとき、予め記憶された蓄電池の残容量と開放電圧の関係から蓄電池の残容量を検出し、蓄電池の直流抵抗の変化率が基準変化率を上回るとき、予め記憶された蓄電池の残容量と直流抵抗の関係から蓄電池の残容量を検出し、蓄電池の開放電圧および直流抵抗の変化率がともに基準変化率を下回るとき、双方向コンバータにより蓄電池を充放電させたときの電流が流れた時間と検出した値を積算して蓄電池の残容量を検出する。この場合、開放電圧OCVによる残容量の検出と、直流抵抗DCR(Direct Current Resistance)による残容量の検出と、電流容量の積算値による残容量の検出のうち、蓄電池への充放電による充放電状態の変化に適した検出方法に切り替えており、蓄電池の残容量の検出精度を一層向上させることができる。
【0016】
本発明に係る電動車両は、上記記載の蓄電システムを搭載したことを特徴とする。本発明によれば、蓄電池の残容量を正確、且つ、短時間で検出することができる蓄電システムを搭載した電動車両を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、蓄電池の残容量を正確、且つ、短時間で検出することが可能な蓄電システムおよびそれを用いた電動車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る電動車両の構成を示す模式図である。
図2】本発明に係る蓄電システムの全体構成図である。
図3】残容量検出モードにおける端子電圧と蓄電池の残容量の関係を示すグラフである。
図4a】従来の蓄電システムの充電動作における端子電圧の時間変化を示すグラフである。
図4b】従来の蓄電システムの放電動作における端子電圧の時間変化を示すグラフである。
図5】蓄電池の残容量に対する端子電圧と直流抵抗の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施する形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下の実施する形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。更に、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。加えて、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
まず、図1を参照して、本発明に係る電動車両20の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る電動車両の構成を示す模式図である。
【0021】
電動車両20は、図1に示されるように、車体30と、コントロールユニット21と、モーター22と、ブレーキ23と、充電器24と、タイヤ25、駆動用電力線26、モーター信号線27、蓄電システム信号線28、充電用電力線29と、蓄電システム10を有する。ここで、電動車両20としては、蓄電システム10の電力を利用するEV(電気自動車)やHV(ハイブリッド自動車)やPHV(プラグインハイブリッド自動車)などが挙げられる。
【0022】
車体30は、乗客が座る座席空間(図示しない)と、コントロールユニット21、モーター22、充電器24、駆動用電力線26、モーター信号線27、蓄電システム信号線28、充電用電力線29、蓄電システム10が配置される空間を有する。
【0023】
タイヤ25は、車体30の前方下部(図示左方)に懸架されている左右の前輪と、車体30の後方下部(図示右方)に懸架されている左右の後輪を有し、前輪および後輪は車輪の略中心を貫通する車軸により回転可能に支持されている。
【0024】
ブレーキ23は、タイヤ25の駆動力を制動する機能を有している。本実施形態では、車体30の前方下部に懸架されている左右の前輪を支持する車軸に取り付けられている。
【0025】
モーター22は、駆動用電力線26を介して蓄電システム10に接続されており、蓄電システム10から電動車両20を駆動する電力を受けてタイヤ25に駆動力を出力する。つまり、電動車両20は、モーター22から供給された駆動力によりタイヤ25が回転し、走行可能となる。また、ブレーキ23の制動動作により生じた回生電力はモーター22に出力され、駆動用電力線26を介して蓄電システム10に供給される。
【0026】
充電器24は、充電用電力線29を介して蓄電システム10に接続されており、蓄電システム10から電動車両20を充電する電力が供給される。
【0027】
コントロールユニット21は、マイクロコンピュータ、DSP(Digital Signal Processor)、またはマイクロコンピュータとDSPが統合されたICなどから構成され、電動車両20を運転する運転者の操作に基づいて、電動車両20の運転に必要な制御を行う。つまり、コントロールユニット21は、電動車両20の電子制御ユニットであるECU(Electronic Control Unit)の役割を果たすこととなる。コントロールユニット21は、蓄電システム信号線28を介して蓄電システム10に接続されるとともに、モーター信号線27を介してモーター22、ブレーキ23、タイヤ25に接続されている。このコントロールユニット21は、蓄電システム10からの信号や図示しないセンサやスイッチ等から送信された信号を受信することにより電動車両20の状態を検知し、蓄電システム10から供給される電力または蓄電システム10に回生する電力を、モーター22、ブレーキ23、および充電器24などの負荷や電源により、専用の制御ユニットを介して、または、直接制御する。
【0028】
本実施形態では、後述する蓄電システム10で検出した蓄電池1の残容量が、例えばCAN(Controller Area Network)通信等を介して、コントロールユニット21に出力され、蓄電池1の残容量の管理や表示用データとして使用される。
【0029】
続いて、図2を参照して、本発明に係る蓄電システム10の構成について詳細に説明する。図2は、本発明に係る蓄電システムの全体構成図である。
【0030】
蓄電池システム10は、図2に示されるように、蓄電池1と、検出演算装置7と、双方向コンバータ4と、制御装置8とを有する。
【0031】
蓄電池1は、電力を蓄える機能を有していれば特に限定されず、例えば二次電池(リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、ニッケル水素電池等)や容量素子(電気二重層キャパシタ等)が挙げられる。これらの中では、エネルギー密度が高いという観点から、リチウムイオン電池が特に好ましい。本実施形態においては、複数のリチウムイオン電池が複数直列に接続されているが、リチウムイオン電池が単一であってもよく、複数のリチウムイオン電池が直列および並列に組み合わされていてもよい。
【0032】
検出演算装置7は、電圧検出手段2と、電流検出手段3と、記憶手段6と、演算手段5とを有する。
【0033】
電圧検出手段2は、蓄電池1の正極と負極との間の電圧値を検出する。具体的には、蓄電池1が充放電するように後述する双方向コンバータ4を動作させたときの蓄電池1の正極と負極との間の電圧値を検出する。電圧検出手段2としては、電圧計、電圧センサ、分圧回路、電圧検出トランスなどが挙げられる。電圧検出手段2は、検出した電圧値を電圧検出信号2aに変換して、後述する演算手段5に発信する。
【0034】
電流検出手段3は、蓄電池1の正極または負極と双方向コンバータ4との間の電流値を検出する。具体的には、蓄電池1が充放電するように後述する双方向コンバータ4を動作させたときの蓄電池1の正極と負極との間の電流値を検出する。電流検出手段3としては、電流計、電流センサ、電流検出抵抗回路、電流検出トランスなどが挙げられる。電流検出手段3は、検出した電流値を充電方向の電流であれば正の符号を有し、放電方向の電流であれば負の符号を有した電流検出信号3aに変換して、後述する演算手段5に発信する。但し、上記した正と負の符号は、蓄電池1の残容量の検出時に正と負の整合性を備えていれば、充電方向の電流を負の符号とし、放電方向の電流を正の符号としてもよい。
【0035】
記憶手段6は、蓄電池1の残容量と開放電圧OCVの関係、蓄電池1の残容量と直流抵抗DCRの関係、後述する演算手段5によって算出された過去の蓄電池1の残容量を記憶している。なお、過去の蓄電池1の残容量は、初期値として蓄電システム10の組立て時に取得した蓄電池1の残容量を記憶している。記憶手段6としては、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read−Only Memory)やフラッシュメモリや後述する演算手段5がマイクロコンピュータまたはDSP(Digital Signal Processor)で構成される場合は、それらに内蔵されるROM(Read Only Memory)領域などが挙げられる。
【0036】
演算手段5は、電圧検出手段2や電流検出手段3から発信された電圧検出信号2aや電流検出信号3aを受信し、記憶手段6に予め記憶された情報を参照し、検出した電圧値や電流値に基づいて演算処理を行って蓄電池1の残容量を検出する。具体的には、演算手段5は、電圧検出信号2aに基づいて開放電圧OCVを算出して蓄電池1の残容量を検出する方法と、電圧検出信号2aに基づいて直流抵抗DCRを算出して蓄電池1の残容量を検出する方法と、電流検出信号3aに基づいて、電流を流した時間と電流値を積算することにより蓄電池1の残容量を検出する方法を備えている。
【0037】
電圧検出信号2aに基づいて開放電圧OCVを算出して蓄電池1の残容量を検出する方法は、演算手段5が電圧検出信号2aに基づいて開放電圧OCVを算出し、記憶手段6に予め記憶された蓄電池1の残容量と開放電圧OCVの関係から蓄電池1の残容量を検出する。電圧検出信号2aに基づいて直流抵抗DCRを算出して蓄電池1の残容量を検出する方法は、演算手段5が電圧検出信号2aに基づいて直流抵抗DCRを算出し、記憶手段6に予め記憶された蓄電池1の残容量と直流抵抗DCRの関係から蓄電池1の残容量を検出する。電流検出信号3aに基づいて、電流を流した時間と電流を積算することにより蓄電池1の残容量を検出する方法は、後述する双方向コンバータ4により蓄電池1を充放電させたときの電流が流れた時間と電流検出信号3aに基づく電流値を積算して蓄電池1の残容量を検出する。
【0038】
これらの検出方法は、蓄電池1の開放電圧OCVと直流抵抗DCRの変化率によって選択される。つまり、演算手段5が電圧検出信号2aに基づいて開放電圧OCVと直流抵抗DCRを算出し、蓄電池1の開放電圧OCVの変化率が予め設定した基準変化率を上回るときは、電圧検出信号2aに基づいて開放電圧OCVを算出して蓄電池1の残容量を検出する方法が選択され、蓄電池1の直流抵抗DCRの変化率が基準変化率を上回るときは、電圧検出信号2aに基づいて直流抵抗DCRを算出して蓄電池1の残容量を検出する方法が選択され、蓄電池1の開放電圧OCVと直流抵抗DCRの変化率がともに基準変化率を下回るときは、電流検出信号3aに基づいて、電流を流した時間と電流を積算することにより蓄電池1の残容量を検出する方法が選択される。ここで、基準変化率は、蓄電池1の種類や蓄電池1を充放電させるときの電流値に応じて任意に設定される。なお、本実施形態では、基準変化率は0.5[%]に設定されている。
【0039】
演算手段5としては、マイクロコンピュータ、DSP、またはマイクロコンピュータとDSPが統合されたIC(Integrated Circuit)などから構成される装置が挙げられる。演算手段5は、演算処理により検出した蓄電池1の残容量を制御装置8の要求に従って状態信号5aに変換して後述する制御装置8に発信する。また、演算手段5は、演算処理により検出した蓄電池1の残容量を記憶手段6に発信し記憶させる。すなわち、記憶手段6に発信された蓄電池1の残容量が上述した過去の蓄電池1の残容量として記憶され、その後の蓄電池1の残容量の検出の際に用いられることとなる。なお、記憶手段6には既に過去の蓄電池1の残容量(例えば初期値)が記憶されているが演算手段5の演算処理によって検出された蓄電池1の残容量に順次更新されていく。
【0040】
双方向コンバータ4は、1次側から入力された電圧を変圧して2次側に伝送し出力する第1の動作と、2次側に入力された電圧を変圧して1次側に伝送し出力する第2の動作を有する。ここで、本実施形態では、双方向コンバータ4の1次側の電力線対は、図示しない交流電源や直流電源やインバータなどを介してモーター22に接続されており、双方向コンバータ4の2次側の電力線対は、検出演算装置7を介して蓄電池1に接続されている。すなわち、双方向コンバータ4の第1の動作は蓄電池1に電力を充電する充電動作(以下、第1の動作は「充電動作」と記す。)であり、双方向コンバータ4の第2の動作は蓄電池1から電力を放電する放電動作(以下、第2の動作は「放電動作」と記す。)である。また、双方向コンバータ4は、充電動作から放電動作あるいは放電動作から充電動作へと各々の動作を一定期間停止させることなく、連続的に切り替える(シームレスに切り替える)機能を有している。双方向コンバータ4としては、直流から直流への変換が可能な双方向DCDCコンバータや交流から直流へ変換が可能なACDCコンバータなどが挙げられる。
【0041】
制御装置8は、双方向コンバータ4と演算手段5に接続され、双方向コンバータ4の動作(充放電動作)を制御している。この制御装置8は、演算手段5からの状態信号5aを受信し、蓄電池1の残容量が使用可能な範囲であれば、双方向コンバータ4の充電動作や放電動作などの制御動作を行う。本実施形態では、制御装置8は、双方向コンバータ4に制御信号8aを発信し、双方向コンバータ4を充電動作、放電動作、あるいは蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電する充放電動作をさせている。制御装置8としては、マイクロコンピュータ、DSP、またはマイクロコンピュータとDSPが統合されたICなどから構成される装置が挙げられる。なお、本実施形態に係る蓄電システム10を電動車両20に搭載する場合、電動車両20に搭載された電子制御ユニットであるコントロールユニット21に含まれる装置の機能の一部から構成されていてもよい。
【0042】
次に、本実施形態に係る蓄電システム10の動作について詳細に説明する。本実施形態に係る蓄電システム10は、開放動作モードと、充電動作モードと、放電動作モードと、残容量検出モードを備えており、各動作モードについて詳細に説明する。
【0043】
開放動作モードは、蓄電池1が充電も放電も行っていない状態のことである。すなわち、双方向コンバータ4が充電動作や放電動作を行っていない状態のことである。
【0044】
充電動作モードは、制御装置8が蓄電池1の残容量を示す状態信号5aを受信し、蓄電池1の状態を判定した結果、蓄電池1が充電可能な範囲と判断すると、制御装置8から双方向コンバータ4に充電動作の制御信号8aが送信される。充電動作の制御信号8aを受信した双方向コンバータ4は、1次側から入力された電圧を変圧して2次側に伝送し出力する充電動作が行われ、蓄電池1に電力が充電される。
【0045】
放電動作モードは、制御装置8が蓄電池1の残容量を示す状態信号5aを受信し、蓄電池1の状態を判定した結果、蓄電池1が放電可能な範囲と判断すると、制御装置8から双方向コンバータ4に放電動作の制御信号8aが送信される。放電動作の制御信号8aを受信した双方向コンバータ4は、2次側から入力された電圧を変圧して1次側に伝送し出力する放電動作が行われ、蓄電池1から電力が放電される。
【0046】
残容量検出モードは、制御装置8が蓄電池1の残容量を示す状態信号5aを受信し、蓄電池1の状態を判定した結果、蓄電池1が充電および放電可能な範囲と判断すると、制御装置8から双方向コンバータ4に充放電動作の制御信号8aが送信される。充放電動作の制御信号8aを受信した双方向コンバータ4は、蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電する充放電動作が行われる。このとき、双方向コンバータ4は、シームレスに充電動作から放電動作または放電動作から充電動作に切り替えて、蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充電するとともに放電する。
【0047】
次に、図3を参照して、残容量検出モードにおける蓄電池1の残容量の検出方法について詳細に説明する。図3は、残容量検出モードにおける端子電圧と蓄電池の残容量の関係を示すグラフである。
【0048】
まず、電圧検出手段2によって検出した電圧値に基づいて蓄電池1の残容量を検出する方法について説明する。図3に示されるように、蓄電池1が充電も放電行われておらず、蓄電池1の正極と負極との間の端子電圧V(以下、単に「端子電圧V」と記す。)の電圧値が安定した状態を示す開放電圧OCVから蓄電池1を充電すると、端子電圧Vは上昇し、分極電圧PVchargeの状態となる。同様に、端子電圧Vの電圧値が安定した状態を示す開放電圧OCVから蓄電池1を放電すると、端子電圧Vは下降し、分極電圧PVdischargeの状態となる。
【0049】
上述したように、残容量検出モードでは、開放動作モード、充電動作モード、放電動作モードのうち任意の動作モードから、蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電するように、双方向コンバータ4をシームレスに充電動作から放電動作または放電動作から充電動作に切り替えて、充放電動作が実施される。このとき、端子電圧Vは、分極電圧PVchargeから分極電圧PVdischargeまたは分極電圧PVdischargeから分極電圧PVchargeに変化し、電圧検出手段2によって分極電圧PVchargeの電圧値および分極電圧PVdischargeの電圧値が検出される。
【0050】
ここでは、蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電するように、双方向コンバータ4をシームレスに充電動作から放電動作に切り替えて充放電動作を行った場合の電圧検出手段2によって検出した電圧値に基づいて蓄電池1の残容量を検出する方法について具体的に説明する。
【0051】
制御装置8が蓄電池1の残容量を示す状態信号5aを受信し、蓄電池1が充電および放電可能な範囲と判断すると、制御装置8から双方向コンバータ4に充放電動作の制御信号8aが送信され、双方向コンバータ4を所定の電流値で充電動作させ、蓄電池1に充電を開始する。そして、充電を微小時間継続すると、端子電圧Vは開放電圧OCVから上昇した充電時の分極電圧PVchargeの状態となり、電圧検出手段2によって分極電圧PVchargeの電圧値が検出される。このとき、電流検出手段3によって充電動作により流れた電流値が検出される。続いて、制御装置8aは双方向コンバータ4を充電動作時と略同一の電流値で蓄電池1を放電するように放電動作にシームレスに切り替えて、蓄電池1の放電を開始する。そして、放電を充電時間と略同一の微小時間継続すると、端子電圧Vは開放電圧OCVから下降した放電時の分極電圧PVdischargeの状態となり、電圧検出手段2によって分極電圧PVdischargeの電圧値が検出されるとともに、電流検出手段3によって放電動作により流れた電流値が検出され、双方向コンバータ4の放電動作が終了する。このように、蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電するように双方向コンバータ4を動作(充放電動作)させると、蓄電池1の残容量は充放電動作を開始した時点の状態に戻り、この時点の蓄電池1の残容量が求める残容量となる。
【0052】
電圧検出手段2によって検出された電圧値は、電圧検出信号2aに変換され演算手段5に発信される。また、電流検出手段3によって検出された電流値は、電流検出信号3aに変換され演算手段5に発信される。演算手段5は、受信した電圧検出信号2aに基づいて、開放電圧OCVと直流抵抗DCRを算出する。まず、開放電圧OCVの算出方法について説明する。蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電するように双方向コンバータ4を動作(充放電動作)させると、開放電圧OCVは、分極電圧PVchargeと分極電圧PVdischargeの和の半分の値となる。つまり、開放電圧OCVは、電圧検出手段2によって検出した分極電圧PVchargeの電圧値をVp1、分極電圧PVdischargeの電圧値をVp2とすると、以下の(数4)式の関係を満たすこととなる。
OCV=(Vp1+Vp2)/2 (数4)
この(数4)式を用いて、演算手段5は開放電圧OCVを算出する。
【0053】
続いて、直流抵抗DCRの算出方法について説明する。蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電するように双方向コンバータ4を動作(充放電動作)させると、直流抵抗DCRは、分極電圧PVchargeと分極電圧PVdischargeの差の半分の値を充放電動作させたときの電流値で除算した値となる。つまり、直流抵抗DCRは、電圧検出手段2によって検出した分極電圧PVchargeの電圧値をVp1、分極電圧PVdischargeの電圧値をVp2、双方向コンバータ4の充放電動作時の電流検出手段3によって検出した略同一の電流値をIとすると、以下の(数5)式の関係を満たすこととなる。
DCR=(Vp1−Vp2)/(2×I) (数5)
この(数5)式を用いて、演算手段5は直流抵抗DCRを算出する。
【0054】
そして、演算手段5によって算出された開放電圧OCVおよび直流抵抗DCRと、記憶手段6に予め記憶された蓄電池1の残容量と開放電圧OCVの関係、記憶手段6に予め記憶された蓄電池1の残容量と直流抵抗DCRの関係、および記憶手段6に予め記憶された過去の蓄電池1の残容量を参照し、蓄電池1の残容量が検出される。
【0055】
このように、蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電するように双方向コンバータ4を動作(充放電動作)させることにより、分極電圧PVchargeの電圧値と分極電圧PVdischargeの電圧値から開放電圧OCVと直流抵抗DCRを算出することができる。この方法では、分極電圧が分極緩和する時間を待つことなく、且つ、簡易な演算により正確な開放電圧OCVと直流抵抗DCRを算出することができる。したがって、本実施形態に係る蓄電システム10では、蓄電池1の残容量を正確、且つ、短時間で検出することができる。
【0056】
次に、電流検出手段3によって検出した電流値に基づいて蓄電池1の残容量を検出する方法について説明する。上述したように、蓄電池1の開放電圧OCVと直流抵抗DCRの変化率がともに基準変化率を下回るときは、電流検出信号3aに基づいて、双方向コンバータ4により蓄電池1を充放電させたときの電流が流れた時間と電流値を積算することにより蓄電池1の残容量を検出する方法が選択される。
【0057】
図3に示されるように、蓄電池1が充電も放電行われておらず、蓄電池1の残容量が安定している開放の状態から、充電することにより蓄電池1の残容量が正方向に変化し、蓄電池1の残容量が増加する。同様に、放電することにより蓄電池1の残容量が負方向に変化し、蓄電池1の残容量が減少する。したがって、残容量検出モードでは、双方向コンバータ4をシームレスに充電動作から放電動作に切り替えることで、蓄電池1の残容量が正方向の変化から負方向の変化へと転じる、あるいは、双方向コンバータ4をシームレスに放電動作から充電動作に切り替えることで、蓄電池1の残容量が負方向の変化から正方向の変化へと転じることとなる。電流検出手段3によって検出した電流値に基づいて任意の時点の蓄電池1の残容量を検出する場合は、双方向コンバータ4により蓄電池1を充放電させたときに流れた電流値と電流を流した時間を積算した値を、予め記憶手段6に記憶された蓄電池1の残容量に加算したうえで、記憶手段6に記憶された過去の蓄電池1の残容量を更新することで、蓄電池1の残容量を検出することができる。
【0058】
上述の電圧検出手段2によって検出した電圧値に基づいて算出した蓄電池1の開放電圧OCVと直流抵抗DCRの変化率がともに基準変化率を下回るときは、演算手段5は、受信した電流検出信号3aに基づいて蓄電池1の残容量を検出する。具体的には、残容量検出モードにおいて、双方向コンバータ4を充電動作させたときに検出した電流値と双方向コンバータ4を放電動作させたときに検出した電流値を、蓄電池1を充放電させるように双方向コンバータ4を動作(充放電動作)させたときの電流が流れた時間に積算することで、蓄電池1の残容量が検出される。
【0059】
なお、充電動作モード、放電動作モードの動作中においても、所定の時間(例えば1秒)ごとに電流検出手段3によって検出した電流値に基づいて蓄電池1の残容量を検出し、記憶手段6に記憶されている蓄電池1の残容量を順次更新するようにしてもよい。充電動作モードでは、充電動作により蓄電池1の残容量は増加する。同様に、放電動作モードでは、放電動作により蓄電池1の残容量は減少する。このとき、充電または放電している間の所定の時間ごとに蓄電池1の残容量が検出され、記憶手段6に記憶されている蓄電池1の残容量の値が更新される。一方、充放電がなされない開放動作モードでは、電流検出手段3によって検出した電流値に変化がないため、記憶手段6に記憶されている蓄電池1の残容量を更新しなくともよい。しかしながら、電流検出手段3によって検出した電流値に基づいて蓄電池1の残容量を検出するアルゴリズムの簡素化を図るのであれば、開放動作モードにおいても、所定の時間ごとに電流検出手段3によって検出した電流値に基づいて蓄電池1の残容量を検出し、記憶手段6に記憶されている蓄電池1の残容量を順次更新するようにしてもよい。
【0060】
このように、各動作モードにおいて、所定の時間ごとに電流検出手段3によって検出した電流値に基づいて蓄電池1の残容量を検出する場合、求めようとする任意の時点の蓄電池1の残容量は、充電または放電による変化の量の加算によって求められる。つまり、任意の時点の蓄電池1の残容量をQt[Ah]は、蓄電池1の残容量の初期値をQ[Ah]、充電または放電により電流を流した時間をt[s]、電流検出手段3によって検出した電流値をI[A]とすると、以下の(数6)式により算出される。
Qt=Q+ΣIx×tx (数6)
(但し、式中xは1〜nの整数を表し、nは任意の時点までの電流積算回数を表す。)
【0061】
ここで、図4を参照して、従来の蓄電池の残容量の検出方法に比べ、本実施形態による蓄電池1の残容量の検出方法が蓄電池1の残容量を正確、且つ、短時間で検出することができることを具体的に示す。図4aは、従来の蓄電システムの充電動作における端子電圧の時間変化を示すグラフである。図4bは、従来の蓄電システムの放電動作における端子電圧の時間変化を示すグラフである。
【0062】
従来の蓄電システムにおける充電動作による蓄電池の残容量の検出方法では、図4aに示されるように、まず充電前の端子電圧の電圧値が安定した状態を示す充電前開放電圧を取得する。次に、蓄電池に充電を開始する。このとき、端子電圧は充電時の分極電圧の状態にまで上昇する。その後、充電動作を停止させ、分極電圧が安定した状態に分極が緩和するまで待ち、充電後の端子電圧の電圧値が安定した状態を示す充電後開放電圧を取得する。そして、充電前開放電圧と充電後開放電圧を直線近似して蓄電池の残容量を検出する。同様に、従来の蓄電システムにおける放電動作による蓄電池の残容量の検出方法では、図4bに示されるように、まず放電前の端子電圧の電圧値が安定した状態を示す放電前開放電圧を取得する。次に、蓄電池の放電を開始する。このとき、端子電圧は放電時の分極電圧の状態にまで下降する。その後、放電動作を停止させ、分極電圧が安定した状態に分極緩和するまで待ち、放電後の端子電圧の電圧値が安定した状態を示す放電後開放電圧を取得する。そして、放電前開放電圧と放電後開放電圧を上述の(数3)式を用いて曲線近似して蓄電池の残容量を検出している。
【0063】
このように、従来の蓄電池の残容量の検出方法では、充電動作または放電動作のいずれの動作による蓄電池の残容量の検出方法においても、充電あるいは放電により生じた分極電圧により、分極電圧の分極が緩和し本来の開放電圧の状態に戻り安定するまで待つ必要があった。一方、本実施形態による蓄電池1の残容量の検出方法では、上述したように、蓄電池1を略同一時間、且つ、略同一電流値で充放電するように双方向コンバータ4を動作(充放電動作)させたときの分極電圧PVcharge,PVdischargeを検出し、この分極電圧PVcharge,PVdischargeから直接開放電圧OCVを算出し、蓄電池1の残容量を検出しているため、蓄電池1の残容量を短時間で検出することができる。また、従来の蓄電池の残容量の検出方法では、放電前開放電圧と放電後開放電圧を上述の(数3)式を用い、曲線近似して蓄電池の残容量を検出しており、複雑な演算が必要となり、正確に蓄電池の残容量を検出することが難しい。これに対して、本実施形態による蓄電池1の残容量の検出方法では、上述したように、(数4)式による簡易な演算で開放電圧OCVが求まることから、蓄電池1の残容量を正確に検出することができる。
【0064】
次に、図5を参照して、蓄電池1の残容量の検出方法の切り替えについて具体的な例を用いて示す。図5は、蓄電池の残容量に対する端子電圧と直流抵抗の関係を示すグラフである。
【0065】
図5に示すグラフは、横軸に蓄電池1の残容量[Ah]を表示し、左側縦軸に蓄電池1の端子電圧[V]を表示し、右側縦軸に蓄電池1の直流抵抗DCR[mΩ]を表示している。図5に示す例においては、60Ahの容量のセルにおいて、蓄電池1の残容量を0[Ah]〜60[Ah]に変化させた場合の蓄電池1の直流抵抗DCR[mΩ]と充電時の端子電圧[V]と放電時の端子電圧[V]と開放電圧OCV[V]を示している。ここで、蓄電池1の残容量を4つの領域に分けて検討する。領域1は、蓄電池1の残容量が0[Ah]以上であって12.5[Ah]未満の容量範囲であり、領域2は、蓄電池1の残容量が12.5[Ah]以上であって25[Ah]未満の容量範囲であり、領域3は、蓄電池1の残容量が25[Ah]以上であって45[Ah]未満の容量範囲であり、領域4は、蓄電池1の残容量が45[Ah]以上であって60[Ah]未満の容量範囲である。
【0066】
まず領域1について説明する。領域1は、図5に示されるように、開放電圧OCVの変化率が基準変化率を上回る領域である。ここで、蓄電池1の残容量が領域1の容量範囲内であるNo1〜No3の容量値のときの開放電圧OCVの変化率と直流抵抗DCRの変化率を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示されるように、領域1では、開放電圧OCVの変化率が2.56[%]以上であり、直流抵抗DCRの変化率が0.42[%]以下となっており、開放電圧OCVの変化率が基準変化率である0.5[%]を上回っていることから、直流抵抗DCRによる蓄電池1の残容量の検出方法に比べ、開放電圧OCVによる蓄電池1の残容量の検出方法が精度良く蓄電池1の残容量を検出することができる。すなわち、演算手段5は、開放電圧OCVによる蓄電池1の残容量の検出方法を選択し、電圧検出信号2aに基づいて開放電圧OCVを算出し、記憶手段6に予め記憶された蓄電池1の残容量と開放電圧OCVの関係から蓄電池1の残容量を検出する。
【0069】
次に、領域2について説明する。領域2は、図5に示されるように、直流抵抗DCRの変化率が基準変化率を上回る領域である。ここで、蓄電池1の残容量が領域2の容量範囲内であるNo4〜No8の容量値のときの開放電圧OCVの変化率と直流抵抗DCRの変化率を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示されるように、領域2では、開放電圧OCVの変化率が0.01[%]以下であり、直流抵抗DCRの変化率が1.82[%]以上となっており、直流抵抗DCRの変化率が基準変化率である0.5[%]を上回っていることから、開放電圧OCVによる蓄電池1の残容量の検出方法に比べ、直流抵抗DCRによる蓄電池1の残容量の検出方法が精度良く蓄電池1の残容量を検出することができる。すなわち、演算手段5は、直流抵抗DCRによる蓄電池1の残容量の検出方法を選択し、電圧検出信号2aに基づいて直流抵抗DCRを算出し、記憶手段6に予め記憶された蓄電池1の残容量と直流抵抗DCRの関係から蓄電池1の残容量を検出する。
【0072】
次に、領域3について説明する。領域3では、図5に示されるように、開放電圧OCVの変化率と直流抵抗DCRの変化率がともに基準変化率を下回る領域である。ここで、蓄電池1の残容量が領域3の容量値範囲内であるNo9〜No11の容量値のときの開放電圧OCVの変化率と直流抵抗DCRの変化率を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3に示されるように、領域3では、開放電圧OCVの変化率が0.13[%]以下であり、直流抵抗DCRの変化率が0.05[%]以下となっており、開放電圧OCVの変化率と直流抵抗DCRの変化率がともに基準変化率である0.5[%]を下回っていることから、電流容量の積算値による蓄電池1の残容量の検出方法を用いると精度良く蓄電池1の残容量を検出することができる。すなわち、演算手段5は、電流容量の積算値による蓄電池1の残容量の検出方法を選択し、双方向コンバータ4により蓄電池1を充放電させたときの電流が流れた時間と電流検出信号3aに基づく電流値を積算して蓄電池1の残容量を検出する。
【0075】
次に、領域4について説明する。領域4では、図5に示されるように、開放電圧OCVの変化率が基準変化率を上回る領域である。ここで、蓄電池1の残容量が領域4の容量値範囲内であるNo12〜No14の容量値のときの開放電圧OCVの変化率と直流抵抗DCRの変化率を表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
表4に示されるように、領域4では、開放電圧OCVの変化率が1.24[%]以上であり、直流抵抗DCRの変化率が0.02[%]以下となっており、開放電圧OCVの変化率が基準変化率である0.5[%]を上回っていることから、直流抵抗DCRによる蓄電池1の残容量の検出方法に比べ、開放電圧OCVによる蓄電池1の残容量の検出方法が精度良く蓄電池1の残容量を検出することができる。すなわち、演算手段5は、開放電圧OCVによる蓄電池1の残容量の検出方法を選択し、電圧検出信号2aに基づいて開放電圧OCVを算出し、記憶手段6に予め記憶された蓄電池1の残容量と開放電圧OCVの関係から蓄電池1の残容量を検出する。
【0078】
このように、蓄電池1の開放電圧OCVの変化率と直流抵抗DCRの変化率に基づいて、最も適した蓄電池1の残容量の検出方法を選択し、蓄電池1の残容量を検出することで、蓄電池1の残容量の検出精度を一層向上させることができる。
【0079】
以上のように、本実施形態に係る蓄電システム10およびそれを用いた電動車両20では、検出演算装置7は、制御装置8が蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値で充放電するように双方向コンバータ4を動作させたときの蓄電池1の正極と負極との間の電圧値または蓄電池1と双方向コンバータ4との間の電流値を検出し、検出した値に基づいて蓄電池1の残容量を検出している。そのため、蓄電池1を略同一の時間、且つ、略同一の電流値でシームレスな充放電することにより、充電動作での分極電圧PVchargeによる電圧上昇値と放電動作での分極電圧PVdischargeによる電圧下降値が分極緩和する時間を待つことなく、分極電圧PVの電圧値を直接利用できることから、蓄電池1の残容量を正確、且つ、短時間で検出できる。
【0080】
また、本実施形態に係る蓄電システム10およびそれを用いた電動車両20では、検出演算装置7が、検出した値に基づいて蓄電池1の開放電圧OCVおよび直流抵抗DCRを算出し、蓄電池1の開放電圧OCVの変化率が予め設定した基準変化率を上回るとき、予め記憶された蓄電池1の残容量と開放電圧OCVの関係から蓄電池1の残容量を検出し、蓄電池1の直流抵抗DCRの変化率が基準変化率を上回るとき、予め記憶された蓄電池1の残容量と直流抵抗DCRの関係から蓄電池1の残容量を検出し、蓄電池1の開放電圧OCVおよび直流抵抗DCRの変化率がともに基準変化率を下回るとき、双方向コンバータ4により蓄電池1を充放電させたときの電流が流れた時間と検出した値を積算して蓄電池1の残容量を検出する。この場合、開放電圧OCVによる蓄電池1の残容量の検出と、直流抵抗DCRによる蓄電池1の残容量の検出と、電流容量の積算値による蓄電池1の残容量の検出のうち、蓄電池1への充放電による充放電状態の変化に適した検出方法に切り替えており、蓄電池1の残容量の検出精度を一層向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る蓄電システムおよびそれを用いた電動車両は、充放電後の蓄電池の残容量の検出を行う際において、検出する誤差の影響を低減できるとともに短時間で検出できることから、蓄電された電力の有効利用に有用である。
【符号の説明】
【0082】
1…蓄電池、2…電圧検出手段、2a…電圧検出信号、3…電流検出手段、3a…電流検出信号、4…双方向コンバータ、5…演算手段、5a…状態信号、6…記憶手段、7…検出演算装置、8…制御装置、8a…制御信号、10…蓄電システム、20…電動車両、21…コントロールユニット、22…モーター、23…ブレーキ、24…充電器、25…タイヤ、26…駆動用電力線、27…モーター信号線、28…蓄電システム信号線、29…充電用電力線、30…車体。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5